ダイナミン環安定剤の使用
有効量のダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で細胞を処理することを含む、細胞内でダイナミン環形成および/またはダイナミン環の維持を増進するための方法を提供する。ダイナミン環形成の維持または蓄積には、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気の予防または治療に特別な用途がある。ダイナミン環安定剤は、ダイナミンと相互に作用して、ダイナミン環集合を増進しかつ/またはダイナミン環解体を抑制する、任意の化学物質であってもよい。ダイナミン環安定剤を使用する、有足細胞機能障害の予防または治療方法および/または細胞でアクチン細胞骨格形成を維持または誘導するための方法、およびダイナミン環安定剤として使用するための被検物質をスクリーニングする方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内で、安定したダイナミン環の形成を増進し、かつ/または安定したダイナミン環を維持するための、本明細書で「ダイナミン環安定剤」と呼ばれる化学物質群の使用に関する。本発明は、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気の予防または治療に特別な用途がある。
【背景技術】
【0002】
慢性腎疾患(CKD)の世界的流行は、驚異的な速度で進行している。合衆国、オーストラリア、日本およびヨーロッパでは、一般人口の最高11%が罹患している。特にインド、中国および東南アジアでは、II型糖尿病、およびその関連した腎合併症が同時に着実に増加し、また腎関連疾患は現在の治療選択肢および手段から逃れている。組織学的データおよび遺伝学的データは、糸球体疾患における有足細胞機能障害と強く関連している(Susztak and Bottinger 2006;Tryggvasonら、2006)。
【0003】
有足細胞機能障害を示す初期の事象の1つは、足突起(FP)およびスリット隔膜の破壊であり、これが足突起融合および蛋白尿を引き起こすと考えられる(SusztakおよびBottinger 2006)。CKDの大抵の場合、最初の臨床徴候は蛋白尿である。有足細胞内のこのような初期構造変化が回復しなければ、進行性の、重篤な障害が発生し、有足細胞の糸球体基底膜(GBM)からの脱離につながる。これは、瘢痕,尿腔の閉塞、および分節性糸球体硬化症の発生ならびに末期腎不全を招く。スリット隔膜,頂端部および足底板(sole plate)を連結するアクチン細胞骨格の再編成は、足突起(FP)消失中の共通した特徴となる。したがって、健康な状態および病気の状態における足突起形成を制御する機序の理解を深めることは、永久的な損傷をまだ回避し得る間に、介入するより良い早期診断および治療をデザインするために不可欠である。
【0004】
水、電解質および老廃物は尿腔の中に入るが、必須血漿タンパク質は血液中に保持されるように、腎臓フィルターの選択性を保証する特殊構造である糸球体で、腎濾過は起こる。糸球体機能障害の徴候は、蛋白尿またはネフローゼ症候群と呼ばれる尿中への蛋白質損失である(3.5g/日を超える蛋白質損失と定義される)。蛋白尿は多くの場合、最終的に透析または腎移植を必要とする進行性腎不全を来たす。有足細胞は、GBMおよび糸球体内皮細胞と一緒に、腎透過性バリヤーの重要な構成要素を形成する。有足細胞機能は、細胞体、ならびに一次突起および上述した足突起(FP)から成る、複雑な細胞構造に依存する。有足細胞1つのFPは、その近隣のFPと互いに組み合わされており、隣接した足突起間の細胞間隙は、やはり蛋白質損失に対する最終バリヤーの役割をする蛋白質ネフリンで構成されるスリット隔膜により橋渡しされている。このように、有足細胞損傷は、蛋白尿と密接に関連している。
【0005】
有足細胞FPは、それらの膜形態形成ならびに腎臓における濾過バリヤーの確立および維持に不可欠な、精巧で動的なアクチン系細胞骨格を含む(Faulら、2007)。FPは、アクチン、ミオシンII、α−アクチニン、タリン、およびビンキュリンで構成される微小線維系収縮装置を含み、これはインテグリンα3β1複合体により、接着点でGBMに連結されている(Faulら、2007)。FPアクチンは、短い分岐したアクチン線維の、ポドソーム様皮質ネットワーク、およびFPの中心を占めるアクチン:ミオシンコアで構成されるストレスファイバーという、2つの原則型で組織化される(Ichimuraら、2003)。FP構造は、糸球体濾過に不可欠な、一定のアクチン推進形態学的再編成用に合わせて最適化されるようである(Moeller and Holzman 2006)。
【0006】
蛋白尿およびネフローゼ症候群のほとんどの形は、有足細胞表面突起物の減少および有足細胞FPの細胞質帯への変形(すなわち、FP消失)を含む。FP形態の変化は主に、アクチン細胞骨格の再編成によって推進され、これは凝集して有足細胞足突起の足底の太い束になる。多くの蛋白質が、有足細胞細胞骨格編成を、直接または間接的に変化させる。たとえば、遅発型の巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)を引き起こすα−アクチニン−4の変異は、構造アクチン結合蛋白質が有足細胞機能に有用なことを明らかにした(Kaplanら、2000)。スリット隔膜で生じるシグナルは、有足細胞のアクチン細胞骨格に直接影響を及ぼすことができる(Jonesら、2006;Moellerら、2004)。
【0007】
細胞接着斑ターンオーバーは、活性化β1インテグリン類のダイナミン−クラスリン−依存性エンドサイトーシスにより仲介されること、およびダイナミンIIかまたは、クラスリンアダプターAP−2とディスエイブルド−2(DAB2)の両者のいずれかのノックダウンは、障害性接着斑解体および細胞遊走を来たすβ1インテグリンインターナリゼーションをブロックすることが報告されている(Chao and Kunz,2009)。
【0008】
ネフローゼ症候群中のFP消失は、遊走事象である(Reiserら、2004)。培養有足細胞は、細胞遊走に必要なアクチン構造の3つの大範疇:葉状仮足、糸状仮足および収縮性アクチンストレスファイバー全てを含む。培養有足細胞はまた、ネフリン、ポドシン、CD2AP、シナプトポジン、ならびにスリット隔膜の既知成分、たとえばZO−1、P−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、およびγ−カテニン等を含む、有足細胞に特有の、既知の全分化マーカーも発現する(Mundelら、1997;Saleemら、2002)。実際、有足細胞は既知のアクチン結合蛋白質およびアクチン束化蛋白質(たとえば、α−アクチニン4およびシナプトポジン)を研究するために、広く使用されてきた(Asanumaら、2005;Asanumaら、2006)。培養有足細胞における葉状仮足および糸状仮足の形成の基礎となる表層アクチンウェブは、インビボで、EMにより、有足細胞の細胞膜付近で確認される短鎖分岐アクチンウェブに相当すると思われる(Ichimuraら、2003)。同様に、培養有足細胞で確認されるアクチン−ミオシンストレスファイバーは、インビボで、FPの中心を占める非分岐ストレスファイバーに相当する可能性が高い(Ichimuraら、2003)。
【0009】
細胞骨格動力学は多くの場合、低分子GTPアーゼのRhoファミリーにより制御される。細胞の先端で、Rac1およびCdc42は、表層アクチンの形成を介して細胞運動性を増進し、これが次にはそれぞれ葉状仮足および糸状仮足の形成を介して運動性を増進する。対照的に、RhoAは、細胞体での収縮性アクチン−ミオシン−含有ストレスファイバーの形成を増進する。RhoAシグナル伝達は、有足細胞におけるアクチン細胞骨格の制御に際して重要な役割を果たす。このように、有足細胞で発現されるアクチン−結合蛋白質であるシナプトポジン(Mundelら、1997)は、活性RhoAの寿命を延ばすことにより、ストレスファイバー形成を誘発する(Asanumaら、2006)。有足細胞構造および機能に対するRac1およびCdc42シグナル伝達の正確な役割は、あまりよく分かっていない。
【0010】
ネフローゼ症候群の一部のマウスモデルでは、ダイナミンの貯蔵は、足突起消失および蛋白尿の初期段階に対抗するのに十分であることが報告されている(Severら、2007)。ダイナミンは、膜結合性クラスリン被覆小胞を分断する大型GTPアーゼである。クラスリン介在性エンドサイトーシス経路は、活性化受容体のインターナリゼーション、成長因子の隔離、抗原提示、細胞質分裂、シナプス伝達に関与しているため、また様々な病原体の侵入経路として、生物医学研究者にとって特別興味深い。ダイナミンは3つの主要なアイソフォームから成る:ダイナミンI(ニューロン);ダイナミンII(遍在)およびダイナミンIII(ニューロンおよび精巣)(Cousin and Robinson 2001)。全てに共通なものは、5つのドメイン、GTPアーゼドメイン(小胞分裂に必要)、ミドルドメイン(MD、機能不明)、プレクストリン相同ドメイン(PH、ターゲティングドメインおよび潜在的にGTPアーゼ阻害モジュール)、GTPアーゼエフェクタードメイン(GED、環内へのダイナミン自己集合を調節する)、およびプロリンリッチドメイン(SH3ドメインを含む蛋白質と相互に作用し、またインビボでダイナミンIおよびIIIリン酸化のための主部位である、PRD)である。
【0011】
ダイナミンは、細胞膜におけるクラスリン介在性エンドサイトーシスおよびニューロンにおけるシナプス小胞エンドサイトーシスにおけるその役割で、最もよく知られている(Severら、2000b)。ダイナミンは、十分に解明されていない分子メカニズムによるアクチン細胞骨格の調節を含む、追加的役割を果たすことが、多数の研究から示唆される(Schafer 2004)。アクチン細胞骨格の調節におけるダイナミンの役割は、既知のアクチン結合および調節蛋白質たとえばプロフィリン、Nckおよびコルタクチン等との相互作用に起因するとされてきた(Orth and McNiven 2003;Schafer 2004)。過去の研究で、ダイナミンは、有足細胞における機能的FPの形成に不可欠であることも示されている(Severら、2007)。
【0012】
ダイナミンは、他のGTPアーゼと異なる特有の生化学的性質、たとえば高分子量(MW=100kDa)およびGTPに対する異常に低いアフィニティ(Km=約10μM)等を示すダイナミンは、3つの主要な状態−基礎状態、環状または螺旋状−で存在し、またそのGTPアーゼ活性は各状態に遷移するときに段階的に増強する。より詳細には:
a)その「基礎」状態では、ダイナミンは、単量体、二量体およびホモ四量体の間で平衡状態にあり(Muhlbergら、1997)、また約1/分という「基礎」GTPアーゼ速度を有する。
b)ダイナミン二量体または四量体は、約50nmの外径および約30nmの内側開口を有する「環」に似た高次構造へと、さらに自己集合できる(Hinshaw and Schmid,1995)。これは一般に、インビトロで、500nMを超えるダイナミンに生じる。この環は常に閉じているとは限らず、直径は系の間で異なる。環形成は、低塩濃度緩衝液中へのダイナミンの透析によって促進され、約0.5〜1μMという高濃度ダイナミンで起こる。環形成物は、ダイナミンのGTPアーゼ活性を約10倍刺激する(Warnockら、1996)。GTP加水分解の速度上昇は、ダイナミン四量体が集合するときに限って活性になる、ダイナミン内の分子内GTPアーゼ活性化ドメインの活性化に起因する(Severら、1999)。ダイナミン変異体は、環形で長寿命であると予想されると報告されており−dynR725Aは、刺激されたGTP加水分解速度が低下した変異体である(Severら、2000a)。
c)集合鋳型の存在下で、ダイナミンはインビトロで、さらに、「螺旋」へと集合することができる。螺旋集合鋳型としては、リン脂質リポソーム、脂質ナノチューブまたは微小管などがある。その螺旋は、個々の環構造が、バネによく似た非常に細長い螺旋構造へと伸長したと考えられる。螺旋形成物は、ダイナミンのGTPアーゼ活性を100〜1000倍刺激する(Warnockら、1996)。インビトロで、刺激されたGTP加水分解速度は次にはダイナミン解体を推進し、GTP−結合に関して正の協同性を喪失することになる(Severら、2006)。
【0013】
こうした系における細胞エンドサイトーシスを研究するための強力な新しいツールとして、GTPアーゼのダイナミンファミリーに特異的な小分子インヒビターが開発されるにつれて、ダイナミン薬理学という新分野が出現している。小分子ダイナミンインヒビターは幅広い注目を集め、様々な細胞系におけるエンドサイトーシスおよび膜動力学の他の面を研究するために使用されてきた(Maciaら、2006)。こうしたインヒビターは、ダイナミンGTPアーゼ変異体の発現によるか、または急速細胞効果の研究に使用できない低分子干渉RNA(siRNA)−介在性ダイナミンノックダウンによる、細胞におけるダイナミン阻害という従来の手段より優れた多くの明確な利点を提供する。小分子、細胞透過性インヒビターは、数分で速やかにエンドサイトーシスをブロックすることができ、また容易に元に戻せる(Maciaら、2006;Quanら、2007)。
【0014】
最初に報告されたダイナミンインヒビターは、長鎖アンモニウム塩類、たとえばミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド(MiTMAB)、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド(OcTMAB)(Hillら、2004)およびBis−T(Hillら、2005)等の二量体チルホスチン類であった。後に、一連の室温イオン性液体(RTILs)(Zhangら、2008)およびダイナソア(Maciaら、2006)が報告された。最後に、「ダイノール(dynole)類」と呼ばれるインドール系インヒビター類(Hillら、2009)および「イミノジン(iminodyn)類」と呼ばれるイミノクロメン系インヒビター類が報告されている(Hillら、2010)。ダイナミンインヒビター類をスクリーニングする殆どの研究は、ダイナミンが最大限に刺激され、またその螺旋状態である可能性が高い、GTPアーゼアッセイを使用する。これらの各シリーズからの最強のインヒビターの一部は、細胞におけるエンドサイトーシスの強力で可逆的なインヒビターでもある(Quanら、2007;Hillら、2009;Hillら、2010)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Susztak K.and Bottinger E.P.(2006)Diabetic nephropathy:a frontier for personalized medicine.J Am Soc Nephrol 17,361−367.
【非特許文献2】Tryggvason K.,Patrakka J.and Wartiovaara J.(2006)Hereditary proteinuria syndromes and mechanisms of proteinuria.N.Engl.J.Med.354,1387−1401.
【非特許文献3】Faul C.,Asanuma K.,Yanagida−Asanuma E.,Kim K.and Mundel P.(2007)Actin up:regulation of podocyte structure and function by components of the actin cytoskeleton.Trends Cell Biol.17,428−437.
【非特許文献4】Ichimura K.,Kurihara H.and Sakai T.(2003)Actin filament organization of foot processes in rat podocytes.J.Histochem.Cytochem.51,1589−1600.
【非特許文献5】Moeller M.J.and Holzman L.B.(2006)Imaging podocyte dynamics.Nephron Exp Nephrol 103,e69−e74.
【非特許文献6】Jones N.,Blasutig I.M.,Eremina V.,Ruston J.M.,Bladt F.,Li H.,Huang H.,Larose L.,Li S.S.,Takano T.,Quaggin S.E.and Pawson T.(2006)Nck adaptor proteins link nephrin to the actin cytoskeleton of kidney podocytes.Nature 440,818−823.
【非特許文献7】Moeller M.J.,Soofi A.,Braun G.S.,Li X.,Watzl C.,Kriz W.and Holzman L.B.(2004)Protocadherin FAT1 binds Ena/VASP proteins and is necessary for actin dynamics and cell polarization.EMBO J.23,3769−3779.
【非特許文献8】Chao W−T.,and Kunz J.(2009).Focal adhesion disassembly requires clathrin−dependent endocytosis of integrins.FEBS Lett.583,1337−1343.
【非特許文献9】Reiser J.,Oh J.,Shirato I.,Asanuma K.,Hug A.,Mundel T.M.,Honey K.,Ishidoh K.,Kominami E.,Kreidberg J.A.,Tomino Y.and Mundel P.(2004)Podocyte migration during nephrotic syndrome requires a coordinated interplay between cathepsin L and alpha3 integrin.J.Biol.Chem.279,34827−34832.
【非特許文献10】Mundel P.,Reiser J.,Zuniga Mejia B.A.,Pavenstadt H.,Davidson G.R.,Kriz W.and Zeller R.(1997)Rearrangements of the cytoskeleton and cell contacts induce process formation during differentiation of conditionally immortalized mouse podocyte cell lines.Exp.Cell Res.236,248−258.
【非特許文献11】Saleem M.A.,O'Hare M.J.,Reiser J.,Coward R.J.,Inward C.D.,Farren T.,Xing C.Y.,Ni L.,Mathieson P.W.and Mundel P.(2002)A conditionally immortalized human podocyte cell line demonstrating nephrin and podocin expression.J Am Soc Nephrol 13,630−638.
【非特許文献12】Asanuma K.,Kim K.,Oh J.,Giardino L.,Chabanis S.,Faul C.,Reiser J.and Mundel P.(2005)Synaptopodin regulates the actin−bundling activity of alpha−actinin in an isoform−specific manner.J.Clin.Invest.115,1188−1198.
【非特許文献13】Asanuma K.,Yanagida−Asanuma E.,Faul C.,Tomino Y.,Kim K.and Mundel P.(2006)Synaptopodin orchestrates actin organization and cell motility via regulation of RhoA signalling.Nat.Cell Biol.8,485−491.
【非特許文献14】Sever S.,Altintas M.M.,Nankoe S.R.,Moller C.C.,Ko D.,Wei C.,Henderson J.,del Re E.C.,Hsing L.,Erickson A.,Cohen C.D.,Kretzler M.,Kerjaschki D.,Rudensky A.,Nikolic B.and Reiser J.(2007)Proteolytic processing of dynamin by cytoplasmic cathepsin L is a mechanism for proteinuric kidney disease.J.Clin.Invest.117,2095−2104.
【非特許文献15】Cousin M.A.and Robinson P.J.(2001)The dephosphins:Dephosphorylation by calcineurin triggers synaptic vesicle endocytosis.Trends Neurosci.24,659−665.
【非特許文献16】Sever S.,Damke H.and Schmid S.L.(2000b)Garrotes,springs,ratchets,and whips:Putting dynamin models to the test.Traffic 1,385−392.
【非特許文献17】Schafer D.A.(2004)Regulating actin dynamics at membranes:a focus on dynamin.Traffic 5,463−469.
【非特許文献18】Orth J.D.and McNiven M.A.(2003)Dynamin at the actin−membrane interface.Curr.Opin.Cell Biol.15,31−39.
【非特許文献19】Muhlberg A.B.,Warnock D.E.and Schmid S.L.(1997)Domain structure and intramolecular regulation of dynamin GTPase.EMBO J.16,6676−6683.
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【非特許文献21】Warnock D.E.,Hinshaw J.E.and Schmid S.L.(1996)Dynamin self−assembly stimulates its GTPase activity.J.Biol.Chem.271,22310−22314.
【非特許文献22】Sever S.,Muhlberg A.B.and Schmid S.L.(1999)Impairment of dynamin's GAP domain stimulates receptor−mediated endocytosis.Nature 398,481−486.
【非特許文献23】Sever S.,Damke H.and Schmid S.L.(2000a)Dynamin:GTP controls the formation of constricted coated pits,the rate limiting step in clathrin−mediated endocytosis.J.Cell Biol.150,1137−1148.
【非特許文献24】Sever S.,Skoch J.,Newmyer S.,Ramachandran R.,Ko D.,McKee M.,Bouley R.,Ausiello D.,Hyman B.T.and Bacskai B.J.(2006)Physical and functional connection between auxilin and dynamin during endocytosis.EMBO J.25,4163−4174.
【非特許文献25】Macia E.,Ehrlich M.,Massol R.,Boucrot E.,Brunner C.and Kirchhausen T.(2006)Dynasore,a cell−permeable inhibitor of dynamin.Dev Cell 10,839−850.
【非特許文献26】Quan A.,McGeachie A.B.,Keating D.J.,van Dam E.M.,Rusak J.,Chau N.,Malladi C.S.,Chen C.,McCluskey A.,Cousin M.A.and Robinson P.J.(2007)MiTMAB is a surface−active dynamin inhibitor that blocks endocytosis mediated by dynamin I or dynamin II.Mol.Pharmacol.72,1425−1439.
【非特許文献27】Hill T.A.,Odell L.R.,Quan A.,Abagyan R.,Ferguson G.,Robinson P.J.and McCluskey A.(2004)Long chain amines and long chain ammonium salts as novel inhibitors of dynamin GTPase activity.Bioorg.Med.Chem.Lett.14,3275−3278.
【非特許文献28】Hill T.A.,Odell L.R.,Edwards J.K.,Graham M.E.,McGeachie A.B.,Rusak J.,Quan A.,Abagyan R.,Scott J.L.,Robinson P.J.and McCluskey A.(2005)Small molecule inhibitors of dynamin I GTPase activity:Development of dimeric tyrphostins.J.Med.Chem.48,7781−7788.
【非特許文献29】Zhang J.,Lawrance G.A.,Chau N.,Robinson P.J.and McCluskey A.(2008)From Spanish fly to room temperature ionic liquids (RTILs):Synthesis,thermal stability and inhibition of dynamin 1 GTPase by a novel class of RTILs.New Journal of Chemistry 32,28−36.
【非特許文献30】Hill T.A.,Gordon C.P.,McGeachie A.B.,Venn−Brown B.,Odell L.R.,Chau N.,Quan A.,Mariana A.,Sakoff J.,Chircop M.,Robinson P.J.and McCluskey A.(2009)Inhibition of dynamin mediated endocytosis by the dynoles−synthesis and functional activity of a family of indoles.J.Med.Chem.Accepted 13−2−2009.
【非特許文献31】Hill T.A.,Mariana A.,Gordon C.P.,Odell L.R.,McGeachie A.B.,Chau N.,Daniel J.A.,Gorgani N.N.,Robinson P.J.and McCluskey A.(2010)Iminochromene inhibitors of dynamin I & II GTPase activity and endocytosis.J.Med.Chem.In press DOI:10.1021/jm100119c.Published online http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jm100119c
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
概して、本発明は2つの発見に由来する。第1に、ダイナミン調節物質のサブグループは、その多量体化環状態でダイナミンの蓄積を増進し、またダイナミン環解体を遅らせることが判明している。このサブグループ内の化合物は「ダイナミン環安定剤」と呼ばれる。ダイナミン環寿命延長の一つの帰結は、これが、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激することであり、もう一つは、これが線維状アクチン(F−アクチン)の形成を促進することである。第2に、ダイナミンは、ダイナミンミドルドメイン(MD)によってアクチンを直接結合し、有足細胞において、接着斑およびアクチン線維のデノボ形成に直接的な役割を担う、環への多量体化を増進することが判明している。ダイナミン環(ダイナミン螺旋は除外)の刺激は、その既知のエンドサイトーシスの役割とは別の、ダイナミンに対する新しい細胞機能である。ダイナミン環形成および/または寿命の延長には、有足細胞における足突起消失および蛋白尿性腎疾患の予防または治療に特別な用途がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様では、有効量のダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で細胞を処理することを含む、細胞内で、ダイナミン環形成および/またはダイナミン環の維持を増進する方法が提供される。
【0018】
本発明の別の態様では、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩を、それを必要としている個体に投与することを含む、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気を予防または治療するための方法が提供される。
【0019】
本発明の別の態様では、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で有足細胞を処理することを含む、有足細胞機能障害を予防または治療する方法が提供される。
【0020】
一般に、有足細胞機能障害は、足突起消失を特徴とするか、または足突起消失と関連している。
【0021】
本発明の別の態様では、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で細胞を処理することを含む、細胞におけるアクチン細胞骨格形成を維持または誘導する方法が提供される。
【0022】
本発明の別の態様では、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で細胞を処理することを含む、細胞内で、接着斑および/またはアクチンストレスファイバーを誘導する方法が提供される。
【0023】
別の態様では、
被検物質を提供すること;
ダイナミン環の形成に好適な条件で、被検物質をダイナミン蛋白質と共にインキュベートすること;および
被検物質が、ダイナミン環の蓄積を増進しかつ/またはダイナミン環の解体を抑制するかどうか、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を増強するダイナミン環の蓄積および/またはダイナミン環の解体の抑制を評価すること;
を含む、ダイナミン環安定剤として使用するための被検物質をスクリーニングする方法が提供される。
【0024】
被検物質がダイナミン環の蓄積を増進するかまたはダイナミン環の解体を抑制するかどうかの評価は、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の増加をアッセイすること、および/またはダイナミン環解体を示すダイナミンの放出をアッセイすることを含むことができる。
【0025】
本発明の別の態様では、細胞でのダイナミン環形成および/またはダイナミン環の維持を増進するために使用するための、ダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩が提供される。
【0026】
本発明の別の態様では、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気の予防または治療に使用するための、少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩が提供される。
【0027】
本発明の別の態様では、必要としている個体の細胞内でダイナミン環形成を増進するためおよび/またはダイナミン環を維持するための薬剤の製造において、少なくとも1つのダイナミン環安定剤あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用が提供される。
【0028】
本発明のまた別の態様では、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気を予防または治療するための薬剤の製造において、少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用が提供される。
【0029】
本発明の実施態様で使用されるダイナミン環安定剤は、ダイナミン環の、集合を増進するかまたは解体を抑制する、任意の化合物であってもよい。抑制はダイナミン環解体の遅延または防止であってもよい。
【0030】
本明細書で使用されるとき、用語「ダイナミン環」は多量体化したダイナミン単位の環を意味する。環は、閉環であってもよく、単回転のダイナミン螺旋(螺旋状ダイナミン)であってもよい。
【0031】
本明細書で使用されるとき、用語「ダイナミン環安定剤」は、ダイナミンと相互に作用して、その周囲でダイナミン螺旋が生じる集合鋳型(たとえば、微小管、リン脂質小胞および/またはナノチューブ)の非存在下で、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激する薬剤を意味する。ダイナミン環安定剤は、ダイナミン環集合を増進しかつ/またはダイナミン環解体を抑制し、その両方がダイナミン環の蓄積をもたらしかつ/または基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の増強をもたらすことが可能である。したがって、ダイナミン環集合を増進しかつ/またはダイナミン環解体を抑制する薬剤は、本発明との関係において、用語「ダイナミン環安定剤」に包含される。一般に、ダイナミン環安定剤は、ダイナミン環解体を抑制する薬剤になろう。
【0032】
ダイナミン環安定剤による基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の刺激は、最大限に活性な螺旋状ダイナミンと関連したレベル未満までであり、最大限の活性は、集合鋳型の存在下で達成される。
【0033】
ダイナミン環安定剤とダイナミンとの相互作用は、ダイナミン環安定剤のダイナミンへの結合であってもよく、あるいはダイナミン環安定剤とダイナミンとの直接的または間接的協同によってもよい。ダイナミンが、その螺旋状態であるとき、ダイナミン環安定剤は、その螺旋内の個々のダイナミン環のGTPアーゼ活性を上昇させることが可能であるが、ダイナミン環間の協同的相互作用により達成されるものより低いレベルまでである。
【0034】
最も典型的には、本発明により具体的に例示される方法で使用されるダイナミン環安定剤は、最大限まで刺激された螺旋状ダイナミンのGTPアーゼ活性のインヒビターである。同様に、ダイナミン環安定剤としての使用に関してスクリーニングされる被検物質は、螺旋状ダイナミンのGTPアーゼ活性のインヒビターであってもよい。しかし、上述から、ダイナミン環安定剤はダイナミン環解体のインヒビターである必要はなく、さらに、螺旋状ダイナミンGTPアーゼ活性のインヒビターである必要はないことが理解されるであろう。
【0035】
ダイナミン環安定剤と相互作用するダイナミンおよび/またはダイナミン環が形成される基であるダイナミンは、ダイナミンI(dynI)、ダイナミンII(dynII)、ダイナミンIII(dynIII)、およびダイナミンアイソフォーム、および前述の混合物から選択されてもよい。
【0036】
本発明の特徴および利点は、以下の非限定的実施態様の詳細な説明と添付図面から、さらに明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
添付図面の簡単な説明
【図1】二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチンBis−T−23は、脂質刺激されたダイナミンを阻害するが、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激することを示すグラフである。
【図2】同一Bis−T−23濃度で生じるダイナミンの阻害および活性化を示すグラフである。
【図3】「ラグ相」後に生じる、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性のBis−T−23(5μM)刺激を示すグラフである。
【図4】全長ダイナミンI(200nM、他の既知の活性化剤、たとえばPSリポソーム等は存在しなかった)の、基礎的GTPアーゼ活性を刺激した際の、3つのイミノジンの相対的効力を示すグラフである。化合物は表示された濃度で存在し、最大半量の刺激を引き起こす濃度をEC50として示す。
【図5】GEDドメインの小部分に連結したGTPアーゼドメインのみを含む、GG2として知られる切断型ダイナミンI構築物の基礎的GTPアーゼ活性を示すグラフである(Chappieら、2009)。全長ダイナミンとは違って、この構築物は、自己集合または環形成ができないことが分かっている。Bis−T−22およびBis−T−23ならびにイミノジン−22は、この集合不全構築物の基礎的活性に影響を及ぼさない。
【図6】高濃度のBis−T−22[dyn](520nM)が、ダイナミン環自己集合を増進することを示す図である。
【図7】Bis−T−23がダイナミン解体を防止することを示す図である。
【図8】(A)〜(D)は、インビトロで、Bis−T−23が、PSリポソーム上でのダイナミンの構築または螺旋伸長を防止することを示す電子顕微鏡写真である。Bis−T−23は、ダイナミン螺旋を安定化し、ダイナミン螺旋はその柔軟性を失って均一直径の環を形成し、ダイナミン環解体を抑制する。
【図9】鋳型の非存在下で、精製全長ダイナミンIをBis−T−23処理したときの影響を示す図である。次いで、ダイナミンを電子顕微鏡法で検査した。ダイナミン環は、Bis−T−23(5.4μM、A)により明確に誘導される。この環は、真正ダイナミン環(B)である。定量分析は、真正環の6倍増加を示す(C)。
【図10】培養ヒトリンパ芽細胞(A)でも、ラット脳シナプトソーム(B)でも、Bis−T−22(100μM、30分間)が、異常に長いネックを有しかつ環で囲まれたクラスリン被覆ピットを細胞で誘導することを示す図である。
【図11】(A)は、Bis−T−23および2つの「ディンゴ(dyngo)」シリーズのダイナミンインヒビターが、ダイナミン環安定剤であることを示すグラフである。ディンゴ−7aは、ダイナソアとしても知られる。ダイナミンI(50nM)GTPアーゼ刺激は、界面活性剤トゥイン(Tween)−80の非存在下(かつPSリポソーム類、ナノチューブ類または微小管等の、あらゆる既知の活性化剤の非存在下)で実施した。対照的に、強力なダイナミンインヒビターであるダイノール34−2は、こうした条件で基礎的ダイナミン活性を刺激しない。(B)は、様々な強力なダイナミンインヒビターが、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の活性化剤であることを示すグラフである(Bis−Tシリーズの化合物は10μMの濃度で使用し、他の化合物は全て30μMの濃度で使用した)。試験した化合物は全て、300nM〜3μMの間で、ホスファチジルセリン(PS)−刺激ダイナミンを阻害した(データ示さず)。ダイナミンI(dynI;200nM)のGTPアーゼ活性を、脂質活性化剤の非存在下(かつ0.06%の標準トゥイン−80の存在下)で測定した。
【図12】高速遠心分離を受けてF−アクチンが沈殿する標準共沈降法を使用した、直接ダイナミン−アクチン相互作用の検出を示す図である。
【図13】ダイナミンII(dyn2)(スプライスバリアントaおよびb)(配列番号1および配列番号2)、ダイナミンI(dyn1)(スプライスバリアントaおよびb)(配列番号3および配列番号4)、ドロソフィラ(Drosophila)(Shi)(配列番号5)、シー・エレガンス(C.elegans)(Cele)(配列番号6)、酵母菌(Vps1)(配列番号7)、Dnm1(配列番号8)、「機能喪失」変異体DynK/E(配列番号9)およびDynK/A(配列番号10)、ならびに「機能獲得」変異体DynE/K(配列番号11)の間のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。Dnm1は、ミトコンドリアの形態形成に関与するダイナミンファミリーメンバーである。
【図14】ダイナミンとF−アクチンの直接相互作用のスキャッチャードプロットである。漸増濃度のダイナミン(遊離)を、5μMのF−アクチンに加えた。100,000×gで遠心分離した後、蛋白質をSDS−PAGEで分離し、濃度測定を使用してバンドを分析した。
【図15】A〜Eは、ダイナミン−アクチン相互作用が、有足細胞におけるアクチン細胞骨格の組織化に不可欠であることを図解する写真である。表示通りに、有足細胞をダイナミン変異体発現ウイルスに感染させた。アクチン細胞骨格は、dynE/KおよびdynR725Aを発現している細胞で大幅に増加するようである。
【図16】GTPγSの存在下で、細い線維束に集合したダイナミン環架橋アクチン線維を示す図である。アクチン線維は、ネガティブ染色および電子顕微鏡法を使用して可視化した。矢は、束化線維に沿ったダイナミン環の方向を指す。
【図17】ダイナミン環が、アクチン重合を増進することを示すグラフである。100μM GTPγSを含むまたは含まない、0.1μMダイナミンの非存在下および存在下で、0.33μMのGsnーアクチン複合体(G1:200AまたはG1:1000A)をインキュベートするときの、アクチンの再重合の代表的な経時変化。
【図18】二量体のベンジリデンマロニトリルチルホスチンBis−T−22が、ダイナミンの基礎的GTP加水分解速度を刺激することを示すグラフである。ショットゲルソリンキャップ化F−アクチンもまた、ダイナミンの基礎的GTP加水分解速度を刺激する。7μM Bis−T−22無しまたは有りで、また10μM Gsn−F−アクチン複合体有りまたは無しで、インキュベートした0.2μM dyn1の基礎的GTP加水分解に関する経時変化。Bis−T−22およびGsn−F−アクチンの影響は、少なくとも相加的である。
【図19】有足細胞におけるアクチン細胞骨格に及ぼすBis−T−23の影響を示す写真である。F−アクチン(左欄)および抗−パキシリンモノクローナル抗体(中央欄)にローダミン−ファロイジンを使用して、細胞を染色した。混合染色を右欄に示す。アクチン細胞骨格および接着斑は、Bis−T−23処理細胞およびダイナミン変異体、dynE/KおよびdynR725Aを発現する細胞で、その数および量が大幅に増加した。
【図20】コントロールマウスおよび「機能獲得」α−アクチニン4変異体蛋白質発現マウスに、Bis−T−23(100μg/100g体重)を腹腔内注射したことを示すグラフである。マウスアルブミン特異的ELISAおよび尿中クレアチニン定量用キット(Creatinine Companion assay kits)(Exocell and Bethyl Laboratories)を使用し、製造業者のプロトコールに従って、蛋白尿を測定した。薬物投与後6時間まで、野生型レベルまでの蛋白尿減少が得られた。
【図21】リポ多糖(LPS)処理マウスで、環安定剤Bis−T−23が、蛋白尿を救助することを示すグラフである。LPSは、蛋白尿性腎疾患用モデルである。マウス6匹で、事前(Con)、LPS注射(2×LPS)後24時間、ならびにBis−T−23(白抜きの棒)またはDMSO(送達液、灰色の棒)の投与後2、4、6および8時間に、アルブミンレベルを測定した。この環安定剤の単一用量投与後2〜8時間に、蛋白尿の減少が認められた。
【発明を実施するための形態】
【0038】
二重特異性ダイナミン調節物質のサブグループは、ダイナミンインヒビターのより広いグループの中に存在することが判明している。このサブグループ内の化合物は、ダイナミン環解体を抑制し、それによってダイナミン環の寿命を延長しまたダイナミン環蓄積を増進するので、「ダイナミン環安定剤」である。このことは、GTP加水分解がダイナミン解体を推進することが知られている(Severら、2006)ということと一致する。しかし、こうした化合物は、螺旋状ダイナミンの強大なGTPアーゼ活性を低下させるが、個々のダイナミン環の基礎的GTPアーゼ活性を同時に増強することができる。
【0039】
ダイナミン環は、一回転の多量体化ダイナミンであるか、または螺旋状ダイナミン(ダイナミン螺旋)の場合には、一回転の螺旋である。ダイナミン環は、インビトロで最初に観察された(Hinshaw and Schmid.1995)。ダイナミン環は一般に、外径およそ50nmおよび内径約30nmを有し、環は開いていても閉じていてもよい。螺旋状ダイナミンはまた、ダイナミン螺旋、ナノスプリング、渦巻きまたは「環の積み重ね」としても知られる(Stowellら、1999)。低温電子顕微鏡法から、ダイナミン環サイズは柔軟性があり、13〜15の非対称の反復ダイナミン単位を含んでもよいことが分かり、螺旋状ダイナミンの単環は、26〜30のダイナミン分子(ダイナミン単位)を含むことが示唆される(Zhang and Hinshaw.2001)。しかし、環の直径は柔軟性があるため、これらの数は一定ではない。
【0040】
本発明により具体的に例示される方法で有用なダイナミン環安定剤は、以下にさらに記述する通り、たとえば、螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビター類、単量体チルホスチン類、二量体チルホスチン類および特に二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類、イミノクロメン類、3−置換ナフタレン−2−カルボン酸(ベンジリデン)ヒドラジド類、ポリペプチド類およびペプチド類からなる群から選択されてもよい。
【0041】
本発明の実施態様の通り、ダイナミン環安定剤として利用することが可能な、好適な二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類(Bis−T)および関連化合物は、国際特許出願第PCT/AU2004/001624号明細書(国際公開第2005/049009号パンフレット)およびHillら、2005に記載されており、その内容全体を本願明細書に援用する。
【0042】
ビス−チルホスチン−22(Bis−T−22)は、そのような二量体チルホスチンの1つであり、ダイナミンがホスファチジルセリン(PS)リポソームによって活性化されて、柔軟性の螺旋へと集合するとき、ダイナミンの強力なインビトロインヒビターである。PSリポソームの非存在下では、ダイナミンは単環に集合できるにすぎない。意外なことに、Bis−T−22は、螺旋状ダイナミンの活性を抑制するが、独自に、ダイナミン環の解体を防止することにより、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を同時に刺激する。Bis−T−22の構造を以下に示す。Bis−Tは、Bis−T−22と同じ構造を有するが、各末端フェニル基のC5炭素原子上にさらなるヒドロキシル置換基を有する。
【化1】
【0043】
ダイナミン環安定剤として有用な、特に好適な二量体チルホスチンとしては、少なくとも1つの末端フェニル環のC3−C5炭素原子のうち2個が、好ましくはカテコール配置で、ヒドロキシル(OH)置換基を有する(たとえば、Bis−T−22などの場合)か、または炭素原子の3個全部がヒドロキシルで置換されている(たとえば、Bis−T−23などの場合)、Bis−T化合物などが挙げられる。例としては、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−エチル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−エチル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−エチル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−プロピル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド(Bis−T−22)、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−プロピル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド(Bis−T−23)、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−プロピル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ブチル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ブチル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ブチル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ペンチル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ペンチル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ペンチル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ヘキシル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ヘキシル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、および2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ヘキシル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミドなどが挙げられる。
【0044】
さらなるダイナミン環安定剤としては、Bis−T化合物の少なくとも1つの末端フェニル環のC2炭素原子上でかつ隣接したシアニル基(CN)によって占められている位置の置換基が、国際公開第2005/049009号パンフレットに記載の通りに環化されているものなどが挙げられる。たとえば、置換基がヒドロキシであるとき、そのヒドロキシ基は以下の通りにシアニル基と反応してイミノクロメンを形成することができる:
【化2】
ここで、たとえば、R1はOHであり、R2はOHであり、R3はHである;R1はHであり、R2はOHであり、R3はOHであるか;またはR1、R2およびR3はOHである;かつnは通常、0、1、2または3であり、たいていは1である。本発明の実施態様で有用なイミノクロメン類のさらなる例を、以下に記述する(表2参照)。環酸素原子の少なくとも1つおよび/またはNH基の少なくとも1つおよび/または化合物の骨格酸素原子が、生物学的等価置換を受ける、上述のようなBis−Tの類縁体またはイミノクロメン化合物も、使用することが可能である(たとえば、Lima and Barreiro.2005を参照されたく、相互参照によりその内容全体を本願明細書に援用する)。
【0045】
加えて、上記二量体化合物の非対称類縁体を使用してもよい。例としては、Odellら、2009により記述されている二量体チルホスチン類の非対称アジドおよびジアザリニル類縁体などが挙げられる。さらに、上に例示された二量体チルホスチンの単量体チルホスチン類縁体を使用することができる。しかし、こうしたチルホスチン類の場合、それらはGTPアーゼインヒビターではない(たとえば、Hillら、2005参照)。
【0046】
ダイナミン環安定剤のまたさらなる例としては、3−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)ヒドラジド(ダイナソア)およびそれらの類縁体などが挙げられる。ダイナソアの構造は下記の通りである。
【化3】
【0047】
ダイナソアは、蛋白質grb2を含有するSH3ドメインで活性化された組換え型ダイナミンIを使用する、ライブラリスクリーニングで発見された(Maciaら、2006)。ダイナソアの構造は、Bis−T−22の末端フェニル環周囲のヒドロキシルの位置および数が、その化合物のダイナミン抑制能力に著しく寄与することが判明した、Bis−T−22の構造に一見類似している。ダイナソアと比較して改良されたダイナミン抑制能力を示すことが判明した、ダイナソアのさらなる3−置換ナフタレン−2−カルボン酸(ベンジリデン)ヒドラジド類縁体(本明細書でディンゴ化合物と名づけられた)の例を、表1に示す。ディンゴ化合物は各々、下記のスキーム1に図解する通り(他の合成方法を利用できるが、たとえば、丸底フラスコ内で、試薬をエタノール(たとえば、10ml)中で混合し、その混合物を2時間還流させ、冷却させて真空内で溶媒を除去してから、生成物をエタノールから再結晶化することにより)、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジドと、集中ライブラリを提供する様々なヒドロキシル置換ベンズアルデヒド類とをカップリングする単純な一段階縮合反応により合成した。特に、表1は、各ディンゴ化合物の構造、その分子量(MW)およびトウィン80の存在下または非存在下でPSリポソーム類により刺激された天然の脳ダイナミンI GTPアーゼ活性の阻害に関するIC50を示す。
【化4】
【0048】
【表1】
【0049】
本明細書に記載されているようなダイナミンの基礎的活性を刺激したり、ダイナミン環の解体を阻害したりするダイナミン環安定剤は一般に、Bis−T−22およびBis−T−23にあるような、フェニル環の連続した炭素原子の3つのうち少なくとも2つの上にヒドロキシル置換基がある末端フェニル基を有する。しかし、上に例示された二量体チルホスチン、イミノクロメンおよびディンゴ類縁体の末端フェニル基はヒドロキシル基で置換されているが、当業者は、こうしたヒドロキシル類の1つまたは複数を、生物学的等価置換(たとえば−NH2基あるいはF、Cl、BrまたはI等のハロ原子等々であるがその限りではない)に付してもよいことを理解するであろう。同様に、当業者はまた、上述の二量体ベンジリデンマロニトリルトリホスチン、イミノクロメン、単量体チルホスチン、ダイナソアおよびディンゴ化合物に、その化合物のダイナミン環安定化活性が保持または増強されるように、また任意のそのような類縁体およびそれらの変形が本明細書に記載の方法で使用できるように、他の変化を加えてもよいことも認識するであろう。修飾の例としては、1つまたは複数の骨格環炭素原子のヘテロ原子(たとえば、O、NおよびSから独立に選択される)置換および/またはこうした環系への他の修飾等が挙げられるが、その限りではない。上に例示したディンゴ化合物のナフタレン基は特にこのような修飾および/または生物学的等価置換の影響を受けやすく、本発明により具体的に例示される方法で有用な、多数の修飾されたそのような化合物が可能である。上述のような修飾および生物学的等価置換は、十分に当業者の範囲内であり(たとえば、Lima and Barreiro.2005参照)、全てが本発明に明確に包含される。事実、任意の好適な生理学的に許容できるダイナミン環安定剤を使用することができる。本明細書で使用するのにさらに好適なそのような化合物は、化合物および組合せライブラリのスクリーニングにより同定することが可能であり、そのようなスクリーニングは十分に受取人の範囲内である。
【0050】
本発明の実施態様に従ってダイナミン環安定剤として使用することが可能な、好適なイミノクロメン類(本明細書で「イミノジン類」と呼ばれる)および関連化合物は、Hillら、2010に記述されており、その内容全体を相互参照により本明細書に援用する。
【0051】
ダイナミンがホスファチジルセリン(PS)リポソームで活性化されて柔軟性の螺旋へと集合するとき、イミノジン−22は、そのようなイミノクロメンの1つであり、ダイナミンの強力なインビトロインヒビターである。イミノジン−22は、螺旋状ダイナミンの活性を抑制するが、ダイナミン環の解体を防止することにより、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を同時に刺激もする。イミノジン−22の構造を以下に示す。
【化5】
【0052】
イミノジン類の合成経路を以下のスキーム2に示す。
【化6】
【0053】
イミノクロメンの構造はBis−T−22の構造と異なるが、末端フェニル環周囲のヒドロキシルの位置および数は、その化合物のダイナミン抑制能力に大いに寄与する。イミノクロメンのさらなる類縁体の例を、表2に示す。表は、各化合物の構造、PSリポソームにより刺激された天然の脳ダイナミンI(20nM)GTPアーゼ活性の阻害に関する、そのIC50を示す。表はまた、リポソームの非存在下での、基礎的ダイナミンI(200nM)GTPアーゼ活性の刺激も示す。
【0054】
【表2】
【0055】
別の形態では、ダイナミン環安定剤は、ダイナミン環安定化活性を有する、ペプチド、ポリペプチドまたはそれらの活性な断片または変形であってもよい。一般に、本明細書に記載のようなダイナミン環安定剤は、ダイナミンまたはその断片の野生型または変形以外である。使用することが可能なポリペプチド類またはペプチド類の例としては、ダイナミン環の形成を増進/刺激し、それによって本発明の関連でダイナミン環安定剤の役割を果たす、ダイナミンアイソフォームの1つまたは複数あるいはダイナミン環をアクチン結合ドメインに提供する、アクチン(特にF−アクチン)、そのアイソフォームおよび/または断片などが挙げられる。さらに、ダイナミンと相互作用するその/それらの能力に実質的に悪影響を及ぼさずに本明細書に記載のようなダイナミン環の蓄積を増進する、野生型アクチン、そのアイソフォームおよび断片と比較して1つまたは複数のアミノ酸が付加、置換または削除された、変形を提供することが可能であり、また全てのそのような変形の使用も明確に包含される。
【0056】
本発明の方法で使用するのに好適な蛋白質性化学物質を同定する方策としては、大規模スクリーニング技術などがある。たとえば、ファージディスプレイライブラリプロトコールは、多数の潜在的な化学物質をスクリーニングする効率の良い方法を提供する。使用されるライブラリは、使用される関連ファージのコート蛋白質に融合した無作為化ペプチド配列を発現するペプチドディスプレイライブラリ、または抗体の可変領域(たとえば、Fv断片)を表示するライブラリであってもよい。ダイナミンに結合するファージを回収して、宿主細菌の感染により増幅することができる。この方法で単離される各クローンは、特異的ペプチドまたは抗原結合粒子を発現する。ペプチドまたは抗原結合粒子をコード化する遺伝子は、各ファージに特有であり、また選択されたファージクローンのDNAを回収すること、そのDNAを配列決定すること、および得られた配列を、ペプチドまたは抗原結合分子を発現するファージコート蛋白質の既知の配列と比較することにより、同定することができる。同定されたDNAを次には、当該技術分野で周知の組換え技術を用いて、コード化蛋白質性化学物質の発現に使用するかまたは他のこのような化学物質を提供するように修飾することができる。
【0057】
化合物(ダイナミンインヒビターであろうとなかろうと)は、ダイナミン環の蓄積を増進しかつ/またはダイナミン環の解体を抑制する能力を分析することにより、ダイナミン環安定剤として同定することができる。これは主として、ダイナミン環が自発的に生じない条件下で、被検物質を全長ダイナミンと共にインキュベートすること、およびコントロールと比較してダイナミン環の形成または蓄積を示すレベルまでの基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の増強に関して分析することによって決定することができる。ダイナミンまたはダイナミン環のGTPアーゼ活性は、任意の従来既知の方法で測定することができる(たとえば、Quan and Robinson.2005参照)。このような条件としては:(a)リポソーム類、微小管類または脂質ナノチューブ類等の螺旋集合鋳型がないこと、および(b)鋳型刺激活性の検出に通常必要なものより高濃度のダイナミン、一般に、1〜20nMの代わりに50〜500nMのダイナミン、などが挙げられる。このように、環安定剤活性は、他の刺激因子(たとえばPSリポソーム類、微小管類またはナノチューブ類)の非存在下で全長ダイナミンのGTPアーゼ活性を刺激する能力により同定することができる。追加の決定的な特徴を利用できるが、第1条件が満たされているのであれば不可欠ではない。環安定剤活性のその様な追加的特徴は、インビトロで、刺激された活性が、即時活性化というよりむしろ数分のラグ相後に生じることである。もう一つの特徴は、自己集合できない環安定剤、たとえば変異体ダイナミンまたはGTPアーゼドメインおよびGEDドメインの断片のみを含む構築物(たとえば、GG2またはGG5;Chappieら、2009)等は、ダイナミン構築物の活性を刺激できないことである。環安定剤活性のまた別の特徴は、自発的に環を形成しないダイナミン濃度で、その化合物が、電子顕微鏡法で検出されるダイナミン環の形成を増進する能力である。そのような条件は、ダイナミン環安定剤を添加しなければ自己集合が起こることが知られているより高濃度を除き、鋳型の非存在下で、50〜200nMダイナミンを使用することを一般に意味する。
【0058】
環安定剤活性のインセル指標は、培養した有足細胞またはNIH3T3細胞に化合物を適用した後の、アクチンストレスファイバーおよび接着斑の誘導である。有足細胞足突起の誘導もまた、ダイナミン環の蓄積および/またはダイナミン環解体の抑制の指標として評価できる。
【0059】
ペプチドまたはポリペプチドダイナミン環安定剤は、D−アミノ酸(類)を含んでもよくかつ/または蛋白質消化に対してC−末端保護および/またはN−末端保護(たとえば、ポリエチレングリコール(PEG)で「ペグ化」)されていてもよい。さらに、エネルギー非依存的様式で、細胞膜を越えてカーゴ分子を送達する能力を有するキャリアペプチド等の、ペプチド/ポリペプチド安定剤が、外細胞/細胞膜を越えて細胞の細胞質中に移動または転位するのを促進するために、ペプチドまたはポリペプチドダイナミン環安定剤を「促進剤部分」に結合することができる。当該技術分野で周知のキャリアペプチドとしては、ペネトラチンおよびその異型または断片、ヒト免疫不全ウイルスTat由来ペプチド、トランスポータン由来ペプチド、付着したペプチドまたは他の薬剤を細胞内に送達するために外細胞膜を越えて通過する能力を保持するシグナルペプチドおよびその断片などが挙げられる。促進剤部分は、キャリアペプチドというよりむしろ、細胞膜を越えるペプチド/ポリペプチドの通過が達成されるような、脂質部分またはダイナミン環安定剤の細胞膜溶解性を増強する他の非ペプチド部分であってもよい。脂質部分は、たとえば、混合トリグリセリド類を含む、トリグリセリド類から選択されてもよい。脂肪酸および特に、飽和C16〜C20脂肪酸も使用することが可能である(たとえば、ステアリン酸)。ペプチドまたはポリペプチドダイナミン環安定剤を、任意の従来既知の様式で、促進剤部分に連結することができる。たとえば、ペプチドまたはポリペプチドは、架橋試薬を使用するペプチド結合または非ペプチド共有結合により、アミノ酸リンカー配列を介して、キャリアペプチドに直接連結することができる。さらに、化学的連結方法を使用して、キャリアペプチドのカルボキシ末端アミノ酸またはリンカー配列と、ペプチドまたはポリペプチドダイナミン環安定剤との間に共有結合を作ってもよい。
【0060】
本明細書に記載の細胞における接着斑の誘導は、結果として生じる隣接細胞との細胞間相互作用の増加により、細胞を動けなくする可能性がある。同様に、有足細胞または他の細胞における接着斑の誘導は、癌(癌細胞転移を抑制することによる)、および細胞接着斑の誘導に反応する他の疾患または病気の予防または治療にも用途がある。
【0061】
本明細書に記載の通り、細胞内のダイナミン環の形成および/またはダイナミン環の維持を増進するために、任意の好適な細胞をダイナミン環安定剤、あるいはそのプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で処理することができる。本発明のこの態様の実施態様は、細胞におけるダイナミン環の形成および/またはダイナミン環の維持を達成するために、ダイナミン環安定剤(あるいはそのプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩)を選択することを含んでもよい。たとえば、有足細胞におけるダイナミン環の増進および/または維持は、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気の予防または治療に特別な用途がある。
【0062】
本発明の実施態様に従ってダイナミン環安定剤が投与される、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気は、ネフローゼ症候群、慢性腎疾患、糸球体疾患、糸球体機能障害、感染後糸球体腎炎およびメサンギウム増殖性糸球体腎炎を含む糸球体腎炎、糖尿病性腎症およびHIV関連腎症を含む腎症、有足細胞損傷および有足細胞傷害を含む有足細胞機能障害、ポドサイトパシー、有足細胞足突起消失、びまん性メサンギウム硬化症、先天性ネフローゼ症候群(たとえば、フィンランド型(CNSF)の)、アルポート症候群および異型(アルポート(Alport+)、微小変化型疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、崩壊性糸球体腎症、免疫および炎症性糸球体腎症、高血圧性腎症、および加齢性糸球体腎症からなる群から選択され得るが、その限りではない。
【0063】
本発明により具体的に例示される方法で治療される個体は、たとえば、ウシ、ブタ、ヒツジまたはウマファミリーのメンバーであってもよく、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ネコまたはイヌ等の研究室実験動物、あるいは霊長類または人類であってもよい。一般に、哺乳動物は人類であろう。
【0064】
好適な薬学的に許容できる塩類としては、合理的な便益/リスク比の範囲内であり、過度の毒性、刺激またはアレルギー反応のない、薬理学的に有効でかつ動物組織との接触に好適な、酸およびアミノ酸付加塩類、塩基付加塩類、エステル類およびアミド類などがある。代表的な酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、シュウ酸塩およびホウ酸塩などがある。代表的な塩基付加塩としては、アンモニウム、カリウム、ナトリウムおよび水酸化第4級アンモニウムから誘導されるものなどがある。塩類は、アルカリ金属およびアルカリ土類陽イオン類たとえばナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよびカリウム、ならびにアンモニウムおよびアミン陽イオン類を含んでもよい。このような塩類の提供は、熟練した受取人に周知である。好適な医薬用塩類は、たとえばS.M Berge et al,J.Pharmaceutical Sciences(1997),66:1−19に例示されており、その内容全体を相互参照により本明細書に援用する。
【0065】
本発明の化合物のプロドラッグは、炭酸塩類、カルバミン酸塩類、アミド類およびアルキルエステル類から選択される基が、化合物の遊離アミノ、アミド、ヒドロキシまたはカルボキシル基に共有結合されているものを含む。好適なプロドラッグは、リン−酸素結合を介して、遊離のヒドロキシルまたは他の好適な基に結合した、リン酸塩誘導体たとえば酸類、酸類の塩類、エステル類も含む。プロドラッグは、たとえば、投与された時、不活性であってもよいが、投与後、結合の開裂または加水分解または他の形の結合修飾の結果として、ダイナミン環安定剤へとインビボ修飾を受ける。活性化合物のプロドラッグ形は、活性化合物より大きい細胞膜透過性を有し、それによって活性化合物の効力を増強する。化合物の細胞への最適利用および全身投与に合ったプロドラッグの細胞膜透過性が維持されるようなプロドラッグをデザインして、細胞外プロドラッグの早期インビボ加水分解を最小限に抑えることもできる。
【0066】
エステル化プロドラッグは、たとえば、ジメチルアミノピリジン(DMAP)等の好適な触媒存在下、ピリジン/N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液中で、本発明により具体的に例示される化合物を、好適な無水物または酸塩化物(モル過剰で)と撹拌することにより提供することが可能である。場合によっては、反応を完了させるために、溶液を還流することが必要である。反応の完了時に、再結晶かまたはクロマトグラフィーのいずれかにより、エステル化生成物を精製する。代表的なエステル類としては、C1〜C7アルキル、フェニルおよびフェニル(C1〜6)アルキルエステル類などがある。好ましいエステル類としては、メチルエステル類などがある。好適なプロドラッグ群の例を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
たとえば、Bis−T−22およびその類縁体のプロドラッグは、細胞膜透過性を増大し、それにより細胞における効力を増大するために開発された。二量体チルホスチン化合物のプロドラッグの提供に好適な反応を、スキーム3に図解する。Bis−T−22は、出発試薬として例示されている。たとえばジメチルアミノピリジン(DMAP)等の好適な触媒の存在下、ピリジン/N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液中で、二量体チルホスチン化合物を、好適な無水物または酸塩化物(モル過剰で)と共に撹拌する。場合によっては、反応を完了させるために、溶液を還流することが必要である。反応の完了時に、再結晶かまたはクロマトグラフィーのいずれかにより、エステル化生成物を精製する。開発された格別の二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチンプロドラッグを、表4および表5に示す。
【化7】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
ダイナミン環安定剤は、そのような治療を必要としている個体に単独で投与してもよく、あるいは1つまたは複数の他の治療用化合物あるいは蛋白尿性腎疾患関連の症状を治療または軽減するために従来使用されている薬剤と併用投与してもよい。「併用投与」により、同一経路または異なる経路による、同一製剤中または2つの異なる製剤中の薬物の同時投与、あるいは同一経路または異なる経路による逐次投与を意味し、その場合、薬物は重複する治療ウインドウで作用する。
【0072】
ダイナミン環安定剤は一般に、安定剤および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物へと配合される。注射液は一般に、溶液を濾過で滅菌する前に、選択された担体に安定剤を組み入れることにより調製される。経口投与用には、ダイナミン環安定剤を、好適と思われる任意の経口的に許容できる担体に配合することができる。特に、ダイナミン環安定剤は、不活性希釈剤、同化可能な食用担体と配合してもよく、あるいはハードシェルゼラチンカプセルまたはソフトシェルゼラチンカプセルに封入してもよい。さらに、ダイナミン環安定剤は、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤またはシロップ剤の形で提供することができる。
【0073】
本明細書に記載の医薬組成物はまた、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、およびソルビン酸等の、1つまたは複数の保存料も組み入れることができる。加えて、組成物の持続的吸収は、モノステアリン酸アルミニウム等の吸収を遅らせるための化学物質を含めることによってもたらすことが可能である。錠剤、トローチ剤、ピル、カプセル剤等々はまた、トラガカントガム、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチン等のバインダー、コーンスターチ、馬鈴薯デンプンまたはアルギン酸等の崩壊剤、潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリン等の甘味料、香味料の1つまたは複数を含有してもよく、また胃の酸性環境を通って小腸内に移行するのを容易にするために、腸溶コーティングが提供されてもよい。
【0074】
薬学的に許容できる担体としては、任意の好適な従来既知の生理学的に許容できる溶媒、分散媒、等張製剤、およびたとえば生理食塩水を含む等張液などがある。薬学的に活性な物質のための、そのような成分および媒体の使用は周知である。任意の従来の媒体または化学物質が模倣剤と不適合でない限り、その使用は明らかに包含される。投与の容易さおよび薬用量の一様性のために、薬用量単位形で組成物を製剤することが特に好ましい。薬用量単位形は、本明細書で使用されるとき、治療効果または予防効果を提供するように計算された所定量のダイナミン環安定剤をそれぞれ含有する、物理的不連続単位を意味すると理解すべきである。薬用量単位形がカプセル剤であるとき、そのカプセル剤は液体担体中に有効成分を含むことができる。コーティングとして、あるいは薬用量単位の物理的形状を別の方法で修飾するために、様々な他の成分が存在してもよい。
【0075】
本発明により具体的に例示される医薬組成物は概して、組成物の少なくとも約0.1重量%から最高約80% w/wのダイナミン環安定剤を含む。組成物中のダイナミン環安定剤の量は、提案された投与方法を考慮して、好適な有効薬用量が個体に送達されるものになる。好ましい経口組成物は、約0.1μg〜4000mgの安定剤を含有する。
【0076】
ダイナミン環安定剤の薬用量は、予防的使用のために投与されるのか治療的使用のために投与されるのか、有効成分を投与しようとする疾病または病気、病気の重症度、個体の年令、一般に認められた医学原理に従って決定されるような個体の体重および全体的健康を含む関連因子、を含む多数の因子に左右されるであろう。たとえば、低薬用量が最初に投与され、その後、個々の応答の評価に従って、各投与時に増加される。同様に、同じ方法で、すなわち各薬用量間で、個体の応答を連続的にモニタリングし、また必要があれば、投与頻度を増加するか、あるいは投与頻度を減らすことにより、投与頻度を決定することができる。
【0077】
一般に、ダイナミン環安定剤は、最高約50mg/kg体重、好ましくは約1mg/kg〜約30mg/kg体重の薬用量で、本発明により具体的に例示される方法に従って投与される。
【0078】
投与経路としては、静脈内、腹腔内、注射、経口、直腸による、および埋め込みによる等が挙げられるが、その限りではない。本発明の組成物で有用な、好適な薬学的に許容できる担体および製剤は、たとえば「Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Mack Publishing Co.,1995)」等の、熟練した受取人に周知のハンドブックおよびテキスト中に見られ、その内容全体を参照により本明細書に援用する。
【実施例】
【0079】
本発明を、非限定的実施例に関連してさらに後述する。
【0080】
実施例1:ダイナミン集合体測定法
1.ダイナミン自己集合体測定法−低ダイナミン濃度
前述(Warnockら、1996)の通り、同一のヘペスカラム緩衝液(HCB−20mM Hepes,2mM EGTA,1mM MgCl2,1mM PMSF,1mM DTT,20μg/mlロイペプチン,pH7.4)を使用して、天然のダイナミン(40nM)でダイナミン自己集合体測定法を実施した。しかし、全ての緩衝液が、試験ダイナミンインヒビター用に使用された媒体である、1% DMSOも含んでいた。NaCl濃度は、200mM NaClの原液から様々であった。ダイナミンを100,000gで20分間遠心分離し、上澄(S)およびペレット(P)を集め、トリクロロ酢酸で沈殿させ、SDS試料緩衝液中に可溶化し、SDSゲルで分離し、イン・ハウス・ヒツジ・ポリクローナルα−ダイナミンI抗体を使用して、ウェスタンブロッティングでダイナミンIを検出した。
【0081】
2.高ダイナミン濃度自己集合体測定法−高ダイナミン濃度
このダイナミン自己集合体測定法を、実施例1.1に上述したヘペスカラム緩衝液を使用し、(上述の通り、1% DMSOを加えて)、天然のダイナミン(5.2μM)で実施した。Bis−T効果は、表示のBis−T濃度を有するダイナミンを室温(22℃)で10分間プレインキュベートすることにより測定した。NaCl濃度は、200mMNaClの原液から様々であった。インキュベーション後、試験管をTLA120.2ローター(Beckman)に移し、100,000gで20分間、卓上用超遠心機(Optima TLX,Beckman)で遠心分離し、上澄(S)およびペレット(P)を集め、トリクロロ酢酸で沈殿させ、SDS試料緩衝液中に可溶化し、SDSゲルで分離した。
【0082】
実施例2:ダイナミン環安定剤は、ダイナミンインヒビターのサブグループである
様々なクラスのダイナミンインヒビターの中に、ダイナミン環安定剤のサブセットはある。Bis−T二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類は、螺旋状ダイナミンGTPアーゼ活性を強く阻害し、ダイナミン螺旋集合のための鋳型の非存在下、環形成の増進により基礎的活性を刺激することができる。図1は、環集合に必要なものより低い、漸増するダイナミン濃度における、精製したヒツジ脳ダイナミン(たいていこれは、ダイナミンIである)のインビトロGTPアーゼ活性を示す。黒い符号(実線)は、試験した全てのダイナミン濃度で、ダイナミンがリポソームにより刺激される(螺旋を形成する)ことを示す。5μMの2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−プロピル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド(Bis−T−23)は、全ての点で、ダイナミンを強く阻害する(しかし、非常に高いダイナミン(400nM)では、もしかすると高ダイナミン濃度のため、Bis−T−23は阻害できない)。
【0083】
対照的に、リポソームの非存在下では(ダイナミンが、螺旋を形成できない場合)、結果は全く反対である(図1,白抜きの符号、点線)。環の形成に必要な濃度より低いダイナミン濃度を使用すると、Bis−T−23はダイナミン活性を強く刺激する。全てのダイナミン濃度で阻害される螺旋状ダイナミンと対照的に、リポソームの非存在下で、Bis−T−23は低ダイナミン濃度のダイナミンを活性化したり阻害したりしないが、100nM以上のダイナミン濃度に限って刺激する(図1)。このことから、Bis−T−23は、ダイナミンの基礎的GTPアーゼ活性の活性化剤でもインヒビターでもないが、環ダイナミンに影響を及ぼすことが分かる。
【0084】
本実験における、PS−刺激螺旋状ダイナミンの阻害に関するIC50は、500nM(図2)である。基礎的ダイナミン活性の50%活性を引き起こすBis−T−23の濃度(EC50)は、驚くほどに殆ど同じ値である。このことから、この一連の化合物に関して、環安定化および阻害の機序は、関連している可能性が示唆される。
【0085】
次に、ダイナミンGTPアーゼのBis−T−23刺激の経時変化実験(図3)を実施した。高ダイナミン濃度(800nM)および中間NaCl濃度(30mM)を使用するとき、こうした条件ではリングとして集合しないため、ダイナミン基礎的GTPアーゼ活性は時間と共に直線的に上昇した。5μM Bis−T−23の存在下で、ダイナミン活性は、約4分の初期「ラグ相」後に大幅に上昇した。ラグ相は、ダイナミンが環として集合するのに要する時間を示すと考えられる。結果は、Bis−T−23はダイナミン環集合の初速を加速しないことを示し、代わりに環解体を抑制することが示唆される。
【0086】
一連の強力なイミノジン・ダイナミンインヒビターの環安定剤活性を試験したとき、サブセットは基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性(すなわちPSの非存在下;図4)の強力な活性化剤であることが分かった。イミノジン−17、22および23は、環安定剤活性を示す、1〜20μMという刺激値(EC50)を有していた。
【0087】
PS−刺激ダイナミンのIC50と、PSの非存在下におけるダイナミンのEC50との間に相関関係はほとんどない。従って、ダイナミンインヒビターのサブセットのみが環安定剤であり、環安定剤を、PS−刺激ダイナミンGTPアーゼ活性の単なる強力なインヒビターとして認めることはできない(表2)。たとえば、イミノジン17および22は、等効力のダイナミンインヒビターであるが、環安定剤活性は30倍異なる。同様に、イミノジン20および21は、同様に強力なダイナミンインヒビターであるが、イミノジン20は、環安定剤活性を示さない(表2)。このように環安定剤活性は、他の刺激因子(たとえばPSリポソーム類、微小管類またはナノチューブ類等)の非存在下で、ダイナミン蛋白質の活性を刺激する能力によって同定できる。
【0088】
環安定剤がダイナミン多量体化を必要とすることを検証するために、GG−2と呼ばれる、二量体であるが、より高次のオリゴマーに自己会合できないダイナミンの組換え形(Chappieら、2009)を試験した。環安定剤は、そのような構築物の基礎活性を刺激することができない(図5)。
【0089】
Bis−T−23の活性化効果のダイナミン濃度依存性から、Bis−T−23はダイナミン環のインビトロ形成を変えている可能性があることが示唆された。環解体のブロックは、インビトロで環の蓄積として現れるはずである。緩衝液イオン強度が低下しているとき、コファクターが何も存在しない条件下で、ダイナミンは環へと自己集合する(Songら、2004)。Bis−T化合物がダイナミン−ダイナミン相互作用を制御するかどうかを決定するため、環をペレットに集めるために、漸減する量のNaClで、確立した高速遠心分離方法を使用した(Warnockら、1996)。より高濃度のダイナミン(520nM)およびダイナミンを、SDSゲル上でクーマシー染色により可視化した(図6)。他者による報告通り、ダイナミンは、≧40mM NaClでは上澄中にあるが、≦20mM NaClで自己集合し、ペレット中に認められる。100μMのBis−T−22は、低塩濃度でダイナミンが自然集合する前に、中間塩濃度(40、60nM)で環集合を増加した。固定した40mM NaClで、Bis−T−22は、あらゆるダイナミンが300μM濃度で環を形成するのを増進した。したがって、こうした条件で、Bis−T−22はダイナミンI自己集合を安定化/増進した。したがって、ダイナミン−ダイナミン相互作用に対して直接効果があり、化合物は、環解体を防止することによってダイナミン環集合およびインビトロGTPアーゼ活性を増進するようであると結論付けられた。したがって、GTPアーゼ活性環が蓄積する。
【0090】
ダイナミン環安定剤がダイナミン環の解体を防止するか遅らせるかを直接証明するために、確立した遠心分離アッセイを使用した。簡単に記載すると、PSリポソームの存在下で30分間、ダイナミンIを螺旋として前集合させ、その後、ダイナミン環安定剤Bis−T−23または非ダイナミン環安定剤ダイノール34−2(実施例4参照)を加えた。次いで、試料を、微量遠心機で10分間遠心分離して、上澄(Sup)またはペレットを集めた。このアッセイで、螺旋状ダイナミンは、主としてペレット中に認められた。しかし、NaCl(150mM)またはMg/GTP(1mM)のいずれかを加えると、ダイナミンを解体することが知られており、それは主として上澄に認められる(図7参照)。Bis−T−23は、螺旋状ダイナミンの解体を減少させたが、ダイノール34−2は減少させなかった(図7)。このことは、Bis−Tがダイナミン環安定剤として作用する機序は、ダイナミン環または螺旋の解体遅延であるか、または遅延を含むことを示す。この独特の作用機序により、ダイナミン環安定剤が、螺旋状ダイナミンGTPアーゼ活性を阻害しながら同時に基礎的GTPアーゼを刺激できる理由が説明される。
【0091】
実施例3:Bis−T−23は、柔軟性のないダイナミン環をインビトロで生成する
螺旋状ダイナミンの特徴は螺旋が非常に柔軟な構造であることである。GTP加水分解に際して、その直径を急速に減少(狭窄)できる一方で、長さを拡大することもできる(螺旋の拡大)(Stowellら、1999;Chenら、2004;Rouxら、2006)。これは、細胞内で、新たに出芽した細胞内小胞の頚部の分裂に使用される潜在的機序であると考えられる(Rouxら、2006)。螺旋状ダイナミンの高度な柔軟性は、GTPまたはGDPの非存在下でホスファチジルセリンリポソームに結合したダイナミンのEM解析により確認された(図8)。PSリポソームと混合されたダイナミンは、特有の性質を持つ螺旋を形成した(図8AおよびC):螺旋の個々のループは、直径が極めて多様であり、基礎をなす脂質に対して異なる角度で形成され、ループ間の間隙は極めて多様である。対照的に、5μMBis−T−23は、螺旋の形状を大きく変えた(図8BおよびD)。特に、螺旋の個々のループは、直径が極めて一様であり、基礎をなす脂質に対して一定の角度で形成され、ループ間の間隙は極めて一定である。Bis−T−23結合ダイナミンは、既報の脂質ナノチューブ上のGTPγS−結合ダイナミンに類似しているようであった(Stowellら、1999)。このことは、Bis−T−23が、環解体を防止することにより、ダイナミンループを、GTP−結合状態と類似した、柔軟性がなくかつ一様な直径に固定できることを示す。その作用は、各螺旋管の末端で特に顕著であり、これはBis−T−23の非存在下で「漸減」するが、その存在下では「鈍く」(図8C〜D)、Bis−T−23の作用を受けたループの非柔軟性を示す。
【0092】
電子顕微鏡(EM)の結果は、ダイナミンGTPアーゼの阻害と活性化の両方に共通な機序を明らかにした。Bis−T−23は螺旋のループを非柔軟性にするため、螺旋状ダイナミンの極度に上昇したGTPアーゼ活性は、同薬によって阻害されると結論づけられた。PSリポソーム類の非存在下で、Bis−T−23の存在によって誘導される個々のダイナミン環の活性は、一様な大きさの柔軟性のない環の同様の蓄積によって刺激される。したがって、Bis−T−23は、インビトロでダイナミン解体を推進するGTP加水分解によって、通常ならば推進されるであろうダイナミンの急速解体を防止しすると結論づけられた。
【0093】
次に、鋳型様PSリポソームの非存在下で、ダイナミン環の形成に及ぼす環安定剤Bis−T−23の影響を調べた。インビトロで、高濃度のダイナミンが、EMで検出可能な環へと自己集合することは周知である(Hinshaw and Schmid,1995)。このような自己集合は、一般に500〜1000nM程度の、高いダイナミン濃度を必要とし、より低いダイナミン濃度では確認されない。具体的には、鋳型の非存在下で、自己集合の閾値より十分に低い濃度である200nMダイナミンに及ぼすBis−T−23(5.4μM)の影響を試験した。予測通り、この濃度では、ダイナミンは感知できるレベルまで自己集合しなかった(図9A)。しかし、Bis−T−23の存在下で、ダイナミンは、予期せぬ強大な自己集合増加を示した(図9A)。高倍率画像によって、高電子密度構造は真正ダイナミン環であることが裏付けられる(図9B)。約2000のダイナミン環の定量分析から、Bis−T−23により誘導された強大な環形成増加が分かる(図9C)。こうした結果から、Bis−T−23は、それらの形成を誘導するかまたはそれらの解体を防止するかのいずれかによって、ダイナミン環の蓄積を増進することが裏付けられる。基礎的ダイナミンに関する結果は、ダイナミンインヒビターとしては完全に予想外であり、環安定剤活性を示すものである。
【0094】
実施例4:Bis−T−22は、細胞で、柔軟性のないダイナミン環を生成する
この実施例は、ダイナミン環安定剤が、細胞内でダイナミン環形成を増進することができ、またそれらの解体を防止または遅延できることを示す。小胞がクラスリン−依存性経路により飲食されるとき、部分的に狭窄した短い頚部を有するオメガ型形状として、細胞膜近くに内部移行することは周知である。これらは、低周波の透過電子顕微鏡法(EM)により検出することができる。ダイナソア等の古典的ダイナミンインヒビターで細胞を10〜30分間処理するとき、ダイナミン環は増進せずに、細胞の細胞膜にクラスリン被覆ピットの強大な蓄積を引き起こす(Maciaら、2006)。MiTMAB(Quanら、2007)またはダイノール34−2のような他のダイナミンインヒビターは、恐らく少なくとも部分的に、脂質表面でそれらの初期形成を防止するように作用し、また環安定剤性を持たないインヒビターであるため、被覆ピットの蓄積を誘導しない。これらの観察結果とは対照的に、ダイナミン環安定剤は、クラスリン被覆ピットの蓄積を細胞で引き起こし、2つの独特の特徴を有する:小胞頚部は、極めて細長く、また高電子密度環で取り囲まれている。ヒトリンパ芽細胞(ダイナミンIIを発現する)を、ダイナソア、MiTMAB(表示せず)またはBis−T−22で30分間処理し、EM解析用に調製した。ダイナソアおよびMiTMABは、以前に報告した予期された結果をもたらしたが、Bis−T−22は、非常に細長い頚部を有し、かつ環またはスパイラルで囲まれた、強大な蓄積を、クラスリン被覆ピットの全細胞で誘発した(図10A)。同様に、ラット脳シナプトソーム(単離神経終末、主としてダイナミンIを発現する)をBis−T−22で30分間処理し、KClで脱分極させてエンドサイトーシスを誘発するとき、1つの高電子密度環で取り囲まれた、捕獲エンドサイトーシスピットが検出された(図10B下方3パネル)。シナプトソームが刺激されなかったとき、環または捕獲小胞は何も検出されなかった(図10B最上)。このことは、以前に記述した、単環を形成する精製ダイナミンIに関するインビトロ観察結果によく似ている(図9)。
【0095】
これらの観察結果から、環安定剤は、異なる細胞型における捕獲エンドサイトーシスの部位で、環を増進および安定化する能力を有することが説明される。この性質は、ダイナミン環安定剤ではないダイナミンインヒビターでは見られず、ダイナミン環安定化は、生細胞という状況で起こり得る、精製蛋白質を用いたインビトロ条件に限定されない、環安定剤化合物の新規な作用であることが裏付けられる。
【0096】
実施例5:全てのダイナミンインヒビターがダイナミン環安定剤とは限らない
ダイナソアの構造に基づく、新たな一連の強力なダイナミンGTPアーゼインヒビター(Maciaら、2006)が設計された。これらの化合物は、ディンゴと呼ばれる。最も活性なディンゴ類縁体は、ディンゴ−4aであり、PS−刺激ダイナミンに対するIC50が300nMであるのに対して、ダイナソア(ディンゴ−7a)IC50は14μMである。ディンゴの構造は、Bis−Tの単量体型に似ており、また単量体チルホスチンにも似ている。しかし、ディンゴ類、および特にダイナソアは、ダイナミンインヒビターをスクリーニングするためのアッセイの通常成分である、界面活性剤トウィン−80に強く結合することが分かった(Quan and Robinson 2005)。本研究で、トウィン−80の非存在下で基礎的GTPアーゼアッセイを実施するとき、ディンゴ類およびダイナソアは両者ともBis−T−23と同程度まで、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激することが分かった(図10A)。このことは、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性化(すなわち、ダイナミン環活性化)は、Bis−Tチルホスチンにもイミノジン類にも限定されないことを示す。
【0097】
新規な化学的分類での、もう一つの強力なダイナミンインヒビターシリーズは「ダイノール」の化合物であり、これは国際特許出願第PCT/IB2008/002387号明細書(国際公開第2009/034464号パンフレット)に記載の、インドール系インヒビターである(Hillら、2009も参照)。今までに開発された最強のダイノールは、ダイノール34−2(2−シアノ−3−(1−(2−(ジメチルアミノ)−エチル)−1H−インドール−3−イル)−N−オクチルアクリルアミド)であり、1μMという、PS−刺激ダイナミンに対するIC50を有する。ダイノール34−2は、ダイナミン基礎的活性を刺激できない(図11A)。したがって、ダイノール34−2は、ダイナミン環解体インヒビターではない(すなわち、ダイナミン環安定剤ではない)。
【0098】
次に、様々な強力なBis−T類縁体を、トウィン−80の存在下で使用される標準GTPアーゼアッセイで試験した。最強のダイナミンインヒビターのうち4つ(Hillら、2005)は、基礎的活性を増強させたため、ダイナミン環安定剤であることも分かった(図11B)。ダイナソアはこうした条件で基礎的GTPアーゼ活性を刺激できなかった(その、非特異的トウィン−80結合のため)が、ディンゴ−4aはやはり有効であった。重要なことは、MiTMABシリーズ(PHドメインを標的にする、Quanら、2007)またはダイノールシリーズ(GTPアーゼドメインのアロステリック部位を標的にする、Hillら、2009)中の幾つかのダイナミンインヒビターは、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激できなかった(図11B)。したがって、ダイナミンに対して異なる作用機序を有するダイナミンインヒビターは、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を増強しない(すなわち、それらは全てがダイナミン環安定剤とは限らない)。このことは、環安定剤が、それらの活性と特に関係がなく、鋳型刺激ダイナミンGTPアーゼ活性をインビトロで阻害しない、異なるクラスのダイナミン調節物質に相当することを示す。
【0099】
要するに、本明細書で、多数の異なる化学分類からの様々なダイナミン環安定剤が、全長ダイナミンの基礎的活性を刺激する能力によって同定された。これらの化合物は、たぶんダイナミン解体を阻害することにより、単環へのダイナミン自己集合を特異的に安定化する(それによって、GTP加水分解の基礎的速度を刺激する)ため、刺激の機序が説明された。全てのダイナミン環安定剤が、螺旋状ダイナミンGTPアーゼ活性の強力なインヒビターであった訳ではない。重要なことは、環へのダイナミン自己集合が、アクチン細胞骨格に特異的でかつ選択的な影響を及ぼすこと(以下参照)、およびこれらの化合物が、アクチン細胞骨格におけるダイナミン環の機能を安定化または延長できることである。
【0100】
実施例6:インビトロで、アクチンはダイナミン環集合を刺激する
本研究で、ダイナミンによる環の形成は、有足細胞におけるアクチン細胞骨格を増加するために不可欠であることが分かり、またダイナミンと線維状アクチン(F−アクチン)との間の直接相互作用が同定された。特に、アクチン線維に沿って結合し、それらを線維束へと並べる、ダイナミンにおける未確認のアクチン結合部位が同定された。F−アクチン、および特に、ゲルソリン(Gsn)によってそれらの反矢じり端上にキャップ化された短い線維は、ダイナミン環形成を増進し、そのGTPアーゼ活性を刺激する。この相互作用は、次には、さかとげ付き線維末端からゲルソリンを分離し、また線維伸長を増進する。ダイナミンとGsn−キャップ化線維の間の相互作用はこのように、アクチンの構造および動力学に影響を及ぼす。インビトロでアクチン結合が欠損しているダイナミン変異体は、細胞での多量体化が障害され、アクチンストレスファイバー集合が減少し、また培養有足細胞における表層アクチン細胞骨格の挙動が変化している。対照的に、アクチンアフィニティが増強したダイナミン変異体は、細胞質で多量体化する傾向が増強し、細胞の核周囲領域におけるストレスファイバー集合を刺激する。これらの結果から、ダイナミンのGTPアーゼ回路と有足細胞におけるアクチン細胞骨格の包括的組織化との間の複雑な相互作用が示唆される。
【0101】
実施例7:ダイナミンはF−アクチンを結合する
ダイナミンがアクチン細胞骨格に影響を及ぼすかどうかを決定するために、ダイナミンが線維状アクチン(F−アクチン)を直接結合するかどうかという問題を試験した。特に、高速遠心分離を受けてF−アクチンが沈殿する、アクチン共沈降法を実施した。ダイナミンがF−アクチンと相互に作用するのであれば、ダイナミンは共沈殿し、したがって、ペレット画分中に存在することが予期される。F−アクチンの存在下で、ダイナミンの大部分がペレット中に発見されたが、非存在下では発見されなかった(図12、レーン2および14)。ダイナミン−アクチン相互作用は、GTPの存在を必要とせず、ダイナミン多量体化を必要としなかったことを示す。さらに、GTPγSの存在下で、F−アクチンへのダイナミン結合が確認され(図12、レーン6)、ダイナミン多量体化は、結合に対して抑制的ではなかったことが分かる。アクチンに対するダイナミンのKdはおよそ0.4μMであり、アクチンに対するα−アクチニン4等の、他のアクチン結合蛋白質のアフィニティに似ている(Weinsら、2005)。
【0102】
実施例8:ダイナミンのアクチン結合ドメインは、ダイナミンミドルドメイン内である
次に、アクチン結合部位は、ダイナミンII(dyn2)のアミノ酸399と444アミノ酸との間の領域に位置づけられた(図13)。アクチン結合ドメインに関して予測される通り(Vanら、1996)、この領域は、酵母から哺乳動物までの全てのダイナミン遺伝子産物に保存された、幾つかのプラスに帯電したアミノ酸を含む。この領域はまた、異なる哺乳動物のダイナミンアイソフォーム内で選択的にスプライシングされる(ダイナミンIおよびIIにおける異型aおよびbと呼ばれる)(図13,配列番号1〜4を参照)。このアクチン結合ドメイン内の、保存された荷電残基に部位特異的突然変異誘発を実施し、推定「機能喪失」変異体、dynK/E(配列番号9)およびdynK/A(配列番号10)、ならびに推定「機能獲得」変異体、dynE/K(配列番号11)を作成した(図13)。アクチンに対するdynK/EおよびdynK/Aのアフィニティは低下していた(それぞれ、Kd=1.7および2.8μM)が、アクチンに対するdynE/Kのアフィニティは上昇していた(Kd=0.03μM)(図14)。3つの変異体蛋白質全てが、基礎的GTP加水分解速度および刺激されたGTP加水分解速度に関して野生型力学的特性を有しており、適切な折り畳みを示す。
【0103】
実施例9:ダイナミン−アクチン相互作用は、有足細胞のアクチン細胞骨格に関与する
アクチン組織化におけるダイナミン−アクチン相互作用の役割を決定するために、F−アクチンに対するアフィニティが変化したダイナミン変異体を発現する有足細胞の形態学の帰結を調べた。十分に分化したマウス有足細胞では、アクチン細胞骨格は、細胞体内で、アクチン−ミオシン収縮性ストレスファイバーの平行な束、および葉状仮足および糸状仮足の形成を推進する細胞膜の下にある短い分岐したアクチン線維の皮質ネットワークに組織化される。GTPを結合できないダイナミン変異体である、dynK44Aの発現は、細胞体内のストレスファイバーを破壊し、太い、超束化アクチンネットワークを細胞膜の近くに生成し、多角形の細胞形状をもたらす(Severら、2007)。本研究で、dynK44Aの発現は、葉状仮足および糸状仮足の形成をなくすことが分かった(図15B)。「機能喪失」変異体dynK/Eの発現は、ストレスファイバーの減少および細胞形状の劇的変化をもたらした(図15C)。対照的に、「機能獲得」dynE/Kの発現は、細胞体内でのストレスファイバーの明白な増加をもたらした(図15D)。集合したGTP結合状態で長生きする変異体である、dynR725Aを発現する細胞で、同様のストレスファイバーの増加が確認された(図15E)。
【0104】
実施例10:ダイナミン環はF−アクチンを密着束に架橋する
ダイナミンがアクチン線維の構造に及ぼす影響を評価するために、ネガティブ染色および電子顕微鏡法(EM)を使用してF−アクチンを調べた。ダイナミンは、GTPγS(その環形成を増進する非加水分解性GTP類縁体)を加えることによって環へと多量体化し、アクチン線維を密着束へと架橋した(図16)。これらの束における線維間の間隙は、ダイナミン環の直径(約50nm)未満の17〜20nmであった。したがって、これらの結果から、他のアクチン結合蛋白質の非存在下で、ダイナミン環は、明確に規定された間隙を有する平行な線維から成るアクチン束を形成できることが示唆される。このような平行なアクチン線維は、ストレスファイバーおよび糸状仮足に生じる。これは、環形ダイナミンに関する生物学的機能の最初の報告であると考えられる。
【0105】
実施例11:ダイナミン環は、さかとげ付き線維末端からゲルソリンを退去させる
次に、ダイナミンが、ゲルソリン(Gsn)キャップ化F−アクチンの反矢じり端を露出できるかどうかという問題を試験した。表示された比率(1G:A200または1G:A1000)(図17)のゲルソリンの存在下で、アクチンを重合させた。こうした条件下で、ゲルソリンは反矢じり端の>99%をキャップ化する。線維長は、Gsn:アクチン比(それぞれ、約0.5μmまたは2.7μm)によって規定され、またアクチン重合の程度は、約0.6μMという矢じり線維端の臨界濃度によって調節される。次いで、ダイナミンの存在下および非存在下で、アクチン溶液を0.33μMに希釈した。こうした条件下で、反矢じり端が利用できるようになったときだけ、アクチンは再重合できる。ダイナミンを加えることによってアクチン重合が誘導されたが、GTPγSの存在下に限られる(図17,菱形および丸を四角と比較されたい)。このことは、直接的にまたは反矢じり端におけるF−アクチン構造を変更することによって、さかとげ付き線維末端からゲルソリンを退去させる能力を有するダイナミン環と一致する。全体として、データから、F−アクチン動力学とダイナミン多量体化との間の相互接続が立証される。特に、短い、ゲルソリンキャップ化アクチン線維は、ダイナミン環形成を増進し、次にはゲルソリンを反矢じり端から分離し、線維伸長を可能にする。
【0106】
実施例12:Bis−T−23はダイナミン環の形成を刺激する
dynR725AおよびdynE/Kは両者とも、ダイナミン環形成において長生きすると予測される(Severら、2007)。DynR725Aは、LPSモデルで、環へと多量体化することによって、したがって、プロテアーゼカテプシンL(CatL)による開裂を回避することによって、蛋白尿を救助すると以前に報告された(Severら、2007)。dynR725Aの発現は、ネフローゼ症候群のマウスモデルで蛋白尿を減少させるのに十分である(Severら、2007)。
【0107】
Bis−T−22およびBis−T−23が野生型環ダイナミンを活性化するかどうか、またdynR725A表現型を表現型模写するかどうかという問題を試験した。Bis−T−23は、基礎的ダイナミンGTP加水分解速度を、Gsn−F−アクチン複合体添加と同様のレベルまで増強した(図18)。したがって、Bis−T−23複合体およびGsn−F−アクチン複合体は両者とも、環へのダイナミン多量体化を増進する。両試薬が同時に存在したとき、ダイナミンのGTPアーゼ活性が追加刺激される(図18)。総合すると、これらのデータから、Bis−T−23は、ダイナミンによるF−アクチン結合に関して競合しないこと、および両成分はダイナミン多量体化に関して相加的または相乗的に作用することが示唆される。
【0108】
実施例13:Bis−T−23は、培養有足細胞で、接着斑およびストレスファイバーを刺激する
ダイナミン環安定剤のインビトロ作用が細胞内でも起きるかどうかを決定するために、Bis−T−23が、培養マウス有足細胞におけるアクチン細胞骨格に及ぼす影響を試験した(図19)。Bis−T−23添加の10分後に、明確に規定されたストレスファイバーが劇的に増加した(図19B〜D)。これは、接着斑数の劇的な増加と関連していた(図19Bのパキシリン染色)。Bis−T−23はエンドサイトーシスを抑制する(表示せず)が、アクチン細胞骨格は、dynK44Aを発現する細胞と比べて大いに異なる(ストレスファイバーの損失および超束化アクチン線維の増加)。このように、確認されたストレスファイバー増加は、エンドサイトーシスの抑制が原因ではなさそうである。
【0109】
これらの結果は、ダイナミン環が培養有足細胞におけるストレスファイバーおよび接着斑の形成に関与すること、およびBis−T等のダイナミン環安定剤分子は、アクチン再編成に起因する機能的FPを修復することにより蛋白尿を抑制または回復させる可能性があることを示す。
【0110】
実施例14:動物モデルにおける蛋白尿の抑制
環安定剤の有効性をインビボで立証するために、遺伝モデルおよび急性毒性モデルという、2つの異なる腎疾患マウスモデルを使用した。α−アクチニン4をコード化するACTN4遺伝子における「機能獲得」変異を発現するマウスは、完全に特性化されている(Kaplanら、2000;Hendersonら、2008;Yaoら、2004)。これらの動物は、ストレスファイバーの凝集を誘導するα−アクチニン4変異体の「超束化」活性のため、FP消失および蛋白尿を呈する。蛋白尿は、4〜6週令で現れる。本研究で使用した動物は、Dr.Martin Pollak,Brigham and Women’s Hospital,Boston,MA,USAから入手した。蛋白尿性表現型は、製造業者のプロトコールに従い、マウスアルブミン特異的ELISAおよびクレアチニン比較アッセイキット(Creatinine Companion assay kits(Exocell and Bethyl Laboratories))を使用して、尿中アルブミンおよびクレアチニンの測定により確認した。コントロールの動物は同腹子であった。Bis−T−23を100% DMSOに溶解して、10μg/μl原液を作り、その5μlを1×PBS 200μlで希釈し、これを時刻0時間に被検動物に腹腔内(IP)注射した(166μg/100g体重)。尿中蛋白質レベルを、注射後2時間毎に測定した。結果を図20に示す。図から分かるように、Bis−T−23投与後6時間まで、野生型レベルまでの蛋白尿の減少が得られた。
【0111】
次いで、急性蛋白尿の第2のモデルを使用して、ダイナミン環安定剤の蛋白尿改善能力を蛋白尿性腎疾患の可逆モデルで試験した。LPS−誘導蛋白尿を既述通りに使用した(Severら、2007)。簡単に記載すると、4週令のメスBALB/cマウスに、濃度1mg/mlのリン酸塩緩衝食塩水で希釈した超高純度LPS 200μgを2回、腹腔内(IP)注射した。48時間以内に蛋白尿が現れた(図20,2×LPS)。Bis−T−23を好適な濃度までDMSOに溶解し、体重100g当たり300μgをIP注射で送達し、DMSOを媒体コントロールとして使用した。尿中蛋白質レベルは、製造業者のプロトコールに従い(Bethyl Laboratories)、マウスアルブミン特異的ELISAキットを使用して測定した。Bis−T−23の投与は、注射後2〜6時間に、蛋白尿を一部救助した(図21)。蛋白尿を救助する能力は、注射後8時間に低下した。これらの結果は、蛋白尿性腎疾患のマウスモデルで、環安定剤が蛋白尿を改善できることを示す。
【0112】
多数の実施態様が記述されてきたが、広く記載される通り、本発明の精神または範囲から逸脱することなく、多くの変形および/または修正を行えることは、当業者に理解されるであろう。したがって、本実施態様は、あらゆる点で、例示的であって制限的ではないと考えるべきである。
【0113】
[参考文献]
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内で、安定したダイナミン環の形成を増進し、かつ/または安定したダイナミン環を維持するための、本明細書で「ダイナミン環安定剤」と呼ばれる化学物質群の使用に関する。本発明は、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気の予防または治療に特別な用途がある。
【背景技術】
【0002】
慢性腎疾患(CKD)の世界的流行は、驚異的な速度で進行している。合衆国、オーストラリア、日本およびヨーロッパでは、一般人口の最高11%が罹患している。特にインド、中国および東南アジアでは、II型糖尿病、およびその関連した腎合併症が同時に着実に増加し、また腎関連疾患は現在の治療選択肢および手段から逃れている。組織学的データおよび遺伝学的データは、糸球体疾患における有足細胞機能障害と強く関連している(Susztak and Bottinger 2006;Tryggvasonら、2006)。
【0003】
有足細胞機能障害を示す初期の事象の1つは、足突起(FP)およびスリット隔膜の破壊であり、これが足突起融合および蛋白尿を引き起こすと考えられる(SusztakおよびBottinger 2006)。CKDの大抵の場合、最初の臨床徴候は蛋白尿である。有足細胞内のこのような初期構造変化が回復しなければ、進行性の、重篤な障害が発生し、有足細胞の糸球体基底膜(GBM)からの脱離につながる。これは、瘢痕,尿腔の閉塞、および分節性糸球体硬化症の発生ならびに末期腎不全を招く。スリット隔膜,頂端部および足底板(sole plate)を連結するアクチン細胞骨格の再編成は、足突起(FP)消失中の共通した特徴となる。したがって、健康な状態および病気の状態における足突起形成を制御する機序の理解を深めることは、永久的な損傷をまだ回避し得る間に、介入するより良い早期診断および治療をデザインするために不可欠である。
【0004】
水、電解質および老廃物は尿腔の中に入るが、必須血漿タンパク質は血液中に保持されるように、腎臓フィルターの選択性を保証する特殊構造である糸球体で、腎濾過は起こる。糸球体機能障害の徴候は、蛋白尿またはネフローゼ症候群と呼ばれる尿中への蛋白質損失である(3.5g/日を超える蛋白質損失と定義される)。蛋白尿は多くの場合、最終的に透析または腎移植を必要とする進行性腎不全を来たす。有足細胞は、GBMおよび糸球体内皮細胞と一緒に、腎透過性バリヤーの重要な構成要素を形成する。有足細胞機能は、細胞体、ならびに一次突起および上述した足突起(FP)から成る、複雑な細胞構造に依存する。有足細胞1つのFPは、その近隣のFPと互いに組み合わされており、隣接した足突起間の細胞間隙は、やはり蛋白質損失に対する最終バリヤーの役割をする蛋白質ネフリンで構成されるスリット隔膜により橋渡しされている。このように、有足細胞損傷は、蛋白尿と密接に関連している。
【0005】
有足細胞FPは、それらの膜形態形成ならびに腎臓における濾過バリヤーの確立および維持に不可欠な、精巧で動的なアクチン系細胞骨格を含む(Faulら、2007)。FPは、アクチン、ミオシンII、α−アクチニン、タリン、およびビンキュリンで構成される微小線維系収縮装置を含み、これはインテグリンα3β1複合体により、接着点でGBMに連結されている(Faulら、2007)。FPアクチンは、短い分岐したアクチン線維の、ポドソーム様皮質ネットワーク、およびFPの中心を占めるアクチン:ミオシンコアで構成されるストレスファイバーという、2つの原則型で組織化される(Ichimuraら、2003)。FP構造は、糸球体濾過に不可欠な、一定のアクチン推進形態学的再編成用に合わせて最適化されるようである(Moeller and Holzman 2006)。
【0006】
蛋白尿およびネフローゼ症候群のほとんどの形は、有足細胞表面突起物の減少および有足細胞FPの細胞質帯への変形(すなわち、FP消失)を含む。FP形態の変化は主に、アクチン細胞骨格の再編成によって推進され、これは凝集して有足細胞足突起の足底の太い束になる。多くの蛋白質が、有足細胞細胞骨格編成を、直接または間接的に変化させる。たとえば、遅発型の巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)を引き起こすα−アクチニン−4の変異は、構造アクチン結合蛋白質が有足細胞機能に有用なことを明らかにした(Kaplanら、2000)。スリット隔膜で生じるシグナルは、有足細胞のアクチン細胞骨格に直接影響を及ぼすことができる(Jonesら、2006;Moellerら、2004)。
【0007】
細胞接着斑ターンオーバーは、活性化β1インテグリン類のダイナミン−クラスリン−依存性エンドサイトーシスにより仲介されること、およびダイナミンIIかまたは、クラスリンアダプターAP−2とディスエイブルド−2(DAB2)の両者のいずれかのノックダウンは、障害性接着斑解体および細胞遊走を来たすβ1インテグリンインターナリゼーションをブロックすることが報告されている(Chao and Kunz,2009)。
【0008】
ネフローゼ症候群中のFP消失は、遊走事象である(Reiserら、2004)。培養有足細胞は、細胞遊走に必要なアクチン構造の3つの大範疇:葉状仮足、糸状仮足および収縮性アクチンストレスファイバー全てを含む。培養有足細胞はまた、ネフリン、ポドシン、CD2AP、シナプトポジン、ならびにスリット隔膜の既知成分、たとえばZO−1、P−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、およびγ−カテニン等を含む、有足細胞に特有の、既知の全分化マーカーも発現する(Mundelら、1997;Saleemら、2002)。実際、有足細胞は既知のアクチン結合蛋白質およびアクチン束化蛋白質(たとえば、α−アクチニン4およびシナプトポジン)を研究するために、広く使用されてきた(Asanumaら、2005;Asanumaら、2006)。培養有足細胞における葉状仮足および糸状仮足の形成の基礎となる表層アクチンウェブは、インビボで、EMにより、有足細胞の細胞膜付近で確認される短鎖分岐アクチンウェブに相当すると思われる(Ichimuraら、2003)。同様に、培養有足細胞で確認されるアクチン−ミオシンストレスファイバーは、インビボで、FPの中心を占める非分岐ストレスファイバーに相当する可能性が高い(Ichimuraら、2003)。
【0009】
細胞骨格動力学は多くの場合、低分子GTPアーゼのRhoファミリーにより制御される。細胞の先端で、Rac1およびCdc42は、表層アクチンの形成を介して細胞運動性を増進し、これが次にはそれぞれ葉状仮足および糸状仮足の形成を介して運動性を増進する。対照的に、RhoAは、細胞体での収縮性アクチン−ミオシン−含有ストレスファイバーの形成を増進する。RhoAシグナル伝達は、有足細胞におけるアクチン細胞骨格の制御に際して重要な役割を果たす。このように、有足細胞で発現されるアクチン−結合蛋白質であるシナプトポジン(Mundelら、1997)は、活性RhoAの寿命を延ばすことにより、ストレスファイバー形成を誘発する(Asanumaら、2006)。有足細胞構造および機能に対するRac1およびCdc42シグナル伝達の正確な役割は、あまりよく分かっていない。
【0010】
ネフローゼ症候群の一部のマウスモデルでは、ダイナミンの貯蔵は、足突起消失および蛋白尿の初期段階に対抗するのに十分であることが報告されている(Severら、2007)。ダイナミンは、膜結合性クラスリン被覆小胞を分断する大型GTPアーゼである。クラスリン介在性エンドサイトーシス経路は、活性化受容体のインターナリゼーション、成長因子の隔離、抗原提示、細胞質分裂、シナプス伝達に関与しているため、また様々な病原体の侵入経路として、生物医学研究者にとって特別興味深い。ダイナミンは3つの主要なアイソフォームから成る:ダイナミンI(ニューロン);ダイナミンII(遍在)およびダイナミンIII(ニューロンおよび精巣)(Cousin and Robinson 2001)。全てに共通なものは、5つのドメイン、GTPアーゼドメイン(小胞分裂に必要)、ミドルドメイン(MD、機能不明)、プレクストリン相同ドメイン(PH、ターゲティングドメインおよび潜在的にGTPアーゼ阻害モジュール)、GTPアーゼエフェクタードメイン(GED、環内へのダイナミン自己集合を調節する)、およびプロリンリッチドメイン(SH3ドメインを含む蛋白質と相互に作用し、またインビボでダイナミンIおよびIIIリン酸化のための主部位である、PRD)である。
【0011】
ダイナミンは、細胞膜におけるクラスリン介在性エンドサイトーシスおよびニューロンにおけるシナプス小胞エンドサイトーシスにおけるその役割で、最もよく知られている(Severら、2000b)。ダイナミンは、十分に解明されていない分子メカニズムによるアクチン細胞骨格の調節を含む、追加的役割を果たすことが、多数の研究から示唆される(Schafer 2004)。アクチン細胞骨格の調節におけるダイナミンの役割は、既知のアクチン結合および調節蛋白質たとえばプロフィリン、Nckおよびコルタクチン等との相互作用に起因するとされてきた(Orth and McNiven 2003;Schafer 2004)。過去の研究で、ダイナミンは、有足細胞における機能的FPの形成に不可欠であることも示されている(Severら、2007)。
【0012】
ダイナミンは、他のGTPアーゼと異なる特有の生化学的性質、たとえば高分子量(MW=100kDa)およびGTPに対する異常に低いアフィニティ(Km=約10μM)等を示すダイナミンは、3つの主要な状態−基礎状態、環状または螺旋状−で存在し、またそのGTPアーゼ活性は各状態に遷移するときに段階的に増強する。より詳細には:
a)その「基礎」状態では、ダイナミンは、単量体、二量体およびホモ四量体の間で平衡状態にあり(Muhlbergら、1997)、また約1/分という「基礎」GTPアーゼ速度を有する。
b)ダイナミン二量体または四量体は、約50nmの外径および約30nmの内側開口を有する「環」に似た高次構造へと、さらに自己集合できる(Hinshaw and Schmid,1995)。これは一般に、インビトロで、500nMを超えるダイナミンに生じる。この環は常に閉じているとは限らず、直径は系の間で異なる。環形成は、低塩濃度緩衝液中へのダイナミンの透析によって促進され、約0.5〜1μMという高濃度ダイナミンで起こる。環形成物は、ダイナミンのGTPアーゼ活性を約10倍刺激する(Warnockら、1996)。GTP加水分解の速度上昇は、ダイナミン四量体が集合するときに限って活性になる、ダイナミン内の分子内GTPアーゼ活性化ドメインの活性化に起因する(Severら、1999)。ダイナミン変異体は、環形で長寿命であると予想されると報告されており−dynR725Aは、刺激されたGTP加水分解速度が低下した変異体である(Severら、2000a)。
c)集合鋳型の存在下で、ダイナミンはインビトロで、さらに、「螺旋」へと集合することができる。螺旋集合鋳型としては、リン脂質リポソーム、脂質ナノチューブまたは微小管などがある。その螺旋は、個々の環構造が、バネによく似た非常に細長い螺旋構造へと伸長したと考えられる。螺旋形成物は、ダイナミンのGTPアーゼ活性を100〜1000倍刺激する(Warnockら、1996)。インビトロで、刺激されたGTP加水分解速度は次にはダイナミン解体を推進し、GTP−結合に関して正の協同性を喪失することになる(Severら、2006)。
【0013】
こうした系における細胞エンドサイトーシスを研究するための強力な新しいツールとして、GTPアーゼのダイナミンファミリーに特異的な小分子インヒビターが開発されるにつれて、ダイナミン薬理学という新分野が出現している。小分子ダイナミンインヒビターは幅広い注目を集め、様々な細胞系におけるエンドサイトーシスおよび膜動力学の他の面を研究するために使用されてきた(Maciaら、2006)。こうしたインヒビターは、ダイナミンGTPアーゼ変異体の発現によるか、または急速細胞効果の研究に使用できない低分子干渉RNA(siRNA)−介在性ダイナミンノックダウンによる、細胞におけるダイナミン阻害という従来の手段より優れた多くの明確な利点を提供する。小分子、細胞透過性インヒビターは、数分で速やかにエンドサイトーシスをブロックすることができ、また容易に元に戻せる(Maciaら、2006;Quanら、2007)。
【0014】
最初に報告されたダイナミンインヒビターは、長鎖アンモニウム塩類、たとえばミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド(MiTMAB)、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド(OcTMAB)(Hillら、2004)およびBis−T(Hillら、2005)等の二量体チルホスチン類であった。後に、一連の室温イオン性液体(RTILs)(Zhangら、2008)およびダイナソア(Maciaら、2006)が報告された。最後に、「ダイノール(dynole)類」と呼ばれるインドール系インヒビター類(Hillら、2009)および「イミノジン(iminodyn)類」と呼ばれるイミノクロメン系インヒビター類が報告されている(Hillら、2010)。ダイナミンインヒビター類をスクリーニングする殆どの研究は、ダイナミンが最大限に刺激され、またその螺旋状態である可能性が高い、GTPアーゼアッセイを使用する。これらの各シリーズからの最強のインヒビターの一部は、細胞におけるエンドサイトーシスの強力で可逆的なインヒビターでもある(Quanら、2007;Hillら、2009;Hillら、2010)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
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【非特許文献31】Hill T.A.,Mariana A.,Gordon C.P.,Odell L.R.,McGeachie A.B.,Chau N.,Daniel J.A.,Gorgani N.N.,Robinson P.J.and McCluskey A.(2010)Iminochromene inhibitors of dynamin I & II GTPase activity and endocytosis.J.Med.Chem.In press DOI:10.1021/jm100119c.Published online http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jm100119c
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
概して、本発明は2つの発見に由来する。第1に、ダイナミン調節物質のサブグループは、その多量体化環状態でダイナミンの蓄積を増進し、またダイナミン環解体を遅らせることが判明している。このサブグループ内の化合物は「ダイナミン環安定剤」と呼ばれる。ダイナミン環寿命延長の一つの帰結は、これが、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激することであり、もう一つは、これが線維状アクチン(F−アクチン)の形成を促進することである。第2に、ダイナミンは、ダイナミンミドルドメイン(MD)によってアクチンを直接結合し、有足細胞において、接着斑およびアクチン線維のデノボ形成に直接的な役割を担う、環への多量体化を増進することが判明している。ダイナミン環(ダイナミン螺旋は除外)の刺激は、その既知のエンドサイトーシスの役割とは別の、ダイナミンに対する新しい細胞機能である。ダイナミン環形成および/または寿命の延長には、有足細胞における足突起消失および蛋白尿性腎疾患の予防または治療に特別な用途がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様では、有効量のダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で細胞を処理することを含む、細胞内で、ダイナミン環形成および/またはダイナミン環の維持を増進する方法が提供される。
【0018】
本発明の別の態様では、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩を、それを必要としている個体に投与することを含む、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気を予防または治療するための方法が提供される。
【0019】
本発明の別の態様では、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で有足細胞を処理することを含む、有足細胞機能障害を予防または治療する方法が提供される。
【0020】
一般に、有足細胞機能障害は、足突起消失を特徴とするか、または足突起消失と関連している。
【0021】
本発明の別の態様では、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で細胞を処理することを含む、細胞におけるアクチン細胞骨格形成を維持または誘導する方法が提供される。
【0022】
本発明の別の態様では、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で細胞を処理することを含む、細胞内で、接着斑および/またはアクチンストレスファイバーを誘導する方法が提供される。
【0023】
別の態様では、
被検物質を提供すること;
ダイナミン環の形成に好適な条件で、被検物質をダイナミン蛋白質と共にインキュベートすること;および
被検物質が、ダイナミン環の蓄積を増進しかつ/またはダイナミン環の解体を抑制するかどうか、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を増強するダイナミン環の蓄積および/またはダイナミン環の解体の抑制を評価すること;
を含む、ダイナミン環安定剤として使用するための被検物質をスクリーニングする方法が提供される。
【0024】
被検物質がダイナミン環の蓄積を増進するかまたはダイナミン環の解体を抑制するかどうかの評価は、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の増加をアッセイすること、および/またはダイナミン環解体を示すダイナミンの放出をアッセイすることを含むことができる。
【0025】
本発明の別の態様では、細胞でのダイナミン環形成および/またはダイナミン環の維持を増進するために使用するための、ダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩が提供される。
【0026】
本発明の別の態様では、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気の予防または治療に使用するための、少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩が提供される。
【0027】
本発明の別の態様では、必要としている個体の細胞内でダイナミン環形成を増進するためおよび/またはダイナミン環を維持するための薬剤の製造において、少なくとも1つのダイナミン環安定剤あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用が提供される。
【0028】
本発明のまた別の態様では、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気を予防または治療するための薬剤の製造において、少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用が提供される。
【0029】
本発明の実施態様で使用されるダイナミン環安定剤は、ダイナミン環の、集合を増進するかまたは解体を抑制する、任意の化合物であってもよい。抑制はダイナミン環解体の遅延または防止であってもよい。
【0030】
本明細書で使用されるとき、用語「ダイナミン環」は多量体化したダイナミン単位の環を意味する。環は、閉環であってもよく、単回転のダイナミン螺旋(螺旋状ダイナミン)であってもよい。
【0031】
本明細書で使用されるとき、用語「ダイナミン環安定剤」は、ダイナミンと相互に作用して、その周囲でダイナミン螺旋が生じる集合鋳型(たとえば、微小管、リン脂質小胞および/またはナノチューブ)の非存在下で、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激する薬剤を意味する。ダイナミン環安定剤は、ダイナミン環集合を増進しかつ/またはダイナミン環解体を抑制し、その両方がダイナミン環の蓄積をもたらしかつ/または基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の増強をもたらすことが可能である。したがって、ダイナミン環集合を増進しかつ/またはダイナミン環解体を抑制する薬剤は、本発明との関係において、用語「ダイナミン環安定剤」に包含される。一般に、ダイナミン環安定剤は、ダイナミン環解体を抑制する薬剤になろう。
【0032】
ダイナミン環安定剤による基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の刺激は、最大限に活性な螺旋状ダイナミンと関連したレベル未満までであり、最大限の活性は、集合鋳型の存在下で達成される。
【0033】
ダイナミン環安定剤とダイナミンとの相互作用は、ダイナミン環安定剤のダイナミンへの結合であってもよく、あるいはダイナミン環安定剤とダイナミンとの直接的または間接的協同によってもよい。ダイナミンが、その螺旋状態であるとき、ダイナミン環安定剤は、その螺旋内の個々のダイナミン環のGTPアーゼ活性を上昇させることが可能であるが、ダイナミン環間の協同的相互作用により達成されるものより低いレベルまでである。
【0034】
最も典型的には、本発明により具体的に例示される方法で使用されるダイナミン環安定剤は、最大限まで刺激された螺旋状ダイナミンのGTPアーゼ活性のインヒビターである。同様に、ダイナミン環安定剤としての使用に関してスクリーニングされる被検物質は、螺旋状ダイナミンのGTPアーゼ活性のインヒビターであってもよい。しかし、上述から、ダイナミン環安定剤はダイナミン環解体のインヒビターである必要はなく、さらに、螺旋状ダイナミンGTPアーゼ活性のインヒビターである必要はないことが理解されるであろう。
【0035】
ダイナミン環安定剤と相互作用するダイナミンおよび/またはダイナミン環が形成される基であるダイナミンは、ダイナミンI(dynI)、ダイナミンII(dynII)、ダイナミンIII(dynIII)、およびダイナミンアイソフォーム、および前述の混合物から選択されてもよい。
【0036】
本発明の特徴および利点は、以下の非限定的実施態様の詳細な説明と添付図面から、さらに明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
添付図面の簡単な説明
【図1】二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチンBis−T−23は、脂質刺激されたダイナミンを阻害するが、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激することを示すグラフである。
【図2】同一Bis−T−23濃度で生じるダイナミンの阻害および活性化を示すグラフである。
【図3】「ラグ相」後に生じる、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性のBis−T−23(5μM)刺激を示すグラフである。
【図4】全長ダイナミンI(200nM、他の既知の活性化剤、たとえばPSリポソーム等は存在しなかった)の、基礎的GTPアーゼ活性を刺激した際の、3つのイミノジンの相対的効力を示すグラフである。化合物は表示された濃度で存在し、最大半量の刺激を引き起こす濃度をEC50として示す。
【図5】GEDドメインの小部分に連結したGTPアーゼドメインのみを含む、GG2として知られる切断型ダイナミンI構築物の基礎的GTPアーゼ活性を示すグラフである(Chappieら、2009)。全長ダイナミンとは違って、この構築物は、自己集合または環形成ができないことが分かっている。Bis−T−22およびBis−T−23ならびにイミノジン−22は、この集合不全構築物の基礎的活性に影響を及ぼさない。
【図6】高濃度のBis−T−22[dyn](520nM)が、ダイナミン環自己集合を増進することを示す図である。
【図7】Bis−T−23がダイナミン解体を防止することを示す図である。
【図8】(A)〜(D)は、インビトロで、Bis−T−23が、PSリポソーム上でのダイナミンの構築または螺旋伸長を防止することを示す電子顕微鏡写真である。Bis−T−23は、ダイナミン螺旋を安定化し、ダイナミン螺旋はその柔軟性を失って均一直径の環を形成し、ダイナミン環解体を抑制する。
【図9】鋳型の非存在下で、精製全長ダイナミンIをBis−T−23処理したときの影響を示す図である。次いで、ダイナミンを電子顕微鏡法で検査した。ダイナミン環は、Bis−T−23(5.4μM、A)により明確に誘導される。この環は、真正ダイナミン環(B)である。定量分析は、真正環の6倍増加を示す(C)。
【図10】培養ヒトリンパ芽細胞(A)でも、ラット脳シナプトソーム(B)でも、Bis−T−22(100μM、30分間)が、異常に長いネックを有しかつ環で囲まれたクラスリン被覆ピットを細胞で誘導することを示す図である。
【図11】(A)は、Bis−T−23および2つの「ディンゴ(dyngo)」シリーズのダイナミンインヒビターが、ダイナミン環安定剤であることを示すグラフである。ディンゴ−7aは、ダイナソアとしても知られる。ダイナミンI(50nM)GTPアーゼ刺激は、界面活性剤トゥイン(Tween)−80の非存在下(かつPSリポソーム類、ナノチューブ類または微小管等の、あらゆる既知の活性化剤の非存在下)で実施した。対照的に、強力なダイナミンインヒビターであるダイノール34−2は、こうした条件で基礎的ダイナミン活性を刺激しない。(B)は、様々な強力なダイナミンインヒビターが、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の活性化剤であることを示すグラフである(Bis−Tシリーズの化合物は10μMの濃度で使用し、他の化合物は全て30μMの濃度で使用した)。試験した化合物は全て、300nM〜3μMの間で、ホスファチジルセリン(PS)−刺激ダイナミンを阻害した(データ示さず)。ダイナミンI(dynI;200nM)のGTPアーゼ活性を、脂質活性化剤の非存在下(かつ0.06%の標準トゥイン−80の存在下)で測定した。
【図12】高速遠心分離を受けてF−アクチンが沈殿する標準共沈降法を使用した、直接ダイナミン−アクチン相互作用の検出を示す図である。
【図13】ダイナミンII(dyn2)(スプライスバリアントaおよびb)(配列番号1および配列番号2)、ダイナミンI(dyn1)(スプライスバリアントaおよびb)(配列番号3および配列番号4)、ドロソフィラ(Drosophila)(Shi)(配列番号5)、シー・エレガンス(C.elegans)(Cele)(配列番号6)、酵母菌(Vps1)(配列番号7)、Dnm1(配列番号8)、「機能喪失」変異体DynK/E(配列番号9)およびDynK/A(配列番号10)、ならびに「機能獲得」変異体DynE/K(配列番号11)の間のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。Dnm1は、ミトコンドリアの形態形成に関与するダイナミンファミリーメンバーである。
【図14】ダイナミンとF−アクチンの直接相互作用のスキャッチャードプロットである。漸増濃度のダイナミン(遊離)を、5μMのF−アクチンに加えた。100,000×gで遠心分離した後、蛋白質をSDS−PAGEで分離し、濃度測定を使用してバンドを分析した。
【図15】A〜Eは、ダイナミン−アクチン相互作用が、有足細胞におけるアクチン細胞骨格の組織化に不可欠であることを図解する写真である。表示通りに、有足細胞をダイナミン変異体発現ウイルスに感染させた。アクチン細胞骨格は、dynE/KおよびdynR725Aを発現している細胞で大幅に増加するようである。
【図16】GTPγSの存在下で、細い線維束に集合したダイナミン環架橋アクチン線維を示す図である。アクチン線維は、ネガティブ染色および電子顕微鏡法を使用して可視化した。矢は、束化線維に沿ったダイナミン環の方向を指す。
【図17】ダイナミン環が、アクチン重合を増進することを示すグラフである。100μM GTPγSを含むまたは含まない、0.1μMダイナミンの非存在下および存在下で、0.33μMのGsnーアクチン複合体(G1:200AまたはG1:1000A)をインキュベートするときの、アクチンの再重合の代表的な経時変化。
【図18】二量体のベンジリデンマロニトリルチルホスチンBis−T−22が、ダイナミンの基礎的GTP加水分解速度を刺激することを示すグラフである。ショットゲルソリンキャップ化F−アクチンもまた、ダイナミンの基礎的GTP加水分解速度を刺激する。7μM Bis−T−22無しまたは有りで、また10μM Gsn−F−アクチン複合体有りまたは無しで、インキュベートした0.2μM dyn1の基礎的GTP加水分解に関する経時変化。Bis−T−22およびGsn−F−アクチンの影響は、少なくとも相加的である。
【図19】有足細胞におけるアクチン細胞骨格に及ぼすBis−T−23の影響を示す写真である。F−アクチン(左欄)および抗−パキシリンモノクローナル抗体(中央欄)にローダミン−ファロイジンを使用して、細胞を染色した。混合染色を右欄に示す。アクチン細胞骨格および接着斑は、Bis−T−23処理細胞およびダイナミン変異体、dynE/KおよびdynR725Aを発現する細胞で、その数および量が大幅に増加した。
【図20】コントロールマウスおよび「機能獲得」α−アクチニン4変異体蛋白質発現マウスに、Bis−T−23(100μg/100g体重)を腹腔内注射したことを示すグラフである。マウスアルブミン特異的ELISAおよび尿中クレアチニン定量用キット(Creatinine Companion assay kits)(Exocell and Bethyl Laboratories)を使用し、製造業者のプロトコールに従って、蛋白尿を測定した。薬物投与後6時間まで、野生型レベルまでの蛋白尿減少が得られた。
【図21】リポ多糖(LPS)処理マウスで、環安定剤Bis−T−23が、蛋白尿を救助することを示すグラフである。LPSは、蛋白尿性腎疾患用モデルである。マウス6匹で、事前(Con)、LPS注射(2×LPS)後24時間、ならびにBis−T−23(白抜きの棒)またはDMSO(送達液、灰色の棒)の投与後2、4、6および8時間に、アルブミンレベルを測定した。この環安定剤の単一用量投与後2〜8時間に、蛋白尿の減少が認められた。
【発明を実施するための形態】
【0038】
二重特異性ダイナミン調節物質のサブグループは、ダイナミンインヒビターのより広いグループの中に存在することが判明している。このサブグループ内の化合物は、ダイナミン環解体を抑制し、それによってダイナミン環の寿命を延長しまたダイナミン環蓄積を増進するので、「ダイナミン環安定剤」である。このことは、GTP加水分解がダイナミン解体を推進することが知られている(Severら、2006)ということと一致する。しかし、こうした化合物は、螺旋状ダイナミンの強大なGTPアーゼ活性を低下させるが、個々のダイナミン環の基礎的GTPアーゼ活性を同時に増強することができる。
【0039】
ダイナミン環は、一回転の多量体化ダイナミンであるか、または螺旋状ダイナミン(ダイナミン螺旋)の場合には、一回転の螺旋である。ダイナミン環は、インビトロで最初に観察された(Hinshaw and Schmid.1995)。ダイナミン環は一般に、外径およそ50nmおよび内径約30nmを有し、環は開いていても閉じていてもよい。螺旋状ダイナミンはまた、ダイナミン螺旋、ナノスプリング、渦巻きまたは「環の積み重ね」としても知られる(Stowellら、1999)。低温電子顕微鏡法から、ダイナミン環サイズは柔軟性があり、13〜15の非対称の反復ダイナミン単位を含んでもよいことが分かり、螺旋状ダイナミンの単環は、26〜30のダイナミン分子(ダイナミン単位)を含むことが示唆される(Zhang and Hinshaw.2001)。しかし、環の直径は柔軟性があるため、これらの数は一定ではない。
【0040】
本発明により具体的に例示される方法で有用なダイナミン環安定剤は、以下にさらに記述する通り、たとえば、螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビター類、単量体チルホスチン類、二量体チルホスチン類および特に二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類、イミノクロメン類、3−置換ナフタレン−2−カルボン酸(ベンジリデン)ヒドラジド類、ポリペプチド類およびペプチド類からなる群から選択されてもよい。
【0041】
本発明の実施態様の通り、ダイナミン環安定剤として利用することが可能な、好適な二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類(Bis−T)および関連化合物は、国際特許出願第PCT/AU2004/001624号明細書(国際公開第2005/049009号パンフレット)およびHillら、2005に記載されており、その内容全体を本願明細書に援用する。
【0042】
ビス−チルホスチン−22(Bis−T−22)は、そのような二量体チルホスチンの1つであり、ダイナミンがホスファチジルセリン(PS)リポソームによって活性化されて、柔軟性の螺旋へと集合するとき、ダイナミンの強力なインビトロインヒビターである。PSリポソームの非存在下では、ダイナミンは単環に集合できるにすぎない。意外なことに、Bis−T−22は、螺旋状ダイナミンの活性を抑制するが、独自に、ダイナミン環の解体を防止することにより、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を同時に刺激する。Bis−T−22の構造を以下に示す。Bis−Tは、Bis−T−22と同じ構造を有するが、各末端フェニル基のC5炭素原子上にさらなるヒドロキシル置換基を有する。
【化1】
【0043】
ダイナミン環安定剤として有用な、特に好適な二量体チルホスチンとしては、少なくとも1つの末端フェニル環のC3−C5炭素原子のうち2個が、好ましくはカテコール配置で、ヒドロキシル(OH)置換基を有する(たとえば、Bis−T−22などの場合)か、または炭素原子の3個全部がヒドロキシルで置換されている(たとえば、Bis−T−23などの場合)、Bis−T化合物などが挙げられる。例としては、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−エチル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−エチル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−エチル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−プロピル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド(Bis−T−22)、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−プロピル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド(Bis−T−23)、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−プロピル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ブチル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ブチル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ブチル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ペンチル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ペンチル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ペンチル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ヘキシル}−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ヘキシル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド、および2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−ヘキシル}−3−(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−アクリルアミドなどが挙げられる。
【0044】
さらなるダイナミン環安定剤としては、Bis−T化合物の少なくとも1つの末端フェニル環のC2炭素原子上でかつ隣接したシアニル基(CN)によって占められている位置の置換基が、国際公開第2005/049009号パンフレットに記載の通りに環化されているものなどが挙げられる。たとえば、置換基がヒドロキシであるとき、そのヒドロキシ基は以下の通りにシアニル基と反応してイミノクロメンを形成することができる:
【化2】
ここで、たとえば、R1はOHであり、R2はOHであり、R3はHである;R1はHであり、R2はOHであり、R3はOHであるか;またはR1、R2およびR3はOHである;かつnは通常、0、1、2または3であり、たいていは1である。本発明の実施態様で有用なイミノクロメン類のさらなる例を、以下に記述する(表2参照)。環酸素原子の少なくとも1つおよび/またはNH基の少なくとも1つおよび/または化合物の骨格酸素原子が、生物学的等価置換を受ける、上述のようなBis−Tの類縁体またはイミノクロメン化合物も、使用することが可能である(たとえば、Lima and Barreiro.2005を参照されたく、相互参照によりその内容全体を本願明細書に援用する)。
【0045】
加えて、上記二量体化合物の非対称類縁体を使用してもよい。例としては、Odellら、2009により記述されている二量体チルホスチン類の非対称アジドおよびジアザリニル類縁体などが挙げられる。さらに、上に例示された二量体チルホスチンの単量体チルホスチン類縁体を使用することができる。しかし、こうしたチルホスチン類の場合、それらはGTPアーゼインヒビターではない(たとえば、Hillら、2005参照)。
【0046】
ダイナミン環安定剤のまたさらなる例としては、3−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)ヒドラジド(ダイナソア)およびそれらの類縁体などが挙げられる。ダイナソアの構造は下記の通りである。
【化3】
【0047】
ダイナソアは、蛋白質grb2を含有するSH3ドメインで活性化された組換え型ダイナミンIを使用する、ライブラリスクリーニングで発見された(Maciaら、2006)。ダイナソアの構造は、Bis−T−22の末端フェニル環周囲のヒドロキシルの位置および数が、その化合物のダイナミン抑制能力に著しく寄与することが判明した、Bis−T−22の構造に一見類似している。ダイナソアと比較して改良されたダイナミン抑制能力を示すことが判明した、ダイナソアのさらなる3−置換ナフタレン−2−カルボン酸(ベンジリデン)ヒドラジド類縁体(本明細書でディンゴ化合物と名づけられた)の例を、表1に示す。ディンゴ化合物は各々、下記のスキーム1に図解する通り(他の合成方法を利用できるが、たとえば、丸底フラスコ内で、試薬をエタノール(たとえば、10ml)中で混合し、その混合物を2時間還流させ、冷却させて真空内で溶媒を除去してから、生成物をエタノールから再結晶化することにより)、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジドと、集中ライブラリを提供する様々なヒドロキシル置換ベンズアルデヒド類とをカップリングする単純な一段階縮合反応により合成した。特に、表1は、各ディンゴ化合物の構造、その分子量(MW)およびトウィン80の存在下または非存在下でPSリポソーム類により刺激された天然の脳ダイナミンI GTPアーゼ活性の阻害に関するIC50を示す。
【化4】
【0048】
【表1】
【0049】
本明細書に記載されているようなダイナミンの基礎的活性を刺激したり、ダイナミン環の解体を阻害したりするダイナミン環安定剤は一般に、Bis−T−22およびBis−T−23にあるような、フェニル環の連続した炭素原子の3つのうち少なくとも2つの上にヒドロキシル置換基がある末端フェニル基を有する。しかし、上に例示された二量体チルホスチン、イミノクロメンおよびディンゴ類縁体の末端フェニル基はヒドロキシル基で置換されているが、当業者は、こうしたヒドロキシル類の1つまたは複数を、生物学的等価置換(たとえば−NH2基あるいはF、Cl、BrまたはI等のハロ原子等々であるがその限りではない)に付してもよいことを理解するであろう。同様に、当業者はまた、上述の二量体ベンジリデンマロニトリルトリホスチン、イミノクロメン、単量体チルホスチン、ダイナソアおよびディンゴ化合物に、その化合物のダイナミン環安定化活性が保持または増強されるように、また任意のそのような類縁体およびそれらの変形が本明細書に記載の方法で使用できるように、他の変化を加えてもよいことも認識するであろう。修飾の例としては、1つまたは複数の骨格環炭素原子のヘテロ原子(たとえば、O、NおよびSから独立に選択される)置換および/またはこうした環系への他の修飾等が挙げられるが、その限りではない。上に例示したディンゴ化合物のナフタレン基は特にこのような修飾および/または生物学的等価置換の影響を受けやすく、本発明により具体的に例示される方法で有用な、多数の修飾されたそのような化合物が可能である。上述のような修飾および生物学的等価置換は、十分に当業者の範囲内であり(たとえば、Lima and Barreiro.2005参照)、全てが本発明に明確に包含される。事実、任意の好適な生理学的に許容できるダイナミン環安定剤を使用することができる。本明細書で使用するのにさらに好適なそのような化合物は、化合物および組合せライブラリのスクリーニングにより同定することが可能であり、そのようなスクリーニングは十分に受取人の範囲内である。
【0050】
本発明の実施態様に従ってダイナミン環安定剤として使用することが可能な、好適なイミノクロメン類(本明細書で「イミノジン類」と呼ばれる)および関連化合物は、Hillら、2010に記述されており、その内容全体を相互参照により本明細書に援用する。
【0051】
ダイナミンがホスファチジルセリン(PS)リポソームで活性化されて柔軟性の螺旋へと集合するとき、イミノジン−22は、そのようなイミノクロメンの1つであり、ダイナミンの強力なインビトロインヒビターである。イミノジン−22は、螺旋状ダイナミンの活性を抑制するが、ダイナミン環の解体を防止することにより、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を同時に刺激もする。イミノジン−22の構造を以下に示す。
【化5】
【0052】
イミノジン類の合成経路を以下のスキーム2に示す。
【化6】
【0053】
イミノクロメンの構造はBis−T−22の構造と異なるが、末端フェニル環周囲のヒドロキシルの位置および数は、その化合物のダイナミン抑制能力に大いに寄与する。イミノクロメンのさらなる類縁体の例を、表2に示す。表は、各化合物の構造、PSリポソームにより刺激された天然の脳ダイナミンI(20nM)GTPアーゼ活性の阻害に関する、そのIC50を示す。表はまた、リポソームの非存在下での、基礎的ダイナミンI(200nM)GTPアーゼ活性の刺激も示す。
【0054】
【表2】
【0055】
別の形態では、ダイナミン環安定剤は、ダイナミン環安定化活性を有する、ペプチド、ポリペプチドまたはそれらの活性な断片または変形であってもよい。一般に、本明細書に記載のようなダイナミン環安定剤は、ダイナミンまたはその断片の野生型または変形以外である。使用することが可能なポリペプチド類またはペプチド類の例としては、ダイナミン環の形成を増進/刺激し、それによって本発明の関連でダイナミン環安定剤の役割を果たす、ダイナミンアイソフォームの1つまたは複数あるいはダイナミン環をアクチン結合ドメインに提供する、アクチン(特にF−アクチン)、そのアイソフォームおよび/または断片などが挙げられる。さらに、ダイナミンと相互作用するその/それらの能力に実質的に悪影響を及ぼさずに本明細書に記載のようなダイナミン環の蓄積を増進する、野生型アクチン、そのアイソフォームおよび断片と比較して1つまたは複数のアミノ酸が付加、置換または削除された、変形を提供することが可能であり、また全てのそのような変形の使用も明確に包含される。
【0056】
本発明の方法で使用するのに好適な蛋白質性化学物質を同定する方策としては、大規模スクリーニング技術などがある。たとえば、ファージディスプレイライブラリプロトコールは、多数の潜在的な化学物質をスクリーニングする効率の良い方法を提供する。使用されるライブラリは、使用される関連ファージのコート蛋白質に融合した無作為化ペプチド配列を発現するペプチドディスプレイライブラリ、または抗体の可変領域(たとえば、Fv断片)を表示するライブラリであってもよい。ダイナミンに結合するファージを回収して、宿主細菌の感染により増幅することができる。この方法で単離される各クローンは、特異的ペプチドまたは抗原結合粒子を発現する。ペプチドまたは抗原結合粒子をコード化する遺伝子は、各ファージに特有であり、また選択されたファージクローンのDNAを回収すること、そのDNAを配列決定すること、および得られた配列を、ペプチドまたは抗原結合分子を発現するファージコート蛋白質の既知の配列と比較することにより、同定することができる。同定されたDNAを次には、当該技術分野で周知の組換え技術を用いて、コード化蛋白質性化学物質の発現に使用するかまたは他のこのような化学物質を提供するように修飾することができる。
【0057】
化合物(ダイナミンインヒビターであろうとなかろうと)は、ダイナミン環の蓄積を増進しかつ/またはダイナミン環の解体を抑制する能力を分析することにより、ダイナミン環安定剤として同定することができる。これは主として、ダイナミン環が自発的に生じない条件下で、被検物質を全長ダイナミンと共にインキュベートすること、およびコントロールと比較してダイナミン環の形成または蓄積を示すレベルまでの基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性の増強に関して分析することによって決定することができる。ダイナミンまたはダイナミン環のGTPアーゼ活性は、任意の従来既知の方法で測定することができる(たとえば、Quan and Robinson.2005参照)。このような条件としては:(a)リポソーム類、微小管類または脂質ナノチューブ類等の螺旋集合鋳型がないこと、および(b)鋳型刺激活性の検出に通常必要なものより高濃度のダイナミン、一般に、1〜20nMの代わりに50〜500nMのダイナミン、などが挙げられる。このように、環安定剤活性は、他の刺激因子(たとえばPSリポソーム類、微小管類またはナノチューブ類)の非存在下で全長ダイナミンのGTPアーゼ活性を刺激する能力により同定することができる。追加の決定的な特徴を利用できるが、第1条件が満たされているのであれば不可欠ではない。環安定剤活性のその様な追加的特徴は、インビトロで、刺激された活性が、即時活性化というよりむしろ数分のラグ相後に生じることである。もう一つの特徴は、自己集合できない環安定剤、たとえば変異体ダイナミンまたはGTPアーゼドメインおよびGEDドメインの断片のみを含む構築物(たとえば、GG2またはGG5;Chappieら、2009)等は、ダイナミン構築物の活性を刺激できないことである。環安定剤活性のまた別の特徴は、自発的に環を形成しないダイナミン濃度で、その化合物が、電子顕微鏡法で検出されるダイナミン環の形成を増進する能力である。そのような条件は、ダイナミン環安定剤を添加しなければ自己集合が起こることが知られているより高濃度を除き、鋳型の非存在下で、50〜200nMダイナミンを使用することを一般に意味する。
【0058】
環安定剤活性のインセル指標は、培養した有足細胞またはNIH3T3細胞に化合物を適用した後の、アクチンストレスファイバーおよび接着斑の誘導である。有足細胞足突起の誘導もまた、ダイナミン環の蓄積および/またはダイナミン環解体の抑制の指標として評価できる。
【0059】
ペプチドまたはポリペプチドダイナミン環安定剤は、D−アミノ酸(類)を含んでもよくかつ/または蛋白質消化に対してC−末端保護および/またはN−末端保護(たとえば、ポリエチレングリコール(PEG)で「ペグ化」)されていてもよい。さらに、エネルギー非依存的様式で、細胞膜を越えてカーゴ分子を送達する能力を有するキャリアペプチド等の、ペプチド/ポリペプチド安定剤が、外細胞/細胞膜を越えて細胞の細胞質中に移動または転位するのを促進するために、ペプチドまたはポリペプチドダイナミン環安定剤を「促進剤部分」に結合することができる。当該技術分野で周知のキャリアペプチドとしては、ペネトラチンおよびその異型または断片、ヒト免疫不全ウイルスTat由来ペプチド、トランスポータン由来ペプチド、付着したペプチドまたは他の薬剤を細胞内に送達するために外細胞膜を越えて通過する能力を保持するシグナルペプチドおよびその断片などが挙げられる。促進剤部分は、キャリアペプチドというよりむしろ、細胞膜を越えるペプチド/ポリペプチドの通過が達成されるような、脂質部分またはダイナミン環安定剤の細胞膜溶解性を増強する他の非ペプチド部分であってもよい。脂質部分は、たとえば、混合トリグリセリド類を含む、トリグリセリド類から選択されてもよい。脂肪酸および特に、飽和C16〜C20脂肪酸も使用することが可能である(たとえば、ステアリン酸)。ペプチドまたはポリペプチドダイナミン環安定剤を、任意の従来既知の様式で、促進剤部分に連結することができる。たとえば、ペプチドまたはポリペプチドは、架橋試薬を使用するペプチド結合または非ペプチド共有結合により、アミノ酸リンカー配列を介して、キャリアペプチドに直接連結することができる。さらに、化学的連結方法を使用して、キャリアペプチドのカルボキシ末端アミノ酸またはリンカー配列と、ペプチドまたはポリペプチドダイナミン環安定剤との間に共有結合を作ってもよい。
【0060】
本明細書に記載の細胞における接着斑の誘導は、結果として生じる隣接細胞との細胞間相互作用の増加により、細胞を動けなくする可能性がある。同様に、有足細胞または他の細胞における接着斑の誘導は、癌(癌細胞転移を抑制することによる)、および細胞接着斑の誘導に反応する他の疾患または病気の予防または治療にも用途がある。
【0061】
本明細書に記載の通り、細胞内のダイナミン環の形成および/またはダイナミン環の維持を増進するために、任意の好適な細胞をダイナミン環安定剤、あるいはそのプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で処理することができる。本発明のこの態様の実施態様は、細胞におけるダイナミン環の形成および/またはダイナミン環の維持を達成するために、ダイナミン環安定剤(あるいはそのプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩)を選択することを含んでもよい。たとえば、有足細胞におけるダイナミン環の増進および/または維持は、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気の予防または治療に特別な用途がある。
【0062】
本発明の実施態様に従ってダイナミン環安定剤が投与される、蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気は、ネフローゼ症候群、慢性腎疾患、糸球体疾患、糸球体機能障害、感染後糸球体腎炎およびメサンギウム増殖性糸球体腎炎を含む糸球体腎炎、糖尿病性腎症およびHIV関連腎症を含む腎症、有足細胞損傷および有足細胞傷害を含む有足細胞機能障害、ポドサイトパシー、有足細胞足突起消失、びまん性メサンギウム硬化症、先天性ネフローゼ症候群(たとえば、フィンランド型(CNSF)の)、アルポート症候群および異型(アルポート(Alport+)、微小変化型疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、崩壊性糸球体腎症、免疫および炎症性糸球体腎症、高血圧性腎症、および加齢性糸球体腎症からなる群から選択され得るが、その限りではない。
【0063】
本発明により具体的に例示される方法で治療される個体は、たとえば、ウシ、ブタ、ヒツジまたはウマファミリーのメンバーであってもよく、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ネコまたはイヌ等の研究室実験動物、あるいは霊長類または人類であってもよい。一般に、哺乳動物は人類であろう。
【0064】
好適な薬学的に許容できる塩類としては、合理的な便益/リスク比の範囲内であり、過度の毒性、刺激またはアレルギー反応のない、薬理学的に有効でかつ動物組織との接触に好適な、酸およびアミノ酸付加塩類、塩基付加塩類、エステル類およびアミド類などがある。代表的な酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、シュウ酸塩およびホウ酸塩などがある。代表的な塩基付加塩としては、アンモニウム、カリウム、ナトリウムおよび水酸化第4級アンモニウムから誘導されるものなどがある。塩類は、アルカリ金属およびアルカリ土類陽イオン類たとえばナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよびカリウム、ならびにアンモニウムおよびアミン陽イオン類を含んでもよい。このような塩類の提供は、熟練した受取人に周知である。好適な医薬用塩類は、たとえばS.M Berge et al,J.Pharmaceutical Sciences(1997),66:1−19に例示されており、その内容全体を相互参照により本明細書に援用する。
【0065】
本発明の化合物のプロドラッグは、炭酸塩類、カルバミン酸塩類、アミド類およびアルキルエステル類から選択される基が、化合物の遊離アミノ、アミド、ヒドロキシまたはカルボキシル基に共有結合されているものを含む。好適なプロドラッグは、リン−酸素結合を介して、遊離のヒドロキシルまたは他の好適な基に結合した、リン酸塩誘導体たとえば酸類、酸類の塩類、エステル類も含む。プロドラッグは、たとえば、投与された時、不活性であってもよいが、投与後、結合の開裂または加水分解または他の形の結合修飾の結果として、ダイナミン環安定剤へとインビボ修飾を受ける。活性化合物のプロドラッグ形は、活性化合物より大きい細胞膜透過性を有し、それによって活性化合物の効力を増強する。化合物の細胞への最適利用および全身投与に合ったプロドラッグの細胞膜透過性が維持されるようなプロドラッグをデザインして、細胞外プロドラッグの早期インビボ加水分解を最小限に抑えることもできる。
【0066】
エステル化プロドラッグは、たとえば、ジメチルアミノピリジン(DMAP)等の好適な触媒存在下、ピリジン/N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液中で、本発明により具体的に例示される化合物を、好適な無水物または酸塩化物(モル過剰で)と撹拌することにより提供することが可能である。場合によっては、反応を完了させるために、溶液を還流することが必要である。反応の完了時に、再結晶かまたはクロマトグラフィーのいずれかにより、エステル化生成物を精製する。代表的なエステル類としては、C1〜C7アルキル、フェニルおよびフェニル(C1〜6)アルキルエステル類などがある。好ましいエステル類としては、メチルエステル類などがある。好適なプロドラッグ群の例を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
たとえば、Bis−T−22およびその類縁体のプロドラッグは、細胞膜透過性を増大し、それにより細胞における効力を増大するために開発された。二量体チルホスチン化合物のプロドラッグの提供に好適な反応を、スキーム3に図解する。Bis−T−22は、出発試薬として例示されている。たとえばジメチルアミノピリジン(DMAP)等の好適な触媒の存在下、ピリジン/N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液中で、二量体チルホスチン化合物を、好適な無水物または酸塩化物(モル過剰で)と共に撹拌する。場合によっては、反応を完了させるために、溶液を還流することが必要である。反応の完了時に、再結晶かまたはクロマトグラフィーのいずれかにより、エステル化生成物を精製する。開発された格別の二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチンプロドラッグを、表4および表5に示す。
【化7】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
ダイナミン環安定剤は、そのような治療を必要としている個体に単独で投与してもよく、あるいは1つまたは複数の他の治療用化合物あるいは蛋白尿性腎疾患関連の症状を治療または軽減するために従来使用されている薬剤と併用投与してもよい。「併用投与」により、同一経路または異なる経路による、同一製剤中または2つの異なる製剤中の薬物の同時投与、あるいは同一経路または異なる経路による逐次投与を意味し、その場合、薬物は重複する治療ウインドウで作用する。
【0072】
ダイナミン環安定剤は一般に、安定剤および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物へと配合される。注射液は一般に、溶液を濾過で滅菌する前に、選択された担体に安定剤を組み入れることにより調製される。経口投与用には、ダイナミン環安定剤を、好適と思われる任意の経口的に許容できる担体に配合することができる。特に、ダイナミン環安定剤は、不活性希釈剤、同化可能な食用担体と配合してもよく、あるいはハードシェルゼラチンカプセルまたはソフトシェルゼラチンカプセルに封入してもよい。さらに、ダイナミン環安定剤は、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤またはシロップ剤の形で提供することができる。
【0073】
本明細書に記載の医薬組成物はまた、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、およびソルビン酸等の、1つまたは複数の保存料も組み入れることができる。加えて、組成物の持続的吸収は、モノステアリン酸アルミニウム等の吸収を遅らせるための化学物質を含めることによってもたらすことが可能である。錠剤、トローチ剤、ピル、カプセル剤等々はまた、トラガカントガム、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチン等のバインダー、コーンスターチ、馬鈴薯デンプンまたはアルギン酸等の崩壊剤、潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリン等の甘味料、香味料の1つまたは複数を含有してもよく、また胃の酸性環境を通って小腸内に移行するのを容易にするために、腸溶コーティングが提供されてもよい。
【0074】
薬学的に許容できる担体としては、任意の好適な従来既知の生理学的に許容できる溶媒、分散媒、等張製剤、およびたとえば生理食塩水を含む等張液などがある。薬学的に活性な物質のための、そのような成分および媒体の使用は周知である。任意の従来の媒体または化学物質が模倣剤と不適合でない限り、その使用は明らかに包含される。投与の容易さおよび薬用量の一様性のために、薬用量単位形で組成物を製剤することが特に好ましい。薬用量単位形は、本明細書で使用されるとき、治療効果または予防効果を提供するように計算された所定量のダイナミン環安定剤をそれぞれ含有する、物理的不連続単位を意味すると理解すべきである。薬用量単位形がカプセル剤であるとき、そのカプセル剤は液体担体中に有効成分を含むことができる。コーティングとして、あるいは薬用量単位の物理的形状を別の方法で修飾するために、様々な他の成分が存在してもよい。
【0075】
本発明により具体的に例示される医薬組成物は概して、組成物の少なくとも約0.1重量%から最高約80% w/wのダイナミン環安定剤を含む。組成物中のダイナミン環安定剤の量は、提案された投与方法を考慮して、好適な有効薬用量が個体に送達されるものになる。好ましい経口組成物は、約0.1μg〜4000mgの安定剤を含有する。
【0076】
ダイナミン環安定剤の薬用量は、予防的使用のために投与されるのか治療的使用のために投与されるのか、有効成分を投与しようとする疾病または病気、病気の重症度、個体の年令、一般に認められた医学原理に従って決定されるような個体の体重および全体的健康を含む関連因子、を含む多数の因子に左右されるであろう。たとえば、低薬用量が最初に投与され、その後、個々の応答の評価に従って、各投与時に増加される。同様に、同じ方法で、すなわち各薬用量間で、個体の応答を連続的にモニタリングし、また必要があれば、投与頻度を増加するか、あるいは投与頻度を減らすことにより、投与頻度を決定することができる。
【0077】
一般に、ダイナミン環安定剤は、最高約50mg/kg体重、好ましくは約1mg/kg〜約30mg/kg体重の薬用量で、本発明により具体的に例示される方法に従って投与される。
【0078】
投与経路としては、静脈内、腹腔内、注射、経口、直腸による、および埋め込みによる等が挙げられるが、その限りではない。本発明の組成物で有用な、好適な薬学的に許容できる担体および製剤は、たとえば「Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Mack Publishing Co.,1995)」等の、熟練した受取人に周知のハンドブックおよびテキスト中に見られ、その内容全体を参照により本明細書に援用する。
【実施例】
【0079】
本発明を、非限定的実施例に関連してさらに後述する。
【0080】
実施例1:ダイナミン集合体測定法
1.ダイナミン自己集合体測定法−低ダイナミン濃度
前述(Warnockら、1996)の通り、同一のヘペスカラム緩衝液(HCB−20mM Hepes,2mM EGTA,1mM MgCl2,1mM PMSF,1mM DTT,20μg/mlロイペプチン,pH7.4)を使用して、天然のダイナミン(40nM)でダイナミン自己集合体測定法を実施した。しかし、全ての緩衝液が、試験ダイナミンインヒビター用に使用された媒体である、1% DMSOも含んでいた。NaCl濃度は、200mM NaClの原液から様々であった。ダイナミンを100,000gで20分間遠心分離し、上澄(S)およびペレット(P)を集め、トリクロロ酢酸で沈殿させ、SDS試料緩衝液中に可溶化し、SDSゲルで分離し、イン・ハウス・ヒツジ・ポリクローナルα−ダイナミンI抗体を使用して、ウェスタンブロッティングでダイナミンIを検出した。
【0081】
2.高ダイナミン濃度自己集合体測定法−高ダイナミン濃度
このダイナミン自己集合体測定法を、実施例1.1に上述したヘペスカラム緩衝液を使用し、(上述の通り、1% DMSOを加えて)、天然のダイナミン(5.2μM)で実施した。Bis−T効果は、表示のBis−T濃度を有するダイナミンを室温(22℃)で10分間プレインキュベートすることにより測定した。NaCl濃度は、200mMNaClの原液から様々であった。インキュベーション後、試験管をTLA120.2ローター(Beckman)に移し、100,000gで20分間、卓上用超遠心機(Optima TLX,Beckman)で遠心分離し、上澄(S)およびペレット(P)を集め、トリクロロ酢酸で沈殿させ、SDS試料緩衝液中に可溶化し、SDSゲルで分離した。
【0082】
実施例2:ダイナミン環安定剤は、ダイナミンインヒビターのサブグループである
様々なクラスのダイナミンインヒビターの中に、ダイナミン環安定剤のサブセットはある。Bis−T二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類は、螺旋状ダイナミンGTPアーゼ活性を強く阻害し、ダイナミン螺旋集合のための鋳型の非存在下、環形成の増進により基礎的活性を刺激することができる。図1は、環集合に必要なものより低い、漸増するダイナミン濃度における、精製したヒツジ脳ダイナミン(たいていこれは、ダイナミンIである)のインビトロGTPアーゼ活性を示す。黒い符号(実線)は、試験した全てのダイナミン濃度で、ダイナミンがリポソームにより刺激される(螺旋を形成する)ことを示す。5μMの2−シアノ−N−{3−[2−シアノ−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリロイルアミノ]−プロピル}−3−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−アクリルアミド(Bis−T−23)は、全ての点で、ダイナミンを強く阻害する(しかし、非常に高いダイナミン(400nM)では、もしかすると高ダイナミン濃度のため、Bis−T−23は阻害できない)。
【0083】
対照的に、リポソームの非存在下では(ダイナミンが、螺旋を形成できない場合)、結果は全く反対である(図1,白抜きの符号、点線)。環の形成に必要な濃度より低いダイナミン濃度を使用すると、Bis−T−23はダイナミン活性を強く刺激する。全てのダイナミン濃度で阻害される螺旋状ダイナミンと対照的に、リポソームの非存在下で、Bis−T−23は低ダイナミン濃度のダイナミンを活性化したり阻害したりしないが、100nM以上のダイナミン濃度に限って刺激する(図1)。このことから、Bis−T−23は、ダイナミンの基礎的GTPアーゼ活性の活性化剤でもインヒビターでもないが、環ダイナミンに影響を及ぼすことが分かる。
【0084】
本実験における、PS−刺激螺旋状ダイナミンの阻害に関するIC50は、500nM(図2)である。基礎的ダイナミン活性の50%活性を引き起こすBis−T−23の濃度(EC50)は、驚くほどに殆ど同じ値である。このことから、この一連の化合物に関して、環安定化および阻害の機序は、関連している可能性が示唆される。
【0085】
次に、ダイナミンGTPアーゼのBis−T−23刺激の経時変化実験(図3)を実施した。高ダイナミン濃度(800nM)および中間NaCl濃度(30mM)を使用するとき、こうした条件ではリングとして集合しないため、ダイナミン基礎的GTPアーゼ活性は時間と共に直線的に上昇した。5μM Bis−T−23の存在下で、ダイナミン活性は、約4分の初期「ラグ相」後に大幅に上昇した。ラグ相は、ダイナミンが環として集合するのに要する時間を示すと考えられる。結果は、Bis−T−23はダイナミン環集合の初速を加速しないことを示し、代わりに環解体を抑制することが示唆される。
【0086】
一連の強力なイミノジン・ダイナミンインヒビターの環安定剤活性を試験したとき、サブセットは基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性(すなわちPSの非存在下;図4)の強力な活性化剤であることが分かった。イミノジン−17、22および23は、環安定剤活性を示す、1〜20μMという刺激値(EC50)を有していた。
【0087】
PS−刺激ダイナミンのIC50と、PSの非存在下におけるダイナミンのEC50との間に相関関係はほとんどない。従って、ダイナミンインヒビターのサブセットのみが環安定剤であり、環安定剤を、PS−刺激ダイナミンGTPアーゼ活性の単なる強力なインヒビターとして認めることはできない(表2)。たとえば、イミノジン17および22は、等効力のダイナミンインヒビターであるが、環安定剤活性は30倍異なる。同様に、イミノジン20および21は、同様に強力なダイナミンインヒビターであるが、イミノジン20は、環安定剤活性を示さない(表2)。このように環安定剤活性は、他の刺激因子(たとえばPSリポソーム類、微小管類またはナノチューブ類等)の非存在下で、ダイナミン蛋白質の活性を刺激する能力によって同定できる。
【0088】
環安定剤がダイナミン多量体化を必要とすることを検証するために、GG−2と呼ばれる、二量体であるが、より高次のオリゴマーに自己会合できないダイナミンの組換え形(Chappieら、2009)を試験した。環安定剤は、そのような構築物の基礎活性を刺激することができない(図5)。
【0089】
Bis−T−23の活性化効果のダイナミン濃度依存性から、Bis−T−23はダイナミン環のインビトロ形成を変えている可能性があることが示唆された。環解体のブロックは、インビトロで環の蓄積として現れるはずである。緩衝液イオン強度が低下しているとき、コファクターが何も存在しない条件下で、ダイナミンは環へと自己集合する(Songら、2004)。Bis−T化合物がダイナミン−ダイナミン相互作用を制御するかどうかを決定するため、環をペレットに集めるために、漸減する量のNaClで、確立した高速遠心分離方法を使用した(Warnockら、1996)。より高濃度のダイナミン(520nM)およびダイナミンを、SDSゲル上でクーマシー染色により可視化した(図6)。他者による報告通り、ダイナミンは、≧40mM NaClでは上澄中にあるが、≦20mM NaClで自己集合し、ペレット中に認められる。100μMのBis−T−22は、低塩濃度でダイナミンが自然集合する前に、中間塩濃度(40、60nM)で環集合を増加した。固定した40mM NaClで、Bis−T−22は、あらゆるダイナミンが300μM濃度で環を形成するのを増進した。したがって、こうした条件で、Bis−T−22はダイナミンI自己集合を安定化/増進した。したがって、ダイナミン−ダイナミン相互作用に対して直接効果があり、化合物は、環解体を防止することによってダイナミン環集合およびインビトロGTPアーゼ活性を増進するようであると結論付けられた。したがって、GTPアーゼ活性環が蓄積する。
【0090】
ダイナミン環安定剤がダイナミン環の解体を防止するか遅らせるかを直接証明するために、確立した遠心分離アッセイを使用した。簡単に記載すると、PSリポソームの存在下で30分間、ダイナミンIを螺旋として前集合させ、その後、ダイナミン環安定剤Bis−T−23または非ダイナミン環安定剤ダイノール34−2(実施例4参照)を加えた。次いで、試料を、微量遠心機で10分間遠心分離して、上澄(Sup)またはペレットを集めた。このアッセイで、螺旋状ダイナミンは、主としてペレット中に認められた。しかし、NaCl(150mM)またはMg/GTP(1mM)のいずれかを加えると、ダイナミンを解体することが知られており、それは主として上澄に認められる(図7参照)。Bis−T−23は、螺旋状ダイナミンの解体を減少させたが、ダイノール34−2は減少させなかった(図7)。このことは、Bis−Tがダイナミン環安定剤として作用する機序は、ダイナミン環または螺旋の解体遅延であるか、または遅延を含むことを示す。この独特の作用機序により、ダイナミン環安定剤が、螺旋状ダイナミンGTPアーゼ活性を阻害しながら同時に基礎的GTPアーゼを刺激できる理由が説明される。
【0091】
実施例3:Bis−T−23は、柔軟性のないダイナミン環をインビトロで生成する
螺旋状ダイナミンの特徴は螺旋が非常に柔軟な構造であることである。GTP加水分解に際して、その直径を急速に減少(狭窄)できる一方で、長さを拡大することもできる(螺旋の拡大)(Stowellら、1999;Chenら、2004;Rouxら、2006)。これは、細胞内で、新たに出芽した細胞内小胞の頚部の分裂に使用される潜在的機序であると考えられる(Rouxら、2006)。螺旋状ダイナミンの高度な柔軟性は、GTPまたはGDPの非存在下でホスファチジルセリンリポソームに結合したダイナミンのEM解析により確認された(図8)。PSリポソームと混合されたダイナミンは、特有の性質を持つ螺旋を形成した(図8AおよびC):螺旋の個々のループは、直径が極めて多様であり、基礎をなす脂質に対して異なる角度で形成され、ループ間の間隙は極めて多様である。対照的に、5μMBis−T−23は、螺旋の形状を大きく変えた(図8BおよびD)。特に、螺旋の個々のループは、直径が極めて一様であり、基礎をなす脂質に対して一定の角度で形成され、ループ間の間隙は極めて一定である。Bis−T−23結合ダイナミンは、既報の脂質ナノチューブ上のGTPγS−結合ダイナミンに類似しているようであった(Stowellら、1999)。このことは、Bis−T−23が、環解体を防止することにより、ダイナミンループを、GTP−結合状態と類似した、柔軟性がなくかつ一様な直径に固定できることを示す。その作用は、各螺旋管の末端で特に顕著であり、これはBis−T−23の非存在下で「漸減」するが、その存在下では「鈍く」(図8C〜D)、Bis−T−23の作用を受けたループの非柔軟性を示す。
【0092】
電子顕微鏡(EM)の結果は、ダイナミンGTPアーゼの阻害と活性化の両方に共通な機序を明らかにした。Bis−T−23は螺旋のループを非柔軟性にするため、螺旋状ダイナミンの極度に上昇したGTPアーゼ活性は、同薬によって阻害されると結論づけられた。PSリポソーム類の非存在下で、Bis−T−23の存在によって誘導される個々のダイナミン環の活性は、一様な大きさの柔軟性のない環の同様の蓄積によって刺激される。したがって、Bis−T−23は、インビトロでダイナミン解体を推進するGTP加水分解によって、通常ならば推進されるであろうダイナミンの急速解体を防止しすると結論づけられた。
【0093】
次に、鋳型様PSリポソームの非存在下で、ダイナミン環の形成に及ぼす環安定剤Bis−T−23の影響を調べた。インビトロで、高濃度のダイナミンが、EMで検出可能な環へと自己集合することは周知である(Hinshaw and Schmid,1995)。このような自己集合は、一般に500〜1000nM程度の、高いダイナミン濃度を必要とし、より低いダイナミン濃度では確認されない。具体的には、鋳型の非存在下で、自己集合の閾値より十分に低い濃度である200nMダイナミンに及ぼすBis−T−23(5.4μM)の影響を試験した。予測通り、この濃度では、ダイナミンは感知できるレベルまで自己集合しなかった(図9A)。しかし、Bis−T−23の存在下で、ダイナミンは、予期せぬ強大な自己集合増加を示した(図9A)。高倍率画像によって、高電子密度構造は真正ダイナミン環であることが裏付けられる(図9B)。約2000のダイナミン環の定量分析から、Bis−T−23により誘導された強大な環形成増加が分かる(図9C)。こうした結果から、Bis−T−23は、それらの形成を誘導するかまたはそれらの解体を防止するかのいずれかによって、ダイナミン環の蓄積を増進することが裏付けられる。基礎的ダイナミンに関する結果は、ダイナミンインヒビターとしては完全に予想外であり、環安定剤活性を示すものである。
【0094】
実施例4:Bis−T−22は、細胞で、柔軟性のないダイナミン環を生成する
この実施例は、ダイナミン環安定剤が、細胞内でダイナミン環形成を増進することができ、またそれらの解体を防止または遅延できることを示す。小胞がクラスリン−依存性経路により飲食されるとき、部分的に狭窄した短い頚部を有するオメガ型形状として、細胞膜近くに内部移行することは周知である。これらは、低周波の透過電子顕微鏡法(EM)により検出することができる。ダイナソア等の古典的ダイナミンインヒビターで細胞を10〜30分間処理するとき、ダイナミン環は増進せずに、細胞の細胞膜にクラスリン被覆ピットの強大な蓄積を引き起こす(Maciaら、2006)。MiTMAB(Quanら、2007)またはダイノール34−2のような他のダイナミンインヒビターは、恐らく少なくとも部分的に、脂質表面でそれらの初期形成を防止するように作用し、また環安定剤性を持たないインヒビターであるため、被覆ピットの蓄積を誘導しない。これらの観察結果とは対照的に、ダイナミン環安定剤は、クラスリン被覆ピットの蓄積を細胞で引き起こし、2つの独特の特徴を有する:小胞頚部は、極めて細長く、また高電子密度環で取り囲まれている。ヒトリンパ芽細胞(ダイナミンIIを発現する)を、ダイナソア、MiTMAB(表示せず)またはBis−T−22で30分間処理し、EM解析用に調製した。ダイナソアおよびMiTMABは、以前に報告した予期された結果をもたらしたが、Bis−T−22は、非常に細長い頚部を有し、かつ環またはスパイラルで囲まれた、強大な蓄積を、クラスリン被覆ピットの全細胞で誘発した(図10A)。同様に、ラット脳シナプトソーム(単離神経終末、主としてダイナミンIを発現する)をBis−T−22で30分間処理し、KClで脱分極させてエンドサイトーシスを誘発するとき、1つの高電子密度環で取り囲まれた、捕獲エンドサイトーシスピットが検出された(図10B下方3パネル)。シナプトソームが刺激されなかったとき、環または捕獲小胞は何も検出されなかった(図10B最上)。このことは、以前に記述した、単環を形成する精製ダイナミンIに関するインビトロ観察結果によく似ている(図9)。
【0095】
これらの観察結果から、環安定剤は、異なる細胞型における捕獲エンドサイトーシスの部位で、環を増進および安定化する能力を有することが説明される。この性質は、ダイナミン環安定剤ではないダイナミンインヒビターでは見られず、ダイナミン環安定化は、生細胞という状況で起こり得る、精製蛋白質を用いたインビトロ条件に限定されない、環安定剤化合物の新規な作用であることが裏付けられる。
【0096】
実施例5:全てのダイナミンインヒビターがダイナミン環安定剤とは限らない
ダイナソアの構造に基づく、新たな一連の強力なダイナミンGTPアーゼインヒビター(Maciaら、2006)が設計された。これらの化合物は、ディンゴと呼ばれる。最も活性なディンゴ類縁体は、ディンゴ−4aであり、PS−刺激ダイナミンに対するIC50が300nMであるのに対して、ダイナソア(ディンゴ−7a)IC50は14μMである。ディンゴの構造は、Bis−Tの単量体型に似ており、また単量体チルホスチンにも似ている。しかし、ディンゴ類、および特にダイナソアは、ダイナミンインヒビターをスクリーニングするためのアッセイの通常成分である、界面活性剤トウィン−80に強く結合することが分かった(Quan and Robinson 2005)。本研究で、トウィン−80の非存在下で基礎的GTPアーゼアッセイを実施するとき、ディンゴ類およびダイナソアは両者ともBis−T−23と同程度まで、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激することが分かった(図10A)。このことは、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性化(すなわち、ダイナミン環活性化)は、Bis−Tチルホスチンにもイミノジン類にも限定されないことを示す。
【0097】
新規な化学的分類での、もう一つの強力なダイナミンインヒビターシリーズは「ダイノール」の化合物であり、これは国際特許出願第PCT/IB2008/002387号明細書(国際公開第2009/034464号パンフレット)に記載の、インドール系インヒビターである(Hillら、2009も参照)。今までに開発された最強のダイノールは、ダイノール34−2(2−シアノ−3−(1−(2−(ジメチルアミノ)−エチル)−1H−インドール−3−イル)−N−オクチルアクリルアミド)であり、1μMという、PS−刺激ダイナミンに対するIC50を有する。ダイノール34−2は、ダイナミン基礎的活性を刺激できない(図11A)。したがって、ダイノール34−2は、ダイナミン環解体インヒビターではない(すなわち、ダイナミン環安定剤ではない)。
【0098】
次に、様々な強力なBis−T類縁体を、トウィン−80の存在下で使用される標準GTPアーゼアッセイで試験した。最強のダイナミンインヒビターのうち4つ(Hillら、2005)は、基礎的活性を増強させたため、ダイナミン環安定剤であることも分かった(図11B)。ダイナソアはこうした条件で基礎的GTPアーゼ活性を刺激できなかった(その、非特異的トウィン−80結合のため)が、ディンゴ−4aはやはり有効であった。重要なことは、MiTMABシリーズ(PHドメインを標的にする、Quanら、2007)またはダイノールシリーズ(GTPアーゼドメインのアロステリック部位を標的にする、Hillら、2009)中の幾つかのダイナミンインヒビターは、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を刺激できなかった(図11B)。したがって、ダイナミンに対して異なる作用機序を有するダイナミンインヒビターは、基礎的ダイナミンGTPアーゼ活性を増強しない(すなわち、それらは全てがダイナミン環安定剤とは限らない)。このことは、環安定剤が、それらの活性と特に関係がなく、鋳型刺激ダイナミンGTPアーゼ活性をインビトロで阻害しない、異なるクラスのダイナミン調節物質に相当することを示す。
【0099】
要するに、本明細書で、多数の異なる化学分類からの様々なダイナミン環安定剤が、全長ダイナミンの基礎的活性を刺激する能力によって同定された。これらの化合物は、たぶんダイナミン解体を阻害することにより、単環へのダイナミン自己集合を特異的に安定化する(それによって、GTP加水分解の基礎的速度を刺激する)ため、刺激の機序が説明された。全てのダイナミン環安定剤が、螺旋状ダイナミンGTPアーゼ活性の強力なインヒビターであった訳ではない。重要なことは、環へのダイナミン自己集合が、アクチン細胞骨格に特異的でかつ選択的な影響を及ぼすこと(以下参照)、およびこれらの化合物が、アクチン細胞骨格におけるダイナミン環の機能を安定化または延長できることである。
【0100】
実施例6:インビトロで、アクチンはダイナミン環集合を刺激する
本研究で、ダイナミンによる環の形成は、有足細胞におけるアクチン細胞骨格を増加するために不可欠であることが分かり、またダイナミンと線維状アクチン(F−アクチン)との間の直接相互作用が同定された。特に、アクチン線維に沿って結合し、それらを線維束へと並べる、ダイナミンにおける未確認のアクチン結合部位が同定された。F−アクチン、および特に、ゲルソリン(Gsn)によってそれらの反矢じり端上にキャップ化された短い線維は、ダイナミン環形成を増進し、そのGTPアーゼ活性を刺激する。この相互作用は、次には、さかとげ付き線維末端からゲルソリンを分離し、また線維伸長を増進する。ダイナミンとGsn−キャップ化線維の間の相互作用はこのように、アクチンの構造および動力学に影響を及ぼす。インビトロでアクチン結合が欠損しているダイナミン変異体は、細胞での多量体化が障害され、アクチンストレスファイバー集合が減少し、また培養有足細胞における表層アクチン細胞骨格の挙動が変化している。対照的に、アクチンアフィニティが増強したダイナミン変異体は、細胞質で多量体化する傾向が増強し、細胞の核周囲領域におけるストレスファイバー集合を刺激する。これらの結果から、ダイナミンのGTPアーゼ回路と有足細胞におけるアクチン細胞骨格の包括的組織化との間の複雑な相互作用が示唆される。
【0101】
実施例7:ダイナミンはF−アクチンを結合する
ダイナミンがアクチン細胞骨格に影響を及ぼすかどうかを決定するために、ダイナミンが線維状アクチン(F−アクチン)を直接結合するかどうかという問題を試験した。特に、高速遠心分離を受けてF−アクチンが沈殿する、アクチン共沈降法を実施した。ダイナミンがF−アクチンと相互に作用するのであれば、ダイナミンは共沈殿し、したがって、ペレット画分中に存在することが予期される。F−アクチンの存在下で、ダイナミンの大部分がペレット中に発見されたが、非存在下では発見されなかった(図12、レーン2および14)。ダイナミン−アクチン相互作用は、GTPの存在を必要とせず、ダイナミン多量体化を必要としなかったことを示す。さらに、GTPγSの存在下で、F−アクチンへのダイナミン結合が確認され(図12、レーン6)、ダイナミン多量体化は、結合に対して抑制的ではなかったことが分かる。アクチンに対するダイナミンのKdはおよそ0.4μMであり、アクチンに対するα−アクチニン4等の、他のアクチン結合蛋白質のアフィニティに似ている(Weinsら、2005)。
【0102】
実施例8:ダイナミンのアクチン結合ドメインは、ダイナミンミドルドメイン内である
次に、アクチン結合部位は、ダイナミンII(dyn2)のアミノ酸399と444アミノ酸との間の領域に位置づけられた(図13)。アクチン結合ドメインに関して予測される通り(Vanら、1996)、この領域は、酵母から哺乳動物までの全てのダイナミン遺伝子産物に保存された、幾つかのプラスに帯電したアミノ酸を含む。この領域はまた、異なる哺乳動物のダイナミンアイソフォーム内で選択的にスプライシングされる(ダイナミンIおよびIIにおける異型aおよびbと呼ばれる)(図13,配列番号1〜4を参照)。このアクチン結合ドメイン内の、保存された荷電残基に部位特異的突然変異誘発を実施し、推定「機能喪失」変異体、dynK/E(配列番号9)およびdynK/A(配列番号10)、ならびに推定「機能獲得」変異体、dynE/K(配列番号11)を作成した(図13)。アクチンに対するdynK/EおよびdynK/Aのアフィニティは低下していた(それぞれ、Kd=1.7および2.8μM)が、アクチンに対するdynE/Kのアフィニティは上昇していた(Kd=0.03μM)(図14)。3つの変異体蛋白質全てが、基礎的GTP加水分解速度および刺激されたGTP加水分解速度に関して野生型力学的特性を有しており、適切な折り畳みを示す。
【0103】
実施例9:ダイナミン−アクチン相互作用は、有足細胞のアクチン細胞骨格に関与する
アクチン組織化におけるダイナミン−アクチン相互作用の役割を決定するために、F−アクチンに対するアフィニティが変化したダイナミン変異体を発現する有足細胞の形態学の帰結を調べた。十分に分化したマウス有足細胞では、アクチン細胞骨格は、細胞体内で、アクチン−ミオシン収縮性ストレスファイバーの平行な束、および葉状仮足および糸状仮足の形成を推進する細胞膜の下にある短い分岐したアクチン線維の皮質ネットワークに組織化される。GTPを結合できないダイナミン変異体である、dynK44Aの発現は、細胞体内のストレスファイバーを破壊し、太い、超束化アクチンネットワークを細胞膜の近くに生成し、多角形の細胞形状をもたらす(Severら、2007)。本研究で、dynK44Aの発現は、葉状仮足および糸状仮足の形成をなくすことが分かった(図15B)。「機能喪失」変異体dynK/Eの発現は、ストレスファイバーの減少および細胞形状の劇的変化をもたらした(図15C)。対照的に、「機能獲得」dynE/Kの発現は、細胞体内でのストレスファイバーの明白な増加をもたらした(図15D)。集合したGTP結合状態で長生きする変異体である、dynR725Aを発現する細胞で、同様のストレスファイバーの増加が確認された(図15E)。
【0104】
実施例10:ダイナミン環はF−アクチンを密着束に架橋する
ダイナミンがアクチン線維の構造に及ぼす影響を評価するために、ネガティブ染色および電子顕微鏡法(EM)を使用してF−アクチンを調べた。ダイナミンは、GTPγS(その環形成を増進する非加水分解性GTP類縁体)を加えることによって環へと多量体化し、アクチン線維を密着束へと架橋した(図16)。これらの束における線維間の間隙は、ダイナミン環の直径(約50nm)未満の17〜20nmであった。したがって、これらの結果から、他のアクチン結合蛋白質の非存在下で、ダイナミン環は、明確に規定された間隙を有する平行な線維から成るアクチン束を形成できることが示唆される。このような平行なアクチン線維は、ストレスファイバーおよび糸状仮足に生じる。これは、環形ダイナミンに関する生物学的機能の最初の報告であると考えられる。
【0105】
実施例11:ダイナミン環は、さかとげ付き線維末端からゲルソリンを退去させる
次に、ダイナミンが、ゲルソリン(Gsn)キャップ化F−アクチンの反矢じり端を露出できるかどうかという問題を試験した。表示された比率(1G:A200または1G:A1000)(図17)のゲルソリンの存在下で、アクチンを重合させた。こうした条件下で、ゲルソリンは反矢じり端の>99%をキャップ化する。線維長は、Gsn:アクチン比(それぞれ、約0.5μmまたは2.7μm)によって規定され、またアクチン重合の程度は、約0.6μMという矢じり線維端の臨界濃度によって調節される。次いで、ダイナミンの存在下および非存在下で、アクチン溶液を0.33μMに希釈した。こうした条件下で、反矢じり端が利用できるようになったときだけ、アクチンは再重合できる。ダイナミンを加えることによってアクチン重合が誘導されたが、GTPγSの存在下に限られる(図17,菱形および丸を四角と比較されたい)。このことは、直接的にまたは反矢じり端におけるF−アクチン構造を変更することによって、さかとげ付き線維末端からゲルソリンを退去させる能力を有するダイナミン環と一致する。全体として、データから、F−アクチン動力学とダイナミン多量体化との間の相互接続が立証される。特に、短い、ゲルソリンキャップ化アクチン線維は、ダイナミン環形成を増進し、次にはゲルソリンを反矢じり端から分離し、線維伸長を可能にする。
【0106】
実施例12:Bis−T−23はダイナミン環の形成を刺激する
dynR725AおよびdynE/Kは両者とも、ダイナミン環形成において長生きすると予測される(Severら、2007)。DynR725Aは、LPSモデルで、環へと多量体化することによって、したがって、プロテアーゼカテプシンL(CatL)による開裂を回避することによって、蛋白尿を救助すると以前に報告された(Severら、2007)。dynR725Aの発現は、ネフローゼ症候群のマウスモデルで蛋白尿を減少させるのに十分である(Severら、2007)。
【0107】
Bis−T−22およびBis−T−23が野生型環ダイナミンを活性化するかどうか、またdynR725A表現型を表現型模写するかどうかという問題を試験した。Bis−T−23は、基礎的ダイナミンGTP加水分解速度を、Gsn−F−アクチン複合体添加と同様のレベルまで増強した(図18)。したがって、Bis−T−23複合体およびGsn−F−アクチン複合体は両者とも、環へのダイナミン多量体化を増進する。両試薬が同時に存在したとき、ダイナミンのGTPアーゼ活性が追加刺激される(図18)。総合すると、これらのデータから、Bis−T−23は、ダイナミンによるF−アクチン結合に関して競合しないこと、および両成分はダイナミン多量体化に関して相加的または相乗的に作用することが示唆される。
【0108】
実施例13:Bis−T−23は、培養有足細胞で、接着斑およびストレスファイバーを刺激する
ダイナミン環安定剤のインビトロ作用が細胞内でも起きるかどうかを決定するために、Bis−T−23が、培養マウス有足細胞におけるアクチン細胞骨格に及ぼす影響を試験した(図19)。Bis−T−23添加の10分後に、明確に規定されたストレスファイバーが劇的に増加した(図19B〜D)。これは、接着斑数の劇的な増加と関連していた(図19Bのパキシリン染色)。Bis−T−23はエンドサイトーシスを抑制する(表示せず)が、アクチン細胞骨格は、dynK44Aを発現する細胞と比べて大いに異なる(ストレスファイバーの損失および超束化アクチン線維の増加)。このように、確認されたストレスファイバー増加は、エンドサイトーシスの抑制が原因ではなさそうである。
【0109】
これらの結果は、ダイナミン環が培養有足細胞におけるストレスファイバーおよび接着斑の形成に関与すること、およびBis−T等のダイナミン環安定剤分子は、アクチン再編成に起因する機能的FPを修復することにより蛋白尿を抑制または回復させる可能性があることを示す。
【0110】
実施例14:動物モデルにおける蛋白尿の抑制
環安定剤の有効性をインビボで立証するために、遺伝モデルおよび急性毒性モデルという、2つの異なる腎疾患マウスモデルを使用した。α−アクチニン4をコード化するACTN4遺伝子における「機能獲得」変異を発現するマウスは、完全に特性化されている(Kaplanら、2000;Hendersonら、2008;Yaoら、2004)。これらの動物は、ストレスファイバーの凝集を誘導するα−アクチニン4変異体の「超束化」活性のため、FP消失および蛋白尿を呈する。蛋白尿は、4〜6週令で現れる。本研究で使用した動物は、Dr.Martin Pollak,Brigham and Women’s Hospital,Boston,MA,USAから入手した。蛋白尿性表現型は、製造業者のプロトコールに従い、マウスアルブミン特異的ELISAおよびクレアチニン比較アッセイキット(Creatinine Companion assay kits(Exocell and Bethyl Laboratories))を使用して、尿中アルブミンおよびクレアチニンの測定により確認した。コントロールの動物は同腹子であった。Bis−T−23を100% DMSOに溶解して、10μg/μl原液を作り、その5μlを1×PBS 200μlで希釈し、これを時刻0時間に被検動物に腹腔内(IP)注射した(166μg/100g体重)。尿中蛋白質レベルを、注射後2時間毎に測定した。結果を図20に示す。図から分かるように、Bis−T−23投与後6時間まで、野生型レベルまでの蛋白尿の減少が得られた。
【0111】
次いで、急性蛋白尿の第2のモデルを使用して、ダイナミン環安定剤の蛋白尿改善能力を蛋白尿性腎疾患の可逆モデルで試験した。LPS−誘導蛋白尿を既述通りに使用した(Severら、2007)。簡単に記載すると、4週令のメスBALB/cマウスに、濃度1mg/mlのリン酸塩緩衝食塩水で希釈した超高純度LPS 200μgを2回、腹腔内(IP)注射した。48時間以内に蛋白尿が現れた(図20,2×LPS)。Bis−T−23を好適な濃度までDMSOに溶解し、体重100g当たり300μgをIP注射で送達し、DMSOを媒体コントロールとして使用した。尿中蛋白質レベルは、製造業者のプロトコールに従い(Bethyl Laboratories)、マウスアルブミン特異的ELISAキットを使用して測定した。Bis−T−23の投与は、注射後2〜6時間に、蛋白尿を一部救助した(図21)。蛋白尿を救助する能力は、注射後8時間に低下した。これらの結果は、蛋白尿性腎疾患のマウスモデルで、環安定剤が蛋白尿を改善できることを示す。
【0112】
多数の実施態様が記述されてきたが、広く記載される通り、本発明の精神または範囲から逸脱することなく、多くの変形および/または修正を行えることは、当業者に理解されるであろう。したがって、本実施態様は、あらゆる点で、例示的であって制限的ではないと考えるべきである。
【0113】
[参考文献]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を、有効量のダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で処理することを含む、細胞内で、ダイナミン環形成および/またはダイナミン環の維持を増進するための方法。
【請求項2】
前記ダイナミン環安定剤が螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミンGTPアーゼ活性のインヒビターでない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ダイナミン環安定剤が、ダイナミン環の形成を増進する化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミン環解体を抑制する化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ダイナミン環安定剤が、螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビター類、二量体チルホスチン類、二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類、イミノクロメン類、単量体チルホスチン類および3−置換ナフタレン−2−カルボン酸(ベンジリデン)ヒドラジド類からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
最少1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の有効量を、それを必要としている個体に投与することを含む、腎疾患または蛋白尿を特徴とする病気を予防または治療する方法。
【請求項8】
前記ダイナミン環安定剤が螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビターである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミンGTPアーゼ活性のインヒビターでない、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミン環の形成を増進する化合物である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミン環解体を抑制する化合物である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ダイナミン環安定剤が、螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビター類、二量体チルホスチン類、二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類、イミノクロメン類、単量体チルホスチン類および3−置換ナフタレン−2−カルボン酸(ベンジリデン)ヒドラジド類からなる群から選択される、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記腎疾患または病気が、ネフローゼ症候群、慢性腎疾患、糸球体疾患、糸球体機能障害、感染後糸球体腎炎およびメサンギウム増殖性糸球体腎炎を含む糸球体腎炎、糖尿病性腎症を含む腎症、有足細胞損傷および有足細胞傷害を含む有足細胞機能障害、ポドサイトパシー、有足細胞足突起消失、びまん性メサンギウム硬化症、先天性ネフローゼ症候群(たとえば、フィンランド型の(CNSF))、アルポート症候群および異型(Alport+)、微小変化型疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、崩壊性糸球体腎症、免疫および炎症性糸球体腎症、高血圧性腎症、および加齢性糸球体腎症からなる群から選択される、請求項7〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記疾患または病気が、ネフローゼ症候群、慢性腎疾患、糸球体疾患、有足細胞機能障害、および有足細胞足突起消失から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
有足細胞を、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で処理することを含む、有足細胞機能障害の予防方法または治療方法。
【請求項16】
前記有足細胞機能障害が、前記有足細胞の足突起消失を特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
有足細胞足突起の形成を維持および/または誘導するために、前記有足細胞が、前記ダイナミン環安定剤で処理される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
細胞を、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいは前記ダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で処理することを含む、細胞内で、接着斑および/またはアクチン細胞骨格を誘導する方法。
【請求項19】
アクチンストレスファイバーの形成を誘導するために、前記細胞が、前記ダイナミン環安定剤で処理される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
被検物質を提供すること;
ダイナミン環の形成を増進するのに好適な条件下で、前記被検物質をダイナミン蛋白質とインキュベートすること;および
前記被検物質が、ダイナミン環の蓄積を増進しかつ/またはダイナミン環の解体を抑制するかどうか、ダイナミン環の蓄積および/または基礎的なダイナミンGTPアーゼ活性を増強するダイナミン環の解体の抑制を評価すること;
を含む、ダイナミン環安定剤として使用するための被検物質をスクリーニングするための方法。
【請求項21】
前記ダイナミンインヒビターが、ダイナミン環の蓄積を増進するか、あるいはダイナミン環の解体を抑制するかどうかの前記評価が、基礎的なダイナミンGTPアーゼ活性の増強についてアッセイすることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ダイナミン環が維持されかつ/または有足細胞中に蓄積するかどうかを評価するために、有足細胞をダイナミンインヒビターで処理することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
ダイナミン環が有足細胞に蓄積するかどうかの前記評価が、ダイナミンインヒビターが有足細胞足突起の形成を誘導するか否かを決定することによって査定される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
細胞でのダイナミン環形成の増進および/またはダイナミン環の維持に使用するためのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩。
【請求項25】
蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気の予防または治療に使用するためのダイナミン環安定剤、あるいは前記ダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩。
【請求項26】
ダイナミン環形成および/またはダイナミン環の維持を、それを必要としている個体の細胞で増進するための薬剤の製造における少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用。
【請求項27】
蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気を予防または治療するための、少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用。
【請求項28】
蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気を予防または治療するための薬剤の製造における、少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用。
【請求項1】
細胞を、有効量のダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で処理することを含む、細胞内で、ダイナミン環形成および/またはダイナミン環の維持を増進するための方法。
【請求項2】
前記ダイナミン環安定剤が螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミンGTPアーゼ活性のインヒビターでない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ダイナミン環安定剤が、ダイナミン環の形成を増進する化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミン環解体を抑制する化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ダイナミン環安定剤が、螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビター類、二量体チルホスチン類、二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類、イミノクロメン類、単量体チルホスチン類および3−置換ナフタレン−2−カルボン酸(ベンジリデン)ヒドラジド類からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
最少1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の有効量を、それを必要としている個体に投与することを含む、腎疾患または蛋白尿を特徴とする病気を予防または治療する方法。
【請求項8】
前記ダイナミン環安定剤が螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビターである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミンGTPアーゼ活性のインヒビターでない、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミン環の形成を増進する化合物である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ダイナミン環安定剤がダイナミン環解体を抑制する化合物である、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ダイナミン環安定剤が、螺旋状ダイナミンGTPアーゼインヒビター類、二量体チルホスチン類、二量体ベンジリデンマロニトリルチルホスチン類、イミノクロメン類、単量体チルホスチン類および3−置換ナフタレン−2−カルボン酸(ベンジリデン)ヒドラジド類からなる群から選択される、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記腎疾患または病気が、ネフローゼ症候群、慢性腎疾患、糸球体疾患、糸球体機能障害、感染後糸球体腎炎およびメサンギウム増殖性糸球体腎炎を含む糸球体腎炎、糖尿病性腎症を含む腎症、有足細胞損傷および有足細胞傷害を含む有足細胞機能障害、ポドサイトパシー、有足細胞足突起消失、びまん性メサンギウム硬化症、先天性ネフローゼ症候群(たとえば、フィンランド型の(CNSF))、アルポート症候群および異型(Alport+)、微小変化型疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、崩壊性糸球体腎症、免疫および炎症性糸球体腎症、高血圧性腎症、および加齢性糸球体腎症からなる群から選択される、請求項7〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記疾患または病気が、ネフローゼ症候群、慢性腎疾患、糸球体疾患、有足細胞機能障害、および有足細胞足突起消失から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
有足細胞を、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で処理することを含む、有足細胞機能障害の予防方法または治療方法。
【請求項16】
前記有足細胞機能障害が、前記有足細胞の足突起消失を特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
有足細胞足突起の形成を維持および/または誘導するために、前記有足細胞が、前記ダイナミン環安定剤で処理される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
細胞を、有効量の少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいは前記ダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩で処理することを含む、細胞内で、接着斑および/またはアクチン細胞骨格を誘導する方法。
【請求項19】
アクチンストレスファイバーの形成を誘導するために、前記細胞が、前記ダイナミン環安定剤で処理される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
被検物質を提供すること;
ダイナミン環の形成を増進するのに好適な条件下で、前記被検物質をダイナミン蛋白質とインキュベートすること;および
前記被検物質が、ダイナミン環の蓄積を増進しかつ/またはダイナミン環の解体を抑制するかどうか、ダイナミン環の蓄積および/または基礎的なダイナミンGTPアーゼ活性を増強するダイナミン環の解体の抑制を評価すること;
を含む、ダイナミン環安定剤として使用するための被検物質をスクリーニングするための方法。
【請求項21】
前記ダイナミンインヒビターが、ダイナミン環の蓄積を増進するか、あるいはダイナミン環の解体を抑制するかどうかの前記評価が、基礎的なダイナミンGTPアーゼ活性の増強についてアッセイすることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ダイナミン環が維持されかつ/または有足細胞中に蓄積するかどうかを評価するために、有足細胞をダイナミンインヒビターで処理することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
ダイナミン環が有足細胞に蓄積するかどうかの前記評価が、ダイナミンインヒビターが有足細胞足突起の形成を誘導するか否かを決定することによって査定される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
細胞でのダイナミン環形成の増進および/またはダイナミン環の維持に使用するためのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩。
【請求項25】
蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気の予防または治療に使用するためのダイナミン環安定剤、あるいは前記ダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩。
【請求項26】
ダイナミン環形成および/またはダイナミン環の維持を、それを必要としている個体の細胞で増進するための薬剤の製造における少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用。
【請求項27】
蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気を予防または治療するための、少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用。
【請求項28】
蛋白尿を特徴とする腎疾患または病気を予防または治療するための薬剤の製造における、少なくとも1つのダイナミン環安定剤、あるいはダイナミン環安定剤のプロドラッグまたは薬学的に許容できる塩の使用。
【図6】
【図13】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図13】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2012−527407(P2012−527407A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511102(P2012−511102)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000677
【国際公開番号】WO2010/132959
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(504204742)チルドレンズ メディカル リサーチ インスティテュート (1)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000677
【国際公開番号】WO2010/132959
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(504204742)チルドレンズ メディカル リサーチ インスティテュート (1)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】
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