説明

チエノチオフェン骨格を特徴とする有機半導体材料を含有する有機トランジスタ

【課題】代表的な有機半導体材料であるペンタセンは、有機溶媒に対する溶解性が低く、さらに、溶液状態での安定性に問題がある。溶液状態にて安定な化合物2,3−DNTT〔化12〕では、有機溶媒に対する溶解性が低く、ウェットプロセスに利用するには問題がある。有機溶媒に対する溶解度が高く、溶液状態で安定性がある有機半導体があれば、ウェットプロセスにより安価に半導体デバイスの生産が可能になる。
【解決手段】溶液中で安定であり、かつ、溶解性の高い、チエノチオフェン骨格を特徴とする新規有機半導体材料、ジナフト[2,1−b:2‘,1’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン(以下2,1−DNTTとする。)を開発し、その新規有機半導体材料である2,1−DNTT誘導体を少なくとも一種含有している有機トランジスタを試作して、良好な結果を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体を含有する有機トランジスタの特性に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機半導体は、有機ELや電子ペーパーなどのフレキシブルディスプレーへの応用が期待され、ウェットプロセスである塗布や印刷によって大面積の素子を、シリコン半導体よりも低コストで作製できることが期待されている。このようなウェットプロセスへ適応させるために、溶媒への溶解性を高め、また耐酸化性等の安定性のある有機半導体材料が求められている。
【0003】
有機半導体材料は高分子と低分子に分類され、ウェットプロセスには、溶媒への溶解性という点から、ポリチオフェンなどの高分子材料がよく用いられている。しかし高分子材料では、高い移動度を得るために必要な高純度化が困難であるため、精製による高純度化が可能で、溶解性の高い低分子材料の開発が重要となる。
【0004】
代表的な低分子の有機半導体材料としてペンタセンやオリゴチオフェンなどがあり、ペンタセンは、蒸着プロセスによってキャリアー移動度が5cm/Vsを超えるものが報告されている(非特許文献1)。ペンタセンをウェットププロセスに適用する試みがあるが(特許文献1)、溶解性が低いために高温加熱等の条件が必要とされ、さらに溶液中で不安定なため、ウェットプロセスに利用することが困難である。
【0005】
溶液に可溶なペンタセン前駆体をウェットププロセスに適用し、光照射や熱処理などの方法でペンタセンに変換する例もあるが(特許文献2)、前駆体の熱処理温度が高いという問題や、ペンタセンへの変換を完全に行うことが困難で、前駆体が不純物として残ってしまうという問題がある。
【0006】
溶液状態で安定な有機半導体材料として、チエノチオフェン骨格を有するもの(特許文献3,非特許文献2)や、ピロロテトラチアフルバレン骨格を有するもの(特許文献などが提供されているが、中でも非特許文献2に記載のジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チエノチオフェン
(以下,本非特許文献2の提案者は、この有機半導体をDNTTと称しているが、本発明である有機トランジスタに含有されるジナフト[2,1−b:2‘,1’−f]チエノ[3,2−b]チオフェンを2,1‐DNTTと称しているため、ここでは2,3−DNTTとする。)は、キャリアー移動度が2.0cm/Vsと高い値を示すことが報告されている。
【0007】
しかし、2,3−DNTTは、溶液状態で安定であるが、非特許文献2によると、その溶解度は、室温でジクロロメタン1リットル中3.44mgであり、溶解性が低く、ウェットプロセスに利用することが困難である。
【0008】
特許文献3の溶液状態にて安定な有機半導体材料の一般式は、〔化11〕のように示されている。
〔化11〕

ここでX及びXはそれぞれ独立してカルコゲン原子であり、nは1〜3の整数であり、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン、C1−18アルキル、ハロゲンを有するC1−18アルキル、C1−18アルキルオキシ、C1−18アルキルチオもしくはアリール、またはハロゲン、C1−18アルキル、ハロゲンを有するC1−18アルキル、C1−18アルキルオキシもしくはC1−18アルキルチオの少なくとも1種を有するアリールであることを特徴としているものである。
【0009】
非特許文献2の溶液状態にて安定な有機半導体材料2,3−DNTTの一般式は、〔化12〕のように示されている。
〔化12〕

【0010】
さらに、特許文献4で提案されている有機半導体材料の一般式は、〔化13〕のように示されている。
〔化13〕

【0011】
【特許文献1】国際公開WO03−016599
【特許文献2】特開2004−221318
【特許文献3】国際公開WO 2006/077888 A1
【特許文献4】特開2008−71840
【非特許文献1】T.K.Kerry,et al., MRS Symposium Proceedings, vol. 771, 169(2003)
【非特許文献2】Tatsuya Yamamoto,Kazuo Takimiya 「Journal of American Chemical Society」 2007年,第129巻, 2224−2225
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
代表的な有機半導体材料であるペンタセンは、有機溶媒に対する溶解性が低く、さらに、溶液状態での安定性に問題がある。溶液状態にて安定な化合物2,3−DNTT〔化12〕では、有機溶媒に対する溶解性が低く、ウェットプロセスに利用するには問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者の一人である筒井は、上記有機半導体材料とは別に、溶液中で安定であり、かつ、溶解性の高い、チエノチオフェン骨格を特徴とする新規有機半導体材料、ジナフト[2,1−b:2‘,1’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン(以下2,1−DNTTとする。)を開発し、特許出願した(特願
2008−154756)。
【0014】
そして、本発明者らは、その新規有機半導体材料である2,1−DNTT誘導体を少なくとも一種含有している有機トランジスタを試作して、その特性を検討した。ここで有機トランジスタとは、半導体層に有機物を用いたトランジスタをいう。
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。第1の発明は、下記の化学式〔化1〕で示されるような、チエノチオフェン骨格を特徴とする化合物を含有する有機トランジスタである。
〔化1〕

【0016】
化学式〔化1〕の正式名は、ジナフト[2,1−b:2‘,1’−f]チエノ[3,2−b]チオフェンであり、2,3−DNTT同様に上記有機半導体材料を2,1−DNTTとする。
【0017】
化学式〔化1〕中の置換基Rから 12は、水素原子及びハロゲン原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基のうち、少なくとも一つを含んでいる。
なお、置換基Rから 12の好ましい例は、水素原子、フッ素原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基である。
【0018】
置換基Rから 12における、ハロゲン原子はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素であり、好ましい例はフッ素原子である。
【0019】
置換基Rから 12における、アリール基は特に限定されず、例えば、フェニル基、p−トリル基、p−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、p−(トリフルオロメチル)フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、(ジフェニルアミノ)フェニル基などが挙げられる。
【0020】
置換基Rから 12における、複素環基は特に限定されず、2−チエニル基、5−(n−1−オクチル)チエニル基、2−ベンゾチエニル基、2−フリル基、1−メチル−2−ピロリル基、2−ピリジル基、2−ビピリジル基などが挙げられる。
【0021】
置換基Rから 12における、アルキル基は特に限定されず、直鎖型、分岐型、環状型のアルキル基であり、例えば、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、イソプロピル基、t−ブチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、アダマンチル基などが挙げられ、フルオロアルキル基は特に限定されず、トリフルオロメチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロドデシル基などが挙げられる。
【0022】
置換基RからR12における、アルケニル基は特に限定されず、例えば、エテニル基、メチルエテニル基、( n−オクチル)エテニル基、フェニルエテニル基、ナフチルエテニル基、ビフェニルエテニル基、ターフェニルエテニル基、パーフルオロフェニルエテニル基などが挙げられる。
【0023】
置換基RからR12における、アルケニル基は特に限定されず、例えば、エチニル基、メチルエチニル基、( n−オクチル)エチニル基、フェニルエチニル基、ナフチルエチニル基、ビフェニルエチニル基、ターフェニルエチニル基、パーフルオロフェニルエチニル基などが挙げられる。
【0024】
置換基RからR12における、アミノ基は特に限定されず、例えば、ジフェニルアミノ基、ジ(p−トリル)アミノ基、ジナフチルアミノ基、ジチエニルアミノ基、ジピリジルアミノ基などが挙げられる。
【0025】
以下に請求項1に記載の有機半導体2,1−DNTTの合成過程の反応式〔化2〕を示す。しかし、下記の合成方法は特に限定されるものではなく、公知の反応を組み合わせて合成することが可能である
【0026】
〔化2〕

【0027】
2−ナフタレンチオールを水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性条件化で、ヨードメタンなどのハロゲン化メタンを作用させると、化合物Aを合成することができる。
【0028】
上記以外の化合物Aの合成法として、2−ブロモナフタレンを、n−BuLiなど公知のリチウム化合物やMgで有機金属化合物とし、硫黄、ヨードメタンとの反応により合成することができる。
【0029】
化合物AにNBSなど公知のハロゲン化剤を作用させると、化合物Bを合成することができる。
【0030】
化合物Bにn−BuLiなど公知のリチウム化合物などを作用させ、有機金属化合物とし、N−メチルホルムアニリドやDMFなど、公知のホルミル化剤を作用させると、化合物Cを合成することができる。
【0031】
化合物CにTiCl4/Znなどの試薬を用いて、公知のマクマリーカップリング反応によって、化合物Dを合成することができる。
【0032】
上記以外の化合物Dの合成法として、化合物Cのアルデヒド基を、水素化ホウ素ナトリウムなど公知の還元剤を用いてCHOHとし、さらにPBrなどのハロゲン化剤でOH基をハロゲンに変換した後、化合物CとのGrignard反応やWittig反応など公知のカップリング反応によって合成することができる。
【0033】
化合物Dにヨウ素を作用させると、2,1−DNTTを合成することができる。
【0034】
第2の発明は、化学式〔化1〕中のR、Rが水素原子以外の同一の置換基であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料を含有する有機トランジスタである。
【0035】
化合物Cの4位に置換基を有する化合物を用いることにより、容易に合成することができるが、合成方法は特に限定されるものではない。なお、化合物Cの4位とは、[化3]に示すようなIUPAC命名法に従った位置番号である。
[化3]

【0036】
置換基R、Rは、ハロゲン原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基であり、好ましい例は、フッ素原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基である。
【0037】
ただし、化合物Cの4位に導入する置換基として、エポキシド、α―ハロケトン類、
1,2−ジオール類、アリルおよびベンジルアルコール類、キノン類、ハロヒドリン類、ニトロ化合物類、オキシム類、スルホキシド類などは、マクマリーカップリング反応で容易に還元されるため、適用できない。
【0038】
第3の発明は、化学式〔化1〕中のR、Rが水素原子以外の同一の置換基であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料を含有する有機トランジスタである。
【0039】
化合物Cの5位に置換基を有する化合物を用いることにより、容易に合成することができるが、合成方法は特に限定されるものではない。なお、化合物Cの5位とは、[化3]に示すようにIUPAC命名法に従った位置番号である。
【0040】
置換基R、Rは、ハロゲン原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基であり、好ましい例は、フッ素原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基である。
【0041】
ただし、化合物Cの5位に導入する置換基として、エポキシド、α―ハロケトン類、1,2−ジオール類、アリルおよびベンジルアルコール類、キノン類、ハロヒドリン類、ニトロ化合物類、オキシム類、スルホキシド類などは、マクマリーカップリング反応で容易に還元されるため、適用できない。
【0042】
第4の発明は、化学式〔化1〕中のR、R10が水素原子以外の同一の置換基であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料を含有する有機トランジスタである。
【0043】
化合物Cの6位に置換基を有する化合物を用いることにより、容易に合成することができるが、合成方法は特に限定されるものではない。なお、化合物Cの6位とは、[化3]に示すようにIUPAC命名法に従った位置番号である。
【0044】
置換基R、R10は、ハロゲン原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基であり、好ましい例は、フッ素原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基である。
【0045】
ただし、化合物Cの6位に導入する置換基として、エポキシド、α―ハロケトン類、1,2−ジオール類、アリルおよびベンジルアルコール類、キノン類、ハロヒドリン類、ニトロ化合物類、オキシム類、スルホキシド類などは、マクマリーカップリング反応で容易に還元されるため、適用できない。
【0046】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明のいずれかの有機トランジスタに使用される有機半導体材料の複数を組み合わせてからなる、有機トランジスタである。
【0047】
本発明に使用する有機半導体材料は、有機トランジスタに利用するに際し、高純度化のために不純物の除去等の精製が必要になるが、これらの化合物は、液体クロマトグラフィー法、昇華法、ゾーンメルティング法、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー法、再結晶法などによって精製できる。
【0048】
また、本発明に使用する有機半導体材料は、有機トランジスタに利用するに際し、主として薄膜の形態で用いられるが、その薄膜作製法として、ウェットプロセスとドライプロセスどちらを使用してもよい。本発明の化合物は、有機溶媒等への溶解させることにより、産業上メリットの大きいウェットプロセスに適応できる。
【0049】
ここで、有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、シクロヘキサノール、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、メチルエチルケトン、ジグライム、テトラヒドロフランなど、これまで公知のものが使用できる。また、本発明で使用される化合物を有機溶媒等へ溶解させる場合、温度や圧力に特に制限は無いが、溶解させる温度に関しては、0〜200℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは、10〜150℃の範囲である。また、溶解させる圧力に関しては、0.1〜100MPaの範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.1〜10MPaの範囲である。また、有機溶媒の代わりに、超臨界二酸化炭素のようなものを用いることも可能である。
【0050】
ここでいうウェットプロセスとは、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、平板印刷法、凹版印刷法、凸版印刷法などを示しており、これら公知の方法が利用できる。
【0051】
ここでいうドライプロセスとは、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、レーザー蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、気相輸送成長法などを示しており、これら公知の方法が利用できる。
【発明の効果】
【0052】
第1の発明によれば、有機溶媒への溶解度が高くなるとともに、溶液状態での安定性が増すため、この有機半導体をウェットプロセスで有機トランジスタに使用することが容易になる。
【0053】
第2の発明によれば、請求項1の化合物の対称位置にあるRとRを同一の置換基とすることにより、その合成過程が容易となり、有機トランジスタを安価に生産することが可能となる。
【0054】
第3発明によれば、請求項1の化合物の対称位置にあるRとRを同一の置換基とすることにより、その合成過程が容易となり、有機トランジスタを同様に安価に生産することが可能となる。
【0055】
第4の発明によれば、請求項1の化合物の対称位置にあるRとR10を同一の置換基とすることにより、その合成過程が容易となり、有機トランジスタに使用することがより容易になる。
【0056】
第5の発明によれば、請求項1ないし請求項4の化合物の有機トランジスタへの用途を明らかにして化合物の有効利用をより図ることができる。
【0057】
本発明の実施の代表例を以下に示す。
【実施例1】
【0058】
反応式〔化2〕の2,1−DNTTの合成過程をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
〔操作1〕
10%水酸化ナトリウム水溶液150ml(37.5mmol)に2−ナフタレンチオール4.80g (30mmol)のTHF (10ml)溶液を滴下した。30分間撹拌後、ヨードメタン4.26g (30mmol)を滴下し、室温で1時間撹拌した。反応液に水を加え、トルエンで抽出し、減圧濃縮後、析出した結晶を濾過し、再結晶によって精製し、化合物Aの無色結晶4.8gを得た。(収率:93%)
以下に化合物AのH−NMRおよび13C−NMRの測定結果を示す。
H−NMR(CDCl, 400.4MHz)δ=2.57(s, 3H, −SMe), 7.35−7.47(m, 3H, Ar), 7.60(d, 1H, Ar ), 7.72(d, 2H, Ar), 7.76(d, 1H, Ar).
13C−NMR(CDCl, 100.7MHz) δ=15.8, 123.5, 125.2, 125.7, 126.5, 126.8, 127.7, 128.2, 131.3, 133.9, 136.1.
また、化合物AのH−NMRスペクトルを図3に、13C−NMRスペクトルを図4に示す。
【0060】
〔操作2〕
窒素雰囲気下、化合物A1.74g(10mmol)のDMF溶液(20ml)にNBS 1.78g (10mmol)のDMF溶液(10ml)を滴下し、1時間撹拌した。その後、反応液に水、トルエンを加え抽出し、減圧濃縮後、析出した結晶を濾過し、再結晶によって精製し、化合物Bの無色結晶2.2gを得た。(収率:87%)
以下に化合物BのH−NMRおよび13C−NMRの測定結果を示す。
H−NMR(CDCl, 400.4MHz)δ=2.55(s, 3H, −SMe), 7.29(d, 1H, Ar), 7.42(t, 1H, Ar ), 7.55(t, 1H, Ar), 7.76(d, 2H, Ar), 8.19(d, 2H, Ar).
13C−NMR(CDCl, 100.7MHz) δ=16.2, 120.4, 122.9, 125.6, 126.3, 127.9, 128.0, 128.1, 131.9, 132.6, 137.7.
また、化合物BのH−NMRスペクトルを図5に、13C−NMRスペクトルを図6に示す。
【0061】
窒素雰囲気下、化合物B5.56g (22mmol)のTHF溶液(70ml)に、−78℃でn−BuLi(ヘキサン溶液, 26mmol)を加え、30分撹拌したのち、0℃に昇温した。これにN−メチルホルムアニリド 3.52g(26mmol)を滴下し、12時間撹拌した。その後、水、トルエンを加え、反応液を抽出し、減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物Cの黄色結晶0.7gを得た。(収率:15%)
以下に化合物CのH−NMRおよび13C−NMRの測定結果を示す。H−NMR(CDCl, 400.4MHz)δ=2.55(s, 3H, −SMe), 7.45(m, 2H, Ar), 7.58(t, 1H, Ar ), 7.77(d, 1H, Ar), 7.89(d, 1H, Ar), 8.83(d, 1H, Ar), 10.97(s, 1H, CHO).
13C−NMR(CDCl, 100.7MHz) δ=17.1, 123.5, 124.3, 126.3, 127.8, 128.8, 129.4, 131.4, 132.4, 134.4, 146.0, 191.2.
また、化合物CのH−NMRスペクトルを図7に、13C−NMRスペクトルを図8に示す。
【0062】
〔操作4〕
窒素雰囲気下、化合物C1.01g(5mmol)のTHF溶液(15ml) に、氷浴下0℃で四塩化チタン1.0ml(9mmol)を滴下し、亜鉛1.8gのTHF 5mlの懸濁液を、0℃で滴下し、2時間加熱還流した。
室温に冷却後、反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液、トルエンを加え、抽出し、減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物Dの黄色結晶0.3gを得た。(収率:27%)
以下に化合物DのH−NMRおよび13C−NMRの測定結果を示す。
H−NMR(CDCl, 400.4MHz)δ=2.58(s, 6H, −SMe), 7.28(s, 2H, −CH=CH−), 7.45(t, 2H, Ar), 7.51(d, 2H, Ar ), 7.53(t, 2H, Ar), 7.79(d, 2H, Ar), 7.83(d, 2H, Ar), 8.59(d, 2H, Ar).
13C−NMR(CDCl, 100.7MHz) δ=16.7, 124.0, 125.2, 125.6, 126.7, 127.9, 128.2, 131.7, 132.0, 132.5, 133.8, 134.8. MS m/z:372
また、化合物DのH−NMRスペクトルを図9に、13C−NMRスペクトルを図10に示す。
【0063】
〔操作5〕
化合物D 0.16g(0.43mmol)、ヨウ素3.49g(25.8mmol)のCHCl溶液(10ml)を9時間加熱還流した。
室温に冷却後、反応液に飽和亜硫酸水素ナトリウム水溶液を加え、トルエンで抽出し、有機層を10%食塩水で洗浄、減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、2,1−DNTTの結晶0.03gを得た。(収率:18%)
以下に2,1−DNTTのH−NMRおよび13C−NMRの測定結果を示す。H−NMR(CDClCDCl, 400.4MHz)δ= 7.76(t, 2H, Ar ), 7.91(t, 2H, Ar), 8.00(d, 2H, Ar), 8.16(d, 2H, Ar), 8.17(d, 2H, Ar) , 8.65(d, 2H, Ar).
13C−NMR(CDClCDCl, 100.7MHz) δ=122.4, 124.7, 126.5, 126.7, 127.9, 128.6, 129.1, 129.6, 132.1, 133.6, 141.3. MS m/z:340
また 2,1−DNTTのH−NMRスペクトルを図11に、13C−NMRスペクトルを図12に示す。
【実施例2】
【0064】
図13、図14、図15に、有機溶媒1,1,2,2−Tetrachloroethaneに溶解させたペンタセン、2,3−DNTT及び 2,1−DNTTの24時間及び48時間後のUVスペクトルの経時変化を示す。これらの図より、2,3−DNTT及び 2,1−DNTTは、溶液中で48時間放置しても、スペクトルの変化が全く無く、非常に安定しているということがいえる。一方、ペンタセンは24時間後でスペクトルが大きく変化し、溶液中で不安定で、分解してしまっていることがわかる。
【0065】
溶解度は、2,3−DNTTが室温でジクロロメタン中3.4mg/L(非特許文献2)であるのに対し、2,1−DNTTは、室温でジクロロメタン中50mg/65ml(約770mg/L)という結果となり、2,1−DNTTは、2,3−DNTTよりも溶解性が高いことが分かる。
【実施例3】
【0066】
前述のごとく、2,1−DNTT誘導体は、ウェットプロセスに利用するため溶液中で安
定であり、かつ溶解性の高いことがその特徴である。しかし、これを有機トランジスタの半導体層に使用して、その基本的な特性を評価する場合には、多結晶やアモルファス状態の薄膜として使用するよりも、単結晶の薄膜を用いて評価するほうが、欠陥が少ないために、材料本来のポテンシャルを評価することができると考えられている。
そこで、本発明では、2,1−DNTT誘導体の少なくとも一種の単結晶を含有してなる
有機トランジスタを試作し、その性能を評価した。次いで、2,1−DNTT誘導体の少なくとも一種を溶液化し塗布した半導体層を使用した有機トランジスタを試作し、その性能を評価するとともに単結晶での性能と比較した。
【0067】
〈PVT法による単結晶の作成〉
2,1−DNTTを280℃に加熱しながら、Arガスをキャリアガスとして100ml/minの流速で流し、結晶析出部分の温度を250℃にすることで、2,1−DNTTの単結晶サンプル(フィルム状)を作成した。
【0068】
〈有機薄膜トランジスタの作製(単結晶貼り付け)〉
上記方法で作成したフィルム状の単結晶2,1―DNTTを用いて、図1に示す構造の薄膜デバイスを作製した。具体的には、厚さ210nmの熱酸化膜を形成したシリコンウェハーに、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のトルエン溶液(3wt%)を大気下にてスピンコート(回転数2000rpm、30sec)し、窒素雰囲気下にて70℃で一晩、続けて100℃で3時間熱処理をおこなうことでPMMA絶縁膜を作製した。
【0069】
この上に2,1−DNTTの薄片単結晶を貼り付け、結晶の両端に金ペーストを塗布し電界効果トランジスタ素子を作製し、FET特性を測定した。
その測定結果を下記の表1に示す。電界効果移動度は0.04cm/V・sで、On/Off電流比は10であった。

【0070】
〈有機薄膜トランジスタの作製(塗布)〉
厚さ210nmの熱酸化膜を形成したシリコンウェハーに、レジストパターンを形成し、その上にリフトオフによってソースドレイン(Au)の櫛形電極(チャンネル幅W=2cm、チャンネル長L=10μm)を作製し、これを、ボトム型基板として用いた。
【0071】
120℃の2,1−DNTTクロロベンゼン溶液(0.4wt%)を調整し、これを、大気中にてボトム型基板上にスピンコートした結果、結晶が点在する結果となった。図2に2,1−DNTTをスピンコートしたときの顕微鏡写真を示す。図2の写真から、チャンネル幅Wを9.7×10−2cmと見積もり、FET特性を評価したところ、電界効果移動度は、0.024cm/V・sで、On/Off電流比は、10であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に使用する有機半導体材料を用いた有機トランジスタは、特に安価とされる塗布法にて作製された素子においては、大気中で薄膜を形成することが可能である。そのため、産業上非常に有用な有機半導体であって、今後広くこの分野で使用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】電界効果トランジスタ
【図2】2,1−DNTTをスピンコートしたときの顕微鏡写真
【図3】化合物AのH−NMRスペクトル
【図4】化合物Aの13C−NMRスペクトル
【図5】化合物BのH−NMRスペクトル
【図6】化合物Bの13C−NMRスペクトル
【図7】化合物CのH−NMRスペクトル
【図8】化合物Cの13C−NMRスペクトル
【図9】化合物DのH−NMRスペクトル
【図10】化合物Dの13C−NMRスペクトル
【図11】2,1−DNTTのH−NMRスペクトル
【図12】2,1−DNTTの13C−NMRスペクトル
【図13】ペンタセンのUVスペクトルの経時変化
【図14】2,3−DNTTのUVスペクトルの経時変化
【図15】2,1−DNTTのUVスペクトルの経時変化
【符号の説明】
【0074】
10 2,1−DNTTの単結晶 11 櫛形電極
20 薄膜デバイス 21 Source 22 Drain
23 PMMA Dielectric Layer 24 Si/SiO2 Substrate
25 Gate 26 Organic Single Crystal

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式〔化1〕で示されるような、チエノチオフェン骨格を特徴とする化合物を含有する有機トランジスタ。
〔化1〕

ただし、化学式〔化1〕中の置換基Rから 12は、水素原子及びハロゲン原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基のうち、少なくとも一つを含んでいる。
【請求項2】
化学式〔化1〕中のR、Rが水素原子以外の同一の置換基であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料を含有する有機トランジスタ。
【請求項3】
化学式〔化1〕中のR、Rが水素原子以外の同一の置換基であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料を含有する有機トランジスタ。
【請求項4】
化学式〔化1〕中のR、R10が水素原子以外の同一の置換基であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料を含有する有機トランジスタ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかの有機トランジスタに使用される有機半導体材料の複数を組み合わせてからなる、有機トランジスタ。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−161323(P2010−161323A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4142(P2009−4142)
【出願日】平成21年1月11日(2009.1.11)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(506103636)ウシオケミックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】