説明

ダイレクトメタノール型燃料電池

【課題】エネルギー密度を高くするため高濃度メタノールを利用した場合、膜を透過して空気極側に流れ込んでしまうメタノールクロスオーバーという問題が顕著であった。
【解決手段】40℃、30重量%のメタノール水溶液に対する面積膨潤率が2〜30%の範囲にあることを特徴とする特定の芳香族炭化水素系ポリマーを含む特定のプロトン交換膜を用いると、高濃度のメタノール水溶液を燃料として使用できるダイレクトメタノール型燃料電池を提供できることを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高濃度のメタノール水溶液を燃料として用いるダイレクトメタノール型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイレクトメタノール型燃料電池は、燃料としてメタノールを使用して発電するタイプの固体高分子型燃料電池であり、ノート型パソコンや、PDA、携帯電話などの電源としての利用が期待されている。ダイレクトメタノール型燃料電池の構成としては、プロトン交換膜の両面に一対の電極を接合したメンブランエレクトロードアセンブリー(MEA)と呼ばれる構造体を中心として構成されており、片方の電極にメタノール水溶液を、もう一方の電極に空気などの酸化ガスを供給することで電池として動作させることができる。メタノール水溶液としては、濃度が濃いほどエネルギー密度が高くなるので、長時間の運転や燃料タンクの小型化が可能となり、実用化に適している。
【0003】
MEAに用いられるプロトン交換膜としては、カチオン交換膜としてプロトン伝導性を有するとともに化学的、熱的、電気化学的および力学的に十分安定なものでなくてはならない。このため、長期にわたり使用できるものとして、主に米デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」を代表例とするパーフルオロカーボンスルホン酸膜が使用されてきた。しかしながら、ナフィオン(R)膜を使用すると、メタノールがナフィオン(R)膜を透過して空気極側に流れ込んでしまうメタノールクロスオーバーという問題が顕著であり、電池としての性能が低下するという問題がある。そのためメタノールクロスオーバーを最小限に抑える目的で、低濃度のメタノール水溶液が用いられてきた。従って、エネルギー密度は低く、さらに燃料タンクが大きくなってしまうため、実用化の妨げとなっている。
【0004】
このような欠点を克服するためのアプローチの一つとして、メタノールクロスオーバーの少ない膜開発が行われており、例えば炭化水素系の芳香族環含有ポリマーにスルホン酸基を導入した高分子プロトン交換膜が種々検討されている。ポリマー骨格としては、耐熱性や化学的安定性を考慮すると、芳香族ポリアリーレンエーテルケトン類や芳香族ポリアリーレンエーテルスルホン類などの、芳香族ポリアリーレンエーテル化合物を有望な構造としてとらえることができ、ポリアリールエーテルスルホンをスルホン化したもの(例えば、非特許文献1参照。)、ポリエーテルエーテルケトンをスルホン化したもの(例えば、特許文献1参照。)、スルホン化ポリスチレン等が報告されている。しかしながら、これらポリマーのスルホン化反応により芳香環上に導入されたスルホン酸基は一般に熱により脱離しやすい傾向にあり、これを改善する方法として電子吸引性芳香環上にスルホン酸基を導入したモノマーを用いて重合することで、熱的に安定性の高いスルホン化ポリアリールエーテルスルホン系化合物(例えば、特許文献2参照。)、やスルホン化ポリアリーレンエーテル系化合物(特許文献3参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−93114号公報(第15−17頁)
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0091225号明細書(第1−2頁)
【特許文献3】特開2004−244437号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・メンブラン・サイエンス(Journal of Membrane Science)、(オランダ)1993年、83巻、P.211−220
【0007】
このようなプロトン交換膜を、ダイレクトメタノール型燃料電池に応用した例として、比較的良好なプロトン伝導性と初期発電特性を有する燃料電池を得たという報告がVirginia Polytechnich Institute and State University, Department of Chemistry and Materials Research InstituteのJ.E,McGrathらによって報告されている。しかしながらダイレクトメタノール型燃料電池に使用するメタノール濃度はこの場合も薄く、前記問題の解決となっていない。その原因の一つとしては、メタノール濃度が上がると、プロトン交換膜が膨潤しやすくなるので、電極が剥がれてしまうことが考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、メタノールに対する面積膨潤率が小さい芳香族炭化水素系のプロトン交換ポリマーを含むプロトン交換膜を用いた、濃度25重量%以上の高濃度のメタノール水溶液を燃料として使用することを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の芳香族炭化水素系のプロトン交換ポリマーにおいて、特定の面積膨潤率を有するプロトン交換膜を用いると、高濃度のメタノール水溶液を燃料として使用できるダイレクトメタノール型燃料電池を提供できることを見いだした。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成からなる。
1.40℃、30重量%のメタノール水溶液に対する面積膨潤率が2〜30%の範囲にあることを特徴とする下記一般式(4)で示される構成成分とともに一般式(5)で示される構成成分を含む芳香族炭化水素系ポリマーを含むことを特徴とするプロトン交換膜を用いた、濃度25重量%以上のメタノール水溶液を燃料として使用するダイレクトメタノール型燃料電池。
【0011】
【化1】


ただし、XはHまたは1価のカチオン種を示す。
【0012】
【化2】

【0013】
2.前記芳香族炭化水素系ポリマーのスルホン酸基含有量が0.4〜1.8meq/gの範囲内であることを特徴とする1.に記載のダイレクトメタノール型燃料電池。
3.前記プロトン交換膜の両面に、ガス拡散層及び触媒層を含む電極が接合され、当該触媒層には、白金とルテニウムの合金が含有されることを特徴とする1.〜2.のいずれかに記載のダイレクトメタノール型燃料電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池は、高濃度のメタノールを燃料として用いても安定に動作できることを特徴としており、特に燃料電池の高エネルギー密度化、小型化に貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、特に高濃度のメタノール水溶液を燃料として用いるダイレクトメタノール型燃料電池において使用する芳香族炭化水素系のプロトン交換膜の選択と最適化に関する鋭意検討を行い本発明に至っている。
【0016】
プロトン伝導性の発現に寄与する、例えばスルホン酸基などのカチオン性官能基をポリマー骨格中に含む成分と、プロトン伝導性に寄与しない例えば芳香族骨格からなる疎水性成分を、共重合して形成されるプロトン交換膜において、プロトン伝導性成分の割合を増やすとプロトン伝導性は増すが、それと相関して、メタノールクロスオーバーも増大する。一方、プロトン伝導性成分の割合を減らすとメタノールのクロスオーバーを抑制できるが、プロトン伝導性も低下する。すなわち、プロトンが移動可能なチャンネルもメタノールが移動可能なチャンネルも基本的には親水性部位であるため、両者の間には正の相関が存在する。
【0017】
よって、プロトン伝導性成分の多く含まれるプロトン交換膜とプロトン伝導性成分があまり含まれないプロトン交換膜を比較した場合、プロトン伝導率や、メタノール透過係数など、膜の基礎物性としては異なっているものの、発電時に影響するのは、プロトン伝導率やメタノール透過係数に膜の厚みが加味された、すなわち膜の抵抗およびメタノール透過速度であるため、例えば、後者のプロトン伝導率とメタノール透過係数の両方が小さいプロトン交換膜の膜厚を薄くすれば、膜抵抗としては減少し、メタノール透過速度も速くなるので、ある程度の範囲で前者のプロトン伝導率とメタノール透過係数の両方が比較的高い膜に近づけることは可能である。
【0018】
そのような中、本発明者らは、特に高濃度のメタノール水溶液を燃料として使用する場合においては、種々の組み合わせが考えられる中、メタノール水溶液に対する面積膨潤率を特定の範囲に抑えたプロトン交換膜を用いて作製したダイレクトメタノール型燃料電池でなければ、長時間の発電に耐えられないことを見いだし、本発明に至った。
【0019】
すなわち本発明は、特定の芳香族炭化水素系ポリマーを含むことを特徴とするプロトン交換膜において、特にメタノール水溶液に対する面積膨潤性の小さなプロトン交換膜を選択し、使用することと、高濃度のメタノール水溶液を燃料として用いることの両方を特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池である。
【0020】
本発明におけるプロトン交換膜としては、芳香族炭化水素系ポリマーを含むことを特徴としており、また、40℃、30重量%のメタノール水溶液に対する面積膨潤率(詳細な評価方法は後述)が2〜30%の範囲に選択される点が重要である。面積膨潤性が30%よりも大きいプロトン交換膜を用いたダイレクトメタノール型燃料電池においても、本発明のダイレクトメタノール型燃料電池と初期性能では同等、場合によってはそれ以上の性能を引き出せるが、面積膨潤性が30%よりも大きいと、発電時にメタノール水溶液によって膜が膨潤しようとする力が働くため、濃度25重量%以上のメタノール水溶液を燃料として使用し運転すると、電極がプロトン交換膜から剥がれてくるため、電池の内部抵抗が大きくなり、最終的には使用に適さないことが分かった。一方、面積膨潤率が2%よりも小さいプロトン交換膜においては、電極との密着性が悪いため、十分な性能を発現できないという問題がある。なお、面積膨潤率が5〜20%の範囲に選択される場合、特に良好なダイレクトメタノール型燃料電池となることを見いだした。
【0021】
なお、このように面積膨潤率が大きいと電極との接合性に問題が生じるという結果は、ナフィオン(R)膜では特に観察されていない。ナフィオン(R)膜の面積膨潤率は、50〜60%である。芳香族炭化水素系ポリマーを含むプロトン交換膜でこの面積膨潤率が問題となる。
【0022】
以下、プロトン交換膜を作製するためのポリマーについて説明する。
【0023】
プロトン交換膜に用いるポリマーの種類としては、後述の構造単位を有する芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーが好ましく、例えば、ポリエーテルスルホンを含むポリマーに、スルホン酸基が導入されているポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリエーテルスルホンは、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合を有しているポリマーの総称である。
【0024】
上記酸性基を含有するポリマーのうち、芳香環上にスルホン酸基を持つポリマーは、上記例のような骨格を持つポリマーに対して適当なスルホン化剤を反応させることにより得ることができる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族環含有ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸を使用するもの(例えば、Solid State Ionics,106,P.219(1998))、クロル硫酸を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.295(1984))、無水硫酸錯体を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P.1231(1985))等が有効である。これらの試薬を用い、それぞれのポリマーに応じた反応条件を選定することにより実施することができる。また、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等を用いることも可能である。
【0025】
また、上記ポリマーは、重合に用いるモノマーの中の少なくとも1種にイオン交換性官能基を含むモノマーを用いて合成することもできる。芳香族ジハライドと芳香族ジオールから合成されるポリエーテルスルホンは、モノマーの少なくとも1種にスルホン酸基含有芳香族ジハライドやスルホン酸基含有芳香族ジオールを用いることで合成することが出来る。この際、スルホン酸基含有ジオールを用いるよりも、スルホン酸基含有ジハライドを用いる方が、重合度が高くなりやすいとともに、得られたポリマーの熱安定性が高くなるので好ましいと言える。
【0026】
なお本発明におけるプロトン交換膜を形成するためのポリマーは、スルホン酸基含有ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのポリアリーレンエーテル系化合物であることがより好ましい。
【0027】
本発明のプロトン交換膜を形成するためのポリマーとしては、スルホン酸基含有量が0.4〜1.8meq/gの範囲にあることが好ましい。0.4meq/gよりも少ない場合には、MEAを作製する時の電極との接合性が悪く、ダイレクトメタノール型燃料電池とした際の内部抵抗が増加する。一方、1.8meq/gよりも大きい場合には面積膨潤率が大きくなりすぎるので、運転中に電極の剥離が発生し、長期間安定に動作させることはできない。なお、スルホン酸基含有量はポリマー組成より計算することができる。より好ましくは0.7〜1.7meq/gである。
【0028】
さらに本発明のプロトン交換膜を形成するためのポリマーとしては、下記一般式(4)とともに一般式(5)で示される構成成分を含むものが特に好ましい。ビフェニレン構造を有していることにより面積膨潤率が抑えられるとともに、強靱性も高いものとなる。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】


ただし、XはHまたは1価のカチオン種を示す。
【0031】
また、スルホン酸基を含有するポリアリーレンエーテル系ポリマーにおいては上記一般式(4)および一般式(5)で示される以外の構造単位が含まれていてもかまわない。このとき、上記一般式(4)または一般式(5)で示される以外の構造単位は50重量%以下であることが好ましい。50質量%以下とすることにより、ポリマーの特性を活かしたプロトン交換膜とすることができる。
【0032】
スルホン酸基を含有するポリアリーレンエーテル系ポリマーは、下記一般式(6)および一般式(7)で表される化合物をモノマーとして含む芳香族求核置換反応により重合することができる。一般式(6)で表される化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、およびそれらのスルホン酸基が1価カチオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価カチオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限される訳ではない。一般式(7)で表される化合物としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、等を挙げることができる。
【0033】
【化3】

【化4】

ただし、Yはスルホニル基、Xは1価のカチオン種、Zは塩素またはフッ素を示す。
【0034】
本発明において、上記2,6−ジクロロベンゾニトリルおよび2,4−ジクロロベンゾニトリルは、異性体の関係にあり、いずれを用いたとしても良好なプロトン伝導性、耐熱性、加工性および寸法安定性を達成することができる。その理由としては両モノマーとも反応性に優れるとともに、小さな繰り返し単位を構成することで分子全体の構造をより硬いものとしていると考えられている。
【0035】
上述の芳香族求核置換反応において、上記一般式(6)、(7)で表される化合物とともに各種活性化ジフルオロ芳香族化合物やジクロロ芳香族化合物をモノマーとして併用することもできる。これらの化合物例としては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0036】
また、上述の一般式(6)、(7)で表される化合物とともに使用される芳香族ジオールモノマーの例としては、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等があげられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオールを使用することもできる。
【0037】
スルホン酸基を含有するポリアリーレンエーテル系ポリマーを芳香族求核置換反応により重合する場合、上記一般式(6)および一般式(7)で表せる化合物を含む活性化ジフルオロ芳香族化合物及び/またはジクロロ芳香族化合物と芳香族ジオール類を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜230℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜40重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、40重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。
【0038】
また、本発明のスルホン酸基を含有するポリアリーレンエーテル系ポリマーは、ポリマー対数粘度が0.1以上であることが好ましい。対数粘度が0.1よりも小さいと、プロトン交換膜として成形したときに、膜が脆くなりやすくなる。還元比粘度は、0.3以上であることがさらに好ましい。一方、還元比粘度が5を超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるので好ましくない。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
【0039】
なお、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、ラジカル防止剤などの各種添加剤や、プロトン交換膜の特性をコントロールするための貴金属、無機化合物や無機―有機のハイブリッド化合物、イオン性液体、などを含んでいても良い。また、可能な範囲で複数のものが混在していても良い。
【0040】
以上に示したポリマーを、押し出し、圧延またはキャストなど任意の方法でプロトン交換膜とすることができる。中でも適当な溶媒に溶解した溶液から成形することが好ましい。この溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール等のアルコール類や、エーテル類、ケトン類または、それらと水の混合溶媒から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。溶液中の化合物濃度は0.1〜50重量%の範囲であることが好ましい。溶液中の化合物濃度が0.1重量%未満であると良好な成形物を得るのが困難となる傾向にあり、50重量%を超えると加工性が悪化する傾向にある。溶液から成形体を得る方法は従来から公知の方法を用いて行うことができる。プロトン交換膜を成形する手法として最も好ましいのは、溶液からのキャストであり、キャストした溶液から上記のように溶媒を除去してプロトン交換膜を得ることができる。溶媒の除去は、乾燥によることがプロトン交換膜の均一性の観点からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜2500μmであることが好ましい。より好ましくは50〜1500μmである。溶液の厚みが10μmよりも薄いとプロトン交換膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、2500μmよりも厚いと不均一なプロトン交換膜ができやすくなる傾向にある。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温で行い、後に昇温させる方法がある。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。本発明のプロトン交換膜は目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、プロトン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には3〜200μmであることが好ましく、5〜150μmであることがさらに好ましい。プロトン交換膜の厚みが3μmより薄いとプロトン交換膜の取扱が困難となり燃料電池を作製した場合に短絡等が起こる傾向にあり、200μmよりも厚いとプロトン交換膜が頑丈となりすぎ、ハンドリングが難しくなる傾向にある。また本発明においては、プロトン交換膜として記載したが、中空糸状に加工することも好ましい形であり、加工に際しては公知の処方を利用できる。
【0041】
最終的に得られたプロトン交換膜を使用する場合、膜中のイオン性官能基は一部金属塩になっているものを含んでいても良いが、適当な酸処理により酸型のものに変換した形が好ましい。この際、プロトン交換膜のプロトン伝導率は1.0x10−3S/cm以上であることが好ましい。プロトン伝導率が1.0x10−3S/cm以上である場合には、そのプロトン交換膜を用いた燃料電池において良好な出力が得られる傾向にあり、1.0x10−3S/cm未満である場合には燃料電池の出力低下が起こる傾向にある。
【0042】
なお、メタノールクロスオーバーを防ぐ意味では、メタノール透過速度として、0.1〜3.0mmol/m/sの範囲にあることが好ましく、より好適には、2.5mmol/m/sよりも小さいことが望ましい。
【0043】
プロトン交換膜の両面に電極を接合することによって、MEAを得ることができる。電極としては、ガス拡散層と触媒層を含む2層以上の層からなる形態が一般的であり、触媒層がプロトン交換膜上に形成されており、その外側にガス拡散層が配置されるのが通常である。ここで触媒の種類や電極に使用されるガス拡散層の種類や接合方法などは特に限定されるものではなく、公知のものが使用でき、また公知の技術を組み合わせたものも使用できる。電極に使用する触媒としては耐酸性と触媒活性の観点から適宜選出できるが、白金族系金属およびこれらの合金や酸化物が特に好ましい。例えばカソードに白金または白金系合金,アノードに白金または白金系合金や白金とルテニウムの合金を使用すると高効率発電に適している。複数の種類の触媒を使用していても良く、分布があっても良い。電極中の空孔率は特に制限されるものではない。触媒層中に触媒と一緒に混在させるプロトン伝導性樹脂の種類・量なども特に制限されるものではない。またフッ素系結着剤に代表される疎水性化合物の含浸など、ガス拡散層および触媒層のガス拡散性をコントロールするための手法なども好適に利用できる。電極をプロトン交換膜に接合する技術としては、両者の界面に大きな抵抗が生じないようにすることが重要であり、また膜の膨潤収縮や、ガス発生の機械的な力によって剥離や電極触媒の剥落が生じないようにすることも重要である。この接合体の作製方法としては、従来から燃料電池における電極−膜接合方法の公知技術として知られている手法、例えばデカール法と言われる、触媒担持カーボンとプロトン交換樹脂、場合によりポリテトラフルオロエチレン等の撥水性を有する材料を混合してあらかじめ触媒インクを作製し、これをテフロン(登録商標)やポリプロピレンなどのフィルム上に均一に塗布・乾燥させてから、触媒層のみを膜に熱転写し、さらには別途作製したガス拡散層と重ね合わせる手法や、触媒インクを膜にスプレーやインクジェット等で析出させてから、ガス拡散層と重ね合わせる手法などが好適に用いられる。
【0044】
MEAをダイレクトメタノール型燃料電池に組み込むことによって良好な性能を有する燃料電池を提供できるが、濃度25重量%以上のメタノール水溶液を燃料として使用する本発明のダイレクトメタノール型燃料電池においては、面積膨潤率が特定の選択される範囲のプロトン交換膜を使用することが重要である。高濃度のメタノール水溶液を燃料とする燃料電池において、面積膨潤率が大きい芳香族炭化水素系ポリマーからなるプロトン交換膜を用いると、MEAを作製する時は良好にできているため、初期発電性能は優れているが、膨潤しようとする応力により、長時間の使用では、電極の剥離が起こってしまう。そのため良好な特性を維持することはできない。一方、本発明によるダイレクトメタノール型燃料電池は、電極の剥離は観察されず、良好な状態のMEAを維持できる点で特に優れている。また、前述したようにメタノール水溶液濃度が薄いとエネルギー密度が低く、また大きな電池となってしまうことから、実用化を考えた場合は望ましくなく、メタノール水溶液としての濃度は25重量%よりも高いことが好ましく、さらに良好には30重量%以上である。なおメタノール水溶液の濃度が60重量%を超えると、メタノールの酸化反応がスムーズに起こらなくなるため好ましくない。
【0045】
また、燃料電池に使用されるセパレータの種類や、空気に代表される酸化ガスの流速・供給方法・流路の構造などや、運転方法、運転条件、温度分布、燃料電池の制御方法などは特に限定されるものではない。ただしダイレクトメタノール型燃料電池の供給方法によっては、燃料タンクに供給するメタノール水溶液の濃度は25重量%よりも濃いが、装置に希釈メカニズムを設けることによって、MEAに供給されるメタノール水溶液の濃度としては、25重量%よりもかなり希釈した形で供給可能である。しかしながら本発明のダイレクトメタノール型燃料電池において意味する濃度25重量%という値は、MEAに供給されるメタノール水溶液の濃度のことであるため、燃料タンクに供給されるメタノール水溶液の濃度を指すわけでは無い。
【実施例】
【0046】
以下に本発明の実施例を示すが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
評価法・測定法
【0048】
<プロトン交換膜の膜厚>
プロトン交換膜の厚みは、マイクロメーター(Mitutoyo 標準マイクロメーター 0−25mm 0.01mm)を用いて測定することにより求めた。室温が20℃で湿度が30±5RH%にコントロールされた測定室内で24時間以上静置したプロトン交換膜を5×5cmの大きさに切断したサンプルに対して、20箇所の厚みを測定し、その平均値を膜厚とした。
【0049】
<イオン交換容量(酸型)>
イオン交換容量(IEC)としては、イオン交換膜に存在する酸型の官能基量を測定した。まずサンプル調整として、サンプル片(5×5cm)を80℃のオーブンで窒素気流下2時間乾燥し、さらにシリカゲルを充填したデシケータ中で30分間放置冷却した後、乾燥重量を測定した(Ws)。次いで、200mlの密閉型のガラス瓶に、200mlの1mol/l塩化ナトリウム-超純水溶液と秤量済みの前記サンプルを入れ、密閉したまま、室温で24時間攪拌した。次いで、溶液30mlを取り出し、10mMの水酸化ナトリウム水溶液(市販の標準溶液)で中和滴定し、滴定量(T)より下記式を用いて、IECを求めた。
IEC(meq/g)=10T/(30Ws)×0.2
(Tの単位:ml),(Wsの単位:g)
【0050】
<面積膨潤率>
面積膨潤率の測定は、まず、<イオン交換容量(酸型)>の項で調整方法を示した乾燥状態にあるサンプルの正確な面積(As)を測定した。次いで、サンプルを密閉型のガラス瓶に入れた200mlの40℃30重量%のメタノール水溶液に2時間撹拌しながら浸積した。その後、ガラス瓶を水冷することによって、室温程度までメタノール水溶液の温度を下げた。次いでサンプルをガラス瓶から取り出し、直ぐにメタノール水溶液で膨潤したサンプルの面積(Aw)を測定し、下記式を用いて面積膨潤率を求めた。
面積膨潤率(%)=(Aw−As)/As×100(%)
【0051】
<プロトン伝導率>
プロトン伝導率σは次のようにして測定した。自作測定用プローブ(ポリテトラフルロエチレン製)上で幅10mmの短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、25℃に調整した超純水中に試料をプローブと一緒に浸積し、白金線間の交流インピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を10mmから40mmまで10mm間隔で変化させて測定し、極間距離と抵抗測定値をプロットした直線の勾配Dr[Ω/cm]から下記式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルして算出した。
σ[S/cm]=1/(膜幅×膜厚[cm]×Dr)
【0052】
<メタノール透過速度およびメタノール透過係数>
プロトン交換膜のメタノール透過速度およびメタノール透過係数は、以下の方法で測定した。25℃に調整した5モル/リットルのメタノール水溶液(メタノール水溶液の調整には、市販の試薬特級グレードのメタノールと超純水(18MΩ・cm)を使用。)に24時間浸漬したプロトン交換膜をH型セルに挟み込み、セルの片側に100mlの5モル/リットルのメタノール水溶液を、他方のセルに100mlの超純水を注入し、25℃で両側のセルを撹拌しながら、プロトン交換膜を通って超純水中に拡散してくるメタノール量をガスクロマトグラフにより測定することで算出した(プロトン交換膜の面積は、2.0cm)。なお具体的には、超純水を入れたセルのメタノール濃度変化速度[Ct](mmol/L/s)より以下の式を用いて算出した。
メタノール透過速度[mmol/m/s]=(Ct[mmol/L/s]× 0.1[L])/2×10−4[m
メタノール透過係数[mmol/m/s]=メタノール透過速度[mmol/m/s]×膜厚[m]
【0053】
<発電特性>
デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液に、市販の54%白金/ルテニウム触媒担持カーボンと、少量の超純水およびイソプロパノールを加え、均一になるまで撹拌し、触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、東レ製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が1.7mg/cmになるようにアプリケーターを用いて均一に塗布・乾燥して、アノード用の触媒層付きガス拡散層を作製した。また、同様の手法で、白金/ルテニウム触媒担持カーボンに替えて市販の40%白金触媒担持カーボンを用いて、別途疎水化した前記カーボンペーパー上に電極触媒層を形成することで、カソード用の触媒層付きガス拡散層を作製した(1.1mg−白金/cm)。上記2種類の触媒層付きガス拡散層の間に、プロトン交換膜を、触媒層が膜に接するように挟み、ホットプレス機により180℃、で3分間加圧、加熱することにより、MEAを作製した。このMEAをElectrochem社製の評価用燃料電池セルに組み込んでセル温度40℃で、アノードに40℃の濃度30重量%のメタノール水溶液をカソードに乾燥空気をそれぞれ供給しながら、電流密度0.1A/cmで放電試験を行った際の電圧を調べた。測定は、運転開始後、3時間後および300時間後の値を代表値として評価した。
【0054】
実施例1
モル比で1.00:5.62:6.62:7.62となるように、3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩、2,6−ジクロロベンゾニトリル、4,4'−ビフェノール、炭酸カリウムの混合物を調整し、その混合物15gをモリキュラーシーブ3.50gと共に100ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。溶媒としてはNMPを使用した。155℃で一時間撹拌した後、反応温度を190−200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約4時間)。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰させた超純水中で1時間洗浄した後、乾燥した。ポリマーの30%NMP溶液を調整した。流延法によってポリマー溶液を薄く引き延ばし、80℃次いで130℃で5時間乾燥することフィルムを作製した。次いで、2mol/lの硫酸水溶液中に一晩時間浸漬し、水洗5回後、枠に固定して室温で乾燥することでプロトン交換膜を作製した。このプロトン交換膜の物性、およびプロトン交換膜を用いて作製した実施例1のダイレクトメタノール型燃料電池の発電特性を表1に示す。
【0055】
実施例2
3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩、2,6−ジクロロベンゾニトリル、4,4'−ビフェノール、炭酸カリウムのモル比を1.00:3.44:4.44:5.15としたことを除いて、実施例1の手法に従い実施例2のダイレクトメタノール型燃料電池を作製した。プロトン交換膜の物性、および発電特性を表1に示す。
【0056】
実施例3
3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩、2,6−ジクロロベンゾニトリル、4,4'−ビフェノール、炭酸カリウムのモル比を1.00:2.45:3.45:4.00としたことを除いて、実施例1の手法に従い実施例3のダイレクトメタノール型燃料電池を作製した。プロトン交換膜の物性、および発電特性を表1に示す。
【0057】
実施例4
3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩、2,6−ジクロロベンゾニトリル、4,4'−ビフェノール、炭酸カリウムのモル比を1.00:2.13:3.13:3.63としたことを除いて、実施例1の手法に従い実施例4のダイレクトメタノール型燃料電池を作製した。プロトン交換膜の物性、および発電特性を表1に示す。
【0058】
比較例1
3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩、2,6−ジクロロベンゾニトリル、4,4'−ビフェノール、炭酸カリウムのモル比を1.00:1.70:2.70:3.10としたことを除いて、実施例1の手法に従い比較例1のダイレクトメタノール型燃料電池を作製した。プロトン交換膜の物性、および発電特性を表1に示す。
【0059】
比較例2
3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩、2,6−ジクロロベンゾニトリル、4,4'−ビフェノール、炭酸カリウムのモル比を1.00:1.26:2.26:2.63としたことを除いて、実施例1の手法に従い比較例2のダイレクトメタノール型燃料電池を作製した。プロトン交換膜の物性、および発電特性を表1に示す。
【0060】
比較例3
3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩、2,6−ジクロロベンゾニトリル、4,4'−ビフェノール、炭酸カリウムのモル比を1.00:15.7:16.7:19.22としたことを除いて、実施例1の手法に従い比較例3のダイレクトメタノール型燃料電池を作製した。プロトン交換膜の物性、および発電特性を表1に示す。
【0061】
比較例4
ナフィオン(R)117膜をプロトン交換膜として用いることで比較例4のダイレクトメタノール型燃料電池を作製した。プロトン交換膜の物性、および発電特性を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例のプロトン交換膜と比較例のプロトン交換膜はいずれもプロトン伝導率が異なるため、膜としての抵抗をなるべく一定の値に揃える意味で厚みを調整している。結果得られたプロトン交換膜のメタノール透過速度としては、実施例の芳香族炭化水素系のプロトン交換膜で約2〜2.5mmol/m/s、比較例1、2の芳香族炭化水素系のプロトン交換膜で約1.5〜2mmol/m/s、フッ素系膜の比較例4の膜で約3.7mmol/m/sとなり、プロトン交換膜のメタノール透過速度では、比較例1,2の膜が優れる結果となった。そのため、わずかではあるが3時間運転後の発電特性は実施例のダイレクトメタノール型燃料電池よりも、比較例1、2のダイレクトメタノール型燃料電池の方が優れていた。一方、フッ素系膜を使用した比較例4のダイレクトメタノール型燃料電池は、プロトン交換膜のメタノールクロスオーバーが顕著なため性能が劣っていた。燃料となるメタノール水溶液の濃度が薄い場合、メタノールクロスオーバーがあっても良好な性能が得られるが、高濃度のメタノール水溶液を燃料とした場合、使用に適さない。一方、300時間発電を行った後の性能を比較すると、実施例のダイレクトメタノール型燃料電池の性能は、いずれも良好な性能を維持していたのに対して、比較例1,2のものは著しく性能が低下した。発電試験後に電池を分解した結果、触媒層が剥がれている様子が観察され、かつ膜の膨潤も目立っていた。このような結果から、面積膨潤率が大きなプロトン交換膜を高濃度のメタノール水溶液を燃料として用いるダイレクトメタノール型燃料電池に用いると、プロトン交換膜が膨潤しようとする作用が働くため、長時間の使用に耐えない。実施例の電池についても分解してみたが、こちらは目立った変化は観察されなかった。従って、高濃度のメタノール水溶液を燃料として用い、芳香族炭化水素系のプロトン交換膜を使用したダイレクトメタノール型燃料電池においては、プロトン交換膜の面積膨潤性を30%以下に抑えたものを使用することが重要である。比較例4のフッ素系膜に関しては、面積膨潤率が55%と大きかったが、初期性能を維持していた。このような面積膨潤率が問題となるのは、芳香族炭化水素系のプロトン交換膜特有の問題である。また、比較例3のプロトン交換膜については、プロトン伝導率が非常に小さいため、膜の厚みも2μmと薄い。そのためハンドリング性に問題があり、シワや折れ曲がりが発生しやすいものであった。そのためか、メタノール透過係数およびメタノール透過速度を測定する際、欠点からのメタノールのリークがあり、正確な値を測定できなかった。また、プロトン交換膜と電極との接着性も悪く、本実施例の手法ではMEAを作製することはできなかった。従って電池性能の評価には至らないものであった。以上の観点から、濃度25重量%以上のメタノール水溶液を燃料として使用することが可能であり、芳香族炭化水素系ポリマーを含むことを特徴とするプロトン交換膜を用いた、長期間安定に動作するダイレクトメタノール型燃料電池を、プロトン交換膜の面積膨潤率が2〜30%の範囲に選択し、使用することによって発明した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
高濃度のメタノール水溶液を燃料として利用可能であることから、高いエネルギー密度と小型化を実現する、芳香族炭化水素系のプロトン交換膜を用いたダイレクトメタノール型燃料電池を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃、30重量%のメタノール水溶液に対する面積膨潤率が2〜30%の範囲にあることを特徴とする下記一般式(4)で示される構成成分とともに一般式(5)で示される構成成分を含む芳香族炭化水素系ポリマーを含むことを特徴とするプロトン交換膜を用いた、濃度25重量%以上のメタノール水溶液を燃料として使用するダイレクトメタノール型燃料電池。
【化1】


ただし、XはHまたは1価のカチオン種を示す。
【化2】

【請求項2】
前記芳香族炭化水素系ポリマーのスルホン酸基含有量が0.4〜1.8meq/gの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のダイレクトメタノール型燃料電池。
【請求項3】
前記プロトン交換膜の両面に、ガス拡散層及び触媒層を含む電極が接合され、当該触媒層には、白金とルテニウムの合金が含有されることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のダイレクトメタノール型燃料電池。

【公開番号】特開2013−16500(P2013−16500A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183175(P2012−183175)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【分割の表示】特願2004−326324(P2004−326324)の分割
【原出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】