説明

ダンパ及びインクジェット記録装置

【課題】大気圧が異なるような状況であっても一定のバルブ開閉動作を行うことができるダンパ、及びこれを用いたインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクタンク12から供給されたインクを、記録ヘッド32に供給する前に一時的に収容するとともに、記録ヘッド32へのインクの供給に伴って内部の体積減少による負圧を調整する隔壁42を有するインク室40と、インクタンク12から供給されたインクをインク室40内に流通させる連通部44と、隔壁42によって、直接的又は間接的に連通部44を開閉するように動作するバルブ48と、隔壁42の外部に、当該隔壁42を内設し且つ圧力調整可能な圧力室52とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクの供給圧力を調整するためのダンパ及びそれを用いたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドからインクをメディアに吐出させるインクジェット記録装置においては、記録ヘッドに微少な開口部が複数形成され、この開口部よりインクを吐出させるようにしている。このとき、記録ヘッド内部が大気圧と同一圧力であると、記録ヘッドへのインクの送り込みの圧力により、インクが少しずつ記録ヘッドの開口部から漏れ出してしまうという問題点がある。
【0003】
そこで、記録ヘッド内部を大気圧に対し弱い負圧にしておくように記録ヘッドへのインク供給圧力を調整することで、記録ヘッドからのインクの漏れを防止するよう構成されたダンパが、従来から提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図7(a)、(b)に、従来のダンパの構成を示す。
ダンパ10は、記録ヘッド20へインクを送り込むために記録ヘッド20とインクタンク12との間に接続されるものである。
ダンパ10は、インクタンク12からインクが供給される供給室13と、供給室13と連通するインク室14とを備えている。供給室13とインク室14との間のインクの流通路16は、流通路16よりも大径に形成されたバルブ18によって開閉可能に設けられている。
インク室14の流通路16に対向して位置する側壁は、可撓性のフィルム部材19によって構成されている。
【0005】
流通路16を開閉するバルブ18は供給室13側に配置され、供給室13の側壁面との間に配置された圧縮バネ22によって、通常時は流通路16を閉塞する方向に付勢されている。また、バルブ18の先端には、シャフト23を介して大気圧(室内圧)を受ける受圧板24が設けられている。受圧板24は、インク室14の側壁のフィルム部材19の内壁面に当接しており、フィルム部材19の変形に伴ってバルブ18を押圧することができる。
一方、インク室14の下部には、記録ヘッド20に連通し、インクを記録ヘッド20へ流入させる排出口25が形成されており、インク室14に貯留されたインクが記録ヘッド20へ流入する。
【0006】
このような従来のダンパの動作について説明する。
図7(a)では、インク室14内のインクが記録ヘッド20に流入して、インク室14内のインク量が減少してきたところを示している。
インク室14内のインク量が減少すると、インク室14内の圧力が下がる。このため、大気圧によってフィルム部材19がインク室14内側に凹むように押圧される。フィルム部材19の凹む動作によって、受圧板24は圧縮ばね22の付勢力に抗してバルブ18を供給室13側に押圧する。バルブ18が受圧板24によって押圧されることによって、流通路16を閉塞していたバルブ18が供給室13側に移動し、流通路16が開放される。
【0007】
図7(b)では、流通路16が開放されて供給室13からインク室14へインクが供給されているところを示している。
供給室13からインク室14へインクが供給されると、インク室14のインク量が増えインク室14内の負圧が正圧側に戻る。このため、インク室14内の負圧と大気圧との差が小さくなり、フィルム部材の凹み量が小さくなり、外方にふくらむ。フィルム部材19が外方にふくらむ動作によって、受圧板24もフィルム部材19に追従して図7(a)に示された位置に移動する。受圧板24の移動により、バルブ18がインク室14側に移動して流通路16を閉塞し、インクのインク室14への流入が停止する。そして、図7(a)の状態に戻る。
【0008】
このような従来の構成によれば、インクタンク12から送られてくるインクを、一定の弱い圧力で記録ヘッド20に供給するために、記録ヘッド20内を一定範囲内の弱い負圧状態にすることができ、記録ヘッド20からのインクの漏れを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3606282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来のダンパ10によれば、大気圧と圧縮バネ22の付勢力とのバランスによってインク室14内の負圧を検出して、バルブ18の開閉を制御するようにしていた。
しかしながら、このような構成では、大気圧の異なる環境下では、バルブの開閉する圧力に差が生じてしまう。すなわち、従来の構成では、大気圧が変動するような場合においては予め想定した一定の圧力でインクを供給することができないという課題がある。
【0011】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、大気圧が異なるような状況であっても一定のバルブ開閉動作を行うことができるダンパ、及びこれを用いたインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるダンパによれば、インクが貯留されたインクタンクとメディアにインクを吐出する記録ヘッドとの間に配置されるダンパにおいて、前記インクタンクから供給されたインクを、前記記録ヘッドに供給する前に一時的に収容するとともに、前記記録ヘッドへのインクの供給に伴って内部の体積減少による負圧を調整する隔壁を有するインク室と、前記インクタンクから供給されたインクを前記インク室内に流通させる連通部と、前記隔壁によって、直接的又は間接的に前記連通部を開閉するように動作するバルブと、前記隔壁の外部に、当該隔壁を内設し且つ圧力調整可能な圧力室とを具備することを特徴としている。
この構成を採用することによって、バルブを動作させる隔壁の外方は圧力室によって覆われており、大気圧の変動によって隔壁が動作することはない。したがって、大気圧の変動による影響を抑制し、安定した動作を実現できる。
【0013】
本発明にかかるダンパにおいて、前記隔壁は、可撓性部材によって形成されており、前記バルブは、前記可撓性部材によって直接的に駆動されることが好ましい。
これによれば、バルブの動作を、別途他の部材を設けなくとも実行することができる。
【0014】
本発明にかかるダンパにおいて、前記バルブは、付勢手段によって前記連通部を常時閉塞するように付勢されていることが好ましい。
これによれば、連通部の開閉を確実に行うことができる。これにより、記録ヘッド内の圧力を常に所定圧以下となるよう確実に制御することができる。
【0015】
本発明にかかるダンパにおいて、前記圧力室内の圧力を調整可能な圧力調整手段が、前記圧力室内の圧力を変動させることにより、前記インク室内の圧力にかかわらずに、前記バルブの連通部の開閉動作可能であることが好ましい。
これによれば、圧力室の圧力を調整することによって、バルブを必要に応じて開閉することができる。
【0016】
本発明にかかるインクジェット記録装置によれば、インクが貯留されたインクタンクと、メディアにインクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドと共にキャリッジに搭載される請求項1、請求項2又は請求項3のうちの何れか1項記載のダンパと、前記圧力室内の圧力を調整可能な圧力調整手段とを具備することを特徴としている。
この構成を採用することによって、大気圧の変動による影響を抑制し、安定したインクの供給を行うことができる。
【0017】
本発明にかかるインクジェット記録装置において、前記インクタンク内の圧力を調整可能な第2の圧力調整手段を具備し、前記圧力調整手段と、該第2の圧力調整手段とによって、前記インクタンク内の圧力及び前記圧力室内の圧力を調整して記録ヘッド内へのインクの充填を行えることが好ましい。
この構成によれば、記録ヘッドにまだインクが充填されていない初期状態時などにおいて、通常の印刷時とは異なる圧力によって記録ヘッドへインクの導入を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のダンパ及びインクジェット記録装置によれば、大気圧が異なるような状況であっても一定のバルブ開閉動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかるインクジェット記録装置の概略側面図である。
【図2】第1の実施形態におけるダンパの構成図である。
【図3】第2の実施形態におけるダンパの接続構造に関する構成図である。
【図4】第3の実施形態におけるダンパの接続構造に関する構成図である。
【図5】第4の実施形態における、ダンパの構成図である。
【図6】図5に示したダンパの斜視図である。
【図7】従来のダンパの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明の好適な実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1に、インクジェット記録装置の概略図を示す。
インクジェット記録装置30は、メディア31にインクジェットにより印刷を施す装置であって、インクをメディア31に吐出する記録ヘッド32と、記録ヘッド32に供給するインクを貯留しているインクタンク12と、インクタンク12と記録ヘッド32の間に配置されて記録ヘッド32へのインクの供給圧力を調整するダンパ34と、メディア31を搬送方向に搬送させる搬送ローラ33と、メディア31の下方に設けられて、記録ヘッド32との間の位置を規制するプラテン36とを具備している。
【0021】
記録ヘッド32とダンパ34は、印刷時に走査方向に動作するキャリッジ37内に搭載されている。
また、ダンパ34とインクタンク12との間は、チューブ状のインク供給管35によって接続されており、インクタンク12内のインクがインク供給管35を介してダンパ34内に供給される。
【0022】
図2(a)、(b)に本実施形態にかかるダンパの構成を示す。
ダンパ34は、インクタンク12からインク供給管35を介して供給されたインクを一時的に貯留する供給室38と、記録ヘッド32に供給するインクを一時的に貯留するインク室40を備えている。インク室40の下部には、記録ヘッド32に連通し、インクを記録ヘッド32へ流入させる排出口46が形成されており、インク室40に貯留されたインクが記録ヘッド32へ流入する。
なお、本発明としては、供給室38が設けられておらずに、ダンパ34にインクタンク12からのインク供給管35が直接接続される形態であってもよい。
【0023】
供給室38とインク室40との間には、インクが供給室38からインク室40へ流通可能となるように、供給室38とインク室40とを連通するように形成された流通路44が設けられている。
また、流通路44は、流通路44よりも大径に形成されたバルブ48によって開閉可能に設けられている。バルブ48は、流通路44の供給室38側端部を開閉するように設けられている。また、バルブ48は、供給室38の側壁面との間に配置された圧縮バネ41によって、通常時は流通路44を閉塞する方向に付勢されている。
【0024】
インク室40の流通路44の流通方向に対向して位置する隔壁は、フィルム等の可撓性部材42で形成されている。以下、特許請求の範囲でいう隔壁を、可撓性部材と称して説明するが、隔壁としては可撓性がない部材であってもよい。例えば、隔壁を形状記憶性の弾性体で構成し、バルブ48を常時流通路44を閉塞する方向に付勢するようにしてもよい。
このような構成のため、インク室40は、記録ヘッド32へのインクの供給に伴って内部の体積減少による負圧を生じさせることができる。
【0025】
なお、可撓性部材42の一例としては、少なくとも液体が透過しないような材質であることが必要であり、例えばポリプロピレン等を採用することができる。また、可撓性部材42としては、複数層で構成してもよく、例えば、インクと接する内側をポリプロピレン等の材質とし、外側に塩化ビニリデン等の防湿性の材質を用いるようにしてもよい。
【0026】
バルブ48の先端側には、流通路44内を貫通して配置されているシャフト49を介して、受圧板50が設けられている。受圧板50は、インク室40の側壁の可撓性部材42の内壁面に当接しており、可撓性部材42の変形に伴ってバルブ48を押圧することができる。
【0027】
インク室40の可撓性部材42が側壁として配置されている部位の外側には、可撓性部材42が大気圧の変動によっては動作しないように、可撓性部材42に対して一定圧力を維持させるための圧力室52が設けられている。
圧力室52は、インク室40との境界である可撓性部材42を除いては、大気圧によっては変形しない部材によって構成され、圧力室52内の圧力は大気圧の影響を受けないように密閉されている。
【0028】
なお、圧力室52には、エアポンプ54が接続されている。エアポンプ54が駆動することによって、圧力室52内の圧力を加圧したり減圧したりすることができる。
このようにエアポンプ54を駆動させて、圧力室52内の圧力を適宜調整可能とすることにより、エアポンプ54の駆動によりバルブ48の開閉を任意で行うことができる。
【0029】
続いて、図2(a)、(b)に基づいて、本実施形態のダンパ34の動作について説明する。
図2(a)では、インク室40内のインクが記録ヘッド32に流入して、インク室40内のインク量が減少していくところを示している。
インク室40内のインク量が減少すると、インク室40内の圧力が下がる。このため、圧力室52内の圧力によって可撓性部材42がインク室40の内側に凹むように押圧される。可撓性部材42の凹む動作によって、受圧板50は圧縮ばね41の付勢力に抗してバルブ48を供給室38側に押圧する。バルブ48が受圧板50によって押圧されることによって、流通路44を閉塞していたバルブ48が供給室38側に移動し、流通路44が開放される。
【0030】
図2(b)では、流通路44が開放されて供給室38からインク室40へインクが供給されていくところを示している。
供給室38からインク室40へインクが供給されると、インク室40内の負圧が正圧側に戻る。このため、インク室40内の圧力と圧力室52内の圧力差が小さくなり可撓性部材42は凹み量が小さくなり圧力室52方向に戻ろうとする。可撓性部材42が圧力室52方向(外方)にふくらむ動作によって、受圧板50も可撓性部材42に追従して、図2(a)に示された状態の位置に戻る。受圧板50の移動により、バルブ48がインク室40側に移動して流通路44を閉塞し、インクのインク室40への流入が停止する。そして、図2(a)の状態に戻る。
【0031】
(第2の実施形態)
次に図3に基づいて、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、上述してきた実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する場合もある。
本実施形態では、1台のエアポンプ54がインクタンク12へのエアの導入と、圧力室52へのエアの導入の双方を制御している。エアポンプ54の吐出口に接続されたエア供給管56は2つに分岐され、一方のエア供給管56aが第1のエアチャンバー58を介してインクタンク12の上部に接続されている。分岐したエア供給管56のうち他方のエア供給管56bは、第2のエアチャンバー60を介してダンパ34の圧力室52に接続されている。
【0032】
各エアチャンバー58,60のそれぞれには、スピードコントローラ61,62が取り付けられている。スピードコントローラ61,62の開度の調整によって、各エアチャンバー58,60から吐出されるエアの圧力調整を図ることができる。
なお、第1のエアチャンバー58から吐出されるエアの圧力をプラスして、インクタンク12から供給室38にインクを供給する圧力をP1とし、第2のエアチャンバー60から吐出されるエアの圧力をP2とした場合、P1>P2となるように各スピードコントローラ61,62を設定することによって、インクの通常の吐出時において、バルブ48の開閉動作を妨げることなく、確実なインクの供給が行える。
【0033】
(第3の実施形態)
次に図4に基づいて、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、上述してきた各実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する場合もある。
本実施形態は、第2の実施形態で説明した各エアチャンバー58,60をそれぞれ2段階切替可能としたものである。
【0034】
本実施形態の第1のエアチャンバー58には、三方弁64を介して2つのスピードコントローラ61a,61bが選択可能に接続されている。第2のエアチャンバー60にも、三方弁66を介して2つのスピードコントローラ62a,62bが選択可能に接続されている。
【0035】
例えば、第1のエアチャンバー58から吐出されるエアの圧力をP1とP3の2段階で切替できるように、2つのスピードコントローラ61a,61bのうち、一方を圧力P1で出力でき、他方を圧力P3で出力できるようにそれぞれを調整しておく。エアの圧力P1とP3の切替は、三方弁64を切り換えることにより行うことができる。
【0036】
また、第2のエアチャンバー60から吐出されるエアの圧力をP2とP4の2段階で切替できるように、2つのスピードコントローラ62a,62bのうち、一方を圧力P2で出力でき、他方を圧力P4で出力できるようにそれぞれを調整しておく。エアの圧力P2とP4の切替は、三方弁66を切り換えることにより行うことができる。
【0037】
通常のインク吐出は、第1のエアチャンバー58から吐出されるエアの圧力P1をプラスして、インクタンク12から供給室38にインクを供給する圧力をP6とすると、P6>P2とすることでバルブ48の開閉動作を妨げることなく、確実なインクの供給が行える。
なお、記録ヘッド32内にインクが全く入っておらず記録ヘッド32内に初めてインクを充填する場合(今まで使用しておらず初めて製品を使用する場合)や、記録ヘッド32からインクを通常の印刷時以上の量を吐出させてクリーニングする場合には、通常の印刷時とは異なるインク供給の圧力が必要である。この圧力は通常の印刷時のインクの供給圧力よりも高い圧力でインクを記録ヘッド32に供給させる必要がある。
【0038】
上述したような新たに記録ヘッド32にインクを充填したり、クリーニングを行う場合を、以下では充填時と称する。充填時には、三方弁64を切替えて第1のエアチャンバー58から吐出されるエアの圧力をP3とし、三方弁66を切替えて第2のエアチャンバー60から吐出されるエアの圧力をP4とする。
充電時には、バルブ48を常時開いて印刷時よりも強い一定圧力でインクを供給する必要があるため、P4>P3+P5の関係が維持できるように予め各スピードコントローラ61a,61b,62a,62bを設定しておく。なお、P5とは、圧縮ばね41のバルブ48を閉じようとするときの付勢力をエアの圧力に換算したものである。
【0039】
上記のように、充填時に、インクタンク12へのエアの圧力P3、圧力室52へのエアの圧力P4、圧縮ばね41のバルブ48を閉じようとするときの付勢力をエアの圧力に換算した圧力P5について、P4>P3+P5となるように切替えることにより、インク充填やクリーニングをインク供給側の加圧のみで行うことができる。このため、従来のように充填時に記録ヘッド32の吐出面側にキャップ(図示せず)を介してヘッド内を吸引する必要がなくなる。
【0040】
(第4の実施形態)
次に、図5及び図6に基づいて、第1〜第3の実施形態で説明した構造とは異なる構造のダンパについて説明する。なお、本実施形態においても、上述してきた各実施形態の構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する場合もある。
【0041】
本実施形態のダンパ70は、上部にインクタンク12と接続される供給口72が設けられており、供給口72と連結されて一時的にインクを貯留する供給室74が設けられている。また、供給室74と流通路75を介して連通して、記録ヘッド32に供給するインクを一時的に貯留するインク室76が設けられている。
インク室76の下部には、記録ヘッド32に連通し、インクを記録ヘッド32へ流入させる排出口78が形成されており、インク室76に貯留されたインクが記録ヘッド32へ流入する。
【0042】
インク室76の流通路75からのインク流入方向に対向して位置する側壁は、フィルム等の可撓性部材42で形成されている。このため、インク室76は、記録ヘッド32へのインクの供給に伴って内部の体積減少による負圧を生じさせることができる。
【0043】
なお、可撓性部材42の一例としては、上述した各実施形態と同様に、少なくとも液体が透過しないような材質であることが必要であり、例えばポリプロピレン等を採用することができる。また、可撓性部材42としては、複数層で構成してもよく、例えば、インクと接する内側をポリプロピレン等の材質とし、外側に塩化ビニリデン等の防湿性の材質を用いるようにしてもよい。
【0044】
可撓性部材42の内壁面には受圧板50が設けられている。受圧板50は、可撓性部材42の変形に伴って後述するリンクアーム79の他端部79bを押圧することができる。
【0045】
供給室74とインク室76との間に設けられた、インクが流通する流通路75には、流通路75を開閉可能にしたリンクアーム79が設けられている。リンクアーム79は、側面視(図5参照)するとコの字状に形成され、コの字の一端部79aが供給室74内のバルブ84に取り付けられ、コの字の他端部79bがインク室76内の受圧板50に取り付けられている。
【0046】
バルブ84は、供給室74と流通路75との間を閉塞できるように、供給室74内に配置されている。また、バルブ84は、閉弁用ばね80によって流通路75と供給室74との間を常時は閉塞するように付勢されている。
また、インク室76の受圧板50は、負圧保持ばね82によって、インク室76内の容積が拡張する方向(インク室76の外方)に付勢されている。
これらの閉弁用ばね80と負圧保持ばね82が特許請求の範囲でいう付勢手段に該当する。
【0047】
リンクアーム79は、支点83を中心に、コの字の一端部79a及び他端部79bがそれぞれ、供給室74に突出入する方向及びインク室76に突出入する方向に揺動可能に設けられている。
なお、閉弁用ばね80は、その付勢力によってリンクアーム79の一端部79aを流通路75方向に押圧している。
【0048】
インク室76の可撓性部材42が側壁として配置されている部位の外側には、可撓性部材42が大気圧の変動によっては動作しないように、可撓性部材42に対して一定圧力を維持させるための圧力室86が設けられている。圧力室86は、インク室76との境界である可撓性部材42を除いては、大気圧によっては変形しない部材によって構成され、密閉されている。
【0049】
なお、圧力室86には、エアポンプ(図示せず)が接続されている。エアポンプが駆動することによって、圧力室86内の圧力を加圧したり減圧したりすることができる。このようにエアポンプを駆動させて、圧力室86内の圧力を適宜調整可能とすることにより、受圧板50を動作させ、バルブ84の開閉を行うことができる。
【0050】
以下、本実施形態の動作について説明する。
上記のように、供給室74と流通路75との間が閉塞された状態でインク室76内に貯留されているインクが記録ヘッド32へ供給されていくと、インク室76内のインク量が減少し、インク室76内の圧力が下がる。このため、圧力室86内の圧力によって可撓性部材42がインク室76の内側に凹むように押圧される。可撓性部材42の凹む動作によって、受圧板50は負圧保持ばね82の付勢力に抗してリンクアーム79の他端部79bを流通路75側に押圧する。
【0051】
リンクアーム79の他端部79bが流通路75側に押圧されると、支点83を介してテコの原理によりリンクアーム79の一端部79aが、閉弁用ばね80の付勢力に抗してバルブ84を供給室74内に押動する。
このため、供給室74と流通路75とは連通し、供給室74から流通路75を介してインク室76にインクが供給される。
【0052】
供給室74からインク室76へインクが供給されると、インク室76内の負圧が正圧側に戻る。このため、インク室76内の圧力と圧力室52内の圧力差が小さくなり、可撓性部材42は凹み量が小さくなり、圧力室86方向に戻ろうとする。可撓性部材42が圧力室86方向(外方)にふくらむ動作によって、受圧板50も可撓性部材42に追従して、インク室76の容積を拡張する方向に移動する。そして、受圧板50の移動により、リンクアーム79の他端部79bは、インク室76内方向に移動する。これにより、リンクアーム79は支点83を介してテコの原理により一端部79aが閉弁用ばね80の付勢力とともに流通路75側に移動する。リンクアーム79の一端部79aが流通路75方向に移動することで、バルブ84によって流通路75と供給室74との間が閉塞され、インク室76にはインクが供給されない状態となり、再びインク室76内は負圧となる。
【0053】
なお、本実施形態による構成のダンパであっても、上述した第2の実施形態や第3の実施形態のように、圧力室86及びインクタンクのそれぞれに、エアポンプ54で発生させたエアをエアチャンバー58,60を介して供給し、バルブ84の開閉を制御してもよい。
【0054】
上述してきた各実施形態のダンパでは、バルブ48,84は、圧縮ばね41や閉弁用ばね80によって供給室38,74と、流通路44,75を常時閉塞するようにしたので、流通路44,75の開閉を確実に行うことができる。これにより、記録ヘッド32にかかる圧力を常に所定圧以下となるよう確実に制御することができる。
【0055】
また、上述してきたンパでは、圧力室52,86内の圧力を調整可能な圧力調整手段としてのエアポンプ54、エアチャンバー60及びスピードコントローラ62が圧力室52,86内の圧力を変動させることにより、インク室40,76内の圧力にかかわらずに、バルブ48,84の連通部の開閉動作が可能である。これによれば、圧力室52,86の圧力を調整することによって、バルブ48,84を必要に応じて開閉することができる。
【0056】
さらに、上述してきたダンパでは、インクタンク12内の圧力を調整可能なエアポンプ54,エアチャンバー58及びスピードコントローラ61を具備し、エアチャンバー60及びスピードコントローラ62との制御によって、インクタンク12内の圧力及び圧力室52,86内の圧力を調整して記録ヘッド32内へのインクの充填を行うことにより、記録ヘッド32にまだインクが充填されていない初期状態時などにおいて、通常の印刷時とは異なる圧力によって記録ヘッド32へインクの導入を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
12 インクタンク
30 インクジェット記録装置
31 メディア
32 記録ヘッド
33 搬送ローラ
34 ダンパ
35 インク供給管
36 プラテン
37 キャリッジ
38 供給室
40 インク室
41 圧縮バネ
42 可撓性部材
44 流通路
46 排出口
48 バルブ
49 シャフト
50 受圧板
52 圧力室
54 エアポンプ
56 エア供給管
58,60 エアチャンバー
61,62 スピードコントローラ
64,66 三方弁
70 ダンパ
72 供給口
74 供給室
75 流通路
76 インク室
78 排出口
79 リンクアーム
79a 一端部
79b 他端部
83 支点
84 バルブ
86 圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが貯留されたインクタンクとメディアにインクを吐出する記録ヘッドとの間に配置されるダンパにおいて、
前記インクタンクから供給されたインクを、前記記録ヘッドに供給する前に一時的に収容するとともに、前記記録ヘッドへのインクの供給に伴って内部の体積減少による負圧を調整する隔壁を有するインク室と、
前記インクタンクから供給されたインクを前記インク室内に流通させる連通部と、
前記隔壁によって、直接的又は間接的に前記連通部を開閉するように動作するバルブと、
前記隔壁の外部に、当該隔壁を内設し且つ圧力調整可能な圧力室とを具備することを特徴とするダンパ。
【請求項2】
前記隔壁は、可撓性部材によって形成されており、
前記バルブは、前記可撓性部材によって直接的に駆動されることを特徴とする請求項1記載のダンパ。
【請求項3】
前記バルブは、付勢手段によって前記連通部を常時閉塞するように付勢されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のダンパ。
【請求項4】
前記圧力室内の圧力を調整可能な圧力調整手段が、前記圧力室内の圧力を変動させることにより、前記インク室内の圧力にかかわらずに、前記バルブの連通部の開閉動作可能であることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項記載のダンパ。
【請求項5】
インクが貯留されたインクタンクと、
メディアにインクを吐出する記録ヘッドと、
該記録ヘッドと共にキャリッジに搭載される請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4のうちの何れか1項記載のダンパと、
前記圧力室内の圧力を調整可能な圧力調整手段とを具備することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インクタンク内の圧力を調整可能な第2の圧力調整手段を具備し、
前記圧力調整手段と、該第2の圧力調整手段とによって、前記インクタンク内の圧力及び前記圧力室内の圧力を調整して記録ヘッド内へのインクの充填を行えることを特徴とする請求項5記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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