説明

チオフェン化合物の製造方法

【課題】機能性材料等を製造する際の原料として有用なチオフェン化合物を簡便に且つ収率良く得ることができる方法を提供する。
【解決手段】遷移金属触媒の存在下で、特定のジアセタール化合物に硫黄を反応させて、チオフェン化合物を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチオフェン化合物の製造方法に関する。チオフェン化合物は、導電性ポリマー等の機能性材料を製造する際の重要な原料として使用されている。本発明は、かかるチオフェン化合物の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チオフェン化合物の製造方法として、下記の1)〜4)の工程を経る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。1)ナトリウムエトキシドの存在下に、ジエトキシチオジグリコレートとジエチルオキザレートとを反応させて、2,5−カルボエトキシ−3,4−ジヒドロキシチオフェンを得る工程。2)炭酸カリウムの存在下に、前記の1)で得られた2,5−カルボエトキシ−3,4−ジヒドロキシチオフェンに1,2−ジブロモエタンを反応させて、2,5−カルボエトキシ−3,4−エチレンジオキシチオフェンを得る工程。3)前記の2)で得られた2,5−カルボエトキシ−3,4−エチレンジオキシチオフェンを水酸化ナトリウムで加水分解する工程。4)前記の3)で加水分解したものを脱炭酸する工程。しかし、かかる従来法には、チオフェンの製造に複雑な多くの工程を要するため、手間がかかり、製造効率が悪いという問題がある。
【0003】
前記のような問題を解決するチオフェン化合物の製造方法として、α−ジオン化合物にアルコールを反応させてジアセタール化合物を得た後、かかるジアセタール化合物に硫黄を反応させてチオフェン化合物を得る方法も提案されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、かかる従来法には、チオフェン化合物の収率が著しく低いという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Q.Pei, G.Zuccarello, M.Ahiskog, and O.Inganas著、「Polymer」誌、35巻、1347頁、1994年
【非特許文献2】日本化学会第89春季年会講演予稿集II、1181頁、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、チオフェン化合物を簡便に且つ収率良く得ることができる方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定の触媒存在下で、特定のジアセタール化合物に硫黄を反応させる方法が正しく好適であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、遷移金属触媒の存在下で、下記の化1又は化2で示されるジアセタール化合物に硫黄を反応させて、下記の化3又は化4で示されるチオフェン化合物を得ることを特徴とするチオフェン化合物の製造方法に係る。


【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

【0012】
化1〜化4において、
X,Y:水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、トリフルオロメタンスルホニル基、トルエンスルホニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子
,R,R:炭素数1〜12のアルキル基
A:多価アルコールから2個の水酸基を除いた残基
【0013】
本発明に供するジアセタール化合物は、化1又は化2で示されるものであるが、なかでも化1又は化2中のR〜Rが炭素数1〜3のアルキル基であり、またX及びYが水素原子である場合のものが好ましい。
【0014】
本発明に供する遷移金属触媒としては、1)PdCl、PdBr、Pd(OAc)、Pd(acac)、Pd(OCOCF)、Pd(dba)、Pd(PPh)Cl,Pd(PPh、Pd−black、Pd/C等のパラジウム触媒、2)Fe、FeF、Fe、Fe(acac)、FeCl、FeBr等の鉄触媒、3)WCl、WO等のタングステン触媒、4)MoO、MoS、MoS/SiO2等のモリブデン触媒、5)NiCl、NiF、NiCl(dppp)、Ni(acac)、Ni(cod)等のニッケル触媒、6)CoF、CoCl等のコバルト触媒、7)IrCl、IrO、Ir/C等のイリジウム触媒、8)PtCl、PtI、PtCl、PtO、Pt/C等の白金触媒、9)CuCl、CuI、CuI、CuCl、CuSO、CuO、Cu(acac)、CuTC等の銅触媒、10)RhCl(PPh等のロジウム触媒、11)RuCl(PCy等のルテニウム触媒等が挙げられるが、なかでもパラジウム触媒が好ましい。
【0015】
遷移金属触媒存在下での化1又は化2で示されるジアセタール化合物と硫黄との反応は、溶媒系にて行なわれる。用いる溶媒としては、1)ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、2)ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素、3)クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、4)メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール等の脂肪族アルコール、5)ベンジルアルコール等の芳香族アルコール、6)エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多官能アルコール、7)フェノール、カテコール等のフェノール類、8)N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、9)デシルアミン、ドデシルアミン、エチレンジアミン、アニリン等のアミン系溶媒、10)1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、11)ジメチルスルホキシド、12)水等が挙げられ、これらは2種以上を併用することもできる。
【0016】
遷移金属触媒存在下での化1又は化2で示されるジアセタール化合物と硫黄との反応において、遷移金属触媒の使用量は、ジアセタール化合物1モル当たり、0.001モル以上とするのが好ましく、0.01モル以上とするのがより好ましい。また硫黄の使用量は、ジアセタール化合物1モル当たり、0.125〜30モルとするのが好ましく、0.125〜10モルとするのがより好ましい。更に反応を行なうときの溶媒の使用量は、ジアセタール化合物1質量部当たり、1〜100質量部とするのが好ましく、3〜30質量部とするのが好ましい。そして反応温度は、20〜230℃とするのが好ましく、50〜200℃とするのがより好ましい。いずれも、チオフェン化合物の収率を、経済的且つ効率的に、高めるためである。
【0017】
以上説明したような反応により、化3又は化4で示されるチオフェン化合物を得ることができる。具体的には、反応系から、抽出、水洗、乾燥、濃縮等のそれ自体は公知の手段を経て、目的とするチオフェン化合物を分離することができる。分離したチオフェン化合物は、蒸留等のこれもそれ自体は公知の精製手段によりその純度を高めることもできる。
【0018】
本発明により得られるチオフェン化合物は、機能性材料を製造する際の重要な原料として用いられる。特に3,4−エチレンジオキシチオフェンは、ノートパソコンや携帯電話等のコンデンサに使用される導電性ポリマーの原料として有用である。
【発明の効果】
【0019】
以上説明した本発明には、機能性材料等を製造する際の原料として有用なチオフェン化合物を簡便に且つ収率良く得ることができるという効果がある。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0021】
・実施例1
アルゴン気流下で500mL二口ナス型フラスコに、化2で示されるジアセタール化合物として2,3−ジメチル−2,3−ジメトキシ−ジオキサン17.6g(100mmol)、硫黄128.0g(500mmol)及び触媒としてPdCl8.77g(50mmol)を、溶媒としてジクロロベンゼン100mLを用いて加え、加熱還流下、3時間攪拌した。反応終了後、空冷し、濾過して固形分を取り除き、酢酸エチルで抽出した。抽出した有機層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和塩化ナトリウム水溶液とで洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥した後、綿栓ろ過を行い、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製し、化4で示されるチオフェン化合物として3,4−エチレンジオキシチオフェン3.69g(26mmol、収率26%)を得た。
【0022】
・比較例1
アルゴン気流下で、500mL二口ナス型フラスコに、化2で示されるジアセタール化合物として2,3−ジメチル−2,3−ジメトキシ−ジオキサン17.6g(100mmol)及び硫黄128.0g(500mmol)を、溶媒としてジクロロベンゼン100mLを用いて加え、加熱還流下、3時間攪拌した。反応終了後、空冷し、濾過して固形分を取り除き、酢酸エチルで抽出した。抽出した有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和塩化ナトリウム水溶液とで洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥した後、綿栓ろ過を行い、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製したが、目的とする化4で示されるチオフェン化合物としての3,4−エチレンジオキシチオフェンを得ることができなかった。
【0023】
・比較例2
アルゴン気流下で、500mL二口ナス型フラスコに、化2で示されるジアセタール化合物として2,3−ジメチル−2,3−ジメトキシ−ジオキサン17.6g(100mmol)及び硫黄128.0g(500mmol)を、溶媒としてジクロロベンゼン100mLを用いて加え、加熱還流下、3時間攪拌した。反応終了後、空冷し、濾過して固形分を取り除き、酢酸エチルで抽出した。抽出した有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和塩化ナトリウム水溶液とで洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥した後、綿栓ろ過を行い、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製したが、目的とする化4で示されるチオフェン化合物としての3,4−エチレンジオキシチオフェンを得ることができなかった。
【0024】
・比較例3
アルゴン気流下で、50mL二口ナス型フラスコに、N−クロロスクシンイミド(NCS)2.49g(18.8mmol)を入れ、十分に乾燥した後、塩化硫黄1.69g(12.5mmol)を加え、更に溶媒として1,2−ジクロロエタン10mLを加えて、加熱還流下に24時間攪拌した。反応系の温度を室温に戻し、2,3−ジメチル−2,3−ジメトキシ−ジオキサン1.72g(10.0mmol)を、溶媒としてヘキサン5.0mLを用いて加え、更に酢酸ナトリウム1.97g(24.0mmol)を加えて、加熱還流下に20時間攪拌した。撹拌を止め、酢酸エチルを加えて抽出し、抽出分のセライトろ過を行い、ろ液を熱をかけずにロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物を15.24kPa、100℃で減圧蒸留することにより一度精製し、更に薄層クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製して、化4で示されるチオフェン化合物として3,4−エチレンジオキシチオフェン0.028g(0.2mmol、収率2%)を得た。
【0025】
以上の各例の内容及び原料として用いたジアセタール化合物から求めた収率を表1にまとめて示した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果からも明らかなように、本発明によると、機能性材料等を製造する際の原料として有用なチオフェン化合物を簡便に且つ収率良く得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属触媒の存在下で、下記の化1又は化2で示されるジアセタール化合物に硫黄を反応させて、下記の化3又は化4で示されるチオフェン化合物を得ることを特徴とするチオフェン化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(化1〜化4において、
X,Y:水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、トリフルオロメタンスルホニル基、トルエンスルホニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子
,R,R:炭素数1〜12のアルキル基
A:多価アルコールから2個の水酸基を除いた残基)
【請求項2】
ジアセタール化合物が、化1又は化2中のR〜Rが炭素数1〜3のアルキル基であり、またX及びYが水素原子である場合のものである請求項1記載のチオフェン化合物の製造方法。
【請求項3】
触媒が、パラジウム触媒である請求項1又は2記載のチオフェン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−184352(P2011−184352A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50768(P2010−50768)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(509255358)
【出願人】(509256160)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】