説明

ダスト吸着シート

【課題】自動車塗装工場等で生じる浮遊するダスト,粉塵等を粘着剤とダストとの接触機会を多くし、圧損なく効率的に吸着するダスト吸着シートを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる連続線状体がランダムコイル状に空間を有して交絡され、交絡部の一部が固着されている三次元構造体であって、該構造体の表面には粘着剤が付着濃度10〜70質量%で付着され、空間部を残して線状体表面が該粘着剤で被覆されているダスト吸着シートである。なお、線状体の線径は0.01〜0.80mmφが好ましく構造体の目付質量は20〜800g/m2が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の塗装工場,食品製造工場,精密機械製造工場等で生じるダスト,粉塵等(以下単にダストと総称する)を吸着するダスト吸着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記自動車の塗装工場等で生じるダスト吸着シートとしてフレキシブル状基材の長手方向両側縁にドライ部分を設けて中央部に粘着剤を塗布し、その上面に剥離シートを貼着したもの(例えば特許文献1参照),所望幅を有するフレキシブルなネツト状基材に粘着剤を塗布したもの(例えば特許文献2参照),熱可塑性樹脂製モノフィラメントが弧を描きながら相互に隣り合う弧をくぐり抜け、前記弧によって形成される緩い空間部を有して形成される複数の網脚間を熱可塑性モノフィラメントで水平状,斜め状,X字状に連結し、これらのモノフィラメントに粘着剤を塗着したもの(例えば特許文献3参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開2000−61227号公報
【特許文献2】特開2002−233800号公報
【特許文献3】特開2004−314008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記提案に係る吸着用シートは、シートあるいはネット状のため何れも温度が高くなると塗布された粘着剤が垂れてくる垂れ防止に難があり、しかもネット状のモノフィラメントに粘着材が塗布されるため、粘着材とダストとの接触機会が比較的少なくなる問題があった。
【0004】
本発明は上述の如き実状に鑑み、吸着シートの基本的な考えに立脚し、特にランダムコイル状の連続線状体による三次元構造体の利用をはかり、空気の流れが可及的に阻害されない、即ち、圧損がなく、かつ粘着とダストとの接触機会も多く、また、比較的大きなダストも捕捉可能なダスト吸着シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、上記目的に適合する本発明は、基本的に熱可塑性樹脂からなる連続線状体がランダムコイル状に空間を有して交絡され、交絡部の一部が固着されている三次元構造体であって、該三次元構造体には粘着剤が付着され、空間部を残して互いに交絡する線状体表面が該粘着剤により被覆されているダスト吸着シートよりなる。
【0006】
請求項2〜6は上記ダスト吸着シートの具体的な態様であり、先ず請求項2は上記連続線状体を構成する熱可塑性樹脂が好ましくは、ポリエステル系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,ポリビニルアルコール系樹脂よりなる群より選ばれた少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする。
【0007】
次に請求項3は、粘着剤が付着される三次元構造体の線状体の線径が0.01mmφ〜0.80mmφの範囲であり、構造体目付質量が20g/m2〜800g/m2の範囲であること、また、請求項4は上記粘着剤が付着される三次元構造体の粘着剤付着濃度が10質量%〜70質量%の範囲であることを特徴とする。更に、請求項5は上記の粘着剤がアクリル酸エステル等のアクリル系,天然ゴム系,SBR,ブロックSIS,シリコン系からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする。請求項6は上記吸着シートの表面を保護するため、剥離シートを貼着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明ダスト吸着シートは、連続線状体がランダムコイル状に空間を有して交絡されてなる交絡部の一部が固着されてなる三次元構造体に粘着剤が空間部を残して付着された吸着シートであるから、空気の流れが殆ど阻害されることがなく、圧力損失がないのみならず、三次元構造体であるため、粘着剤とダストの接触する機会が可及的多くなってダストの捕捉が頗る良好となり、特に比較的大きなダストの捕捉も可能であると共に、三次元構造により粘着剤の垂れも防止することができ、濾過効率が低い構造でダスト吸着に極めて有効な効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、更に本発明ダスト吸着シートの具体的態様について詳述する。
【0010】
本発明ダスト吸着シートは、(1)空気の流れが可及的に阻害されない構造で、圧損がないこと、(2)粘着剤とダスト等の接触する機会ができるだけ多くなる構造であること、(3)ダストが比較的大きな、例えば100μm程度のものが捕捉可能であることを基本的考えとして、その構成と機能に適合する構成を見いだすものであり、前述したように、熱可塑性樹脂からなる連続線状体をランダムコイル状に空間を存して交絡し、交絡部の一部が線状体の固化前に相互にくっつき固着されて三次元構造体を形成して、これに粘着剤を付着し、空間部を残して線状体表面を粘着剤により被覆せしめた構成からなっている。
【0011】
ここで、連続線状体を形成する熱可塑性樹脂としては、三次元構造体を構成可能な樹脂であれば使用可能であるが、特に溶融あるいは湿式紡出可能でランダムコイル状に空間を有して互いに交絡され、しかも交絡部の一部が線状体が固化する以前に互いに線状体同志がくっつき固着されて三次元構造体を形成する熱可塑性樹脂の使用は好適であり、具体的には、例えばポリエステル系樹脂(PET),ポリアミド系樹脂(Ny),ポリオレフィン系樹脂(PO),ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)が挙げられる。
【0012】
そして、これら熱可塑性樹脂は連続線状体として紡出され、交絡されて一部交絡部が絡着されて空間を有するランダムコイル状の三次元構造体を形成するが、連続線状体としては繊度が0.01mmφ〜0.80mmφの範囲であることが好ましく、かつ必要である。連続線状体の繊度が0.01mmφ未満であると、ランダムコイル構造の隙間の目が細かくなり、粘着剤を付与すると目詰まりし易く、立体性に欠け、空気抵抗が大きくなるので、空気中の浮遊ダストの捕捉が難しくなるため好ましくない。
【0013】
また、線状体の繊度が0.80mmφを越えると連続線状体がランダムコイル状に交絡するとき、線状体が太すぎて粘着剤を塗布しても空間が大きくなり、小さなダストや大きなダストの捕獲が困難になるので好ましくない。従って連続線状体の繊度は0.01mmφ〜0.8mmφの範囲が効果的である。
【0014】
なお、上記連続線状体をランダムコイル状に交絡し、三次元構造体に形成して粘着剤を付着するが、この三次元構造体の目付範囲としては20g/m2〜800g/m2の範囲が好適である。三次元構造体の目付量が20g/m2未満では、線状体の繊度が太い領域で、目が粗すぎてダストの捕獲が困難になり、逆に繊度が小さい領域では目が細かいが、基材の強度が低くなって破れ易く、粘着剤を付与することが難しくなるので好ましくない。
【0015】
一方、三次元ランダム構造体の目付量が800g/m2を越えると、連続線状体の繊度の太い領域では適度の空間を得ることができるが、厚さが大きくなり、基材の取り扱い性が悪く、粘着剤の付与加工も困難となる。また繊度の小さい領域では目詰まりして通気抵抗が高くなり、粘着剤の付与加工も目詰まりを助長するので好ましくない。
【0016】
次に上記三次元構造体に付着される粘着剤は粘着力が高く、粘着特性時間が長いものが好ましく、一般的にはアクリル酸エステル等のアクリル系,天然ゴム系,SBR,ブロックSIS,シリコン系が用いられる。勿論、これらに限定されないことは云うまでもない。
【0017】
この粘着剤の三次元構造体への付着濃度としては、多いと圧力損失が増し、樹脂の垂れが生じ、少ないと濾過性能が低下するので10質量%〜70質量%の範囲が好適である。
【0018】
粘着剤の付着濃度が10質量%未満であると、細かいダストや大きなダストの捕捉が充分には出来なくなるので好ましくなく、また80質量%を越えるとダストの吸着は充分で過剰効果となるのみならず、多すぎて空気抵抗が増大し、また粘着剤の垂れを生じコスト面からも好ましくない。
【0019】
なお粘着剤が付着されたシート表面は互いにくっつき易いため剥離性のよい離形材を塗布した剥離シートを貼着し、保護することが必要である。剥離シートは上質紙等をポリオレフィン系その他の合成樹脂製フィルムでラミネートしたものや、ポリエステルフィルムなどを用いることができ、塗布する離形材にはフッ素系,オレフィン系又はワックス系等を使用することができる。特に自動車の塗装工場においてはシリコン系は避け、非シリコン系の離形材を用いることが好ましい。この剥離シートは本発明に係る吸着シートをロール巻きするとき1枚の剥離シートが吸着シートの粘着剤の間に必ず存在して表裏の粘着剤同志が剥離シートを介して巻かれ、互いに粘着剤がくっつき合うのを防止する。そして、ロール巻された吸着シートを引出し、使用するに際しては順次、剥離シートを剥離除去して粘着剤を露出させて引出し使用する。
【0020】
以下、更に本発明の具体的実施例を述べる。
【実施例】
【0021】
先ず、下記に従って試料1〜6を作成した。
(試料1)
融点172℃のポリエーテルエステルブロック共重合エラストマー(PETエラストマー)のペレットを幅4cmで長さ20cmのノズル有効面に孔径0.4mmのオリフィスを孔間ピッチ3mm間隔で配列したノズルより、単孔吐出量を0.80g/分で吐出させ、ノズル面25cm下に冷却水を配し、幅25cmのステンレス製エンドレスネットを平行に10mm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、交絡接触部分を固着させ、かつ両面を挟み込みつつ毎分0.9mの速度で10℃の冷却水中へ引込み固化させ、擬似結晶化処理した後、所定の大きさに切断して目標目付量750g/m2、厚さ6.0mmで実際目付量744g/m2、厚さ6.3mmの三次元ランダム構造体を作成し実施例1として使用した。
(試料2)
融点120℃のポリビニルアルコール(PVA)のペレットを幅4cmで長さ20cmのノズル有効面に孔径0.4mmのオリフィスを孔間ピッチ3mm間隔で配列したノズルより、単孔吐出量を0.40g/分で吐出させ、ノズル面25cm下に冷却水を配し、幅25cmのステンレス製エンドレスネットを平行に10mm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、交絡接触部分を固着させつつ、両面を挟み込み毎分1.6mの速度で10℃の冷却水中へ引込み固化させて、擬似結晶化処理した後、所定の大きさに切断して目標目付量193g/m2、厚さ1.5mmで、実際目付量208g/m2、厚さ1.5mmと、実際目付量192g/m2、厚さ1.3mmの三次元ランダム構造体を作成し、夫々後記実施例2及び実施例3として使用した。
(試料3)
融点140℃変性ポリアミド(Ny)のペレットを通常の溶融紡糸で、紡糸温度200℃、孔径0.4mmのオリフィスを孔間ピッチ3mm間隔で配列したノズルより、単孔吐出量を0.40g/分で吐出させ、空気冷却後、エアーサッカーによりネットコンベアー(速度10m/分)上に堆積して、交絡接触部分を固着させて、くもの巣状のシートで目標目付量が30g/m2、厚さ0.5mmで実際目付量28g/m2、厚さ0.36mmと、実際目付量33g/m2、厚さ0.4mmの三次元ランダム構造体を作成し、夫々実施例4,実施例5として使用した。
(試料4)
市販の漁網で糸径0.2mmφ、ラッセル網幅2.0mm、高さ2.3mmの六角形空間からなる目付量150g/m2、厚さ1.0mmの基材を作成し、比較例1として使用した。
(試料5)
市販の寒冷紗で、経糸径0.58mmφ、横糸径0.32mmφ、糸間隔は縦横共に3.0mmに織られたもので目付量46g/m2、厚さ0.24mmの基材を作成し、比較例2として使用した。
(試料6)
融点190℃のポリエチレン(HPE)のペレットを幅4cmで長さ20cmのノズル有効面に孔径0.8mmのオリフィスを孔間ピッチ3mm間隔で配列したノズルより、0単孔吐出量を0.6g/分で吐出させ、ノズル面25cm下に冷却水を配し、幅25cmのステンレス製エンドレスネットを平行に10mm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、交絡接触部分を固着させ、両面を挟み込みつつ毎分1.2mの速度で10℃の冷却水へ引込み固化させて、擬似結晶化処理した後、所定の大きさに切断して目付335g/m2、厚さ7.5mmの三次元ランダム構造体を作成し、比較例3として使用した。
【0022】
なお、上記各試料における糸径,目付量,厚さは夫々、下記測定方法により測定した。
【0023】
糸径:mmφ
マイクロスコープ(株式会社キーエンス製)によって糸を150倍に拡大して糸の直径を計測した、測定本数はn=10の平均値で示した。単位はmmφである。
【0024】
目付量:g/m2
50cm×50cmの大きさを切り出し、その時の重さを測定し、1m2当たりの重量に換算する。
【0025】
厚さ:mm
15cm×15cmの大きさを切り出し、初荷重0.05g/cm2をかけて、4隅の高さを測定し、その平均値で示す。
【0026】
かくして、上記得られた各試料1〜6についてポリアクリル酸エステルからなる粘着剤(大日本インキ化学工業株式会社製;ボンコートW−533)を用いて浸漬法により表1記載の各付着濃度で所定量の粘着剤を付与し、実施例1〜5及び比較例1〜3の各ダスト吸着シート製品を作成した。
【0027】
これら製品について、夫々圧損,垂れ評価,捕獲性評価を下記測定に基づいて評価した結果を表1に示す。
圧力損失;試料の風上と風下の圧力差を測定した。
粘着剤の付着度;付着度=粘着剤量(g)/(試料重量+粘着剤量)(g)×100(%)
粘着剤の垂れ評価;垂直に吊るした試料を100℃×15時間曝し、粘着剤の垂れ状態を評価した。
【0028】
糸表面に付着している粘着剤の移動がない ○
糸表面に付着している粘着剤が下方へ移動 △
糸表面に付着している粘着剤が下方へ移動し滴下 ×
捕獲性評価;アクリル樹脂製の円筒内径90mmφ、長さ200mmの下方から吸引し上部に試料を置き、その上に前記と同じもので長さ400mmの筒を固定し、吸引速度5cm/secで下方に吸引した。長さ500mmの円筒上部から髪の毛(約80μmφ)長さ0.5mm10本、ポリエステル繊維(約40μm)長さ0.5mmを10本混合したものを添加してその捕獲を評価した。
【0029】
投入数全てを捕獲した ○
投入数何れも80%以上 △
投入の何れも50%以下 ×
【0030】
【表1】

上記表1の結果より、比較例1〜3のものが、圧損0で、垂れ評価,捕獲性評価の何れか一方又は双方に問題を残しているのに対し、本発明に係る実施例1〜5は何れも圧損0で、糸表面に付着している粘着剤の垂れ移動はなく、しかもダストも殆ど捕獲して頗る良好であることが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる連続線状体がランダムコイル状に空間を有して交絡され、交絡部の一部が固着されている三次元構造体シートであって、該三次元構造体には粘着剤が付着され、空間部を残して互いに交絡する線状体表面が該粘着剤により被覆されていることを特徴とするダスト吸着シート。
【請求項2】
連続線状体を構成する熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,ポリビニルアルコール系樹脂よりなる群より選ばれた少なくとも1種の樹脂である請求項1記載のダスト吸着シート。
【請求項3】
粘着剤が付着される三次元構造体の線状体の線径が0.01mmφ〜0.80mmφの範囲であり、構造体目付量が20g/m2〜800g/m2の範囲である請求項1または2記載のダスト吸着シート。
【請求項4】
粘着剤が付着される三次元構造体の粘着剤付着濃度が10質量%〜70質量%の範囲である請求項1,2又は3記載のダスト吸着シート。
【請求項5】
粘着剤がアクリル酸エステル等のアクリル系,天然ゴム系,SBR,ブロックSIS,シリコン系からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1,2,3又は4記載のダスト吸着シート。
【請求項6】
粘着剤が付着された吸着シート表面に剥離シートを貼着し保護する請求項1〜5の何れか1項に記載のダスト吸着シート。

【公開番号】特開2008−29974(P2008−29974A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207303(P2006−207303)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(391021570)呉羽テック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】