説明

ダブルオーバーチューブ

【課題】ESDにおいて手技を行いやすくする。
【解決手段】ダブルオーバーチューブは,先端部に膨張収縮可能なバルーン11が設けられ,内部に内視鏡挿入部30が挿入される可撓性インナーオーバーチューブ10と,先端部に膨張収縮可能なバルーン21が設けられ,内部に上記インナーオーバーチューブ10が挿入される可撓性アウターオーバーチューブ20を備える。インナーオーバーチューブ10の上記バルーン11が設けられている箇所よりも末端側に,上記内視鏡挿入部30の先端部が通過可能な内視鏡通過窓13が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,内視鏡とともに用いられるオーバーチューブに関し,特に2つのオーバーチューブを備えるダブルオーバーチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡を用いたESD(Endoscopic Submucosal Dissection:内視鏡的粘膜下層剥離術)では,内視鏡によって撮像される術野の画像を表示画面上で確認しながら,内視鏡に形成されている処置具チャネルを通して内視鏡先端から外部に送り出される処置具を用いて病片に対する処置を行う。病片の位置によっては病片に対して垂直に内視鏡先端をアプローチさせる方が手技を進めやすい場合もあるし,水平にアプローチさせる方が手技を進めやすい場合もあり,内視鏡先端を思うように誘導するのは簡単ではない。また,病片と内視鏡先端との間の適正な距離を確保することで視野を良好な状態に保ちながら手技を進める必要がある。また,処置具としてメス(ナイフ)を用いて病片を切開する場合,メスの移動とともに切開すべき組織も一緒に移動してしまい病片の切開がうまくできないことがある。内視鏡先端部の向きを操作したり,患者の体位を変えること等によってメスの移動方向と逆方向にトラクションがかかるようにしているのが現状である。
【0003】
特許文献1には内視鏡の挿入部に設けられたバルーンを膨張させて内視鏡挿入部と心臓表面を離間させるものが記載されている。特許文献2にはプローブ先端部に先端バルーンを,基端側に移動可能な基端バルーンをそれぞれ設け,先端バルーンおよび基端プローブによってOCTプローブの光開口部と体腔組織表面とを安定した位置関係とするものが記載されている。しかしながら,病片に対する手技の進めやすさについて考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−284503号公報
【特許文献2】特開2010−125274号公報
【発明の概要】
【0005】
この発明はESDにおいて病片に対する手技を進めやすくすることを目的とする。
【0006】
この発明によるダブルオーバーチューブは,先端部の外面に膨張収縮可能なバルーンが設けられ,内部に内視鏡挿入部が挿入される円筒状インナーオーバーチューブと,先端部の外面に膨張収縮可能なバルーンが設けられ,内部に上記インナーオーバーチューブが挿入される円筒状アウターオーバーチューブを備え,上記インナーオーバーチューブの上記バルーンが設けられている箇所よりも末端側に,上記内視鏡挿入部の先端部が通過可能な大きさの内視鏡通過窓が形成されていることを特徴とする。
【0007】
インナーオーバーチューブ内に内視鏡挿入部が挿入され,アウターオーバーチューブ内に上記インナーオーバーチューブが挿入される。上記内視鏡挿入部はインナーオーバーチューブおよびアウターオーバーチューブで二重に覆われて病片部位まで挿入される。このときインナーオーバーチューブの先端部およびアウターオーバーチューブの先端部にそれぞれ設けられているバルーンはいずれも収縮されている。病片部位の手前(挿入側)でインナーオーバーチューブ,アウターオーバーチューブおよび内視鏡挿入部の挿入を止め,アウターオーバーチューブの先端のバルーンを膨らませる。バルーンが管腔内壁(たとえば大腸の腸壁)に押しつけられ,これによりアウターオーバーチューブが管腔内に固定される。次にインナーオーバーチューブをさらに挿入してインナーオーバーチューブの先端を病片部位の奥にまで至らせ,そこでインナーオーバーチューブの先端のバルーンを膨らませる。インナーオーバーチューブが管腔内に固定され,これによりインナーオーバーチューブの先端のバルーンと,アウターオーバーチューブの先端のバルーンとによって病片部位が挟み込まれる。2つのバルーンを膨張させた状態でインナーオーバーチューブをさらにわずかに押し込むまたはアウターオーバーチューブをわずかに引っ張ると,2つのバルーンによって挟まれている部分の管腔の表面組織に引張力を与えることができる。病片部位を含む表面組織をメス,ナイフ等によって切除しやすくすることができる。
【0008】
上述のようにしてアウターオーバーチューブを固定した状態でインナーオーバーチューブのみを体内に挿入すると,インナーオーバーチューブの上記バルーンが設けられている箇所よりも末端側に形成されている内視鏡通過窓が,アウターオーバーチューブの外に出る。この内視鏡通過窓を通じて,内視鏡先端部(さらに内視鏡先端部から突出する内視鏡処置具)を,インナーオーバーチューブの外に出すことができる。内視鏡処置具を用いて病片部位に対する処置(切除等)を行うことができる。
【0009】
一実施態様では,上記インナーオーバーチューブに設けられたバルーンは上記インナーオーバーチューブの先端部の全周にわたって設けられており,上記アウターオーバーチューブに設けられたバルーンも上記アウターオーバーチューブの先端部の全周にわたって設けられている。2つのバルーンによって,インナーオーバーチューブの先端部分およびアウターオーバーチューブの先端部分をその全周にわたって体内表面組織から離すことができる。
【0010】
好ましくは,上記インナーオーバーチューブに設けられているバルーンおよび上記アウターオーバーチューブに設けられているバルーンは,上記インナーチューブに形成されている内視鏡通過窓と同一側が膨らみやすいものである。内視鏡通過窓と体内表面組織との間の間隔が広くなるので,病片に対する水平方向ないし垂直方向からのアプローチを行いやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ダブルオーバーチューブおよび内視鏡挿入部を示す斜視図である。
【図2】ESDの実施過程を示すもので,ダブルオーバーチューブの挿入の様子を示している。
【図3】ESDの実施過程を示すもので,ダブルオーバーチューブの挿入の様子を示している。
【図4】ESDの実施過程を示すもので,ダブルオーバーチューブの挿入の様子を示している。
【図5】ダブルオーバーチューブとバルーンとの位置関係を示す横断面図である。
【実施例】
【0012】
図1は内視鏡キットを示す斜視図である。この実施例の内視鏡キットは,内視鏡とダブルオーバーチューブとから構成される。ダブルオーバーチューブは,円筒状のインナーオーバーチューブ(以下,インナーチューブという)10と,円筒状のアウターオーバーチューブ(アウターチューブという)20とを含む。図1には,内視鏡の挿入部30,インナーチューブ10の先端部分,およびアウターチューブ20の先端部分が示されている。
【0013】
内視鏡挿入部30はその全体にわたって細長く延びる外観を持ち,そのほぼ全体が可撓性を有している。また,内視鏡挿入部30の末端部分は内視鏡操作部(図示略)に連続している。内視鏡操作部に設けられているアングル・ノブを用いて,内視鏡挿入部30の先端部付近は上下左右に湾曲操作することができる。
【0014】
内視鏡挿入部30の先端面には,処置具チャネル31の開口(出口),撮像光学系の観察窓32,および上記観察窓32の両側にそれぞれ設けられた光照射口33L,33Rが設けられている。処置具チャネル31は,内視鏡挿入部30の全体にわたってその内部に形成されており,内視鏡操作部の処置具挿入口(図示略)にまで延びている。処置具挿入口から挿入された処置具は,処置具チャネル31内を通って内視鏡挿入部30の先端に至る。観察窓32の内側(内視鏡挿入部の先端部分の内部)に撮像素子を含む撮像装置(図示略)が設けられている。撮像装置は内視鏡挿入部30の全体にわたって延びる信号ケーブル(図示略)に接続されており,観察窓32を通して撮像装置によって撮像される画像データが信号ケーブルを通して画像処理装置(図示略)に与えられて撮像される画像が表示される。光照射口33L,33Rの内側には,内視鏡挿入部30の全体にわたって延びる光ファイバ(図示略)の先端が位置しており,光ファイバを通して伝達される光が光照射口33L,33Rから出射される。
【0015】
インナーチューブ10およびアウターチューブ20はいずれも円筒状で,ポリウレタン等の可撓性を有する材料によりつくられている。インナーチューブ10の内周面によって構成される挿通管路14の径(インナーチューブ10の内径)は内視鏡挿入部30の断面径よりもわずかに大きく,インナーチューブ10の挿通管路14内に内視鏡挿入部30を進退可能に通すことができる。アウターチューブ20の内周面によって構成される挿通管路24の径(アウターチューブ20の内径)はインナーチューブ10の外径よりもわずかに大きく,アウターチューブ20の挿通管路24にはインナーチューブ10を進退可能に通すことができる。
【0016】
インナーチューブ10の先端部の外周面およびアウターチューブ20の先端部の外周面には,空気を入れることにより膨張し,空気を抜くことにより収縮する,たとえば天然ゴム製のバルーン11,21が,インナーチューブ10,アウターチューブ20の全周にわたってそれぞれ設けられている(固定されている)。インナーチューブ10の先端部の外周面およびアウターチューブ20の先端部の外周面には空気孔12,22がそれぞれあけられており,これらの空気孔12,22は,インナーチューブ10およびアウターチューブ20の外周面に近い位置においてそれらの長手方向に形成されている送気管(図示略)に連続している。送気管を通じて空気を入れる,または送気管を通じて空気を抜くことによって,インナーチューブ10の先端部およびアウターチューブ20の先端部のバルーン11,21を,それぞれ独立して膨張させることができ,かつ収縮させることができる。図1には2つのバルーン11,21のいずれもを膨張させた状態が示されている。
【0017】
インナーチューブ10のバルーン11が設けられている先端部よりも末端側に,内視鏡通過窓13があけられている。後述するように,インナーチューブ10内に挿入された内視鏡挿入部30の先端部分を,インナーチューブ10に形成された内視鏡通過窓13を通して,インナーチューブ10の外に出すことができる。
【0018】
内視鏡挿入部30はその先端部分からインナーチューブ10の挿通管路14内に挿入される。内視鏡挿入部30が挿入されたインナーチューブ10がその先端部分からアウターチューブ20の挿通管路24内に挿入される。内視鏡挿入部30は,インナーチューブ10およびアウターチューブ20によって二重に覆われた状態で,患者の口腔または鼻腔から挿入され,喉頭,咽頭,食道を通して十二指腸などに送り込まれる。患者の肛門から挿入して大腸内に送り込むこともできる。いずれにしても内視鏡挿入部30はインナーチューブ10およびアウターチューブ20によって覆われて患者の体内に送り込まれる。
【0019】
図2から図4は病片Kに対するESD(Endoscopic Submucosal Dissection:内視鏡的粘膜下層剥離術)の実施過程を示している。
【0020】
内視鏡挿入部30の末端部分とインナーチューブ10の末端部分とが内視鏡操作部側(体外)で固定され,さらにインナーチューブ10の末端部分とアウターチューブ20の末端部分も内視鏡操作部側で固定される。インナーチューブ10,アウターチューブ20および内視鏡挿入部30は一体となって体内に送り込まれる。インナーチューブ10,アウターチューブ20および内視鏡挿入部30を体内に挿入しているとき,内視鏡挿入部30の先端に設けられている撮像装置によって体内が撮像され,体内画像が上述した画像処理装置に接続された表示装置に表示される。術者またはその補助者は表示装置に表示される体内画像を確認しながら,インナーチューブ10,アウターチューブ20および内視鏡挿入部30を病片K付近まで送り込む。このとき,インナーチューブ10およびアウターチューブ20のバルーン11,21はいずれも収縮状態である。
【0021】
病片Kが確認されると,インナーチューブ10,アウターチューブ20および内視鏡挿入部30の挿入が止められ,内視鏡操作部側でインナーチューブ10の末端部分とアウターチューブ20の末端部分の固定,およびインナーチューブ10の末端部分と内視鏡挿入部30の末端部分の固定が外される。そしてアウターチューブ20の先端部に設けられているバルーン21に空気が送られてバルーン21が膨らまされる。バルーン21が管腔(たとえば腸内壁)に押しつけられ,これによりアウターチューブ20の先端部分が管腔内に固定される。アウターチューブ20の先端および内視鏡挿入部30の先端は病片Kの手前側(内視鏡挿入側)に位置させる。その後,インナーチューブ10のみがさらに病片Kの奥にまで挿入される(図2)。
【0022】
インナーチューブ10を病片Kの奥にまで挿入し,インナーチューブ10の周面にあけられた内視鏡通過窓13を病片K上に位置させる。インナーチューブ10の先端に設けられたバルーン11に空気が送られ,バルーン11が膨らませられる。バルーン11が管腔に押しつけられ,これによりインナーチューブ10の先端部分が管腔内に固定される(図3)。
【0023】
2つのバルーン11,21によって病片Kを挟んだ状態で,インナーチューブ10をわずかに押し込む,またはアウターチューブ20をわずかに引っ張る。すると,バルーン11,21によって挟まれた範囲の管腔内の体内組織表面(たとえば腸管)が伸ばされ(引っ張られ),その範囲の組織表面に適度に引張力がかかる。
【0024】
次に,内視鏡挿入部30を操作して,インナーチューブ10にあけられている内視鏡通過窓13から内視鏡挿入部30の先端部を突出させる。さらに処置具チャネル31(図1参照)を通して内視鏡挿入部30の先端から処置具(たとえば高周波メス,ナイフ等)35を突出させる。処置具35によって病片Kの切除等が行われる。上述したように,病片Kを含む組織表面には引張力がかかっているので,メス等の移動とともに組織表面が移動してしまうことが抑制され,ナイフ等を用いて組織を切開することで自然に切り口を割くことができる(図4)。
【0025】
図5は管腔内に挿入されているインナーチューブ10およびアウターチューブ20の断面図である。図5において内視鏡挿入部30の図示は省略されている。
【0026】
2つのバルーン11,21は,インナーチューブ10およびアウターチューブ20の外側周囲において径方向に均等に(等距離で)膨張するものであってもよいし,図5に示すように,インナーチューブ10にあけられている内視鏡通過窓13と同一側(図5における下側)がより膨らみやすいものであってもよい。たとえば,バルーン11,21の内視鏡通過窓13と同一側の範囲の肉厚を,それ以外の範囲の肉厚よりも薄く形成しておく。これにより,バルーン11,21は内視鏡通過窓13側に大きく膨らむことになる。インナーチューブ10にあけられている内視鏡通過窓13と体内組織表面(病片K)との間の間隔が広くなるので,処置具35によって病片Kをたとえば垂直方向からアプローチしやすくすることができる(図4参照)。
【符号の説明】
【0027】
10 インナーオーバーチューブ
11,21 バルーン
13 内視鏡通過窓
14,24 挿通管
20 アウターオーバーチューブ
30 内視鏡挿入部
35 処置具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部の外面に膨張収縮可能なバルーンが設けられ,内部に内視鏡挿入部が挿入される円筒状インナーオーバーチューブと,
先端部の外面に膨張収縮可能なバルーンが設けられ,内部に上記インナーオーバーチューブが挿入される円筒状アウターオーバーチューブを備え,
上記インナーオーバーチューブの上記バルーンが設けられている箇所よりも末端側に,上記内視鏡挿入部の先端部が通過可能な大きさの内視鏡通過窓が形成されていることを特徴とする,
ダブルオーバーチューブ。
【請求項2】
上記インナーオーバーチューブに設けられたバルーンは上記インナーオーバーチューブの先端部の全周にわたって設けられており,上記アウターオーバーチューブに設けられたバルーンは上記アウターオーバーチューブの先端部の全周にわたって設けられている,
請求項1に記載のダブルオーバーチューブ。
【請求項3】
上記インナーオーバーチューブに設けられているバルーンおよび上記アウターオーバーチューブに設けられているバルーンは,上記インナーチューブにあけられている内視鏡通過窓と同一側が膨らみやすいものである,
請求項2に記載のダブルオーバーチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−200475(P2012−200475A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69334(P2011−69334)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】