説明

チェーンガイド用ローラ、チェーンガイド及びチェーンテンショナ装置

【課題】シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に一体化されたローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、軸方向及び回転方向の滑りを同時に防止することができるチェーンガイド用ローラを提供することである。
【解決手段】シェル形外輪22を備えた転がり軸受25の外輪外径面にローラ部材26が嵌合されたチェーンガイド用ローラ13において、前記ローラ部材26と外輪22の嵌合構造に軸方向滑り阻止構造が含まれ、前記軸方向滑り阻止構造としてローラ部材26の両端部に外輪22の両端面に係合する係合つば29を設けた構造を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無端状に掛け渡されたチェーンの一部を押圧して所要の張力を付与するチェーンガイド用ローラ、そのローラを用いたチェーンガイド及びチェーンテンショナ装置に関し、内燃機関のタイミングチェーン伝導構造等に用いられる。
【背景技術】
【0002】
前記のチェーンガイドとして従来から知られているものは、チェーンガイド本体とこれに保持された多数のローラとからなる(特許文献1)。前記のチェーンガイド本体は、アルミニウム製であり、チェーンに沿う湾曲形状の一対の側板間の底面に摺動面を設けることによって断面コの字形の案内溝が形成され、その溝底となる前記摺動面に横断方向の多数の溝が所定の間隔をおいて設けられる。
【0003】
前記のローラは合成樹脂製であり、前記溝内に配置され、側板の外側面から貫通されたネジ付きの支持軸が前記ローラに貫通されている。支持軸は側板に固定され、ローラは前記案内溝の底面において回転自在に支持される。チェーンは案内溝内に収納されローラに接触して移動する。
【0004】
前記チェーンガイドは、その一端部に設けられた貫通穴に挿通された固定軸によって揺動自在に支持され、他端部にチェーンテンショナのプランジャーが押し当てられる。プランジャーの押圧力が前記チェーンに付与されることにより、チェーンに所要の張力が付与される。前記のチェーンガイドとチェーンテンショナとによってチェーンテンショナ装置が構成される。チェーンガイドはチェーンレバーと呼ばれることがある。
【0005】
前記チェーンガイドは、それ以前に知られていたものにおいてはローラが設けられず、チェーンが直接摺動面に接触して移動する構造であったものに比べ、チェーンが回転自在のローラ上を移動するものであるため、低トルク化される効果がある。
【0006】
しかし、前記ローラは、その支持軸に対しては滑り接触する構造であるため、低トルク化の効果は不十分であった。
【0007】
この次のステップとして、ローラを転がり軸受で支持することが考えられるが、前記のように、ローラは通常合成樹脂製であるのに対し、転がり軸受は金属製であるため、金属製の転がり軸受の外周面に単に合成樹脂製のローラを嵌めただけでは、軸方向には相対的な滑りが発生し、軸受からローラが脱落する問題がある。また、回転方向には両者間に相対的な滑り、いわゆるクリープによる摩耗、即ちクリープ摩耗が発生し、ローラが短寿命となる問題がある。
【0008】
軸方向及び回転方向への滑りを防止するために、軸受の外輪外径面にローレット加工を施し、摩擦係数を増大させて軸方向及び回転方向への滑りを生じ難くすることは従来周知の技術である。また、転がり軸受の外輪外周面に、溝の深さ及び幅が連続して変化する凹溝を周方向に傾斜して形成し、その外輪の外周面にローラ等の回転体をインサート成形し、その成形の際に、前記凹溝に溶融樹脂を充填する方法も知られている(特許文献2)。
【0009】
さらに、回転方向への滑りを防止するために、外輪外径面の一部に軸方向全長にわたる平坦面を形成することも知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−236157号公報
【特許文献2】特開2003−65424号公報
【特許文献3】実用新案登録第2539465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
軸受の外輪外径面にローレット加工を施す手段は、相手部材との間の摩擦によって滑りを阻止するものであるから、両方の部材が機械的に係合する場合に比べ、滑りを確実に阻止するという点では信頼性に乏しい。
【0012】
また、特許文献2のように、鋼板をプレス形成することによって製作される、いわゆるシェル形外輪の場合は、板厚が不足するため、必要な深さの凹溝の加工を行うことができない問題がある。また、十分な板厚がある場合でも、凹溝の加工のための工程が増えるため、製造コストが上がる問題がある。
【0013】
さらに、特許文献3のように、平坦面を外輪の全長にわたり設ける構成は、回転方向の滑りは防ぐことはできても、軸方向への滑りを防止することはできない。
【0014】
そこで、この発明は、シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に一体化されたローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、軸方向及び回転方向の滑りのいずれか一方又は両方同時に防止することができるチェーンガイド用ローラを提供することを課題とする。また、そのローラを用いたチェーンガイド及びチェーンテンショナ装置を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、第1発明(請求項1に係る発明)のチェーンガイド用ローラは、シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に嵌合された合成樹脂製のローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、前記ローラ部材と外輪の嵌合構造に軸方向滑り阻止構造が含まれ、前記軸方向滑り阻止構造が、前記ローラ部材の内径面の一部に前記外輪外径面の外径より小さい部分又は大きい部分を形成する段差部を設けた構造であり、その段差部における係合によって相対的な滑りが阻止される構造としたものである。
【0016】
前記ローラ部材の段差部は、外輪外径面に沿った円弧部分から内径側に落ち込むか、外径側に立ち上がるかすることによって構成されるものであるので、このような段差部があると、ローラ部材と外輪の軸方向への相対的な滑りが防止される。
【0017】
前記外輪の外径面にローレットを施すことにより、軸方向への滑り防止効果が一層確実になる。このローレットは、同時に回転方向への滑りを防止する効果もある。
【0018】
前記の課題を解決するために、第2発明(請求項7に係る発明)のチェーンガイド用ローラは、シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に嵌合された合成樹脂製のローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、前記ローラ部材と外輪の嵌合構造に回転方向滑り阻止構造が含まれ、前記回転方向滑り阻止構造が、前記外輪外径面の軸断面形状を円形以外の形状とする一方、前記ローラ部材の内径面の軸断面形状を前記外輪外径面の形状の相補形状とした構造を採用している。
【0019】
前記の回転方向滑り阻止構造は、外輪とローラ部材の嵌合部分において両者が回転方向に係合することによって滑りが防止される。
【0020】
前記外輪の外径面にローレットを施すことにより、回転方向への滑り防止効果が一層確実になる。このローレットは、同時に回転方向への滑りを防止する効果もある。
【0021】
前記の課題を解決するために、第3発明(請求項14に係る発明)のチェーンガイド用ローラは、シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に嵌合された合成樹脂製のローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、前記ローラ部材と外輪の嵌合構造に軸方向滑り阻止構造と回転方向滑り阻止構造が含まれ、前記軸方向滑り阻止構造が、前記外輪外径面の一部にその外径より小さくなる部分又は大きくなる部分を形成する段差部を設けた構造であり、前記回転方向滑り阻止構造が、前記外輪外径面の軸断面形状を円形以外の形状とする一方、前記ローラ部材の内径面の軸断面形状を前記外輪外径面の形状の相補形状とした構造を採用している。
【0022】
この第3発明において、軸方向滑り阻止構造と回転方向滑り阻止構造の両方の構造を備えることにより軸方向及び回転方向の滑りを防止するようにしている点は、前記第1及び第2発明と共通する。
【0023】
さらに、第3発明においては、軸方向滑り阻止構造については第1発明と同じ構造を採用し、また回転方向滑り防止構造については、第2発明と同じ構造を採用している。その結果、軸方向にも回転方向にもローラ部材と外輪との係合によって滑りを防止することができる。
【0024】
前記の課題を解決するために、第4発明(請求項19に係る発明)のチェーンガイド用ローラは、シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に嵌合された合成樹脂製のローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、前記ローラ部材と外輪の嵌合構造に軸方向滑り阻止構造と回転方向滑り阻止構造が含まれ、前記軸方向滑り阻止構造が、前記ローラ部材の内径面の一部に前記外輪外径面の外径より小さい部分を形成する段差部を設けた構造であり、前記回転方向滑り阻止構造が、前記外輪外径面の軸断面形状を円形以外の形状とする一方、前記ローラ部材の内径面の軸断面形状を前記外輪外径面の形状の相補形状とした構造を採用している。
【0025】
この第4発明において、軸方向滑り阻止構造については第1発明と同じ構造を採用し、また回転方向滑り防止構造については、第2発明と同じ構造を採用している点で第3発明と共通する。
【0026】
第3発明と相違する点は、第3発明においては、軸方向滑り阻止構造を構成する段差部が外輪外径面に設けられる構成であるのに対し、第4発明の当該段差部は、ローラ部材の内径面に設けられる構成である点である。第4発明においても第3発明の場合と同様、軸方向にも回転方向にもローラ部材と外輪との係合によって滑りを防止する作用効果がある。
【0027】
以上のように、第1発明から第4発明は、発明の構成において部分的に相違するところがあり、滑り防止効果に差異が生じるが、用途に応じて使い分けられる。
【発明の効果】
【0028】
第1から第4発明は、いずれもシェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に一体化されたローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、軸方向及び回転方向の滑りのいずれか一方又は両方を同時に防止することができる。
【0029】
特に、軸方向滑り阻止構造及び回転方向滑り阻止構造において、外輪とローラ部材相互の軸方向及び回転方向の滑りを両者の係合構造によって阻止する構造を採用することにより、いずれの方向にも確実に滑りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態1のチェーンガイドの斜視図である。
【図2】図2は、同上の側面図である。
【図3】図3は、同上の正面図である。
【図4】図4(a)は、同上のローラの第1例の正面図、図4(b)は同(a)図のX1−X1線の断面図、図4(c)は、同(a)の一部断面図である。
【図5】図5(a)は、同上のローラの第2例の正面図、図5(b)は同(a)図のX2−X2線の断面図である。
【図6】図6(a)は、同上のローラの第3例の正面図、図6(b)は同(a)図のX3−X3線の断面図である。
【図7】図7(a)は、同上のローラの第4例の縦断正面図、図7(b)は同(a)図のX4−X4線の断面図、図7(c)は同(a)の一部断面図である。
【図8】図8(a)は、同上のローラの第5例の縦断正面図、図8(b)は同(a)図のX5−X5線の断面図である。
【図9】図9(a)は、同上のローラの第6例の縦断正面図、図9(b)は同(a)図のX6−X6線の断面図である。
【図10】図10(a)は、同上のローラの第7例の縦断正面図、図10(b)は同(a)図のX7−X7線の断面図である。
【図11】図11(a)は、同上のローラの第8例の正面図、図11(b)は同(a)図のX8−X8線の断面図である。
【図12】図12(a)は、同上のローラの第9例の縦断正面図、図12(b)は同(a)図のX9−X9線の断面図、図12(c)は同(a)の一部断面図である。
【図13】図13(a)は、同上のローラの第10例の縦断正面図、図13(b)は同(a)図のX10−X10線の断面図である。
【図14】図14(a)は、同上のローラの第11例の縦断正面図、図14(b)は同(a)図のX11−X11線の断面図である。
【図15】図15(a)は、同上のローラの第12例の縦断正面図、図15(b)は同(a)図のX12−X12線の断面図、図15(c)は変形例の一部断面図、図15(d)は同15(c)のX13−X13線の断面図である。
【図16】図16(a)は、同上のローラの第13例の正面図、図16(b)は同(a)図のX14−X14線の断面図である。
【図17】図17(a)は、同上のローラの第14例の正面図、図17(b)は同(a)図のX15−X15線の断面図、図17(c)は同(b)の一部分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0032】
図1から図3に示したように、実施形態1に係るチェーンガイド11は、チェーンガイド本体12と、そのチェーンガイド本体12に回転自在に支持された所要数のローラ13とによって構成される。
【0033】
チェーンガイド本体12は、タイミングチェーン等のチェーン15(図2参照)に沿って湾曲した形状をなし、一対の側板14と、その側板の一端部から他端部にわたり一定間隔をおいて設けられた柱部16とにより構成される。柱部16の間にローラ13を収納するポケット17が形成される。
【0034】
ローラ13は、各ポケット17に収納され、側板14間に貫通固定されたローラ支持軸18によって回転自在に支持される。ローラ13の外径部分は、側板14の幅方向に露出し、その露出した部分にチェーン15が掛けられる。
【0035】
前記チェーンガイド本体12の一端部には側板14間の方向に貫通した取付穴19が設けられ、固定軸(図示省略)をその取付穴19に挿通することによって、チェーンガイド本体12がチェーンケース等に揺動自在に取り付けられる。そのチェーンガイド本体12の自由端側において、これをチェーン15の方向に付勢するチェーンテンショナ20(図2参照)のプランジャー21が押し当てられる。
【0036】
チェーンテンショナ20はチェーンケース等に固定され、チェーン15に所要の張力を付与する。チェーン15はローラ13に接して走行することにより、摺動面に接して走行する場合に比べてメカニカルロスが軽減される。
【0037】
前記のチェーンガイド11及びチェーンテンショナ20によってチェーンテンショナ装置が構成される。後述の他の実施形態におけるローラ13も、同様のチェーンガイド11及びチェーンテンショナ装置に用いられる。
【0038】
次に、図4から図6に示した一群のローラ13について説明する。図4のローラ13を第1例、図5のローラ13を第2例、図6のローラを第3例と称する。これらのローラは、「軸方向滑り阻止構造」に主眼をおいたものであり、「回転方向滑り阻止構造」は比較的簡単な構造を採用している。これらのローラ13は、いずれも前記の第1発明の実施の形態に含まれる。
【0039】
図4に示した第1例のローラ13は、外輪22の転走面23に多数のニードルローラ24を配列した転がり軸受25と、その転がり軸受25の外輪22の外径面に嵌合一体化された合成樹脂製のローラ部材26とによって構成される。外輪22は、その両端部に内向きつば27が屈曲形成されたシェル形のものであり、鋼板をプレス成形することにより製作される。
【0040】
ローラ部材26の外径面の両端部に外向きの案内つば28が設けられ、その案内つば28間がチェーン案内面30となっている。案内つば28を設けることなく、ローラ部材26の外径面を円筒状に形成する場合もある。案内つば28を省略してもよいことは、以下述べる他のローラ13においても同様である。
【0041】
前記のローラ部材26は、その内径面の両端部に内向きの係合つば29が設けられている。転がり軸受25は、ローラ部材26の内径面に嵌合され、各係合つば29が外輪22の両端面に当接し、外輪22に対し軸方向の滑りを阻止するように係合している。ローラ部材26の内径に比べて係合つば29の内径は一層小さいため、各係合つば29がそれぞれローラ部材26の内径面に突き出した段差部を構成し、これらの段差部により外輪22とローラ部材26の軸方向への相対的な滑りが阻止される。
【0042】
この係合つば29によって形成された段差部が外輪22の両端部に係合することによって、外輪22とローラ部材26の相対的な滑りを阻止する構造が前記の「軸方向滑り阻止構造」である。
【0043】
この場合、一方の係合つば29に比べ、他方の係合つば29(図4(b)の右側の係合つば29)の内径の方が大きく形成されている。言い換えれば、内径方向への突き出し高さが小さく形成されている。その内径の大きさ(内径方向への突き出し高さ)は、当該係合つば29を含むローラ部材26の端部を弾性的に拡径させ(図4(b)の二点鎖線参照)、転がり軸受25をその内径面に強制嵌合できる程度の高さに設定されている。
【0044】
強制嵌合されたのち、当該係合つば29を含むローラ部材26の端部は縮径されてもとの状態に戻り、外輪22とローラ部材26は径方向に密着し、同時に前記の軸方向滑り阻止構造によって、軸方向への相対的滑りが阻止される。
【0045】
外輪22の外径面にローレット22a(図4(c)参照)を施すことにより、ローラ部材26との嵌合面において、軸方向への摩擦だけでなく、回転方向への摩擦も増大するので、軸方向及び回転方向の滑りを防止する効果が増す。
【0046】
なお、ローレット22aによって軸方向及び回転方向の滑りを阻止する構成は、以下の第2例(図5)、第3例(図6)においても同様である。
【0047】
図5に示した第2例のローラ13は、ローラ部材26をインサート成形によって外輪22の外径面に嵌合一体化したものである。ローラ部材26を強制的に拡径して転がり軸受25を嵌入する必要はないので、両方の係合つば29は、外輪22とローラ部材26の軸方向への相対的滑りを阻止するのに十分な同一高さに設定される。他の構成は、図4に示した第1例のローラ13と同一である。
【0048】
図6に示した第3例のローラ13は、ローラ部材26の両端部に内向きの係合つば29を設けたという上位概念では、前記第1例、第2例のものと共通する。しかし、この第3例の場合は、一方の係合つば29がローラ部材26とは別体の止め輪29aによって形成されている点で相違する。
【0049】
止め輪29aは、金属製又は合成樹脂製の扁平なC形リングであり、外輪22の一方の内向きつば27の外端面に沿って、ローラ部材26の内径面に形成された周溝31に嵌合される。この止め輪29aは、転がり軸受25をローラ部材26の内径面に嵌合させ、一方の端面を係合つば29に係合させた状態で、止め輪29aを弾性的に縮径させつつ周溝31に嵌め、もとの径に戻す。
【0050】
これによって、外輪22とローラ部材26は、軸方向の相対的滑りが阻止される。係合つば29と止め輪29aを外輪22の端面に接触させ、外輪22の軸方向への相対的な滑りを阻止する構成は第1発明の「軸方向滑り阻止構造」を構成する。
【0051】
[実施形態2]
次に、図7から図11に示した第4例から第8例の一群のローラ13は、前記とは逆に「回転方向滑り阻止構造」に主眼をおいたものであり、これらのローラ13は、いずれも前記第2発明の実施の形態に含まれる。
【0052】
即ち、図7に示した第4例のローラ13は、転がり軸受25の外輪22の外径面の一個所に軸方向全長にわたる平坦面32が設けられている。その平坦面32の存在によって外輪22の外径面の軸断面形状は、円形に近い大円弧33と、その大円弧33の両端部を結ぶ弦の部分が直線34となった円形以外の形状(以下、「円形以外の形状」を「非円形形状」と称する。)となっている。
【0053】
一方、ローラ部材26の内径面の軸断面形状は、前記大円弧33と直線34に合致する大円弧33aと直線34aとからなる相補的な非円形形状に形成される。即ち、外輪22の直線34の欠円部分が、ローラ部材25の直線34aの部分で内径側に突き出した余分の欠円部分で埋められる関係にある。その結果、外輪22とローラ部材26は全長にわたり相互にすき間なく嵌合される。外輪22とローラ部材26は、回転方向に相互に係合されるため相対的な回転方向への滑りが阻止される。
【0054】
このように、外輪22の外径面の軸断面形状が非円形形状であり、かつローラ部材26の内径面の軸断面形状が外輪22の外面形状の相補形状である構造によって「回転方向滑り阻止構造」が構成される。
【0055】
外輪22の外径面にローレット22a(図7(c)参照)を施すことによって回転方向及び軸方向の滑りを防止する効果が増大する。このようなローレット22aを施す場合があることは、以下の第5例(図8)から第8例(図11)の場合も同様である。
【0056】
図8に示した第5例のローラ13は、外輪22の外径面に軸方向全長にわたる平坦面32を、全周にわたり形成することにより、その外径面を多角形状に形成したものである。これによって外輪22の外径面の軸断面形状が非円形形状となる。ローラ部材26の内径面の断面形状は、前記非円形形状に対する相補形状となるように構成される。
【0057】
図9に示した第6例のローラ13は、外輪22の外径面に、軸方向全長にわたる凹凸条35を、全周にわたり形成することにより、その外径面をスプライン状に形成したものである。これによって外輪22の外径面の軸断面形状が非円形形状となる。ローラ部材26の内径面の断面形状は、前記非円形形状に対する相補形状となるように構成される。
【0058】
図10に示した第7例のローラ13は、外輪22の外径面の周方向の一個所に軸方向全長にわたる凹溝36を設けることにより、その軸断面形状が非円形形状に形成したものである。ローラ部材26の内径面の断面形状は、前記非円形形状に対する相補形状となるように凸条36aが形成される。凹溝36と凸条36aの結合構造に代え、キーとキー溝からなる結合構造を採用することができる。
【0059】
図11に示した第8例のローラ13は、外輪22の一端部の周方向の一個所において、内径面の一部を外径側に押し出して係合突起37を設けることにより、外輪22の軸断面形状を非円形形状としたものである。ローラ部材26側には前記係合突起37を受け入れる相補的な係合凹部37aが形成される。
【0060】
[実施形態3]
次に、図12から図15に示した第9例から第12例の一群のローラ13は、前記第3発明の実施の形態である。「回転方向滑り阻止構造」が回転方向への滑りを係合構造によって阻止する構成であり、また「軸方向滑り阻止構造」も軸方向への滑りを係合構造によって阻止する構成となっている。
【0061】
即ち、図12に示した第9例のローラ13は、外輪22の外径面の周方向の一個所に当該外輪22の軸方向の一部分に平坦面38を設けることにより、当該部分の軸断面形状が非円形形状となっている。前述の図7に示した第4例のローラ13が、平坦面32を全長に設けたものと異なり、同様の平坦面38を軸方向の一部分に設けている。
【0062】
ローラ部材26の内径面の形状は、前記の部分的な平坦面38に合致する相補的な平坦面部分を有し、その内径面の軸断面形状が外輪22の外面形状の相補形状となっている。その結果、「回転方向滑り阻止構造」が構成され、外輪22とローラ部材26の回転方向の滑りが防止される.
【0063】
一方、ローラ部材26においては、前記の相補的な平坦面部分の両端において、外輪22の外径より小さくなる部分、即ち段差部39が形成される。これらの段差部39において外輪22とローラ部材26が相互に係合する構造によって「回転方向滑り阻止構造」が構成され、外輪22とローラ部材26の回転方向の滑りが防止される。
【0064】
外輪22の外径面にローレット22a(図12(c)参照)を施すことにより、前記の両方の効果を一層発揮できるようにすることができる。この点は、以下に述べる第10例(図13)から第14例(図17)のローラ13の場合も同様である。
【0065】
図13に示した第10例のローラ13は、外輪22の外径面の全周に連続的に、かつ軸方向の一部分に平坦面40を多角形状に設けることにより、当該部分の軸断面形状を非円形形状に形成したものである。前述の図8に示した第5例のローラ13が軸方向の全長に設けたものと異なり、多角形状部分が軸方向の一部分に設けている。このため、その両端部に段差部39が生じる。
【0066】
図14に示した第11例のローラ13は、外輪22の外径面の全周に連続的に、かつ軸方向の一部分に凹凸条41をスプライン状に設けることにより、当該部分の軸断面形状を非円形形状に形成したものである。この場合も前記と同様に、凹凸条41の両端部に段差部39が生じる。
【0067】
図15に示した第12例のローラ13は、ローラ部材26の内径面の周方向の一個所に、かつ軸方向の一部分に凸条42を設けることにより、当該部分の軸断面形状を非円形形状に形成したものであり凸条42の両端部に段差部39が生じる。外輪22の外径面には相補的な形状の凹溝42aが形成される。
【0068】
図15(c)に示したように、前記とは逆にローラ部材26の内径面の周方向の一個所に、かつ軸方向の凹溝42aを設け、外輪22の外径面に相補的な凸条42を設ける場合がある。この場合は凹溝42aの両端部において、外輪22の外径より大きくなる部分が生じ段差部39を形成する(図15(d)参照)。
[実施形態4]
【0069】
次に、図16及び図17に示した第13例及び第14例の一群のローラ13は、前記第4発明の実施の形態である。「回転方向滑り阻止構造」が回転方向への滑りを係合構造によって阻止する構成であり、また「軸方向滑り阻止構造」も軸方向への滑りを係合構造によって阻止する構成である。この点で前述の第3発明の実施形態(図12から図15参照)の場合と共通する。
【0070】
相違する点は、前記第3発明の実施形態においては、軸方向滑り阻止構造を構成する段差部39が、ローラ部材26の軸方向中間部分に設けられた構成であるのに対し、この第4発明の実施形態の場合は、軸方向滑り阻止構造を構成する段差部がローラ部材の端部に設けられる点である。
【0071】
即ち、図16に示した第13例のローラ13は、ローラ部材26の軸方向両端面に外輪22の両端面に当接する内向きの係合つば29、29が形成される。一方の係合つば29(図16(a)の左側の係合つば29)は全周に設けられるが、他方の係合つば29(同じく右側の係合つば29)は、周方向に間隔をおいて設けられた複数の内向き係合突起43の集合により形成される。前記外輪22の端面に係合突起43と係合する相補的形状の係合凹部44が設けられる。
【0072】
左右の係合つば29が外輪22の両端面に当接する構造によって、外輪22とローラ部材26との間に「軸方向滑り阻止構造」が構成される。また、一方の係合つば29が複数の係合突起43の集合によって形成され、各係合突起43が係合凹部44に係合される構造によって「回転方向滑り阻止構造」が構成される。
【0073】
図17に示した第14例のローラ13は、ローラ部材26の軸方向の一方の端部(図16(a)の左端部)に通常の係合つば29が設けられ、他方の端部に止め輪29aが設けられる。
【0074】
止め輪29aは、図6に示した第3例のものと同様に、金属製又は合成樹脂製の扁平なC形リングであり、外輪22の一方の内向きつば27の外端面に沿って、ローラ部材26の内径面に形成された周溝31に嵌合される。前記第3例のものと異なる点は、その内面1個所に係合突起45が設けられ、その係合突起45と嵌合する係合凹部46a、46b(図17(c)参照)がそれぞれ外輪22とローラ部材26に設けられる点である。係合凹部46a、46bは合体して一つの凹部を形成し、前記係合突起45と係合する。
【0075】
ローラ部材26側の係合凹部46bは、前記周溝31の一部と一致し、底面が繋がっており、周溝31に嵌合された止め輪29aの係合突起45の一部がローラ部材26側の係合凹部46bに係合することにより、ローラ部材26との一体化が図られ、止め輪29aの周方向への回転が阻止される。
【0076】
前記一方の係合つば29と、止め輪29aが外輪22の両端面に接触する構造によって「軸方向滑り阻止構造」が構成される。また、前記係合突起45の残りの部分と外輪22側の係合凹部46aが相補的な関係にあり、両者が係合する構造によって「回転方向滑り阻止構造」が構成される。
【符号の説明】
【0077】
11 チェーンガイド
12 チェーンガイド本体
13 ローラ
14 側板
15 チェーン
16 柱部
17 ポケット
18 ローラ支持軸
19 取付穴
20 チェーンテンショナ
21 プランジャー
22 外輪
22a ローレット
23 転走面
24 ニードルローラ
25 転がり軸受
26 ローラ部材
27 内向きつば
28 案内つば
29 係合つば
29a 止め輪
30 チェーン案内面
31 周溝
32 平坦面
33、33a 大円弧
34、34a 直線
35 凹凸条
36 凹溝
36a 凸条
37 係合突起
37a 係合凹部
38 平坦面
39 段差部
40 平坦面
41 凹凸条
42 凸条
42a 凹溝
43 係合突起
44 係合凹部
45 係合突起
46a、46b 係合凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に嵌合された合成樹脂製のローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、前記ローラ部材と外輪の嵌合構造に軸方向滑り阻止構造が含まれ、前記軸方向滑り阻止構造が、前記ローラ部材の内径面の一部に前記外輪外径面の外径より小さい部分又は大きい部分を形成する段差部を設けた構造であり、その段差部における係合によって相対的な滑りが阻止されることを特徴とするチェーンガイド用ローラ。
【請求項2】
前記軸方向滑り阻止構造を構成する段差部を設けた構造が、前記ローラ部材の軸方向両端面に前記外輪の両端面に当接する内向きの係合つばが形成された構造であることを特徴とする請求項1に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項3】
前記一方の内向きの係合つばが、前記ローラ部の内径面に前記外輪を嵌合する際、弾性的に拡径して外輪の通過を許容する高さに設定された請求項2に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項4】
前記内向きの係合つばを含むローラ部材をインサート成形によって外輪外径面に形成したことを特徴とする請求項2に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項5】
前記一方の内向きの係合つばが、前記ローラ部材と別体の止め輪によって構成され、その止め輪が当該ローラ部材の内径面に形成された周溝に嵌合されたことを特徴とする請求項2に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項6】
前記外輪の外径面にローレットを施したことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項7】
シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に嵌合された合成樹脂製のローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、前記ローラ部材と外輪の嵌合構造に回転方向滑り阻止構造が含まれ、前記回転方向滑り阻止構造が、前記外輪外径面の軸断面形状を非円形形状とする一方、前記ローラ部材の内径面の軸断面形状を前記外輪外径面の形状の相補形状とした構造であることを特徴とするチェーンガイド用ローラ。
【請求項8】
前記回転方向滑り阻止構造を構成する外輪の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪外径面の周方向の一個所に軸方向全長にわたる平坦面を設けた構造であることを特徴とする請求項7に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項9】
前記回転方向滑り阻止構造を構成する外輪の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪外径面の軸方向の全長にわたる平坦面を全周にわたり多角形状に設けた構造であることを特徴とする請求項7に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項10】
前記回転方向滑り阻止構造を構成する外輪の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪外径面の軸方向全長にわたる凹凸条を全周にわたりスプライン状に設けた構造であることを特徴とする請求項7に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項11】
前記回転方向滑り阻止構造を構成する外輪の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪外径面にその軸方向全長にわたる凸条を周方向の一個所に設けた構造であることを特徴とする請求項7に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項12】
前記回転方向滑り阻止構造を構成する外輪の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪の一端部の周方向の1個所において内径面の一部を外径側に押し出して係合突起を設けた構造であることを特徴とする請求項7に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項13】
前記外輪の外径面にローレットを施したことを特徴とする請求項7から12のいずれかに記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項14】
シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に嵌合された合成樹脂製のローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、前記ローラ部材と外輪の嵌合構造に軸方向滑り阻止構造と回転方向滑り阻止構造が含まれ、前記軸方向滑り阻止構造が、前記外輪外径面の一部にその外径より小さくなる部分又は大きくなる部分を形成する段差部を設けた構造であり、前記回転方向滑り阻止構造が、前記外輪外径面の軸断面形状を非円形形状とする一方、前記ローラ部材の内径面の軸断面形状を前記外輪外径面の形状の相補形状とした構造であることを特徴とするチェーンガイド用ローラ。
【請求項15】
前記外輪外径面の一部にその外径より小さくなる部分を形成する段差部を設けた構造及び外輪外径面の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪外径面の周方向の一個所において部分的な平坦面を設けることによって構成されたことを特徴とする請求項14に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項16】
前記外輪外径面の一部にその外径より小さくなる部分を形成する2個所以上の段差部を設けた構造及び外輪外径面の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪外径面の全周において軸方向の一部分に平坦面を多角形状に設けることにより構成されたことを特徴とする請求項14に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項17】
前記外輪外径面の一部にその外径より小さくなる部分又は大きくなる部分を形成する段差部を設けた構造及び外輪外径面の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪外径面の全周において軸方向の一部分に凹凸条をスプライン状に設けることにより構成されたことを特徴とする請求項14に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項18】
前記外輪外径面の一部にその外径より小さくなる部分を形成する段差部を設けた構造及び外輪外径面の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪外径面の周方向の一個所に軸方向の部分的な凸条を設けることにより構成されたことを特徴とする請求項14に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項19】
シェル形外輪を備えた転がり軸受と、その外輪外径面に嵌合された合成樹脂製のローラ部材とからなるチェーンガイド用ローラにおいて、前記ローラ部材と外輪の嵌合構造に軸方向滑り阻止構造と回転方向滑り阻止構造が含まれ、前記軸方向滑り阻止構造が、前記ローラ部材の内径面の一部に前記外輪外径面の外径より小さい部分を形成する段差部を設けた構造であり、前記回転方向滑り阻止構造が、前記外輪外径面の軸断面形状が非円形形状であり、かつ前記ローラ部材の内径面の軸断面形状が前記外輪外径面の形状の相補形状である構造であることを特徴とするチェーンガイド用ローラ。
【請求項20】
前記ローラ部材の内径面の一部に前記外輪外径面の外径より小さい部分を形成する段差部を設けた構造が、前記ローラ部材の軸方向の一端部に前記外輪の一端面に当接する内向きの係合つばが形成され、前記ローラ部材の他端部内径面に形成された周溝に前記外輪の他端面に当接するとともに当該ローラ部材に係合された止め輪が嵌合された構造であり、
前記回転方向滑り阻止構造を構成する外輪外径面の軸断面形状が非円形形状である構造が、当該外輪の外径面と前記止め輪に面した端面間のコーナ部に係合凹部を設けた構造によって構成され、前記ローラ部材の内径面の軸断面形状が前記外輪外径面の形状の相補形状である構成が、前記止め輪に前記コーナ部の係合凹部と係合する係合突起を設けた構造によって構成されたことを特徴とする請求項19に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項21】
前記外輪外径面の全部又は一部にローレットが施されたことを特徴とする請求項14から20に記載のチェーンガイド用ローラ。
【請求項22】
請求項1から21のいずれかに記載のチェーンガイド用ローラを用いたことを特徴とするチェーンガイド。
【請求項23】
請求項22に記載のチェーンガイドを用いたことを特徴とするチェーンテンショナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−62918(P2012−62918A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205658(P2010−205658)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】