説明

ダンプトラック

【課題】ブレーキオフ時には、エンジン駆動の油圧ポンプでの消費馬力を小さくして燃費を向上可能なダンプトラックを提供すること。
【解決手段】油冷式のセンターブレーキ11と、冷却油をセンターブレーキ11に供給する第1油圧ポンプ51と、冷却油を第1油圧ポンプ51からの冷却油に加えてブレーキ11に供給する第2油圧ポンプ52と、第2油圧ポンプ52を駆動する油圧モータ54と、作動油を油圧モータ54に供給する第3油圧ポンプ53と、油圧モータ54に対する作動油をバイパスさせる開閉バルブ55と、開閉バルブ55でのバイパス流量を制御する制御装置57とを備え、第1油圧ポンプ51の容量は、トランスミッション6の潤滑に必要な冷却油の流量に対応し、第2油圧ポンプ52の容量は、ブレーキオフ時において、第1油圧ポンプ51からの冷却油を補う分の流量に対応し、第3油圧ポンプ53の容量は、第2油圧ポンプ52の容量よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンプトラックに係り、特にトランスミッションに供給される冷却油にてブレーキ装置をも冷却するように構成されたダンプトラックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダンプトラックの中には、ブレーキペダルを操作することで制動をかけるサービスブレーキ用のブレーキ装置を、そのまま降坂時などのリターダとして使用するものがある。つまり、リターダレバーやリターダスイッチをオンにすることで、ブレーキ装置がリターダとして動作し、制動がかかるようになっている。
【0003】
このようなブレーキ装置として、湿式多板ブレーキが採用されている場合には、制動時の発熱を吸収するために、冷却油が供給される。冷却油は、エンジンの動力を車輪に伝達するトランスミッションの潤滑油が用いられており、エンジンにて駆動される油圧ポンプを介してトランスミッションのオイルパンから供給される。
【0004】
この際、リターダを使用している時と、使用していない時とでは、供給される冷却油の量が大きく異なる。必要以上の冷却油は、ブレーキ装置でのロス馬力を増大させ、燃費を悪化させるので、リターダを使用していない時には、ブレーキ装置を迂回するように、電磁比例弁からなるブレーキクーリングバルブを介して余分な冷却油をバイパスさせ、ロス馬力を少なくして燃費を向上させている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平4−71829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、リターダを使用していない通常走行時も、油圧ポンプからは、リターダ使用時と同流量の冷却油を常時吐出しているため、容量の大きい油圧ポンプを常に駆動することになって、油圧ポンプでの消費馬力が大きくなり、燃費を向上させるには限界がある。
【0007】
本発明の目的は、ブレーキ装置に制動が生じていない時には、油圧ポンプでの消費馬力を小さくして燃費を向上させることができるダンプトラックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係るダンプトラックは、冷却油を貯留する冷却油槽と、前記冷却油が供給されるブレーキ装置と、前記冷却油が前記ブレーキ装置を経由して供給されるトランスミッションとを備えたダンプトラックにおいて、エンジンにより駆動され、前記冷却油槽の冷却油を前記ブレーキ装置および前記トランスミッションに供給する第1油圧ポンプと、前記冷却油槽の冷却油を前記第1油圧ポンプからの冷却油に加えて前記ブレーキ装置および前記トランスミッションに供給する第2油圧ポンプと、前記第2油圧ポンプの入力軸に出力軸が連結された油圧モータと、作動油を貯留する作動油タンクと、エンジンにより駆動され、前記作動油タンクの作動油を前記油圧モータに供給する第3油圧ポンプと、前記第3油圧ポンプからの作動油を前記油圧モータに対して所定流量バイパスさせるバイパス流路に設けられ、該バイパス流路を流れるバイパス流量を調整する流量調整手段と、前記ブレーキ装置での制動状況に基づいて前記流量調整手段でのバイパス流量を制御する制御装置とを備え、前記第1油圧ポンプの容量は、前記トランスミッションの潤滑に必要な冷却油の流量に対応しており、前記第2油圧ポンプの容量は、前記ブレーキ装置での制動が生じている状況で供給される冷却油のうち、前記第1油圧ポンプからの冷却油を補う分の流量に対応しており、前記第3油圧ポンプの容量は、前記第2油圧ポンプの容量よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
第2発明に係るダンプトラックでは、前記制御装置は、ブレーキ操作部からの操作信号に基づいて前記ブレーキ装置での制動状況を判定することを特徴とする。
第3発明に係るダンプトラックでは、前記制御装置は、前記冷却油の油温に基づいて前記流量調整手段でのバイパス流量を制御することを特徴とする。
第4発明に係るダンプトラックでは、前記制御装置は、前記エンジンの回転数に基づいて前記流量調整手段でのバイパス流量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプからの合計の冷却油流量がブレーキ装置を冷却するのに必要な流量であり、ブレーキ装置に制動が生じていない時でも従来は、この2基分の油圧ポンプに相当する大容量の油圧ポンプを駆動していた。これに対して本発明では、ブレーキ装置に制動が生じていない時には、バイパス流路を流れるバイパス流量を調整することにより、油圧モータを停止させて、第2油圧ポンプを駆動しないようにし、トランスミッションの潤滑に必要な冷却油を供給すればよい。
【0011】
つまり、本発明では、第1油圧ポンプおよび第3油圧ポンプが常に駆動されることになる。そして、この際には、第1油圧ポンプを駆動するためのポンプ消費馬力は従来と同じであるが、第3油圧ポンプにあっては、低圧でしかも小容量のものでよいことから、第3油圧ポンプを駆動するためのポンプ消費馬力は格段に小さくてよい。従って、第1油圧ポンプと第3油圧ポンプとを併せても、全体のポンプ消費馬力を大幅に小さくできて、燃費を向上させることができる。
【0012】
第2発明では、サービスブレーキのブレーキペダルや、リターダのリターダレバー等をブレーキ操作部として適用できる。従って、このようなブレーキ操作部の操作信号に基づいて制動状況を判定することで、制動が生じている時には、流量調整手段でのバイパス流量をなくして、第3油圧ポンプからの作動油の全てを油圧モータおよび第2油圧ポンプの駆動に供給でき、逆に、制動が生じていない時には、全てをバイパスさせてそれらの駆動を停止させることができる。
【0013】
冷却油の油温が低く、粘性が高い状態では、ブレーキ装置の冷却油室内の内圧が容易に上昇し、フローティングシールを破損させて冷却油が外部に漏れ出す可能性がある。
そこで第3発明によれば、油温が低くてそのような支障を来すおそれがある場合には、制御装置により作動油を流量調整手段にてバイパスさせることとし、こうすることで、第2油圧ポンプからの冷却油の供給を止めて冷却油室の内圧上昇を抑制でき、フローティングシールの損傷や、これに伴う冷却油の外部への漏れを防止できる。
【0014】
冷却油室の内圧の上昇は、冷却油の過剰な供給によっても生じる。
従って、第4発明では、エンジンの回転数が例えば定格回転数以上の高速回転となり、第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプからの冷却油の吐出流量が過剰となりそうな場合にも、制御装置によって作動油を流量調整手段にてバイパスさせる側に調整でき、第2油圧ポンプからの冷却油の供給をより減少させる側に調整して冷却油室の内圧上昇を抑制できるようにした。このことによっても、フローティングシールの損傷および冷却油の外部への漏れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るダンプトラックの全体を示す側面図。
【図2】前記実施形態での冷却システムを構成する油圧回路。
【図3】前記実施形態での制御装置を示すブロック図。
【図4】前記制御装置での制御フローを説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1、図2において、ダンプトラック1は、フロントフレーム2およびリヤフレーム3を屈曲可能に連結したアーティキュレート式ダンプトラックとして構成されている。
ダンプトラック1のフロントフレーム2の前側部分には、ボンネット4に覆われたエンジン5(図2)が搭載されている。フロントフレーム2の後側部分には、トランスミッション6(図2)が搭載され、その上方にキャブ7が設けられている。
リヤフレーム3にはボディ8が搭載され、ボディ8が左右一対の油圧アクチュエータ9によってリヤフレーム3に対して起伏するようになっている。
【0017】
また、フロントフレーム2には、前輪10(10A)が、リヤフレーム3には、後前輪10(10B)および後後輪10(10C)がそれぞれ、左右一対ずつ設けられ、6輪全輪が駆動される。本実施形態の冷却システム50は、6輪あるうちの後前輪10Bのブレーキ装置であるセンターブレーキ11に適用されている。
なお、本発明は、アーティキュレート式ダンプトラックに限定されず、車体が屈曲しない形式のダンプトラックにも適用可能である。
【0018】
図2の油圧回路に基づいて冷却システム50を説明する。
冷却システム50は、エンジン5によって駆動される第1油圧ポンプ51と、油圧モータ54にて駆動される第2油圧ポンプ52と、油圧モータ54に対して作動油を供給する第3油圧ポンプ53とを備えている。この第3油圧ポンプ53は、エンジン5によって駆動される。油圧モータ54の出力軸は、第2油圧ポンプ52の入力軸に継手を介して連結されている。
【0019】
第1油圧ポンプ51および第2油圧ポンプ52は、トランスミッション6に設けられた冷却油槽としてのオイルパン12内の冷却油を吸引し、圧送する。第1、第2油圧ポンプ51,52から吐出した冷却油は、合流部13にて合流し、センターブレーキ11に供給され、センターブレーキ11を冷却する。冷却後の冷却油は、オイルクーラ14に送られて冷却され、トランスミッション6内に入ってこれを潤滑、冷却し、オイルパン12に戻る。
【0020】
オイルパン12から第1、第2油圧ポンプ51,52への吸込流路15,16は、図示したように互いに独立していてもよいが、途中で分岐する構成であってもよい。
第1油圧ポンプ51からの供給流路17に対して合流する第2油圧ポンプ52からの供給流路18には、チェックバルブ19が設けられている。
センターブレーキ11からの戻り流路21の途中からは、オイルクーラ14とトランスミッション6との間から分岐したリリーフ流路22が設けられ、リリーフ流路22にはリリーフバルブ23が設けられている。
【0021】
一方、第3油圧ポンプ53は、作動油タンク24からの作動油を吸込流路25を介して吸い込み、供給流路26を通して油圧モータ54に供給している。油圧モータ54から作動油タンク24への戻り流路27と供給流路26とは、油圧モータ54を迂回するバイパス流路28で接続され、バイパス流路28には流量調整手段としての開閉バルブ55が設けられている。
【0022】
開閉バルブ55は、センターブレーキ11の冷却が不要な時には、作動油を油圧モータ54には供給せず、第3油圧ポンプ53から吐出された作動油を全てバイパスさせて作動油タンク24に戻し、センターブレーキ11の冷却が必要な時には、全くバイパスさせないか、またはその必要量に応じて決められるバイパス流量のみをバイパスさせて、残りの作動油にて油圧モータ54を駆動し、第2油圧ポンプ53を駆動する。
【0023】
開閉バルブ55でのバイパス流量を変化させるパイロット圧については、EPC(電磁比例制御)バルブ56にて適正な油圧が生成される。EPCバルブ56では、制御装置57からの指令電流を受けてパイロット圧を変化させる。
そして、本発明の冷却システム50は、第1〜第3油圧ポンプ51〜53および油圧モータ54の他、それらの開閉バルブ55、EPCバルブ56、制御装置57を備えて構成される。
【0024】
以上の構成では、センターブレーキ11に制動が生じておらず、冷却が不要な時には、前述したように、作動油を全て開閉バルブ55を経由してバイパスさせることにより、第2油圧ポンプ52を駆動することなく第1油圧ポンプ51のみを駆動し、通常走行時のセンターブレーキ11の冷却、およびトランスミッション6の潤滑、冷却に必要な最小限の冷却油を供給する。
【0025】
反対に、サービスブレーキやリターダを効かせる場合のように、センターブレーキ11に制動が生じ、より積極的な冷却が必要な時には、バイパスさせる流量を制限し、油圧モータ54を駆動して第2油圧ポンプ52を駆動し、第2油圧ポンプ52からの冷却油を、不足分を補うかたちで第1油圧ポンプ51からの冷却油に合流させ、必要に応じたより多くの冷却油でセンターブレーキ11を冷却する。
【0026】
ここで、第3油圧ポンプ53の容量は、油圧モータ54との関係で、第2油圧ポンプ52の容量に比べて格段に小さい。従来では、第1油圧ポンプ51と第2油圧ポンプ52とを併せたものに匹敵する大容量の油圧ポンプを常に駆動させていたが、本実施形態では、トランスミッション6の潤滑に必要な最小限の冷却油を吐出可能な第1油圧ポンプ51に加えて、第2油圧ポンプ52よりも容量の小さい第3油圧ポンプ53を駆動するだけである。
【0027】
従って、通常走行時のように、ブレーキ装置11の積極的な冷却が不要で、開閉バルブ55により作動油を全てバイパスさせている場合には、無負荷で第3油圧ポンプ53を駆動することになるため、この第3油圧ポンプ53と第1油圧ポンプ51とを駆動した際のポンプ消費馬力を大幅に小さくでき、エンジン5に係る負荷を小さくできて、従来よりも燃費を確実に向上させることができる。
【0028】
この効果を例示的に説明すると、次の通りである。
すなわち、先ずポンプ消費馬力は以下の(1)式で与えられる。
(ポンプ消費馬力)=(ポンプ吐出圧)×(流量)×(ポンプ回転数)…(1)
ここで、流量はポンプ容量に比例し、ポンプ回転数はエンジン回転数に比例するので、あるエンジン回転数におけるポンプ消費馬力は、(ポンプ吐出圧)×(ポンプ容量)に比例する。
【0029】
今、従来の大容量油圧ポンプのポンプ吐出圧について、ブレーキオン時を「1」、ブレーキオフ時(通常走行時)を「0.5」と仮定する。ポンプ吐出圧は、主にブレーキ装置11での圧損、オイルクーラ14での圧損、およびトランスミッション6での潤滑による圧損により生じており、本実施形態での第1油圧ポンプでも、ブレーキオフ時には「0.5」の吐出圧で回転する。そして、本実施形態での第3ポンプ53でのブレーキオフ時の吐出圧は、全流量がバイパスされることから、「0.2」程度と仮定される。
【0030】
また、従来の油圧ポンプ、本実施形態での第1〜第3油圧ポンプ51〜53のポンプ容量を以下のように仮定する。
従来の油圧ポンプ 「100」
第1油圧ポンプ 「50」
第2油圧ポンプ 「50」
第3油圧ポンプ 「10」
第1油圧ポンプ51および第2油圧ポンプ52の合算したポンプ容量が、従来の油圧ポンプのポンプ容量である。また、第3油圧ポンプのポンプ容量は小さく、小容量高圧にて第2油圧ポンプ52を駆動するが、ブレーキオフ時は第2油圧ポンプ52を駆動しないことから、前述した「0.2」の低い吐出圧で回転することになる。
【0031】
このことから、従来でのブレーキオフ時のポンプ消費馬力は、ポンプ吐出圧「0.5」×ポンプ容量「100」=「50」となる。
一方、本実施形態でのブレーキオフ時のポンプ消費馬力は、(第1油圧ポンプ吐出圧「0.5」×ポンプ容量「50」)+(第3油圧ポンプ吐出圧「0.2」×ポンプ容量「10」)=「27」となる。
従って、本実施形態では、通常走行時のポンプ消費馬力を大幅に小さくでき、燃費を向上させることが可能である。
【0032】
また、第1油圧ポンプ51および第3油圧ポンプ53は、トランスミッション6に設置された図示しないPTO(動力取出装置)に取り付けられていることで、PTOとエンジン5との間の狭小空間に収容されており、PTOを介してエンジン5にて駆動される。
【0033】
これに対して第2油圧ポンプ52および油圧モータ54は、互いに継手を介して連結されたユニットとして構成されており、トランスミッション6の適宜な位置にリモート化されて取り付けられている。この構成により、第2油圧ポンプ52および油圧モータ54を、PTOとエンジン5との間に収容する必要がなくなり、レイアウトの自由度が増して省スペース化に対応可能である。
【0034】
次ぎに、図3に基づいて制御装置57について説明する。
制御装置57は、サービスブレーキやリターダの動作状況、あるいは冷却油の油温、エンジン回転数に応じてEPCバルブ56への指令電流を生成し、開閉バルブ55でのバイパス流量を制御する装置である。
【0035】
制御装置57は、詳細図示による説明は省略するが、各種入力信号を変換・整形する入力インタフェースと、マイクロコンピュータや高速数値演算プロセッサ等を主体に構成され、決められた手順に従って入力データの算術・論理演算を行うコンピュータ装置と、演算結果を指令電流に変換して出力する出力インタフェースとを備えて構成されている。そして、本実施形態での制御装置57には、制動判定部61、油温判定部62、エンジン回転数判定部63、出力値決定部64、記憶部65、および指令電流生成部66が形成されている。
【0036】
制動判定部61は、サービスブレーキのブレーキ操作部であるブレーキペダル71からの操作信号、およびセンターブレーキ11をリターダとして使用する際のブレーキ操作部であるリターダレバー72からの操作信号を監視し、センターブレーキ11に制動が生じているか否かを判断する。
油温判定部62は、冷却油の油温を検出する油温センサー等の油温検出手段73からの検出信号を監視し、油温が予め決められた温度T0を越えているか否かを判断する。
エンジン回転数判定部63は、エンジン5あるいはトランスミッション6に設けられた回転センサー等の回転数検出手段74からの検出信号を監視し、エンジン5の回転数が定格回転数以下であるかを判断する。
【0037】
出力値決定部64は、各判定部61〜63での判定結果に基づき、0〜1の間で出力値を決定し、出力する。出力値「1」は、開閉バルブ55を全開にし、第3油圧ポンプ53からの作動油を油圧モータ54に供給せずに全てバイパスするようにして、第2油圧ポンプ52を停止させておくための出力値である。出力値「0」は、開閉バルブ55を全閉にし、第3油圧ポンプ53からの作動油を全て油圧モータ54に供給し、第2油圧ポンプ52を最大に駆動するための出力値である。
【0038】
具体的には、例えば、ブレーキペダル71やリターダレバー72から操作信号が出力されず、制動判定部61によりセンターブレーキ11に制動が生じていないと判断されると、出力値決定部64は、出力値「1」を出力し、第2油圧ポンプ52を停止させて余分な冷却油をセンターブレーキ11に供給しないようにする。反対に操作信号があり、制動が生じていると判断されると、出力値決定部64は、出力値「0」を出力し、第2油圧ポンプ52から冷却油をセンターブレーキ11に供給し、冷却する。
【0039】
また、油温判定部62により油温が温度T0以下であると判断されると、出力値決定部64は、出力値「1」を出力し、第2油圧ポンプ52から冷却油を供給しないようにする。油温判定部62により油温が温度T0を越えていると判断されると、出力値決定部64は、出力値「0」を出力し、第2油圧ポンプ52から冷却油を供給する。
【0040】
温度T0以下の冷却油は、粘性が高く、回路抵抗が大きくなってしまう。センターブレーキ11での冷却油が入り込む冷却油室は、フローティングシールによって外部とシールされている。油温が低く、粘性の高い冷却油を積極的にセンターブレーキ11に供給すると、戻り流路21内を流れにくくなって背圧を高め、冷却油室内の内圧を上昇させるため、冷却油がフローティングシールを破って外部に漏れ出すおそれがある。
【0041】
特に、冷却油の温度が低い時には、エンジン5の暖機運転が必要な状況であることが多く、このような状況では、エンジン5のアイドリング回転数がハイアイドリング側の高い回転数に設定されていることが考えられ、粘性の高い冷却油が積極的に供給されることになって注意が必要である。
すなわち、温度T0は、冷却油の状態として、冷却に用いるには適さない粘度であるかを判断するために設定される温度である。
【0042】
温度の低い冷却油は逆に、粘性が高い反面、少量でも効率的に冷却可能であるから、第1油圧ポンプ51から吐出される少ない流量の冷却油でも、センターブレーキ11が十分に冷却される。従って、油温が低い場合には、大きな流量の冷却油をセンターブレーキ11に積極的に供給する必要はないのである。このことからも、油温が温度T0以下である場合には、第2油圧ポンプ52から冷却油を供給しないようにし、フローティングシールが損傷するリスクを回避している。
【0043】
なお、油温検出手段73は、例えば、戻り流路21において、センターブレーキ11の直ぐ下流側での冷却油の油温、あるいはオイルパン12に貯留された状態の冷却油の油温を検出可能な位置に設けられる。
【0044】
さらに、エンジン回転数判定部63にて、エンジン回転数が定格回転数を超えていると判断されると、出力値決定部64は、そのエンジン回転数に応じた出力値を0〜1の間で決定し、開閉バルブ55でのバイパス流量を調整して、第2油圧ポンプ52からの吐出量を抑える。
【0045】
エンジン回転数が定格回転数を大きく超えている場合には、第1油圧ポンプ51および第3油圧ポンプ53を必要以上に高速で回転させることになり、結果としてセンターブレーキ11に供給される冷却油の供給流量が過多となって、やはり冷却油室の内圧を高め、フローティングシールの損傷を引き起こして冷却油が漏れ出すおそれがある。このことを回避するために、第3油圧ポンプ53で駆動される油圧モータ54および第2油圧ポンプ52の駆動を抑えるよう、バイパス流量を調整するのである。
【0046】
このために記憶部65には、定格回転数以上のエンジン回転数に対する出力値を決定するためのマップMが格納されている。出力値決定部64は、定格回転数を超えた検出信号が入力されると、このマップMを参照し、出力値を決定する。このマップM上では、エンジン回転数を示す横軸の0点位置が定格回転数に相当し、これを越えるに従って「0」から「1」に近づく出力値が決定され、第2油圧ポンプ52を停止させる方向でバイパス流量が調整されるようになっている。
【0047】
指令電流生成部66は、出力値決定部64で決定された出力値に応じた指令電流を生成し、EPCバルブ56に供給する。この指令電流により、EPCバルブ56からは、開閉バルブ55に対して適正な油圧のパイロット圧が供給されることになる。
【0048】
以下には、図4を参照して、制御装置57での制御フローを説明する。
先ず、ステップ(以下、ステップを単に「S」と略す)1において、制動判定部61がサービスブレーキのブレーキペダル71や、リターダのリターダレバー72からの操作信号を監視しており、センターブレーキ11に制動が生じている否かを判断する。
【0049】
センターブレーキ11に制動が生じていない時には、「Yes」である。この場合、センターブレーキ11は効かせていないため、センターブレーキ11およびトランスミッション6への冷却油の供給は、第1油圧ポンプ51からのみで足りることになり、第2油圧ポンプ52を停止させておく。このため、S2にて出力値決定部64は、出力値として「1」を決定し、指令電流生成部66に出力する。
【0050】
そして、指令電流生成部66は、S3において、出力値「1」に基づいた指令電流を生成し、EPCバルブ56へ出力する。この結果、EPCバルブ56からは、開閉バルブ55に対して全開となるようなパイロット圧が供給され、第3油圧ポンプ53からの作動油は、全て油圧モータ54をバイパスして作動油タンク24に戻され、第2油圧ポンプ52は駆動されない。従って、制動が生じていない時には、第1油圧ポンプ51からトランスミッションの潤滑に必要な最小限の冷却油がセンターブレーキ11およびトランスミッション6に供給されることになる。
【0051】
一方、S1において、制動判定部61がブレーキペダル71からの操作信号、およびリターダレバー72から操作信号のうち、少なくともいずれか一方を入力し、センターブレーキ11に制動が生じていると判断した場合には、「No」であるから、S4に進む。S4では、油温判定部62が油温検出手段73から入力される検出信号を監視している。
【0052】
検出信号に基づき、冷却油の油温がT0を越えていないと判断した時には、冷却油の粘性が高く、センターブレーキ11での内圧がフローティングシールを損傷させる程度に上昇するおそれがあるので、「No」となり、S2,S3に進んで、第2油圧ポンプ52を駆動せず、冷却油を第1油圧ポンプ51からの供給にとどめる。
【0053】
反対に、冷却油の油温がT0を越えていると判断した時には、冷却油の粘性が低く、センターブレーキ11での内圧がフローティングシールを損傷させる程度に上昇するおそれがないので、「Yes」となり、S5に進む。
【0054】
S5では、エンジン回転数判定部63が回転数検出手段74からの検出信号を監視しており、エンジン回転数が定格回転数以下である場合には、「Yes」であり、S6において、出力値決定部64は、出力値として「0」を決定し、指令電流生成部66に出力する。
【0055】
この場合、指令電流生成部66は、S6において決定された出力値が「0」であることから、S3では指令電流を生成せず、EPCバルブ56へは出力しない。この結果、EPCバルブ56からは、開閉バルブ55に対してパイロット圧が供給されず、開閉バルブ55が全閉とされる。
【0056】
従って、第3油圧ポンプ53からの作動油は、全て油圧モータ54に供給され、第2油圧ポンプ52が駆動される。すなわち、制動をかけている時で油温が十分に高く、エンジン回転数が定格回転数以下であれば、第1油圧ポンプ51からの必要最小限の冷却油に加え、これを補充するように第2油圧ポンプ52からも冷却油がセンターブレーキ11に供給されることになる。
【0057】
ただし、S5にて、エンジン回転数が定格回転数を超えていると判断された時には、出力値決定部64は、S7にて、マップMに基づいてエンジン回転数に応じた出力値を決定する。さらに、S3では、決定された出力値に基づいて指令電流が生成され、EPCバルブ56へ出力される。
【0058】
そうすると、開閉バルブ55では、第3油圧ポンプ53からの作動油のうち、いくらかの作動油がバイパスされることになり、残りの作動油にて油圧モータ54を駆動し、第2油圧ポンプ52を駆動し、必要な流量の冷却油を第1油圧ポンプ51からの冷却油に加えてセンターブレーキ11に供給する。
【0059】
以上に説明した本実施形態によれば、従来のように、センターブレーキ11に制動が生じていない時には、ポンプ消費馬力が大きい油圧ポンプを常時駆動している訳ではなく、2基併せてもポンプ消費馬力が十分に小さい第1、第3油圧ポンプ51,53を駆動することになるから、エンジン5にかかる負荷も小さく、燃費を向上させることができる。
【0060】
また、例えば、降坂時のようにリターダを効かせてセンターブレーキ11に制動が生じている時には、車輪10の回転によってエンジン5が連れ回されている状態であり、エンジンブレーキがかかっている状態であるから、エンジン回転数としても第3油圧ポンプ53を駆動するのに十分な回転数に維持されることになり、しかもエンジン5に対しての燃料噴射がカットされている。このため、エンジンブレーキを併用するかたちでリターダを効かすことができて、2種類のブレーキシステムを有効に利用して制動を生じさせることできるうえ、燃費の悪化を生じさせることもない。
【0061】
さらに、冷却油の油温が低すぎたり、エンジン回転数が定格回転数を超えた場合には、第2油圧ポンプ52を駆動しないか、あるいは駆動を制限するので、粘性の高い冷却油が供給されたり、冷却油が過度に供給されたりすることがなく、冷却油室の内圧が過度に上昇するのを抑制してフローティングシールの損傷を防止でき、冷却油の漏れを防ぐことができる。
【0062】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、開閉バルブ55でのバイパス流量の流量調整を、冷却油の油温およびエンジン回転数に基づいて行っていたが、少なくともブレーキペダル71あるいはリターダレバー72といったブレーキ操作部の操作状況に応じて流量調整されればよく、油温やエンジン回転数に基づく流量調整が行われない場合でも、本発明に含まれる。
【0063】
前記実施形態では、バイパス流量を調整する流量調整手段として開閉バルブ55が用いられていたが、開閉バルブ55の代わりに、電磁比例弁を用いることも可能である。
【0064】
前記実施形態では、第2油圧ポンプ52および油圧モータ54は、トランスミッション6の適宜な位置に取り付けられているとして説明したが、これに限定されず、それらを例えば、フロントフレーム2の適宜な位置に取り付け、その取付位置に配管をはわせて作動油の流路を形成し、リモート的に駆動させることも可能である。
【0065】
前記実施形態では、本発明のブレーキ装置として、後前輪10Bに設けられたセンターブレーキ11について説明したが、本発明の冷却システムが採用されるブレーキ装置としては、前輪10Aのフロントブレーキや、後後輪10Cのリヤブレーキであってもよい。
【0066】
前記実施形態では、本発明の冷却油槽として、トランスミッション6のオイルパン12が用いられていたが、冷却油を貯留する別の冷却油槽を設け、この冷却油槽からブレーキ装置およびトランスミッションに冷却油を供給してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、アーティキュレート式のダンプトラックに利用できる他、リジット式のダンプトラックにも利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1…ダンプトラック、5…エンジン、11…ブレーキ装置であるセンターブレーキ、12…冷却油槽であるオイルパン、24…作動油タンク、51…第1油圧ポンプ、52…第2油圧ポンプ、53…第3油圧ポンプ、54…油圧モータ、55…流量調整手段である開閉バルブ、57…制御装置、71…ブレーキ操作部であるブレーキペダル、72…ブレーキ操作部であるリターダレバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却油を貯留する冷却油槽と、
前記冷却油が供給されるブレーキ装置と、
前記冷却油が前記ブレーキ装置を経由して供給されるトランスミッションとを備えたダンプトラックにおいて、
エンジンにより駆動され、前記冷却油槽の冷却油を前記ブレーキ装置および前記トランスミッションに供給する第1油圧ポンプと、
前記冷却油槽の冷却油を前記第1油圧ポンプからの冷却油に加えて前記ブレーキ装置および前記トランスミッションに供給する第2油圧ポンプと、
前記第2油圧ポンプの入力軸に出力軸が連結された油圧モータと、
作動油を貯留する作動油タンクと、
エンジンにより駆動され、前記作動油タンクの作動油を前記油圧モータに供給する第3油圧ポンプと、
前記第3油圧ポンプからの作動油を前記油圧モータに対して所定流量バイパスさせるバイパス流路に設けられ、該バイパス流路を流れるバイパス流量を調整する流量調整手段と、
前記ブレーキ装置での制動状況に基づいて前記流量調整手段でのバイパス流量を制御する制御装置とを備え、
前記第1油圧ポンプの容量は、前記トランスミッションの潤滑に必要な冷却油の流量に対応しており、
前記第2油圧ポンプの容量は、前記ブレーキ装置での制動が生じている状況で供給される冷却油のうち、前記第1油圧ポンプからの冷却油を補う分の流量に対応しており、
前記第3油圧ポンプの容量は、前記第2油圧ポンプの容量よりも小さい
ことを特徴とするダンプトラック。
【請求項2】
請求項1に記載のダンプトラックにおいて、
前記制御装置は、ブレーキ操作部からの操作信号に基づいて前記ブレーキ装置での制動状況を判定する
ことを特徴とするダンプトラック。
【請求項3】
請求項2に記載のダンプトラックにおいて、
前記制御装置は、前記冷却油の油温に基づいて前記流量調整手段でのバイパス流量を制御する
ことを特徴とするダンプトラック。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のダンプトラックにおいて、
前記制御装置は、前記エンジンの回転数に基づいて前記流量調整手段でのバイパス流量を制御する
ことを特徴とするダンプトラック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2560(P2013−2560A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134436(P2011−134436)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【特許番号】特許第5020396号(P5020396)
【特許公報発行日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】