説明

チアミンラウリル硫酸塩含有粉末製剤

【課題】食塩濃度が高い調味液などの液状食品に、チアミンラウリル硫酸塩を安定に溶解させることが可能な、チアミンラウリル硫酸塩含有粉末製剤を提供すること。
【解決手段】チアミンラウリル硫酸塩と、昆布抽出エキスとからなる粉末製剤であって、昆布抽出エキスが、昆布を、エタノールまたは含水エタノールで抽出することによって得られ、チアミンラウリル硫酸塩1質量部に対して、昆布抽出エキスを乾燥質量換算で3質量部以上の割合で含み、そして食塩を3質量%含む水溶液中に、粉末製剤をチアミンラウリル硫酸塩の濃度が100ppmとなるように添加し、4℃にて48時間放置した場合に沈殿を生じない、粉末製剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアミンラウリル硫酸塩を含有する粉末製剤に関する。より詳細には、調味液などの食塩濃度が高い水溶液(液状食品)に添加した場合にも、チアミンラウリル硫酸塩の結晶が析出し難いまたは沈殿が生じ難い、チアミンラウリル硫酸塩を含有する粉末製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食塩を多く含む調味液(しょうゆ、タレ、めんつゆなど)などの液状食品において、酵母、乳酸菌などの抗菌を目的としてチアミンラウリル硫酸塩が広く利用されている。
【0003】
しかし、チアミンラウリル硫酸塩は、水への溶解度が低いともに結晶化しやすいという性質を有しているため、食塩を多く含む液状食品(特に濃縮タイプの調味液)に添加する場合には、結晶化により、食品の外観を著しく損なう、あるいはチアミンラウリル硫酸塩が本来有する抗菌効果が十分に得られなくなるといった問題が生じる。特に、冷蔵保存を要する液状食品、あるいは常温保存可能な液状食品であっても冬場などの低温条件下においては、この結晶化が顕著となり、上記問題を生じる。
【0004】
一方で、チアミンラウリル硫酸塩の結晶化を回避すべく、チアミンラウリル硫酸塩を含む液状組成物が検討されている。例えば、特許文献1には、チアミンラウリル硫酸塩2〜30重量%、酢酸57〜90重量%および残部水からなる水性溶液であって、且つ酢酸と水との割合に占める酢酸の比率が95重量%以下であることを特徴とするチアミンラウリル硫酸塩の水性溶液組成物が開示されている。この水性溶液組成物は、米の殺菌を目的とする炊飯用の水として用いられている。特許文献2には、エチルアルコールを15〜50重量%含む水溶液に、チアミンラウリル硫酸塩を溶解させ、かつ炭酸アルカリまたは炭酸水素アルカリを0.3〜1.0重量%添加することを特徴とする安定化液状殺菌剤が開示されている。この液状殺菌剤は、希釈した後、野菜(きざみねぎ)の洗浄液として用いられている。そして特許文献3には、乳化剤の存在下に、チアミンラウリル硫酸塩と水とを混合することを特徴とするチアミンラウリル硫酸塩の水性液剤が開示され、液状食品に用いられることが開示されている。この水性液剤は、実質的には、エチルアルコールが併用されている。
【0005】
しかし、特許文献1および2の液状組成物は、エチルアルコールまたは酢酸といった有機溶媒を用いているため、チアミンラウリル硫酸塩とともに独特の臭気が発生し、液状食品の風味に影響を与えるという問題がある。その上、これらの液状組成物は、食塩濃度が高い調味液などには用いられない。また、特許文献3においても乳化剤が液状食品の風味に影響を与えるおそれがある。
【0006】
そこで、チアミンラウリル硫酸塩を、液状食品、特に食塩濃度が高い調味液などの液状食品に添加した場合に、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿)を生じない製剤であって、かつ有機溶媒または乳化剤を使用せずに液状食品の風味に与える影響が少ない製剤が求められている。
【特許文献1】特開平4−311369号公報
【特許文献2】特開2000−178107号公報
【特許文献3】特開2004−210749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、調味液などの食塩濃度が高い液状食品に、チアミンラウリル硫酸塩を安定に溶解することが可能な、チアミンラウリル硫酸塩含有粉末製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、チアミンラウリル硫酸塩と、昆布抽出エキスとからなる粉末製剤を提供し、該昆布抽出エキスが、昆布を、エタノールまたは含水エタノールで抽出することによって得られ、該チアミンラウリル硫酸塩1質量部に対して、該昆布抽出エキスを3質量部以上の割合で含み、そして食塩を3質量%含む水溶液中に、該粉末製剤をチアミンラウリル硫酸塩の濃度が100ppmとなるように添加し、4℃にて48時間放置した場合に沈殿を生じない。
【0009】
ある実施態様においては、上記昆布抽出エキスは、昆布を、エタノールを10質量%以上含有する含水エタノールで抽出することによって得られる。
【0010】
本発明はまた、上記粉末製剤からなる、液状食品用抗菌剤を提供する。
【0011】
ある実施態様においては、上記液状食品は、調味液である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粉末製剤は、チアミンラウリル硫酸塩を含有し、この粉末製剤を用いることによって、食塩濃度が高い調味液(しょうゆ、タレ、めんつゆなど)などの液状食品中に、チアミンラウリル硫酸塩を安定に溶解することができる。さらに上記粉末製剤を用いた液状食品を低温下、例えば4℃にて保存した場合においてもチアミンラウリル硫酸塩の結晶が生じることがない。そのため、食塩を高濃度含有する条件下、および低温条件下のいずれにおいても液状食品の外観に影響を与えず、そして抗菌効果が効率的に発揮される。本発明は、さらにチアミンラウリル硫酸塩の結晶析出抑制成分として、食品由来の昆布抽出エキスを使用しているため、液状食品の風味にほとんど影響を与えない。本発明の粉末製剤は、特に調味液(しょうゆ、タレ、めんつゆなど)などの食塩濃度が高い液状食品の抗菌目的(保存向上の目的)および栄養補助目的に利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の粉末製剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、昆布抽出エキスとからなり、該昆布抽出エキスが、昆布を、エタノールまたは含水エタノールで抽出することによって得られ、チアミンラウリル硫酸塩1質量部に対して、昆布抽出エキスを3質量部以上の割合で含む。本発明の粉末製剤は、食塩を3質量%含む水溶液中に、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が100ppmとなるように添加し、4℃にて48時間放置した場合に沈殿を生じない。
【0014】
(チアミンラウリル硫酸塩)
チアミンラウリル硫酸塩は、水に難溶な白色粉末であり、例えば、25℃の水における溶解度は、約0.02質量%(約200ppm)である。さらに、水溶液中に食塩を含む場合、チアミンラウリル硫酸塩自体は溶解するものの、結晶を生じやすくなる。例えば、食塩を7質量%含む水溶液中にチアミンラウリル硫酸塩を100ppm溶解させる場合、常温(約30℃)に放置すると析出が観察される。食塩を3〜5質量%含む水溶液中にチアミンラウリル硫酸塩を100ppm溶解させる場合は、常温では析出しないものの、低温下(約4℃)では析出を生じる。
【0015】
(昆布抽出エキス)
本発明においては、水溶液中でのチアミンラウリル硫酸塩の結晶析出を抑制する目的で昆布抽出エキスが用いられる。昆布抽出エキスは、昆布をエタノールまたは含水エタノールで抽出することによって得られるものであり、昆布抽出物、昆布抽出液、およびこれらを乾燥することによって得られる昆布抽出粉末を含む。この昆布抽出エキスには、例えば、アルギン酸(塩)、グルタミン酸(塩)、水溶性多糖類、フコイダン、マンニットなどが含有されている。
【0016】
上記昆布抽出エキスの原料として用いられる昆布は、褐藻類コンブ目に属するものであり、通常食用に用いられる海草であればよく、種類や産地を問わずいずれも使用することができる。例えば、真昆布、羅臼昆布、利尻昆布、日高昆布、ホソメコンブ、ナガコンブ、ガッカラコンブ、ガゴメコンブなどが挙げられる。昆布は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
抽出溶媒としては、チアミンラウリル硫酸塩の結晶析出抑制効果に優れた昆布抽出エキスを得る観点から、エタノールまたは含水エタノールが用いられる。含水エタノールがより好ましい。さらに、チアミンラウリル硫酸塩の結晶析出抑制効果に優れた昆布抽出エキスを得る観点から、含水エタノール中のエタノール含量は、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、30質量%〜95質量%がさらに好ましい。エタノールは、他の有機溶媒に比べて、環境への負荷が少なく、食用として用いる場合に安全性も高い。
【0018】
抽出は、当業者が通常用いる抽出方法を用いればよく、特に制限されない。例えば、乾燥昆布を粉砕した後、含水エタノール(例えば、エタノールを60質量%含有する)を加え、60℃にて3時間抽出する。その後、昆布残渣を濾過などにより除去して昆布抽出エキス(液状物)を得る。昆布抽出エキス(液状物)は、使用される食品のpHに応じて、酸、アルカリなどで目的のpHに調整してもよい。昆布抽出エキスは、そのまま液状物として用いてもよいし、この液状物を乾燥、粉砕して、粉末として用いてもよい。乾燥は、昆布抽出エキスの水分含量が10質量%以下となるように行われる。例えば、スプレードライ、凍結乾燥、ドラム乾燥、真空乾燥などの当業者が通常用いる乾燥方法が採用される。
【0019】
(粉末製剤)
本発明の粉末製剤は、上記チアミンラウリル硫酸塩1質量部に対して、上記昆布抽出エキスを3質量部以上の割合でなる。上記昆布抽出エキスが3質量部未満の場合、十分なチアミンラウリル硫酸塩の結晶析出抑制効果が得られず、粉末製剤を用いた食品を長期保存すると、チアミンラウリル硫酸塩の析出(沈殿)が生じる。食塩を高濃度で含む水溶液(液状食品)中においてもチアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿)が生じ難い点を考慮すると、上記昆布抽出エキスの量は多い方が好ましく、コスト面を考慮すると、少ない方が好ましい。好ましくは、チアミンラウリル硫酸塩1質量部に対して、昆布抽出エキスが、3〜100質量部、より好ましくは10〜100質量部、さらに好ましくは30〜100質量部となるように調製される。なお、液状の昆布抽出エキスを用いる場合は、乾燥質量が上記の割合となるように用いられる。
【0020】
本発明の粉末製剤は、食塩を3質量%含む水溶液中に、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が100ppmとなるように添加し、4℃にて48時間放置した場合に沈殿を生じない。このような条件を満たす粉末製剤は、例えば、液状食品を用いて、低温にて長期保存した場合、例えば、10℃以下、好ましくは4℃にて1週間以上、好ましくは1か月間以上、より好ましくは6ヶ月間以上、さらに好ましくは12ヶ月間以上保存した場合にも沈殿、結晶析出を生じない。また、常温保存可能な液状食品(調味料)においても、一時的な低温条件下(例えば、冬場の夜から朝にかけての低温条件下)に曝される場合が想定されるが、上記条件を満たす粉末製剤を用いれば、沈殿、結晶析出が生じにくい。本発明の粉末製剤は、例えば、昆布抽出エキスの種類(例えば、調製方法)に応じて、チアミンラウリル硫酸塩と上記昆布抽出エキスとを上記の量比で設定することにより得られる。条件によっては、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が好ましくは150ppmとなるように添加した場合にも沈殿を生じない粉末製剤を得ることが可能である。
【0021】
本発明の粉末製剤は、粉末状、顆粒状などであり得る。粉末製剤の調製方法に特に制限はない。例えば、チアミンラウリル硫酸塩の粉末と、昆布抽出エキスの粉末とをV型混合機などを用いて単純混合してもよいし、上記粉末同士をジェットミルなどにより微粉砕混合してもよいし、チアミンラウリル硫酸塩と昆布抽出エキス(液状物)とを混合した後、噴霧乾燥、凍結乾燥、ドラム乾燥、真空乾燥などで粉末化してもよい。調製に際して、本発明の効果を損なわない範囲で、賦形剤(デキストリンなど)、調味料(昆布水抽出エキスなど)、pH調整剤などの食品添加物を適宜添加してもよい。
【0022】
本発明の粉末製剤は、目的に応じて、種々の食品に使用される。例えば、食品と粉末製剤とを直接混ぜ合わせる、液状食品に粉末製剤をそのまま添加する、食品を粉末製剤の溶解液とともに調理する、あるいは食品を粉末製剤の溶解液に漬け込むなどにより使用される。本発明の粉末製剤は、液状食品、食塩濃度が高い調味液(特にしょうゆ、タレ、めんつゆ、海藻(もずく)の漬け汁、ドレッシングなど)などに好適に使用される。本発明の粉末製剤は、チアミンラウリル硫酸塩を含有するにもかかわらず、液状食品、特に食塩を高濃度含む液状食品に用いた場合に安定に溶解し、長期低温(例えば、4℃)保存した場合においても結晶(沈殿)を生じ難い。そのため、この粉末製剤を用いることによって、食塩を高濃度含有する条件下、および低温条件下のいずれにおいても、液状食品の外観に影響を与えず、そして抗菌効果が効率的に発揮される。本発明の粉末製剤は、さらに、このような液状食品を用いた食品(例えば、タレに浸漬した肉類、魚介類、魚卵、鶏卵など)についても、長期保存を可能にする。本発明は、さらにチアミンラウリル硫酸塩の結晶析出抑制成分として、食品由来の昆布抽出エキスを使用しているため、液状食品の風味にほとんど影響を与えない。本発明の粉末製剤は、例えば、液状食品用の抗菌剤(日持ち向上剤)および栄養補助剤、特に食塩を高濃度で含む調味料用の抗菌剤および栄養補助剤などとして利用される。
【0023】
本発明の粉末製剤は、上述のように、特にチアミンラウリル硫酸塩単独では沈殿または結晶析出が生じる条件下(例えば、食塩を高濃度含む条件下、低温保存条件下)においても優れた抗菌効果を発揮する。例えば、食塩を3質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上含む液状食品に、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が200ppmを超えるような範囲で粉末製剤を添加して常温で保存する場合、あるいはチアミンラウリル硫酸塩の濃度が20ppm以上、好ましくは50ppm以上となるように粉末製剤を添加して10℃、好ましくは4℃に保存する場合においても優れた抗菌効果が得られる。なお、この粉末製剤の使用量の上限は、使用される液状食品の飽和濃度を超えない範囲であればよく、特に制限されないが、通常、チアミンラウリル硫酸塩が500ppm以下、低温(10℃以下)保存する食品に用いる場合は、好ましくは200ppm以下となるように使用される。
【実施例】
【0024】
(参考例)
高濃度食塩水中において、チアミンラウリル硫酸塩の結晶が生じる濃度を調べた。まず、食塩を3質量%含有する水溶液に、チアミンラウリル硫酸塩が所定濃度(20ppm、50ppm、100ppm、および200ppm)となるように添加した。これらの溶液を各温度(30℃(常温)10℃、および、4℃)にて48時間保存した後、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無を以下の基準に基づき目視にて評価した。食塩を5質量%含有する水溶液を用いた場合についても、上記と同様にして評価を行った。これらの結果を併せて表1に示す。
【0025】
(評価基準)
−: 溶液中に結晶(または沈殿物)がない。
+: 溶液中に僅かに結晶が析出している。
++: 溶液中に明らかに結晶が析出している。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、食塩を3質量%含む水溶液に、チアミンラウリル硫酸塩を添加して溶解させ、常温(30℃)にて保存した場合、いずれも析出は確認されなかった。これに対して、10℃で保存した場合は、チアミンラウリル硫酸塩が100ppm以上で、4℃で保存した場合は、50ppm以上で結晶が析出した。他方、食塩を5質量%含む水溶液においては、常温(30℃)では、いずれも析出は確認されなかった。10℃で保存した場合は、チアミンラウリル硫酸塩が50ppm以上で、4℃で保存した場合は、50ppm以上で結晶が析出した。
【0028】
(実施例1)
乾燥昆布の粉砕物10質量部に対して、エタノールを10質量%含む含水エタノール100質量部を加えて、60℃にて3時間抽出した。その後、濾過により固形物を除去して昆布抽出エキスを調製した。さらにこのエキスの水分含量が10質量%以下となるまで乾燥して、昆布抽出エキス粉末を得た。
【0029】
チアミンラウリル硫酸塩5質量部と上記昆布抽出エキス粉末95質量部とを混合して粉末製剤を得た(粉末製剤1とする)。
【0030】
得られた粉末製剤1を、食塩を所定濃度(0、3、5、および7質量%)含む水溶液中にそれぞれ、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が100ppmとなるように添加して溶解した。この溶液を4℃にて1か月間(30日間)保存した後、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無を参考例の評価基準に基づき目視にて評価した。結果を表2に示す。
【0031】
(実施例2および3)
エタノールを10質量%含む含水エタノールの代わりに、エタノールを60質量%含む含水エタノール(実施例2)またはエタノール(実施例3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして昆布抽出エキス粉末をそれぞれ調製した。各昆布抽出エキス粉末を用いて、実施例1と同様にして粉末製剤を得(それぞれ粉末製剤2および3とする)、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無について評価した。結果を表2に併せて示す。
【0032】
(比較例1)
エタノールを10質量%含む含水エタノールの代わりに、水を用いたこと以外は、実施例1と同様にして昆布抽出エキス粉末を調製した。この昆布抽出エキス粉末を用いて、実施例1と同様にして粉末製剤を得(粉末製剤4とする)、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無について評価した。結果を表2に併せて示す。
【0033】
(比較例2)
チアミンラウリル硫酸塩を粉末製剤5とした。この粉末製剤5を用いて、実施例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無について評価した。結果を表2に併せて示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2の結果から、実施例1〜3の含水エタノールまたはエタノールを用いて得られた昆布抽出エキス粉末を含む粉末製剤1〜3は、食塩を7質量%含む水溶液中に、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が100ppmとなるように添加して、4℃にて1か月間(30日間)放置した場合にも結晶(沈殿)を生じなかった。特に、エタノールを60質量%含む含水エタノールで抽出した昆布抽出エキス粉末を含む粉末製剤2は、チアミンラウリル硫酸塩が150ppmとなるように添加しても結晶(沈殿)を生じなかった。
【0036】
これに対して、比較例1の水を用いて得られた昆布抽出エキス粉末を含む粉末製剤4および比較例2の昆布抽出エキス粉末を含まない粉末製剤5(チアミンラウリル硫酸塩のみ)においては、結晶(沈殿)が生じていた。なお、表には示さないが、この粉末製剤5(チアミンラウリル硫酸塩のみ)を上記と同様にして、食塩を所定濃度含む水溶液に添加して溶解させ、常温(約30℃)にて48時間保存したところ、食塩を0〜5質量%を含有する水溶液では析出が確認されなかったが(評価:−)、食塩を7質量%含有する水溶液では、明らかな析出が確認された(評価:++)。
【0037】
(実施例4)
チアミンラウリル硫酸塩1質量部と、実施例2で調製した昆布抽出エキス粉末(エタノールを60質量%含む含水エタノールで抽出)99質量部とを混合して粉末製剤6を得た。この粉末製剤6を、食塩を3質量%含む水溶液中に、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が100ppmとなるように添加して溶解した。この溶液を4℃にて48時間保存した後、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無を参考例の評価基準に基づき目視にて評価した。さらに、粉末製剤6をチアミンラウリル硫酸塩の濃度が150ppmとなるように添加した場合の結晶(沈殿物)の有無についても上記と同様にして評価した。結果を表3に示す。
【0038】
(実施例5)
粉末製剤6の代わりに、実施例2で得られた粉末製剤2(チアミンラウリル硫酸塩と昆布抽出エキス粉末とを1:19の質量比で混合)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無について評価した。結果を表3に併せて示す。
【0039】
(実施例6)
チアミンラウリル硫酸塩10質量部と、実施例2で調製した昆布抽出エキス粉末(エタノールを60質量%含む含水エタノールで抽出)90質量部とを混合して粉末製剤7を得た。粉末製剤6の代わりに、粉末製剤7を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無について評価した。結果を表3に併せて示す。
【0040】
(実施例7)
チアミンラウリル硫酸塩25質量部と、実施例2で調製した昆布抽出エキス粉末(エタノールを60質量%含む含水エタノールで抽出)75質量部とを混合して粉末製剤8を得た。粉末製剤6の代わりに、粉末製剤8を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無について評価した。結果を表3に併せて示す。
【0041】
(比較例3)
チアミンラウリル硫酸塩50質量部と、実施例2で調製した昆布抽出エキス粉末(エタノールを60質量%含む含水エタノールで抽出)50質量部とを混合して粉末製剤9を得た。粉末製剤6の代わりに、粉末製剤9を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩の結晶(沈殿物)の有無について評価した。結果を表3に併せて示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3の結果から、実施例4〜7の粉末製剤は、食塩を3質量%含む水溶液中に、チアミンラウリル硫酸塩が100ppmとなるように添加して4℃にて48時間保存した場合においても結晶(沈殿)を生じなかった。これに対して、比較例3の粉末製剤は沈殿を生じた。これらのことは、チアミンラウリル硫酸塩1質量に対して、昆布抽出エキスを3質量部以上の割合で混合することによって、チアミンラウリル硫酸塩の沈殿または結晶析出を抑制することができることを示す。特に、実施例4および5のチアミンラウリル硫酸塩1質量に対して、昆布抽出エキスを19質量部以上の割合で含む粉末製剤は、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が150ppmとなるように添加した場合にも結晶(沈殿)が生じなかった。
【0044】
(実施例8:抗菌効果1)
市販の濃縮タイプのめんつゆを塩分濃度が3質量%となるように水で希釈した後、実施例2で得られた粉末製剤2を加えて、粉末製剤2を0.3質量%含有する試験めんつゆ1(チアミンラウリル硫酸塩を150ppm含む)を調製した。この試験めんつゆ1の10%希釈液のpHは、4.87であった。試験めんつゆ1に、耐塩性酵母を10個/gとなるように接種した後、10℃にて保存した。接種直後(保存0日目)、保存7日目、および保存14日目に菌数を計測した。さらに保存14日目には、チアミンラウリル硫酸塩の結晶析出について、参考例の評価基準に基づき評価した。結果を表4に示す。
【0045】
(比較例4および5)
粉末製剤2の代わりに、チアミンラウリル硫酸のみを用いたこと(すなわちチアミンラウリル硫酸塩を150ppm含むめんつゆを調製したこと:比較例4)、あるいは粉末製剤2を用いなかったこと(比較例5)以外は、実施例8と同様に操作して試験めんつゆを調製した(それぞれ試験めんつゆ2および3とする)。試験めんつゆ2の10%希釈液のpHは4.85、試験めんつゆ3の10%希釈液のpHは4.86であった。これらの試験めんつゆを用いて、実施例8と同様に操作して、抗菌効果を評価した。結果を表4に併せて示す。
【0046】
【表4】

【0047】
表4の結果から明らかなように、粉末製剤2を用いる場合(実施例8)は、保存14日目においてもチアミンラウリル硫酸塩の結晶析出が生じず、優れた抗菌効果を有していた。これに対して、チアミンラウリル硫酸のみを単独で用いる場合(比較例4)は、実施例8と同じチアミンラウリル硫酸塩濃度であるにもかかわらず、結晶が析出し、抗菌効果も劣った。
【0048】
(実施例9:抗菌効果2)
水56質量部、砂糖22質量部、および醤油22質量部を混合して、調味液を調製した(食塩濃度は4質量%)。これとは別に、酢酸ナトリウム60質量部、グリシン10質量部、リンゴ酸5質量部、およびデキストリン25質量部を混合して、酢酸ナトリウム・グリシン製剤を調製した。
【0049】
上記調味液に、実施例2で得られた粉末製剤2が0.4質量%、および上記酢酸ナトリウム・グリシン製剤が1質量%となるように加えて、試験調味液1を調製した(チアミンラウリル硫酸塩を200ppm含む)。この試験調味液1の10%希釈液のpHは、6.54であった。この試験調味液1は、使用するまで4℃にて保存した。
【0050】
4℃で保存しておいた鶏モモ肉のカット品(約50g)を、上記試験調味液1(4℃)25g(鶏モモ肉2質量部に対して調味液が1質量部)に浸漬し、4℃にて1時間静置した。液切りした後、180℃にて加熱し、肉の中心温度が85℃となるようにして12分間焼成した。得られた焼成肉を室温まで冷却した後、25℃にて保存した。保存0時間目(調理直後)、保存24時間後、および保存48時間後の一般生菌数を計測した。結果を表5に示す。
【0051】
(比較例6および7)
粉末製剤2の代わりに、チアミンラウリル硫酸のみを用いたこと(すなわちチアミンラウリル硫酸塩を200ppm含む調味液を調製したこと:比較例6)、あるいは粉末製剤2を用いなかったこと(比較例7)以外は、実施例9と同様に操作して試験調味液を調製した(それぞれ試験調味液2および3とする)。試験調味液2の10%希釈液のpHは6.55、試験調味液3の10%希釈液のpHは6.57であった。これらの試験調味液を用いて、実施例9と同様に操作して、抗菌効果を評価した。結果を表5に併せて示す。
【0052】
【表5】

【0053】
表5の結果から明らかなように、粉末製剤2を用いる場合(実施例9)は、優れた抗菌効果を有していた。これに対して、チアミンラウリル硫酸のみを単独で用いる場合(比較例6)は、実施例9と同じチアミンラウリル硫酸塩濃度であるにもかかわらず、抗菌効果が劣った。これらの結果は、チアミンラウリル硫酸塩と、昆布抽出エキスとを組み合わせることによって、食塩濃度が高い調味液中においてもチアミンラウリル硫酸塩が沈殿または結晶析出を生ずることなく、その結果、鶏肉中にチアミンラウリル硫酸塩が高い割合で浸透され、優れた抗菌効果が発揮されていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、チアミンラウリル硫酸塩と、昆布抽出エキスとからなる粉末製剤であって、昆布抽出エキスが、昆布を、エタノールまたは含水エタノールで抽出することによって得られ、チアミンラウリル硫酸塩1質量部に対して、昆布抽出エキスを3質量部以上の割合で含み、そして食塩を3質量%以上含む水溶液中に、該粉末製剤をチアミンラウリル硫酸塩の濃度が100ppmとなるように添加し、4℃にて48時間放置した場合に沈殿を生じない、粉末製剤が提供される。この粉末製剤を用いることによって、食塩濃度が高い調味液などの液状食品中に、チアミンラウリル硫酸塩を安定に溶解することができ、低温下、例えば4℃にて保存した場合においてもチアミンラウリル硫酸塩の結晶が生じることがない。そのため、食塩を高濃度含有する条件下、および低温条件下のいずれにおいても、液状食品の外観に影響を与えず、そしてチアミンラウリル硫酸塩が有する抗菌効果が効率的に発揮される。本発明は、さらにチアミンラウリル硫酸塩の結晶析出抑制成分として、食品由来の昆布抽出エキスを使用しているため、液状食品の風味にほとんど影響を与えない。本発明の粉末製剤は、液状食品、特に調味液などの食塩濃度が高い液状食品の抗菌目的(保存向上の目的)および栄養補助目的に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミンラウリル硫酸塩と、昆布抽出エキスとからなる粉末製剤であって、
該昆布抽出エキスが、昆布を、エタノールまたは含水エタノールで抽出することによって得られ、
該チアミンラウリル硫酸塩1質量部に対して、該昆布抽出エキスを3質量部以上の割合で含み、そして
食塩を3質量%含む水溶液中に、該粉末製剤をチアミンラウリル硫酸塩の濃度が100ppmとなるように添加し、4℃にて48時間放置した場合に沈殿を生じない、粉末製剤。
【請求項2】
前記昆布抽出エキスが、昆布を、エタノールを10質量%以上含有する含水エタノールで抽出することによって得られる、請求項1に記載の粉末製剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粉末製剤からなる、液状食品用抗菌剤。
【請求項4】
前記液状食品が、調味液である、請求項3に記載の抗菌剤。

【公開番号】特開2008−179575(P2008−179575A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15587(P2007−15587)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】