説明

ダンパ

【課題】製造が容易でダンパ長の長大化を回避可能なダンパを提供することである。
【解決手段】上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、シリンダ3と、シリンダ3内に摺動自在に挿入されてシリンダ3内に液体が充填される二つの部屋R1,R2を画成するピストン4と、シリンダ3内に移動自在に挿入されてピストン4に連結されるピストンロッド5とを備えた複数のダンパユニット2と、各ダンパユニット2のシリンダ3を内部に収容して当該シリンダ3を保持するアウターシェル10と、各ダンパユニット2のピストンロッド5に連結されるブラケット11とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
地震による建築物の破壊や建築物内の人的および物的被害を軽減することを目的とした免震構造としては、たとえば、地盤と建築物との間に建築物を弾性的に支承する支持部材を介装するものがある。
【0003】
このような免震構造では、上記の如く支持部材で建築物を弾性支持することで、地震による地盤の揺れの建築物への伝達を抑制し、建築物の揺れを軽減或いは阻止するようにしている。
【0004】
しかし、支持部材のみでは、支持部材に蓄積される弾性エネルギを効率的に吸収できないので、建築物と地盤との間にダンパを介装し、当該ダンパで弾性エネルギを速やかに解消し、振動を減衰させるようにしている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−292155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、ダンパは、シリンダと、シリンダの内周に摺動自在に挿入されてシリンダ内に二つの作動油が充填される部屋を画成するピストンと、同じくシリンダ内に移動自在に挿入されてピストンに連結されるピストンロッドとを備えており、シリンダに対してピストンが移動する際に圧縮される部屋から拡大する部屋へ移動する作動油の流れに減衰弁で抵抗を与え、両部屋に圧力差を生じせしめ、ピストンで各部屋の圧力を受け前記圧力差に見合った減衰力を発揮する。
【0007】
ところで、総重量が大きな建築物の振動を抑制しようとする場合、ダンパで発生する減衰力もそれに応じて大きくしなければならない。減衰力を大きくするということは、上記したところから理解できるように、ピストンにおける受圧面積を大きくするとともに両部屋の圧力差を大きくするといった方法が採用されることになる。そして、両部屋の圧力差を大きくするには、減衰弁で与える抵抗を大きくすればよいのであるが、各部屋で許容できる圧力上限の引き上げも同時に要求される。
【0008】
それゆえ、ダンパで発生する減衰力も大きくするには、ピストン外径の大径化と部屋内の高圧化に伴って、シリンダの径および肉厚の大型化と高強度材料の使用が必要となり、加工も難しくなる。
【0009】
さらに、ピストンにも高圧が作用することになり、また、シリンダとの摺動性確保という観点から、軸方向の厚みをピストン外径より厚くする必要がある。また、ピストンがピストンロッドの先端に設けた螺子部に螺着されるナットで固定されるのであるが、ピストンにて大荷重を受けることから、ピストンロッドの螺子部とナットの螺合長さも長くする必要があり、ナットおよびピストンロッドにおける螺子部を含むピストン部における軸方向長さも必然的に長くなる。そして、ピストン部における軸方向長さは、ダンパのストロークに寄与しないので、その分、ダンパ長が長くなる。
【0010】
つまり、ダンパの減衰力を大きくしようとすると、シリンダ、ピストン等の主要部品の製造が難しくなり、さらに、ダンパの外径のみならず、ダンパ長も長くなるので、建築物と地盤との間の狭いスペースへダンパの設置が難しくなるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、製造が容易でダンパ長の長大化を回避可能なダンパを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されてシリンダ内に液体が充填される二つの部屋を画成するピストンと、シリンダ内に移動自在に挿入されてピストンに連結されるピストンロッドとを備えた複数のダンパユニットと、各ダンパユニットのシリンダを内部に収容して当該シリンダを保持するアウターシェルと、各ダンパユニットのピストンロッドに連結されるブラケットとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のダンパは、全てのダンパユニットのそれぞれが減衰力を発揮して、ダンパの全体としては各ダンパユニットが発生する減衰力を総和した減衰力を発揮する。換言すれば、ダンパに要求される減衰力を各ダンパユニットに分担させることができる。
【0014】
すなわち、ダンパユニットの一本あたりに要求される減衰力は、全体としてダンパに要求される減衰力よりも小さくてすむので、ダンパユニットにおけるピストンの軸方向長さを短くするとともに直径を小さくでき、さらに、ピストンロッドの螺子部およびナットの軸方向長さを短くすることができ、シリンダ内の部屋で許容すべき圧力も低減することができる。それゆえ、ピストン部の軸方向長さを短くすることができ、ダンパ長(ダンパの全長)を長大化せずとも要求減衰力の発揮が可能となる。
【0015】
また、シリンダの肉厚、内外径の大型化も回避でき、アウターシェルにはタンク内の圧力しか作用しないので、アウターシェルの肉厚も厚くする必要ないので、シリンダおよびアウターシェルに高価な高強度材料を用いずに済み、加工も容易となり製造コストも低減される。
【0016】
また、ダンパの全長の長大化を回避できるので、液柱長さも短くて済み液体の圧縮性に伴う剛性の低下を抑制でき、ダンパの大型化に伴う減衰力発生応答性悪化を抑制でき、制振対象の振動抑制に関し良好な結果を得ることができる。
【0017】
さらに、既存規格や統一規格のダンパユニットを用いるようにすれば、ダンパで発生すべき減衰力に応じて、これらを収容するアウターシェル、保持キャップ、エンドキャップ等といったダンパユニットを束ねる部材のみを新たに設計して製造するのみで足りるので、ダンパの製造工程が簡略化される。
【0018】
以上より、ダンパに大きな減衰力の発揮を期待しても、ダンパの全長が不必要に長くなることがなく、外径についても大型化を回避でき、たとえば、建築物と地盤との間の狭いスペース等へのダンパの設置も容易となる。
【0019】
また、一部のダンパユニットに何らかの障害が発生しても、正常なダンパユニットが減衰力を発揮するので、ダンパが全く減衰力を発揮しなくなってしまう機会の発生を低減でき、アウターシェル内で一部のダンパユニットに液体漏れが生じても外部へ液体が漏洩してしまうことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施の形態におけるダンパの縦断面図である。
【図2】一実施の形態におけるダンパの軸方向視図である。
【図3】一実施の形態の一変形例におけるダンパの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明におけるダンパを各図に基づいて説明する。一実施の形態におけるダンパ1は、図1および図2に示すように、三つのダンパユニット2と、各ダンパユニット2のシリンダ3を内部に収容して当該シリンダ3を保持するアウターシェル10と、各ダンパユニット2のピストンロッド5に連結されるブラケット11とを備えて構成されている。
【0022】
そして、このダンパ1は、ブラケット11に設けた取付部12と、アウターシェル10の反ロッド側端を閉塞するエンドキャップ13に設けた取付部14を利用して、たとえば、図示しない建築物と地盤との間に介装することができるようになっていて、ダンパ1が伸縮する際に各ダンパユニット2が伸縮してそれぞれが減衰力を発揮するようになっている。
【0023】
建築物に取付部12,14のいずれか一方に連結可能なジョイントを設けておき、地盤にも取付部12,14のいずれか他方に連結可能なジョイントを設けておき、ダンパ1をこれらジョイントに取り付けるようにすればよい。この場合、取付部12,14は、環状とされていて、建築物と地盤側に取付部12,14内に回転自在に保持される球面を備えた軸を設けてあって、取付部12,14と図外の軸とで球面軸受が形成されるようになっていて、ダンパ1が建築物と地盤に首振りおよび回転可能に結合されるようになっている。
【0024】
なお、本ダンパ1は、建築物と地盤との間に介装されて免震装置の一部として使用されるほか、他の用途、たとえば、建築物の柱梁間や梁間、柱間に介装される制振ダンパとして使用することも可能であるし、建築物と装置との間に介装して装置の制振用途に使用することも可能であり、およそ制振対象に適用して使用することができる。また、ダンパ1と建築物、地盤などの制振対象との連結は、球面軸受以外で連結するようにしてもよい。
【0025】
また、ブラケット11に設けた取付部12における制振対象から入力される引張や圧縮といった荷重の作用軸と、エンドキャップ13に設けた取付部14における制振対象から入力される荷重の作用軸とが一致するようになっている。具体的には、取付部12,14における制振対象へ取付中心Q1,Q2がダンパ1の軸方向視で一致するようになっている。なお、取付部12,14の取付中心Q1,Q2は、制振対象に球面軸受やヒンジ結合した場合、取付部12,14におけるダンパ1の回転中心を意味している。
【0026】
以下、ダンパ1の各部について詳しく説明すると、ダンパユニット2は、図1および図2に示すように、基本的には、シリンダ3と、シリンダ3内に摺動自在に挿入されてシリンダ3内に作動油などの液体が充填される二つの部屋R1,R2を画成するピストン4と、シリンダ3内に移動自在に挿入されてピストン4に連結されるピストンロッド5とを備えて構成されている。
【0027】
シリンダ3は筒状であって、その内部に摺動自在に挿入されるピストン4にて、シリンダ3内に液体が充填される二つの部屋R1,R2が画成されている。また、ピストン4は、環状であってピストンロッド5の先端に設けた螺子部5aに組みつけられたのち、螺子部5aに螺着されるピストンナット38によって固定される。ピストン4には、これら二つの部屋R1,R2を連通する流路4a,4bが設けられており、流路4aには、ロッド側の部屋R1からピストン側の部屋R2へ向かう液体の流れのみを許容しつつ、当該液体の流れに抵抗を与える減衰弁30が設けられ、他方、流路4bには、ピストン側の部屋R2からロッド側の部屋R1へ向かう液体の流れのみを許容しつつ、当該液体の流れに抵抗を与える減衰弁31が設けられている。なお、本実施の形態にあっては、流路4a,4bを二つ設けているが、流路を一つのみとして双方向の液体の流れを許容して当該流れに抵抗を与える減衰弁を採用することも可能である。
【0028】
シリンダ3のロッド側端には、ピストンロッド5の外周を軸支する環状のロッドガイド6が螺着されており、反ロッド側端には、キャップ7が螺着されている。ロッドガイド6の内周には、ピストンロッド5の外周に摺接してピストンロッド5の外周をシールする環状のシール部材15が装着されており、また、シール部材15よりシリンダ内側には、ピストンロッド5の外周に摺接する環状のバッファシール16が装着されている。さらに、ロッドガイド6の内周であってバッファシール16よりシリンダ側には、ピストンロッド5の外周に摺接する筒状の軸受17が装着されている。
【0029】
さらに、ロッドガイド6の外周のシリンダ側には螺子部18が設けられ、同じくロッドガイド6の外周であって螺子部18を避ける反シリンダ側には、環状のシール部材20が装着されていて、当該シール部材20は、後述する保持キャップ21に設けたシリンダ挿通孔22の内周に密着して、アウターシェル10内を密封している。加えて、ロッドガイド6の外方側端となるロッド側端には、ボルト23が螺着される螺子穴24が設けられている。
【0030】
シリンダ3の反ロッド側端に螺着されるキャップ7は、反シリンダ側にボルト25が螺着される螺子穴26が設けられ、また、部屋R2に臨むシリンダ3側から開口して側部へ通じる通路27が設けられ、通路27の途中に減衰弁28と逆止弁29とが並列に設けられている。減衰弁28は、シリンダ3内の部屋R2からシリンダ3外へ向かう液体の流れのみを許容しつつ、当該液体の流れに対して抵抗を与え、逆止弁29は、シリンダ3外からシリンダ3内の部屋R2へ向かう液体の流れのみを殆ど抵抗無く許容するようになっている。なお、本実施の形態では、逆止弁29を用いているが、積極的に液体の流れに抵抗を与える減衰弁を採用することも可能である。
【0031】
このように構成された三つのダンパユニット2は、それぞれ、筒状のアウターシェル10内に収容されてこれに固定されている。詳しくは、アウターシェル10のロッド側端には、三つのシリンダ挿通孔22を備えた保持キャップ21が嵌合されており、また、アウターシェル10の反ロッド側端には、エンドキャップ13が嵌合されている。
【0032】
保持キャップ21は、アウターシェル10のロッド側端の内周に設けた拡径部10aに嵌合されており、外周に装着されたシール部材32で保持キャップ21とアウターシェル10との間がシールされている。また、保持キャップ21のロッド側端には螺子穴33が設けられている。そして、この保持キャップ21のロッド側には、三つのピストンロッド挿通孔34aを備えたプレート34が積層され、当該プレート34は、ボルト挿通孔34bを備え、当該ボルト挿通孔34bに挿通されるともに螺子穴33に螺合するボルト35によって、保持キャップ21に固定されている。なお、ピストンロッド挿通孔34aの内径は、シリンダ3の外径より小径に設定されていて、ピストンロッド5の挿通のみを許容している。
【0033】
さらに、上記プレート34は、ボルト挿通孔34bとは別にボルト挿通孔34cを備えており、当該ボルト挿通孔34cに挿通されるともにロッドガイド6に設けた螺子穴24に螺合するボルト23によって、ロッドガイド6にも固定されている。このように、プレート34を介して、保持キャップ21とロッドガイド6とが連結されることで、保持キャップ21はシリンダ3に位置決められて固定されている。
【0034】
つづいて、エンドキャップ13は、アウターシェル10の反ロッド側端の内周に設けた拡径部10bに嵌合されており、外周に装着されたシール部材36でエンドキャップ13とアウターシェル10との間がシールされている。また、エンドキャップ13には、この肉厚を軸方向に貫通する複数のボルト挿通孔37が設けられている。
【0035】
そして、このエンドキャップ13には、ボルト挿通孔37に挿通されるとともにダンパユニット2におけるキャップ7に設けた螺子穴26螺合するボルト25によって、キャップ7に固定されている。すなわち、エンドキャップ13は、シリンダ3に位置決められて固定されている。
【0036】
このように、保持キャップ21とエンドキャップ13がともにダンパユニット2のシリンダ3に固定されるので、これら保持キャップ21とエンドキャップ13の外周に嵌合されるアウターシェル10もシリンダ3に固定されることになる。すなわち、三つのダンパユニット2が保持キャップ21とエンドキャップ13によって束ねられて、アウターシェル10に収容される構造を採用しており、アウターシェル10にはダンパ1の作動による軸力が作用しないようになっている。
【0037】
なお、アウターシェル10の拡径部10a,10bに保持キャップ21とエンドキャップ13が嵌合するようになっているので、保持キャップ21とエンドキャップ13が拡径部10a,10bの段部に当接し、アウターシェル10がシリンダ3に対して軸方向へ位置ずれが規制されて固定されるようになっている。さらに、アウターシェル10が保持キャップ21とエンドキャップ13に嵌合するようになっているので、ダンパユニット2に対してアウターシェル10を周方向に厳に位置決めする必要も無く、組付けが容易である。
【0038】
また、各ダンパユニット2の軸方向視の全軸心Oの重心Gを、図2に示すように、軸方向視で取付部12,14の取付中心Q1,Q2に一致させてある。なお、この場合、ダンパユニット2が三つであって三つの軸心Oを頂点として結ぶと三角形が形成されるので当該三角形の重心となる。本発明では、ダンパ1の全体に作用する荷重を各ダンパユニット2で分担することになるので、ダンパ1の全体に作用する荷重の作用軸と、各ダンパユニット2の全軸心Oの重心Gを一致させることで、ダンパ1に曲げモーメントを作用させないようにすることができる。なお、ダンパユニット2が軸方向視で直線上に配置される場合であっても、重心を取付部12,14の取付中心Q1,Q2に一致させることで曲げモーメントを作用させないようにすることができる。なお、ダンパユニット2の設置数は、二つ以上であればよく、内部構造や外径等の異なる仕様の複数のダンパユニット2をアウターシェル10に収容することも可能である。
【0039】
また、本実施の形態では、三つダンパユニット2をアウターシェル10に収容する場合、軸方向視で軸心Oを頂点として正三角形を形成するようにダンパユニット2を配置するようにしているが、各ダンパユニット2の全軸心Oの重心Gを取付部12,14の取付中心Q1,Q2に一致させるようにすればダンパユニット2で分担する荷重に偏りが生じないようにできるので、ダンパユニット2の配置は、軸心Oを頂点として正三角形を形成する上記配置に限定されるものではない。なお、ダンパユニット2の設置数が複数であればよいのであるが、設置数の個数に限らず、各ダンパユニット2の全軸心Oの重心Gを取付部12,14の取付中心Q1,Q2に一致させることで曲げモーメントを作用させないようにすることができる。
【0040】
戻って、上述のように三つのダンパユニット2がアウターシェル10内に収容された際に、ダンパユニット2のシリンダ3の外周とアウターシェル10の内周との間に形成される隙間は、液体と気体が充填されるタンクTして利用されている。
【0041】
タンクTは、ダンパユニット2が伸長する際にシリンダ3内でピストンロッド5が退出する体積分の液体が不足するので、これをシリンダ3内に供給し、ダンパユニット2が収縮する際にシリンダ3内でピストンロッド5が侵入する体積分の液体が過剰となるので、シリンダ3から排出される液体を吸収するようになっている。
【0042】
詳しくは、ダンパユニット2が伸長する場合には、ピストン4がロッド側の部屋R1を圧縮し、ピストン側の部屋R2を拡大するものの、ピストンロッド5がシリンダ3外へ退出するので、このピストンロッド5がシリンダ3内から退出する体積分の液体がシリンダ3内で不足する。この不足分の液体は、逆止弁29が開いて通路27を介してタンクT内からシリンダ3内へ供給される。そして、このダンパユニット2が伸長する際には、流路4aを介して液体が移動するのでこの液体の流れに対して減衰弁30で抵抗を与え、部屋R1内の圧力を上昇させて部屋R2内の圧力に対して差を生じせしめ、当該圧力をピストン4で受けることで、ダンパユニット2は伸長を抑制する減衰力を発揮する。
【0043】
他方、ダンパユニット2が収縮する場合には、ピストン4がピストン側の部屋R2を圧縮し、ロッド側の部屋R1を拡大するものの、ピストンロッド5がシリンダ3内へ侵入するので、このピストンロッド5がシリンダ3内へ進入する体積分の液体がシリンダ3内で過剰となる。この過剰分の液体は、減衰弁28が開いて通路27を介してシリンダ3内からタンクT内へ排出されるのである。そして、このダンパユニット2が収縮する際には、流路4bを介して液体が移動するのでこの液体の流れに対して減衰弁31で抵抗を与えるとともに、通路27を部屋R2からタンクTへ向けて通過する液体の流れに対して減衰弁28で抵抗を与えることで、部屋R2内の圧力を上昇させて部屋R1内の圧力に対して差を生じせしめ、当該圧力をピストン4で受けることで、ダンパユニット2は収縮を抑制する減衰力を発揮する。
【0044】
なお、この実施の形態では、ダンパ1を水平横置きにして使用することを念頭に、通路27におけるキャップ7の側部側の出口端は、キャップ7の側部の図1中下方側に開口するようになっていて、ダンパ1を水平横置きした際に、当該通路27の出口がタンクTに貯留される液体中に配置されるようになっている。
【0045】
また、アウターシェル10には、ダンパユニット2をアウターシェル10内に収容して組み付けた後に、タンクT内、すなわち、アウターシェル10内に液体を注入することが可能なように、注入口10cを備えている。注入口10cは、水平横置き使用においてメンテナンス等に便利なように、図1中上方へ設けておくとよく、アウターシェル10がダンパユニット2に固定される保持キャップ21とエンドキャップ13に嵌合される構造を採用しているので、注入口10cを周方向に自由な位置に位置決めすることができ、組付加工が容易である。
【0046】
上記したように構成されたダンパ1は、伸縮する場合、全てのダンパユニット2がこれに倣って伸縮して、そのそれぞれが、上述の如くに減衰力を発揮するようになっていて、ダンパ1の全体としては各ダンパユニット2が伸縮する際に発生する減衰力を総和した減衰力を発揮することになる。換言すれば、ダンパ1に要求される減衰力を各ダンパユニット2で分担して出力すればよく、つまり、ダンパ1に高減衰力を期待する場合、ダンパユニット2の一つでダンパ1に要求される減衰力を発揮するのではなく、ダンパ1に要求される減衰力より小さい減衰力を発揮するダンパユニット2を複数用いて当該要求を満たすことができる。
【0047】
そして、ダンパユニット2の一本あたりに要求される減衰力は、全体としてダンパ1に要求される減衰力よりも小さくてすむので、ピストン4の軸方向長さを短くするとともに直径を小さくでき、さらに、ピストンロッド5の螺子部5aおよびナット38の軸方向長さを短くすることができ、部屋R1,R2で許容すべき圧力も低減することができる。それゆえ、ピストン部の軸方向長さを短くすることができ、ダンパ長(ダンパの全長)を長大化せずとも要求減衰力の発揮が可能となる。また、シリンダ3の肉厚、内外径の大型化も回避でき、アウターシェル10にはタンクT内の圧力しか作用しないので、アウターシェル10の肉厚も厚くする必要ないので、シリンダ3およびアウターシェル10に高価な高強度材料を用いずに済み、加工も容易となり製造コストも低減される。
【0048】
また、ダンパ1の全長の長大化を回避できるので、液柱長さも短くて済み液体の圧縮性に伴う剛性の低下を抑制でき、ダンパ1の大型化に伴う減衰力発生応答性悪化を抑制でき、制振対象の振動抑制に関し良好な結果を得ることができる。
【0049】
さらに、既存規格や統一規格のダンパユニット2を用いるようにすれば、ダンパ1で発生すべき減衰力に応じて、これらを収容するアウターシェル10、保持キャップ21、エンドキャップ13等といったダンパユニット2を束ねる部材のみを新たに設計して製造するのみで足りるので、ダンパ1の製造工程が簡略化される。
【0050】
したがって、ダンパ1に大きな減衰力の発揮を期待しても、ダンパ1の全長が不必要に長くなることがなく、外径についても大型化を回避でき、たとえば、建築物と地盤との間の狭いスペース等へのダンパ1の設置も容易となる。
【0051】
さらに、ピストンロッド5が複数設けられるので、単一のピストンロッドしか有しないダンパに比較して曲げに強く、ピストンロッドのロッド径を小径化できるので、その分ダンパ1を軽量化することができる。
【0052】
また、一部のダンパユニット2に何らかの障害が発生しても、正常なダンパユニット2が減衰力を発揮するので、ダンパ1が全く減衰力を発揮しなくなってしまう機会の発生を低減でき、アウターシェル10内で一部のダンパユニット2に液体漏れが生じても外部へ液体が漏洩してしまうことを防止できる。
【0053】
さらに、アウターシェル10に軸力が作用する構造を採用することも可能ではあるが、本実施の形態の場合、アウターシェル10にダンパ1が発生する減衰力の反作用としての軸力が作用しない構造を採用しているため、アウターシェル10を強度部材とする必要が無いので、アウターシェル10の重量を軽減できるとともに、高強度材料を使用しなくともよく、ダンパ1の製造コストのより一層の低減が可能となり重量もアウターチューブ10を強度部材として使用するものに比較して軽量となる。
【0054】
また、アウターシェル10でタンクTが形成されており、それぞれのダンパユニット2にタンク用の外筒の設置が必要とされないので、この点でもダンパ1の重量の軽減することができる。さらに、製造やメンテナンス時などで液体の注入が必要な場合に、ダンパユニット毎に液体を注入するのではなく、単一のタンクTへ注入すれば足りるので、加工工数の低減やメンテナンス時の工数を低減できる。
【0055】
加えて、本実施の形態では、各ダンパユニット2の軸方向視の全軸心Oの重心Gを、軸方向視で取付部12,14の取付中心Q1,Q2に一致させてあるので、ダンパ1に曲げモーメントが作用することが回避でき、アウターシェル10をより一層軽量化することができる。
【0056】
なお、ダンパユニット2は、上記したところでは、液体が部屋R1と部屋R2との間を双方向に流れるバイフロー型に設定されているが、ユニフロー型に設定されてもよい。
【0057】
ダンパユニット2をユニフロー型に設定する場合には、たとえば、図3に示すように、ピストン4に逆止弁39を備えて部屋R2から部屋R1へ向かう液体の流れのみを許容する流路40のみを設け、キャップ7に逆止弁41を備えてタンクTから部屋R2へ向かう液体の流れのみを許容する通路42を設け、さらに、ロッドガイド6に減衰弁43を備えて部屋R1からタンクTへ向かう液体の流れのみを許容する通路44を設けるようにすればよい。なお、このユニフロー型のダンパユニット2にあっては、ピストンロッド5の断面積をピストン4の断面積の1/2に設定すると、ダンパユニット2の伸長時と収縮時とでストローク量が同じであれば減衰弁43を通過する液体量を等しくすることができ、伸長時と収縮時とで減衰係数を略等しくすることができる。
【0058】
以上でダンパの実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明はダンパに利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 ダンパ
2 ダンパユニット
3 シリンダ
4 ピストン
4a,4b,40 流路
5 ピストンロッド
5a ピストンロッドの螺子部
6 ロッドガイド
7 キャップ
10 アウターシェル
10a,10b 拡径部
10c 注入口
11 ブラケット
12,14 取付部
13 エンドキャップ
15 シール部材
16 バッファシール
17 軸受
18 螺子部
20,32,36 シール部材
21 保持キャップ
22 シリンダ挿通孔
23,25,35 ボルト
24,26,33 螺子穴
27,42,44 通路
28,30,31,43 減衰弁
29,39,41 逆止弁
34 プレート
34a ピストンロッド挿通孔
34b,34c,37 ボルト挿通孔
38 ナット
G ダンパユニットの軸方向視の全軸心の重心
O ダンパユニットの軸方向視の軸心
Q1,Q2 取付部における取付中心
R1,R2 部屋
T タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダ内に摺動自在に挿入されて当該シリンダ内に液体が充填される二つの部屋を画成するピストンと、前記シリンダ内に移動自在に挿入されて前記ピストンに連結されるピストンロッドとを備えた複数のダンパユニットと、前記各ダンパユニットのシリンダを内部に収容して当該シリンダを保持するアウターシェルと、前記各ダンパユニットのピストンロッドに連結されるブラケットとを備えたことを特徴とするダンパ。
【請求項2】
上記アウターシェル内に上記ダンパユニットの伸縮時に当該ダンパユニット内へ供給および当該ダンパユニットから排出される液体を貯留したことを特徴とする請求項1に記載のダンパ。
【請求項3】
上記アウターシェルに軸力を作用させないようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載のダンパ。
【請求項4】
上記ダンパユニットは、上記シリンダのロッド側端を閉塞するとともに上記ピストンロッドを摺動自在に軸支するロッドガイドと、前記シリンダの反ロッド側端を閉塞するキャップとを備え、上記アウターシェルのロッド側端に嵌合されてこれを閉塞するとともに前記シリンダの外周を保持する保持キャップを前記ロッドガイドにボルト結合し、前記アウターシェルの反ロッド側端に嵌合されて反ロッド側端を閉塞するエンドキャップを前記キャップにボルト結合したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のダンパ。
【請求項5】
上記エンドキャップと上記ブラケットのそれぞれが取付部を備え、軸方向視で前記エンドキャップおよび前記ブラケットの取付部における取付中心と、各ダンパユニットの全軸心の重心とを一致させたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−94722(P2011−94722A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249830(P2009−249830)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(304039065)カヤバ システム マシナリー株式会社 (185)
【出願人】(307041573)三菱FBRシステムズ株式会社 (13)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】