説明

チオール選択的水溶性ポリマー誘導体

本発明は、水溶性ポリマー誘導体であって、チオール基、例えばタンパク質のシステイン残基中に含まれるチオール基を選択的に結合するために適したチオール選択性末端を有する誘導体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ポリマー(例えばポリエチレングリコール)のチオール選択的誘導体を製造する方法に関する。本発明は、特に、(i)チオール、保護チオール、又はタンパク質やそれ以外の活性剤のチオール基に結合させるのに適した他の基を、少なくとも一端に備えるポリマーの製造方法、(ii)チオール選択的ポリマーそのもの、(iii)その複合体、(iv)そのようなポリマーの利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの最近の進歩により、現在では治療用タンパク質やそれ以外の生体分子(例えば抗体、抗体フラグメント)を大規模に製造でき、そうした生体分子がより広く利用できるようになっている。残念なことに、潜在的な治療用生体分子の臨床での有効性は、タンパク質分解が早いこと、製造、保管、投与のときに不安定であること、又は免疫原性を持つことのためにしばしば損なわれる。治療用途を目的としてタンパク質やそれ以外の生体分子を投与することには以前から興味が持たれていたため、こうした欠点を克服するためのさまざまな方法が研究されてきた。
【0003】
広く研究されてきた1つの方法は、タンパク質やそれ以外の潜在的な治療用生体分子を修飾して水溶性ポリマー(例えばポリエチレングリコール、すなわち“PEG”)を結合させるというものである(Abuchowski, A.他、J. Biol. Chem.、第252巻(11)、3579ページ、1977年;Davis, S.他、Clin. Exp. Immunol.、第46巻、649〜952ページ、1981年)。PEGで修飾したタンパク質(PEG複合体又はペグ化タンパク質とも呼ばれる)の生物学的性質は、ポリエチレングリコール化されていない対応物と比べて多くの場合に顕著な改善が見られることが示されている(Herman他、Macromol. Chem. Phys.、第195巻、203〜209ページ、1994年)。ポリエチレングリコールで修飾したタンパク質は、タンパク質分解に対する抵抗性が大きくなるために体内の循環時間がより長くなることと、熱安定性が大きくなることがわかっている(Abuchowski, A.他、J. Biol. Chem.、第252巻、3582〜3586ページ、1977年)。生体効率が同様に増大することも他の生体分子(例えば抗体や抗体フラグメント)で観察されている(Chapman, A.、Adv. Drug Del. Rev.、第54巻、531〜545ページ、2002年)。
【0004】
一般に、ポリエチレングリコールを薬その他のものの表面に結合させるには、活性化されたPEG誘導体、すなわち生体分子の求核中心(例えばタンパク質のリジン、システイン、或いは同様の残基)との反応に適した少なくとも1つの活性化された末端を有するPEGを用いる。最もよく利用されるのは、活性化されたPEGとタンパク質のアミノ基(例えばタンパク質のリジン側鎖に存在しているアミノ基)の反応に基づいた方法である。タンパク質のアミノ基との反応に適した活性化末端基を有するポリエチレングリコールとしては、PEG-アルデヒド(Harris, J.M.、Herati, R.S.、POLYm. Prepr. (Am. Chem. Soc. Div. POLYm. Chem.)、第32巻(1)、154〜155ページ、1991年)、無水物の混合物、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボニルイマダゾリド、クロロシアヌレート(Herman S.他、Macromol. Chem. Phys.、第195巻、203〜209ページ、1994年)などが挙げられる。PEGを修飾している間を通じて多くのタンパク質が活性を保持していることがわかっているが、タンパク質のアミノ基を介してポリマーを結合させることが望ましくない場合(例えば特定のリジン残基を誘導体することによってタンパク質が不活化する場合)もある(Suzuki, T.他、Biochimica et Biophysica Acta、第788巻、248〜255ページ、1984年)。したがって、結合用の別の標的アミノ酸(例えばシステイン)を用いて、PEGによりタンパク質を改変する更なる方法を有することは望ましかろう。タンパク質に含まれるシステイン上のチオール基に結合させることには利点がある。すなわち、タンパク質内には一般にリジンよりもシステインが少ないため、チオール含有アミノ酸と結合するときにタンパク質が不活化することが少なくなるという利点である。
【0005】
チオールと選択的に反応する末端基を有するポリエチレングリコール誘導体としては、マレイミド、ビニルスルホン、ヨードアセトアミド、チオール、ジスルフィドなどが挙げられる。これら誘導体はすべて、タンパク質のシステイン側鎖に結合させるのに用いられてきた(Zalipsky, S.、Bioconjug. Chem.、第6巻、150〜165ページ、1995年;Greenwald, R.B.他、Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst.、第17巻、101〜161ページ、2000年;Herman S.他、Macromol. Chem. Phys.、第195巻、203〜209ページ、1994年)。しかしこれら試薬の多くは合成と精製が難しいために広く研究されてこなかった。例えばWoghirenらの方法(Woghiren, C.他、Bioconjugate Chem.、第4巻、314〜318ページ、1993年)は、チオールが保護された特別なPEG試薬を形成するのに一連の合成変換ステップと精製ステップを必要とする。まず最初に、メトキシ-PEGを塩化トシルと反応させた後、反応生成物を精製して対応するトシル-PEGを回収する。次に、トシル-PEGをチオ酢酸塩と反応させて対応するPEG-チオアセテートに変換した後、別の精製ステップを実施する。次にPEG-チオアセテートに対してメタノールでアルコール分解を実施した後、カラム・クロマトグラフィーにより、精製したチオール酸塩を得る。次にこのチオール酸塩をジチオスレイトールで還元し、対応するPEG-チオールにする。その後、得られたPEG-チオールをカラムクロマトグラフィーによって精製する。次に、PEG-チオールを4,4’-ジピリジルジスルフィドと反応させてチオールが保護された形態のものを調製した後、カラムクロマトグラフィーによって精製する。結局、PEGをチオールが保護された形態に変換するWoghirenの方法は、5つの異なる反応ステップと、別の5つの分離精製ステップを必要とするため、この方法や同様の他の合成法は望ましいものではなく、しかも極めて時間がかかることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一官能チオール特異的PEG誘導体を得るための既存の方法の多くにおける別の大きな欠点は、精製ステップが多数あるにもかかわらず、一官能PEG原料に存在しているジオールから生じる二官能PEGを除去できないことである。
【0007】
したがって、高純度の活性化PEG-チオールと他のチオール選択的PEG誘導体を直接的かつ単純に製造する方法、すなわち反応ステップと精製ステップが最少でありながら、PEGセグメントの完全性が維持され(すなわち穏やかな反応条件下で実施され)、しかも高純度のチオール選択的PEG誘導体を高収率で提供する方法が必要とされている。このような方法を出願人が開発したので、以下にさらに詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様として、水溶性ポリマーのチオール選択的誘導体(つまり、チオール選択基、すなわちチオール(例えばチオール、チオラート、保護チオール)と優先的に反応する基を少なくとも一端に有するポリマー)を製造する方法が提供される。さらに詳細には、この方法は、(i)本明細書中で“POLY-E”と表記される水溶性ポリマー・セグメントであって、求電子基(-E)で活性化された末端を有する水溶性ポリマー・セグメント(本明細書中で“POLY-E”と表記される)を含む水溶性ポリマーを用意するステップと、それに続く(ii)そのポリマーを、求核基(-NU)とチオール選択部の両方を含む反応分子と、求電子基と求核基の間の反応を促進するために有効な条件下で反応させて、チオール選択的末端を有する水溶性ポリマー(本明細書では“POLY-S”と表記する(ただし“S”はチオール選択部を意味する))を形成させるステップを含んでいる。反応分子に含まれていてよいチオール選択部としては、チオール、保護チオール、ジスルフィド、マレイミド、ビニルスルホン、ヨードアセトアミド、オルトピリジルジスルフィドなどが挙げられる。
【0009】
本発明の特別な一実施態様では、チオール選択部は、チオール、保護チオール、ジスルフィドからなる群から選ばれる。
【0010】
反応分子に含まれるチオール選択部がジスルフィド結合である場合には、この方法はさらに、POLY-Sの中のジスルフィド結合を還元し、末端にチオール基を有する水溶性ポリマー(本明細書では“POLY-SH”と表記する)を形成するステップをさらに含んでもよい。
【0011】
本発明の一実施態様では、例えばステップ(i)で得られるポリマーが、末端にキャップをされた直線状ポリマー、又は反応性求電子末端を1つだけ持つ活性化された一官能ポリマーである場合には、ステップ(ii)からのPOLY-S生成組成物は、望む置換された一官能POLY-Sを約95%を超えるモル比で含んでいる。この実施態様では、ステップ(i)で用意するポリマーは、ポリアルキレンオキシドジオール及び/又は求電子基で活性化された二官能ポリアルキレンオキシドジオール誘導体の組み合わせが全ポリマー成分の約5%未満含まれるポリアルキレンオキシドであることが好ましい。
【0012】
さらに別の関連した一実施態様では、出発物質のポリマーが、末端がキャップされたポリマー、又は反応性求電子末端を1つだけ持つ活性化された一官能ポリマーである場合には、ステップ(ii)からのPOLY-S生成物は、置換された二官能POLY-Sを約5%未満含んでいる。
【0013】
さらに別の一実施態様では、ステップ(i)のポリマーは、求電子基(-E)としてカルボン酸又は活性化されたカルボン酸誘導体を含む。そのような求電子基としては、カルボン酸、アミド、カルボン酸エステル、炭酸エステル、炭酸、酸ハロゲン化物、無水物などがある。本発明の特別な一実施態様では、ステップ(i)のポリマーは、ポリエチレングリコールのN-ヒドロキシスクシンイミジル・プロピネート又はN-ヒドロキシスクシンイミジル・ブタノエート誘導体である。
【0014】
さらに別の一実施態様では、求電子基(E)はカルボン酸又は活性化されたカルボン酸誘導体であり、POLY-E又はその前駆体を反応ステップの前に精製する。好ましい精製方法としては、化学的な方法やクロマトグラフィー法がある。本発明の方法の好ましい一実施態様では、POLY-Eをカラム・クロマトグラフィーで精製した後に反応ステップを実施する。より特別なさらに別の一実施態様では、POLY-Eをイオン交換クロマトグラフィー(IEC)で精製する。
【0015】
反応分子としては求核基(-NU)がある。適切な求核基としては、第一級アミノ、第二級アミノ、ヒドロキシ、イミノ、チオール、チオエステルと、可能な場合にはこれらの陰イオン対応物が挙げられる。特別な一実施態様では、反応分子は、求核基として第一級アミノ基又は第二級アミノ基を含んでいる。
【0016】
さらに別の一実施態様では、反応分子は、複数の同じ求核基(-NU)を一般に末端基として備える対称なジスルフィド試薬である。この場合、反応ステップにより、中央にジスルフィド結合を有する対称なポリマーが得られる。特別な一実施態様では、求電子基で活性化されたポリマーと反応する分子はシスタミン又はシステアミンである。或いは反応分子は、N-(2-アミノ-エチル)-3-マレイミド-プロピオンアミドである。この反応分子は、場合によってはアミン塩として保護されている。
【0017】
チオール選択部がチオールである場合のさらに別の一実施態様では、本発明の方法は、POLY-Sチオールをタンパク質のチオール基又は保護チオール基と反応させてジスルフィドで結合されたポリマー-タンパク質複合体(本明細書では一般にPOLY-S-S-タンパク質と表記する)を形成するステップをさらに含んでもよい。
【0018】
本発明により、この方法によって作られた、ジスルフィドで結合されたポリマー-タンパク質複合体がさらに提供される。
【0019】
別の態様として、本発明には、上記の方法で製造された、チオール選択的末端を有する水溶性ポリマー(本明細書では一般にPOLY-Sと表記する)が含まれる。具体的なチオール選択基としては、チオール、保護チオール、ジスルフィド、マレイミド、ビニルスルホン、α-ハロアセチル化合物(例えばヨードアセトアミド及びヨードアセテート)、水銀剤、ハロゲン化アリール、ジアゾアセテート、オルトピリジル・ジスルフィドなどが挙げられる。
【0020】
本発明で使用するのに適した水溶性ポリマー・セグメントとしては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロイルモルホリン、ポリオキサゾリン、及びポリオキシエチル化ポリオールなどが挙げられる。
【0021】
本発明の好ましい一実施態様では、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキレン・オキシドである。
【0022】
本発明のポリマーは、末端キャップ基、例えばC1-C20アルコキシ、好ましくは、メトキシ、エトキシ、又はベンジルオキシをさらに含んでもよい。
【0023】
本発明のさらに別の一実施態様では、ポリマー(例えばポリエチレン・グリコール・ポリマー)は、約200ダルトン〜約100,000ダルトン、又は約200ダルトン〜約60,000ダルトン、又は約500ダルトン〜約40,000ダルトンからなる群から選択される公称平均分子量を有する。好ましい一実施態様では、ポリマーは、約20,000〜約40,000ダルトンの範囲の分子量を有する。好ましい1つのポリエチレン・グリコール・ポリマーは、約20,000の分子量を有する。
【0024】
本発明の方法と組成物で使用するのに適したポリマーは、多数の異なる幾何学的形状、例えば、直線構造、分岐構造、フォーク状構造、多アーム構造といった形状を持つことができる。直線構造のポリマーとしては、一官能ポリマー、ホモ二官能ポリマー、及びヘテロ二官能ポリマーがある。
【0025】
さらに別の一実施態様では、本発明で使用するポリマー・セグメントは、加水分解可能な結合を含みうる。
【0026】
本発明のさらに別の態様として、水溶性ポリマーのチオール誘導体を製造するための方法であって、以下のステップを含む方法が提供される。ステップ(i)は、求電子基で活性化されたポリマー(本明細書ではPOLY-L0,1-E(I)と表記する)を用意する操作を含む。この構造において、POLYは水溶性ポリマー・セグメントであり、Lは任意のリンカーであり、ここでL0はリンカーが存在していないことを示し、L1はリンカーが存在していることを示し、Eは求電子基である。ステップ(ii)は、POLY-L0,1-Eと対称なジスルフィド試薬(本明細書ではより具体的に(NU-Y-S-)2(ただし、NUは求核基であり、Yは“NU”とチオール選択基に挟まれた基であり、この場合にはジスルフィドであり、Sはイオウ原子である)と表記する)とを、EとNUの間の反応を促進するために有効な条件下で反応させて、それによりPOLY-L0,1-X-Y-S-S-Y-X-L0,1-POLY((POLY-L0,1-X-Y-S-)2)(II)(ただし、XはEとNUの間の反応によって生じる基である)を形成することを含む。好ましいY基は、アルキレン、置換アルキレン、シクロアルキレン、置換シクロアルキレン、アリール、置換アリールであって、約2〜約10個の炭素原子を含むものからなる群から選ばれる。
【0027】
別の一実施態様では、この方法は、(POLY-L0,1-X-Y-S-)2のジスルフィド結合を還元してPOLY-L0,1-X-Y-SH(III)(ただし“-SH”はチオールである)を形成するステップ(iii)をさらに含んでもよい。
【0028】
ポリマーに含まれる具体的なLとしては、C1-C10アルキルと、置換されたC1-C10アルキルがある。一実施態様では、リンカーは、(CH2)、(CH2)2、(CH2)3、(CH2)4、(CH2)5からなる群から選ばれる。
【0029】
代表的なEとしてはカルボン酸又は活性化されたカルボン酸誘導体、例えばカルボン酸、カルボン酸エステル、アミド、炭酸エステル、炭酸、酸ハロゲン化物、及び無水物などが挙げられる。特別な一実施態様では、Eはスクシンイミジルエステルである。
【0030】
対称なジスルフィド試薬に含まれるNUとしては、アミノ、ヒドロキシ、イミノ、チオールがある。特別な一実施態様では、NUは-NH2である。
【0031】
POLY-L0,1-X-Y-S-S-Y-X-L0,1-POLY((POLY-L0,1-X-Y-S-)2)の中に含まれるX基としては、アミド、カルバメート、炭酸エステル、エーテル、チオエーテルなどがある。
【0032】
一実施態様では、POLYは、-(CH2CH2O)n-CH2CH2-という構造を含む。ただしnは10〜約4,000であり、約20〜約1,000であることが好ましい。
【0033】
さらに別の一実施態様では、POLYは末端キャップをされたポリアルキレン・オキシド、例えばポリエチレングリコールであり、LはL0又は-CH2-であり、EはN-ヒドロキシスクシンイミジル・エステルである。
【0034】
さらに別の一実施態様では、対称なジスルフィド試薬はシスタミンである。ただしNUは第一級アミノであり、Yは-(CH2)2-である。
【0035】
さらに別の態様として、本発明によりポリマー-タンパク質複合体を製造する方法が提供される。この方法は、(i)求電子基で活性化されたポリマー(POLY-L0,1-E(ただしPOLY、L、Eは以前に定義したものである))を用意するステップ、(ii)POLY-L0,1-Eを対称なジスルフィド試薬((NU-Y-S-)2(ただしNU、Y、Sは以前に定義したものである))と、EとNUの間の反応を促進するために有効な条件下で反応させて、POLY-L0,1-X-Y-S-S-Y-X-L0,1-POLY((POLY-L0,1-X-Y-S-)2)(ただしXはEとNUとの反応によって生じる基である)を形成するステップ、(iii)(POLY-L0,1-X-Y-S-)2のジスルフィド結合を還元してPOLY-L0,1-X-Y-SHを形成するステップ、並びに(iv)POLY-L0,1-X-Y-SHをタンパク質のチオール基又は保護チオール基と反応させてタンパク質複合体、POLY-L0,1-X-Y-S-S-タンパク質(V)を形成するステップを含む。
【0036】
上記方法の一実施態様では、タンパク質は治療用タンパク質である。
【0037】
本発明のさらに別の態様として、以下:
POLY-L0,1-C(O)G-Y-S-W (VI)
で表される構造を有する活性化されたポリマーが提供される。
【0038】
構造(VI)において、Gは、O、-NH、-NR2(ただしR2は低級アルキルである)からなる群から選ばれ、そしてS及びWはH又は保護基である。残る文字は、以前に定義した通りである。構造(VI)において、-C(O)G-は、“X”の特別な一実施態様である。
【0039】
活性化されたポリマーで使用するリンカーL1としては、1〜10個の炭素原子の脂肪族リンカーを含む。具体的なリンカーとしては、-(CH2)、-(CH2)2、-(CH2)3、-(CH2)4、-(CH2)5が挙げられる。
【0040】
本発明のこの態様に関する特別な一実施態様では、POLYは末端にキャップをされたポリエチレングリコールであり、Lは存在しないか又は-CH2-であり、Gは-NHであり、そしてYは(CH2)2である。
【0041】
本明細書では、上記のポリマーとその複合体を含む組成物も提供される。
【0042】
さらに別の態様として、本発明は以下:
POLY-L0,1-C(O)G-Y-S-S-A (VII)
[式中、“A”は活性剤を表わし、“S-A”はチオール基を有する活性剤の残基を表わす]
で表される構造を有するポリマー複合体体を提供する。
【0043】
本発明のこの態様に関する一実施態様では、活性剤は、タンパク質、ペプチド、小分子からなる群から選ばれる。
【0044】
本明細書では、生物活性のある薬剤を、それを必要としている対象に本発明のポリマー複合体を投与することによってデリバリーする方法も提供される。
【0045】
本発明のこれらの目的と特徴、並びに他の目的と特徴は、以下の詳細な説明を併せて読むことによってさらによく理解できよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
定義
本明細書で用いる以下の用語は、以下に示す意味を有する。本明細書と添付の特許請求の範囲において使用されるとき、特に断わらない限り、単数形に複数形も含まれるものとする。
【0047】
本発明のポリマーという文脈における“チオール選択的誘導体”は、チオールと反応する末端基を少なくとも1つ有するポリマーを意味する。チオール選択基は、チオール基と優先的に反応する基が好ましい。本発明のチオール選択的ポリマーは、所定の反応条件下でチオール基に対するはっきりとした選択性を有することが好ましい。チオール選択基の具体例としては、マレイミド、ビニル・スルホン、オルトピリジル・ジスルフィド、ヨードアセトアミド、チオール(-SH)、チオラート(-S-)、保護チオール(すなわち保護された形態のチオール)などがある。典型的なチオール保護基としては、チオエーテル、チオエステル、又はジスルフィドがある。チオールのための具体的な保護基は、Greene, T.とWuts, Peter G.M.、『PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS』(第3版、ジョン・ワイリー&サンズ社、ニューヨーク、1999年)の第6章、454〜493ページに見ることができる。
【0048】
“活性化されたカルボン酸”又は“活性化されたカルボン酸誘導体”は、カルボン酸の官能誘導体で、特に求核性アシル置換に関して親であるカルボン酸よりも反応性が大きいものを意味する。活性化されたカルボン酸は、非限定的に酸ハロゲン化物(例えば酸塩化物)、無水物、アミド、エステルなどがある。
【0049】
本明細書では、“PEG”又は“ポリ(エチレン・グリコール)”に、あらゆる水溶性ポリ(エチレン・オキシド)が含まれる。典型的に、本発明で用いるPEGは、末端の酸素(単数又は複数)が例えば合成変換の間に置換されたかどうかに応じ、以下に示す2つの構造の一方を有する:“-(CH2CH2O)n-”、“-(CH2CH2O)n-1CH2CH2-”。変数nは3〜4000の範囲であり、末端基とPEG全体の構造は変化してもよい。PEGがリンカー部(あとでさらに詳しく説明する)をさらに備えている場合には、そのリンカーを含む原子は、PEGセグメントに共有結合していると、(i)酸素-酸素結合(-O-O-、過酸化結合)又は(ii)窒素-酸素結合(N-O、O-N)を形成しない。“PEG”は、-CH2CH2O-というサブユニットが過半を占める(すなわち50%超である)ポリマーを意味する。本発明で使用するPEGとしては、さまざなま分子量、構造、又は幾何学的形態(例えば分岐状PEG、直線状PEG、フォーク状PEG、樹状など)のPEGがある。これについてはあとで詳しく説明する。
【0050】
“PEGジオール”は、α-ジヒドロキシポリ(エチレン・グリコール)やω-ジヒドロキシポリ(エチレングリコール)としても知られており、HO-PEG-OH(ただしPEGは上に定義したもの)などの単純な形態で表わすことができる。
【0051】
本発明のポリマーという文脈における“水溶性”又は“水溶性ポリマー・セグメント”は、室温で水に溶けるあらゆるセグメント又はポリマーである。一般に、水溶性のポリマー又はセグメントは、濾過後に同じ溶液が透過させる光の少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約95%を透過させる。重量ベースでは、水溶性のポリマー又はそのセグメントは、水に少なくとも約35(重量)%溶けることが好ましい。より好ましいのは水に少なくとも約50(重量)%溶けることであり、さらに好ましいのは水に少なくとも約70(重量)%溶けることであり、一層好ましいのは水に少なくとも約85(重量)%溶けることである。しかし最も好ましいのは、水溶性のポリマー又はセグメントが水に約95(重量)%溶けること、或いは水に完全に溶けることである。
【0052】
“末端キャップをする”基或いは“末端がキャップされた”基は、PEGなどのポリマーの末端に存在する不活性な基又は反応性のない基である。末端キャップをする基は、合成反応の典型的な条件下で容易には化学的変換が起こらない基である。末端キャップをする基は、一般に、アルコキシ基(-OR)である。ただしRは1〜20個の炭素から構成される有機ラジカルであり、低級アルキル(例えばメチル、エチル)又はベンジルであることが好ましい。“R”は飽和していてもいなくてもよく、その具体例としては、例えばアリール、ヘテロアリール、シクロ、ヘテロシクロ、並びにこれらの置換形態が挙げられる。例えば末端にキャップをされたPEGは、一般に、“RO-(CH2CH2O)n-CH2CH2-”という構造を有する。ただしRは上で定義したものである。或いは末端にキャップをする基は、検出可能な標識も含められるようになっていることが好ましい。ポリマーが検出可能な標識を含む末端にキャップをする基を備える場合には、ポリマーの量又は位置、及び/又はそのポリマーが結合する部分(例えば活性剤)の量又は位置は、適切な検出器を用いて決定することができる。そうした標識は、非限定的に、蛍光体、化学発光体、酵素標識に用いる部分、比色測定で用いる部分(例えば染料)、金属イオン、放射能を有する部分などを含む。末端にキャップをする基は、リン脂質も含められるようになっていることが好ましい。ポリマーが末端にキャップをする基、例えばリン脂質などを備えている場合、独自の性質(例えば末端にキャップをされた同様のポリマーとの間に秩序立った構造を形成する能力)がそのポリマーに付与される。リン脂質の例として、ホスファチジルコリンと呼ばれるリン脂質類から選択したものが挙げられる。具体的なリン脂質は、非限定的にジラウロイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステロイルホスファチジルコリン、ベヘノイルホスファチジルコリン、アラキドイルホスファチジルコリン、レシチンからなる群から選ばれるものを含む。
【0053】
本発明のポリマーに関する“非天然”は、そのポリマー全体としては自然界に見いだされないポリマーを意味する。しかし本発明による非天然ポリマーは、そのポリマー全体の構造が自然界に見いだされない限り、天然に生じる1つ以上のサブユニット又はサブユニットのセグメントを含むことができる。
【0054】
本発明の水溶性ポリマー(例えばPEG)という文脈における“分子量”は、一般に、サイズ排除クロマトグラフィー、光散乱法、1,2,4-トリクロロベンゼン中での固有速度測定によって決定されたポリマーの公称平均分子量を意味する。本発明のポリマーは、一般に多分散であり、多分散値が約1.20未満である。この値は1.10未満であることが好ましい。
【0055】
“反応性”又は“活性化された”という用語は、有機合成の通常の条件下で容易に、或いは実用的な速度で反応する官能基を意味する。これは、反応しない基、強力な触媒を必要とする基、反応させるのに実際的ではない条件を必要とする基(すなわち“非反応”基又は“不活性な”基)とは対照的である。
【0056】
反応混合物中の分子に存在する官能基に関する“容易に反応しない”或いは“不活性な”は、反応混合物の中で望む反応を起こすのに有効な条件下でほとんどそのままの状態に留まっている基を意味する。
【0057】
“保護基”は、分子内で所定の条件下で化学的に反応性のある特定の官能基が反応するのを阻止又は妨害する部分である。保護基は、保護する化学的に反応性のある基のタイプや、利用する反応条件、分子内に存在する別の反応基又は保護基がどのようであるかに応じて異なる。保護できる官能基としては、例えば、カルボン酸基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、カルボニル基などが挙げられる。カルボン酸基の代表的な保護基はエステル(例えばp-メトキシベンジル・エステル)、アミド、ヒドラジドなどであり;アミノ基の代表的な保護基はカルバミン酸塩(例えばt-ブトキシカルボニル)とアミドであり;ヒドロキシル基の代表的な保護基はエーテルとエステルであり;チオール基の代表的な保護基はチオエーテルとチオエステルであり;カルボニル基の代表的な保護基はアセタールとケタールである。このような保護基は当業者にはよく知られており、例えばT.W. Greene, とWuts, G.M.、『有機合成における保護基』(第3版、ジョン・ワイリー&サンズ社、ニューヨーク、1999年)と、その中に引用されている参考文献に記載されている。
【0058】
“保護された形態”の官能基は、保護基を有する官能基を意味する。本明細書中で使用されるとき、“官能基”という用語又はその同意語は、それが保護された形態も含むものとする。
【0059】
本明細書で使用される“リンカー”という用語は、部分(例えばポリマー・セグメントや求電子基)を互いに結合するために場合によりは用いられる1個の原子又は原子群を意味する。本発明のリンカーは、一般に加水分解に対して安定である。
【0060】
“生理的条件で切断する”結合、或いは“加水分解可能”な結合、或いは“分解可能”な結合は、生理的条件下で水と反応する(すなわち加水分解する)比較的弱い結合である。ある結合が水中で加水分解する傾向は、2個の中心原子を接続している結合の一般的なタイプだけでなく、これらの中心原子に結合している置換基にも依存する。加水分解に対して不安定な結合、すなわち弱い結合の適切なものは、非限定的に、カルボン酸エステル、リン酸エステル、無水物、アセタール、ケタール、アシルオキシアルキル・エーテル、イミン、オルトエステル、ペプチド及びオリゴヌクレオチド、チオエステル、チオールエステル、並びに炭酸塩を含む。
【0061】
“酵素で分解される結合”は、1種類以上の酵素によって分解される結合を意味する。
【0062】
本発明の目的における“加水分解に対して安定な”結合又はリンカー、特に本発明のポリマーに関して“加水分解に対して安定な”結合又はリンカーは、通常の生理的条件下で加水分解に対して安定な原子又は原子群を意味する。つまり加水分解に対して安定な結合は、時間が経過しても、わかる程度には生理的条件下で加水分解しない。加水分解に対して安定な結合は、非限定的に以下:(例えば、脂肪族鎖の中の)炭素-炭素結合、エーテル、アミド、ウレタン、アミンなどを含む。代表的な化学結合の加水分解速度は、たいていの標準的な化学の参考書に見いだすことができる。
【0063】
ポリマーの形状又は全体構造に関する“分岐”は、2本以上のポリマー“アーム”を有するポリマーを意味する。分岐状ポリマーは、2本、3本、4本、6本、8本、又はそれを超えるポリマーアームを備えてもよい。高度に分岐したポリマーの1つの特別なタイプは、樹状ポリマー又はデンドリマーである。これらは、本発明の目的にとって、分岐したポリマーとははっきりと異なる構造を持つと考えられる。
【0064】
“分岐点”は、1個以上の原子を含む二また点であり、その地点においてポリマーが直線構造から分かれて1つ以上の別のポリマー・アームになる。
【0065】
“デンドリマー”は、球形でサイズが単分散のポリマーである。このポリマーには、それぞれが1つの分岐点となる繰り返し単位を備えていて規則的な枝分かれパターンを持つ中央の収束点又はコアがあり、すべての結合は、そのコアから径方向に延びている。デンドリマーは樹状状態としてのいくつかの特徴(例えばコアのカプセル化)を示すため、他のタイプのポリマーとは違ったユニークなものになっている。
【0066】
“実質的に”又は“本質的に”は、ほぼ完全に、或いは完全に、を意味する。それは、例えば所定の量の95%又はそれ以上である。
【0067】
“アルキル”基又は“アルキレン”基は、分子内の位置と、その基が水素以外の原子に結合する点の数に応じ、一般に長さが約1〜20原子の炭化水素鎖又は炭化水素部を意味する。このような炭化水素鎖は飽和していることが好ましいが、特に断わらない限り、必ずしもそうなっている必要はない。炭化水素鎖は分岐鎖でも直鎖でもよいが、一般には直鎖が好ましい。具体的なアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、1-メチルブチル、1-エチルプロピル、3-メチルペンチルなどが挙げられる。
【0068】
“低級アルキル”又は“低級アルキレン”は、炭素原子を1〜6個含む上記のアルキル基又はアルキレン基であり、直鎖でも分岐鎖でもよい。具体例としては、メチル、エチル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチルがある。
【0069】
“シクロアルキル”又は“シクロアルキレン”は、分子内の位置と、その基が水素以外の原子に結合する点の数に応じ、飽和又は不飽和環状炭化水素を意味する。その中には、多環式化合物(例えば架橋した環式化合物、縮合した環式化合物、スピロ環式化合物)が含まれ、その化合物は炭素原子3〜約12個でできていることが好ましく、炭素原子3〜約8個でできていることがさらに好ましい。
【0070】
“低級シクロアルキル”又は“低級シクロアルキレン”は、1〜6個の炭素原子を有するシクロアルキル基を意味する。
【0071】
“脂環式”は、環状炭素原子を有するあらゆる脂肪族化合物を意味する。脂環基は、1以上のアルキル又はアルキレンで置換された上記の“シクロアルキル”基又は“シクロアルキレン”基を含んでいる基である。
【0072】
“非干渉性置換基”は、分子内に存在している場合には、その分子内に含まれる他の官能基と一般に反応しない基である。
【0073】
例えば“置換アルキル”の“置換された”という用語は、1つ以上の非干渉性置換基、例えば、C3-C8シクロアルキル(例えばシクロプロピル、シクロブチルなど);ハロ(例えばフルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨード);シアノ;アルコキシ、低級フェニル;置換フェニルで置換された部分(例えばアルキル基)を意味する。フェニル環上の置換に関しては、置換基は任意の配位(つまりオルト、メタ、パラ)が可能である。
【0074】
“アルコキシ”は-O-R基を意味する。ただしRはアルキル又は置換アルキルであり、C1-C20アルキル(例えばメトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ベンジルなど)であることが好ましく、C1-C7であることがさらに好ましい。
【0075】
本明細書で使用されるとき、“アルケニル”は、長さが1〜15原子で、少なくとも1つの二重結合を有する、分岐状炭化水素基又は非分岐状炭化水素基を意味する。具体例としては、エテニル、n-プロペニル、イソプロペニル、n-ブテニル、イソブテニル、オクテニル、デセニル、テトラデセニルなどがある。
【0076】
本明細書で使用される“アルキニル”という用語は、長さが2〜15原子で、少なくとも1つの三重結合を有する、分岐状炭化水素基又は非分枝状炭化水素基を意味する。具体例としては、エチニル、n-プロピニル、イソプロピニル、n-ブチニル、イソブチニル、オクチニル、デシニルなどがある。
【0077】
“アリール”は、それぞれの環が5個又は6個のコア炭素原子でできている1以上の芳香族環を意味する。アリールには、ナフチルの場合のように融合した複数のアリール環、又はビフェニルの場合のように融合していない複数のアリール環も含まれる。アリール環は、1以上の環状炭化水素環、ヘテロアリール環、複素環と融合していてもよいし、していなくてもよい。本明細書中で使用されるとき、“アリール”にヘテロアリールも含まれる。
【0078】
“ヘテロアリール”は、1〜4個のヘテロ原子、好ましくはN、O、Sのいずれか、又はこれらの組み合わせを含むアリール基である。ヘテロアリール環は、1以上の環状炭化水素環、複素環、アリール環、ヘテロアリール環と融合されていてもよい。
【0079】
“複素環”又は“複素環式”は、5〜12原子(好ましくは5〜7原子)からなり、不飽和又は芳香族の特徴を有するか又は有さず、そして炭素ではない少なくとも1の環原子を有する1以上の環を意味する。好ましいヘテロ原子として、イオウ、酸素、窒素などが挙げられる。
【0080】
“置換ヘテロアリール”は、置換基として1以上の非干渉基を有するヘテロアリールである。
【0081】
“置換複素環”は、非干渉性置換基で形成した1以上の側鎖を有する複素環である。
【0082】
“求電子基”は、求電子中心、つまり電子求引性(electron seeking)である中心を有し、求核基と反応できるイオン、又はイオン性になりうる原子若しくは原子群を指す。
【0083】
“求核基”は、求核中心、つまり求電子中心を求引する中心を有し、そして求電子基と反応できるイオン、又はイオン性になりうる原子若しくは原子群を指す。
【0084】
本明細書中で使用される“活性剤”は、in vivo又はin vitroで証明できる何らかの薬理学的な効果(有効な効果であることがしばしばある)を与えるあらゆる試薬、薬、化合物、組成物、又は混合物を含む。活性剤は、食品、食品サプリメント、栄養剤、栄養薬効食品、薬、ワクチン、抗体、ビタミン、他の有効な薬剤などが含まれる。本明細書で使用されるとき、これらの用語はさらに、患者に局所効果又は全身効果を生じさせる生理学的、薬理学的に活性なあらゆる物質を含む。
【0085】
“医薬として許容される賦形剤”又は“医薬として許容される基剤”は、本発明の組成物に含めることができる賦形剤で、患者に好ましくない毒性効果を引き起こさないものを意味する。
【0086】
“医薬有効量”、“生理的有効量”、“治療有効量”は、本明細書では互換性を持って使用され、医薬製剤の中に存在していて血流又は標的組織の中に望むレベルの活性剤及び/又は複合体を供給するのに必要なPEG-活性剤複合体の量を意味する。厳密な量は多数の因子に依存する。因子としては、例えば、具体的な活性剤、医薬製剤の成分と物理的性質、予定する患者集団、患者についての考慮事項などがある。この量は、当業者により、本明細書に記載した情報と関連文献から入手できる情報に基づき、容易に決定されうる。
【0087】
本発明のポリマーという文脈における“多官能”は、3個以上の官能基を含むポリマー骨格を意味する。ここで、該官能基は同じでも異なっていてもよく、一般にポリマーの末端に存在する。本発明の多官能ポリマーは、一般に、ポリマー骨格の中に、3〜100個、又は3〜50個、又は3〜25個、又は3〜15個、又は3〜10個を含み、或いは3、4、5、6、7、8、9、又は10個いずれかの数の官能基を含んでいる。
【0088】
“二官能”ポリマーは、内部に、一般にはポリマーの末端に2個の官能基を有するポリマーを意味する。官能基が互いに同じである場合には、ポリマーはホモ二官能であると言われる。官能基が互いに異なっている場合には、ポリマーはヘテロ二官能であると言われる。
【0089】
本明細書中に記載される塩基性又は酸性の反応物質は、中性であり、荷電し、並びにそれらの対応するあらゆる塩の形態が含まれる。
【0090】
“ポリオレフィンアルコール”は、オレフィンポリマー骨格(例えばポリエチレン)を含んでいて、そのポリマー骨格に複数のヒドロキシル基がぶら下がって結合しているポリマーを意味する。ポリオレフィンアルコールの一例はポリビニルアルコールである。
【0091】
本明細書では、“非ペプチド”は、ペプチド結合を実質的に含まないポリマー骨格を意味する。しかしポリマーは、繰り返しモノマー・サブユニットに沿って並んだ少数のペプチド結合(例えば、約50モノマー単位につき約1つのペプチド結合を超えない)を含んでいてもよい。
【0092】
“患者”という用語は、本発明のポリマー(一般にポリマー-活性剤複合体の形態であるが、必ずしもそうなっている必要はない)を投与することによって予防又は治療できる症状を患う生物、或いはそのような症状になる傾向を持つ生物を意味する。その生物には、ヒトと動物の両方が含まれる。
【0093】
“任意”又は“場合によっては”は、その後に記述する状況が起こる場合と起こらない場合があることを意味する。そのためその記述には、その状況が起こる場合と起こらない場合が含まれる。
【0094】
“残部”は、1以上の分子と反応した後に残っている分子の部分を意味する。例えば本発明のポリマー複合体の中にある生物学的に活性な分子の残部は、一般に、その生物学的に活性な分子のうち、その生物学的に活性な分子上の反応基がポリマー試薬上の反応基と反応した結果として生まれる共有結合までの部分に対応するが、その共有結合は除外される。“複合体”という用語は、分子(例えば生物学的に活性な分子、又は反応性のあるいずれかの表面)が反応性のあるポリマー分子(反応性のあるポリ(エチレングリコール)が好ましい)に共有結合した結果として形成される物体を意味する。
【0095】
“システアミン”は、2-アミノエタンチオール、すなわちH2N-(CH2)2-SHを意味する。
【0096】
“シスタミン”は、2,2’-ジチオビス(エチルアミン)、すなわち(H2N-(CH2)2-S-)2を意味する。
【0097】
水溶性ポリマーのチオール選択的誘導体の製造方法
方法の概略
本発明により、タンパク質又は他の活性剤の表面にあるチオール基との反応に適した水溶性ポリマー誘導体の製造方法が提供される。この方法では、少なくとも1の反応性求電子末端を有する水溶性ポリマー・セグメントを、(ポリマーの求電子末端と反応させるための)求核基とチオール選択部の両方を有する二官能反応分子(すなわち、上記の少なくとも2個の官能基を有する反応分子)と反応させる。代表的なチオール選択部としては、チオール、保護チオール、ジスルフィド、マレイミド、有機水銀化合物、α-ハロアセチル化合物(例えばヨードアセトアミド)、ビニルスルホン、ハロゲン化アリール、ジアゾアセテート、オルトピリジルジスルフィドなどが挙げられる。反応は、ポリマーの求電子末端と反応分子の求核基との間の反応を促進してポリマーと反応分子との間に共有結合を形成するのに有効な条件下で行なわれる。使用する特定の反応分子に左右され、反応により、チオール(例えばチオール、保護チオール、ジスルフィド、マレイミド、ビニル・スルホン、ヨードアセトアミド、又はオルトピリジル・ジスルフィド)と選択的に反応する末端を有する活性化されたポリマーが形成される。一般的な反応スキームを以下に示す。
【化1】

【0098】
最も簡単な形態では、この方法により、1つの反応ステップで、チオール選択的末端(例えばチオール、保護チオール、マレイミド)を有する活性化ポリエチレン・グリコール誘導体が提供される。反応分子が、ポリマーの求電子末端と反応させるためのチオール選択部と競合する求核基を備えている場合(例えば求核基がアミノ基で、イオウ含有部がチオール又はチオラートである(ここでの反応分子ではシステアミン)場合)には、ポリマーが反応分子のチオール中心で反応するのを阻止するため、反応分子上のチオール基を保護することが必要であろう。或いは競合する2つの部分の反応速度が大きく異なる場合には、反応分子の求核中心がポリマーの求電子基と選択的又は優先的に反応する条件下で反応を行なわせるとよい。次に、追加の精製/分離ステップにより、チオール又はチオラートと所定の求電子基の間の反応によって生じる望ましくない反応生成物を除去することができる。
【0099】
求電子基で活性化されたポリマーと反応分子のうちで適切なものに関する詳しい説明を以下の段落で行なう。
【0100】
好ましい一実施態様では、反応分子は、ポリマーの求電子基と反応する同じ2つの求核基を有する対称なジスルフィドである。この方法は、反応分子中の潜在的に異なる求核基の間の競合がないという点で有利である。したがって適切な反応条件下では(例えば、対称なジスルフィド内のすべての求核基と反応するのに十分なよう、求電子基で活性化されたポリマーをモル数を少なくとも2倍過剰にして用いる場合には)、活性化されたポリマー生成物が1種類だけ形成される。
【0101】
対称な反応分子は中央部にジスルフィド(-S-S-)結合を持っており、そのジスルフィド結合のイオウ原子はそれぞれ同じY基、例えば、アルキレン、置換アルキレン、シクロアルキレン、置換シクロアルキレン、アリール、又は置換アリール基に結合し、そのY基には、求核基(NU)(例えばアミノ、ヒドロキシ、チオール、イミノ、チオエステルなど)が共有結合している(“(NU-Y-S)2”)。好ましい対称な反応分子の一例はシスタミンである。求電子基で活性化されたポリマーと対称なジスルフィド試薬(例えばシスタミン)の反応により、中央にあるジスルフィド結合の各イオウ原子から同じポリマー・セグメントが延びている対称なジスルフィド・ポリマーが形成される。求電子基で活性化されたさまざまなポリマーと反応分子(シスタミン)を用いた代表的な反応を実施例に示す(実施例1〜3)。求電子基で活性化されたポリマーは、一般に、非常に穏やかな反応条件(例えば室温)下で二官能反応分子と反応させる。これが、この方法の1つの利点となっている。さらに、典型的な収率は70%を超える。収率は、好ましい場合には80%を超え、さらに好ましい場合には90%を超えており、95%を超えることさえしばしばある。
【0102】
得られるジスルフィド・ポリマーが対称であるため、還元剤(例えばジチオスレイトール)の作用による切断の結果、対応するチオール選択的ポリマー誘導体(“POLY-S”)が2モル形成される。
【0103】
本発明で使用する好ましいポリマー(POLY−E)としては、メトキシ−PEGプロパン酸、メトキシ−PEGブタン酸、並びにこれらの活性化形態がある。チオール選択的末端を有する特に好ましいポリマー誘導体は、本明細書の中で構造(11)、(13)、(18)として提供される。
【0104】
別の好ましい一実施態様では、本発明のポリマー誘導体は、出発物質であるポリマー酸又はポリマー酸等価物から製造する。該ポリマー酸は、求核基と反応させる前に精製される。ポリマー酸又はポリマー酸等価物は、少なくとも1つの官能基又は末端基(例えばカルボン酸又はカルボン酸等価物(例えば、カルボン酸の活性化誘導体など))を有する本発明の水溶性ポリマーである。ポリマー酸を利用すること、又はポリマー酸を製造することは、供給元に左右されて出発物質のポリマーに存在しうるPEGジオール又はPEGジオール由来の不純物を容易に除去できるという点で、別の1つの利点になっている。
【0105】
本発明の多くの実施態様で使用する出発物質であるポリエチレングリコール(例えば求電子基で活性化されたPEG)は、検出可能な量のPEG-ジオール不純物を含んでいることがしばしばある。その量は、0.5%重量〜30重量%超の範囲であることが多い。ジオール不純物は少量でも存在していると問題になる可能性がある。なぜならジオール(とその反応生成物)は除去/分離が極めて難しいからである。しかもPEG-ジオール(さらに特定するならばその変換生成物)は、その反応性のために、カップリング反応の間に生物活性剤と反応していろいろな複合体生成物の混合物が形成される可能性がある。得られる複合体混合物は、分析すること、すなわち存在しているジオール由来の不純物の量を測定することが難しい可能性がある。さらに、望む複合体生成物をジオール由来の複合体生成物から分離することは極めて難しいことがあり、場合によっては不可能である。特に、高分子量の水溶性ポリマー(例えば分子量が約30,000ダルトンを超えるメトキシ−PEG−OH)は、開始物質であるPEGの供給源及び/又は製造方法が何であるかによって30重量%以上のジオールを含んでいる可能性がある。上に説明したように、ジオールとジオール由来の不純物は、一連の合成変換及び/又は複合体形成反応を通じて持ち越されると特に問題になる可能性がある。本発明の方法におけるようにポリマー酸を用いると、出発物質のPOLY−Eを例えばクロマトグラフィーによって精製し、反応性のあるPEG−ジオール又はPEG−ジオール由来の不純物を本質的に含まないチオール選択的ポリマー製剤を最終的に形成することができる。
【0106】
出願人は、PEG−ジオール関連の不純物を1つの反応又は一連の反応の前工程で分離することによって反応性のあるポリマー誘導体又はポリマー複合体を形成すると好ましいことを認識した。なぜなら、この段階での分離/精製は、さまざまなポリマー複合体種を分離するよりも容易だからである。
【0107】
或いは共有の米国特許第6,448,369号に記載されているように、不活性なmPEG-ジオール由来の不純物を除去又は処理する1つの方法として、ステップ(i)で用意した水溶性ポリマー(POLY−E)を、ベンジルオキシ−PEGから製造したジオール非含有PEG−OHから製造することもできる。この方法では、エチレンオキシドを優先的にベンジルオキシド・イオン(Bz−O-)と重合させて出発物質であるベンジルオキシ−PEG−OHを製造し、PEG−ジオールを含む高純度の一官能ベンジルオキシPEGを得る。この方法では、すべてのPEG−OH基を不活性なメチル・エーテルに変換し、続くステップでベンジルオキシ基を除去すると、ジオールを含まない純粋なメトキシ−PEG−OHが得られる。この方法を利用するときには、PEG−ジオールを非反応性エーテルの形態に変換する。その結果、PEG−ジオールは、得られる組成物の不活性な成分になる。
【0108】
要するに、本明細書に記載した方法は、(i)多数の厄介な反応ステップを回避しており、(ii)多数の保護/脱保護ステップを必ずしも必要とせず、(iii)穏やかな反応条件で実施されるためにポリマー・セグメントが特に損傷を受けやすいということはなく、(iv)生成物を高収率(一般に90%超)で提供し、そして(v)チオール選択的末端を有する新しいクラスのポリマー誘導体を提供する。本発明の合成法、試薬、ポリマー誘導体、組成物、複合体の全体について、以下にさらに詳しく説明する。
【0109】
ポリマー反応物質、POLY-L0,1-E
ポリマー・セグメントPOLY
本発明の方法における求電子基で活性化されたポリマーとチオール選択的ポリマーに適用できるポリマー・セグメント(本明細書ではPOLYと表記する)について以下に説明する。本発明で役に立つ求電子基で活性化されたポリマー誘導体は、一般に、水溶性ポリマー・セグメントに結合した少なくとも1つの求電子基を含む。求電子基は、ポリマー・セグメントに直接共有結合させること、或いは結合基Lを通じてポリマー骨格に結合させることができる。
【0110】
代表的なPOLYはポリ(アルキレン・グリコール)であり、例えばポリ(エチレン・グリコール)、ポリ(プロピレン・グリコール)(“PPG”)、エチレン・グリコールとプロピレン・グリコールのコポリマー、ポリ(オレフィン・アルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、多糖類、ポリ(α-ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニル・アルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)などがある。POLYとしては、上記のいずれかのホモポリマー、交互コポリマー、ランダム・コポリマー、ブロック・コポリマー、交互トリポリマー、ランダム・トリポリマー、又はブロック・トリポリマーも可能である。水溶性ポリマー・セグメントは、ポリ(エチレン・グリコール)(“PEG”)又はその誘導体であることが好ましいが、必ずしもそうである必要はない。
【0111】
ポリマー・セグメントは、多数の異なった幾何学的形状のうちのいずれかを有することができる。例えばPOLYは、直線構造、分岐構造、フォーク状構造が可能である。最も一般的なのはPOLYが直線構造又は分岐構造(例えば2本のポリマー・アーム)になっている場合である。本明細書の記述の大部分は代表的なPOLYにとしてのPEGに関するものであるが、本明細書に記載した説明と構造は、上記のどの水溶性ポリマー・セグメントにも容易に拡張することができる。
【0112】
求電子基で活性化された少なくとも1つの末端を有するどの水溶性ポリマーは、本発明のチオール選択的ポリマーを製造するタめに製造されうる。求電子基で活性化された末端を1つだけ持つ水溶性ポリマーが一般に用いられ、本明細書ではそれについて説明するが、本明細書に記載したチオール選択的ポリマーに変換するのに適した反応性のある末端を2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個或いはそれ以上備えるポリマーも用いることができる。水溶性ポリマー・セグメント上のヒドロキシル部又はそれ以外の反応部の数が増えるにつれ、求電子基を導入するのに利用できる部位の数も遊離に増える。水溶性ポリマー・セグメントに付随するヒドロキシル部及び/又は求電子部の数の上限は、例えば、約1〜約500、約1〜約100、約1〜約80、約1〜約40、約1〜約20、約1〜約10である。
【0113】
ここで好ましいPOLYに移ると、PEGは、直線構造、分岐構造、多数のアームを持つ構造のポリ(エチレングリコール)を含む。例えば、末端にキャップをされたPEG、フォーク状のPEG、分岐状のPEG、ペンダント型のPEG、モノマー・サブユニット同士を隔てる分解可能な1以上の結合を含むPEGなどがある。これらについて以下にさらに詳しく説明する。
【0114】
PEGポリマー・セグメントは、-(CH2CH2O)n-CH2CH2-を含んでいる。ただしnは、一般に、約3〜約4,000、又は約3〜約3,000、より好ましくは約20〜約1,000である。
【0115】
POLYは末端にキャップをされうる。そのときPEGは、末端が、不活性な末端キャップ基でキャップされる。末端にキャップをされる好ましいPEGは、末端キャップ部として、アルコキシ、置換アルコキシ、アルケニルオキシ、置換アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、置換アルキニルオキシ、アリールオキシ、置換アリールオキシを有するものである。好ましい末端キャップ基は、C1-C20アルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ、ベンジルオキシ)である。末端キャップ基は、リン脂質を含んでいると有利でありうる。リン脂質の例は、ホスファチジルコリンであり、例えば、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステロイルホスファチジルコリン、ベヘノイルホスファチジルコリン、アラキドイルホスファチジルコリン、レシチンなどがある。
【0116】
ここでポリマー・セグメント、POLYを含むあらゆる構造について説明する。POLYは、以下:
“Z-(CH2CH2O)n-”又は“Z-(CH2CH2O)n-CH2CH2-”
という構造に対応するか、又はこの構造を含むことができる。ただしnは約3〜約4000、又は約10〜約4000であり、Zは、反応性のある基又は末端キャップ基である官能基であるか、そうした官能基を含んむ。Zの具体例としては、ヒドロキシ、アミノ、エステル、カーボネイト、アルデヒド、アセタール、アルデヒド水和物、ケトン、ケタール、ケトン水和物、アルケニル、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、スルホン、チオール、カルボン酸、イソシアネート、イソチオシアネート、ヒドラジド、尿素、マレイミド、ビニルスルホン、ジチオピリジン、ビニルピリジン、ヨードアセトアミド、アルコキシ、ベンジルオキシ、シラン、脂質、リン脂質、ビオチン、フルオレセインなどが挙げられる。可能な場合には、これらの中に、それぞれが活性化された形態や保護された形態も含まれる。好ましい官能基は、N-ヒドロキシスクシンイミジル・エステル、1-ヒドロキシベンゾトリアゾリル・カーボネート、アミン、ビニルスルホン、マレイミド、N-スクシンイミジル・カーボネート、ヒドラジド、プロピオン酸スクシンイミジル、ブタン酸スクシンイミジル、コハク酸スクシンイミジル、スクシンイミジル・エステル、グリシジル・エーテル、オキシカルボニルイミダゾール、炭酸p-ニトロフェニル、アルデヒド、オルトピリジル-ジスルフィド、アクリロールである。
【0117】
ポリマー反応物質(と対応する生成物)は、例えば2つの求電子基が中央のPOLY(例えばPEG)によって互いに結合されたダンベル様構造又は二官能直線構造を取ることができる。さらに詳しく説明すると、このようなPOLYは、E1-PEG-E2という構造で表わされる(ただしE1とE2は独立に、本明細書に記載した求電子基の中から選択される)。E1とE2は同じであることが好ましい。このタイプの具体的なPEGは、実施例3の例えば(15)と(16)に示してある。別の具体例は、米国特許第5,900,461号に記載されている(その内容は、参考として本明細書に明示的に援用される)。特に本発明のチオール選択的ポリマー又はその前駆体に関する好ましい一実施態様では、官能基Zは“L0,1-X-Y-S”に対応しており、ポリマー・セグメントの両方の側に同じ基を持つホモ二官能チオール選択的ポリマー(例えばS-Y-X-L0,1-X-Y-S(VIII))が提供される。
【0118】
これらの及び他の官能基Zは、以下の参考文献に記載されている(そのすべてが本明細書中に援用される):炭酸N-スクシンイミジル(例えば米国特許第5,281,698号、第5,468,478号を参照のこと)、アミン(例えばBuckmann他、Makromol. Chem.、第182巻、1379ページ、1981年、Zalipsky他、Eur. POLYm. J.、第19巻、1177ページ、1983年を参照のこと)、ヒドラジド(例えばAndresz他、Makromol. Chem.、第179巻、301ページ、1978年を参照のこと)、プロピオン酸スクシンイミジルとブタン酸スクシンイミジル(例えばOlson他、POLY(ehylen glycol)Chemistry & Biological Applications、170〜181ページ、HarrisとZalipsky編、ACS社、ワシントンD.C.、1997年を参照のこと;米国特許第5,672,662号も参照のこと)、コハク酸スクシンイミジル(例えばAbuchowski他、Cancer Biochem. Biophys.、第7巻、175ページ、1984年;Joppich他、Makromol. Chem.、第180巻、1381ページ、1979年を参照のこと)、スクシンイミジルエステル(例えば米国特許第4,670,417号を参照のこと)、炭酸ベンゾトリアゾール(例えば米国特許第5,650,234号を参照のこと)、グリシジルエーテル(例えばPitha他、Eur. J. Biochem.、第94巻、11ページ、1979年、Elling他、Biotech. Appl. Biochem.、第13巻、354ページ、1991年を参照のこと)、オキシカルボニルイミダゾール(例えばBeauchamp他、Anal. Biochem.、第131巻、25ページ、1983年;Tondelli他、J. Controlled Release、第1巻、251ページ、1985年を参照のこと)、炭酸p-ニトロフェニル(例えばVeronese他、Appl. Biochem. Biotech.、第11巻、141ページ、1985年;Sartore他、Appl. Biochem. Biotech.、第27巻、45ページ、1991年を参照のこと)、アルデヒド(例えばHarris他、J. POLYm. Sci. Chem. Ed.、第22巻、341ページ、1984年;米国特許第5,824,784号、第5,252,714号を参照のこと)、マレイミド(例えばGoodson他、Bio/Technology、第8巻、343ページ、1990年;Romani他、Chemistry of Peptides and Proteins、第2巻、29ページ、1984年;Kogan、Synthetic Comm.、第22巻、2417ページ、1992年を参照のこと)、オルトピリジル-ジスルフィド(例えばWoghiren他、Bioconj. Chem.、第4巻、314ページ、1993年を参照のこと)、アクリロール(例えばSawhney他、Macromolecules、第26巻、581ページ、1993年を参照のこと)、ビニルスルホン(例えば米国特許第5,900,461号を参照のこと)。
【0119】
ここでも、説明したPOLYのタイプには、直線状ポリマー・セグメントのほか、分岐状ポリマー・セグメントやフォーク状ポリマー・セグメントも含まれる。ポリマー・セグメントが分岐している場合には、POLYの構造は、例えば、POLY構造全体の一部を形成するポリマー・アームに対応する。或いはPOLYがフォーク状の構造である場合には、POLYは、例えば、分岐点よりも前のポリマー・セグメントの直線部分に対応する。
【0120】
POLYは、2本、3本、4本、5本、6本、7本、8本、或いはそれ以上のアームを有する分枝状PEG分枝を含む。本発明のチオール選択的ポリマーを製造するために用いる分岐ポリマーは、反応性のある末端を2〜300個の範囲でいくつでも備えてよい。好ましいのは、ポリマー・アームを2本又は3本有する分岐状ポリマー・セグメントである。分岐したPOLYの一例は米国特許第5,932,462号に記載されており、以下の構造に対応する。
【0121】
【化2】

【0122】
この構造においてR”は、非反応部(例えばH、メチル、PEG)であり、PとQは非反応性の結合である。好ましい一実施態様では、分岐したPEGポリマー・セグメントはメトキシポリ(エチレン・グリコール)二置換リジンである。
【0123】
上記の特別な分岐構造では、分岐状ポリマー・セグメントは、“C”分岐点から延びていてポリマー反応分子の反応性求電子基の位置、又はチオール選択的ポリマー生成物のX基を配置するための単一の反応部位を備えている。分岐状PEG(例えば本発明で使用するもの)は一般にPEGアームが4本未満であり、PEGアームは2本又は3本であることが好ましい。こうした分岐状PEGは、対応する直線状PEGよりも大きくてより密なポリマー雲と結合する単一の反応部位を持つという利点を有する。求電子基を有するこのような分岐ポリマーの代表的なものはネクター社(ハンツヴィル、アラバマ州)から市販されており、mPEG-N-ヒドロキシスクシンイミドを含む。
【0124】
分岐状ポリマー反応分子の一例と、対応する本発明のチオール選択的ポリマーは、それぞれ以下の構造を持つ。
【化3】

ただしX、Y、Sは本明細書に記載したものである。構造(IX-B)では、XはC(O)-G(ただしGは-NH)に対応する。
【0125】
本発明によるポリマーの製造に用いる分岐状ポリマーは、より一般にR(POLY)n(ただしRは中央分子又はコア分子であり、そこからPEGなどのPOLYアームが2本以上延びている)で表わされるポリマーを含んでいる。変数nはPOLYアームの数を表わしており、それぞれのポリマー・アームは、独立に、末端にキャップをされうるし、末端に反応性のある官能基を持ちうる。一般に、少なくとも1のポリマー・アームは、末端に官能基を有する。本発明によるこのような複数アームの実施態様では、それぞれのPEGアームは、一般に、末端に求電子基(又は、すでに説明したような、求電子基と求核基の間の対応する反応生成物)を有する。一般式R(PEG)nで表わされるような分岐状PEGは、2〜300本のポリマー・アームを持っている(すなわちnの範囲は2〜約300である)。このような分岐状PEGは、ポリマー・アームを2〜約25本持っていることが好ましい。より好ましくは2〜約20本のポリマー・アームであり、2〜約15本又はそれ以下であることがさらに好ましい。最も好ましいのは、アームを3本、4本、5本、6本、7本、又は8本有する複数アーム・ポリマーである。
【0126】
上に説明した分岐状ポリマーにおける好ましいコア分子はポリオールである。ポリオールとしては、1〜10個の炭素原子と1〜10個のヒドロキシル基を有する脂肪族ポリオールがあり、具体的には、エチレン・グリコール、アルカン・ジオール、アルキル・グリコール、アルキリデン・アルキル・ジオール、アルキル・シクロアルカン・ジオール、1,5-デカリンジオール、4,8-ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロデカン、シクロアルキリデンジオール、ジヒドロキシアルカン、トリヒドロキシアルカンなどが挙げられる。脂環式ポリオールも用いることができ、それは例えば直鎖又は閉環の糖類や糖アルコールであり、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール、ザイリトール、ケブラキトール、スレイトール、アラビトール、エリスリトール、アドニトール、ドゥシトール(ducitol)、ファコース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、ラムノース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、ソルボース、マンノース、ピラノース、アルトロース、タロース、タギトース、ピラノシド、スクロース、ラクトース、マルトースなどである。さらに別の脂肪族ポリオールとしては、グリセルアルデヒド、グルコース、リボース、マンノース、ガラクトースの誘導体と、関連する立体異性体がある。使用できる他のコア・ポリオールとしては、クラウンエーテル、シクロデキストリン、デキストリン、他の炭水化物(例えばデンプン、アミロース)などがある。好ましいポリオールとしては、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、トリメチロールプロパンなどがある。
【0127】
本発明のチオール選択的ポリマーに対応する代表的な複数アーム構造を以下に示す。
【化4】

ただしnは約3〜約8である。
【0128】
本発明のチオール選択的ポリマーを製造するのに用いるさらに別の複数アームポリマーとしては、ネクター社(ハンツヴィル、アラバマ州)から入手できる複数アームPEGがある。本発明の方法で使用する求電子基で活性化された好ましい複数アーム・ポリマーは、以下の構造に対応する。
【化5】

ただしEは求電子基を表わし、PEGは-(CH2CH2O)n-CH2CH2-であり、mは、3、4、5、6、7、及び8からなる群から選ばれる。もちろん、対応するチオール選択的ポリマー生成物は上記の構造を持っているが、但し求電子基Eが“-X-Y-S”(XI-B)で置換されている点を除く。
【0129】
或いはポリマー・セグメントは、全体としてフォーク状構造を持つこともできる。フォーク状PEGの一例は、以下の一般構造に対応する。ここで第1の構造は求電子基で活性化されたフォーク状PEGであり、第2の構造はフォーク状のチオール選択的ポリマー生成物である。
【化6】

ただしPEGは、本明細書に記載したいずれかの形態のPEGであり、Aは結合基であり(酸素、イオウ、-C(O)-NH-など、加水分解に対して安定な結合であることが好ましい)、FとF’は、場合によっては存在している、加水分解に対して安定なスペーサ基であり、他の文字E、X、Y、及びSは上で定義したのと同じものである。X、Y、及びSに関する一般的な説明と特別な場合の説明の両方とも、上記の構造に適用できる。リンカーAと、スペーサ基F、F’の具体例は国際特許出願PCT/US99/05333に記載されており、本発明で用いるこのタイプのポリマー・セグメントを形成するのに役立つ。スペーサ基FとF’は同じでも異なっていてもよい。上記の特別な一実施態様では、PEGはmPEGであり、Aは-C(O)-NH-に対応し、FとF’は両方ともメチレン又は-CH2-である。このタイプのポリマー・セグメントは、2つの活性剤との反応に役立つ。ここで2個の活性剤は、FとF’の選択に応じて、正確に又は規定の距離をおいて配置される配置される。
【0130】
本明細書に記載した代表的などの構造でも、ポリマー・セグメントの中に1以上の分解可能な結合が含まれているため、最初に投与した複合体におけるよりも小さなPEG鎖がジスルフィドによって結合した複合体をin vivoで作り出すことができる。生理的条件で切断可能な結合としては、エステル、炭酸エステル、カルバメート、サルフェート、ホスフェート、アシルオキシアルキル・エーテル、アセタール、ケタールなどがある。このような結合がポリマー・セグメントに含まれている場合には、保管するときと最初に投与するときにその結合が安定であることが好ましい。より詳しくすると、上に一般的に説明したように、加水分解可能な結合によって結合された2以上のポリマー・セグメントは、PEG1-W-PEG2という構造で表わすことができ(ここで、PEG1とPEG2は同じでも異なっていてもよく、そしてWは弱い加水分解可能な結合である)。これらのポリマー構造は、in vivoで取り除かれる(すなわち切断される)PEGアーム、又はPEGアームの一部を含んでいる。
【0131】
本発明の複合体を製造するのに用いる直線構造又は分岐状構造を有する更なる代表的なPEGは、ネクター・セラピューティクス社(旧社名はシアウォーター社、ハンツヴィル、アラバマ州)から購入することができる。代表的な構造は、シアウォーター社の“POLYethylene Glycol and Derivatives for Biomedical Applications”というタイトルの2001年版カタログに記載されており、その内容が参考として本明細書中に明示的な形で援用される。
【0132】
一般に、水溶性ポリマー・セグメントPOLYの公称平均分子量はさまざまである。POLYの公称平均分子量は一般に以下の範囲のどれか1つ以上に当てはまる:約100ダルトン〜約100,000ダルトン;約500ダルトン〜約80,000ダルトン;約1,000ダルトン〜約50,000ダルトン;約2,000ダルトン〜約25,000ダルトン;約5,000ダルトン〜約20,000ダルトン。水溶性ポリマー・セグメントPOLYの具体的な公称平均分子量は、約1,000ダルトン、約5,000ダルトン、約10,000ダルトン、約15,000ダルトン、約20,000ダルトン、約25,000ダルトン、約30,000ダルトン、約40,000ダルトンである。低分子量POLYの分子量は、約250、500、750、1000、2000、又は5000ダルトンのいずれかである。チオール選択的誘導体は、実施例1〜3に示してあるように、約5,000ダルトン、約20,000ダルトン、約40,000ダルトンからなる群から選ばれる分子量を有するPEGを含んでいる。
【0133】
本発明の特別な一実施態様では、本明細書で提示する活性化されたチオール選択的誘導体は、公称平均分子量が500、1000、2000、3000、5000、10,000、15,000、20,000、30,000、40,000ダルトンのうちの1つを有するPEGセグメントを含んでいる。
【0134】
サブユニットの数に関しては、本発明で用いるPEGは、一般に、10〜約4000個、約20〜約1000個、約25〜約750個、約30〜約500個の1以上の範囲に入る数のサブユニット(-OCH2CH2-)を含んでいる。
【0135】
ポリマー(POLY)の数はいくつでもよいとはいえ、一実施態様では、ポリマーは、親水性ポリマー(すなわち約25のサブユニットのポリプロピレン・オキシド又は他の同様の疎水性ポリマー・セグメントを含むポリマー)を含んでいる。別の実施態様では、ポリマー中にポリプロピレン・オキシドも同様の疎水性サブユニットも存在しなくてもよい。一の例では、該ポリマーは、ポリマーがプルロニック・タイプ(pluronic-type)のポリマーを含んでいないことが好ましい場合もある。さらに別の特別な一実施態様では、ポリマーは、固体支持体に結合していないことが好ましい。さらに別の特別な一実施態様では、本発明のポリマーは、脂肪酸又は他の親脂肪性部分を質的に持たないが、必ずしもそうなっている必要はない。
【0136】
ポリマー求電子基(“E”)
本発明の方法で用いるポリマーは、求核基との反応に適した少なくとも1つの求電子物質又は求電子基(-E)を含んでいる。それは、チオール選択的反応分子に含まれているのと同様の求電子基である。具体的な求電子基としては、活性化されたエステル(例えばN-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステル又は1-ヒドロキシベンゾトリアゾイル・エステル)、活性化されたカーボネート(例えばN-ヒドロキシスクシンイミジル・カーボネート、パラ-ニトロフェニル・カーボネート、1-ヒドロキシベンゾトリアゾイル・カーボネート)、アセタール、アルデヒド、アルデヒド水和物、活性無水物(例えば酸無水物)、酸ハロゲン化物、ハロゲン化アリール、ケトン、カルボン酸、イソシアネート、イソチオシアネート、イミドエステルなどがある。特に好ましいのは、NHSエステルなどの活性化されたエステルである。要するに、一般構造POLY-L0,1-Eを有するポリマー・セグメントは、少なくとも一の末端にいずれかの求電子基を備えることができる。その場合の代表的な求電子基は上に示したものである。
【0137】
ポリマー・リンカーL
たいていの場合、ポリマー・セグメントを求電子基に直接結合させる。或いはポリマー・セグメントを介在リンカーLを通じて求電子基に結合させる。そのようなリンカーを用いる場合には、本明細書中ではそのリンカーをL1で表わし、そうしたリンカーが存在していることを意味する。このようなリンカーが存在していない場合には、本明細書では一般にL0と表記する。本発明で用いるリンカーは、一般に、C1-C10アルキル、又は置換されたC1-C10アルキルである。ポリマー・セグメントがPEG(例えば-(CH2CH2-O)n-CH2CH2-)である場合の特に好ましいリンカーの一例は、メチレン基(-CH2-)である。しかし直線構造又は分岐状構造のあらゆる低級アルキルや、その置換された対応物も同様に用いることができる。
【0138】
求電子基で活性化された精製ポリマー
本発明の方法で用いるのに特に適しているのは、求電子基で活性化されたPEG試薬、例えばクロマトグラフィーで精製されたカルボン酸又はその機能的等価物(例えばmPEG-スクシンイミジル・プロピオネート、mPEG-スクシンイミジル・ブタノエート、mPEG-CM-HBA-NHS、mPEG2-NHSなど)であり、ネクター社(ハンツヴィル、アラバマ州)から入手することができる。酸官能基のため、そうした求電子基で活性化されたPEGは、二官能反応分子(NU-Y-S)と反応させた後よりも反応前のほうが、容易に精製してPEG-ジオール又はジオール由来の不純物を分離することができる。POLY-Eの精製は、従来技術で一般に利用されている多数ある精製法のうちのいずれかの方法で実現することができる。しかし化学的分離法とクロマトグラフィー法が好ましい。好ましい1つのクロマトグラフィー法は、イオン交換クロマトグラフィー、すなわちIECである。IECは帯電したあらゆる分子(例えばPEG-酸)の分離に役立つ。典型的なイオン交換クロマトグラフィーの条件は、具体的なカラム、利用するpHの範囲、イオン強度、緩衝液の選択、勾配などであり、当業者であれば容易に決定することができる。
【0139】
幾つかの場合、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)は、PEGを含む反応分子と誘導体の純度を決定するために利用される。したがって一の場合では、所定のPEG-出発物質又はPEG-反応分子に含まれるPEG-ジオール又はジオール由来の不純物の量を、GPCを利用して決定することができる。例えばGPCによってPEG-ジオールの存在と量が確認されると、PEG-出発物質又は誘導体(例えばPEG-酸)をイオン交換クロマトグラフィーで精製し、PEG-ジオール又はPEG-ジオール関連不純物をすべて除去する。そのため、得られるPEG組成物には実質的にそのような二官能PEG不純物が存在していない。
【0140】
求電子基で活性化されたPEG試薬は実質的に純粋であること(すなわちPEG-ジオール又は反応性のある二官能PEG-ジオール由来の不純物も存在していないこと)が好ましい。出発物質であるPOLY-L0,1-Eに含まれるこのような不純物は約10%未満であることが好ましい。不純物の割合は、約5%未満であることがより好ましく、約2%未満であること、或いはこのような不純物がまったく検出されないことがさらに好ましい。これは、得られるチオール特異的官能化ポリマーPOLY-Sが、PEG-ジオール由来の有意な量の二官能ポリエチレングリコール不純物が存在していないポリマーをベースとした望む生成物を少なくとも90%、或いは少なくとも95%、或いは少なくとも98%又はそれ以上含んでいると好ましいことを意味する。このタイプの二官能ポリマー不純物(特に、本発明の方法を実施するときに持ち越されたそのような不純物からの対応するジチオール又は保護ジチオール)は、除去するのが非常に難しい可能性がある。反応性のあるこのような不純物は、反応スキームを通じて最終生成物である活性化されたポリマー誘導体へと持ち越される場合には、標的となる結合部分(例えばタンパク質又は他の活性剤に含まれるチオール含有基)と反応し、望まないポリマー複合体も生成させる可能性がある。
【0141】
チオール選択的反応分子
本発明の方法によれば、POLY−L0,1−Eを、活性化されたポリマーの求電子基と反応する求核基(−NU)と上記のチオール選択基の両方を含む反応分子と反応させる。一般に、本発明で用いる反応分子は、NU-Y-Sという構造を有する(ただしNUは求核基であり、YはNUとSに挟まれた基であり、Sはチオール選択基である)。
【0142】
“Y”
Yは自然の状態では一般に直線であるが、必ずしもそうなっている必要はない。Y基の全長は、一般に、1〜約20原子、或いは約2〜15原子である。ここで長さとは、単一の鎖に含まれる原子の数を意味し、置換基は数えない。例えば-CH2-は、リンカーの全長に関しては1原子と数え、-CH2CH2O-は、長さが3原子と数える。Yは長さが約1〜約20原子、或いは約2〜15原子、或いは約1〜約6原子であることが好ましく、加水分解に対して安定であることが好ましい。代表的なY基としては、以下に示すもののうちのいずれかでありうる:
【化7】

シクロアルキレン基、置換シクロアルキレン基、-CH2-CH2-CH2-C(O)-NH-CH2-CH2-NH-C(O)-CH2-CH2-、並びにこれらのうちの任意の2つ以上のものの組み合わせである。
【0143】
本発明で使用される好ましいY基としては、例えば、アルキレン、置換アルキレン、シクロアルキレン、置換シクロアルキレン、アリール、置換アリールなどが挙げられる。Yは、一般に、約2〜約10個の炭素原子を含んでおり、場合によっては非干渉性原子もさらに含むことができる。代表的なY基は以下の構造を有する。
【化8】

ただしR1とR2は、登場するごとに、それぞれ独立に、H又は有機ラジカルであって、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルキレンシクロアルキル、シクロアルキレン、置換シクロアルキレン、及び置換アルキレンシクロアルキルからなる群から選ばれるものである。Yは、2個〜約10個の炭素原子で構成されていることが好ましい。Y基の具体例としては、メチレン(-CH2-)、エチレン(-CH2CH2-)、プロピレン(-CH2CH2CH2-)、ブチレン(-CH2CH2CH2CH2-)、ペンチレン(-CH2CH2CH2CH2CH2-)、2-メチルプロピル、これらの置換された対応物などが挙げられる。上記構造の特別な一実施態様では、R1とR2は両方ともHである。
【0144】
別の好ましいY基は、-(CH2)1,2,3,4,5-NH-C(O)-CH2CH2-という構造を有する。
【0145】
チオール選択基“S”
チオール選択基の具体例としては、例えば、チオール、保護チオール、ジスルフィド、マレイミド、ビニルスルホン、ヨードアセトアミド、オルトピリジルジスルフィドなどが挙げられる。本明細書における“S”は、あらゆるチオール選択基を表わす。“S”は、特に、チオール、チオラート、ジスルフィド、並びに他の保護チオール基を表わす。チオール部の保護基としては、ジスルフィド以外に、トリチル、チオエーテル(例えばアルキルチオエーテル、ベンジルチオエーテル)などがあり、その中にはモノチオアセタール、ジチオアセタール、アミノチオアセタール、チオエステル、チオカーボネート、チオカーバメート、スルフェニル誘導体も含まれる。“S”基のこれら具体例に対応する構造を以下に示す。ここで点線は分子のY部への結合点を示している。A-SHは、チオール基を有する活性剤を表わす。
【化9】

【0146】
求核基
反応分子の求核部は、従来技術で一般に知られている求核基のいずれかである。好ましい求核基としては、一級アミノ、二級アミノ、ヒドロキシ、イミノ、チオール、チオエステルなどが挙げられる。二級アミノ基は、置換基として低級アルキル基(メチル、エチルなど)を一般に備える。
【0147】
したがって本発明で使用する反応分子には、本明細書に記載したNU、Y、Sのあらゆる組み合わせが含まれる。好ましい反応分子としては、シスタミン(対称アミノジスルフィド化合物の代表例)、及びシステアミン、アミノチオールを含み、そしてN-(2-アミノ-エチル)-3-マレイミド-プロピオンアミドが挙げられる。反応分子、シスタミンとの反応を実施例1〜3に示してある。そして、反応分子、N-(2-アミノ-エチル)-3-マレイミド-プロピオンアミドを用いた反応スキームの一例を以下に示す。
【化10】

【0148】
反応条件
ポリマーの求電子基と反応分子の求核基の間の反応は、穏やかな反応条件のもとで行なわせるのが一般的であるが、必ずしもそうである必要はなく、もちろん、反応する個々の求電子基と求核基に左右される。一般に、このような反応は、約100℃以下、或いは約65℃以下、或いは約40℃以下、或いは約20℃以下の温度で行なわせる。反応ステップは、一般に有機溶媒(例えばアセトン、アセトニトリル、塩素化炭化水素(例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなど)、芳香族炭化水素(例えばベンゼン、トルエン、キシレンなど)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルスルホキシドの中で実施する。
【0149】
当業者であれば、具体的な反応条件(溶媒、反応物質間のモル比、温度、雰囲気、反応時間)は、具体的な反応物質と所望の生成物の選択に応じて容易に決定できよう。反応の進行は、多数ある一般的な分析方法のうちの任意の方法(例えば薄層クロマトグラフィーや1H NMR)を利用してモニターすることができる。
【0150】
チオール選択部が保護チオールである場合には、更なる脱保護ステップが必要になろう。脱保護条件は保護基の性質によって異なるが、当業者であれば容易に決定することができる。その条件は、例えば、Greene, T.とWuts, Peter G.M.、“PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS”(第3版、ジョン・ワイリー&サンズ社、ニューヨーク、1999年)の第6章、454〜493ページに記載されている。
【0151】
対称なジスルフィド試薬(例えばシスタミン)を反応分子として用いる場合には、得られるポリマー生成物は、中央にジスルフィド結合を有する対称なポリマーである。中央にジスルフィド結合を有する対称な水溶性ポリマーの代表例は、構造(10)と(12)に示される。しかし本明細書に記載した反応とPOLY基、L1基、E基、NU基、Y基、S基についての記載に基づき、塩基性の特徴を有する多くの代替構造も容易に考えることができる。次に、適切な還元剤(例えばジチオスレイトール、Sn/HCl、Na/キシレン、アンモニア、水素化アルミニウムリチウム、ホウ水素化ナトリウム、或いは従来技術で知られている他の任意の還元剤)を用いて対称なポリマー・ジスルフィドを還元することにより、末端にチオールを有する対応するポリマー(例えば(11)や(13)など)に変換することができる。
【0152】
チオール選択的ポリマー
別の態様では、本発明により、上記の特徴と構成要素を有するチオール選択的ポリマーも提供される。一般に、本発明のチオール選択的ポリマーは、以下の構造を有する:POLY-L0,1-X-Y-S(ここで、文字L、X、Y、及びSはすでに説明したものである)。上記の具体的なPOLY、リンカー、Y基、及びS基はすべて、本発明による上記のチオール選択的ポリマーの一般構造に含まれる。ポリマー試薬の求電子基と反応分子の求核基の間の反応によって得られる官能基であるXは、アミド(-C(O)-NH-)又はウレタン(-O-C(O)-NH-)であることが好ましい。幾つかの場合、官能基Xは、 “-G1-C(O)-G2-”(ただしG1とG2はそれぞれ独立に、O、NH、Sといったヘテロ原子である)と本明細書中で記載される。一実施態様では、G1は存在せず、YはC(O)-Gに対応する。G2は-NHであることが好ましい。本発明の対称なポリマー・ジスルフィドは、一般構造:(POLY-L0,1-X-Y-S-)2(II)を有し、該構造は本明細書に記載したすべてのPOLY、リンカー、及びY基を含む。
【0153】
ポリマー試薬の保管
本発明のチオール選択的ポリマーは、不活性雰囲気(例えばアルゴン又は窒素)下で保管することが好ましい。本発明のポリマーができるだけ湿気に晒されないようにすることも好ましい。従って好ましい保管条件は、乾燥アルゴン又は他の乾燥不活性ガスのもとで、温度が約-15℃未満で保管するという条件である。低温条件下での保管が好ましい。なぜなら、より低い温度では望ましくない副反応の速度がより遅らされるからである。ポリマー生成物のポリマー・セグメントがPEGである場合には、そのPEG部を酸素とゆっくりと反応して、分子のPEG部に沿って過酸化物を形成しうる。過酸化物の形成は、最終的に鎖の切断を導き、こうして、本明細書で提供するPEG試薬の多分散性を増大させる。上記のことを考慮すると、本発明のポリマーは暗所で保管することが好ましい。
【0154】
チオールで活性化されたポリマー複合体
本発明は、本明細書に記載したチオール選択的ポリマーのいずれかが反応して形成される複合体にも関する。特に、本発明のチオール選択的ポリマーは、反応に利用できる少なくとも1つのチオール基又はアミノ基を有する活性剤又は表面との結合に有用である。複合体は、本明細書に記載したチオール選択基(例えばチオール、マレイミド、ビニルスルホン、オルトピリジルジスルフィド)のいずれかを活性剤に含まれるアクセス可能なチオールと反応させることによって形成される官能基に対応する構造を備える。
【0155】
例えば本発明の複合体は、以下:
POLY-L0,1-X-Y-S-S-活性剤(IV)
[式中、S-S-はジスルフィド結合である]
と言う構造を持つことができる。
【0156】
或いは本発明の複合体は、以下の構造:
【化11】

[式中、“-S-活性剤”は、チオール(-SH)基を含む活性剤(好ましくは生物学的に活性な薬剤であり、そして他の文字は上に記載した通りである]
を持つこともできる。活性剤が反応性チオール基を1つだけ有する生物学的に活性な薬剤又は小分子である場合には、タンパク質に一般に含まれていて結合に用いることのできるスルフヒドリル基の数が比較的少ないため、得られる組成物は、好ましいことに単一のポリマー複合体種だけを含んでいる可能性がある。タンパク質又は小分子又は他の活性剤を操作してチオール基の位置がわかるようにすると、同様に単一のポリマー複合体種だけを含む組成物になる場合がある。この方法は、一般に部位特異的修飾と呼ばれている。
【0157】
或いは本発明の複合体は、以下の構造を持つこともできる。
【化12】

上記構造では、“-NH-活性剤”は、アミノ基を持つ活性剤又は表面(好ましくは生物学的活性剤)を表わし、他の文字は上に説明したものである。所定の反応条件下において、マレイミド基はアミノ基(例えばタンパク質などの活性剤の中に存在しているアミノ基)と反応することができる。
【0158】
本発明の活性化されたポリマーに結合するシステイン残基としては、天然に存在するもの(すなわち元々ある形態のタンパク質に存在するもの)であってよいし、或いは標準的な遺伝子操作技術を使用して、天然アミノ酸の変わりに、元の配列へと挿入されてもよい。タンパク質中のチオール基は他の典型的なポリマー結合部位(例えばアミノ基)と比べて少ないため、ポリマー誘導体が共有結合することによって標的タンパク質をより選択的にペグ化することができる。すなわち、本発明のポリマー誘導体により、親タンパク質に結合するポリマー誘導体の数(一置換複合体、二置換複合体、三置換複合体など)とポリマーが付着する位置の両方について、得られるポリマー複合体を制御できる程度がより大きくなる。
【0159】
本発明による複合体の一般的な特徴をこれまで詳細に説明してきた。チオール選択的ポリマーに共有結合する活性剤には、分子、物質、表面などの多数のタイプのいずれかが含まれ、そのことは以下の説明から明らかになろう。
【0160】
標的分子と表面
本発明のチオール選択的ポリマーは、共有結合又は非共有結合によって多数の物質に結合することができ、例えば、フィルム、化学的に分離・精製された表面、固体支持体、金属/金属酸化物の表面(例えば、金、チタン、タンタル、ニオビウム、アルミニウム、スチール、これらの酸化物)、酸化ケイ素、巨大分子、小分子を含む。さらに、本発明のポリマーと方法は、生化学的センサー、バイオエレクトロニクスにおけるスイッチ、及びゲートに用いられうる。本発明のポリマーと方法は、ペプチドを合成するための担体の製造、ポリマーでコーティングした表面やポリマー・グラフトの製造、親和性を分配するためのポリマー-リガンド複合体の製造、架橋したヒドロゲルや架橋していないヒドロゲルの製造、並びにバイオリアクターのためのポリマー-コファクター付加物の製造にも利用されうる。
【0161】
本発明の複合体を作るのに利用する生物学的に活性な薬剤は、以下に示すものの中の1つ以上のものいずれかでありうる。適切な薬剤は、例えば、催眠薬、鎮静薬、精神賦活薬、精神安定薬、呼吸薬、抗痙攣薬、筋肉弛緩薬、抗パーキンソン薬(ドーパミン・アンタゴニスト)、鎮痛薬、抗炎症薬、抗不安薬、食欲抑制薬、抗偏頭痛薬、筋肉収縮薬、抗感染薬(抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬、ワクチン)、関節炎治療薬、抗マラリア薬、抗嘔吐薬、抗てんかん薬、気管支拡張薬、サイトカイン、増殖因子、抗がん剤、抗血液凝固薬、抗高血圧薬、心血管薬、抗不整脈薬、抗酸化剤、抗喘息薬、ホルモン剤(例えば避妊薬)、交感神経作用薬、利尿薬、脂質調節薬、抗男性ホルモン薬、駆虫薬、抗凝固薬、新生物形成薬、抗腫瘍薬、低血糖薬、栄養剤、サプリメント、成長用サプリメント、抗腸炎薬、ワクチン、抗体、診断薬、及び造影剤から選ばれうる。
【0162】
さらに詳しく説明すると、活性剤は、多数の構造クラス(例えば、非限定的に小分子(不溶性小分子であることが好ましい)、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、多糖類、ステロイド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、脂肪、電解質など)のうちの1つに分類することができる。本発明のポリマーと結合させる活性剤は、スルフヒドリル基を元々備えていることが好ましいが、アミノ基を元々備えていることは、それよりも好ましさの程度が落ちる。或いは活性剤は、結合に適した反応性のある少なくとも1つのスルフヒドリル基又はアミノ基を含むように修飾される。
【0163】
活性剤の具体例は、非限定的にアスパラギナーゼ、アムドキソビル(DAPD)、アンタイド、ベカプレルミン、カルシトニン、シアノビリン、デニロイキン・ジフチトックス、エリスロポエチン(EPO)、EPOアゴニスト(例えばWO 96/40749に記載されている、長さが約10〜40個のアミノ酸からなるペプチドで特別なコア配列を有するもの)、ドルナーゼα、赤血球生成刺激タンパク質(NESP)、血液凝固因子(例えば第V因子、第VII因子、第VIIa因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XII因子、第XIII因子、フォン・ウィルブラント因子);セレダーゼ、セレザイム、α-グルコシダーゼ、コラーゲン、シクロスポリン、αデフェンシン、βデフェンシン、エクセジン-4、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、トロンボポエチン(TPO)、α-1プロテイナーゼ阻害剤、エクラトニン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、フィブリノーゲン、フィルグラスチム、成長ホルモン、ヒト成長ホルモン(hGH)、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、GRO-β、GRO-β抗体、骨形成タンパク質(例えば骨形成タンパク質-2、骨形成タンパク質-6、OP-1);酸性線維芽細胞増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、CD-40リガンド、ヘパリン、ヒト血清アルブミン、低分子量ヘパリン(LMWH)、インターフェロン(例えばインターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターフェロンω、インターフェロンτ、コンセンサス・インターフェロン);インターロイキンとインターロイキン受容体(例えばインターロイキン-1受容体、インターロイキン-2、インターロイキン-2融合タンパク質、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン-4受容体、インターロイキン-6、インターロイキン-8、インターロイキン-12、インターロイキン-13受容体、インターロイキン-17受容体);ラクトフェリンとラクトフェリン断片、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、インスリン、プロ-インスリン、インスリン・アナログ(例えば米国特許第5,922,675号に記載されているモノアシル化インスリン)、アミリン、C-ペプチド、ソマトスタチン、ソマトスタチン・アナログ(例えばオクトレオチド)、バソプレシン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、インフルエンザ・ワクチン、インスリン様成長因子(IGF)、インスリントロピン、マクロファージ・コロニー刺激因子(M-CSF)、プラスミノーゲン・アクチベータ(例えばアルテプラーゼ、ウロキナーゼ、レテプラーゼ、ストレプトキナーゼ、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、テネテプラーゼ);神経成長因子(NGF)、オステオプロテゲリン、血小板由来増殖因子、組織成長因子、形質転換成長因子-1、血管内皮増殖因子、白血病抑制因子、ケラチノサイト成長因子(KGF)、グリア増殖因子(GGF)、T細胞受容体、CD分子/抗原、腫瘍壊死因子(TNF)、単球走化性タンパク質-1、内皮増殖因子、副甲状腺ホルモン(PTH)、グルカゴン様ペプチド、ソマトトロピン、チモシンα1、チモシンα1 IIb/IIIa阻害剤、チモシンβ10、チモシンβ9、チモシンβ4、α-1アンチトリプシン、ホスホジエステラーゼ(PDE)化合物、VLA-4(超遅発抗原-4)、VLA-4阻害剤、リン酸水素塩、呼吸器合胞体ウイルス抗体、嚢胞性線維症膜貫通レギュレータ(CFTR)遺伝子、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)、殺菌/浸透性増大タンパク質(BPI)、抗CMV抗体などを含む。モノクローナル抗体の具体例としては、エタネルセプト(IgG1のFc部に結合されたヒト75kDのTNF受容体の細胞外リガンド結合部からなる二量体融合タンパク質)、アブシキシマブ、アフェリオモマブ、バシリキシマブ、ダクリズマブ、インフリキシマブ、イブリツモマブ、チウエキセタン、ミツモマブ、ムロモナブ-CD3、ヨウ素131トシツモマブ複合体、オリズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ(ハーセプチン)などを含む。
【0164】
ポリマーに共有結合させるのに適した別の薬剤としては、アミフォスチン、アミオダロン、アミノカプロン酸、アミノ馬尿酸ナトリウム、アミノグルテチミド、アミノレブリン酸、アミノサリチル酸、アムサクリン、アナグレリド、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、アントラサイクリン、ベキサロテン、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、カベルゴリン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシン、シラスタチンナトリウム、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネート、シクロホスファミド、シプロテロン、シタラビン、カンプトテシン、13-シスレチノイン酸、オールトランス型レチノイン酸;ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デフェロキサミン、デキサメタゾン、ジクロフェナク、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フェキソフェナジン、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲムシタビン、エピネフリン、L-ドパ、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、イリノテカン、イトラコナゾール、ゴセレリン、レトロゾール、ロイコボリン、レバミゾール、リシノプリル、ロボチロキシンナトリウム、ロムスチン、メクロルエタミン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、酒石酸水素メタラミノール、メトトレキサート、メトクロプラミド、メキシレチン、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ナロキソン、ニコチン、ニルタミド、オクトレオチド、オキサリプラチン、パミドロネート、ペントスタチン、ピルカマイシン、ポルフィマー、プレドニゾン、プロカルバジン、プロクロルペラジン、オンダンセトロン、ラルチトレキセド、シロリムス、ストレプトゾシン、タクロリムス、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストステロン、テトラヒドロカンナビノール、サリドマイド、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、トレチノイン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ドラセトロン、グラニセトロン;ホルモテロール、フルチカゾン、ロイプロリド、ミダゾラム、アルプラゾラム、アムホテリシンB、ポドフィロトキシン、ヌクレオシド抗ウイルス剤、アロイルヒドラゾン、スマトリプタン;マクロライド(例えばエリスロマイシン、オレアンドマイシン、トロレアンドマイシン、ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン、ダベルシン、アジスロマイシン、フルリスロマイシン、ジリスロマイシン、ジョサマイシン、スピロマイシン、ミデカマイシン、ロイコマイシン、ミオカマイシン、ロキタマイシン、アンダジスロマイシン、スイノリドA);フルオロキノロン(例えばシプロフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、トロバフロキサシン、アラトロフロキサシン、モキシフロキシシン、ノルフロキサシン、エノキサシン、グレパフロキサシン、ガチフロキサシン、ロメフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、ペフロキサシン、アミフロキサシン、フレロキサシン、トスフロキサシン、プルリフロキサシン、イルロキサシン、パズフロキサシン、クリナフロキサシン、シタフロキサシン);アミノグリコシド(例えばゲンタマイシン、ネチルマイシン、パラメシン、トブラマイシン、アミカシン、カナマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン)、バンコマイシン、テイコプラニン、ラムポラニン、ミデプラニン、コリスチン、ダプトマイシン、グラミシジン、コリスチメセート;、ポリミキシン(例えばポリミキシンB、カプレオマイシン、バシトラシン、ペネムズ);ペニシリン(例えばペニシリンGやペニシリンVなどのペニシリナーゼ感受薬);ペニシリナーゼ抵抗薬(例えばメチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フロキサシリン、ナフシリン);グラム陰性微生物活性剤(例えばアンピシリン、アモキシシリン、ヘタシリン、シリン、ガラムピシリン);抗シュードモナスペニシリン(例えばカルベニシリン、チカルシリン、アズロシリン、メズロシリン、ピペラシリン);セファロスポリン(例えばセフポドキシム、セフプロジル、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セファロチン、セファピリン、セファレキシン、セフラドリン、セフォキシチン、セファマンドール、セファゾリン、セファロリジン、セファクロル、セファドロキシル、セファログリシン、セフロキシム、セフォラニド、セフォタキシム、セファトリジン、セファセトリル、セフェピム、セフィキシム、セフォニシド、セフォペラゾン、セフォテタン、セフメタゾール、セフタジジム、ロラカルベフ、モキサラクタム)、モノバクタム(例えばアズトレオナム);カルバペネム(例えばイミペネム、メロペネム、イセチオン酸ペンタミジン、硫酸アルブテロール、リドカイン、硫酸メタプロテレノール、ジプレピオン酸ベクロメタゾン、トリアムシノロンアセトアミド、ブデソニドアセトニド、フルチカゾン、臭化イプラトロピウム、フルニソリド、クロモリンナトリウム、酒石酸エルゴタミン);タキサン(例えばパクリタキセル);SN-38、チルホスチンなどがある。
【0165】
本発明のチオール選択的ポリマーと結合させるのに好ましいペプチド又はタンパク質は、EPO、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、コンセンサスIFN、血液凝固第VII因子、第VIII因子、第IX因子、IL-2、レミケード(インフリキシマブ)、リツキサン(リツキシマブ)、エンブレル(エタネルセプト)、シナジス(パリビズマブ)、レオプロ(アブシキシマブ)、ハーセプチン(トラスツジマブ)、tPA、セリザイム(イミグルセラーゼ)、B型肝炎ワクチン、rDNAse、α-1プロテイナーゼ阻害剤、GCSF、GMCSF、hGH、インスリン、FSH、PTHなどを含む。
【0166】
生物学的活性剤の上記具体例には、適用可能なそれらのアナログ、アゴニスト、アンタゴニスト、阻害剤、異性体、薬理学的に許容可能な塩の形態も含まれるものとする。ペプチドとタンパク質について述べる場合には、本発明では、合成、組換え、天然、グリコシル化、非グリコシル化形態、並びにその生物学的に活性な断片もその中に含まれるものとする。1個以上のアミノ酸の置換(例えばシステイン)や欠失などがある変異体も、得られる変異タンパク質が親(元の)タンパク質の活性を少なくともある程度持っているのであれば、生物学的に活性な上記タンパク質に含まれるものとする。
本明細書に記載した複合体又は方法は、ヒドロゲル製剤にも拡張することもできる。
【0167】
複合体形成方法
適切な複合体形成条件は、時間、温度、pH、試薬の濃度、溶媒などが、ポリマー試薬と活性剤の間で結合が起こるのに十分な条件である。従来技術で知られているように、具体的な条件は、特に、活性剤、所望の結合のタイプ、反応混合物中の他の材料の存在などに左右される。具体的なケースで結合させるのに十分な条件は、当業者であれば、本明細書の開示内容を読むことによって、及び/又は関連文献を参照することによって、及び/又は定型的な実験を通じて決定することができよう。
【0168】
複合体形成条件の例は、複合体形成反応をpHが約6〜約10で、例えばpHを約6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、又は10のいずれかにして行なわせることを含む条件がある。この反応を約5分間〜約72時間行うことが許容され、約30分〜約48時間であることが好ましく、約4時間〜約24時間以下であることがより好ましい。複合体形成反応の温度は一般に約0℃〜約40℃であるが、必ずしもそうである必要はない。複合体形成はしばしば室温以下で行なわせる。複合体形成反応は、しばしば溶媒(例えばリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、或いは同様の系)の中で行なわれる。
【0169】
試薬の濃度に関しては、一般に過剰量のポリマー試薬を活性剤と組み合わせる。しかし幾つかの場合では、活性剤の量に対してポリマー試薬上の反応基の数が化学量論的な量になっていることが好ましい。ポリマー試薬と活性剤の具体的な比は、モル比で約1:1(ポリマー試薬:活性剤)、1.5:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、8:1、10:1のいずれかである。複合体形成反応は、結合が実質的にそれ以上起こらなくなるまで続けさせることができる。そのことは、一般に、反応の進行を時間を追ってモニターすることによって測定することができる。
【0170】
反応の進行は、さまざまな時点における反応混合体から一定量を採取し、SDS-PAGE、MALDI-TOF質量分析、又は適切な他のいずれかの分析法で分析することによって、モニターできる。形成される複合体の量、又は結合しなかった残留ポリマーの量がプラトーに到達すると、反応が完了したと見なされる。一般に、複合体形成反応は、数分〜数時間(例えば5分〜24時間又はそれ以上)で起こる。得られる生成混合物は、過剰な試薬、結合しなかった反応物質(例えば活性剤)、望ましくない多重結合種、遊離ポリマー又は未反応のポリマーから分離することが好ましいが、必ずしもそうする必要はない。次に、MALDI、キャピラリー電気泳動、ゲル電気泳動、及び/又はクロマトグラフィーなどの分析法を利用し、得られた複合体はさらに性質決定される。
【0171】
より好ましくは、本発明のチオール選択的ポリマーは、pHを約6〜9(例えば6、6.5、7、7.5、8、8.5、又は9のいずれか)にしてスルフヒドリル含有活性剤と結合される。pHは約7〜9であることがより好ましく、約7〜8であることがさらに好ましい。一般に、わずかに過剰なモル数のポリマー試薬を使用する。例えば1.5〜15倍、より好ましくは2倍〜10倍過剰なモル数が使用される。反応時間は一般に、室温にて約15分〜数時間(例えば8時間以上)の範囲である。立体障害をうけるスルフヒドリル基では、必要とされる反応時間は、それよりもかなり長くなりうる。本発明のポリマーはチオール選択的であるため、チオール選択的複合体形成は、pHを約7にして実施することが好ましい。
【0172】
分離
場合によっては、異なる種(例えばPEG種)を取得/分離するか、望ましくない反応副生成物を除去するため、本発明のチオール選択的ポリマーを生物学的活性剤と反応することにより得られる複合体を精製する。
【0173】
所望するのであれば、ゲル濾過クロマトグラフィーを利用して異なる分子量のPEG複合体を分離することができる。この方法を利用するとさまざまな分子量のPEG複合体を分離できるが、1つのタンパク質内の異なるペグ化部位を有する位置異性体の分離には一般に有効ではない。例えばゲル濾過クロマトグラフィーを利用すると1個のPEG付加体(PEG-1mers)、2個のPEG付加体(PEG-2mers)、3個のPEG付加体(PEG-3mers)などの混合物を分離できるが、各々の回収されるPEG付加体の組成物は、タンパク質中の異なる反応基に結合されたPEGsを含むことがある。
【0174】
このタイプの分離を行なうのに適したゲル濾過カラムとしては、アマシャム・バイオサイエンシーズ社から入手できるスーパーデックス(商標)カラムとセファデックス(商標)カラムがある。具体的なカラムの選択は、望む分画範囲に左右されるだろう。溶出は、一般に、非アミンに基く緩衝液(例えばリン酸緩衝液、酢酸緩衝液など)を用いて行なう。回収した分画は、多数の異なる方法で分析することができる。例えば(i)タンパク質の含有量を調べるための280nmにおけるOD、(ii)BSAタンパク質分析、(iii)PEGの含有量を調べるためのヨウ素テスト(Sims, G.E.C.他、Anal. Biochem.、第107巻、60〜63ページ、1980年)、或いは(iv)SDS-PAGEゲルの上を走らせた後にヨウ化バリウム染色するといった方法がある。
【0175】
位置異性体の分離は、例えばRP-HPLC C18カラム(アマーシャム・バイオサイエンシーズ社又はヴィダック社)を用いた逆相クロマトグラフィーによって、或いはイオン交換カラム(例えばアマシャム・バイオサイエンシーズ社から入手できるセファロース(商標)イオン交換カラム)を用いたイオン交換クロマトグラフィーによって実現できる。どちらの方法でも、同じ分子量のPEG-生体分子異性体(位置異性体)を分離することができる。
【0176】
複合体形成ステップと任意の追加分離ステップの後に得られるPEG-複合体の用途に応じ、複合体混合物を濃縮し、減菌濾過し、約-20℃〜約-80℃の低温で保管するとよい。或いは複合体を残留緩衝液とともに、或いは残留緩衝液なしで凍結乾燥させ、凍結乾燥粉末として保管してもよい。複合体形成に用いる緩衝液(例えば酢酸ナトリウム)を凍結乾燥の間に容易に除去できる揮発性緩衝液(例えば炭酸アンモニウム又は酢酸アンモニウム)と交換し、それにより凍結乾燥したタンパク質複合体の粉末製剤には緩衝液が残留しないようにするのが好ましい場合もある。或いは製剤用緩衝液を用いて緩衝液交換ステップを実施するので、そのため凍結乾燥した複合体を製剤緩衝液中に再構成することに適し、そして最終的に哺乳動物へ投与することに適した形態である。
【0177】
医薬組成物
本発明は、本明細書に記載した複合体と医薬用賦形剤を含む医薬製剤を含む。一般に、複合体そのものは固体の形態(例えば沈殿物)又は溶液であり、適切な医薬用賦形剤と組み合わせることができる。医薬用賦形剤は、固体又は液体の形態が可能である。
【0178】
具体的な賦形剤としては、非限定的に、炭水化物、無機塩、抗菌剤、抗酸化剤、界面活性剤、緩衝液、酸、塩基、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択したものを含む。
【0179】
炭水化物(例えば糖類、誘導体化された糖類(例えば、アルジトールなど)、アルドン酸、エステル化された糖、及び/又は糖ポリマー)は、賦形剤として存在していてもよい。特別な炭水化物賦形剤は、例えば、単糖類(フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボースなど);二糖類(ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなど);多糖類(ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなど);アルジトール(マンニトール、ザイリトール、マルチトール、ラクチトール、ザイリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトールなど)がある。
【0180】
賦形剤としては、無機塩又は緩衝液も挙げられ、例えば、クエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、並びにこれらの組み合わせである。
【0181】
製造物には、細菌の増殖を阻止又は防止する抗菌剤も含まれていてよい。本発明に適した抗菌剤の非限定的な例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジル・アルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチル・アルコール、硝酸フェニル水銀、チメロサール、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0182】
抗酸化剤も製造物の中に存在することができる。抗酸化剤は酸化を防ぐために使用される。そうすることにより、複合体の劣化、又は製剤の他の成分の劣化を阻止する。本発明で用いるのに適した抗酸化剤は、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、ホスフィン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、メタ亜硫酸水素ナトリウム、並びにこれらの組み合わせを含む。
【0183】
賦形剤として界面活性剤が存在していてもよい。具体的な界面活性剤としては、ポリソルベート(例えば“トゥイーン20”や“トゥイーン80”)、プルロニック(例えばF68やF88(両方ともBASF社、マウント・オリーヴ、ニュージャージー州から入手できる));ソルビタンエステル;脂質(例えば、レシチンなどのリン脂質、それ以外のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン(リポソームの形態でないことが好ましい)、脂肪酸、脂肪エステル);ステロイド(例えばコレステロール);及びキレート剤(例えばEDTAや、亜鉛その他の適切なカチオン)などが挙げられる。
【0184】
製剤中に賦形剤として酸又は塩基が存在していてもよい。使用できる酸の非限定的な例は、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される酸を含む。適切な塩基の具体例としては、非限定的に、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フマル酸カリウム、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される塩基が挙げられる。
【0185】
医薬組成物製剤としてはあらゆるタイプの製剤が可能であり、特に、注射に適した製剤(例えば再構成できる粉末、懸濁液、及び溶液)が挙げられる。組成物に含まれる複合体(すなわち、活性剤と本明細書に記載したポリマーの間に形成される複合体)の量は多数の因子作用されて変化するが、組成物を単位用量の容器(例えばバイアル)に保管する場合には、治療に有効な投与量になるよう最適化することになろう。さらに、医薬製剤は、注射器に入れられるうる。治療有効投与量は、どの量で臨床的に望む成果が生じるかを決めるために複合体の増大した量を繰り返して投与することにより、実験的に測定されうる。
【0186】
組成物に含まれる個々の賦形剤のいずれかの量は、その賦形剤の活性と、その組成物の具体的な用途によって異なるだろう。一般に、個々の賦形剤のいずれかの最適量は、定型的な実験を通じて決められる。すなわち、量を(少量から多量へと)変化させた賦形剤を含むいろいろな組成物を製造し、安定性とそれ以外のパラメータを調べた後、有意な副作用なしに最適な性能が実現する範囲を決定することによって決められる。
【0187】
しかし一般に、賦形剤は組成物の中に、約1重量%〜約99重量%の量で存在するであろう。この量は、約5重量%〜約98重量%であることが好ましく、約15重量%〜約95重量%であることがさらに好ましく、30重量%未満であることが最も好ましい。
【0188】
上記の医薬用賦形剤に加えてそれ以外の賦形剤は、“Remington:The Science & Practice of Pharmacy”第19版、ウイリアムズ&ウイリアムズ社、1995年;“Physician's Desk Reference”第52版、メディカル・エコノミクス社、モントヴェール、ニュージャージー州、1998年;Kibbe, A.H.、“Handbook of Pharmaceutical Excipients”第3版、アメリカ医薬協会、ワシントンD.C.、2000年に記載されている。
【0189】
本発明の医薬製剤は、一般に注射によって投与されるため、投与の直前には一般に溶液又は懸濁液であるが、必ずしもそうである必要はない。この医薬製剤は、他の形態にすることもできる。例えば、シロップ、クリーム、軟膏、錠剤、粉末などの形態が可能である。他の投与経路も可能であり、例えば、肺、直腸、経皮、経粘膜、経口、包膜内、皮下、動脈内などの経路もある。
【0190】
すでに説明したように、複合体は、静脈内注射などによって非経口で注入投与することができる。それよりは好ましさの程度が落ちるが、筋肉内注射や皮下注射で注入投与することもできる。非経口投与に適した製剤の形態としては、特に、そのまま注射できる溶液、使用前に溶媒と組み合わせる乾燥粉末、そのまま注射できる懸濁液、使用前に溶媒と組み合わせる不溶性乾燥組成物、投与前に希釈するエマルジョンや濃縮液体がある。
【0191】
投与方法
本発明により、本明細書に記載した複合体を、その複合体を用いた治療に反応する症状を患っている患者に投与する方法も提供される。この方法は、一般に注射によって治療に有効な量の複合体(複合体は、医薬組成物の一部として提供されることが好ましい)を投与する操作を含んでいる。この投与方法は、特定の複合体を投与することによって治療又は予防できるあらゆる症状の治療に利用できる。当業者であれば、特定の複合体を用いてどの症状を効果的に治療できるかを知っているであろう。実際の投与量は、患者の年齢、体重、全体的な症状のほか、治療される症状の程度、ヘルスケアの専門家による判断、投与される複合体に応じて変化するであろう。治療有効量は、当業者に知られており、及び/又は関係のある参考書及び参考文献に記載されている。一般に、治療に有効な量は約0.001mg〜100mgであり、投与量は0.01mg/日〜75mg/日であることが好ましく、0.10mg/日〜50mg/日であることがさらに好ましい。
【0192】
どの複合体(複合体は、この場合にも医薬製剤の一部として提供されることが好ましい)であれ、内科医の判断、患者の必要性などに応じ、単位用量をさまざまな投与計画で投与することができる。具体的な投与計画は、当業者であれば知っている、或いは定型的な方法で実験的に決定することができる。投与計画の例としては、1日に5回、1日に4回、1日に3回、1日に2回、1日に1回、一週間に3回、一週間に2回、一週間に1回、1ヶ月に1回、並びにこれらの任意の組み合わせが挙げられる。臨床で目的が達成されると組成物の投与が停止される。
【0193】
本発明の複合体を投与することの別の利点は、個々の水溶性ポリマーの部分を切断できることである。これは、ポリマーのサイズが原因で身体からのクリアランスが潜在的な問題となる場合に利点となる。生理的条件で切断させることのできる結合及び/又は酵素による分解が可能な結合(例えばウレタン、アミド、カーボネート、エステルを含む結合)を用いて水溶性ポリマーの各部分を容易に切断させうることが望ましい。このように、望むクリアランス特性を与えると思われるポリマー分子のサイズと官能基のタイプを選択することにより、複合体のクリアランスを調節することができる。当業者であれば、ポリマー分子と切断可能な官能基の適切なサイズを決めることができる。当業者であれば、例えば定型的な実験により、まず最初に、ポリマーの分子量と切断可能な官能基が異なる種々のポリマー誘導体を製造し、次いでそのポリマー誘導体を患者に投与し、定期的に血液及び/又は尿のサンプリングを行なってクリアランスのプロファイルを取得することにより、適切な分子サイズと切断可能な官能基を決めることができる。テストするそれぞれの複合体について一連のクリアランス・プロファイルが得られると、適切な複合体を同定することができる。
【0194】
あらゆる論文、書籍、特許、特許出願、並びに他の刊行物は、参考としてその全体を本明細書中に援用される。
【0195】
以下の実施例により本発明を例示するが、本発明の範囲を制限するものとして意図されるものではない。
【実施例】
【0196】
材料と方法
1H NMRのデータは、ブルーカー社が製造した400MHzスペクトロメータを用いて取得した。
実施例で言及するPEG試薬は、ネクター・セラピューティクス社(ハンツヴィル、アラバマ州)から入手できる。
【0197】
1. mPEG-5Kプロピオン酸,N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルの製造
PEG試薬であるmPEG-5Kプロピオン酸,N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルを以下のようにして合成した。
【0198】
A. M-PEG(5,000)-ニトリル(1)
【0199】
M-PEG-OH(メトキシ-PEG、分子量=5,000ダルトン、50g、より大きな分子量のPEG-ジオールを4重量%含む(そのことは、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で測定した))を蒸留水(50.0ml)に溶かし、そこに水酸化カリウム(1.0g)を添加した。この溶液を氷浴の中で0〜5℃に冷却した。アクリロニトリル(6.8g)をゆっくりと添加し、この溶液を0〜5℃にて2.5時間にわたって撹拌した。リン酸二水素ナトリウムを添加することによってこの溶液のpHを7に調節した。生成物をジクロロメタンを用いて3回抽出した(250、100、50ml)。1つにまとめた有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮し、0〜5℃にてエチルエーテルを添加することによって生成物を沈殿させた。沈殿物を濾過によって取り出し、真空下で乾燥させた。
収量47.0g。NMR (d6-DMSO):2.74ppm (t, 2H, -CH2-CN);3.21ppm (s, 3H, -OCH3)、3.51ppm (s, PEG骨格)。
【0200】
B. M-PEG(5,000)-アミド(2)
M-PEG(5,000)-ニトリル(1)(47.0g)と濃塩酸(235g)の混合物を室温にて48時間撹拌した。この溶液を2リットルの水で希釈し、ジクロロメタンで抽出した(300、200、及び100ml)。1つにまとめた有機抽出液を水で2回洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、ロータリー・エバポレーターにより乾燥するまで濃縮した。
【0201】
収量43.0g。NMR (d6-DMSO):2.26ppm (t, 2H, -CH2-CONH2);2.43ppm (t, 2H, -CH2-COOH);3.21ppm (s, 3H, -OCH3);3.51ppm (s, PEG骨格)。
【0202】
C. M-PEG(5,000)-プロピオン酸(PEGのα-メトキシ,ω-プロピオン酸)(3)
【0203】
M-PEG(5,000)-アミド(2)(32.0g)を蒸留水2300mlに溶かし、そこに水酸化カリウム200gを添加した。この溶液を室温にて22時間にわたって撹拌した。塩化ナトリウム(300g)を添加し、この溶液を各回毎に300mlのジクロロメタンで、3回抽出した。1つにまとめた有機抽出液を5%シュウ酸で洗浄し、水で洗浄し(2回)、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。この溶液を濃縮し、エチルエーテルに加えることにより生成物を沈殿させた。生成物であるM-PEG(5,000)-プロピオン酸(3)を濾過によって回収し、吸引下で乾燥させた。
【0204】
収量28.0g。NMR (d6-DMSO):2.43ppm (t, 2H, -CH2-COOH);3.21ppm (s, 3H, -OCH3)、3.51ppm (s, PEG骨格)。
【0205】
二官能不純物の除去:(出発物質中に含まれているPEGジオール不純物の反応から得られる)4重量%のPEG(10,000)-ジプロピオン酸(22g)を含むM-PEG(5,000)-プロピオン酸(3)を2200mlの脱イオン水に溶かし、得られた溶液を四ホウ酸塩の形態でDEAEセファデックスA-25クロマトグラフィー用カラムに入れた。塩化ナトリウムの段階的なイオン勾配(2〜14mMまでの増加)を適用し、分画の回収を始めた(それぞれ約60ml)。分画4〜25は、純粋なM-PEG(5,000)-プロピオン酸を含んでいた。次の2つの分画はPEGを含んでいなかったのに対し、分画28〜36は純粋なPEG(10,000)-ジプロピオン酸を含んでいた。純粋なM-PEG(5,000)-プロピオン酸を含む分画を1つにまとめ、(約100mlに)濃縮した。塩化ナトリウム(10g)を添加し、pHを3に調節し、生成物をジクロロメタンで抽出した。有機層をMgSO4上で乾燥させ、溶媒を減圧下で蒸留によって除去すると、生成物が18.4g得られた。
HPLC分析により、生成物は100%純粋なM-PEG(5,000)-プロピオン酸であることが示された(他の不純物はまったく存在しない)。
【0206】
D. M-PEG(5,000)-プロピオン酸,NHSエステル(PEGのα-メトキシ,ω-プロピオン酸スクシンイミジル・エステル(“メトキシ-PEG-SPA”))(4)
M-PEG(5,000)-プロピオン酸(14.4g)(3)をジクロロメタン(60ml)に溶かして溶液にした。その溶液にN-ヒドロキシスクシンイミド(0.36g)を添加した。この溶液を0℃まで冷却し、ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.72g)を溶かした10mlのジクロロメタン溶液を滴下して添加した。該溶液をアルゴン雰囲気下で室温にて一晩撹拌した。反応混合物を濾過し、濃縮し、エチルエーテルに添加することにより生成物を沈殿させた。
最終生成物(4)の収量:14.0g。NMR (d6-DMSO):2.81ppm (s, 4H, NHS);2.92ppm (t, 2H, -CH2-COO-);3.21ppm (s, 3H, -OCH3)、3.51ppm (s, PEG骨格)。
【0207】
2. mPEG-20Kブタン酸,N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルの製造
PEG試薬であるmPEG-20Kブタン酸,N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルを以下のようにして合成した。
A. M-PEG(20K)-メタンスルホネート(5)
M-PEG-OH(分子量=20,000ダルトン、60g、高分子量のPEG-ジオールを6重量%含む(そのことは、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で測定した))を300mlのトルエンに溶かし、アルゴン雰囲気下で1時間にわたって共沸蒸留した。次にこの溶液を室温まで冷却した。この溶液に24mlの無水ジクロロメタンと0.62mlのトリエチルアミン(0.0044モル)を添加した。0.28mlの塩化メタンスルホニル(0.0036モル)を滴下して加えた。この溶液を窒素雰囲気下で室温にて一晩にわたって撹拌した。次に炭酸ナトリウム(30g)を添加し、この混合物を1時間に撹拌した。溶液を濾過し、溶媒を減圧下で蒸留によって除去した。収量27.5g。
1H NMR (d6-DMSO):3.17ppm (s, 3H, CH3-メタンスルホン酸塩)、3.24ppm (s, 3H, -OCH3)、3.51ppm (s, PEG骨格)、4.30ppm (m, -CH2-メタンスルホネート)。
【0208】
B. M-PEG(20,000)-ブタン酸(8)
【0209】
丸底フラスコに入れた水素化ナトリウム(0.536g、0.022当量)とトルエン(100ml)に、200mlのジオキサンに溶かしたマロン酸エチル(3.4ml、0.022当量)を一滴ずつ窒素雰囲気下で添加した。100mlのトルエンに溶かしたM-PEG(20K)-メタンスルホネート(5)(40g、0.0020モル)を上記混合液に添加した。得られた混合液を一晩還流させた。次にこの反応混合液を元の体積の半分に濃縮し、50mlの10%NaCl水溶液で抽出し、50mlの1%塩酸水溶液で抽出し、水性の抽出液を1つにまとめた。回収した水層をジクロロメタンで抽出し(150ml×3)、有機層を硫酸マグネシウム上で3時間乾燥させ、濾過し、乾燥するまで蒸発させた。
M-PEGマロン酸ジエチルエステル(6)の収量:36g。NMR (d6-DMSO):1.17ppm (t, 6H, -CH3);1.99ppm (四重項, 2H, -CH2-CH);3.21ppm (s, 3H, -OCH3)、3.51ppm (s, PEG骨格)、4.10ppm (五重項, 4H, -OCH2-CH3)。
【0210】
24gの塩化ナトリウムを含む1Nの水酸化ナトリウム480mlにM-PEGマロン酸ジエチル・エステル(6)(36g)を溶かし、この混合液を1時間撹拌した。6Nの塩酸を添加することによってこの混合液のpHを3.0に調節した後、この混合液をジクロロメタンで抽出した(300mlと200ml)。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮し、冷エチルエーテル中に注いだ。生成物であるM-PEG(20,000)-マロン酸(7)を濾過によって取り出し、真空下で乾燥させた。
収量:32g。NMR (d6-DMSO):1.0ppm (q, 2H, -CH2CH2CH-);2.90ppm (t, 2H, -CH2CH-);3.21ppm (s, 3H, -OCH3);3.51ppm (s, PEG骨格);12.1ppm (s, 2H, -COOH)。
【0211】
M-PEGマロン酸(7)(30g)を240mlのジオキサンに溶かし、8時間還流させた後、乾燥するまで濃縮した。残留物を200mlの水に溶かし、ジクロロメタンで抽出し(140mlと100ml)、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、溶液をロータリーエバポレーターによって濃縮した。残留物を冷エチル・エーテルに添加して沈殿させた。
M-PEG(20,000)-ブタン酸(8)の収量:22g。1H NMR (d6-DMSO):1.72ppm (五重項, 2H, -CH2CH2CH2-COOH);2.40ppm (t, 4H, -CH2CH2CH2-COOH);3.21ppm (s, 3H, -OCH3);3.51ppm (s, PEG骨格)。HPLC分析により、生成物には、94重量%のM-PEG(20,000)-ブタン酸と、出発物質に含まれていたより高分子量のPEG-ジオールに由来する6重量%のPEG-ジブタン酸が含まれていることがわかった。
【0212】
より高分子量の反応性PEG種を除去するため、6重量%のPEG-ジブタン酸を含むM-PEG(20K)-ブタン酸(22g)を2200mlの脱イオン水に溶かし、四ホウ酸塩の形態でDEAEセファデックスA-50カラムに適用した。塩化ナトリウムの段階的なイオン勾配(1から4mMまで増加)を適用し、分画を回収した。純粋なM-PEG(20,000)-ブタン酸を含む分画を1つにまとめ、回収した。後から溶出した純粋なPEG-ジブタン酸を含む分画は別にした。純粋なM-PEG(20,000)-ブタン酸を含む1つにまとめた分画を(約200mlに)濃縮した。塩化ナトリウム(20g)を添加し、pHを3に調節し、生成物をジクロロメタンで抽出した。抽出液を乾燥させ(MgSO4)、減圧下での蒸留によって溶媒を除去して、13.6gの生成物を得た。
HPLC分析により、生成物は100%純粋なM-PEG(20,000)-ブタン酸(8)であり、より高分子量のPEG種は含まれていないことがわかった。
【0213】
C. M-PEG(20,000)-ブタン酸,NHSエステル(9)
【0214】
M-PEG(20,000)-ブタン酸(8)(13.6g)をジクロロメタン(40ml)に溶かし、この溶液にN-ヒドロキシスクシンイミド(0.094g)を添加した。この溶液を0℃に冷却し、10mlのジクロロメタン中にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、0.196g)を溶かした溶液を滴下して加えた。この溶液を室温で一晩撹拌した。この反応混合液を濾過し、濃縮し、エチルエーテルに加えることによって沈殿させた。
【0215】
最終生成物の収量:13.1g。NMR (d6-DMSO):1.83ppm (五重項, 2H, -CH2CH2CH2-COO-);2.70ppm (t, 2H, -CH2-COO-);2.81ppm (4H, NHS);3.21ppm (s, 3H, -OCH3);3.51ppm (s, PEG骨格)。
【0216】
実施例1: mPEG(5K)-チオール、すなわちmPEG(5K)-CH2CH2CONHCH2CH2SH(11)の製造
メトキシ-PEG-5K-チオールを、求電子基で活性化されたPEGの一例であるmPEG-5Kプロピオン酸,N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル(mPEG-5Kプロピオン酸スクシンイミジルとも呼ばれる)から高収率かつ高純度で製造した。このPEGは市販されており、シアウォーター社(現社名はネクター・セラピューティクス社)(シアウォーター・カタログ2001、生体医学用のポリエチレン・グリコールと誘導体)、ハンツビル、アラバマ州から入手できる。
mPEG-5Kプロピオン酸スクシンイミジルの一般的な製造法は、米国特許第5,672,662号(シアウォーター・ポリマーズ社)と上記の“材料と方法”のセクションに記載されている。
【0217】
M-PEG(5,000)-チオール(11)の合成
【化13】

M-PEGプロピオン酸,NHSエステル(4)(分子量=5,268、10.0g、1.898mmol)をジクロロメタン(100ml)に溶かし、そこにシスタミンジヒドロクロリド(0.2278g、1.012ミリモル)とトリエチルアミン(0.66ml)を添加した。この溶液をアルゴン雰囲気下で室温にて一晩撹拌した。ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)分析により、反応混合物が、所望の生成物(10)(約10,000の分子量を有する対称なジスルフィド)を97.53%と、M-PEG(5,000)プロピオン酸を2.14%の収率で含んだということが示された。
【0218】
次にジチオスレイトール(DTT)(0.88g、0.005705mol)とトリエチルアミン(0.5ml)を添加し、この反応混合液をアルゴン雰囲気下で室温にて3時間撹拌した。次に2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)(0.05g)を添加し、溶媒を減圧下での蒸留によって除去した。粗チオール生成物(11)をジクロロメタン(20ml)に溶かし、イソプロピルアルコールを用いて0〜5℃にて沈殿させた。乾燥後の収量は8.80gであった。
GPC分析:所望の生成物:M-PEG(5,000)-チオール(11)、収率96.05%;M-PEG(5,000)-プロピオン酸、収率0.57%;還元されなかった二量体(10)、3.07%。NMR (d6-DMSO):1.52ppm (t, 1H, -SH);2.31ppm (t, 2H, -CH2-CO-);2.66ppm (dt, 2H, -CH2-S-);3.21ppm (s, 3H, -OCH3);3.51ppm (s, PEG骨格);8.05ppm (t, 1H, -NH-)。
【0219】
わずか2ステップしか必要としない単純な反応スキームを利用し、この実施例のジスルフィド中間体(10)と還元されたPEG-チオール生成物(11)の両方を高収率かつ高純度で製造した。この実施例の試薬シスタミンは市販されていて、その中に含まれるアミノ基はカルボニル生成物上のスクシンイミジル基と容易に置き換えされる。この実施例のように末端に2個の反応性アミノ基を有する対称な試薬を化学量論的な量を使用すると、過剰な試薬で汚染されていない置換生成物が1つだけ形成されるため、反応を“クリーナー(cleaner)”にする。得られるPEG-チオール生成物は、例えば薬の中又はタンパク質のシステイン残基の中に含まれる反応性チオール基と結合させて対応するPEG複合体を形成するのに適している。本明細書に記載したPEG結合(すなわちPEG鎖又はPEG骨格を薬又は他の種の反応性チオール基と結合させる分子のリンカー部)は安定であり、新しいクラスの水溶性ポリマーとして、容易に合成でき、しかも複数の合成ステップも、保護-脱保護ステップも、複数の精製ステップもなしにタンパク質やそれ以外の反応性分子を選択的に修飾又はペグ化するのに使用できる、自然には存在しない水溶性ポリマーが提供される。
【0220】
実施例2: mPEG(20K)-チオール、すなわちCH3O(CH2CH2O)n(20K)-CH2CH2CH2CONHCH2CH2SH(13)の製造
メトキシ-PEG-20K-チオールを、求電子基で活性化された別のPEGであるmPEG-20Kブタン酸,N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル(mPEG-20Kブタン酸スクシンイミジルとも呼ばれる)から高収率かつ高純度で製造した。このPEGは、シアウォーター社(現社名はネクター・セラピューティクス社)(シアウォーター・カタログ2001、生体医学用のポリエチレン・グリコールと誘導体)、ハンツビル、アラバマ州から市販されいる。
mPEG-5Kブタン酸スクシンイミジルの一般的な製造法は、米国特許第5,672,662号(シアウォーター・ポリマーズ社)と上記の“材料と方法”のセクションに記載されている。
【0221】
mPEG(20,000)-チオール(13)の合成
【化14】

【0222】
mPEG(20K)-ブタン酸,NHSエステル(9)(分子量=20,000ダルトン、10.0g、0.500ミリモル)をジクロロメタン(100ml)に溶かし、そしてシスタミン・ジヒドロクロリド(0.0564g、0.251ミリモル)とトリエチルアミン(0.167ml)を添加した。この溶液をアルゴン雰囲気下で室温にて一晩撹拌した。GPC分析により、反応混合物が所望の生成物(分子量が約40,000の二量体(12))を98.5%と、M-PEG(20,000)-ブタン酸を1.5%含んでいることがわかった。
【0223】
ジチオスレイトール(DTT)(0.23g、1.500mmol)とトリエチルアミン(0.5ml)を添加し、反応混合液をアルゴン雰囲気下で室温にて3時間撹拌した。次にBHT(0.05g)を添加し、溶媒を減圧下で蒸留により除去した。粗生成物をジクロロメタン(20ml)に溶かし、0〜5℃にてイソプロピルアルコールを用いて沈殿させた。
乾燥後の収量:9.20g。HPLC分析:mPEG(20K)-チオール(13)96.0%、M-PEG(20,000)-ブタン酸1.5%、還元されなかった二量体2.5%である。
【0224】
上記の実施例1と同様、この実施例では、さらに別の代表的なPEG-チオール(と、対応するジスルフィド前駆体)の製造について説明してある。合成は簡単であり、2個の反応ステップしか要しない。すなわち、代表的なPEG試薬上にある求電子性カルボニル炭素において、シスタミン上の代表的な求核アミノ基を置換した後、ジスルフィドを還元して対応するPEG-チオールを生成する。対称ジスルフィド試薬を用いることで合成が簡単になり、PEG-チオール生成物の精製が不要になる。PEG-チオールは高収率(90%超であり、実際には95%超)で形成される。このPEG-チオールは、例えば治療用タンパク質のシステイン残基に含まれる反応性チオール基、或いはタンパク質又はポリペプチドに化学的な手段で導入された反応性チオール基、或いは小分子又は他の活性剤に存在している反応性チオール基との反応に適している。
【0225】
実施例3: PEG(40K)-ジ-チオール、すなわちHSCH2CH2NH(O)CCH2O-PEG-40K-CH2C(O)HNCH2CH2SH(18)の製造
以下に示すように、PEG-40K-ジ-チオール(18)を二官能PEG試薬であるPEG-40Kジカルボン酸から製造した。
【0226】
A. PEG(40,000)-ジ-カルボン酸,エチル・エステル(14)
【0227】
HO-PEG-OH(分子量=40,000ダルトン、50g、2.50ヒドロキシ・ミリ当量)を750mlのトルエンに溶かし、アルゴン雰囲気下で1時間にわたって共沸蒸留した。トルエン150mlを蒸留して反応混合物から除去した。次に、この溶液を40℃まで冷却し、tert-ブタノール(4.0ml、4ミリモル)中にカリウムtert-ブトキシドを溶かした1.0Mの溶液を加えた後、ブロモ酢酸エチル(1.4g、8.4mmol)を添加した。この反応混合液を窒素雰囲気下で室温にて一晩撹拌した。溶媒を減圧下での蒸留により除去し、粗生成物をジクロロメタンに溶かし、エチル・エーテルに添加した。沈殿した生成物を濾過によって分離し、減圧下で乾燥させた。収量42.3g。
【0228】
B. PEG(40,000)-ジ-カルボン酸(15)
【0229】
1MのNaOH400mlの中に40.0g(1.0mmol)のPEG(40,000)-ジ-カルボン酸,エチル・エステル(14)を溶かした溶液を室温にて3時間撹拌した。次にこの混合物のpHを2に調節し、生成物をジクロロメタンで抽出した。次に溶媒を減圧下での蒸留により除去した。粗生成物をジクロロメタン(100ml)に溶かし、エチル・エーテル(900ml)に添加した。沈殿した生成物を濾過によって分離し、減圧下で乾燥させた。HPLC分析:PEG(40,000)-ジ-カルボン酸が86.5%、PEG(40,000)-モノ-カルボン酸が13.0%、HO-PEG(40,000)-OHが0.5%。
収量33.1g。1H NMR (d6-DMSO):3.51ppm (s, PEG骨格);4.02ppm (4H, -OCH2COO-)。
【0230】
得られた生成物(30g)を脱イオン水3000mlに溶かし、四ホウ酸塩の形態でDEAEセファデックスA-25クロマトグラフィー用カラムに入れた。塩化ナトリウムの段階的なイオン勾配(2から10mMまで増加)を適用し、分画を回収した。PAAテストに対して陽性の分画、すなわちPEG(40,000)-ジ-カルボン酸を含む分画を1つにまとめ、(約300mlに)濃縮した。塩化ナトリウム(30g)を添加し、pHを3に調節し、生成物をジクロロメタンで抽出した。抽出液を乾燥させ(MgSO4)、溶媒を減圧下での蒸留によって除去すると、生成物(15)が21.6g得られた。HPLCにより、この生成物(15)は純粋な二酸であること、すなわち100%PEG(40,000)-ジ-カルボン酸であることが示された。
【0231】
C. PEG(40,000)-ジ-カルボン酸,NHSエステル(16)
【0232】
PEG(40,000)-ジ-カルボン酸(15)(20g)をジクロロメタン(200ml)に溶かし、そこにN-ヒドロキシスクシンイミド(0.138g)を添加した。この溶液を0℃に冷却し、ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.290g)を5mlのジクロロメタンに溶かした溶液を滴下して加え、そしてこの溶液を室温にて一晩撹拌した。反応混合物を濾過し、濃縮し、エチル・エーテルに加えて生成物を沈殿させた。最終生成物(16)の収量:18.3g。
【0233】
1H NMR (d6-DMSO):2.83ppm (8H, NHS);3.51ppm (s, PEG骨格);4.61ppm (4H, -OCH2COO-)。
【0234】
D. PEG(40,000)-ジ-チオール(18)
【化15】

PEG(40,000)-ジ-カルボン酸,NHSエステル(16)(分子量=40,000、18.0g、0.900ミリ当量)をジクロロメタン(150ml)とシスタミン・ジヒドロクロリド(1.01g、4.5mmol)に溶かし、トリエチルアミン(1.70ml)を加えた。この溶液をアルゴン雰囲気下で室温にて一晩撹拌した。この溶液を濃縮し、室温にて900mlのイソプロピルアルコールに添加した。沈殿した生成物を濾過によって取り出し、減圧下で乾燥させた。
【0235】
NMRでの分析により、すべてのNHSエステルが消費され、所望のジスルフィド生成物(17)が形成されたことがわかった。この生成物をジクロロメタン(150ml)に溶かし、ジチオスレイトール(DTT)(0.84g、5.446mmol)とトリエチルアミン(2.0ml)を添加し、この反応混合物をアルゴン雰囲気下で室温にて3時間撹拌した。次にBHT(0.09g)を添加し、溶媒を減圧下での蒸留によって除去した。残留物(粗ジチオール生成物(18))をジクロロメタン(40ml)に溶かし、室温にてイソプロピルアルコールで沈殿させた。乾燥後の収量14.3g。
【0236】
1H NMR (d6-DMSO):1.07ppm (t, 2H, -SH);2.66ppm (dt, 4H, -CH2-S-);3.51ppm (s, PEG骨格);3.90ppm (s, 4H, -OCH2CO-);8.05ppm (t, 2H, -NH-)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマーのチオール選択的誘導体の製造方法であって、以下のステップ:
(i)求電子基(“-E”)で活性化された1つの末端を有する水溶性ポリマー・セグメント(“POLY”)を含む水溶性ポリマーを用意し、そして
(ii)上記ポリマーと、求核基(“-NU”)並びにチオール、保護チオール、ジスルフィド、マレイミド、ビニル・スルホン、オルトピリジル・ジスルフィド、及びヨードアセトアミドからなる群から選ばれるチオール選択部を含む分子とを、上記求電子基と該求核基との間の反応を促進するために有効な条件下で反応させて、チオール、保護チオール、ジスルフィド、マレイミド、ビニル・スルホン、オルトピリジル・ジスルフィド、及びヨードアセトアミドからなる群から選ばれるチオール選択的末端を含むポリマー生成物(“POLY-S”)を形成する
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記チオール選択部がジスルフィドであり、かつ前記方法が、前記POLY-Sの該ジスルフィド結合を還元して末端チオールを有するポリマー(POLY-SH)を形成するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶性ポリマー・セグメントが、ポリ(アルキレン・オキシド)、ポリ(ビニル・ピロリドン)、ポリ(ビニル・アルコール)、ポリオキサゾリン、ポリ(アクリロイルモルホリン)、及びポリ(オキシエチル化ポリオール)からなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(ii)由来の前記POLY-S生成物が、約95重量%を超える一官能基置換されたPOLY-Sを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(ii)由来の前記POLY-S生成物が、約5%未満の二官能基置換POLY-Sを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶性ポリマー・セグメントが、ポリアルキレン・オキシドである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶性ポリマー・セグメントが、ポリエチレングリコール(PEG)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコールが末端でキャップをされている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(i)の前記求電子基が、カルボン酸又はカルボン酸誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(i)の前記求電子基が、カルボン酸エステル、カーボネート・エステル、炭酸、酸ハロゲン化物、及び無水物からなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記反応ステップの前に、ステップ(i)由来の前記水溶性ポリマーを精製するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記反応ステップの前に、ステップ(i)由来の前記水溶性ポリマーを精製するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記精製ステップが、クロマトグラフィーによる分離又は化学的分離を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記精製ステップが、イオン交換クロマトグラフィーを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(i)で用意される前記ポリマーが、約5%未満のポリアルキレン・オキシド・ジオールを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記求核基が、一級アミノ、二級アミノ、ヒドロキシ、イミノ、チオール、及びチオエステルからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記求核基が一級アミノ又は二級アミノである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリマーが、アルコキシ、置換アルコキシ、アルケニルオキシ、置換アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、置換アルキニルオキシ、アリールオキシ、及び置換アリールオキシからなる群から選ばれる末端キャップ基を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(i)の前記ポリマーが、ポリエチレン・グリコールのN-ヒドロキシスクシンイミジル・プロピオネート又はN-ヒドロキシスクシンイミジル・ブタノエートである、請求項7に記載の方法。
【請求項20】
前記反応分子がシスタミン又はシステアミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリエチレングリコールが、約200〜約100,000ダルトンの公称平均分子量を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリエチレングリコールが、約200〜約60,000ダルトンの公称平均分子量を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記チオール選択部がチオールであり、かつ前記方法が、POLY-Sチオールを、タンパク質のチオール又は保護チオールと反応させて、ジスルフィド結合されたポリマー-タンパク質複合体(“POLY-S-S-タンパク質”)を形成するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記POLY-SHを、タンパク質のチオール又は保護チオールと反応させて、ジスルフィド結合されたポリマー-タンパク質複合体(“POLY-S-S-タンパク質”)を形成するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリエチレングリコールが、直線構造、分岐状構造、フォーク状構造、多数のアーム構造からなる群から選ばれる構造を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリエチレングリコールが加水分解可能な結合を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項27】
前記分子が求核基(-NU)を含む対称ジスルフィド試薬であり、かつ前記反応ステップにより、中央にジスルフィド結合を有する対称な水溶性ポリマーが形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法により製造されたチオール選択的末端(POLY-S)を有する水溶性ポリマー。
【請求項29】
請求項23又は24に記載の方法により製造された、ジスルフィド結合されたポリマー・タンパク質複合体。
【請求項30】
水溶性ポリマーのチオール選択的誘導体の製造方法であって、以下のステップ:
(i)求電子基で活性化されたポリマー:
POLY-L0,1-E
[式中、
POLYは、水溶性ポリマー・セグメントであり、
Lは、任意のリンカーであり、
Eは、求電子基である]
を用意するステップと、
(ii)上記POLY-L0,1-Eを、対称ジスルフィド試薬:
(NU-Y-S-)2
[式中、
NUは、求核基であり、
Yは、アルキレン、置換アルキレン、シクロアルキレン、置換シクロアルキレン、アリール、置換アリールであって、約2〜約10個の炭素原子を含むものからなる群の中から選ばれ、そして
Sは、イオウ原子である]
と、EとNUのとの間の反応を促進するために有効な条件下で反応させて、それにより
POLY-L0,1-X-Y-S-S-Y-X-L0,1-POLY((POLY-L0,1-X-Y-Z-)2)
[式中、Xは、EとNUの間の反応から生じる基である]
を形成するステップを含む方法。
【請求項31】
以下のステップ:
(iii)(POLY-L0,1-X-Y-S-)2中のジスルフィド結合を還元して、POLY-L0,1-X-Y-SHを形成するステップ
をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
1が、C1-C10アルキル及び置換C1-C10アルキルからなる群から選ばれるリンカーである、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
1が、(CH2)、(CH2)2、(CH2)3、(CH2)4、及び(CH2)5からなる群から選ばれるリンカーである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
Eが、カルボン酸、又は活性化カルボン酸誘導体である、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
Eが、カルボン酸、活性化カルボン酸エステル、酸ハロゲン化物、及び活性無水物からなる群から選ばれる、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
EがN-ヒドロキシスクシンイミジル・エステルである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
NUが、アミノ、ヒドロキシ、イミノ、及びチオールからなる群から選ばれる、請求項30に記載の方法。
【請求項38】
NUが、-NH2である、請求項30に記載の方法。
【請求項39】
Xが、アミド、カルバメート、カーボネート・エステル、エーテル、及びチオエステルからなる群から選ばれる、請求項30に記載の方法。
【請求項40】
POLYが、ポリアルキレン・オキシドである、請求項30に記載の方法。
【請求項41】
POLYが、以下の:
3CO-(CH2CH2O)n-CH2CH2-
[式中、nは10〜約4,000の範囲である]
で表される構造を有するポリエチレン・グリコールである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
POLYが、末端キャップされる、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
Lが存在しない(L0)か又は-CH2-であり、かつEがN-ヒドロキシスクシンイミジル・エステル又は1-ヒドロキシベンゾトリアゾリル・カーボネートである、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記対称なジスルフィド試薬がシスタミンであり、ここでNUが一級アミノであり、かつYが-(CH2)2-である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
ポリマー-タンパク質複合体の製造方法であって、以下のステップ:
(i)求電子基で活性化されたポリマー:
POLY-L0,1-E
[式中、
POLYは、水溶性ポリマー・セグメントであり、
Lは、任意のリンカーであり、
Eは、求電子基である]
を用意し、
(ii)前記POLY-L0,1-Eを、対称ジスルフィド試薬:
(NU-Y-S-)2
[式中、
NUは、求核基であり、
Yは、C2-C10アルキル、置換C2-C10アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選ばれ、
Sは、イオウ原子である]
と、EとNUとの間の反応を促進するため有効な条件下で反応させて、それにより
POLY-L0,1-X-Y-S-S-Y-X-L0,1-POLY((POLY-L0,1-X-Y-S-)2)
[式中、XはEとNUの間の反応から生じる基である]
を形成し、
(iii)(POLY-L0,1-X-Y-S-)2のジスルフィド結合を還元してPOLY-L0,1-X-Y-SHを形成し、そして
(iv)POLY-L0,1-X-Y-SHを、タンパク質のチオール又は保護チオール基と反応させて、タンパク質複合体:POLY-L0,1-X-Y-S-S-タンパク質を形成するステップ
を含む方法。
【請求項46】
前記タンパク質が治療用タンパク質である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
以下の構造式:
POLY-L0,1-C(O)G-Y-S-W
[式中、
POLYは、水溶性ポリマー・セグメントであり、
Lは、任意のリンカーであり、
Gは、O、NH、及びSからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、
Yは、C2-C10アルキレン、置換アルキレン、シクロアルキレン、置換シクロアルキレン、アリール、及び置換アリールからなる群から選ばれ、
Sは、イオウ原子であり、そして
Wは、H又は保護基である]
を有する活性化ポリマー。
【請求項48】
POLYがポリアルキレン・グリコールである、請求項47に記載の活性化ポリマー。
【請求項49】
POLYがポリエチレン・グリコールであり、Lが存在しないか又は-CH2-であり、GがN(H)であり、かつYが-(CH2)2-である、請求項47に記載の活性化ポリマー。
【請求項50】
Lが、1〜10個の炭素原子を含む脂肪族リンカーである、請求項47に記載の活性化ポリマー。
【請求項51】
Lが、(CH2)、(CH2)2、(CH2)3、(CH2)4、及び(CH2)5からなる群から選ばれるリンカーである、請求項47に記載の活性化ポリマー。
【請求項52】
前記ポリエチレン・グリコールが、約200〜約100,000ダルトンの公称平均分子量を有する、請求項48に記載の活性化ポリマー。
【請求項53】
前記ポリエチレン・グリコールが、約200〜約40,000ダルトンの公称平均分子量を有する、請求項52に記載の活性化ポリマー。
【請求項54】
前記ポリエチレン・グリコールが、直線構造、分岐状構造、フォーク状構造、及び多数のアーム構造からなる群から選ばれる構造を有する、請求項48に記載の活性化ポリマー。
【請求項55】
以下の:
W-S-Y-G-(O)C-L0,1-POLY-L0,1-C(O)G-Y-S-W
で表される構造を含む、請求項48に記載の活性化ポリマー。
【請求項56】
以下の:
POLY-L0,1-C(O)G-Y-Q
[式中、
POLYは、水溶性ポリマー・セグメントであり、
Lは、任意のリンカーであり、
Gは、O、NH、及びSからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、
Yは、C2-C10アルキレン、置換アルキレン、シクロアルキレン、置換シクロアルキレン、アリール、及び置換アリールからなる群から選ばれ、そして
Qは、チオール、保護チオール、マレイミド、ビニル・スルホン、ヨードアセトアミドからなる群から選ばれる]
で表される構造を含む活性化ポリマー。
【請求項57】
請求項47〜56のいずれか1項に記載の活性化ポリマーを含む組成物。
【請求項58】
約95重量%を超えて一官能基生成物を含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項59】
以下の:
POLY-L0,1-C(O)G-Y-S-S-薬剤
[式中、
POLYは、水溶性ポリマー・セグメントであり、
Lは、任意のリンカーであり、
Gは、O、NH、及びSからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、
Yは、C2-C10アルキレン、置換アルキレン、シクロアルキレン、置換シクロアルキレン、アリール、及び置換アリールからなる群から選ばれる]
で表される構造を含むポリマー複合体。
【請求項60】
前記薬剤が、タンパク質、ペプチド、及び小分子からなる群から選ばれる、請求項59に記載のポリマー複合体。
【請求項61】
請求項59に記載のポリマー複合体を含む組成物。
【請求項62】
医薬用賦形剤をさらに含む、請求項61に記載の組成物。
【請求項63】
薬剤を、必要としている対象にデリバリーする方法であって、請求項59に記載のポリマー複合体を投与する操作を含む、前記方法。

【公表番号】特表2006−517600(P2006−517600A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500996(P2006−500996)
【出願日】平成16年1月6日(2004.1.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/001190
【国際公開番号】WO2004/063250
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(503197027)ネクター セラピューティクス アラバマ,コーポレイション (16)
【Fターム(参考)】