説明

チェーン用のシールリングと、それを使用するローラチェーン

【課題】シール性、耐久性の向上を図る。
【解決手段】内周側に設ける内周溝11と、内周溝11を挟んで設ける一対の内周リップ12、12と、外周側に設ける外周溝13と、外周溝13を挟んで設ける一対の外周リップ14、14と、外周溝13の底部の補強リブ16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーンの屈曲抵抗を過大にすることなく、シール性、耐久性を向上させることができるチェーン用のシールリングと、それを使用するローラチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
注油を必要としない無注油のローラチェーンは、ピンと、ピンに装着するブシュとの間に封入するオイルの漏出を防ぐために、シールリングが組み込まれている。
【0003】
従来のシールリングは、いわゆるXリングが普通であって、上下左右対称のX字状の断面形状を有する。これに対し、内周側のシールリップの軸方向の圧縮強度が外周側のシールリップのそれより格段に大きくなるように、内周側、外周側の各シールリップの形状を非対称に形成することが知られている(特許文献1)。このようなシールリングは、外周側のシールリップが形成する大径のシールの摩擦抵抗を小さくすることができるため、チェーンの屈曲抵抗を小さく抑えるとともに、シールリングの耐久性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4317358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術によるときは、以前に使用されていたXリングに比して、チェーンに対する組込みの容易性や、チェーンの低屈曲抵抗性、耐久性などを向上させることができた。しかし、近年、チェーンの使用環境が一層苛酷になっており、シールリングを含むチェーンの更なる性能向上の要求が高まっている。
【0006】
そこで、この発明の目的は、かかる実情に鑑み、従来の良好な性能を維持しつつ、シール性、耐久性をさらに向上させることができるチェーン用のシールリングと、それを使用するローラチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためのこの出願に係る第1発明(請求項1に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、内周側に設ける内周溝と、内周溝を挟んで設ける一対の内周リップと、外周側に設ける外周溝と、外周溝を挟んで設ける一対の外周リップとを備えてなり、各内周リップは、軸方向に突出する環状リブにより軸方向の先端を形成するとともに、内周側の先端と軸方向の先端との径方向の距離を内周溝の深さより大きく形成し、外周溝の底部には、径方向に突出する補強リブを形成することをその要旨とする。
【0008】
なお、各内周リップは、内周側の先端と環状リブとの間を凹面によって滑らかに接続することができる。
【0009】
また、内周リップ、外周リップは、それぞれの中心線が互いに直交するように配置してもよく、内周リップ、外周リップの各軸方向の先端間には、上半部を拡幅する段部付きの中間溝を設けてもよい。
【0010】
第2発明(請求項5に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、ピンとブシュとを介して屈曲自在に連結する各一対の外リンクプレート、内リンクプレートと、ブシュを介して内リンクプレートの間に回転自在に装着するローラと、内リンクプレートの外側に突出するブシュの先端部を介して各外リンクプレート、内リンクプレートの間に介装する第1発明に係るチェーン用のシールリングとを備えてなり、シールリングは、少なくとも一方の内周リップがブシュの外周面上にシールを形成し、外周リップと環状リブとが外リンクプレート、内リンクプレートの表面上にシールを形成することをその要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
かかる第1発明の構成によるときは、シールリングをローラチェーンに適正に組み込むと、少なくとも一方の内周リップは、ブシュの外周面上にシールを形成し、各環状リブ、外周リップは、対応する外リンクプレートまたは内リンクプレートの表面上にそれぞれシールを形成する。このとき、軸方向に圧縮される内周リップ上の環状リブは、外リンクプレートまたは内リンクプレートの表面との接触面積が小さいため、軸方向の圧縮強度が小さく、シール圧力を大きくして良好なシール性を実現することができる。なお、内周リップは、実質的に軸方向に圧縮する必要がないため、軸方向の圧縮強度が大きくてもよく、外周リップは、外周溝に向けて互いに近付く方向に弾性変形するため、軸方向の圧縮強度が十分小さい。したがって、環状リブ、外周リップによるシールの摩擦抵抗が十分小さく、それに起因するチェーンの屈曲抵抗を小さく抑えることができ、シールリングの耐久性を向上させることができる。
【0012】
各内周リップは、内周側の先端と軸方向の先端との径方向の距離を内周溝の深さより大きくすることにより、剛性を大きくして軸方向の圧縮強度を大きくするとともに、環状リブを含む軸方向の先端間の距離を必要最小に抑えることができる。なお、内周リップの間の内周溝は、ブシュの外周面との間にオイル溜りを形成する。また、外周溝の底部に設ける補強リブは、チェーンの屈曲に際して生じる内リンクプレート、外リンクプレートの相対回転に起因する剪断力に対する強度を増大し、シールリングの耐久性を一層向上させる。ただし、補強リブは、外周溝の両側の外周リップが互いに近付く方向に弾性変形することを妨げないように、外周溝の深さより低くすることが好ましい。
【0013】
なお、シールリングは、全体として均一な断面形状のリング状に一体成形する。また、シールリングの材料は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ふっ素ゴムなどの合成ゴム材が好ましく、温度条件を含む使用条件によって適宜選択することができる。
【0014】
各内周リップの内周側の先端と環状リブとの間を滑らかに接続する凹面は、シールリングをブシュに嵌め込む際に、シールリングをブシュの中心に適切にガイドするとともに、ブシュとの摩擦を低減し、有害な捻れの発生を防止する。
【0015】
それぞれの中心線が互いに直交するように内周リップ、外周リップを配置すれば、径方向の断面寸法を必要最小に抑え、小形のチェーンに対する適応性を大きくすることができる。
【0016】
中間溝に段部を設けると、外周溝に向けて外周リップが弾性変形し易くなる上、中間溝の断面積が大きくなり、グリース溜めとしての容量を増大させることができる。
【0017】
第2発明の構成によるときは、シールリングは、少なくとも一方の内周リップがブシュの外周面上にシールを形成し、各環状リブ、外周リップが外リンクプレート、内リンクプレートの表面上にシールを形成することにより、チェーンの屈曲抵抗を過大にすることなく、ピンとブシュとの間に封入されているオイルの漏出を有効に防止することができる。また、内周リップの軸方向の先端間の距離を小さくし、チェーンの全体強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ローラチェーンの要部拡大断面図
【図2】シールリングの要部拡大断面図
【図3】シールリングの組立状態説明図
【図4】シールリングの使用状態説明図
【図5】他の実施の形態を示す図2相当図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0020】
ローラチェーンは、ピン21、ブシュ22を介して各一対の外リンクプレート23、23、内リンクプレート24、24を屈曲自在に連結してなる(図1)。ただし、図1は、特定のピン21による連結部分の模式断面図であり、ローラチェーンは、等ピッチに配設するピン21、21…を介し、多数組の外リンクプレート23、23…、内リンクプレート24、24…が図1の左右方向に連続的に連鎖されている。
【0021】
ピン21には、ブシュ22が相対回転自在に装着されている。ピン21の両端は、それぞれ外リンクプレート23のピン孔23aに挿入してかしめ付けられており、ブシュ22の両端は、それぞれ内リンクプレート24のピン孔24aに圧入されている。ピン21の両端、ブシュ22の両端は、それぞれ外リンクプレート23、内リンクプレート24の外側にまで突出しており、ブシュ22には、内リンクプレート24、24の間にローラ25が相対回転自在に装着されている。
【0022】
ピン21の両端部の外リンクプレート23、23、内リンクプレート24、24の間には、それぞれ内リンクプレート24の外側に突出するブシュ22の先端部を介してシールリング10が介装されている。各シールリング10は、外リンクプレート23、内リンクプレート24により軸方向に圧縮されて弾性変形し、外リンクプレート23、内リンクプレート24の各表面上にシールを形成するとともに、内リンクプレート24の外側のブシュ22の外周面上にもシールを形成し、ピン21、ブシュ22の間に封入されるオイルの漏出を防止する。
【0023】
シールリング10の自由形状を図2に示す。
【0024】
シールリング10は、内周側に設ける滑らかな凹形状の内周溝11と、内周溝11を挟んで左右対称に設ける一対の内周リップ12、12と、外周側に設ける滑らかな凹形状の外周溝13と、外周溝13を挟んで左右対称に設ける一対の外周リップ14、14とを備えている。なお、ここでいう左右対称とは、軸Cに直交し、内周リップ12、12の内周側の先端12c、12cの中間を通る仮想平面PLに関して対称であることをいう。内周リップ12、12、外周リップ14、14は、それぞれの中心線CL2 、CL4 が仮想平面PL上の1点において互いに直交する一直線になるように配置されている。ただし、各内周リップ12、外周リップ14は、それぞれの中心線CL2 、CL4 が一直線とならなくてもよく、仮想平面PL上の一点で交わらなくてもよい。
【0025】
各内周リップ12は、内向きに滑らかな凸形状の内周側の先端12cを有し、軸C方向に突出する環状リブ12aにより軸C方向の先端12bを形成している。環状リブ12aによる先端12bは、断面円弧状の山形に形成されており、先端12bは、曲率半径0.1〜0.2mmとすれば、シール性と成形性の面で好適である。各内周リップ12は、内周側の先端12cと軸C方向の先端12bとの径方向の距離L2 を内周溝11の深さL1 に対してL2 >L1 とし、先端12cと環状リブ12aとの間を凹面12dによって滑らかに接続している。
【0026】
各外周リップ14は、軸C方向の先端14aを有し、断面円弧状の山形に形成されている先端14aは、曲率半径0.1〜0.2mmとすれば、シール性と成形性の面で好適である。また、各外周リップ14の先端14aの外周側は、径方向に対して傾き角θb <45°の斜面14bに形成され、各斜面14bは、滑らかな外向きの凸形状となって外周溝13に接続されている。なお、外周溝13の底部には、径方向に突出する環状の補強リブ16が仮想平面PL上に形成されている。補強リブ16は、左右対称の滑らかな山形に形成され、外周溝13の深さL3 に対し、高さL6 <L3 に形成されている。
【0027】
内周リップ12、12の軸C方向の先端12b、12b間の距離H1 は、外周リップ14、14の軸C方向の先端14a、14a間の距離H3 に対し、H1 ≦H3 となっている。ただし、図2において、H1 =H3 として図示されている。
【0028】
各内周リップ12の軸C方向の先端12bと、各外周リップ14の軸C方向の先端14aとの間には、軸C方向に開口する凹形状の中間溝15が形成されている。なお、中間溝15、15は、仮想平面PLに対して左右対称の一対として形成されている。各中間溝15の内周側、外周側には、それぞれ中間溝15の上半部を拡幅する段部15a、15bが対称形に形成されている。段部15a、15bを含む中間溝15の内面は、全部滑らかに接続されている。
【0029】
シールリング10は、内周リップ12、12の内周側の先端12c、12cによる最小内径D1 、ピン21の外径Dp 、ブシュ22の外径Db 、ブシュ22の内周面からブシュ22の先端のリング状の平坦面22aの外径までの径方向の距離Lb として、Dp +2Lb ≦D1 <Db <D1 +2L2 が成立するように、関係寸法が設定されている(図1、図3)。ただし、ブシュ22の両端は、それぞれ内周面側に微少な面取りが施され、外周面側が適切な曲率半径に滑らかに丸められている。また、図3において、距離Lb は、Dp +2Lb <D1 に図示されている。
【0030】
シールリング10は、全長を引き伸ばすようにしてブシュ22の先端に嵌め込むことができ(図3の矢印A方向)、このとき、シールリング10のブシュ22側の凹面12dは、シールリング10を適切にガイドしてブシュ22の中心に自動的に心合せする。なお、ブシュ22に嵌め込んだシールリング10の内周側には、ブシュ22に嵌め込む前の深さL1 より浅く内周溝11が残存するものとする。
【0031】
各シールリング10は、ローラチェーンに正規に組み込まれると、外リンクプレート23、内リンクプレート24に挟まれ、軸C方向に圧縮されて弾性変形する(図1、図4)。このとき、内周リップ12、12の内周側の先端12c、12cは、ブシュ22の外周面上に弾発的に当接して二重のシールを形成する。また、環状リブ12aによる一方の内周リップ12の軸C方向の先端12b、外周リップ14の軸C方向の先端14aは、外リンクプレート23の表面上に弾発的に当接して小径、大径の二重のシールを形成し、他方の先端12b、14aは、内リンクプレート24の表面に当接して二重のシールを形成する。ただし、図4において、環状リブ12a、12aは、いずれも軸C方向に圧縮されて消失している。
【0032】
また、シールリング10は、中間溝15、15間の距離Bが外リンクプレート23、内リンクプレート24の間隔Sより小さく、各中間溝15内の段部15a、15bが消失しない限度において軸C方向に圧縮するものとし、したがって、中間溝15、15は、それぞれ外リンクプレート23または内リンクプレート24の表面上の二重のシール間にオイル溜りを形成する。また、内周リップ12、12の間の内周溝11も、ブシュ22の外周面上の二重のシール間にオイル溜りを形成する。
【0033】
内周リップ12、12は、外周リップ14、14に比して、十分大きな剛性に形成されている(図2)。なお、外周リップ14、14は、図4のように、それぞれ中間溝15の外周側に段部15bが形成されていることと相俟って外周溝13に向けて容易に傾き、互いに近付くように弾性変形する。各外周リップ14は、外周溝13に向けて傾くと、外周側の斜面14bの傾き角θが大きくなり、外部からのダストの侵入を防止するとともに、付着したダストを外部に落とし易い。
【0034】
シールリング10は、軸C方向に圧縮し易い環状リブ12a、12aを設けることによって、従来品の組込み性、低屈曲抵抗性などを維持しつつシール性、耐久性を向上させることができる。また、シールリング10を装着するための外リンクプレート23、内リンクプレート24の間隔Sを従来品より10%以上小さくし、ローラチェーン自体の強度を高めることができる。
【他の実施の形態】
【0035】
各中間溝15内の段部15a、15bは、これらを省略してもよい(図5)。なお、図5において、中間溝15の外周側は、外周リップ14の中心線CL4 と略平行とし、内周側より長い緩斜面とすることにより、外周リップ14が外周溝13に向けて傾き易くなっている。
【0036】
各環状リブ12aは、軸C方向に圧縮し易く、外リンクプレート23または内リンクプレート24に対する接触面積が小さく、良好なシール性を実現し得ることなどを条件として、断面円弧状の山形以外の断面形状としてもよい。また、シールリング10は、内リンクプレート24側の一方の内周リップ12の内周側の先端12cだけをブシュ22の外周面上に当接させ、ブシュ22の外周面上に一重のシールを形成してもよい。すなわち、内周リップ12、12は、少なくとも一方がブシュ22の外周面上にシールを形成すればよい。
【0037】
なお、シールリング10の材料は、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、多硫化ゴム、ポリエーテルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムなどの合成ゴム材も使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
この発明は、たとえばバイクの走行用チェーンのような苛酷な使用条件のローラチェーンに対し、特に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
C…軸
CL2 、CL4 …中心線
L1 …深さ
L2 …距離
10…シールリング
11…内周溝
12…内周リップ
12a…環状リブ
12b、12c…先端
12d…凹面
13…外周溝
14…外周リップ
15…中間溝
15a、15b…段部
16…補強リブ
21…ピン
22…ブシュ
23…外リンクプレート
24…内リンクプレート
25…ローラ

特許出願人 株式会社 江沼チヱン製作所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側に設ける内周溝と、該内周溝を挟んで設ける一対の内周リップと、外周側に設ける外周溝と、該外周溝を挟んで設ける一対の外周リップとを備えてなり、前記各内周リップは、軸方向に突出する環状リブにより軸方向の先端を形成するとともに、内周側の先端と前記軸方向の先端との径方向の距離を前記内周溝の深さより大きく形成し、前記外周溝の底部には、径方向に突出する補強リブを形成することを特徴とするチェーン用のシールリング。
【請求項2】
前記各内周リップは、前記内周側の先端と前記環状リブとの間を凹面によって滑らかに接続することを特徴とする請求項1記載のチェーン用のシールリング。
【請求項3】
前記内周リップ、外周リップは、それぞれの中心線が互いに直交するように配置することを特徴とする請求項1または請求項2記載のチェーン用のシールリング。
【請求項4】
前記内周リップ、外周リップの各軸方向の先端間には、上半部を拡幅する段部付きの中間溝を設けることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載のチェーン用のシールリング。
【請求項5】
ピンとブシュとを介して屈曲自在に連結する各一対の外リンクプレート、内リンクプレートと、前記ブシュを介して前記内リンクプレートの間に回転自在に装着するローラと、前記内リンクプレートの外側に突出する前記ブシュの先端部を介して前記各外リンクプレート、内リンクプレートの間に介装する請求項1ないし請求項4のいずれか記載のチェーン用のシールリングとを備えてなり、該シールリングは、少なくとも一方の前記内周リップが前記ブシュの外周面上にシールを形成し、前記外周リップと前記環状リブとが前記外リンクプレート、内リンクプレートの表面上にシールを形成することを特徴とするローラチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−247014(P2012−247014A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119839(P2011−119839)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000143260)株式会社江沼チヱン製作所 (14)