説明

ダニアレルゲン不活性化剤及びダニアレルゲン不活性化材

【課題】安全性の高い天然物から、ダニアレルゲンを不活性化する物質を見出し、それを利用したダニアレルゲン不活性化剤及びダニアレルゲン不活性化材を提供する。
【解決手段】ダニアレルゲン不活性化剤に、紫米の玄米からの抽出物を含有せしめる。また、ダニアレルゲン不活性化材は、担体と、担体に保持された紫米の玄米からの抽出物とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン不活性化剤及びアレルゲン不活性化材に関し、特にI型アレルギー性疾患を引き起こすアレルゲンを不活性化可能な花粉アレルゲン不活性化剤、ダニアレルゲン不活性化剤、花粉アレルゲン不活性化材及びダニアレルゲン不活性化材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変遷に伴い、アレルギー症状を引き起こす原因物質であるアレルゲンが四季を問わず存在するようになっている。特に、スギ花粉やヒノキ花粉を代表とする花粉による春先の花粉症患者は年々増加の一途を辿り、国民の10%にも及んでおり、それらのうちの大多数はスギ花粉に対してI型アレルギー反応を示している。
【0003】
花粉症の対策は、花粉との接触を避けることを基本としており、マスクや眼鏡等を使用することにより花粉との接触を避ける方法が主流となっているが、花粉との接触を完全に避けるのは困難である。したがって、花粉アレルゲンを根本的に排除し得る技術が求められている。
【0004】
花粉アレルゲンを根本的に排除し得る技術として、従来、花粉アレルゲンを不活性化する技術が種々提案されている。例えば、花粉アレルゲン不活性化用スプレー(特許文献1参照)、花粉アレルゲンを吸着し不活性化するフィルター(特許文献2参照)、熱、アルカリ、酸又はプロテアーゼの存在下に花粉アレルゲンを維持することにより花粉アレルゲンを不活性化する方法(特許文献3,4参照)、柿抽出物を含むハウスダスト処理剤(特許文献5参照)等が提案されている。
【0005】
また、近年、室内環境の快適化と引き換えにダニ類の繁殖が助長されており、屋内でのダニ類の繁殖に伴い、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)等のチリダニ科ヒョウヒダニ属に属するダニをアレルゲンとするアレルギー性疾患が問題となっている。これらのダニは、アレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患の一因と考えられている。
【0006】
ダニをアレルゲンとするアレルギー性疾患の対策としては、アレルゲンであるダニを駆除して、ダニを生活環境中から排除することが考えられる。しかしながら、ダニを駆除したとしても、ダニの死骸、ダニの糞からも強力なアレルゲン物質が生活環境中に放出されるため、ダニアレルゲンを根本的に排除することができず、ダニによるアレルギー性疾患を解決することは困難である。したがって、ダニアレルゲン(ダニ、ダニの死骸及び糞等)を根本的に排除する技術が求められている。従来、ダニアレルゲンを根本的に排除する技術として、ローズマリー抽出物を含浸させた多孔性吸着剤を屋内に散布し、数時間経過後に電気掃除機により吸引する技術(特許文献6参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−128659号公報
【特許文献2】特開2000−5531号公報
【特許文献3】特開2003−180865号公報
【特許文献4】特開2004−89673号公報
【特許文献5】特開2002−128680号公報
【特許文献6】特開平6−256128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性の高い天然物から、花粉アレルゲン又はダニアレルゲンを不活性化する物質を見出し、それを利用した花粉アレルゲン不活性化剤、ダニアレルゲン不活性化剤、花粉アレルゲン不活性化材及びダニアレルゲン不活性化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、第1に本発明は、スターフルーツの葉部からの抽出物を有効成分として含有する花粉アレルゲン不活性化剤を提供する。
第2に本発明は、スターフルーツの葉部及び/又は紫米の玄米からの抽出物を有効成分として含有するダニアレルゲン不活性化剤を提供する。
【0010】
第3に本発明は、担体と、前記担体に保持されたスターフルーツの葉部からの抽出物とを含む花粉アレルゲン不活性化材を提供する。
第4に本発明は、担体と、前記担体に保持されたスターフルーツの葉部及び/又は紫米の玄米からの抽出物とを含むダニアレルゲン不活性化材を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の花粉アレルゲン不活性化剤及び花粉アレルゲン不活性化材は、花粉アレルゲンを不活性化することができ、これにより、花粉アレルゲンにより引き起こされる花粉症を予防、治療又は改善することができる。また、本発明のダニアレルゲン不活性化剤及びダニアレルゲン不活性化材は、ダニアレルゲンを不活性化することができ、これにより、ダニアレルゲンにより引き起こされるアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患を予防、治療又は改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
〔花粉アレルゲン不活性化剤,ダニアレルゲン不活性化剤〕
本発明の花粉アレルゲン不活性化剤は、スターフルーツの葉部からの抽出物を有効成分として含有する。また、本発明のダニアレルゲン不活性化剤は、スターフルーツの葉部及び/又は紫米の玄米からの抽出物を有効成分として含有する。
【0013】
本発明において「抽出物」には、スターフルーツの葉部又は紫米の玄米を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0014】
本発明において使用する抽出原料である植物は、スターフルーツ(学名:Averrhoa carambola L.)又は紫米である。
ここで、「紫米」とは、糠層(搗精する際に糠となって剥落する部分)に色素(例えば、アントシアニン系の紫色の色素等)を有する有色素米の一種である。
【0015】
スターフルーツ(Averrhoa carambola L.)は、カタバミ科に属し、新鮮な果実は食用にされる。スターフルーツは、中国では紀元前から文献に記載され、その果実は断面が星形である。スターフルーツは、沖縄、中国東南部や雲南その他熱帯各地で栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出部位として使用する部位は、葉部である。ここで「葉部」には、完全葉の他、葉の一部(例えば、葉身、葉柄、托葉、葉鞘等)も含まれる。
【0016】
紫米は、古代米、黒米等とも呼ばれ、古来より日本、中国で栽培され食用されており、これらの地域から容易に入手することができる。紫米としては、中国広東産の華南紫、秋田産の赤紫等を例示することができる。抽出原料として使用する紫米は、籾殻が取り除かれた状態の玄米である。
【0017】
スターフルーツの葉部からの抽出物に含まれる花粉アレルゲン不活性化作用を有する物質、スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物に含まれるダニアレルゲン不活性化作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、これらの植物から花粉アレルゲン不活性化作用又はダニアレルゲン不活性化作用を有する抽出物を得ることができる。
【0018】
例えば、抽出原料である植物を乾燥した後、そのまま又は粉砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより、花粉アレルゲン不活性化作用又はダニアレルゲン不活性化作用を有する抽出物を得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0019】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0020】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0021】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0022】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90質量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40質量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して多価アルコール1〜90質量部を混合することが好ましい。
【0023】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0024】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。得られた抽出液はそのままでも花粉アレルゲン不活性化剤又はダニアレルゲン不活性化剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0025】
以上のようにして得られるスターフルーツの葉部からの抽出物は、花粉アレルゲン不活性化作用及びダニアレルゲン不活性化作用を有しているため、それらの作用を利用して花粉アレルゲン不活性化剤及びダニアレルゲン不活性化剤の有効成分として用いることができる。また、紫米の玄米からの抽出物は、ダニアレルゲン不活性化作用を有しているため、その作用を利用してダニアレルゲン不活性化剤の有効成分として用いることができる。
【0026】
本発明の花粉アレルゲン不活性化剤は、スターフルーツの葉部からの抽出物のみからなるものであってもよいし、スターフルーツの葉部からの抽出物を製剤化したものであってもよい。また、本発明のダニアレルゲン不活性化剤は、スターフルーツの葉部からの抽出物及び/又は紫米の玄米からの抽出物からなるものであってもよいし、スターフルーツの葉部からの抽出物及び/又は紫米の玄米からの抽出物を製剤化したものであってもよい。
【0027】
スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物は、他の組成物に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、点眼剤、点鼻剤等として使用することもできる。
【0028】
本発明のダニアレルゲン不活性化剤は、スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物を有効成分として含有していてもよいし、これらを組み合わせて有効成分として含有していてもよい。これらの抽出物を組み合わせて有効成分として含有する場合には、その含有比は特に限定されるものではなく、これらの抽出物の生理活性の強さ等に応じて適宜調整することができる。
【0029】
本発明の花粉アレルゲン不活性化剤は、スターフルーツの葉部からの抽出物が有する花粉アレルゲン不活性化作用を通じて、I型アレルギー性疾患を引き起こす花粉アレルゲンを不活性化し、花粉アレルゲンにより引き起こされる花粉症を予防、治療又は改善することができる。また、本発明のダニアレルゲン不活性化剤は、スターフルーツの葉部からの抽出物及び/又は紫米の玄米からの抽出物が有するダニアレルゲン不活性化作用を通じて、I型アレルギー性疾患を引き起こすダニアレルゲンを不活性化し、ダニアレルゲンにより引き起こされるアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患を予防、治療又は改善することができる。
【0030】
花粉アレルゲンは、I型アレルギー性疾患を引き起こす作用を有する花粉であれば特に限定されるものではなく、例えば、スギ花粉、ヒノキ花粉、ブタクサ花粉、カモガヤ花粉等が挙げられ、本発明の花粉アレルゲン不活性化剤は、特にスギ花粉に対して有効である。また、ダニアレルゲンは、I型アレルギー性疾患を引き起こす作用を有するダニ等であれば特に限定されるものではなく、例えば、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)等のチリダニ科ヒョウヒダニ属に属するダニ、これらのダニの糞及び死骸等が挙げられる。
【0031】
花粉アレルゲン不活性化とは、花粉アレルゲンからアレルギー症状を引き起こす作用を失わせることを意味する。また、ダニアレルゲン不活性化とは、ダニアレルゲンからアレルギー症状を引き起こす作用を失わせることを意味する。本発明の花粉アレルゲン不活性化剤の適用対象としては、例えば、花粉アレルゲンによりアレルギー症状を引き起こす花粉症であり、また本発明のダニアレルゲン不活性化剤の適用対象としては、例えば、ダニアレルゲンによりアレルギー症状を引き起こすI型アレルギー性疾患等であり、当該アレルギー症状としては、例えば、鼻炎、くしゃみ、喘息、結膜炎等が挙げられる。
【0032】
なお、本発明の花粉アレルゲン不活性化剤及びダニアレルゲン不活性化剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それらの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【0033】
〔花粉アレルゲン不活性化材,ダニアレルゲン不活性化材〕
本発明の花粉アレルゲン不活性化材は、担体と、担体に保持されたスターフルーツの葉部からの抽出物とを含む。また、本発明のダニアレルゲン不活性化材は、担体と、担体に保持されたスターフルーツの葉部及び/又は紫米の玄米からの抽出物とを含む。なお、本発明の花粉アレルゲン不活性化材において、スターフルーツの葉部からの抽出物を製剤化した花粉アレルゲン不活性化剤が担体に保持されていてもよく、また、本発明のダニアレルゲン不活性化材において、スターフルーツの葉部及び/又は紫米の玄米からの抽出物を製剤化したダニアレルゲン不活性化剤が担体に保持されていてもよい。
【0034】
担体に保持されるスターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物としては、前述した花粉アレルゲン不活性化剤又はダニアレルゲン不活性化剤に有効成分として含有されるスターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物と同一のものを用いればよい。
【0035】
担体は、表面にスターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物を保持し得るものであれば特に限定されることはなく、多孔質体であってもよいし、非多孔質体であってもよいが、より多量のスターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物を保持することのできる表面積の大きい多孔質体であることが好ましい。多孔質体としては、例えば、編物、織物、不織布、紙等の繊維集合体、ウレタンフォーム等の多孔性樹脂成形体、活性炭、多孔質セラミックス材等が挙げられる。非多孔質体としては、例えば、非多孔性の樹脂成形体、金属材、セラミックス材、石材等が挙げられる。また、担体の形状は、特に限定されることなく、例えば、シート状であってもよいし、粒状であってもよい。さらには、エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、換気装置用フィルター等のフィルター類、マスク、被服、家具、壁(壁材)、壁紙、ポスター、シール等を担体とすることもできる。
【0036】
スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物は、これらの抽出物と空気中に飛散している花粉アレルゲン又はダニアレルゲンとが接触し得るように、担体の表面に保持されていればよく、これらの抽出物を担体に保持させる方法は、特に限定されない。ここで、担体の表面とは、担体と花粉アレルゲン又はダニアレルゲンとが接触し得る担体の部位を意味し、担体の表面は、担体の外表面に限られず、担体の内部に存在する部位であって花粉アレルゲン又はダニアレルゲンと接触し得る部位をも含む。
【0037】
スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物を担体に保持させる方法としては、例えば、(1)スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物水溶液等を担体に含浸させた後、担体を乾燥させる方法、(2)担体の表面にスターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物が表れるように、担体の製造過程で担体の材料にスターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物を配合する方法、(3)担体の表面にスターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物水溶液等を噴霧する方法、(4)担体の表面にバインダー等を介してスターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物をコーティングする方法等が挙げられる。
【0038】
スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物水溶液等を担体に含浸させる場合、その含浸時間は、スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物を担体に保持させることができる限り特に限定されるものではなく、通常0.1〜3時間、好ましくは0.5〜2時間である。
【0039】
担体に保持されるスターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物の量は、スターフルーツの葉部からの抽出物又は紫米の玄米からの抽出物と花粉アレルゲン又はダニアレルゲンとが接触し、花粉アレルゲン又はダニアレルゲンを不活性化させることができる量であれば特に限定されるものではないが、通常0.01〜10g/m、好ましくは0.1〜5g/mである。
【0040】
以上説明した花粉アレルゲン不活性化材又はダニアレルゲン不活性化材は、例えば、エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、換気装置用フィルター等のフィルター類、マスク、被服等として用いることができる。花粉アレルゲン不活性化材又はダニアレルゲン不活性化材をフィルター類として用いれば、花粉アレルゲン又はダニアレルゲンがアレルギー活性を持ったまま再飛散するのを防止することができる。また、花粉アレルゲン不活性化材又はダニアレルゲン不活性化材をマスクとして用いれば、マスクを通過する微細な花粉アレルゲン又はダニアレルゲンを不活性化することができる。さらに、花粉アレルゲン不活性化材又はダニアレルゲン不活性化材を被服として用いれば、被服に付着した花粉アレルゲン又はダニアレルゲンがアレルギー活性を持ったまま室内等に侵入するのを防止することができる。
【0041】
本発明の花粉アレルゲン不活性化材は、空気中に保持されると、空気中に飛散する花粉アレルゲンと担体に保持されたスターフルーツの葉部からの抽出物とが接触し、スターフルーツの葉部からの抽出物が有する花粉アレルゲン不活性化作用により、花粉アレルゲンを不活性化することができる。また、本発明のダニアレルゲン不活性化材は、空気中に保持されると、空気中に飛散するダニアレルゲンと担体に保持されたスターフルーツの葉部からの抽出物及び/又は紫米の玄米からの抽出物とが接触し、スターフルーツの葉部からの抽出物及び/又は紫米の玄米からの抽出物が有するダニアレルゲン不活性化作用により、ダニアレルゲンを不活性化することができる。したがって、本発明の花粉アレルゲン不活性化材によれば、花粉アレルゲンにより引き起こされるI型アレルギー性疾患である花粉症を予防、治療又は改善することができ、本発明のダニアレルゲン不活性化材によれば、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)等のチリダニ科ヒョウヒダニ属に属するダニ、これらのダニの糞及び死骸等のダニアレルゲンにより引き起こされるアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患を予防、治療又は改善することができる。
【実施例】
【0042】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各試験例に何ら制限されるものではない。なお、本試験例においては、スターフルーツの葉部からの抽出物としてはスターフルーツ葉エキスパウダーMF(試料1,丸善製薬社製)を使用し、紫米の玄米からの抽出物としては紫玄米乾燥エキスF(試料2,丸善製薬社製)を使用した。
【0043】
〔試験例1〕スギ花粉アレルゲン不活性化試験
(1)スギ花粉アレルゲン不活性化反応
1%DMSOを含むPBS溶液に、試料1を表1に示す濃度でそれぞれ溶解し、各試料溶液を調製した。各試料溶液をそれぞれ100μLずつ96穴マイクロプレートに添加し、0.1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液にスギ花粉アレルゲン(製品名:精製スギ花粉抗原Cry j 1,生化学工業社製)を溶解した2ng/mLのスギ花粉アレルゲン溶液を1穴あたり100μLずつ添加し、室温で2時間振とうした。また、対照として、試料を添加していない1%DMSOを含むPBS溶液にスギ花粉アレルゲン溶液を添加した溶液についても同様に振とうした。
【0044】
振とう後、マイクロプレートの各穴からスギ花粉アレルゲン溶液を100μLずつ採取し、当該溶液中に存在するスギ花粉アレルゲン濃度(ng/mL)を下記に示すサンドイッチELISA法により測定した。
【0045】
(2)スギ花粉アレルゲン濃度の定量(サンドイッチELISA法)
10μg/mLのコーティング溶液(製品名:抗Cry j 1モノクローナル抗体013,生化学工業社製)100μLをELISAプレートの各穴に添加し、室温で2時間静置した。その後、コーティング溶液を除去し、0.1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液を250μL添加し、4℃で一晩静置した。その後、0.1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液を除去し、2時間振とうさせた上記スギ花粉アレルゲン溶液100μLを添加して、室温で2時間振とうした。
【0046】
また、スタンダードとして、スギ花粉アレルゲン(製品名:精製スギ花粉抗原Cry j 1,生化学工業社製)を0.1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液に溶解し、4ng/mL、2ng/mL、1ng/mL、0.5ng/mL、0.25ng/mLの検量線用標準溶液を調製した。各濃度の検量線用標準溶液100μLをELISAプレートに添加して、室温で2時間振とうした。振とう後、ELISAプレートを、0.05%ツイーン20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄後、1000倍に希釈したスギ花粉アレルゲンモノクローナル抗体(製品名:西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗Cry j 1モノクローナル抗体053,生化学工業社製)を100μL添加して、室温で2時間振とうした。そして、ELISAプレートを、0.05%ツイーン20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄後、0.3mg/mLのABTS溶液120μLを添加して室温で発色させ、10〜20分間反応させた後にミキシングし、マイクロプレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。
【0047】
検量線用標準溶液の吸光度から得られる検量線を用いて、試料添加スギ花粉アレルゲン溶液中のスギ花粉アレルゲン濃度及び試料無添加スギ花粉アレルゲン溶液中のスギ花粉アレルゲン濃度を定量した。当該定量結果を用いて、下記の式に基づき、スギ花粉アレルゲン不活性化率(%)を算出した。
スギ花粉アレルゲン不活性化率(%)=(B−A)/B×100
ただし、式中、Aは「試料添加スギ花粉アレルゲン溶液中のスギ花粉アレルゲン濃度(ng/mL)」を表し、Bは「試料無添加スギ花粉アレルゲン溶液中のスギ花粉アレルゲン濃度(ng/mL)」を表す。
上記試験の結果を表1に示す。
【0048】
[表1]スギ花粉アレルゲン不活性化率(%)
試料濃度(質量%) 不活性化率(%)
1.0 99.5
2.5 100.0
【0049】
表1に示すように、スターフルーツの葉部からの抽出物は、優れたスギ花粉アレルゲン不活性化作用を有することが確認された。
【0050】
〔試験例2〕ダニアレルゲン不活性化試験
2000ng/mLのコーティング溶液(製品名:抗Der fIIモノクローナル抗体15E11,生化学工業社製)50μLをELISAプレートの各穴に添加し、4℃で一晩静置した。ELISAプレートを、0.05%ツイーン20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄した後、1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液200μLを添加して室温で1時間静置し、ブロッキングした。ブロッキング終了後、0.05%ツイーン20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄し、下記に示すようにダニアレルゲン不活性化反応を行った。
【0051】
(1)ダニアレルゲン不活性化反応
1%DMSOを含むPBS溶液に、試料1,2をそれぞれ表2に示す濃度になるように溶解し、各試料溶液を調製した。ブロッキングが終了し、洗浄した後のELISAプレートに各試料溶液を1穴あたり25μLずつ添加し、PBS溶液にダニアレルゲン(製品名:精製ダニ抗原Der fII,生化学工業社製)を溶解した200ng/mLのダニアレルゲン溶液を1穴あたり25μLずつ添加し、室温で2時間振とうした。また、対照として、ELISAプレートにPBS溶液を添加後、ダニアレルゲン溶液を添加して、同様に振とうした。
【0052】
また、スタンダードとしてダニアレルゲンをPBS溶液に溶解し、300ng/mL、150ng/mL、75ng/mL、37.5ng/mL、18.8ng/mL、9.4ng/mLの検量線用標準溶液を調製した。各濃度の検量線用標準溶液50μLをELISAプレートに添加して、同様に室温で2時間振とうした。
【0053】
(2)ダニアレルゲン濃度の定量(サンドイッチELISA法)
振とう後、0.05%ツイーン20を含むPBS溶液300μLでELISAプレートを3度洗浄した後、2000倍に希釈したダニアレルゲンモノクローナル抗体(製品名:西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗Der fIIモノクローナル抗体13A4PO,生化学工業社製)を50μL添加して、室温で2時間振とうした。そして、ELISAプレートを、0.05%ツイーン20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄した後、0.3mg/mLのABTS溶液100μLを添加して室温で発色させ、10〜20分反応後にミキシングさせ、マイクロプレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。
【0054】
検量線用標準溶液の吸光度から得られる検量線を用いて、試料添加ダニアレルゲン溶液中のダニアレルゲン濃度及び試料無添加ダニアレルゲン溶液中のダニアレルゲン濃度を定量した。当該定量結果を用いて、下記の式に基づき、ダニアレルゲン不活性化率(%)を算出した。
ダニアレルゲン不活性化率(%)=(B−A)/B×100
式中、Aは「試料添加ダニアレルゲン溶液中のダニアレルゲン濃度(ng/mL)」を表し、Bは「試料無添加ダニアレルゲン溶液中のダニアレルゲン濃度(ng/mL)」を表す。
上記試験の結果を表2に示す。
【0055】
[表2]ダニアレルゲン不活性化率(%)
試 料 試料濃度(質量%) 不活性化率(%)
試料1 0.25 72.2
1.0 94.7
2.5 98.2
試料2 0.25 47.0
1.0 53.8
2.5 42.5
【0056】
表2に示すように、スターフルーツの葉部からの抽出物及び紫米の玄米からの抽出物は、優れたダニアレルゲン不活性化作用を有することが確認された。特に、スターフルーツの葉部からの抽出物は、優れたダニアレルゲン不活性化作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の花粉アレルゲン不活性化剤及び花粉アレルゲン不活性化材は、花粉アレルゲンによる花粉症の予防、治療又は改善に有用であり、本発明のダニアレルゲン不活性化剤及びダニアレルゲン不活性化材は、ダニ、ダニの死骸及び糞等のダニアレルゲンによるアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患の予防、治療又は改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫米の玄米からの抽出物を有効成分として含有するダニアレルゲン不活性化剤。
【請求項2】
担体と、
前記担体に保持された紫米の玄米からの抽出物と
を含むダニアレルゲン不活性化材。

【公開番号】特開2011−116999(P2011−116999A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48373(P2011−48373)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【分割の表示】特願2006−160762(P2006−160762)の分割
【原出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)