ダンパー及びこれを用いたスピーカー
【課題】 長径方向と短径方向とを有するトラック形もしくは楕円形のダンパー及びこれを用いたスピーカーに関し、支持可動部の特定部分に集中する応力を分散させ、小入力信号に対する振幅変位の直線性確保、および、大入力信号に対する振幅制限という、相反する性能を両立させることができ、さらに、さらに上下振幅の対称性がよく、ローリングを抑制して、歪や異音の発生が少ないダンパーおよびスピーカーを提供する。
【解決手段】 本発明のダンパーは、内周部または外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、長円形と相似形の長円形を短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。
【解決手段】 本発明のダンパーは、内周部または外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、長円形と相似形の長円形を短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響再生のためのスピーカーに用いるダンパー、およびこれを用いたスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカー用のダンパーは、振動板及びボイスコイルボビンを含む振動系を所定位置に支持し、かつ、良好に振動可能にするために、その内周部がボイスコイルボビンに接合し、その外周部がフレーム又は磁気回路等に接合し、支持可動部が内周部と外周部とを連結する。従来のダンパーでは、支持可動部を波形のコルゲーションとしたコルゲーションダンパーが多く使用され、綿糸、アラミド繊維糸等の織布にフェノール樹脂、メラミン樹脂等の樹脂を含浸したプリプレグを基材として、金型で加熱成型することにより製造される。スピーカーが長円形(トラック形、もしくは、楕円形)等の、長径方向と短径方向とを有する振動板を備える場合には、ダンパーの内周部および外周部と、支持可動部のコルゲーションとは、トラック形もしくは楕円形に形成されることが多い。
【0003】
コルゲーションダンパーの形状および材料などについては、小入力信号に対する振幅変位の直線性確保、および、大入力信号に対する振幅制限という、相反する性能が求められるので、従来から様々な検討がなされている。また、トラック形もしくは楕円形のダンパーでは、短径方向で十分な振幅変位が確保できず、歪音が発生する、あるいは、ボイスコイルがローリングして異音を生じる、等の問題が発生しやすい。そこで、例えば、長径方向のコルゲーションの数が短径方向のコルゲーションの数より多いダンパーを備えるスピーカーがある(特許文献1)。また、コルゲーション間隔を放射方向により異なるように形成するとともに一部に切欠部を設けたダンパー(特許文献2)や、ダンパーの短径方向にフレームとの接着部を無くして、振幅が大きくとれるようにしたダンパーがある(特許文献3)。
【0004】
また、隣接する山部および谷部の離間距離(ロール間ピッチ)が、周方向における長径方向で大きく、短径方向で小さくなるコルゲーションを含み、基準平面からのコルゲーションの山部および谷部の高さ(ロール高)が、長径方向で最も高く、短径方向に至るにつれて低くなるダンパーがある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−269396号公報 (第1図〜第3図)
【特許文献2】特開昭61−114699号公報 (第1図、第2図)
【特許文献3】特開平8−51695号公報 (第1図〜第3図)
【特許文献4】特開2009−49719号公報 (第1図〜第3図)
【0006】
しかしながら、従来技術のダンパーでは、いずれも充分ではない。特に、トラック形もしくは楕円形のダンパーでは、長径方向と短径方向でスティフネスが異なるので、特定の部分に集中する応力を分散させて、振幅変位の直線性を確保するのは容易でない。さらに、短径方向で十分な振幅変位を確保するために、ダンパーの支持可動部の短径方向に小孔または切欠部を設ける場合には、短径方向、もしくは、長径方向のローリングを抑制できずに異音を生じる、等の問題が生じることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、長径方向と短径方向とを有するトラック形もしくは楕円形のダンパー及びこれを用いたスピーカーに関し、支持可動部の特定部分に集中する応力を分散させ、小入力信号に対する振幅変位の直線性確保、および、大入力信号に対する振幅制限という、相反する性能を両立させることができ、さらに、さらに上下振幅の対称性がよく、ローリングを抑制して、歪や異音の発生が少ないダンパーおよびスピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のダンパーは、ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、内周部と外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、内周部または外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、長円形と相似形の長円形を短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。
【0009】
好ましくは、本発明のダンパーは、支持可動部の凹状部が、短径方向における断面経路長を長くする付加山部もしくは付加谷部を、外周部と凹状部の最も外周部側の山部もしくは谷部との間にさらに有する。
【0010】
好ましくは、本発明のダンパーは、長円形が、長径方向に平行な2つの直線部と、短径方向において直線を結ぶ2つの半円弧部と、から形成されるトラック形であり、支持可動部のコルゲーションの凹状部が、トラック形の直線部に設けられる。
【0011】
好ましくは、本発明のダンパーは、内周部または外周部の一方が、長径方向および短径方向を有する長円形である場合に、内周部または外周部の他方が、半径が一定の円形である。
【0012】
また、本発明のダンパーは、ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、内周部と外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、内周部または外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、支持可動部のコルゲーションの山部もしくは谷部が、短径方向において長径方向よりも数多く形成され、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、長円形と相似形の長円形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。
【0013】
また、本発明のダンパーは、ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、内周部と外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、内周部または外周部が、長径方向に平行な2つの直線部と、短径方向において直線を結ぶ2つの半円弧部と、から形成されるトラック形であり、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、半円弧よりも中心角が大きい円弧を含み、トラック形と相似形のトラック形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。
【0014】
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、上記のダンパーを備える。
【0015】
以下、本発明の作用について説明する。
【0016】
本発明のダンパーは、支持可動部が円周状のコルゲーションで構成されるダンパーであって、内周部または外周部が長径方向および短径方向を有する長円形である。例えば、フレームと接合する外周部が、外形が長径方向と短径方向とを有する長円形(トラック形もしくは楕円形)であり、好ましくは、ボイスコイルボビンと接合する内周部も、円形もしくは長径方向と同一方向に長径方向を有し短径方向と同一方向に短径方向を有する長円形である。したがって、本発明のダンパーは、トラック形、もしくは、楕円形、等の長径方向と短径方向とを有する長円形の振動板を備えるスピーカー、ならびに、長円形のボイスコイルボビンを備えるスピーカーに適している。なお、内周部または外周部の一方が、長径方向および短径方向を有する長円形である場合には、内周部または外周部の他方が、半径が一定の円形であってもよい。
【0017】
本発明のダンパーの支持可動部のコルゲーションは、複数の山部と谷部とを有し、その中でも環状に連なる山部もしくは谷部が、長円形と相似形の長円形を短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。この環状曲線は、長円形を変形させた略長円形であり、具体的には、この長円形を短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線である。したがって、長円形が、長径方向に平行な2つの直線部と、短径方向において直線を結ぶ2つの円弧部と、から形成されるトラック形である場合には、支持可動部のコルゲーションの凹状部が、トラック形の直線部に設けられて、支持可動部の環状に連なる山部もしくは谷部が、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する。また、この場合には、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、半円弧よりも中心角が大きい円弧を含んで、トラック形と相似形のトラック形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定されるものであってもよい。
【0018】
その結果、支持可動部のコルゲーションでは、短径方向においてくびれた凹状部を形成する山部もしくは谷部が、長径方向と短径方向との中間の角度方向に剛性を高め、この部分に集中しやすい応力を分散させて、厳しい長期間の使用条件であってもダンパーが破断するのを防止することができる。すなわち、トラック形の直線部の幅よりも短径方向において狭くなるくびれた凹状部は、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する環状に連なる山部もしくは谷部が、相似形のトラック形に対してその直線部の内側に入り込むような剛性を高めるコルゲーションを形成するので、支持可動部での応力集中を分散させるとともに、スピーカー振動系のローリング振動を抑制することができ、動作の安定したスピーカーを実現することができる。
【0019】
また、支持可動部のコルゲーションでは、隣接する山部および谷部の離間距離(ロール間ピッチ)は、周方向における長径方向で大きく、くびれた凹状部を形成する短径方向で小さくなり、支持可動部のコルゲーションの山部もしくは谷部が、短径方向において長径方向と同一の数、形成される。すなわち、短径方向における支持可動部の凹状部では、くびれた部分にコルゲーションを設ける付加山部もしくは付加谷部を、外周部と凹状部の最も外周部側の山部もしくは谷部との間にさらに有していてもよい。短径方向における支持可動部の凹状部に設けられる付加山部ないし付加谷部は、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する環状に連なる山部もしくは谷部と異なり、環状曲線を形成しないコルゲーションである。凹状部に付加山部または付加谷部を設けると、短径方向における断面経路長を長くすることができ、支持可動部の特定の部分に応力が集中して破断するのを防止することができる。長径方向と短径方向を有する長円形のダンパーであっても、振幅変位の直線性を確保することができ、また、大入力信号に対する振幅制限および上下振幅の対称性を改善することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のダンパーは、長径方向と短径方向とを有するトラック形もしくは楕円形であっても、支持可動部の特定部分に集中する応力を分散させて、小入力信号に対する振幅変位の直線性確保、および、大入力信号に対する振幅制限という、相反する性能を両立させることができ、さらに上下振幅の対称性がよく、ローリングを抑制して、歪や異音の発生が少ないダンパー、およびこれを用いたスピーカーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1について説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態によるダンパー7aについて説明する図である。(実施例1)
【図3】比較例のダンパー8について説明する図である。(比較例1)
【図4】本発明のダンパー7aの応力分布を表す図である。(実施例1)
【図5】比較例のダンパー8の応力分布を表す図である。(比較例1)
【図6】本発明の他の好ましい実施形態によるダンパー7bについて説明する図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態によるダンパー及びこれを用いたスピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する図である。図1(a)は、動電型スピーカー1を前面側斜め上方から見た斜視図であり、図1(b)は、動電型スピーカー1を構成する磁気回路10を前面側斜め上方から見た拡大斜視図である。本実施例の動電型スピーカー1は、長径方向長が約7cm、短径方向長が約3cmのトラック形のスピーカー振動板2を有する細長形の動電型スピーカーである。なお、後述するように、動電型スピーカー1の一部の構造や、内部構造等は、省略している。
【0024】
外形及び内形がトラック形でコーン形状を有するスピーカー振動板2は、エッジ3によってその外周端を支持されており、エッジ3の外周端は、フレーム6に固定されている。また、スピーカー振動板2の内周端には、ボビンならびにコイルから成る(図示しない)ボイスコイル4が連結している。スピーカー振動板2には外形が略トラック形状のドーム状のダストキャップ5が接着されている。また、フレーム6は、トラック形のスピーカー振動板2に対応した細長形状であり、フレーム6に固定される磁気回路10も、短径方向長以下の幅が狭い細長形状を有している。図1(a)において、フレーム6の窓の奥に後述するダンパー7aが露出しており、動電型スピーカー1を側面視する場合には、ボイスコイル4のボビンも露出する。したがって、動電型スピーカー1は、ディスプレイ等の機器が有する表示部の側面など、スピーカーを取り付ける幅が少ない機器に適するスピーカーである。
【0025】
磁気回路10は、フレーム6に固定される細長形のトッププレート11と、断面形状がトラック形の長円筒形状であってトッププレート11の中央に形成されたトラック形孔に挿入されるセンターポール12と、センターポール12を中央に配置する細長形のアンダープレート14と、トッププレート11およびアンダープレート14に狭持されるマグネット15と、から構成される。トッププレート11およびセンターポール12は、均等な幅を有するトラック形磁気空隙13を形成する。すなわち、磁気回路10は、トラック形磁気空隙13を有する外磁型磁気回路であり、磁気回路10の長径方向及び短径方向は、トラック形のスピーカー振動板2の長径方向および短径方向と一致している。なお、点A−A’を結ぶ直線が延びる方向が長径方向であり、また、点B−B’を結ぶ直線が延びる方向が短径方向である。
【0026】
ボイスコイル4は、断面形状がトラック形の長円筒形に形成したボビンと、その一端側に巻回されて音声電流が供給されるコイルと、から形成される。ボビンは、コイルが巻回されない他端側に近い外側の側面が、スピーカー振動板2の内周端に接着剤により連結される。ボイスコイル4は、後述する本実施例のダンパー7aにより、振動可能に支持されており、コイルは、後述する磁気回路10のトラック形磁気空隙13に配置される。したがって、スピーカー振動板2、エッジ3、ボイスコイル4、および、ダンパー7aからなるスピーカー振動系は、フレーム6に対して振動可能に支持される。動電型スピーカー1では、ボイスコイル4のコイルに音声電流が供給されると、磁気空隙13に配置されたボイスコイル4に駆動力が作用し、ボイスコイル4は前後方向に振動し、連結されたスピーカー振動板2も前後方向に振動する。なお、動電型スピーカー1において前後とは、スピーカー振動板2が振動する場合に、ボイスコイル4、ダンパー7a、および、磁気回路10が取り付けられる側を後側とし、スピーカー振動板2が露出する側を前側としている。
【0027】
図2は、本発明の好ましい実施形態によるダンパー7aについて説明する図である。具体的には、図2(a)は、ダンパー7aの平面図であり、図2(b)は、ダンパー7aを前面側斜め上方から見た斜視図である。ダンパー7aは、綿およびポリエステル繊維の複数の縦糸及び横糸が概略直交する織布に、フェノール樹脂を含浸したプリプレグを基材とし、金型で加熱成型されて、内周および外周を切断されて形成されるトラック形のダンパーである。ダンパー7aの外周の長径方向長は約50mm、短径方向長は約26mm、そして、トラック形の円弧の半径は約13mmである。また、ダンパー7aの内周の長径方向長は約19mm、短径方向長は約9mm、そして、トラック形の円弧の半径は約4.5mmである。
【0028】
ダンパー7aは、ボイスコイル4のボビンと接合するトラック形の内周部71と、フレーム6と接合する平面を備えるトラック形の外周部72と、内周部71と外周部72とを連結する半径方向の断面が波形であり、周方向の形状がトラック形状のコルゲーションから構成される支持可動部73と、を備える。ダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションは、具体的には、3つの山部74と、2つの谷部75と、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76および付加谷部77と、を有する。図2(a)に示す平面図では、山部74を実線で記載し、谷部75および付加谷部77を点線で記載している。支持可動部73のコルゲーションの隣接する2つの山部74、および、それらの中間に位置する谷部75は、所定の角度を有するV字型溝を形成する。なお、山部とは、スピーカー振動板2が取り付けられる前側から見た場合に凸状のロールを形成する稜線を含む部分を指し、谷部とは、前側から見た場合に凹状のロールを形成する谷線を含む部分を指す。支持可動部73のコルゲーションは、半径方向の断面形状が波形になるので、前側から見る場合と後側から見る場合とでは、山部と谷部が入れ替わることになる。
【0029】
ダンパー7aはトラック形の支持可動部73を有するので、その半径方向の断面形状は、コルゲーションを形成する波形であって、周方向の角度によって変化する。例えば、支持可動部73の最も内周側の山部は、長径方向(O−A方向、O−A’方向。もしくは、長円形の短辺方向。)において周方向に円弧状であり、短径方向(O−B方向、O−B’方向。もしくは、長円形の長辺方向。)において直線状のトラック形である。また、例えば、支持可動部73の最も外周側の山部は、長径方向において周方向に円弧状の山部のみを形成する。したがって、トラック形であるダンパー7aの場合には、支持可動部73のコルゲーションを規定する山部74および谷部75の離間距離(ロール間ピッチ)、基準平面からの高さ(ロール高)、ならびに、山部74および谷部75で形成されるV字型溝の角度は、長径方向と短径方向とで相互に変化する関係にある。また、支持可動部73のコルゲーションの山部は、長径方向において短径方向よりも数多く形成され、支持可動部73のコルゲーションの谷部は、付加谷部77を含めると、短径方向において長径方向と同一数形成されている。
【0030】
さらに、ダンパー7aは、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76を有しているので、図示する支持可動部73の山部74は、内周部71および外周部72のトラック形状と略相似形のトラック形を変形させた環状曲線を形成する。また、図示する支持可動部73の谷部75も、トラック形を変形させた環状曲線を形成する。すなわち、短径方向に設けられる凹状部76では、コルゲーションの離間距離(ロール間ピッチ)が、短径方向を規定する短軸B―B’に近づくにつれて徐々に小さくなるように変化して、ダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションを形成する山部74および谷部75は、図示するような瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する。
【0031】
例えば、図示する瓢箪形の環状曲線を形成する支持可動部73の山部74は、長径方向で半円弧よりも中心角が大きい円弧を含むようにして、短径方向でこれらを滑らかに連続させるようにして形成する。すなわち、トラック形が、中心角が180°の半円弧を直線で結んで形成されるのに対して、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線は、半円弧よりも中心角が大きい円弧を含んでいて、トラック形の直線部に相当する短径方向を、凹状部76を形成するように滑らかに連結する曲線で結んだ形状であればよい。半円弧よりも中心角が大きい円弧は、その両端点を結ぶ線分の距離が、半円弧の直径よりも小さくなるので、長円形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線を形成し、凹状部76を形成するのに適している。その結果、支持可動部73のコルゲーションの凹状部76は、図示するようにトラック形の直線部に設けられる。
【0032】
また、本実施例のダンパー7aの場合には、支持可動部73の凹状部76に、短径方向における断面経路長を長くする付加谷部77が形成されている。付加谷部77は、図示するように、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する環状に連なる山部74もしくは谷部75と異なり、環状曲線を形成しないコルゲーションである。したがって、支持可動部73の凹状部76では、隣接する山部および谷部の離間距離(ロール間ピッチ)は、周方向における長径方向で大きく、くびれた凹状部を形成する短径方向で小さくなる。
【0033】
本実施例のダンパー7aは、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76を有しており、さらに、断面経路長を長くする付加谷部77が形成されているので、ダンパー7aがトラック形であっても、支持可動部73の特定部分に集中する応力を分散させて、全周方向に渡ってほぼ一定のスティフネス(もしくはコンプライアンス)を得て、振幅変位の直線性を確保することができ、また、大入力信号に対する振幅制限および上下振幅の対称性を改善することができる。
【0034】
図3は、比較例のダンパー8について説明する図であり、図3(a)は、ダンパー8の平面図であり、図3(b)は、ダンパー8を前面側斜め上方から見た拡大斜視図である。比較例のダンパー8は、先の実施例のダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションの形状において相違する。つまり、ダンパー7aのトラック形の内周部71および外周部72の形状寸法と、ダンパー8のトラック形の内周部81および外周部82の形状寸法と、は、ほぼ等しいので、共通する部分については説明を省略する。
【0035】
比較例のダンパー8の支持可動部83のコルゲーションは、3つの山部84と2つの谷部85とを有する点で、実施例のダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションと一致する。ダンパー7aとダンパー8との相違は、支持可動部が短径方向の二カ所にくびれた凹状部76と、ここに付加谷部77とを備えるか否かの違いであり、すなわち、支持可動部の山部もしくは谷部が、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線であるか、トラック形であるかの違いである。
【0036】
図4は、実施例のダンパー7aを用いる動電型スピーカー1のスピーカー振動系について、ボイスコイル4およびダンパー7aの応力分布を表す図である。動電型スピーカー1のスピーカー振動板2が振動して音声を再生する場合には、ダンパー7aの外周部72は、(図示しない)フレーム6に固着されて振動しない。一方で、図示するように、ボイスコイル4のボビンに固着される内周部71は、振動系が振動するz方向(図示する上下方向)に大きく変位する場合がある。その結果、ダンパー7aには応力が加わり、図4のような応力分布特性図として表される。なお、図4の応力分布特性図は、約1Nの荷重を加えた場合であって、応力分布はグレー色の濃淡で表されており、右端のバー表示の上側の色の部分が、応力が大きく、下側の色の部分が、応力が小さいことを表している。
【0037】
また、図5は、比較例のダンパー8を用いる動電型スピーカー1のスピーカー振動系について、ボイスコイル4およびダンパー8の応力分布を表す図である。ボイスコイル4に加えられる駆動力は、図4の実施例のダンパー7aの場合と同様である。したがって、共通する説明を省略する。
【0038】
図4に示すように、実施例のダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションでは、短径方向においてくびれた凹状部76を形成する山部74もしくは谷部75を有しているので、長径方向と短径方向との中間の角度方向の部分(図示する73x)の剛性が高められる結果、この部分に集中しやすい応力が分散している。一方で、図5に示すように、比較例のダンパー8の支持可動部83のコルゲーションでは、長径方向と短径方向との中間の角度方向の部分(図示する83x)に高い応力が働いている。したがって、実施例のダンパー7aは、比較例のダンパー8よりも、厳しい長期間の使用条件であってもダンパーが破断するのを防止することができる。
【0039】
実施例のダンパー7aでは、短径方向においてくびれた凹状部76を形成する山部74もしくは谷部75を有しており、すなわち、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する環状に連なる山部74もしくは谷部75を有しているので、内周部71ないし外周部72に相似形のトラック形に対してその直線部の内側に入り込むような剛性を高めるコルゲーションを形成する。また、これらの凹状部76では、くびれた部分にコルゲーションを設ける付加谷部77をさらに有しているので、短径方向に高くなる応力分布を分散させる。したがって、実施例のダンパー7aは、支持可動部73での応力集中を分散させて、コルゲーションが破断するのを防止するとともに、スピーカー振動系のローリング振動を抑制して、動作の安定した動電型スピーカー1を実現する。
【0040】
また、支持可動部73で集中する応力分布を分散させる結果、長径方向と短径方向を有するトラック形のダンパー7aであっても、振幅変位の直線性を確保することができ、また、動電型スピーカー1の大入力信号に対する振幅制限および上下振幅の対称性を改善することができる。実施例のダンパー7aを用いる動電型スピーカー1は、比較例のダンパー8を用いる場合に比較して、上下振幅の対称性がよく、ローリングを抑制して、歪や異音の発生が少ないスピーカーになる。
【0041】
なお、支持可動部73の山部74もしくは谷部75を形成する瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線は、上記のような半円弧よりも中心角が大きい円弧を含むようにして形成する場合のみでなく、トラック形の直線部をその内側に入り込むような曲線に置き換えてくびれた凹状部76を形成する環状の曲線であっても良い。また、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線は、中心点が異なる2つの円を一部が重なるように配置して、重ね合わされたところを滑らかな曲線で連結して、最も外側の輪郭を利用して形成する環状の曲線であってもよい。もちろん、くびれた凹状部76を形成する曲線は、長径方向に配置される2つの円弧の端点を結ぶ他の曲線であっても良く、例えば、短径方向で中心点Oとの距離が最も短くなるような双曲線を利用して形成するものであってもよい。
【実施例2】
【0042】
図6は、本発明の他の好ましい実施形態によるダンパー7bについて説明する平面図である。ダンパー7bは、先の実施例のダンパー7aとは異なり、(図示しない)円筒形(丸形)のボビンを含むボイスコイルに対応するダンパーである。ただし、ダンパー7bは、綿およびポリエステル繊維の複数の縦糸及び横糸が概略直交する織布に、フェノール樹脂を含浸したプリプレグを基材として、金型で加熱成型されて、内周および外周を切断されて形成されるトラック形のダンパーである点では、先の実施例のダンパー7aと同様である。したがって、共通する説明は、省略する。
【0043】
ダンパー7bは、ボイスコイル4の円筒形(丸形)のボビンと接合する丸形の内周部71と、フレーム6と接合する平面を備えるトラック形の外周部72と、内周部71と外周部72とを連結する半径方向の断面が波形であり、周方向の形状がトラック形状のコルゲーションから構成される支持可動部73と、を備える。ダンパー7bの内周部71の円弧の半径は約4.5mmである。また、ダンパー7bの外周部72の長径方向長は約50mm、短径方向長は約26mm、そして、トラック形の円弧の半径は約13mmである。
【0044】
ダンパー7bの支持可動部73のコルゲーションは、具体的には、3つの山部74と、2つの谷部75と、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76および付加谷部77と、を有する。図6に示す平面図では、山部74を実線で記載し、谷部75および付加谷部77を点線で記載している。支持可動部73のコルゲーションの隣接する2つの山部74、および、それらの中間に位置する谷部75は、所定の角度を有するV字型溝を形成する。
【0045】
また、ダンパー7bは、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76を有しているので、図示する支持可動部73の山部74は、内周部71および外周部72のトラック形状と略相似形のトラック形を変形させた環状曲線を形成する。また、図示する支持可動部73の谷部75も、外周部72のトラック形と相似なトラック形を変形させた瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する。その結果、支持可動部73のコルゲーションの凹状部76は、図示するようにトラック形の直線部に設けられる。
【0046】
本実施例のダンパー7bは、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76を有しており、さらに、断面経路長を長くする付加谷部77が形成されているので、内周部71が円形で外周部72がトラック形であっても、支持可動部73の特定部分に集中する応力を分散させて、全周方向に渡ってほぼ一定のスティフネス(もしくはコンプライアンス)を得て、振幅変位の直線性を確保することができ、また、大入力信号に対する振幅制限および上下振幅の対称性を改善することができる。
【0047】
本発明のダンパーは、実施例のダンパー7aまたは7bのような、内周部71および外周部72が同一の基準平面上にある平ダンパーであれば良い。ただし、その外周部72が立ち上がりダンパーの立ち上がり部、もしくは、立ち下がりダンパーの立ち下がり部を有していても良い。外周部72が立ち上がり部、もしくは、立ち下がり部を有する場合には、振幅変位が大きなスピーカーを設計する場合であっても、磁気回路もしくはフレームとダンパーとの距離を大きく設計でき、磁気回路もしくはフレームとダンパーとが接触して異音を生じる等の問題が改善される。
【0048】
また、本発明のダンパーは、先の実施例のダンパー7aのように内周部71および外周部72の両方がトラック形を含む長円形である場合に限られない。後者の実施例のダンパー7bのように、内周部71が円形であり、かつ、外周部72がトラック形であるダンパーであってもよく、さらに、内周部71がボイスコイルのボビンの形状に対応する長円形である場合には、細長形のスピーカーを実現するダンパーで有れば、その外周部72は、円形でも長円形でも矩形であっても良く、上記実施例に限定されない。
【0049】
なお、本発明のスピーカー用ダンパーの基材は、綿およびポリエステル繊維、もしくはアラミド繊維の織布もしくは不織布でもよく、含浸する樹脂も、フェノール樹脂、もしくは、メラミン樹脂でもよい。本発明は、コルゲーションを備えた硬化する樹脂を含むダンパーであれば、基材の材料、樹脂の材料に制限されない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のダンパーは、これを用いたスピーカーに限られず、ダンパーと、ボイスコイル等の振動系を備える他の加振器や、センサー等の動電型の電機−機械変換器にも適用が可能である。ダンパーの内周部に接合するのは、磁気回路であってもよく、磁気回路が振動する加振器に適する。
【符号の説明】
【0051】
1 動電型スピーカー
2 スピーカー振動板
3 エッジ
4 ボイスコイル
5 ダストキャップ
6 フレーム
7a、7b ダンパー
8 ダンパー
71、81 内周部
72、82 外周部
73、83 支持可動部
74、84 山部
75、85 谷部
76 凹状部
77 付加谷部
10 磁気回路
11 トッププレート
12 センターポール
13 磁気空隙
14 アンダープレート
15 マグネット
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響再生のためのスピーカーに用いるダンパー、およびこれを用いたスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカー用のダンパーは、振動板及びボイスコイルボビンを含む振動系を所定位置に支持し、かつ、良好に振動可能にするために、その内周部がボイスコイルボビンに接合し、その外周部がフレーム又は磁気回路等に接合し、支持可動部が内周部と外周部とを連結する。従来のダンパーでは、支持可動部を波形のコルゲーションとしたコルゲーションダンパーが多く使用され、綿糸、アラミド繊維糸等の織布にフェノール樹脂、メラミン樹脂等の樹脂を含浸したプリプレグを基材として、金型で加熱成型することにより製造される。スピーカーが長円形(トラック形、もしくは、楕円形)等の、長径方向と短径方向とを有する振動板を備える場合には、ダンパーの内周部および外周部と、支持可動部のコルゲーションとは、トラック形もしくは楕円形に形成されることが多い。
【0003】
コルゲーションダンパーの形状および材料などについては、小入力信号に対する振幅変位の直線性確保、および、大入力信号に対する振幅制限という、相反する性能が求められるので、従来から様々な検討がなされている。また、トラック形もしくは楕円形のダンパーでは、短径方向で十分な振幅変位が確保できず、歪音が発生する、あるいは、ボイスコイルがローリングして異音を生じる、等の問題が発生しやすい。そこで、例えば、長径方向のコルゲーションの数が短径方向のコルゲーションの数より多いダンパーを備えるスピーカーがある(特許文献1)。また、コルゲーション間隔を放射方向により異なるように形成するとともに一部に切欠部を設けたダンパー(特許文献2)や、ダンパーの短径方向にフレームとの接着部を無くして、振幅が大きくとれるようにしたダンパーがある(特許文献3)。
【0004】
また、隣接する山部および谷部の離間距離(ロール間ピッチ)が、周方向における長径方向で大きく、短径方向で小さくなるコルゲーションを含み、基準平面からのコルゲーションの山部および谷部の高さ(ロール高)が、長径方向で最も高く、短径方向に至るにつれて低くなるダンパーがある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−269396号公報 (第1図〜第3図)
【特許文献2】特開昭61−114699号公報 (第1図、第2図)
【特許文献3】特開平8−51695号公報 (第1図〜第3図)
【特許文献4】特開2009−49719号公報 (第1図〜第3図)
【0006】
しかしながら、従来技術のダンパーでは、いずれも充分ではない。特に、トラック形もしくは楕円形のダンパーでは、長径方向と短径方向でスティフネスが異なるので、特定の部分に集中する応力を分散させて、振幅変位の直線性を確保するのは容易でない。さらに、短径方向で十分な振幅変位を確保するために、ダンパーの支持可動部の短径方向に小孔または切欠部を設ける場合には、短径方向、もしくは、長径方向のローリングを抑制できずに異音を生じる、等の問題が生じることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、長径方向と短径方向とを有するトラック形もしくは楕円形のダンパー及びこれを用いたスピーカーに関し、支持可動部の特定部分に集中する応力を分散させ、小入力信号に対する振幅変位の直線性確保、および、大入力信号に対する振幅制限という、相反する性能を両立させることができ、さらに、さらに上下振幅の対称性がよく、ローリングを抑制して、歪や異音の発生が少ないダンパーおよびスピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のダンパーは、ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、内周部と外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、内周部または外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、長円形と相似形の長円形を短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。
【0009】
好ましくは、本発明のダンパーは、支持可動部の凹状部が、短径方向における断面経路長を長くする付加山部もしくは付加谷部を、外周部と凹状部の最も外周部側の山部もしくは谷部との間にさらに有する。
【0010】
好ましくは、本発明のダンパーは、長円形が、長径方向に平行な2つの直線部と、短径方向において直線を結ぶ2つの半円弧部と、から形成されるトラック形であり、支持可動部のコルゲーションの凹状部が、トラック形の直線部に設けられる。
【0011】
好ましくは、本発明のダンパーは、内周部または外周部の一方が、長径方向および短径方向を有する長円形である場合に、内周部または外周部の他方が、半径が一定の円形である。
【0012】
また、本発明のダンパーは、ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、内周部と外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、内周部または外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、支持可動部のコルゲーションの山部もしくは谷部が、短径方向において長径方向よりも数多く形成され、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、長円形と相似形の長円形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。
【0013】
また、本発明のダンパーは、ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、内周部と外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、内周部または外周部が、長径方向に平行な2つの直線部と、短径方向において直線を結ぶ2つの半円弧部と、から形成されるトラック形であり、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、半円弧よりも中心角が大きい円弧を含み、トラック形と相似形のトラック形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。
【0014】
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、上記のダンパーを備える。
【0015】
以下、本発明の作用について説明する。
【0016】
本発明のダンパーは、支持可動部が円周状のコルゲーションで構成されるダンパーであって、内周部または外周部が長径方向および短径方向を有する長円形である。例えば、フレームと接合する外周部が、外形が長径方向と短径方向とを有する長円形(トラック形もしくは楕円形)であり、好ましくは、ボイスコイルボビンと接合する内周部も、円形もしくは長径方向と同一方向に長径方向を有し短径方向と同一方向に短径方向を有する長円形である。したがって、本発明のダンパーは、トラック形、もしくは、楕円形、等の長径方向と短径方向とを有する長円形の振動板を備えるスピーカー、ならびに、長円形のボイスコイルボビンを備えるスピーカーに適している。なお、内周部または外周部の一方が、長径方向および短径方向を有する長円形である場合には、内周部または外周部の他方が、半径が一定の円形であってもよい。
【0017】
本発明のダンパーの支持可動部のコルゲーションは、複数の山部と谷部とを有し、その中でも環状に連なる山部もしくは谷部が、長円形と相似形の長円形を短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される。この環状曲線は、長円形を変形させた略長円形であり、具体的には、この長円形を短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線である。したがって、長円形が、長径方向に平行な2つの直線部と、短径方向において直線を結ぶ2つの円弧部と、から形成されるトラック形である場合には、支持可動部のコルゲーションの凹状部が、トラック形の直線部に設けられて、支持可動部の環状に連なる山部もしくは谷部が、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する。また、この場合には、支持可動部のコルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、半円弧よりも中心角が大きい円弧を含んで、トラック形と相似形のトラック形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定されるものであってもよい。
【0018】
その結果、支持可動部のコルゲーションでは、短径方向においてくびれた凹状部を形成する山部もしくは谷部が、長径方向と短径方向との中間の角度方向に剛性を高め、この部分に集中しやすい応力を分散させて、厳しい長期間の使用条件であってもダンパーが破断するのを防止することができる。すなわち、トラック形の直線部の幅よりも短径方向において狭くなるくびれた凹状部は、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する環状に連なる山部もしくは谷部が、相似形のトラック形に対してその直線部の内側に入り込むような剛性を高めるコルゲーションを形成するので、支持可動部での応力集中を分散させるとともに、スピーカー振動系のローリング振動を抑制することができ、動作の安定したスピーカーを実現することができる。
【0019】
また、支持可動部のコルゲーションでは、隣接する山部および谷部の離間距離(ロール間ピッチ)は、周方向における長径方向で大きく、くびれた凹状部を形成する短径方向で小さくなり、支持可動部のコルゲーションの山部もしくは谷部が、短径方向において長径方向と同一の数、形成される。すなわち、短径方向における支持可動部の凹状部では、くびれた部分にコルゲーションを設ける付加山部もしくは付加谷部を、外周部と凹状部の最も外周部側の山部もしくは谷部との間にさらに有していてもよい。短径方向における支持可動部の凹状部に設けられる付加山部ないし付加谷部は、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する環状に連なる山部もしくは谷部と異なり、環状曲線を形成しないコルゲーションである。凹状部に付加山部または付加谷部を設けると、短径方向における断面経路長を長くすることができ、支持可動部の特定の部分に応力が集中して破断するのを防止することができる。長径方向と短径方向を有する長円形のダンパーであっても、振幅変位の直線性を確保することができ、また、大入力信号に対する振幅制限および上下振幅の対称性を改善することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のダンパーは、長径方向と短径方向とを有するトラック形もしくは楕円形であっても、支持可動部の特定部分に集中する応力を分散させて、小入力信号に対する振幅変位の直線性確保、および、大入力信号に対する振幅制限という、相反する性能を両立させることができ、さらに上下振幅の対称性がよく、ローリングを抑制して、歪や異音の発生が少ないダンパー、およびこれを用いたスピーカーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1について説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態によるダンパー7aについて説明する図である。(実施例1)
【図3】比較例のダンパー8について説明する図である。(比較例1)
【図4】本発明のダンパー7aの応力分布を表す図である。(実施例1)
【図5】比較例のダンパー8の応力分布を表す図である。(比較例1)
【図6】本発明の他の好ましい実施形態によるダンパー7bについて説明する図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態によるダンパー及びこれを用いたスピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する図である。図1(a)は、動電型スピーカー1を前面側斜め上方から見た斜視図であり、図1(b)は、動電型スピーカー1を構成する磁気回路10を前面側斜め上方から見た拡大斜視図である。本実施例の動電型スピーカー1は、長径方向長が約7cm、短径方向長が約3cmのトラック形のスピーカー振動板2を有する細長形の動電型スピーカーである。なお、後述するように、動電型スピーカー1の一部の構造や、内部構造等は、省略している。
【0024】
外形及び内形がトラック形でコーン形状を有するスピーカー振動板2は、エッジ3によってその外周端を支持されており、エッジ3の外周端は、フレーム6に固定されている。また、スピーカー振動板2の内周端には、ボビンならびにコイルから成る(図示しない)ボイスコイル4が連結している。スピーカー振動板2には外形が略トラック形状のドーム状のダストキャップ5が接着されている。また、フレーム6は、トラック形のスピーカー振動板2に対応した細長形状であり、フレーム6に固定される磁気回路10も、短径方向長以下の幅が狭い細長形状を有している。図1(a)において、フレーム6の窓の奥に後述するダンパー7aが露出しており、動電型スピーカー1を側面視する場合には、ボイスコイル4のボビンも露出する。したがって、動電型スピーカー1は、ディスプレイ等の機器が有する表示部の側面など、スピーカーを取り付ける幅が少ない機器に適するスピーカーである。
【0025】
磁気回路10は、フレーム6に固定される細長形のトッププレート11と、断面形状がトラック形の長円筒形状であってトッププレート11の中央に形成されたトラック形孔に挿入されるセンターポール12と、センターポール12を中央に配置する細長形のアンダープレート14と、トッププレート11およびアンダープレート14に狭持されるマグネット15と、から構成される。トッププレート11およびセンターポール12は、均等な幅を有するトラック形磁気空隙13を形成する。すなわち、磁気回路10は、トラック形磁気空隙13を有する外磁型磁気回路であり、磁気回路10の長径方向及び短径方向は、トラック形のスピーカー振動板2の長径方向および短径方向と一致している。なお、点A−A’を結ぶ直線が延びる方向が長径方向であり、また、点B−B’を結ぶ直線が延びる方向が短径方向である。
【0026】
ボイスコイル4は、断面形状がトラック形の長円筒形に形成したボビンと、その一端側に巻回されて音声電流が供給されるコイルと、から形成される。ボビンは、コイルが巻回されない他端側に近い外側の側面が、スピーカー振動板2の内周端に接着剤により連結される。ボイスコイル4は、後述する本実施例のダンパー7aにより、振動可能に支持されており、コイルは、後述する磁気回路10のトラック形磁気空隙13に配置される。したがって、スピーカー振動板2、エッジ3、ボイスコイル4、および、ダンパー7aからなるスピーカー振動系は、フレーム6に対して振動可能に支持される。動電型スピーカー1では、ボイスコイル4のコイルに音声電流が供給されると、磁気空隙13に配置されたボイスコイル4に駆動力が作用し、ボイスコイル4は前後方向に振動し、連結されたスピーカー振動板2も前後方向に振動する。なお、動電型スピーカー1において前後とは、スピーカー振動板2が振動する場合に、ボイスコイル4、ダンパー7a、および、磁気回路10が取り付けられる側を後側とし、スピーカー振動板2が露出する側を前側としている。
【0027】
図2は、本発明の好ましい実施形態によるダンパー7aについて説明する図である。具体的には、図2(a)は、ダンパー7aの平面図であり、図2(b)は、ダンパー7aを前面側斜め上方から見た斜視図である。ダンパー7aは、綿およびポリエステル繊維の複数の縦糸及び横糸が概略直交する織布に、フェノール樹脂を含浸したプリプレグを基材とし、金型で加熱成型されて、内周および外周を切断されて形成されるトラック形のダンパーである。ダンパー7aの外周の長径方向長は約50mm、短径方向長は約26mm、そして、トラック形の円弧の半径は約13mmである。また、ダンパー7aの内周の長径方向長は約19mm、短径方向長は約9mm、そして、トラック形の円弧の半径は約4.5mmである。
【0028】
ダンパー7aは、ボイスコイル4のボビンと接合するトラック形の内周部71と、フレーム6と接合する平面を備えるトラック形の外周部72と、内周部71と外周部72とを連結する半径方向の断面が波形であり、周方向の形状がトラック形状のコルゲーションから構成される支持可動部73と、を備える。ダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションは、具体的には、3つの山部74と、2つの谷部75と、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76および付加谷部77と、を有する。図2(a)に示す平面図では、山部74を実線で記載し、谷部75および付加谷部77を点線で記載している。支持可動部73のコルゲーションの隣接する2つの山部74、および、それらの中間に位置する谷部75は、所定の角度を有するV字型溝を形成する。なお、山部とは、スピーカー振動板2が取り付けられる前側から見た場合に凸状のロールを形成する稜線を含む部分を指し、谷部とは、前側から見た場合に凹状のロールを形成する谷線を含む部分を指す。支持可動部73のコルゲーションは、半径方向の断面形状が波形になるので、前側から見る場合と後側から見る場合とでは、山部と谷部が入れ替わることになる。
【0029】
ダンパー7aはトラック形の支持可動部73を有するので、その半径方向の断面形状は、コルゲーションを形成する波形であって、周方向の角度によって変化する。例えば、支持可動部73の最も内周側の山部は、長径方向(O−A方向、O−A’方向。もしくは、長円形の短辺方向。)において周方向に円弧状であり、短径方向(O−B方向、O−B’方向。もしくは、長円形の長辺方向。)において直線状のトラック形である。また、例えば、支持可動部73の最も外周側の山部は、長径方向において周方向に円弧状の山部のみを形成する。したがって、トラック形であるダンパー7aの場合には、支持可動部73のコルゲーションを規定する山部74および谷部75の離間距離(ロール間ピッチ)、基準平面からの高さ(ロール高)、ならびに、山部74および谷部75で形成されるV字型溝の角度は、長径方向と短径方向とで相互に変化する関係にある。また、支持可動部73のコルゲーションの山部は、長径方向において短径方向よりも数多く形成され、支持可動部73のコルゲーションの谷部は、付加谷部77を含めると、短径方向において長径方向と同一数形成されている。
【0030】
さらに、ダンパー7aは、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76を有しているので、図示する支持可動部73の山部74は、内周部71および外周部72のトラック形状と略相似形のトラック形を変形させた環状曲線を形成する。また、図示する支持可動部73の谷部75も、トラック形を変形させた環状曲線を形成する。すなわち、短径方向に設けられる凹状部76では、コルゲーションの離間距離(ロール間ピッチ)が、短径方向を規定する短軸B―B’に近づくにつれて徐々に小さくなるように変化して、ダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションを形成する山部74および谷部75は、図示するような瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する。
【0031】
例えば、図示する瓢箪形の環状曲線を形成する支持可動部73の山部74は、長径方向で半円弧よりも中心角が大きい円弧を含むようにして、短径方向でこれらを滑らかに連続させるようにして形成する。すなわち、トラック形が、中心角が180°の半円弧を直線で結んで形成されるのに対して、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線は、半円弧よりも中心角が大きい円弧を含んでいて、トラック形の直線部に相当する短径方向を、凹状部76を形成するように滑らかに連結する曲線で結んだ形状であればよい。半円弧よりも中心角が大きい円弧は、その両端点を結ぶ線分の距離が、半円弧の直径よりも小さくなるので、長円形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線を形成し、凹状部76を形成するのに適している。その結果、支持可動部73のコルゲーションの凹状部76は、図示するようにトラック形の直線部に設けられる。
【0032】
また、本実施例のダンパー7aの場合には、支持可動部73の凹状部76に、短径方向における断面経路長を長くする付加谷部77が形成されている。付加谷部77は、図示するように、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する環状に連なる山部74もしくは谷部75と異なり、環状曲線を形成しないコルゲーションである。したがって、支持可動部73の凹状部76では、隣接する山部および谷部の離間距離(ロール間ピッチ)は、周方向における長径方向で大きく、くびれた凹状部を形成する短径方向で小さくなる。
【0033】
本実施例のダンパー7aは、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76を有しており、さらに、断面経路長を長くする付加谷部77が形成されているので、ダンパー7aがトラック形であっても、支持可動部73の特定部分に集中する応力を分散させて、全周方向に渡ってほぼ一定のスティフネス(もしくはコンプライアンス)を得て、振幅変位の直線性を確保することができ、また、大入力信号に対する振幅制限および上下振幅の対称性を改善することができる。
【0034】
図3は、比較例のダンパー8について説明する図であり、図3(a)は、ダンパー8の平面図であり、図3(b)は、ダンパー8を前面側斜め上方から見た拡大斜視図である。比較例のダンパー8は、先の実施例のダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションの形状において相違する。つまり、ダンパー7aのトラック形の内周部71および外周部72の形状寸法と、ダンパー8のトラック形の内周部81および外周部82の形状寸法と、は、ほぼ等しいので、共通する部分については説明を省略する。
【0035】
比較例のダンパー8の支持可動部83のコルゲーションは、3つの山部84と2つの谷部85とを有する点で、実施例のダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションと一致する。ダンパー7aとダンパー8との相違は、支持可動部が短径方向の二カ所にくびれた凹状部76と、ここに付加谷部77とを備えるか否かの違いであり、すなわち、支持可動部の山部もしくは谷部が、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線であるか、トラック形であるかの違いである。
【0036】
図4は、実施例のダンパー7aを用いる動電型スピーカー1のスピーカー振動系について、ボイスコイル4およびダンパー7aの応力分布を表す図である。動電型スピーカー1のスピーカー振動板2が振動して音声を再生する場合には、ダンパー7aの外周部72は、(図示しない)フレーム6に固着されて振動しない。一方で、図示するように、ボイスコイル4のボビンに固着される内周部71は、振動系が振動するz方向(図示する上下方向)に大きく変位する場合がある。その結果、ダンパー7aには応力が加わり、図4のような応力分布特性図として表される。なお、図4の応力分布特性図は、約1Nの荷重を加えた場合であって、応力分布はグレー色の濃淡で表されており、右端のバー表示の上側の色の部分が、応力が大きく、下側の色の部分が、応力が小さいことを表している。
【0037】
また、図5は、比較例のダンパー8を用いる動電型スピーカー1のスピーカー振動系について、ボイスコイル4およびダンパー8の応力分布を表す図である。ボイスコイル4に加えられる駆動力は、図4の実施例のダンパー7aの場合と同様である。したがって、共通する説明を省略する。
【0038】
図4に示すように、実施例のダンパー7aの支持可動部73のコルゲーションでは、短径方向においてくびれた凹状部76を形成する山部74もしくは谷部75を有しているので、長径方向と短径方向との中間の角度方向の部分(図示する73x)の剛性が高められる結果、この部分に集中しやすい応力が分散している。一方で、図5に示すように、比較例のダンパー8の支持可動部83のコルゲーションでは、長径方向と短径方向との中間の角度方向の部分(図示する83x)に高い応力が働いている。したがって、実施例のダンパー7aは、比較例のダンパー8よりも、厳しい長期間の使用条件であってもダンパーが破断するのを防止することができる。
【0039】
実施例のダンパー7aでは、短径方向においてくびれた凹状部76を形成する山部74もしくは谷部75を有しており、すなわち、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する環状に連なる山部74もしくは谷部75を有しているので、内周部71ないし外周部72に相似形のトラック形に対してその直線部の内側に入り込むような剛性を高めるコルゲーションを形成する。また、これらの凹状部76では、くびれた部分にコルゲーションを設ける付加谷部77をさらに有しているので、短径方向に高くなる応力分布を分散させる。したがって、実施例のダンパー7aは、支持可動部73での応力集中を分散させて、コルゲーションが破断するのを防止するとともに、スピーカー振動系のローリング振動を抑制して、動作の安定した動電型スピーカー1を実現する。
【0040】
また、支持可動部73で集中する応力分布を分散させる結果、長径方向と短径方向を有するトラック形のダンパー7aであっても、振幅変位の直線性を確保することができ、また、動電型スピーカー1の大入力信号に対する振幅制限および上下振幅の対称性を改善することができる。実施例のダンパー7aを用いる動電型スピーカー1は、比較例のダンパー8を用いる場合に比較して、上下振幅の対称性がよく、ローリングを抑制して、歪や異音の発生が少ないスピーカーになる。
【0041】
なお、支持可動部73の山部74もしくは谷部75を形成する瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線は、上記のような半円弧よりも中心角が大きい円弧を含むようにして形成する場合のみでなく、トラック形の直線部をその内側に入り込むような曲線に置き換えてくびれた凹状部76を形成する環状の曲線であっても良い。また、瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線は、中心点が異なる2つの円を一部が重なるように配置して、重ね合わされたところを滑らかな曲線で連結して、最も外側の輪郭を利用して形成する環状の曲線であってもよい。もちろん、くびれた凹状部76を形成する曲線は、長径方向に配置される2つの円弧の端点を結ぶ他の曲線であっても良く、例えば、短径方向で中心点Oとの距離が最も短くなるような双曲線を利用して形成するものであってもよい。
【実施例2】
【0042】
図6は、本発明の他の好ましい実施形態によるダンパー7bについて説明する平面図である。ダンパー7bは、先の実施例のダンパー7aとは異なり、(図示しない)円筒形(丸形)のボビンを含むボイスコイルに対応するダンパーである。ただし、ダンパー7bは、綿およびポリエステル繊維の複数の縦糸及び横糸が概略直交する織布に、フェノール樹脂を含浸したプリプレグを基材として、金型で加熱成型されて、内周および外周を切断されて形成されるトラック形のダンパーである点では、先の実施例のダンパー7aと同様である。したがって、共通する説明は、省略する。
【0043】
ダンパー7bは、ボイスコイル4の円筒形(丸形)のボビンと接合する丸形の内周部71と、フレーム6と接合する平面を備えるトラック形の外周部72と、内周部71と外周部72とを連結する半径方向の断面が波形であり、周方向の形状がトラック形状のコルゲーションから構成される支持可動部73と、を備える。ダンパー7bの内周部71の円弧の半径は約4.5mmである。また、ダンパー7bの外周部72の長径方向長は約50mm、短径方向長は約26mm、そして、トラック形の円弧の半径は約13mmである。
【0044】
ダンパー7bの支持可動部73のコルゲーションは、具体的には、3つの山部74と、2つの谷部75と、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76および付加谷部77と、を有する。図6に示す平面図では、山部74を実線で記載し、谷部75および付加谷部77を点線で記載している。支持可動部73のコルゲーションの隣接する2つの山部74、および、それらの中間に位置する谷部75は、所定の角度を有するV字型溝を形成する。
【0045】
また、ダンパー7bは、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76を有しているので、図示する支持可動部73の山部74は、内周部71および外周部72のトラック形状と略相似形のトラック形を変形させた環状曲線を形成する。また、図示する支持可動部73の谷部75も、外周部72のトラック形と相似なトラック形を変形させた瓢箪形、あるいは、達磨形の環状曲線を形成する。その結果、支持可動部73のコルゲーションの凹状部76は、図示するようにトラック形の直線部に設けられる。
【0046】
本実施例のダンパー7bは、短径方向の二カ所にくびれた凹状部76を有しており、さらに、断面経路長を長くする付加谷部77が形成されているので、内周部71が円形で外周部72がトラック形であっても、支持可動部73の特定部分に集中する応力を分散させて、全周方向に渡ってほぼ一定のスティフネス(もしくはコンプライアンス)を得て、振幅変位の直線性を確保することができ、また、大入力信号に対する振幅制限および上下振幅の対称性を改善することができる。
【0047】
本発明のダンパーは、実施例のダンパー7aまたは7bのような、内周部71および外周部72が同一の基準平面上にある平ダンパーであれば良い。ただし、その外周部72が立ち上がりダンパーの立ち上がり部、もしくは、立ち下がりダンパーの立ち下がり部を有していても良い。外周部72が立ち上がり部、もしくは、立ち下がり部を有する場合には、振幅変位が大きなスピーカーを設計する場合であっても、磁気回路もしくはフレームとダンパーとの距離を大きく設計でき、磁気回路もしくはフレームとダンパーとが接触して異音を生じる等の問題が改善される。
【0048】
また、本発明のダンパーは、先の実施例のダンパー7aのように内周部71および外周部72の両方がトラック形を含む長円形である場合に限られない。後者の実施例のダンパー7bのように、内周部71が円形であり、かつ、外周部72がトラック形であるダンパーであってもよく、さらに、内周部71がボイスコイルのボビンの形状に対応する長円形である場合には、細長形のスピーカーを実現するダンパーで有れば、その外周部72は、円形でも長円形でも矩形であっても良く、上記実施例に限定されない。
【0049】
なお、本発明のスピーカー用ダンパーの基材は、綿およびポリエステル繊維、もしくはアラミド繊維の織布もしくは不織布でもよく、含浸する樹脂も、フェノール樹脂、もしくは、メラミン樹脂でもよい。本発明は、コルゲーションを備えた硬化する樹脂を含むダンパーであれば、基材の材料、樹脂の材料に制限されない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のダンパーは、これを用いたスピーカーに限られず、ダンパーと、ボイスコイル等の振動系を備える他の加振器や、センサー等の動電型の電機−機械変換器にも適用が可能である。ダンパーの内周部に接合するのは、磁気回路であってもよく、磁気回路が振動する加振器に適する。
【符号の説明】
【0051】
1 動電型スピーカー
2 スピーカー振動板
3 エッジ
4 ボイスコイル
5 ダストキャップ
6 フレーム
7a、7b ダンパー
8 ダンパー
71、81 内周部
72、82 外周部
73、83 支持可動部
74、84 山部
75、85 谷部
76 凹状部
77 付加谷部
10 磁気回路
11 トッププレート
12 センターポール
13 磁気空隙
14 アンダープレート
15 マグネット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、該内周部と該外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、
該内周部または該外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、
該支持可動部の該コルゲーションの環状に連なる該山部もしくは該谷部が、該長円形と相似形の長円形を該短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される、
ダンパー。
【請求項2】
前記支持可動部の前記凹状部が、前記短径方向における断面経路長を長くする付加山部もしくは付加谷部を、前記外周部と該凹状部の最も外周部側の前記山部もしくは前記谷部との間にさらに有する、
請求項1に記載のダンパー。
【請求項3】
前記長円形が、前記長径方向に平行な2つの直線部と、前記短径方向において該直線を結ぶ2つの半円弧部と、から形成されるトラック形であり、前記支持可動部の前記コルゲーションの前記凹状部が、該トラック形の該直線部に設けられる、
請求項1または2に記載のダンパー。
【請求項4】
前記内周部または前記外周部の一方が、長径方向および短径方向を有する長円形である場合に、該内周部または該外周部の他方が、半径が一定の円形である、
請求項1から3のいずれかに記載のダンパー。
【請求項5】
ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、該内周部と該外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、
該内周部または該外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、
該支持可動部の該コルゲーションの該山部もしくは該谷部が、該短径方向において該長径方向よりも数多く形成されて、
該支持可動部の該コルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、該長円形と相似形の長円形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される、
ダンパー。
【請求項6】
ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、該内周部と該外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、
該内周部または該外周部が、長径方向に平行な2つの直線部と、短径方向において該直線を結ぶ2つの半円弧部と、から形成されるトラック形であり、
該支持可動部の該コルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、該半円弧よりも中心角が大きい円弧を含み、該トラック形と相似形のトラック形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される、
ダンパー。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のダンパーを備えたスピーカー。
【請求項1】
ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、該内周部と該外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、
該内周部または該外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、
該支持可動部の該コルゲーションの環状に連なる該山部もしくは該谷部が、該長円形と相似形の長円形を該短径方向においてくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される、
ダンパー。
【請求項2】
前記支持可動部の前記凹状部が、前記短径方向における断面経路長を長くする付加山部もしくは付加谷部を、前記外周部と該凹状部の最も外周部側の前記山部もしくは前記谷部との間にさらに有する、
請求項1に記載のダンパー。
【請求項3】
前記長円形が、前記長径方向に平行な2つの直線部と、前記短径方向において該直線を結ぶ2つの半円弧部と、から形成されるトラック形であり、前記支持可動部の前記コルゲーションの前記凹状部が、該トラック形の該直線部に設けられる、
請求項1または2に記載のダンパー。
【請求項4】
前記内周部または前記外周部の一方が、長径方向および短径方向を有する長円形である場合に、該内周部または該外周部の他方が、半径が一定の円形である、
請求項1から3のいずれかに記載のダンパー。
【請求項5】
ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、該内周部と該外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、
該内周部または該外周部が長径方向および短径方向を有する長円形であり、
該支持可動部の該コルゲーションの該山部もしくは該谷部が、該短径方向において該長径方向よりも数多く形成されて、
該支持可動部の該コルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、該長円形と相似形の長円形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される、
ダンパー。
【請求項6】
ボイスコイルボビンと接合する内周部と、フレームと接合する外周部と、該内周部と該外周部とを連結して複数の山部および谷部を有するコルゲーションを含む支持可動部と、を備えるダンパーであって、
該内周部または該外周部が、長径方向に平行な2つの直線部と、短径方向において該直線を結ぶ2つの半円弧部と、から形成されるトラック形であり、
該支持可動部の該コルゲーションの環状に連なる山部もしくは谷部が、該半円弧よりも中心角が大きい円弧を含み、該トラック形と相似形のトラック形をくびれた凹状部を形成するように変形させた環状曲線で規定される、
ダンパー。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のダンパーを備えたスピーカー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2010−278793(P2010−278793A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129769(P2009−129769)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】
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