説明

ダクト工事用足場設置システム及びこれを用いた施工方法

【課題】天井に吊支されたダクトや吊部材の追加工事等を行う場合に、工期の短縮及びコストの削減等を図ることのできるダクト工事用足場設置システム及びこれを用いた施工方法を提供する。
【解決手段】吊部材3を介してダクト1が天井に吊支され、ダクト1に並列して点検歩廊2が設けられた建造物において、吊部材3の追加工事等を実施するためのダクト工事用足場設置システム5は、ダクト1に沿って延設される吊部材3のレール12と点検歩廊2とにかけて架け渡される足場構成部材21と、レール12と建造物の梁7とを連結する安全帯取付部材22とを備える。足場構成部材21は、点検歩廊2の床面に対して上方かつレール12側に傾斜するように載置され、作業者が昇降可能な本体部31と、本体部31の上端から鈍角をなすように略水平方向に延出する延出部35と、延出部35の下辺部において設けられ、レール12と嵌合する位置決め部37とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井に吊支されたダクトや吊部材の追加・補修工事を行う場合に使用するダクト工事用足場設置システム及びこれを用いた施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既に稼働している工場等の建造物において、天井に吊支されたダクトやダクトを吊支するための吊部材の追加・補修工事等(耐震補強等)を行う場合には、高所作業車を用いて作業が行われている。ところが、ダクトの下方に生産装置等が設置されていると、高所作業車だけでは対応しきれない場合がある。また、ダクト断面が大面積である場合、ダクトの側方に高所作業者の作業かごを横付けし、作業者が作業かごから身を乗り出してもダクトや吊部材への作業を上手く行うことができないし、危険作業となる場合がある。これらのような場合には、天井から足場板を吊った吊足場を組むことで対処していた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−90160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吊足場を組む場合、吊足場を設置・撤去する必要が生じ、工期が長くなったり、コストが高くなったりする等の各種不具合を招くおそれがある。
【0005】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、天井に吊支されたダクトや吊部材の追加・補修工事を行う場合に、工期の短縮及びコストの削減等を図ることのできるダクト工事用足場設置システム及びこれを用いた施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的等を解決するのに適した各手段につき項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果等を付記する。
【0007】
手段1.天井に対し、吊部材を介してダクトが吊支されるとともに、前記ダクトに並列して点検歩廊が設けられた建造物において、前記吊部材は、天井に固定される第1吊具と、前記第1吊具に支持され、前記ダクトに沿って延設されるレールと、前記レールに支持されるとともに、前記ダクトを保持する保持部材を支持する第2吊具とを備え、前記ダクト又は吊部材に関する追加・補修工事を実施するためのダクト工事用足場設置システムであって、
前記点検歩廊と前記レールとにかけて架け渡され、作業に際しての足場を構成する足場構成部材と、前記レールと建造物の梁とを連結し、作業に際して作業者の安全帯を取付けるための安全帯取付部材とを備え、
前記安全帯取付部材は、略直管状をなし、一端側において前記レールに嵌合する嵌合部を備えるとともに、他端側において建造物の梁に固定される固定部を備え、
前記足場構成部材は、一対の支柱部、及び前記一対の支柱部の間に横架された複数の踏桟を具備する本体部と、前記各支柱部の一端部から当該支柱部と鈍角をなすようにして当該支柱部に対して斜めに交差する方向に延出する延出部とを備え、
前記一対の支柱部の前記延出部が設けられていない側の端部を前記点検歩廊の床面に支持させるとともに、前記各延出部の下辺部においてそれぞれ設けられ、前記レールと嵌合する位置決め部を前記レールと嵌合させることで、前記足場構成部材が前記点検歩廊と前記レールとにかけて架け渡され、
当該足場構成部材が架け渡された状態において、前記延出部は略水平方向に延在するとともに、前記支柱部は前記点検歩廊に支持された下端部から前記レール側に向けて斜め上方に延在することを特徴とするダクト工事用足場設置システム。
【0008】
手段1によれば、本体部と延出部とを備える足場構成部材を点検歩廊とレールとにかけて架け渡すことで、作業者は足場構成部材に乗って(腹這いになって)ダクト又は吊部材の工事を行うことができる。このため、下方に生産設備等があり、高所作業車での作業が行えない場所にあるダクト又は吊部材の工事を、吊足場を組むことなく実施することができる。従って、工期の短縮、コストの削減等を図ることができる。さらに、足場構成部材に位置決め部が設けられているため、レールに対し、足場構成部材が旋回するようにして相対変位してしまうといった事態を回避することができる。
【0009】
また、足場構成部材に乗って工事を行う際に、安全帯を安全帯取付部材に取付けておくことができ、足場構成部材が作業中に万一移動しても安全帯取付部材は動かず、作業者の安全を確保することができ、比較的安全に作業を行うことができる。さらに、安全帯取付部材によってレールと梁とが連結されることとなるため、レールの振動を抑止することができ、足場構成部材を用いた作業の安全性をより一層向上させることができる。加えて、安全帯取付部材はレールにまで延設されていることから、作業者が付ける安全帯の安全帯取付部材側の連結部を、点検歩廊よりもダクト側にせり出した位置に設置することができる。このため、安全帯の連結部を点検歩廊の手摺りや点検歩廊から手の届く範囲にある梁等に連結した場合のように、万一、本体部から作業者が滑落した場合において、作業者が点検歩廊等の建造物の構造体に衝突してしまうといった事態を回避することができる。尚、足場構成部材に乗っての作業は、あくまでも安全帯取付部材に安全帯を取付けることで比較的安全に行えるものであり、足場構成部材単体を用いての(安全帯取付部材なしでの)作業は行わない。
【0010】
また、足場構成部材を設置した状態では本体部が傾斜して延在することから、作業者は基本的に本体部に腹這いとなって傾斜した体勢で作業を行うこととなる。このため、水平に腹這いとなって作業を行う場合に比べ、作業者の負担を軽減することができるとともに、作業者が身に付けている物(工具や眼鏡等)の落下のおそれを低減させることができる。
【0011】
手段2.前記位置決め部は、前記延出部の延在方向に沿ってスライド可能に設けられていることを特徴とする手段1に記載のダクト工事用足場設置システム。
【0012】
手段2によれば、場所によって点検歩廊とレールとの間の距離が多少遠近しても好適に足場構成部材を設置することができる。尚、安全帯取付部材の固定部はキャッチクランプによって構成されていることとしてもよい。この場合、固定部の位置を調節可能となり、足場構成部材とともに、点検歩廊とレールとの間の距離が多少遠近しても好適に安全帯取付部材を設置することができる。また、一対の位置決め部の間を連結する連結部を設けることとしてもよい。この場合、一対の位置決め部のスライド位置を揃えることができ、位置決め部をレールに嵌合する際の作業性の向上等を図ることができる。
【0013】
手段3.前記各支柱部には、前記各支柱部の側面から前記本体部の側方に向けて突出し、前記支柱部の長手方向に沿って延在する突条部が前記各支柱部と一体的に設けられていることを特徴とする手段1又は2に記載のダクト工事用足場設置システム。
【0014】
手段3によれば、突条部によって支柱部の強度を向上させることができる上、足場構成部材に乗っての作業や足場構成部材への昇降に際し、突条部に手を掛けて体を支持することができる。
【0015】
手段4.前記点検歩廊は、前記ダクト側の側部とは反対側の側部に手摺りを有する片手すり点検歩廊であることを特徴とする手段1乃至3のいずれかに記載のダクト工事用足場設置システム。
【0016】
手段4によれば、足場構成部材の本体部上での作業に障害物がなく、また足場構成部材を保持介助する介助者も足場構成部材の支柱部や踏桟等をしっかりと保持することができる。
【0017】
手段5.上記手段1乃至4のいずれかに記載のダクト工事用足場設置システムを用いた施工方法であって、
前記安全帯取付部材の前記嵌合部を前記レールに嵌合させるとともに、前記固定部を建造物の梁に固定する工程と、
前記足場構成部材の前記位置決め部を前記レールに嵌合させるとともに、前記本体部を前記点検歩廊に設置する工程と、
前記安全帯取付部材に安全帯を取付けてから、前記足場構成部材の前記本体部を別の作業者が保持した状態で、前記足場構成部材に乗り、前記ダクト又は前記吊部材の工事を行う工程とを備えていることを特徴とするダクト工事用足場設置システムを用いた施工方法。
【0018】
手段5によれば、ダクト工事用足場設置システムを用いて、安全かつスムースに作業を行うことができる。尚、少なくとも足場構成部材の設置及び取外しの際には、足場構成部材と点検歩廊又は安全帯取付部材とをロープ等で繋ぎ、足場構成部材の落下の防止を図ることとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ダクト及び吊部材の概略構成を示す説明図である。
【図2】足場構成部材を示す斜視図である。
【図3】ダクト工事用足場設置システム等の概略構成を示す説明図である。
【図4】ダクト工事用足場設置システム等の概略構成を示す説明図である。
【図5】ダクト工事用足場設置システム等の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1、図4等に示すように、天井にダクト1が吊支されるとともに、ダクト1に並列して片手すり点検歩廊(以下、単に「点検歩廊2」と言う)が設けられた建造物において、ダクト1やダクト1を天井に吊支するための吊部材3の追加・補修工事を実施する場合に、本実施形態のダクト工事用足場設置システム5が用いられる。特に、本実施形態では、吊部材3の耐震補強を行う場合について説明する。尚、本実施形態のダクト1は、比較的径の大きな(例えば1200φの)円形のスパイラルダクトである。また、吊部材3と点検歩廊2との間の距離は4m以内であるが、点検歩廊2から手を延ばしても吊部材3には手が届かない距離(例えば1.2m)となっている。さらに、点検歩廊2の手摺り2aは、点検歩廊2のダクト1側の側部とは反対側の側部に設けられている。
【0021】
図1に示すように、吊部材3は、天井に固定される第1吊具としての吊ボルト11と、吊ボルト11に支持され、ダクト1に沿って延設されるレール12と、レール12に支持され、ダクト1を保持する保持部材としての吊バンド13を支持する第2吊具としての連結片14とを備えている。
【0022】
吊ボルト11の上端は、建造物の図示しない天井面に設けられたアンカー(又は天井の梁)に固定されており、吊ボルト11の下端には、上下に対向する一対の上連結壁15a及び下連結壁15bと、連結壁15a、15bの側辺部間を連結する縦壁15cとを具備する略コ字状のチャンネル部材15がナット17によって固定されている。より詳しくは、上連結壁15aに形成された連結孔16に吊ボルト11が挿通された状態において、上連結壁15aを挟んで、上連結壁15aの上方及び下方に設けられた一対のナット17で上連結壁15aを締め付けることで吊ボルト11とチャンネル部材15とを固定している。本実施形態では、上連結壁15aの下方においてナット17を1つ追加する工事を行い、耐震補強を行うこととしている。尚、追加されるナット17としては、緩む側(抜け方向)への回転が抑止されるナット(Uナット)が使用される。
【0023】
また、チャンネル部材15の下連結壁15bの下面には、略四角枠状のレール支持体18が溶接固定されており、レール支持体18によってレール12が貫通状態で支持されている。レール支持体18は、その下辺部のうち両側辺部との連接部、すなわちレール12を支持する部位を残し、下方に開口するようになっている。
【0024】
ダクト1に沿って延在するレール12は、略四角筒状をなすとともに、その下壁部の幅方向中央部には、上下に貫通する挿通孔12aがレール12の長手方向全域に沿って形成されている。レール12の内側には、一対の車輪19aと一対の車輪19aの各中央部間を連結するシャフト19bとが設けられ、レール12の延在方向に沿ってレール12の内側を移動可能な滑車19が設けられている。また、連結片14は、シャフト19bが貫通する軸受部14aを備え、シャフト19bからレール12の挿通孔12a及びレール支持体18の開口部を介してレール12及びレール支持体18の下方にまで垂下している。
【0025】
連結片14の下端には、環状にダクト1の外周を周回するようにしてダクト1を保持する吊バンド13が固定されている。以上のようにして構成される吊部材3によって、ダクト1が天井に吊支されている。
【0026】
次に、ダクト工事用足場設置システム5について、図2、図3、図4等を参照して説明する。ダクト工事用足場設置システム5は、点検歩廊2とレール12とにかけて架け渡される足場構成部材21と、レール12と建造物の梁7とを連結する安全帯取付部材22とを備えている。
【0027】
図3に示すように、安全帯取付部材22は、略直管状をなす本体パイプ24と、本体パイプ24の一端側に固定され、下方に開口する略コ字状をなし、レール12に嵌合する嵌合部25と、一端が本体パイプ24の他端側に固定されるとともに、他端が建造物の梁7に固定される固定部としてのキャッチクランプ26とを備えている。
【0028】
図2に示すように、足場構成部材21は、一対の支柱部32、及び一対の支柱部32の間に横架された複数の踏桟33を具備する本体部31と、各支柱部32の一端部から当該支柱部32と鈍角をなすようにして当該支柱部32と斜めに交差する方向に延出する延出部35、及び一対の延出部35の間に横架された複数の補強桟36を具備する張り出し部34とを備えている。本実施形態では、支柱部32と延出部35とのなす角度が約125度となっており、全体として側面視略へ字状をなしている。また、支柱部32と延出部35とは溶接接合されており、相対変位不可能に構成されている。尚、足場構成部材21は基本的にアルミニウムによって構成されており、強度を確保しつつ、軽量化が図られている。
【0029】
そして、図4に示すように、一対の支柱部32の延出部35が設けられていない側の端部を点検歩廊2の床面に支持させるとともに、各延出部35の下辺部においてそれぞれ設けられ、下方に開口する略コ字状をなし、レール12と嵌合する位置決め部37をレール12と嵌合させることで、足場構成部材21が点検歩廊2とレール12とにかけて架け渡される。また、足場構成部材21が架け渡された状態においては、延出部35が略水平方向に延在するとともに、支柱部32が点検歩廊2に支持された下端部からレール12側に向けて斜め上方に延在することとなる。
【0030】
さらに、延出部35の下辺部には、延出部35の延在方向に沿って摺動レール部38が設けられており、本実施形態の位置決め部37は、摺動レール部38に対してスライド可能に設けられている。これにより、位置決め部37の延出部35に対する相対位置を調節可能に構成されている。加えて、摺動レール部38には、位置決め部37の摺動レール部38からの抜けを防止する図示しないストッパーが設けられている。また、一対の位置決め部37間を連結する図示しない連結部37aが設けられており、これによって、一対の位置決め部37が同調して動作するようになっている。
【0031】
また、各支柱部32及び各延出部35は断面略I形状をなしている。これによって、各支柱部32及び各延出部35には、それぞれ支柱部32及び延出部35の上辺部及び下辺部から本体部31及び張り出し部34の側方に向けて突出する突条部39が、支柱部32及び延出部35の長手方向全域に沿って形成されている。加えて、一対の支柱部32の下端部には、点検歩廊の床面と面当接する土台部40が設けられている。土台部40の底板は略平板状をなし、各支柱部32の側面よりも本体部31の側方にまで突出している。
【0032】
次に、上記したダクト工事用足場設置システム5の設置手順について図3〜図5を参照して説明する。尚、図3〜図5では、便宜上、吊部材3等を簡略化して図示している。
【0033】
先ず、図3に示すように、安全帯取付部材22の嵌合部25をレール12に嵌合させるとともに、キャッチクランプ26を建造物の梁7に固定する。尚、このとき、安全帯取付部材22の設置作業を行う作業者の安全帯41は点検歩廊2の手摺り2aに繋がれている。
【0034】
続いて、図4に示すように、足場構成部材21と点検歩廊2(又は安全帯取付部材22)とをロープ42等で繋いでから、足場構成部材21の位置決め部37をレール12に嵌合させるとともに、本体部31を点検歩廊2に載置することで、足場構成部材21を設置する。
【0035】
以上のようにダクト工事用足場設置システム5を設置した後、図5に示すように、安全帯41を安全帯取付部材22に繋いでから、足場構成部材21の本体部31を介添えの作業者に保持してもらいつつ、足場構成部材21に乗り、本体部31に腹這いとなって、吊部材3の吊ボルト11にナット17を追加する(Wナットとする)作業を行う。また、足場構成部材21は、レール12の延在方向において固定されているわけではないので、所定の吊部材3に関する作業を終えた後、当該所定の吊部材3に隣接する吊部材3の作業を行う場合には、足場構成部材21を逐一取外さなくても、位置決め部37をレール12に嵌合させた状態のまま、レール12の延在方向に沿って足場構成部材21をスライドさせることで、隣接する吊部材3の位置まで足場構成部材21を移動させることができる。
【0036】
以上詳述したように、本実施形態では、本体部31と張り出し部34とを備えて側面視で略へ字状をなす足場構成部材21を点検歩廊2とレール12とにかけて架け渡すことで、作業者は足場構成部材21に乗って吊部材3の工事を行うことができる。このため、下方に生産設備等があり、高所作業車での作業が行えない場所にある吊部材3の工事を、吊足場を組むことなく実施することができる。従って、工期の短縮、コストの削減等を図ることができる。さらに、足場構成部材21に位置決め部37が設けられているため、レール12の延在方向に対し、足場構成部材21が旋回するようにして変位してしまうといった事態を回避することができる。
【0037】
また、足場構成部材21に乗って工事を行う際にも、足場構成部材21とは別にレール12と梁7とにかけて固定された安全帯取付部材22に安全帯41が取付けられていることで比較的安全に作業を行うことができる。さらに、安全帯取付部材22によってレール12と梁7とが連結されることとなるため、レール12の振動を抑止することができ、足場構成部材21を用いた作業の安全性をより一層向上させることができる。加えて、安全帯取付部材22はレール12にまで延設されていることから、作業者が付ける安全帯41の安全帯取付部材22側の連結部を、点検歩廊2よりもダクト1側にせり出した位置に設置することができる。このため、安全帯41の連結部を点検歩廊2の手摺り2aや点検歩廊2から手の届く範囲にある梁7等に連結した場合のように、万一、本体部31から作業者が滑落した場合において、作業者が点検歩廊2等の建造物の構造体に衝突してしまうといった事態を回避することができる。尚、足場構成部材21に乗っての作業は、あくまでも安全帯取付部材22に安全帯41を取付けることで比較的安全に行えるものであり、足場構成部材21単体を用いての(安全帯取付部材22なしでの)作業は行わない。
【0038】
また、足場構成部材21を設置した状態では本体部31が傾斜して延在することから、作業者は基本的に本体部31に腹這いとなって傾斜した体勢で作業を行うこととなる。このため、水平に腹這いとなって作業を行う場合に比べ、作業者への負担を軽減することができるとともに、作業者が身に付けている物(工具や眼鏡等)の落下のおそれを低減させることができる。
【0039】
さらに、例えば、足場構成部材21が側面視でへ字状ではなくL字状に構成される場合、ダクト1や吊部材3に近付くためには、足場構成部材21の水平部にまで移動しなければならず、上記のように作業者が水平に腹這いとなって作業を行う必要が生じるだけでなく、ダクト1及び吊部材3までの移動距離が長くなったり、足場構成部材21の鉛直部から水平部への移動が比較的困難となったり、足場構成部材21の重心バランスが悪化したりする等の不具合を招くおそれがある。これに対し、本実施形態の構成を採用することで、斜めに腹這いになった姿勢のまま、ほぼ一直線にダクト1や吊部材3に近付くことができ、かかる不具合を払拭することができる。特に、建造物の天井にダクト1が吊支される場合には、天井とダクト1上端との距離が近いことが多く、この場合、作業者が本体部31の踏桟33に足を掛けつつ、延出部35よりも低い位置に身を置きながら作業を行えることにより、作業性の向上等を図ることができる。加えて、略へ字状の足場構成部材21のうち延出部35に設けられた位置決め部37がレール12に支持されることにより、延出部35とは延在方向がずれている本体部31に対して本体部31を裏返すような力が作用した場合にも、本体部31が裏返るように回動変位し難くなる。従って、足場構成部材21の設置状態の安定化を図ることができ、特に、本体部31に腹這いとなって作業を行うような構成においては安全性の面で享受できる作用効果は非常に大きいものとなる。
【0040】
また、位置決め部37は、延出部35の延在方向に沿ってスライド可能に構成されているため、場所によって点検歩廊2とレール12との間の距離が多少遠近しても好適に足場構成部材21を設置することができる。さらに、一対の位置決め部37間を連結する連結部37aが設けられているため、一対の位置決め部37のスライド位置を揃えることができ、位置決め部37をレール12に嵌合する際の作業性の向上等を図ることができる。
【0041】
また、支柱部32が断面略I形状に構成され、支柱部32の上辺部及び下辺部に沿って突条部39が形成されていることから、支柱部32の強度を向上させることができる上、足場構成部材21に乗っての作業や足場構成部材21への昇降に際し、支柱部32の上辺部に沿って形成された突条部39に手を掛けて体を支持することができる。さらに、支柱部32の下端部には土台部40が設けられ、当該土台部40は支柱部32の側面よりも本体部31の側方にまで突出しているため、足場構成部材21に乗っての作業中に足場構成部材21が横方向に傾いてしまうといった事態等を抑止することができ、足場構成部材21の安定感を向上させることができる。
【0042】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0043】
(a)上記実施形態では、吊部材3の吊ボルト11に対してナット17を追加する工事に具体化しているが、特にこれに限定されるものではなく、吊部材3のその他の構成(例えば、ダクト1の揺れを抑止する部材の追加工事等)やダクト1に関する工事に適用することも可能である。また、上記実施形態において天井に吊支されるダクト1はスパイラルダクトであったが、その他の種類のダクト(丸ダクト、角ダクト等)でもよい。
【0044】
(b)上記実施形態では、点検歩廊2が片手すり点検歩廊である場合について具体化されているが、例えば、点検歩廊のうちダクト1側の側部にも手摺りが設けられるとともに、点検歩廊の所定箇所において、当該ダクト1側の手摺りを分解可能(着脱可能又は扉状に側方に収容可能)に構成され、一時的にダクト1側の手摺りの一部を開放することのできる両手すり点検歩廊を適用することとしてもよい。
【0045】
(c)上記実施形態において、足場構成部材21の下端部(土台部40)に対し、足場構成部材21の下端部の位置ずれを防止するべく、点検歩廊2の床の側辺部等に係止可能な係止部を設けることとしてもよい。尚、係止部を回動可能に設けるなどして本体部31側に折り畳み(収納)可能としてもよい。また、点検歩廊2の床が格子状の場合、足場構成部材21の下端部から下方に出没可能に構成する等した係止部を格子内周側の開口に挿入して引っ掛けることとしてもよい。
【0046】
(d)上記実施形態において、位置決め部37を所望の位置までスライドさせた後、その位置で位置決め部37の変位を規制可能なストッパーを設けることとしてもよい。また、一対の位置決め部37間を連結する連結部37aを省略することも可能である。さらに、位置決め部37が当初から変位不可能となるように、位置決め部37は延出部35に固定されていることとしてもよい。
【0047】
(e)上記実施形態では、支柱部32が断面略I字状に形成されているが、特にこの断面形状に限定されるものではなく、例えば、四角筒状に形成してもよい。また、突条部39を省略する代わりに、支柱部32の上面側に略コ字状の手摺り部を突設することとしてもよい。但し、手摺り部を設けることで、本体部31の側方から手を伸ばして吊部材3等への作業を行うことが困難となったり、手摺り部に対して本体部31の側方に向けて体重をかけた場合、突条部39に指をかけて体重をかける場合に比べて、本体部31を裏返すような力が大きく作用するようになったりすることが懸念される。特に、手摺り部があると、手摺り部を過信し、注意力が低下してしまうことも懸念される。このため、足場構成部材21への昇降や作業中の補助となる構成を設ける場合には、手摺り部ではなく、突条部39を設ける方が好ましい。
【0048】
(f)上記実施形態の足場構成部材21は、一対の支柱部32に踏桟33が横架されているだけであるが、工具等を一時的に収納しておけるように例えば底板やフック等を設けることとしてもよい。この場合、作業に際しての利便性の向上を図ることができる。また、上記実施形態では、一対の延出部35の間に横架される補強桟36が設けられているが省略することも可能である。但し、強度を確保したり、足場構成部材21の落下を防止するためのロープ42を足場構成部材21の先端部側に確実に固定したりするべく、補強桟36を設けることが望ましい。
【0049】
(g)支柱部32の長さや、支柱部32と延出部35とのなす角度は特に限定されるものではなく、作業現場に応じてこれらを適宜変更した足場構成部材21を製造することとしてもよい。尚、支柱部32と延出部35とのなす角度は、120度以上、150度以下(足場構成部材21が側面視でへ字状)であることが望ましい。この場合、足場構成部材21が略L字状に構成される場合のように、作業者が水平部分にまで移動して作業を行わなければならなくなったり、足場構成部材21が略直線状に構成される場合のように、足場構成部材21が裏返るようにして回動変位し易くなってしまったりするといった事態を回避することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…ダクト、2…点検歩廊、3…吊部材、5…ダクト工事用足場設置システム、7…梁、11…吊ボルト、12…レール、13…吊バンド、14…連結片、21…足場構成部材、22…安全帯取付部材、25…嵌合部、26…キャッチクランプ、31…本体部、32…支柱部、33…踏桟、35…延出部、37…位置決め部、39…突条部、40…土台部、41…安全帯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井に対し、吊部材を介してダクトが吊支されるとともに、前記ダクトに並列して点検歩廊が設けられた建造物において、前記吊部材は、天井に固定される第1吊具と、前記第1吊具に支持され、前記ダクトに沿って延設されるレールと、前記レールに支持されるとともに、前記ダクトを保持する保持部材を支持する第2吊具とを備え、前記ダクト又は吊部材に関する追加・補修工事を実施するためのダクト工事用足場設置システムであって、
前記点検歩廊と前記レールとにかけて架け渡され、作業に際しての足場を構成する足場構成部材と、前記レールと建造物の梁とを連結し、作業に際して作業者の安全帯を取付けるための安全帯取付部材とを備え、
前記安全帯取付部材は、略直管状をなし、一端側において前記レールに嵌合する嵌合部を備えるとともに、他端側において建造物の梁に固定される固定部を備え、
前記足場構成部材は、一対の支柱部、及び前記一対の支柱部の間に横架された複数の踏桟を具備する本体部と、前記各支柱部の一端部から当該支柱部と鈍角をなすようにして当該支柱部に対して斜めに交差する方向に延出する延出部とを備え、
前記一対の支柱部の前記延出部が設けられていない側の端部を前記点検歩廊の床面に支持させるとともに、前記各延出部の下辺部においてそれぞれ設けられ、前記レールと嵌合する位置決め部を前記レールと嵌合させることで、前記足場構成部材が前記点検歩廊と前記レールとにかけて架け渡され、
当該足場構成部材が架け渡された状態において、前記延出部は略水平方向に延在するとともに、前記支柱部は前記点検歩廊に支持された下端部から前記レール側に向けて斜め上方に延在することを特徴とするダクト工事用足場設置システム。
【請求項2】
前記位置決め部は、前記延出部の延在方向に沿ってスライド可能に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のダクト工事用足場設置システム。
【請求項3】
前記各支柱部には、前記各支柱部の側面から前記本体部の側方に向けて突出し、前記支柱部の長手方向に沿って延在する突条部が前記各支柱部と一体的に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のダクト工事用足場設置システム。
【請求項4】
前記点検歩廊は、前記ダクト側の側部とは反対側の側部に手摺りを有する片手すり点検歩廊であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のダクト工事用足場設置システム。
【請求項5】
上記請求項1乃至4のいずれかに記載のダクト工事用足場設置システムを用いた施工方法であって、
前記安全帯取付部材の前記嵌合部を前記レールに嵌合させるとともに、前記固定部を建造物の梁に固定する工程と、
前記足場構成部材の前記位置決め部を前記レールに嵌合させるとともに、前記本体部を前記点検歩廊に設置する工程と、
前記安全帯取付部材に安全帯を取付けてから、前記足場構成部材の前記本体部を別の作業者が保持した状態で、前記足場構成部材に乗り、前記ダクト又は前記吊部材の工事を行う工程とを備えていることを特徴とするダクト工事用足場設置システムを用いた施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−97418(P2012−97418A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244089(P2010−244089)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000001834)三機工業株式会社 (316)