説明

チェーン駆動装置

【課題】ローラチェーン及びこれを巻き掛けたスプロケットより構成されるチェーン駆動装置の、運転時の走行騒音を低減させると共に、スプロケットの生産性を向上させる。
【解決手段】ローラチェーンのローラ11を、中央部から両端に向けて外径を一様に増加させて左右対称の鼓形に形成し、スプロケット20は、歯底21aの断面形状を歯幅方向の中央部から左右両面に向けて軸心からの距離を一様に減少させて左右対称の山形に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、運転時の走行騒音を低減させることができるチェーン駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ローラチェーンは、ローラを回転自在に装着する前後のブシュを介して左右の内プレートを連結する内リンクと、前後のピンを介して左右の外プレートを連結する外リンクとを交互に屈曲自在に連結して構成されている。ただし、各外リンクの一方のピンは、各内リンクの一方のブシュに回転自在に挿通されている(JIS B 1801)。
【0003】
一方、このようなローラチェーンの走行騒音を低減させるために、各ローラの外径を中央部から左右両端に向けて漸減させてバレル形の外形形状に形成するとともに、ローラチェーンに組み合わせるスプロケットの歯面をローラに合わせて歯幅方向に凹に湾曲させることが提案されている(特許文献1)。ローラチェーンのローラがスプロケットの歯に噛み合うとき、噛合いの開始時における衝撃力が歯面とローラとの接触面に沿って斜めの分力を生じるため、噛合い時の衝撃力が緩和され、衝撃音による走行騒音を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−309488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術によるときは、バレル形のローラを有するローラチェーン用のスプロケットは、歯面の創成加工が容易でなく、生産性がよくないという問題が避けられない。スプロケットの歯面は、バレル形のローラに適合させるために、歯幅方向に凹に湾曲させて形成する必要があるからである。
【0006】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、ローラチェーンのローラを鼓形に形成することによって、走行騒音を低減させるとともに、スプロケットの生産性の問題を簡単に解決することができるチェーン駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、ローラチェーンと、ローラチェーンを巻き掛けるスプロケットとを備えてなり、ローラチェーンのローラは、中央部から両端に向けて外径を一様に増加させて左右対称の鼓形に形成し、スプロケットは、歯底の断面形状を歯幅方向の中央部から左右両面に向けて軸心からの距離を一様に減少させて左右対称の山形に形成してローラに適合させることをその要旨とする。
【0008】
なお、ローラの断面形状は、中央部の凹の円弧部と、円弧部に滑らかに連続する左右の直線部とからなり、歯底の断面形状は、中央部の凸の円弧部と、円弧部に滑らかに連続する左右の直線部とからなるようにしてもよく、ローラの円弧部の凹の曲率半径は、歯底の円弧部の凸の曲率半径より小さく、ローラの左右の直線部の相対角度は、歯底の左右の直線部の相対角度より小さいようにしてもよい。
【0009】
また、ローラは、スプロケットの歯幅より長くすることができる。
【発明の効果】
【0010】
かかる発明の構成によるときは、ローラチェーンのローラは、鼓形に形成されているから、スプロケットは、ローラに適合させるために、歯底の断面形状を歯幅方向に凸の山形に形成すればよく、スプロケットの生産性に関する問題を生じる余地がない。なお、この発明において、「一様に増加」、「一様に減少」とは、変曲点を生じることなく、滑らかに増加または減少させることをいう。また、歯底の断面形状に含まれる凸の山形の形状は、歯面上において、歯底から歯先に至るまで連続させてもよく、歯先に向けて滑らかに消失させてもよいが、いずれの場合も、各歯の歯先は、歯幅方向に直線状に形成するものとする。
【0011】
なお、一般に、ローラの疲労破壊は、両端部の内周面が起点となるから、両端部が肉厚となる鼓形のローラは、疲労強度が大きいという利点がある。また、鼓形のローラに適合するスプロケットの歯は、歯幅方向の断面形状の両端部が鈍角になるため、ローラの衝突や摺動による摩耗に対しても、バレル形のローラ用のスプロケットより格段に優れている。
【0012】
中央部の凹の円弧部と左右の直線部とによってローラの断面形状を形成し、中央部の凸の円弧部と左右の直線部とによってスプロケットの歯底の断面形状を形成すれば、ローラ、スプロケットの双方について、有害な応力集中を生じるおそれがない。
【0013】
また、ローラの円弧部の曲率半径をスプロケットの歯底の円弧部の曲率半径より小さくし、ローラの直線部の相対角度をスプロケットの歯底の直線部の相対角度より小さくすると、ローラがスプロケットの歯底に噛み合うときにローラの外周と歯底との間に隙間を形成し、スプロケットとの噛合い時にローラを弾性変形させてローラの衝撃エネルギの一部を歪みエネルギやスプロケットとの摩擦エネルギとして吸収させ、衝撃音による走行騒音を低減させることができる。ただし、ローラの外周と歯底との間の隙間は、ローラの長さ方向、すなわちスプロケットの歯幅方向の中央部で最大となり、スプロケットの左右両面において消失するように、ローラをスプロケットの歯幅より長く設定するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ローラチェーン、スプロケットの構成説明図
【図2】要部拡大構成図
【図3】要部拡大動作図
【図4】試験結果実測線図(1)
【図5】試験結果実測線図(2)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0016】
チェーン駆動装置は、鼓形のローラ11を有するローラチェーン10と、ローラチェーン10を巻き掛ける駆動側、従動側の各スプロケット20とを組み合わせてなる(図1)。ただし、図1(A)は、ローラチェーン10の連結箇所における模式断面図、同図(B)は、スプロケット20の径方向断面図である。
【0017】
ローラチェーン10は、前後のブシュ12、12を介して左右の内プレート13、13を連結して内リンク10aを形成し、前後のピン14、14を介して左右の外プレート15、15を連結して外リンク10bを形成し、内リンク10a、外リンク10bを交互に屈曲自在に連結して構成されている。なお、内リンク10aの一方のブシュ12には、外リンク10bの一方のピン14が回転自在に挿通されており、各ブシュ12には、ローラ11が回転自在に装着されている。ただし、図1(A)には、前後のローラ11、11、ブシュ12、12、ピン14、14は、それぞれ1個のみが図示されている。
【0018】
スプロケット20は、円形の板材の周囲に複数の歯21、21…を等ピッチに形成し、軸心C2 上に取付孔22が形成されている。歯21、21…は、ピッチ円PC上に形成され、ローラチェーン10のローラ11、11…に適合する。なお、スプロケット20は、図1(B)に拘らず、奇数または偶数の歯数としてよい。
【0019】
ローラチェーン10のローラ11は、中央部から両端に向けて外径Dを一様に増加させて左右対称の鼓形に形成されている(図2)。なお、ローラ11の軸心C1 上には、ブシュ12用の軸孔11aが形成されており、軸孔11aの両端には、面取り11b、11bが施されている。ローラ11の軸心C1 を通る径方向の平面上の断面形状は、中央部の凹の円弧部a1 と、円弧部a1 に滑らかに連続する左右の直線部b1 、b1 とからなる。
【0020】
一方、スプロケット20の各歯21の歯底21aの歯幅L2 方向の断面形状は、中央部から左右両面に向けて軸心C2 からの距離dを一様に減少させ、左右対称の山形に形成されている。また、歯底21aの断面形状は、中央部の凸の円弧部a2 と、円弧部a2 に滑らかに連続する左右の直線部b2 、b2 とからなる。円弧部a2 は、各歯21の歯面上において、歯底21aから直線状の歯先21bに至るまで連続している。
【0021】
ローラ11の円弧部a1 の凹の曲率半径R1 、直線部b1 、b1 の相対角度θ1 とし、スプロケット20の歯底21aの円弧部a2 の凸の曲率半径R2 、直線部b2 、b2 の相対角度θ2 とすると、ローラ11、スプロケット20は、R1 <R2 に設定され、θ1 <θ2 かつθ1 ≒θ2 に設定されている。また、ローラ11の長さL1 は、スプロケット20の歯幅L2 に対し、L1 >L2 に設定されている。
【0022】
ローラチェーン10の各ローラ11は、スプロケット20の歯21、21…に噛み合うと、歯底21aとローラ11の外周面との間に隙間Gを生じる(図3)。隙間Gは、ローラ11の軸心C1 方向、すなわちスプロケット20の歯幅L2 方向の中央部において最大となり、左右両側に向けて滑らかに減少し、スプロケット20の両面において消失する。そこで、ローラ11の噛合い時の衝撃力は、隙間Gを押し潰す方向に作用し、ローラ11を弾性変形させるとともに、歯底21aとの間に滑りを生じさせる(図3の矢印K1 、K1 方向)。したがって、ローラ11の噛合い時における衝撃エネルギの一部は、ローラ11の歪みエネルギやスプロケット20との摩擦エネルギとして吸収され、衝撃音による走行騒音を低減させることができる。
【0023】
ローラチェーン10、スプロケット20によるチェーン駆動装置の走行騒音の実測データの一例を図4に示す。ただし、図4において、曲線(1)は、この発明のチェーン駆動装置の走行騒音の実測値であり、曲線(2)は、通常の円筒形のローラを有するローラチェーンと、それに適合する通常のスプロケットによるチェーン駆動装置(以下、比較例という)の走行騒音の実測値である。
【0024】
なお、比較例のローラチェーンは、出願人会社製の標準チェーンEK530ZVX2の110リンク長さとし、この発明のローラチェーン10は、比較例のローラを鼓形のローラ11に変更した。また、比較例のスプロケット、この発明のスプロケット20は、いずれも駆動側の歯数17、従動側の歯数41とし、従動側の回転数1125rpm 従動軸トルク400Nm、回転数1450rpm 従動軸トルク350Nm、回転数1800rpm 従動軸トルク300Nmにおける騒音レベルを実測した。図4の横軸は、従動側の回転数N(rpm )であり、縦軸は、音圧レベルP(dB)である。
【0025】
また、この発明、比較例の各チェーン駆動装置の走行騒音の周波数分析結果の一例を図5(A)、(B)に示す。ただし、図5は、従動側の回転数1800rpm 従動軸トルク300Nmにおける実測データであり、図5(A)、(B)において、それぞれの横軸は周波数F(Hz)であり、縦軸はパワースペクトル密度PSD(V2 /Hz)×10-7である。
【0026】
図4、図5によれば、この発明のチェーン駆動装置は、比較例に対し、明らかな走行騒音の低減効果がある。なお、図4、図5の試験時のローラ11は、円弧部a1 の曲率半径R1 =5.0mm、直線部b1 、b1 の相対角度θ1 =139°、長さL1 =9.3mm、材質SCM435、焼入れ・焼戻し後の硬さHRA74であり、スプロケット20は、円弧部a2 の曲率半径R2 =7.0mm、直線部b2 、b2 の相対角度140°、歯幅L2 =8.7mmであり、駆動側の材質SCM420、浸炭・焼入れ・焼戻し後の硬さHv 700、従動側の材質S40C、高周波焼き入れ後の硬さHRC45である。ただし、曲率半径R1 、R2 、相対角度θ1 、θ2 、長さL1 、歯幅L2 を含むローラ11、スプロケット20の諸元は、R1 <R2 、θ1 <θ2 、L1 >L2 の範囲内で、走行騒音の測定試験結果などに基づいて適切に変更設定することができる。
【符号の説明】
【0027】
C1 、C2 …軸心
a1 、a2 …円弧部
b1 、b2 …直線部
R1 、R2 …曲率半径
θ1 、θ2 …相対角度
D…外径
d…距離
L1 …長さ
L2 …歯幅
10…ローラチェーン
11…ローラ
20…スプロケット
21a…歯底

特許出願人 株式会社 江沼チヱン製作所
代理人 弁理士 松 田 忠 秋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラチェーンと、該ローラチェーンを巻き掛けるスプロケットとを備えてなり、前記ローラチェーンのローラは、中央部から両端に向けて外径を一様に増加させて左右対称の鼓形に形成し、前記スプロケットは、歯底の断面形状を歯幅方向の中央部から左右両面に向けて軸心からの距離を一様に減少させて左右対称の山形に形成して前記ローラに適合させることを特徴とするチェーン駆動装置。
【請求項2】
前記ローラの断面形状は、中央部の凹の円弧部と、該円弧部に滑らかに連続する左右の直線部とからなり、前記歯底の断面形状は、中央部の凸の円弧部と、該円弧部に滑らかに連続する左右の直線部とからなることを特徴とする請求項1記載のチェーン駆動装置。
【請求項3】
前記ローラの円弧部の凹の曲率半径は、前記歯底の円弧部の凸の曲率半径より小さく、前記ローラの左右の直線部の相対角度は、前記歯底の左右の直線部の相対角度より小さいことを特徴とする請求項2記載のチェーン駆動装置。
【請求項4】
前記ローラは、前記スプロケットの歯幅より長いことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載のチェーン駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−242913(P2010−242913A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94264(P2009−94264)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000143260)株式会社江沼チヱン製作所 (14)
【Fターム(参考)】