説明

チアミンラウリル硫酸塩含有水溶液製剤

【課題】食品の風味に影響を与える物質を用いることなく、チアミンラウリル硫酸塩を高濃度含有する水溶液製剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、チアミンラウリル硫酸塩と、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、および塩基性アミノ酸の重合体からなる群より選択される少なくとも1種と、水とからなり、該チアミンラウリル硫酸塩が1質量%以上の割合で含有される水溶液製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアミンラウリル硫酸塩含有水溶液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、栄養補助目的でビタミンBを使用する場合には、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩などが用いられている。しかし、チアミン塩酸塩およびチアミン硝酸塩は、分解され易いという問題点がある。そのため、これらの安定性について検討されているが(例えば、特許文献1〜4)、いずれも十分な成果は得られていない。
【0003】
安定性の高いビタミンBとして、チアミンラウリル硫酸塩が注目されている。このチアミンラウリル硫酸塩は、さらに抗菌効果を有し、食品の日持ち向上に寄与することから、様々な食品に利用されている。しかし、チアミンラウリル硫酸塩は、安定性に優れる反面、水への溶解度が低いことから、利用される食品が限定されるという問題がある。さらには、チアミンラウリル硫酸塩は、他のチアミン塩類同様、独特のビタミン臭を有するという問題もある。そして、食品によっては、チアミンラウリル硫酸塩が均一に含有されずに、抗菌効果が十分に発揮されないといった問題もある。
【0004】
そこで、チアミンラウリル硫酸塩を含む水溶液製剤が検討されている。特許文献5には、エチルアルコールを15〜50重量%含む水溶液に、チアミンラウリル硫酸塩を溶解させ、かつ炭酸アルカリまたは炭酸水素アルカリを0.3〜1.0重量%添加することを特徴とする安定化液状殺菌剤が開示されている。特許文献6には、乳化剤の存在下に、チアミンラウリル硫酸塩と水とを混合することを特徴とするチアミンラウリル硫酸塩の水性液剤が開示されている。しかし、これらの水溶液製剤は、チアミンラウリル硫酸塩を溶解するために、有機溶媒であるエチルアルコール、あるいは乳化剤が用いられており、これらのエチルアルコールまたは乳化剤の臭気が食品の風味に影響を与えるという問題がある。
【特許文献1】特開平1−132514号公報
【特許文献2】特開平8−143459号公報
【特許文献3】特開平10−67660号公報
【特許文献4】特開2000−128806号公報
【特許文献5】特開2000−178107号公報
【特許文献6】特開2004−210749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、エチルアルコールなどの有機溶媒、あるいは乳化剤といった食品の風味に影響を与える物質を用いることなく、チアミンラウリル硫酸塩を高濃度含有する水溶液製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水溶液製剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、および塩基性アミノ酸の重合体からなる群より選択される少なくとも1種と、水とからなる水溶液製剤であって、該水溶液製剤中に、該チアミンラウリル硫酸塩が1質量%以上の割合で含有される。
【0007】
ある実施態様においては、上記リン酸塩、上記炭酸塩、または上記有機酸塩は、アルカリ金属塩である。
【0008】
ある実施態様においては、上記アルカリ金属塩は、ナトリウム塩である。
【0009】
ある実施態様においては、上記水溶液製剤中に、チアミンラウリル硫酸塩が1〜45質量%、および前記リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、および塩基性アミノ酸の重合体からなる群より選択される少なくとも1種が0.08〜15質量%含有される。
【0010】
本発明の食品は、上記水溶液製剤を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エタノールなどの有機溶媒、あるいは乳化剤を用いることなく、チアミンラウリル硫酸塩を高濃度含有する水溶液製剤を提供することができる。そのため、食品の風味に影響を与えることなく、チアミンラウリル硫酸塩を均一に含有させることができ、抗菌効果を効率的に発揮することができる。特に、水分含量が高い食品、液状食品などのチアミンラウリル硫酸塩が難溶性であるため使用量が制限されていた食品においても、高濃度のチアミンラウリル硫酸塩を均一に含有させることができ、抗菌効果が効率的に発揮され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水溶液製剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、および塩基性アミノ酸の重合体からなる群より選択される少なくとも1種と、水とからなり、該チアミンラウリル硫酸塩が1質量%以上の割合で含有される。本発明においては、チアミンラウリル硫酸塩を1質量%以上溶解することができ、かつ長期間保存しても析出することなく安定である。そのため、チアミンラウリル硫酸塩による抗菌効果を効率よく発揮することが可能であり、十分な抗菌効果が得られる。
【0013】
本発明の水溶液製剤に用いられるチアミンラウリル硫酸塩は、水に難溶な白色粉末であり、例えば、25℃の水における溶解度は、約0.02質量%である。チアミンラウリル硫酸塩は、酸性、中性、およびアルカリ性溶液中においても、他のビタミンB塩類に比べて非常に安定である。
【0014】
本発明の水溶液製剤中のチアミンラウリル硫酸塩の含有量は、上述のとおり、1質量%以上、好ましくは1〜45質量%、より好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。1質量%未満の場合、得られる水溶液製剤では、十分な抗菌効果が得られない。さらにより多くの添加量が必要となる結果、後述するリン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、塩基性アミノ酸の重合体などの他の必須成分(溶解度向上物質)を食品中に必要以上に含有させることとなり、コスト的にも不利になる。
【0015】
本発明の水溶液製剤においては、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、および塩基性アミノ酸の重合体からなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。好ましくはリン酸塩、炭酸塩、塩基性アミノ酸、または塩基性アミノ酸の重合体である。これらは、チアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を増大させる目的で含有される。本明細書においては、このような化合物を溶解度向上物質という。溶解度向上物質は、単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記リン酸塩、炭酸塩、または有機酸塩は、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。具体的には、リン酸塩としては、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウムなどが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。有機酸塩としては、クエン酸三ナトリウムなどが挙げられる。
【0017】
上記塩基性アミノ酸としては、アルギニン、リシンなどが挙げられる。上記塩基性アミノ酸の重合体としては、ポリリシンなどが挙げられる。
【0018】
本発明の水溶液製剤中の上記溶解度向上物質の量は、溶解度向上物質の種類および含有されるチアミンラウリル硫酸塩の量に応じて適宜設定される。好ましくは水溶液製剤中に0.08〜15質量%、より好ましくは0.1〜12質量%の割合で含有される。0.08質量%未満の場合、チアミンラウリル硫酸塩が析出する場合がある。15質量%を超える場合、チアミンラウリル硫酸塩が析出する、あるいは臭いが発生するなどの水溶液製剤の安定性を損なう場合がある。
【0019】
本発明に用いられる水は、食品に通常使用される水であればよく、特に制限されない。
【0020】
本発明の水溶液製剤の製造方法は、チアミンラウリル硫酸塩と、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、および塩基性アミノ酸の重合体からなる群より選択される少なくとも1種(溶解度向上物質)とを水中で混合させる工程を含む。例えば、チアミンラウリル硫酸塩を水に加えた後に、溶解度向上物質を加えてもよく、溶解度向上物質を含有する水に、チアミンラウリル硫酸塩を加えてもよく、あるいはチアミンラウリル硫酸塩と溶解度向上物質との混合物を水に加えてもよい。
【0021】
本発明の水溶液製剤は、目的に応じて、種々の食品、特に水分含量が高い食品、液状食品などの栄養強化剤または抗菌剤として使用される。本発明の水溶液製剤は、長期保存においても、チアミンラウリル硫酸塩が析出せず、また分解することもなく安定に存在する。そのため、例えば、水分含量が高い食品、液状食品などにチアミンラウリル硫酸塩を均一に含有させることができ、抗菌効果を効率的に発揮することができる。本発明の水溶液製剤は、チアミンラウリル硫酸塩および溶解度向上物質のそれぞれ単独では得られない優れた抗菌効果を有する。さらに、本発明の水溶液製剤は、有機溶媒、乳化剤などを用いていないため、食品の風味に影響を与える臭気を生じない。
【0022】
本発明の食品は、上記水溶液製剤を含む。水溶液製剤の含有量は特に制限されない。優れた抗菌効果を得る点から、好ましくはチアミンラウリル硫酸塩を0.001〜0.2質量%、より好ましくは0.03〜0.2質量%の割合で含有するように水溶液製剤が含有される。このような食品としては、例えば、調味液、惣菜、菓子、麺などが挙げられる。
【0023】
本発明の食品の製造方法は、上記水溶液製剤を含有させる方法であればよく、特に制限されない。例えば、食品に水溶液製剤を噴霧する、食品を水溶液製剤に浸漬する、または液状食品に水溶液製剤をそのまま加える、さらには、食品を水溶液製剤とともに調理するなどの方法が挙げられる。
【実施例】
【0024】
(実施例1:チアミンラウリル硫酸塩の溶解性の検討)
チアミンラウリル硫酸塩と、溶解度向上物質と、水とを表1に記載の割合で混合して、種々のチアミンラウリル硫酸塩を含有する試験液を調製した(調製例1〜9)。得られた試験液の外観を目視にて観察し、透明の場合は溶解性が良好であると判断し(○)、白濁している、あるいは沈殿または結晶が確認される場合は溶解性が劣る(×)として評価した。また、対照として水100質量部に対してチアミンラウリル硫酸塩のみを0.1質量部加えた試験液を調製し(対照例)、その溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果に示すように、溶解度向上物質を用いることによって、水中にチアミンラウリル硫酸塩を1質量%以上加えても透明な水溶液製剤が得られた(調製例1〜9)。他方、溶解度向上物質を用いない場合は、水100質量部に対して、チアミンラウリル硫酸塩0.1質量部(約0.1質量%)加えた場合においても溶解できず、沈殿を生じた(対照例)。なお、調製例において、溶解度向上物質の量を表1に記載の量より増加させた場合においてもチアミンラウリル硫酸塩の溶解量は増加しなかった。
【0027】
(実施例2:水溶液製剤の調製および評価)
チアミンラウリル硫酸塩、溶解度向上物質、および水を表2に記載の割合で配合して、水溶液製剤を得た(製剤1とする)。製剤1のpHは6.9であった。得られた製剤1の保存安定性、および製剤1の希釈時における希釈水の外観・性状および臭いについて、以下のようにして評価した。結果を表2にまとめて示す。
【0028】
(1)保存安定性
製剤1を10℃または30℃にて1ヶ月間保存し、製剤中の析出物の有無を目視にて観察した。析出物がない場合は保存安定性が良好である(○)と評価し、析出物がある場合は保存安定性が劣る(×)として評価した。
【0029】
(2)希釈時における希釈水の外観・性状
製剤1をチアミンラウリル硫酸塩が500ppmとなるように、水で希釈した場合の希釈水の沈殿の有無を目視にて観察した。沈殿物がなく、透明である場合は外観・性状が良好である(○)と評価し、沈殿物がある、あるいは白濁している場合は外観・性状が劣る(×)として評価した。
【0030】
(3)希釈時における希釈水の臭い
製剤1をチアミンラウリル硫酸塩が500ppmとなるように、水で希釈した場合の希釈水の臭いを官能にて評価した。ビタミン臭、刺激臭、および硫黄臭のいずれも感じない場合は良好である(○)と評価し、ビタミン臭、刺激臭、および硫黄臭のいずれかを感じる場合は、具体的な臭いを挙げて不適である(×)として評価した。
【0031】
(実施例3〜9)
チアミンラウリル硫酸塩、溶解度向上物質、および水を表2に記載の割合で配合して、製剤を得(それぞれ製剤2〜8とする)、pHを測定した。製剤1の代わりに製剤2〜8を用いたこと以外は、実施例2と同様にして保存安定性、および製剤2〜8の希釈時における希釈水の外観・性状および臭いについて評価した。結果を表2に併せて示す。
【0032】
(比較例1〜4)
チアミンラウリル硫酸塩、溶解度向上物質、および水を表2に記載の割合で配合して、製剤を得(それぞれ製剤9〜12とする)、pHを測定した。製剤1の代わりに製剤9〜12を用いたこと以外は、実施例2と同様にして保存安定性、および製剤9〜12の希釈時における希釈水の外観・性状および臭いについて評価した。結果を表2に併せて示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2の結果から、実施例のチアミンラウリル硫酸塩と、溶解度向上物質と、水とからなる製剤1〜8は、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が1質量%以上であっても、保存安定性および希釈時における希釈水の外観・性状が良好であり、そして得られる希釈水について特に異臭を感じなかった。これに対して、比較例1の製剤9は、溶解度向上物質を用いていないため、製剤調製時にチアミンラウリル硫酸塩が溶解せず、さらに希釈しても溶解しなかった。比較例2の製剤10は、水酸化ナトリウムを用いているため、10℃での保存において析出物を生じた。さらに希釈水は硫黄臭がした。比較例3の製剤11については、エタノールを用いているため、保存安定性はよいものの、希釈すると白濁し、さらに刺激臭が強くビタミン臭がした。比較例4の製剤12については、エタノールおよびグリセリン脂肪酸エステルを用いているため、保存安定性および希釈時における希釈水の外観・性状はよいものの、得られる希釈水の刺激臭が強くビタミン臭がした。以上のことから、本発明において、飲料などの液状食品に用いた場合でも外観・性状が良好で、かつ臭気も生じない優れた水溶液製剤が提供されることが示された。
【0035】
(実施例7:保存安定性の評価2)
実施例2、3、5、7、および8で得られた製剤1、2、4、6、および7、ならびに比較例2で得られた製剤10をそれぞれ30℃にて5週間保存した。保存後、チアミンラウリル硫酸塩の量をHPLCにて測定し、チアミンラウリル硫酸塩の残存率を測定した。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表3の結果から、本発明の製剤(製剤1、2、4、6、および7)は、30℃5週間保存してもチアミンラウリル硫酸塩が製剤中に80%以上残存しており、保存安定性が良好であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の水溶液製剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、および塩基性アミノ酸の重合体からなる群より選択される少なくとも1種と、水とからなり、該チアミンラウリル硫酸塩が1質量%以上の割合で含有される。この水溶液製剤は、エタノールなどの有機溶媒、あるいは乳化剤を用いることなく、チアミンラウリル硫酸塩を高濃度含有する。そのため、食品の風味に影響を与えることなく、チアミンラウリル硫酸塩を均一に含有させることができ、抗菌効果を効率的に発揮することができる。本発明の粉末製剤は、特に食品などの保存性向上の目的あるいは栄養補助目的に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミンラウリル硫酸塩と、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、および塩基性アミノ酸の重合体からなる群より選択される少なくとも1種と、水とからなる水溶液製剤であって、
該水溶液製剤中に、該チアミンラウリル硫酸塩が1質量%以上の割合で含有される、水溶液製剤。
【請求項2】
前記リン酸塩、前記炭酸塩、または前記有機酸塩が、アルカリ金属塩である、請求項1に記載の水溶液製剤。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩が、ナトリウム塩である、請求項2に記載の水溶液製剤。
【請求項4】
前記水溶液製剤中に、チアミンラウリル硫酸塩が1〜45質量%、および前記リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、塩基性アミノ酸、および塩基性アミノ酸の重合体からなる群より選択される少なくとも1種が0.08〜15質量%含有される、請求項1から3のいずれかの項に記載の水溶液製剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの項に記載の水溶液製剤を含む、食品。

【公開番号】特開2007−297355(P2007−297355A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128715(P2006−128715)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】