説明

ダブルラッセル経編地およびその製造方法および表皮材

【課題】
着座時のみならず、突起物で引っかかれた場合にも、表地と裏地を結び付けるための編成糸が表地から引き出されることなく、良好な風合いや触感、外観、さらには耐摩耗性を保持することができるダブルラッセル経編地、すわなち、耐スクラッチ性の良好なダブルラッセル経編地を提供する。
【解決手段】
表地に編み込まれた接結糸と裏地に編み込まれた接結糸が互いに交絡することにより表地と裏地が接結されてなるダブルラッセル経編地であって、表地に編み込まれた接結糸が、収縮糸を収縮させたものであることを特徴とするダブルラッセル経編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダブルラッセル経編地に関する。詳しくは、良好な耐スクラッチ性を有し、車両用内装材や家具などの表皮材として好適に用いられるダブルラッセル経編地に関する。
【背景技術】
【0002】
表地と裏地を連結糸で連結した立体構造を有する経編地、特に2列針床を有するダブルラッセル編機により編成されるダブルラッセル経編地は、クッション性や厚み保持性、通気性に優れ、着座感が良好なことから、車両座席や椅子などの表皮材として広く用いられている。その特性をより良好ならしめるため、連結糸としては、通常、モノフィラメント糸が用いられるが、モノフィラメント糸は剛性が大きいため、着座時に表地から飛び出しやすく、風合いや触感、外観、さらには耐摩耗性が損なわれるという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するものとして、例えば、特許文献1には、表裏の素地と、両素地を連結する連結糸とからなる二重編地において、連結糸を表裏の少なくとも一方の素地に二目編組織で編成することによって、連結糸の編目のループ部分が素地表面から突出し難く、地編糸の素材が持つ当触感や風合い、外観上の体裁を損なうことのない二重編地が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、表編地と裏編地とを連結糸でつないだ三次元立体編物からなり、少なくとも表編地が透孔組織に編成されるとともに、連結糸がモノフィラメント糸からなる三次元立体シートにおいて、表編地を地編糸と締糸によって編成し、かつ、連結糸を締糸によって地編糸に締め付けて編成することによって、連結糸が表編地の編目から表面側に飛び出すことを効果的に防止した三次元立体シートが開示されている。
【0005】
これらの編地、具体的にはダブルラッセル経編地は、着座時における連結糸の表地からの飛び出しを防止するという点においては、一応の満足いく効果を有するものである。しかしながら、昨今の自動車業界において要望されている、より高度な耐久性、例えば、鍵や鞄の金具など堅い突起物によって引っかかれた場合に連結糸が引き出されることによる損傷を防止するという点、いわゆる耐スクラッチ性について考慮すると、必ずしも十分な効果が得られていないのが現状である。例えば、特許文献1に開示のものは、連結糸が表素地に編成されているため、突起物で引っかかれた場合には容易に引き出されてしまう。また、特許文献2に開示のものは、連結糸が表編地に直接編成されることはないが、締糸による締め付けが十分でなく連結糸が十分に固定されないため、突起物で引っかかれた場合には、やはり容易に引き出されてしまうのである。なお、耐スクラッチ性は、連結糸にモノフィラメント糸を用いた場合に限らず、マルチフィラメント糸や紡績糸を用いた場合にも問題となり得る。例えば、表地が開口部を有する編組織である場合、表地に圧力が加わると、連結糸が湾曲して開口部に張り出し、突起物で引っかかれた場合に、連結糸が引き出されやすくなる。このとき、連結糸としてマルチフィラメント糸や紡績糸が用いられていると、剛性が小さいために湾曲しやすく、より引き出されやすくなるのである。
【0006】
一方、耐スクラッチ性の向上に対し、積極的に取り組む試みも報告されている。例えば、特許文献3には、連結編糸とベース編糸によって構成される上編地と、ベース編糸と連結編糸によって構成される下編地との2枚の編地が重なり合って二重に編成され、その重なり合う上編地と下編地の間において、上編地から浮き出た連結編糸の上浮編目と、下編地から浮き出た連結編糸の下浮編目が、鎖状に絡合して上編地と下編地が不離一体となっており、上編地が編目列と編目列の間に隙間を設けてメッシュ状に編成された二重編地において、上浮編目と下浮編目との絡合点に到る上編地の外面からの距離を1mm以下とし、且つ、絡合点に到る下編地の外面からの距離よりも短くすることにより、上編地の繊維が雄型面ファスナーの鈎先に掻き出されて毛羽立ちやピリングとなるのを抑えた二重編地が開示されている。
【0007】
しかしながら、表皮材として用いられる二重編地は薄いため、上編地と下編地との狭い空間において絡合点の位置をコントロールするのは容易でなく、安定した品質および効果が期待できないものであった。また、上浮編目で下浮編目を締め付けているわけではないため連結編糸が十分に固定されず、突起物で引っかかれた場合には、やはり容易に連結編糸が引き出されてしまう虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2002/050352号パンフレット
【特許文献2】特開2001−234456号公報
【特許文献3】特開2008−69498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、着座時のみならず、突起物で引っかかれた場合にも、表地と裏地を結び付けるための編成糸が表地から引き出されることなく、良好な風合いや触感、外観、さらには耐摩耗性を保持することができるダブルラッセル経編地、すわなち、耐スクラッチ性の良好なダブルラッセル経編地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、表地に編み込まれた接結糸と裏地に編み込まれた接結糸が互いに交絡することにより表地と裏地が接結されてなるダブルラッセル経編地であって、表地に編み込まれた接結糸が、収縮糸を収縮させたものであることを特徴とするダブルラッセル経編地である。
【0011】
裏地に編み込まれる接結糸はモノフィラメント糸であることが好ましい。
さらには、モノフィラメント糸と、マルチフィラメント糸または紡績糸との組み合わせであることが好ましい。
【0012】
また、接結糸として表地に編み込まれる収縮糸の190℃における乾熱収縮率は、12〜70%であることが好ましい。
また、表地を編成する地糸のうち、表地の編目を構成する地糸の繊度に対する、接結糸として表地に編み込まれる収縮糸の繊度の割合は、10〜55%であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、表地に編み込まれた収縮糸からなる接結糸と裏地に編み込まれた接結糸とが互いに交絡することにより表地と裏地が接結されるように編成した後、熱処理により収縮糸を収縮させることを特徴とするダブルラッセル経編地の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、着座時のみならず、突起物で引っかかれた場合にも、接結糸が表地から引き出されることなく、良好な風合いや触感、外観、さらには耐摩耗性を保持することができるダブルラッセル経編地を提供することができる。本発明のダブルラッセル経編地は、その良好な耐スクラッチ性により、車両用内装材や家具などの表皮材、特に車両座席や椅子などの表皮材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ダブルラッセル編機の主要部を示す概略図である。
【図2】本発明のダブルラッセル経編地の断面構造を示す概略図である。
【図3】耐スクラッチ性試験に供する試験片の形状を示す平面図である。
【図4】実施例1のダブルラッセル経編地の編組織図である。
【図5】比較例2のダブルラッセル経編地の編組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
本発明のダブルラッセル経編地は、図1にその側面図で示すような2列の針床NB1、NB2を有するダブルラッセル編機を使用して編成される。図1において、N1、N2はそれぞれ編機幅方向に並列する前後の編針(ニードル)、T1、T2は前後の針釜(トリックプレート)を示し、K1〜K6は各筬L1〜L6のガイド部G1〜G6に通糸される編成糸を示している。また、B1〜B6は各編成糸のビームを示す。
【0017】
図1のダブルラッセル編機による編成において、例えば、ビームB1、B2から供給される編成糸K1、K2を地糸として、筬L1、L2によりニードルN1に導糸し、所要の編組織に裏地Bを編成する。一方、ビームB5、B6から供給される編成糸K5、K6を地糸として、筬L5、L6によりニードルN2に導糸し、所要の編組織に表地Fを編成する。そして、ビームB3から供給される編成糸K3を接結糸として、筬L3によりニードルN2に、ビームB4から供給される編成糸K4を接結糸として、筬L4によりニードルN1に、接結糸K3、K4が編機側面から見て交差するように導糸し、それぞれ所要の編組織に編成することにより、接結糸K3、K4は互いに交絡して、接結糸K3は表地Fに編み込まれ、接結糸K4は裏地Bに編み込まれる。こうして、表地F、裏地Bは、接結糸K3、K4により相互に接結されて、ダブルラッセル経編地Dが編成される。
【0018】
前述の編成方法よって得られるダブルラッセル経編地Dは、図2に示すダブルラッセル経編地の断面図から明らかなように、表地Fと裏地Bは、表地Fに編み込まれた接結糸K3と、裏地Bに編み込まれた接結糸K4が互いに交絡することにより、相互に接結されている。ここで、表地Fに編み込まれる接結糸K3は収縮糸であることが求められる。収縮糸である接結糸K3は、その後の熱処理により収縮し、裏地Bに編み込まれた接結糸K4を締め付ける。図2では模式的に図示しているため、接結糸K3がループ状に表地Fの裏面に垂れ下がっているようになっているが、実際には接結糸K3が収縮することにより表地Fと一体化している。このため、接結糸K3と接結糸K4の交絡した接結点もまた表地Fの裏面に表地Fと一体化している。こうして、裏地Bに編み込まれた接結糸K4は表地Fの表面に露出することなく、表地Fの裏面に係止される。接結糸K4は表地Fの表面に露出せず、かつ、収縮糸である接結糸K3は表地Fの内側(裏面側)で収縮して表地Fの編目(接結糸K3と、地糸K5、K6とで構成される編目)がかたく締まっているため、突起物で引っかかれても突起物が編目に侵入することがない。このため、接結糸K3、K4は表地Fから引き出されることなく、ダブルラッセル経編地の風合いや触感、外観、さらには耐摩耗性を良好に保持することができる。かくして、良好な耐スクラッチ性を備えたダブルラッセル経編地となる。
【0019】
なお、図1の例では、表地と裏地が、それぞれ2枚の筬により導糸される地糸により編成される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、1枚または3枚以上の筬により導糸される地糸により編成されていてもよい。
【0020】
以下、各編成糸の具体的構成を説明する。以下の説明において、「表地に編み込まれる接結糸」を「表側接結糸」、「裏地に編み込まれる接結糸」を「裏側接結糸」、「表地を編成する地糸」を「表側地糸」、「裏地を編成する地糸」を「裏側地糸」という場合がある。
【0021】
はじめに、表地に編み込まれる接結糸について説明する。
前述のように、表側接結糸は収縮糸であることが求められる。ここで、収縮糸とは、乾熱や湿熱など熱を加えた条件下で、収縮特性を示す糸をいうものとする。その収縮特性の程度は、収縮による前述の作用効果が得られる限り特に限定されるものではないが、好ましくは190℃における乾熱収縮率が12〜70%であり、より好ましくは30〜50%である。190℃における乾熱収縮率が12%未満であると、編目がルーズになり、裏側接結糸を表地の裏面に十分に係止することができず、突起物で引っかかれた場合に、表側および裏側の両接結糸が引き出される虞がある。上限の70%に関しては、現在、収縮糸として市販されているものの上限であり、今後、190℃における乾熱収縮率が70%を超える収縮糸が新たに市販された場合は、この限りではない。
【0022】
なお、190℃における乾熱収縮率は、以下の方法により算出されるものである。すなわち、糸条を30mg/dtexの荷重下で試料長(L)を測定した後、無荷重の状態で190℃の乾燥機中に1分間静置する。処理後、30mg/dtexの荷重下で試料長(L)を測定し、(L−L)/L×100(%)により、190℃における乾熱収縮率を算出する。
【0023】
収縮糸の形態は、着座時に表地から飛び出しにくいという理由から、マルチフィラメント糸または紡績糸であることが好ましい。
【0024】
収縮糸の繊度(糸繊度、総繊度ともいう)は、収縮による前述の作用効果が得られる限り特に限定されるものではないが、好ましくは22〜330dtex(デシテックス)であり、より好ましくは33〜167dtexである。繊度が22dtex未満であると、接結糸として強度が十分でなく、表地と裏地が剥離する虞がある。繊度が330dtexを超えると、接結糸として表地に編み込まれた収縮糸が表地から飛び出したり、また、編目が大きくなり、突起物で引っかかれた場合に、表側および裏側の両接結糸が引き出されたりする虞がある。なお、収縮糸の繊度とは、未収縮の状態にある収縮糸の繊度をいう。収縮糸は収縮により繊度を増すが、収縮前の繊度が22〜330dtexであれば、収縮後において、前記不具合を伴うことがない。
【0025】
加えて、表側地糸のうち、表地の編目を構成する表側地糸の繊度に対する、収縮糸の繊度、すなわち、表側接結糸の繊度の割合は、10〜55%であることが好ましく、より好ましくは10〜40%である。この割合が10%未満であると、表地と裏地を十分に接結することができず、表地と裏地が剥離する虞がある。この割合が55%を超えると、接結糸として表地に編み込まれた収縮糸が表地の表面に過度に露出し、突起物で引っかかれた場合に、表側および裏側の両接結糸が引き出される虞がある。なお、「表地の編目を構成する表側地糸」とは、挿入糸として編み込まれる表側地糸は含まない、という趣旨である。また、表地の編目が、複数の筬により導糸される表側地糸により構成される場合の「表地の編目を構成する表側地糸の繊度」は、それら複数の筬により導糸される表側地糸の繊度の合計値とする。例えば、図1の例において、表側地糸K5、K6がともに編目を構成する場合は、表側地糸K5の繊度と、表側地糸K6の繊度との合計値とする。
【0026】
収縮糸の素材は、収縮特性を示すものである限り特に限定されるものではないが、好ましくはポリエステルである。
【0027】
本発明においては、表側接結糸として、収縮率、形態、繊度、素材などが異なる2種以上の収縮糸を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
次に、裏地に編み込まれる接結糸について説明する。
裏側接結糸の形態は特に限定されるものではなく、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、紡績糸のいずれであってもよい。なかでも、クッション性や厚み保持性の点から、モノフィラメント糸であることが好ましい。裏側接結糸の形態がモノフィラメント糸であると、その剛性によりダブルラッセル経編地の厚みを保持することが可能となり、十分なクッション性を得ることができる。
【0029】
裏側接結糸の繊度は、22〜530dtexであることが好ましく、より好ましくは33〜360dtexである。繊度が22dtex未満であると、十分なクッション性や厚み保持性が得られなかったり、接結糸として強度が十分でなく、表地と裏地が剥離したりする虞がある。繊度が530dtexを超えると、風合いや触感が粗硬化したり、編立性が悪くなったりする虞がある。
【0030】
裏側接結糸の素材は特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリルなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、ウール、絹、綿、麻などの天然繊維などを挙げることができる。なかでも、強度、耐熱性、耐光性の点から、ポリエステルが好ましい。
【0031】
本発明においては、裏側接結糸として、形態、繊度、素材などが異なる2種以上の糸条を組み合わせて用いてもよい。収縮糸以外の糸が好ましく用いられる。前述のように、裏側接結糸の形態はクッション性や厚み保持性の点からモノフィラメント糸であることが好ましいが、一部にマルチフィラメント糸または紡績糸を用いることにより、柔らかな風合いや触感を付与することができ、好ましい。このとき、裏側接結糸の本数に占めるマルチフィラメント糸または紡績糸の本数の割合は、5〜50%であることが好ましく、より好ましくは10〜40%である。この割合が5%未満であると、マルチフィラメント糸や紡績糸による柔らかな風合いや触感が十分に得られない虞がある。この割合が50%を超えると、モノフィラメント糸によるクッション性や厚み保持性が十分に得られない虞がある。
【0032】
次に、表地を編成する地糸について説明する。
表側地糸の形態は特に限定されるものではなく、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、紡績糸のいずれであってもよい。なかでも、風合いや触感の点から、マルチフィラメント糸または紡績糸であることが好ましい。さらには、これらを加工し、嵩高性を付与したものであってもよい。
【0033】
表側地糸の繊度は、56〜550dtexであることが好ましく、より好ましくは110〜440dtexである。繊度が56dtex未満であると、表側接結糸を十分に隠蔽することができず、該接結糸が表地の表面に露出しやすくなるため、突起物で引っかかれた場合に、表側および裏側の両接結糸が引き出される虞がある。また、ダブルラッセル経編地の強度が不良となる虞がある。繊度が550dtexを超えると、ダブルラッセル経編地の風合いや触感が粗硬化したり、編立性が悪くなったりする虞がある。
【0034】
表側地糸の素材は特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリルなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、ウール、絹、綿、麻などの天然繊維などを挙げることができる。なかでも、強度、耐熱性、耐光性の点から、ポリエステルが好ましい。
【0035】
本発明においては、表側地糸として、形態、繊度、素材などが異なる2種以上の糸条を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
残る、裏側地糸については、表側地糸と同じである。
【0037】
本発明のダブルラッセル経編地は、以上に説明した各編成糸により編成される。
表地の編組織は特に限定されるものではなく、例えば、鎖編組織、挿入組織、デンビー編組織、コード編組織などを挙げることができ、これら単独による編組織(デンビー編組織、コード編組織に限る)または適宜組み合わせた編組織とすることができる。耐スクラッチ性をより良好ならしめるには、突起物が滑りやすく、引っかかりにくくすることであり、そのためには、凹凸が少ない編組織とすることが好ましい。例えば、開口部を有する編組織と開口部を有さない編組織とでは、開口部を有さない編組織の方が、凹凸が少なく、耐スクラッチ性は良好である。
【0038】
一方、車両用内装材や家具などの表皮材としては、デザイン性の点から、開口部を有する編組織が好まれる傾向にある。本発明によれば、開口部を有する編組織であっても、実用上、満足し得る耐スクラッチ性を備えることができるが、なかでも、少なくとも一部に挿入組織を用いたものは、ニードルループによるコース方向(幅方向)の微凹凸が少なく、突起物が侵入しにくい編組織となるため好ましい。特に、鎖編組織と挿入組織を組み合わせたものは、デンビー編組織やコード編組織を用いたものに比べて表面が平坦化され、突起物の侵入を阻止することができる。もちろん、開口部を有さない編組織として、その一部に挿入組織を用いることも可能である。
【0039】
裏地の編組織も特に限定されるものではなく、表地の編組織と同様の編組織であることができる。
【0040】
編立て後のダブルラッセル経編地(いわゆる「生機」と呼ばれる状態である)は、通常の工程、例えば、精練、プレセット、染色、仕上げセットなどの工程を経て、車両用内装材や家具などの表皮材、特に車両座席や椅子などの表皮材として提供される。
【0041】
ここで、ダブルラッセル経編地を熱処理し収縮糸を収縮させることで、本発明のダブルラッセル経編地を製造することができる。熱処理には、ループ式スチーマー、ループ式乾燥機、シリンダー乾燥機、ノンタッチドライヤー、ネット式ドライヤー、オーブン、テンター、ピンテンターなど従来公知の装置を用いることができる。なかでも、加工安定性の観点からピンテンターが好ましい。
熱処理のタイミングとしては、染色、仕上げセットの工程を経る前に対して熱処理を行う、いわゆるプレセットであることが好ましい。
【0042】
プレセットの条件は、収縮糸の収縮率や応力によって異なるが、170〜220℃で、30〜90秒間行うことが好ましい。処理温度が170℃未満であると、ダブルラッセル経編地が十分にセットされなかったり、収縮糸が十分に収縮しなかったり、染色時に色むらが発生したりする虞がある。処理温度が220℃を超えると、ダブルラッセル経編地の風合いや触感が粗硬化したり、染色時に色むらが発生したりする虞がある。より好ましい処理温度は、180〜200℃である。一方、処理時間が30秒間未満であると、ダブルラッセル経編地が十分にセットされなかったり、収縮糸が十分に収縮しなかったりする虞がある。処理時間が90秒間を超えると、工程負荷が大きく、製造コストが高くなる虞がある。より好ましい処理時間は、50〜70秒間である。
【0043】
かくして、本発明のダブルラッセル経編地を得ることができる。
ダブルラッセル経編地の密度は、16〜65コース/2.54cm、16〜40ウエル/2.54cmであることが好ましい。密度が下限値未満であると、突起物で引っかかれた場合に、突起物が編目に侵入しやすく、表側および裏側の両接結糸が引き出される虞がある。密度が上限値を超えると、ダブルラッセル経編地の風合いや触感が粗硬化したり、編立性が悪くなったりする虞がある。
【0044】
ダブルラッセル経編地の厚みは、1.5〜5.0mmであることが好ましく、より好ましくは1.5〜3.0mmである。厚みが1.5mm未満であると、十分なクッション性が得られなかったり、風合いや触感が粗硬化したりする虞がある。厚みが5.0mmを超えると、表地と裏地がずれて、耐摩耗性が損なわれる虞がある。また、本発明の効果が特に得られるのは、特に絡合点の位置をコントロールしにくい薄地であり、例えば1.5〜2.0mmの範囲の厚みの経編地である。
【0045】
得られたダブルラッセル経編地は、車両用内装材用または家具用の表皮材として用いられる。耐スクラッチ性の観点から、本発明の経編地の表地を表皮材の表側にして使用される。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における各評価試験は以下の方法に従った。
【0047】
(1)耐スクラッチ性
幅50mm、長さ220mmの大きさの試験片を経方向(ウエル方向)、緯方向(コース方向)からそれぞれ3枚採取し、図3に示す形状にカット後、摩擦試験機I形(クロックメーター、株式会社大栄化学精器製作所製)に固定する。
摩擦子の先端に25mm四方の大きさの面ファスナー(YKKクロックロンADNマッシュルームタイプ、YKK製)を貼り付け、摩擦子に荷重200gfを掛けて、試験片の表面上100mmの間を30回往復/分の速さで6回往復摩擦する。摩擦後の試験片の状態を目視にて観察し、下記の基準に従って等級付けし、さらに、4級以上を「○」、3級を「△」、2級以下を「×」と判定した。
5級:外観変化が無く、糸が引き出されていない
4級:外観変化がわずかに認められるが、糸は引き出されていない
3級:外観変化が明らかに認められ、糸がわずかに引き出されている
2級:外観変化が著しく、糸が引き出されている
1級:外観変化が極めて著しく、糸が引き出されている
【0048】
(2)耐摩耗性
幅70mm、長さ300mmの大きさの試験片を経方向、緯方向からそれぞれ1枚採取し、裏面に幅70mm、長さ300mm、厚み10mmの大きさのウレタンフォームを添えて、平面摩耗試験機T−TYPE(株式会社大栄科学精器製作所製)に固定する。綿帆布をかぶせた摩擦子に荷重9.8Nを掛けて、試験片の表面上140mmの間を60回往復/分の速さで10000回往復摩耗する。この間、摩耗回数2500回往復ごとに綿帆布を交換するものとする。摩耗後の試験片の状態を目視にて観察し、下記の基準に従って判定した。
○:外観変化がほとんど無い
△:外観変化がやや認められ、ホツレが発生している
×:外観変化が著しく、破れが発生している
【0049】
(3)風合い・触感
パネラーによる官能評価を行い、下記の基準に従って判定した。
○:柔らかな風合い・触感である
△:硬い風合い・触感の部分がある
×:全体的に風合い・触感が硬い
【0050】
(4)クッション性
パネラーによる官能評価を行い、下記の基準に従って判定した。
○:十分なクッション性がある
△:ややクッション性に欠ける
×:クッション性に欠ける
【0051】
[実施例1]
ダブルラッセル編機(RD6DPLM−77E−22G、カールマイヤー社製)を使用して、図4に示すように、筬L1、L2に導糸した裏側地糸により裏地を編成し、筬L5、L6に導糸した表側地糸により表地を編成し、筬L4に導糸した裏側接結糸と筬L3に導糸した表側接結糸により表地と裏地を接結してダブルラッセル経編地を編成した。
【0052】
このとき、裏地は、筬L1にフルセットで導糸された裏側地糸(167dtex/48fポリエステルマルチフィラメント糸)により編成され、裏側地糸のアンダーラップが3針間であるコード編組織と、筬L2にフルセットで導糸された裏側地糸(167dtex/48fポリエステルマルチフィラメント糸)により編成される鎖編組織とが組み合わされた、開口部を有さない編組織である。
【0053】
また、表地は、筬L5にフルセットで導糸された表側地糸(330dtex/144fポリエステルマルチフィラメント糸)により編成される鎖編組織と、筬L6に1in3out(1本糸入れ3本糸抜きの配列)で導糸された表側地糸(330dtex/144fポリエステルマルチフィラメント糸)により編成される挿入組織とが組み合わされた、開口部を有する編組織である。
【0054】
また、裏側接結糸(33dtex/1fポリエステルモノフィラメント糸)と表側接結糸(56dtex/24fポリエステルマルチフィラメント収縮糸、190℃における乾熱収縮率50%、表地の編目を構成する表側地糸の繊度に対する割合17.0%)は、互いに交絡して、それぞれ表地または裏地に編み込まれ、表地と裏地を接結するもので、それぞれ筬L4、L3にフルセットで導糸された。
【0055】
得られたダブルラッセル経編地の生機を190℃で1分間熱処理してプレセットした後、液流染色機にて130℃で30分間染色した。次にこのダブルラッセル経編地を150℃で熱処理して乾燥し、190℃で1分間熱処理して仕上げセットを行い、厚み2.5mm、密度40コース/2.54cm、23ウエル/2.54cmのダブルラッセル経編地を得た。
【0056】
[実施例2〜12および比較例1]
表1または表2に従い、実施例1と同様の手順で、ダブルラッセル経編地を得た。
【0057】
[比較例2]
ダブルラッセル編機(RD6DPLM−77E−22G、カールマイヤー社製)を使用して、図5に示すように、筬L1、L2に導糸した裏側地糸により裏地を編成し、筬L5、L6に導糸した表側地糸により表地を編成し、筬L3に導糸した連結糸により表地と裏地を連結してダブルラッセル経編地を編成した。
【0058】
このとき、裏地は、実施例1と同様の地糸を用い、同様の編組織で編成した。
【0059】
また、表地も、実施例1と同様の地糸を用い、同様の編組織で編成した。
【0060】
また、連結糸(33dtex/1fポリエステルモノフィラメント糸)は、表地と裏地を連結するもので、筬L3にフルセットで導糸された。
【0061】
得られた生機を実施例1と同様に処理して、厚み3.2mm、密度40コース/2.54cm、24ウエル/2.54cmのダブルラッセル経編地を得た。
【0062】
実施例および比較例のダブルラッセル経編地について評価した結果を表1および表2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表1および表2から明らかなように、実施例1〜3、7、8、10、11は、耐スクラッチ性、耐摩耗性、風合い・触感、クッション性の全てに優れたものであった。
実施例4は、編目を構成する表側地糸の繊度に対する表側接結糸(収縮糸)の繊度の割合が好ましい範囲の下限値に満たないため、表地と裏地が剥離し、耐摩耗性がやや劣るものであり、一方、実施例5は好ましい範囲の上限値を超えるため、耐スクラッチ性がやや劣るものであった。
実施例6は、表地がコード編組織とコード編組織を組み合わせた開口組織であるため、挿入組織を一部に用いた実施例1に比べて平坦性に劣り、耐スクラッチ性がやや劣るものであった。
実施例9は、表側接結糸として用いられる収縮糸の収縮率が好ましい範囲の下限値に満たないため、耐スクラッチ性がやや劣るものであった。
実施例12は、裏側接結糸の全てにマルチフィラメント加工糸を用いているため、クッション性がやや劣るものであった。
比較例1は、表側接結糸として非収縮糸を用いているため、表側接結糸、裏側接結糸が十分に固定されず、耐スクラッチ性、耐摩耗性が劣るものであった。
比較例2は、モノフィラメント糸を連結糸に用いた構造であるため、耐スクラッチ性、風合い・触感が劣るものであった。
実施例1〜12にて得られた経編地を車両用内装材に使用したところ、突起物で引っかかれた場合にも、表地と裏地を結び付けるための編成糸が表地から引き出されることなく、良好な風合いや触感、外観、さらには耐摩耗性を保持することができるものであった。
【符号の説明】
【0066】
N1,N2 … 編針(ニードル)
T1,T2 … 針釜(トリックプレート)
K1,K2 … 編成糸(裏側地糸)
K3 … 編成糸(表側接結糸)
K4 … 編成糸(裏側接結糸)
K5,K6 … 編成糸(表側接結糸)
L1〜L6 … 筬
G1〜G6 … ガイド
B1〜B6 … ビーム
B … 裏地
F … 表地
D … ダブルラッセル経編地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地に編み込まれた接結糸と裏地に編み込まれた接結糸が互いに交絡することにより表地と裏地が接結されてなるダブルラッセル経編地であって、表地に編み込まれた接結糸が、収縮糸を収縮させたものであることを特徴とするダブルラッセル経編地。
【請求項2】
裏地に編み込まれる接結糸がモノフィラメント糸であることを特徴とする、請求項1に記載のダブルラッセル経編地。
【請求項3】
裏地に編み込まれる接結糸が、モノフィラメント糸と、マルチフィラメント糸または紡績糸との組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載のダブルラッセル経編地。
【請求項4】
接結糸として表地に編み込まれる収縮糸の190℃における乾熱収縮率が、12〜70%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のダブルラッセル経編地。
【請求項5】
表地を編成する地糸のうち、表地の編目を構成する地糸の繊度に対する、接結糸として表地に編み込まれる収縮糸の繊度の割合が、10〜55%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のダブルラッセル経編地。
【請求項6】
表地に編み込まれた収縮糸からなる接結糸と裏地に編み込まれた接結糸とが互いに交絡することにより表地と裏地が接結されるように編成した後、熱処理により収縮糸を収縮させることを特徴とするダブルラッセル経編地の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のダブルラッセル経編地を用いた車両用内装材用または家具用の表皮材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−64216(P2013−64216A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175006(P2012−175006)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】