説明

ダンパーの火災影響度評価方法及びダンパー評価体

【課題】 ダンパーの火災による性能低下度を正確に把握することで影響度を評価するダンパーの火災影響度評価方法及びこれに用いるダンパー評価体を提供する。
【解決手段】 ダンパー1の鋼板2及び粘性体と同一又は同様の評価鋼板及び評価粘性体からなる積層構造を備えたダンパー評価体10を、火災時にダンパー1が受熱する熱履歴と略同一の熱履歴となる位置に設置して、火災後に、ダンパー評価体10によってダンパー1に対する火災の影響度を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパーの火災による影響度を評価するためのダンパーの火災影響度評価方法及びこれに使用されるダンパー評価体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震や風等による振動を抑制または制御するダンパーなどの制振構造体を建築物に設けることが一般的となっている。建築物に作用した振動エネルギーを吸収するこの種のダンパーとして、例えば粘性ダンパーや粘弾性ダンパー、鋼材ダンパーなど種々のものが実用化されている。
【0003】
これらダンパーのうち、粘性ダンパーや粘弾性ダンパーは、シリコンなどの粘性体やアクリル、高減衰ゴムなどの粘弾性体を使用した付加減衰材によって振動エネルギーを吸収するようにしたものであり、例えば少なくとも一対の鋼板の間に粘性体や粘弾性体(粘性体)を介在させ鋼板同士を貼り合わせて構成されるものがある(例えば、特許文献1参照)。この種のダンパーでは、建築物が振動エネルギーの作用により変形した際に、双方の鋼板が面内で相対変位して、その際に生じる粘性体や粘弾性体の粘性抵抗力によって振動エネルギーを吸収し建築物の振動を減衰することが可能とされている。
【0004】
一方、鋼材ダンパーは、鋼材の塑性変形によって振動エネルギーを吸収するようにしたものであり、例えば、平行に離間配置された鋼製のベースプレートとトッププレートと、トッププレートに固定プレートを介して外周面の所定位置が剛接合された鋼管と、鋼管の前記所定位置より離間した位置に一端が固着されてベースプレート側へ延びる捩りプレートと、ベースプレートに設けられて捩りプレートの他端と係合し、トッププレートとベースプレートとの相対変位量を捩りプレートに伝える変位伝達部とから構成されたものがある(例えば、特許文献2参照)。このダンパーでは、振動エネルギーが作用してベースプレートがトッププレートに対して相対的に変位した際に、その変位量が変位伝達部を介して捩りプレートに回転運動として伝えられる。振動とともに回転運動を繰り返す捩りプレートは、捩りプレートが固定された部分の鋼管に捩り変形を与え、この鋼管が塑性変形化することで振動エネルギーを吸収することが可能とされている。
【特許文献1】特開平11−152932号公報
【特許文献2】特開平5−239952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、建築物の供用期間中には、地震や風のみならず火災が生じる場合もあり、火災が生じた際には、ダンパーが高温の熱にさらされることとなる。例えば鋼材ダンパーは、主要構成材が鋼材であるため、受熱による影響が比較的少なく、例えば600℃を上回る温度で加熱されない限りは、受熱に伴い低下した鋼材強度や弾性が徐々に回復されてゆく。
【0006】
これに対して、粘性体を主要構成材とする粘性ダンパーや粘弾性ダンパーは、例えば200℃以下の比較的低温の熱を受けた場合においても粘性体が劣化し、振動エネルギーを吸収するという性能が大きく低下してしまう。このため、火災を受け性能が低下したダンパーは必然的に交換を要することとなるが、火災後にダンパーの性能が低下しているか否かを正確に、且つ手軽に把握する手法は確立されておらず、交換を要する性能低下が生じているか否かを評価することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑み、ダンパーの火災による性能低下度を正確に把握することで影響度を評価するダンパーの火災影響度評価方法及びこれに用いるダンパー評価体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明のダンパーの火災影響度評価方法は、所定の間隔をもって積層した複数の鋼板の間に粘性体を介装して構成されていて建築物に作用する振動エネルギーを吸収するダンパーについて、火災による影響度を評価する方法であって、前記ダンパーの前記鋼板及び前記粘性体と同一又は同様の評価鋼板及び評価粘性体からなる積層構造を備えたダンパー評価体を、火災時に前記ダンパーが受熱する熱履歴と略同一の熱履歴となる位置に設置して、火災後に、該ダンパー評価体によって前記ダンパーに対する火災の影響度を評価することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のダンパーの火災影響度評価方法において、前記ダンパー評価体の積層構造の端面に断熱材が設けられていることが望ましい。
【0011】
さらに、本発明のダンパーの火災影響度評価方法においては、前記評価鋼板の前記評価粘性体が介装される側の面の少なくとも一部に受熱温度に応じて色が変化する示温塗料が塗布されていることがより望ましい。
【0012】
本発明のダンパー評価体は、所定の間隔をもって積層した複数の鋼板の間に粘性体を介装して構成されていて建築物に作用する振動エネルギーを吸収するダンパーについて、火災による影響度を評価するためのダンパー評価体であって、前記ダンパーの前記鋼板及び前記粘性体と同一又は同種の評価鋼板及び評価粘性体とからなる積層構造を備え、該積層構造の端面に断熱材が設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のダンパー評価体においては、前記評価鋼板の前記評価粘性体が介装される側の面の少なくとも一部に受熱温度に応じて色が変化する示温塗料が塗布されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のダンパーの火災影響度評価方法によれば、火災時にダンパーが受ける熱履歴と略同一の熱履歴となる位置に、ダンパーと同一又は同様の評価鋼板と評価粘性体とからなる積層構造を備えたダンパー評価体を設けることによって、火災後に、ダンパーを解体することなく、ダンパー評価体の評価鋼板や評価粘性体の劣化状況を確認することで、ダンパーの火災による性能低下度を把握することができる。これにより、ダンパー評価体によってダンパーの火災による影響度を評価することができ、火災後のダンパーが交換を要するか否かを評価することが可能となる。
【0015】
また、本発明のダンパーの火災影響度評価方法においては、ダンパー評価体の積層構造の端面に断熱材を設けることにより、火災時にダンパー評価体の側面側から熱が内部に伝達することを防止でき、火災時の熱をダンパー評価体の積層方向(軸線方向)外方側に位置する評価鋼板の表面から伝達させることができる。これは、ダンパーが加熱された際に、内部の粘性体の大部分がダンパーの外方側に位置する鋼板表面から伝達される熱によって劣化されることに基づいている。つまり、ダンパー評価体の側面側に断熱材が設けられていることによってダンパー評価体の受熱状態をダンパーの受熱状態と略一致させることができ、加熱されたダンパー評価体とダンパーとの互いの劣化状況を略一致させることができる。これにより、ダンパー評価体の劣化状況を把握することで、より正確にダンパーの性能低下度を把握することができ、ダンパーの火災による影響度を正確に評価することが可能となる。
【0016】
また、断熱材を設けることでダンパー評価体とダンパーとの受熱状態を略一致させることができるため、ダンパーに対してダンパー評価体を小さく形成することも可能となる。これにより、ダンパー評価体を例えば人間が運搬可能な大きさや重さとすることができ、ダンパー評価体の設置スペースを省スペースとすることが可能とされる。
【0017】
さらに、本発明のダンパーの火災影響度評価方法においては、評価鋼板の評価粘性体が介装される側の面の少なくとも一部に示温塗料が塗布されていることによって、示温塗料の色を確認することで火災時に受熱した最高温度を把握することが可能となる。これにより、ダンパーの受熱温度を正確に把握することができ、ダンパーの火災による影響度をより正確に評価することが可能となる。
【0018】
また、本発明のダンパー評価体によれば、ダンパーと同一又は同様の評価鋼板と評価粘性体とからなる積層構造を備えるようにダンパー評価体が形成され、積層構造の端面に断熱材が設けられていることによって、ダンパー評価体の受熱状態をダンパーの受熱状態と略一致させることができ、火災によるダンパーの鋼材や粘性体の劣化状況と、ダンパー評価体の評価鋼材や評価粘性体の劣化状況とを略一致させることができる。これにより、ダンパー評価体の劣化状況を確認することで、ダンパーの性能低下度を把握することができ、ダンパーの火災による影響度を評価することが可能となる。
【0019】
さらに、本発明のダンパー評価体においては、評価鋼板の評価粘性体が介装される側の面の少なくとも一部に示温塗料が塗布されていることによって、火災時に受熱した最高温度を確認することが可能となる。これにより、ダンパー評価体によって、より正確にダンパーの火災による影響度を評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図1から図6を参照し、本発明の一実施形態に係るダンパーの火災影響度評価方法及びこれに使用されるダンパー評価体について説明する。本実施形態は、建築物の制振壁として設けられ、建築物に作用する地震や風などの振動エネルギーを減少または減衰させる粘弾性ダンパー(ダンパー)の、火災による性能低下度を把握してその影響度を評価する方法及びこれに使用されるダンパー評価体に関するものである。
【0021】
本実施形態において、ダンパー1は、図1から図2に示すように、矩形板状に形成され所定の間隔をもって積層された5枚の鋼板2と、隣り合う鋼板2の間に介装された例えばゴムアスファルト系のシート状の粘弾性体(粘性体)3とから構成されている。このダンパー1は、建築物の2つの柱部材4と2つの梁部材5で画成された矩形状の開口部分に設けられており、2つの柱部材4は、例えば断面H型のH形鋼とされ、それぞれが垂直方向に延設されつつ平行配置されている。また、2つの梁部材5は、例えば断面H型のH形鋼とされ、2つの柱部材4の上方側と下方側とにそれぞれ柱部材4の軸線O1に直交する方向に延設されつつ固着されている。ここで、本実施形態において柱部材4や梁部材5は、断面H型のH形鋼でなく、例えば断面箱型であったり、鉄筋コンクリート製であってもよいものである。
【0022】
このダンパー1は、各鋼板2が所定の間隔をもってダンパー1の軸線O2方向に並んで平行に配置され、隣り合う鋼板2に対しダンパー1の軸線O2に直交する面を対向させた状態とされている。また、ダンパー1の軸線O2方向外方側に位置する一対の鋼板2と軸線O2方向中央に位置する1枚の鋼板2とは、その下端2aが板部材6を介して下方の梁部材5に固定されており、上端2bが上方の梁部材5よりも若干下方側に配されている。一方、軸線O2方向中央に位置する1枚の鋼板2に隣り合う一対の鋼板2は、その上端2bが板部材6を介して上方の梁部材5に固定され、下端2aが下方の梁部材5よりも若干上方側に配されている。
【0023】
一方、粘性体3は、下方の梁部材5に固定された3枚の鋼板2の上端2bよりも若干下方側に位置する部分から、上方の梁部材5に固定された2枚の鋼板2の下端2aよりも若干上方側に位置する部分までの範囲内で、隣り合う鋼板2の間に各鋼板2に密着されつつ介装されている。
【0024】
ちなみに、このように構成されたダンパー1は、例えば地震などによって建築物に振動エネルギーが作用した場合、上方の梁部材5と下方の梁部材5とから各鋼板2に伝達された振動エネルギーを、鋼板2の間に介装された粘性体3で吸収することが可能とされている。これにより、上方の梁部材5と下方の梁部材5の変位が抑制され、建築物全体の変位量を小さくすることが可能とされる。
【0025】
一方、図3に示すように、上記のダンパー1を備える建築物が火災を受けた場合には、この火災に伴う熱が、主にダンパー1の軸線O2方向外方側に位置する2枚の鋼板2の表面2cから内部へと伝達されてゆき、この鋼板2の表面2cから伝達した熱によって粘性体3が加熱される。粘性体3は、例えばゴムアスファルトなどで形成されているため、約200℃の比較的低温度の熱を受けた場合においても、例えば粘弾性の性質を失うなど劣化が生じてしまう。粘性体3が加熱によって劣化した場合には、振動エネルギーの吸収能力を失うため、ダンパー1の性能低下が生じる。火災後には、ダンパー1の性能低下度を把握してその影響度を評価する必要があるが、例えば、本実施形態に示すようなダンパー1では、粘性体3が壁構造を形成するダンパー1の内部に配されているため、粘性体3の劣化状況を確認しダンパー1の性能低下度を把握することが困難とされる。よって、ダンパー1の火災による影響度を評価することができず、火災後のダンパー1の交換の要否を判断できないという問題が生じる。
【0026】
これに対して、本実施形態では、図4に示すように、ダンパー1の設置時や火災前に、少なくとも一部がダンパー1の一部を抜き出した形となるように形成したダンパー評価体10を設置する。このダンパー評価体10の設置位置は、火災時にダンパー1が受熱する熱履歴と略同一の熱履歴となる位置とされる。本実施形態では、ダンパー評価体10が柱部材4を間にしたダンパー1の近傍に設置されることで、火災時のダンパー1とダンパー評価体10の熱履歴が略同一となるようにしている。
【0027】
このダンパー評価体10は、図5から図6に示すように、例えば矩形板状に形成され、図1から図4に示したダンパー1の鋼板2と同種の鋼材で、且つ等しい厚さで形成された5枚の評価鋼板11と、ダンパー1の粘性体3と同種の評価粘性体12とを主な構成要素としている。5枚の評価鋼板11は、軸線O3方向(積層方向)に各評価鋼板11の外周端11aを一致させつつダンパー1と同寸法の間隔をもって平行配置されている。評価粘性体12は、評価鋼板11よりも若干小さな矩形状に形成されており、両端の外周端12aが評価鋼板11の外周端11aよりも内方に位置されて5枚の評価鋼板11の間に介装されている。このとき、各評価鋼板11の間に配された評価粘性体12は、それぞれの上面12bと下面12cとが評価鋼板5と密着するように介装されている。
【0028】
また、軸線O3方向に沿う各評価鋼板11で画成された側面(積層構造の端面)10a側には、この側面10aを被覆し隣り合う評価鋼板11の間を密閉する例えばロックウールなどの断熱材13が設けられている。さらに、各評価鋼板11の評価粘性体12が密着されたそれぞれの面の、外周11a側に位置する評価粘性体12が密着されていない部分には、例えばヘキサメチレンテトラミン複塩類などの受熱温度に応じて色が変化する示温塗料14が塗布されている。
【0029】
このように構成されるダンパー評価体10は、軸線O3方向の平面視で、断熱材13が矩形枠状を呈するように形成され、軸線O3方向外方側に位置する2枚の評価鋼板11の表面11dが露出状態とされる。さらに、本実施形態のダンパー評価体10は、例えば軸線O3に直交する縦横の寸法が30〜50cm程度とされており、その厚さT1が図1から図4に示すダンパー1と同一とされて、人間が持ち上げて運搬可能な大きさと重さで形成されている。
【0030】
ついで、上記の構成からなるダンパー評価体10を用いて、火災を受けたダンパー1の性能低下度を把握し、ダンパー1の火災による影響度を評価する方法について説明する。
【0031】
はじめに、評価鋼板11と評価粘性体12とを用意して評価鋼板11に示温塗料14を塗布するとともに評価鋼板11と評価粘性体12とを積層し、側面10a側に断熱材13を設置してダンパー評価体10を形成する。ついで、形成したダンパー評価体10を、図4に示すように、火災によりダンパー1が受ける熱履歴と略同一の熱履歴となる位置に、適宜手段を用いて取外し可能に設置する。
【0032】
火災が発生した際には、側面10aが断熱材13で被覆されているため、ダンパー評価体10が受けた熱は、軸線O3方向外方側に位置する評価鋼板11の表面11dから内部に伝達されてゆくこととなる。この内部に伝達された熱は、その温度によって評価粘性体12を劣化される。このとき、評価鋼板11に塗布された示温塗料14が内部に伝達された熱の温度に応じてその色を変化させる。ここで、この示温塗料14は、受熱した最高温度で変化した色が温度の低下とともに変化することがないものとされ、その色を確認することで示温塗料14が受熱した最高温度を確認できるものとされている。
【0033】
ついで、火災後に、ダンパー評価体10を取り外す。取り外したダンパー評価体10は、断熱材13が除去されるとともに、軸線O3方向外方側の評価鋼板11から順次解体される。この解体とともに、示温塗料14の色を確認し、ダンパー評価体10が受熱した最高温度を確認する。また、評価粘性体12や評価鋼板11の外観観察を行い、例えば溶融、軟化、膨張などの有無を確認する。解体された評価粘性体12は、例えば針入度試験や破断試験などが行われ、弾性係数や破断時強度などが計測されてその力学特性が確認される。同様に、解体した評価鋼板11に対しても弾性係数や引張強度などを計測してその力学特性を確認する。これにより、ダンパー評価体10を構成する評価鋼板11と評価粘性体12の火災による劣化状況が確認される。
【0034】
ついで、ダンパー評価体10の劣化状況がダンパー1の劣化状況を示すものとし、例えば火災後の評価粘性体12や評価鋼板11の力学特性結果と、火災前の粘性体3や鋼板2の力学特性の各種値とを用いて、例えば火災前と火災後のダンパー1の振動エネルギーの吸収能力を対比して、火災を受けたダンパー1の性能低下度を把握する。このように、ダンパー評価体10に基づいて把握されたダンパー1の性能低下度が、建築物に作用する振動エネルギーを十分に吸収可能な範囲にある場合には、ダンパー1の火災による影響度が小さい(ダンパー1が健全である)と評価されダンパー1の交換を行う必要がないものとされる。一方、ダンパー1の性能低下度が大きく、振動エネルギーの吸収能力が許容されない範囲にある場合には、ダンパー1の火災による影響度が大きい(ダンパー1が健全でない)と評価されダンパー1の交換を要するものとされる。
【0035】
したがって、上記のダンパー1の火災影響度評価方法及びダンパー評価体10においては、ダンパー1の熱履歴と略同一の熱履歴となるようにダンパー評価体10を設け、火災後に、このダンパー評価体10の外観や力学特性を確認することで、ダンパー1の火災による性能低下度を把握することができる。これにより、ダンパー1の火災による影響度を評価することが可能となるため、火災後のダンパー1が交換を要するか否かを判断することができる。
【0036】
また、ダンパー評価体10の側面10a側に断熱材13が設けられていることによって、火災によるダンパー1の受熱状態とダンパー評価体10の受熱状態とを略一致させることができる。これにより、互いの熱履歴を略同一とすることが確実にできるため、ダンパー評価体10の劣化状況を把握することで、より正確にダンパー1の性能低下度を把握することができ、ダンパー1の火災による影響度を正確に評価することが可能となる。
【0037】
さらに、この断熱材13を設けて受熱状態をダンパー1と一致させることが可能となることで、ダンパー1に対してダンパー評価体10を小さく形成することが可能となり、ダンパー評価体10を例えば人間が運搬可能な大きさや重さとすることができる。これにより、ダンパー評価体10を容易に設置できるとともに、その設置スペースを省スペースとすることが可能とされる。
【0038】
また、評価鋼板11の評価粘性体12が介装される側の面の少なくとも一部に示温塗料14が塗布されていることによって、火災後に、示温塗料14の色を確認することで火災時に受熱した最高温度を把握することが可能となる。これにより、ダンパー1の受熱温度を正確に把握することができ、ダンパー1の火災による影響度をより正確に評価することが可能となる。
【0039】
以上、本発明に係る一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、ダンパー評価体10が制振壁として設置されたダンパー1の火災による影響度を評価するものであるとして説明を行なったが、制振壁として設置されたダンパー1のみに適用されるものではなく、例えば柱と梁の間に設置されたダンパーの火災による影響度を評価するために用いられてもよいものである。また、ダンパー評価体10が、5枚の評価鋼板11と各評価鋼板11の間に介装された評価粘性体12と断熱材13と示温塗料14とから構成されているものとしたが、ダンパー評価体10は、対象のダンパー1の構成および形状に応じて変化するものであり、特に本実施形態の構成および形状に限定されるものではない。これに関連して、本実施形態においては、ダンパー評価体10の軸線O3方向の平面視で縦横寸法が30〜35cm程度で形成され、人間が持ち上げ運搬可能な重さであるものとしたが、ダンパー評価体10は例えば円形形状であってもよく、特にその形状や重量が限定される必要はない。また、本実施形態では、ダンパー評価体10に断熱材13や示温塗料14が具備されているものとしたが、断熱材13や示温塗料14は具備されていなくてもよいものである。
【0040】
さらに、本実施形態では、ダンパー評価体10が対象のダンパー1の近傍に設置されるものとしたが、例えば取外し可能にダンパー1と一体化されてもよいものである。この場合、ダンパー評価体10は、通常時にダンパー1の一部として振舞いつつ、建築物に振動エネルギーが作用した際には、ダンパー評価体10も振動エネルギーを吸収するものとされ、火災時には、ダンパー1の一部を抜き出した形で取り外しされて性能低下度の把握に供することが可能とされる。また、このようにダンパー評価体10をダンパー1と一体化した場合には、ダンパー1の設置箇所以外のスペースを確保してダンパー評価体10を設置する必要がないという利点をも有している。さらに、ダンパー1と一体化されることで、ダンパー評価体10に断熱材13を具備せずともダンパー1とダンパー評価体10の熱履歴を略同一とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るダンパーを示す正面図である。
【図2】図1のA−A線矢視図である。
【図3】図1のダンパーの火災による熱の伝達方向の一例として示した図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るダンパー評価体を設置した状態を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るダンパー評価体を示す正面図である。
【図6】図5のB−B線矢視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ダンパー(粘弾性ダンパー)
2 鋼板
2c 表面
3 粘性体(粘弾性体)
10 ダンパー評価体
10a 側面(端面)
11 評価鋼板
12 評価粘性体
13 断熱材
14 示温塗料
O2 ダンパーの軸線(積層方向)
O3 ダンパー評価体の軸線(積層方向)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をもって積層した複数の鋼板の間に粘性体を介装して構成されていて建築物に作用する振動エネルギーを吸収するダンパーについて、火災による影響度を評価する方法であって、
前記ダンパーの前記鋼板及び前記粘性体と同一又は同様の評価鋼板及び評価粘性体からなる積層構造を備えたダンパー評価体を、火災時に前記ダンパーが受熱する熱履歴と略同一の熱履歴となる位置に設置して、火災後に、該ダンパー評価体によって前記ダンパーに対する火災の影響度を評価することを特徴とするダンパーの火災影響度評価方法。
【請求項2】
請求項1記載のダンパーの火災影響度評価方法において、
前記ダンパー評価体は、積層構造の端面に断熱材を設けたことを特徴とするダンパーの火災影響度評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のダンパーの火災影響度評価方法において、
前記ダンパー評価体は、前記評価鋼板の前記評価粘性体が介装される側の面の少なくとも一部に受熱温度に応じて色が変化する示温塗料を塗布したことを特徴とするダンパーの火災影響度評価方法。
【請求項4】
所定の間隔をもって積層した複数の鋼板の間に粘性体を介装して構成されていて建築物に作用する振動エネルギーを吸収するダンパーについて、火災による影響度を評価するためのダンパー評価体であって、
前記ダンパーの前記鋼板及び前記粘性体と同一又は同種の評価鋼板及び評価粘性体とからなる積層構造を備え、該積層構造の端面に断熱材が設けられていることを特徴とするダンパー評価体。
【請求項5】
請求項4記載のダンパー評価体において、
前記評価鋼板の前記評価粘性体が介装される側の面の少なくとも一部に受熱温度に応じて色が変化する示温塗料が塗布されていることを特徴とするダンパー評価体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−329657(P2006−329657A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149515(P2005−149515)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】