説明

ダッシュパネル部の構造

【課題】ダッシュパネルの振動を低減させるとともに、フロントサイドメンバが受けた荷重を効率的にフロアトンネルに伝達する。
【解決手段】ダッシュサイドパネルに接合されるダッシュパネル3を設け、ダッシュパネルの前側を左右のフロントサイドメンバ4に車両前方から接合し、ダッシュパネルの後側をフロアパネル7に設けた左右のフロアサイドメンバに車両後方から接合したダッシュパネル部1の構造に関して、フロントサイドメンバ間のダッシュパネル上部31に車両前方へ突出する凸形状部分31aを設け、ダッシュパネル下部32に車両後方へ突出する凸形状部分32aを設け、上下凸形状部分31a,32aをフロントサイドメンバ間の距離W1の半分以上の幅W2で形成して車体中央から突出させ、ダッシュパネル下部32をフロアトンネル8に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンルームと車室内とを隔離するダッシュパネル及びその周辺部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の前部には、エンジンが収容されるエンジンルームと、該エンジンルームの車両後方に位置し、乗員が搭乗する車室内とを隔離するダッシュパネルが設けられている。このダッシュパネルの周辺には、車両幅方向で左右両側に設けられるフロントサイドメンバ及びダッシュサイドパネルや、フロアパネルに設けられる左右両側のフロアサイドメンバが配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような車両では、車両前方から外部荷重が車体前部のフロントバンパに掛かる場合、フロントサイドメンバを経由して、フロアサイドメンバ及びサイドシルへ荷重伝達される経路の他に、ダッシュパネルからダッシュクロスメンバを経由してフロアトンネルに荷重伝達される経路があり、これら複数の経路で荷重分散が行われている。
一方、エンジンルームと車室内とを隔離するダッシュパネルは、エンジンルームに収容されるエンジンなどから発生する振動及び騒音を遮蔽する役割を有している。このため、エンジンルームの振動及び騒音を車室内から十分に遮蔽するには、ダッシュパネル単品での面剛性も重要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−96091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のダッシュパネル部の構造では、フロアトンネルへの荷重分散を増やしてフロアサイドメンバへの荷重負担を軽減するために、ダッシュパネルに深い曲面を形成したり、板厚増加でフロアトンネルへ荷重ベクトルを向けたりすると、ダッシュパネルの周辺部のレイアウトを制限するとともに、車体重量の増大を招くことが懸念されていた。
また、従来の構造では、ダッシュパネル単品の剛性を向上させて車室内の騒音対策などを施すために、パネル全体を車両前後方向にも距離を有する車両前方への凸曲面に形成したり、板厚を増加したりすることが考えられるが、上述した従来構造と同様の問題が懸念されることになる。さらに、局所的な凹凸形状は、プレス加工の絞り深さが大きくなるので、プレス加工が難しくなり、ダッシュパネルの成形性が悪化するおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、ダッシュパネルの面剛性を向上させ、ダッシュパネルの振動を低減させるとともに、フロントサイドメンバが受けた荷重を効率的にフロアトンネルに伝達することが可能なダッシュパネル部の構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、車両幅方向で左右両側のダッシュサイドパネルに挟まれ、左右両端部が前記ダッシュサイドパネルに接合されるダッシュパネルを設け、前記ダッシュパネルに接合され、車両前後方向に沿って延びる左右両側のサイドメンバを設けたダッシュパネル部の構造において、前記左右両側のサイドメンバの間に位置する前記ダッシュパネルの部分のうち、ダッシュパネル上部には、車両前方へ突出する凸形状部分が設けられ、ダッシュパネル下部には、車両後方へ突出する凸形状部分が設けられており、前記ダッシュパネル上下部の凸形状部分は、前記左右両側のサイドメンバ間の距離の半分以上の幅で形成され、かつ車体中央から突出して配置されており、前記ダッシュパネル下部には、フロアパネルに設けられたフロアトンネルが接合されている。
【0008】
また、本発明において、前記サイドメンバは、車両前方側に配置されるフロントサイドメンバと、該フロントサイドメンバの車両後方側に配置されるフロアサイドメンバとから構成され、前記ダッシュパネル上部は、ほぼ垂直面であり、前記ダッシュパネル下部は、車両後方へ向かって斜め下に延在しており、前記ダッシュパネル上部と前記ダッシュパネル下部との境界線の高さ位置は、正面視で前記フロントサイドメンバの高さに設定されている。
【0009】
さらに、本発明において、前記ダッシュパネル下部の凸形状部分は、前記ダッシュパネルと別体のパネル部品を接合することによって形成されている。
【0010】
そして、本発明において、前記ダッシュパネル下部の凸形状部分には、ダッシュクロスメンバが車両幅方向に沿って設けられている。
【発明の効果】
【0011】
上述の如く、本発明に係るダッシュパネル部の構造は、車両幅方向で左右両側のダッシュサイドパネルに挟まれ、左右両端部が前記ダッシュサイドパネルに接合されるダッシュパネルを設け、前記ダッシュパネルに接合され、車両前後方向に沿って延びる左右両側のサイドメンバを設けたものであって、前記左右両側のサイドメンバの間に位置する前記ダッシュパネルの部分のうち、ダッシュパネル上部には、車両前方へ突出する凸形状部分が設けられ、ダッシュパネル下部には、車両後方へ突出する凸形状部分が設けられており、前記ダッシュパネル上下部の凸形状部分は、前記左右両側のサイドメンバ間の距離の半分以上の幅で形成され、かつ車体中央から突出して配置されており、前記ダッシュパネル下部には、フロアパネルに設けられたフロアトンネルが接合されているので、ダッシュパネル上下部の互いに逆向きに突出する凸形状部分の組み合わせによる協調効果を利用することが可能となり、ダッシュパネルの面剛性向上と振動特性の改善を図ることができ、エンジンルームからの振動及び騒音を確実に遮蔽することができる。しかも、本発明の構造では、ダッシュパネル上下部において逆向きの凸形状部分の協調効果を利用しているので、各凸形状部分の絞り深さが一方のみ凸形状部分の場合と比べて浅くプレス加工することが可能となり、ダッシュパネルの良好な成形性を確保できるとともに、部品コストを低減できる。
また、本発明の構造においては、車両前方から外部荷重がフロントバンパに掛かり、前方側サイドメンバのフロントサイドメンバに伝達されると、該フロントサイドメンバの荷重は、ダッシュパネル下部の車両後方へ突出する凸形状部分により荷重ベクトルとして車体中央部へ向かい、フロアトンネルに円滑に伝達することが可能となるので、後方側サイドメンバのフロアサイドメンバへの荷重負担を軽減でき、車両前方からの外部荷重を効率良く分散させることができる。
【0012】
また、本発明の構造において、前記サイドメンバは、車両前方側に配置されるフロントサイドメンバと、該フロントサイドメンバの車両後方側に配置されるフロアサイドメンバとから構成され、前記ダッシュパネル上部は、ほぼ垂直面であり、前記ダッシュパネル下部は、車両後方へ向かって斜め下に延在しており、前記ダッシュパネル上部と前記ダッシュパネル下部との境界線の高さ位置は、正面視で前記フロントサイドメンバの高さに設定されているので、ダッシュパネル上下部の境界線部分のパネル剛性を向上させることができるとともに、フロントサイドメンバからの荷重をより一層効率的に周辺部品に分散させることができる。
【0013】
さらに、本発明の構造において、前記ダッシュパネル下部の凸形状部分は、前記ダッシュパネルと別体のパネル部品を接合することによって形成されているので、ダッシュパネル本体の凸形状部分が主に車両前方へ突出するダッシュパネル上部のみとなり、ダッシュパネルの成形加工が簡単になる。また、本発明の構造では、ダッシュパネル下部の凸形状部分を形成する別体のパネル部品の板厚を厚くすることによって、車体重量の増大を抑えつつ、車両前方からの外部荷重の分散効果と振動抑制効果を向上させることができる。
【0014】
そして、本発明の構造において、前記ダッシュパネル下部の凸形状部分には、ダッシュクロスメンバが車両幅方向に沿って設けられているので、ダッシュパネル下部の凸形状部分の剛性をより一層向上させることが可能となり、車両前方からの外部荷重の分散効果と振動抑制効果を大幅に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る構造が適用される車両のダッシュパネル部周辺を車両後方側の斜め上方から示す斜視図である。
【図2】図1のダッシュパネル部周辺を車両前方側の斜め上方から示す斜視図である。
【図3】図1のダッシュパネル部周辺を車両上方から見た平面図である。
【図4】図1のダッシュパネル部周辺を車両下方から見た平面図である。
【図5】図1のダッシュパネル部周辺を車両前方から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1〜図5は本発明の実施形態に係るダッシュパネル部の構造を示すものである。
【0017】
図1〜図5に示すように、本発明の実施形態に係る構造が適用される車両の車体前部に位置するダッシュパネル部1は、主として、車両幅方向で左右両側に配設される左右一対のダッシュサイドパネル2と、これらダッシュサイドパネル2に挟まれ、左右両端部がダッシュサイドパネル2に接合されるダッシュパネル3と、当該ダッシュパネル3の前側に車両前方から接合される左右両側のフロントサイドメンバ4と、当該ダッシュパネル3の後側に車両後方から接合される左右両側のフロアサイドメンバ5とを備えており、左右両側のダッシュサイドパネル2の下部は、車両前後方向に沿って延在する左右両側のサイドシル6の前端部に接合されている。なお、フロントサイドメンバ4とフロアサイドメンバ5とから構成されるサイドメンバは、ダッシュパネル3に接合されて車両前後方向に沿って延びていれば良く、フロントサイドメンバ4は、ダッシュパネル3の少し後方まで延在する場合もある。図中の矢印F方向は、車両前方を示している。
【0018】
ダッシュパネル3は、図1〜図5に示すように、車両幅方向に沿って延在し、かつエンジンルームEと車室R内とを隔離する位置に設けられる縦壁である。また、フロントサイドメンバ4は、図2〜図4に示すように、エンジンルームE内の左右両側に間隔を置いて、車両前後方向に沿って延在して設けられている。さらに、フロアサイドメンバ5は、図4に示すように、フロアパネル7の下面の左右両側に接合され、車両幅方向に間隔を置いて配置されており、車両前後方向に沿って延在して設けられている。そして、フロアパネル7の上面の車両幅方向中央部には、図1、図3及び図4に示すように、車両前後方向に沿って延在するフロアトンネル8が設けられており、このフロアトンネル8は、車室R内側に突出する断面ハット型形状に形成されている。
【0019】
本実施形態のダッシュパネル3は、図2〜図5に示すように、ダッシュパネル上部31とダッシュパネル下部32とを有する上下2つの部分から構成されている。また、左右両側のフロントサイドメンバ4の間に位置するダッシュパネル3の車両幅方向中間部分のうち、ダッシュパネル上部31には、車両上方視で車両前方へ向かって突出する円弧の凸形状部分31aが設けられ、ダッシュパネル下部32には、車両上方視で車両後方に向かって突出する円弧の凸形状部分32aが設けられている。すなわち、ダッシュパネル上下部31,32の凸形状部分31a,32aは、互いに逆向きの凸形状となるように配置されている。そして、ダッシュパネル下部32には、フロアトンネル8の前端部が接合されている。
また、これらダッシュパネル上下部31,32の凸形状部分31a,32aは、図3に示すように、左右両側のフロントサイドメンバ4間の距離W1の半分以上の幅W2で形成されている(W1/2<W2)。距離W1の基準線は、フロントサイドメンバ4の軸心Oである。しかも、上部の凸形状部分31aは、中心線Cで示される車体中央部から車両前方に向かって突出して配置され、下部の凸形状部分32aは、中心線Cで示される車体中央部から車両後方に向かって突出して配置されている。
【0020】
さらに、本実施形態のダッシュパネル上部31は、図1、図2及び図5に示すように、ほぼ垂直面であり、ダッシュパネル下部32は、車両後方へ向かって斜め下に延在した傾斜面で設けられている。そして、ダッシュパネル上部31とダッシュパネル下部32との境界線(折れ線)Bの高さ位置Hは、車両前方からの正面視でフロントサイドメンバ4の軸心Oの高さに設定されており(図5参照)、境界線Bの部分は、パネル剛性が高くなっている。
【0021】
一方、本実施形態のダッシュパネル下部32の凸形状部分32aは、図1に示すように、ダッシュパネル3とは別体のパネル部品の周縁部を重ねて接合することによって形成されている。これにより、ダッシュパネル本体の凸形状は、ダッシュパネル上部31の凸形状部分31aのみとなり、ダッシュパネル3の加工成形が容易となる上、板厚の厚いパネル部品を設けることで、重量増大を抑えながら荷重分散効果を高めるように構成されている。
また、ダッシュパネル下部32の凸形状部分32aには、図1〜図5に示すように、凸形状部分32aの剛性を高めるダッシュクロスメンバ9が車両幅方向に沿って水平に延在して設けられている。このため、ダッシュクロスメンバ9は、車両幅方向中間部分が凸形状部分32aの曲面形状と対応した屈曲形状に形成されている。
【0022】
このように、本発明の実施形態に係るダッシュパネル部1の構造では、左右両側のフロントサイドメンバ4の間に位置するダッシュパネル3の車両幅方向中間部分のうち、ダッシュパネル上部31に車両前方へ突出する凸形状部分31aを設けるとともに、ダッシュパネル下部32に車両後方へ突出する凸形状部分32aを設け、これら凸形状部分31a,32aを、左右両側のフロントサイドメンバ4間の距離W1の半分以上の幅W2で形成し、車体中央から突出して配置しており、ダッシュパネル下部32にフロアトンネル8の前端部を接合しているため、互いに逆向きに突出する凸形状部分31a,32aの組み合わせによる協調効果の利用によって、ダッシュパネル3の面剛性を向上させることができるとともに、ダッシュパネル3の振動特性を改善できる。したがって、本実施形態のダッシュパネル部1の構造によれば、エンジンルームE内で発生する振動及び騒音をダッシュパネル3にて確実に遮蔽することができ、車室R内の静粛性を確保できる。
【0023】
また、本実施形態のダッシュパネル部1の構造においては、車両前方から外部荷重が図示しないフロントバンパを介してフロントサイドメンバ4に伝達されると、このフロントサイドメンバ4への荷重が、フロアサイメンバ5及びサイドシル6に伝達されるとともに、ダッシュパネル下部32の車両後方へ突出する凸形状部分32aにより荷重ベクトルとして車体中央部へ向かって伝わり、ダッシュパネル下部32と接合するフロアトンネル8にも伝達されることになるので、フロアサイドメンバ5への荷重負担を軽減でき、車両前方からの外部荷重を効率良く分散でき、従来の構造と比べて荷重分散効果及び振動抑制効果を向上させることができる。
【0024】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 ダッシュパネル部
2 ダッシュサイドパネル
3 ダッシュパネル
4 フロントサイドメンバ
5 フロアサイドメンバ
7 フロアパネル
8 フロアトンネル
9 ダッシュクロスメンバ
31 ダッシュパネル上部
31a 凸形状部分
32 ダッシュパネル下部
32a 凸形状部分
B 境界線
C 中心線
E エンジンルーム
H 境界線の高さ位置
O フロントサイドメンバの軸心
R 車室
W1 フロントサイドメンバ間の距離
W2 凸形状部分の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両幅方向で左右両側のダッシュサイドパネルに挟まれ、左右両端部が前記ダッシュサイドパネルに接合されるダッシュパネルを設け、前記ダッシュパネルに接合され、車両前後方向に沿って延びる左右両側のサイドメンバを設けたダッシュパネル部の構造において、
前記左右両側のサイドメンバの間に位置する前記ダッシュパネルの部分のうち、ダッシュパネル上部には、車両前方へ突出する凸形状部分が設けられ、ダッシュパネル下部には、車両後方へ突出する凸形状部分が設けられており、前記ダッシュパネル上下部の凸形状部分は、前記左右両側のサイドメンバ間の距離の半分以上の幅で形成され、かつ車体中央から突出して配置されており、
前記ダッシュパネル下部には、フロアパネルに設けられたフロアトンネルが接合されていることを特徴とするダッシュパネル部の構造。
【請求項2】
前記サイドメンバは、車両前方側に配置されるフロントサイドメンバと、該フロントサイドメンバの車両後方側に配置されるフロアサイドメンバとから構成され、前記ダッシュパネル上部は、ほぼ垂直面であり、前記ダッシュパネル下部は、車両後方へ向かって斜め下に延在しており、前記ダッシュパネル上部と前記ダッシュパネル下部との境界線の高さ位置は、正面視で前記フロントサイドメンバの高さに設定されていることを特徴とする請求項1に記載のダッシュパネル部の構造。
【請求項3】
前記ダッシュパネル下部の凸形状部分は、前記ダッシュパネルと別体のパネル部品を接合することによって形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のダッシュパネル部の構造。
【請求項4】
前記ダッシュパネル下部の凸形状部分には、ダッシュクロスメンバが車両幅方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のダッシュパネル部の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−103527(P2013−103527A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246691(P2011−246691)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】