説明

ダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極及びそれを用いたダイレクトメタノール型燃料電池

【課題】系中で生成する一酸化炭素による被毒によって性能劣化の起こり難いダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極を提供する。
【課題を解決するための手段】白金又は白金合金からなる触媒粒子をプロトン伝導性ポリマーにて電極触媒層として導電性多孔質基材に結着させてなるダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極において、上記電極触媒層中の触媒粒子/プロトン伝導性ポリマー重量比を3/1〜20/1の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金等からなる触媒粒子をプロトン伝導性ポリマーにて導電性多孔質基材に電極触媒層として結着させてなるダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極に関し、更には、このようなアノード電極を含むダイレクトメタノール型燃料電池用膜電極接合体(MEA)とこのようなMEAを含むダイレクトメタノール型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体高分子電解質を挟んで、アノードとカソードとを配設して、電極/固体電解質/電極構造とし、これをセパレータにて挟んで単位セルを構成し、この単位セルを複数積層して、電気的に直列に接続してなる燃料電池が開発されている。この燃料電池は、クリーンで且つ高効率という特徴から、種々の用途、特に、電気自動車用電源や家庭用分散型電源、携帯機器用電源等として注目されている。
【0003】
より詳細には、このような固体高分子型燃料電池は、その基本構成として、固体高分子電解質膜(プロトン伝導性イオン交換膜)を挟んで、それぞれ電極触媒を有するアノードとカソードとからなる一対の電極を配設してなり、このアノードの表面に水素やメタノール水溶液のような還元剤(燃料)を接触させると共に、カソードの表面に酸化剤(酸素や空気)を接触させて電気化学反応を起こさせ、この反応を利用して、上記一対の電極の間から電気エネルギーを取り出すものである。
【0004】
上記固体高分子電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸ポリマーからなるイオン交換膜が基本特性にすぐれているものとして、従来、よく知られている。また、アノードとカソードとしては、高導電性と高比表面積を有するカーボンブラックにナノオーダーの超微粒子の白金又は白金−ルテニウム合金を担持させてなる触媒をカーボンペーパー等の導電性多孔質シート等に塗布し、固着させたものがよく知られている。
【0005】
このような電極触媒として、白金は非常に高性能であるが、用いる燃料中に一酸化炭素が混入しているときは、それが非常に微量であっても、触媒に吸着し、被毒させて、その性能を著しく阻害するという重要な問題がある。従って、固体高分子型燃料電池においては、アノードに供給する燃料として水素を用いるときは、燃料電池に供給する前に高度に精製して、通常、一酸化炭素を10ppm以下にまで除去することが必要とされている。
【0006】
燃料電池には、このように、アノードに燃料を水素のように気体で供給する形式のもののほか、燃料を水溶液にて供給する形式のものもある。後者の形式の燃料電池として、近年、メタノール水溶液を燃料として用いる固体高分子型燃料電池、即ち、ダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)が注目されている。このDMFCにおいては、メタノール水溶液をアノードに供給し、電極上でメタノールを直接プロトンと二酸化炭素に酸化するので、そのように呼ばれている。
【0007】
このDMFCによれば、アノードにおいて、メタノールの酸化に伴って一酸化炭素をはじめ、ホルムアルデヒド、ギ酸等が副生し、これら副生物によっても、白金触媒は被毒されるので、水素を燃料とする燃料電池におけると同様に、DMFC用のアノードにおいても、高い耐一酸化炭素被毒性を有していることが強く求められる。
【0008】
これまで、燃料電池のアノード用として、一酸化炭素被毒による性能劣化に対して強い抵抗を有する触媒、即ち、耐一酸化炭素被毒性触媒として、種々の合金からなる触媒が提案されており、なかでも、白金−ルテニウム合金触媒が最もよく知られている。しかし、このような白金−ルテニウム合金触媒であっても、水素を燃料とする場合、触媒の被毒が抑制される一酸化炭素濃度は、精々、100ppm程度である。
【0009】
最近、白金−ルテニウム合金触媒よりも、耐一酸化炭素被毒性にすぐれるといわれる触媒として、白金、パラジウム及び/ルテニウムにゲルマニウム、モリブデン、ニッケル、コバルト及び/又はマンガンを組み合わせた合金からなるアノード用触媒が提案されている(特許文献1から3参照)。しかし、これらの触媒の多くは、長期安定性に問題を有しており、燃料が高濃度の一酸化炭素を含有する場合には、燃料電池を安定して長期間にわたって運転することが困難である。
【0010】
また、黒鉛化度を調節したカーボンブラックに触媒金属粒子を担持させ、これをイオン交換樹脂にて導電性多孔質基材に塗布し、固着させてなるアノード電極触媒が耐一酸化炭素被毒性にすぐれるものとして提案されている(特許文献4参照)。しかし、このアノード電極触媒においては、触媒金属がカーボンブラックに担持されており、そのうえ、アノード電極触媒中のイオン交換樹脂の含有量が電極触媒の全重量の20〜60%であることが好ましいとされている。このように、上記アノード電極触媒においては、触媒金属の結着剤であるイオン交換樹脂の含有量が多すぎるので、耐一酸化炭素被毒性は、尚、十分ではない。
【特許文献1】特開平5−208135号公報
【特許文献2】特開平7−299359号公報
【特許文献3】特開平8-66632号公報
【特許文献4】特開2003−368592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明は、ダイレクトメタノール型燃料電池において、電池の作動中に電池内で生成する一酸化炭素による被毒によって性能劣化の起こり難いダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極と、これを含む膜電極接合体(MEA)、更には、このMEAを含むダイレクトメタノール型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、白金又は白金合金からなる触媒粒子をプロトン伝導性ポリマーを結着剤として用いて電極触媒層として導電性多孔質基材に結着させてなるダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極において、上記電極触媒層中の触媒粒子/プロトン伝導性ポリマー重量比が3/1〜20/1の範囲にあることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極が提供される。
【0013】
更に、本発明によれば、固体高分子電解質膜を挟んで、上記アノード電極とカソード電極とを積層一体化してなるダイレクトメタノール型燃料電池用膜電極接合体が提供される。
【0014】
更に、本発明によれば、固体高分子電解質膜を挟んで、上記アノード電極とカソード電極とを積層一体化してなる膜電極接合体と、上記アノード電極に積層されていると共にアノード側にメタノール水溶液のための通路を形成された導電性セパレータと、上記カソード電極に積層されていると共にカソード側に空気又は酸素のための通路を形成された導電性セパレータとからなるダイレクトメタノール型燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極においては、電極触媒層における触媒粒子/プロトン伝導性ポリマー重量比が3/1〜20/1の範囲にあるので、アノード電極触媒上にてメタノールが還元されたときに生成する一酸化炭素によって、電極触媒が被毒され難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、白金又は白金合金からなる触媒粒子をプロトン伝導性ポリマーを結着剤として用いて電極触媒層として導電性多孔質基材に結着させてなるダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極において、上記電極触媒層中の触媒粒子/プロトン伝導性ポリマー重量比が3/1〜20/1の範囲にある。
【0017】
更に、本発明においては、上記触媒粒子は白金−ルテニウム合金からなる微粒子であることが好ましい。ルテニウムは白金に耐一酸化炭素被毒性を与えており、更に、本発明によれば、電極触媒層において、触媒粒子/プロトン伝導性ポリマー重量比が大きいことと相まって、触媒の耐一酸化炭素被毒性を一層向上させることができる。
【0018】
本発明において、白金又は白金合金からなる触媒粒子の好ましい例として、白金黒(ブラック)や白金−ルテニウム合金黒(ブラック)を挙げることができる。ここに、白金黒や白金−ルテニウム合金黒は、所謂、ブラック触媒やメタル触媒と呼ばれている黒色の微粒子からなる触媒であり、それぞれ白金や白金−ルテニウム合金のみからなる。更なる合金触媒として、例えば、白金とルテニウムに加えて、モリブデン、タングステン、コバルト、鉄、ニッケル、銅、スズ及び金から選ばれる少なくとも1種の元素からなる多元合金を挙げることができる。しかし、本発明によれば、なかでも、白金−ルテニウム合金黒からなる触媒粒子が好ましい。また、白金合金において、白金とこれと合金化する金属との割合は、合金化する金属の種類にもよるが、通常、合金中において、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%の範囲にあることが好ましい。
【0019】
更に、本発明において、触媒粒子は、平均一次粒子径が1〜20nmの範囲にあることが好ましく、特に、2〜10nmの範囲にあることが好ましい。触媒粒子の平均一次粒子径が20nmを超えるときは、高出力のダイレクトメタノール型燃料電池を得ることが困難となることがある。他方、1nmよりも小さいときは、入手性やハンドリング性において問題が生じる場合がある。
【0020】
また、アノード電極における白金又は白金合金の担持量は、耐一酸化炭素被毒性とコストの観点から、電極の単位面積あたり、0.5〜20mg/cmの範囲にあることが好ましく、特に、1〜10mg/cmの範囲にあることが好ましい。
【0021】
電極触媒層に用いるプロトン伝導性ポリマーは、アノードにおいて、電気化学反応によって発生するプロトンを固体高分子電解質に伝導させるためのプロトン伝導性媒体としての機能を有すると共に、上記触媒粒子を導電性多孔質基材に電極触媒層として結着させる結着剤としての機能を有する。このプロトン伝導性ポリマーとしては、後述する固体高分子電解質膜と同じ素材からなるものを用いることができ、例えば、ナフィオン(デュポン杜登録商標)として知られているパーフルオロスルホン酸ポリマーが好適に用いられる。このポリマーは、有機溶媒、例えば、アルコール類に溶解するので、溶液として、触媒粒子を導電性多孔質基材に結着させる際に有利に用いることができ、触媒粒子の結着性にすぐれるのみならず、プロトン伝導性にすぐれる。但し、本発明において用いることができるプロトン伝導性ポリマーは、パーフルオロスルホン酸ポリマーに限定されるものではない。
【0022】
本発明によれば、電極触媒層において、プロトン伝導性ポリマーの重量に対する前記触媒粒子の重量の比(以下、触媒粒子/ポリマー重量比ということがある。)は3/1〜20/1の範囲にあり、好ましくは、4/1〜18/1の範囲にある。触媒粒子/ポリマー重量比が3/1よりも小さいときは、得られる触媒が一酸化炭素被毒を受けやすい。他方、20/1を超えるときは、電極触媒層から触媒粒子が脱落しやすく、また、電極触媒層で生成したプロトンの輸送性に劣りやすく、その結果、得られるダイレクトメタノール型燃料電池の出力密度が低下する傾向がある。
【0023】
従来の一般的な触媒電極は、触媒の利用率を高めるために、触媒粒子/ポリマー重量比は、通常、2/1〜1.5/1の範囲にあって、プロトン伝導性ポリマーに対する触媒の重量比が小さい。しかし、本発明においては、触媒粒子/ポリマー重量比が3/1〜20/1の範囲にあるので、アノード電極において、触媒はメタノールが還元されるときに生成する一酸化炭素による被毒を受け難い。このことの理由は必ずしも明確ではないが、電極触媒において、触媒密度が高く、高活性状態となっているためとみられる。一方、従来のようにプロトン伝導性ポリマーの重量が多く上記触媒粒子/ポリマー重量比が小さいときには、電極上の触媒密度が低いので、触媒活性が低いとみられる。反対に、触媒粒子/ポリマー重量比が大きすぎるときは、プロトン伝導性ポリマーが触媒を結着させる機能に乏しく、電極上に触媒を担持させた際、触媒が電極から脱落し、それによって特性が低下するおそれがある。
【0024】
上記触媒粒子/ポリマー重量比を考慮すれば、電極触媒層におけるプロトン伝導性ポリマーの量は、電極の単位面積あたりに、0.025〜6.7mg/cmの範囲にあることが好ましく、特に、0.028〜5.0mg/cmの範囲にあることが好ましい。
【0025】
本発明においては、電極触媒層は、触媒粒子の結着剤として、プロトン伝導性ポリマーに加えて、他の樹脂を少量含有してもよいが、その場合、結着剤におけるその樹脂の割合は、結着剤中、30重量%以下であることが好ましく、特に、10重量%以下であることが好ましい。他の樹脂としては、例えば、プロトン伝導性を有しないフッ素樹脂等を挙げることができ、より具体的には、例えば、ポリフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ四フッ化エチレン等を挙げることができる。
【0026】
また、導電性多孔質基材としては、炭素や導電性高分子等の繊維からなるペーパー、不織布、織布、編物、導電性多孔質膜等を挙げることができるが、通常、カーボンペーパーが好ましく用いられる
次に、カソード電極とアノード電極の製作について説明する。本発明において、カソードは、電極触媒を結着剤と共に電極触媒層として導電性多孔質基材に結着、担持させてなるものであり、その構成は特に限定されるものではないが、上記電極触媒層は、例えば、白金微粒子を担持させたカーボンブラック粉末と共に、導電助剤としてのカーボンブラック粉末、これらをまとめるための結着剤及び電気化学反応によって発生するプロトンの伝導体となるプロトン伝導性ポリマー等を適宜に含有する。
【0027】
一例を挙げれば、カソード電極は、例えば、白金微粒子を担持させたカーボンブラック粉末と、必要に応じて、導電助剤としてのカーボンブラックとを適宜の結着剤を用いてペーストとし、これを前述したような導電性多孔質基材に塗布し、加熱、乾燥させた後、更に、必要に応じて、その上にプロトン伝導性ポリマー溶液を塗布し、加熱、乾燥させることによって得ることができる。上記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂のN−メチル−2−ピロリドン溶液やナフィオン(デュポン社登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸ポリマー溶液が用いられる。
【0028】
アノード電極は、例えば、白金又は白金合金の微粒子とプロトン伝導性ポリマーとを含有するペーストを調製し、これを前述したような導電性多孔質基材上に塗布し、加熱、乾燥させることによって得ることができる。しかし、アノード電極の製造方法は、上記例示したものに限定されるものではない。
【0029】
また、カソード電極とアノード電極を構成するそれぞれの導電性多孔質基材は、所謂フラッディングを防止するために、電極触媒を担持させる側に導電性撥水層を有することが好ましい。
【0030】
本発明によるダイレクトメタノール型燃料電池においては、固体高分子電解質膜としては、従来の固体高分子膜型電池に用いられているようなパーフルオロスルホン酸ポリマーからなる陽イオン交換膜、例えば、ナフィオン(登録商標)が好適に用いられるが、しかし、これに限定されるものではない。従って、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなる多孔質膜に上記ナフィオンや他のイオン伝導性物質を含浸させたものや、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂からなる多孔質膜や不織布に上記ナフィオンや他のイオン伝導性物質を担持させたものでもよい。
【0031】
本発明によれば、このような固体高分子電解質膜を挟んで、上述したようなアノード電極とカソード電極とを積層一体化して、ダイレクトメタノール型燃料電池用膜電極接合体(MEA)を得ることができる。それぞれの電極に酸化剤又は還元剤を供給し、接触させるための構造体である導電性セパレータをこのようなMEAの両側に配設した構造はセルと呼ばれており、MEAと導電性セパレータを交互に且つ電気的に直列に多数を積層した構造はスタックと呼ばれている。
【0032】
本発明において、上記セパレータのための材料やセパレータの有する還元剤又は酸化剤のため通路の構造は、特に限定されるものではない。例えば、既に、よく知られているように、セパレータの両側に上記酸化剤又は還元剤の流路を形成して、これを上記電極に積層すればよい。また、セパレータは、例えば、グラファイト、炭素を分散させた樹脂成形体、金属材料等から形成される。
【0033】
例えば、本発明によるダイレクトメタノール型燃料電池は、上記固体高分子電解質膜を挟んで、上記アノード電極とカソード電極とを積層一体化してなる膜電極接合体アノード電極と、上記アノード電極に積層されていると共にアノード側にメタノール水溶液のための通路を形成されている導電性セパレータと、上記カソード電極に積層されていると共にカソード側に空気又は酸素のための通路を形成されている導電性セパレータとからなり、上記セパレータの上記通路を利用して、上記アノード電極に還元剤(燃料)であるメタノール水溶液を供給し、接触させると共に、上記セパレータの上記通路を利用して、カソード電極に酸化剤(酸素又は空気)を供給し、接触させて、電流を得るものである。本発明のダイレクトメタノール型燃料電池によれば、上述したように、アノード電極触媒が一酸化炭素被毒を受け難いので、安定して作動させることができる。
【0034】
本発明によるダイレクトメタノール型燃料電池の作動温度は、通常、0℃以上であり、好ましくは、15〜90℃の範囲であり、最も好ましくは、30〜80℃の範囲である。作動温度が高すぎるときは、用いる材料の劣化や剥離等が起こるおそれがある。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1
粉砕媒体として直径5mmのジルコニアボール425gを用いて、遊星ボールミルにて白金−ルテニウム合金ブラック触媒(ジョンソン・マッセイ・フュエルセルズ・ジャパン(株)製、HiSPEC6000(白金/ルテニウム重量比2/1)10.4gをイオン交換水8g中に分散させた。得られた分散液にナフィオン(デュポン社登録商標)粉末1.04gと1−プロパノール6.43gと2−プロパノール6.32gを加え、再び、遊星ボールミルにて混合、分散処理して、触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストにおいて、触媒/ナフィオン(デュポン社登録商標)の重量比は10/1であった。
【0037】
上記触媒ペーストを60mm×70mm角の導電性多孔質基材(NOK(株)製ガス拡散層H2315 I3C1、膜厚277μm、導電性撥水層付き)の片面上にワイヤーバーを用いて塗布し、60℃で5分間加熱し、乾燥させて、上記導電性多孔質基材に触媒を担持させた。次いで、これを一対のステンレス板に挟み、20Kgf/cmの圧力下、130℃にて1分間、ホットプレスし、かくして、電極を製作した。この電極の重量を測定し、この重量から前記導電性多孔質基材自体の重量を減じ、次に、この値に触媒層中の触媒の重量分率を乗じた後、電極面積で除することによって、単位電極面積あたりの触媒担持量を算出した。このようにして、単位電極面積あたりの触媒担持量が3.1mg/cmであるアノードを製作した。
【0038】
上述したように、触媒ペーストを導電性多孔質基材の片面上にワイヤーバーを用いて塗布するときの触媒ペーストの塗布速度を調節することによって、単位電極面積あたりの触媒担持量を自在に調節することができる。即ち、触媒ペーストの塗布速度を遅くするほど、触媒担持量を多くすることができる。因みに、触媒ペーストの塗布速度を25mm/秒、50mm/秒、100mm/秒及び150mm/秒とするときの触媒担持量はそれぞれ、2.14mg/cm、1.73mg/cm、1.56mg/cm及び1.32mg/cmであった。また、触媒ペーストを導電性多孔質基材に重ねて塗布することによって、触媒担持量を更に多くすることもできる。例えば、2回塗布及び4回塗布によってそれぞれ触媒担持量を3.1mg/cm及び6.2mg/cmとすることができた。
【0039】
ダイレクトメタノール型燃料電池用電極用カソード(ユミコア社製D200E)と上記触媒担持量3.1mg/cmのアノードとの間にプロトン伝導性ポリマー膜として、酸型ナフィオン膜(デュポン杜製ナフィオン112)を配置し、これを温度130℃で加熱下に加圧して、電極−プロトン交換膜接合体(MEA)を得、これを用いて試験用の燃料電池セルを組み立てた。
【0040】
この燃料電池セルを燃料電池評価装置(東陽テクニカ(株)製)に組み込み、初めに、アノードに流量105mL/分にて水素ガスを供給し、カソードに流量260mL/分にて空気を供給し、セル温度70℃、バブラー温度70℃として、電圧走査法にて0.9〜0.2Vの範囲で電位を走査して、MEAを6時間活性化した。
【0041】
次いで、ダイレクトメタノール型燃料電池の特性を以下のようにして評価した。即ち、アノードに1Mのメタノール水溶液を流量1.5mL/分にて供給し、電流密度が100mA/cmまではカソードに乾燥空気を流量260mL/分にて供給し、100mA/cm以上では所定電流密度に対応する理論空気量の2.5倍の流量で供給し、セル温度70℃、加湿なしの条件にて、6〜15時間運転して、特性が定常状態に至って後に特性を評価した。電流−出力曲線(I−P曲線)を図1に示す。最大出力密度は90mW/cm以上の非常に高い値を示した。
【0042】
実施例2
実施例1において、白金−ルテニウム合金ブラック触媒と溶剤の使用量は同じとし、ナフィオン量の使用量のみを変化させて、触媒/ナフィオン(デュポン社登録商標)の重量比を5/1とした以外は、実施例1と同様にして、アノードを作製し、以下、実施例1と同様にして、これを用いてMEAを製作し、更に、これを用いてダイレクトメタノール型燃料電池を組み立てて、その特性を評価した。電流−出力曲線(I−P曲線)を図1に示す。最大出力密度は88mW/cm以上の非常に高い値を示した。
【0043】
比較例1
実施例1において、白金−ルテニウム合金ブラック触媒と溶剤の使用量は同じとし、ナフィオン量の使用量のみを変化させて、触媒/ナフィオン(デュポン社登録商標)の重量比を20/1とした以外は、実施例1と同様にして、アノードを作製し、以下、実施例1と同様にして、これを用いてMEAを製作し、更に、これを用いてダイレクトメタノール型燃料電池を組み立てて、その特性を評価した。電流−出力曲線(I−P曲線)を図1に示す。最大出力密度は16mW/cmと非常に低い値を示した。
【0044】
比較例2
実施例1において、白金−ルテニウム合金触媒と溶剤の使用量は同じとし、ナフィオン量の使用量のみを変化させて、触媒/ナフィオン(デュポン社登録商標)の重量比を1/1とした以外は、実施例1と同様にして、アノードを作製し、以下、実施例1と同様にして、これを用いてMEAを製作し、更に、これを用いてダイレクトメタノール型燃料電池を組み立てて、その特性を評価した。電流−出力曲線(I−P曲線)を図1に示す。最大出力密度は20mW/cmと非常に低い値を示した。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例及び比較例において得られたダイレクトメタノール型燃料電池の電流−出力曲線(I−P曲線)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金又は白金合金からなる触媒粒子をプロトン伝導性ポリマーを結着剤として用いて電極触媒層として導電性多孔質基材に結着させてなるダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極において、上記電極触媒層中の触媒粒子/プロトン伝導性ポリマー重量比が3/1〜20/1の範囲にあることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極。
【請求項2】
プロトン伝導性ポリマーがパーフルオロスルホン酸ポリマーである請求項1に記載のダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極。
【請求項3】
白金合金が白金−ルテニウム合金である請求項1又は2に記載のダイレクトメタノール型燃料電池用アノード電極。
【請求項4】
固体高分子電解質膜を挟んで、請求項1から3のいずれかに記載のアノード電極とカソード電極とを積層一体化してなるダイレクトメタノール型燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
固体高分子電解質膜を挟んで、請求項1から3のいずれかに記載のアノード電極とカソード電極とを積層一体化してなる膜電極接合体と、上記アノード電極に積層されていると共にアノード側にメタノール水溶液のための通路を形成された導電性セパレータと、上記カソード電極に積層されていると共にカソード側に空気又は酸素のための通路を形成された導電性セパレータとからなるダイレクトメタノール型燃料電池。




【図1】
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【公開番号】特開2008−4402(P2008−4402A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173073(P2006−173073)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】