説明

ダイバーシチ受信機

【課題】周波数復調器の出力S/Nに基づき重み付け係数を決定することができるダイバーシチ受信機を提供する。
【解決手段】ブランチ1の周波数復調部出力を、BPF部202−1を通過させることでfmax〜B/2の帯域の全部または一部を得る。つまり、BPF部202−1を通過させることでS(信号成分)とN(雑音成分)を算出する。S(信号成分)とN(雑音成分)を2乗演算部203−1、平均化部204−1、及びブランチ逆数演算部205−1を通過させることで、BPF部202−1の出力電力の逆数となるブランチ1の周波数復調部出力のS/Nが得られ、このS/Nがブランチ1の重み付け係数となる。また、ブランチ2からブランチMの周波数復調部出力についても、同様にブランチ1からブランチMの重み付け係数が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信で用いられる受信機に係り、特に複数のアンテナで受信した信号を線形合成するダイバーシチ受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェージング対策技術の一つとして、ダイバーシチ受信技術が知られており、ダイバーシチ受信機の構成によって、空間、周波数、時間、偏波などのダイバーシチ方式がある。その中でも、空間ダイバーシチ方式は、送信信号を変更する必要がなく、また標準規格も変更せずにそのまま適用できるため、多くのダイバーシチ受信機に使用されている。空間ダイバーシチ方式では、複数のアンテナで受信した信号を線形合成する方法として選択合成方法、等利得合成方法、及び最大比合成方法の3種類の合成法が知られている。選択合成方法は、複数のアンテナで受信した信号について、受信感度のよいアンテナを選択し、選択したアンテナから信号を受信する方法である。等利得合成方法は、複数のアンテナから受信した信号を同相で合成し受信信号の品質を改善する方法である。最大比合成方法は、複数のアンテナから受信した信号の品質に応じた重みづけして信号を合成することにより合成後の受信信号の品質を改善する方法である。例えば、特許文献1に開示の技術では、復調回路から出力される復調信号の位相誤差に基づく重み、及び検出された受信信号レベルに基づく重みから合成重みを計算する最大比合成方法により、受信信号レベルのみならず受信信号の品質である位相誤差をも考慮した重み付けを行うことができるダイバーシチ受信機を提供している。また、非特許文献1に開示の技術では、最大比合成方法により受信信号を復調する前に中間周波(IF)帯で受信信号を合成する構成とし、各アンテナにより受信された信号ルート(以下、ブランチという)の重み付け係数の大きさを各々のブランチの包絡線レベルに比例させている。つまり、ブランチの重み付け係数の大きさをS/N(信号対雑音電力比)の平方根に比例させている。また、各々のブランチの受信信号について位相を合わせるために、移相器を設けている。更に、各々のブランチの受信信号による合成は、復調後のベースバンド帯で行うこともできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−68647号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】斉藤洋一著、「ディジタル無線通信の変復調」P.189〜191、 電子情報通信学会、1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、復調回路から出力される復調信号の位相誤差に基づく重みと検出された受信信号レベルに基づく重みから合成重みを計算するようにしたので、受信信号レベルのみならず受信信号の品質である位相誤差をも考慮した重み付けを行うことができるが、S/Nについては考慮されていない。また、非特許文献1では、最大比合成法の多値(例えば4値など)FSK(Frequency Shift Keying)変調方式に適用する場合において、決定した各ブランチの重み付け係数の大きさによっては、合成後の受信信号の振幅が元の受信信号と異なり、符号判定しきい値を合成後の振幅レベルに追従させないと、符号判定の誤りを起こすことがある。また、位相合わせが難しいため、受信信号の合成は周波数復調後のベースバンド帯で行うことになる。しかし、スレッショルド領域(周波数復調器の入力S/Nが低いS/Nの領域で、出力S/Nが入力S/Nに比例しないS/Nの領域)では受信電界強度と周波数復調器出力のS/Nが比例しないため、受信電界強度を用いて各ブランチの重み付け係数を決定すると最適な重み付け係数が算出できず、合成後のS/Nが劣化する。上記の課題を整理すると下記となる。
(1) 受信電界強度を用いて各ブランチの重み付け係数を決定する場合、スレッショルド領域では受信電界強度と周波数復調器出力のS/Nが比例しないため、最適な重み付け係数が算出できないので合成後のS/Nが劣化する。このため、周波数復調器の出力S/Nに基づき重み付け係数を決定する必要がある。
(2) 決定した各ブランチの重み付け係数の大きさによっては、合成後の受信信号の振幅が元の受信信号の振幅と異なり、符号判定しきい値を合成後の振幅レベルに追従させないと判定誤りを起こす。このため、符号判定しきい値を一定にできるように、合成後の振幅が合成前の振幅と異ならず変動しないようにする必要がある。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、上記課題を解決できるダイバーシチ受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のダイバーシチ受信機は、複数のブランチを有し、各ブランチの受信信号を各々周波数復調し、各々の周波数復調出力を合成するダイバーシチ機能を有する受信機において、各ブランチの周波数復調器の出力には帯域通過フィルタが設けられ、各ブランチの帯域通過フィルタの出力電力をpk(k=1,2,…,M、Mはブランチの数)とし、各ブランチの前記周波数復調器出力を(1/pk)/{(1/p1)+(1/p2)+…+(1/pM)}倍して合成することを特徴としている。
また、本発明のダイバーシチ受信機は、前記周波数復調前の受信フィルタの帯域幅をB、変調信号に含まれる信号の最高周波数をfmaxとし、前記帯域通過フィルタは、通過帯域の最低周波数がfmax以上で、通過帯域の最高周波数がB/2以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のダイバーシチ受信機は、受信信号を周波数に復調し最大比合成方法により合成する場合において、各ブランチの合成後のS/Nが、各ブランチの周波数復調器が出力するS/Nに比べて改善し、また前段の回路の特性によらず各ブランチの合成後のS/Nは劣化せず、更に、各ブランチの合成後の信号成分における振幅が各ブランチの周波数復調器が出力する信号成分における振幅と等しく変動しないので、高品質なダイバーシチ受信機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係るダイバーシチ受信機の機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る重み係数算出部の機能構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る周波数復調部の入力と出力の周波数スペクトルを示す図である。
【図4】従来の受信電界強度に対する周波数復調による信号成分と雑音成分の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)について図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るダイバーシチ受信機100の機能構成を示すブロック図である。図1に示すダイバーシチ受信機100は、M個のブランチ1からブランチM、加算部106、受信BB(ベースバンド)フィルタ部107、BB(ベースバンド)部108、重み付け係数算出部109、及び出力端子110から構成されている。また、ブランチ1には、アンテナ101−1、RF/IF(Radio Frequency:高周波/Intermediate Frequency:中間周波数)102−1、受信IFフィルタ部103−1、周波数復調部104−1、及び乗算部105−1が設けられている。ブランチ2には、アンテナ101−2、RF/IF部102−2、受信IFフィルタ部103−2、周波数復調部104−2、及び乗算部105−2が設けられている。同様に、ブランチMは、アンテナ101−M、RF/IF部102−M、受信IFフィルタ部103−M、周波数復調部104−M、及び乗算部105−Mが設けられている。このように、ブランチ1からブランチMについては同じ機能を備えているので、ブランチが備える機能については、代表としてブランチ1の機能についてのみ説明する。
【0012】
次に、ダイバーシチ受信機100を構成する各部位の機能について説明する。アンテナ101−1は、空中からの電波を受信信号に変換してRF/IF102−1に出力する。RF/IF102−1は、アンテナ101−1から受信信号を入力すると、受信信号の電力増幅と周波数変換を行い、IF信号として受信IFフィルタ部103−1に出力する。受信IFフィルタ部103−1は、RF/IF102−1からIF信号を入力すると、ルート1の自チャネルの周波数成分のみ通過させ、それ以外の周波数成分を除去し、周波数復調部104−1に出力する。周波数復調部104−1は、受信IFフィルタ部103−1から自チャネルの周波数成分を入力すると、受信信号の周波数成分から周波数を復調し、復調した信号であるベースバンド信号を乗算部105−1と重み付け係数算出部109に出力する。乗算部105−1は、周波数復調部104−1からベースバンド信号を入力すると、重み付け係数算出部109から重み付け係数を入力し、ベースバンド信号に重み付け係数を乗算して加算部106に出力する。重み付け係数算出部109の機能については、後述する。加算部106は、重み付け係数が乗算されたブランチ1からブランチMのベースバンド信号を加算することで、ブランチ1からブランチMのダイバーシチ合成を行い、受信BBフィルタ部107に出力する。受信BBフィルタ部107は、加算部106からダイバーシチ合成されたベースバンド信号を入力すると、多値FSKの場合には符号間干渉が起こらないようにベースバンド信号に波形整形する。また、受信BBフィルタ部107は、アナログのFMの場合にはベースバンド信号に音声帯域の帯域制限を行い、BB部108に出力する。BB部108は、受信BBフィルタ部107から波形整形されたベースバンド信号を入力すると、多値FSKの場合にはシンボルタイミング同期及び符号判定などを行い変調されているビット情報を復調し、受信信号出力端子110に出力する。また、BB部108は、アナログFMの場合には高音域のレベルを元に戻すディエンファシスなどの処理を行うことで音声信号に復調し、受信信号出力端子110に出力する。
【0013】
図2は、本発明の実施形態に係る重み係数算出部109の機能構成を示すブロック図である。図2に示す重み付け係数算出部109は、M個のブランチ1からブランチM、加算部206、逆数演算部207から構成されている。また、重み付け係数算出部109におけるブランチ1には、入力端子201−1、BPF(帯域通過フィルタ)部202−1、2乗演算部203−1、平均化部204−1、ブランチ逆数演算部205−1、乗算部208−1、及び出力端子209−1が設けられている。重み付け係数算出部109におけるブランチ2には、入力端子201−2、BPF部202−2、2乗演算部203−2、平均化部204−2、ブランチ逆数演算部205−2、乗算部208−2、及び出力端子209−2が設けられている。同様に、重み付け係数算出部109におけるブランチMには、入力端子201−M、BPF部202−M、2乗演算部203−M、平均化部204−M、ブランチ逆数演算部205−M、乗算部208−M、及び出力端子209−Mが設けられている。このように、重み付け係数算出部109におけるブランチ1からブランチMについては同じ機能を備えているので、重み付け係数算出部109におけるブランチが備える機能については、代表としてブランチ1の機能についてのみ説明する。
【0014】
入力端子201−1は、図1に示すブランチ1の周波数復調部104−1と接続されている端子であり、ブランチ1の周波数復調部104−1から出力されるベースバンド信号は、入力端子201−1を介してBPF部202−1に出力される。BPF部202−1は、入力端子201−1からベースバンド信号を入力するとfmax〜B/2の帯域の全部または一部の周波数成分のみを通過させ、2乗演算部203−1に出力する。2乗演算部203−1は、BPF部202−1からfmax〜B/2の帯域の全部または一部の周波数成分のベースバンド信号を入力すると、このベースバンド信号から瞬時電力を演算し、平均化部204−1に出力する。平均化部204−1は、2乗演算部203−1から瞬時電力を入力すると、瞬時電力を平均化し、平均化した瞬時電力(以下、平均電力という)をブランチ逆数演算部205−1に出力する。このときに、平均化部204−1の時定数は、fmaxの逆数より十分長い時間とする。ブランチ逆数演算部205−1は、平均化部204−1から平均電力を入力すると、平均電力の逆数(以下、重み付け係数という)を演算し、加算部206と乗算部208−1に出力する。加算部206は、ブランチ逆数演算部205−1からブランチ逆数演算部205−Mの重み付け係数を入力すると、各ブランチの重み付け係数の総和を演算し、逆数演算部207に出力する。逆数演算部207は、加算部206から各ブランチの重み付け係数の総和を入力すると、各ブランチの重み付け係数の総和の逆数を演算し、ブランチ1の乗算部208−1からブランチMの乗算部208−Mに出力する。乗算部208−1は、ブランチ逆数演算部205−1からブランチ1の重み付け係数を入力し、また逆数演算部207から各ブランチの重み付け係数の総和の逆数を入力すると、これらの値を乗算することで重み付け係数の正規化を行い、正規化された重み付け係数を出力端子209−1に出力する。出力端子209−1は、図1に示す乗算部105−1に接続されている端子であり、乗算部208−1から出力された重み付け係数は、出力端子209−1を介して乗算部105−1に出力される。
【0015】
以上により、例えば、ブランチk(k=1、2、・・・M)における周波数復調部104−kの出力をBPF部202−kが入力し、BPF部202−kの出力電力をPとすると、合成比算出部109では、ブランチkの周波数復調部104−kの出力を(1/pk)/{(1/p1)+(1/p2)+…+(1/pM)}倍に合成する。
【0016】
次に、このような機能構成のダイバーシチ受信機100における前述した課題の(1)と(2)を解決する方法について、図1から図4を用いて説明する。図3は、本発明の実施形態に係る周波数復調部104−1の入力と出力の周波数スペクトルを示し、図3(a)が周波数復調部104−1の入力周波数スペクトルを示し、図3(b)が周波数復調部104−1の出力周波数スペクトルを示している。図4は、従来の受信電界強度に対する周波数復調によるS(信号成分)とN(雑音成分)の関係を示した図である。
【0017】
まず、課題の(1)である周波数復調器の出力S/Nに基づき重み付け係数を決定する手順について説明する。図1に示す周波数復調部104−1には、図3(a)に示すように周波数変調されたS(信号成分)と、周波数復調部104−1の前段の受信IFフィルタ部103−1により帯域幅Bに帯域制限されたN(雑音成分)とが入力される。このようなS(信号成分)とN(雑音成分)が入力された場合に、周波数復調部104−1は、図3(b)に示すようにそのrms値(root mean square value)が周波数に比例(電力が周波数の2乗に比例)するいわゆる三角雑音となるN(雑音成分)と、周波数復調されたS(信号成分)を出力する。三角雑音となるN(雑音成分)の最高周波数は受信IFフィルタ部103−1の帯域幅Bに依存しB/2となる。また、復調されるS(信号成分)の最高周波数をfmaxとすると、fmax〜B/2の周波数帯域にはS(信号成分)がなく、S(信号成分)の帯域内(0〜fmax)の雑音に比例した電力のN(雑音成分)のみがfmax〜B/2の周波数帯域に存在するため、fmax〜B/2の周波数帯域の全部または一部を図2に示すBPF部(帯域通過フィルタ)202−1により抽出すれば、周波数復調部104−1が出力する信号のS/Nを算出でき、またこのS/Nを用いて重み付け係数を決定することができる。
【0018】
また、従来は、図4に示すように、周波数復調器が出力するS(信号成分)は受信電界強度によらず一定で、周波数復調器が出力するN(雑音成分)だけが受信電界強度によって変化していた。これに対し、非特許文献1では周波数復調する前に合成を行うとN(雑音成分)は受信機内部で発生する熱雑音により一定となり、また受信するS(信号成分)のレベルのみが変化するので、各ブランチに入力される受信信号は、受信電界強度の変化によってS(信号成分)が変化し、N(雑音成分)が一定となるとしている。このため、実施形態では図1に示す周波数復調部104−1の出力に対して最大比合成法を適用する前に、N(雑音成分)がブランチ1からブランチMで等しくなるように、周波数復調部104−1の出力に、周波数復調部104−1の出力のS/Nの平方根を乗じる。つまり、周波数復調部104−1の出力に周波数復調部104−1の出力のS/Nを乗じることで、最大比合成法を実現する。周波数復調部104−1の出力のS/Nは、図3(b)に示すように、周波数復調部104−1の出力のfmax〜B/2の帯域の全部または一部の電力により得ることができる。具体的には、周波数復調部104−1の出力を、BPF部202−1を通過させることでfmax〜B/2の帯域の全部または一部を得る。つまり、BPF部202−1を通過させることでS(信号成分)とN(雑音成分)を算出する。そして、S(信号成分)とN(雑音成分)を図2に示す2乗演算部203−1、平均化部204−1、及びブランチ逆数演算部205−1を通過させることで、BPF部202−1の出力電力の逆数となる周波数復調部104−1の出力のS/Nが得られ、この周波数復調部104−1の出力のS/Nがブランチ1の重み付け係数となる。また、周波数復調部104−2から周波数復調部104−Mについても、同様にブランチ2からブランチMの重み付け係数が得られる。以上のような手順により、周波数復調器の出力S/Nに基づき重み付け係数を決定することができる。
【0019】
次に、課題の(2)である合成後の振幅が合成前の振幅と異ならず変動しないようにする手順について説明する。上記により周波数復調器の出力S/Nに基づき重み付け係数を決定することができるが、このまま合成を行うと、各ブランチの重み付け係数はBPF部202−1の出力電力の逆数すなわち周波数復調部104−1の出力のS/Nである。しかし、周波数復調部104−1の出力のS/Nは、受信電界強度により重み付け係数の大きさが変化し、合成後の信号の振幅も受信電界強度により変化する。そこで、各ブランチに重み付けを行うときに、図2に示す加算部206により全てのブランチのS/N(周波数復調部104−1から周波数復調部104−Mの出力のS/N)を加算してS/Nの和を算出する。そして、加算部206で算出されたS/Nの和を逆数演算部207により逆数にし、乗算部208−1に出力する。乗算部208−1は、ブランチ逆数演算部205−1から周波数復調部104−1の出力のS/Nと、逆数演算部207からS/Nの和の逆数とを入力すると、これらを乗算する。このように周波数復調部104−1の出力のS/Nとブランチ1からブランチMのS/Nの和の逆数を乗算することで、ブランチ1の重み付け係数を正規化する。
【0020】
次に、全てのブランチ(1〜M)における周波数復調部104−1〜周波数復調部104−Mの出力のS/Nが等しい場合と、ブランチ1における周波数復調部104−1の出力のS/Nが他のブランチ(2〜M)より10dB高い場合における合成後のS/Nについて説明する。
【0021】
まず、全てのブランチ(1〜M)の周波数復調器出力のS/Nが等しい場合について説明する。例えば、全てのブランチ(1〜M)の周波数復調部部104−1〜周波数復調部104−Mの出力のS/Nが等しい場合において、
ブランチ1〜Mの信号成分振幅:sk=s (k=1,2,…,M)
ブランチ1〜Mの雑音成分電力:Nk=N (k=1,2,…,M)
とすると、各ブランチの重み付け係数は
wk=1/M
となる。合成後の信号成分電力は(数1)により求められ、雑音成分電力は(数2)により求められる。
【0022】
【数1】

【0023】
【数2】

【0024】
信号成分電力(数1)と雑音成分電力(数2)により、合成後のS/Nは(数3)により求められる。
【0025】
【数3】

【0026】
等利得合成法と比較した場合は同じ結果となるが、選択合成法を適用した場合は、合成後のS/Nは各ブランチのS/N γkと変わらないため、選択合成法と比べ本実施形態の場合は10 log10 M (dB)だけS/Nが改善する。
また、本実施形態の合成後の信号成分電力は(1/2)|s|2となり、各ブランチの周波数復調器出力の信号成分電力と等しく、合成によって信号成分の振幅が変化しない。
【0027】
次に、ブランチ1の周波数復調器出力のS/Nが他のブランチ(1〜M)の周波数復調器出力のS/Nより高く、また他のブランチ(2〜M)の周波数復調器出力のS/Nが等しい場合について説明する。例えば、ブランチ1における周波数復調部104−1の出力のS/Nが、他のブランチ(2〜M)における周波数復調部部104−2〜周波数復調部104−Mの出力のS/Nより10dB高く、また他のブランチ(2〜M)における周波数復調部部104−2〜周波数復調部104−Mの出力のS/Nが等しい場合において、
ブランチ1〜Mの信号成分振幅:sk=s (k=1,2,…,M)
ブランチ1の雑音成分電力:N1=N/10
ブランチ2〜Mの雑音成分電力:Nk=N (k=2,3,…,M)
とすると、ブランチ1の重み付け係数は(数4)、ブランチ2〜Mの重み付け係数は(数5)となる。
【0028】
【数4】

【0029】
【数5】

【0030】
ブランチ1の重み付け係数(数4)と、ブランチ2〜Mの重み付け係数(数5)により、合成後の信号成分電力は(数6)により求められ、雑音成分電力は(数7)により求められる。
【0031】
【数6】

【0032】
【数7】

【0033】
そして、信号成分電力(数6)と雑音成分電力(数7)により、合成後のS/Nは(数8)により求められる。
【0034】
【数8】

【0035】
以上により、M=2ならばγ=(11/10)γ1つまり0.4dB改善し、M=10ならばγ=(19/10)γ1つまり2.8dB改善する。
【0036】
また、等利得合成法を適用した場合は、合成後の信号成分電力は(数9)により求められ、雑音成分電力は(数10)により求められる。
【0037】
【数9】

【0038】
【数10】

【0039】
そして、信号電力成分(数9)と雑音電力成分(数10)により、合成後のS/Nは(数11)により求められる。
【0040】
【数11】

【0041】
以上により、等利得合成法を適用した場合は、合成後のS/Nは、M=2ならばγ=(2/11)γ1つまり7.4dB劣化し、M=10ならばγ=(10/91)γ1つまり9.6dB劣化するので、合成前のS/Nより劣化するが、本実施例の場合は改善する。また、選択合成法を適用した場合、合成後のS/Nはブランチ1のS/N γ1と等しくなるが、本実施例の場合はこれよりも改善する。また、本実施形態の合成後の信号成分電力は(1/2)|s|2となり、各ブランチの周波数復調器出力の信号成分電力と等しく、合成によって信号成分の振幅が変化しない。
【0042】
更に、本実施例の場合は、周波数復調部104−1〜周波数復調部104−Mの出力のS/Nがスレッショルド領域の場合であり、また、RF/IF部102−1〜RF/IF部102−M、受信IFフィルタ部103−1〜受信IFフィルタ部103−M、及び周波数復調部104−1〜周波数復調部104−Mがブランチ毎に特性の個体差があっても、周波数復調部104−1〜周波数復調部104−MのS/Nで重み付け係数が決定されるため、合成後のS/Nが劣化することがない。
【0043】
以上のような本発明のダイバーシチ受信機によれば、合成後のS/Nが各ブランチの周波数復調器出力のS/Nより改善し、周波数復調器を含みそれよりも前段の回路の特性によらず合成後のS/Nが劣化することなく、また、合成後の信号成分における振幅が、各ブランチの周波数復調器出力の信号成分における振幅と等しく変動しないようにすることができる。また、合成後のS/Nが、選択合成法、等利得合成法より改善する。また、合成後の信号成分の振幅が各ブランチの周波数復調器出力の信号成分振幅と等しく変動しないため、多値FSK変調方式の場合は符号判定振幅レベルを一定にでき、アナログのFMの場合は受信音声の大きさが変動しない。このように、本発明は高品質なダイバーシチ受信機を提供することができる。
【0044】
具体的な実施の形態により本発明を説明したが、上記実施の形態は本発明の例示であり、この実施の形態に限定されないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ダイバーシチ受信機に好適であるが、ダイバーシチ受信機に限られるものではなく、電界強度を測定するシステム一般に適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
100・・・・・・・・・ダイバーシチ受信機
101−1〜M・・・・・アンテナ
102−1〜M・・・・・RF(Radio Frequency)/IF(Inter Frequency)部
103−1〜M・・・・・受信IFフィルタ部
104−1〜M・・・・・周波数復調部
105−1〜M・・・・・乗算部
106・・・・・・・・・加算部
107・・・・・・・・・受信BB(ベースバンド)フィルタ部
108・・・・・・・・・BB(ベースバンド)部
109・・・・・・・・・重み付け係数算出部
110・・・・・・・・・出力端子
201−1〜M・・・・・入力端子
202−1〜M・・・・・BPF(帯域通過フィルタ)部
203−1〜M・・・・・2乗演算部
204−1〜M・・・・・平均化部
205−1〜M・・・・・ブランチ逆数演算部
206・・・・・・・・・加算部
207・・・・・・・・・逆数演算部
208−1〜M・・・・・乗算部
209−1〜M・・・・・出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブランチを有し、各ブランチの受信信号を各々周波数復調し、各々の周波数復調出力を合成するダイバーシチ機能を有する受信機において、
各ブランチの周波数復調器の出力には帯域通過フィルタが設けられ、各ブランチの帯域通過フィルタの出力電力をpk(k=1,2,…,M、Mはブランチの数)とし、各ブランチの前記周波数復調器出力を(1/pk)/{(1/p1)+(1/p2)+…+(1/pM)}倍して合成することを特徴とするダイバーシチ受信機。
【請求項2】
前記周波数復調前の受信フィルタの帯域幅をB、変調信号に含まれる信号の最高周波数をfmaxとし、前記帯域通過フィルタは、通過帯域の最低周波数がfmax以上で、通過帯域の最高周波数がB/2以下であることを特徴とする請求項1に記載のダイバーシチ受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−51550(P2013−51550A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188297(P2011−188297)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】