説明

ダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料及びその製造方法

【課題】 電気特性が優れ、熱伝導率が高く、化学的にも安定なダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 スパッタ法、電子ビーム蒸着法及び真空蒸着法からなる群から選択された1種の方法によりダイヤモンド膜2の表面上に触媒金属層4を形成する。その後、この触媒金属層4を熱処理するか、又は水素プラズマ処理する。そして、少なくとも炭化水素を含む原料ガスを使用して、プラズマ気相蒸着法又は熱フィラメント気相蒸着法により1乃至30分間処理して、ダイヤモンド膜2から直接的にカーボン細線3を成長させて、ダイヤモンド膜2の表面上にカーボン細線3が形成されたダイヤモン膜・カーボン細線複合材料1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド膜の表面に直接カーボンナノチューブ等のカーボン細線を形成したダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、硬さ及び熱伝導率が物質中で最も高く、耐熱性が優れ、赤外から紫外領域まで光学的に透明であり、ホウ素(B)をドーピングすることによりp型半導体又は金属的導電性を示し、電子及び正孔の移動度が大きく、負の電子親和力により電子放出率が高い等の優れた特徴がある。
【0003】
このダイヤモンドにより形成された膜には、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法により形成された多結晶膜(例えば、特許文献1参照。)、配向膜(例えば、特許文献2及び3参照。)及びヘテロエピタキシャル膜(例えば、特許文献4参照。)等があり、これらのダイヤモンド膜は、マイクロプラズマCVD法(例えば、特許文献5及び6参照。)、熱フィラメントCVD法、高周波プラズマCVD法、アークジェットCVD法及び燃焼法等により形成することができる。
【0004】
また、通常のダイヤモンド膜は、配向がランダムなダイヤモンド粒子の集合体である多結晶膜であるが、合成条件を選択することにより、基板面に対して略垂直な方向に<100>結晶方位をもつダイヤモンド膜を作製することができる。更に、バイアス印加法によりシリコン基板上に核を発生させ、更に合成条件を選択することにより、基板面に対して略平行に{100}結晶面が積層され、且つダイヤモンド膜表面が面内で一方向に配列した(100)結晶面により形成されているダイヤモンド高配向膜を作製することができる。更にまた、基板に(100)結晶面をもつ単結晶イリジウム(Ir)を使用すると、(100)結晶面が略完全に融合したヘテロエピタキシャル膜を作製することができる。更にまた、基板に(111)結晶面をもつ単結晶白金(Pt)を使用すると、基板面に対して略平行に{111}結晶面が積層され、且つダイヤモンド膜表面が面内で一方向に配列した(111)結晶面をもつダイヤモンド融合膜を作製することができる。
【0005】
一方、カーボンナノチューブはワイヤ状の炭素材料、即ち炭素線であり、近年研究開発が急速に進んでいる材料であり、表面へ官能基を付与することにより、親水性を付与したり、生体物質との親和性を向上させたりすることができる。このカーボンナノチューブの合成法としては、アーク放電法(例えば、特許文献7及び8参照。)、レーザ蒸発法(例えば、特許文献9参照。)、気相法(例えば、特許文献10及び11参照)及びプラズマCVD法等があり、これらの合成法においては、触媒金属として、Fe、Co又はNi等の遷移金属又はその合金が使用されている。
【0006】
また、近時、触媒金属及び合成条件を選択することにより、カーボンナノチューブ以外に、カーボンナノホーン及びカーボンコイル等の炭素線を合成できることが報告されている。これらの炭素線は、中空構造であるが、内部に空孔が無い炭素線を合成することもできる。以下、これらの炭素線をまとめてカーボン細線という。
【0007】
カーボンナノチューブに代表されるカーボン細線は擬似1次元物質であり、直径がナノメートルスケールで、長さがミクロンオーダー以上であるという特異な形状であることから、長さ方向における電気伝導度及び熱伝導率が高いという特徴がある。また、表面積が大きく、容易に電界が集中するため、真空中への電子の放出が低印加電界で生じる。カーボンナノチューブは、このような特徴から、フラットディスプレイパネル等の電子放出源及び電気化学反応用電極等としての応用が検討されている。
【0008】
従来、表面にカーボンナノチューブを形成したダイヤモンド粒子を金属材料中に分散することにより、ダイヤモンド粒子と金属材料との界面における熱抵抗率を低下させて、放熱性を向上させたセラミックス−金属系複合材料が提案されている(特許文献12参照)。特許文献12に記載のセラミックス−金属系複合材料においては、ダイヤモンド粒子の表面に、先ずSiC層を形成し、このSiC層上にCVD法等によりカーボンナノチューブを形成している。
【0009】
【特許文献1】特開平2−280826号公報
【特許文献2】特開平6−321687号公報
【特許文献3】特開平6−321688号公報
【特許文献4】特開平8−151296号公報
【特許文献5】特公昭59−27754号公報
【特許文献6】特公昭61−3320号公報
【特許文献7】特開平7−165406号公報
【特許文献8】特開平7−197325号公報
【特許文献9】特開平10−273308号公報
【特許文献10】特公平3−64606号公報
【特許文献11】特公平3−77288号公報
【特許文献12】特開2004−76044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ダイヤモンド膜及びカーボン細線は、共に炭素のみで構成され、その合成装置も類似しており、共に優れた物性を示すにもかかわらず、従来、研究開発及び用途開発が夫々別々に行われており、ほとんど接点がなかった。また、特許文献12には表面にカーボンナノチューブを形成したダイヤモンド粒子が開示されているが、この場合、ダイヤモンド粒子の表面に直接カーボンナノチューブを形成しているのではなく、ダイヤモンド粒子表面上に形成されたSiC層上にカーボンナノチューブを形成している。このように、従来、ダイヤモンド表面に直接カーボン細線を形成することはできなかった。
【0011】
更に、カーボン細線は、その形状から長さ方向の電気伝導度及び熱伝導率は高いが、端面が不活性であるため、例えば、基材上にカーボン細線を形成した場合、基材とカーボン細線との間の熱伝導が不十分となり、発生した熱が基材に逃げず、その高い熱伝導率が活かせないという問題点がある。このため、十分な熱伝導率が得られず、熱的な損傷を受けることがあり、例えば、特許文献12に記載されている表面にカーボンナノチューブが形成されているダイヤモンド粒子は、ヒートシンク等の付加価値の低い用途にしか適用することができなかった。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、電気特性が優れ、熱伝導率が高く、化学的にも安定なダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願第1発明に係るダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料は、ダイヤモンド膜と、前記ダイヤモンド膜の表面上に前記ダイヤモンド膜から原子的に連続して成長するように形成されたカーボン細線と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明においては、ダイヤモンド膜表面に直接カーボンナノチューブ等のカーボン細線を形成しているため、ダイヤモンド膜とカーボン細線との境界部分が原子的に連続し、優れた熱伝導率が得られる。また、ダイヤモンド膜及びカーボン細線は共に化学的に安定であり、本発明においては、これらが原子的に連続しているため、化学的に安定である。
【0015】
前記ダイヤモンド膜は、化学気相蒸着法により形成されたものであり、例えば、多結晶膜、配向膜及びヘテロエピタキシャル膜からなる群から選択された1種の膜である。また、この前記ダイヤモンド膜は、自立膜でもよく、又は、基板上に形成されていてもよい。更に、前記ダイヤモンド膜にはホウ素がドープされていてもよい。これにより、ダイヤモンド膜に金属的又はp型半導体的な導電性を付与することができる。前記カーボン細線は、単層構造でもよく又は多層構造でもよい。
【0016】
本願第2発明に係るダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料の製造方法は、ダイヤモンド膜の表面上に、スパッタ法、電子ビーム蒸着法及び真空蒸着法からなる群から選択された1種の方法により触媒金属層を形成する工程と、前記触媒金属層を熱処理又は水素プラズマ処理する工程と、少なくとも炭化水素を含む原料ガスを使用した化学気相蒸着法により前記ダイヤモンド膜の表面上に前記ダイヤモンド膜から原子的に連続して成長したカーボン細線を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明においては、ダイヤモンド膜の表面上に触媒金属層を設け、化学気相蒸着法により、ダイヤモンド膜から直接カーボン細線を成長させているため、ダイヤモンド膜とカーボン細線との境界部分が原子的に連続し、熱伝導率が優れたダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料を形成することができる。
【0018】
また、前記カーボン細線は、プラズマ気相蒸着法又は熱フィラメント気相蒸着法により合成することができる。更に、前記ダイヤモンド膜として、化学気相蒸着法により形成され、多結晶膜、配向膜及びヘテロエピタキシャル膜からなる群から選択された1種の膜を使用してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ダイヤモンド膜からカーボン細線を成長させているため、ダイヤモンド膜とカーボン細線との境界部分における電気伝導性及び熱伝導性が向上し、優れた電気特性及び熱伝導率が得られると共に化学的に安定にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係るダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料について、添付の図面を参照して具体的に説明する。本発明者等は、前述の目的を達成するため、鋭意実験研究を行った結果、ダイヤモンドの多結晶膜、配向膜及びヘテロエピタキシャル膜等の表面上に触媒金属層を形成し、この触媒金属層を熱処理又は水素プラズマ処理した後、下記に示す条件でカーボン細線を合成することにより、ダイヤモンド膜の表面に直接カーボン細線を合成できることを見出した。
【0021】
図1(a)は本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料を示す模式図であり、図1(b)はそのダイヤモンド膜とカーボン細線との境界部を示す拡大図である。図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1は、CVD法により形成されたダイヤモンド膜2の表面上に、カーボン細線3が形成されている。このカーボン細線3は、ダイヤモンド膜2から成長するように形成されており、ダイヤモンド膜2とカーボン細線3とは原子的に連続している。これは、例えばTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)による断面観察により確認することができる。
【0022】
本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1におけるダイヤモンド膜2は、CVD法により形成されたものであれば、多結晶膜、配向膜及びヘテロエピタキシャル膜のいずれでもよく、また、ダイヤモンド以外の材料からなる基板上に形成されていてもよく、基板が無い自立膜でもよい。なお、ダイヤモンド膜2が自立膜である場合、その一方の面又は両面にカーボン細線3を形成することができる。更に、ダイヤモンド膜2にはBがドープされていてもよく、これにより、p型半導体的又は金属的な導電性を得ることができる。
【0023】
本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1におけるカーボン細線3は、例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン及びカーボンコイル等の中空構造でもよく、また、多層構造でもよい。更に、カーボン細線3の向きは特に限定されるものではないが、例えば、カーボン細線3がカーボンナノチューブの場合、その長手方向がダイヤモンド膜2の厚さ方向と略平行であることが好ましい場合もある。
【0024】
次に、本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1の製造方法について説明する。本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1は、先ず、CVD法により形成したダイヤモンド膜上に、スパッタ法、電子ビーム蒸着法又は真空蒸着法により、Fe、Co及びNi等の遷移金属又はその合金を分散蒸着し、厚さが例えば1乃至50nm程度の触媒金属層を微粒子状に形成する。
【0025】
次に、表面に触媒金属層が形成されたダイヤモンド膜を、真空中、不活性ガス中又は水素ガス中で、300乃至500℃の温度条件下で10乃至120分間熱処理を行うか、又は、300乃至500℃の温度条件下で10乃至120分間水素プラズマ処理して、触媒金属層を微粒子化又は結晶化する。その後、少なくとも、炭化水素ガスを含む原料ガスを使用し、プラズマCVD法又は熱フィラメントCVD法により、1乃至30分間カーボン細線を合成する。これにより、ダイヤモンド膜2と触媒金属層との間にカーボン細線3が成長する。即ち、ダイヤモンド膜2から直接カーボン細線3が成長する。このため、本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1においては、図1(a)に示すように、カーボン細線3の先端に触媒金属層4が存在している場合が多い。
【0026】
上述の如く作製された本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1は、ダイヤモンド膜2からカーボン細線3が成長しているため、ダイヤモンド膜2とカーボン細線3とが原子的に連続している。その結果、カーボン細線3とダイヤモンド2との境界部分における電気伝導性及び熱伝導性が高く、優れた電気特性及び熱伝導性を示す。
【0027】
また、本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1においては、触媒の粒径、原料ガス中の炭素原子濃度を調節することにより、カーボン細線3の構造を変えることができる。例えば、触媒の粒径が大きい又は原料ガス中の炭素原子濃度が濃い場合は、空孔がなく、内部まで炭素原子が詰まった構造となる。このような構造のカーボン細線は、カーボンナノチューブのような中空構造のカーボン細線よりも特性は劣るが、成長速度が速いため、低コストで製造することができる。
【0028】
更に、このダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1は、ダイヤモンド膜2にBがドープされたダイヤモンド膜を使用することにより、電子デバイスとして利用することができる。例えば、ダイヤモンド膜2として、高濃度にBがドーピングされ、金属的な電気伝導特性を示すダイヤモンド多結晶膜を使用し、その表面にカーボン細線3としてカーボンナノチューブを形成し、更に、カーボン細線3が形成されている面及びカーボン細線3が形成されていない面に夫々配線を接続して電流−電圧特性を測定すると、弱い整流性があるオーミック特性を示す。一方、ダイヤモンド膜2として、低濃度にBがドーピングされ、p型半導体的な電気伝導特性を示すダイヤモンド多結晶膜を使用し、その表面にカーボン細線3としてカーボンナノチューブを形成し、同様に電流−電圧特性を測定すると、整流性があるショットキー特性を示す。
【0029】
上述したように、本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1は、ダイヤモンド膜2の表面にダイヤモンド膜2から成長するようにカーボン細線3を形成しているため、電気特性及び熱伝導率が優れており、且つ化学的にも安定であり、更に、このダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1を構成しているダイヤモンド及びカーボン細線は、共に優れた物性を持っている。このため、本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1は、種々の用途への応用が考えられ、例えば、電子エミッタ、電子センサ、電子デバイス及び電気化学機器等へ使用することができ、エレクトロニクス分野及び電気化学分野等の付加価値が高い分野への応用展開が可能となる。
【0030】
例えば、カーボン細線3は高効率電子放出特性を示すため、電子放出源への応用が可能である。その場合、高濃度にBがドープされ金属的な特性を示すダイヤモンド膜を使用すると、ダイヤモンドが電子供給源となる。また、ダイヤモンドは熱伝導性が優れており、カーボン細線3で発生する熱を速やかに拡散することができるため、加熱によるカーボン細線3の劣化が抑制され、長寿命で安定した電子放出が可能となる。
【0031】
また、Bをドープしたダイヤモンド膜は、化学電極として特異な性質を示すことが知られているが、このBドープダイヤモンド膜の表面上にカーボン細線を形成すると、電極の表面積が格段に広くなり、電界質溶液との接触面積が広くなるため、電気分解及び電極反応の速度を速くすることができる。更に、ダイヤモンド表面に金属微粒子を付着させた化学電極は、通常の金属電極よりも優れた特性が得られることから、ダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料を使用した化学電極においても、ダイヤモンド膜は単なる基材ではなく、ダイヤモンド表面に金属微粒子を付着させた化学電極と同様の効果が期待できる。このように、ダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料は、電気分解、電極反応、物質センサ及びバイオセンサ等の高性能化学電極としても利用することができる。
【0032】
更に、本実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1は、生体との親和性が優れた炭素のみで構成されており、またダイヤモンドは熱伝導性が優れているため、DNA増殖における高精度で高速の温度制御にも追随することができる。このように、ダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1は、DNA固定及び増殖用基板としても有効性を発揮することができる。
【0033】
更にまた、このダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料1は、電子を注入することにより、膜が発光する紫外線発光素子への応用も可能であり、その場合、カーボン細線3から電子を注入することができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例の効果について説明する。本発明の実施例として、以下に示す方法で、多結晶ダイヤモンド膜の表面にカーボンナノチューブを形成した。先ず、マイクロ波プラズマCVD法によりシリコン基板上に形成した多結晶ダイヤモンド膜を、150乃至200℃の硫酸の重クロム酸飽和溶液中に20分間浸漬して、表面に存在する非ダイヤモンド成分を除去した。その後、純水で洗浄し、引き続き、アセトン洗浄、アルコール洗浄を行い、表面の有機物成分を除去した。
【0035】
次に、各種洗浄を行った後の多結晶ダイヤモンド膜の表面に、スパッタ法により、触媒金属層として数モノレイヤーの厚さのFe層を形成した。そして、真空中で、300乃至500℃の温度条件下で、10乃至120分間熱処理した後、原料ガスとして、メタン(CH):50乃至200標準cm/分(sccm)、水素:0乃至100標準cm/分(sccm)及びアンモニア:0乃至200標準cm/分(sccm)をマイクロ波プラズマCVD装置に導入し、反応容器のガス圧を1.33×10乃至1.01×10Pa(1乃至760Torr)に維持し、プラズマを発生させて1乃至30分間処理して、多結晶ダイヤモンド膜の表面にカーボンナノチューブを形成した。なお、カーボンナノチューブを合成する際の基板温度は、300乃至1200℃とした。
【0036】
次に、上述の方法で作製した実施例のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料の表面を、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により観察した。図2は本実施例のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料のSEM写真である(倍率30000倍)。図2に示すように、本実施例のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料は、ダイヤモンド多結晶膜の表面に、多数のカーボンナノチューブが形成されていた。更に、このダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料の断面を、TEMにより観察したところ、ダイヤモンド膜から原子的に連続するようにカーボンナノチューブが成長していた。
【0037】
また、スパッタ法の代わりに、電子ビーム蒸着法又は真空蒸着法により触媒金属層を形成し、それ以外は同様の方法で多結晶ダイヤモンド膜表面にカーボンナノチューブを形成したところ、同様のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料が得られた。更に、触媒金属層を真空中で熱処理する代わりに、不活性ガス又は水素ガス中で300乃至500℃の温度条件下で10乃至120分間熱処理し、それ以外は同様の方法で多結晶ダイヤモンド膜表面にカーボンナノチューブを形成したところ、同様のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料が得られた。更にまた、ガス圧を1.33×10乃至2.66×10Pa(1乃至200Torr)にして、触媒金属層を水素プラズマ処理しても、同様のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料が得られた。更にまた、多結晶膜の代わりに、配向膜及びヘテロエピタキシャル膜を使用しても、同様のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)は本発明の実施形態のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料を示す模式図であり、(b)は(a)に示すダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料のダイヤモンド膜とカーボン細線との境界部を示す拡大図である。
【図2】本発明の実施例のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料を示す図面代用写真である(SEM写真:倍率30000倍)。
【符号の説明】
【0039】
1;ダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料
2;ダイヤモンド膜
3;カーボン細線
4;触媒金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド膜と、前記ダイヤモンド膜の表面上に前記ダイヤモンド膜から原子的に連続して成長するように形成されたカーボン細線と、を有することを特徴とするダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料。
【請求項2】
前記ダイヤモンド膜は、化学気相蒸着法により形成されたものであり、多結晶膜、配向膜及びヘテロエピタキシャル膜からなる群から選択された1種の膜であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料。
【請求項3】
前記ダイヤモンド膜は、自立膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料。
【請求項4】
前記ダイヤモンド膜は、基板上に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料。
【請求項5】
前記ダイヤモンド膜にはホウ素がドープされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料。
【請求項6】
前記カーボン細線は、単層構造であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料。
【請求項7】
前記カーボン細線は、多層構造であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料。
【請求項8】
ダイヤモンド膜の表面上に、スパッタ法、電子ビーム蒸着法及び真空蒸着法からなる群から選択された1種の方法により触媒金属層を形成する工程と、前記触媒金属層を熱処理又は水素プラズマ処理する工程と、少なくとも炭化水素を含む原料ガスを使用した化学気相蒸着法により前記ダイヤモンド膜の表面上に前記ダイヤモンド膜から原子的に連続して成長したカーボン細線を形成する工程と、を有することを特徴とするダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料合膜の製造方法。
【請求項9】
プラズマ気相蒸着法又は熱フィラメント気相蒸着法により前記カーボン細線を形成することを特徴とする請求項8に記載のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記ダイヤモンド膜として、化学気相蒸着法により形成され、多結晶膜、配向膜及びヘテロエピタキシャル膜からなる群から選択された1種の膜を使用することを特徴とする請求項8又は9に記載のダイヤモンド膜・カーボン細線複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−45008(P2006−45008A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229475(P2004−229475)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】