説明

ダスト計

【課題】等価膜校正時に測定セルの上下ブロック間に校正用具を手作業で配置するときに、校正用具が濾紙に接触することがなく、濾紙の位置が変化して等価膜校正の再現性が悪くなることを防止することができるダスト計を提供する。
【解決手段】開閉可能な上ブロック102、下ブロック104を有するとともに、内部にガス流路106及びβ線照射路が形成され、ガス流路を流れる気相中のダストを上下ブロックで挟持した濾紙108上に吸引捕集する測定セル100を備えたダスト計において、上記測定セル100の下ブロックの上面の濾紙が配置される部分を含む領域に、深さが濾紙の厚さより大きい凹部118を形成し、濾紙が上記凹部118の底面に接触するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相中に含まれるダスト(微小粒子状物質、浮遊粒子状物質等)の濃度を測定するダスト計に関し、さらに詳述すると、等価膜を用いて感度の校正を行うダスト計に関する。
【背景技術】
【0002】
気相中のダスト濃度を測定するダスト計として、濾紙上に気相中のダストを吸引捕集するとともに、ダスト捕集前後における濾紙の透過β線強度を計測し、これらβ線強度から気相中のダスト濃度を求めるβ線吸収法によるダスト計が使用されている(例えば、特許文献1参照)。β線吸収法は、低いエネルギーのβ線を物質に照射した場合、その物質の質量に比例してβ線の吸収量が増加することを利用した測定法である。
【0003】
上述したβ線吸収法によるダスト計として、従来、図4に示すものが知られている。図4のダスト計において、2は部品取付板、4は測定セル、6は測定セル4の上ブロック、8は測定セル4の下ブロック、10は測定セル4内に設けられたガス流路、12は測定セル4内に設けられたβ線照射路、14はサンプリングパイプ、16は吸引管、18はポンプ、20は吐出部、22はβ線源容器、24はβ線源、26はβ線検出器、28はβ線透過性薄膜、30は繰り出しリール、32はテープ状濾紙、34は巻き取りリール、36はピンチローラ、38はキャプスタン、40は演算制御部、42は表示部を示す。
【0004】
図4のダスト計を用いて例えば大気中のダスト濃度を測定する手順は下記の通りである。
(1)大気採取箇所にサンプリングパイプ14の流入端を配置する。一方、β線源24から放射され、濾紙32を透過してβ線検出器26に到達するβ線強度を測定し、この測定値Iを演算制御部40に記憶する。
(2)ポンプ18を所定時間作動させて所定量の大気を吸引した後、ポンプ18を停止させる。これにより大気中のダストが濾別され、濾紙32の上面にダストの沈着層44が形成される。この状態において濾紙32及びダストの沈着層44を透過してβ線検出器26に到達するβ線源24からのβ線強度を測定する。得られた測定値Iは演算制御部40に送られ、この測定値Iと予め記憶されている測定値Iとを用いてダスト濃度が算出され、表示部42に表示される。ダスト濃度Cの算出は下記式により行われる。
C=[A/(μQt)]・ln(I/I)
C:ダスト濃度(g/cm
A:捕集面積(cm
μ:質量吸収係数(cm/g)
Q:気相通過流量(cm/min)
t:捕集時間(min)
I:濾紙及びダストを透過したβ線強度
:濾紙のみを透過したβ線強度
(3)その後、ブロック6、8を上下に開くとともに、ピンチローラ36を駆動して濾紙32を所定距離前方に移動させる。これにより沈着層44がガス流路10外に移動し、ガス流路10内にはダストが沈着していない新たな濾紙部分が供給され、この状態においてブロック6、8間の間隙が閉じられて最初の状態に復帰する。以後、同様の操作が繰り返されてダスト濃度が測定され続けるが、これらの動作は全て演算制御部40の制御により行われる。
【0005】
従来、図4に示したβ線吸収法によるダスト計の感度の校正は、等価膜を用いて行われている。等価膜は、特定の単位面積当たり質量を有し、単位面積当たり質量の基準として使用される合成樹脂製の膜であり、濾紙のみにβ線を照射したときの透過β線強度と、濾紙上に等価膜を載置してこれらにβ線を照射したときの透過β線強度とを計測し、これらの値に基づいてスパン校正を行うものである。
【0006】
等価膜を用いた校正は、具体的には、図5に示すように行われる。図5において46は校正用具を示す。この校正用具46は、透孔48を有する金属製支持板50の下面に透孔48を覆って等価膜52が固着されたものである。この校正用具46を用いて図4に示したダスト計の校正を行う場合、まず測定セル4の上下ブロック6、8間に濾紙32のみを挟持してその透過β線強度を測定する。次いで、上下ブロック6、8を開いてから上下ブロック6、8間に校正用具46を手作業で配置する。その後上下ブロック6、8を閉じ、濾紙32上に等価膜52を密着させた状態で上下ブロック6、8により濾紙32及び等価膜52を挟持し、それらの透過β線強度を測定するものである。
【0007】
上記校正用具46は、測定セル4に手作業で装着するものであるため、つまみ部54と、2個の位置決め用くぼみ56、58とが支持板50に形成されており、これらくぼみ56、58を測定セル4の上下ブロック6、8間に設けられたガイドボルト60(一方のみ図示)に係合させることにより、上下ブロック6、8間における校正用具46の位置決めを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3330270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、図5に示した校正用具を用いる従来の校正手段には、下記(A)、(B)に示す問題点があった。
(A)上下ブロック間に校正用具を手作業で配置する場合、校正用具の支持板や等価膜が濾紙に接触して、濾紙の位置が変化することがある。濾紙の密度及び質量は場所によってムラがあるため、上記のように濾紙の位置が変化すると測定値に影響を与え、等価膜校正の再現性が悪くなる。
(B)前述した測定セルは、通常は下ブロックを上下動させて上下ブロックの開閉を行うが、上下ブロック間に校正用具を配置しやすくするために上下ブロックを大きく開くようにすると、上下動する下ブロックの動きによって濾紙の位置が変化することがある。このように濾紙の位置が変化すると、(A)と同様に等価膜校正の再現性が悪くなる。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、等価膜校正時に測定セルの上下ブロック間に校正用具を手作業で配置するときに、校正用具の支持板や等価膜が濾紙に接触することがなく、したがって濾紙の位置が変化して等価膜校正の再現性が悪くなることを防止することができるダスト計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するため、
開閉可能な上下ブロックを有するとともに、内部にガス流路及びβ線照射路が形成され、前記ガス流路を流れる気相中のダストを上下ブロックで挟持した濾紙上に吸引捕集するとともに、前記β線照射路を通して濾紙にβ線を照射することにより、ダスト捕集前後における濾紙の透過β線強度を計測する測定セルを備え、
ダスト捕集前における濾紙のみの透過β線強度を計測した後、上下ブロックを開いた状態で、透孔を有する支持板に前記透孔を覆って等価膜を固着した校正用具を上下ブロック間に手作業で挿入し、次いで上下ブロックを閉じて濾紙及び等価膜を透過した透過β線強度を計測することにより等価膜校正を行うダスト計であって、
下ブロックの上面の濾紙が配置される部分を含む領域に、深さが濾紙の厚さより大きい凹部を形成し、濾紙が前記凹部の底面に接触するようにしたことを特徴とするダスト計を提供する。
【0012】
本発明に係るダスト計の測定セルは、下ブロックの上面の濾紙が配置される部分を含む領域に、深さが濾紙の厚さより大きい凹部を形成したので、濾紙は凹部の底面に接触する一方、上下ブロック間に校正用具を手作業で配置するときに、校正用具の支持板や等価膜は下ブロックの最上面には接触するが、濾紙には接触しない。そのため、本発明のダスト計では、上下ブロック間に校正用具を配置するときに濾紙の位置が変化することがなく、濾紙の位置が変化して等価膜校正の再現性が悪くなることを防止することができる。
【0013】
また、上記のように校正用具が濾紙に接触することがないので、校正用具を下ブロックの上面を滑らせて上下ブロック間に挿入することができ、上下ブロック間に校正用具を配置しやすくするために上下ブロックを大きく開く必要がなくなる。そのため、本発明のダスト計では、上下動する下ブロックの動きによって濾紙の位置が変化することがなく、この点でも濾紙の位置が変化して等価膜校正の再現性が悪くなることを防止することができる。
【0014】
本発明においては、下ブロックの校正用具を挿入する入口部分の前側上端部を、上ブロックの同部分の前側下端部よりも前方に突出させることが好ましい。このようにすると、上下ブロック間に校正用具を手作業で配置するときに、校正用具の端部を下ブロックの上記入口部分の前側上端部の上面に当て、校正用具を下ブロックの上面を滑らせて上下ブロック間に挿入することができ、上下ブロック間に校正用具を挿入しやすくなる。
【0015】
本発明においては、上ブロックの下面のガス流路の周囲に凸部を形成し、濾紙のみを透過した透過β線強度を計測するときに、上記凸部が濾紙を下ブロックに対して押圧するとともに、濾紙及び等価膜を透過した透過β線強度を計測するときに、上記凸部が等価膜を濾紙及び下ブロックに対して押圧する構成とすることが好ましい。このようにすると、濾紙及び下ブロックが密着した状態で濾紙のみの透過β線強度を測定することができるとともに、等価膜、濾紙及び下ブロックが密着した状態で濾紙及び等価膜の透過β線強度を測定することができ、等価膜校正の再現性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のダスト計は、等価膜校正時に測定セルの上下ブロック間に校正用具を手作業で配置するときに、校正用具の支持板や等価膜が濾紙に接触することがなく、したがって濾紙の位置が変化して等価膜校正の再現性が悪くなることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るダスト計の測定セルの一例を示す模式的一部省略断面図である。
【図2】同測定セルの下ブロックを示す概略平面図である。
【図3】同測定セルを示す模式的側面図である。
【図4】従来のダスト計の一例を示す概略一部省略断面図である。
【図5】同ダスト計の等価膜校正を行う状態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明に係るダスト計の測定セルの一例を示す模式的一部省略断面図、図2は同測定セルの下ブロックを示す概略平面図である。本測定セル100において、102は上ブロック、104は下ブロック、106はガス流路を示す。また、図1において、108はテープ状濾紙、110は校正用具、112は校正用具110の金属製支持板、114は金属製支持板112の透孔、116は校正用具110の等価膜を示す。
【0019】
本例の測定セル100は、下ブロック104の上面のテープ状濾紙108が配置される部分(通過する部分)を含む領域に、深さが濾紙108の厚さ(通常、0.1mm以下)より大きい凹部が形成されている。より具体的には、下ブロック104の上面の濾紙108が配置される部分を含む領域に、帯状の第1凹部118が形成され、さらにガス流路106の周囲において、第1凹部118より深さが深い四角形の第2凹部120が形成されている。第1凹部118の幅は濾紙108の幅より大きい。また、下ブロックの最上面122に対する第1凹部118の底面の深さは0.3mmであり、第1凹部118の底面に対する第2凹部120の底面の深さは0.2mmである。なお、本発明において、凹部の形状、構造に限定はなく、下ブロックの上面の濾紙が配置される部分を含む領域に形成され、校正用具が濾紙に接触することを防止できる形状、構造であればよい。例えば、本例では、凹部を第1凹部118、第2凹部120からなる2段式としたが、第1凹部118のみからなる1段式としてもよい。
【0020】
また、本例の測定セル100は、図3に示すように、下ブロック104の校正用具110を挿入する入口部分の前側上端部126が、上ブロック102の同部分の前側下端部128よりも前方に突出している。なお、本例では、下ブロック104の上記入口部分の前側全体を上ブロック102の同部分の前側全体よりも前方に突出させたが、少なくとも、下ブロック104の上記入口部分の前側上端部が、上ブロック102の同部分の前側下端部よりも前方に突出していればよい。
【0021】
さらに、本例の測定セル100は、図1に示すように、上ブロック102の下面のガス流路106の周囲に、前記下ブロック104の第2凹部120の平面形状より小さい底面形状を有する凸部124が形成され、濾紙108のみを透過した透過β線強度を計測するときに、上記凸部124が濾紙108を下ブロック104に対して押圧するとともに、濾紙108及び等価膜116を透過した透過β線強度を計測するときに、上記凸部124が等価膜116を濾紙108及び下ブロック104に対して押圧するようになっている。
【0022】
本例のダスト計は、上述した測定セル100に関する点以外は、図4のダスト計と同様の構成を有する。また、本例のダスト計の等価膜校正を行う手順は、図5を参照して説明したとおりである。この場合、本例のダスト計は、等価膜校正において下記の利点を有する。
【0023】
(1)本例のダスト計の校正を行う場合、まず測定セル100の上下ブロック102、104間に濾紙108のみを挟持してその透過β線強度を測定した後、下ブロック104を下降させて上下ブロック102、104を開いてから、上下ブロック102、104間に校正用具100を手作業で配置する。この場合、本例のダスト計では、下ブロック104の上面の濾紙108が配置される部分を含む領域に、深さが濾紙の厚さより大きい第1凹部118を形成したので、濾紙108は第1凹部118の底面に接触する一方、上下ブロック102、104間に校正用具110を手作業で配置するときに、校正用具110の支持板112や等価膜116は下ブロック104の最上面122には接触するが、濾紙108には接触しない。そのため、本例のダスト計では、上下ブロック102、104間に校正用具110を配置するときに濾紙108の位置が変化することがなく、濾紙108の位置が変化して等価膜校正の再現性が悪くなることを防止することができる。また、上記のように校正用具110が濾紙108に接触することがないので、校正用具100を下ブロック104の上面を滑らせて上下ブロック102、104間に挿入することができ、上下ブロック102、104間に校正用具110を配置しやすくするために上下ブロック102、104を大きく開く必要がなくなる。そのため、本例のダスト計では、上下動する下ブロック104の動きによって濾紙108の位置が変化することがなく、この点でも濾紙108の位置が変化して等価膜校正の再現性が悪くなることを防止することができる。
【0024】
(2)また、本例のダスト計では、下ブロック104の校正用具110を挿入する入口部分の前側上端部126が、上ブロック102の同部分の前側下端部128よりも前方に突出しているので、上下ブロック102、104間に校正用具110を手作業で配置するときに、校正用具100の端部を下ブロック104の上記入口部分の前側上端部126の上面に当て、校正用具110を下ブロック104の上面を滑らせて上下ブロック102、104間に挿入することができ、上下ブロック102、104間に校正用具を挿入しやすい。
【0025】
(3)さらに、本例のダスト計では、(1)のように上下ブロック102、104間に校正用具110を配置した後、下ブロック104を上昇させて上下ブロック102、104を閉じ、濾紙108及び等価膜116を透過した透過β線強度を測定する。この場合、本例のダスト計においては、上ブロック102の下面のガス流路106の周囲に、下ブロック104の第2凹部120の平面形状より小さい底面形状を有する凸部124が形成され、濾紙108のみを透過した透過β線強度を計測するときに、上記凸部124が濾紙108を下ブロック104に対して押圧するとともに、濾紙108及び等価膜116を透過した透過β線強度を計測するときに、上記凸部124が等価膜116を濾紙108及び下ブロック104に対して押圧するようになっているので、濾紙108及び下ブロックが密着した状態で濾紙108のみの透過β線強度を測定することができるとともに、等価膜116、濾紙108及び下ブロックが密着した状態で濾紙108及び等価膜116の透過β線強度を測定することができ、等価膜校正の再現性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0026】
100 測定セル
102 上ブロック
104 下ブロック
106 ガス流路
108 テープ状濾紙
110 校正用具
112 金属製支持板
114 透孔
116 等価膜
118 第1凹部
120 第2凹部
124 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉可能な上下ブロックを有するとともに、内部にガス流路及びβ線照射路が形成され、前記ガス流路を流れる気相中のダストを上下ブロックで挟持した濾紙上に吸引捕集するとともに、前記β線照射路を通して濾紙にβ線を照射することにより、ダスト捕集前後における濾紙の透過β線強度を計測する測定セルを備え、
ダスト捕集前における濾紙のみの透過β線強度を計測した後、上下ブロックを開いた状態で、透孔を有する支持板に前記透孔を覆って等価膜を固着した校正用具を上下ブロック間に手作業で挿入し、次いで上下ブロックを閉じて濾紙及び等価膜を透過した透過β線強度を計測することにより等価膜校正を行うダスト計であって、
下ブロックの上面の濾紙が配置される部分を含む領域に、深さが濾紙の厚さより大きい凹部を形成し、濾紙が前記凹部の底面に接触するようにしたことを特徴とするダスト計。
【請求項2】
下ブロックの校正用具を挿入する入口部分の前側上端部が、上ブロックの同部分の前側下端部よりも前方に突出していることを特徴とする請求項1に記載のダスト計。
【請求項3】
上ブロックの下面のガス流路の周囲に凸部が形成され、濾紙のみを透過した透過β線強度を計測するときに、前記凸部が濾紙を下ブロックに対して押圧するとともに、濾紙及び等価膜を透過した透過β線強度を計測するときに、前記凸部が等価膜を濾紙及び下ブロックに対して押圧することを特徴とする請求項1または2に記載のダスト計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−177590(P2012−177590A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40023(P2011−40023)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】