説明

チオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】得られる(メタ)アクリレートに濁りや着色の問題がなく、さらに活性エネルギー線硬化型組成物の成分として使用した場合、硬化物が透明性に優れ、高屈折率かつ高光線透過率を両立できるチオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートの製造方法及び活性エネルギー線硬化型組成物の提供。
【解決手段】スルホキシド還元性金属含有量が1重量%以下であるチオビスフェノール(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸をエステル化反応させるか、又は前記化合物(a)若しくは化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸ハライドをエステル化反応させる下記式(1)で表される(メタ)アクリレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートの製造方法に関するものであり、(メタ)アクリレートの製造方法の技術分野に属するものである。又、得られる(メタ)アクリレートは、活性エネルギー線硬化型組成物の成分として使用できるため、活性エネルギー線硬化型組成物の技術分野にも属する。さらに、得られる(メタ)アクリレートは着色が少ないうえ、得られる硬化物も低着色であるため、活性エネルギー線硬化型組成物の成分として、特にレンズシート、反射防止膜、及びプラスチックレンズ等の光学材料の技術分野で有用なものである。
【背景技術】
【0002】
チオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートは、高屈折率を有する反応性材料として知られている(例えば、特許文献1〜3)。又、一般的な(メタ)アクリレート材料と比べて吸水率の低い硬化物が得られることから、寸法変化の小さいシート形成材としても用いられることが知られている(特許文献4)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−139454(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−052488(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2005−132490(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2002−293826(特許請求の範囲)
【0004】
しかしながら、チオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートは有用であるものの、実際には工業的に入手することが困難である。
その理由の一つは、原料の4,4’−チオビスフェノール(以下、単に「チオビスフェノール」という)の問題がある。
即ち、従来のチオビスフェノールは経済性に問題を有するうえ、これを使用してチオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートを製造した場合、最終的に得られる(メタ)アクリレートが、その硬化物を光学材料として使用する場合、透明性及び光線透過率が不十分なためである。
【0005】
近年、チオビスフェノールの製造方法として、フェノール類と二塩化スルホキサイドを反応させ、一旦チオビスフェノールのスルホキサイドを製造した後、還元性金属を用いて還元する製造方法が検討されている(非特許文献1)。
【0006】
この方法では、チオビスフェノールのスルホキサイドの還元で、亜鉛粉又は酸化亜鉛が使用されているが、このような還元性が強い金属を反応系に添加することにより、製造工程での製品の着色を抑えることができる。
しかしながら、本発明者の検討の結果では、この方法で得られたチオビスフェノールを原料としてチオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートを製造すると、生成物に濁りが発生し易ったり、又はエステル化反応中に生成物が着色したり、さらには得られた(メタ)アクリレートを用いて硬化物を製造すると、この硬化物が使用環境において着色する等といった問題が発生するという問題を有していた。
【0007】
【非特許文献1】Tassinari.,Gazz. Chim. Ital.; 20, 363 (1890)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、得られる(メタ)アクリレートに濁りや着色の問題がなく、さらに活性エネルギー線硬化型組成物の成分として使用した場合、得られる硬化物が透明性に優れ、高屈折率かつ高光線透過率を両立できるチオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートの製造方法及び活性エネルギー線硬化型組成物を見出すため鋭意検討を行ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、チオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートの原料として、非特許文献1記載の製造方法で得られたチオビスフェノールを検討した。その結果、当該チオビスフェノール自体は着色が少ないものの、これを出発原料として(メタ)アクリレートSを製造すると、(メタ)アクリレートSの着色や濁りが大きいものとなることを見出した。
本発明者は、この原因が、還元反応で使用した残存する金属の影響により、製品に着色や濁りを生じたり、硬化物の物性に影響を及ぼしたのではないかと推測した。
この知見に基づき、原料チオビスフェノール中の還元性金属の含有量を特定値以下とすれば、着色等の問題のないチオビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートを製造できることを見出し、本発明をなしたのである。
【0010】
本発明は、スルホキシド還元性金属含有量が1重量%以下である4,4’−チオビスフェノール(a)〔以下、化合物(a)という〕のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸をエステル化反応させるか、又は前記化合物(a)若しくは化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸ハライドをエステル化反応させる後記一般式(1)で表される(メタ)アクリレート〔以下、(メタ)アクリレートSという〕の製造方法及び(メタ)アクリレートSを含む活性エネルギー線硬化型組成物に関する。
以下、本発明を詳細に説明する。
尚、本明細書においては、アクリレート又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表し、アクリル酸又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、濁りや着色の問題がなく(メタ)アクリレートSを製造することができる。さらに、当該(メタ)アクリレートSを活性エネルギー線硬化型組成物の成分として使用した場合、得られる硬化物が透明性に優れ、高屈折率かつ高光線透過率を両立できる光学特性に優れるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.(メタ)アクリレートS
本発明の目的物である(メタ)アクリレートSは、下記式(1)で表される(メタ)アクリレートである。
【0013】
【化1】

【0014】
〔式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R5及びR6は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表し、l及びmは、それぞれ0〜4の整数を表す。〕
【0015】
(メタ)アクリレートSのR5及びR6において、アルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
(メタ)アクリレートSのR1及びR3としては、組成物が硬化性に優れるものとなるため、いずれも水素原子が好ましい。R2及びR4としては、いずれも水素原子の化合物が、得られる硬化物が高屈折率のものとなるため好ましい。R5及びR6としては、いずれも水素原子の化合物が、得られる硬化物が高屈折率となるため好ましい。l及びmについては、それぞれ0のもの又はそれぞれ1の化合物が、得られる硬化物が高屈折率のものとなるため好ましい。
【0016】
好ましい具体例としては、下記の化合物等が挙げられる。
(1)R1〜R6が水素原子の例
l及びmがそれぞれ0である4−(4’−アクリロイルフェニルチオ)フェノキシアクリレート
l及びmがそれぞれ1である4−(4’−アクリロイルエトキシフェニルチオ)フェノキシエチルアクリレート
(2)R1、R3がメチル基、R2〜R6が水素原子の例
l及びmがそれぞれ0である4−(4’−メタクリロイルフェニルチオ)フェノキシメタクリレート
l及びmがそれぞれ1である4−(4’−メタクリロイルエトキシフェニルチオ)フェノキシエチルメタクリレート
(3)R1、R3が水素原子、R2、R4がメチル基、R5、R6が水素原子の例
l及びmがそれぞれ0である4−(4’−アクリロイルフェニルチオ)フェノキシアクリレート
l及びmがそれぞれ1である4−(4’−アクリロイルプロポキシフェニルチオ)フェノキシプロピルアクリレート
(4)R1〜R4がメチル基、R5、R6が水素原子の例
l及びmがそれぞれ0である4−(4’−メタクリロイルフェニルチオ)フェノキシメタクリレート
l及びmがそれぞれ1である4−(4’−メタクリロイルエトキシフェニルチオ)フェノキシエチルメタクリレート
【0017】
これらの中でも、硬化性に優れることから、4−(4’−アクリロイルフェニルチオ)フェノキシアクリレート、4−(4’−アクリロイルエトキシフェニルチオ)フェノキシエチルアクリレート、4−(4’−アクリロイルプロポキシフェニルチオ)フェノキシプロピルアクリレートがより好ましい。
【0018】
2.化合物(a)
本発明では、スルホキシド還元性金属(以下、単に還元性金属という)含有量が1重量%以下である4,4’−チオビスフェノール(a)〔化合物(a)〕を使用する。さらに還元性金属含有量としては、500重量ppm以下が好ましく、より好ましくは250重量ppm以下である。還元性金属含有量が1重量%を超えると、得られる(メタ)アクリレートSに濁りや着色が発生したり、さらに活性エネルギー線硬化型組成物の成分として使用した場合、得られる硬化物の光学物性が低下してしまう。
還元性金属としては、スルホキシドを還元してSにできる金属であれば良い。還元性金属は、主に化合物(a)の製造で使用された還元剤に由来するものであり、具体的には、亜鉛、ニッケル、リチウム等が挙げられる。
本発明において、還元性金属含有量は、蛍光X線測定により得られた値をいう。
【0019】
化合物(a)としては、粗チオビスフェノールから還元性金属を除去したものでも良いが、還元性金属を使用しないで製造されたものが、入手容易で、前記精製工程が不要であるため好ましい。
【0020】
化合物(a)としては、還元性金属を使用しないものであれば、種々の方法で製造されたものが使用できる。
具体的には、二塩化イオウとフェノールとを反応させて製造されたものを挙げることができる。
当該製造方法は、常法に従い反応させて得られたものを使用することができる。例えば、下記非特許文献2、特許文献5〜同9が知られている。
【0021】
【非特許文献2】Mahfouz et al., J.Agric. Food. Chem.; 17, 917 (1969)
【特許文献5】特開昭51−34134号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開昭58−216153号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開昭62−138466号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開平1−213260号公報(特許請求の範囲)
【特許文献9】USP3390190号公報(特許請求の範囲)
【0022】
さらに、生産性に優れ、品質安定性に優れるとの理由で、ホルムアミドの存在下に、二塩化イオウとフェノールとを反応させて製造されたものが好ましい。
当該製造方法は、特許文献10に記載されている。原料、反応条件等は、特許文献10に従って製造されたものが好ましい。
【0023】
【特許文献10】特開平05−262719号公報(特許請求の範囲)
【0024】
3.エステル化反応
本発明は、化合物(a)を使用して、以下のいずれかの方法でエステル化する製造方法である。
(1)化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸のエステル化反応〔以下、エステル化(1)という〕
(2)化合物(a)若しくは化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸ハライドのエステル化〔以下、エステル化(2)という〕
【0025】
3-1.化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物
化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物としては、エチレンオキサイド付加物及びプロピレンオキサイド付加物が好ましい。
化合物(a)へのアルキレンオキサイド付加の割合としては、化合物(a)に対して1〜4モルが好ましい。
化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物は、常法に従い化合物(a)へアルキレンオキサイドを付加反応させ製造することができる。付加反応の方法は特に限定されず、例えば以下の特許文献に記載された方法に準じて製造することができる(特許文献11〜15)。
【0026】
【特許文献11】特開昭50−105688号公報(特許請求の範囲)
【特許文献12】特開昭58−46034号公報(特許請求の範囲)
【特許文献13】特開2000−86562号公報(特許請求の範囲)
【特許文献14】特開2002−155005号公報(特許請求の範囲)
【特許文献15】特開2004−123615号公報(特許請求の範囲)
【0027】
3-2.エステル化(1)
エステル化(1)では、化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸をエステル化反応させる。
当該反応は常法に従えば良く、化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸を、有機溶媒中で、酸触媒及びラジカル重合禁止剤の存在下に攪拌・混合する方法等が挙げられる。
【0028】
化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物に対する(メタ)アクリル酸の使用量は特に限定されるものではないが、エステル化反応の効率や反応生成物の精製の容易性を考慮すればアルコール分子1モルに対して、2.1〜4モル、好ましくは2.2〜2.5モルの範囲で用いられる。
【0029】
酸触媒としては、原料として用いる(メタ)アクリル酸よりも酸性度が大きいものであれば特に制限されない。好ましいものとしては、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸等の無機酸;ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリクロロ酢酸、シュウ酸及びギ酸等の有機酸又はそれらの塩;陽イオン交換樹脂等の固体酸;塩化亜鉛、塩化スズ、塩化第二鉄、塩化第二銅及び硫酸第二銅等のルイス酸;並びに活性白土等を挙げることができる。
これらの中でも、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸又はp−トルエンスルホン酸ソーダが好ましい。
【0030】
酸触媒の使用量は、一般的なエステル化反応における使用量と同じで良く、本発明で使用される化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物1モルに対して、0.0001〜0.1モルが好ましく、0.001〜0.05モルがより好ましい。
【0031】
ラジカル重合禁止剤としては、ラジカルを捕捉しうる化合物であれば特に制限されない。好ましいものとして、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、エトキシハイドロキノン、メチルハイドロキノン、フェノチアジン、t−ブチルカテコール、次亜リン酸等、従来より知られている通常のラジカル重合禁止剤が使用される。これらのラジカル重合禁止剤は単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。通常は、(メタ)アクリル酸に対して10〜10000ppmの範囲で使用する事が好ましく、100〜5000ppmがより好ましい。
【0032】
有機溶媒としては、原料として使用される不飽和カルボン酸と反応するもの、例えば、アルコール類やアミン類等を除けば特に限定されるものではない。本発明においては反応の進行に伴って生成する水を反応系外に留去することによって反応が促進される事から、系内で生成した水を系外に容易に留去できる溶媒、すなわち、水に不溶であり、なおかつ水と共沸するような有機溶媒が好ましい。このようなものの例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、キュメン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等を挙げることができる。これらのなかで、水と近い沸点を有し、水との共沸性が良く、しかも安価で比較的環境への負荷が少ないトルエンが特に好ましく使用される。
【0033】
有機溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、通常は(メタ)アクリル酸とアルコールの合計重量に対して、5重量倍以下であり、好ましくは0.8〜2重量倍以下である。
【0034】
本発明において、エステル化反応は、通常70〜150℃、好ましくは100〜135℃の範囲で行われる。反応は通常、常圧下で行われるが、用いる有機溶媒の沸点によっては、反応温度が前記温度範囲内になるように、加圧又は減圧下で行っても良い。本発明において反応時間は特に限定されるものではないが、通常、1〜20時間の範囲で行われる。
【0035】
3-3.エステル化(2)
エステル化(2)では、化合物(a)若しくは化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸ハライドのエステル化反応させる。エステル化(2)は、(メタ)アクリレートSにおいて、l及びmが0の化合物を製造する場合において好ましい方法である。
化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物としては、前記と同様のものが挙げられる。
(メタ)アクリル酸ハライドとしては、(メタ)アクリル酸クロライド及び(メタ)アクリル酸ブロマイドが挙げられ、入手の容易さ及び反応物の着色がない点から、(メタ)アクリル酸クロライドが好ましい。
【0036】
化合物(a)若しくは化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物に対する(メタ)アクリル酸ハライドの割合としては、目的に応じて適宜設定すれば良く、化合物(a)又は化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物分子1モルに対して(メタ)アクリル酸ハライドを2.1〜4モルが好ましく、より好ましくは2.1〜2.8モルである。
【0037】
反応は常法に従えばよい。好適な一例としては、攪拌装置、温度計及び滴下装置を備えた反応器に、化合物(a)若しくは化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物、有機溶媒及び触媒をあらかじめ加えておき、冷却しながらアルカリ水溶液を追加する。
ついで、反応液が冷却されたことを確認したら(メタ)アクリル酸ハライドを滴下装置で滴下し、滴下終了後、冷却を保ちながら攪拌する方法が挙げられる。
【0038】
有機溶媒としては、トルエン、シクロヘキサン及びアセトニトリル等が挙げられる。
触媒としては、トリエチルアミン等の三級アミンやトリブチルアンモニウムブロマイド等の四級アンモニウム塩等が挙げられる。
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。
反応温度、(メタ)アクリル酸ハライドの滴下時間、(メタ)アクリル酸ハライド滴下終了の攪拌時間は、目的に応じて適宜設定すれば良い。反応温度は、10℃以下とすることが好ましい。(メタ)アクリル酸ハライドの滴下時間は、30分〜数時間が好ましい。(メタ)アクリル酸ハライド滴下終了の攪拌時間は、1〜数時間が好ましい。
【0039】
3-4.後処理
エステル化反応終了後、得られた反応混合物に水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を加えて反応系を中和した後に、有機層と水層とを分離し、得られた有機層から有機溶媒を減圧留去するか、あるいは得られた有機層をそのまま、又は得られた有機層を濃縮した後に、得られた(メタ)アクリレートに対する貧溶媒を加えて晶析する方法によって(メタ)アクリレートを回収することができる。
【0040】
本発明のエステル化においては、用いる(メタ)アクリル酸の使用量が少ない場合は、反応が完結していない場合に、単官能(メタ)アクリレートが副成する。しかしながら、これらの成分もラジカル重合活性を持つため、通常は除去することなく混合物のまま使用することができる。
【0041】
4.用途
本発明の製造方法により得られた(メタ)アクリレートSは、濁りや着色の問題がなく、種々の硬化性組成物の成分として使用することができる。
好ましくは、活性エネルギー線硬化型組成物の配合成分として、光学レンズ、印刷インキ、コーティング剤及び接着剤等の各種工業用途に好適に使用できる。さらに、活性エネルギー線硬化型組成物の成分として使用した場合、組成物から得られる硬化物が、透明性に優れ、高屈折率かつ高光線透過率得られるため、光学用途により好ましく使用できる。
【0042】
(メタ)アクリレート系組成物としては、活性エネルギー線硬化型組成物に好ましく使用できる
活性エネルギー線硬化型組成物として使用する場合には、光重合開始剤、前記(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレート〔その他(メタ)アクリレート〕を配合することができる。以下、それぞれの成分の具体例について説明する。
【0043】
その他(メタ)アクリレートとしては、1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物〔以下モノ(メタ)アクリレートという〕及び2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物〔以下ポリ(メタ)アクリレートという〕等が挙げられる。
【0044】
モノ(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニルアクリレート等の脂環式モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら以外にも、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、マレイミド(メタ)アクリレート及びグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
ポリ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート等の2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート、並びにペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これら以外にも、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラ(メタ)アクリレート等の4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートも使用可能である。
【0046】
又、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマーも使用することができる。
【0047】
可視光線又は紫外線硬化型組成物とする場合、組成物に光重合開始剤を配合する。尚、電子線硬化型組成物とする場合は、光重合開始剤を必ずしも配合する必要はない。
【0048】
光重合開始剤の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン及びN,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン及び4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン;並びに2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
光重合開始剤には、必要に応じて光増感剤を併用することができる。光増感剤としては、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、トリエチルアミン及びトリエタノールアミン等が挙げられる。
【0049】
前記成分以外にも、必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、無機フィラー、有機フィラー、光安定剤、酸化防止剤及び紫外線吸収剤等を配合することもできる。又、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤及び重合禁止剤等を少量添加してもよい。
【実施例】
【0050】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。
【0051】
○実施例1
化合物(a)として、フェノールと二塩化イオウの反応により製造されたものを使用した。当該チオビスフェノールは、蛍光X線分析〔理学電機(株)製、System3270Eを使用〕チオビスフェノール中の元素分析を行なった結果、還元性金属は検出されなかった。
ディーンスターク管、冷却管、温度計及び攪拌棒を備えた3L容量3つ口フラスコにトルエン820mL、メタンスルホン酸40g(0.416モル)、メトキシハイドロキノン0.3g、チオビスフェノールのエチレンオキサイド付加物〔式(1)において、l及びmがそれぞれ1の化合物〕700g(2.29モル)、アクリル酸530g(7.36モル)を仕込み、400mmHgの減圧下、攪拌しながら、110℃まで昇温し、5時間反応させた。
反応終了後、反応液を室温に冷却し、酸価の0.9倍量の20%水酸化ナトリウム水溶液で2回中和した後に、5%硫安水溶液100質量部で2回洗浄した。次いで減圧下、80℃でトルエンを留去した。
このときガスクロマトグラフィーで反応に用いたトルエン残量を調べたところ全く検出されなかった。得られたアクリレートの重量は872g(収率92%)であった。
【0052】
得られた生成物は、融点:45℃、液体クロマトグラフィーによる純度96%であり、
1H NMRスペクトル(270MHz、測定溶媒CDCl3)の帰属の結果、式(1)において、R1〜R6がそれぞれ水素原子、l及びmがそれぞれ1である化合物であることが同定された。
【0053】
○実施例2
温度計、滴下ロート及び攪拌棒を取り付けた2Lフラスコに、実施例1と同様の原料である化合物(a)240g、重合防止剤であるジtertブチル−ヒドロキシトルエン(BHT)0.07g、トルエン350g、シクロヘキサン900g及びテトラブチルアンモニウムブロマイド16gを加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。
全ての成分が均一に溶解したところで、25%水酸化カリウム水溶液700gをフラスコ内が10℃を越えないように時間をかけて滴下した。ついで、内温が0〜5℃になったところで、トルエン150gに溶解させた200gのアクリル酸クロライドを1時間かけて滴下した。滴下終了後、5℃にてさらに1時間反応させた。
反応終了後、水酸化カリウム水溶液を取り除き、反応液の1/6重量の水で洗浄した。ついで、20%硫酸水素ナトリウム水溶液100gで2回洗浄した。次いで減圧下、80℃でトルエンおよびシクロヘキサンを留去した。
このときガスクロマトグラフィーで反応に用いたトルエン残量を調べたところ全く検出されなかった。得られたアクリレートの重量は320g(収率89%)であった。
得られた生成物を実施例1と同様の方法で分析した結果、式(1)において、R1〜R6がそれぞれ水素原子、l及びmがそれぞれ0である化合物であることが同定された。
【0054】
○比較例1
化合物(a)として、フェノールと塩化チオニルと反応させた後、亜鉛により還元して製造されたものを使用した。当該チオビスフェノールは、実施例1と同様の蛍光X線分析の結果から、1.77重量%の亜鉛を含むものであった。
実施例1において、チオビスフェノールのエチレンオキサイド付加物〔式(1)においてl及びmがそれぞれ1の化合物〕として、前記チオビスフェノールから製造されたものを使用する以外は実施例1と同様の方法でエステル化反応を行った。
反応終了後、実施例1と同様に精製を行った。
このときガスクロマトグラフィーで反応に用いたトルエン残量を調べたところ全く検出されなかった。得られたアクリレートの重量は806g(収率85%)であった。
得られた生成物を実施例1と同様に分析した結果、式(1)において、R1〜R6がそれぞれ水素原子、l及びmがそれぞれ1である化合物であることが同定された。
【0055】
○比較例2
比較例1と同じ化合物(a)を用いて、実施例2と同様の方法で製造を行った。得られたアクリレートの重量は310g(収率86%)であった。
得られた生成物を実施例1と同様の方法で分析した結果、式(1)において、R1〜R6がそれぞれ水素原子、l及びmがそれぞれ0である化合物であることが同定された。
【0056】
○評価
実施例1及び2、比較例1及び2により製造されたアクリレートSについて、下記の方法に従い色調及び濁度を測定した。
又、得られたアクリレートSを使用し、下記の方法に従い活性エネルギー線硬化型組成物を調整し、下記条件で硬化させた。得られた硬化物について、下記の方法に従い光線透過率を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0057】
・活性エネルギー線硬化型組成物の調製・硬化
得られたアクリレートSの100重量部を使用し、あらかじめ80℃に保った乾燥機中で、固体状の光重合開始剤〔1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、チバスペシャリティ(株)製イルガキュア184〕2重量部を15分かけて加熱溶解させ、常法に従い攪拌・混合し、紫外線硬化型組成物を調整した。
得られた組成物を、バーコーターを用いて、室温にてOPPフィルム上に膜厚30μmに塗布した。これを、コンベアスピード10m/分、ランプ高さ10cm、出力160W/cmの高圧水銀ランプにて、紫外線照射を2回行い、硬化させた。
【0058】
・評価方法
(1)色調
ミノルタ(株)(現コニカミノルタ(株))製分光測色計CM-500を用いて、得られたアクリレートの色調(a*,b*)を評価した。測定は光路長20mmで行なった。a*は+に値が大きいほど赤みが強いことを示し、−に値が大きいほど緑みが強いことを示している。値が小さいほど色の偏りが小さいことを表している。b*は+に値が大きいほど黄色みが強いことを示し、−に値が大きいほど青みが強いことを示している。値が小さいほど色の偏りが小さいことを表している。又、得られた硬化物フィルムについては、村上色彩技術研究所製高速積分球式分光透過率測定器DOT−3Cを使用して色調(a*,b*)を評価した。
【0059】
(2)濁度
得られたアクリレートの濁度を、日本電色(株)製ヘイズメーターNDH−2000にて測定した。測定には光路長50mmのセルを使用した。値が大きいほど製品の濁りが大きいことを示している。
【0060】
(3)光線透過率
硬化物の光線透過率(以下単に透過率という)を、日本分光(株)製V−550により測定し、400nmでの透過率を評価した。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1及び2の結果より、アクリレートSを製造する原料として、還元性金属をほどんど含まないチオビスフェノールを使用した場合は、得られるアクリレートSが、色調が低く、濁りのないものであり、さらに、さらにその硬化物は、光線透過率に優れるものであった。
一方、亜鉛等金属を1.77%含むチオビスフェノールを使用した比較例1及び2では、得られるアクリレートSが色調、濁りに問題があるものであり、さらにその硬化物は、光線透過率が不十分なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、(メタ)アクリレートの製造に使用することができる。又、得られる(メタ)アクリレートSは、活性エネルギー線硬化型組成物の配合成分として、光学レンズ、印刷インキ、コーティング剤及び接着剤等の各種工業用途に好適に使用できる。特にその硬化物は、透明性に優れ、高屈折率でかつ光線透過率も良好であり、透明性、高屈折率及び高光線透過率が要求されるレンズシート及びプラスチックレンズ等の光学部材に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホキシド還元性金属含有量が1重量%以下である4,4’−チオビスフェノール(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸をエステル化反応させるか、又は前記化合物(a)若しくは化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸ハライドをエステル化反応させる下記一般式(1)で表される(メタ)アクリレートの製造方法。
【化1】

〔式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R5及びR6は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表し、l及びmは、それぞれ0〜4の整数を表す。〕
【請求項2】
前記化合物(a)が、スルホキシド還元性金属を使用しないで製造されたものである請求項1記載の(メタ)アクリレート製造方法。
【請求項3】
前記化合物(a)が、フェノールと二塩化イオウを反応させ得られたものである請求項2記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項4】
前記化合物(1)が、R1〜R6がいずれも水素原子であり、l及びmが0又は1である化合物である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項5】
下記(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化型組成物。
○(メタ)アクリレート:スルホキシド還元性金属含有量が1重量%以下である4,4’−チオビスフェノール(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸をエステル化反応させるか、又は前記化合物(a)若しくは化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸ハライドをエステル化反応させて得られた前記一般式(1)で表される(メタ)アクリレート。
【請求項6】
請求項5記載の組成物を含む光学材料用活性エネルギー線硬化型組成物。

【公開番号】特開2008−137938(P2008−137938A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325300(P2006−325300)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】