説明

チオール修飾高分子誘導体およびその架橋材料

一般式(I)または(II)(式中、RおよびRがそれぞれ、アルキレン基、置換アルキレン基、芳香族基またはポリエーテル基等である)で表されるチオール修飾高分子誘導体、ならびにジスルフィド結合架橋材料およびチオール反応性架橋剤で架橋された材料を開示する。RおよびRは、同一または異なる化学構造を有し、Pは、側鎖カルボキシル基を有する高分子の残基である。チオール修飾高分子誘導体は、分子量1000〜5,000,000を有する。本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体は、フレキシブルな化学構造の側鎖および調節可能な特性を有し、かつ穏やかな反応条件、高い製造歩留まり、高い修飾度、および制御可能な修飾度等の多くの利点を有する。本発明のチオール修飾高分子誘導体から製造される架橋材料は、細胞の付着を防ぐため使用することができ、かつ細胞増殖の基質として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、特にチオール修飾高分子誘導体に関する。さらに、本発明は、チオール修飾高分子誘導体で構成される、ジスルフィド結合およびチオール反応性架橋剤で架橋された材料に関する。
【背景技術】
【0002】
チオール修飾高分子誘導体は、様々な架橋高分子材料等を製造するために様々な小分子薬物およびポリペプチド/タンパク質薬物を化学活性修飾するなど、生物医学において多くの重要な用途を有する。これらの新規な材料は、細胞増殖基質、創傷修復および再生基質、薬物送達担体、創傷被覆材、in situでの細胞カプセル化基質等として使用することができる。これらは生物医学において重要な役割を担う。しかしながらこれまで、数種類のチオール修飾高分子誘導体しか報告されておらず、用途について見込みがあるのはShuらによって報告されているチオール修飾高分子誘導体だけである(非特許文献1)。この種類のチオール修飾高分子誘導体は下記の構造を有する。
【化1】

(式中、Pは高分子の残基である)
【0003】
しかしながら、これらのチオール修飾高分子誘導体の側鎖構造および特性は、単一であり、生物医学における様々な要求を十分に満たすことができない。さらに、これらのチオール修飾高分子誘導体の側鎖は非常に短いため、化学修飾後に更に架橋した場合、そのチオールと他の化学官能基とが衝突する確率が制限され、化学反応性が低下することがある。そのため、側鎖調節可能な分子構造および調節可能な化学的性質を有するチオール修飾高分子誘導体を製造することは極めて重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2004/03716号パンフレット
【特許文献2】中国特許出願第200610118715.2号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shu et al., Biomacromolecules, 3, 1304, 2002
【非特許文献2】Shu et al., Biomaterials 24, 3825, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決する技術的課題の1つは、調節可能な側鎖分子構造および化学的性質を有し、かつ重要な生物医学的用途を有する新規なチオール修飾高分子誘導体類を提供することである。
【0007】
本発明の第2の技術的課題は、チオール修飾高分子誘導体で構成される、ある種類のジスルフィド結合架橋材料を提供することである。
【0008】
本発明の第3の技術的課題は、チオール修飾高分子誘導体で構成され、かつチオール反応性架橋剤により架橋された、ある種類の架橋材料を提供することである。
【0009】
本発明において、側鎖カルボキシル基を有する高分子が出発原料として使用され、かつ新規なチオール修飾高分子誘導体は化学修飾によって合成される。この種類の誘導体は、調節可能な側鎖分子構造および化学的性質を有し、生物医学において重要な用途を有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のチオール修飾高分子誘導体は、下記一般式(I)または(II)で表される。
【化2】

【0011】
式中、RおよびRは、アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、ポリエーテル主鎖等でありうり;RおよびRは同一または異なる化学構造を有することができ;チオール修飾高分子誘導体の分子量は1000〜5000,000である。
【0012】
上記のPは、側鎖カルボキシル基を有する高分子の残基であり、側鎖の少なくとも1つのカルボキシル基はチオールで修飾される。側鎖カルボキシル基を有する高分子としては、多糖、タンパク質、合成高分子等が挙げられる。ここで、多糖としては、コンドロイチン硫酸、デルマタン、ヘパリン、ヘパラン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキトサン等およびその塩が挙げられ;合成高分子としては、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリ酒石酸、ポリグルタミン酸、ポリフマル酸等およびその塩が挙げられ;タンパク質としては、コラーゲンタンパク質、アルカリ性ゼラチン、酸性ゼラチン、アルカリ性遺伝子組換えゼラチン、酸性遺伝子組換えゼラチン、エラスチン、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン等が挙げられる。側鎖カルボキシル基を有する好ましい高分子としては、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、アルギン酸、ヒアルロン酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ性ゼラチン、酸性ゼラチン、アルカリ性遺伝子組換えゼラチン、酸性遺伝子組換えゼラチンが挙げられる。ここで、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒアルロン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)およびアルカリ性ゼラチン、酸性ゼラチンが特に好ましい。
【0013】
上記のアルキレン基は、−(CH−(nは1〜15の整数である)を意味し、好ましいnは1〜8の整数である。
【0014】
上記の置換アルキレン基は、その少なくとも1つの水素原子が、低級アルキル、ヒドロキシル基、アミノ、アルコキシル、フェニル、およびエステル基等によって置換されている、アルキレン基を意味する。
【0015】
上記のアリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基等を意味し、好ましくはフェニレン基を意味する。
【0016】
上記のポリエーテル主鎖は、−[(CHR)O]−(Rは低級アルキルであり、nは1〜10の整数であり、mは1〜500の整数である)の基を意味する。好ましいRは、水素原子であると同時に、nは2、3または4である。
【0017】
上記の低級アルキルは、炭素数1〜8の直鎖または分枝鎖アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、s−ブチル、アミル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等を意味する。炭素数1〜4の直鎖または分枝鎖アルキル、特にメチル、エチルおよびプロピルが好ましい。
【0018】
上記のアルコキシルは、炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖アルコキシル基、例えばメトキシル、エトキシル、プロポキシル、イソ−プロポキシル、ブトキシル、イソブトキシル、t−ブトキシル、s−ブトキシル、ペントキシル、ネオペントキシル、ヘキソキシル(hexoxyl)等を意味する。炭素数1〜4の直鎖または分枝鎖アルコキシル基、特にメトキシルおよびエトキシルが好ましい。
【0019】
上記のエステル基は、−C(O)OR(Rは上記の低級アルキルである)を意味し、好ましくはメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニルおよびブトキシカルボニルを意味する。
【0020】
本発明の好ましい化合物は、RおよびRがそれぞれアルキレン基である化合物である。最も好ましい化合物は、そのRおよびRがそれぞれ、炭素数1〜8のアルキレン基である化合物である。
【0021】
例えば、Pがヒアルロン酸の残基である場合には、本発明におけるチオール修飾高分子誘導体は、以下の化学構造の特徴を有する。
【化3】

【0022】
式中、RおよびRは前記の定義と同様であり;iは0を超える整数であり;jは0以上の整数である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例4における低置換度の誘導体の水素核磁気共鳴スペクトルおよび主要な化学シフトのピーク配置を示す図である(DOを溶媒として使用)。
【図2】本発明の実施例4における高置換度の誘導体の水素核磁気共鳴スペクトルおよび主要な化学シフトのピーク配置を示す図である(DOを溶媒として使用)。
【図3】本発明の実施例20におけるブランクの細胞培養プレートの表面で培養された細胞の形態学的写真である。
【図4】本発明の実施例20におけるPEG−ビス−アクリル酸エステルにより架橋されたヒアルロン酸−ゼラチンヒドロゲルの表面で培養された細胞の形態学的写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体は通常、ヒドラジド/カルボジイミド・カップリング化学法によって製造される。基本原理は以下のとおりである。まず、高分子の側鎖カルボキシル基をカルボジイミドによって活性化して反応性の中間体を形成し、次いでジスルフィド結合を有するジヒドラジドのアミノによってその反応性中間体を求核攻撃して付加物を形成し、最後に、付加物のジスルフィド結合を脱酸素して遊離チオールとし、精製後に生成物を回収する。
【0025】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体を製造するにあたって、ジスルフィド結合を有する以下の2種類の新規なジヒドラジドを、本出願と同一の出願人による出願に係る発明(特許文献2 発明の名称:Dihydrazide compounds, preparation and uses thereof)に従ってまず合成するべきである。
【化4】

【0026】
式中、RおよびRは上記のように定義される。ジスルフィド結合、2つのアミド結合および2つのヒドラジド官能基を特徴とする、ジスルフィド結合を有する、これらの2種類の新規なジヒドラジドは、ジスルフィド結合を有する相当するジカルボン酸またはジスルフィド結合を有するジアミンから製造することができる。本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体を製造するために使用することができる、ジスルフィド結合を有するジヒドラジドの一例の化学構造を以下に示す。
【化5】

【0027】
ここで、化合物(1)は、ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノ二酢酸ジヒドラジド(略称:DGDTPDH)であり;化合物(2)は、ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジメチル酢酸ジヒドラジド(略称:DADTPDH)であり;化合物(3)は、ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジヒドロキシ酢酸ジヒドラジド(略称:DHADTPDH)であり;化合物(4)は、ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジプロピオン酸ジヒドラジド(略称:DPDTPDH)であり;化合物(5)は、ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジブタン酸ジヒドラジド(略称:DBDTPDH)であり;化合物(6)は、ジチオジプロパンジイルジカルボニルジアミノ二酢酸ジヒドラジド(略称:DGDTBDH)であり;化合物(7)は、ジチオジプロパンジイルジカルボニルジアミノジプロピオン酸ジヒドラジド(略称:DPDTBDH)であり;化合物(8)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニル二酢酸ジヒドラジド(略称:DPCDH)であり;化合物(9)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称:DSCDH)であり;化合物(10)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジイソブタン酸ジヒドラジド(略称:DMPCDH)であり;化合物(11)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸ジヒドラジド(略称:DGCDH)であり;化合物(12)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジペンタン酸ジヒドラジド(略称:DACDH)であり;化合物(13)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジヘキサン酸ジヒドラジド(略称:DHCDH)である。
【0028】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体を製造する方法は以下のとおりである。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩によって活性化した後、高分子の側鎖カルボキシル基が、ジスルフィド結合を有するジヒドラジドの1つまたは2つのヒドラジド官能基と反応して付加物を形成し;次いで、メルカプタンアルコール、ジチオスレイトール、水素化ホウ素ナトリウムまたは脱酸素剤によって、付加物のジスルフィド結合を還元して遊離チオールとし、最後に、不純物を除去するために透析精製後に、本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体を回収する。この化学合成経路および化学構造(式中、RおよびRは、アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、ポリエーテル主鎖等でありうる)を以下に示す。
【化6】

【0029】
本発明の一般式(I)または(II)で表される好ましいチオール修飾高分子誘導体は、その式中、RおよびRがそれぞれアルキレン基である高分子誘導体であり、その化学構造を以下に示す。
【化7】

【0030】
式(1)は、RおよびRがそれぞれアルキレン基である一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体の一般化学構造を表す。式(2)は、RおよびRがそれぞれアルキレン基である一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体の一般化学構造を表す(i、j、m、nは1を超える整数である)。
【0031】
本発明の一般式(I)または(II)で表される最も好ましいチオール修飾高分子誘導体は、Rが炭素数2または3のアルキレン基であり、Rが炭素数1〜5のアルキレン基であり、Pがコンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒアルロン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩)、またはアルカリ性ゼラチン、酸性ゼラチンのうちの1つの残基である、高分子誘導体である。その化学構造を以下に示す。
【化8】

ここで、化合物(1)は、ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノ二酢酸ジヒドラジドによって修飾されたチオール修飾高分子誘導体(略称:P−DGDTPDH)であり;化合物(2)は、ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジプロピオン酸ジヒドラジドによって修飾されたチオール修飾高分子誘導体(略称:P−DPDTPDH)であり;化合物(3)は、ジチオジプロパンジイルジカルボニルジアミノ二酢酸ジヒドラジドによって修飾されたチオール修飾高分子誘導体ド(略称:P−DGDTBDH)であり;化合物(4)は、ジチオジプロパンジイルジカルボニルジアミノジプロピオン酸ジヒドラジドによって修飾されたチオール修飾高分子誘導体(略称:P−DADTBDH)であり;化合物(5)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジドによって修飾されたチオール修飾高分子誘導体(略称:P−DSCDH)であり;化合物(6)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸ジヒドラジドによって修飾されたチオール修飾高分子誘導体(略称:P−DGCDH)であり;化合物(7)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジペンタン酸ジヒドラジドによって修飾されたチオール修飾高分子誘導体(略称:P−DACDH)であり;化合物(8)は、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジヘキサン酸ジヒドラジドによって修飾されたチオールチオール修飾高分子誘導体(略称:P−DHCDH)である。
【0032】
分子量およびその分布は、チオール修飾時に著しく変化しない。一般に、本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体の分子量およびその分布は、出発原料(側鎖カルボキシル基を有する高分子)とほぼ同じである。種々の出発原料(側鎖カルボキシル基を有する高分子)は、1000〜5,000,000のかなり幅広い分子量を有し、かなり幅広い分子量分布も有する。例えば、一般にゼラチンの分子量分布は広い。出発原料(側鎖カルボキシル基を有する高分子)の分子量および分布は、チオール修飾のプロセスに影響せず、本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体の製造に影響しない。
【0033】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体は多くの有利な効果を有する。本発明のチオール修飾にヒドラジド・カップリング法を使用することにより、穏やかな製造条件、高い生産速度、高い修飾度、優れた制御性等の顕著な利点が得られる。非特許文献1および特許文献1においてShuらにより報告されているチオール修飾高分子誘導体の側鎖と本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体の側鎖とを比較すると、双方のチオール修飾高分子誘導体がヒドラジド・カップリング法をチオール修飾に使用しているにもかかわらず、本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体の側鎖は、アミド結合が独創的に導入されているために、よりフレキシブルな化学構造およびより調節可能な特性を有する。関連した研究によって、本発明における一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体は、以下の2つの主要な有利な効果を有することが示されている。
【0034】
(1)アミド結合を導入することによって、側鎖の長さおよび構造をフレキシブルに調節することができる。側鎖の長さは、チオールの反応性に非常に影響を及ぼす(非特許文献2)。側鎖が長くなると、末端のチオールと他の反応性官能基との衝突の確率が高くなるため、反応性がさらに大幅に向上する。
【0035】
(2)アミド結合は高求電子性の基である。本発明の化合物の側鎖にアミド結合を導入することによって、末端のチオールのイオン化定数(pKa)は大いに影響を受けるが、これはアミド結合の結合様式に応じて異なる。本発明の一般式(I)のチオール修飾高分子誘導体において、側鎖のアミド結合のカルボニルは、末端チオールに近く、それによって、末端チオールのイオン化が強くなる(pKaが減少する);一方、本発明の一般式(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体については、側鎖のアミド結合の窒素原子が、末端チオールに近く、それによって、末端チオールのイオン化が弱まる(pKaが高まる)。一般に、Shuらによって非特許文献1および特許文献1において発見されている、側鎖のその結合セグメントがアルキレン基(炭素数2または3)であるチオール修飾誘導体と比較すると、本発明の一般式(I)で表されるチオール修飾高分子誘導体のチオールのイオン化定数(pKa)は、約0.1〜0.4減少し、本発明の一般式(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体のチオールのイオン化定数(pKa)は、約0.2〜0.7高まる。したがって、本発明における一般式(I)で表されるチオール修飾高分子誘導体の末端チオールは、活性が高く、本発明における一般式(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体の末端チオールは、安定性が高い。
【0036】
報告されているチオール修飾誘導体と比較して、本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体は、かなり多くの特殊な特性を有する。適切な化学構造の化合物が、実際の用途の要求条件に従って選択される。さらに、ヒアルロン酸(HA)の以下のチオール修飾誘導体が、本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体の有利な効果を説明するために例として挙げられる。
【化9】

【0037】
上記の化合物は、同一の末端チオールセグメント構造を有する。ここで、化合物(a)は、非特許文献1および特許文献1によって報告されている高分子チオール化誘導体であり;化合物(b)は、本発明の一般式(I)で表されるチオール修飾高分子誘導体であり;化合物(c)は、本発明の一般式(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体である。チオール修飾高分子誘導体(b)の反応能力は、化合物(a)よりもはるかに活性であり、ジスルフィド結合架橋ゲルを形成するその能力が約50%増加する。チオール修飾高分子誘導体(c)の反応能力は、化合物(a)よりもはるかに不活性であり、そのチオールの安定性は、1倍を超えて増加する。
【0038】
本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体は、少なくとも1つの側鎖遊離チオールを含有し、適切な条件下で酸化されて、再びジスルフィド結合を形成することができる。酸素、低濃度過酸化水素、ヨウ素、三価鉄イオンおよび他の穏やかな酸化剤によって、遊離チオールがジスルフィド結合を形成することが可能となるため、架橋高分子材料が製造される。ジスルフィド結合の形成は一般に、溶液のpH値に依存し、アルカリ性条件下では、チオールは、高い活性を有する負イオンにイオン化し、空気中の酸素でさえ、ジスルフィド結合の形成を急速に促進することができるが;酸性条件下では、チオールのイオン化は抑制され、反応性が低下し、チオールの安定性が高くなる。本発明の一般式(I)のチオール修飾高分子誘導体のチオールは、中性条件下または弱い酸化剤の作用下でさえ、活性が高く、ジスルフィド結合架橋材料を形成することができる。しかしながら、本発明の一般式(II)のチオール修飾高分子誘導体のチオールは安定性が高く、弱アルカリ性条件下または強い酸化剤の作用下でのみ、ジスルフィド結合架橋材料を迅速に形成する。
【0039】
本発明のチオール修飾高分子誘導体で構成されるジスルフィド結合架橋材料の製造方法は、簡単かつ信頼性があり、その製品はフレキシブルである。通常の製造方法は以下のとおりである。本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体の水溶液または混合水溶液を調製し、中性または弱アルカリ性条件下にて室温で空気中の酸素で酸化することによって、ジスルフィド結合架橋材料を製造し;または弱酸性または酸性条件下にて低濃度過酸化水素、三価鉄イオンおよび他のより強い酸化剤で酸化することによって、ジスルフィド結合架橋材料を製造する。本発明の1種または2種類のチオール修飾高分子誘導体で構成されるジスルフィド架橋材料は、下記一般式(III)、(IV)または(V)で表される。
【化10】

式中、PおよびPは、上記のように定義される側鎖カルボキシル基を有する高分子の残基であり;RおよびRは、RおよびRと同一に定義され;R、R、RおよびRは、同一または異なる化学構造を有しうる。PがPと同じである場合、それは一成分架橋材料であり、PがPと同じではない場合、それは二成分架橋材料である。
【0040】
3種類以上の高分子化合物を連結することによるジスルフィド結合の形成によって、その構造が特徴づけられる、本発明の3種類以上のチオール修飾高分子誘導体で構成されるジスルフィド架橋材料は、一般式(I)または(II)で表される3種類以上のチオール修飾高分子誘導体を使用して製造される。
【0041】
本発明のチオール修飾高分子誘導体で構成され、かつチオール反応性架橋剤によって架橋される架橋材料は、一般式(I)または(II)で表される1種または複数種のチオール修飾高分子誘導体およびチオール反応性架橋剤を使用して製造される。本発明において使用されるチオール反応性官能基としては、マレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリル酸エステル、α,β不飽和メタクリル酸エステル、ハロゲン化プロピオン酸エステル、ハロゲン化プロピオンアミド、ジピリジルジスルフィド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル等が挙げられる。ここで、マレイミド、ビニルスルホン、ヨードプロピオン酸エステル、ヨードプロピオンアミド、ジピリジルジスルフィド等が高いチオール反応性を有する。以下のように、チオールとこれらの官能基との間の化学反応式を説明するために、本発明における一般式(I)で表されるチオール修飾高分子誘導体が例として挙げられる。式中、RおよびRは、アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、またはポリエーテル主鎖等でありうる。
【化11】

【0042】
これらの反応は以下の3種類の反応を含む。(1)チオールと活性化不飽和二重結合との付加反応。この種類の反応に使用することができる官能基としては、マレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリル酸エステル、α,β不飽和メタクリル酸エステル等が挙げられる。(2)チオールと活性化アルキルハロゲンとの置換反応。この種類の反応に使用することができる官能基としては、ヨードプロピオン酸エステル、臭素化プロピオン酸エステル、クロロプロピオン酸エステル、ヨードプロピオンアミド、臭素化プロピオンアミド、クロロプロピオンアミド、ジピリジルジスルフィド等が挙げられる。(3)最後の種類は、チオエステル化反応である。この種類の反応に使用することができる官能基としては、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルなど様々なカルボン酸の活性化エステル等が挙げられる。
【0043】
本発明で使用されるチオール反応性架橋剤は、以下の一般的な化学構造を有する2アーム、3アーム、4アーム、8アーム以上のPEG誘導体など、少なくとも2つの上記の反応官能基を有するポリエチレングリコール(略称:PEG)の誘導体である。
【化12】

【0044】
式中、G、G、G、G、G、G、GおよびGは、上記のチオール反応性官能基、例えばマレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリル酸エステル、α,β不飽和メタクリル酸エステル、ハロゲン化プロピオン酸エステル、ハロゲン化プロピオンアミド、ジピリジルジスルフィド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル等である。それらは、完全に同じ化学構造、または完全に異なる化学構造を有することができ、あるいはそれらの一部は同じ化学構造を有し、その他は異なる化学構造を有する。PEGは、分子量100〜1,000,000を有する、反復単位CHCHOからなる鎖セグメントである。
【0045】
2アームPEGを例として挙げ、本発明で使用される一般的な架橋剤(2アームPEGチオール反応性架橋剤)の化学構造を以下に示す。
【化13】

【0046】
本発明のチオール修飾高分子誘導体で構成され、かつチオール反応性架橋剤によって架橋される架橋材料を製造するための通常の方法は以下のとおりである:一般式(I)または(II)で表される1種または複数種のチオール修飾高分子誘導体を含有する水溶液または混合水溶液を調製し、上記の溶液のpH値を中性に調節し、次いで上記のチオール反応性架橋剤の水溶液を加え、均一に混合し、室温でしばらく静置しておいた後にゲルが形成し、架橋性材料が形成される。本発明の一般式(I)で表されるチオール修飾高分子誘導体のチオールは活性が高く、より迅速に架橋剤と反応する。しかしながら、本発明の一般式(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体のチオールは安定性が高く、よりゆっくりと架橋剤と反応する。
【0047】
1種または2種類のチオール修飾高分子誘導体で構成され、かつ以下のようにチオール反応性架橋剤により架橋される架橋材料の構造を説明するために、本発明における一般式(I)で表されるチオール修飾高分子誘導体および上記の2アームPEGチオール反応性架橋剤を例として挙げる。
【化14】

【0048】
式中、PおよびPは、上記のように定義される側鎖カルボキシル基を有する高分子の残基であり;R、R、RおよびRもまた上記のように定義され;R、R、RおよびRは、同一または異なる化学構造を有しうる。PがPと同じである場合、それは一成分架橋材料であり、PがPと同じではない場合、それは二成分架橋材料である。チオール修飾高分子誘導体で構成され、かつチオール反応性架橋剤によって架橋される架橋材料は、2種類以上の上記の2アームPEGチオール反応性架橋剤で共架橋することによって製造することもできる。さらに、チオール修飾高分子誘導体で構成され、かつチオール反応性架橋剤によって架橋される架橋材料は、1種または複数種のマルチアームPEG誘導体架橋剤(3アームPEG誘導体架橋剤、4アームPEG誘導体架橋剤、8アームPEG誘導体架橋剤等)を使用して製造することもできる。一般式(II)および(I)で表されるチオール修飾高分子誘導体で構成され、かつチオール反応性架橋剤によって架橋された架橋材料は、類似の構造を有する。
【0049】
3種類以上のチオール修飾高分子誘導体で構成され、かつチオール反応性架橋剤によって架橋される架橋材料は、本発明の一般式(I)または(II)で表される3種類以上のチオール修飾高分子誘導体を使用して製造することができる。通常の製造経路は以下のとおりである。最初に、一般式(I)または(II)で表される3種類以上のチオール修飾高分子誘導体の混合溶液を調製し、次いでその溶液のpH値を中性に調節し、1種または複数種の上記のPEGチオール反応性架橋剤を加え、多成分架橋材料が製造される。
【実施例】
【0050】
以下の実施例は、当業者が本発明をより包括的に理解できるようにすることを目的とするものであり、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノ二酢酸ジヒドラジド(略称:DGDTPDH)の合成
1000mlビーカーに、ジチオジプロピオン酸(米国,Aldrich社)10gおよび無水ジメチルホルムアミド50mlを加え、室温で攪拌下にて溶解し、次いでカルボニルジイミダゾール(米国,Aldrich社)17.0gを上記の溶液に添加し、その溶液中で多くのCO気泡と白色の沈殿物が形成する。反応は、減圧下にて室温で3時間行われる。次いで、グリシンエチルエステル塩酸塩(米国,Aldrich社)14.7gを上記の溶液に添加し、1時間攪拌する。その後、エチルエーテル500mlを添加し、1時間静置し、次いで上層の有機相を注意深くデカンテーションで除去し、アルコール100mlおよびヒドラジン水和物10mlを添加し、室温で一晩攪拌する。白色の沈殿生成物を濾過により回収し、無水アルコール200mlで2回洗浄し、減圧下で乾燥させて、わずかに黄色の固形生成物DGDTPDH約8.5gが得られる。収率は約50%である。
【0052】
[実施例2]
低置換度のDGDTPDHにより修飾されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGDTPDH)の合成
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量62〜115万,米国,NovaMatrix FMC BIOPOLYMER社)1gを蒸留水200mlに溶解し、透明な溶液を得る。実施例1で製造されたDGDTPDH1.32gを上記の溶液に添加し、攪拌下にて溶解する。0.1mol/L HCl溶液を添加することによって、溶液のpHを4.75に調節し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(米国,Aldrich社)0.36gを添加し、マグネティックスターラーで攪拌する。十分な0.1mol/L HCl溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを4.75に維持する。溶液の粘度は徐々に高くなり、約15分でゲルが形成する。ゲルが形成した後、静置しておき、室温で2時間反応を行う。次いで、ジチオスレイトール(米国,Diagnostic Chemical Limited社)10gおよび少量の0.1mol/L NaOH溶液を添加し、攪拌する。ゲルは徐々に溶解し、十分な0.1mol/L NaOH溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを8.5に維持する。ゲルが溶解した後、マグネティックスターラーで攪拌しながら、室温で24時間反応を行う。pHが約3.0になるまで、十分な6mol/L HCl溶液を添加する。上記の溶液を透析チューブ(カットオフ分子量3500,米国,Sigma社)に入れる。0.001mol/L HClおよび0.3mol/L塩化ナトリウムを含有する水10L中で5日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。次いで、0.001mol/L HCl溶液10L中でさらに3日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。最後に、透析チューブ中の溶液を回収し、凍結乾燥させて、白色の綿状固形物約0.7gが得られる。
【0053】
[実施例3]
高置換度のDGDTPDHにより修飾されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGDTPDH)の合成
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量62〜115万,米国,NovaMatrix FMC BIOPOLYMER社)1gを蒸留水200mlに溶解し、透明な溶液を得る。実施例1で製造されたDGDTPDH2.64gを上記の溶液に添加し、攪拌下にて溶解する。次いで、0.1mol/L HCl溶液を添加することによって、溶液のpHを4.75に調節し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(米国,Aldrich社)0.96gを添加し、マグネティックスターラーで攪拌する。十分な0.1mol/L HCl溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを4.75に維持する。溶液の粘度は徐々に高くなり、約10分でゲルとなる。ゲルが形成した後、静置しておき、室温で2時間反応を行う。次いで、ジチオスレイトール(米国,Diagnostic Chemical Limited社)10gおよび少量の0.1mol/L NaOH溶液を添加し、攪拌する。ゲルは徐々に溶解し、十分な0.1mol/L NaOH溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを8.5に維持する。すべてのゲルが溶解した後、マグネティックスターラーで攪拌しながら、室温で24時間反応を行う。pHが約3.0になるまで、十分な6mol/L HCl溶液を添加する。上記の溶液を透析チューブ(カットオフ分子量3500,米国,Sigma社)に入れる。0.001mol/L HClおよび0.3mol/L塩化ナトリウムを含有する水10L中で5日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。次いで、0.001mol/L HCl溶液10L中でさらに3日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。最後に、透析チューブ中の溶液を回収し、凍結乾燥させて、白色の綿状固形物約0.7gが得られる。
【0054】
[実施例4]
DGDTPDHにより修飾されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGDTPDH)の特性解析
HA−DGDTPDHの化学構造は以下のとおりである。
【化15】

【0055】
実施例2および3で製造されたHA−DGDTPDHの特性解析は以下の通りである。
1.ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC,移動相として純水を使用し、波長210nmの紫外線で吸収を測定)したところ、小分子不純物のピークは検出されず、実施例2で製造した低置換度のHA−DGDTPDHおよび実施例3で製造した高置換度のHA−DGDTPDHは高度に精製されており、測定装置によって不純物を検出することができないことが示される。
【0056】
2.水素核磁気共鳴(H−NMR,溶媒としてDOを使用)を用いた検出。
スペクトルおよび化学シフトピークの配置を図1および図2に示す。CHNHC(O)CHCHSH、CHNHC(O)CHCHSH、CHNHC(O)CHCHSHの側鎖における3つのメチレンの水素吸収に相当する、HA−DGDTPDHの新たな3つの吸収ピークがδ3.96、2.70、2.56ppmで現れる。その化学シフトが約δ2.8ppmである小さな吸収ピークは、副反応の少量の生成物を表す。
【0057】
ヒアルロン酸のアセチルにおけるメチルの固有吸収ピークを内標準とし、吸収ピークの面積に基づいて、実施例2において低く(27%)、実施例3において高い(59%)、HA−DGDTPDHの置換度を確認する。
【0058】
3.分子量およびその分布の測定(GPCで測定。単分散ヒアルロン酸を用いて標準曲線を調節)
実施例2で製造された低置換度のHA−DGDTPDHに関しては、重量平均分子量(M)は1,020,000であり、数平均分子量(M)は530,000であり、分子量分布は1.92である;実施例3で製造された高置換度のHA−DGDTPDHに関しては、重量平均分子量(M)は1,230,000であり、数平均分子量(M)は580,000であり、分子量分布は2.12である。
【0059】
4.実施例2および実施例3で製造された活性チオールの含有量は、非特許文献1で報告されている改良エルマン(Ellman)法を用いて測定される。実施例2で製造された低置換度のHA−DGDTPDHの側鎖における活性チオールの含有量は、ヒアルロン酸における二糖の繰り返し単位100個当たりチオール基25.4個である。実施例3で製造された高置換度のHA−DGDTPDHの側鎖における活性チオールの含有量は、ヒアルロン酸における二糖の繰り返し単位100個当たりチオール基55.1個である。この結果は、水素核磁気共鳴を用いて検出されたデータとほぼ一致する。
【0060】
[実施例5]
ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジプロピオン酸ジヒドラジド(略称:DPDTPDH)の合成
1000mlビーカーに、ジチオジプロピオン酸(米国,Aldrich社)10gおよび無水ジメチルホルムアミド50mlを加え、室温で攪拌下にて溶解し、次いで、カルボニルジイミダゾール(米国,Aldrich社)17.0gを上記の溶液に添加し、その溶液中で多くのCO気泡と白色の沈殿物が形成される。反応を減圧下にて室温で3時間行う。次いで、アミノプロピオン酸エチルエステル塩酸塩(米国,Aldrich社)14.7gを上記の溶液に添加し、1時間攪拌する。エチルエーテル500mlを添加した後、1時間静置し、次いで上層の有機相を注意深くデカンテーションで除去する。アルコール100mlおよびヒドラジン水和物10mlを添加し、室温で一晩攪拌する。白色の沈殿生成物を濾過により回収し、無水アルコール200mlで2回洗浄し、減圧下で乾燥させて、わずかに黄色の固形生成物DPDTPDH約7.3gが得られる。収率は約40%である。
【0061】
[実施例6]
DPDTPDHにより修飾されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DPDTPDH)の合成および特性解析
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量62〜115万,米国,NovaMatrix FMC BIOPOLYMER社)1gを蒸留水200mlに溶解し、透明な溶液を得る。実施例5で製造されたDPDTPDH1.43gを上記の溶液に添加し、攪拌下にて溶解する。次いで、0.1mol/L HCl溶液を添加することによって、溶液のpHを4.75に調節し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(米国,Aldrich社)0.48gを添加し、マグネティックスターラーで攪拌する。十分な0.1mol/L HCl溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを4.75に維持する。溶液の粘度は徐々に高くなり、約15分でゲルが形成する。ゲルが形成した後、静置しておき、室温で2時間反応を行う。次いで、ジチオスレイトール(米国,Diagnostic Chemical Limited社)12gおよび少量の0.1mol/L NaOH溶液を添加し、攪拌する。ゲルは徐々に溶解し、十分な0.1mol/L NaCl溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを8.5に維持する。すべてのゲルが溶解した後、マグネティックスターラーで攪拌しながら室温で24時間反応を行う。次いで、pHが約3.0になるまで、十分な6mol/L HCl溶液を添加する。上記の溶液を透析チューブ(カットオフ分子量3500,米国,Sigma社)に入れる。0.001mol/L HClおよび0.3mol/L塩化ナトリウムを含有する水10L中で5日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。次いで、0.001mol/L HCl溶液10L中でさらに3日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。最後に、透析チューブ中の溶液を回収し、凍結乾燥させて、白色の綿状固形物約0.7gが得られる。
【0062】
GPC(移動相として純水を使用。波長210nmの紫外線における吸収を測定)を行ったところ、小分子不純物のピークは検出されず、合成されたHA−DPDTPDHは高度に精製されており、測定装置によって不純物を検出することができないことが示される。
【0063】
水素核磁気共鳴(H−NMR,溶媒としてDOを使用)を用いた検出
CHCHNHC(O)CHCHSHおよびCHCHNHC(O)CHCHSHの側鎖における2つのメチレンの水素吸収に相当する、HA−DPDTPDHの新たな2つの吸収ピークがδ3.4、2.66ppmで現れる。CHCHNHC(O)CHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収ピークに、CHCHNHC(O)CHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収ピークがδ2.5ppmで重なる。その化学シフトが約δ2.8ppmである小さな吸収ピークは、副反応の少量の生成物を表す。
【0064】
ヒアルロン酸のアセチルにおけるメチルの固有吸収ピークを内標準とし、吸収ピークの面積に基づいて、合成されたHA−DPDTPDHにおける側鎖の置換度は61%であることを確認する。
【0065】
分子量およびその分布の測定(GPCで測定。単分散ヒアルロン酸を用いて標準曲線を調節)
重量平均分子量(Mw)は1,220,000であり、数平均分子量(Mn)は670,000であり、分子量分布は1.82である。
【0066】
非特許文献1に報告されている改良エルマン法を用いて測定したHA−DPDTPDHの活性チオールの含有量は、ヒアルロン酸における二糖の繰り返し単位100個当たりチオール基53.6個である。この結果は、水素核磁気共鳴を用いて検出された結果よりもわずかに低い。
【0067】
[実施例7]
ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称:DSCDH)の合成
シスタミン二塩酸塩(米国,Aldrich社)100gを蒸留水1500mlに溶解し、透明な溶液を得る。pHが10になるまで十分な4mol/L NaOH溶液を添加する。次いで、マグネティックスターラーで攪拌しながら無水コハク酸(米国,Aldrich社)133gを添加し、同時に、十分な4mol/L NaOHを継続的に添加することによって、溶液のpHを7〜10に維持する。室温で2時間反応させた後、6mol/L HClを溶液に添加し、白色の沈殿生成物を濾過により回収し、2000ml蒸留水で2回洗浄し、減圧下にて乾燥させて、白色の固形生成物ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸(略称:DSC)約150gが得られる。収率は90%を超える。
【0068】
2500ml三つ口丸底フラスコに、DSC100g、無水アルコール1200ml、濃硫酸100滴を加える。窒素雰囲気下にて2時間還流した後、減圧下で溶液を体積200ml未満に濃縮する。次いで、残った溶液を2500ml滴下漏斗に移し、酢酸エチル600mlを添加する。次いで、水500mlで有機相を3回洗浄し、水相を除去し、減圧下で有機相を蒸留して、白色のラード状固形生成物ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジエチルエステル(略称:DSCDE)約93gが得られる。収率は80%を超える。
【0069】
150mlビーカーに、DSCDE10gおよびアルコール80mlを加え、攪拌下で溶解し、次いでヒドラジン水和物(米国,Aldrich社)10mlを添加する。一晩反応させた後、白色沈殿生成物を濾過により回収し、アルコール40mlで4回洗浄する。有機溶媒を換気フード内で室温にて蒸発させ、次いで減圧下で生成物を乾燥させて、白色の固形DSCDH約8gが得られる。収率は75%を超える。
【0070】
[実施例8]
DSCDHにより修飾されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DSCDH)の合成および特性解析
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量62〜115万,米国,NovaMatrix FMC BIOPOLYMER社)1gを蒸留水200mlに溶解し、透明な溶液を得る。実施例7で製造されたDSCDH0.95gを上記の溶液に添加し、攪拌下にて溶解する。次いで、0.1mol/L HCl溶液を添加することによって、溶液のpHを4.75に調節し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(米国,Aldrich社)0.288gを添加し、マグネティックスターラーで攪拌する。十分な0.1mol/L HCl溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを4.75に維持する。溶液の粘度は徐々に高くなり、約10分でゲルが形成する。ゲルが形成した後、静置しておき、室温で2時間反応を行う。次いで、ジチオスレイトール(米国,Diagnostic Chemical Limited社)10gおよび少量の0.1mol/L NaOH溶液を添加し、攪拌する。ゲルは徐々に溶解し、同時に、十分な0.1mol/L NaOH溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを8.5に維持する。すべてのゲルが溶解した後、マグネティックスターラーで攪拌しながら、室温で24時間反応を行う。次いで、pHが約3.0になるまで、十分な6mol/L HCl溶液を添加する。上記の溶液を透析チューブ(カットオフ分子量3500,米国,Sigma社)に入れる。0.001mol/L HClおよび0.3mol/L塩化ナトリウムを含有する水10L中で5日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。次いで、0.001mol/L HCl溶液10L中でさらに3日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。最後に、透析チューブ中の溶液を回収し、凍結乾燥させて、白色の綿状固形物約0.7gが得られる。
【0071】
GPC(移動相として純水を使用。波長210nmの紫外線における吸収を測定)を行ったところ、小分子不純物のピークは検出されず、合成されたHA−DSCDHは高度に精製されており、測定装置によって不純物を検出することができないことが示される。
【0072】
水素核磁気共鳴(H−NMR,溶媒としてDOを使用)を用いた検出
HA−DSCDHの新たな2つの吸収ピークがδ3.26、2.5ppmで現れる。ここで、δ3.26のピークは、CHCHC(O)NHCHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収に相当する。CHCHC(O)NHCHCHSH、CHCHC(O)NHCHCHSHおよびCHCHC(O)NHCHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収の3つのピークがδ2.5ppmで重なる。
【0073】
ヒアルロン酸のアセチルにおけるメチルの固有吸収ピークを内標準とし、吸収ピークの面積に基づいて、合成されたHA−DSCDHにおける側鎖の置換度は38%であることを確認する。
【0074】
非特許文献1に報告されている改良エルマン法を用いて測定されたHA−DSCDHの活性チオールの含有量は、ヒアルロン酸における二糖の繰り返し復単位100個当たりチオール基39.1個である。この結果は、水素核磁気共鳴を用いて検出されたデータとほぼ一致する。
【0075】
[実施例9]
DSCDHにより修飾されたチオール修飾コンドロイチン硫酸誘導体(CS−DSCDH)の合成および特性解析
コンドロイチン硫酸(C型,サメ軟骨由来,米国,Sigma社)1gを蒸留水100mlに溶解し、透明な溶液を得る。実施例7で製造されたDSCDH0.704gを上記の溶液に添加し、攪拌下で溶解する。次いで、0.1mol/L HCl溶液を添加することによって、溶液のpHを4.75に調節し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(米国,Aldrich社)0.192gを添加し、マグネティックスターラーで攪拌する。十分な0.1mol/L HCl溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを4.75に維持し、マグネティックスターラーで攪拌しながら、室温で2時間反応を行う。次いで、ジチオスレイトール(米国,Diagnostic Chemical Limited社)10gおよび少量の0.1mol/L NaOH溶液を添加し、攪拌する。ゲルは徐々に溶解し、同時に十分な0.1mol/L NaOH溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを8.5に維持する。すべてのゲルが溶解した後、マグネティックスターラーで攪拌しながら、室温で24時間反応を行う。次いで、pHが約3.0になるまで、十分な6mol/L HCl溶液を添加する。上記の溶液を透析チューブ(カットオフ分子量3500,米国,Sigma社)に入れる。0.001mol/L HClおよび0.3mol/L塩化ナトリウムを含有する水10L中で5日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。次いで、0.001mol/L HCl溶液10L中でさらに3日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。最後に、透析チューブ中の溶液を回収し、凍結乾燥させて、白色の綿状固形物約0.6gが得られる。
【0076】
GPC(移動相として純水を使用。波長210nmの紫外線における吸収を測定)を行ったところ、小分子不純物のピークは検出されず、合成されたCS−DSCDHは高度に精製されており、測定装置によって不純物を検出することができないことが示される。
【0077】
水素核磁気共鳴(H−NMR,溶媒としてDOを使用)を用いた検出
CS−DSCDHの新たな2つの吸収ピークがδ3.27、2.54ppmで現れる。ここで、δ3.27のピークは、CHCHC(O)NHCHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収に相当する。CHCHC(O)NHCHCHSH、CHCHC(O)NHCHCHSHおよびCHCHC(O)NHCHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収の3つのピークがδ2.54ppmで重なる。
【0078】
ヒアルロン酸のアセチルにおけるメチルの固有吸収ピークを内標準とし、吸収ピークの面積に基づいて、合成されたCS−DSCDHにおける側鎖の置換度は47%であることを確認する。
【0079】
分子量およびその分布の測定(GPCで測定。単分散ヒアルロン酸を使用して標準曲線を調節)
重量平均分子量(M)は38,000であり、数平均分子量(M)は17,000であり、分子量分布は2.23である。
【0080】
非特許文献1に報告されている改良エルマン法を用いて測定されたCS−DSCDHの活性チオールの含有量は、ヒアルロン酸における二糖の繰り返し単位100個当たりチオール基44.2個である。この結果は、水素核磁気共鳴を用いて検出された結果よりもわずかに低い。
【0081】
[実施例10]
DSCDHにより修飾されたチオール修飾ゼラチン誘導体(GEL−DSCDH)の合成および特性解析
ゼラチン(B型,ブタの皮膚由来,米国,Sigma社)1gを蒸留水100mlに溶解し、透明な溶液を得る。実施例7で製造されたDSCDH0.75gを上記の溶液に添加し、攪拌下で溶解する。次いで、0.1mol/L HCl溶液を添加することによって、溶液のpHを4.75に調節し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(米国,Aldrich社)1gを添加し、マグネティックスターラーで攪拌する。十分な0.1mol/L HCl溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを4.75に維持する。溶液の粘度は徐々に高くなり、約10分でゲルとなる。室温で2時間反応を行う。次いで、ジチオスレイトール(米国,Diagnostic Chemical Limited社)10gおよび少量の0.1mol/L NaOH溶液を添加し、攪拌する。ゲルは徐々に溶解し、同時に十分な0.1mol/L NaOH溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを8.5に維持する。すべてのゲルが溶解した後、マグネティックスターラーで攪拌しながら、室温で24時間反応を行う。次いで、pHが約3.0になるまで、十分な6mol/L HCl溶液を添加する。上記の溶液を透析チューブ(カットオフ分子量3500,米国,Sigma社)に入れる。0.001mol/L HClおよび0.3mol/L塩化ナトリウムを含有する水10L中で5日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。次いで、0.001mol/L HCl溶液10L中でさらに3日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。最後に、透析チューブ中の溶液を回収し、凍結乾燥させて、白色の綿状固形物約0.6gが得られる。
【0082】
GPC(移動相として純水を使用。波長210nmの紫外線における吸収を測定)を行ったところ、小分子不純物のピークは検出されず、合成されたGEL−DSCDHは高度に精製されており、測定装置によって不純物を検出することができないことが示される。
【0083】
水素核磁気共鳴(H−NMR,溶媒としてDOを使用)を用いた検出
GEL−DSCDHの新たな2つの吸収ピークがδ3.27、2.54ppmで現れる。ここで、δ3.28のピークは、CHCHC(O)NHCHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収に相当する。CHCHC(O)NHCHCHSH、CHCHC(O)NHCHCHSHおよびCHCHC(O)NHCHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収の3つのピークがδ2.53ppmで重なる。
【0084】
分子量およびその分布の測定(GPCで測定。単分散ヒアルロン酸を使用して標準曲線を調節):重量平均分子量(M)は56,000であり、数平均分子量(M)は21,000であり、分子量分布は2.67である。
【0085】
非特許文献1に報告されている改良エルマン法を用いて測定されたGEL−DSCDHの活性チオールの含有量は、GEL−DSCDH1g当たりチオール基0.57mmol/Lである。
【0086】
[実施例11]
ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸ジヒドラジド(略称:DGCDH)の合成
シスタミン二塩酸塩(米国,Aldrich社)100gを蒸留水1500mlに溶解し、透明な溶液を得る。pHが10になるまで十分な4mol/L NaOH溶液を添加する。次いで、マグネティックスターラーで攪拌しながら、グルタル酸無水物(米国,Aldrich社)152gを添加し、同時に十分な4mol/L NaOHを継続的に添加することによって、溶液のpHを7〜10に維持する。室温で2時間反応させた後、6mol/L HClを溶液に添加し、白色の沈殿生成物を濾過により回収し、2000ml蒸留水で2回洗浄し、次いで減圧下にて乾燥させて、白色の固形生成物ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸(略称:DGC)約155gが得られる。収率は90%を超える。
【0087】
2500ml三つ口丸底フラスコに、DGC100g、無水アルコール1200ml、濃硫酸100滴を加える。窒素雰囲気下にて2時間還流した後、減圧下で溶液を体積200ml未満に濃縮する。次いで、残った溶液を2500ml滴下漏斗に移し、酢酸エチル600mlを添加する。次いで、水500mlで有機相を3回洗浄し、減圧下で有機相を蒸留して、白色のラード状固形生成物ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸ジエチルエステル(略称:DGCDE)約94gが得られる。収率は80%を超える。
【0088】
150mlビーカーに、DGCDE10gおよびアルコール80mlを加え、攪拌下で室温で溶解し、次いでヒドラジン水和物(米国,Aldrich社)10mlを添加する。一晩反応させた後、白色沈殿物を濾過により回収し、アルコール40mlで4回洗浄する。有機溶媒を換気フード内で室温にて蒸発させ、次いで減圧下で生成物を乾燥させて、白色の固形DGCDH約7.1gが得られる。収率は75%を超える。
【0089】
[実施例12]
DGCDHにより修飾されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGCDH)の合成および特性解析
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量62〜115万,米国,NovaMatrix FMC BIOPOLYMER社)1gを蒸留水200mlに溶解し、透明な溶液を得る。実施例11で製造されたDSCDH1.53gを上記の溶液に添加し、攪拌下で溶解する。次いで、0.1mol/L HCl溶液を添加することによって、溶液のpHを4.75に調節し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(米国,Aldrich社)0.48gを添加し、マグネティックスターラーで攪拌する。十分な0.1mol/L HCl溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを4.75に維持する。溶液の粘度は徐々に高くなり、約10分でゲルが形成する。ゲルが形成した後、静置し、室温で2時間反応を行う。次いで、ジチオスレイトール(米国,Diagnostic Chemical Limited社)10gおよび少量の0.1mol/L NaOH溶液を添加し、攪拌する。ゲルは徐々に溶解し、同時に、十分な0.1mol/L NaOH溶液を継続的に添加することによって、溶液のpHを8.5に維持する。すべてのゲルが溶解した後、マグネティックスターラーで攪拌しながら、室温で24時間反応を行う。次いで、pHが約3.0になるまで、十分な6mol/L HCl溶液を添加する。上記の溶液を透析チューブ(カットオフ分子量3500,米国,Sigma社)に入れる。0.001mol/L HClおよび0.3mol/L塩化ナトリウムを含有する水10L中で5日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。次いで、0.001mol/L HCl溶液10L中でさらに3日間透析を行い、透析液を8時間ごとに交換する。最後に、透析チューブ中の溶液を回収し、凍結乾燥させて、白色の綿状固形物約0.7gが得られる。
【0090】
GPC(移動相として純水を使用。波長210nmの紫外線における吸収を測定)を行ったところ、小分子不純物のピークは検出されず、合成されたHA−DGCDHは高度に精製されており、測定装置によって不純物を検出することができないことが示される。
【0091】
水素核磁気共鳴(H−NMR,溶媒としてDOを使用)を用いた検出。HA−DSCDHの新たな2つの吸収ピークがδ3.23、2.56、2.3ppmで現れる。ここで、δ3.23、2.56ppmのピークは、CHCHCHC(O)NHCHCHSHおよびCHCHCHC(O)NHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収に相当する。CHCHCHC(O)NHCHCHSHおよびCHCHCHC(O)NHCHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収の2つのピークがδ2.3ppmで重なる。CHCHCHC(O)NHCHCHSHの側鎖におけるメチレンの水素吸収のピークは、ヒアルロン酸のアセチルにおけるメチルの固有吸収ピークとδ3.23ppmで重なる。
【0092】
ヒアルロン酸のアセチルにおけるメチルの固有吸収ピークを内標準とし、吸収ピークの面積に基づいて、合成されたHA−DGCDHにおける側鎖の置換度は52%であることを確認する。
【0093】
非特許文献1に報告されている改良エルマン法を用いて測定されたHA−DGCDHの活性チオールの含有量は、ヒアルロン酸における二糖の繰り返し単位100個当たりチオール基49.4個である。この結果は、水素核磁気共鳴を用いて検出されたデータとほぼ一致する。
【0094】
[実施例13]
一成分ジスルフィド結合架橋ヒドロゲルの製造
1.ヒアルロン酸のジスルフィド結合架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例3で製造されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGDTPDH)0.1gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。次いで、その溶液を25mlガラスビーカーに移し、室温で12時間静置する。溶液の粘度が徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0095】
2.ゼラチンのジスルフィド結合架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例10で製造されたチオール修飾ゼラチン誘導体(GEL−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。次いで、その溶液を25mlガラスビーカーに移し、室温で12時間静置する。溶液の粘度が徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0096】
[実施例14]
多成分ジスルフィド結合架橋ヒドロゲルの製造
1.ヒアルロン酸−ゼラチンの二成分ジスルフィド結合架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例3で製造されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGDTPDH)0.1gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。本発明の実施例10で製造されたチオール修飾ゼラチン誘導体(GEL−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。上記の2種類の溶液を共に50mLガラスビーカーに移し、10分間マグネティックスターラーで攪拌し、室温で12時間静置する。溶液の粘度が徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0097】
2.コンドロイチン硫酸−ゼラチンの二成分ジスルフィド結合架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例9で製造されたチオール修飾コンドロイチン硫酸誘導体(CS−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。本発明の実施例10で製造されたチオール修飾ゼラチン誘導体(GEL−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。次いで、上記の2種類の溶液を共に50mLガラスビーカーに注ぎ、10分間マグネティックスターラーで攪拌し、室温で12時間静置する。溶液の粘度が徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0098】
3.ヒアルロン酸−コンドロイチン硫酸−ゼラチンの三成分ジスルフィド結合架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例3で製造されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGDTPDH)0.1gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。実施例9で製造されたチオール修飾コンドロイチン硫酸誘導体(CS−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。本発明の実施例10で製造されたチオール修飾ゼラチン(GEL−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。次いで、上記の3種類の溶液を共に50mLガラスビーカーに移し、10分間マグネティックスターラーで攪拌し、室温で12時間静置する。溶液の粘度が徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0099】
[実施例15]
一成分ポリエチレングリコール−ビス−ビニルスルホン架橋ヒドロゲルの製造
1.ヒアルロン酸のPEG−ビス−ビニルスルホン架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例3において製造されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGDTPDH)0.1gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。PEG−ビス−ビニルスルホン(分子量3400,米国,Nektar Therapeutics社)0.1gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)2.5mlに溶解し、透明な溶液を得る。次いで、上記のPEG−ビス−ビニルスルホン溶液2.5mlを上記のHA−DGDTPDH溶液10mlに添加し、即座に30秒間マグネティックスターラーで攪拌し、室温で30分間静置する。溶液の粘度が徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0100】
2.コンドロイチン硫酸のPEG−ビス−ビニルスルホン架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例9において製造されたチオール修飾コンドロイチン硫酸誘導体(CS−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。PEG−ビス−ビニルスルホン(分子量3400,米国,Nektar Therapeutics社)0.1gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)2.5mlに溶解し、透明な溶液を得る。次いで、上記のPEG−ビス−ビニルスルホン溶液2.5mlを上記のCS−DSCDH溶液10mlに添加し、即座に30秒間マグネティックスターラーで攪拌し、室温で30分間静置する。溶液の粘度が徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0101】
3.ゼラチンのPEG−ビス−ビニルスルホン架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例10において製造されたチオール修飾ゼラチン誘導体(GEL−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。PEG−ビス−ビニルスルホン(分子量3400,米国,Nektar Therapeutics社)0.1gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)2.5mlに溶解し、透明な溶液を得る。次いで、上記のPEG−ビス−ビニルスルホン溶液2.5mlを上記のGEL−DSCDH溶液10mlに添加し、即座に30秒間マグネティックスターラーで攪拌し、室温で30分間静置する。溶液の粘度が徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0102】
[実施例16]
多成分PEG−ビス−アクリル酸エステル架橋ヒドロゲルの製造
1.ヒアルロン酸−ゼラチンの二成分PEG−ビス−アクリル酸エステル架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例3において製造されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGDTPDH)0.1gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。本発明の実施例10において製造されたチオール修飾ゼラチン誘導体(GEL−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。PEG−ビス−アクリル酸エステル(分子量3400,米国,Nektar Therapeutics社)0.2gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)5mlに溶解し、透明な溶液を得る。次いで、上記のHA−DGDTPDH溶液10ml、GEL−DSCDH溶液10mlおよびPEG−ビス−アクリル酸エステル溶液5mlを共に50mlガラスビーカーに注ぎ、即座に30秒間マグネティックスターラーで攪拌し、室温で30分間静置する。溶液の粘度は徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0103】
2.コンドロイチン硫酸−ゼラチンの二成分PEG−ビス−アクリル酸エステル架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例9において製造されたチオール修飾コンドロイチン硫酸誘導体(CS−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。本発明の実施例10において製造されたチオール修飾ゼラチン誘導体(GEL−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。PEG−ビス−アクリル酸エステル(分子量3400,米国,Nektar Therapeutics社)0.2gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)5mlに溶解し、透明な溶液を得る。次いで、上記のCS−DSCDH溶液10ml、GEL−DSCDH溶液10mlおよびPEG−ビス−アクリル酸エステル溶液5mlを共に50mlガラスビーカーに移し、即座に30秒間マグネティックスターラーで攪拌し、室温で30分間静置する。溶液の粘度は徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0104】
3.ヒアルロン酸−コンドロイチン硫酸−ゼラチンの三成分PEG−ビス−アクリル酸エステル架橋ヒドロゲルの製造
本発明の実施例3において製造されたチオール修飾ヒアルロン酸誘導体(HA−DGDTPDH)0.1gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。本発明の実施例9において製造されたチオール修飾コンドロイチン硫酸誘導体(CS−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。本発明の実施例10において製造されたチオール修飾ゼラチン誘導体(GEL−DSCDH)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解し、透明な溶液を得る。溶液のpHが7.4になるまで、十分な0.1mol/L NaOHを上記の溶液に添加する。PEG−ビス−アクリル酸エステル(分子量3400,米国,Nektar Therapeutics社)0.3gを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)7.5mlに溶解し、透明な溶液を得る。次いで、上記のHA−DGDTPDH10ml、CS−DSCDH溶液10ml、GEL−DSCDH溶液10mlおよびPEG−ビス−アクリル酸エステル溶液7.5mlを共に50mlガラスビーカーに移し、即座に30秒間マグネティックスターラーで攪拌し、室温で30分間静置する。溶液の粘度は徐々に高くなり、ゲルが形成する。
【0105】
[実施例17]
ヒアルロン酸のジスルフィド結合架橋ヒドロゲルを使用した細胞付着の防止
実施例13に従って、1ml/ウェルで標準24ウェル細胞培養プレートにおいて、ヒアルロン酸のジスルフィド結合架橋ヒドロゲルを製造する。12時間後、75%アルコール溶液に2時間浸すことによって、細胞培養プレート全体を滅菌する。次いで、細胞培養プレートを通常の滅菌生理食塩水で3回浸漬洗浄する。細胞培地(DMEM,10%ウシ血清)1mlおよびNIH 3T3線維芽細胞20,000個を各ウェルに播種する。CO細胞インキュベータ内にて37℃で細胞培養プレートを24時間インキュベートする。線維芽細胞の絶対的大部分が、ヒアルロン酸のジスルフィド結合架橋ヒドロゲルの表面に浮遊しており、細胞は付着および分散できないことが、顕微鏡によって観察される。しかしながら、細胞培養プレートのブランクのウェルにおいて、線維芽細胞は底に付着し、紡錘状である。この結果から、ヒアルロン酸のジスルフィド結合架橋ヒドロゲルは細胞の付着を防ぐことができ、かつ手術後の付着の予防および処置に使用することができることが示される。
【0106】
[実施例18]
細胞付着および細胞増殖の基質とした、ヒアルロン酸−ゼラチンのジスルフィド結合架橋二成分ヒドロゲルの使用
実施例14に従って、1ml/ウェルで標準24ウェル細胞培養プレートにおいて、ヒアルロン酸−ゼラチンのジスルフィド結合架橋二成分ヒドロゲルを製造する。12時間後、75%アルコール溶液に2時間浸すことによって、細胞培養プレート全体を滅菌する。次いで、細胞培養プレートを通常の滅菌生理食塩水で3回浸漬洗浄する。細胞培地(DMEM,10%ウシ血清)1mlおよびNIH 3T3線維芽細胞20,000個を各ウェルに播種する。CO細胞インキュベータ内にて37℃で細胞培養プレートを24時間インキュベートする。ヒアルロン酸−ゼラチンのジスルフィド結合架橋二成分ヒドロゲル表面の細胞の付着および分散は、ブランクの細胞培養プレートと同様であり、細胞は紡錘状である顕微鏡によって観察される。この結果から、ヒアルロン酸−ゼラチンのジスルフィド結合架橋二成分ヒドロゲルは、細胞付着および細胞増殖の優れた基質であることが示される。
【0107】
[実施例19]
ヒアルロン酸のPEG−ビス−ビニルスルホン架橋ヒドロゲルを使用した細胞付着の防止
実施例15に従って、1ml/ウェルで標準24ウェル細胞培養プレートにおいて、ヒアルロン酸−ゼラチンのPEG−ビス−ビニルスルホン架橋ヒドロゲルを製造する。12時間後、75%アルコール溶液に2時間浸すことによって、細胞培養プレート全体を滅菌する。次いで、細胞培養プレートを通常の滅菌生理食塩水で3回浸漬洗浄する。細胞培地(DMEM,10%ウシ血清)1mlおよびNIH 3T3線維芽細胞20,000個を各ウェルに播種する。CO細胞インキュベータ内にて37℃で細胞培養プレートを24時間インキュベートする。線維芽細胞の絶対的大部分が、ヒアルロン酸のPEG−ビス−ビニルスルホン架橋ヒドロゲルの表面に浮遊しており、細胞は付着および分散できないことが、顕微鏡によって観察される。しかしながら、細胞培養プレートのブランク・ウェルにおいて、線維芽細胞は、底に付着し、紡錘状である。この結果から、ヒアルロン酸のPEG−ビス−ビニルスルホン架橋ヒドロゲルは細胞の付着を防ぐことができることが示される。
【0108】
[実施例20]
細胞付着および細胞増殖の基質とした、ヒアルロン酸−ゼラチンの二成分PEG−ビス−アクリル酸エステル架橋ヒドロゲルの使用
実施例16に従って、1ml/ウェルで標準24ウェル細胞培養プレートにおいて、ヒアルロン酸−ゼラチンの二成分PEG−ビス−アクリル酸エステル架橋ヒドロゲルを製造する。12時間後、75%アルコール溶液に2時間浸すことによって、細胞培養プレート全体を滅菌する。次いで、細胞培養プレートを通常の滅菌生理食塩水で3回浸漬洗浄する。細胞培地(DMEM,10%ウシ血清)1mlおよびNIH 3T3線維芽細胞20,000個を各ウェルに播種する。CO細胞インキュベータ内にて37℃で細胞培養プレートを24時間インキュベートする。ヒアルロン酸−ゼラチンの二成分PEG−ビス−アクリル酸エステル架橋ヒドロゲル表面の細胞の付着および分散は、ブランクの細胞培養プレートと同様であり、細胞は紡錘状であることが顕微鏡によって観察される。この結果から、ヒアルロン酸ゼラチンの二成分ポリエチレン−グリコール−ビス−アクリル酸エステル架橋ヒドロゲルは、細胞付着および細胞増殖の優れた基質であることが示される。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明における一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体は、多くの有益な効果を有する。本発明におけるヒドラジド・カップリング法の使用は、穏やかな製造条件、高い生産速度、高い修飾度、優れた制御性等の注目に値する利点を有する。
【0110】
多糖で構成されるジスルフィド結合架橋材料、タンパク質で構成されるジスルフィド結合架橋材料、2種類の多糖で構成されるジスルフィド結合架橋材料、2種類のタンパク質で構成されるジスルフィド結合架橋材料、多糖とタンパク質とで構成されるジスルフィド結合架橋材料等の、様々なジスルフィド結合架橋高分子材料を本発明に従って容易に製造することができる。これらのジスルフィド結合架橋材料は、フィルム、スポンジ、ゲルおよび他の形状に製造することができ、細胞の付着を防ぐために、または細胞増殖の基質として使用することができる。
【0111】
一般に、チオール反応性架橋剤と、本発明の一般式(I)または(II)で表されるチオール修飾高分子誘導体との架橋プロセスは非常に速く、ゲル化速度は、ジスルフィド結合架橋の5倍を超える速度に向上する。これらの材料は、in situでの細胞の包埋等の、生物医学における重要な用途を有する。多糖で構成される架橋材料、タンパク質で構成される架橋材料、2種類の多糖で構成される架橋材料、2種類のタンパク質で構成され架橋材料、多糖とタンパク質とで構成される架橋材料等の様々なチオール反応性架橋剤で架橋される高分子材料を本発明に従って容易に製造することができる。チオール反応性架橋剤で架橋されるこれらの高分子材料は、フィルム、スポンジ、ゲルおよび他の形状に製造することができ、細胞の付着を防ぐために、または細胞増殖の基質として使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)または(II)で表される、分子量が1000〜5,000,000であるチオール修飾高分子誘導体。
【化1】

(式中、RおよびRは、アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、ポリエーテル主鎖等でありうり;Pは、側鎖カルボキシル基を有する高分子の残基である)
【請求項2】
側鎖カルボキシル基を有する前記高分子は、多糖、タンパク質または合成高分子である、請求項1に記載のチオール修飾高分子誘導体。
【請求項3】
前記多糖は、コンドロイチン硫酸、デルマタン、ヘパリン、ヘパラン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキトサンまたはその塩である、請求項2に記載のチオール修飾高分子誘導体。
【請求項4】
前記合成高分子は、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリ酒石酸、ポリグルタミン酸、ポリフマル酸またはその塩である、請求項2に記載のチオール修飾高分子誘導体。
【請求項5】
前記タンパク質は、コラーゲンタンパク質、アルカリ性ゼラチン、酸性ゼラチン、アルカリ性遺伝子組換えゼラチン、酸性遺伝子組換えゼラチン、エラスチン、デコリン、ラミニンまたはフィブロネクチンである、請求項2に記載のチオール修飾高分子誘導体。
【請求項6】
およびRはそれぞれ、アルキレン基である、請求項1に記載のチオール修飾高分子誘導体。
【請求項7】
およびRはそれぞれ、炭素数1〜8のアルキレン基である、請求項6に記載のチオール修飾高分子誘導体。
【請求項8】
請求項1から7に記載の1種または複数種のチオール修飾高分子誘導体で構成される、ジスルフィド結合架橋高分子材料。
【請求項9】
請求項1から7に記載の1種または複数種のチオール修飾高分子誘導体で構成され、かつ少なくとも2つの同一または異なるチオール反応性官能基を有する架橋剤によって架橋された、架橋高分子材料。
【請求項10】
前記架橋剤は、チオール反応性官能基を有する2アーム、3アームおよびそれ以上のアームのPEG誘導体を含み、かつ前記PEG誘導体は、分子量100〜1,000,000を有する、請求項9に記載の架橋高分子材料。
【請求項11】
前記チオール反応性官能基は、マレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリル酸エステル、α,β不飽和メタクリル酸エステル、ハロゲン化プロピオン酸エステル、ハロゲン化プロピオンアミド、ジピリジルジスルフィド、またはN−ヒドロキシスクシンイミドエステルである、請求項10に記載の架橋高分子材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−512433(P2010−512433A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540576(P2009−540576)
【出願日】平成19年9月29日(2007.9.29)
【国際出願番号】PCT/CN2007/002864
【国際公開番号】WO2008/071058
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(509164005)常州百瑞吉生物医▲薬▼有限公司 (3)
【氏名又は名称原語表記】BIOREGEN BIOMEDICAL (CHANGZHOU) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 165 East East Rd., Changzhou, Jiangsu 213025 CHINA
【Fターム(参考)】