説明

ダイヤモンド状炭素層を有する自己支持多層フィルム

例えば黒鉛状あるいはアモルファス炭素(すなわちa−C)などの非ダイヤモンド状炭素とダイヤモンド状炭素(DLC)との両方を含む様々な自己支持多層炭素フィルムが開示される。例えばアモルファス炭素の2つの層の間に挟まれた単一のDLC層を含む3層構造を含む最終製品において望まれる性質の特定の組み合わせに応じて、広範囲の多層構造が構成されてもよい。十分平坦な堆積面を含む適切な基板を用意する工程と、離型剤あるいは剥離剤を堆積面に塗布する工程と、複合炭素フィルムを形成するためにアモルファス炭素層とDLC炭素層との両方を含む複数の炭素層を堆積する工程と、複合炭素フィルムを基板から取り外す工程とを含む複合多層フィルムの製造方法の実施形態も開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔優先権陳述〕
本願は、米国仮特許出願第60/783,055号(2006年3月17日出願)に対する優先権を主張し、その内容は、言及することによって完全にそしてあらゆる目的のためにここに盛り込まれている。
【0002】
〔背景〕
炭素フィルムは、例えば、粒子加速器ターゲット、X線フィルタ、同位体ターゲット、後方散乱(RBS)キャリブレーションターゲット、ビームストリッパー、荷電変換ターゲット、核ターゲット、直列アッテネーター、極紫外線(EUV)ターゲット、電子顕微鏡検査基板、および、その他の多くの用途など、様々な用途に用いられる。
【0003】
そのような用途の自己支持炭素薄膜は、例えば、水溶性の有機材料によって覆われたガラス板上に炭素が堆積される、高真空下での抵抗蒸着など、様々な技術を用いて、製造されてもよい。可溶性の中間層は、その後、溶解されて、ビーム経路の内部に置かれる例えばアルミニウムフレームなどのフレームに適用される炭素フィルムを剥離する。約5μg/cmから約1000μg/cmまでのフィルムまたは偏った重さを有する薄膜は、この方法を用いて製造され得る。
【0004】
自己支持の用途において有用になるために、炭素薄膜は、得られるフィルムのねじれおよび/またはパッカリングを避けるため、ほとんど残留応力をともなわずに形成される必要がある。炭素中間層フィルムを形成する1つの特別な方法は、あらかじめ例えば7:1の割合で溶液に供給されたベタインとサッカロースとの飽和溶液によって表面が覆われたガラス板上の堆積のための炭素源材料の抵抗加熱によって、真空チャンバーの中へ炭素を放出する工程を含んでいた。
【0005】
中間層糖の結晶化は、少なくとも40%相対湿度の制御された湿度の下で上記中間層を適用することと、炭素の適用まで高真空下で被膜されたガラス板を維持することとによって、抑制され得る。この場合、昇華を誘発するのに十分な温度まで固定された黒鉛ロッドを加熱することによって、炭素が放出される。昇華した炭素は、その後、反応装置の中に用意された被覆プレートに堆積される。堆積が完了した後、被覆プレートは、反応装置から取り外され、中間層材料が溶解する水槽の中に置かれ、炭素層を剥離する。剥離された炭素層は水槽の表面に浮かび、それが適したフレームを用いて槽から取り除かれ得る。
【0006】
これらの炭素フィルムは、しかしながら、例えば、相対的脆弱性およびビーム衝撃に起因する蓄積されたダメージなどを含む高ビーム電流の用途においてストリッピングまたは抽出フォイル(stripping or extraction foils)として用いられた場合、特にある限界を有する。実施形態は、改良された寿命だけでなく、メンテナンスおよびオペレータの暴露(operator exposure)を低減する、改良された初期の機械特性の両方を示す改良された炭素フィルムに向けられている。実施形態は、そのようなフィルムの製造方法にもまた向けられている。
【0007】
〔開示の簡単な要約〕
自己支持の実施形態が開示されており、炭素フィルムは、アモルファス炭素(つまりa−C)、すなわち、せいぜい短距離だけの原子配列を示す炭素層とダイヤモンド状炭素(DLC)との層との両方を含む多層構造を備えている。理解されるように、最終製品にとって望ましい性質の組み合わせに応じて、長距離の多層構成が可能である。当業者に理解されるように、最も簡素な構成は、アモルファス炭素の1つの層およびDLCの1つの層だけを含む。より複雑な多層の構成は、例えば、アモルファス炭素の2つの層の間に挟まれた1つのDLC層など、複数のアモルファス炭素層および/または複数のDLC層を含む。
【0008】
そのような複合多層フィルム(この場合、例えば、2つのa−C層の間に挟まれたDLC層を備えた3層フィルム)の製造方法の実施形態は、適切な基板、典型的に高度に研磨されたガラスあるいはサファイア基板を用意する工程と、離型または剥離剤の任意の層を塗布する工程と、上記基板または剥離剤に第1のアモルファス炭素の層を堆積する工程と、第1のアモルファス炭素の層にDLC層を堆積する工程と、複合炭素フィルムの任意のアニールを行う工程と、上記基板から上記複合炭素フィルムを取り外す工程とを含んでいる。理解されるように、この方法を用いて製造され得る上記複合フィルムの構造は、必要に応じて、特別な用途に特に適した一連の性質を有するカスタマイズされた複合フィルムを提供するように構成されてもよい。
【0009】
〔図面の簡単な説明〕
本開示の範囲は、添付の図面において図示されているように、実施形態に鑑みて、以下の詳細な記載が考慮された場合、より明らかになるだろう。
【0010】
図1は、多層複合炭素フィルムが基板上に形成された実施形態を説明する図である。
【0011】
図2Aは、自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の実施形態を説明する図である。
【0012】
図2Bは、自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の他の実施形態を説明する図である。
【0013】
図2Cは、自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の他の実施形態を説明する図である。
【0014】
図3は、基板から自己支持型複合炭素フィルムを剥離するための方法の実施形態を説明する図である。
【0015】
図4Aは、自己支持型複合炭素フィルムの製造において用いられることが可能なキャリアまたはフレームアセンブリの実施形態を説明する図である。
【0016】
図4Bは、自己支持型複合炭素フィルムの製造において用いられることが可能なキャリアまたはフレームアセンブリの実施形態を説明する図である。
【0017】
図5Aは、図4Aおよび図4Bに係るキャリアまたはフレームを用いた自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の実施形態を説明する図である。
【0018】
図5Bは、図4Aおよび図4Bに係るキャリアまたはフレームを用いた自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の実施形態を説明する図である。
【0019】
これらの図面は、以下でより詳細に記載される典型的な実施形態の理解における手助けとなるように提供されているのであって、開示の範囲あるいは添付の特許請求の範囲を不当に限定するものとして作成されているのではない。特に、図面において図示される様々な要素の相対的な間隔、位置、サイズ、寸法は、縮尺するように描かれておらず、より一層明確にする目的で、強調され、省略され、あるいは、修正されている。
【0020】
〔実施形態の詳細な説明〕
ダイヤモンド状炭素(DLC)(4面体のアモルファス炭素、つまりta−Cとしても知られている)はアモルファス、すなわち、長距離配列の欠如した不安定な材料である。「ダイヤモンド状」の表記は、特定の範囲に関して、例えば、極度の硬度、高い耐摩耗性、低い摩擦係数、化学的不活性、高電気抵抗、および可視赤外における光学的透明性を含むダイヤモンドの性質に類する性質を特徴とするが、ダイヤモンドの長距離配列の性質を欠いている材料の種類を表現するために、当業者によって広く採用されている。
【0021】
ダイヤモンドおよび黒鉛は、はっきりした結晶構造を有する炭素の安定形である。自然のダイヤモンドは、結晶構造の材料であり、様々なCVD法によって製造されたダイヤモンドフィルムは、数10ミクロンまでのサイズのダイヤモンドの微結晶から成る。結晶構造のダイヤモンドは、実質的に、完全に、4面体に配位されたsp結合炭素から成る。ダイヤモンドおよびダイヤモンドフィルムは、それらの結晶構造においてはっきりとした性質および長距離配列を有する材料から成るものである。
【0022】
ダイヤモンドフィルムとは対照的に、DLCフィルムは、どんな長距離配列も欠いており、極めて不規則なネットワークの全体に分布するspおよびsp、そして、ときにはsp配位炭素原子の混合物を含んでいる。異なる原子配位における炭素原子間の割合は、ある程度、形成方法および形成条件に依存しており、水素化DLCフィルムにおいては、結果として得られるフィルムの水素含有量の強い作用が認められる。DLCフィルムはどんな識別可能な長距離配列も欠いているが、DLCフィルムは様々な度合いの中距離用配列を示す可能性があり、DLCフィルは一般的にダイヤモンドと黒鉛フィルムとの間の広範囲の値を提供するようにが製造され得る。
【0023】
本実施の形態に係る自己支持炭素フィルムは、アモルファス炭素(つまりa−C)、すなわち、せいぜい短距離だけの原子配列を示し、顕著な結晶構造を示さない炭素層とDLCの薄層との両方を含む多層構造を備えている。理解されるように、例えば、強度、剛性、および熱伝導を含む主に物理的な性質の組み合わせに応じて、広範囲の層構成が可能であり、最終製品を対象とした特定の用途に対して好ましい性質の組み合わせを提供するように多層複合構造が構成されることを可能とする。最も簡単な構成は、アモルファス層の1つの層とDLCの1つの層とから成る。他の構成は、アモルファス炭素の2つの層の間に挟まれた1つのDLCの層から成る。
【0024】
そのような複合フィルムの製造方法の一つの実施形態は、3層フィルムのこの場合には、適切な基板、典型的には高度に研磨されたガラスあるいはサファイア基板を用意する工程と、可溶性の離型剤または剥離剤の層を塗布する工程と、剥離剤の上に第1のアモルファス炭素層を堆積する工程と、第1のアモルファス炭素層の上にDLC層を堆積する工程と、DLC層の上に第2のアモルファス炭素層を堆積する工程と、複合炭素フィルムをアニールする工程と、基板から複合炭素フィルムを取り外す工程とを含んでいる。上述のとおり、例えば、多数の層を含む複合フィルムの構造、上記層の相対的な厚さ、および、上記構造の全体の厚さは、必要に応じて、より特別の用途に適した一連の性質を有するカスタマイズされたフィルムを提供するように構成されてもよい。
【0025】
例えば、相対的な厚さ、および、様々な層の構成は、例えば500:1あるいはそれ以上の層の厚さの割合を提供するように幅広く変化可能であり、層の数および順序は、例えば2、3、5、10、あるいは50以上の層および/または2つ以上の個別の層構成を含む多層複合フィルムを有する複合フィルムを製造するように変更可能である。さらに、結果として得られる複合フィルムの機能を適合させるために、1つ以上の組み込まれた層が、あらゆる適切な従来の工程を用いて、層の全てまたは一部だけに対して、例えばドーパントおよび/または金属など、他の材料を追加することによって修正されてもよい。
【0026】
基板102の上に形成された複合炭素フィルム200を含む、そのような構造100が図1に示されている。図1は、第1のアモルファス炭素層106が剥離層104の上に形成され、DLC層108が第1のa−C層の上に形成され、そして第2のa−C層110がDLC層の上に順次形成される堆積サイクルの結果の実施形態に係る構造を示している。この構造の製造に含まれる工程は、図2Aおよび図2Bに図示される処理のフローチャートに示される。図3は、適した溶媒が入っている水槽300に基板をゆっくり降ろしていくことによって、複合炭素フィルム200を基板102から取り外す方法を図示しており、剥離フィルムは溶解され、複合フィルムの遊離あるいは剥離した部分200が溶媒の表面に支持される。
【0027】
図2Cは、少なくとも1つのDLC層が組み込まれる、より広い範囲の多層複合炭素層の形成において用いられてもよい方法の例を示している。図2Cに示されるように、一連の炭素層は、なかんずく、基板に設けられた堆積領域の上に順次堆積され、堆積およびドーピング処理は、必要に応じて繰り返されて、所望の多層複合炭素フィルムまたは構造を提供する。当業者に理解されるように、様々な炭素形態が、例えばa−C、黒鉛状炭素、熱分解炭素などの非ダイヤモンド状炭素層とDLC層とを含む単一の複合構造に組み込まれてもよい。さらに、図2Cに示されるように、一定の場合において、結果としてもたらされる炭素構造の取り外しを過度に複雑にすることなく、剥離層が取り外され得る。
【0028】
同様に、必要であれば、例えば(堆積工程とドーピング工程との両方を囲んでいる破線の枠によって示されているように)同時堆積のような一般的な同時処理を含むあらゆる適した技術を用いて、あるいは、例えば、少なくとも最も外側の炭素層に1つ以上の望ましい異種の原子、化合物、および/または、他の材料の目標量を「積む(load)」ための拡散、イオン注入および/または吸着を含む個別の異なる複数のドーピング方法を用いることによって、一連のドーパントおよび/または他の材料は、1つ以上の炭素層に組み込まれてもよい。図2Cにおいて示されているように、一連の炭素層堆積および堆積された炭素層の任意のドーピングは、必要に応じて、例えば強度、応力、厚さ、および/またはドーピングを含む所望の性質の組み合わせを示す多層複合炭素フィルムを得るために繰り返されてもよい。ドーパントは、例えば、金属、非金属、金属と非金属の組み合わせ、p型ドーパント、n型ドーパント、酸素、窒素、および、それらの炭化物を含んでもよい。
【0029】
図4A〜図5Bは、複数構成要素のアセンブリの上に複合フィルム200が形成されるフィルムキャリアまたはターゲットフレーム400a、400bの上に、直接、複合フィルムを形成する方法であって、その後、アセンブリの内部の部分400bが取り外される方法の他の実施形態を示している。フレームは、例えば、突起部402および/または凹部(図示せず)など、複合フィルムおよびフレームの周辺部の間に取り付けを拡大させやすい追加の構造が備えられていてもよい。理解されるように、フレームに突起部402および/または凹部が用いられるこれらの場合には、パターンが周辺全体に延びやすい。フレームの周辺部分は、また、剥離剤を伴う処理から除外されてもよく、それゆえ、複合フィルムとフレームの周辺部分との間の結合を増加させる。少なくとも、いくつかの用途においては、フレーム上に形成された複合フィルムはアニールされる必要がなく、フィルムにおける残留張力が複合フィルムを通常の平面形状に保持するように作用する。
【0030】
当業者に理解されるように、特定の溶媒または溶媒システムは、結果として得られる複合炭素フィルムの機能を低下させる汚染物質、および/または、汚染物質を低減または除去する処理工程が必要となる汚染物質(例えば金属)がないことだけでなく、剥離剤に浸透し溶解させる能力の両方に基づいて選択される。溶媒は、また、溶解率を増加させるために加熱、および/または、攪拌されてもよい。
【0031】
上述したとおり、図面は、説明する目的においてのみ提供されたのであって、縮尺して描かれてはいない。当業者に理解されるように、様々な実施形態において図示されている要素の空間的関係および相対的なサイズは、対応する記載について形状の明確さを向上させるため減少、拡大、あるいは、再配置されてもよい。形状は、それゆえ、実際の基板および実施形態に従って製造される複合炭素フィルムによって包含され得る対応する構造の要素の相対的なサイジング、値、あるいは、ポジショニングを正確に反映しているものとして解釈されるべきではない。
【0032】
対象とする用途に応じて、取り出された複合炭素フィルムは、使用の前に乾燥されてもよいし、あるいは、適切な固定物に取り付けられて、その後、熱および/または真空の用途通じて、そのままで乾燥されてもよい。例えば、ストリッピングフォイルとしての使用の場合、実施形態に係る複合炭素フィルムは、商業的に入手可能な炭素フォイルと比較して、改良された耐久性および増加した(例えばμA−hrsで測定される)耐用寿命年数を示す。したがって、結果として得られる複合炭素フォイルは、より扱い易く、そして、より導入し易く、改良されて引き出されたビーム品質(例えば、ビーム密度および安定性のパラメータにおいて反映される)を示す傾向にあり、フォイルの変更に関連して頻度を減少させ、メンテナンス手順を簡単にすることによって、オペレータの被曝を低減させる傾向にある。
【0033】
実際に、従来の(2.0±0.2μmの厚さを有する)アモルファス炭素ストリッピングフォイルと、上記手順およびここで詳述された(2.0±0.2μmの厚さを有し、2つの0.75μmアモルファス炭素層の間に0.5μmのDLC層を含んでいる)構造にしたがって用意された多層複合炭素ストリッピングフォイルとの間の比較寿命テストは、表1において以下に示される結果が得られた。
【0034】
【表1】

【0035】
アモルファス炭素およびDLCフィルムの堆積は、例えば化学気相堆積(CVD)および、低圧化学気相堆積(LPCVD)、プラズマ強化型化学気相堆積(PECVD)、パルスレーザー堆積(PLD)、レーザー切除(LA)、アーク放電、マイクロ波プラズマ、高密度プラズマ(HDP)および電子サイクロトロン共鳴化学気相堆積(ECRCVD)を含む適切な方法によって達成されてもよい。さらに、両方のタイプのフィルムの堆積または形成が単独の反応装置において達成され得るが、大部分の場合において、アモルファス炭素およびDLC層とをそれぞれ形成するために異なる反応装置(または多位置ユニットにおける異なる反応チェンバー)が用いられることが予期される。
【0036】
複合層の製造方法の他の実施形態は、基板を選択し用意する工程を含む。基板に選択される材料は、例えば温度、圧力、溶媒などの予期される処理条件に著しく劣化することなく、耐久可能でなくてはならない。基板として用いられる材料は、少なくとも1つの主要な堆積面、または、実質的に表面全体の全ての欠陥を除去するために高度表面研磨を受けるのに適した領域も含むべきである。ガラス(シリカ)、クォーツ、アルミナ(サファイア)、耐熱金属、半導体、酸化物、窒化物、および、炭化物が、少なくとも、実施形態および予期される用途に合う一定の方法に適した基板材料であると期待される。
【0037】
基板は、モノリシック(一様)であってもよく、2つ以上の基板材料を含む多層構造を有していてもよい。基板のサイズおよび形状は、結果として得られる複合炭素フィルムの対象とする用途、および、層堆積が実行される反応装置の能力の両方の相関関係で決まる。多くの場合において、おおよそ標準的な顕微鏡用スライドのサイズ(約25mm×75mm)のガラス基板は、満足のいく基板として役割を果たす。上述のとおり、基板材料はガラスに限定されることはないが、クォーツ、サファイア、金属(例えばモリブデン)、酸化物、窒化物、および炭化物を含む材料から成る、あるいは、含んでいてもよい。
【0038】
理解されるように、代わりの基板構造が用いられてもよく、基板自体は、許容できる程度の平坦性および一様性を有する堆積面を設けるために処理され得る例えば様々な塩を含む適切な溶媒において可溶性である。これらの可溶性の基板は、複合多層炭素フィルムを剥離するための適切な容積の適した溶媒において溶解し得る。同様に、比較的低い温度の炭素堆積方法を用いる場合、様々な有機材料は、この場合も、それらが製造および/または処理されて、許容可能な程度の平坦性および一様性を有する堆積面を設けることが可能ならば、基板として用いることが可能である。そして、これらの有機材料は、複合多層炭素フィルムを剥離するために適切な溶媒において溶解し得る。
【0039】
基板と複合多層炭素フィルムとの間で離型剤(parting agent)が用いられる場合において、特に可溶性の離型剤に関して、基板は、離型剤の溶解率を増大させるように構成されてもよい。基板から複合多層炭素フィルムを分離するために1つ以上の溶媒を基板に適用する浸漬、噴霧、塗布(puddling)、あるいは、他の方法であっても、特に、基板は、溶媒への暴露(exposure)の間、溶媒が離型剤層のより広い範囲に接触することを可能にする微細孔および溝を伴って構成されることも可能である。
【0040】
理解されるように、任意の離型剤が1つ以上の感光性の化合物を含んでいる場合において、基板は、光エネルギーの伝達を改良するように選択および/または構成されてもよいし、より一般的および/または不変の基板と比較して、離型剤に入射する光エネルギー密度を増加させるように選択および/または構成されてもよい。同様に、1つ以上の感熱性の化合物を含んでいる場合において、基板は、熱伝導率を増加させるように選択および/または構成されてもよいし、より一般的および/または不変の基板と比較して、離型剤のより一層の熱的破壊をもたらすために、加熱アセンブリを組み込むように選択および/または構成されてもよい。
【0041】
基板の堆積面は、滑らかな(好ましくは平坦な)数ミクロンオーダーの表面粗さ(好ましくは1μm以下の表面粗さ)を有する表面を得るために、例えば化学機械研磨(CMP)機器または他の適した機器を用いて研磨される。堆積面は、適切な溶媒(例えばエタノール)を用いた洗浄処理およびペーパーティッシュ(例えばKIMWIPES(登録商標)や同様の素材)を用いた注意深い拭き取りによってきれいにされるべきである。堆積面の清浄度および一様性は、堆積工程に進む前に表面が十分に欠陥のないものか検証するために、例えばレーザー散乱装置を用いて分析されもよい。
【0042】
堆積面が用意されると、基板からの複合多層炭素フィルムの分離を助けるために、適した剥離層の薄層、離型剤、あるいはそれらの組み合わせは、堆積面に塗布される。剥離層を形成するために、例えば塩化ナトリウムおよび/または塩化バリウムなどの1つ以上の無機塩類を含む広範囲の材料が用いられてもよい。離型剤は、蒸着や気相堆積などの「乾式」の方法と、1つ以上の有機化合物の溶液を適用する「湿式」の方法との両方を含む様々な方法によって塗布されてもよい。また、無機化合物が適用されることも可能であり、その後、乾燥または「硬化」させて、剥離層を形成する。適した有機離型剤は、合成洗剤(例えば食器洗い洗剤組成)のような界面活性剤と、良好な水溶解性、低揮発性および十分な熱安定性を示す離型剤を有する糖類とを含む。上述したように、離型剤あるいは剥離剤は任意であり、一般的に、基板から複合多層炭素フィルムを除去するために必要な機械的に加える力を低減することを目的としている。しかしながら、理解されるように、基板上および複合多層炭素フィルム上に設けられる堆積面の性質によって、単独の機械的な方法は、複合多層炭素フィルムを分離するのに十分な可能性もある。
【0043】
剥離層が基板に形成されると、用意された基板は、直接、第1の反応チャンバー(reactor chamber)の中に格納またはセットされてもよい。低減された圧力下において実行される堆積技術のために、反応チャンバーは、吸い出されて堆積処理に適した目標真空値を実現してもよい。例えば、第1のa―C層の堆積の準備において、清浄および被覆された基板は、そこから炭素が基板に移転する1つ以上の黒鉛ロッドに隣接する、アモルファス炭素アーク堆積システムの真空チャンバーの内部にあるホルダーに取り付けられてもよい。チャンバーは、機械的なポンプおよび凍結剤ポンプを用いて、例えば10−5Paオーダーの堆積圧力まで吸い出し、そして、電流が炭素ロッドに流され、その結果、炭素ロッドからいくらかの炭素が気化し、基板上に堆積する。
【0044】
炭素アーク法を用いたアモルファス炭素層の堆積は、それらの直径や望ましい堆積速度に応じて、炭素ロッドを流れるおよそ50〜200アンペアの電流を流す工程を含んでいる。炭素はロッドから気化し、基板に堆積され、アモルファス炭素の層を形成する。堆積は、十分継続的に、あるいは、例えば10秒以下の比較的短い堆積パルスの間に数分またはそれ以上までの間隔を有するパルスモードにおいて作動し得る。堆積層の厚さは、標準的な結晶厚さモニターを用いて評価されて、所望の厚さに達した場合に、堆積処理が終了してもよい。
【0045】
例えば0.1〜20μmのストリッピングフォイルのための所望のa−C厚さに達すると、堆積は終了可能であり、真空が解除され、被覆された基板はa−C反応装置から取り外され、DLC反応チャンバーにセットされる。上述のように、機器の構成によって、被覆された基板は、同一装置内において、a−C反応チャンバーからDLC反応チャンバーへ移されてもよく、その結果、真空解除および汚染の危険を伴う外部移送を実行する必要性を回避する。上述したように、基板は、その初期のa−C層とともに、適切なDLC反応チャンバーにセットされ、反応チャンバー内の条件は、例えばレーザーアブレーションなど、利用される特定の堆積技術に適した範囲内に調整され、第1のa−C層が形成された条件と類似している、あるいは同一であってもよい。
【0046】
レーザーアブレーション技術が用いられる場合、反応チャンバーは、回転している炭素ディスクに衝突する高出力レーザー光線によって炭素が蒸発する高真空まで、吸い出されてもよい。炭素蒸気は、主に単一の原子および/または小さな原子クラスタから成ると考えられており、基板に堆積されて微結晶性のダイヤモンド状炭素構造を形成する。一般的に、レーザーアブレーションシステムの堆積速度は比較的低く、DLC層の好ましい厚さによって、数時間あるいは数日間もの堆積期間を要する。ストリッピングフォイルの場合には、例えば、約0.1〜10μmのDLC厚さが、ほとんどのストリッピングフォイル用途に対して適していると考えられる。適切な厚さのDLCが形成されると、堆積は終了してもよく、真空解除され、基板がDLC反応チャンバーから取り外される。
【0047】
DLC層が基板に形成されると、被覆された基板は、直接、第2a−C層の堆積のための反応チャンバーに格納あるいはセットされてもよい。再び、低減された圧力の下実行される堆積技術のために、反応チャンバーは、適した目標真空値を実現するように吸い出されてもよい。炭素アーク処理が用いられて、電流が黒鉛ロッドに流され、その結果、黒鉛ロッドからいくらかの炭素を気化させて基板に堆積させる。
【0048】
複合炭素層が形成されると(この場合は多層a−C/DLC/a−Cスタックが形成されると)、複合炭素層は、複合多層炭素フィルムに組み込まれる1つ以上の炭素フィルムに固有の機械的応力(圧縮および/または引張であろうと)を解放あるいは低減するために、任意に、熱アニールにさらされてもよい。理解されるように、温度およびアニール時間の特定の組み合わせは、組み込まれる層の数、構成、および相対的厚さに依存する。さらに、理解されるように、温度およびアニール時間の組み合わせは、様々な組み込み層を形成するために用いられる技術および/または処理、および、堆積処理中の層内に組み込まれる応力にも依存する。他の実施形態では、しかしながら、堆積条件および組み込まれる炭素層の特性は、基板から複合多層炭素フィルムを分離する前にアニールは必要でないほどであるかもしれない。
【0049】
約3時間未満の持続時間に対して、125度を超えるアニール温度(典型的には250度未満)が、約2:1:2の厚さ比および約0.1μm〜50μmの複合フィルム厚さを有するレーザーアブレーションDLC層を挟んでいる炭素アークa−C層を含む複合炭素フィルムの十分な応力緩和を達成するのに十分であると考えられる。
【0050】
特定の複合炭素フィルムに対する十分な特定のアニール処理は、基板からの複合炭素フィルムの分離に際し、すぐに明らかに認められる。アニール条件が十分な場合、複合炭素フィルムは、基板からの分離に際し、実質的に平面の構造となるであろう。十分にアニールされずに一旦基板から剥離されたフィルムは、曲がったり、ねじ曲がったり、丸まったりする。基板から剥離された後であっても、その後の熱処理によって、十分正常な状態に回復する複合炭素フィルムもあるが、より厳しい場合には、フィルムはおそらく回復不能であろう。
【0051】
上述したように、選択された離型剤によって、適切な溶媒および除去条件が選択されてもよい。さらに、理解されるように、実施形態は、基板と複合炭素フォイルとの間から剥離剤を除去するための方法として、溶解を組み込んでいるが、エッチング、または他の離型剤の分解、またはそれらの選択された要素によって、複合炭素フィルムを剥離するのに十分な程度まで、そこから複合炭素フィルムが剥離される他の材料が用いられてもよい。
【0052】
さらに、利用される離型剤に応じて、堆積されたフィルムが損傷なく基板から分離されるように、(例えば分解または再結晶によって)離型剤の物理的性質が十分に変わる温度まで基板が加熱されてもよい。同様に、薄炭素層および/または透明基板と組み合わせて、例えば深いUV光などの光への暴露によって分解可能な離型剤の利用は、多層複合炭素フィルムを剥離する別の方法を提供する。
【0053】
1つ以上の溶媒において、良好な溶解度を有する剥離剤によって複合炭素フィルムが基板から分離される場合、基板102は、付着した複合炭素フィルム200とともに、図3に示されているように、剥離剤の溶解を促進しやすい条件、熱、および、かくはんの下、適した溶媒302または溶媒システムが入っている容器の中に下ろされ、剥離剤は中心軸に沿って徐々に除去され、複合炭素フィルム200aの剥離された部分は、溶媒の表面に支持されたままとなる。
【0054】
複合炭素フィルムは基板から分離されると、特に剥離技術がフィルム内の残留溶媒を招くと予想されるであろう(または予想されるかもしれない)1つ以上の溶媒の適用を含む場合、複合炭素フィルムは使用の前に乾燥されてもよい。この乾燥工程は、例えば乾性ガスにおいて複合炭素フィルムを熱する工程、(追加の熱の有無に関わらず)複合炭素フィルムを真空にさらす工程、および/または、残留溶媒の十分な部分を低減または除去するのに十分な期間、複合炭素フィルムを1つ以上の乾燥剤にさらす工程を含むあらゆる適切な方法を用いて達成されることが可能であり、それによって、複合炭素フィルムが所望の用途に適した状態となる。
【0055】
理解されるように、含まれる溶剤、所望の用途の即時性、および複合炭素フィルムの性質は、適切な乾燥方法の選択における要因であってもよい。例えば、複合炭素フィルムは、簡単にトレイまたはラックに置かれ、大気温度で空気乾燥できる。代わりに、複合炭素フィルムは、高められた温度を利用して、あるいは、真空環境において、あるいは、溶媒スカベンジャーの存在の下(例えば乾燥容器において)、より素早く乾燥されてもよい。
【0056】
当業者に理解されるように、複合炭素フィルムにおける残留溶媒の許容レベルは、所望の用途の間で格段に変化してもよい。同様に、所望の用途に応じて、少なくとも乾燥工程の一部は、複合炭素フィルムの設置後の機器を稼動状態に戻すための手順がいかなる設置前の処理なしに十分な乾燥を達成する例えば高真空用途を含むそのままで達成されてもよい。当業者に理解されるように、あらかじめ用意された複合炭素フィルムは、使用の前の拡張された期間、通常、機械的損傷および汚染から複合炭素フィルムを保護する容器、パッケージ、および/またはキャリアに格納されてもよい。
【0057】
〔実施例〕
上述した説明に従って多層複合炭素フィルムが形成される代表的な処理を以下に詳述する。この例では、炭素アーク堆積技術がアモルファス炭素層を堆積するために用いられる。この例において用いられる堆積チャンバーまたは反応チャンバーは、主の機械ポンプと予備の極低温ポンプとから成る2ステージ真空ポンプシステムを有する水冷式ステンレス鋼真空チャンバーを含んでいる。
【0058】
基板は、チャンバー内部のキャリアにセットされ、典型的にはロッド間および基板の相対的な位置が調整可能に構成された1つ以上のアラインメント装置に取り付けられた炭素ロッドに近接して置かれる。堆積の間に消費される炭素ロッドの一部は、例えば基板の堆積面約20cm上に配置されてもよい。炭素ロッドの最も近い部分は、電流が流れ得る隣接するロッドチップ間の相対的に小さなアークギャップを形成するように配置されてもよい。
【0059】
炭素ロッドを流れる電流は、炭素がロッドから反応チャンバーの中へ放出される蒸発温度まで炭素ロッドを加熱する。堆積処理の間、基板は、通常、室温を超える温度に達し、要望どおりに、堆積の間、基板を加熱および/または冷却するように用意されてもよい。堆積の進捗状況は、結晶厚さモニターを用いて観察されてもよいし、あるいは、単純に、時間が計測されて、十分な厚さおよび一様性を確実にするように結果の層のサンプルがとられてもよい。
【0060】
a−C層は、上述の炭素アーク技術あるいは他の適した堆積技術を用いて製造されてもよいが、その後、レーザーアブレーション装置が、後に続くダイヤモンド状炭素の堆積に用いられてもよい。DLC層が形成される反応チャンバーは、例えば主の機械ポンプと予備の極低温ポンプとから成る2ステージ真空ポンプシステムを有する水冷式ステンレス鋼真空チャンバーなど、a−C層の形成に用いられるチャンバーと同様である。
【0061】
基板は、1つ以上のスパッタターゲットから約20cm堆積領域を通って基板を動かす例えば遊星歯車セットあるいは他の適したメカニズムを用いて構成された保持器具の上に設けられてもよい。スパッタターゲットに対する相対的な基板の移動は、より均一な堆積を形成しやすい。この例では、光学集束システムを用いて、Nd:YAG赤外レーザー光線が直接スパッタターゲットに向けられる。集束レーザー光線は、順に、単一炭素原子または炭素原子のクラスターがターゲットから蒸発する程度まで、スパッタターゲットを加熱する。スパッタターゲットから放出された炭素原子は、順に、基板に堆積されてDLCを形成する。堆積処理の間中、基板は、通常、それほど多くの熱を受けることはなく、それゆえ、約25〜35度くらいの大気に近い温度に保たれ、それにより、剥離層の形成に用いられ得る温度感受性材料の範囲を拡大する。堆積の進捗状況は、結晶厚さモニターを用いて観察されてもよい。
【0062】
〔2μm3層自己支持フォイルの製造〕
(基板の研磨工程)
基板は、この場合、入手が簡単な市販の予め洗浄された、公称寸法25mm×75mmサイズおよび一般的な1μm未満の表面粗さを有する顕微鏡スライドである。基板は、次に蒸留水を用いて洗浄され、その後メチルアルコールを用いて洗浄される。基板が洗浄された後、溶媒の低減された要素を有する基板を用意するために、乾燥室において乾燥されてもよいし、あるいは、Kimwipes(登録商標)または類似の紙を用いて手で残留表面溶媒を吸収し乾燥されてもよい。
【0063】
(剥離剤の塗布)
剥離剤の使用は任意だが、この場合、少量(〜50μL)の7:1のベタイン−サッカロース溶液が(剥離剤として)各スライドの研磨された表面に塗布される。溶液は、堆積面にまんべんなく塗布され、むらのない剥離剤の被覆を形成する。その後、スライドは、目に見える剥離剤の跡が全て除去されるまで、Kimwipes(登録商標)または類似の紙を用いて磨かれる。
【0064】
(アモルファス炭素による被覆)
基板は、炭素アーク堆積システムの中にセットされて、堆積チャンバーが約4×10−4Paの圧力に保たれたまま、約50〜200アンペアの電流を炭素ロッドに流すことによって0.5μmのアモルファス炭素によって覆われる。堆積システムは、5分間隔で約10秒間のパルスを発生するパルスモードにおいて動作する。0.5μmの所望の厚さが達成された後、基板は、約1時間冷却されてもよい。
【0065】
(DLC層の製造)
アモルファス炭素によってあらかじめ被覆された基板は、レーザーアブレーションシステムの真空チャンバーの中に取り付けられる。堆積チャンバーの内部において、十分な真空度が確立された後(この場合も約4×10−4Pa)、炭素を反応チャンバーの中へ放出するために、炭素ターゲット(典型的には黒鉛ターゲット)が、集束レーザー光線にさらされる。一般的に、黒鉛ターゲットに適用される約75J/cmのエネルギー密度は、約0.02〜0.1nm/sの堆積速度を達成するのに十分である。1.0μmのDLC層の所望の厚さが達成されると、堆積は終了する。
【0066】
(アモルファス炭素による被覆)
0.5μm厚さのアモルファス炭素のもう1つの層は、上述した手順に従って形成される。
【0067】
(アニール工程)
アニール工程は、必ずしも必要とはされないが、この場合、基板は真空オーブン(典型的圧力1〜10−2Pa)にセットされ、2〜3時間の間、170度の典型的温度でアニールされる。被覆及びアニールされた基板は、アニールオーブンから取り外される前に50度より下の温度まで冷却されてもよい。
【0068】
(複合フィルムの基板からの分離)
この場合、水溶性の剥離剤の使用の結果として、複合フィルムは、図3に示されるように約50〜70度の温度に保たれた水槽の中へ被覆されたスライドを浸漬することによって、基板からゆっくりと取り外される。剥離剤が溶解すると、複合炭素フィルムは基板から分離し、この場合、複合炭素フィルムは、水面上に浮かび、そこから容易に回収可能である。
【0069】
(フォイルの除去、乾燥工程、および切断工程)
基板からの複合炭素フィルムの分離が完了した後、浮遊した複合炭素フィルムは、約0.2mmまでの厚さで、回収されるべき炭素フィルムより少しだけ大きな寸法を有するように構成されたポリエチレンシートを用いて、分離槽の表面から取り除かれてもよい。ポリエチレンシートは、分離槽に浸漬され、浮遊フィルムの下に配置され、その後、分離槽から引き揚げられる。複合炭素フィルムのa−C面は、シートにおいて複合炭素フィルムの位置を保つためのポリエチレンシートに対する十分な粘着性を示す傾向にあり、その結果、除去処理の間、フィルムに対して機械的な支持を提供する。
【0070】
複合炭素フィルムおよびポリエチレンシートは、その後、最初の乾燥工程の期間、平面に置かれる。この最初の乾燥工程の期間は、大気条件の下、進行してもよく、熱、乾燥剤、あるいは、乾燥を加速する他の方法の使用を含む必要はない。複合炭素フィルムは十分乾燥すると、ポリエチレンシートから持ち上げられ、従来の多用途の刃物や他の切断器具を用いて、所望のサイズに切り取られ、あるいは、切断される。必要なら、複合炭素フィルムは、また、追加の乾燥工程を受けてもよいし、例えばストリッピングフォイルとしてその後使用される間の複合炭素フィルムを保持および/または配置するために用いられるフレーム、キャリア、または、他の構造に取り付けるための用意がなされてもよい。
【0071】
本発明は、特に、それらの実施形態を参照して示され説明されたが、本発明の精神と要旨から逸脱することなく、形式や細部における様々な変化がなされてもよいことは、当業者によって理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】多層複合炭素フィルムが基板上に形成された実施形態を説明する図である。
【図2A】自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の実施形態を説明する図である。
【図2B】自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の他の実施形態を説明する図である。
【図2C】自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の他の実施形態を説明する図である。
【図3】基板から自己支持型複合炭素フィルムを剥離するための方法の実施形態を説明する図である。
【図4A】自己支持型複合炭素フィルムの製造において用いられることが可能なキャリアまたはフレームアセンブリの実施形態を説明する図である。
【図4B】自己支持型複合炭素フィルムの製造において用いられることが可能なキャリアまたはフレームアセンブリの実施形態を説明する図である。
【図5A】図4Aおよび図4Bに係るキャリアまたはフレームを用いた自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の実施形態を説明する図である。
【図5B】図4Aおよび図4Bに係るキャリアまたはフレームを用いた自己支持型複合炭素フィルムの製造方法の実施形態を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に平坦な堆積面を用意する工程と、
剥離剤上に多層複合炭素フィルムを形成するために、ダイヤモンド状炭素フィルムおよび非ダイヤモンド状炭素フィルムを含む複数の炭素層を堆積する工程と、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離する工程とを含んでいる、多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項2】
上記複数の炭素層を堆積する工程は、
アモルファス炭素、黒鉛炭素、および熱分解炭素から成る群から選択された第1の炭素層を堆積する工程と、
上記第1の炭素層上にダイヤモンド状炭素層を堆積する工程と、
3層の複合炭素フィルムを形成するために、上記ダイヤモンド状炭素層上にアモルファス炭素、黒鉛炭素、および熱分解炭素から成る群から選択された第2の炭素層を堆積する工程と、
基板から、上記3層複合炭素フィルムを分離する工程とを含んでいる、請求項1に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項3】
上記第1の炭素層は、アモルファス炭素であり、
上記第2の炭素層は、アモルファス炭素である、請求項2に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項4】
上記複数の炭素層を堆積する前に、上記堆積面に剥離剤の層を形成する工程をさらに含んでいる、請求項1に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項5】
上記剥離剤は、水に可溶性のものであり、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離する工程は、上記基板から多層複合炭素フィルムを分離するために剥離剤の十分な部分を溶解するのに十分な量の水に上記剥離剤をさらす工程を含む、請求項1に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項6】
上記基板は、可溶性のものであり、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離する工程は、上記基板を溶解し、上記多層複合炭素フィルムを分離するのに適した十分な量の溶媒に上記基板をさらす工程を含んでいる、請求項1に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項7】
上記剥離剤は、上記多層複合炭素フィルムよりも低い熱安定性を示し、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する工程は、上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離する程度まで、剥離剤を削剥するのに十分な処理時間の間、処理温度に剥離剤をさらす工程を含んでいる、請求項4に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項8】
上記剥離剤は、有機溶媒または溶媒システムに可溶性のものであり、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する工程は、上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離するのに十分な量の剥離剤を溶解するために、十分な量の有機溶媒または溶媒システムに剥離剤をさらす工程を含んでいる、請求項4に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項9】
十分な波長、強度、時間の処理用の照明にさらした後、剥離剤は、有機溶媒または溶媒システムに対しさらに高い溶解度を示し、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する工程は、
処理された剥離剤を得るために、上記処理用の照明に上記剥離剤をさらす工程と、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離するのに十分な量の上記処理された剥離剤を溶解するために、十分な量の有機溶媒または溶媒システムに上記剥離剤をさらす工程とを含んでいる、請求項4に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項10】
十分な温度および時間の熱処理にさらした後、剥離剤は、有機溶媒または溶媒システムに対しさらに高い溶解度を示し、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する工程は、
処理された剥離剤を得るために、上記剥離剤を熱処理にさらす工程と、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離するのに十分な量の上記処理された剥離剤を溶解するために、十分な量の有機溶媒または溶媒システムに上記剥離剤をさらす工程とを含んでいる、請求項4に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項11】
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する前に、初期の炭素フィルム応力を少なくとも50%を減らすために、十分なアニール温度およびアニール時間において上記多層複合炭素フィルムをアニールする工程をさらに含んでいる、請求項1に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項12】
上記アニール温度および上記アニール時間は、上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する前に、初期の炭素フィルム応力を少なくとも90%減らすために十分である、請求項11に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項13】
上記基板からの多層複合炭素フィルムにおける残留溶媒の水準を少なくとも50%減らすために、上記基板から分離を行った後に上記多層複合炭素フィルムを乾燥する工程をさらに含んでいる、請求項11に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項14】
ドープされていない多層複合炭素フィルムと比較した場合、目標パラメータの少なくとも10%を調整するために十分な濃度で上記多層複合炭素フィルムの少なくとも1層にドーパント類を注入する工程をさらに含んでいる、請求項1に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項15】
ドープされていない多層複合炭素フィルムと比較した場合、第1の目標パラメータの少なくとも10%を調整するために十分な濃度で上記多層複合炭素フィルムの第1の層に第1のドーパント類を注入する工程と、
ドープされていない多層複合炭素フィルムと比較した場合、第2の目標パラメータの少なくとも10%を調整するために十分な濃度で上記多層複合炭素フィルムの第2の層に第2のドーパント類を注入する工程とをさらに含んでいる、請求項1に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項16】
上記ドーパント類は、金属、非金属、半導体、p型ドーパント、n型ドーパント、これらの混合物、およびこれらの合成物から成る群から選択される、請求項14に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項17】
上記ドーパント類は、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属ケイ化物、金属酸化物、合金、これらの混合物およびこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項16に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項18】
第1の非ダイヤモンド状炭素層と、
ダイヤモンド状炭素層とを備えた、自己支持多層複合炭素フィルム。
【請求項19】
第1のアモルファス炭素層とダイヤモンド状炭素層を挟み込む第2の非ダイヤモンド状炭素層をさらに備え、
上記多層複合炭素フィルムは、全体の厚みが0.1μm〜50μmであり、
上記第1の非ダイヤモンド状炭素層の厚みTal、上記ダイヤモンド状炭素層の厚みTdlc、および上記第2の非ダイヤモンド状炭素層の厚みTa2は、1−10:1:1−10の厚みの割合を満たすように製造されている、請求項18に記載の自己支持多層複合炭素フィルム。
【請求項20】
交互に配置された、N個の非ダイヤモンド状炭素層およびN個のダイヤモンド状炭素層をさらに備えている、請求項18に記載の自己支持多層複合炭素フィルム。
【請求項21】
上記N個の非ダイヤモンド状炭素層および上記N個のダイヤモンド状炭素層は、式(N+1)=Nを満たす、請求項20に記載の自己支持多層複合炭素フィルム。
【請求項22】
上記N個の非ダイヤモンド状炭素層および上記N個のダイヤモンド状炭素層は、式│(N−N)│≦1を満たす、請求項20に記載の自己支持多層複合炭素フィルム。
【請求項23】
上記厚みの割合は、1:1−100:1である、請求項19に記載の自己支持多層複合炭素フィルム。
【請求項24】
基板の内部領域に平坦な堆積面を用意する工程と、
上記堆積面上に剥離剤の層を形成する工程と、
剥離剤および基板の周辺領域上に、多層複合炭素フィルムを形成するために、少なくとも一つの非ダイヤモンド状炭素層および少なくとも一つのダイヤモンド状炭素層を含む複数の炭素層を堆積する工程と、
上記堆積領域から多層複合炭素フィルムを剥離し、多層複合炭素フィルムが上記周辺領域によって支持された状態を維持する上記周辺領域から、基板の内部領域を分離する工程とを含んでいる、多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項25】
上記多層複合炭素フィルムと上記周辺領域と間の連結の度合いを十分増加させるために、上記基板の上記周辺領域に連結固定具を設ける工程をさらに含んでいる、請求項24に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項26】
上記複数の炭素層を堆積する前に、上記堆積面に剥離剤の層を形成する工程をさらに含んでいる、請求項1から3のいずれか1項に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項27】
上記剥離剤は、水に可溶性ものであり、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離する工程は、上記基板から多層複合炭素フィルムを分離するために離型剤の十分な部分を溶解するのに十分な量の水に上記剥離剤をさらす工程を含む、請求項26に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項28】
上記基板は、可溶性のものであり、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離する工程は、上記基板を溶解し、上記多層複合炭素フィルムを分離するのに適した十分な量の溶媒に上記基板をさらす工程を含んでいる、請求項1から3のいずれか1項に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項29】
上記離型剤は、上記多層複合炭素フィルムよりも低い熱安定性を示し、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する工程は、上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離する程度まで、剥離剤を削剥するのに十分な処理時間の間、処理温度に剥離剤をさらす工程を含んでいる、請求項26に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項30】
上記剥離剤は、有機溶媒または溶媒システムに可溶性のものであり、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する工程は、上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離するのに十分な量の剥離剤を溶解するために、十分な量の有機溶媒または溶媒システムに剥離剤をさらす工程を含んでいる、請求項26に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項31】
十分な波長、強度、時間の処理用の照明にさらした後、離型剤は、有機溶媒または溶媒システムに対しさらに高い溶解度を示し、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する工程は、
処理された剥離剤を得るために、上記処理用の照明に上記剥離剤をさらす工程と、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離するのに十分な量の上記処理された剥離剤を溶解するために、十分な量の有機溶媒または溶媒システムに上記剥離剤をさらす工程とを含んでいる、請求項26に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項32】
十分な温度および時間の熱処理にさらした後、剥離剤は、有機溶媒または溶媒システムに対しさらに高い溶解度を示し、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する工程は、
処理された剥離剤を得るために、上記剥離剤を熱処理にさらす工程と、
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを分離するのに十分な量の上記処理された剥離剤を溶解するために、十分な量の有機溶媒または溶媒システムに上記剥離剤をさらす工程とを含んでいる、請求項26に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項33】
上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する前に、初期の炭素フィルム応力を少なくとも50%を減らすために、十分なアニール温度およびアニール時間において上記多層複合炭素フィルムをアニールする工程をさらに含んでいる、請求項1から10または26から32のいずれか1項に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項34】
上記アニール温度および上記アニール時間は、上記基板から上記多層複合炭素フィルムを剥離する前に、初期の炭素フィルム応力を少なくとも90%減らすために十分である、請求項33に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項35】
上記基板からの多層複合炭素フィルムにおける残留溶媒の水準を少なくとも50%減らすために、上記基板から分離を行った後に上記多層複合炭素フィルムを乾燥する工程をさらに含んでいる、請求項1から12または26から34のいずれか1項に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項36】
ドープされていない多層複合炭素フィルムと比較した場合、目標パラメータの少なくとも10%を調整するために十分な濃度で上記多層複合炭素フィルムの少なくとも1層にドーパント類を注入する工程をさらに含んでいる、請求項1から13または26から35のいずれか1項に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項37】
ドープされていない多層複合炭素フィルムと比較した場合、第1の目標パラメータの少なくとも10%を調整するために十分な濃度で上記多層複合炭素フィルムの第1の層に第1のドーパント類を注入する工程と、
ドープされていない多層複合炭素フィルムと比較した場合、第2の目標パラメータの少なくとも10%を調整するために十分な濃度で上記多層複合炭素フィルムの第2の層に第2のドーパント類を注入する工程とをさらに含んでいる、請求項1から13または26から35のいずれか1項に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項38】
上記各ドーパント類は、金属、非金属、半導体、p型ドーパント、n型ドーパント、これらの混合物、およびこれらの合成物から成る群から選択される、請求項36または37に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項39】
上記各ドーパント類は、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属ケイ化物、金属酸化物、合金、これらの混合物およびこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項38に記載の多層複合炭素フィルムの製造方法。
【請求項40】
交互に配置された、N個の非ダイヤモンド状炭素層およびN個のダイヤモンド状炭素層をさらに備えている、請求項18または19に記載の自己支持多層複合炭素フィルム。
【請求項41】
上記N個の非ダイヤモンド状炭素層および上記N個のダイヤモンド状炭素層は、式(N+1)=Nまたは│(N−N)│≦1の少なくとも1つを満たす、請求項40に記載の自己支持多層複合炭素フィルム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2009−530493(P2009−530493A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500497(P2009−500497)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/006596
【国際公開番号】WO2007/109114
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(506315697)トライアンフ,オペレーティング アズ ア ジョイント ヴェンチャー バイ ザ ガバナーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ アルバータ,ザ ユニバーシティ オブ ブリティッシュ コロンビア,カールトン  (8)
【Fターム(参考)】