説明

ダイヤモンドの製造方法

【課題】本発明は、高い収率がえられるダイヤモンドの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】有機化合物を含む液体中において、爆薬を爆発させることによって、ダイヤモンドを合成することを特徴とするダイヤモンドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆薬を爆発させる事によって爆薬中およびその周辺に存在する炭素原子または炭素を有する分子から、ダイヤモンドを合成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
負の酸素バランスである爆薬を爆発させる事により、その爆薬内部に存在する炭素がダイヤモンドに変換する現象は広く知られている。通常は、爆発後の生成物の収集及び爆発圧力の強化のために、ある密閉された容器内に、爆薬をセットし、爆発させ、それによって得られたスス等の残材から、ダイヤモンドを精製、採取している。このとき、容器内は、通常の大気、またはアルゴン、窒素といった不活性ガス、または水を充填することが実施、または文献等で示されている。例えば特許文献1では負の酸素バランスを与える炭素含有爆発物を閉じた空間内で爆発させる事によりダイヤモンドを製造する方法が開示されている。また、特許文献2では、カーボンナノチューブを10GPa以上の高圧で1600℃以上に加熱してナノダイヤモンドを製造する方法が開示されている。また、特許文献3では、立方晶ダイヤモンド粉末に、高速物体の衝突による衝撃波を作用させて六方晶ダイヤモンド粉末を製造する方法が開示されている。特許文献4では、水と多量の氷を満たした純チタン製の耐圧容器内でTNT(トリニトロトルエン)/HMX(シクロテトラメチレンテトラニトラミン)=50:50を爆発させダイヤモンドを製造する方法が開示されている。非特許文献1では爆発時の生成率向上のために、爆薬自体にベンゼン、グラファイト等を混錬させることも試みられているが、爆薬自体の性能を低下させるため、大きな効果は得られていない。
【0003】
従来技術ではダイヤモンドの収率が低い問題があった。原因は炭素の爆発に伴うダイヤモンド生成率の影響と爆発後の残材からのダイヤモンド精製率の影響である。特に、前者は、基本的に爆薬種類によってきまるものであり、仮に生成率が100%としても、現在の爆薬では、理論上でも爆薬重量に対して10%から30%程度しかダイヤモンドは得られない。実際は、その後の精製率の影響もあり、最終的には使用爆薬重量の5%程度しか得られていない。
【特許文献1】特許第279933号公報
【特許文献2】特開2002−66302号公報
【特許文献3】特開2003−117379号公報
【特許文献4】特開2003−125764号公報
【非特許文献1】生沼、「水中爆発によるダイヤモンドの合成」、工業化薬、1992年、第53巻、第1号、p1−p6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、爆薬を用いたダイヤモンド合成において、高い収率がえられる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、爆薬の周囲に有機化合物を含む液体を配置することにより、爆発時に生成するダイヤモンドの生成率を増加できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
1.有機化合物を含む液体中において、爆薬を爆発させることによって、ダイヤモンドを合成することを特徴とするダイヤモンドの製造方法。
2.有機化合物を含む液体の粘度が1000Pa・s以下であることを特徴とする1.記載のダイヤモンドの製造方法。
3.有機化合物が炭化水素環を有することを特徴とする1.または2.記載のダイヤモンドの製造方法。
4.前記1.〜3.のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とするダイヤモンド。
5.請求項4のダイヤモンドを含有することを特徴とする研磨材、潤滑材または耐磨耗性に優れた各種掘削、切削、切断工具類。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、ダイヤモンドを合成させる場合に、有機化合物を含む液体中において、爆薬を爆発させることによって、ダイヤモンド生成率を大きく向上させる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下具体的に説明する。本発明における有機化合物とは、炭素化合物を含む有機溶剤、有機金属化合物、単量体、重合体のことであり、炭化水素環を有する有機化合物が好ましい。本発明で用いる有機化合物の具体例としてはメタノール、エタノール、スチレン、トルエン、フェノール、ベンゼン、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。この中でも特にスチレン、ベンゼンが好ましい。有機化合物はこれらの内の1種を用いてもよいし、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0008】
本発明における有機化合物を含む液体とは、25℃、1気圧において液状の有機化合物単独、または水と有機化合物の混合物で、25℃、1気圧で液状のもの、いずれでもよい。
本発明における液体中の有機化合物の含有量は1vol%〜100vol%が好ましい。さらに好ましくは20vol%〜100vol%であり、最も好ましくは50vol%〜100vol%である。
【0009】
有機化合物を含む液体の粘度は、衝撃波の減衰防止、容器への充填性、爆発後の回収性の観点から1000Pa・s以下であることが好ましい。更に好ましくは500Pa・s以下である。最も好ましくは20Pa・s以下である。
本発明で用いられる爆薬とは、爆轟波を発生する火薬のことであり、具体的にはトリニトロトルエン、シクロトリメチレントリニトラミン、シクロテトラメチレンテトラニトラミンなどを挙げることができる。爆薬はこれらを単独で用いてもよく、2種以上の混合物で用いてもよい。
【0010】
ダイヤモンドの製造方法の例を図1で説明する。図1は、爆薬の周りに有機化合物を含む液体を配置する方法の概略図である。図1において、容器3は爆薬2の爆発にも損傷しない非常に堅強な構造とした。この容器3には、予め液体状の有機化合物が充填されており、その中に雷管1をセットした爆薬2を容器3のほぼ中央にセットする。雷管1を起爆させると、非常に高圧の爆轟波が爆薬2および周囲の有機化合物を含む液体に作用し、それらの構成要素の1つである炭素をダイヤモンドに変換させる。使用する爆薬2の種類、組成、形状、量に何ら制限はないが、酸素バランスが負であるものが好ましく、更に好ましくは爆薬2の爆轟速度が4000m/sec以上のものである。また爆薬2の周囲に配置する容器3に充填する粘度が1000Pa・s以下の液体は、有機化合物単独でも異なる有機化合物の混合物でも、あるいはそれらと水との混合物でもよく、容器3の容積全体に対して、1vol%以上含まれていればよい。好ましくは炭素原子を有する事であり、更に好ましくは、有機化合物が炭化水素環を含んでいることである。有機化合物としては、ベンゼン、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン等の各種樹脂類やモノマー類が適用できる。
【0011】
本発明で製造されたダイヤモンドは研磨材、潤滑材および耐磨耗性に優れた各種掘削、切削、切断工具類等に適用できる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
[実施例1]
内径300mの球形鋼製容器にスチレンモノマーを充分に充填し、その中に雷管をセットしたTNT:RDX=70:30wt%の爆薬10gをセットし、爆発させた。その後、残材を回収、分析した結果、非常に微細なダイヤモンドが、0.2g採取できた。この爆薬組成における理論上でのダイヤモンド生成量は2.1gであり、10%の収率であった。
【0013】
[比較例1]
内径300mの球形鋼製容器に水を充分に充填し、その中に雷管をセットしたTNT:RDX=70:30wt%の爆薬10gをセットし、爆発させた。その後、残材を回収、分析した結果、非常に微細なダイヤモンドが、0.09g採取できた。この爆薬組成における理論上でのダイヤモンド生成量は2.1gであり、5%の収率であった。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の製造方法は、ダイヤモンド製造の分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例で用いた製造装置の模式図。
【符号の説明】
【0016】
1 雷管
2 爆薬
3 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を含む液体中において、爆薬を爆発させることによって、ダイヤモンドを合成することを特徴とするダイヤモンドの製造方法。
【請求項2】
有機化合物を含む液体の粘度が1000Pa・s以下であることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンドの製造方法。
【請求項3】
有機化合物が炭化水素環を有することを特徴とする請求項1または2記載のダイヤモンドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とするダイヤモンド。
【請求項5】
請求項4のダイヤモンドを含有することを特徴とする研磨材、潤滑材または耐磨耗性に優れた各種掘削、切削、切断工具類。

【図1】
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【公開番号】特開2006−102656(P2006−102656A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293298(P2004−293298)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】