説明

ダストの処理方法

【課題】単純な工程を経ることで、ダスト処理時における固液分離した後のカリウムや塩素を主成分とする洗浄ろ液中の重金属濃度と硫酸イオン濃度を効率的に低減し得る。
【解決手段】重金属を含むダスト30と水31とを混合してスラリー33を調製する工程32と、スラリー33に炭酸ガス34を吹き込みスラリーのpHを10〜12に調整する工程36と、スラリー33塩化カルシウム37を添加して重金属を水酸化物又は炭酸塩の形態で沈殿させ、かつ硫酸イオンを除去する工程38と、塩化カルシウムを添加したスラリーを静置して炭酸塩との共沈効果により水に溶解して残留している重金属を更に沈殿させる静置工程39と、静置工程の静置物をろ液41と残渣42とに固液分離する固液分離工程43とを含むダスト処理方法である。
【選択図】図

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルンから塩素、アルカリ等をバイパスさせて得られたキルンダスト等の処理方法に関する。更に詳しくは重金属、塩素、アルカリ等を含有するダストからの有価金属、含有塩化物、肥料原料、化学原料、製錬原料、セメント原料等の再資源化のためのダスト処理方法に関するものである。更に本発明は、ダスト等からの肥料原料又は化学原料の製造方法並びに製錬原料又はセメント原料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダスト処理方法として、廃棄物を水洗処理した排水に硫化剤を添加して液中の金属を沈殿させ、固液分離した液分を脱カルシウム処理して液中のカルシウム分及び硫酸根を沈殿させ、更に固液分離した液分の液温を調整して液中の塩化物を析出させて分離する排水の処理方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法では、固液分離後の液温を60〜80℃に調整してろ液を濃縮し、液中に残留する塩化ナトリウムを析出させ、次に液温を常温範囲に調整して塩化カリウムを析出させている。
【0003】
また、別のダスト処理方法として、セメントキルン排ガスダストを水洗処理し、得られた洗浄水をpH7〜10に調整した後、硫化剤を添加し、生成した沈殿と液体成分を固液分離して沈殿を回収し、液体成分を加熱濃縮した後、冷却して塩化カリウムを析出させて回収するセメントキルン排ガスダストの処理方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−282867号公報(請求項1、請求項4)
【特許文献2】特許第3306471号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記特許文献1及び特許文献2に示される処理方法では、いずれも重金属除去を行うために硫化物を添加しており、この硫化物は有害な硫化水素ガスが発生するおそれがあるため、添加する量の制御が極めて難しく、また硫化物は非常に細粒であるため固液分離性能に劣る問題もある。
【0006】
更に塩化カリウムを回収するために、加熱濃縮の後に冷却を行っているが、この方法では高品位の塩化カリウムを回収できるものの、最終的に不純物の濃縮した廃液の発生が避けられらないため、廃液等の処理工程が必要となり、工程が煩雑となっていた。
【0007】
セメントダストは組成の変動が大きく、様々な不純物を多く含むことから、安定的に再資源化することが困難であった。特に、カリウム肥料として再資源化を行う場合には、不純物の除去が必要であるが、上記特許文献1及び特許文献2に示される方法では、工程が複雑であり、しかも廃液等が発生することが避けられない。
【0008】
本発明の目的は、単純な工程を経ることで、ダスト処理時における固液分離した後のカリウムや塩素を主成分とする洗浄ろ液中の重金属濃度と硫酸イオン濃度を効率的に低減し得る、ダスト処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項に係る発明は、図3の実線に示すように、重金属を含むダスト30と水31とを混合してスラリー33を調製する工程32と、スラリー33に炭酸ガス34を吹き込みスラリーのpHを10〜12に調整する工程36と、スラリー33に塩化カルシウム37を添加して重金属を水酸化物又は炭酸塩の形態で沈殿させ、かつ硫酸イオンを除去する工程38と、塩化カルシウムを添加したスラリーを静置して炭酸塩との共沈効果により水に溶解して残留している重金属を更に沈殿させる静置工程39と、静置工程の静置物をろ液41と残渣42とに固液分離する固液分離工程43とを含むダスト処理方法である。
【0010】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明であって、図4の実線に示すように、調製されるスラリーのpHが10未満であるとき、スラリー調製工程32を施す前にダスト30に消石灰47を添加混合する工程48を更に含む処理方法である。
【0011】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明であって、固液分離により得られたろ液41を蒸発乾固する工程44と、蒸発乾固して得られた固形物46から肥料原料又は化学原料を生成する工程とを更に含む処理方法である。
【0012】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明であって、固液分離により得られた残渣42から製錬原料又はセメント原料を生成する工程を更に含む処理方法である。
【0013】
請求項に係る発明は、図3の実線に示すように、重金属を含むダスト30と水31とを混合してスラリー33を調製する工程32と、スラリー33に炭酸ガス34を吹き込みスラリーのpHを10〜12に調整する工程36と、スラリー33に塩化カルシウム37を添加して重金属を水酸化物又は炭酸塩の形態で沈殿させ、かつ硫酸イオンを除去する工程38と、塩化カルシウムを添加したスラリーを静置して炭酸塩との共沈効果により水に溶解して残留している重金属を更に沈殿させる静置工程39と、静置工程の静置物をろ液41と残渣42とに固液分離する固液分離工程43と、固液分離により得られたろ液41を蒸発乾固する工程44と、蒸発乾固して得られた固形物46から肥料原料又は化学原料を生成する工程とを含む肥料原料又は化学原料の製造方法である。
【0014】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明であって、図4の実線に示すように、調製されるスラリーのpHが10未満であるとき、スラリー調製工程32を施す前にダスト30に消石灰47を添加混合する工程48を更に含む製造方法である。
【0015】
請求項に係る発明は、図3の実線に示すように、重金属を含むダスト30と水31とを混合してスラリー33を調製する工程32と、スラリー33に炭酸ガス34を吹き込みスラリーのpHを10〜12に調整する工程36と、スラリー33に塩化カルシウム37を添加して重金属を水酸化物又は炭酸塩の形態で沈殿させ、かつ硫酸イオンを除去する工程38と、塩化カルシウムを添加したスラリーを静置して炭酸塩との共沈効果により水に溶解して残留している重金属を更に沈殿させる静置工程39と、静置工程の静置物をろ液41と残渣42とに固液分離する固液分離工程43と、固液分離により得られた残渣42から製錬原料又はセメント原料を生成する工程とを含む製錬原料又はセメント原料の製造方法である。
【0016】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明であって、図4の実線に示すように、調製されるスラリーのpHが10未満であるとき、スラリー調製工程32を施す前にダスト30に消石灰47を添加混合する工程48を更に含む製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
発明のダスト処理方法では、先ず重金属を含むダストと水とを混合して塩素等のハロゲン類、アルカリ金属類を調製したスラリー中に溶解させ、スラリーに炭酸ガスを吹き込んでスラリーのpHを10〜12に調整する。この炭酸ガスによってスラリー中の重金属濃度を低減する。次いで、このスラリーに塩化カルシウムを添加する。塩化カルシウムの添加によりスラリー中のSO4イオンとカルシウムとが反応し、CaSO4を生成して沈殿するため、液中のSO4イオンを低減することができる。続いてこの塩化カルシウムを添加したスラリーを静置して炭酸塩との共沈効果により水に溶解して残留している重金属を更に沈殿させる。次に、この静置物を固液分離してろ液と残渣とを得る。残渣は精錬原料やセメント原料として利用する。ろ液はこのろ液を蒸発乾固して得られた固形物を肥料の原料や化学原料として利用する。このように上記各工程を経ることにより、ダスト処理時における固液分離した後のカリウムや塩素を主成分とする洗浄ろ液中の重金属濃度と硫酸イオン濃度を効率的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1のダスト処理工程を示す図。
【図2】本発明の第2のダスト処理工程を示す図。
【図3】本発明の第3のダスト処理工程を示す図。
【図4】本発明の第4のダスト処理工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施の形態を実線で示された図1に基づいて説明する。
【0020】
本発明処理方法の対象となるダストは、例示すれば、セメントキルンから塩素、アルカリ等をバイパスさせて得られたキルンダストである。ダストに含まれる重金属には、Cd、Pb、Zn、Cu等が例示される。
【0021】
先ず、ダスト10と水11とを所定の割合で混合してスラリー13を調製する(工程12)。具体的にはダストと水との比が1:2〜1:20の割合、好ましくは1:3〜1:10の割合となるように混合する。スラリー13を調製することで、ダスト中に含まれる塩素等のハロゲン類、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属類を溶解させる。この工程12で調製されたスラリー13中では、ダストに含まれる重金属はスラリーのpHによりその溶解度が異なるが、Cuはほとんどが水酸化物として沈殿する。ダストに含まれる重金属のうち、Pb、Zn、Cdについては、スラリーのpHがアルカリ域から酸性域まで変動するため、その溶解度は変化しており、特殊な場合を除きPb、Zn、Cdの3元素は液中に溶解する。
【0022】
次いで、スラリー13のpHを10〜12、好ましくは10〜11の範囲に調整する(工程16)。スラリー13のpHを調整するpH調整剤14は、酸としてはHClが好ましい。また、アルカリとしてはCa(OH)2やCaO、CaCO3等がスラリー13中のSO4濃度を低減することが可能であるため好ましい。スラリー13のpHを所定の範囲に調整することにより、溶解或いは沈殿していたPb、Zn、Cd等は、調整pHでの水に対する溶解度へとその濃度が変化する。濃度が低下する場合、その一部が水酸化物になる。この水に不溶性の重金属の水酸化物は時間の経過とともに沈殿する。
【0023】
次に、スラリー13に水溶性炭酸塩として炭酸カリウム17を添加する(工程18)。このスラリー13に炭酸カリウム17を添加することにより、溶解していたPb、Zn、Cd等は、炭酸塩を生成する。この水に不溶性の重金属の炭酸塩は時間の経過とともに沈殿する。また、炭酸カリウム17は、スラリー中のカルシウムイオンと反応し、炭酸カルシウムを生成することにより、液中のカルシウム濃度を低減することができる。この炭酸カルシウムは後に続く静置工程における共沈効果にも寄与する。これにより、最終的に回収される塩化カリウム肥料のカリウム含有量を向上させることができ、安定した品質の肥料原料を得ることができる。
【0024】
続いて炭酸カリウム17を添加した上記スラリー13を静置する(工程19)。静置は30分以上、好ましくは1〜12時間行う。除去効率を考慮すれば1時間以上静置すれば十分であるが、装置、操業上の観点から上記範囲内から静置時間が決められる。上記上限値を越えて静置しても除去効率はそれ程向上しない。この静置により、水に溶解して残留していた重金属がカルシウム塩の沈殿に伴われて一緒に沈殿する。この共沈効果により水に溶解している重金属の濃度がより一層低減する。
【0025】
更に続いて液と沈殿物を含む静置物を遠心分離、フィルタプレス等によりろ液21と残渣22とに固液分離する(工程23)。得られたろ液21は、その主成分がカリウムや塩素であるため、このろ液21を加熱することによりその水分を蒸発乾固させ、ろ液中の水分を全量蒸発させる(工程27)。得られた固形物28にはカリウム、ナトリウム等のアルカリ金属と、塩素、臭素等のハロゲン類が多量に含まれるので、この固形物により肥料の原料や化学原料が製造される。このように複雑な晶析工程を施す必要がなく、また塩類や不純物の濃縮した廃液を発生させることなく再資源化を行うことが可能である。
【0026】
一方、固液分離により得られた残渣22は若干重金属を含むものの大部分がカルシウム化合物、シリカから構成されているので、この残渣により製錬原料又はセメント原料が製造される。
【0027】
このように本発明の処理方法における各工程を経ることにより、ダストの不純物成分やその変動に係らず再資源化が可能であり、単純な工程でろ液中の重金属濃度及びカルシウム濃度を低減することができ、安定的にカリウム肥料を得ることができる。また、処理工程において廃液や廃棄物を発生させず、ダスト含有成分を有効利用することが可能である。
【0028】
本発明の第2の実施の形態を実線で示された図2に基づいて説明する。
【0029】
図2において、図1と同一符号は同一構成要素を示す。この実施の形態では、次の点が前述した実施の形態と相違する。即ち、固液分離により得られたろ液21に微量の塩酸24を添加してろ液中に含まれる未反応の炭酸カリウムを分解する(工程26)。上記以外の構成は第1の実施の形態と同様である。第1の実施の形態と比較して、第2の実施の形態では、ろ液21に塩酸24を添加することにより、ろ液21中で未反応の炭酸カリウムを分解でき、肥料中のカリウム含有量を向上させることができる。即ち、カリウム含有量を向上させた肥料原料又は化学原料を製造できる。
【0030】
次に本発明の第3の実施の形態を実線で示された図3に基づいて説明する。
【0031】
本発明処理方法の対象となるダストは、例示すれば、セメントキルンから塩素、アルカリ等をバイパスさせて得られたキルンダストである。このキルンダストのうち、特にカルシウム成分を多く含み、スラリーがpH12以上を呈するアルカリ性ダストが対象となる。ダストに含まれる重金属には、Cd、Pb、Zn、Cu等が例示される。
【0032】
先ず、ダスト30と水31とを所定の割合で混合してスラリー33を調製する(工程32)。具体的にはダストと水との比が1:2〜1:20の割合、好ましくは1:3〜1:10の割合となるように混合する。スラリー33を調製することで、ダスト中に含まれる塩素等のハロゲン類、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属類を溶解させる。この工程32で調製されたスラリー33中では、ダストに含まれる重金属のうち、Cd、Cu等はそのほとんどが水酸化物になる。この水酸化物は水に対する溶解度が非常に小さく沈殿する。ダストに含まれる重金属のうち、Pb、Zn等については、スラリーがpH12以上を呈する場合では水に対する溶解度が高くなり、一部がアルカリ水溶液に溶解している。
【0033】
次いで、スラリー33に炭酸ガス34を吹き込んでスラリー33のpHを10〜12、好ましくは10〜11の範囲に調整する(工程36)。炭酸ガス34は、キルン、焼却炉、溶融炉等の炭酸ガスを含む排ガスでもよい。この炭酸ガス34の吹き込みにより、スラリー33中の重金属成分を沈殿させる。スラリー33のpHを所定の範囲に調整することにより、溶解していたPb、Zn等は、炭酸塩を生成する。また僅かに溶存するCd等も炭酸塩になる。この水に不溶性の重金属の炭酸塩は時間の経過とともに沈殿する。
【0034】
次に、スラリー33に塩化カルシウム37を添加する(工程38)。このスラリー33に塩化カルシウム37を添加することにより、スラリー中のSO4イオンとカルシウムが反応し、CaSO4沈殿を生成するため、液中のSO4イオン濃度を低減することが可能である。これにより、最終的に回収される塩化カリウム肥料のカリウム含有量を向上させることができ、安定した品質の肥料原料を得ることができる。また、前述した工程36で吹き込んだ炭酸ガス34は液中のカルシウムイオンと反応し、炭酸カルシウムを生成することにより、液中のカルシウム濃度を低減することができる。この炭酸カルシウムは後に続く静置工程における共沈効果にも寄与する。
【0035】
続いて塩化カルシウム37を添加した上記スラリー33を静置する(工程39)。静置は30分以上、好ましくは1〜12時間行う。除去効率を考慮すれば1時間以上静置すれば十分であるが、装置、操業上の観点から上記範囲内から静置時間が決められる。上記上限値を越えて静置しても除去効率はそれ程向上しない。この静置により、水に溶解して残留していた重金属がカルシウム塩の沈殿に伴われて一緒に沈殿する。この共沈効果により水に溶解している重金属の濃度がより一層低減する。
【0036】
更に続いて液と沈殿物を含む静置物を遠心分離、フィルタプレス等によりろ液41と残渣42とに固液分離する(工程43)。得られたろ液41は、その主成分がカリウムや塩素であるため、このろ液41を加熱することによりその水分を蒸発乾固させ、ろ液中の水分を全量蒸発させる(工程44)。得られた固形物46にはカリウム、ナトリウム等のアルカリ金属と、塩素、臭素等のハロゲン類が多量に含まれるので、この固形物により肥料の原料や化学原料が製造される。複雑な晶析工程を施す必要がなく、また塩類や不純物の濃縮した廃液を発生させることなく再資源化を行うことが可能である。
【0037】
一方、固液分離により得られた残渣42は若干重金属を含むものの大部分がカルシウム化合物、シリカから構成されているので、この残渣により製錬原料又はセメント原料が製造される。
【0038】
このように本発明の処理方法における各工程を経ることにより、ダストの不純物成分やその変動に係らず再資源化が可能であり、単純な工程でろ液中の重金属濃度及びSO4イオン濃度を低減することができ、安定的にカリウム肥料を得ることができる。また、処理工程において廃液や廃棄物を発生させず、ダスト含有成分を有効利用することが可能である。
【0039】
本発明の第4の実施の形態を実線で示された図4に基づいて説明する。
【0040】
図4において、図3と同一符号は同一構成要素を示す。この実施の形態では、次の点が前述した実施の形態と相違する。即ち、調製されるスラリーのpHが10未満であるとき、スラリー調製工程32を施す前にダスト30に消石灰47を添加混合する(工程48)。上記以外の構成は第3の実施の形態と同様である。第3の実施の形態と比較して、第4の実施の形態では、水31と混合してスラリー33を調整した際のpHが10未満となるようなダスト30に対しては、スラリー33を調製する前に、ダスト30に消石灰47を添加することにより、そのpHを10以上に調製できる。
【実施例】
【0041】
次に本発明の実施例を参考例、比較例とともに詳しく説明する。
【0042】
参考例1及び2>
先ず、セメントキルンダストA〜Cをそれぞれ用意し、このダスト組成を分析した。各組成を表1にそれぞれ示す。
【0043】
【表1】

次いで、ダストA及びBを用い、これらダストと水との比が1:5の割合となるように混合してスラリーをそれぞれ調製した。このときのスラリーをpH測定した。次に、調製した各スラリーのpHを次の表2に示すpH調整剤を用いて10.5に調整した。次に、スラリーに炭酸カリウムを添加し、続いて、各スラリーを30分間静置した後、この静置物をフィルタプレスにより固液分離してろ液と残渣を得た。図1の破線に示すように、これらろ液の一部を抜き取りろ液1を得た。ろ液から抜き出したろ液1について各ろ液の重金属成分についてICP発光分光分析法により化学分析を行った。次に、ろ液を蒸発乾固して、水分を全量蒸発させ、KCl結晶の固形物を得た。この固形物に含まれるカルシウム成分、SO4イオン及びカリウム成分について化学分析を行った。その結果を次の表2に示す。
【0044】
<実施例
先ず、上記表1に示すダストAに消石灰を添加混合した。次いで、消石灰を添加混合したダストAと表1に示すダストB及びCを用い、これらダストと水との比が1:5の割合となるように混合して3種類のスラリーをそれぞれ調製した。また、消石灰を添加混合したダストAと水との比が1:10の割合となるように混合してスラリーを調製した。このときのスラリーをpH測定した。次に、調製した各スラリーにCO2ガスを吹き込んでスラリーのpHを10〜11.5にそれぞれ調整した。次に、スラリーに塩化カルシウムを添加し、続いて、各スラリーを30分間静置した後、この静置物をフィルタプレスにより固液分離してろ液と残渣を得た。図3の破線に示すように、これらろ液の一部を抜き取りろ液1を得た。ろ液から抜き出したろ液1について各ろ液の重金属成分についてICP発光分光分析法により化学分析を行った。次に、ろ液を蒸発乾固して、水分を全量蒸発させ、KCl結晶の固形物を得た。この固形物に含まれるカルシウム成分、SO4イオン及びカリウム成分について化学分析を行った。その結果を次の表2に示す。なお、表2中の実施例及びにおけるスラリーpHは、消石灰を添加混合しないダストAを用いてスラリー調製したときのスラリーpHを示し、消石灰を添加混合したダストAを用いてスラリーを調製したときのpHは、12.4であった。
【0045】
<比較例1〜3>
先ず、上記表1に示すダストA〜Cを用い、これらダストと水との比が1:5の割合となるように混合して3種類のスラリーをそれぞれ調製した。このときのスラリーをpH測定した。次に、調製した各スラリーのpHを次の表2に示すpH調整剤を用いて10.5に調整した。このスラリーをフィルタプレスにより固液分離してろ液と残渣を得た。これらろ液の一部を抜き取りろ液1を得た。ろ液から抜き出したろ液1について各ろ液の重金属成分についてICP発光分光分析法により化学分析を行った。次に、ろ液を蒸発乾固して、水分を全量蒸発させ、KCl結晶の固形物を得た。この固形物に含まれるカルシウム成分、SO4イオン及びカリウム成分について化学分析を行った。その結果を次の表2に示す。
【0046】
【表2】

表2より明らかなように、スラリーをpH調整した後に、何も添加剤を加えずにそのまま固液分離した比較例1〜3では、KCl結晶からなる固形物中に含まれるカルシウム濃度及びSO4イオン濃度が高く、カリウムの含有割合が肥料規格を満たしていない結果となった。なお、KCl結晶のK成分が41.5%を越えると、K2O換算50%以上の肥料規格が達成される。
【0047】
一方、スラリーをpH調整した後に、K2CO3を添加した参考例1及び2では、KCl結晶からなる固形物中に含まれるカルシウム濃度が低減されており、カリウム含有割合が肥料規格を満たしている安定した品質の肥料原料が得られた。また、スラリーをpH調整した後に、CaCl2を添加した実施例では、KCl結晶からなる固形物中に含まれるSO4イオン濃度が低減されており、カリウム含有割合が肥料規格を満たしている安定した品質の肥料原料が得られた。
【0048】
参考例3
カルシウム含有量が多い上記表1に示すダストCを用い、ダストと水との比が1:5の割合となるように混合して3種類のスラリーをそれぞれ調製した。このときのスラリーをpH測定した。次に、調製した各スラリーのpHを次の表2に示すpH調整剤を用いて11に調整した。次に、各スラリーに炭酸カリウムを添加量を2%〜6%に変化させて添加した。具体的には、参考例3のスラリーにはダスト100重量に対して炭酸カリウムを2%添加し、参考例4のスラリーにはダスト100重量に対して炭酸カリウムを4%添加し、参考例5のスラリーにはダスト100重量に対して炭酸カリウムを6%添加した。続いて、各スラリーを30分間静置した後、この静置物をフィルタプレスにより固液分離してろ液と残渣を得た。図1の破線に示すように、これらろ液の一部を抜き取りろ液1を得た。ろ液から抜き出したろ液1について各ろ液の重金属成分についてICP発光分光分析法により化学分析を行った。次に、ろ液を蒸発乾固して、水分を全量蒸発させ、KCl結晶の固形物を得た。この固形物に含まれるカルシウム成分、SO4イオン及びカリウム成分について化学分析を行った。その結果を次の表3に示す。
【0049】
【表3】

表3より明らかなように、カルシウム含有量が多いダストであっても、炭酸カリウム添加量を増加させることで、肥料規格を満足する塩化カリウム結晶が得られることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、キルンダスト等の処理に利用できる。また上記キルンダスト等から、肥料原料、化学原料、製錬原料、セメント原料等を製造できる。
【符号の説明】
【0051】
10,30 ダスト
11,31 水
12,32 スラリーの調製工程
13,33 スラリー
14 pH調整剤
16,36 pH調整工程
17 炭酸カリウム
18 重金属の沈殿工程
19,39 静置による残留重金属塩との共沈工程
21,41 ろ液
22,42 残渣
23,43 固液分離工程
24 塩酸
26 未反応炭酸カリウムの分解工程
27,44 蒸発乾固工程
28,46 固形物
34 炭酸ガス
37 塩化カルシウム
38 重金属の沈殿工程、脱硫酸イオン工程
47 消石灰
48 混合工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を含むダスト(30)と水(31)とを混合してスラリー(33)を調製する工程(32)と、
前記スラリー(33)に炭酸ガス(34)を吹き込み前記スラリーのpHを10〜12に調整する工程(36)と、
前記スラリー(33)に塩化カルシウム(37)を添加して前記重金属を水酸化物又は炭酸塩の形態で沈殿させ、かつ硫酸イオンを除去する工程(38)と、
前記塩化カルシウムを添加したスラリーを静置して炭酸塩との共沈効果により水に溶解して残留している重金属を更に沈殿させる静置工程(39)と、
前記静置工程の静置物をろ液(41)と残渣(42)とに固液分離する固液分離工程(43)と
を含むダスト処理方法。
【請求項2】
調製されるスラリーのpHが10未満であるとき、スラリー調製工程(32)を施す前にダスト(30)に消石灰(47)を添加混合する工程(48)を更に含む請求項記載の処理方法。
【請求項3】
固液分離により得られたろ液(41)を蒸発乾固する工程(44)と、前記蒸発乾固して得られた固形物(46)から肥料原料又は化学原料を生成する工程とを更に含む請求項記載の処理方法。
【請求項4】
固液分離により得られた残渣(42)から製錬原料又はセメント原料を生成する工程を更に含む請求項記載の処理方法。
【請求項5】
重金属を含むダスト(30)と水(31)とを混合してスラリー(33)を調製する工程(32)と、
前記スラリー(33)に炭酸ガス(34)を吹き込み前記スラリーのpHを10〜12に調整する工程(36)と、
前記スラリー(33)に塩化カルシウム(37)を添加して前記重金属を水酸化物又は炭酸塩の形態で沈殿させ、かつ硫酸イオンを除去する工程(38)と、
前記塩化カルシウムを添加したスラリーを静置して炭酸塩との共沈効果により水に溶解して残留している重金属を更に沈殿させる静置工程(39)と、
前記静置工程の静置物をろ液(41)と残渣(42)とに固液分離する固液分離工程(43)と、
固液分離により得られたろ液(41)を蒸発乾固する工程(44)と、
前記蒸発乾固して得られた固形物(46)から肥料原料又は化学原料を生成する工程と
を含む肥料原料又は化学原料の製造方法。
【請求項6】
調製されるスラリーのpHが10未満であるとき、スラリー調製工程(32)を施す前にダスト(30)に消石灰(47)を添加混合する工程(48)を更に含む請求項記載の製造方法。
【請求項7】
重金属を含むダスト(30)と水(31)とを混合してスラリー(33)を調製する工程(32)と、
前記スラリー(33)に炭酸ガス(34)を吹き込み前記スラリーのpHを10〜12に調整する工程(36)と、
前記スラリー(33)に塩化カルシウム(37)を添加して前記重金属を水酸化物又は炭酸塩の形態で沈殿させ、かつ硫酸イオンを除去する工程(38)と、
前記塩化カルシウムを添加したスラリーを静置して炭酸塩との共沈効果により水に溶解して残留している重金属を更に沈殿させる静置工程(39)と、
前記静置工程の静置物をろ液(41)と残渣(42)とに固液分離する固液分離工程(43)と、
固液分離により得られた残渣(42)から製錬原料又はセメント原料を生成する工程と
を含む製錬原料又はセメント原料の製造方法。
【請求項8】
調製されるスラリーのpHが10未満であるとき、スラリー調製工程(32)を施す前にダスト(30)に消石灰(47)を添加混合する工程(48)を更に含む請求項記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−269306(P2010−269306A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140173(P2010−140173)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【分割の表示】特願2005−25883(P2005−25883)の分割
【原出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】