説明

ダイヤモンド含有ヒートシンク材及びその製法

【課題】
金属マトリックス中に金属被覆ダイヤモンド粒子を含有してなる複合ヒートシンク材において、熱伝導性の改良されたヒートシンク材を提供すること。
【解決手段】
本発明のヒートシンク材は次の各工程を経て製造される:
1. 整粒されたダイヤモンド粒子の全表面に、パイロゾル法によって金属炭化物層を形成することによって被覆ダイヤモンド粒子を得る工程、
2. 前記被覆ダイヤモンド粒子とマトリックス金属材の粉末とを密に混合して混合粉とし、焼結反応容器内に充填する工程、
3. 前記混合粉を還元性雰囲気中で加熱することによって酸素を除去する工程
4. 前記反応容器をマトリックス金属材の融点以上の加熱温度及び100MPa以上の焼結圧力に供し、該金属材を溶融して被覆ダイヤモンド粒子間の空隙に流入・充填し、金属炭化物層を介してダイヤモンド粒子及び金属材を一体化させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド含有ヒートシンク材、特に放熱性の改良されたヒートシンク材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に装着されている半導体素子の、自己又は周囲部材の発熱による劣化の回避を目的としたヒートシンク材料として、銅の2倍以上の熱伝導率を有する、ダイヤモンド(粒子)と銅または銀との複合材料が注目されている。
【0003】
共に熱伝導率の高い物質であるこれらの両料材の配合比を制御することにより、熱膨張率を半導体素子に合わせることができるのもこの材料の大きな特徴である。しかし、ダイヤモンドの銅または銀との濡れの悪さによって生じる接合部における不連続が、期待した熱伝導率が得られない原因になっている。このような欠点の解消のために、接合部に、ダイヤモンドと銅または銀との両方に化学結合性を有する金属炭化物、例えば炭化チタンを介在させる技術が公知である。
【0004】
ダイヤモンド表面にチタンなどの金属炭化物を配置することは、メタルボンドダイヤモンド工具の製造において、チタン粉末の添加やチタン蝋の適用という形で、従来から用いられている技術である。一般にSi、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wの諸金属を含む金属炭化物は、ダイヤモンド(カーボン) に比べると、銅族金属に対する濡れ性が良く、炭化物被膜を介してダイヤモンドと銅族金属との化学的な結合が期待できる。
【0005】
この際、焼結に先立ってチタン蝋の利用による金属炭化物層をダイヤモンド表面に形成する技術も公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−175626号公報
【特許文献2】特開2004−197153号公報
【特許文献3】特開平10−223812号公報
【0007】
これらの各手法では、加熱下で、炭素(ダイヤモンド)に対する親和力の大きな炭化物形成金属とダイヤモンドとの反応が先行し、生成した炭化物層を介してダイヤモンドとマトリックス金属との強固な接合が可能になるものと理解されている。
【0008】
金属炭化物自体の熱伝導率は銅または銀に比して一桁低いことから、炭化物の被覆層は可能な限り薄くすることが望まれる。しかしながら、上記のように炭化物形成金属を粉末としてマトリックス金属に添加し、加熱焼結の際にダイヤモンド表面への金属炭化物形成を期待する従来方法では、ダイヤモンド表面に形成される炭化物被覆層厚さの均一化、また厚さ自体をを厳密に制御することは困難である。
【0009】
一方、加熱焼結に先立ってダイヤモンド粒子表面に炭化物被覆を予め設定しておく手段として、スパッタリング、蒸着、CVD、溶射などの手法が知られているが、これらにおいても被覆層の厚さの均一化を厳密に制御することは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は従来のマトリックス金属材とダイヤモンド粒子との複合ヒートシンク材における前記問題を解消した、熱伝導性に優れたヒートシンク用の素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような問題は本発明においては、ダイヤモンドとマトリックス金属との確実な接合を実現しながら、熱伝導率の低い接合中間層の厚さを極力小さくすることにより、可能な最高の熱伝導性材料を創製することによって解決される。
【0012】
本発明のヒートシンク材は、整粒されかつ粒子の全表面に被覆厚さが制御された金属炭化物層を有する被覆ダイヤモンド粒子を、高い熱伝導性を有するマトリックス金属材中に、該金属材と密に接触して分散されていることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、ダイヤモンド粒子と金属材との接合中間層の形成には、熔融塩中に溶け出した炭化物形成金属とダイヤモンド(炭素)表面との反応を用いる。これはパイロゾル法と呼ばれる手法で、古くから金属チタンの回収などに利用されている。
【0014】
かかるヒートシンク材は、本発明の要旨をなす次の各工程を有する方法によって、効果的に製造される:
(1) 整粒されたダイヤモンド粒子の全表面に、パイロゾル法によって金属炭化物層を形成することによって被覆ダイヤモンド粒子を得る工程、
(2) 前記被覆ダイヤモンド粒子とマトリックス金属材の粉末とを密に混合して混合粉とし、焼結反応容器内に充填する工程、
(3) 前記混合粉を還元性雰囲気中で加熱することによって酸素を除去する工程、及び
(4) 前記反応容器をマトリックス金属材の融点以上の加熱温度及び100MPa以上の焼結圧力に供し、該金属材を溶融して被覆ダイヤモンド粒子間の空隙に流入・充填し、金属炭化物層を介してダイヤモンド粒子及び金属材を一体化させる工程。
【発明の効果】
【0015】
本発明において、炭化物形成金属とダイヤモンドとの反応によって形成された金属炭化物層は一般に緻密であって、この層を経由する金属の拡散速度は格段に小さくなる。従って未反応箇所における反応が優先することとなり、結果としてダイヤモンド粒子全表面にわたってほぼ均一厚さの炭化物被膜が形成される。さらにダイヤモンドに対する炭化物形成金属の添加量を予め設定しておくことにより、要望に応じて制御された厚さを持つ炭化物層をダイヤモンド粒子表面に形成することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のヒートシンクにおける基材としてのダイヤモンド粒子には、通常の研削・研磨材用の整粒された粒子を用いることができる。
【0017】
ヒートシンク素材は切断、表面研磨などの後加工を必要とする。従って、境界面積の減少による熱伝導特性向上には有利であっても加工が困難な粗いダイヤモンド粒子の含有は好ましくない。熱伝導特性と加工性との兼ね合いから、ダイヤモンド粒子としては平均粒径100μm以下、特に50μm以下のものが好適である。
【0018】
本発明における炭化物層形成反応は熔融塩中で実施されることから、サブミクロンサイズのダイヤモンド粒子についても孤立粒子としての被覆が可能である。しかし境界面積が増し熱伝導特性の面から不利であるので、最小限平均粒径が10μm程度以上のものを用いるのが好ましい。
【0019】
炭化物層形成反応に用いる熔融塩としては、チタンの溶融塩電解に用いられる塩浴組成をそのまま用いることができる。即ちNaCl−KCl共晶組成をベースとし、さらにCaCl2、MgCl2などの添加により、熔融温度を600℃程度に低下させた混合塩が好適である。
【0020】
操作温度は、実質的に均一厚さの炭化物層をダイヤモンド表面に形成させるために、炭化物層形成反応を混合塩の熔融温度より100℃以上高く設定し、塩浴の粘度を低く保つことにより、金属の移動を容易にする必要がある。一方800℃を超える温度に合成ダイヤモンドを長時間曝すと、ダイヤモンド粒子自体の強度が次第に低下することが知られていることから、炭化物層形成反応は800℃を超えない温度で実施することが望ましい。
【0021】
ダイヤモンド表面に形成する炭化物層は、ダイヤモンド(炭素)と高熱伝導性金属(銅または銀)との化学的結合を目指した接合層であって、炭化物層自体の熱伝導性は接合される両材質に比べて良好といえないことから、極端には数原子層の厚さで十分であり、制御可能な範囲内でできるだけ薄くすることが望ましい。
【0022】
炭化物層形成反応においては、ダイヤモンド、炭化物形成金属粉末、混合塩をそれぞれ秤量し、混合して反応容器へ仕込むという通常の手法が利用できることから、炭化物形成金属粉末はダイヤモンドに対して質量比で 0.1% とすることも可能である。この場合反応済みのダイヤモンドは原料のダイヤモンドと形状、透明度には顕著な差は認められないものの、若干灰色に着色していることが認められる。ダイヤモンド粒子表面のX線回折による炭化物の検出は困難であるが、蛍光X線分析によっては炭化物形成金属の存在を確認することができる。
【0023】
本発明における炭化物形成金属としては、広く用いられているチタンと共に、クロム、モリブデン、タングステンも好適である。これらの炭化物は銅への濡れ性が他の金属炭化物よりも良好であることが知られている。
【0024】
金属炭化物層を表面に有するダイヤモンド粒子は、銅粉または銀粉と共に混合して焼結用のカプセルへ充填してもよいが、炭化物層の表面に銅めっきを施しておくことによって、マトリックス材料の銅との接合をより確実にすることができる。
【0025】
さらに上記のめっきにおいて、析出する金属の量としてマトリックスの組成に適した分量を使用することにより、マトリックス中におけるダイヤモンド粒子の分散の均一化を図ることも可能である。銅めっき方法としては化学めっき法が簡便であるが、炭化物層に導電性があることから、電気めっき法も用いることができる。
【0026】
高熱伝導材のダイヤモンドとマトリックス材の銅とで構成されたヒートシンク素材の製作に際して、銅ならびに被覆材の炭化物の酸化は熱伝導率と接合力との低下の原因になるので、極力排除する必要があり、酸素を焼結反応に先立って反応系から除いておかねばならない。この目的で反応材料は予め水素雰囲気中において600℃以上の加熱処理を施すことが望ましい。
【0027】
焼結にはホットプレス、HIP、放電加圧焼結、超高圧力焼結といった、加圧下において銅の融点以上の温度を加える、加圧加熱焼結方法が用いられ、熔融した銅によってダイヤモンド粒子の隙間が埋められる。ダイヤモンドがグラファイトへ転移する可能性を避けるため、圧力はダイヤモンドが熱力学的に安定な領域の圧力を用いるのが望ましいが、非酸化雰囲気中における短時間加熱では、ダイヤモンドのグラファイト化を実質的に無視できるので、100 MPa程度の圧力を付加するホットプレス焼結も用いることができる。
【0028】
金属炭化物自体の熱伝導率は銅または銀に比して一桁低いことから、被膜厚さは可能な限り薄く、特にナノメートルのオーダーする必要がある。例えば粒径100μmのダイヤモンド粒子に対しては質量比で0.5 %(被覆層厚さ換算で約58nm)以下、粒径10μmのダイヤモンド粒子に対しては質量比で1.0%(被覆厚さ換算で約11nm)以下とするのが好ましい。
【0029】
但し上記被覆厚さは、ダイヤモンド粒子を球と仮定した便宜上の計算値に過ぎない。一般の研削・研磨に用いられているダイヤモンド粒子は複雑な形状を呈していることから、粒子サイズの表示においては、すべての粒子が球状を呈していると仮定して扱われる場合が多い。本発明においても便宜上球換算径で表示するが、球換算で得られる見掛けの比表面積値に対して、BET法で測定した実際の比表面積値は、常に4〜5倍の値となっていることから、実際の被覆厚さの平均値は、上記計算値の1/5程度と見積もる必要がある。
次に本発明を実施例によって説明する。
【実施例1】
【0030】
IRM 40-60(トーメイダイヤ(株)製の商品名。Microtrac UPAによる測定で平均粒径35μm)のダイヤモンド粒子に、 Ti粉をダイヤモンドに対して質量比で0.2%添加し、Ar雰囲気内、NaCl-KClの等モル混合物による熔融塩中で800℃に2時間保持し、ダイヤモンド粒子上にTiC被覆層の形成反応を行った。反応後における塩浴除去の湿式処理において、未反応のチタンがないことを、塩酸溶解液の無着色で確認した。
【0031】
得られた被覆ダイヤモンドは、顕微鏡観察により、各ダイヤモンド粒子の全表面がTiCの薄膜で覆われていることが認められた。ダイヤモンド粒子を球と仮定した計算による被覆層の平均厚さは、添加チタン量から約0.008μmと見積もられ、被覆層厚さとしては約2nmに相当した。
【0032】
得られたTiC被覆ダイヤモンド80%(質量比。以下同様)と、呼称45μmの電解銅粉20%とを十分に混合してTa薄板製の焼結カプセルに充填し、4GPa、1100℃、保持時間10分間の条件で焼結を行い、直径63mm、厚さ8mmの円板状焼結体を得た。得られた焼結体の密度は4.26g/cm3、レーザーフラッシュ法によって決定した熱伝導率は510W/m・Kであった。
【実施例2】
【0033】
前記のTiC被覆ダイヤモンド粒子上に、硫酸銅−ホルムアルデヒド系浴を用いて無電解銅めっきを行い、ダイヤモンド粒子に対して20%(質量比)のCuをTiC被覆層上に析出させた。得られたTiC-Cu被膜ダイヤモンド粒子に対して10%の電解銅粉を添加し、十分に混合してからTa製の容器に充填し、全体を水素雰囲気中にて100MPa及び1150℃の一定条件下に10分間保持することによって加圧焼結し、熱伝導率450W/m・Kの焼結品を得た。
【実施例3】
【0034】
以下に示すとおり異なる構成を有するヒートシンク材を作成した。各例において、ダイヤモンド粒子の品種はすべてIRM(トーメイダイヤ株式会社製)とし、サイズは研磨剤業界の呼称で示し、ダイヤモンド基体への炭化物被覆層形成のための添加金属量、炭化物被覆量及びCu被覆量は、それぞれダイヤモンドに対する質量%で表示した。炭化物形成反応のための(溶融塩)温度は800℃、炭化物形成反応の保持時間は2時間に固定した。マトリックス素材として呼称45μmの電解銅粉を用い、焼結は一定の圧力・温度条件5GPa及び1100℃を10分間保持して行った。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のヒートシンク用素材は従来技術製品に比べて熱伝導性に優れ、より効率的なヒートシンク材の製造に利用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
整粒されかつ粒子の全表面に被覆厚さが制御された金属炭化物層を有する被覆ダイヤモンド粒子を、高い熱伝導性を有するマトリックス金属材中に、該金属材と密に接触させて分散させたヒートシンク材。
【請求項2】
前記被覆厚さが、粒子を球と仮定した計算値において、0.1μm以下である、請求項1に記載のヒートシンク材。
【請求項3】
前記被覆厚さが、粒子を球と仮定した計算値において、0.02μm以下である、請求項1又は2の各項に記載のヒートシンク材。
【請求項4】
前記ダイヤモンド粒子の平均粒径が100μm以下である、請求項1に記載のヒートシンク材。
【請求項5】
前記金属炭化物層がTi、Cr、Zr、Hf、V、W、Mo、Nb及びTaから選ばれる1種以上の金属の炭化物を含有する、請求項1に記載のヒートシンク材。
【請求項6】
前記マトリックス金属材が、主成分としてCu又はAgを含有する、請求項1に記載のヒートシンク材。
【請求項7】
次の各工程を有する請求項1に記載のヒートシンク材の製法:
(1) 整粒されたダイヤモンド粒子の全表面に、パイロゾル法によって金属炭化物層を形成することによって被覆ダイヤモンド粒子を得る工程、
(2) 前記被覆ダイヤモンド粒子とマトリックス金属材の粉末とを密に混合して混合粉とし、焼結反応容器内に充填する工程、
(3) 前記混合粉を還元性雰囲気中で加熱することによって酸素を除去する工程、及び
(4) 前記反応容器をマトリックス金属材の融点以上の加熱温度及び100MPa以上の焼結圧力に供し、該金属材を溶融して被覆ダイヤモンド粒子間の空隙に流入・充填し、金属炭化物層を介してダイヤモンド粒子及び金属材を一体化させる工程。
【請求項8】
前記(4)の工程において、焼結圧力が加熱温度におけるダイヤモンドの熱力学的安定領域内の圧力である、請求項7に記載のヒートシンク材の製法。
【請求項9】
前記(3)の工程を水素雰囲気中、600℃以上800℃以下の温度にて行う、請求項7に記載のヒートシンク材の製法。
【請求項10】
前記(1)の工程において、被覆ダイヤモンド粒子の表面にさらに金属Cu被覆層を形成する、請求項7に記載のヒートシンク材の製法。



【公開番号】特開2013−115096(P2013−115096A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257415(P2011−257415)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000147811)トーメイダイヤ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】