説明

チオエステル結合を有するポリマーを含む粒子

本発明は、チオ酸官能基と不飽和基との反応により得られたチオエステル結合を含有するポリマーを含む、活性薬剤の送達に適した粒子に関する。このポリマーは、線状であるか、枝分れしているか、または架橋されたものであり得る。粒子は、10nm〜1000μmの範囲内、好ましくは、100nm〜100μmの範囲内の平均粒径を有する。この粒子は、栄養剤、医薬品、タンパク質およびペプチド、ワクチン、遺伝物質、診断薬、または造影剤からなる群から選択される活性薬剤を含み得る。本発明は、さらに、上記粒子の皮膚科、筋骨格、腫瘍科、脈管用途、整形外科、眼科(ophthamology)、脊椎、腸、肺、鼻、または耳における使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、チオエステル結合を有するポリマー含む粒子、およびそのような粒子を調製する方法、および医療分野におけるその粒子の使用に関する。
【0002】
チオエステル結合を含むポリマーは、当該技術分野において公知であり、例えば米国特許出願公開第2002/071822号明細書に開示されている。米国特許出願公開第2002/071822号明細書は、重縮合反応により合成され、例えばチオエステル結合、生物活性化合物および炭化水素連結基を含有する主鎖を含むポリチオエステルポリマーについて記載する。生物活性化合物はポリマー主鎖の一部であり、ポリマーの加水分解により放出される。薬物がポリマー主鎖の一部であるため、ポリマーの特性、したがってこのポリマーに由来するデバイスの特性は、薬物と直接関係している。ポリマー特性の変更は、薬物の特性によってある程度まで制限される。この出願はまた、このポリマーと薬物との間の共有結合に依拠する合成アプローチについて記載する。これは多くの制限をもたらす。例えば、ポリマーが純粋な形態の薬物を放出するためには加水分解を受けなければならない。したがって、部分ポリマー薬物フラグメントが放出される、または生体利用可能になるという恐れがある。結果として生ずる薬物フラグメントは、それらの半減期および生体内分布によって理解されなければならない。また、薬物放出を改変するための薬物の再配合は、典型的に用いられる賦形剤との配合を通して放出が調整され得る配合アプローチとは対照的に、合成工程を必要とする。
【0003】
さらに、粒子がポリチオエステルから製造され得ることが開示されている。しかしながら、不都合な点は、ポリチオエステル主鎖中に活性薬剤が存在し、そのポリチオエステル主鎖から粒子が生成されることである。その結果、活性薬剤は、活性薬剤の放出をもたらすが同時にポリマーの分解ももたらすポリマーの加水分解によって放出される。したがって、薬物放出を分解から切り離すことができず、それゆえに、薬物放出が単に拡散だけに基づき分解を必要としない粒子を調製することもできない。さらに、全ての薬物がポリマー主鎖に共有結合され得るとは限らない。さらなる不都合な点は、薬物配合と微粒子製造とを分離し得ないことである。場合によっては、重合後に活性薬剤を配合し得る粒子を提供し得ることが望ましいことがある。なぜなら、例えば、そうすれば、粒子調製プロセスを拡大(up−scaling)して大バッチの粒子を提供することが可能となり、(所望であれば)バッチの異なる部分に異なる活性薬剤を特定の目的に有効な量で配合し得るからである。他の場合においては、粒子から放出されることになる活性薬剤が粒子の調製の間に有害な影響を受け得る(例えば、分解、変性、または別の方法で不活性化され得る)ために、重合後に配合され得る粒子を提供することが望ましいことがある。なおさらなる不都合な点は、ポリマーの分解により有効成分および炭化水素リンカーを含有するフラグメントが利用可能になり得、その組み合わせが薬物の治療特性および/または移動性に悪影響を及ぼし得ることである。
【0004】
したがって、本発明の目的は、上述の不都合な点を克服すること、および少なくとも公知粒子の代替物となり得る活性薬剤の送達に適した粒子を提供することである。
【0005】
本発明の目的は、薬物または活性薬剤がポリマー主鎖に共有結合していないためにポリマー分解、薬物配合および薬物放出が容易に調節され得る、チオエステルポリマーおよび活性薬剤を含む粒子を提供することである。
【0006】
本発明のさらなる目的は、微粒子形成の間および/または微粒子が調製された後に活性薬剤が適切に配合され得るチオエステルポリマーを含む粒子を提供することである。
【0007】
本発明のなおさらなる目的は、活性薬剤が効率よく配合され得る微粒子を提供することである。
【0008】
本発明のなおさらなる目的は、これが常に代替的な選択肢であることに変わりはないとしても、組成を実質的に変更することなくポリマーの分子量を変更することによって異なる分解時間が達成されるポリチオエステル粒子を提供することである。ポリマーの組成変更はポリマー薬物相溶性に影響を及ぼす極性の変更を実質的に伴うため、これは大きな利点である。
【0009】
本発明の目的は、チオ酸官能基と不飽和基との反応により得られたチオエステル結合を含有するポリマーを含む、活性薬剤の送達に適した粒子を提供することにより達成される。
【0010】
こうしたポリチオエステルで作られた粒子は、上記の粒子と比べて有利な点(例えば、分解に対するより大きな制御、ポリマー分解を薬物放出から切り離すという選択肢、ポリマーに共有結合し得ない薬物を配合するという選択肢)をいくつも提供することが見出された。本発明の粒子には、微粒子形成の間および/または微粒子が調製された後に、活性薬剤が効率よく配合され得る。
【0011】
さらに、本発明に従う粒子は、攻撃的な加工条件に対して高い耐性を有するようであることが見出された。攻撃的な加工条件とは、物理的衝撃(例えば、温度の(急速な)変化(例えば、凍結乾燥処理において起こるような少なくとも1℃/秒の変化)または圧力の急激な変化(例えば、(繰り返される)加圧および/または減圧))に粒子を供させる条件と理解される。例えば、ペレット製造機においては0.5T/cm/秒の圧力が利用される。
【0012】
本発明において用いられるポリチオエステルは、国際公開第2007/028612(A)号パンフレットに開示されている。ポリチオエステルから調製された粒子は開示されておらず、本発明に従う粒子の利点も開示されていない。
【0013】
本発明において用いられるポリチオエステルは、チオ酸官能基と不飽和基との付加重合反応により得られる。付加重合は、重合触媒も開始剤も必要としないポリチオエステルの調製を可能にする。これは、医療および食品用途用の生分解性ポリマーにおいて非常に有用である。なぜなら、開始剤フラグメントは、多くの場合、自然に代謝されることも、体内で見出されることもない材料だからである。これらのポリチオエステルの使用は、開始剤分子の生物学的/代謝運命を決定するためのあらゆるさらなる試験を回避することを可能にする。
【0014】
好ましい実施形態において、粒子は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む成分Xと少なくとも2つのチオ酸を含む成分Yとの反応により得られたチオエステル結合を含有するポリマーであって、Xおよび/またはYは低分子フラグメント、オリゴマーまたはポリマーであり、ここで、XまたはYの少なくとも一方はオリゴマーまたはポリマーであり、上記成分が少なくとも2つのチオエステル結合を有するポリマーを形成することを可能にしているポリマーを含む。
【0015】
成分Xは、構造式1
【化1】



により表され、式中、W1、W2およびW3は、C、H、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択され得る。好ましくは、W1、W2およびW3は、水素である。
【0016】
成分Yは、式2
【化2】



により表される。
【0017】
チオエステル結合を含有するポリマーを合成するための方法は、成分XとYとの反応を必要とする。そのような反応は重合であり得、光(特にUV光)により誘発され得るが、開始剤(例えば、AIBN)の助けを借りて熱(例えば、体温)によっても誘発され得、または自然発生的にも起こり得る。光(特にUV)がこの反応に利用される場合、これは、光開始剤の存在を必要とし得る。
【0018】
式1および2において、XおよびYは化学的に多様であり得、これらは共に、分解性であるか、部分分解性であるか、または非分解性であり得る。これは、追加の特性が必要とされる場合によく利用される。Xおよび/またはYは、好ましくは分解性であり、より好ましくは生分解性であり、なおさらに好ましくは代謝性である。XおよびYは、同じオリゴマーまたはポリマーに基づき得るが、それらが異なるオリゴマーまたはポリマーに基づく場合、結果として生ずるチオエステル結合含有ポリマーを含む粒子の特性および活性薬剤(例えば、薬物)の分布はより効果的に制御され得、反応はより制御可能な方法で誘導され得る。XおよびYはまた、低分子フラグメントに基づき得、同じかまたは異なるフラグメントであり得る。
【0019】
XおよびYは、結果として生ずるポリマーおよびそのポリマーで作られる粒子にどのような特性が望まれるかによって分子量が変わり得る。より具体的には、XおよびYの分子量は、約28Da〜約50000Daを超える範囲にわたり得る。このポリマーおよび粒子の形成に先立って、XおよびYは、それらがチオ酸−エン重合(thioic−ene polymerisation)に関与し得るように、チオ酸基またはエチレン性不飽和基を含むように合成される。インサイチュー用途における使用には、あらゆる未反応材料の移動性を制限するために、XおよびYは、好ましくは高分子量を有する。
【0020】
分解性ポリチオエステルの場合には、Xおよび/またはYは、ポリ(ラクチド)(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、PLAとPGAとのコオリゴマーもしくはコポリマー(PLGA)、ポリ(無水物)、ポリ(トリメチレンカルボナート)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ウレタン)、ポリ無水物、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリカルボナート、ポリアミノカルボナート、ポリホスファゼン、ポリ(プロピレン)フマラート、ポリエステルアミド、ポリオキサエステル、ポリ(マレイン酸)、ポリアセタール、ポリケタール、デンプン、および天然高分子(例えば、ポリペプチド、ポリヒドロキシアルカノアート、フィブリン、キチン、キトサン、多糖類または炭水化物(例えば、ポリスクロース、ヒアルロン酸、デキストランおよびそれらの類似の誘導体、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリンまたはアルギナート)、およびタンパク質(例えば、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、またはオバルブミン)、あるいはそれらのコオリゴマーもしくはコポリマーまたは混合物から選択され得る。
【0021】
特定の好ましい実施形態において、Xおよび/またはYは、ポリ(ラクチド)(PLA)、ポリ(無水物)、ポリ(トリメチレンカルボナート)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、あるいはそれらのコオリゴマーもしくはコポリマーまたは混合物から選択される。
【0022】
非分解性ポリチオエステルが追加の特性(例えば、親水性、疎水性または機械的強度)に必要とされる場合には、ポリマーであるXおよび/またはYは、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコオリゴマーもしくはコポリマー(ポロキサマー、メロキサポール(meroxapol))、ポロキサミン(poloxamine)、ポリ(ウレタン)、ポリ((ポリエチレンオキシド)−コ−ポリ(ブチレンテレフタラート))、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキル化セルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロースおよびメチルヒドロキシプロピルセルロース)からなる群から選択され得る。
【0023】
特に好ましい両親媒性の挙動は、Xおよび/またはYが、ポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(プロピレンオキシド)、ポロキサマー、ポロキサミン、メロキサポールからなる群から選択される場合に達成され得る。
【0024】
好ましい機械的強度は、Xおよび/またはYとしてポリウレタンが用いられる場合に達成され得る。
【0025】
特に好ましい親水性は、Xおよび/またはYが、ポリ(ビニルピロリドン)およびポリ(エチルオキサゾリン)からなる群から選択される場合に達成され得る。
【0026】
成分Xに含まれるエチレン性不飽和基は、ビニル、アルキン、アルケン、ビニルエーテル、ビニルスルホン、ビニルホスファート、アリル、アクリラート、アクリルアミド、フマラート、マレアート、イタコナート、シトラコナート、メサコナート、メタクリラート、マレイミド、イソプレン、およびノルボルネン、ならびにそれらの誘導体(例えば、エステルおよびアミド)からなる群から選択され得る。
【0027】
エチレン性不飽和基は、好ましくは、ビニル、アリル、アクリラートまたはフマラートからなる群から選択される。
【0028】
成分Yの例には、ジチオアジピン酸(DTAA)、トリス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)2000(PLGTTA)、α,ω−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)1300(PLGDTA)または6−{2,3−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]プロポキシ}−6−オキソヘキサンチオS−酸(GTTA)がある。
【0029】
本願において用いられる場合、用語「オリゴマー」は、特に、より低い相対分子質量の分子から実際にまたは概念的に誘導される少数の複数の単位から本質的に成る分子を意味する。それらの単位のうちの1つまたはごく少数の単位の除去により著しく変化する特性を有する場合は、分子は中程度の相対分子質量を有すると見なされることに留意されたい。また、分子の一部または全部が中程度の相対分子質量を有し、かつより低い相対分子質量の分子から実際にまたは概念的に誘導される少数の複数の単位を本質的に含む場合は、この分子はオリゴマーであるとして記載され得る、または形容詞的に用いられるオリゴマーによって表され得ることにも留意されたい。一般的に、オリゴマーは、200Daを超える(例えば、400Daを超える、800Daを超える、1000Daを超える、1200Daを超える、2000Daを超える、3000Daを超える、または4000Daを超える)分子量を有する。上限は、ポリマーの質量の下限として規定されるものによって規定される(次段落参照)。
【0030】
したがって、用語「ポリマー」は、低い相対分子質量の分子から実際にまたは概念的に誘導される単位の多数の反復を本質的に含む構造のことをいう。そのようなポリマーは、枝分れポリマーまたは線状ポリマーを包含し得る。多くの場合、特に合成ポリマーについて、それらの単位のうちの1つまたはごく少数の単位の付加または除去が分子特性に対してほとんど影響を及ぼさない場合は、分子は高い相対分子質量を有すると見なされ得ることに留意されたい。この記載は、特性が分子構造の微細部にまで重大に依存し得る特定の高分子の場合には成り立たない。分子の一部または全部が高い相対分子質量を有し、かつ低い相対分子質量の分子から実際にまたは概念的に誘導される単位の多数の反復を本質的に含む場合は、この分子は高分子もしくはポリマーのいずれかであるとして記載され得る、または形容詞的に用いられるポリマーによって表され得ることにも留意されたい。一般的に、ポリマーは、8000Daを超える(例えば、10,000Daを超える、12,000Daを超える、15,000Daを超える、25,000Daを超える、40,000Daを超える、100,000Daを超える、または1,000,000Daを超える)分子量を有する。
【0031】
低分子フラグメントという用語は、1000Da未満のMwを有する分子(例えば、脂肪族、脂環式または芳香族分子であって、例えば2〜18個のC原子を有する分子)を意味する。
【0032】
本発明に従う粒子は、チオエステル結合を含有する線状、枝分れ、または架橋ポリマーを含み得る。
【0033】
線状ポリマーの場合には、成分Xが最高2個のエチレン性不飽和基を含み、成分Yが最高2個のチオ酸基を含むと有利であり得る。1成分当たりのエチレン性不飽和基およびチオ酸基の最小平均は、有利には1.2個より多い。線状ポリマーの場合には、形成されたポリマーが摂氏40度より高い融解温度を有することが、この温度より低い温度では固体であることから重要である。こうした線状ポリマーが、最も好ましい。
【0034】
架橋ポリマーまたは網目構造の場合には、成分Xが少なくも2個のエチレン性不飽和基を含み、成分Yが少なくとも2個のチオ酸基を含み、エチレン性不飽和基とチオ酸基とを足した個数が4個より多いことが必要とされる。
【0035】
ポリチオエステルの特性は、架橋度によって影響され得る。これは、成分XおよびYの適切な鎖長を選択することにより実現され得る。代替的に、架橋度は、成分X中のエチレン性不飽和基および/または成分Y中のチオ酸基の適切な個数を選択することによって影響され得る。別の代替法において、架橋度は、重合が完了に達するのを妨げることによって、すなわち、最高の反応度が生ずるのを妨げることによって影響され得る。しかしながら、反応は最高の反応度まで進行することが好ましい。部分反応は、例えば架橋後の修飾(例えば、官能基の結合、または組織もしくは他の生物学的物質への共有結合)のために、架橋マトリックス中にいくつかの残存反応性基を有することが必要とされる場合に特に望ましくあり得る。
【0036】
架橋は、ビニル基を含む架橋化合物に関して知られた任意の適切な方法で、特に、熱開始(熱開始剤(例えば、過酸化物またはアゾ開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)))によって助けられる)によるか、光開始(光開始剤(例えば、ノリッシュI型またはII型開始剤)によって助けられる)によるか、レドックス開始によるか、または化合物および/もしくは電磁放射を利用してラジカルを生成する任意の(他の)機序によって行われ得る。適切な架橋剤の例には、トリメチロールプロパントリメタクリラート、ジエチレングリコールジメタクリラート、またはヒドロキシエチルアクリラートがある。
【0037】
特に強い架橋ポリマーまたは網目構造の場合には、成分Xが少なくとも3個のエチレン性不飽和基を含み、かつ/または成分Yが少なくとも3個のチオ酸基を含み、かつエチレン性不飽和基とチオ酸基とを足した個数が5個より多いことが必要とされる。
【0038】
枝分れポリマーまたは非ゲル化ポリマーの場合には、成分XおよびYを含む組成物は、DurandおよびBruneau(D.Durand,C.−M.Bruneau,Makromol.Chem.1982,183,1007−1020、およびD.Durand,C.−M.Bruneau,The British Polymer Journal,1979,11,194−198;D.Durand,C.M.Bruneau,The British Polymer Journal,1981,13,33−40;D.Durand,C.−M.Bruneau,Polymer,1982,23,69−72;D.Durand,C.−M.Bruneau,Makromol.Chem.,1982,183,1021−1035;D.Durand,C.−M.Bruneau,Polymer,1983,24,587−591)により報告されるような枝分れした非ゲル化ポリマーのための組成物についての境界条件を満たすことが必要とされる。
【0039】
さらなる好ましい実施形態において、ポリチオエステルは、式3および/または式4のフラグメントを含む。
【化3】



式中、
−Xおよび/またはYは、低分子フラグメント、オリゴマーまたはポリマーであり、ここで、XまたはYの少なくとも一方がオリゴマーまたはポリマーであり、
−W1、W2およびW3は、C、H、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択される。
W1、W2およびW3は、Hであると好ましい。
【0040】
ポリチオエステルはまた、式5に従うフラグメントであって、
【化4】



式中、
−W1、W2およびW3は、H、C、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択され、
Yは、低分子量フラグメント、オリゴマーまたはポリマーであり得、Xは、同じかもしくは異なる低分子量フラグメント、オリゴマーまたはポリマーであり得、
ここで、XまたはYの少なくとも一方がオリゴマーまたはポリマーであり、
−mおよびnは整数であり、mとnとの合計は、Yに連結されるチオエステルリンカーの数を示しており、ここで、mとnとの合計は少なくとも2である
フラグメントを含有し得る。
【0041】
XまたはYについて選択されるオリゴマーまたはポリマーの個々の種類に依存して、粒子の分解性が影響され得る。例えば、成分Xとして非分解性トリエチレングリコールジビニルエーテル(TEGDVE)を含有するポリマーから製造された粒子は、エチレン性不飽和基を含有する分解性の成分X(例えば、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)1200ジ(4−ペンテノアート)(PLGDP)またはポリ(ラクチド−コ−グリコリド)2600トリ(4−ペンテノアート)(PLGTP))に基づくポリマーから製造された粒子と比較して、より低い分解速度を示す。疎水性成分であるポリ(ε−カプロラクトン)2100ジ(4−ペンテノアート)(PCLDP)は、何年もかけて分解するように設計されたものである。
【0042】
チオエステル結合を含有するポリマーは、加水分解により分解され得るという有利な特性を有する。成分XおよびYもまた分解性または生分解性である場合は、残渣を全く残さずにより完全に分解され得るポリマーが合成され得る。成分XおよびYがさらに完全分解性または完全生分解性である場合には、何らの残留成分も残さずに分解され得るポリマーが合成され得る。
【0043】
本発明の粒子は、医療分野において好適であり、特に活性薬剤(例えば、薬物、診断助剤または造影助剤)のための送達系として好適である。この粒子はまた、高圧を用いることによってカプセルまたはチューブに詰めるためにも用いられ得るか、または粒子を実質的に損傷することなくペレット錠として圧縮され得る。この粒子はまた、遊離した状態で懸濁剤として、またはインサイチュー形成性ゲル製剤として、注入可能または噴霧可能な形態でも用いられ得る。さらに、粒子は、例えば、(ラピッドプロトタイピングにより作製された(rapid prototyped))足場、コーティング剤、貼付剤、複合材料、ゲル剤、プラスター剤、またはエアゾール剤中に組み込まれ得る。本発明に従う粒子は、注入、噴霧、移植、または吸収され得る。
【0044】
粒子は、その具体的な構造、大きさ、または組成に依存して、種々の異なる方法で規定され、分類されてきた。例えば、Encyclopaedia of Controlled drug delivery Vol2 M−Z Index,Chapter:Microencapsulation Wiley Interscience(第493頁から始まる章)、特に第495頁および第496頁を参照されたい。
【0045】
本発明において用いられる場合、粒子という用語は、固形または半固形の材料から典型的に成り、かつ活性薬剤を運搬し得るマイクロスケールまたはナノスケールの粒子を包含する。典型的に、この粒子の平均粒径は、10nm〜1000μm、好ましくは10nm〜500μm、より好ましくは10nm〜100μmの範囲にわたる。実際には、最も好ましい平均粒径は、意図される使用に依存する。
【0046】
本発明に従うマイクロ粒子は、典型的に、1μm〜1000μmの範囲にわたる平均粒径を有する。粒子が注入可能な薬物送達系として、特に脈管内薬物送達系として用いられることが意図される場合には、10μmまでの、特に1〜10μmの範囲内の、好ましくは1〜5μmの範囲内の平均粒径が望まれ得る。
【0047】
本発明に従うナノ粒子は、典型的に、1000nm未満、例えば、10nm〜999nmの範囲にわたる、好ましくは20〜800nm、より好ましくは30〜500nmの範囲にわたる平均粒径を有する。脈管内用途には、平均粒径は、好ましくは100〜300nmの範囲にわたり、細胞内用途には、平均粒径は、好ましくは10〜100nmの範囲にわたる。他の用途において、他の大きさ、例えば、10nm〜500nmの範囲内、好ましくは10nm〜300nmの範囲内にある平均粒径が望ましくあり得る。
【0048】
特に、本明細書において用いられる場合の粒径は、60nmのASTM認定ポリマーラテックスサイズ標準をコントロールとして利用して、Malvern Zetasizer NanoZS動的光散乱法(Malvern Instrument Inc.)により決定され得るZ平均粒径である。Z平均粒径は、測定された相関関数から直接計算され、したがって粒子の物性の入力に依存しない。粒度分析の次に、粒子がその光学特性のために光散乱法によって分析され得ない場合には、走査電子顕微鏡法(SEM)または透過電子顕微鏡法(TEM)が用いられ得る。
【0049】
マイクロ粒子は、概して1μmより大きな平均粒径を有する。特に、用いられた粒径は、微粉砕されたUHMwPE粉末(70〜150μm)をコントロール試料として利用して、Coulter LS−230 Seriesレーザー回折粒度測定器により決定され得る体積基準の粒度分布のD50またはメジアン値(モデルに依存しない)である。粒度分布は、フラウンホーファーモデル(材料の屈折率についての補正なし)を仮定して回折データから計算される。
【0050】
数種類の粒子構造が、本発明に従って調製され得る。これらは、ナノ粒子およびマイクロ粒子などを含め、実質的に均一な構造を包含する。しかしながら、1種より多くの活性薬剤が放出されなければならない場合、または1種以上の官能基が必要とされる場合には、粒子は内核および外殻を含む構造を備えていると好ましい。核/殻構造は、例えば非相溶性の化合物の薬物送達において、または造影において、より多様な作用様式を可能にする。殻は、噴霧乾燥機を用いて核の形成後に塗布され得る。核および殻は、チオエステル結合を含有する同じかまたは異なるポリマーを、異なる活性薬剤と共に含み得る。この場合には、異なる速度で活性薬剤を放出することが可能である。活性薬剤を核中だけに含み、殻はチオエステル結合を含有する加水分解性ポリマーから成るとすることも可能である。
【0051】
さらなる実施形態において、粒子は、チオエステル結合を含有するポリマーを含む核と、磁性または磁化可能材料を含む殻とを含み得る。
【0052】
なおさらなる実施形態において、粒子は、磁性または磁化可能な核と、チオエステル結合を含有するポリマーを含む殻とを含み得る。適切な磁性または磁化可能材料は当該技術分野において公知である。そのような粒子は、金属(特に鋼)を含む物体(例えば、移植された物体(例えば、移植片またはステント))によって引きつけられる特性のため有用であり得る。そのような粒子は、さらに、精製または分析用途に有用であり得る。
【0053】
なおさらなる実施形態において、粒子は、特殊な技術によって画像化することが可能であり得る。適切な造影技術は、MRI、CT、X線である。造影剤は、粒子内部に組み込まれ得るか、または粒子表面に連結され得る。そのような粒子は、例えば血液中または細胞内で、どのように粒子が移動するかを可視化するのに有用であり得る。適切な造影剤は、例えばガドリニウムである。
【0054】
本発明に従う粒子は、1種以上の活性薬剤または薬物を運搬し得る。活性薬剤は、粒子中または微粒子核中にほぼ均一に分散され得る。活性薬剤はまた、微粒子殻中にも存在し得る。
【0055】
特に、活性薬剤は、栄養剤、医薬品、タンパク質およびペプチド、ワクチン、遺伝物質(例えば、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、プラスミド、DNAおよびRNA)、診断薬、ならびに造影剤からなる群から選択され得る。活性薬剤(例えば、原薬(API))は、意図される使用に依存して、あらゆる種類の活性を示し得る。
【0056】
活性薬剤は、生物学的応答を刺激または抑制する能力を有し得る。活性薬剤は、例えば、成長因子(VEGF、FGF、MCP−1、PIGF、PDGF、TGF−B、成長因子阻害化合物(例えば、)、抗生物質(例えば、ペニシリン系(例えば、B−ラクタム)、クロラムフェニコール)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(サリチラートに基づく薬物(例えば、アセチルサリチル酸、アスピリン、アモキシプリン(Amoxiprin)、ベノリラート(Benorylate/Benorilate)、サリチル酸コリンマグネシウム、ジフルニサル、エテンザミド、ファイスラミン(Faislamine)、サリチル酸メチル、サリチル酸マグネシウム、サリチル酸サリチル、サリチルアミド)、アリールアルカン酸に基づく薬物(例えば、ジクロフェナク、アセクロフェナク)、2−アリールプロピオン酸(プロフェン)に基づく薬物(例えば、イブプロフェンまたはアルミノプロフェン)、N−アリールアントラニル酸(フェナム酸)に基づく薬物(例えば、メフェナム酸、フルフェナム酸)、アンピロン、およびCOX−2インヒビター(例えば、セレコキシブ、エトリコキシブ(Eetoricoxib)、ルミラコキシブ、TGAは登録を抹消、例えば、パレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブおよびスルホンアニリド)を包含する)、さらに他の抗炎症化合物、抗血栓形成化合物、抗跛行薬、抗不整脈薬、抗アテローム性動脈硬化薬、抗ヒスタミン薬、抗癌薬(cancer drug)、脈管薬(vascular drug)、眼科用薬、アミノ酸、ビタミン、ホルモン、神経伝達物質、神経ホルモン、酵素、シグナル分子、および精神活性薬から選択され得る。
【0057】
具体的な活性薬剤または薬物の例には、神経薬(neurological drug)(アンフェタミン、メチルフェニデート)、α1アドレナリン作動性受容体アンタゴニスト(プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、ケテンセリン(ketenserin)、ウラピジル)、α2遮断薬(アルギニン、ニトログリセリン)、降圧薬(クロニジン、メチルドパ、モキソニジン、ヒドララジン、ミノキシジル)、ブラジキニン、アンギオテンシン受容体遮断薬(ベナゼプリル、カプトプリル、シラゼプリル(cilazepril)、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリル、ゾフェノプリル)、アンギオテンシン1遮断薬(カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン)、エンドペプチダーゼ(オマパトリラート(omapatrilate))、β2アゴニスト(アセブトロール、アテノロール、ビソプロロール、セリプロロール、エスモドール(esmodol)、メトプロロール、ネビボロール、ベタキソロール)、β2遮断薬(カルベジロール、ラベタロール、オクスプレノロール、ピンドロール、プロパノロール)、利尿活性薬(diuretic active)(クロルタリドン、クロロチアジド、エピチジド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、アミロライド、トリアムテレン)、カルシウムチャネル遮断薬(アムロジピン、バルニジピン、ジルチアゼム、フェロジピン、イスラジピン、ラシジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニトレンジピン、ベラパミル)、抗不整脈活性薬(anti arrthymic active)(アミオダロン、ソラトール(solatol)、アテノロール、ジクロフェナク、エナラプリル、フレカイニド)、またはシプロフロキサシン、ラタノプロスト、フルクロキサシリン、ラパマイシンおよび類似体およびリムス(limus)誘導体、パクリタキセル、タキソール、シクロスポリン、ヘパリン、コルチコステロイド、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、フルオシノロンアセトニド)、抗血管新生薬(anti−angiogenic)(iRNA、VEGFアンタゴニスト:ベバシズマブ、ラニビズマブ、ペガプタニブ)、成長因子、ジンクフィンガー転写因子、トリクロサン、インシュリン、サルブタモール、エストロゲン、ノルカンタリジン、ミクロリジル(microlidil)類似体、プロスタグランジン、スタチン、コンドロイチナーゼ、ジケトピペラジン、大環状化合物(macrocycli compound)、ニューレグリン、オステオポンチン、アルカロイド、免疫抑制薬、抗体、アビジン、ビオチン、クロナゼパムがある。
【0058】
活性薬剤は、局所送達用として、または術前もしくは術後治療として、疼痛、骨髄炎、骨肉腫、関節感染、黄斑変性、糖尿病眼、真性糖尿病、乾癬、潰瘍、アテローム性動脈硬化症、跛行、血栓症、ウイルス感染、癌の管理のために、またはヘルニアの処置において送達され得る。
【0059】
本発明によれば、活性薬剤が含まれる場合は、粒子中の1種以上の活性薬剤の濃度は、好ましくは、粒子の総重量に基づき少なくとも5重量%、特に少なくとも10重量%、さらに特定すれば少なくとも20重量%である。この濃度は、所望される通り、90重量%まで、70重量%まで、50重量%まで、または30重量%までであり得る。
【0060】
本発明に従う粒子が用いられ得る分野としては、皮膚科、筋骨格(muscular skeletal)、腫瘍科、脈管、整形外科、眼科、脊椎、腸、肺、鼻、または耳が挙げられる。
【0061】
薬学的用途における他に、本発明に従う粒子は、とりわけ、農業用途において用いられ得る。特に、そのような粒子は、農薬または植物用栄養剤を含み得る。
【0062】
また、官能基、特にシグナル分子、酵素または受容体分子(例えば抗体)を粒子の少なくとも表面に付与することにより、少なくともその表面を官能基化することも可能である。受容体分子は、例えば関心のある成分に対する受容体分子であり得、本発明の粒子を利用して、この成分が、例えば診断検査の一部として、精製または検出されることになる。適切な官能基化方法は、当該技術分野において公知の方法に基づき得る。特に、受容体分子は、粒子またはナノ粒子を構成するポリマーに結合され得る。
【0063】
アミド基を含む標的官能部分を連結するために、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)が用いられ得る。特に、NHSは、粒子がポリアルキレングリコール部分(例えば、PEG部分)を含む場合に粒子に連結され得る。
【0064】
標的官能部分はまた、粒子とビニルスルホンとを先に反応させることにより、粒子と連結され得る−SH基(例えば、システイン残基)を含み得る。特に、ビニルスルホンは、粒子がポリアルキレングリコール部分(例えば、PEG部分)を含む場合に粒子に連結され得る。種々の他のカップリング剤が知られている(Fisher et.al.Journal of Controlled release 111(2006)135−144およびKasturi et.al.Journal of Controlled release 113(2006)261−270参照)。
【0065】
チオエステル結合を含有するポリマーに加え、本発明に従うマイクロ粒子またはナノ粒子は、ポリマーおよび架橋性または重合性化合物からなる群から選択される1種以上の他の化合物をさらに含み得る。このポリマーは、特に、上記されるようなポリマーであり得る。この架橋性または重合性化合物は、特に、アクリル化合物および他のオレフィン性不飽和化合物(例えば、ビニルエーテル、アリルエーテル、アリルウレタン、フマラート、マレアート、イタコナートまたは不飽和アクリラート単位)からなる群から選択される化合物であり得る。適切な不飽和アクリラートは、例えば、不飽和ウレタンアクリラート、不飽和ポリエステルアクリラート、不飽和エポキシアクリラートおよび不飽和ポリエーテルアクリラートである。
【0066】
その他のポリマーまたは重合性化合物が、粒子の特性を調節するために(例えば、活性薬剤の放出プロファイルを調整するため、または完全な(すなわち、細胞傷害性であり得る反応性不飽和結合が全く残留していない)重合を得るため、または微粒子の粒度分布を狭くするために)用いられ得る。
【0067】
粒子への配合は、活性薬剤の存在下で粒子を形成することにより、または粒子の形成後に実行され得る。多量の活性薬剤を含む粒子を得るためには、一般的に、活性薬剤の存在下で粒子を調製する方が好ましい。特に、活性薬剤が架橋に感受性があるか、架橋に悪影響を与え得るか、または架橋を直接的もしくは間接的に妨げ得る場合には、粒子が形成された後に活性薬剤を粒子に配合する方が好ましい。これは、粒子を活性薬剤と接触させ、薬剤が粒子中に拡散することおよび/または粒子表面に付着/吸着することを可能にすることにより達成され得る。
【0068】
原則的に、先行技術において用いられるポリマーがチオエステル結合を含有するポリマーと(少なくとも部分的に)置き換えられるならば、粒子は当該技術分野において公知の方法で調製され得る。本発明のマイクロ粒子/ナノ粒子は、好ましくは、水と混和し得るまたは部分的に混和し得る少なくとも1種の有機溶媒にチオエステル結合含有ポリマーを溶解させる工程、続いて薬物を加え、これを溶解または分散させる工程により調製される。次いで、結果として生ずる有機溶液を、界面活性剤または表面活性剤を含有する水溶液に加え、攪拌する。有機溶媒は、エバポレーションまたは抽出により除去され得る。次いで、粒子を乾燥させて薬物配合粒子を得る。このプロセスにおいて用いられる有機溶媒の選択は、薬物または活性薬剤の溶解度に依存する。活性薬剤の溶解度を向上させるために、有機溶媒の混合物を用い得る。
【0069】
薬物を含む本発明に従うマイクロ粒子/ナノ粒子を調製するための別の経路は、例えば、水と混和し得るまたは部分的に混和し得る有機溶媒にポリマーを溶解させ、これを界面活性剤または表面活性剤を含有する水溶液に加えることによる。結果として生ずる混合物を攪拌し、ポリマー組成物を架橋した後に、抽出またはエバポレーションにより有機溶媒を除去する。架橋された粒子を洗浄し、乾燥させた後、薬物分子を有機溶媒中に加え、続いてこの溶媒をエバポレートする。その後、粒子を洗浄し、乾燥させて薬物配合粒子を得、有機溶媒をエバポレートする。
【0070】
しかしながら、以下の、水溶液に薬物を溶解させ、チオエステル結合含有ポリマーを含有する有機溶液にこれを加え、結果として生ずる混合物を混合し、結果として生ずる混合物を界面活性剤または表面活性剤を含有する水溶液に加え、これを攪拌するという方法によっても本発明に従う粒子を調製し得る。次に、エバポレーションまたは抽出により有機溶媒を除去し、粒子を乾燥させる。
【0071】
本発明によれば、満足な封入効率(すなわち、用いられた活性薬剤の量で除した粒子中の活性薬剤の量)で、1種以上の活性薬剤を粒子に付与し得る。配合条件に依存して、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも90%以上の効率が実現可能である。
【0072】
次に、本発明を以下の実施例により例示するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[材料および方法]
核磁気共鳴(NMR)実験を、Varian Inova 300分光計を用いて実施した。
【0074】
赤外線実験を、Perkin Elmer Spectrum FT−IR分光計1760x、1720xを用いて実施した。ポリマー試料を、2つのKBr錠の間に挟んだ。
【0075】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、Waters 515 HPLCポンプ、Waters 410示差屈折計、ならびにWaters Styragel HR 2,3および4カラムを備えたServern Analytical SA6503プログラマブル吸光度検出器を使用し、テトラヒドロフラン(THF)を溶離剤として用いて流量1mL/分で実施した。IR検出器を用いてSECデータを得た。狭いポリスチレン標準(EasyCal PS2(Polymer Laboratories,Heerlen))を用いてこの系を較正した。
【0076】
粒子の粒度分布を、LST 230 Seriesレーザー回折粒度分析器(Beckman Coulter)を用いて測定した。標準はUHMwPE(0.02〜0.04μm)とした。
【0077】
粒子の形態を、Leica DMLB顕微鏡(倍率(magnitude)50倍〜400倍)を用いて分析した。
【0078】
5および10kVの加速電圧でPhilipsのCP SEM XL30を用いて粒子を調べた。試料をSEMのサンプルホルダーに載せ、導電性Au層を塗布した(260秒、20mA)。
【0079】
ナノ粒子のZ平均粒径を、Malvern Zeta−sizer NanoZS動的光散乱法(Malvern Instrument Inc.)を用いて測定した。この計器は、60nmのASTM認定ポリマーラテックスサイズ標準をコントロールとして用いる。Z平均粒径は、測定された相関関数から直接計算され、したがって、粒子の物性の入力に依存しない。
【0080】
[実施例1:重合触媒を加えないポリチオエステルの合成]
0.83g(4.64mmol)のジチオアジピン酸(DTAA)を、15mLの新たに蒸留した乾燥THFに加えた。これに、1当量のトリエチレングリコールジビニルエーテル(0.938g;4.64mmol)を加える。この溶液を、12時間にわたり窒素下で80℃に熱した。
【0081】
[実施例2:重合触媒(AIBN)を用いたポリチオエステルの合成]
0.83g(4.64mmol)のジチオアジピン酸(DTAA)を、15mLの新たに蒸留した乾燥トルエンに加えた。これに、1当量のトリエチレングリコールジビニルエーテル(0.938g;4.64mmol)および0.4mmol(0.07g)のAIBNを加えた。この溶液を、12時間にわたり窒素下で80℃に熱した。
【0082】
[実施例3:過酸化物開始剤を用いたポリチオエステルの合成]
0.83g(4.64mmol)のジチオアジピン酸(DTAA)を、15mLの新たに蒸留した乾燥THFに加えた。これに、1当量のトリエチレングリコールジビニルエーテル(0.938g;4.64mmol)および0.4mmol(0.01g)の過酸化ベンゾイルを加えた。この溶液を、12時間にわたり窒素下で90℃に熱した。
【0083】
[実施例4:溶液中での重合触媒(AIBN)を用いたポリエステルマクロマー構成単位を有するポリチオエステルの合成]
0.83g(4.64mmol)のジチオアジピン酸(DTAA)を、100mLの乾燥トルエンに加え、これに、1当量(4.64mmol;46.4g)のPLGA 75/25 10.000ジエンを加えた。この溶液に、0.13g(0.8mmol)のAIBNを加えた。この混合物を、8時間にわたり窒素下で80℃にて還流させた。
【0084】
結果として生じたポリマー溶液を、冷ヘキサン中に沈殿させた。
【0085】
[実施例5:溶液中での重合触媒(過酸化ベンゾイル)を用いたポリエステルマクロマー構成単位を有するポリチオエステルの合成]
0.83g(4.64mmol)のジチオアジピン酸(DTAA)を、100mLの乾燥THFに加え、これに、1当量(4.64mmol;46.4g)のPLGA 75/25 10.000ジエンを加えた。この溶液に、0.05g(0.2mmol)の過酸化ベンゾイルを加えた。この混合物を、8時間にわたり窒素下で90℃にて還流させた。
【0086】
結果として生じたポリマー溶液を、冷ヘキサン中に沈殿させた。
【0087】
[実施例6:PLGA10000ジエンの合成]
分解性オリゴマーであるポリ(ラクチド−コ−グリコリド)10000ジ(4−ペンテノアート)を、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)10000ジオールを経由して合成した。そこへは、38.69g(265.80mmol)のdl−ラクチド、10.39g(88.69mmol)のグリコリドおよび0.5316g(5.00mmol)のジエチレングリコールを、150℃にて融解させた。15mgのスズジオクトアートを含有する500μLのヘキサン溶液を加えた。反応を24時間にわたり進行させた後に、反応混合物を室温に冷却して生成物を得た。収率:98%、僅かに黄色の固体。
【0088】
次に、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)10000ジオール(49g、49mmol)をTHF(300mL)に溶解させ、トリエチルアミン(1.22g、12mmol)を加え、反応混合物を0℃に冷却した後にペンテノイルクロリド(1.26g、11mmol)を加え、温度を1時間にわたって0℃で維持した。この混合物を室温にて攪拌した。次に、この反応混合物を0℃にて20分間攪拌して、反応の間に形成されたトリエチルアミンヒドロクロリド塩を析出させた。混合物を濾過し、インヴァキュオで濃縮した。残渣をクロロホルムに再溶解させ、飽和NaCl水溶液および蒸留水で抽出した。有機層をNaSOで乾燥させ、溶媒を真空下で除去した。
【0089】
収率81%、オフホワイトの固体。
【0090】
[実施例7:少なくとも2つのチオエステル結合を含むPLGAの合成]
組成物を、等モル比のPLGA10000ジエンおよびジチオアジピン酸と、1重量%のDarocure 1173と、溶媒として酢酸エチル(15重量%)とを用いて調製した。この組成物をガラスプレートに塗布し、UV光(D−バルブ、15J/cm)に曝した。得られたポリマーをオーブン中で乾燥させて、オフホワイトの固体を得た。
【0091】
[実施例8:マイクロ粒子の調製]
730mgの実施例7において合成された2つのチオエステル結合を含むPLGAを、7mLのDMSO/酢酸エチル混合物(10/90(v/v))に溶解させ、機械的に800rpmで攪拌しながら21mLのポリビニルアルコール水溶液(1重量%)に加えた。
【0092】
50マイクロメートルの平均粒径を有するマイクロ粒子を得た。
【0093】
[実施例9:マイクロ粒子の調製]
730mgの実施例7において合成された2つのチオエステル結合を含むPLGAを、7mLのジクロロメタンに溶解させ、機械的に800rpmで攪拌しながら21mLのポリビニルアルコール水溶液(1重量%)に加えた。
【0094】
100マイクロメートルの平均粒径を有するマイクロ粒子を得た。
【0095】
[実施例10:水中油中水(w/o/w)プロセスによる微粒子の調製]
PLGA8000ジエンとDTAAとから調製された100mgのポリマーをDCM(4mL)に溶解させ、11mgのミオグロビンを150マイクロリットルのHOに溶解させた。両方が溶解すると、両溶液を合わせ、最高速度で30秒間ボルテックスした。この工程の直後に、このボルテックスされた乳濁液を20mLの1%PVA溶液に加え、4時間にわたってこれを機械的に800rpmで攪拌した。粒子形成が完了すると、このw/o/w乳濁液を4分間にわたり3000rpmで遠心分離機にかけ、これを3回行い、各遠心分離工程の後にHOで洗浄した。この微粒子中には50%のミオグロビンが封入された。粒子は、70〜80マイクロメートルの平均粒度を有していた。
【0096】
[実施例11:少なくとも2つのチオエステル結合を含むPLGAに基づくw/o/w微粒子の凍結乾燥]
貯蔵のために、実施例10からの微粒子を、Christ Alpha 1−2LD Plus凍結乾燥機を用いて凍結乾燥させた。試料をまず液体窒素中で凍結させ、蓋をティッシュペーパーと取り換えて氷をエバポレートさせた。一晩中、試料を凍結乾燥機に入れた。翌朝、この試料を4℃の冷蔵庫に入れた。SEM分析により、凍結乾燥プロセスの結果として破裂していない、または何ら損傷が見られないことが示された。
【0097】
[比較実験A]
実施例11に記載されたものと類似の微粒子を、少なくとも2つのチオエステル結合を含むPLGAからではなく市販のPLGA RG502から作製した。SEM分析は、凍結乾燥後の破裂を示した。
【0098】
[実施例12:水中油中水(w/o/w)プロセスによる微粒子の調製]
PLGA8000ジエンと式6に示されるジエチレングリコール−ジチオ酸(DEGDTA)とから調製されたポリマー100mgを、ジクロロメタン(DCM)(4mL)に溶解させ、11mgのミオグロビンを150マイクロリットルのHOに溶解させた。両方が溶解すると、両溶液を合わせ、最高速度で30秒間混合した。この工程の直後に、結果として生ずる乳濁液を20mLの1%PVA溶液に加え、4時間にわたってこれを機械的に800rpmで攪拌した。粒子形成が完了すると、このw/o/w乳濁液を4分間にわたり3000rpmで遠心分離機にかけ、これを3回行い、各遠心分離工程の後にHOで洗浄した。この微粒子中には40%のミオグロビンが封入された。粒子は、85マイクロメートルの平均粒度を有していた。
【化5】



【0099】
[実施例13:少なくとも2つのチオエステル結合を含むPLGAに基づくナノスフェアの調製]
実施例7において合成された2つのチオエステル結合を含むPLGA1.9重量%のアセトン溶液を、0.5重量%の界面活性剤(Pluronic F127)の脱塩水溶液に注入した。ナノ粒子懸濁液のDLSは、ナノ粒子が143nmの平均粒径を有することを示した。
【0100】
[実施例14 薬物を含む、少なくとも2つのチオエステル結合を含むPLGA(PLGA−PTE)のナノ粒子の調製]
実施例7において合成された少なくとも2つのチオエステル結合を含むPLGA(PLGA−PTE)を用いて、ラパマイシン(Rapa)、デキサメタゾン(Dex)およびフルオレセイン(Flu)を含むナノ粒子を調製した。下記の表1に、薬物、ポリマー、溶媒、界面活性剤の量、および界面活性剤の種類、および水媒体を示す。
【0101】
チオエステル結合を含有するPLGA−PTE 20Kを、水と混和し得るまたは部分的に混和し得るアセトンに溶解させてナノ粒子を調製し、続いてこれに薬物を加え、溶解または分散させた。次に、結果として生じた有機溶液を、界面活性剤または表面活性剤を含有する水に添加した。この添加は注入により行った。添加後、適切な均質化を達成するために、この混合物を手動で2秒間かき混ぜる必要がある。その後、有機溶媒をエバポレーションまたは抽出により除去し、粒子を乾燥させた。
【0102】
ナノ粒子の調製後すぐに、Malvern Zetasizer Nano ZSでZ平均(流体力学的径)を測定した。
【0103】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオ酸官能基と不飽和基との反応により得られたチオエステル結合を含有するポリマーを含む、活性薬剤の送達に適した粒子。
【請求項2】
前記ポリマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む成分Xと少なくとも2つのチオ酸を含む成分Yとの反応により得られ、Xおよび/またはYは、低分子フラグメント、オリゴマーまたはポリマーであり、ここで、XまたはYの少なくとも一方はオリゴマーまたはポリマーであり、前記成分が少なくとも2つのチオエステル結合を含むポリマーを形成することを可能にしている、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記ポリマーは、式3および/または式4のフラグメントを含み、
【化1】



式中、
Xおよび/またはYは、低分子フラグメント、オリゴマーまたはポリマーであり、ここで、XまたはYの少なくとも一方は、オリゴマーまたはポリマーであり、
W1、W2およびW3は、C、H、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択される、
請求項1〜2のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項4】
前記ポリマーは、式5に従うフラグメントをさらに含み、式中、
−W1、W2およびW3は、H、C、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択され、
−Yは、低分子量フラグメント、オリゴマーまたはポリマーであり得、Xは、同じかもしくは異なる低分子量フラグメント、オリゴマーまたはポリマーであり得、ここで、XまたはYの少なくとも一方はオリゴマーまたはポリマーであり、mおよびnは整数であり、mとnとの合計はYに連結されたチオエステルリンカーの数を示しており、ここで、mとnとの合計は少なくとも2である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子。
【化2】



【請求項5】
Xおよび/またはYが分解性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項6】
平均粒径が10nm〜1000μmの範囲内である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項7】
1μm〜1000μmの範囲内の平均粒径を有するマイクロ粒子である、請求項6に記載の粒子。
【請求項8】
10nm〜1μm未満の範囲内の平均粒径を有するナノ粒子である、請求項6に記載の粒子。
【請求項9】
内核および外殻を含む構造を備える、請求項1〜8のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項10】
1種以上の活性薬剤を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項11】
前記活性薬剤が、栄養剤、医薬品、タンパク質およびペプチド、ワクチン、遺伝物質、診断薬または造影剤からなる群から選択される、請求項10に記載の粒子。
【請求項12】
a)水と混和し得るまたは部分的に混和し得る少なくとも1種の有機溶媒に、チオエステル結合を含有するポリマーを溶解させる工程、
b)続いて薬物を加え、これを溶解または分散させる工程、
c)結果として生ずる有機溶液を界面活性剤または表面活性剤を含有する水溶液に加え、これを攪拌する工程、
d)前記有機溶媒をエバポレーションまたは抽出により除去する工程、
e)粒子を乾燥させる工程
を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子を調製するための方法。
【請求項13】
a)薬物を水溶液に溶解させる工程、
b)チオエステル結合を含有する前記ポリマーを含有する有機溶液にこれを加える工程、
c)結果として生ずる混合物を混合する工程、
d)結果として生ずる混合物を界面活性剤または表面活性剤を含有する水溶液に加え、これを攪拌する工程、
e)有機溶媒をエバポレーションまたは抽出により除去する工程、および
f)粒子を乾燥させる工程
を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子を調製するための方法。
【請求項14】
医療分野における使用のための請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項15】
薬物送達における使用のための請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項16】
薬物送達系としての請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子の使用。
【請求項17】
皮膚科、筋骨格、腫瘍科、脈管、整形外科、眼科、脊椎、腸、肺、鼻、または耳における請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子の使用。
【請求項18】
懸濁剤、カプセル剤、チューブ剤、ペレット錠、(ラピッドプロトタイピングにより作製された)足場、コーティング剤、貼付剤、エアゾール剤、複合材料もしくはプラスター剤、(インサイチュー形成性の)ゲル剤、またはエアゾール剤における請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子の使用。
【請求項19】
前記粒子が、注入、噴霧、移植または吸収され得る、請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子の使用。
【請求項20】
ヒトなどの哺乳動物における疾患の処置に有用な薬の製造のための請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子の使用。

【公表番号】特表2011−518812(P2011−518812A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505535(P2011−505535)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055086
【国際公開番号】WO2009/130332
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】