説明

ダイヤフラムエアポンプ

【課題】ダイヤフラムと、このダイヤフラムを挟着して該ダイヤフラムの上下にそれぞれ可変圧力室を構成するアッパハウジング及びロアハウジングとを有し、該ダイヤフラムを振動させてポンプ作用を得るダイヤフラムエアポンプにおいて、単一の環状弾性シール部材でダイヤフラムの表裏の可変圧力室のエアシールができるダイヤフラムポンプを得る。
【解決手段】アッパハウジングとロアハウジングのいずれか一方に、平面円形のダイヤフラムを嵌める円形凹部を形成し、他方に、この円形凹部を跨ぐ内外径を有するシール部材収納用の環状溝を形成し、このシール部材収納用環状溝内に、上記ダイヤフラムの周縁部を跨ぎ、アッパハウジングとロアハウジングによって圧縮変形される環状弾性シール部材を収納したダイヤフラムポンプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラムを往復振動させてポンプ作用を得るダイヤフラムエアポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、例えばノートPCの発熱源(例えばCPU)の冷却に、圧電振動子を用いた圧電式エアポンプを用いることを検討している。
【0003】
圧電振動子の振幅は、数十〜数百μmオーダであるが、可変容積室の容積を十分小さくすることで、噴流気体(空気)を出し入れすることが可能であり、この気体流で発熱源の周囲の空気(熱)を移動させ冷却することができる。
【0004】
圧電体を、シム(導電性薄肉金属板)の表裏の少なくとも一方に積層してなる圧電振動子は、その厚さを全体でも1mm未満とすることができる。また、圧電振動子の上下に形成する可変容積室も、圧電振動子の振動で圧縮性の空気を給排するという目的上、小容積である。このため、圧電式気体噴射装置は非常に薄くでき、ノートPCのような空間の少ない装置の冷却用として有望であると考えられる。
【特許文献1】特開2005-256834号公報
【特許文献2】特開平7-151061号公報
【特許文献3】特開2002-227770号公報
【特許文献4】特開2001-323879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この圧電式エアポンプでは、圧電振動子(ダイヤフラム)の気密構造を確保するため従来、圧電振動子の表裏にそれぞれ弾性材料からなる環状シール部材を設けていた。すなわち、ダイヤフラムの表側の周縁部とアッパハウジングの間、及びダイヤフラムの裏側の周縁部とロアハウジングの間にそれぞれ環状シール部材を介在させており、ダイヤフラム表裏に環状シール部材を設けることが技術的に必須であると考えられていた。しかし、本発明者らの解析によれば、液体漏れを心配する必要のないダイヤフラムエアポンプでは、表裏の双方に環状シール部材を設ける必要はなく、シール構造を工夫することで、単一の環状シール部材でも、十分実用に耐えるエアシールが実現できる。
【0006】
従って本発明は、ダイヤフラムと、このダイヤフラムを挟着して該ダイヤフラムの上下にそれぞれ可変圧力室を構成するアッパハウジング及びロアハウジングとを有し、該ダイヤフラムを振動させてポンプ作用を得るダイヤフラムエアポンプにおいて、単一の環状弾性シール部材でダイヤフラムの表裏の可変圧力室のエアシールができるダイヤフラムポンプを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のダイヤフラムポンプは、アッパハウジングとロアハウジングのいずれか一方に、平面円形のダイヤフラムを嵌める円形凹部を形成し、他方に、この円形凹部を跨ぐ内外径を有するシール部材収納用の環状溝を形成し、このシール部材収納用環状溝内に、ダイヤフラムの周縁部を跨ぎ、アッパハウジングとロアハウジングによって圧縮変形される環状弾性シール部材を収納したことを特徴としている。
【0008】
ダイヤフラムは、具体的には例えば、圧電振動子を用いることができる。
【0009】
この圧電振動子は、例えば、導電性金属薄板からなるシムに圧電体層を積層したユニモルフ型圧電振動子である。バイモルフ型でもよい。
【0010】
圧電振動子のシムの径は圧電体層の径より大径とし、ロアハウジングの円形凹部を、シムを嵌合させる大径段部と圧電体を非接触で収納する小径段部とから構成することで、圧電振動子の変形(振動)を容易にし、振幅を大きくすることができる。
【0011】
環状弾性シール部材の自由状態における断面形状は、例えば、矩形、円形、楕円形または長円形にすることができ、自由度がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明のダイヤフラムポンプは、アッパハウジングとロアハウジングのいずれか一方に、平面円形のダイヤフラムを嵌める円形凹部を形成し、他方に、この円形凹部を跨ぐ内外径を有するシール部材収納用の環状溝を形成し、このシール部材収納用環状溝内に、ダイヤフラムの周縁部を跨ぎ、アッパハウジングとロアハウジングによって圧縮変形される環状弾性シール部材を収納したから、単一の環状弾性シール部材でダイヤフラムの表裏の可変圧力室のエアシールができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1ないし図3は、本発明を圧電式エアポンプ(気体噴流発生装置)100に適用した実施形態である。この圧電式エアポンプ100は、圧電振動子10、アッパハウジング20、ロアハウジング30及び環状弾性シール部材40を主たる構成要素としている。アッパハウジング20とロアハウジング30は硬質樹脂材料(例えばPBT、PPS)からなり、環状弾性シール部材40はゴム材料(例えばEPDM)からなっている。
【0014】
圧電振動子10は、シム11と、該シム11の一方の面に圧電体12を積層したユニモルフタイプである(図3)。シム11は、導電性の金属薄板材料、例えば厚さ50〜200μm程度のステンレス、42アロイ等の薄板からなっている。圧電体12は、例えば厚さ50〜300μm程度のPZT(Pb(Zr、Ti)O3)等の圧電材料から構成されるもので、その表裏方向に分極処理が施されている。給電ライン13を介して、シム11と圧電体12の露出面(圧電体12の表裏)に交番電界が与えられると、圧電体12の表裏の一方が伸びて他方が縮むサイクルが繰り返され、シム11(圧電振動子10)が振動する。
【0015】
ロアハウジング30には、段付円形凹部31が形成されている。この段付円形凹部31は、圧電体12が非接触で位置する小径円形凹部32上に、シム11が嵌まる大径円形凹部33を同心に形成したものである。大径円形凹部33の径と深さは、シム11の径と厚さに対応し、大径円形凹部33にシム11を嵌めたとき、シム11の表面とロアハウジング30の周縁当付面34とがほぼ面一になる。小径円形凹部32の深さは、段付円形凹部31(大径円形凹部33)に圧電振動子10(シム11)を嵌めたとき、圧電体12と小径円形凹部32底部との間に、微小空間のロア可変容積室35が形成されるように定められている。このように、圧電振動子10のシム11だけを上下のハウジングで挟着し、圧電体12はハウジングに非接触とすることで、圧電振動子10の変形(振動)を容易にし、振幅を大きくすることができる。
【0016】
一方、アッパハウジング20には、円形凹部21と、この円形凹部21と同心の環状溝22とが形成されている。環状溝22の外径Dは大径円形凹部33の外径より大きく、内径dは大径円形凹部33の外径より小さく設定されている。つまり、環状溝22の内外径は、大径円形凹部33の最大径部(エッジ)を跨ぐように設定されている。円形凹部21の深さは、アッパハウジング20の周縁当付面23をロアハウジング30の周縁当付面34に当接させたとき、段付円形凹部31に嵌めた圧電振動子10のシム11と、円形凹部21底部との間に、微小空間のアッパ可変容積室24が形成されるように定められている。
【0017】
アッパハウジング20の環状溝22には、環状弾性シール部材40が挿入されている。この環状弾性シール部材40の内外径は、環状溝22の内外径に対応しており、圧電振動子10のシム11の外径エッジを跨ぐように設定されている。また環状溝22の深さと環状弾性シール部材40の厚さは、アッパハウジング20の周縁当付面23とロアハウジング30の周縁当付面34を当接させて締結ねじ27で締結したとき、環状弾性シール部材40が20〜30%程度圧縮されるように定める。図示実施形態の環状弾性シール部材40は、自由状態で断面矩形をなしているが、断面円形、長円形、楕円形等の任意断面を使用できる。
【0018】
アッパハウジング20とロアハウジング30にはそれぞれ、アッパ可変容積室24とロア可変容積室35を外部に連通させるアッパ給排孔26とロア給排孔36が形成されている。このアッパ給排孔26とロア給排孔36は、アッパ可変容積室24とロア可変容積室35の底面と、アッパハウジング20とロアハウジング30の側面との間に延びている。アッパ可変容積室24とロア可変容積室35の体積(断面積)は、圧電振動子10の振動に伴う空気の吸引吐出が、できるだけ衝撃的に行われ圧縮比が高くなるように定められている。また、アッパ給排孔26とロア給排孔36の圧電式エアポンプ100の側面に対する開口端は、上下位置が異なるように、千鳥状に配置されている。このアッパ給排孔26とロア給排孔36には、適宜パイプを接続して任意位置に開口させることができる。
【0019】
本圧電式エアポンプ100がどの程度の大きさを有するかの一指標として、具体的な寸法例を挙げる。
アッパハウジング20(ロアハウジング30)=35mm□
アッパハウジング20とロアハウジング30の合計厚=3mm
シム11の厚さ=0.2mm
圧電体12の厚さ=0.2mm
自由状態におけるシム11と円形凹部21の隙間(アッパ可変容積室24の深さ)=0.15mm
自由状態における圧電体12と小径円形凹部32の隙間(ロア可変容積室35の深さ)=0.15mm
圧電振動子10の振幅=0.15〜0.2mm
【0020】
以上の圧電式エアポンプ100は、給電ライン13を介して圧電体12の表裏に交番電界を印加することにより、圧電振動子10は平面円形の中央部分の振幅が最も大きくなるように振動する。すると、アッパ可変容積室24(ロア可変容積室35)の容積が拡大する行程では、アッパ給排孔26(ロア給排孔36)からアッパ可変容積室24(ロア可変容積室35)内に空気が吸引され、アッパ可変容積室24(ロア可変容積室35)の容積が縮小する行程では、アッパ可変容積室24(ロア可変容積室35)内からアッパ給排孔26(ロア給排孔36)に空気が吐出される。この空気の吸引吐出は、できるだけ衝撃的に行われるように、アッパ可変容積室24(ロア可変容積室35)及びアッパ給排孔26(ロア給排孔36)の体積(断面積)が定められているから、アッパ給排孔26(ロア給排孔36)の開口端近傍で空気の移動を生じさせ、冷却作用を得ることができる。
【0021】
以上の実施形態の説明では、便宜上、「アッパ」「ロア」の語を用いたが、気体噴流発生装置圧電式エアポンプ100の使用状態での上下関係を述べたものではないことは明らかである。
【0022】
以上の実施形態は、圧電振動子10としてユニモルフ型を用いたが、シムの表裏に圧電体を設けた振幅の大きいバイモルフ型を用いることも可能である。さらに、本発明は、圧電振動子以外のダイヤフラムを用いたエアポンプ一般にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるダイヤフラムを圧電式気体噴流発生装置に適用した一実施形態を示す斜視図である。
【図2】同分解斜視図である。
【図3】同部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0024】
100 圧電式エアポンプ
10 圧電振動子
11 シム
12 圧電体
13 給電ライン
20 アッパハウジング
21 円形凹部
22 環状溝
23 周縁当付面
24 アッパ可変容積室
26 アッパ給排孔
30 ロアハウジング
31 段付円形凹部
32 小径円形凹部
33 大径円形凹部
34 周縁当付面
35 ロア可変容積室
36 ロア給排孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラムと、このダイヤフラムを挟着して該ダイヤフラムの上下にそれぞれ可変圧力室を構成するアッパハウジング及びロアハウジングとを有し、該ダイヤフラムを振動させてポンプ作用を得るダイヤフラムエアポンプにおいて、
上記アッパハウジングとロアハウジングのいずれか一方に、平面円形のダイヤフラムを嵌める円形凹部を形成し、他方に、この円形凹部を跨ぐ内外径を有するシール部材収納用の環状溝を形成し、
このシール部材収納用環状溝内に、上記ダイヤフラムの周縁部を跨ぎ、アッパハウジングとロアハウジングによって圧縮変形される環状弾性シール部材を収納したことを特徴とするダイヤフラムエアポンプ。
【請求項2】
請求項1記載のダイヤフラムエアポンプにおいて、上記ダイヤフラムは、圧電振動子であるダイヤフラムエアポンプ。
【請求項3】
請求項2記載のダイヤフラムエアポンプにおいて、上記圧電振動子は、導電性金属薄板からなるシムに圧電体層を積層したユニモルフ型圧電振動子であるダイヤフラムエアポンプ。
【請求項4】
請求項3記載のダイヤフラムエアポンプにおいて、上記圧電振動子のシムの径は圧電体層の径より大径で、ロアハウジングの円形凹部は、シムを嵌合させる大径段部と圧電体を非接触で収納する小径段部とからなっているダイヤフラムエアポンプ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載のダイヤフラムエアポンプにおいて、上記環状弾性シール部材の自由状態における断面形状は、矩形、円形、楕円形または長円形であるダイヤフラムエアポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−303805(P2008−303805A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152411(P2007−152411)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】