説明

ダイヤモンド及び他の材料の複合材料又は組成物の検体分析への利用

本発明は、化学分析又は生物分析用に、たとえばダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン材料のような、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合材料又は組成物を利用することに関する。本発明はさらにこの材料を、化学的又は生物学的試料の分離、付着及び検出に利用することに関する。カーボンナノチューブは、固定基板の表面材料として、又は検査液中での利用が予想される。構造化された基板又はこの材料からなる混合相粒子の用途には以下に限定されるわけではないが、試料の吸着-イオン化、より詳細には質量分析を含む過程が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板及び/又はマトリックス材料として吸着-イオン化分析法に利用するための組成物並びに、当該組成物の製造方法及び、組成物を使用する脱離-イオン化分析用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析(MS)は、試料を特定するために試料分子の質量、及び試料の断片の質量を測定するのに使用される。質量分析は、たとえばタンパク質及びペプチドのような生物学的分子の分析用ツールとして不可欠なものとなっており、MSが広範に使用されているという事実は、従来技術によって十分に、すなわち確定的に決定できなかった構造に関する問題を解決する能力をMSが有していることの表れである。
【0003】
基本的には、MS分析は、試料を分子に分解し、その分子をイオン化装置によって気体イオンに変換する手順、質量分析装置内でこれらのイオンを分離する手順及び、電子増倍管によってこれらのイオンを検出する手順を有する。その結果は、分子の質量とそれに対応するイオンの電荷との比を表すスペクトルとなる。
【0004】
最も一般的に使用されている分析装置は、磁場中でのイオンの加速又は、飛行時間(TOF)のいずれかに基づくものである。TOFでは、既知の電圧で試料のイオンが加速され、既知の距離を進むのに要した時間を測定する。
【0005】
あるいはその代わりに、特定範囲内で分子を選択した後、極性が急速に変化する磁極にイオンを通過させることで質量を得ることができる。
【0006】
飛行時間測定は、イオンが反発電場の影響を受けるように、電源での加速電圧よりもわずかに大きい印加電圧を有するリフレクトロン又はイオンミラーを供することでさらなる改善が可能である。
【0007】
試料のイオン化は、エレクトロスプレイイオン化(ESI)又は脱離イオン化のいずれかによって実行することが可能である。後者は、基板に吸着する試料の状態から開始することで、容易に気体状態とならない分子の分析を可能にする。直接的脱離イオン化技術は広範には使用されてこなかった。その理由は、分子がレーザーに直接露光されることで、大抵の場合において急激な分子の劣化(degradation)及び分裂(fragmentation)が観測されるためである。脱離質量分析における重要な改善点は、試料の脱離及びイオン化を行う手段として有機材料を導入したことである。この技術は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化法(MALDI)とも呼ばれている。マトリックスが試料材料に過剰に加えられ、それは、効率の良いプロトン吸収体及び分子へのエネルギー伝達装置として機能するものとして信じられている。MALDI-MSにおいてはUVレーザーが一般的なので、UV光を吸収するマトリックス分子が必要となる(ジヒドロ安息香酸又はトランス-ケイ皮酸が非常に一般的である)。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0048531号明細書
【非特許文献1】Thomas J他、Proceedings of National Academy of Science、第98巻、pp.4932、2001年
【非特許文献2】Suh及びLee、Applied Physics Letters、第75巻、pp.2047、1999年
【非特許文献3】Hu他、Applied Physics Letters、第79巻、pp.3083、2001年
【非特許文献4】Hofmann他、Applied Physics Letters、第83巻、pp.4661、2003年
【非特許文献5】Tsangs.C他、Journal of Chemical Society、第17巻、pp.1803、1995年
【非特許文献6】Davis J.J他、Inorganica Chimica acta、第272巻、pp.262、1998年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
MALDIは非常に広範に使用されているが、マトリックスそれ自体によって導入される信号ノイズによってその機能が制限される。MALDI法では、分析される分子溶液を有機樹脂に混合する。樹脂に混合された溶液は試料プレート上に設置され、かつ凝固させることが可能である。多数の試料の保持が可能な試料プレートを“飛行時間”分析を行う真空チャンバに搬入する。基板上の有機マトリックスは、エネルギー吸収体として機能しながら、検出される分子種を保持する。レーザーがマトリックス-検体の混合物に作用し、マトリックスがレーザーのエネルギーを吸収するときに、マトリックスは蒸発する。その結果、検体及びマトリックス成分を含む脱離分子が質量分析にかけられる。マトリックス材料分子によって信号は加算されるが、小さな分子の検出が妨げられてしまう。収集された信号にマトリックス分子が含まれてしまうことで、本方法の低質量分子の検出は500[amu]より大きなものに制限されてしまう。ただし、約100000[amu]までの広範囲な分子を分析するのに有効であることは証明されている。よって、低質量の検体(m/zが500未満)では、再現性のない混合した共晶化、電解質及び他の付加物によるイオン化の抑制並びに、マトリックスイオンからの干渉によって、MALDIは、その自動高速処理のコンビナトリアル分析及びチップアレイ分析での用途が制限されてしまうことになる。低質量及びノイズによる制限に加えて、この系のさらなる失敗要因が試料調製それ自体に存在する。その理由は、マトリックス/試料の混合には、習熟した化学操作が求められ、大抵の場合、時間のかかる乾燥が必要となり、かつ大規模な診断用途には処理限界があるためである。マトリックス材料の使用は大抵の場合、付加的な洗浄手順を必要とし、かつマトリックス、溶媒及び試料が化学的に相性の良いものであることが求められる。そしてついには、各々のレーザー波長(たとえば可視又はIR)について、それに適したマトリックスを使用しなければならなくなる。
【0009】
SELDI(表面増強レーザー脱離/イオン化)又はSALDI(表面支援レーザー脱離/イオン化)質量分析と呼ばれる、この技術のバリエーションは、質量分析のための蒸発の前及び最中に、試料と表面とが相互作用する過程を有する。表面は洗浄過程同様に、(生物学的)検体と相互作用する結果、材料の選択的保持(又は解放)が起こるように修飾されている。このことにより、最終的にはMSスペクトルの改善つまり、良好なS/N、低バックグラウンド、及び/又は、MSピーク若しくはMSピークパターンのより確実な同定を可能にする。脱離イオン化は、電気化学的にエッチングされた従来のポーラスシリコンで実現される(非特許文献1)。特許文献1は、シリコンのような多孔性光吸収半導体基板、より詳細には、可視DIOS-MSでの脱離イオン化用気相成長膜の使用について説明している。しかし、ポーラスシリコン表面の表面化学的性質は、特定の官能化(炭素との相性が良くない)には好ましくなく、シリコン表面は規則的に酸化されることで接触抵抗となる。Junghwa他(2002年)は、SALDIにおいて、プロトン源としてのグリセリンと組み合わせてグラファイト板を光子吸収材料として使用することの潜在的利点について説明している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ダイヤモンドはプラズマ化学気相成長(CVD)プロセスを含むがそれに限らず、様々なCVDプロセスにより、多結晶の状態での成長が可能であることが知られている。成長条件に依存する相の純度は、ラマン分光法によって決定することが可能である。CVDダイヤモンドはホモエピタキシャル及びヘテロエピタキシャルの単結晶として成長させることが可能だし、成長条件に依存する個々の晶子及び結晶ドメインのサイズを有する多結晶状態で成長させることも可能である。使用する基板の表面前処理は堆積プロセス前に実行される。堆積は、用途に応じてそれぞれ異なる基板上で実行されて良い。基板にはガラス及びシリコンが含まれる。非特許文献2は、多孔性シリコン上のCVDダイヤモンド膜の堆積について説明している。非ダイヤモンドカーボン相は、多結晶ダイヤモンド膜粒界でよく見いだされる。これらは酸化剤によって除去可能である。CVDダイヤモンド成長中、化合物をCVD気相に加えることが可能である。気相CVDダイヤモンドに加えられる化合物は、成長するダイヤモンド材料とともに堆積され、ドーパントとして機能する、つまり、CVDダイヤモンドの電子特性を、絶縁性からn型又はp型半導体のような性質に変化させ、吸収端を長波長側へ移動させる。
【0011】
選択的にDNA又は他のバイオポリマーを表面に結合させるため、CVDダイヤモンドを含むダイヤモンドの表面は、たとえば表面の一部又は前部を水素終端又は酸素終端することで化学的に修飾することが可能である。その選択的にDNA又は他のバイオポリマーが結合した表面は、たとえば様々な化学反応を起こすのに利用することが可能である。それに加えて、多孔性(そして上述のように相はより純粋である)シリコン構造を得るため、CVDダイヤモンドを酸素エッチングすることが可能である(非特許文献3)。
【0012】
本発明は、試料中の検体を検出する方法において、ダイヤモンド及び他の材料の複合材料又は組成物を使用することに関する。より詳細には、本発明はダイヤモンド及び他の材料の複合材料又は組成物に関し、より詳細には、たとえば、脱離-イオン化を有する検体検出法で用いられるのに有利な非ダイヤモンド状態カーボンのような導電性材料に関する。本発明の材料は、たとえばエネルギーを放出するような、試料上でエネルギーを使用する手順を有し、それによって試料中の検体を荷電粒子に変換し、その荷電粒子を検出器によって検出する手順を有する検体検出方法での利用に有利である。より詳細には、本発明に従った材料は、質量分析(MS)での使用に固有な利点を与える。より詳細には、本発明の材料はMALDI等の分析法での基板又は混合物として使用可能である。
【0013】
よって本発明の第1態様に従うと、たとえばカーボンのような、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料又は組成物(以降、ダイヤモンド/非ダイヤモンド組成物材料すなわちD/NDCと表記する)は、試料中の検体検出方法で使用される。
【0014】
本発明の特定実施例は、脱離/イオン化分析法において基板としてダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料又は組成物を使用することに関する。より詳細には、本発明の材料は、質量分析における基板に適している。
【0015】
本発明に従うと、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合材料又は組成物における非ダイヤモンド成分は導電性であり、それにより当該ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合材料又は組成物は導電性となる。この性質は重要な利点を有する。その利点とは、本発明の材料表面に捕獲、固定又は吸着する検体に対して定電圧、交流電圧又はパルス電圧を印加するため、当該材料は、支持構造を介して電気的コンタクトをとることが可能なことである。本発明の特定実施例に従うと、複合材料又は組成物の非ダイヤモンド成分は如何なる非ダイヤモンドカーボンの状態でも良い。
【0016】
本発明に従うと、基板特性改善のため、並びに/又は、試料中の検体の選択的付着及び/若しくは解放を可能にするため、任意で、たとえばカーボンのようなダイヤモンド/非ダイヤモンド組成物基板又はその表面は物理的方法又は化学的方法で修飾すなわち官能化される。物理的修飾は、カリフラワー若しくは針状構造を有する3次元構造を有して良く、その3次元構造は材料を多孔性にする。よって本発明の特定実施例は、3次元(表面)構造を有するダイヤモンド組成物材料の脱離/イオン化分析法への利用に関する。本発明の別な実施例は、多孔性ダイヤモンドカーボン組成物膜の脱離/イオン化分析法への利用に関する。
【0017】
化学的官能化は、反応性、非反応性、有機、有機金属及び非有機の種を有する適切な分子によって実現可能である。より詳細には化学修飾は、酸化、還元及び化学基の付加のような手順を有して良い。
【0018】
本発明の材料における一の特別な利点は、その材料が広範な波長範囲で効率よく吸収することだけではなく、その特性を、たとえば励起/照射/脱離手順で使用される光源のようなエネルギー源に適合させるように、吸収を調節することが可能なことである。よって、本発明の態様に従うと、たとえば検体が取り付けられた基板を照射するような励起手順は、波長100nm〜1000nmの光源を使用することで実行可能である。つまり光源には、紫外光、可視光又は赤外光が含まれる。よってそれに加えて、又はその代わりに、本発明に従うと、ダイヤモンドカーボン組成物の組成は、試料の脱離/イオン化に用いられる光源の波長に対応する特定波長での吸着を保証するように適合される。
【実施例】
【0019】
よって本発明の一の態様は、物理的特性の分析に適した検体イオンの提供方法について検討(contemplate)する。本方法は:
a)基板表面にダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の組成物又は複合体を供する手順;
b)決定されるべき物理的特性を有する検体を有する試料の多数をダイヤモンド/非ダイヤモンド材料基板に供する手順;及び、
c)検体が取り付けられた基板にエネルギーを放出することで、イオン化された検体を供する手順;
を有する。
【0020】
減圧下で一旦イオン化されると、検体イオンは所望の物理的特性を決定する分析に適したものとなる。検体を分析する手順は、一以上の物理的手法による分析法を有する。物理的手法による分析法は例として、質量分析、電磁波分光、クロマトグラフィ及び当業者に既知である他の物理的分析法を有する
よって本発明の特定実施例に従うと、検体イオンの物理的特性を決定する方法が検討される。本方法は以下の手順を有する。
a)基板にダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の組成物又は複合体を供する手順;
b)決定されるべき物理的特性を有する検体を有する試料の多数をダイヤモンド/非ダイヤモンド材料基板に供する手順;及び、
c)検体が取り付けられた基板にエネルギーを放出することで、イオン化された検体を供する手順;及び、
d)検体イオンの物理的特性を分析する手順;
特定実施例では、決定される物理的特性は質量で、検体イオンの物理的特性を決定する、上で検討された方法は、以下に限定されるわけではないがMALDI-MS又はSELDI-MSのような質量分析技術によって、検体イオンの質量と電荷との比(m/z)を分析する。
【0021】
よって本発明は、試料の質量スペクトル分析用の改良された方法及び装置に関する。
【0022】
より詳細には本発明は、検体の物理的特性の決定への、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の組成物又は複合体の使用に関する。
【0023】
新しい脱離/イオン化手法として、本発明は優れた感度、汚染に対する高い許容度を与え、マトリックスの使用を必要としない。あるいはその代わりに、本発明の材料は、MALDIのような分析法におけるマトリックスとして、粒子の状態で使用することが可能である。しかも、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料又は組成物の表面特性、より詳細にはダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合材料又は組成物の表面特性は容易に調節することが可能で、本発明は、生物学的分子の質量分析用途に関する改善された分析法を提供する事が可能である。これは、たとえば細胞組織、血液又は他の流体の試料分析のような、ヒト、動物及び植物試料を含む生物学的試料の分析に特に有効である。よって本発明は、たとえば診断用に分解能が改善された分析方法を提供する。
【0024】
別な態様に従うと、本発明は分析用のイオン化された検体を供する装置に関する。その装置には一以上の基板が供されて良い。その基板は、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料若しくは組成物を有する基板、又はダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体若しくは組成物でコーティングされた基板で、より詳細には、本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンド材料である。装置はまた、たとえばほんの一例として光エネルギー源のようなエネルギー源をも有する。放射光源が、検体が吸着している本発明の基板を照射するとき、照射によって、分析用検体の脱離及びイオン化が引き起こされる。
【0025】
他の実施例に従うと、本発明は、分析用のイオン化検体を供する装置での使用に特化して適合した基板に関し、より詳細には、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料若しくは組成物を有する基板又は、ダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン材料の組成物若しくは複合体でコーティングされた基板に関する。本発明の特定実施例は、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料若しくは組成物を有する基板又は、ダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン材料の組成物若しくは複合体でコーティングされた基板に関する。その基板の物理的特性及び/又は化学的特性に基づいて、本発明の基板は、イオン化された検体分析法の改善を可能にする。
【0026】
別な態様に従うと、本発明は、本発明のダイヤモンドカーボン複合材料を使用することで生成される質量分析パターンに関する。そのようなパターンは、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料に特徴的なピークの存在(本発明の材料が従来のマトリックスとして使用されるとき)又は、検体と本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンド複合体若しくは組成物基板材料との間の相互作用による特定プロファイルによって特徴づけることが可能である。よって本発明の別な態様は、本発明の基板を使用して得られるパターンを有する、メモリ素子中のデータ構造に関する。そのようなメモリ素子の例としては、ディスク、コンピュータメモリ若しくはネットワーク素子のメモリのような固体記憶素子、CD-ROM若しくはDVD-ROMのような光学記憶素子又はテープ記憶素子である。
【0027】
本発明は、特定の実施例に対して、いくつかの図を参照することで説明されているが、本発明はそれらによっては限定されず、「特許請求の範囲」の請求項によって限定される。図は単なる概略図であり、本発明を限定するものではない。図中には、強調されている構成要素があり、それらは正しいスケールで描かれていない。
【0028】
さらに明細書及び請求項で使用される、第1、第2、第3等の語は、似たような構成要素同士を区別するために使用されているものであり、順次的順序又は時系列的順序を表しているわけでは必ずしもない。よって使用されている語は適切な状況では交換可能で、本明細書で説明されている本発明の実施例は、ここで説明又は図示されていない手順で動作することが可能であることに留意すべきである。
【0029】
しかも、明細書及び請求項で使用される、上部、下部、上、下等の語は、説明目的で使用されているものであり、相対位置を表しているわけでは必ずしもない。よって使用されている語は適切な状況では交換可能で、本明細書で説明されている本発明の実施例は、ここで説明又は図示されていない手順で動作することが可能であることに留意すべきである。
【0030】
本発明は、生物学的検体の分析方法及び装置への、たとえばD/NDCとも呼ばれるカーボン材料のようなダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料又は組成物の使用に関する。
【0031】
本発明に従った‘ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物’は、純粋なダイヤモンド相だけで構成されるのではなく、非ダイヤモンド成分からも構成される材料である。非ダイヤモンド成分は導電性材料である。本発明の特定実施例に従うと、この非ダイヤモンド成分は非ダイヤモンドカーボン成分である。典型的には、ダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン材料は、化学気相成長法によって得られ、ラマン分光法によって明らかにされるように、欠陥を示す粒界及び、非ダイヤモンドカーボン相(‘混合相’とも呼ばれる)を有する。より詳細には、本発明の材料のラマンスペクトルは、“ダイヤモンド”ピーク(1332±15cm-1で)及び一以上の付加的なラマン結合によって特徴づけられる。非常に小さなダイヤモンドグレインサイズについては、1150±50cm-1でのピークもまた、組成物又は複合材料中のダイヤモンドの存在を示唆する。付加的ラマン結合に関しては、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料又は組成物のラマンスペクトルは、ダイヤモンドピークに加えて、特徴的な”G”(グラファイト)及び/又は”D”(無秩序)ピークを示す。ここで非ダイヤモンド材料はカーボンである。これらは両方とも広がり、前者については、〜1530cm-1から1600cm-1までの広帯域で、後者については、〜1140cm-1から1300cm-1までの広帯域である(これがダイヤモンドピークをなしているように見える)。
【0032】
よって本発明の特定実施例に従うと、非ダイヤモンド材料はカーボンであって、ダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合材料は、1100cm-1から1700cm-1の間に少なくとも二のピークを有するラマンスペクトルによって特徴づけられる。より詳細には、一のピークは、1332±15cm-1又は1150±50cm-1であって、他方のピークは、1560±30cm-1である。
【0033】
本発明の特定実施例に従うと、ダイヤモンドピークと、たとえばグラファイトピークのような非ダイヤモンドピークとの比(ダイヤモンドグラファイトラマン比とも呼ばれる)は、0.1から1000の間であり、より詳細には10から100の間である。
【0034】
よって本発明の特定実施例に従うと、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物は、1%より大きな非ダイヤモンド不純物を、詳細には少なくとも5%の非ダイヤモンド不純物を、より詳細には5%から50%の間の非ダイヤモンド不純物を含む。不純物はそれぞれ異なる分析法に基づいて決定することが可能である。分析法には、以下に限定されるわけではないが、ラマン分光法、透過分光法、化学分析及び、熱伝導測定(これはラマンデータと相関がある。非特許文献4参照)が含まれる。
【0035】
本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料は、当業者に既知のそれぞれ異なる方法で得ることができる。特定実施例に従うと、ダイヤモンドカーボン複合材料は、化学気相成長(CVD)法によって得られる。典型的にはCVD法では、水素過剰の状態で炭化水素(たとえばメタン)ガスをプロセスガスとして使用する。化学気相成長法は、固体表面の上方で起こる気相化学反応を含む。これにより、表面上に材料が堆積される。ダイヤモンド膜を製造するすべてのCVD法は、気相の炭素含有先駆体分子(precursor molecules)を活性化させる手段を必要とする。これは一般的には、熱(たとえば熱フィラメント)若しくはプラズマ(直流、高周波又はマイクロ波-またはマイクロ波プラズマ支援化学気相成長又はMPCVDとも呼ばれる)活性化又は、燃焼による炎(オキシアセチレン又はプラズマトーチ)の使用を含む。あるいはその代わりに、ダイヤモンドカーボン粒子のスピンコーティング(非特許文献5で説明されているような)を含む方法を使用しても良い。
【0036】
様々な堆積プロセスにおける成長速度は大きく変化し、試料中のsp3結合カーボン(ダイヤモンド)とsp2結合カーボン(グラファイト)との比、組成(たとえばC-C結合に対するC-H結合の含有量)及び結晶性に依存する。一般的には、燃焼法は高速(典型的には100-1000μm/hr)でダイヤモンドを堆積させる一方、熱フィラメント法及びプラズマ法は、かなり低い成長速度(典型的には0.1-10μm/hr)を有する。本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合材料は利点を有する。その利点とは、その材料は純粋な相からなるダイヤモンドよりも速い成長速度を有するので、低コストで調製可能なことである。
【0037】
CVDの間に得られる表面モフォロジーは、気体混合比及び基板温度に大きく依存する。‘ゆっくりとした’成長条件-低CH4分圧で低基板温度-の下では、微結晶が得られる。上記成長条件では、三角の{111}ファセットが最も明確で、多くの明確な双晶の境界である{100}ファセットが同調して、先駆気体混合物中におけるCH4の相対濃度、及び/又は基板温度が上昇するのに伴って、正方形及び長方形の両方の形状を表す微結晶膜が支配的になり始める。そのような微結晶膜の断面積は、成長が基本的には柱状であることを示している。さらにCH4分圧が高くなると、結晶モフォロジーは完全に消え、その結果ダイヤモンドナノ結晶と無秩序グラファイトとの凝集体が生じる。
【0038】
CVDダイヤモンド膜は、多数の各異なる成長基板上で成長させることが可能である。最も一般的な基板は単結晶シリコンウエハである。主要な要求は、基板がダイヤモンドの成長に要求される温度範囲(600K-1600K)よりも(プロセス時の圧力において)高い融点を有していなければならないことである。適した成長基板には、たとえばMo、Ti、Ta又はCuのような金属及び、たとえばシリカ、ガラス、Ge、サファイア、ダイヤモンド自体、グラファイト、シリコン又は半導体に含まれる材料のような非金属が含まれる。
【0039】
あるいはその代わりに、本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料又は組成物は、高圧下で得られた多結晶ダイヤモンド粒子から得ることも可能である。多結晶ダイヤモンド/金属複合体は、工具業界ではPCDとして知られていて、高圧合成ダイヤモンド及び、グレイン間のコバルト(又は別な金属)結合剤から形成される。ダイヤモンドの爆発合成は、グラファイトターゲットに重い材料(ウラン)を打ち込んで衝撃波を発生させ、グラファイトをダイヤモンドに変換することで実行される。その結果生じた微少ダイヤモンドグレイン、それはよく研磨で使用される、はグラファイトカーボン及び/又は、金属の残骸を有する。そのような粒子は、直接的に本発明で使用され、又は(たとえば加熱加圧成型法によって)主要構成部(body)に加工されることによって本発明で使用されても良い。
【0040】
より詳細には、本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物は、導電性つまり、絶縁性又は半導体的からなる純粋な相とは対照的に、抵抗がほとんどない状態でキャリアがその材料を流れることが可能であることを特徴とする。この特徴は重要な利点を有する。その利点とは、本発明の材料表面に捕獲、固定又は吸着する検体に対して定電圧、交流電圧又はパルス電圧を印加するため、当該材料は、支持構造を介して電気的コンタクトをとることが可能なことである。本発明の材料の導電性は、複合体又は組成物中における、たとえばカーボン又は他の導電性材料のような非ダイヤモンド相の存在によって決定される。
【0041】
本発明に従うと、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の組成物又は複合体は、試料をエネルギー源に与えるための(サンプルプローブ上の)基板として使用することが可能である。この後に分析がなされる。その材料の使用は、混合相粒子として、固定基板の状態での使用又は、他の状態のいずれかで使用されることが考えられる。固定基板は、膜の状態で良く、任意で基板材料(これは、たとえばダイヤモンドのような類似のものでも良いし、又はダイヤモンドカーボン複合材料から完全に異なっていても良い)上に堆積されたコーティングとしてでも良い。典型的には、そのような基板又はコーティングされた基板は、ベース構造上又は担体上で固定され、如何なる適切な材料(たとえばアルミニウム)で構成されて良い。よって固定基板は(少なくとも)サンプルプローブのサンプル提供面を構成する。
【0042】
本発明に従うと、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料は製造可能であり、かつ/又は、各異なる表面モフォロジーが得られるような処理が可能である。よって、構造上混合した製造物(CVDダイヤモンド針を有するバルクCVDダイヤモンド)上での連続膜(孔は存在しない)状態から完全に個別化した針状態までに及ぶ状態で、ダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合体膜を得ることができる。針状態はでもはや接続したネットワークを形成されない。そのような配向した、針状CVDダイヤモンド構造は、表面モフォロジーに従ってバイオポリマーを配向させることが可能なため、捕獲プローブアクティビティ、活性表面領域及び効率が増大する。よって、その材料の表面モフォロジーは特定用途に対して調節することができる。
【0043】
非特許文献3で説明されているように、針状ダイヤモンドはたとえば、ダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合材料の部分酸化によって調製することが可能である。
【0044】
適切な(表面)モフォロジーは、たとえばカーボン複合材料のようなダイヤモンド/非ダイヤモンドの特定製造プロセスを使用することによって、又は、たとえばダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料の気相成長のような製造中に、特定の条件を適用することによって得ることができる。よって、針のようなユニットのネットワークにおける間隔及び高さは、堆積中に使用される気体混合物、酸化、エッチング、プラズマと基板との間の電圧、基板温度、プラズマ出力、プロセス圧力、基板近くの電場、堆積気体及び流速、チャンバ条件及び基板温度を含む可変量によって調節可能である。
【0045】
本発明の特定実施例に従うと、材料のモフォロジーは、使用される(成長)基板の選択、それ自体が特定のモフォロジーを有する基板を選択することで(少なくとも部分的には)決定される。よって、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料は、ポーラスシリコン表面のような多孔性シリコン上に堆積されて良く、同様に高い表面活性及び効率を有する基板となる。MPCVDによるポーラスシリコン上でのダイヤモンド膜の成長は、非特許文献2で説明されている。ここで説明されているように、ダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合膜は、任意でさらに修飾することができる。
【0046】
本発明の別な実施例に従うと、ダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合材料又は組成物の表面は、堆積後に修飾される。本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合材料又は組成物は、たとえばイオン注入によって得ることができる。イオン打ち込みは多くのsp3結合を壊し、壊れたsp3結合をsp2結合に変換することを可能にする。従って、より導電性を有するダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合材料が生成される。ダイヤモンドカーボン複合材料表面の修飾に使用することが可能な他の適切な方法は、エッチング、水素プラズマ表面処理又はこれらの方法を組み合わせた方法であって良い。水素プラズマ表面処理は以下のような効果を有する。第1に、ダイヤモンドカーボン複合体表面のダングリングボンドを、原子水素によって化学的に終端させることが可能で、一般的には、C-H結合は電気陰性度の違いのため、双極子を形成する。第2に、イオン照射の結果、エッチングプロセスが大量の欠陥を発生させ、ダイヤモンドカーボン複合材料の表面構造を変化させる。
【0047】
たとえば酸化剤を用いるような、ダイヤモンドの堆積後エッチングを実行する方法は、たとえば非特許文献3のように当業者には既知である。酸素によるエッチングはダイヤモンドカーボンと非ダイヤモンドカーボンとの比を変化させる。これは、ラマンスペクトルにおけるダイヤモンドピーク(1332cm-1)とグラファイトピーク(1560cm-1)との比に反映されている。本発明に従うと、エッチング中に、材料が非ダイヤモンド成分を維持し、相を純粋にしないことを保証するような注意が払われる。
【0048】
たとえばダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボンのような、本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物の物理的構造は、特定の状況に対して調節が可能である。そのような修飾は、3次元の、柱状又は針状の表面モフォロジーを与える連続基板から、もはや接続したネットワークを形成しない個別的な針状構造つまりそれは多孔性構造となる、からなる基板までに及ぶ。反射率の抑制、高い種の吸着、高い光吸収、検体塗布の制御及び増大する光吸収という点を考慮すると、改善された3次元構造は特定用途に対して興味深いものである。
【0049】
本発明のさらに別な実施例に従うと、本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン材料複合体又は組成物は、材料から生物学的検体の選択的吸着及び/又は脱離に影響を及ぼす極性又は官能基の付加によって化学的に修飾される。これはたとえば、表面の全部又は一部を、以下に限定されるわけではないが水素、酸素、塩素、アミノ基などのような分子で終端することで実行することが可能である。水素終端によって、電場誘起及びイオン誘起の電子放出の閾値は低下する。表面から放出される電子はより容易に検体を負に帯電させ、対応する負モードの脱離/イオン化結果を改善する。付加反応(たとえばフッ化オレフィンを用いる)又は引き抜き反応(たとえばアルキルアミンを用いる)のいずれかによって表面フリーラジカルをクエンチングすることで、より疎水的な表面を作ることができる。水素終端した表面から開始して、端部に保護アミン基を有する分子を、電気化学処理によって表面に付着させることが可能で、その後アミン基は脱保護化され、架橋剤に対して反応性を有するようになる。最終手順では、酵素、タンパク質又は他の生物学的分子を付着させることが可能である。CVDダイヤモンド表面の酸素終端は、そのような表面からの電子放出を抑制する能力を有する。それにより、改善された‘正モード’の脱離/イオン化データとなる。
【0050】
本発明のさらに別な実施例に従うと、本発明の材料の吸収度は、使用される脱離/イオン化プロセスで用いられる波長に対応するように調節される。これは、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合材料又は組成物に、たとえばB、P、Na、Li、As、Sbなどの適切なドーパントをドープすることで実現可能である。可能な他の方法に加え、その場ドーピング及びイオン注入ドーピングもダイヤモンドのドーピングに適した方法である。その場ドーピングは、成長ダイヤモンド材料とともに堆積され、ドーパントとして機能する化合物をCVD気相に加えることで実行することが可能である。たとえば、窒素又はボロンをドープすることでダイヤモンドの吸収波長が長波長側に移動、つまり小さなエネルギーの側に移動する(非特許文献6)。
【0051】
膜成長中でのその場ドーピングに加え、イオン注入もまた、ダイヤモンドドーピングを可能にする。イオン注入は、エネルギーを有する原子(イオン)を、その高い運動エネルギーによって固体ターゲットに侵入させる方法である。sp3結合のカーボン(ダイヤモンド)は絶縁体で、sp2結合のカーボン(グラファイト)は導体である。イオン注入はたとえば、高温注入及びポストアニーリング処理によって実行することが可能である。電気的活性中心を導入するこの方法の効率は、注入中のダイヤモンド温度及び引き続いて行われるアニーリング中の条件で大きく変化する。
【0052】
本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン複合材料の高い熱伝導率は、脱離/イオン化分析にとって長所である。その理由は、表面によって吸収されるレーザー光は、拡張された領域で急速かつ均一に分布し、その表面から大量の検体が素早くかつ均一に脱離することを可能にするからである。
【0053】
本発明に従うと、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物は試料分析、より詳細には試料内の検体検出に使用される。試料は、有機若しくは無機化合物、生化学物質、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物、脂質、核酸、細胞、細胞組織、微生物又はこれらの混合物であって良い。
【0054】
よって本発明の一の実施例に従うと、試料がダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物を有する基板上に塗布され、検出手段によって分析される。より詳細には、分析には試料へのエネルギー放出過程が含まれ、それにより、試料中の検体が帯電し、(選択的に)基板から離れ、典型的には、真空チャンバへ入り込む。その真空チャンバは電場を有し、その電場は帯電した検体が検出装置へ向かって又は検出装置を通り抜ける移動を誘起する。
【0055】
試料のイオン化された/気体の状態は、試料及び使用される検出手段に依存して、蒸発からイオンビーム照射までの様々な方法を使用して得ることができる。たとえば、高出力LED(広帯域又は特定色の)、放電ランプ(酸素中でCNTsを発火させ、燃焼させることが可能な写真用フラッシュ光)のような、様々な種類の光源を使用しても良い。代替的エネルギー源には、非光エネルギー源(電流、電子ビーム、イオンビームなど)が含まれる。
【0056】
特定実施例に従うと、本発明の材料は、レーザー脱離/イオン化用の基板表面として使用される。
【0057】
以下に限定されるわけではないが、固体、液体若しくは気体からの吸着を含む様々な各異なる手段によって、又は固体若しくは液体として、基板表面に直接塗布することで、試料はダイヤモンド/非ダイヤモンドカーボン材料を有する基板に塗布することができる。任意で、試料は化学分離手段によって直接塗布することが可能である。その方法は、以下に限定されるわけではないが、液体クロマトグラフィ、気体クロマトグラフィ及び堆積薄膜クロマトグラフィである。
【0058】
本発明の範囲内において、試料分析用に使用される検出装置は、質量分析でより詳細には飛行時間(TOF)分析を使用した種の特定法を有する。あるいはその代わりに、抗原-抗体反応、蛍光検出手段、光学的検出手段、放射能検出手段、電気的検出手段、化学的検出手段、抗原-抗体反応検出及びこれらの組み合わせに基づく検出方法を含む他の検出方法が本発明の範囲内で考えられる。
【0059】
任意で、本発明に従うと、試料中の検体の選択的付着及び/若しくは解放を可能にするため、ダイヤモンド/非ダイヤモンド複合体又は組成物基板は物理的方法又は化学的方法で修飾すなわち官能化される。化学的官能化は、反応性、非反応性、有機、有機金属及び非有機の種を有する適切な分子によって実現可能である。より詳細には化学修飾は、酸化、還元及び化学基(たとえばCl)の付加のような手順を有して良い。
【0060】
本発明の別な実施例では、膜は抗体、抗原又は他の化学的構成部分に架橋するように修飾される。抗体、抗原又は他の化学的構成部分は試料内で成分と反応する。検出手段は、抗原-抗体反応又は、抗体若しくは他の化学物質が膜に架橋するのを検出するのに使用される。本発明のさらに別な実施例では、ニューロン細胞、グリア細胞、骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞、角化細胞、メラニン細胞及び表皮細胞を含む細胞を架橋するように、膜は修飾される。それにより細胞は膜上で拡散する。膜は、細胞の拡散が制御又は抑制されるように修飾されることが可能である。また、架橋する細胞を有する膜を生体内に設けることも可能である。
【0061】
任意で、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物は、特定の反応を起こすための試料を上に搭載する基板としての使用が可能である。本発明のこの実施例に従うと、基板は官能化することで、試料中の一以上の分子の特定架橋及び/又は配向を保証することが可能である。その後、基板及び基板に架橋する分子が試薬と接して、分子と当該試薬との相互作用が検出される(核酸又はタンパク質を有する高速処理の反応を含む)。
【0062】
本発明のさらに別な実施例に従うと、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物を、特定の特性の存在で選別される試料のライブラリ用の基板として使用することが可能である。それにより、分析を検出手段によって実行することが可能となる。本発明のマトリックスは、高速処理の試料分析システム(つまり大規模プロテオミクス)への統合にとって特に魅力である。
【0063】
さらに別な実施例に従うと、ダイヤモンドカーボン複合材料は、有機半導体及び、分子エレクトロニクスで使用される分子とのコンタクトを作製するのに使用される。
[脱離-イオン化装置]
図1は、たとえばMALDI装置又はSELDI装置といった、本発明を使用することが可能なDI-MSのような脱離-イオン化装置の概略図である。その装置は、中空チャンバ1を有し、チャンバ内にはプローブ試料9が設置されている。チャンバは、真空ポンプ7によって真空状態が保持されている。エネルギー源8が備えられ、プローブ試料9上の検体をイオン化できるように設置されている。たとえば、エネルギー源は紫外レーザーのようなレーザーであって良い。電場発生装置6によって発生される電場及び/又は磁場によって、イオン化された検体はプローブ試料から離れる。たとえば、一連の構成装置内にある、電極3と電極5との間に電位が印加されて良い。加速されたイオン化検体は、読み出し電子機器4を有する検出器2で検出される。検出器は、プローブ試料からある距離に設置されて良く、読み出し電子機器は、イオン化検体の飛行時間決定に使用されて良い。
【0064】
本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物の如何なるものが、図1で図示されているような、脱離-イオン化装置用の試料プローブ上の基板として使用されて良い。本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンド材料の複合体又は組成物の如何なるものが、たとえばMALDI装置又はたとえばSELDI装置のような従来型DI-MSの、試料プローブ上の基板のコーティング用に、又はマトリックス材料として使用されても良い。
[脱離-イオン化素子]
図2は、脱離-イオン化装置に用いられる、本発明の実施例に従った担体を図示している。金属(アルミニウム)フレーム又はホルダは、シリコン細片によって被覆されている。シリコン細片上には、CNTsが直径2mmの円形領域で成長している(黒色)。
[光(レーザー)脱離-イオン化]
試料は、SELDIポートが備えられたABI Qstart質量分析器及び、波長337nmの窒素レーザー光を用いて分析される。基板は従来型MALDIターゲットの面に取り付けられる。ホルダを図2に示す。低質量カットオフが用いられていないことを除いては通常MALDI操作と同一の装置パラメータを有するリニアモードで、分析は実行される。
[メモリ素子に保存される質量スペクトル]
本発明のダイヤモンドカーボン複合材料又は組成物材料を使用することで生成される質量分析パターンは、ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料に特徴的なピークの存在(本発明の材料が従来のマトリックスとして使用されるとき)又は、検体と本発明のダイヤモンド/非ダイヤモンド基板材料との間の相互作用による特定プロファイルによって特徴づけることが可能である。よって本発明の別な態様は、本発明の基板を使用して得られるパターンを有する、メモリ素子中のデータ構造に関する。そのようなメモリ素子の例としては、ディスク、コンピュータメモリ若しくはネットワーク素子のメモリのような固体記憶素子、CD-ROM若しくはDVD-ROMのような光学記憶素子又はテープ記憶素子である。
【0065】
たとえ本発明に従った素子の好適実施例、具体的構築・構成及び材料が論じられたとしても、本発明の技術的範囲及び技術的思想から離れることなく、形式及び詳細に関する様々な変更又は修正が可能であることを理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】脱離-イオン化質量分析(DI-MS)装置の概略図である。
【図2】本発明の特定実施例に従った、SELDI-MSに使用されるキャリアの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物の脱離/イオン化分析法での利用。
【請求項2】
前記非ダイヤモンド材料が導電性材料であることを特徴とする、請求項1に記載の利用。
【請求項3】
前記非ダイヤモンド材料が非ダイヤモンドカーボンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の利用。
【請求項4】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、物理的及び/又は化学的方法で修飾すなわち官能化されることを特徴とする、請求項1から3のうちのいずれか1つに記載の利用。
【請求項5】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、3次元構造を有することを特徴とする、請求項1から4のうちのいずれか1つに記載の利用。
【請求項6】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、多孔性であることを特徴とする、請求項1から5のうちのいずれか1つに記載の利用。
【請求項7】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、酸化又は水素化によって化学的に修飾されることを特徴とする、請求項1から6のうちのいずれか1つに記載の利用。
【請求項8】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、固定基板として使用されることを特徴とする、請求項1から7のうちのいずれか1つに記載の利用。
【請求項9】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、前記方法において粒子溶液の状態で使用されることを特徴とする、請求項1から8のうちのいずれか1つに記載の利用。
【請求項10】
前記方法が質量分析法であることを特徴とする、請求項1から9のうちのいずれか1つに記載の利用。
【請求項11】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物の化学組成が、イオン化/脱離に使用される光源が放出する波長の光の吸収を保証するように調節されることを特徴とする、請求項1から10のうちのいずれか1つに記載の利用。
【請求項12】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物は、化学気相成長法によって成長基板上で得られることを特徴とする、請求項1から11のうちのいずれか1つに記載の利用。
【請求項13】
前記成長基板は、たとえばガラス、Ge、サファイア、ダイヤモンドそれ自体及びグラファイト、シリコン若しくは半導体を含む材料のような非金属、金属又はこれらを混合させた材料から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の利用。
【請求項14】
ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物を有する基板に試料を塗布する手順;及び、
前記試料を検出手段によって分析する手順;
を有する前記の試料分析方法。
【請求項15】
前記非ダイヤモンド材料が導電性材料であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記非ダイヤモンド材料が非ダイヤモンドカーボンであることを特徴とする、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記試料が、有機化合物、無機化合物、生化学物質、細胞、微生物、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、脂質、炭水化物、核酸又はこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項14から16のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、3次元構造を有することを特徴とする、請求項14から17のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が供される基板;
前記基板へエネルギーを与えるエネルギー源;及び、
前記基板から放出される物質を分析する検出手段;
を有する脱離/イオン化分析用装置。
【請求項20】
前記非ダイヤモンド材料が導電性材料であることを特徴とする、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記非ダイヤモンド材料が非ダイヤモンドカーボンであることを特徴とする、請求項19又は20に記載の装置。
【請求項22】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、物理的及び/又は化学的方法で修飾すなわち官能化されることを特徴とする、請求項19から21のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項23】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、3次元構造を有することを特徴とする、請求項19から22のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項24】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、多孔性であることを特徴とする、請求項19から23のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項25】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物が、酸化又は水素化によって化学的に修飾されることを特徴とする、請求項19から24のうちのいずれか1つに記載の装置。
【請求項26】
ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物を有することを特徴とする、質量分析用装置での利用に適合する基板。
【請求項27】
前記非ダイヤモンド材料が導電性材料であることを特徴とする、請求項26に記載の基板。
【請求項28】
前記非ダイヤモンド材料が非ダイヤモンドカーボンであることを特徴とする、請求項26又は27に記載の基板。
【請求項29】
前記基板がダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物のコーティングを有することを特徴とする、請求項26から28のうちのいずれか1つに記載の基板。
【請求項30】
前記ダイヤモンド/非ダイヤモンド材料複合体又は組成物がシリコン又はガラス上でコーティングされることを特徴とする、請求項29に記載の基板。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−535107(P2007−535107A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510176(P2007−510176)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【国際出願番号】PCT/IB2005/051212
【国際公開番号】WO2005/104180
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】