説明

ダブルカバリング弾性糸

【目的】 ソックスやストッキング等の靴下用素材として有用な保温性、耐久性、及び肌触り、光沢感に優れたダブルカバリング弾性糸を提供する。
【構成】 弾性糸のまわりに細繊度の単糸からなる捲縮堅牢度10%以上のポリアミド仮撚加工糸を巻き付け、さらにその上にポリアミド系マルチフィラメント糸を同方向に巻き付けたダブルカバリング弾性糸。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリウレタン糸等の弾性糸にポリアミド系合成繊維マルチフィラメント糸を巻きつけてなるダブルカバリング弾性糸に関し、更にソックスやストッキング等の靴下用素材として保温性、耐久性及び肌触り、光沢感に優れたダブルカバリング弾性糸に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリウレタン糸等の弾性糸にポリアミド系合成マルチフィラメント糸を巻きつけたカバリング弾性糸を用いて編成し、靴下、ストッキング、パンティストッキングとすることが広範に行われている。
【0003】保温性を目的とするストッキング等に用いられているカバリング弾性糸の捲付糸には仮撚加工糸が一般的に多く用いられている。その場合に肌触り感を高めるため単糸デニールを小さくしたものを用いることが行なわれているが、単に単糸デニールを小さくした仮撚加工糸を用いると、単糸の引っかかりにより耐久性が悪くなり、また、外観の美しさを求められるストッキングにおいては光沢感がなくなってしまうという欠点があった。
【0004】他方、耐久性を高めるために単糸デニールを大きくしたものも知られているが、布帛としての滑らかさが失なわれてしまい、肌触り感が悪くなり、光沢感も無くなってしまうという欠点があった。
【0005】また、捲付糸としてマルチフィラメント糸のみを巻き付けたものも知られてるが、捲縮のない糸条のため、光沢感に優れるものの、繊維間の空隙がないため保温性に乏しく、その上、肌触りもヌメリ感も強く必ずしも優れているとは言えないものであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、ソックスやストッキング等の靴下用素材として有用な保温性、耐久性、及び肌触り、光沢感に優れたダブルカバリング弾性糸を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、かかる課題を解決するために次の手段をとるものである。すなわち、本発明は、弾性糸のまわりに被覆糸(A)が巻き付けられ、さらにその上に被覆糸(B)が同一の撚方向に巻き付けられてなるダブルカバリング弾性糸であって、被覆糸(A)は1.5デニール以下の単糸からなるポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの捲縮堅牢度10%以上の仮撚加工糸からなり、被覆糸(B)は1.5デニール以下の単糸からなるポリアミド系合成繊維マルチフィラメント糸よりなり、被覆糸(A)と被覆糸(B)の糸条繊維度DA ,DB の和が40デニール以上100デニール以下の範囲にあり、被覆糸(A)と被覆糸(B)との糸条繊維度比が30:70〜70:30の範囲にあり、被覆糸(A)の撚数(TA)と被覆糸(B)の撚数(TB )とが下記の関係を有することを特徴とするダブル カバリング弾性糸である。
【0008】
【数3】


【0009】ここに、TA は被覆糸(A)の撚数(T/M)であり、DA は被覆糸(A)の糸条繊度(デニール)である。
【0010】
【数4】


【0011】ここに、TB は被覆糸(B)の撚数(T/M)であり、DB は被覆糸(B)の糸条繊度(デニール)である。
【0012】以下に、本発明を詳細に説明する。本発明における弾性糸は、スパンデックス繊維と一般に云われるポリウレタン弾性繊維が好適であるが、他の種類の弾性繊維であってもよい。被覆糸(A)、(B)の素材としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等が好ましい。
【0013】本発明は、単糸繊度の小さい仮撚加工糸をただ単に用いることにより保温性、肌触りを向上させるのでなく、又、マルチフィラメントフラットカーンのみを用いることにより光沢感を向上させるのではなく、被覆糸(A)として単糸繊度の小さな仮撚加工糸を内側に巻き付け、外側に被覆糸(B)として単糸繊度の小さなマルチフィラメントフラットヤーンを同方向にポリウレタン糸等の弾性糸に巻き付けることにより、保温性、耐久性及び肌触り、光沢感に優れたものにすることを特徴とするものである。
【0014】これに対し従来のストッキング用カバリング弾性糸としては、被覆用糸として一般に50〜100デニールの仮撚加工糸がシングルカバリング弾性糸として用いられている。従来の被覆用糸である仮撚加工糸を用いて、保温性及び肌触り感を優れたものとするため、単糸繊度を1.2デニール以下とすることが行われている。又、光沢感及び耐久性を優れたものに対するためにマルチフィラメントフラットヤーンを用いることも行われている。本発明では、単糸繊度の小さな仮撚加工糸を内側に巻き付け、外側にマルチフィラメントフラットヤーンを巻き付けることにより内側巻き付け糸による保温性、外側巻き付け糸による耐久性、光沢感が優れたものになるという知見に基づき、本発明に至ったものである。
【0015】本発明では、内側の被覆糸(A)の単糸繊度が1.5デニール以下の仮撚加工糸を使っているので空隙が多く、保温性の優れた糸とすることができる。この被覆糸(A)の捲縮堅牢度は10%以上であることが必要で、10%未満であると、仮撚加工糸としての空隙が少なく保温性の優れたものとすることが難しい。外側の被覆糸(B)は単糸繊度1.5デニール以下のマルチフィラメントフラットヤーンを用いているので捲縮糸に多いひっかかりがなく耐久性に優れ、更に光沢感に優れるものとすることができる。
【0016】なお、捲縮堅牢度(%)とは、枠周1mのラップリールにて8巻の綛をつくり、糸条1デニール当たり0.005グラムの荷重下にて15分間沸水処理を施した後、糸条1デニール当たり0.2グラムの荷重下にて糸長を測定したものをl0とし、その綛を無荷重状態にて60℃雰囲気下で30分間乾燥させたのち、糸条1デニール当たり0.002グラムの初荷重をかけ糸長を測定したものをlとし、以下の式にて捲縮堅牢度(%)を求めるものである。
捲縮堅牢度(%)=〔(l0 −l)/l〕×100本発明のこれら効果を満たすために、被覆糸(A),(B)の単糸繊度は1.5デニール以下であることが必要で、被覆糸Aは1.5デニールを超えるものを用いると、捲縮堅牢度が10%以上であっても逆に単糸間の空隙が大きくなり過ぎ、又、フィラメント数が少なくなるため、保温性を高めることができない。又、被覆糸(B)は1.5デニールを超えるものを用いると、布帛としたときの滑らかさに欠け、肌触りに優れたものとすることができない。更に、滑らかさに欠けるため、光沢感に優れたものとすることもできない。さらに、被覆糸(A)の単糸繊度は1.0デニール以下であり、捲縮堅牢度は25%以上であることが好ましい。また、これら被覆糸(A),(B)の糸条繊度DA ,DB の和が40デニール以上、100デニール以下が本発明を満たすために必要な条件であり、40デニール未満であると保温性を要求するストッキングに於いてその性能を発揮することができず一方100デニールを超えると地厚感が大きくなり過ぎファッション志向的な用途に使われつつあるストッキングの要求を満たすことができない。
【0017】又、被覆糸(A),(B)の糸条繊度比率は、前記糸条繊度和を満たした上で、30:70〜70:30の関係を有することが本発明の効果を有効に引き出す上で必要であり、好ましくは40:60〜60:40程度が本発明の効果を充分発揮することができる。被覆糸(A)の糸条繊度比率が30%未満であると内側の仮撚加工糸の働きである保温性を充分に発揮することができない。一方、被覆糸(B)の糸条繊度比率が30%未満であると、外側のマルチフィラメントフラットヤーンの効果である光沢感がそこなわれてしまう。さらに、被覆糸(A),(B)のカバリング撚数TA ,TB は次の式を満たすことが重要である。
A (T/M)≦6000/DA1/23000/DB1/2≦TB (T/M)≦6000/DB1/2
【0018】ここで、TA は6000/DA1/2以下であれば本発明の効果である保温性を充分満たすことが可能である。しかし、6000/DA1/2を超えてしまうと、本来のストッキングに求められる柔軟さ、即ち、肌触りが硬い感じとなり好ましくない。又、TB は3000/DA1/2以上6000/DB1/2以下であることが必要である。ここでいうTB は本発明の効果として出てくる耐久性、肌触り、光沢感に重要な役割を持っている。外側巻き付け被覆糸の撚数TB が3000/DB1/2未満あると、内側巻付被覆糸(A)を充分被覆することが出来ず、耐久性に劣り、又、光沢感が乏しくなり、更に、本発明の2種類の糸条の組合わせから成る肌触り感の優れたダブルカバリング弾性糸とすることができない。一方、TB が6000/DB1/2を超えてしまうと、外側巻付被覆糸のみによる被覆率が大きくなり、ダブルカバリング弾性糸使いのストッキングに編成した場合、生地が硬い感じとなる。更に肌触りが優れたものとなり得ない。
【0019】従って、好ましくは2000/DA1/2≦TA (T/M)≦4000/DA1/2であり、また4000/DB1/2≦TB (T/M)≦5000/DB1/2を満たすことが本発明の効果を充分引き出すことができる。
【0020】芯糸の回りに、被覆糸を巻き付けるカバリング糸製造は、通常のカバリング糸製造手段、すなわち芯糸の回りに2本の被覆糸を順次外側に撚り方向を同一に二重に巻きつけるダブルカバリングによって行えばよい。なお、これら被覆用糸の断面形状は非円形であってもよく、内側と外側で異ったとものを用いてもよい。
【0021】
【実施例】
実施例1〜3、比較例1〜720デニールモノフィラメントのスパンデックス繊維を3.2倍に伸長しつつ、通常のカバリング機でダブルカバリングを行った。その際用いた被覆糸およびそのカバリング条件は表1の通りである。被覆糸には仮撚加工糸とフラットヤーンである2種のナイロン6フィラメント糸条を組合せて用いそれらの糸条繊度、単糸繊度、フィラメント数、糸条繊度比率、撚数等を種々変えて行った。
【0022】得られたダブルカバリング弾性糸の保温性についてはJIS−L−1096A法及びASTMD−1518−57Tにより評価した。試料布帛は得られたダブルカバリング弾性糸を靴下編機(4口編、針本数358本)でチューブ編地を作成し、染色加工を同一にして行ない、同一目方に換算して評価したものである。測定条件として、測定環境条件は20℃×65%RH、熱源板温度を36℃とし、測定時間を2時間とする。
評価法は、保温率:Q=(1−b/a)×100 Q:保温率(%)
a:試料板上に試料のない場合の放熱量(sec) b:試料板上に試料を置いた場合の放熱量(sec)として計算する。
【0023】また得られたダブルカバリング弾性糸の耐久性については、前記同様に編立、染色加工を行ったチューブ編地を腕への着用テストを行い、10人のモニターにランダムに試料を与え、通常オフイス作業において5日間着用し、グレースケールにて評価したものであり、1級が耐久性悪く5級は未使用状態を示す。また、得られたダブルカバリング弾性糸の肌触りは前記同様に編立、染色加工を行ったチューブ編地を官能評価で次の基準で評価した。
◎:優良 △:やや不良○:良好 ×:不良また得られたダブルカバリング弾性糸の光沢感については、前記同様に評価し、同様の記号で記した。
【0024】この結果からわかるように本発明にかかる実施例1,2,3のダブルカバリング弾性糸では、保温性もよく、耐久性に優れ、更に肌触り、光沢感についてもバランスよく、ストッキングとして要求される性能が優れたものを得ることができた。これに対し、比較例1では内側の被覆糸の単糸繊度が大きいため、保温性に乏しく肌触りに欠けたものであった。又、比較例2では内側被覆糸の捲縮堅牢度が低いため保温性に乏しいものであった。又、比較例3では外側被覆糸の単糸繊度が大きく、糸条繊度比率が小さいため保温性に乏しく、かつ肌触り、光沢感にも欠けたものであった。又、比較例4では外側被覆糸の撚数が低いため内側被覆糸をカバーしきれず、保温性、耐久性、および肌触り、光沢感にも欠けたものであった。又、比較例5では外側被覆糸が仮撚加工糸であるため、耐久性に欠け、肌触り、光沢感にも欠けたものであった。又、比較例6では従来のフラットヤーンのシングルカバリング弾性糸であり、保温性に欠ける上に耐久性、肌触り感にも欠けたものであった。又、比較例7では従来の仮撚加工糸を用いたシングルカバリング弾性糸であり、保温性には優れるものの、耐久性、光沢感に欠けたものであった。
【0025】
【表1】


【0026】
【発明の効果】本発明によるダブルカバリング弾性糸は、保温効果の高い被覆糸を内側に用い、耐久性、光沢感に優れたフラットヤーンを外側に用い、同一撚方向で巻き付けているので、肌触りにも優れ、かつ、各々の被覆糸の効果がバランスよく優れたダブルカバリング弾性糸を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 弾性糸のまわりに被覆糸(A)が巻き付けられ、さらにその上に被覆糸(B)が同一の撚方向に巻き付けられてなるダブルカバリング弾性糸であって、被覆糸(A)は1.5デニール以下の単糸からなるポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの捲縮堅牢度10%以上の仮撚加工糸からなり、被覆糸(B)は1.5デニール以下の単糸からなるポリアミド系合成繊維マルチフィラメント糸よりなり、被覆糸(A)と被覆糸(B)の糸条繊度DA ,DB の和が40デニール以上100デニール以下の範囲にあり、被覆糸(A)と被覆糸(B)との糸条繊度比が30:70〜70:30の範囲にあり、被覆糸(A)の撚数(TA )と被覆糸(B)の撚数(TB )とが下記の関係を有することを特徴とするダブルカバリング弾性糸。
【数1】


【数2】