説明

チオフェン化合物およびチオフェン重合体ならびにそれらの製造方法

【課題】軽量かつ低コストの導電体材料、ならびに、そのような導電性材料の製造に好適に用いることのできる化合物およびその製造方法の提供。
【解決手段】下記式(1)で表わされるチオフェン化合物および該チオフェン化合物を重合したチオフェン重合体。


(上記式(1)中、R1は、各々独立に、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基であり、nは1〜5の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学、電気、電子工業の分野で利用し得る導電性材料用有機化合物並びにその重合体を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラや携帯電話などの電子デバイス、リチウムイオン電池のような2次電池において、軽量化、薄膜化が進んでおり、それを目的とした電極や配線の軽量化、薄膜化および高屈曲性が求められている。
【0003】
従来、電極、配線には金、銅、アルミニウム、リチウムのような金属が用いられてきた。しかしこれらの金属は密度が高い為、軽量化が難しく、また屈曲性が悪い為、屈曲を繰り返すと断線する課題が残っていた。これらの課題を克服する為にポリアニリン、ポリチオフェンやポリピロールのような導電性高分子の応用の試みがあるが(特許文献1〜2)、十分な導電性を得ることができず、また導電性高分子の溶解性の乏しさから膜形成性の課題が残っている。透明酸化物であるITOと樹脂とのハイブリッドの応用の試みがあるが(特許文献3、4)、導電性とコスト高という課題が残っている。PEDOT−PSS水溶液の応用の試みがあるが(非特許文献1)、その溶液はコロイド状であり、均一な塗布膜を形成するのが難しく、またその製法はイオン交換工程や分散処理工程などが必要で、煩雑でありコスト高の課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−57411号公報
【特許文献2】特開平8−231862号公報
【特許文献3】特開平7−219697号公報
【特許文献4】特開2000−123658号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】2005 AIMCAL Fall Technical Conference and 19th International Vacuum Web Coating Conference October 16−20, 2005, Myrtle Beach, South Carolina Session 5: Advances In Technology
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情を鑑みなされたものであり、その目的は、軽量かつ低コストの導電体材料、およびそのような導電性材料の製造に用いることのできる化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[8]を提供するものである。
[1]下記式(1)で表わされるチオフェン化合物。
【0008】
【化1】

(上記式(1)中、R1は、各々独立に、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基であり、nは1〜5の整数である。)
[2]上記式(1)中、R1は水素原子であり、nは2である、上記[1]に記載のチオフェン化合物。
[3]上記[1]または[2]に記載のチオフェン化合物を重合させて得られる、チオフェン重合体。
[4]下記式(2)で表わされる構造単位を有する、チオフェン重合体。
【0009】
【化2】

(上記式(2)中、R1は、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基である。Z1およびZ2は、水素原子であるか、または該Z1またはZ2を有するチオフェン環とスルフィド結合(−S−)を介して隣接する他のチオフェン環に含まれるZ2またはZ1と共に1つの単結合を形成している。nは1〜5の整数である。)
【0010】
[5]上記[3]または[4]に記載のチオフェン重合体を含有する導電材料。
[6]下記式(3)で表わされる化合物と、下記式(4)で表わされる化合物および下記式(5)で表わされる化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物と、下記式(6)で表わされる化合物とを反応させて、下記式(1)で表わされるチオフェン化合物を得る工程を含む、チオフェン化合物の製造方法。
【0011】
【化3】

(上記式(3)中、R1は、上記式(1)中のR1と同義であり、Xはハロゲン原子を示す。)
【0012】
【化4】

(上記式(4)中、Xは、各々独立に、ハロゲン原子を示す。)
【0013】
【化5】

(上記式(5)中、Xは、各々独立に、ハロゲン原子を示し、mは1〜4の整数を示す。)
【0014】
【化6】

(上記式(6)中、R2は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を示す。)
【0015】
【化1】

(上記式(1)中、R1は、各々独立に、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基であり、nは1〜5の整数である。)
[7]下記式(1)で表わされるチオフェン化合物を重合して、下記式(2)で表わされる構造単位を有する重合体を得る工程を含む、チオフェン重合体の製造方法。
【0016】
【化1】

(上記式(1)中、R1は、各々独立に、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基であり、nは1〜5の整数である。)
【0017】
【化2】

(上記式(2)中、R1は、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基である。Z1およびZ2は、水素原子であるか、または該Z1またはZ2を有するチオフェン環とスルフィド結合(−S−)を介して隣接する他のチオフェン環に含まれるZ2またはZ1と共に1つの単結合を形成している。nは1〜5の整数である。)
[8]下記式(5)で表わされるチオフェン化合物。
【0018】
【化5】

(上記式(5)中、Xは、各々独立に、ハロゲン原子を示し、mは1〜4の整数を示す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明により、軽量かつ低コストの導電体材料、ならびに、そのような導電性材料の製造に好適に用いることのできる化合物およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明について詳細に説明する。
まず、本発明のチオフェン化合物について説明する。
本発明のチオフェン化合物は、下記式(1)で表わされる化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)である。
【0021】
【化1】

(上記式(1)中、R1は、各々独立に、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基であり、nは1〜5の整数である。)
【0022】
1が表わす炭素数1〜20の1価の有機基としては、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基、酸素原子および/または窒素原子と炭素数1〜12の1価の炭化水素基とを含む基、ならびに酸素原子および/または窒素原子と炭素数1〜12の1価のハロゲン化炭化水素基とを含む基を挙げることができる。
【0023】
炭素数1〜20の1価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖および分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基ならびに炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0024】
前記直鎖および分岐鎖の炭化水素基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基およびn−ヘプチル基等が挙げられる。
【0025】
炭素数3〜20の脂環式炭化水素基の好適な具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロへキシル基等のシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基およびシクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基などが挙げられる。当該脂環式炭化水素基のチオフェン環への結合部位は、脂環上のいずれの炭素でもよい。
【0026】
前記炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基およびナフチル基等が挙げられる。当該芳香族炭化水素基のチオフェン環への結合部位は、芳香族環上のいずれの炭素でもよい。
【0027】
1が表わす炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基としては、上記炭素数1〜20の炭化水素基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基を挙げることができる。
【0028】
1が表わす酸素原子と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、エーテル結合と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基、カルボニル基と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基およびエステル基と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基等を挙げることができる。
【0029】
エーテル結合と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、例えば、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数2〜12のアルキニルオキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基および炭素数1〜12のアルコキシアルキル基などを挙げることができる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、プロペニルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基およびメトキシメチル基等が挙げられる。
【0030】
また、カルボニル基と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、炭素数2〜20のアシル基等を挙げることができる。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基およびベンゾイル基等が挙げられる。
【0031】
エステル基と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、炭素数2〜12のアシルオキシ基等が挙げられる。具体的には、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、イソプロピオニルオキシ基およびベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
窒素原子と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、イミダゾール基、トリアゾール基、ベンズイミダゾール基およびベンズトリアゾール基等が挙げられる。
酸素原子および窒素原子と炭素数1〜12の炭化水素基とを含む基としては、具体的には、オキサゾール基、オキサジアゾール基、ベンズオキサゾール基およびベンズオキサジアゾール基等が挙げられる。
【0033】
1が表わす酸素原子および/または窒素原子と炭素数1〜12の1価のハロゲン化炭化水素基とを含む基としては、上記酸素原子および/または窒素原子と炭素数1〜12の1価の炭化水素基とを含む基の炭化水素基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基を挙げることができる。
【0034】
nは、2であることがより好ましい。特に、R1が水素原子で、nが2であると、該チオフェン化合物を重合させて得られた重合体を用いて導電体材料を形成した際に体積固有抵抗が低い導電体材料が得られるという点で好ましい。
【0035】
上記式(1)で表わされる本発明のチオフェン化合物は、下記式(3)で表わされる化合物(以下、化合物(3)ともいう。)と、下記式(4)で表わされる化合物(以下、化合物(4)ともいう。)および下記式(5)で表わされる化合物(以下、化合物(5)ともいう。)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、下記式(6)で表わされる化合物(以下、化合物(6)ともいう。)とを反応させる工程(a)により得ることができる。
【0036】
【化3】

(上記式(3)中、R1は、上記式(1)中のR1と同義であり、Xはハロゲン原子を示す。)
【0037】
【化4】

(上記式(4)中、Xは、各々独立に、ハロゲン原子を示す。)
【0038】
【化5】

(上記式(5)中、Xは、各々独立に、ハロゲン原子を示し、mは1〜4の整数を示す。)
式(3)〜(5)中のXが表わすハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0039】
【化6】

(上記式(6)中、R2は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基を示す。)
【0040】
化合物(3)としては、具体的には、3−クロロチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−クロロ−4−メチルチオフェン、3−ブロモ−4−メチルチオフェン、3−ヨード−4−メチルチオフェン、3−クロロ−4−エチルチオフェン、3−ブロモ−4−エチルチオフェン、3−ヨード−4−エチルチオフェン、3−クロロ−4−メトキシチオフェン、3−ブロモ−4−メトキシチオフェン、3−ヨード−4−メトキシチオフェンなどを挙げることができる。
【0041】
化合物(4)としては、具体的には、3,4−ジクロロチオフェン、3,4−ジブロモチオフェン、3,4−ジヨードチオフェンなどを挙げることができる。
化合物(6)としては、具体的には、ビス(メチルフェニルスルホニル)スルフィド、ビス(フェニルスルホニル)スルフィド、ビス(フルオロフェニルスルホニル)スルフィドなどを挙げることができる。上記式(7)で表わされる化合物は、Chemistry Letters, 2007−2010 (1982)を参考に合成することができる。
【0042】
上記工程(a)において、化合物(3)の使用量と化合物(4)および化合物(5)の使用量の合計とのモル比は、(化合物(3)のモル数/(化合物(4)のモル数+化合物(5)のモル数))として、通常2〜10、好ましくは2〜5である。
【0043】
上記工程(a)は、触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、下記式(7)で表わされる化合物およびリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛などの金属を挙げることができる。触媒の使用量は、化合物(4)および化合物(5)から選ばれる少なくとも一種の化合物1molに対して、通常は、1〜5mol、好ましくは1〜3molである。
【0044】
【化7】

(上記式(7)中、R3は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基、Mはアルカリ金属を示す。)
3が表わす炭素数1〜20の1価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖および分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基ならびに炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0045】
前記直鎖および分岐鎖の炭化水素基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基およびn−ヘプチル基等が挙げられる。
【0046】
炭素数3〜20の脂環式炭化水素基の好適な具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロへキシル基等のシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基およびシクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基などが挙げられる。当該脂環式炭化水素基のアルカリ金属Mへの結合部位は、脂環上のいずれの炭素でもよい。
【0047】
前記炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基およびナフチル基等が挙げられる。当該芳香族炭化水素基のアルカリ金属Mへの結合部位は、芳香族環上のいずれの炭素でもよい。
【0048】
3が表わす炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基としては、上記炭素数1〜20の炭化水素基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基を挙げることができる。
【0049】
Mで表わされるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどを挙げることができる。
上記工程(a)は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレンを挙げることができ、好ましくはジエチルエーテルである。
【0050】
上記工程(a)の反応条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は−150〜50℃、好ましくは−100〜0℃であり、反応時間は、通常は0.1〜10時間、好ましくは0.2〜5時間である。
【0051】
また、化合物(5)は、具体的には、化合物(4)および化合物(6)を反応させる工程(工程(i))により得ることができる。
上記工程(i)において、化合物(4)と化合物(6)とのモル比は、(化合物(6)のモル数/化合物(4)のモル数)として、通常2〜10、好ましくは2〜5である。
【0052】
上記工程(i)は、触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、下記式(7)で表わされる化合物およびリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛などの金属を挙げることができる。触媒の使用量は、化合物(4)1molに対して、通常は、1〜5mol、好ましくは1〜3molである。
【0053】
【化7】

(上記式(7)中、R3は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基、Mはアルカリ金属を示す。)
3が表わす炭素数1〜20の1価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖および分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基および炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0054】
前記直鎖および分岐鎖の炭化水素基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基およびn−ヘプチル基等が挙げられる。
【0055】
炭素数3〜20の脂環式炭化水素基の好適な具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロへキシル基等のシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基およびシクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基などが挙げられる。当該脂環式炭化水素基のアルカリ金属Mへの結合部位は、脂環上のいずれの炭素でもよい。
【0056】
前記炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基およびナフチル基等が挙げられる。当該芳香族炭化水素基のアルカリ金属Mへの結合部位は、芳香族環上のいずれの炭素でもよい。
【0057】
3が表わす炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基としては、上記炭素数1〜20の炭化水素基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基を挙げることができる。
【0058】
Mで表わされるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどを挙げることができる。
上記工程(i)は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレンを挙げることができ、好ましくはジエチルエーテルである。溶媒の使用量は、化合物(5)1gあたり、通常は、0.1〜100mlであり、好ましくは0.5〜50mlである。
【0059】
上記工程(i)の反応条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は−150〜50℃、好ましくは−100〜0℃であり、反応時間は、通常は0.1〜10時間、好ましくは0.2〜5時間である。
【0060】
上記化合物(1)は、導電性に優れるため、導電材料として好適に使用することができる。
次に、本発明のチオフェン重合体について説明する。
【0061】
本発明のチオフェン重合体は、上記式(1)で表わされるチオフェン化合物を重合させて得られる。
また、本発明のチオフェン重合体は、下記式(2)で表わされる構造単位を有する。
【0062】
【化2】

(上記式(2)中、R1は、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基である。Z1およびZ2は、水素原子であるか、または該Z1またはZ2を有するチオフェン環とスルフィド結合(−S−)を介して隣接する他のチオフェン環に含まれるZ2またはZ1と共に1つの単結合を形成している。nは1〜5の整数である。)
【0063】
1が表わす炭素数1〜20の1価の有機基としては、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基、酸素原子および/または窒素原子と炭素数1〜20の1価の炭化水素基とを含む基、ならびに酸素原子および/または窒素原子と炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基とを含む基を挙げることができる。
【0064】
炭素数1〜20の1価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖および分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基および炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0065】
前記直鎖および分岐鎖の炭化水素基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基およびn−ヘプチル基等が挙げられる。
【0066】
炭素数3〜20の脂環式炭化水素基の好適な具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロへキシル基等のシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基およびシクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基などが挙げられる。当該脂環式炭化水素基の結合部位は、脂環上のいずれの炭素でもよい。
【0067】
前記炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基およびナフチル基等が挙げられる。当該芳香族炭化水素基の結合部位は、芳香族環上のいずれの炭素でもよい。
【0068】
1が表わす炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基としては、上記炭素数1〜20の炭化水素基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基を挙げることができる。
【0069】
酸素原子と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、エーテル結合と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基、カルボニル基と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基およびエステル基と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基等を挙げることができる。
【0070】
エーテル結合と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、例えば、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数2〜12のアルキニルオキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基および炭素数1〜12のアルコキシアルキル基などを挙げることができる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、プロペニルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基およびメトキシメチル基等が挙げられる。
【0071】
また、カルボニル基と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、炭素数2〜20のアシル基等を挙げることができる。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基およびベンゾイル基等が挙げられる。
【0072】
エステル基と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、炭素数2〜12のアシルオキシ基等が挙げられる。具体的には、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、イソプロピオニルオキシ基およびベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0073】
窒素原子と炭素数1〜20の炭化水素基とを含む基としては、イミダゾール基、トリアゾール基、ベンズイミダゾール基およびベンズトリアゾール基等が挙げられる。
酸素原子および窒素原子と炭素数1〜12の炭化水素基とを含む基としては、具体的には、オキサゾール基、オキサジアゾール基、ベンズオキサゾール基およびベンズオキサジアゾール基等が挙げられる。
【0074】
1が表わす酸素原子および/または窒素原子と炭素数1〜12の1価のハロゲン化炭化水素基とを含む基としては、上記酸素原子および/または窒素原子と炭素数1〜12の1価の炭化水素基とを含む基の炭化水素基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基を挙げることができる。
【0075】
本発明のチオフェン重合体は、上記化合物(1)を重合する工程(b)により得ることができる。
重合する方法としては、特に限定されるものではないが、酸化重合、電解重合などを挙げることができる。
【0076】
酸化重合は、通常、酸化剤の存在下で上記化合物(1)を重合することで行われる。酸化剤としては、特に限定されるものではないが、第二塩化鉄(FeCl3)、塩化アルミニウム(AlCl3)、ヨウ素(I2)、五フッ化砒素(AsF5)、五フッ化アンチモン(SbF5)を使用しうることができる。好ましくは第二塩化鉄がコスト、安全の観点で好ましい。酸化剤の使用量は、チオフェン化合物1molに対して、通常は、1〜5mol、好ましくは1〜3molである。
【0077】
上記酸化重合に用いる溶媒としては、酸化重合に用いる溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、クロロベンゼンなどが挙げられ、ジクロロメタンが好ましく用いられる。溶媒の使用量は、チオフェン化合物1gあたり、通常は、0.1〜100mlであり、好ましくは0.5〜50mlである。
【0078】
本発明のチオフェン重合体は、溶媒に溶解させて重合体組成物として用いることができる。溶媒としては、本発明のチオフェン重合体を溶解させることができるものであれば特に限定されるものではないが、極性溶媒が好適に用いられる。極性溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチルー2−イミダゾリジノンを挙げることができる。
【0079】
重合体組成物中の、チオフェン重合体の割合は、通常、0.1〜50重量%であり、好ましくは0.5〜20重量%である。
前記重合体組成物をスピンコート、ワイヤーコート、ディップコート、印刷によって基板やフィルムに塗布することができ、乾燥することによってチオフェン重合体の膜を形成することができる。
【0080】
本発明のチオフェン重合体は、導電性に優れるため、導電材料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例によって、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0082】
(実施例1−1)チオフェン化合物の合成
1000ml三口フラスコに3−ブロモチオフェンを10g(62mmol)、3,4−ジブロモチオフェンを7.5g(30mmol)、脱水ジエチルエーテル200mlを加え、−78℃まで冷却した。1.6Mのn−ブチルリチウム ヘキサン溶液を78ml(124mmol)を滴下し、1時間反応させた。ビス(メチルフェニルスルホニル)スルフィドを21.2g(62mmol)を加え、1時間−70℃で反応させた。室温まで温度を上げ、室温で3日間反応させた。200mlの純水を加え、分液ロートで有機相を取り出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、濃縮することによって赤色オイル状物質を得た。カラム精製し3gの下記式(1a)で表わされる化合物を得た。重クロロホルム中での1H−NMRの結果、7.1ppm〔2H〕,7.16ppm〔2H〕,7.3ppm〔2H〕,7,4ppm〔2H〕に下記式(1a)で表わされる化合物由来のピークを確認した。また、KBr法におけるFT−IRの測定の結果、1463cm-1に炭素−炭素二重結合由来のピーク、698cm-1にスルフィド結合(−S−)由来のピークを有することを確認した。
【0083】
【化8】

(実施例1−2)チオフェン重合体の合成
100mlのサンプル管に(実施例1−1)で得られた化合物を1g、ジクロロメタンを20ml、第二塩化鉄を3g加え、室温で1時間反応させた。反応溶液は黒色の粘調液体に変化した。得られた黒色の粘調液体をKBr法におけるFT−IRの測定の結果、下記式(2a)で表わされる構造単位を有する重合体であることを確認した。なお、FT−IRの測定結果から1400cm-1に炭素―炭素二重結合由来のピーク、1100cm-1にブロードな多環式チオフェン環由来のピーク、880cm-1にスルフィド結合を介さず隣接する他のチオフェン環と結合したチオフェン環由来のピーク、710cm-1にスルフィド結合(−S−)由来のピークを有することを確認した。
【0084】
【化9】

(上記式(2a)中、Z1およびZ2は、水素原子であるか、または該Z1またはZ2はそれぞれ、該Z1またはZ2を有するチオフェン環とスルフィド結合(−S−)を介して隣接する他のチオフェン環に含まれるZ2またはZ1と共に1つの単結合を形成している。)
【0085】
得られた黒色の粘調液体を10mlのフィルターでろ過し、ガラス基板上にスピンコートで塗布した。80℃のホットプレートで10分焼成し、均一な導電基板を得た。得られた導電基板について、三菱化学製ロレスタ−GPを用いて、室温における体積固有抵抗を評価した結果、5.5Ω・cmであった。
【0086】
(実施例2−1)チオフェン化合物の合成
500ml三口フラスコに3.4−ジブロモチオフェンを24.2g(100mol)脱水ジエチルエーテル200mlを加え、−78℃まで冷却した。1.6Mのn−ブチルリチウム ヘキサン溶液を69ml(110mmol)を滴下し、1時間反応させた。ビス(メチルフェニルスルホニル)スルフィドを16.4g(48mmol)を加え、1時間−70℃で反応させた。室温まで温度を上げ、室温で3日間反応させた。100mlの純水を加え、分液ロートで有機相を取り出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、濃縮することによって赤色オイル状物質を得た。カラム精製し11gの下記式(6a)で表わされる化合物(以下、化合物(6a)ともいう。)を得た。重クロロホルム中での1H−NMRの結果、6.9ppm〔4H〕,7.1ppm〔2H〕,7.2ppm〔2H〕,7,3ppm〔2H〕に化合物(6a)由来のピークを確認した。KBr法におけるFT−IRの測定の結果、1463cm-1に炭素−炭素二重結合由来のピーク、698cm-1にスルフィド結合(−S−)由来のピークを有することを確認した。
【0087】
【化10】

次に、1000ml三口フラスコに3−ブロモチオフェンを10g(62mmol)、化合物(6a)を11g(30.8mmol)、脱水ジエチルエーテル200mlを加え、−78℃まで冷却した。1.6Mのn−ブチルリチウム ヘキサン溶液を78ml(124mmol)を滴下し、1時間反応させた。ビス(メチルフェニルスルホニル)スルフィドを21.2gg(62mmol)を加え、1時間−70℃で反応させた。室温まで温度を上げ、室温で3日間反応させた。200mlの純水を加え、分液ロートで有機相を取り出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、濃縮することによって赤色オイル状物質を得た。カラム精製し3gの下記式(1b)で表わされる化合物を得た。
【0088】
【化11】

(実施例2−2)
100mlのサンプル管に(実施例2−1)で得られた化合物を1g、塩化メチレンを20ml、第二塩化鉄を3g加え、室温で1時間反応させた。反応溶液は黒色の粘調液体に変化した。得られた黒色の粘調液体をKBr法におけるFT−IRの測定の結果、下記式(2b)で表わされる構造単位を有する重合体であることを確認した。なお、FT−IRの測定結果から、1400cm-1に炭素―炭素二重結合由来のピーク、1100cm-1にブロードな多環式チオフェン環由来のピーク、880cm-1にスルフィド結合を介さず隣接する他のチオフェン環と結合したチオフェン環由来のピーク、710cm-1にスルフィド結合(−S−)由来のピークを有することを確認した。
【0089】
10mlのフィルターでろ過し、ガラス基板上にスピンコートで塗布した。80℃のホットプレートで10分焼成し、均一な導電基板を得た。得られた導電基板について、三菱化学製ロレスタ−GPを用いて、室温における体積固有抵抗を評価した結果、0.1Ω・cmであった。
【0090】
【化12】

(上記式(2b)中、Z1およびZ2は、水素原子であるか、または該Z1またはZ2はそれぞれ、該ZまたはZ2を有するチオフェン環とスルフィド結合(−S−)を介して隣接する他のチオフェン環に含まれるZ2またはZ1と共に1つの単結合を形成している。)
【0091】
(比較例1)
100mlのサンプル管にチオフェンを1g、塩化メチレンを20ml、第二塩化鉄を3g加え、室温で1時間反応させた。反応溶液に黒色沈殿物が発生していた。沈殿物を取り出し、錠剤成型器を用いて錠剤にした。三菱化学製ロレスタ−GPを用いて、室温における体積固有抵抗を評価した結果、150Ω・cmであった。
【0092】
(比較例2)
100mlのサンプル管にピロールを1g、塩化メチレンを20ml、第二塩化鉄を3g加え、室温で1時間反応させた。反応溶液に黒色沈殿物が発生していた。沈殿物を取り出し、錠剤成型器を用いて錠剤にした。三菱化学製ロレスタ−GPを用いて、室温における体積固有抵抗を評価した結果、550Ω・cmであった。
【0093】
(比較例3)
100mlのサンプル管にアニリンを1g、塩化メチレンを20ml、第二塩化鉄を3g加え、室温で1時間反応させた。反応溶液に黒色沈殿物がわずかに発生していた。10mlのフィルターでろ過し、ガラス基板上にスピンコートで塗布した。80℃のホットプレートで10分焼成し、導電基板を得たが、得られた膜はザラツキのある膜であった。三菱化学製ロレスタ−GPを用いて、室温における体積固有抵抗を評価した結果、200Ω・cmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされるチオフェン化合物。
【化1】

(上記式(1)中、R1は、各々独立に、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基であり、nは1〜5の整数である。)
【請求項2】
上記式(1)中、R1は水素原子であり、nは2である、請求項1に記載のチオフェン化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のチオフェン化合物を重合させて得られる、チオフェン重合体。
【請求項4】
下記式(2)で表わされる構造単位を有する、チオフェン重合体。
【化2】

(上記式(2)中、R1は、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基である。Z1およびZ2は、水素原子であるか、または該Z1またはZ2を有するチオフェン環とスルフィド結合(−S−)を介して隣接する他のチオフェン環に含まれるZ2またはZ1と共に1つの単結合を形成している。nは1〜5の整数である。)
【請求項5】
請求項3または4に記載のチオフェン重合体を含有する導電材料。
【請求項6】
下記式(3)で表わされる化合物と、下記式(4)で表わされる化合物および下記式(5)で表わされる化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物と、下記式(6)で表わされる化合物とを反応させて、下記式(1)で表わされるチオフェン化合物を得る工程を含む、チオフェン化合物の製造方法。
【化3】

(上記式(3)中、R1は、上記式(1)中のR1と同義であり、Xはハロゲン原子を示す。)
【化4】

(上記式(4)中、Xは、各々独立に、ハロゲン原子を示す。)
【化5】

(上記式(5)中、Xは、各々独立に、ハロゲン原子を示し、mは1〜4の整数を示す。)
【化6】

(上記式(6)中、R2は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を示す。)
【化1】

(上記式(1)中、R1は、各々独立に、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基であり、nは1〜5の整数である。)
【請求項7】
下記式(1)で表わされるチオフェン化合物を重合して、下記式(2)で表わされる構造単位を有する重合体を得る工程を含む、チオフェン重合体の製造方法。
【化1】

(上記式(1)中、R1は、各々独立に、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基であり、nは1〜5の整数である。)
【化2】

(上記式(2)中、R1は、水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基である。Z1およびZ2は、水素原子であるか、または該Z1またはZ2を有するチオフェン環とスルフィド結合(−S−)を介して隣接する他のチオフェン環に含まれるZ2またはZ1と共に1つの単結合を形成している。nは1〜5の整数である。)
【請求項8】
下記式(5)で表わされるチオフェン化合物。
【化5】

(上記式(5)中、Xは、各々独立に、ハロゲン原子を示し、mは1〜4の整数を示す。)

【公開番号】特開2012−97148(P2012−97148A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243702(P2010−243702)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】