ダンパー装置及びエネルギー吸収体
【課題】ダンパー装置の破壊を回避しつつ、防護ネットの受圧面に作用するエネルギーを効率的に吸収すること。
【解決手段】基端を固定して傾倒自在に立設した第一の軸力吸収体10と、前記第一の軸力吸収体10と交差するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した第二の軸力吸収体20と、前記第一の軸力吸収体10の自由端と前記第二の軸力吸収体20の自由端とを連結する第一の連結材31と、前記第一の軸力吸収体10の自由端と前記第二の軸力吸収体20の基端とを連結する第二の連結材32と、前記第一の軸力吸収体10の基端を固定するアンカー56とを具備し、前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方を、湾曲した複数の撓曲材で構成する。
【解決手段】基端を固定して傾倒自在に立設した第一の軸力吸収体10と、前記第一の軸力吸収体10と交差するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した第二の軸力吸収体20と、前記第一の軸力吸収体10の自由端と前記第二の軸力吸収体20の自由端とを連結する第一の連結材31と、前記第一の軸力吸収体10の自由端と前記第二の軸力吸収体20の基端とを連結する第二の連結材32と、前記第一の軸力吸収体10の基端を固定するアンカー56とを具備し、前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方を、湾曲した複数の撓曲材で構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は落石や雪崩等の動的荷重及び積雪圧等の静的荷重(以下「エネルギー」という)の吸収に好適なエネルギー吸収技術に関し、より詳細には防護ネットに作用するエネルギーを吸収するダンパー装置及びエネルギー吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
斜面等に間隔を隔てて立設した支柱間に防護ネットを架設した落石防護柵や雪崩防護柵等の衝撃吸収体は周知である。
この種の衝撃吸収体は、防護ネットに作用するエネルギーを、最終的に支柱の強度と、該各支柱に接続した複数の控えロープのアンカー耐力で以って支持する構造である。
【0003】
支柱の傾倒を支持するための控えロープとアンカーの設置数を減らした雪崩防護柵が特許文献1により公知である。
特許文献1の雪崩防護柵は、グラウンドアンカー、支柱構造体及び防護ネットとにより構成し、支柱構造体は主支柱、斜め支柱及び複数のロープ材とからなり、斜面に垂直に立設した主支柱に対して斜め支柱を斜めに交差して配置するとともに、斜め支柱の基端を斜面にグラウンドアンカーで固定する。
そして、防護ネットで受けた雪荷重を両支柱に圧縮、控え材であるロープ材に引張として伝達するように、両支柱の自由端間と基端間を夫々ロープ材で接続している。
【0004】
特許文献1に記載された防護柵は、防護ネットに作用する雪荷重を、両支柱の圧縮耐力とロープ材の張力で対抗し、控えロープとアンカーの設置を省略できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−63831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先の特許文献1に記載された雪崩防護柵は、以下のような問題がある。
(1)主支柱及び斜め支柱は、圧縮に耐え得るだけの強度を有するものの、支柱自身は荷重の吸収機能を有しない。
そのため、主支柱及び斜め支柱に想定を超えた軸力が作用すると、支柱が突発的に座屈破壊する。
(2)支柱構造体を構成する主支柱及び斜め支柱の基端は、斜面傾斜方向に沿った回動を許容するものの、斜面傾斜方向と直交する方向への回動を拘束した状態で軸支している。
そのため、雪荷重の作用時に隣り合う支柱構造体に対して接近方向へ傾倒力がはたらき、主支柱及び斜め支柱の基端の軸支箇所が変形破壊する。
(3)防護柵に対し雪崩や落石等のように高速で、或いは局所的に荷重が作用すると、各支柱に対して圧縮だけでなく、曲げや捩じりも一緒に加わる。
支柱構造体は曲げや捩じりに対して対応できず支柱構造体の安定バランスが崩れ易く、安定バランスが崩れると支柱構造体が突発的に破壊する危険がある。
(4)防護柵を構成する複数の支柱構造体のうち一部の支柱が破壊されると破壊が連鎖的に広がり、防護柵全体としての機能を失ってしまう。
(5)破壊された支柱構造体は撤去して新たな支柱に交換する必要があるが、支柱の交換に多くの時間、労力及びコストを要する。
(5)圧縮が作用する各支柱に高強度のコンクリート充填鋼管を用い、引張が作用するロープ材の高強度のPC鋼材を用いている。
そのため、支柱構造体の製造コストが高くつくだけでなく、支柱の重量が重くなって現場への搬入及び組立の作業性が悪くなる。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは少なくとも何れか一つのダンパー装置及びエネルギー吸収体を提供することにある。
<1>ダンパー装置の破壊を回避しつつ、防護ネットの受圧面に作用するエネルギーを効率的に吸収すること。
<2>ダンパー装置に対して曲げやねじり等の三次元的な外力が加わっても、軸力に変換して吸収すること。
<3>積雪圧等の静的荷重に対してだけでなく、落石、雪崩等の動的荷重に対しても対応性に優れていること。
<4>ダンパー装置が自己復元性を有し、エネルギー吸収体の修復性に優れること。
<5>エネルギー吸収体の資材コスト及び施工コストを低減すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1発明は、ダンパー機能と支柱機能を併有するダンパー装置であって、基端を固定して傾倒自在に立設した第一の軸力吸収体と、前記第一の軸力吸収体と交差するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した第二の軸力吸収体と、前記第一の軸力吸収体の自由端と前記第二の軸力吸収体の自由端とを連結する第一の連結材と、前記第一の軸力吸収体の自由端と前記第二の軸力吸収体の基端とを連結する第二の連結材とを具備し、前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方を、湾曲した複数の撓曲材で構成することを特徴とする。
本願の第2発明は、前記第1発明において、前記複数の撓曲材の両端部を収束し、かつ前記複数の撓曲材の中間部の湾曲方向を内方又は外方へ向けたことを特徴とする。
本願の第3発明は、前記第2発明において、撓曲材を折り返して連続性を持たせて前記第一又は第二の軸力吸収体の両端部を収束したことを特徴とする。
本願の第4発明は、前記第2発明において、各撓曲材の端部をピン結合して前記第一又は第二の軸力吸収体の両端部を収束したことを特徴とする。
本願の第5発明は、前記第1乃至第4発明の何れかにおいて、前記第一の軸力吸収体の基端を固定するアンカーを具備することを特徴とする。
本願の第6発明は、前記第5発明において、前記第一の軸力吸収体の基端と第二の軸力吸収体の基端との間を連結する第三の連結材を具備することを特徴とする。
本願の第7発明は、前記第1乃至第5発明の何れかにおいて、第二の軸力吸収体の基端を固定する別途のアンカーを具備することを特徴とする。
本願の第8発明は、前記第1乃至第5発明の何れかにおいて、前記第一の軸力吸収体の基端と第二の軸力吸収体の基端との間を共通の受圧板で連結したことを特徴とする。
本願の第9発明は、前記第1乃至第8発明の何れかにおいて、第二の軸力吸収体の自由端であって、前記第一の連結材の他側(斜面山側)に控えロープを接続したことを特徴とする。
【0009】
本願の第10発明は、防護ネットの前面に受圧面を有するエネルギー吸収体であって、前記第1乃至第9発明の何れかのダンパー装置を間隔を隔てて立設し、隣り合う前記各ダンパー装置の第二の軸力吸収体の自由端側に防護ネットの上縁を取り付けたことを特徴とする。
本願の第11発明は、前記第8において、前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方が、受圧面に作用するエネルギーによって生ずる軸力を、軸力吸収体の直立性を維持した状態で弾性変形して吸収することを特徴とする。
【0010】
本発明における「エネルギー」とは、落石や雪崩等の動的荷重だけでなく、積雪圧等の静的荷重による運動エネルギー及び位置エネルギーを含むものである。
【0011】
本発明における「弾性変形」とは、各軸力吸収体の長手方向への圧縮変形や、該長手方向を軸心とするねじれ変形、その他あらゆる方向への撓み変形を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、下記の効果のうち少なくとも何れか一つを得ることができる。
(1)軸力吸収体を湾曲した複数の撓曲材で構成することで、軸力吸収体に生じる軸力を軸力吸収体の直立性を維持した状態で弾性変形して吸収することができる。
そのため、ダンパー装置を構成する第一及び第二の軸力吸収体の破壊を回避しつつ、防護ネットの受圧面に作用するエネルギーを効率的に吸収することができる。
(2)ダンパー装置を構成する軸力吸収体は、あらゆる方向に対して弾性変形可能であるため、予期せぬ方向からの荷重に起因する変形や、ねじれに対しても柔軟に追従することができる。
したがって、積雪等の静的荷重だけでなく、落石・雪崩等の動的荷重に対しても、十分なエネルギー吸収性能を発揮できる。
(3)従来の剛性材からなる支柱構造体のように、第一及び第二の軸力吸収体が突発的に損壊せずに済むから、エネルギー吸収体の機能喪失を回避することができる。
(4)軸力吸収体が緩衝機能を有するため、従来と比較して各連結材の張力負担とアンカー耐力が小さくできる。
そのため、ダンパー装置の構成部材を簡素化できて、製作コストを大幅に削減できる。
(5)受圧面から荷重要因が除かれた後(落石の除去、雪の溶解等)は、ダンパー装置は軸力吸収体の自己の復元力によって元の形状と位置に戻るため、部材の交換を極力抑えることができるだけでなく、エネルギーの作用前の状態を保ちエネルギー吸収体の機能を引き続き維持することができる。
(6)ダンパー装置を構成する軸力吸収体が湾曲した複数の撓曲材からなるため、ダンパー装置の現場への運搬性及び組立施工性が向上する。
(7)第二の軸力吸収体の自由端を控えロープで支持することで、ダンパー装置が不用意に転倒するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る一部を省略したエネルギー吸収体の斜視図
【図2】実施例1に係るダンパー装置のモデル図
【図3】第一の軸力吸収体の基端の拡大図
【図4】第一の軸力吸収体の自由端の拡大図
【図5】第二の軸力吸収体の基端の拡大図
【図6】第二の軸力吸収体の自由端の平面図
【図7】エネルギー作用時におけるエネルギー吸収体のモデル図
【図8】実施例2に係るダンパー装置のモデル図
【図9】実施例2に係る他のダンパー装置のモデル図
【図10】実施例6に係るエネルギー吸収体のモデル図
【図11】実施例6に係る他のエネルギー吸収体のモデル図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0015】
<1>エネルギー吸収体
図1に本発明のエネルギー吸収体Aの斜視図を示し、図2にそのモデル図を示す。
本発明のエネルギー吸収体Aは、斜面等に間隔を隔てて設けた複数のダンパー装置Bと、ダンパー装置B間に架設した防護ネットCとにより構成する。
ダンパー装置Bは1本のアンカー56により斜面にする。
防護ネットCはその前面に受圧面C1を形成している。
【0016】
<2>ダンパー装置
ダンパー装置Bは受圧面C1に作用するエネルギーを分散しつつ、軸力に変換して吸収するダンパー機能と支柱機能を併有する装置で、基端を固定して立設した第一の軸力吸収体10と、第一の軸力吸収体10と交差して立設した第二の軸力吸収体20と、各軸力吸収体10,20の自由端と基端の間を連結する第一の連結材31、第二の連結材32、第三の連結材33とを具備する。
【0017】
本発明は防護ネットCで受けたエネルギーを第一及び第二の軸力吸収体10,20に軸力として、控え材である連結材31,32に引張として伝達するように構成するとともに、第一及び第二の軸力吸収体10,20に作用する軸力を、直立性を維持したまま軸力吸収体10,20を圧縮変形させて吸収するように構成した。
以降にダンパー装置Bについて詳述する。
【0018】
<3>第一の軸力吸収体
第一の軸力吸収体10は受圧面C1に作用するエネルギーを圧縮変形により吸収する緩衝機能を有する弾性構造体であり、複数の湾曲した撓曲材11からなる。
複数の撓曲材11の両端部は収束した形態になっており、また複数の撓曲材11の両端部の間の中間部は拡径方向又は縮径方向へ圧縮変形を許容するように外方、又内方へ向けて予め湾曲している。
【0019】
本発明において「収束した形態」とは、複数の撓曲材11の端部を回動可能にピン結合した状態の他に、複数の撓曲材11の端部を回動不能に一つに束ねた状態を含む。
【0020】
撓曲材11の中間部を予め湾曲させておくのは、軸力作用時に撓曲材11の撓み方向を同一方向に揃えるためと、第一の軸力吸収体10の直立性を維持した状態で圧縮変形を許容するためである。
換言すれば、圧縮変形時に各撓曲材11が均等に圧縮変形して、第一の軸力吸収体10が蛇行せずに、恰も第一の軸力吸収体10の中心部に直線状のガイド軸が存在するかの如く、全体として直線性を保ったまま圧縮変形させるためである。
【0021】
本例では各撓曲材11の中間部を予め外方へ向けて撓ませ、端部径より大径に形成することで、拡径方向へ圧縮変形させる場合について説明するが、各撓曲材11の中間部を予め内方へ向けて撓ませ、端部径より小径に形成することで、縮径方向へ圧縮変形させる構成とすることも勿論可能である。
【0022】
又、本例では上下に配置した二本の撓曲材11,11で構成する場合について説明するが、上下の撓曲材11の配置本数は適宜でよく、又、上下の各撓曲材11の配置本数は同数の組合せとすることの他に、互いに相違する本数の組合せとしてもよい。
撓曲材11の素材は例えば鋼製ロープ、バネ鋼等の金属材料や樹脂やゴム等の弾性材料を適用でき、またその形状は棒状、板状等の形状を適用できる。
要は、第1、第二の軸力吸収体10,20に生じる軸力によって弾性限界を超えない強度を有するものであればよい。
【0023】
<3.1>第一の軸力吸収体の基端側の構造
図3に示すように、第一の軸力吸収体10の基端は、複数の撓曲材11が結束していて受圧板50に支持される。
本例では撓曲材11の折り返し部をループ状に形成し、受圧板50に形成した支持ブラケット52と撓曲材11のループ部に連結ピン51を挿入して回動自在にピン連結した形態を示す。
【0024】
受圧板50は第一の軸力吸収体10に作用する軸力を地面へ分散して伝達するための板体で、アンカー孔53にアンカーピン56を打設して斜面へ固定する。
図中、符号54,55は第三の連結材33の接続端、防護ネットBの下縁を夫々取付けるための接続孔である。
【0025】
<3.2>第一の軸力吸収体の自由端の構造
図4に示すように、第一の軸力吸収体10の自由端は、複数の撓曲材11が結束していて、連接ピン57を介して中継板58が取着してある。
本例ではループ状に形成した撓曲材11のループ部と中継板58の中央に連結ピン51を挿入して中継板58を取着した場合について説明する。
中継板58の上下部には、孔58a,58bを通じて第一及び第二の連結材31、32の各接続端が夫々回動自在に連結する。
【0026】
中継板58は第一及び第二の連結材31、32に生じる張力を第一の軸力吸収体10の自由端へ軸力に変換して伝達する部材であるが、中継板58を省略し、第一及び第二の連結材31、32の各接続端を第一の軸力吸収体10の自由端へ直接接続してもよい。
【0027】
<4>第二の軸力吸収体
第二の軸力吸収体20は受圧面C1に作用するエネルギーを圧縮変形により吸収する緩衝機能を有する弾性構造体であり、複数の撓曲材21からなる。
複数の撓曲材21の両端部は収束した形態になっており、また複数の撓曲材21の両端部の間の中間部は拡径方向又は縮径方向へ圧縮変形を許容するように外方、又内方へ向けて湾曲している。
【0028】
複数の撓曲材21の中間部を予め湾曲させておくのは、既述した第一の軸力吸収体10と同様に、軸力作用時に撓曲材21の撓み方向を同一方向に揃えるためと、第二の軸力吸収体20の直立性を維持した状態で圧縮変形を許容するためである。
また複数の撓曲材21の湾曲方向や素材についても、既述した第一の軸力吸収体10と同様であるので説明を省略する。
【0029】
本例では縦向きに配置した四本の撓曲材21で構成する場合について説明するが、撓曲材21の配置本数は適宜でよい。
【0030】
<4.1>第二の軸力吸収体の基端の構造
図5に第二の軸力吸収体20の基端部の水平断面図を示す。
第二の軸力吸収体20の基端は、撓曲材21が結束するとともに、受圧板60に対して回動自在である。
本例では撓曲材21の下端にループを形成し、受圧板60に形成した支持ブラケット62と撓曲材21のループに連結ピン61を挿入してピン連結した場合について示す。
【0031】
受圧板60は第二の軸力吸収体20に作用する軸力を地面へ分散して伝達するための板体で、斜面へ接地するだけでピンで固定しない。
図中、符号63,64は第二、第三の連結材32,33の接続端を夫々取付けるための接続孔である。
【0032】
<4.2>第二の軸力吸収体の自由端の構造
図6に示すように、第二の軸力吸収体20の自由端は、複数の撓曲材21が結束していて、連結ピン71を介して収束板70に取着してある。
本例では撓曲材21の上端にループを形成し、収束板70に形成した支持ブラケット72と撓曲材21のループに連結ピン71を挿入してピン連結した場合について示す。
【0033】
収束板70は防護ネットCと、第一及び第二の連結材31、32に生じる張力を第二の軸力吸収体20の自由端へ軸力に変換して伝達する部材である。
図中、符号73,74は第一の連結材31と防護ネットBを夫々取付けるための接続孔であり、防護ネットBの上縁及び第一の連結材31の接続端が収束板70に夫々回動自在に連結する。
【0034】
なお、前記第一、第二の軸力吸収体10,20の各端部を回動自在に連結する他の手段として公知の連結手段を適用できる。
又、各撓曲材11に予め撓み癖を付与する構成に代えて、各撓曲材11,21の端部の回動方向を制限する機構を採用してもよい。
【0035】
<4.3>第一及び第二の軸力吸収体の交差配置
図1,2に示すように、第一の軸力吸収体10と第二の軸力吸収体20は互いに交差させて配置する。
本例では、第二の軸力吸収体20内に第一の軸力吸収体10を貫通させた形態を示すが、第一の軸力吸収体10内に第二の軸力吸収体20を貫通させて交差してもよい。
第一及び第二の軸力吸収体10,20を交差するにあたり、圧縮変形時に各撓曲材11,21が互いに干渉しないように配置することが肝要である。
【0036】
第一及び第二の軸力吸収体10,20の交差角度と、各連結材31〜33の全長は、設置現場の状況に応じて、受圧面C1に作用するエネルギーを、第一及び第二の軸力吸収体10,20と各連結材31〜33に分散して伝達しつつ、第一及び第二の軸力吸収体10,20に軸力として作用するように関係付けてあればよい。
【0037】
<5>連結材
連結材31〜33は、引張耐力に優れた例えば鋼製又は繊維製のロープ、鋼棒、鋼板等で、第一の軸力吸収体10の自由端と第二の軸力吸収体20の自由端との間を第一の連結材31が連結し、第一の軸力吸収体10の自由端と第二の軸力吸収体20の基端側との間を第二の連結材32が連結し、第一の軸力吸収体10の基端と第二の軸力吸収体20の基端との間を第三の連結材3cが連結する。
【0038】
本発明では第一、第二の軸力吸収体10,20が緩衝機能を有するため、従来と比較して各連結材31〜33の張力負担が小さくなる。
【0039】
<6>防護ネット
防護ネットCは受圧面C1を有する構造体で、例えばロープ材、網材、棒材等の何れかひとつ、或いはこれらの複数の素材を組合せた公知のものを含む。
又、防護ネットCは複数のスパンに亘る全長を有するものの他に、ダンパー装置Bの1スパン単位に分割したものであってもよい。
【0040】
防護ネットCはダンパー装置Bの斜面山側に配設し、その上縁を第二の軸力吸収体20の自由端に支持させる。
防護ネットCの上縁の取付け形態は、第二の軸力吸収体20の自由端に直接接続するか、或いは第二の軸力吸収体20の自由端に接続した別途のロープ材等を介して間接的に取り付けるものとする。
防護ネットCの下端は、第一の軸力吸収体10の基端の受圧板50に設置する場合の他に、山側斜面に直接設置してもよい。
【0041】
[作用]
次にエネルギー吸収体の作用について説明する。
【0042】
<1>エネルギー作用前
図2にエネルギーが作用する前におけるエネルギー吸収体Aを示す。
防護ネットCは斜面山側に傾倒する第二の軸力吸収体20の自由端に支持され、受圧板60を介して斜面に着地した第二の軸力吸収体20の自由端は、斜面谷側へ傾倒する第一の軸力吸収体10及び連結材31〜33を通じて支持されている。
受圧板50を介して斜面に枢支した第一の軸力吸収体10の自由端は、第二の軸力吸収体20及び第一の連結材31を通じて支持されている。
このようにエネルギーの作用前における防護ネットC及びダンパー装置Bを構成する第一、第二の軸力吸収体10,20は、互いに重量がバランスして安定した姿勢を維持する。
【0043】
<2>エネルギー作用時
図7に基づきダンパー装置Bの作用について説明する。
【0044】
<2.1>第二の軸力吸収体の傾倒拘束
受圧面C1にエネルギーが作用すると防護ネットCが斜面谷側へ撓む。
防護ネットCの撓みに伴い、第二の軸力吸収体20が基端の受圧板60を中心として斜面山側前方へ傾倒する方向の力が働く。
【0045】
受圧板60は斜面へ接地するだけでピンで固定しないが、第三の連結材33を通じてアンカー56で固定した上位の受圧板50に支持されるため、第二の軸力吸収体20の基端は移動せずに定位置に位置する。
【0046】
第二の軸力吸収体20に傾倒力が働くと、第一及び第二連結材31,32に張力が作用し、第一及び第二連結材31,32が第二の軸力吸収体20の傾倒を拘束する。
【0047】
<2.2>第一の軸力吸収体の傾倒拘束
同時に、第一及び第二連結材31,32に張力が作用すると、第一の軸力吸収体10が基端を中心として反時計回りの方向へと回動しようとして第二及び第三の連結材32,33に張力が生じる。
第二及び第三連結材32,33に作用する張力は最終的にアンカー56に支持されて、第一の軸力吸収体10の反時計回りの方向の回動が拘束される。
【0048】
防護ネットCと各連結材31〜33に生じる張力が釣り合い、その張力の合力が各軸力吸収体10,20に対して軸力として作用する。
【0049】
第一及び第二の軸力吸収体10,20に作用する軸力が、第一及び第二の軸力吸収体10,20の変形強度以下であれば、第一及び第二の軸力吸収体10,20は圧縮変形したり傾倒したりしない。
最終的に受圧面C1に作用したエネルギーは、第一及び第二の軸力吸収体10,20と、第一及び第二の連結材31,32に分散して支持される。
【0050】
<2.3>軸力吸収体の圧縮変形
第一又は第二の軸力吸収体10,20に生じる軸力が、第一又は第二の軸力吸収体10,20の変形強度を越えると、第一又は第二の軸力吸収体10,20のいずれか一方または両方が圧縮変形を開始する。
【0051】
第一の軸力吸収体10の場合、複数の撓曲材11が予め同一方向に向けて湾曲しているため、恰も第一の軸力吸収体10の中心部に直線状のガイド軸が存在するかの如く直立性を保ちながら、各撓曲材11が均等に圧縮変形する。
第二の軸力吸収体20の場合も同様に、恰も第二の軸力吸収体20の中心部に直線状のガイド軸が存在するかの如く直立性を保ちながら、各撓曲材21が均等に圧縮変形する。
受圧面C1に作用したエネルギーは、第一又は第二の軸力吸収体10,20が圧縮変形をすることで吸収される。
【0052】
本発明は弾性部材の変形方向に関係なく単に弾性変形させる発明ではない。
本発明は、第一又は第二の軸力吸収体10,20に軸力が生じると、第一又は第二の軸力吸収体10,20が直立性を維持しながら特定方向(拡径方向又は縮径方向)へ弾性変形するように構成した。
特に雪荷重等は第二の軸力吸収体20の自由端に対し偏倚して使用するが、図5に示す収束板70を通じて各撓曲材11へ均等に荷重が分散されるため、結果的に雪荷重等は第二の軸力吸収体20の中心の軸芯と平行に作用する。
そのため、第二の軸力吸収体20の中間部が一方向に中折れせず、各撓曲材11が均等に圧縮変形することが可能となる。
したがって、第一及び第二の軸力吸収体10,20が安定した緩衝機能を長時間に亘って発揮できるから、受圧面C1に作用したエネルギーを効率的に吸収することができる。
【0053】
さらに、第一及び第二の軸力吸収体10,20に大きな軸力が作用しても、従来の剛性材からなる支柱構造体のように、第一及び第二の軸力吸収体10,20が突発的に損壊せずに済むから、エネルギー吸収体Aの機能喪失を回避することができる。
【0054】
又、第一及び第二の軸力吸収体10,20を構成する撓曲材11,21の両端部は、あらゆる方向に対して弾性変形可能なように収束した形態になっている。
そのため、第一及び第二の軸力吸収体10,20に対して予期せぬ方向からの荷重に起因する変形や、ねじれに対しても柔軟に追従することができる。
したがって、ダンパー装置Bとして種々の方向から受けるエネルギーを効率よく吸収することができる。
【0055】
<3>エネルギーの消滅後
防護ネットC(受圧面C1)からエネルギーの発生要因が取り除かれた後は、ダンパー装置Bを構成する第一及び第二の軸力吸収体10,20が自己の弾性復元力によって元の待機位置へと戻る。
ダンパー装置Bの復元に伴い、防護ネットCも元の位置に引き上げられる。
そのため、エネルギーの作用前の状態を保ちエネルギー吸収体Aの機能を引き続き維持することができる。
例えば、エネルギーの発生要因が積雪圧の場合には、雪が溶けると自然に軸力吸収体10,20が元の位置へと戻るため、特段の処置を施すことなく、エネルギー吸収体Aの機能を常に発揮させておくことができる。
【実施例2】
【0056】
先の実施例1では、第二の軸力吸収体20の基端を定位置に保持する手段として、第三の連結材3cを使用する場合について説明したが、図8,9に示すように第三の連結材3cを使用せずに第二の軸力吸収体20の基端を定位置に保持することも可能である。
【0057】
図8は第二の軸力吸収体20の基端を支持する受圧板60をアンカー64で斜面に固定した形態を示し、図9は第一の軸力吸収体10の基端を支持する上位の受圧板50を斜面谷側へ延長して第二の軸力吸収体20の基端の支持に共有させた形態を示す。
【0058】
第一及び第二の軸力吸収体10,20を別個のアンカー56によって個別に固定する図8の形態にあっては、第二の軸力吸収体20の基端が直接斜面に固定されるため、第二の連結材32の張力に対する抵抗力が増すといった利点がある。
さらに、第一の軸力吸収体10の基端と第二の軸力吸収体20の基端との間に高低差があったり起伏等の障害物が存在して、連結材33の連結が困難な現場に有効である。
【0059】
第一及び第二の軸力吸収体10,20で受圧板50を共有する図9の形態にあっては、受圧板50が連結材33と比較して引張強度が大きいため、より大きなエネルギーが作用する現場に好適である。
【実施例3】
【0060】
以上の実施例は、ダンパー装置Bを構成する第一及び第二の軸力吸収体10,20が弾性変形する場合について説明したが、第一又は第二の軸力吸収体10,20の何れか一方を非弾性部材体に置換して構成してもよい。
非弾性部材体と既述した各受圧板50,60に対する枢支構造、及び非弾性部材体と各連結材31〜33の連結構造は既述した実施例と同様であり、機能的に軸力が作用したときに圧縮変形しない点だけが異なる。
非弾性部材体とは、例えば鋼材、コンクリート等の剛性材を含む。
【0061】
本実施例におけるダンパー装置Bは、第一又は第二の軸力吸収体10,20の何れか他方が弾性機能を有するため、非弾性部材体の軸力負担を軽減できる。
第二の軸力吸収体20を非弾性部材体で構成した場合は、防護ネットCの柵高変化を小さく抑えることができ、また第一軸力吸収体10を非弾性部材体で構成した場合は、第二の軸力吸収体20の単独によるエネルギー吸収作用を促進できる。
要はエネルギー吸収体Aの設置現場の周辺環境において求められる耐荷重性能や、費用対効果等の諸条件に応じて、第一又は第二の軸力吸収体10,20の何れか一方を非弾性部材体に適宜選択すればよい。
【実施例4】
【0062】
各軸力吸収体10,20を構成する各撓曲材11,21は、少なくとも、長手方向からの圧縮力に対して夫々干渉しない方向に撓曲するように形成されていればよいため、先の実施例において説明した各軸力吸収体10,20の配置位置を互いに入れ替えてもよい。
【実施例5】
【0063】
前記第一の軸力吸収体10の両端部は、撓曲材11を折り返して連続性を持たせて形成したが、図5,6と同様にピン結合の収束形態に形成してもよい。
【0064】
又、前記第二の軸力吸収体20の両端部は、ピン結合の収束形態について示したが、図3,4と同様に撓曲材21を折り返して連続性を持たせた収束形態に形成してもよい。
【0065】
軸力吸収体10,20の両端部が撓曲材11,21を折り返して連続性を持たせた収束形態であると、ピン結合と比較して、折り返した箇所のばね力分だけ撓曲材11,21の変形抵抗が大きくなる。
【実施例6】
【0066】
図10,11は第二の軸力吸収体20の自由端であって、第一の連結材31の他側(斜面山側)に、ダンパー装置Bの転倒防止用の控えロープ34を接続した形態を示す。
図10は控えロープ34の下端を第二の軸力吸収体20の基端に接続した場合を示し、図11は控えロープ34の下端を第一及び第二の軸力吸収体10,20の各基端に分岐して接続した場合を示す。
図示を省略するが、控えロープ34の下端を山側斜面に直接固定してもよい。
要は、ダンパー装置Bが斜面谷側へ転倒するのを規制できるように控えロープ34が張設してあればよい。
【0067】
本実施例にあっては、ダンパー装置Bが斜面谷側へ転倒するのを規制できるから、エネルギー吸収体Aの組立時は勿論のこと、組立後に雪荷重等が作用した場合も、ダンパー装置Bが斜面谷側へ不用意に転倒することを防止できる。
【符号の説明】
【0068】
A エネルギー吸収体
B ダンパー装置
C 防護ネット
C1 受圧面
10 第一の軸力吸収体
11 撓曲材
20 第二の軸力吸収体
21 撓曲材
31 第一の連結材
32 第二の連結材
33 第三の連結材
50,60 受圧板
【技術分野】
【0001】
本発明は落石や雪崩等の動的荷重及び積雪圧等の静的荷重(以下「エネルギー」という)の吸収に好適なエネルギー吸収技術に関し、より詳細には防護ネットに作用するエネルギーを吸収するダンパー装置及びエネルギー吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
斜面等に間隔を隔てて立設した支柱間に防護ネットを架設した落石防護柵や雪崩防護柵等の衝撃吸収体は周知である。
この種の衝撃吸収体は、防護ネットに作用するエネルギーを、最終的に支柱の強度と、該各支柱に接続した複数の控えロープのアンカー耐力で以って支持する構造である。
【0003】
支柱の傾倒を支持するための控えロープとアンカーの設置数を減らした雪崩防護柵が特許文献1により公知である。
特許文献1の雪崩防護柵は、グラウンドアンカー、支柱構造体及び防護ネットとにより構成し、支柱構造体は主支柱、斜め支柱及び複数のロープ材とからなり、斜面に垂直に立設した主支柱に対して斜め支柱を斜めに交差して配置するとともに、斜め支柱の基端を斜面にグラウンドアンカーで固定する。
そして、防護ネットで受けた雪荷重を両支柱に圧縮、控え材であるロープ材に引張として伝達するように、両支柱の自由端間と基端間を夫々ロープ材で接続している。
【0004】
特許文献1に記載された防護柵は、防護ネットに作用する雪荷重を、両支柱の圧縮耐力とロープ材の張力で対抗し、控えロープとアンカーの設置を省略できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−63831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先の特許文献1に記載された雪崩防護柵は、以下のような問題がある。
(1)主支柱及び斜め支柱は、圧縮に耐え得るだけの強度を有するものの、支柱自身は荷重の吸収機能を有しない。
そのため、主支柱及び斜め支柱に想定を超えた軸力が作用すると、支柱が突発的に座屈破壊する。
(2)支柱構造体を構成する主支柱及び斜め支柱の基端は、斜面傾斜方向に沿った回動を許容するものの、斜面傾斜方向と直交する方向への回動を拘束した状態で軸支している。
そのため、雪荷重の作用時に隣り合う支柱構造体に対して接近方向へ傾倒力がはたらき、主支柱及び斜め支柱の基端の軸支箇所が変形破壊する。
(3)防護柵に対し雪崩や落石等のように高速で、或いは局所的に荷重が作用すると、各支柱に対して圧縮だけでなく、曲げや捩じりも一緒に加わる。
支柱構造体は曲げや捩じりに対して対応できず支柱構造体の安定バランスが崩れ易く、安定バランスが崩れると支柱構造体が突発的に破壊する危険がある。
(4)防護柵を構成する複数の支柱構造体のうち一部の支柱が破壊されると破壊が連鎖的に広がり、防護柵全体としての機能を失ってしまう。
(5)破壊された支柱構造体は撤去して新たな支柱に交換する必要があるが、支柱の交換に多くの時間、労力及びコストを要する。
(5)圧縮が作用する各支柱に高強度のコンクリート充填鋼管を用い、引張が作用するロープ材の高強度のPC鋼材を用いている。
そのため、支柱構造体の製造コストが高くつくだけでなく、支柱の重量が重くなって現場への搬入及び組立の作業性が悪くなる。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは少なくとも何れか一つのダンパー装置及びエネルギー吸収体を提供することにある。
<1>ダンパー装置の破壊を回避しつつ、防護ネットの受圧面に作用するエネルギーを効率的に吸収すること。
<2>ダンパー装置に対して曲げやねじり等の三次元的な外力が加わっても、軸力に変換して吸収すること。
<3>積雪圧等の静的荷重に対してだけでなく、落石、雪崩等の動的荷重に対しても対応性に優れていること。
<4>ダンパー装置が自己復元性を有し、エネルギー吸収体の修復性に優れること。
<5>エネルギー吸収体の資材コスト及び施工コストを低減すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1発明は、ダンパー機能と支柱機能を併有するダンパー装置であって、基端を固定して傾倒自在に立設した第一の軸力吸収体と、前記第一の軸力吸収体と交差するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した第二の軸力吸収体と、前記第一の軸力吸収体の自由端と前記第二の軸力吸収体の自由端とを連結する第一の連結材と、前記第一の軸力吸収体の自由端と前記第二の軸力吸収体の基端とを連結する第二の連結材とを具備し、前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方を、湾曲した複数の撓曲材で構成することを特徴とする。
本願の第2発明は、前記第1発明において、前記複数の撓曲材の両端部を収束し、かつ前記複数の撓曲材の中間部の湾曲方向を内方又は外方へ向けたことを特徴とする。
本願の第3発明は、前記第2発明において、撓曲材を折り返して連続性を持たせて前記第一又は第二の軸力吸収体の両端部を収束したことを特徴とする。
本願の第4発明は、前記第2発明において、各撓曲材の端部をピン結合して前記第一又は第二の軸力吸収体の両端部を収束したことを特徴とする。
本願の第5発明は、前記第1乃至第4発明の何れかにおいて、前記第一の軸力吸収体の基端を固定するアンカーを具備することを特徴とする。
本願の第6発明は、前記第5発明において、前記第一の軸力吸収体の基端と第二の軸力吸収体の基端との間を連結する第三の連結材を具備することを特徴とする。
本願の第7発明は、前記第1乃至第5発明の何れかにおいて、第二の軸力吸収体の基端を固定する別途のアンカーを具備することを特徴とする。
本願の第8発明は、前記第1乃至第5発明の何れかにおいて、前記第一の軸力吸収体の基端と第二の軸力吸収体の基端との間を共通の受圧板で連結したことを特徴とする。
本願の第9発明は、前記第1乃至第8発明の何れかにおいて、第二の軸力吸収体の自由端であって、前記第一の連結材の他側(斜面山側)に控えロープを接続したことを特徴とする。
【0009】
本願の第10発明は、防護ネットの前面に受圧面を有するエネルギー吸収体であって、前記第1乃至第9発明の何れかのダンパー装置を間隔を隔てて立設し、隣り合う前記各ダンパー装置の第二の軸力吸収体の自由端側に防護ネットの上縁を取り付けたことを特徴とする。
本願の第11発明は、前記第8において、前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方が、受圧面に作用するエネルギーによって生ずる軸力を、軸力吸収体の直立性を維持した状態で弾性変形して吸収することを特徴とする。
【0010】
本発明における「エネルギー」とは、落石や雪崩等の動的荷重だけでなく、積雪圧等の静的荷重による運動エネルギー及び位置エネルギーを含むものである。
【0011】
本発明における「弾性変形」とは、各軸力吸収体の長手方向への圧縮変形や、該長手方向を軸心とするねじれ変形、その他あらゆる方向への撓み変形を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、下記の効果のうち少なくとも何れか一つを得ることができる。
(1)軸力吸収体を湾曲した複数の撓曲材で構成することで、軸力吸収体に生じる軸力を軸力吸収体の直立性を維持した状態で弾性変形して吸収することができる。
そのため、ダンパー装置を構成する第一及び第二の軸力吸収体の破壊を回避しつつ、防護ネットの受圧面に作用するエネルギーを効率的に吸収することができる。
(2)ダンパー装置を構成する軸力吸収体は、あらゆる方向に対して弾性変形可能であるため、予期せぬ方向からの荷重に起因する変形や、ねじれに対しても柔軟に追従することができる。
したがって、積雪等の静的荷重だけでなく、落石・雪崩等の動的荷重に対しても、十分なエネルギー吸収性能を発揮できる。
(3)従来の剛性材からなる支柱構造体のように、第一及び第二の軸力吸収体が突発的に損壊せずに済むから、エネルギー吸収体の機能喪失を回避することができる。
(4)軸力吸収体が緩衝機能を有するため、従来と比較して各連結材の張力負担とアンカー耐力が小さくできる。
そのため、ダンパー装置の構成部材を簡素化できて、製作コストを大幅に削減できる。
(5)受圧面から荷重要因が除かれた後(落石の除去、雪の溶解等)は、ダンパー装置は軸力吸収体の自己の復元力によって元の形状と位置に戻るため、部材の交換を極力抑えることができるだけでなく、エネルギーの作用前の状態を保ちエネルギー吸収体の機能を引き続き維持することができる。
(6)ダンパー装置を構成する軸力吸収体が湾曲した複数の撓曲材からなるため、ダンパー装置の現場への運搬性及び組立施工性が向上する。
(7)第二の軸力吸収体の自由端を控えロープで支持することで、ダンパー装置が不用意に転倒するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る一部を省略したエネルギー吸収体の斜視図
【図2】実施例1に係るダンパー装置のモデル図
【図3】第一の軸力吸収体の基端の拡大図
【図4】第一の軸力吸収体の自由端の拡大図
【図5】第二の軸力吸収体の基端の拡大図
【図6】第二の軸力吸収体の自由端の平面図
【図7】エネルギー作用時におけるエネルギー吸収体のモデル図
【図8】実施例2に係るダンパー装置のモデル図
【図9】実施例2に係る他のダンパー装置のモデル図
【図10】実施例6に係るエネルギー吸収体のモデル図
【図11】実施例6に係る他のエネルギー吸収体のモデル図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0015】
<1>エネルギー吸収体
図1に本発明のエネルギー吸収体Aの斜視図を示し、図2にそのモデル図を示す。
本発明のエネルギー吸収体Aは、斜面等に間隔を隔てて設けた複数のダンパー装置Bと、ダンパー装置B間に架設した防護ネットCとにより構成する。
ダンパー装置Bは1本のアンカー56により斜面にする。
防護ネットCはその前面に受圧面C1を形成している。
【0016】
<2>ダンパー装置
ダンパー装置Bは受圧面C1に作用するエネルギーを分散しつつ、軸力に変換して吸収するダンパー機能と支柱機能を併有する装置で、基端を固定して立設した第一の軸力吸収体10と、第一の軸力吸収体10と交差して立設した第二の軸力吸収体20と、各軸力吸収体10,20の自由端と基端の間を連結する第一の連結材31、第二の連結材32、第三の連結材33とを具備する。
【0017】
本発明は防護ネットCで受けたエネルギーを第一及び第二の軸力吸収体10,20に軸力として、控え材である連結材31,32に引張として伝達するように構成するとともに、第一及び第二の軸力吸収体10,20に作用する軸力を、直立性を維持したまま軸力吸収体10,20を圧縮変形させて吸収するように構成した。
以降にダンパー装置Bについて詳述する。
【0018】
<3>第一の軸力吸収体
第一の軸力吸収体10は受圧面C1に作用するエネルギーを圧縮変形により吸収する緩衝機能を有する弾性構造体であり、複数の湾曲した撓曲材11からなる。
複数の撓曲材11の両端部は収束した形態になっており、また複数の撓曲材11の両端部の間の中間部は拡径方向又は縮径方向へ圧縮変形を許容するように外方、又内方へ向けて予め湾曲している。
【0019】
本発明において「収束した形態」とは、複数の撓曲材11の端部を回動可能にピン結合した状態の他に、複数の撓曲材11の端部を回動不能に一つに束ねた状態を含む。
【0020】
撓曲材11の中間部を予め湾曲させておくのは、軸力作用時に撓曲材11の撓み方向を同一方向に揃えるためと、第一の軸力吸収体10の直立性を維持した状態で圧縮変形を許容するためである。
換言すれば、圧縮変形時に各撓曲材11が均等に圧縮変形して、第一の軸力吸収体10が蛇行せずに、恰も第一の軸力吸収体10の中心部に直線状のガイド軸が存在するかの如く、全体として直線性を保ったまま圧縮変形させるためである。
【0021】
本例では各撓曲材11の中間部を予め外方へ向けて撓ませ、端部径より大径に形成することで、拡径方向へ圧縮変形させる場合について説明するが、各撓曲材11の中間部を予め内方へ向けて撓ませ、端部径より小径に形成することで、縮径方向へ圧縮変形させる構成とすることも勿論可能である。
【0022】
又、本例では上下に配置した二本の撓曲材11,11で構成する場合について説明するが、上下の撓曲材11の配置本数は適宜でよく、又、上下の各撓曲材11の配置本数は同数の組合せとすることの他に、互いに相違する本数の組合せとしてもよい。
撓曲材11の素材は例えば鋼製ロープ、バネ鋼等の金属材料や樹脂やゴム等の弾性材料を適用でき、またその形状は棒状、板状等の形状を適用できる。
要は、第1、第二の軸力吸収体10,20に生じる軸力によって弾性限界を超えない強度を有するものであればよい。
【0023】
<3.1>第一の軸力吸収体の基端側の構造
図3に示すように、第一の軸力吸収体10の基端は、複数の撓曲材11が結束していて受圧板50に支持される。
本例では撓曲材11の折り返し部をループ状に形成し、受圧板50に形成した支持ブラケット52と撓曲材11のループ部に連結ピン51を挿入して回動自在にピン連結した形態を示す。
【0024】
受圧板50は第一の軸力吸収体10に作用する軸力を地面へ分散して伝達するための板体で、アンカー孔53にアンカーピン56を打設して斜面へ固定する。
図中、符号54,55は第三の連結材33の接続端、防護ネットBの下縁を夫々取付けるための接続孔である。
【0025】
<3.2>第一の軸力吸収体の自由端の構造
図4に示すように、第一の軸力吸収体10の自由端は、複数の撓曲材11が結束していて、連接ピン57を介して中継板58が取着してある。
本例ではループ状に形成した撓曲材11のループ部と中継板58の中央に連結ピン51を挿入して中継板58を取着した場合について説明する。
中継板58の上下部には、孔58a,58bを通じて第一及び第二の連結材31、32の各接続端が夫々回動自在に連結する。
【0026】
中継板58は第一及び第二の連結材31、32に生じる張力を第一の軸力吸収体10の自由端へ軸力に変換して伝達する部材であるが、中継板58を省略し、第一及び第二の連結材31、32の各接続端を第一の軸力吸収体10の自由端へ直接接続してもよい。
【0027】
<4>第二の軸力吸収体
第二の軸力吸収体20は受圧面C1に作用するエネルギーを圧縮変形により吸収する緩衝機能を有する弾性構造体であり、複数の撓曲材21からなる。
複数の撓曲材21の両端部は収束した形態になっており、また複数の撓曲材21の両端部の間の中間部は拡径方向又は縮径方向へ圧縮変形を許容するように外方、又内方へ向けて湾曲している。
【0028】
複数の撓曲材21の中間部を予め湾曲させておくのは、既述した第一の軸力吸収体10と同様に、軸力作用時に撓曲材21の撓み方向を同一方向に揃えるためと、第二の軸力吸収体20の直立性を維持した状態で圧縮変形を許容するためである。
また複数の撓曲材21の湾曲方向や素材についても、既述した第一の軸力吸収体10と同様であるので説明を省略する。
【0029】
本例では縦向きに配置した四本の撓曲材21で構成する場合について説明するが、撓曲材21の配置本数は適宜でよい。
【0030】
<4.1>第二の軸力吸収体の基端の構造
図5に第二の軸力吸収体20の基端部の水平断面図を示す。
第二の軸力吸収体20の基端は、撓曲材21が結束するとともに、受圧板60に対して回動自在である。
本例では撓曲材21の下端にループを形成し、受圧板60に形成した支持ブラケット62と撓曲材21のループに連結ピン61を挿入してピン連結した場合について示す。
【0031】
受圧板60は第二の軸力吸収体20に作用する軸力を地面へ分散して伝達するための板体で、斜面へ接地するだけでピンで固定しない。
図中、符号63,64は第二、第三の連結材32,33の接続端を夫々取付けるための接続孔である。
【0032】
<4.2>第二の軸力吸収体の自由端の構造
図6に示すように、第二の軸力吸収体20の自由端は、複数の撓曲材21が結束していて、連結ピン71を介して収束板70に取着してある。
本例では撓曲材21の上端にループを形成し、収束板70に形成した支持ブラケット72と撓曲材21のループに連結ピン71を挿入してピン連結した場合について示す。
【0033】
収束板70は防護ネットCと、第一及び第二の連結材31、32に生じる張力を第二の軸力吸収体20の自由端へ軸力に変換して伝達する部材である。
図中、符号73,74は第一の連結材31と防護ネットBを夫々取付けるための接続孔であり、防護ネットBの上縁及び第一の連結材31の接続端が収束板70に夫々回動自在に連結する。
【0034】
なお、前記第一、第二の軸力吸収体10,20の各端部を回動自在に連結する他の手段として公知の連結手段を適用できる。
又、各撓曲材11に予め撓み癖を付与する構成に代えて、各撓曲材11,21の端部の回動方向を制限する機構を採用してもよい。
【0035】
<4.3>第一及び第二の軸力吸収体の交差配置
図1,2に示すように、第一の軸力吸収体10と第二の軸力吸収体20は互いに交差させて配置する。
本例では、第二の軸力吸収体20内に第一の軸力吸収体10を貫通させた形態を示すが、第一の軸力吸収体10内に第二の軸力吸収体20を貫通させて交差してもよい。
第一及び第二の軸力吸収体10,20を交差するにあたり、圧縮変形時に各撓曲材11,21が互いに干渉しないように配置することが肝要である。
【0036】
第一及び第二の軸力吸収体10,20の交差角度と、各連結材31〜33の全長は、設置現場の状況に応じて、受圧面C1に作用するエネルギーを、第一及び第二の軸力吸収体10,20と各連結材31〜33に分散して伝達しつつ、第一及び第二の軸力吸収体10,20に軸力として作用するように関係付けてあればよい。
【0037】
<5>連結材
連結材31〜33は、引張耐力に優れた例えば鋼製又は繊維製のロープ、鋼棒、鋼板等で、第一の軸力吸収体10の自由端と第二の軸力吸収体20の自由端との間を第一の連結材31が連結し、第一の軸力吸収体10の自由端と第二の軸力吸収体20の基端側との間を第二の連結材32が連結し、第一の軸力吸収体10の基端と第二の軸力吸収体20の基端との間を第三の連結材3cが連結する。
【0038】
本発明では第一、第二の軸力吸収体10,20が緩衝機能を有するため、従来と比較して各連結材31〜33の張力負担が小さくなる。
【0039】
<6>防護ネット
防護ネットCは受圧面C1を有する構造体で、例えばロープ材、網材、棒材等の何れかひとつ、或いはこれらの複数の素材を組合せた公知のものを含む。
又、防護ネットCは複数のスパンに亘る全長を有するものの他に、ダンパー装置Bの1スパン単位に分割したものであってもよい。
【0040】
防護ネットCはダンパー装置Bの斜面山側に配設し、その上縁を第二の軸力吸収体20の自由端に支持させる。
防護ネットCの上縁の取付け形態は、第二の軸力吸収体20の自由端に直接接続するか、或いは第二の軸力吸収体20の自由端に接続した別途のロープ材等を介して間接的に取り付けるものとする。
防護ネットCの下端は、第一の軸力吸収体10の基端の受圧板50に設置する場合の他に、山側斜面に直接設置してもよい。
【0041】
[作用]
次にエネルギー吸収体の作用について説明する。
【0042】
<1>エネルギー作用前
図2にエネルギーが作用する前におけるエネルギー吸収体Aを示す。
防護ネットCは斜面山側に傾倒する第二の軸力吸収体20の自由端に支持され、受圧板60を介して斜面に着地した第二の軸力吸収体20の自由端は、斜面谷側へ傾倒する第一の軸力吸収体10及び連結材31〜33を通じて支持されている。
受圧板50を介して斜面に枢支した第一の軸力吸収体10の自由端は、第二の軸力吸収体20及び第一の連結材31を通じて支持されている。
このようにエネルギーの作用前における防護ネットC及びダンパー装置Bを構成する第一、第二の軸力吸収体10,20は、互いに重量がバランスして安定した姿勢を維持する。
【0043】
<2>エネルギー作用時
図7に基づきダンパー装置Bの作用について説明する。
【0044】
<2.1>第二の軸力吸収体の傾倒拘束
受圧面C1にエネルギーが作用すると防護ネットCが斜面谷側へ撓む。
防護ネットCの撓みに伴い、第二の軸力吸収体20が基端の受圧板60を中心として斜面山側前方へ傾倒する方向の力が働く。
【0045】
受圧板60は斜面へ接地するだけでピンで固定しないが、第三の連結材33を通じてアンカー56で固定した上位の受圧板50に支持されるため、第二の軸力吸収体20の基端は移動せずに定位置に位置する。
【0046】
第二の軸力吸収体20に傾倒力が働くと、第一及び第二連結材31,32に張力が作用し、第一及び第二連結材31,32が第二の軸力吸収体20の傾倒を拘束する。
【0047】
<2.2>第一の軸力吸収体の傾倒拘束
同時に、第一及び第二連結材31,32に張力が作用すると、第一の軸力吸収体10が基端を中心として反時計回りの方向へと回動しようとして第二及び第三の連結材32,33に張力が生じる。
第二及び第三連結材32,33に作用する張力は最終的にアンカー56に支持されて、第一の軸力吸収体10の反時計回りの方向の回動が拘束される。
【0048】
防護ネットCと各連結材31〜33に生じる張力が釣り合い、その張力の合力が各軸力吸収体10,20に対して軸力として作用する。
【0049】
第一及び第二の軸力吸収体10,20に作用する軸力が、第一及び第二の軸力吸収体10,20の変形強度以下であれば、第一及び第二の軸力吸収体10,20は圧縮変形したり傾倒したりしない。
最終的に受圧面C1に作用したエネルギーは、第一及び第二の軸力吸収体10,20と、第一及び第二の連結材31,32に分散して支持される。
【0050】
<2.3>軸力吸収体の圧縮変形
第一又は第二の軸力吸収体10,20に生じる軸力が、第一又は第二の軸力吸収体10,20の変形強度を越えると、第一又は第二の軸力吸収体10,20のいずれか一方または両方が圧縮変形を開始する。
【0051】
第一の軸力吸収体10の場合、複数の撓曲材11が予め同一方向に向けて湾曲しているため、恰も第一の軸力吸収体10の中心部に直線状のガイド軸が存在するかの如く直立性を保ちながら、各撓曲材11が均等に圧縮変形する。
第二の軸力吸収体20の場合も同様に、恰も第二の軸力吸収体20の中心部に直線状のガイド軸が存在するかの如く直立性を保ちながら、各撓曲材21が均等に圧縮変形する。
受圧面C1に作用したエネルギーは、第一又は第二の軸力吸収体10,20が圧縮変形をすることで吸収される。
【0052】
本発明は弾性部材の変形方向に関係なく単に弾性変形させる発明ではない。
本発明は、第一又は第二の軸力吸収体10,20に軸力が生じると、第一又は第二の軸力吸収体10,20が直立性を維持しながら特定方向(拡径方向又は縮径方向)へ弾性変形するように構成した。
特に雪荷重等は第二の軸力吸収体20の自由端に対し偏倚して使用するが、図5に示す収束板70を通じて各撓曲材11へ均等に荷重が分散されるため、結果的に雪荷重等は第二の軸力吸収体20の中心の軸芯と平行に作用する。
そのため、第二の軸力吸収体20の中間部が一方向に中折れせず、各撓曲材11が均等に圧縮変形することが可能となる。
したがって、第一及び第二の軸力吸収体10,20が安定した緩衝機能を長時間に亘って発揮できるから、受圧面C1に作用したエネルギーを効率的に吸収することができる。
【0053】
さらに、第一及び第二の軸力吸収体10,20に大きな軸力が作用しても、従来の剛性材からなる支柱構造体のように、第一及び第二の軸力吸収体10,20が突発的に損壊せずに済むから、エネルギー吸収体Aの機能喪失を回避することができる。
【0054】
又、第一及び第二の軸力吸収体10,20を構成する撓曲材11,21の両端部は、あらゆる方向に対して弾性変形可能なように収束した形態になっている。
そのため、第一及び第二の軸力吸収体10,20に対して予期せぬ方向からの荷重に起因する変形や、ねじれに対しても柔軟に追従することができる。
したがって、ダンパー装置Bとして種々の方向から受けるエネルギーを効率よく吸収することができる。
【0055】
<3>エネルギーの消滅後
防護ネットC(受圧面C1)からエネルギーの発生要因が取り除かれた後は、ダンパー装置Bを構成する第一及び第二の軸力吸収体10,20が自己の弾性復元力によって元の待機位置へと戻る。
ダンパー装置Bの復元に伴い、防護ネットCも元の位置に引き上げられる。
そのため、エネルギーの作用前の状態を保ちエネルギー吸収体Aの機能を引き続き維持することができる。
例えば、エネルギーの発生要因が積雪圧の場合には、雪が溶けると自然に軸力吸収体10,20が元の位置へと戻るため、特段の処置を施すことなく、エネルギー吸収体Aの機能を常に発揮させておくことができる。
【実施例2】
【0056】
先の実施例1では、第二の軸力吸収体20の基端を定位置に保持する手段として、第三の連結材3cを使用する場合について説明したが、図8,9に示すように第三の連結材3cを使用せずに第二の軸力吸収体20の基端を定位置に保持することも可能である。
【0057】
図8は第二の軸力吸収体20の基端を支持する受圧板60をアンカー64で斜面に固定した形態を示し、図9は第一の軸力吸収体10の基端を支持する上位の受圧板50を斜面谷側へ延長して第二の軸力吸収体20の基端の支持に共有させた形態を示す。
【0058】
第一及び第二の軸力吸収体10,20を別個のアンカー56によって個別に固定する図8の形態にあっては、第二の軸力吸収体20の基端が直接斜面に固定されるため、第二の連結材32の張力に対する抵抗力が増すといった利点がある。
さらに、第一の軸力吸収体10の基端と第二の軸力吸収体20の基端との間に高低差があったり起伏等の障害物が存在して、連結材33の連結が困難な現場に有効である。
【0059】
第一及び第二の軸力吸収体10,20で受圧板50を共有する図9の形態にあっては、受圧板50が連結材33と比較して引張強度が大きいため、より大きなエネルギーが作用する現場に好適である。
【実施例3】
【0060】
以上の実施例は、ダンパー装置Bを構成する第一及び第二の軸力吸収体10,20が弾性変形する場合について説明したが、第一又は第二の軸力吸収体10,20の何れか一方を非弾性部材体に置換して構成してもよい。
非弾性部材体と既述した各受圧板50,60に対する枢支構造、及び非弾性部材体と各連結材31〜33の連結構造は既述した実施例と同様であり、機能的に軸力が作用したときに圧縮変形しない点だけが異なる。
非弾性部材体とは、例えば鋼材、コンクリート等の剛性材を含む。
【0061】
本実施例におけるダンパー装置Bは、第一又は第二の軸力吸収体10,20の何れか他方が弾性機能を有するため、非弾性部材体の軸力負担を軽減できる。
第二の軸力吸収体20を非弾性部材体で構成した場合は、防護ネットCの柵高変化を小さく抑えることができ、また第一軸力吸収体10を非弾性部材体で構成した場合は、第二の軸力吸収体20の単独によるエネルギー吸収作用を促進できる。
要はエネルギー吸収体Aの設置現場の周辺環境において求められる耐荷重性能や、費用対効果等の諸条件に応じて、第一又は第二の軸力吸収体10,20の何れか一方を非弾性部材体に適宜選択すればよい。
【実施例4】
【0062】
各軸力吸収体10,20を構成する各撓曲材11,21は、少なくとも、長手方向からの圧縮力に対して夫々干渉しない方向に撓曲するように形成されていればよいため、先の実施例において説明した各軸力吸収体10,20の配置位置を互いに入れ替えてもよい。
【実施例5】
【0063】
前記第一の軸力吸収体10の両端部は、撓曲材11を折り返して連続性を持たせて形成したが、図5,6と同様にピン結合の収束形態に形成してもよい。
【0064】
又、前記第二の軸力吸収体20の両端部は、ピン結合の収束形態について示したが、図3,4と同様に撓曲材21を折り返して連続性を持たせた収束形態に形成してもよい。
【0065】
軸力吸収体10,20の両端部が撓曲材11,21を折り返して連続性を持たせた収束形態であると、ピン結合と比較して、折り返した箇所のばね力分だけ撓曲材11,21の変形抵抗が大きくなる。
【実施例6】
【0066】
図10,11は第二の軸力吸収体20の自由端であって、第一の連結材31の他側(斜面山側)に、ダンパー装置Bの転倒防止用の控えロープ34を接続した形態を示す。
図10は控えロープ34の下端を第二の軸力吸収体20の基端に接続した場合を示し、図11は控えロープ34の下端を第一及び第二の軸力吸収体10,20の各基端に分岐して接続した場合を示す。
図示を省略するが、控えロープ34の下端を山側斜面に直接固定してもよい。
要は、ダンパー装置Bが斜面谷側へ転倒するのを規制できるように控えロープ34が張設してあればよい。
【0067】
本実施例にあっては、ダンパー装置Bが斜面谷側へ転倒するのを規制できるから、エネルギー吸収体Aの組立時は勿論のこと、組立後に雪荷重等が作用した場合も、ダンパー装置Bが斜面谷側へ不用意に転倒することを防止できる。
【符号の説明】
【0068】
A エネルギー吸収体
B ダンパー装置
C 防護ネット
C1 受圧面
10 第一の軸力吸収体
11 撓曲材
20 第二の軸力吸収体
21 撓曲材
31 第一の連結材
32 第二の連結材
33 第三の連結材
50,60 受圧板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパー機能と支柱機能を併有するダンパー装置であって、
基端を固定して傾倒自在に立設した第一の軸力吸収体と、
前記第一の軸力吸収体と交差するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した第二の軸力吸収体と、
前記第一の軸力吸収体の自由端と前記第二の軸力吸収体の自由端とを連結する第一の連結材と、
前記第一の軸力吸収体の自由端と前記第二の軸力吸収体の基端とを連結する第二の連結材とを具備し、
前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方を、湾曲した複数の撓曲材で構成することを特徴とする、
ダンパー装置。
【請求項2】
請求項1において、前記複数の撓曲材の両端部を収束し、かつ前記複数の撓曲材の中間部の湾曲方向を内方又は外方へ向けたことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項3】
請求項2において、撓曲材を折り返して連続性を持たせて前記第一又は第二の軸力吸収体の両端部を収束したことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項4】
請求項2において、各撓曲材の端部をピン結合して前記第一又は第二の軸力吸収体の両端部を収束したことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項において、前記第一の軸力吸収体の基端を固定するアンカーを具備することを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項6】
請求項5において、前記第一の軸力吸収体の基端と第二の軸力吸収体の基端との間を連結する第三の連結材を具備することを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか1項において、第二の軸力吸収体の基端を固定する別途のアンカーを具備することを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5の何れか1項において、前記第一の軸力吸収体の基端と第二の軸力吸収体の基端との間を共通の受圧板で連結したことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか1項において、第二の軸力吸収体の自由端であって、前記第一の連結材の他側に控えロープを接続したことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項10】
防護ネットの前面に受圧面を有するエネルギー吸収体であって、
請求項1乃至9の何れか1項に記載のダンパー装置を間隔を隔てて立設し、
隣り合う前記各ダンパー装置の第二の軸力吸収体の自由端側に防護ネットの上縁を取り付けたことを特徴とする、
エネルギー吸収体。
【請求項11】
請求項10において、前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方が、受圧面に作用するエネルギーによって生ずる軸力を、軸力吸収体の直立性を維持した状態で弾性変形して吸収することを特徴とする、エネルギー吸収体。
【請求項1】
ダンパー機能と支柱機能を併有するダンパー装置であって、
基端を固定して傾倒自在に立設した第一の軸力吸収体と、
前記第一の軸力吸収体と交差するとともに、基端を固定して傾倒自在に立設した第二の軸力吸収体と、
前記第一の軸力吸収体の自由端と前記第二の軸力吸収体の自由端とを連結する第一の連結材と、
前記第一の軸力吸収体の自由端と前記第二の軸力吸収体の基端とを連結する第二の連結材とを具備し、
前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方を、湾曲した複数の撓曲材で構成することを特徴とする、
ダンパー装置。
【請求項2】
請求項1において、前記複数の撓曲材の両端部を収束し、かつ前記複数の撓曲材の中間部の湾曲方向を内方又は外方へ向けたことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項3】
請求項2において、撓曲材を折り返して連続性を持たせて前記第一又は第二の軸力吸収体の両端部を収束したことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項4】
請求項2において、各撓曲材の端部をピン結合して前記第一又は第二の軸力吸収体の両端部を収束したことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項において、前記第一の軸力吸収体の基端を固定するアンカーを具備することを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項6】
請求項5において、前記第一の軸力吸収体の基端と第二の軸力吸収体の基端との間を連結する第三の連結材を具備することを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか1項において、第二の軸力吸収体の基端を固定する別途のアンカーを具備することを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5の何れか1項において、前記第一の軸力吸収体の基端と第二の軸力吸収体の基端との間を共通の受圧板で連結したことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか1項において、第二の軸力吸収体の自由端であって、前記第一の連結材の他側に控えロープを接続したことを特徴とする、ダンパー装置。
【請求項10】
防護ネットの前面に受圧面を有するエネルギー吸収体であって、
請求項1乃至9の何れか1項に記載のダンパー装置を間隔を隔てて立設し、
隣り合う前記各ダンパー装置の第二の軸力吸収体の自由端側に防護ネットの上縁を取り付けたことを特徴とする、
エネルギー吸収体。
【請求項11】
請求項10において、前記第一又は第二の軸力吸収体の何れか一方又は両方が、受圧面に作用するエネルギーによって生ずる軸力を、軸力吸収体の直立性を維持した状態で弾性変形して吸収することを特徴とする、エネルギー吸収体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−255648(P2010−255648A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102909(P2009−102909)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000229128)日本ゼニスパイプ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000229128)日本ゼニスパイプ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
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