ダサチニブの耐性の判別とその克服方法
【課題】ダサチニブに対して治療抵抗性を示すCML患者および今後が新たな治療抵抗性が生ずるCML患者に提供する、より優れたCMLの治療方法の確立。
【解決手段】フィラデルフィア染色体として知られる遺伝子異常を有する白血病患者にダサチニブが有効かどうかを判定する方法、そのような患者の処置に有用なダサニチブ併用組成物、その組成物に用いられる薬剤のスクリーニング方法およびその方法に有用な細胞を提供する。
【解決手段】フィラデルフィア染色体として知られる遺伝子異常を有する白血病患者にダサチニブが有効かどうかを判定する方法、そのような患者の処置に有用なダサニチブ併用組成物、その組成物に用いられる薬剤のスクリーニング方法およびその方法に有用な細胞を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラデルフィア染色体として知られる遺伝子異常を有する白血病患者にダサチニブが有効かどうかを判定する方法、そのような患者の処置に有用なダサチニブ併用組成物、その組成物に用いられる薬剤のスクリーニング方法およびその方法に有用な細胞を提供する。
【背景技術】
【0002】
白血病とは血液中に異常な白血球が無制限に増加する疾患であり、血液の悪性腫瘍である。白血病は、病気の進行する速度により急性と慢性、異常な白血球の種類により骨髄性(顆粒球系)とリンパ性に分類することができる。この白血病患者、特に慢性骨髄性白血病(以下「CML」と称することもある)患者のほとんどはフィラデルフィア染色体(以下「Ph」と称することもある)と呼ばれる染色体異常を有する。このフィラデルフィア染色体は、途中で切れた22番染色体と結合した9番染色体断片から構成され、この遺伝子から生成されるBCR−ABLタンパク質によりチロシンキナーゼ活性が上昇して慢性骨髄性白血病における細胞の無限増殖が引き起こされると考えられている。
【0003】
選択的なBCR−ABLチロシンキナーゼ阻害剤であるメシル酸イマチニブ(グリベック(登録商標))の登場は、CMLの治療に大きな変化をもたらし、欧米を中心として行われたインターフェロンアルファとの大規模比較試験の結果から、第一選択薬として位置付けられるに至った。メシル酸イマチニブは、BCR−ABL発現細胞特異的に増殖を阻害する。
【0004】
しかし、慢性骨髄性白血病の急性期の患者あるいはPh陽性急性リンパ性白血病患者では、ほとんどの例で短期間のうちにメシル酸イマチニブに対する治療抵抗性が出現するという問題点が指摘されている。その原因としては、BCR−ABL遺伝子の突然変異によりBCR−ABLタンパク質の構造に変化を来し、メシル酸イマチニブが結合できなくなるためと考えられている(非特許文献1)。他にもBCR−ABL遺伝子の増幅、遺伝子増幅を伴わないタンパク質の増加、多剤耐性タンパク質の発現といった耐性機序が解明されてきている(非特許文献2〜6)。
【0005】
このようにメシル酸イマチニブに対する治療抵抗性の発現には、BCR−ABL遺伝子の変異によるイマチニブ結合部位の変化が原因と考えられ、また癌遺伝子SRCの作り出す産物と酷似するタンパクの総称であるSRCファミリーキナーゼの活性化などの複数の薬剤耐性機序が原因と考えられている。従って、こうした薬剤耐性を克服した更に効果的なCMLに対する治療薬が医療上必要とされている。
【0006】
こうした中で、ダサチニブ(dasatinib、BMS−354825)は、以下の構造を有し、メシル酸イマチニブと異なる部位に結合してBCR−ABLチロシンキナーゼに阻害作用を示し、さらにSRCチロシンキナーゼの阻害作用も有することから、Ph陽性のCMLに対する有用性が期待できると考え、世界的に開発が進められている(特許文献1)。
【化1】
【特許文献1】米国特許公報第6,596,746B1号
【非特許文献1】陣内逸郎 4.慢性骨髄性白血病に対するイマチニブ療法 血液フロンティア 2004;14:43-49
【非特許文献2】Druker BJ et al., N Engl J Med 2001; 344: 1038-1042.
【非特許文献3】O'Brien SG et al., N Engl J Med 2003; 348: 994-1004.
【非特許文献4】Mahon FX et al., Blood 2000; 96: 1070-1079.
【非特許文献5】Weisberg E et al., Blood 2000; 95: 3498-3505.
【非特許文献6】le Coutre P et al., Blood 2000; 95: 1758-1766.
【非特許文献7】CANCER CELL; JULY 2005, p 5.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、メシル酸イマチニブの場合と同様に、ダサチニブに対して治療抵抗性を示すCML患者の出現が懸念されており、また今後更に新たな治療抵抗性が生ずることも考えられ、更により優れたCMLの治療方法を確立することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ダサチニブ耐性CML患者のPh染色体陽性細胞中にアポトーシス関連バイオマーカーがアップレギュレートされていることを見出した。
かかる知見に基づき、上記の課題を解決するため、本発明は、以下の工程
(1)フィラデルフィア染色体陽性の(慢性)骨髄性白血病患者からフィラデルフィア染色体陽性の白血病細胞を含む生体試料を採取する工程、
(2)試料中の上記白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定する工程、及び
(3)上記(2)の測定値をコントロールにおける測定値と比較し、高いか否かを判断する工程、
を含む、患者のダサチニブによる治療に対する適応性を判定する方法を提供する。
ここで採取された生体試料としては、例えば血液、骨髄液などが挙げられる。
ここでコントロールとは、Ph陽性細胞であってダサチニブ非耐性のもの、Ph陰性細胞等のいずれでもよい。Ph陰性の対応細胞の起源は、Ph陰性であればどのような人でも良く、例えばPh陰性白血病患者や健常人が含まれる。Ph陽性骨髄性白血病患者であって、ダサチニブ投与前の白血病細胞が望ましい。
ここでアポトーシス関連バイオマーカーとは、例えば、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せなどが挙げられる。
そしてそのバイオマーカーの量を測定する工程としては、例えばイムノブロッティング法があり、具体的には以下の実施例にその例が挙げられている。
またここでアポトーシス関連バイオマーカーの測定をコントロールにおける測定値と比較して判断する基準としては、例えば、2.0倍以下、好ましくは1.5倍以下ならダサチニブ治療に適応すると判断し、また3.0倍以上、好ましくは5.0倍以上なら、非適応と判断することができる。
【0009】
また、本発明は、以下の工程
(1)ダサチニブにより治療中のフィラデルフィア染色体陽性の(慢性)骨髄性白血病患者からフィラデルフィア染色体陽性の白血病細胞を含む生体試料を採取する工程、
(2)試料中の上記白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定する工程、
(3)上記(2)の測定値をコントロールにおける測定値と比較し、高いか否かを判断する工程、
を含む、患者におけるダサチニブに対する耐性の発現を判定する方法を提供する。
ここで採取された生体試料としては、例えば血液、骨髄液などが挙げられる。
ここでコントロールとは、Ph陽性細胞であってダサチニブ非耐性のもの、Ph陰性細胞等のいずれでもよい。Ph陰性の対応細胞の起源は、Ph陰性であればどのような人でも良く、例えばPh陰性白血病患者や健常人が含まれる。Ph陽性骨髄性白血病患者であって、ダサチニブ投与前の白血病細胞が望ましい。
ここでアポトーシス関連バイオマーカーとは、例えば、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せなどが挙げられる。
そしてそのバイオマーカーの量を測定する工程としては、例えばイムノブロッティング法があり、具体的には以下の実施例にその例が挙げられている。
またここでアポトーシス関連バイオマーカーの測定をコントロールにおける測定値と比較して判断する基準としては、例えば、2.0倍以下、好ましくは1.5倍以下ならダサチニブ治療に適応すると判断し、また3.0倍以上、好ましくは5.0倍以上なら、非適応と判断することができる。
【0010】
更に、本発明は、ダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病細胞をダサチニブ及び候補薬物を含有する培地で培養し、該細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーの測定値が培養前に比較して培養後で低いかまたはアポトーシスが誘導されたかに基づいて、ダサチニブとの併用薬物を選択する方法を提供する。
ここで、ダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病細胞は、例えば、ダサチニブで加療中の骨髄性白血病患者由来のフィラデルフィア染色体陽性細胞、またはBCR−ABLをトランスフェクトされたダサチニブ耐性フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞が挙げられる。
【0011】
また、本発明は、以下の工程
(1)ヒト以外の哺乳動物にダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性骨髄性白血病を誘発し、
(2)該動物から単離した白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定し、
(3)ダサチニブと候補薬物とを該動物に投与して飼育した後白血病細胞中のアポトーシス関連バイオマーカーの測定値が上記(2)の測定値に比較して低いかまたはアポトーシスが誘導されたかに基づいてダサチニブとの併用薬物を選択する方法を提供する。
上記で示したダサチニブとの併用薬物を選択する方法においては、ダサチニブと候補薬物の存在下での培養または飼育前の測定値が培養または飼育後の測定値と比較して判断する基準としては、2.0倍以下、好ましくは1.5倍以下なら該候補薬物がダサチニブとの併用薬物として有用であると判断する。
その他各用語は、上記の各方法での定義と同義である。
または候補薬物とダサチニブの両者を含有する培地、ダサチニブのみを含有する培地で、フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞を並行して培養し、双方の培地中のバイオマーカーを測定し、候補薬物を含有する培地中のバイオマーカー値の減少又はアポトーシスを観察することによっても判定できる。
また、モデル動物を用いてインビボで行うこともできる
更に本発明では、上記の方法で得られた併用薬物を、同時または順次に投与して、ダサチニブとの併用治療に用いる医薬組成物を提供する。
該併用薬物としては、Bcl−XL、Mcl−1、およびLynキナーゼの阻害剤を挙げることができるが、これらに限定されない。一例としてABT−737が挙げられる。
ここで用いるABT−737とは、以下のような構造を有し、Bcl−2の阻害剤として様々な癌に効果が期待できる化合物である(非特許文献7)。
【化2】
【0012】
また、本発明は、上記の各種方法を行うためのキットであって、
(1)ダサチニブ耐性フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞
(2)培養装置
(3)バイオマーカーの抗体
(4)正常値を示す対照表
を含むキットを提供する。
さらに上記キットに使用説明書を含むキットも提供する。
ここで各用語は、上記の各方法での定義と同義である。
【0013】
また、本発明は、上記の各種方法およびキットに有用な、ダサチニブ耐性を発症している急性リンパ性白血病患者または慢性骨髄性白血病患者由来または株化細胞を起源とするダサチニブ耐性細胞株を提供する。該ダサチニブ耐性細胞株の調製方法としては、例えば以下の実施例の記載が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フィラデルフィア染色体として知られる遺伝子異常を有する白血病患者にダサチニブが有効かどうかを判定する方法、そのような患者の処置に有用なダサチニブ併用組成物、その組成物に用いられる薬剤のスクリーニング方法およびその方法に有用な細胞を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明(スクリーニング方法)の対象とする疾患としては、フィラデルフィア染色体を有する患者が発症する白血病、具体的には、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病が挙げられる。
また、本発明はヒトの疾患に適用される他、サル、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ラット、マウスなどの哺乳動物にも適用される。
以下、本発明を実施するにあたり、具体的に説明する。
なお、本発明の耐性株化細胞の作製に用いることができる株化細胞としては、TF−1、またはK562などが挙げられる。
白血病に効果が期待できるか否かの検討に一般的に用いられる2種類のヒト白血病株化細胞のK562細胞(ATCC番号:CCL−243)およびBDR−ABL遺伝子をトランスフェクトしたTF−1細胞(ATCC番号:CRL−2003。以下、TF1 BCRABL細胞と称する)を、イマチニブまたはダサチニブを漸増的に増加させながら培養することによりイマチニブ耐性またはダサチニブ耐性を発現した細胞株が提供される。具体的には、K562細胞およびTF1 BCR−ABL細胞をイマチニブ0.1μM存在下、またはダサチニブ0.5nM存在下で2週間培養し、次いでイマチニブまたはダサチニブの濃度を漸増させた。最終的に、イマチニブ耐性K562細胞およびイマチニブ耐性TF1 BCR−ABL細胞はイマチニブ10μM存在下で増殖することができた。また、ダサチニブ耐性K562細胞およびダサチニブ耐性TF1 BCR−ABL細胞はダサチニブ10nM存在下で増殖することができた。これらの耐性細胞株をPCRにより分析して、BCR−ABLキナーゼドメインに点変異が生じておらず、耐性発現がBCR−ABLキナーゼの変異に由来するものではないことを確認した。この株はダサチニブ耐性を発現する白血病患者の治療に用い得る化合物(ダサチニブとの併用化合物を含む)を開発する際に、一次スクリーニングの道具として利用することができる。
また、これら細胞を分析すると、ダサチニブ耐性を発現している細胞ではBcl−XL、Mcl−1、およびLynキナーゼの発現がアップレギュレートされていることが確認された。この知見をもとに、本発明者らはイマチニブ耐性を発現した白血病患者、または発現する可能性のある患者をBcl−XL、Mcl−1、およびLynキナーゼをバイオマーカーとして用いて判別して、不要な薬剤投与を省きうることを見出した。また、ダサチニブ耐性患者とイマチニブ耐性患者とではLynキナーゼの発現に差異があるので、いずれの薬剤が有効または無効であるかも判別することができる。
さらに、これらの細胞は、これら化合物に対する耐性を耐性細胞から消失させうる化合物のスクリーニングに使用することもできる。本発明において本発明者らはダサチニブとABT−737と併用すると細胞の生存率が減少し、アポトーシスが増加することを見出した。
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
ダサチニブ耐性細胞株の作製
ダサチニブ耐性細胞株を以下の手順により作製した。本実施例では耐性株の親株として、K562細胞およびTF−1 BCR−ABL細胞を用いた。K562細胞はヒト白血病細胞株であり、文献(Nakajima et al., Mol Cancer Ther., 2, 219-224)の記載に従い、TF−1細胞にp210 BCR−ABL (B2A2) cDNAを有するpGD210ベクターをトランスフェクトしてTF−1 BCR−ABL細胞を作製した。これら細胞株を培養する基本培地には10%ウシ胎仔血清(Hyclone Laboratories, Logan, UT)を補充したRPMI1640(Life Technology, Inc.)を用いた。
K562細胞およびTF−1 BCR−ABL細胞をイマチニブ(Novartis Inc. Basel, Switzerland製)0.1μMまたはダサニチブ(Bristol-Myers Squibb, New York, NY製)0.5nMと共に2週間培養し、次いでイマチニブまたはダサチニブの濃度を段階的に増加させることにより、イマチニブまたはダサチニブ耐性株を作製した。ダサチニブについては、0.5nmolから開始し、各濃度で2週間培養し、生存している細胞に対し、1.25倍から2倍に濃度を段階的に上げ、TF−1については、20nmolまで、K−562については200nmolまで上げ、生存している細胞を耐性と定義した。同様にイマチニブについても0.5μmolから開始し、10μmolで生存している細胞を耐性と定義した。細胞の薬剤耐性は、FITC結合型APO2.7モノクローナル抗体で細胞を染色し、フローサイトメトリーにかけることによりアポトーシス細胞の数を測定して決定した(図1A、1B)。最終的に、それぞれ、イマチニブ10μM存在下、およびダサチニブ20nM(K562の場合)または200nM(TF−1の場合)存在下で増殖し得る細胞を作製することができた。
なお、これら耐性株のBCR−ABLキナーゼドメイン配列をPCR分析により確認すると点変異は生じていなかった。従って、これら細胞に生じた耐性は、BCR−ABLタンパク質をコードする配列を保持したままで耐性を獲得している。
以下、イマチニブ耐性のK562細胞をK562−IMR細胞、TF−1細胞をTF−1 BCR−ABL−IMR細胞、ならびにダサチニブ耐性のK562細胞をK562−BMSR細胞、TF−1細胞をTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞と称する。
【実施例2】
【0018】
バイオマーカーによるダサチニブ耐性の判別
上記耐性細胞を用いて、イマチニブ耐性またはダサチニブ耐性の細胞を用いて、転写レベルが変化している遺伝子を同定した。この実験データは、3回の独立したマイクロアレイハイブリダイゼーションから遺伝子発現データをイムノブロッティングすることにより得た。実験に用いたABL抗体(24-11)、SHP-2抗体 (C-18)、Bcl−2抗体(C-2)およびMcl−1抗体(S-19)は、Santa Cruz Biotechnology, Inc. (Santa Cruz, CA)から購入した。Lyn抗体、リン酸化Lyn抗体 (Tyr507)、Bcl−XL抗体、カスパーゼ−3抗体、開列型カスパーゼ−3抗体、PARP抗体、および開裂型PARP (Asp214)はCell Signaling technology (Beverly, MA)から入手した。
我々は遺伝子発現変化の信頼限界として、1.5倍をカットオフ値として用いた。イムノブロッティングは文献(Tauchi et al., J Biol Chem, 269, 15381-15387)の記載に従い行った。
耐性細胞を、それぞれ、イマチニブ10μM存在下、およびダサチニブ20nM(K562の場合)または200nM(TF−1の場合)存在下で培養し、イムノブロッティングを行うと、いずれも親細胞と比較してBCR−ABLタンパク質の発現が増加していた(図2A)。SHP−2は発現量がイマチニブあるいはダサチニブ耐性の有無により変化しないので、各レーンにアプライしたタンパク質量が一定であることを示している。さらに、ダサチニブ耐性株においてLynキナーゼのリン酸化が顕著に増加しており、Lyn発現レベルも増加していた(図2B)。他方、Mcl−1、Bcl−2および生存率の発現は顕著な変化は観察されなかったが、Bcl−XLの発現が増加していた(図2B)。これらの結果より、ダサチニブ耐性表現型の獲得は、BCR−ABLタンパク質、LynキナーゼおよびBcl−XLの顕著な増加と関連している。
【実施例3】
【0019】
薬物の併用によるダサチニブ耐性の克服
従来、Lyn活性型CML細胞におけるBcl-2発現の増加がイマチニブ抵抗性の表現型の原因であることが示されており(Dai Y, Rahmani M, Corey SJ, Dent P, Grant S. (2004) J Biol Chem., 279, 34227-34239)、本発明者らはBcl-2をアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてダウンレギュレートすることによりBCR-ABL発現細胞をイマチニブに対して感受性にし得ることを見出していた(T. Tauchi et al., Clinical Cancer Research Vol. 9, 2003, 4267-4273)。そこで、我々は、BCR-ABL形質転換細胞におけるBcl-2ファミリータンパク質のインヒビターであるABT-737の活性を調べ、さらには、ダサチニブとの併用によるダサチニブ耐性克服の可能性について試験した。
1)TF−1 BCR−ABL−BMSR細胞をABT−737(Abbott Laboratories, Abott Park, IL製)およびイマチニブまたはダサチニブと共に72時間培養した後、フローサイトメトリーによりアポトーシス細胞を測定した。ABT−737を単独で適用した場合は細胞に対する毒性は最小限であるが、イマチニブと併用すると劇的にアポトーシス細胞数が増加した(図3A、3B)。ダサチニブをABT−737と併用すると、アポトーシス細胞は5nMより高濃度のダサチニブ濃度の場合と同レベルにまで達した(図3C、D)。この実験条件をイムノブロッティングで分析すると、1μM ABT−737および100nMダサチニブを併用すると、K562細胞内でカスパーゼ−3とPARPの切断物が増加していた(図3E)。カスパーゼ3の開裂による活性化は、アポトーシスの過程において主要な役割を果たしており、特にカスパーゼ3は細胞死の最終段階で作用しPRAPを開裂し、細胞死に至らしめるとともに、カスパーゼ2、6、8、10を活性化し、更にフィードバックにより上流のカスパーゼ9を増量させる。これら知見を合わせて考慮すると、ABT−737は、その細胞毒性が最小となるような濃度でイマチニブまたはダサチニブのいずれかと併用して、野生型BCR−ABL発現細胞におけるアポトーシスを効率よく誘発することができる。
2)Bcl−XLがダサチニブ耐性BCR−ABL形質転換細胞におけるABLキナーゼインヒビター反応の調節における役割を機能的に調べるために、TF−1 BCR−ABL−BMSR細胞を異なる濃度のABT−737およびイマチニブまたはダサチニブと共に72時間培養し、アポトーシスについて試験した。ダサチニブ100nMまたはイマチニブ10nMを用いて処理すると毒性は最小限に抑えられるが、TF−1 BCR−ABL−BMSR細胞にアポトーシスを誘発することはできなかった。しかし、ABT−737、およびイマチニブまたはダサチニブを同時に用いて処理すると、アポトーシス細胞の数は顕著に上昇した(図4A、4B)。これらの結果は、Bcl−2ファミリータンパク質の阻害がLynキナーゼ活性化エレメントによるダサチニブ耐性を克服する原因である可能性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明により、ダサチニブに対して治療抵抗性を示すCML患者に、フィラデルフィア染色体として知られる遺伝子異常を有する白血病患者にダサチニブが有効かどうかを判定する方法、およびそのような患者の処置に有用なダサニチブ併用組成物が提供され、また
その組成物に用いられる薬剤のスクリーニング方法およびその方法に有用な細胞も提供され、CML患者に対して適切な処置をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】1Aは、イマチニブまたはダサチニブの添加によりアポトーシスを生じたTF−1細胞、TF−1 BCR−ABL−IMR細胞およびTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞の数を示すグラフである。
【図1B】1Bは、イマチニブまたはダサチニブの添加によりアポトーシスを生じたK562、K562−IMR、K562−BMSR細胞の数を示すグラフである。
【図2A】2Aは記載の細胞株由来の細胞溶解物を、ABLモノクローナル抗体(上段)およびSHP−2抗体(下段)でイムノブロットした結果を示す。
【図2B】2Bは記載の細胞株から作製した細胞溶解物を抗Lyn抗体(上段パネル)、抗リン酸化Lyn抗体(中段)または抗Bcl−XL抗体(下段)でイムノブロットした結果を示す。
【図3A】イマチニブまたはダサチニブとABT−737との併用による、K562細胞およびTF−1 BCR−ABL細胞におけるアポトーシスの誘導およびカスパーゼ活性化を示す。3Aは、K562細胞を、記載濃度のイマチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図3B】3Bは、TF−1 BCR−ABL−BMSR細胞を、記載濃度のイマチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図3C】3Cは、K562細胞を、記載濃度のダサチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図3D】3Dは、TF−1 BCR−ABL細胞を、記載濃度のダサチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図3E】3Eは、ABT−7371μMおよびダサチニブ100nMと共にK562細胞を培養した後の、カスパーゼ−3およびPARPの開裂のイムノブロットによる評価を示す。
【図4A】ABT−737によりTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞のABLキナーゼインヒビター耐性が克服されることを示すグラフである。4AはTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞を、記載濃度のイマチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図4B】4BはTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞を、記載濃度のダサチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラデルフィア染色体として知られる遺伝子異常を有する白血病患者にダサチニブが有効かどうかを判定する方法、そのような患者の処置に有用なダサチニブ併用組成物、その組成物に用いられる薬剤のスクリーニング方法およびその方法に有用な細胞を提供する。
【背景技術】
【0002】
白血病とは血液中に異常な白血球が無制限に増加する疾患であり、血液の悪性腫瘍である。白血病は、病気の進行する速度により急性と慢性、異常な白血球の種類により骨髄性(顆粒球系)とリンパ性に分類することができる。この白血病患者、特に慢性骨髄性白血病(以下「CML」と称することもある)患者のほとんどはフィラデルフィア染色体(以下「Ph」と称することもある)と呼ばれる染色体異常を有する。このフィラデルフィア染色体は、途中で切れた22番染色体と結合した9番染色体断片から構成され、この遺伝子から生成されるBCR−ABLタンパク質によりチロシンキナーゼ活性が上昇して慢性骨髄性白血病における細胞の無限増殖が引き起こされると考えられている。
【0003】
選択的なBCR−ABLチロシンキナーゼ阻害剤であるメシル酸イマチニブ(グリベック(登録商標))の登場は、CMLの治療に大きな変化をもたらし、欧米を中心として行われたインターフェロンアルファとの大規模比較試験の結果から、第一選択薬として位置付けられるに至った。メシル酸イマチニブは、BCR−ABL発現細胞特異的に増殖を阻害する。
【0004】
しかし、慢性骨髄性白血病の急性期の患者あるいはPh陽性急性リンパ性白血病患者では、ほとんどの例で短期間のうちにメシル酸イマチニブに対する治療抵抗性が出現するという問題点が指摘されている。その原因としては、BCR−ABL遺伝子の突然変異によりBCR−ABLタンパク質の構造に変化を来し、メシル酸イマチニブが結合できなくなるためと考えられている(非特許文献1)。他にもBCR−ABL遺伝子の増幅、遺伝子増幅を伴わないタンパク質の増加、多剤耐性タンパク質の発現といった耐性機序が解明されてきている(非特許文献2〜6)。
【0005】
このようにメシル酸イマチニブに対する治療抵抗性の発現には、BCR−ABL遺伝子の変異によるイマチニブ結合部位の変化が原因と考えられ、また癌遺伝子SRCの作り出す産物と酷似するタンパクの総称であるSRCファミリーキナーゼの活性化などの複数の薬剤耐性機序が原因と考えられている。従って、こうした薬剤耐性を克服した更に効果的なCMLに対する治療薬が医療上必要とされている。
【0006】
こうした中で、ダサチニブ(dasatinib、BMS−354825)は、以下の構造を有し、メシル酸イマチニブと異なる部位に結合してBCR−ABLチロシンキナーゼに阻害作用を示し、さらにSRCチロシンキナーゼの阻害作用も有することから、Ph陽性のCMLに対する有用性が期待できると考え、世界的に開発が進められている(特許文献1)。
【化1】
【特許文献1】米国特許公報第6,596,746B1号
【非特許文献1】陣内逸郎 4.慢性骨髄性白血病に対するイマチニブ療法 血液フロンティア 2004;14:43-49
【非特許文献2】Druker BJ et al., N Engl J Med 2001; 344: 1038-1042.
【非特許文献3】O'Brien SG et al., N Engl J Med 2003; 348: 994-1004.
【非特許文献4】Mahon FX et al., Blood 2000; 96: 1070-1079.
【非特許文献5】Weisberg E et al., Blood 2000; 95: 3498-3505.
【非特許文献6】le Coutre P et al., Blood 2000; 95: 1758-1766.
【非特許文献7】CANCER CELL; JULY 2005, p 5.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、メシル酸イマチニブの場合と同様に、ダサチニブに対して治療抵抗性を示すCML患者の出現が懸念されており、また今後更に新たな治療抵抗性が生ずることも考えられ、更により優れたCMLの治療方法を確立することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ダサチニブ耐性CML患者のPh染色体陽性細胞中にアポトーシス関連バイオマーカーがアップレギュレートされていることを見出した。
かかる知見に基づき、上記の課題を解決するため、本発明は、以下の工程
(1)フィラデルフィア染色体陽性の(慢性)骨髄性白血病患者からフィラデルフィア染色体陽性の白血病細胞を含む生体試料を採取する工程、
(2)試料中の上記白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定する工程、及び
(3)上記(2)の測定値をコントロールにおける測定値と比較し、高いか否かを判断する工程、
を含む、患者のダサチニブによる治療に対する適応性を判定する方法を提供する。
ここで採取された生体試料としては、例えば血液、骨髄液などが挙げられる。
ここでコントロールとは、Ph陽性細胞であってダサチニブ非耐性のもの、Ph陰性細胞等のいずれでもよい。Ph陰性の対応細胞の起源は、Ph陰性であればどのような人でも良く、例えばPh陰性白血病患者や健常人が含まれる。Ph陽性骨髄性白血病患者であって、ダサチニブ投与前の白血病細胞が望ましい。
ここでアポトーシス関連バイオマーカーとは、例えば、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せなどが挙げられる。
そしてそのバイオマーカーの量を測定する工程としては、例えばイムノブロッティング法があり、具体的には以下の実施例にその例が挙げられている。
またここでアポトーシス関連バイオマーカーの測定をコントロールにおける測定値と比較して判断する基準としては、例えば、2.0倍以下、好ましくは1.5倍以下ならダサチニブ治療に適応すると判断し、また3.0倍以上、好ましくは5.0倍以上なら、非適応と判断することができる。
【0009】
また、本発明は、以下の工程
(1)ダサチニブにより治療中のフィラデルフィア染色体陽性の(慢性)骨髄性白血病患者からフィラデルフィア染色体陽性の白血病細胞を含む生体試料を採取する工程、
(2)試料中の上記白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定する工程、
(3)上記(2)の測定値をコントロールにおける測定値と比較し、高いか否かを判断する工程、
を含む、患者におけるダサチニブに対する耐性の発現を判定する方法を提供する。
ここで採取された生体試料としては、例えば血液、骨髄液などが挙げられる。
ここでコントロールとは、Ph陽性細胞であってダサチニブ非耐性のもの、Ph陰性細胞等のいずれでもよい。Ph陰性の対応細胞の起源は、Ph陰性であればどのような人でも良く、例えばPh陰性白血病患者や健常人が含まれる。Ph陽性骨髄性白血病患者であって、ダサチニブ投与前の白血病細胞が望ましい。
ここでアポトーシス関連バイオマーカーとは、例えば、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せなどが挙げられる。
そしてそのバイオマーカーの量を測定する工程としては、例えばイムノブロッティング法があり、具体的には以下の実施例にその例が挙げられている。
またここでアポトーシス関連バイオマーカーの測定をコントロールにおける測定値と比較して判断する基準としては、例えば、2.0倍以下、好ましくは1.5倍以下ならダサチニブ治療に適応すると判断し、また3.0倍以上、好ましくは5.0倍以上なら、非適応と判断することができる。
【0010】
更に、本発明は、ダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病細胞をダサチニブ及び候補薬物を含有する培地で培養し、該細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーの測定値が培養前に比較して培養後で低いかまたはアポトーシスが誘導されたかに基づいて、ダサチニブとの併用薬物を選択する方法を提供する。
ここで、ダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病細胞は、例えば、ダサチニブで加療中の骨髄性白血病患者由来のフィラデルフィア染色体陽性細胞、またはBCR−ABLをトランスフェクトされたダサチニブ耐性フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞が挙げられる。
【0011】
また、本発明は、以下の工程
(1)ヒト以外の哺乳動物にダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性骨髄性白血病を誘発し、
(2)該動物から単離した白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定し、
(3)ダサチニブと候補薬物とを該動物に投与して飼育した後白血病細胞中のアポトーシス関連バイオマーカーの測定値が上記(2)の測定値に比較して低いかまたはアポトーシスが誘導されたかに基づいてダサチニブとの併用薬物を選択する方法を提供する。
上記で示したダサチニブとの併用薬物を選択する方法においては、ダサチニブと候補薬物の存在下での培養または飼育前の測定値が培養または飼育後の測定値と比較して判断する基準としては、2.0倍以下、好ましくは1.5倍以下なら該候補薬物がダサチニブとの併用薬物として有用であると判断する。
その他各用語は、上記の各方法での定義と同義である。
または候補薬物とダサチニブの両者を含有する培地、ダサチニブのみを含有する培地で、フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞を並行して培養し、双方の培地中のバイオマーカーを測定し、候補薬物を含有する培地中のバイオマーカー値の減少又はアポトーシスを観察することによっても判定できる。
また、モデル動物を用いてインビボで行うこともできる
更に本発明では、上記の方法で得られた併用薬物を、同時または順次に投与して、ダサチニブとの併用治療に用いる医薬組成物を提供する。
該併用薬物としては、Bcl−XL、Mcl−1、およびLynキナーゼの阻害剤を挙げることができるが、これらに限定されない。一例としてABT−737が挙げられる。
ここで用いるABT−737とは、以下のような構造を有し、Bcl−2の阻害剤として様々な癌に効果が期待できる化合物である(非特許文献7)。
【化2】
【0012】
また、本発明は、上記の各種方法を行うためのキットであって、
(1)ダサチニブ耐性フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞
(2)培養装置
(3)バイオマーカーの抗体
(4)正常値を示す対照表
を含むキットを提供する。
さらに上記キットに使用説明書を含むキットも提供する。
ここで各用語は、上記の各方法での定義と同義である。
【0013】
また、本発明は、上記の各種方法およびキットに有用な、ダサチニブ耐性を発症している急性リンパ性白血病患者または慢性骨髄性白血病患者由来または株化細胞を起源とするダサチニブ耐性細胞株を提供する。該ダサチニブ耐性細胞株の調製方法としては、例えば以下の実施例の記載が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フィラデルフィア染色体として知られる遺伝子異常を有する白血病患者にダサチニブが有効かどうかを判定する方法、そのような患者の処置に有用なダサチニブ併用組成物、その組成物に用いられる薬剤のスクリーニング方法およびその方法に有用な細胞を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明(スクリーニング方法)の対象とする疾患としては、フィラデルフィア染色体を有する患者が発症する白血病、具体的には、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病が挙げられる。
また、本発明はヒトの疾患に適用される他、サル、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ラット、マウスなどの哺乳動物にも適用される。
以下、本発明を実施するにあたり、具体的に説明する。
なお、本発明の耐性株化細胞の作製に用いることができる株化細胞としては、TF−1、またはK562などが挙げられる。
白血病に効果が期待できるか否かの検討に一般的に用いられる2種類のヒト白血病株化細胞のK562細胞(ATCC番号:CCL−243)およびBDR−ABL遺伝子をトランスフェクトしたTF−1細胞(ATCC番号:CRL−2003。以下、TF1 BCRABL細胞と称する)を、イマチニブまたはダサチニブを漸増的に増加させながら培養することによりイマチニブ耐性またはダサチニブ耐性を発現した細胞株が提供される。具体的には、K562細胞およびTF1 BCR−ABL細胞をイマチニブ0.1μM存在下、またはダサチニブ0.5nM存在下で2週間培養し、次いでイマチニブまたはダサチニブの濃度を漸増させた。最終的に、イマチニブ耐性K562細胞およびイマチニブ耐性TF1 BCR−ABL細胞はイマチニブ10μM存在下で増殖することができた。また、ダサチニブ耐性K562細胞およびダサチニブ耐性TF1 BCR−ABL細胞はダサチニブ10nM存在下で増殖することができた。これらの耐性細胞株をPCRにより分析して、BCR−ABLキナーゼドメインに点変異が生じておらず、耐性発現がBCR−ABLキナーゼの変異に由来するものではないことを確認した。この株はダサチニブ耐性を発現する白血病患者の治療に用い得る化合物(ダサチニブとの併用化合物を含む)を開発する際に、一次スクリーニングの道具として利用することができる。
また、これら細胞を分析すると、ダサチニブ耐性を発現している細胞ではBcl−XL、Mcl−1、およびLynキナーゼの発現がアップレギュレートされていることが確認された。この知見をもとに、本発明者らはイマチニブ耐性を発現した白血病患者、または発現する可能性のある患者をBcl−XL、Mcl−1、およびLynキナーゼをバイオマーカーとして用いて判別して、不要な薬剤投与を省きうることを見出した。また、ダサチニブ耐性患者とイマチニブ耐性患者とではLynキナーゼの発現に差異があるので、いずれの薬剤が有効または無効であるかも判別することができる。
さらに、これらの細胞は、これら化合物に対する耐性を耐性細胞から消失させうる化合物のスクリーニングに使用することもできる。本発明において本発明者らはダサチニブとABT−737と併用すると細胞の生存率が減少し、アポトーシスが増加することを見出した。
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
ダサチニブ耐性細胞株の作製
ダサチニブ耐性細胞株を以下の手順により作製した。本実施例では耐性株の親株として、K562細胞およびTF−1 BCR−ABL細胞を用いた。K562細胞はヒト白血病細胞株であり、文献(Nakajima et al., Mol Cancer Ther., 2, 219-224)の記載に従い、TF−1細胞にp210 BCR−ABL (B2A2) cDNAを有するpGD210ベクターをトランスフェクトしてTF−1 BCR−ABL細胞を作製した。これら細胞株を培養する基本培地には10%ウシ胎仔血清(Hyclone Laboratories, Logan, UT)を補充したRPMI1640(Life Technology, Inc.)を用いた。
K562細胞およびTF−1 BCR−ABL細胞をイマチニブ(Novartis Inc. Basel, Switzerland製)0.1μMまたはダサニチブ(Bristol-Myers Squibb, New York, NY製)0.5nMと共に2週間培養し、次いでイマチニブまたはダサチニブの濃度を段階的に増加させることにより、イマチニブまたはダサチニブ耐性株を作製した。ダサチニブについては、0.5nmolから開始し、各濃度で2週間培養し、生存している細胞に対し、1.25倍から2倍に濃度を段階的に上げ、TF−1については、20nmolまで、K−562については200nmolまで上げ、生存している細胞を耐性と定義した。同様にイマチニブについても0.5μmolから開始し、10μmolで生存している細胞を耐性と定義した。細胞の薬剤耐性は、FITC結合型APO2.7モノクローナル抗体で細胞を染色し、フローサイトメトリーにかけることによりアポトーシス細胞の数を測定して決定した(図1A、1B)。最終的に、それぞれ、イマチニブ10μM存在下、およびダサチニブ20nM(K562の場合)または200nM(TF−1の場合)存在下で増殖し得る細胞を作製することができた。
なお、これら耐性株のBCR−ABLキナーゼドメイン配列をPCR分析により確認すると点変異は生じていなかった。従って、これら細胞に生じた耐性は、BCR−ABLタンパク質をコードする配列を保持したままで耐性を獲得している。
以下、イマチニブ耐性のK562細胞をK562−IMR細胞、TF−1細胞をTF−1 BCR−ABL−IMR細胞、ならびにダサチニブ耐性のK562細胞をK562−BMSR細胞、TF−1細胞をTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞と称する。
【実施例2】
【0018】
バイオマーカーによるダサチニブ耐性の判別
上記耐性細胞を用いて、イマチニブ耐性またはダサチニブ耐性の細胞を用いて、転写レベルが変化している遺伝子を同定した。この実験データは、3回の独立したマイクロアレイハイブリダイゼーションから遺伝子発現データをイムノブロッティングすることにより得た。実験に用いたABL抗体(24-11)、SHP-2抗体 (C-18)、Bcl−2抗体(C-2)およびMcl−1抗体(S-19)は、Santa Cruz Biotechnology, Inc. (Santa Cruz, CA)から購入した。Lyn抗体、リン酸化Lyn抗体 (Tyr507)、Bcl−XL抗体、カスパーゼ−3抗体、開列型カスパーゼ−3抗体、PARP抗体、および開裂型PARP (Asp214)はCell Signaling technology (Beverly, MA)から入手した。
我々は遺伝子発現変化の信頼限界として、1.5倍をカットオフ値として用いた。イムノブロッティングは文献(Tauchi et al., J Biol Chem, 269, 15381-15387)の記載に従い行った。
耐性細胞を、それぞれ、イマチニブ10μM存在下、およびダサチニブ20nM(K562の場合)または200nM(TF−1の場合)存在下で培養し、イムノブロッティングを行うと、いずれも親細胞と比較してBCR−ABLタンパク質の発現が増加していた(図2A)。SHP−2は発現量がイマチニブあるいはダサチニブ耐性の有無により変化しないので、各レーンにアプライしたタンパク質量が一定であることを示している。さらに、ダサチニブ耐性株においてLynキナーゼのリン酸化が顕著に増加しており、Lyn発現レベルも増加していた(図2B)。他方、Mcl−1、Bcl−2および生存率の発現は顕著な変化は観察されなかったが、Bcl−XLの発現が増加していた(図2B)。これらの結果より、ダサチニブ耐性表現型の獲得は、BCR−ABLタンパク質、LynキナーゼおよびBcl−XLの顕著な増加と関連している。
【実施例3】
【0019】
薬物の併用によるダサチニブ耐性の克服
従来、Lyn活性型CML細胞におけるBcl-2発現の増加がイマチニブ抵抗性の表現型の原因であることが示されており(Dai Y, Rahmani M, Corey SJ, Dent P, Grant S. (2004) J Biol Chem., 279, 34227-34239)、本発明者らはBcl-2をアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてダウンレギュレートすることによりBCR-ABL発現細胞をイマチニブに対して感受性にし得ることを見出していた(T. Tauchi et al., Clinical Cancer Research Vol. 9, 2003, 4267-4273)。そこで、我々は、BCR-ABL形質転換細胞におけるBcl-2ファミリータンパク質のインヒビターであるABT-737の活性を調べ、さらには、ダサチニブとの併用によるダサチニブ耐性克服の可能性について試験した。
1)TF−1 BCR−ABL−BMSR細胞をABT−737(Abbott Laboratories, Abott Park, IL製)およびイマチニブまたはダサチニブと共に72時間培養した後、フローサイトメトリーによりアポトーシス細胞を測定した。ABT−737を単独で適用した場合は細胞に対する毒性は最小限であるが、イマチニブと併用すると劇的にアポトーシス細胞数が増加した(図3A、3B)。ダサチニブをABT−737と併用すると、アポトーシス細胞は5nMより高濃度のダサチニブ濃度の場合と同レベルにまで達した(図3C、D)。この実験条件をイムノブロッティングで分析すると、1μM ABT−737および100nMダサチニブを併用すると、K562細胞内でカスパーゼ−3とPARPの切断物が増加していた(図3E)。カスパーゼ3の開裂による活性化は、アポトーシスの過程において主要な役割を果たしており、特にカスパーゼ3は細胞死の最終段階で作用しPRAPを開裂し、細胞死に至らしめるとともに、カスパーゼ2、6、8、10を活性化し、更にフィードバックにより上流のカスパーゼ9を増量させる。これら知見を合わせて考慮すると、ABT−737は、その細胞毒性が最小となるような濃度でイマチニブまたはダサチニブのいずれかと併用して、野生型BCR−ABL発現細胞におけるアポトーシスを効率よく誘発することができる。
2)Bcl−XLがダサチニブ耐性BCR−ABL形質転換細胞におけるABLキナーゼインヒビター反応の調節における役割を機能的に調べるために、TF−1 BCR−ABL−BMSR細胞を異なる濃度のABT−737およびイマチニブまたはダサチニブと共に72時間培養し、アポトーシスについて試験した。ダサチニブ100nMまたはイマチニブ10nMを用いて処理すると毒性は最小限に抑えられるが、TF−1 BCR−ABL−BMSR細胞にアポトーシスを誘発することはできなかった。しかし、ABT−737、およびイマチニブまたはダサチニブを同時に用いて処理すると、アポトーシス細胞の数は顕著に上昇した(図4A、4B)。これらの結果は、Bcl−2ファミリータンパク質の阻害がLynキナーゼ活性化エレメントによるダサチニブ耐性を克服する原因である可能性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明により、ダサチニブに対して治療抵抗性を示すCML患者に、フィラデルフィア染色体として知られる遺伝子異常を有する白血病患者にダサチニブが有効かどうかを判定する方法、およびそのような患者の処置に有用なダサニチブ併用組成物が提供され、また
その組成物に用いられる薬剤のスクリーニング方法およびその方法に有用な細胞も提供され、CML患者に対して適切な処置をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】1Aは、イマチニブまたはダサチニブの添加によりアポトーシスを生じたTF−1細胞、TF−1 BCR−ABL−IMR細胞およびTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞の数を示すグラフである。
【図1B】1Bは、イマチニブまたはダサチニブの添加によりアポトーシスを生じたK562、K562−IMR、K562−BMSR細胞の数を示すグラフである。
【図2A】2Aは記載の細胞株由来の細胞溶解物を、ABLモノクローナル抗体(上段)およびSHP−2抗体(下段)でイムノブロットした結果を示す。
【図2B】2Bは記載の細胞株から作製した細胞溶解物を抗Lyn抗体(上段パネル)、抗リン酸化Lyn抗体(中段)または抗Bcl−XL抗体(下段)でイムノブロットした結果を示す。
【図3A】イマチニブまたはダサチニブとABT−737との併用による、K562細胞およびTF−1 BCR−ABL細胞におけるアポトーシスの誘導およびカスパーゼ活性化を示す。3Aは、K562細胞を、記載濃度のイマチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図3B】3Bは、TF−1 BCR−ABL−BMSR細胞を、記載濃度のイマチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図3C】3Cは、K562細胞を、記載濃度のダサチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図3D】3Dは、TF−1 BCR−ABL細胞を、記載濃度のダサチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図3E】3Eは、ABT−7371μMおよびダサチニブ100nMと共にK562細胞を培養した後の、カスパーゼ−3およびPARPの開裂のイムノブロットによる評価を示す。
【図4A】ABT−737によりTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞のABLキナーゼインヒビター耐性が克服されることを示すグラフである。4AはTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞を、記載濃度のイマチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【図4B】4BはTF−1 BCR−ABL−BMSR細胞を、記載濃度のダサチニブおよびABT−737と共に培養した場合のAPO2.7で測定したアポトーシス細胞の割合を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程
(1)フィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病患者からフィラデルフィア染色体陽性の白血病細胞を含む生体試料を採取する工程、
(2)試料中の上記白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定する工程、及び
(3)上記(2)の測定値をコントロールにおける測定値と比較し、高いか否かを判断する工程、
を含む、患者のダサチニブによる治療に対する適応性を判定する方法。
【請求項2】
コントロールが、健常人又、フィラデルフィア染色体陰性患者、ダサチニブで治療されていないフィラデルフィア染色体陽性患者由来の対応する細胞である、請求項1の方法。
【請求項3】
アポトーシス関連バイオマーカーが、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(2)の測定値が(3)の測定値の1.5倍以下であれば、該患者に対するダサチニブによる治療が適すると判定する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
以下の工程
(1)ダサチニブにより治療中のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病患者からフィラデルフィア染色体陽性の白血病細胞を含む生体試料を採取する工程、
(2)試料中の上記白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定する工程、
(3)上記(2)の測定値をコントロールにおける測定値と比較し、高いか否かを判断する工程、
を含む、患者におけるダサチニブに対する耐性の発現を判定する方法。
【請求項6】
コントロールが、健常人又、フィラデルフィア染色体陰性患者、ダサチニブで治療されていないフィラデルフィア染色体陽性患者由来の対応する細胞である、5の方法。
【請求項7】
アポトーシス関連バイオマーカーが、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
(2)の測定値が(3)の測定値の1.5倍以下であれば、該患者がダサチニブ耐性を発現していると判定する請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病細胞をダサチニブ及び候補薬物を含有する培地で培養し、該細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーの測定値が培養前に比較して培養後で低いかまたはアポトーシスが誘導されたかに基づいて、ダサチニブとの併用薬物を選択する方法。
【請求項10】
ダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病細胞が、ダサチニブで加療中の骨髄性白血病患者由来のフィラデルフィア染色体陽性細胞、またはBCR−ABLをトランスフェクトされたダサチニブ耐性フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞である、9記載の方法。
【請求項11】
以下の工程
(1)ヒト以外の哺乳動物にダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性骨髄性白血病を誘発し、
(2)該動物から単離した白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定し、
(3)ダサチニブと候補薬物とを該動物に投与して飼育した後白血病細胞中のアポトーシス関連バイオマーカーの測定値が上記(2)の測定値に比較して低いかまたはアポトーシスが誘導されたかに基づいてダサチニブとの併用薬物を選択する方法。
【請求項12】
アポトーシス関連バイオマーカーが、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せである、請求項9〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
ダサチニブと候補薬物の存在下での培養または飼育前の測定値が培養または飼育後の測定値の1.5倍以上であれば、該候補薬物がダサチニブとの併用薬物として有用であると判定する、請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれかで得られた併用薬物を、同時または順次に投与して、ダサチニブとの併用治療に用いる医薬組成物。
【請求項15】
該併用薬物がABT−737である請求項14の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法を行うためのキットであって、
(1)ダサチニブ耐性フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞
(2)培養装置
(3)バイオマーカーの抗体
(4)正常値を示す対照表
を含むキット。
【請求項17】
さらに使用説明書を含む、請求項16のキット。
【請求項18】
ダサチニブ耐性を発症している急性リンパ性白血病患者または慢性骨髄性白血病患者由来または株化細胞を起源とするダサチニブ耐性細胞株。
【請求項1】
以下の工程
(1)フィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病患者からフィラデルフィア染色体陽性の白血病細胞を含む生体試料を採取する工程、
(2)試料中の上記白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定する工程、及び
(3)上記(2)の測定値をコントロールにおける測定値と比較し、高いか否かを判断する工程、
を含む、患者のダサチニブによる治療に対する適応性を判定する方法。
【請求項2】
コントロールが、健常人又、フィラデルフィア染色体陰性患者、ダサチニブで治療されていないフィラデルフィア染色体陽性患者由来の対応する細胞である、請求項1の方法。
【請求項3】
アポトーシス関連バイオマーカーが、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(2)の測定値が(3)の測定値の1.5倍以下であれば、該患者に対するダサチニブによる治療が適すると判定する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
以下の工程
(1)ダサチニブにより治療中のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病患者からフィラデルフィア染色体陽性の白血病細胞を含む生体試料を採取する工程、
(2)試料中の上記白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定する工程、
(3)上記(2)の測定値をコントロールにおける測定値と比較し、高いか否かを判断する工程、
を含む、患者におけるダサチニブに対する耐性の発現を判定する方法。
【請求項6】
コントロールが、健常人又、フィラデルフィア染色体陰性患者、ダサチニブで治療されていないフィラデルフィア染色体陽性患者由来の対応する細胞である、5の方法。
【請求項7】
アポトーシス関連バイオマーカーが、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
(2)の測定値が(3)の測定値の1.5倍以下であれば、該患者がダサチニブ耐性を発現していると判定する請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病細胞をダサチニブ及び候補薬物を含有する培地で培養し、該細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーの測定値が培養前に比較して培養後で低いかまたはアポトーシスが誘導されたかに基づいて、ダサチニブとの併用薬物を選択する方法。
【請求項10】
ダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性の骨髄性白血病細胞が、ダサチニブで加療中の骨髄性白血病患者由来のフィラデルフィア染色体陽性細胞、またはBCR−ABLをトランスフェクトされたダサチニブ耐性フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞である、9記載の方法。
【請求項11】
以下の工程
(1)ヒト以外の哺乳動物にダサチニブ耐性のフィラデルフィア染色体陽性骨髄性白血病を誘発し、
(2)該動物から単離した白血病細胞におけるアポトーシス関連バイオマーカーを測定し、
(3)ダサチニブと候補薬物とを該動物に投与して飼育した後白血病細胞中のアポトーシス関連バイオマーカーの測定値が上記(2)の測定値に比較して低いかまたはアポトーシスが誘導されたかに基づいてダサチニブとの併用薬物を選択する方法。
【請求項12】
アポトーシス関連バイオマーカーが、Bcl−XL、Mcl−1またはLynキナーゼまたはそれらの組合せである、請求項9〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
ダサチニブと候補薬物の存在下での培養または飼育前の測定値が培養または飼育後の測定値の1.5倍以上であれば、該候補薬物がダサチニブとの併用薬物として有用であると判定する、請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれかで得られた併用薬物を、同時または順次に投与して、ダサチニブとの併用治療に用いる医薬組成物。
【請求項15】
該併用薬物がABT−737である請求項14の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法を行うためのキットであって、
(1)ダサチニブ耐性フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞
(2)培養装置
(3)バイオマーカーの抗体
(4)正常値を示す対照表
を含むキット。
【請求項17】
さらに使用説明書を含む、請求項16のキット。
【請求項18】
ダサチニブ耐性を発症している急性リンパ性白血病患者または慢性骨髄性白血病患者由来または株化細胞を起源とするダサチニブ耐性細胞株。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【公開番号】特開2007−159416(P2007−159416A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356143(P2005−356143)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月18日 日本血液学会・日本臨床血液学会主催の「第67回日本血液学会総会・第47回日本臨床血液学会総会 合同総会」において文書をもって発表
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月18日 日本血液学会・日本臨床血液学会主催の「第67回日本血液学会総会・第47回日本臨床血液学会総会 合同総会」において文書をもって発表
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]