チオール開裂し得るマイトマイシンコンジュゲート
マイトマイシンCを多剤耐性細胞に投与する方法および前記化合物の毒性を低下させる方法を記述する。本方法では、マイトマイシンCを、この薬剤を開裂性ジチオベンジル結合で疎水性部分、例えば脂質などと結合させたプロドラッグコンジュゲートの形態で提供する。そのようなジチオベンジル結合は穏やかなチオール開裂で開裂を起こし易く、その結果として、マイトマイシンCがこれの元々の形態で放出される。前記結合は非還元条件下では安定である。本プロドラッグコンジュゲートをリポソームの中に取り込ませて投与すると、それはインビボ還元条件または外来還元剤の投与に反応し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイトマイシンCの細胞毒性を低下させる方法、そしてマイトマイシンCを多剤耐性細胞に投与する方法に関する。マイトマイシンCを、この薬剤を疎水性部分に開裂可能結合で連結させることで構成させたプロドラッグコンジュゲート(conjugate)の形態で提供する。より詳細には、本プロドラッグコンジュゲートを、この薬剤を脂質に開裂可能結合で連結させて前記脂質をリポソーム製剤の中に取り込ませることで構成させる。本プロドラッグコンジュゲートは、マイトマイシンCを非修飾状態で放出するのに適する穏やかなインビボチオール開裂条件下で開裂できる。
【背景技術】
【0002】
マイトマイシンは数種の多様な癌に処方される確立された化学療法剤であり、そのような癌には乳癌、胃癌、食道癌および膀胱癌が含まれる。この薬剤はDNAを架橋させることで働き、その結果として、癌細胞は増殖することができなくなる。それを患者に静脈内投与した時に毒性が理由で起こる一般的な副作用には、発熱、悪心、嘔吐、骨髄抑制などが含まれる(非特許文献1)。薬剤毒性が化学療法に関連したただ1つの問題ではない。別の問題は薬剤耐性である。ある種の腫瘍、例えば非小細胞肺癌および結腸癌などは一次耐性を示す、即ち現在利用可能な通常の化学療法薬に1回目に接触した時点でも反応を示さない。他の種類の腫瘍は獲得耐性を示し、これはいろいろな種類の薬剤感受性腫瘍に発生する。薬剤耐性癌細胞は2種類の獲得薬剤耐性を示す、即ち単一の薬剤に耐性を示すか或は同じ作用機構を有する単一の種類の抗癌剤に耐性を示す細胞が存在する。2番目の種類は、細胞がいろいろな作用機構を有する化学的に多様な数種または数多くの抗癌剤に幅広い耐性を示すことを伴う。その2番目の種類の獲得耐性は多剤耐性として知られる。
【0003】
多剤耐性はまたある種の腫瘍細胞にも見られ、例えば腎および結腸腫瘍などに見られ、それらは一次耐性を示す。即ち、獲得多剤耐性とは対照的に、特定種の腫瘍はいろいろな化学治療薬に対して最初の治療にも応答を示さない。
【0004】
多剤耐性は、しばしば、薬物流出に関与する通常の遺伝子、即ち細胞表面糖蛋白質であるP−糖蛋白質のMDR1遺伝子の発現が増加することを伴う。P−糖蛋白質の発現は細胞内薬剤蓄積量低下と相互に関係している、即ちP−糖蛋白質は、薬剤を当該細胞から移動させることで前記薬剤が前記細胞の中に蓄積しないようにするエネルギー依存ポンプまたは輸送分子として働く。
【0005】
P−糖蛋白質は通常主に上皮および内皮表面に発現して吸収および/または分泌にある役割を果たすと思われる。それは疎水性薬剤を細胞から追い出すことでそれらの細胞質内濃度を低下させ、こうして毒性を低下させる活性のある輸送体である。P−糖蛋白質は、通常の細胞の中では、毒性のある代謝産物または生体異物である化合物を体から排出させる機能を果たす(非特許文献2)。
【0006】
P−糖蛋白質を発現する癌には、MDR1遺伝子を正常に発現する組織に由来する癌、即ち肝臓癌、結腸癌、腎臓癌、膵臓癌および副腎癌が含まれる。そのような遺伝子の発現は、また、白血病、リンパ腫、乳癌および卵巣癌および他のいろいろな癌で多剤耐性薬剤を用いた化学療法を行っている過程中にも見られる。そのような癌は最初は化学療法に反応するが、その癌が再発した時には、その癌細胞はしばしばP−糖蛋白質をより多い量で発現する。P−糖蛋白質を通常は発現しないが癌発生中にP−糖蛋白質発現の増加が起こる組織に由来する癌が存在する。一例は慢性骨髄性白血病であり、これが急性転化すると、以前に成された治療履歴に関係無くP−糖蛋白質がより多い量で発現するようになる(非特許文献3)。
【0007】
MDR1がコードしたP−糖蛋白質ポンプ(pump)は、多種多様な物質を認識して輸送するが、そのような物質には、天然産物である大部分の抗癌剤、例えばドキソルビシン、ダウノルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、アクチノマイシンD、パクリタキセル、テニポシドおよびエトポシドが含まれる(非特許文献4)。多剤耐性をしばしば伴う薬剤は、より一般的には、植物または菌・カビが源のアルカロイドもしくは抗生物質であり、それらにはビンカアルカロイド、アントラサイクリン、エピポドフィロトキシンおよびダクチノマイシンが含まれる。アルキル化剤、例えばメルファラン、ナイトロジェンマスタードおよびマイトマイシンCなどへの交差耐性もしばしば観察される(非特許文献5)。癌細胞が多剤耐性を示すと明らかに化学療法の成功が制限されかつ患者の予後が劣ると推測される。
【0008】
リポソームは多様な治療目的で用いられる封入型脂質小胞であり、これは特にリポソームを全身投与して治療薬を標的領域もしくは細胞に運ぶ目的で用いられる。表面が水溶性で生物適合性の重合体、特にポリエチレングリコールの鎖でグラフトされているリポソームが重要な薬剤担体になってきている。そのようなリポソームが示す血液循環寿命の方が重合体被膜をもたないリポソームのそれよりも長い。その接合させた重合体鎖が当該リポソームを遮蔽または覆うことで、血漿蛋白質による非特異的相互作用を最小限にする。それによって、今度は、当該リポソームがインビボで排出または除去される速度が遅くなる、と言うのは、そのようなリポソームはマクロファージにも他の細網内皮系細胞にも認識されないで循環するからである。その上、そのようなリポソームは向上した浸透性および保持効果も示す(非特許文献6)ことから、損傷を受けたか或は膨張した血管系部位、例えば炎症部位である腫瘍などに蓄積する傾向がある。
【0009】
全身投与したリポソームが標的領域、細胞または部位に到達し得るように血液循環時間を長くすることがしばしば望まれている。例えば、腫瘍領域に対するリポソーム治療では血液循環時間が約12時間以上であるのが好適である、と言うのは、そのリポソームは全身に分布した後に腫瘍領域の中に侵入する必要があるからである。
【0010】
多剤耐性細胞が吸収し得るマイトマイシンC製剤を提供することができれば、これは望ましいことである。また、血液循環寿命が長くかつ取り込んでいる薬剤を所望時間保持する能力を有するにも拘らず薬剤を要求に応じて放出し得るリポソーム組成物を調製することができれば、これも望ましいことである。また、遊離形態の薬剤と同様な効力を有するにも拘らず全身毒性が低下したマイトマイシンC製剤を提供することができれば、これも望ましいことである。その上、細胞毒性のあるマイトマイシンCの放出が腫瘍内の内因性条件に反応して起こるようにすることができれば、これも望ましいことである。
【非特許文献1】HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE、Wilson他編集、第12版、パート11、1592頁、1991
【非特許文献2】Endicott,J.およびLing,V.、Annu.Rev.Biochem.、58:137−171、(1989)
【非特許文献3】Gottesman,M.M.、Cancer Research、53:747−754(1993)
【非特許文献4】Gottesman,M.他、Current Opinion in Genetics and Development、6:610−617(1996)
【非特許文献5】Endicott,J.およびLing,V.、Annu.Rev.Biochem.、58:137−171、(1989)
【非特許文献6】Maeda H.他、J.Controlled Release、65(1−2):271(2000)
【発明の開示】
【0011】
(発明の要約)
従って、本発明の目的は、遊離形態の薬剤に比べて毒性が低くかつ多剤耐性細胞が取り込み得るマイトマイシンCリポソーム製剤を提供することにある。即ち、マイトマイシンCはこれを遊離形態で投与すると多剤耐性細胞の中に蓄積されないが、それを本明細書に記述するリポソーム製剤の中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲートの形態で投与すると、それは前記細胞の中に蓄積し得る。
【0012】
本発明は、1つの面において、マイトマイシンCがインビボで示す細胞毒性を低くする方法を包含し、この方法は、マイトマイシンCを小胞形成性脂質(vesicle−forming lipid)と約1から約30モルパーセントの範囲の一般形態:
【0013】
【化1】
【0014】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCであり、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートで構成させたリポソーム組成物の形態で供給することを含んで成る。
【0015】
1つの態様では、マイトマイシンCをウレタン(カルバメート)結合で共有結合させる。
【0016】
別の態様では、Lをコレステロール、ジアシルグリセロールおよび燐脂質から成る群から選択する。
【0017】
別の態様では、マイトマイシンCをジチオベンジル部分と共有結合させることで構造:
【0018】
【化2】
【0019】
[ここで、R4は、マイトマイシンCの残基を表す]
で表されるコンジュゲートを生じさせるが、このコンジュゲートでは、マイトマイシンCのアジリジン部分の中の第二級アミンが前記ジチオベンジルとマイトマイシンCの間のウレタン結合を形成している。
【0020】
本発明は、別の面において、マイトマイシンCを多剤耐性細胞に投与する方法を包含し、この方法は、マイトマイシンCを小胞形成性脂質と約1から約30モルパーセントの範囲の一般形態:
【0021】
【化3】
【0022】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCであり、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートで構成させたリポソーム組成物の形態で投与することを含んで成る。
【0023】
以下の本発明の詳細な説明を添付図と協力させて読むことで本発明の前記および他の目的および特徴がより詳細に理解されるであろう。
(発明の詳細な説明)
I. 定義
語句「リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分」は、リポソーム脂質二重層の疎水性二重層領域と一体化し得る疎水性部分を含んで成る材料のいずれかを意味する。そのような疎水性部分は典型的に脂質であり、それには、疎水性脂質尾部と親水性極性頭部を有する両親媒性脂質、例えば燐脂質およびジアシルグリセロールなどが含まれる。また、トリグリセリド、ステロール、燐脂質、ジアシルグリセロール、ステロールおよびトリグリセリドの誘導体、そして天然源に由来するか或は合成的に作られた他の脂質も考えられる。
【0024】
「治療薬の残基」の場合の如き用語「残基」は、薬剤分子が別の分子と反応して結合を形成していて当該薬剤分子の少なくとも1個の原子が前記結合の形成で追い出されたか或は取り除かれていることを意味する。
【0025】
「脂質−DTB−マイトマイシンC」の言及は、図6Aの化合物XVIIIを指す。
【0026】
本明細書で用いる如き「ポリペプチド」はアミノ酸の重合体を指すものであり、アミノ酸の重合体の特定の長さを指すものでない。従って、例えば用語「ペプチド、オリゴペプチド、蛋白質および酵素」はポリペプチドの定義の範囲内に含まれる。この用語はまたポリペプチドの発現後修飾、例えばグリコシル化、アセチル化、燐酸化なども包含する。
【0027】
本明細書では下記の省略形を用いる:PEG:ポリ(エチレングリコール)、mPEG:メトキシ−PEG、DTB:ジチオベンジル、DSPE:ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、HSPC:水添大豆ホスファチジルコリン、MMC:マイトマイシンC。
II.コンジュゲート組成物および製造方法
本発明は、1つの面において、形態:
【0028】
【化4】
【0029】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合している治療薬残基を表し、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートを包含する。前記疎水性部分Lは典型的に脂質、例えばジアシルグリセロール、ステロール、燐脂質、このような脂質の誘導体、天然に存在する他の脂質およびそれらの合成類似物などである。
【0030】
本コンジュゲートでは治療薬とジチオベンジル部分が共有結合で結合しており、それによって、薬剤の残基がもたらされ、それを前記構造物の中のR1で表す。そのような結合は、本分野の技術者が理解するであろうように、当該薬剤および反応化学に応じて多様である。好適な態様では、当該治療薬をウレタン、アミン、アミド、カーボネート、チオカーボネート、エーテルおよびエステルから成る群から選択した結合で前記ジチオベンジル部分と共有結合させる。
【0031】
ウレタン結合はO(C=O)NH−R4またはO(C=O)N=R4[ここで、R4は治療薬の残基を表す]の形態を取る。例えば、第一級もしくは第二級アミンを含有する薬剤、例えば少しではあるが挙げるとマイトマイシンC、マイトマイシンA、ブレオマイシンおよび治療用ポリペプチドなどは当該薬剤の中のアミン部分が反応してウレタン結合を形成する。
【0032】
カーボネート結合はO(C=O)O−R4[ここで、R4は薬剤の残基を表す]の形態を取り、そのようなカーボネート結合は当該薬剤の中のフェノールもしくはアルコールもしくはヒドロキシル部分に由来する。チオ−カーボネートはO(C=O)S−R4[ここで、R4は薬剤の残基を表す]の形態を取り、そのような結合は当該薬剤のある部分に由来する。ジチオベンジルアルコールと反応してカーボネート結合を形成するそのような部分を有する典型的な薬剤には、フルオロデオキシウリジン、ヨードデオキシウリジン、エトポシド、AZT、アシクロビル、ビダラビン、アラビノシルシトシン、ペントスタチン、キニジン、ミトキサントロンおよびアトロピンが含まれる。
【0033】
エステル結合はO(C=O)−R4[ここで、R4は薬剤の残基を表す]の形態を取る。そのような結合は当該治療薬の中のカルボン酸部分との反応に由来し、クロラムブシルとジチオベンジルの間のエステル結合を有するコンジュゲートの例を以下に記述する。メトトレキセートが本コンジュゲートのジチオベンジル部分と一緒にエステル結合を形成し得る薬剤の別の例である。
【0034】
当該薬剤とジチオベンジル部分を結合させているウレタン、カーボネートもしくはエステル結合を有するコンジュゲートは一般に下記の構造で描写可能である:
【0035】
【化5】
【0036】
ここで、R4は当該治療薬の残基を表す。
【0037】
別の態様における本コンジュゲートはエーテル結合を含有し、これはO−R4の形態を取り、ここで、R4は当該治療薬の残基を表す。そのような結合は典型的に当該薬剤が有するアルコール官能との反応に由来する。
【0038】
アミン結合は形態N=R4で表され、ここで、R4は当該薬剤の残基を表しそして前記結合はジチオベンジルのCH2部分と当該薬剤が有するNとの直接結合である。薬剤である5−フルオロウラシルとのコンジュゲートが米国特許第6,342,244号に挙げられている一例であり、その場合にはアミン結合が生じる。また、ペプチドを治療薬として用いた時にもアミド結合が生じる可能性があり、この場合には、アミノ酸、例えばアスパラギン酸またはグルタミン酸などの残基が有する遊離カルボン酸とジチオベンジルアミンを縮合させる。
【0039】
アミド結合はNH(C=O)−R4[ここで、R4は当該治療薬の残基を表す]の形態を取る。
【0040】
図1に、本発明に従う典型的なコンジュゲートを生じさせるに適した合成反応スキームを示す。この態様では、中間体化合物であるパラ−ジアシルジグリセロールジチオベンズアルコール(化合物IV)を合成して、それを選択した治療薬と更に反応させる。化合物IVの調製では、実施例1に記述するように、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(化合物I)を過酸化水素と反応させることでrac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)(化合物II)を生じさせる。rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)に疎水性部分Rによるアシル化を受けさせる。Rは例えば炭素原子数が約8から約24の脂肪酸であってもよい。実施例1に、Rがステアリン酸である反応手順を詳述する。別の態様におけるRは、炭素原子数が約12から約22の脂肪酸である。化合物IIにアシル化を受けさせてrac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)(化合物III)を生じさせ、それを塩化スルフリルおよび4−メルカプトベンズアルコールと反応させることで所望の中間体生成物であるパラ−ジアシルジグリセロール−ジチオベンズアルコール(化合物IV)を生じさせる。化合物IVは反応性カルボキシル部分(R’CO2H)を含有する薬剤と容易に反応して、脂質−ジチオベンジル(DTB)−薬剤コンジュゲートをもたらすが、このコンジュゲートでは、前記薬剤がエステル結合によってDTBと接合している(化合物V)。化合物IVはまた反応性アミン部分(R’−NH2)を含有する薬剤とも容易に反応し、それによって、脂質−DTB−薬剤コンジュゲートが生じるが、このコンジュゲートでは、前記薬剤がウレタン結合によってDTBと接合している(化合物VI)。化合物IVはまた反応性ヒドロキシル部分(R’OH)を含有する薬剤とも容易に反応し、それによって、脂質−DTB−薬剤コンジュゲートが生じるが、このコンジュゲートでは、前記薬剤がカーボネート結合でDTBと接合している(化合物VII)。
【0041】
本発明のコンジュゲートで用いるに適した薬剤はいろいろ考えられる。特に、本発明は、反応に適したアミン(NHまたはNH2)、カルボキシル、スルフヒドリルまたはヒドロキシル部分を有する薬剤を意図する。「反応に適した」を本明細書で用いる場合、これは、当該薬剤がジチオベンジル部分、例えばジチオベンジルアルコールなどの形態の部分と反応し得る前記詳述した部分の1つを有することを意味する。典型的な薬剤には、反応に適したNH基を有する5−フルオロウラシル、反応性カルボキシルを有するクロラムブシル、および反応性アミン(アジリジン基)を有するマイトマイシンCが含まれる。5−フルオロウラシルおよびクロラムブシルを用いたコンジュゲートの合成が米国特許第6,365,179号に挙げられており、マイトマイシンCを用いたコンジュゲートの合成を図2−6に関係させて考察する。使用を意図する他の典型的な薬剤には、マイトマイシンC、マイトマイシンA、ブレオマイシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、フルオロデオキシウリジン、ヨードデオキシウリジン、エトポシド、AZT、アシクロビル、ビダラビン、アラビノシルシトシン、ペントスタチン、キニジン、アトロピン、クロラムブシル、メトトレキセート、ミトキサントロンおよび5−フルオロウラシルが含まれる。また、ポリペプチド、アミノグリコシド、アルカロイドは全部本発明で用いるに適することも理解されるであろう。
【0042】
実施例1に、また、本コンジュゲートを生じさせる時の中間体化合物として使用可能なオルソジアシルジグリセロールジチオベンズアルコールの製造に適した反応条件も詳細に示す。
【0043】
図2A−2Bに、脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの製造(図2A)そして前記コンジュゲートが還元剤の存在下でチオール開裂を起こすことを示す(図2B)。図2Aに示すように、疎水性部分Rが脂肪酸R”(CO)OH、例えばステアリン酸(CH3(CH2)16CO2H)などに由来する図1の化合物VIIとアミン含有薬剤、即ちH2N−薬剤をホスゲン(COCl2)の存在下で反応させる。この反応によって、図2Aに示す脂質−DTB−薬剤コンジュゲートがもたらされる。このコンジュゲートは還元条件にさらされる、即ち還元剤、例えばシステインまたはグルタチオンなどと接触すると分解を起こし、それによって、図2Bに示す生成物が生じる。示すように、本コンジュゲートがチオール開裂を起こすと結果として当該薬剤が非修飾の天然状態で再生して来る。これは望ましい特徴である、と言うのは、以下に示すように、前記薬剤はコンジュゲートの状態でリポソーム(これをインビボで被験体に投与する)の中に容易に取り込まれ得るからである。その上、前記薬剤は前記コンジュゲートの形態の時には毒性がない(このこともまた以下に示す)。前記コンジュゲートは投与されそして内因性還元剤と接触するか或は外来の還元剤と接触した後に分解を起こし、それによって、生物学的活性を有する未変性状態の薬剤が生じる。
【0044】
図3Aに、マイトマイシンCプロドラッグコンジュゲートの合成を示す。この示す反応スキームでは、反応性アミン部分を含有する薬剤であるマイトマイシンC(化合物XVII、図3B)とパラ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザルアルコール(化合物IV)をホスゲンの存在下で反応させることでジアシルジグリセロール−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲート(化合物XVIII)を生じさせる。この合成の詳細を実施例2に示す。
【0045】
図3Bに、ジアシルジグリセロール−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートのチオール分解を示す。前記コンジュゲートは還元剤が存在すると分解を起こし、それによって、マイトマイシンC(化合物XVII)と示す他の生成物の再生がもたらされる。
【0046】
この上に述べたように、本コンジュゲートに含める疎水性部分は無数の疎水性部分、例えば脂質などから選択可能である。1つの態様では、ジアシルジグリセロール脂質を用いて構造:
【0047】
【化6】
【0048】
[ここで、R2およびR3は、炭素原子数が約8から約24の範囲の炭化水素である]
で表されるコンジュゲートを生じさせることができる。
【0049】
そのような疎水性部分としては、ジアシルグリセロールに加えて、他の脂質も考えられる。図4に、コレステロールを本コンジュゲートに含める疎水性部分として用いる別の態様を示す。コレステロール(化合物XIV)とメタンスルホニルクロライドをトリエチルアミン(TEA)存在下のジクロロメタン中で反応させる。次に、その結果として生じた中間体をチオール誘導体に変化させ、そして最終的に重要なジチオベンジルアルコールに変化させ、これを用いてマイトマイシンCをこの上にジアシルグリセロールに関して記述した様式と同様な様式で連結させる。
【0050】
コレステロール−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートを生じさせるに適した代替反応スキームを図5に示す。メトキシカルボニルジチオエチルアミンはコレステロールクロロホルメートと直接反応してウレタン結合を形成する。次に、メルカプトベンジルアルコールを用いてDTB−コレステロール複合体を得る。マイトマイシンCをこの上および実施例2に記述するようにして連結させる。
【0051】
本発明の裏付けで実施した研究(以下に記述)では、図3Aに記述したようにして生じさせたコンジュゲート(化合物XVII)、即ちパラ−ジステアロリル−DTB−マイトマイシンCを用いた。参照を容易にする目的で、そのようなコンジュゲートを図6Aに示す。他のジアシル脂質、例えばジパルミトイル脂質などを用いることも可能であると理解されるべきであり、図6Bにパラ−ジパルミトイル−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートを示す。また、そのようなコンジュゲートはまた異性結合も持つ可能性があることは理解されるであろう。これは図6Cに示す如きオルソジパルミトイル−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートで明らかである。
III. コンジュゲート含有リポソームの調製
本発明の方法では、小胞形成性脂質とマイトマイシンCプロドラッグコンジュゲートで構成させたリポソーム組成物の形態でマイトマイシンCプロドラッグコンジュゲートを提供する。リポソームは多様な治療目的で用いられる密封型脂質小胞であり、特に、リポソームを全身投与することによって治療薬を標的領域または細胞に運ばせる。特に、親水性重合体鎖、例えばポリエチレングリコール(PEG)などの表面被膜を有するリポソームが薬剤担体として望ましい、と言うのは、そのようなリポソームが示す血液循環寿命の方が重合体被膜を持たないリポソームが示すそれよりも長いからである。そのような重合体は血中蛋白質に対するバリヤーとして働くことで前記蛋白質と当該リポソームの結合を防止しかつ当該リポソームがマクロファージおよび他の細網内皮系細胞によって認識されて吸収および除去されるのを妨害するからである。
【0052】
本発明に従うリポソームはコンジュゲートを脂質(1つの態様における脂質は小胞形成性脂質である)および場合により他の二重層構成要素と一緒に含有する。「小胞形成性小胞」は、水中で二重層小胞を自然発生的に形成する脂質である。そのような小胞形成性脂質は、好適には、炭化水素鎖、典型的にはアシル鎖を2本有しかつ極性のある頭部基を有する。合成の小胞形成性脂質および天然に存在する小胞形成脂質が本技術分野でいろいろ知られており、それらの2本の炭化水素鎖は長さが典型的に炭素原子約12から約24個分でありそしてそれらの不飽和度はいろいろである。その例には、燐脂質、例えばホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびスフィンゴミエリン(SM)が含まれる。本発明で用いるに好適な脂質は水添大豆ホスファチジルコリン(HSPC)である。別の好適な系列の脂質はジアシルグリセロールである。そのような脂質は商業的に入手可能であるか或は公開された方法に従って調製可能である。
【0053】
そのような小胞形成性脂質の選択では、それがある度合の流動性または剛性を達成し、当該リポソームが血清中で示す安定性を制御しかつ当該リポソームの中に取り込ませておいた薬剤が放出される速度を制御するように選択してもよい。相対的に堅い脂質、例えば相転移温度が比較的高い、例えば約80℃に及ぶ脂質を組み込むことで、脂質二重層がより硬質であるか或は二重層が液晶性であるリポソームを生じさせることができる。硬質の脂質、即ち飽和脂質は脂質二重層の膜をより堅くするに役立つ。また、脂質二重層構造物の膜の堅さに貢献する他の脂質成分、例えばコレステロールなども知られている。
【0054】
脂質流動性は、相対的に流動する脂質、典型的には液体から液晶相への転移温度が比較的低い、例えば室温(約20−25℃)以下である脂質相を有する脂質を組み込むことで達成される。
【0055】
そのようなリポソームにまた脂質二重層の中に取り込まれ得る他の成分、例えばステロールなどを含有させることも可能である。そのような他の成分は典型的に二重層膜の疎水性内部領域と接触する疎水性部分と膜の外部の極性表面に向かって配向する極性のある頭部基部分を有する。
【0056】
本発明のリポソームに含める別の脂質成分は、親水性重合体による誘導体化を受けさせた小胞形成性脂質である。このような脂質成分では、脂質に誘導体化を受けさせると、結果として、親水性重合体鎖の表面被膜が脂質二重層の内側および外側両方の表面に形成されるようになる。脂質組成物に含有させるそのような誘導体化を受けさせた脂質のパーセントを典型的には約1−20モルパーセントの範囲にする。
【0057】
小胞形成性脂質による誘導体化に適した親水性重合体には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコールおよびポリアスパルタミドが含まれる。そのような重合体はホモ重合体またはブロックもしくはランダム共重合体として使用可能である。
【0058】
好適な親水性重合体鎖はポリエチレングリコール(PEG)、好適には分子量が約500から約10,000ダルトンの範囲、好適には約1,000から約5,000ダルトンの範囲のPEG鎖である。メトキシもしくはエトキシでキャップされた(capped)PEG類似物もまた好適な親水性重合体である。そのような重合体はいろいろな重合体の大きさ、例えば約12から約220,000ダルトンの大きさで商業的に入手可能である。
【0059】
本発明のリポソームに含有させる脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの量は典型的に約1から約30モルパーセント、好適には約5から約30モルパーセント、より好適には約5から約20モルパーセントである。本発明の裏付けで実施した研究では、実施例4A−4Bに記述するように、小胞形成性脂質である水添大豆ホスファチジルコリン(HSPC)とメトキシ−ポリエチレングリコールによる誘導体化を受けさせたジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(mPEG−DSPE)と図6Aに示したコンジュゲート、即ちパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(化合物XVIII)で構成させたリポソームを調製した。そのようなリポソーム製剤の1つにコレステロールを含め(実施例4A)、脂質HSCP/コレステロール/mPEG−DSPE/パラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(化合物XVIII)を60/30/5/5のモル比で存在させた。コレステロールを含有しない2番目の製剤を調製して特徴付けた(実施例4B)。このような製剤では脂質HSCP/mPEG−DSPE/パラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(化合物XVII)を90/5/5のモル比で存在させた。
IV. コンジュゲート含有リポソームのインビトロ特徴付け
A. インビトロ薬剤放出
実施例4A−4Bに記述するようにしてリポソームを調製して、それらを還元剤と接触させた後にマイトマイシンCが放出される速度をインビトロで測定することで、それらの特徴付けを行った。インビトロ研究では、試験媒体にシステインを典型的には約150μMの濃度で添加することで還元条件を誘発した。インビボの内因性還元条件は脂質−DTB−薬剤コンジュゲートがチオール開裂分解を起こして当該薬剤が放出されるに充分であり得ることは理解されるであろう。更に、適切な還元剤、例えばシステインまたはグルタチオンなどを投与することでインビボの還元条件を人工的に誘発することも可能であると考えている。
【0060】
リポソーム製剤、例えばHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/コンジュゲート化合物XVIII(本明細書では以降「コレステロール含有製剤」)およびHSPC/mPEG−DSPE/コンジュゲート化合物XVIII(本明細書では以降「コレステロール無しリポソーム製剤」)を150μMのシステインの存在下37℃で24時間インキュベートした。選択した時間点でサンプルを取り出して高性能液クロ(HPLC)で分析することで、コンジュゲートの量および遊離マイトマイシンCの量を量化した。そのHPLC条件を実施例5に記述する。
【0061】
図7A−7Bに、2種類のリポソーム製剤が示したHPLCクロマトグラムを示す。図7Aにコレステロール無しリポソーム製剤が示した結果を示す。ゼロ時点の時には遊離マイトマイシンCは検出されず、測定可能な薬剤は全部リポソームに拘束されている脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの形態である。インキュベーション時間が長くなるにつれてリポソームから放出されて遊離形態で検出されるマイトマイシンCの量が多くなるに伴ってコンジュゲートに拘束された状態で存在しているマイトマイシンCの量が相当して少なくなった。
【0062】
図7Bに、コレステロール含有リポソーム製剤が示した結果を示す。ゼロ時点の時に採取した1番目のサンプルには遊離マイトマイシンCは全く検出されなかった。システインを150μM存在させてインキュベーションを1時間行うと遊離薬剤が少量ではあるが検出され、このことは、リポソームに拘束されている脂質−DTB−マイトマイシンコンジュゲートが分解を起こしたことを示している。図7Aとの比較において、コレステロール含有リポソームがもたらしたコンジュゲート分解速度の方が遅く、従って薬剤放出速度が遅い。
【0063】
図8は、前記2種類のリポソーム製剤から放出されたマイトマイシンCのパーセントを示す図である(図7A−7Bに示したクロマトグラムから測定)。コレステロール無しリポソーム(黒菱形)が示した放出速度の方がコレステロール含有リポソームのそれ(黒丸)よりも高かった。コレステロール無し製剤の場合にはリポソーム拘束コンジュゲートからマイトマイシンCの50%以上が2時間で放出された。両方の製剤とも24時間のインキュベーション期間が終了した時点で薬剤の80%以上が放出された。
【0064】
別の研究では、システインを1.5mM存在させて前記2種類のリポソーム製剤をインキュベートした。分析を実施例5に記述した如く実施して、結果を図9A−9Bに示す。図9Aに、コレステロール無しリポソームの中に取り込ませた脂質−DTB−薬剤コンジュゲート(HSPC/PEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC)から放出されたマイトマイシンCのパーセントを示す。比較の目的で、また、150μM用いたインキュベーション中に放出された放出パーセント(黒菱形)も示す。分かるであろうように、還元剤をより高い濃度(1.5mM、白菱形)で用いてインキュベートするとコンジュゲート分解速度および薬剤放出速度が速くなる。
【0065】
図9Bに、コレステロール含有リポソーム製剤が示した結果を示す。リポソームを1.5mMのシステイン存在下でインキュベートした時にそれが示した分解速度(白丸)の方が同じリポソームを150μMのシステインを存在させてインキュベートした時の分解速度(黒丸)よりも有意に速い。
B. インビトロ細胞毒性
脂質−DTB−マイトマイシンCコンジュゲート(化合物XVIII)を含有させたリポソームがインビトロで示す細胞毒性の評価をM−109細胞、即ちマウス肺癌株を用いて実施した。実施例6に記述するように、M109細胞を遊離マイトマイシンCの存在下またはジステアロイル−DTB−マイトマイシンCコンジュゲート含有リポソームの存在下でインキュベートした。実施例6Aに示すモル比を用いて実施例4A−4Bに記述するようにして調製したリポソームに試験を受けさせた。そのようなコンジュゲートのチオール開裂分解およびマイトマイシンCの放出を起こさせる目的で試験細胞のいくつかにシステインを150μM、500μMおよび1000μMの濃度で添加した。
【0066】
実施例6に記述するように、対照増殖速度の50%抑制(IC50)をもたらす薬剤濃度としてIC50値を採用した。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
細胞毒性研究で測定したM109マウス癌細胞増殖速度パーセントを図10に示す。この増殖速度パーセントをM109細胞がマイトマイシンCもシステインも存在しない時に増殖する速度を基にしたパーセントとして表し、これをマイトマイシンC濃度(nM)の関数として示す。細胞増殖速度を実施例6に記述するようにして測定した。分かるであろうように、細胞増殖速度パーセントはコレステロール含有リポソーム(白丸)およびコレステロール無しリポソーム製剤(黒四角)の両方ともシステイン濃度を高くするにつれて低下する。また、システインは遊離マイトマイシンCの活性には全く影響を与えずかつマイトマイシンCは前記コンジュゲートから放出されて細胞増殖を有効に抑制することも分かるであろう。
【0069】
M109マウス癌細胞を遊離形態のマイトマイシンCで処置した時またはリポソーム拘束脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの形態のマイトマイシンCで処置した時のインビトロ増殖速度を図11A−11Bに示す。図11Aに、コレステロールを含有させていないリポソーム製剤が示した結果を示す。この図では、M109細胞が示した増殖速度をM109細胞が薬剤もシステインも存在しない時に示した増殖を基にしたパーセントとして表し、これをマイトマイシンC濃度(nM)の関数として示す。前記細胞を遊離形態のマイトマイシンCで処置した時(白三角)および遊離形態のマイトマイシンCに加えて1000μMのシステインで処置した時(黒三角)に増殖速度が低下することが示されたが、これは前記薬剤が遊離形態の時に毒性があることによる。細胞をHSPC/PEG−DSPE/DSPE−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム製剤で処置した時(白丸)および前記リポソーム製剤に加えてシステインを150μMの濃度で添加(白菱形)、500μMの濃度で添加(黒丸)および1000μMの濃度で添加(白四角)した時に示された細胞毒性はシステイン用量依存様式であった。
【0070】
図11Bは、コレステロール含有リポソーム製剤に関する同様な図である。細胞をコレステロール含有リポソーム組成物に加えてシステインを150μMの濃度(白菱形)、500μMの濃度(黒丸)および1000μMの濃度(白四角)で用いて処置した時に観察したパターンも同じであった。即ち、システイン濃度を高くするにつれて細胞増殖速度が遅くなった。このことは、システインで誘発されるマイトマイシンC放出とシステイン濃度が直接相互関係を有することを示している。そのようなリポソーム製剤とは対照的に、遊離形態のマイトマイシンCで処置した細胞がインビトロで示した増殖速度(白三角)は、遊離形態のマイトマイシンCに加えて1000μMのシステインを用いて処置した細胞が示した増殖速度(黒三角)と同じであった。
【0071】
図12に、遊離マイトマイシンCおよびリポソーム製剤が示した細胞毒性上昇パーセントをシステイン濃度(μM)の関数として示す。IC50降下パーセント、例えばシステインを存在させない時のIC50を基準にしたシステインを存在させた時のIC50に100を掛けた値[(IC50no cysteine/IC50cysteine)x100]で細胞毒性上昇率を決定した。分かるであろうように、コレステロール含有リポソーム(白三角)およびコレステロール無しリポソーム製剤(黒丸)の両方ともシステイン濃度を高くするにつれて細胞毒性上昇パーセントが有意に高くなる。遊離マイトマイシンCが示す細胞毒性(黒四角)はシステインの存在による影響を受けない。
【0072】
そのような細胞毒性データは、コレステロール無しリポソーム製剤の方がシステインによる影響を大きく受けることを示している。コレステロール無しリポソーム製剤が特定のシステイン濃度の時に示したIC50が遊離薬剤単独が示したそれより低い度合は2倍のみである。コレステロール含有リポソーム製剤が示す細胞毒性の方がコレステロール無しリポソーム製剤が示すそれよりも低い。このようなデータは、また、システインは腫瘍細胞の細胞毒性に影響を与えずかつ遊離マイトマイシンCが示す細胞毒性にも影響を与えないことも示している。また、システインはリポソーム拘束マイトマイシンCが示す細胞毒性を用量依存様式で高めることも前記データから明らかである。このように、リポソーム製剤に関して観察した細胞毒性効果は大部分がマイトマイシンCが脂質−DTB−薬剤コンジュゲートからシステインの媒介で放出されることで説明される。
C. インビボ薬物速度
ラットを用いてコレステロール含有リポソームおよびコレステロール無しリポソーム製剤がインビボで示す薬物速度を測定した。実施例7に記述するようにして、動物にマイトマイシンCを遊離形態でか或は本発明に従う脂質−DTB−マイトマイシンCコンジュゲート形態でリポソームの中に取り込ませた形態で約0.1mg/mLの量で1回ボーラス静脈注入することで前記動物を処置した。注入後に血液サンプルを採取してマイトマイシンCの量を分析した。その結果を図13A−13Bに示す。
【0073】
図13Aに、ラット血液中のマイトマイシンC濃度(μg/mL)を静脈内注入後の時間(時)の関数として示す。分かるであろうように、遊離形態で静脈内投与した遊離マイトマイシンC(白四角)は血液から迅速に排出される。リポソーム拘束脂質−DTB−薬物コンジュゲート形態のマイトマイシンCは実質的により長い時間に渡って循環状態のままである。コレステロール含有リポソームに拘束されているマイトマイシンC(黒菱形)およびコレステロール無しリポソームに拘束されているマイトマイシンC(黒丸)は20−25時間に渡って血液中に10μg/mLを超える量で検出された。
【0074】
図13Bに、試験製剤を静脈内注入した後に血液の中に存在したままである注入用量に対するパーセントを時間(時)の関数として示す。約5分間を超える時間点まで血液の中に存在したままである遊離マイトマイシンCの量(白四角)は実質的にゼロである。しかしながら、前記リポソーム製剤の場合には、それを注入してから20時間経ってもマイトマイシンCの量の約15−18パーセントは循環状態のままである。このことは、マイトマイシンC−DTB−脂質コンジュゲートは循環中にリポソームの中に安定な状態で存在したままであることと血漿中で起こるチオール開裂は最小限であることを示している。従って、本システムは長期循環型リポソーム[Stealth(商標)リポソーム](これは長期の血液循環寿命を有しかつ腫瘍の中に蓄積される度合が高い)に適合し得ると思われる。
【0075】
マイトマイシンCを薬剤−DTB−脂質プロドラッグコンジュゲートの形態でリポソームの中に取り込ませた時にこの薬剤が示す毒性が低下することを図14に示す。このようなリポソームをHSPCとmPEG−DSPEとパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンCを90/5/5のモル比で用いて構成させた(この上に記述したコレステロール無し製剤)。リポソームをメスのBalb/cマウスに10mg/kgの用量で1回の用量が10mgの薬剤/kgになるように3回注入した。対照動物には遊離マイトマイシンCを10mg/kgの用量で投与した。図14に示すように、試験物質を投与してから3、7および11日後に動物の体重を測定した。動物を遊離形態のマイトマイシンCで処置すると体重が大きく失われ、試験日11日を超えて生存することは無かった。動物にマイトマイシンCをリポソームの中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲートの形態で投与した時の体重損失は最小限であり、試験日19日目の時にあらゆる動物が生存していた。
【0076】
他の研究において、実施例4に記述した如く調製したリポソームを下記の2種類のマウス癌モデルで試験した:腫瘍の大きさを終点として用いたM109足蹠接種モデルおよび生存率を終点として用いたC26腹腔内腫瘍モデル。試験マウスに腫瘍細胞を接種(実施例8)した後、それらを遊離マイトマイシンCまたはリポソームの中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲート形態のマイトマイシンCで処置した。
【0077】
図15Aに示す研究では、腫瘍(M109腫瘍細胞)接種後7日目のマウスに試験化合物を静脈内に2mg/kgの用量で注入することで処置した。2番目の静脈内投与を腫瘍接種後13日目に与えた。足蹠の大きさを規則的間隔で測定した。図15Aに、未処置対照マウスの場合の結果(白四角)および遊離マイトマイシンCで処置した動物の場合の結果(白三角)またはリポソーム製剤(HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC;黒丸)で処理した動物の場合の結果を示す。未処置対照動物の腫瘍の大きさは試験期間全体に渡って絶えず大きくなった。マイトマイシンCで処置した動物が示した腫瘍増殖の方が遅いことに加えて、リポソームの中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲート形態のマイトマイシンCで処置した動物の足蹠の大きさの方が小さいことで明らかなように、リポソーム製剤を用いた時に得られた効力の方が遊離形態のマイトマイシンCを用いた時のそれよりも高かった。
【0078】
図15Bに、マイトマイシンCの用量を2mg/kgおよび4mg/kgにする以外は同様な研究で得た結果を示す。足蹠の大きさの中央値(mm)をM109腫瘍細胞をマウスの足に接種した後の日数の関数として測定した。未処置のマウス[対照マウス;(白四角)]が示した足蹠厚み中央値は絶えず大きくなった。遊離マイトマイシンC(白三角)を2mg/kg(破線)または4mg/kg(実線)の量で用いて処置したマウスが7、14および21日目に示した腫瘍増殖プロファイルもHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒丸)を2mg/kg(破線)または4mg/kg(実線)の量で用いて処置したマウスが7、14および21日目に示した腫瘍増殖プロファイルも用量が相当する用量の時には同様であった。しかしながら、遊離形態のマイトマイシンCで処置した動物が示した生存率の方が低く、遊離マイトマイシンCを4mg/kgの用量で投与した動物が示した中毒死亡率は80%であった。このように、マイトマイシンCをリポソームの中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲートの形態で投与した時にもたらされる効力は遊離薬剤の場合のそれと同様ではあるが、毒性が低い。別の研究において、システインをリポソーム製剤に外来物として一緒に投与した時の効果を評価した。マウスにM109腫瘍細胞を接種しそして未処置のままにするか或は接種してから5日後に遊離薬剤形態またはリポソームプロドラッグコンジュゲート形態のマイトマイシンCを6mg/kgの量で用いて処置した。リポソームプロドラッグを6mg/kgの量で用いた処置を12日目および19日目に繰り返した。遊離MMCを用いた処置ではマウスが6mg/kgの注入に2回以上耐えることができなかったことから、繰り返し処置は行なわなかった。本リポソーム−プロドラッグで処置した試験マウスの一群にはまたシステインもマウス1匹当たり5mgの量で与えた。その結果を図16A−16Bに示す。図16Aに足蹠大きさの中央値(mm)をM109腫瘍細胞をマウスの足に接種した後の日数の関数として示す。未処置の対照マウス(白四角)では足蹠の厚みが絶えず厚くなった。HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを6mg/kgの量で用いて処置したマウスが5、12および19日目に示した腫瘍増殖速度(黒丸、黒菱形)の方が、遊離マイトマイシンCで処置したマウスが示した腫瘍増殖速度(白三角)よりも遅かった。システインを6−8、14−16および21−23日目に皮下投与した。本リポソーム製剤で処置しておいたマウスにシステインを投与すると(黒菱形)効力がより高くなり、そのような試験動物が示した足蹠厚み増加の速度が最も遅かったが、その差は統計学的には有意ではなかった。
【0079】
図16Bに、図16Aに挙げたようにして処置したマウスに関して、足蹠腫瘍の大きさが4mm未満の生存マウスのパーセントを腫瘍接種後の日数の関数として示す。この図は、下降段階として下記の2種類のイベントを記録した図である:死亡(中毒死)および4mmを超える腫瘍寸法。未処置マウス(白四角)は全部が約23日の試験日後に腫瘍の大きさが4mmを超えていた。本リポソーム製剤で処置したマウス(黒丸、黒菱形)では遊離形態の薬剤で処置した動物が示した中毒死(白三角)の時間よりも長い時間に渡って中毒死を示すことなく腫瘍の大きさも4mm未満であった。
【0080】
別の研究では、マウスに106個のC26腫瘍細胞を腹腔内接種した。接種して5日後のマウスを遊離形態の薬剤またはリポソームの中に取り込ませた薬剤−DTB−脂質コンジュゲートとして6mg/kgの量で静脈内注入することで処置した。その結果を図17に示し、この図では、生存パーセントをC26腫瘍細胞をマウスに接種した後の時間の関数としてプロットする。未処置マウス(四角)は試験日数が23日を超えて生存することはなかった。遊離マイトマイシンCを6mg/kg用いて処置したマウスが試験日40日の時に生存した率は10%のみであった(三角)。それとは対照的に、マイトマイシンCをリポソーム中のプロドラッグ形態で6mg/kgの量で用いて処置したマウス(丸)では試験日が40日の時に30%以上が生存しており、そして本リポソーム製剤を6mg/kg(2回)用いて処置したマウスでは40%以上が生存していた(菱形)。本リポソーム製剤で処置したマウスは遊離形態の薬剤で処置した時に比べて実質的に高い用量、例えば約2倍多い用量、ある場合には3倍多い用量のマイトマイシンCに耐え得ることは注目に値する。
【0081】
別の研究では、M109細胞の亜株(subline)であるM109R細胞を多剤耐性細胞として選択して用いた。マウスに薬剤耐性M109R癌細胞を接種した後、5日目および12日目に試験物質を静脈内注射することで処置した。その結果を図18−19に示す。
【0082】
図18に、足蹠の大きさ中央値(mm)をM109R腫瘍細胞接種後の時間の関数として示す。未処置マウス(白四角)では腫瘍の大きさが絶えず大きくなった。ほぼ130日目まで、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを8mg/kg用いて処置したマウス(黒丸、実線)が示した足蹠の大きさの方が遊離マイトマイシンCを同様な用量で用いて処置したマウスのそれ(白三角)よりも小さかった。HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを8mg/kgの用量で用いて2回処置したマウスの足蹠の大きさの増加(黒丸、破線)は168日の試験期間全体に渡ってほとんどない度合から測定不能な度合であった。
【0083】
図19A−19Bに、マイトマイシンCの用量を10mg/kgにしそして試験群の1つにシステインを投与する以外は同様な試験マウスの結果を示す。図19Aに、未処置マウス(白四角)、ポリエチレングリコール鎖の被膜を有するリポソームの中に取り込ませておいたドキソルビシンを10mg/kgの用量で用いて2回処置したマウス[Stealth(商標)、白三角]、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを10mg/kgの用量で2回用いて処置したマウス(黒丸)[システイン無し(黒丸、実線)またはシステインをマウス1匹当たり5mg投与(黒丸、破線)]が示した試験マウス体重中央値(グラム)を腫瘍接種後の日数の関数として示す。リポソーム−ドキソルビシンで処置したマウスは体重の損失を示し、このことは、その用量は実際それらが耐え得る最大許容用量であることを示している。それとは対照的に、リポソームMMCプロドラッグを用いた時にはシステインを用いた時にも用いない時にも重量損失を全く観察しなかった。
【0084】
図19Bに、試験動物の足蹠厚みの中央値を示す。HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームの形態のマイトマイシンCで処置(5日目と12日目に10mg/kgの用量で2回)したマウス(黒丸)では、システインを使用(黒丸、破線)してもシステインを使用しなく(黒丸、実線)ても足蹠の大きさの増加にはほとんどか或は全く影響がなかった。実際、マウス個体を基にして、測定可能な腫瘍を有する15匹のマウスの中の11匹は完全な腫瘍緩解を示した。未処置のまま(白四角)もリポソームに取り込ませたドキソルビシンを用いた処置(白三角)も足蹠厚みの増加をもたらした。この研究のデータをまた図19Cにも足蹠厚みが5mm未満の生存マウスのパーセントとして腫瘍接種後の日数の関数として示す。
【0085】
図18−19に示したデータは、マイトマイシンCをリポソームの中に取り込ませた薬剤−脂質コンジュゲートの形態で投与すると多剤耐性細胞はそれを吸収して細胞の中に細胞毒性をもたらすに充分な量で蓄積し得ることを示している。M109R細胞は、このような薬剤耐性癌モデルで予測されるように、リポソームに取り込ませておいたドキソルビシンには反応を示さなかった(図19B)。
【0086】
前記から本発明のいろいろな面および特徴が明らかであろう。本明細書に示した研究は、マイトマイシンCを脂質−DTB−マイトマイシンCプロドラッグとして調合しておくとそれをインビボで投与することができることを示している。この見いだしたことは、遊離形態のマイトマイシンCは極めて毒性が高く、従ってインビボ使用にはしばしば適さないことを考慮すると重要である。その上、マイトマイシンCを脂質とのプロドラッグコンジュゲートの形態で動物に投与するならば、この薬剤を遊離形態で投与する時の量の2倍または3倍の用量で投与することができる。本明細書に示した研究は、また、マイトマイシンCを脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの形態で投与すると多剤耐性細胞がそれを吸収し得ることも示している。ジスルフィド還元酵素であるチオレドキシンの濃度はいろいろな原発腫瘍の方が健康な組織よりも高いことが研究文献に示されていた[Powis他、Free Radical Biology & Med.、29:312(2000);Engman,L.他、Bioorganic and Medicinal Chemistry 11:5091、(2000)]。そのようにチオレドキシンの濃度は腫瘍細胞の方が高いことから、ここに記述するマイトマイシンCコンジュゲートを用いるとユニークな相乗作用が得られる、と言うのは、天然の還元酵素源は標的組織の中に集中するからである。
【実施例】
【0087】
以下の実施例は本明細書に記述する発明を更に説明するものであり、決して本発明の範囲を限定することを意図するものでない。
材料
あらゆる材料を商業的に適切な製造供給元、例えばAldrich Corporationなどから入手した。
[実施例1]
【0088】
パラ−ジアシルジグリセロールジチオベンズアルコール(化合物IV)およびオルソ−ジアシルジグリセロールジチオベンズアルコールの合成
A. パラ−ジアシルジグリセロールジチオベンズアルコール
この反応を図1に示す。化合物IIおよびIIIの調製ではSnyder,W.R.、Journal of Lipid Research、28:949(1987)の手順に従った。
【0089】
100mlの丸底フラスコに入れた5mlの水に3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(化合物I、1g、9.26ミリモル)を入れて、これを氷浴の中に置いた。このフラスコを急速撹拌しながら温度を30−40℃の範囲に維持しつつ過酸化水素(正確に0.5モル当量、525μl、4.63ミリモル)を滴下した。発熱過程が終了した時点で反応物を室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いてアセトニトリルを20mlづつ連続添加することで水を共沸させた。そのようなアセトニトリル添加過程を3から4回または水全部が除去されて透明な油がもたらされるまで繰り返した。金属製スパチュラでフラスコを引っ掻きそして−20℃に一晩冷却すると油状生成物が固化した[化合物II、rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)]。その白亜固体をP2O5の上に置いて真空下で乾燥させた。
収量:630mg、63%。1HNMR(CD3OD、360MHz)δ 2.77、2.95(2xd、CH2OH、2H)、3.59(M、SCH2、2H)、3.87(m、CH、1H)ppm。
【0090】
オーブンで乾燥しておいた100mLの丸底フラスコに前記rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)生成物(化合物II)(980mg、4.6ミリモル)を入れて乾燥塩化メチレン(40mL)に溶解させることを通して、前記化合物にアシル化を受けさせた。それにステアリン酸(4.92g、17.1ミリモル)および触媒として4−トルエンスルホン酸4−ジメチルアミノピリジニウム(1.38g、4.6ミリモル)を加えて室温(25℃)で20分間撹拌した。次に、ジイソプロピルカルボジイミド(3.1mL、20ミリモル)をピペットで入れた後、室温で一晩反応させた。GF上のTLC silic(ヘキサン中10%の酢酸エチル)はジオール基の反応が完了したことを示していた[rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)Rf=0.60;rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)Rf=0.35]。この反応混合物に若干塩基性のイオン交換樹脂であるAmberlyst(商標)A−21(〜3g)および強酸性のイオン交換樹脂であるAmberlyst(商標)15(〜3g)を加えた。振とうを30分間行った後、前記樹脂を濾過し、そしてその濾液を乾固させた。その残留物にイソプロパノール(各々100mL)を用いた再結晶化を3回受けさせた。固体状生成物であるrac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)(化合物III)を集めてP2O5上で乾燥させた。収率:70%、4.1g。融点54−55℃。1HNMR(CDCl3、360MHz)δ 0.86(t、CH3、6H)、1.22(s、脂質、56H)、1.48(m、CH2CH2(CO)O、4H)、2.26(2xt、CH2(CO)O、4H)、2.87(d、CH2S、2H)、4.03および4.22(2xd、脂質のCH2CH、2H)、4.97(m、脂質のCHCH2)ppm。
【0091】
次の段階で、rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)(化合物III)(2.97g、2.33ミリモル)の溶体をトルエン(30mL)に溶解させた後、氷浴の中に置いた。塩化スルフリル(1.9mL、23.2ミリモル)をピペットでフラスコの中に入れた後、その混合物を冷氷浴温度で30分間撹拌した。次に、前記フラスコを室温に置いて更に30分間撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて余分な塩化スルフリルを除去した。この反応フラスコに新しい分量(20mL)のトルエンを加えた後、氷浴の上に置いた。これに、4−メルカプトベンズアルコール(780mg、5.6ミリモル)をトルエンに入れることで生じさせた溶液をゆっくりした速度で加えた。5時間の反応時間後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒全部を蒸発させて乾固させた。前記反応フラスコに温かい酢酸エチル(10mL)を加えることで固体を溶解させた後、不溶物を濾過で除去した。その酢酸エチル溶液にエーテルを50mL加えることで沈澱を起こさせた後、固体状生成物(パラ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザルアルコール、化合物IV)を濾過で集めた。この過程を2回繰り返した。収率:75%。
【0092】
前記生成物(パラ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザル−アルコール、化合物IV)を精製する目的で、シリカゲルカラム(20x2.5cm)をクロロホルム中で調製した。サンプルを最低限量のクロロホルムに溶解させた後、クロマトグラフィーにかけて、異なる2種類の可動相を加えた。最初に100%CHCl3(100ml)で溶離させた。この画分には純度が低いジチオベンジルアルコールが入っていた。1HNMRで立証した。次に、可動相をクロロホルム中15%のメタノールに変えて、フラッシュクロマトグラフィーで高純度生成物を集めた。500mlのCH3OH:CHCl3(15:85)で溶離させることで高純度のDGTBA(TLCで一斑点)を集めた。溶媒を蒸発させた後、t−BuOHを用いて固体を凍結乾燥させそしてP2O5の上に置いて真空下で乾燥させた。この最終的な精製で収率が40%(1.4g)にまで低下した。1HNMR(CDCl3、360MHz)δ 0.86(t、CH3、6H)、1.22(s、脂質、56H)、1.48(m、CH2CH2(CO)O、4H)、2.26(2xt、CH2(CO)O、4H)、2.87(d、CH2S、2H)、4.03および4.22(2xd、脂質のCH2CH、2H)、4.69(s、CH2、bz、2H)、4.97(m、脂質のCHCH2)、7.36および7.56(d、CH2、芳香族、4H)ppm。
【0093】
5mgのサンプルに元素分析を実験室(Midwest Micro Lab)で受けさせた。
分析 理論値 測定値
炭素 70.93% 70.67%
水素 10.50% 10.41%
硫黄 8.25% 8.31%
B. オルソジグリセロールジチオベンズアルコール
rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)(化合物III)(200mg、0.156ミリモル)の溶体をトルエン(30mL)に溶解させた後、氷浴の中に置いた。塩化スルフリル(39μl、0.47ミリモル)をピペットでフラスコの中に入れた後、その混合物を冷氷浴温度で30分間撹拌した。次に、前記フラスコを室温に置いて更に30分間撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて余分な塩化スルフリルを除去した。この反応フラスコに新しい分量(20mL)のトルエンを加えた後、氷浴の上に置いた。これに、2−メルカプトベンズアルコール(48mg、35ミリモル)をトルエンに入れることで生じさせた溶液をゆっくりした速度で加えた。5時間の反応時間後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒全部を蒸発させて乾固させた。前記反応フラスコに温かい酢酸エチル(10mL)を加えることで固体を溶解させた後、不溶物を濾過で除去した。その酢酸エチル溶液にエーテルを50mL加えることで沈澱を起こさせた後、固体状生成物(オルソ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザルアルコール)を濾過で集めた。この過程を2回繰り返した。その固体をP2O5の上に置いて真空下で乾燥させた。収率:75%、190mg。1HNMR:(CDCl3、360MHz)δ 0.86(t、CH3、6H)、1.25(s、脂質、56H)、1.58(m、CH2CH2(CO)O、4H)、2.28(2xt、CH2(CO)O、4H)、2.91(d、CH2S、2H)、4.14および4.35(2xd、脂質のCH2CH、2H)、4.86(s、CH2、bz、2H)、5.26(m、脂質のCHCH2)、7.31(m、芳香族、2H)、7.48および7.75(d、芳香族、2H)ppm。
[実施例2]
【0094】
パラ−ジアシルジグリセロールジチオベンザル−マイトマイシンC(化合物XVIII)の合成
この反応を図3Aに示す。
【0095】
50mLの丸底フラスコにホスゲン(3.1ミリモル)およびトルエン(5mL)を仕込んで、その溶液を0℃に冷却した。パラ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザル−アルコール(化合物IV、実施例1に記述した如く調製、0.31ミリモル)がトルエン(2.5mL)に入っている溶液を調製した。次に、このアルコール溶液を前記ホスゲン溶液に滴下した。この混合物を室温に一晩温めた。18時間後、この溶液に濃縮を真空下で受けさせることで余分なホスゲンを除去した。この粗アシルクロライドをトルエン(5mL)に再溶解させた。
【0096】
マイトマイシンC(0.31ミリモル)とジメチルアミノピリジン(0.031ミリモル)とDMF(1mL)の溶液を調製した。このマイトマイシンC溶液を前記塩化アシル溶液に滴下した。1時間後、トルエンを蒸発させて除去した後、その粗生成物をシリカ使用クロマトグラフィーにかけた(ヘキサン:酢酸エチル 1:1)。次に、その精製した生成物をt−BuOH(50mL)で取り上げた後、凍結乾燥させた。この生成物は紫色の固体であった(183mg、53%)。Rf=0.38(50%ヘキサン:酢酸エチル);1HNMR(360MHz、CDCl3)δ 0.88(t、J=6.8Hz、6H)、1.26(s、58H)、1.58−1.68(m、4H)、1.76(s、3H)、2.29(t、J=7.6Hz、4H)、2.93−2.96(m、2H)、3.19(s、3H)、3.29(dd、J=4.7および2.9Hz、1H)、3.41(dd、J=5.0およ2.2Hz、1H)、3.48(dd、J=13.7および2.5Hz、1H)、3.67(dd、J=11.5および4.7Hz、1H)、(ddd、J=12.2および5.8および2.5Hz、1H)、4.27−4.36(m、2H)、4.43(d、J=13.3Hz、1H)、4.61(s、2H)、4.90(ddd、J=10.4および5.0および2.2Hz、1H)、5.00−5.12(m、3H)、5.26−5.30(m、1H)、7.32(d、J=8.6Hz、2H)、7.50(d、J=7.9Hz、2H);MALDI MS C62H99N4O11S2Naの計算値:1164、測定m/z 1164(M+Na)。
[実施例4]
【0097】
リポソーム調製
A. コレステロール含有リポソーム
1. リポソーム調製
1mLの乾燥エタノールに60−65℃でHSPCを59mg、コレステロールを14.4mg、mPEG−DSPEを17.4mgおよびパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンCを7.4mg(60/30/5/5のモル比)加えた後、溶解するまで、ほぼ10分間混合した。
【0098】
蒸留水中10mMのヒスチジンと150mMのNaClで構成させた水和用媒体を70℃に温めた。
【0099】
この温めた(63−67℃の)水和用媒体を混合しながらこれに前記温めた脂質溶液を迅速添加することで大きさが不均一なリポソームが入っている懸濁液を生じさせた。この懸濁液を63−67℃で1時間混合した。
2. 押出し
前記リポソームをテフロンが内張りされているステンレス鋼製容器の中に入っているポリカーボネート製フィルターカートリッジに通して制御した様式で押出すことで大きさを所望の平均粒径に合わせた。この押出し工程全体、即ち6−8時間に渡って、そのリポソーム懸濁液を63−65℃に保持した。
3. 透析濾過(Diafiltration)
前記リポソーム懸濁液からエタノールを透析濾過で除去した。ヒスチジン(10mM)と塩化ナトリウム(150mM)を無菌水に溶解させることでヒスチジン/塩化ナトリウム溶液を調製した。この溶液のpHを約7に調整した。この溶液を0.22μmのDuraporeフィルターに通して濾過した。このリポソーム懸濁液を前記ヒスチジン/塩化ナトリウム溶液で約1:1(体積/体積)の比率に希釈した後、ポリスルホン製中空繊維限外濾過装置に通す透析濾過を行った。前記ヒスチジン/塩化ナトリウム溶液に対する体積交換を8回実施することでエタノールを除去した。この過程の流体温度を約20−30℃に保持した。全透析濾過時間は約4.5時間であった。
4. 無菌濾過
前記リポソーム懸濁液を33−38℃に加熱した後、0.2μmのGelman Suporポリエーテルスルホン製フィルターに通して濾過した。全濾過時間は約10分間であった。
【0100】
各処理段階(水和、押出し、透析および濾過)後に脂質濃度およびコンジュゲート/薬剤濃度をHPLCで測定した。動的光散乱を用いてリポソームの粒径を測定しかつHPLCを用いて外部懸濁用媒体の中に入っている結合していない「遊離」マイトマイシンCの量を測定した。
【0101】
【表2】
【0102】
B. コレステロール無しリポソーム製剤
HSPCとmPEG−DSPEとパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンCが90/5/5のモル比の脂質組成を用いてリポソームをこの上に記述したようにして調製した。具体的には、1mLのエタノールにHSPCを88.5mg、mPEG−DSPE(PEGのMWが2000ダルトン)を17.9mgおよび前記コンジュゲートを7.3mg溶解させた。各処理段階後にリポソームの大きさ、脂質および薬剤の濃度、そして外部の懸濁用媒体に入っている遊離マイトマイシンCの濃度を測定した。
【0103】
【表3】
[実施例5]
【0104】
インビトロ特徴付けのHPLC条件
実施例4A−4Bに記述したようにして調製したリポソームを0.6Mのオクタイルグルコピラノシドで希釈した。前記リポソームを150mMのシステインの存在下37℃でインキュベートした。サンプルを時間ゼロ、30分、1時間、2時間、4時間および24時間の時に取り出した。3.5x5cmのWater Symmetry C8カラムを用いたHPLCで20μLの体積を分析した。流量を1mL/分にしそして可動相の勾配を下記の如くにした:
出発 10%MEOH 90% 10mM NaPO4、pH=7
5分 25%MEOH 75% 10mM NaPO4、pH=7
10分 25%MEOH 75% 10mM NaPO4、pH=7
15分 100%MEOH −
25分 100%MEOH −
30分 10% 90% 10mM NaPO4、pH=7
35分 10%MEOH 90% 10mM NaPO4、pH=7
[実施例6]
【0105】
細胞毒性試験
A. リポソーム調製
実施例4A−4Bに記述した如く調製したリポソームはHSPC/mPEG−DSPE/ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(90/5/5)またはHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(90/45/5/5)で構成されていた。これらのリポソーム製剤を0.45μmのセルロース膜に通して無菌濾過したが、押出しで大きさを小さくすることは行わなかった。リポソーム形成後、リポソームをイソプロパノールに10−20倍の希釈度で溶解させて360nmの所の吸光度を用いてマイトマイシンCの濃度を測定しかつ無機燐酸塩検定を用いて燐脂質濃度を測定した。
【0106】
コレステロール含有リポソームの平均直径は275±90nmであった。コレステロール無しリポソームの平均直径は150±50nmであった。燐脂質濃度は両方のリポソーム製剤とも10μM/mLでありそしてマイトマイシンCの濃度は両方の製剤とも120μg/mLであった。
B. 化学療法剤感受性検定および増殖速度測定
遊離マイトマイシンCまたはリポソームの中に取り込ませたジステアロイル−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートの形態のマイトマイシンCが示す細胞毒性効果を以前に記述されたメチレンブルー染色方法[Horowitz,A.T.他、Biochim.Biophys.Acta、1109:203−209(1992)]に若干の修飾を受けさせた方法を用いて比色分析で検定した。この検定が完了した時点で細胞を固定しそしてメチレンブルー染色検定を用いて評価した。
【0107】
この検定では、200μL分量(RPMI−1640培地+10%ウシ胎仔血清)の中で指数関数的に増殖している培養物から1500個のM109マウス癌細胞を96穴平底ミクロタイタープレートの上に置いて平板培養した。20時間の培養(この間に細胞が付着しかつ増殖を再開する)後、各穴に試験製剤(遊離マイトマイシンCまたはリポソーム製剤)を20μL加えた。薬剤の濃度を10倍高くする毎に4点薬剤濃度試験を行った。各試験を3個の穴および2個の並列プレートで重複して実施した。細胞に処置を72時間に渡って連続的に受けさせた。
【0108】
72時間の処置時間後、各穴に2.5%グルタルアルデヒドを50μl添加して10分間置くことで培養物を固着させた。前記プレートを脱イオン水で3回、0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.5)で1回洗浄した後、100μlのメチレンブルー[0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.5)中1%]を用いて室温(20−25℃)で60分間染色した。前記プレートを脱イオン水浴の中で濯ぐことを5回行うことで細胞と結合しなかった染料を除去した後、乾燥させた。0.1NのHClを200μL用いて染料を37℃で60分間抽出した後、ミクロプレート分光光度計を用いて光学密度を測定した。
【0109】
血球計算板を用いて細胞数を数えることで測定した細胞数と分光光度計による吸光度は良好な相互関係を示した。試験終了時の細胞数と吸光度の間の線形関係が確保されるような初期細胞平板培養密度を選択した。各試験毎に初期平均吸光度を測定する目的で薬剤を添加する前に6個の穴に固着を受けさせた。この値を用い、下記の式:DT=ln 2/ln[(ODt/ODc)/h][式中、DT=倍増時間(時)、ODt=試験終了時の試験穴の光学密度、ODc=試験開始時の対照穴の光学密度、h=培養時間(時)]を用いて、対照および薬剤処置細胞が示す増殖速度(GR)および倍増時間(DT)を計算した。
【0110】
増殖速度をGR=(ln 2/DT)として計算した。薬剤処置細胞が示した増殖速度を未処置の対照細胞が示した増殖速度で割ることで増殖抑制パーセント、即ち対照増殖速度に対するパーセントを得た。細胞抑制曲線の2つの最も近い値を補間することで対照増殖速度の50%抑制(IC50)をもたらす薬剤濃度を計算した。
【0111】
マイトマイシンCには検定を10−8−10−5Mの範囲で受けさせた。コンジュゲートを拘束しているリポソーム製剤には検定を10−8−3x10−5Mの範囲で受けさせた。相互作用試験ではマイトマイシンCまたはリポソーム製剤と一緒にシステイン(SIGMA、セントルイス、MO)を最終濃度が150、500または1000μMになるように加えた。
【0112】
その結果を表1および図10、11A−11Bおよび12に示す。
[実施例7]
【0113】
インビボ薬物速度試験
A. リポソーム製剤
コレステロール含有リポソームおよびコレステロール無しリポソームを実施例5Aおよび5Bに記述した如く調製した。
【0114】
119μLのエタノールに遊離形態のマイトマイシンCを11.9mg溶解させることでマイトマイシンCの溶液を調製した。溶解後、ヒスチジンが10mMで食塩水が150mMの溶液を約11.8μL加えた。使用に先立って前記マイトマイシンC溶液を前記ヒスチジン/食塩水溶液で100μg/mLになるように希釈した後、濾過した。
B. 動物
8匹のラットを無作為に下記の如き処置群に分けた:
【0115】
【表4】
【0116】
試験製剤をボーラス投薬として1回静脈内注入することで投与した。注入後下記の時間の時に各動物から血液サンプルを採取した:30秒、15分、30分、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間、48時間、72時間および96時間。血液サンプル中のマイトマイシンC量を以下に示すHPLC手順で測定した。5.1mLの7.5%EDTAにヨードアセトアミドを199.3mg入れることでヨードアセトアミンが200mMの溶液を生じさせた。1μLの各血液サンプルに前記200mMのヨードアセトアミド溶液を15μL入れた。
C. 血漿中のマイトマイシンCを測定するHPLC方法
1. 溶液調製
1Lの容量フラスコに脱イオン水を充填してこれに燐酸アンモニウムを1.321g入れることを通して、燐酸アンモニウム含有量が10mMの緩衝剤水溶液(pH=7)を調製した。前記混合物を撹拌しながらo−燐酸を用いてpHを7.0に調整した。この緩衝液を使用前に0.45μmのナイロン製フィルターに通して濾過した。
【0117】
Waters Alliance双対ポンプを用いて可動相であるメタノールと前記緩衝剤水溶液を勾配プログラムに従って混合した。
2. 標準溶液および品質制御サンプルの調製
2種類の個々別々の重量のマイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲートを標準サンプルおよび品質制御サンプルとして調製した。マイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲートを1mgづつ計り取って個別に1mLの希釈剤(クロロホルムが20%でメタノールが80%の混合物)に溶解させた。両方の化合物の原液の濃度を1mg/mLにした。標準サンプルおよび品質制御サンプルに関して5μg/mLから100μg/mLの濃度を得る目的で数種の希釈液を希釈状態で作成した。
【0118】
0.1mL分量のラット血漿に適当量(10μL−50μL)のマイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲート標準溶液を添加した。マイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲートそれぞれの濃度範囲を0.05−5.0μg/mLおよび0.1−5μg/mLにした。メタノールを用いて最終体積を1mLに調整した。品質制御サンプルを調製する時にも同様な手順に従った。ラット血漿中の品質制御サンプルの濃度をマイトマイシンCの場合には0.1、0.5および5μg/mLにしそしてマイトマイシンCコンジュゲートの場合には0.1、1および5μg/mLにした。これらのサンプルを室温において3,000rpmで10分間回転させて沈降させた。300μLの上澄み液を注入用インサート(insert)が300μL入っているHPLC用瓶に移した。
3. サンプル調製
900μLのメタノールを用いて100μLの血漿サンプルを変性させた後、3,000rpmの遠心分離に10分間かけた。300μL分量の上澄み液を注入用インサートが300μL入っているHPLC用瓶に移した。
4. クロマトグラフィー条件
4.6mmx5cmのSupelco(商標)C−8(5μ)カラムを用いた。可動相Aを10mMの燐酸アンモニウム(pH7)にした。可動相Bをメタノールにした。流量を1mM/分にしそして360nmの紫外線で検出した。注入体積を40μLにしそして典型的な実行時間は15分間であった。勾配プログラムは下記の通りであった:
【0119】
【表5】
【0120】
低濃度から高濃度で調製した線形標準(6種類の濃度)を注入した。次に、分析の目的で品質制御サンプルおよび血漿サンプルを注入した。
【0121】
PE−Nelson Turbochrom(バージョン4.1)システムを用いてピーク面積および保持時間を測定した。線形回帰プログラムを用いてマイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲートの濃度を計算した。6種類の濃度の標準的反応を検査することでこの方法の線形度を評価した。1/x2の重み係数を用いてデータを線形回帰式y=B*x+Aに適合させた。標準サンプルに加えて品質制御サンプルの逆計算濃度からこの方法の精度および正確さを計算した。
【0122】
その結果を図13A−13Bに示す。
[実施例8]
【0123】
インビボ試験
スパソゲン(Spathogen)の無い特殊な施設の中に10週令のメスBALB/cマウスを維持した。M109細胞またはM109R細胞をインビトロ懸濁液の状態で増殖させた。50μL(106個の細胞)をマウスの右後足蹠に注入した。試験終了時まで足蹠の厚みをカリパスで測定し、試験が終了した時点でマウスを屠殺し、最終的な腫瘍数を記録し、そして対照および腫瘍を接種した足蹠を足関節の高さの所で切断して重量を測定した。正常な足蹠および腫瘍を有する足蹠の間の重量の差として腫瘍重量を推定した。1グループ当たりの最終的な腫瘍罹病率の差が統計学的に有意であるか否かを分割表およびフィッシャーの直接確率検定で分析した。その結果を図15A−15Bおよび図16A−16B、図18、図19A−19Cに示す。
【0124】
本発明を個々の態様に関して記述してきたが、本発明から逸脱しない限りいろいろな変更および修飾を成してもよいことは本分野の技術者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1に、パラ−ジアシルジグリセロール−ジチオベンジルアルコールを調製して更にアミン含有、ヒドロキシ含有またはカルボキシ含有薬剤と反応させる合成反応スキームを示す。
【図2A】図2Aに、アミノ含有薬剤を反応性ジアシルジグリセロール−ジチオベンジルカーボネートと結合させる一般的反応スキームを示す。
【図2B】図2Bに、図2Aに示したコンジュゲートがチオール開裂を起こした後の生成物を示す。
【図3A】図3Aに、ジアシルジグリセロール−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲートを生じさせる合成反応スキームを示す。
【図3B】図3Bに、図3Aに示したコンジュゲートがチオール開裂を起こした後の生成物を示す。
【図4】図4に、コレステロール−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲートを生じさせる合成反応スキームを示す。
【図5】図5に、コレステロール−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲートを生じさせる別の合成反応スキームを示す。
【図6A−6C】図6A−6Cに、3種類の脂質−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲートであるパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(図6A)、パラ−ジパルミトイル−DTB−マイトマイシンC(図6B)およびオルソ−ジパルミトイル−DTB−マイトマイシンC(図6C)の構造を示す。
【図7A−7B】図7A−7Bは、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC(図7A)およびHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC(図7B)で構成させたリポソームが示したHPLCクロマトグラムであり、各図に、一連のクロマトグラムを当該リポソームをシステインの存在下でインキュベートした時間の関数として示す。
【図8】図8は、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC(黒菱形)およびHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC(黒丸)で構成させたリポソームから放出されるマイトマイシンCのパーセントをシステイン存在下のインキュベーション時間の関数として示す図である。
【図9A−9B】図9A−9Bは、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(図9A)およびHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(図9B)から放出されるマイトマイシンCのパーセントをシステインを150μMの濃度(黒記号)および1.5mMの濃度(白記号)で存在させてインキュベートした時間の関数として示す図である。
【図10】図10は、遊離マイトマイシンC(白三角)、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒四角)およびHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(白丸)を存在させた時のM109細胞の増殖速度(薬剤もシステインも存在させていない時のM109細胞の増殖を基準にしたパーセントとして表す)をマイトマイシンCの量(nM)の関数として示す図である。
【図11A】図11Aは、M109細胞の増殖速度(薬剤もシステインも存在させていない時のM109細胞の増殖を基準にしたパーセントとして表す)をマイトマイシンC濃度(nM)の関数として示す図である。遊離形態のマイトマイシンCで処置した細胞(白三角)および遊離形態のマイトマイシンCに加えて1000μMのシステインで処置した細胞(黒三角)を示す。また、HSPC/PEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム製剤で処置した細胞(白丸)および前記リポソーム製剤に加えてシステインを150μM(白菱形)、500μM(黒丸)および1000μM(白四角)の濃度で添加することで処置した細胞も示す。
【図11B】図11Bは、M109細胞の増殖速度(薬剤もシステインも存在させていない時のM109細胞の増殖を基準にしたパーセントとして表す)をマイトマイシンC濃度(nM)の関数として示す図である。遊離形態のマイトマイシンCで処置した細胞(白三角)および遊離形態のマイトマイシンCに加えて1000μMのシステインで処置した細胞(黒三角)を示す。また、HSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム製剤で処置した細胞(白丸)および前記リポソーム製剤に加えてシステインを150μM(白菱形)、500μM(黒丸)および1000μM(白四角)の濃度で添加することで処置した細胞も示す。
【図12】図12は、遊離マイトマイシンC(黒四角)、HSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームと結合しているマイトマイシンC(黒丸)およびHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームと結合しているマイトマイシンC(白三角)がシステインがいろいろな濃度の時にM109細胞に対してインビトロで示す細胞毒性上昇パーセント[(IC50no cysteine/IC50cysteine)x100で決定した時の]を示す図である。
【図13A】図13Aは、遊離マイトマイシンC(白四角)、HSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒菱形)およびHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒丸)を静脈内注入した後のラット血液中のマイトマイシンC濃度を注入後の時間(時)の関数として示す図である。
【図13B】図13Bは、遊離マイトマイシンC(白四角)、HSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒菱形)およびHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒丸)を静脈内注入した後のラット血液中に残存する注入用量パーセントを注入後の時間(時)の関数として示す図である。
【図14】図14は、遊離マイトマイシンC(白四角)またはHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームの形態のマイトマイシンC(黒丸)を注入した後の平均体重(グラム)を注入後の時間(日数)の関数として示す図である。
【図15A】図15Aは、マウスを未処置のまま[対照マウス;(白四角)]または遊離マイトマイシンCによる処置を受けさせた場合(白三角)またはHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームによる処置を受けさせた場合(黒丸)の足蹠の大きさの中央値(mm)をマウスの足にM109腫瘍細胞を接種した後の日数の関数として示す図である。
【図15B】図15Bは、マウスを未処置のまま[対照マウス;(白四角)]または遊離マイトマイシンCによる処置(白三角)を2mg/kg(破線)または4mg/kg(実線)の量で受けさせるか或はHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームによる処置(黒丸)を2mg/kg(破線)または4mg/kg(実線)の量で受けさせた場合の足蹠の大きさの中央値(mm)をマウスの足にM109腫瘍細胞を接種した後の日数の関数として示す図である。
【図16A】図16Aは、マウスを未処置のまま[対照マウス;(白四角)]または遊離マイトマイシンCを6mg/kg用いた処置を受けさせた場合(白三角)またはHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを6mg/kg用いた処置を5日目、12日目および19日目の3回受けさせた場合(黒丸、黒菱形)[黒菱形で表す動物にはシステインを6−8日目、14−16日目および21−23日目に注入することで与えた]の足蹠の大きさの中央値(mm)をマウスの足にM109腫瘍細胞を接種した後の日数の関数として示す図である。
【図16B】図16Bは、図16Aに挙げた如き処置を受けさせたマウスに関して足蹠腫瘍の大きさが4mm未満の生存マウスのパーセントを腫瘍接種後の日数の関数として示す図である。
【図17】図17は、マウスを未処置のまま(四角)、遊離マイトマイシンCを6mg/kg用いた処置を受けさせた場合(三角)またはHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを6mg/kg用いた処置を1回受けさせた場合(丸)または6mg/kg用いた処置を2回とシステインを用いた処置を受けさせた場合(菱形)の生存パーセントをC26腫瘍細胞をマウスに接種した後の時間の関数として示す図である。
【図18】図18は、マウスを未処置のまま(白四角)、遊離マイトマイシンCを8mg/kg用いた処置を受けさせた場合(白三角)、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを8mg/kg用いた処置を1回(黒丸、実線)または2回(黒丸、破線)受けさせた場合の足蹠の大きさの中央値(mm)をM109−R腫瘍細胞をマウスに接種した後の時間の関数として示す図である。
【図19A】図19Aは、マウスを未処置のまま(白四角)、ポリエチレングリコール鎖の被膜を有するリポソームに取り込ませたドキソルビシンを10mg/kg用いて2回処置した場合[Stealth(商標)、白三角]、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを10mg/kg用いた2回の処置(黒丸)をシステイン無し(黒丸、実線)または5mg/kgのシステインと一緒に用いて受けさせた場合(黒丸、破線)の体重中央値(グラム)を腫瘍接種後の日数の関数として示す図である。
【図19B】図19Bは、マウスを未処置のまま(白四角)、ポリエチレングリコール鎖の被膜を有するリポソームに取り込ませたドキソルビシンを10mg/kg用いて2回処置した場合[Stealth(商標)、白三角]、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを10mg/kg用いた2回の処置(黒丸)をシステイン無し(実線)または5mg/kgのシステインと一緒に用いて受けさせた場合(破線)の足蹠厚みの中央値(mm)を腫瘍接種後の日数の関数として示す図である。
【図19C】図19Cは、マウスを未処置のまま(白四角)、ポリエチレングリコール鎖の被膜を有するリポソームに取り込ませたドキソルビシンを10mg/kg用いて2回処置した場合[Stealth(商標)、白三角]、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを10mg/kg用いた2回の処置(黒丸)をシステイン無し(実線)または5mg/kgのシステインと一緒に用いて受けさせた場合(破線)の足蹠腫瘍が5mm未満の生存マウスのパーセントをM109R細胞腫瘍接種後の日数の関数として示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイトマイシンCの細胞毒性を低下させる方法、そしてマイトマイシンCを多剤耐性細胞に投与する方法に関する。マイトマイシンCを、この薬剤を疎水性部分に開裂可能結合で連結させることで構成させたプロドラッグコンジュゲート(conjugate)の形態で提供する。より詳細には、本プロドラッグコンジュゲートを、この薬剤を脂質に開裂可能結合で連結させて前記脂質をリポソーム製剤の中に取り込ませることで構成させる。本プロドラッグコンジュゲートは、マイトマイシンCを非修飾状態で放出するのに適する穏やかなインビボチオール開裂条件下で開裂できる。
【背景技術】
【0002】
マイトマイシンは数種の多様な癌に処方される確立された化学療法剤であり、そのような癌には乳癌、胃癌、食道癌および膀胱癌が含まれる。この薬剤はDNAを架橋させることで働き、その結果として、癌細胞は増殖することができなくなる。それを患者に静脈内投与した時に毒性が理由で起こる一般的な副作用には、発熱、悪心、嘔吐、骨髄抑制などが含まれる(非特許文献1)。薬剤毒性が化学療法に関連したただ1つの問題ではない。別の問題は薬剤耐性である。ある種の腫瘍、例えば非小細胞肺癌および結腸癌などは一次耐性を示す、即ち現在利用可能な通常の化学療法薬に1回目に接触した時点でも反応を示さない。他の種類の腫瘍は獲得耐性を示し、これはいろいろな種類の薬剤感受性腫瘍に発生する。薬剤耐性癌細胞は2種類の獲得薬剤耐性を示す、即ち単一の薬剤に耐性を示すか或は同じ作用機構を有する単一の種類の抗癌剤に耐性を示す細胞が存在する。2番目の種類は、細胞がいろいろな作用機構を有する化学的に多様な数種または数多くの抗癌剤に幅広い耐性を示すことを伴う。その2番目の種類の獲得耐性は多剤耐性として知られる。
【0003】
多剤耐性はまたある種の腫瘍細胞にも見られ、例えば腎および結腸腫瘍などに見られ、それらは一次耐性を示す。即ち、獲得多剤耐性とは対照的に、特定種の腫瘍はいろいろな化学治療薬に対して最初の治療にも応答を示さない。
【0004】
多剤耐性は、しばしば、薬物流出に関与する通常の遺伝子、即ち細胞表面糖蛋白質であるP−糖蛋白質のMDR1遺伝子の発現が増加することを伴う。P−糖蛋白質の発現は細胞内薬剤蓄積量低下と相互に関係している、即ちP−糖蛋白質は、薬剤を当該細胞から移動させることで前記薬剤が前記細胞の中に蓄積しないようにするエネルギー依存ポンプまたは輸送分子として働く。
【0005】
P−糖蛋白質は通常主に上皮および内皮表面に発現して吸収および/または分泌にある役割を果たすと思われる。それは疎水性薬剤を細胞から追い出すことでそれらの細胞質内濃度を低下させ、こうして毒性を低下させる活性のある輸送体である。P−糖蛋白質は、通常の細胞の中では、毒性のある代謝産物または生体異物である化合物を体から排出させる機能を果たす(非特許文献2)。
【0006】
P−糖蛋白質を発現する癌には、MDR1遺伝子を正常に発現する組織に由来する癌、即ち肝臓癌、結腸癌、腎臓癌、膵臓癌および副腎癌が含まれる。そのような遺伝子の発現は、また、白血病、リンパ腫、乳癌および卵巣癌および他のいろいろな癌で多剤耐性薬剤を用いた化学療法を行っている過程中にも見られる。そのような癌は最初は化学療法に反応するが、その癌が再発した時には、その癌細胞はしばしばP−糖蛋白質をより多い量で発現する。P−糖蛋白質を通常は発現しないが癌発生中にP−糖蛋白質発現の増加が起こる組織に由来する癌が存在する。一例は慢性骨髄性白血病であり、これが急性転化すると、以前に成された治療履歴に関係無くP−糖蛋白質がより多い量で発現するようになる(非特許文献3)。
【0007】
MDR1がコードしたP−糖蛋白質ポンプ(pump)は、多種多様な物質を認識して輸送するが、そのような物質には、天然産物である大部分の抗癌剤、例えばドキソルビシン、ダウノルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、アクチノマイシンD、パクリタキセル、テニポシドおよびエトポシドが含まれる(非特許文献4)。多剤耐性をしばしば伴う薬剤は、より一般的には、植物または菌・カビが源のアルカロイドもしくは抗生物質であり、それらにはビンカアルカロイド、アントラサイクリン、エピポドフィロトキシンおよびダクチノマイシンが含まれる。アルキル化剤、例えばメルファラン、ナイトロジェンマスタードおよびマイトマイシンCなどへの交差耐性もしばしば観察される(非特許文献5)。癌細胞が多剤耐性を示すと明らかに化学療法の成功が制限されかつ患者の予後が劣ると推測される。
【0008】
リポソームは多様な治療目的で用いられる封入型脂質小胞であり、これは特にリポソームを全身投与して治療薬を標的領域もしくは細胞に運ぶ目的で用いられる。表面が水溶性で生物適合性の重合体、特にポリエチレングリコールの鎖でグラフトされているリポソームが重要な薬剤担体になってきている。そのようなリポソームが示す血液循環寿命の方が重合体被膜をもたないリポソームのそれよりも長い。その接合させた重合体鎖が当該リポソームを遮蔽または覆うことで、血漿蛋白質による非特異的相互作用を最小限にする。それによって、今度は、当該リポソームがインビボで排出または除去される速度が遅くなる、と言うのは、そのようなリポソームはマクロファージにも他の細網内皮系細胞にも認識されないで循環するからである。その上、そのようなリポソームは向上した浸透性および保持効果も示す(非特許文献6)ことから、損傷を受けたか或は膨張した血管系部位、例えば炎症部位である腫瘍などに蓄積する傾向がある。
【0009】
全身投与したリポソームが標的領域、細胞または部位に到達し得るように血液循環時間を長くすることがしばしば望まれている。例えば、腫瘍領域に対するリポソーム治療では血液循環時間が約12時間以上であるのが好適である、と言うのは、そのリポソームは全身に分布した後に腫瘍領域の中に侵入する必要があるからである。
【0010】
多剤耐性細胞が吸収し得るマイトマイシンC製剤を提供することができれば、これは望ましいことである。また、血液循環寿命が長くかつ取り込んでいる薬剤を所望時間保持する能力を有するにも拘らず薬剤を要求に応じて放出し得るリポソーム組成物を調製することができれば、これも望ましいことである。また、遊離形態の薬剤と同様な効力を有するにも拘らず全身毒性が低下したマイトマイシンC製剤を提供することができれば、これも望ましいことである。その上、細胞毒性のあるマイトマイシンCの放出が腫瘍内の内因性条件に反応して起こるようにすることができれば、これも望ましいことである。
【非特許文献1】HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE、Wilson他編集、第12版、パート11、1592頁、1991
【非特許文献2】Endicott,J.およびLing,V.、Annu.Rev.Biochem.、58:137−171、(1989)
【非特許文献3】Gottesman,M.M.、Cancer Research、53:747−754(1993)
【非特許文献4】Gottesman,M.他、Current Opinion in Genetics and Development、6:610−617(1996)
【非特許文献5】Endicott,J.およびLing,V.、Annu.Rev.Biochem.、58:137−171、(1989)
【非特許文献6】Maeda H.他、J.Controlled Release、65(1−2):271(2000)
【発明の開示】
【0011】
(発明の要約)
従って、本発明の目的は、遊離形態の薬剤に比べて毒性が低くかつ多剤耐性細胞が取り込み得るマイトマイシンCリポソーム製剤を提供することにある。即ち、マイトマイシンCはこれを遊離形態で投与すると多剤耐性細胞の中に蓄積されないが、それを本明細書に記述するリポソーム製剤の中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲートの形態で投与すると、それは前記細胞の中に蓄積し得る。
【0012】
本発明は、1つの面において、マイトマイシンCがインビボで示す細胞毒性を低くする方法を包含し、この方法は、マイトマイシンCを小胞形成性脂質(vesicle−forming lipid)と約1から約30モルパーセントの範囲の一般形態:
【0013】
【化1】
【0014】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCであり、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートで構成させたリポソーム組成物の形態で供給することを含んで成る。
【0015】
1つの態様では、マイトマイシンCをウレタン(カルバメート)結合で共有結合させる。
【0016】
別の態様では、Lをコレステロール、ジアシルグリセロールおよび燐脂質から成る群から選択する。
【0017】
別の態様では、マイトマイシンCをジチオベンジル部分と共有結合させることで構造:
【0018】
【化2】
【0019】
[ここで、R4は、マイトマイシンCの残基を表す]
で表されるコンジュゲートを生じさせるが、このコンジュゲートでは、マイトマイシンCのアジリジン部分の中の第二級アミンが前記ジチオベンジルとマイトマイシンCの間のウレタン結合を形成している。
【0020】
本発明は、別の面において、マイトマイシンCを多剤耐性細胞に投与する方法を包含し、この方法は、マイトマイシンCを小胞形成性脂質と約1から約30モルパーセントの範囲の一般形態:
【0021】
【化3】
【0022】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCであり、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートで構成させたリポソーム組成物の形態で投与することを含んで成る。
【0023】
以下の本発明の詳細な説明を添付図と協力させて読むことで本発明の前記および他の目的および特徴がより詳細に理解されるであろう。
(発明の詳細な説明)
I. 定義
語句「リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分」は、リポソーム脂質二重層の疎水性二重層領域と一体化し得る疎水性部分を含んで成る材料のいずれかを意味する。そのような疎水性部分は典型的に脂質であり、それには、疎水性脂質尾部と親水性極性頭部を有する両親媒性脂質、例えば燐脂質およびジアシルグリセロールなどが含まれる。また、トリグリセリド、ステロール、燐脂質、ジアシルグリセロール、ステロールおよびトリグリセリドの誘導体、そして天然源に由来するか或は合成的に作られた他の脂質も考えられる。
【0024】
「治療薬の残基」の場合の如き用語「残基」は、薬剤分子が別の分子と反応して結合を形成していて当該薬剤分子の少なくとも1個の原子が前記結合の形成で追い出されたか或は取り除かれていることを意味する。
【0025】
「脂質−DTB−マイトマイシンC」の言及は、図6Aの化合物XVIIIを指す。
【0026】
本明細書で用いる如き「ポリペプチド」はアミノ酸の重合体を指すものであり、アミノ酸の重合体の特定の長さを指すものでない。従って、例えば用語「ペプチド、オリゴペプチド、蛋白質および酵素」はポリペプチドの定義の範囲内に含まれる。この用語はまたポリペプチドの発現後修飾、例えばグリコシル化、アセチル化、燐酸化なども包含する。
【0027】
本明細書では下記の省略形を用いる:PEG:ポリ(エチレングリコール)、mPEG:メトキシ−PEG、DTB:ジチオベンジル、DSPE:ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、HSPC:水添大豆ホスファチジルコリン、MMC:マイトマイシンC。
II.コンジュゲート組成物および製造方法
本発明は、1つの面において、形態:
【0028】
【化4】
【0029】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合している治療薬残基を表し、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートを包含する。前記疎水性部分Lは典型的に脂質、例えばジアシルグリセロール、ステロール、燐脂質、このような脂質の誘導体、天然に存在する他の脂質およびそれらの合成類似物などである。
【0030】
本コンジュゲートでは治療薬とジチオベンジル部分が共有結合で結合しており、それによって、薬剤の残基がもたらされ、それを前記構造物の中のR1で表す。そのような結合は、本分野の技術者が理解するであろうように、当該薬剤および反応化学に応じて多様である。好適な態様では、当該治療薬をウレタン、アミン、アミド、カーボネート、チオカーボネート、エーテルおよびエステルから成る群から選択した結合で前記ジチオベンジル部分と共有結合させる。
【0031】
ウレタン結合はO(C=O)NH−R4またはO(C=O)N=R4[ここで、R4は治療薬の残基を表す]の形態を取る。例えば、第一級もしくは第二級アミンを含有する薬剤、例えば少しではあるが挙げるとマイトマイシンC、マイトマイシンA、ブレオマイシンおよび治療用ポリペプチドなどは当該薬剤の中のアミン部分が反応してウレタン結合を形成する。
【0032】
カーボネート結合はO(C=O)O−R4[ここで、R4は薬剤の残基を表す]の形態を取り、そのようなカーボネート結合は当該薬剤の中のフェノールもしくはアルコールもしくはヒドロキシル部分に由来する。チオ−カーボネートはO(C=O)S−R4[ここで、R4は薬剤の残基を表す]の形態を取り、そのような結合は当該薬剤のある部分に由来する。ジチオベンジルアルコールと反応してカーボネート結合を形成するそのような部分を有する典型的な薬剤には、フルオロデオキシウリジン、ヨードデオキシウリジン、エトポシド、AZT、アシクロビル、ビダラビン、アラビノシルシトシン、ペントスタチン、キニジン、ミトキサントロンおよびアトロピンが含まれる。
【0033】
エステル結合はO(C=O)−R4[ここで、R4は薬剤の残基を表す]の形態を取る。そのような結合は当該治療薬の中のカルボン酸部分との反応に由来し、クロラムブシルとジチオベンジルの間のエステル結合を有するコンジュゲートの例を以下に記述する。メトトレキセートが本コンジュゲートのジチオベンジル部分と一緒にエステル結合を形成し得る薬剤の別の例である。
【0034】
当該薬剤とジチオベンジル部分を結合させているウレタン、カーボネートもしくはエステル結合を有するコンジュゲートは一般に下記の構造で描写可能である:
【0035】
【化5】
【0036】
ここで、R4は当該治療薬の残基を表す。
【0037】
別の態様における本コンジュゲートはエーテル結合を含有し、これはO−R4の形態を取り、ここで、R4は当該治療薬の残基を表す。そのような結合は典型的に当該薬剤が有するアルコール官能との反応に由来する。
【0038】
アミン結合は形態N=R4で表され、ここで、R4は当該薬剤の残基を表しそして前記結合はジチオベンジルのCH2部分と当該薬剤が有するNとの直接結合である。薬剤である5−フルオロウラシルとのコンジュゲートが米国特許第6,342,244号に挙げられている一例であり、その場合にはアミン結合が生じる。また、ペプチドを治療薬として用いた時にもアミド結合が生じる可能性があり、この場合には、アミノ酸、例えばアスパラギン酸またはグルタミン酸などの残基が有する遊離カルボン酸とジチオベンジルアミンを縮合させる。
【0039】
アミド結合はNH(C=O)−R4[ここで、R4は当該治療薬の残基を表す]の形態を取る。
【0040】
図1に、本発明に従う典型的なコンジュゲートを生じさせるに適した合成反応スキームを示す。この態様では、中間体化合物であるパラ−ジアシルジグリセロールジチオベンズアルコール(化合物IV)を合成して、それを選択した治療薬と更に反応させる。化合物IVの調製では、実施例1に記述するように、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(化合物I)を過酸化水素と反応させることでrac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)(化合物II)を生じさせる。rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)に疎水性部分Rによるアシル化を受けさせる。Rは例えば炭素原子数が約8から約24の脂肪酸であってもよい。実施例1に、Rがステアリン酸である反応手順を詳述する。別の態様におけるRは、炭素原子数が約12から約22の脂肪酸である。化合物IIにアシル化を受けさせてrac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)(化合物III)を生じさせ、それを塩化スルフリルおよび4−メルカプトベンズアルコールと反応させることで所望の中間体生成物であるパラ−ジアシルジグリセロール−ジチオベンズアルコール(化合物IV)を生じさせる。化合物IVは反応性カルボキシル部分(R’CO2H)を含有する薬剤と容易に反応して、脂質−ジチオベンジル(DTB)−薬剤コンジュゲートをもたらすが、このコンジュゲートでは、前記薬剤がエステル結合によってDTBと接合している(化合物V)。化合物IVはまた反応性アミン部分(R’−NH2)を含有する薬剤とも容易に反応し、それによって、脂質−DTB−薬剤コンジュゲートが生じるが、このコンジュゲートでは、前記薬剤がウレタン結合によってDTBと接合している(化合物VI)。化合物IVはまた反応性ヒドロキシル部分(R’OH)を含有する薬剤とも容易に反応し、それによって、脂質−DTB−薬剤コンジュゲートが生じるが、このコンジュゲートでは、前記薬剤がカーボネート結合でDTBと接合している(化合物VII)。
【0041】
本発明のコンジュゲートで用いるに適した薬剤はいろいろ考えられる。特に、本発明は、反応に適したアミン(NHまたはNH2)、カルボキシル、スルフヒドリルまたはヒドロキシル部分を有する薬剤を意図する。「反応に適した」を本明細書で用いる場合、これは、当該薬剤がジチオベンジル部分、例えばジチオベンジルアルコールなどの形態の部分と反応し得る前記詳述した部分の1つを有することを意味する。典型的な薬剤には、反応に適したNH基を有する5−フルオロウラシル、反応性カルボキシルを有するクロラムブシル、および反応性アミン(アジリジン基)を有するマイトマイシンCが含まれる。5−フルオロウラシルおよびクロラムブシルを用いたコンジュゲートの合成が米国特許第6,365,179号に挙げられており、マイトマイシンCを用いたコンジュゲートの合成を図2−6に関係させて考察する。使用を意図する他の典型的な薬剤には、マイトマイシンC、マイトマイシンA、ブレオマイシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、フルオロデオキシウリジン、ヨードデオキシウリジン、エトポシド、AZT、アシクロビル、ビダラビン、アラビノシルシトシン、ペントスタチン、キニジン、アトロピン、クロラムブシル、メトトレキセート、ミトキサントロンおよび5−フルオロウラシルが含まれる。また、ポリペプチド、アミノグリコシド、アルカロイドは全部本発明で用いるに適することも理解されるであろう。
【0042】
実施例1に、また、本コンジュゲートを生じさせる時の中間体化合物として使用可能なオルソジアシルジグリセロールジチオベンズアルコールの製造に適した反応条件も詳細に示す。
【0043】
図2A−2Bに、脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの製造(図2A)そして前記コンジュゲートが還元剤の存在下でチオール開裂を起こすことを示す(図2B)。図2Aに示すように、疎水性部分Rが脂肪酸R”(CO)OH、例えばステアリン酸(CH3(CH2)16CO2H)などに由来する図1の化合物VIIとアミン含有薬剤、即ちH2N−薬剤をホスゲン(COCl2)の存在下で反応させる。この反応によって、図2Aに示す脂質−DTB−薬剤コンジュゲートがもたらされる。このコンジュゲートは還元条件にさらされる、即ち還元剤、例えばシステインまたはグルタチオンなどと接触すると分解を起こし、それによって、図2Bに示す生成物が生じる。示すように、本コンジュゲートがチオール開裂を起こすと結果として当該薬剤が非修飾の天然状態で再生して来る。これは望ましい特徴である、と言うのは、以下に示すように、前記薬剤はコンジュゲートの状態でリポソーム(これをインビボで被験体に投与する)の中に容易に取り込まれ得るからである。その上、前記薬剤は前記コンジュゲートの形態の時には毒性がない(このこともまた以下に示す)。前記コンジュゲートは投与されそして内因性還元剤と接触するか或は外来の還元剤と接触した後に分解を起こし、それによって、生物学的活性を有する未変性状態の薬剤が生じる。
【0044】
図3Aに、マイトマイシンCプロドラッグコンジュゲートの合成を示す。この示す反応スキームでは、反応性アミン部分を含有する薬剤であるマイトマイシンC(化合物XVII、図3B)とパラ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザルアルコール(化合物IV)をホスゲンの存在下で反応させることでジアシルジグリセロール−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲート(化合物XVIII)を生じさせる。この合成の詳細を実施例2に示す。
【0045】
図3Bに、ジアシルジグリセロール−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートのチオール分解を示す。前記コンジュゲートは還元剤が存在すると分解を起こし、それによって、マイトマイシンC(化合物XVII)と示す他の生成物の再生がもたらされる。
【0046】
この上に述べたように、本コンジュゲートに含める疎水性部分は無数の疎水性部分、例えば脂質などから選択可能である。1つの態様では、ジアシルジグリセロール脂質を用いて構造:
【0047】
【化6】
【0048】
[ここで、R2およびR3は、炭素原子数が約8から約24の範囲の炭化水素である]
で表されるコンジュゲートを生じさせることができる。
【0049】
そのような疎水性部分としては、ジアシルグリセロールに加えて、他の脂質も考えられる。図4に、コレステロールを本コンジュゲートに含める疎水性部分として用いる別の態様を示す。コレステロール(化合物XIV)とメタンスルホニルクロライドをトリエチルアミン(TEA)存在下のジクロロメタン中で反応させる。次に、その結果として生じた中間体をチオール誘導体に変化させ、そして最終的に重要なジチオベンジルアルコールに変化させ、これを用いてマイトマイシンCをこの上にジアシルグリセロールに関して記述した様式と同様な様式で連結させる。
【0050】
コレステロール−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートを生じさせるに適した代替反応スキームを図5に示す。メトキシカルボニルジチオエチルアミンはコレステロールクロロホルメートと直接反応してウレタン結合を形成する。次に、メルカプトベンジルアルコールを用いてDTB−コレステロール複合体を得る。マイトマイシンCをこの上および実施例2に記述するようにして連結させる。
【0051】
本発明の裏付けで実施した研究(以下に記述)では、図3Aに記述したようにして生じさせたコンジュゲート(化合物XVII)、即ちパラ−ジステアロリル−DTB−マイトマイシンCを用いた。参照を容易にする目的で、そのようなコンジュゲートを図6Aに示す。他のジアシル脂質、例えばジパルミトイル脂質などを用いることも可能であると理解されるべきであり、図6Bにパラ−ジパルミトイル−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートを示す。また、そのようなコンジュゲートはまた異性結合も持つ可能性があることは理解されるであろう。これは図6Cに示す如きオルソジパルミトイル−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートで明らかである。
III. コンジュゲート含有リポソームの調製
本発明の方法では、小胞形成性脂質とマイトマイシンCプロドラッグコンジュゲートで構成させたリポソーム組成物の形態でマイトマイシンCプロドラッグコンジュゲートを提供する。リポソームは多様な治療目的で用いられる密封型脂質小胞であり、特に、リポソームを全身投与することによって治療薬を標的領域または細胞に運ばせる。特に、親水性重合体鎖、例えばポリエチレングリコール(PEG)などの表面被膜を有するリポソームが薬剤担体として望ましい、と言うのは、そのようなリポソームが示す血液循環寿命の方が重合体被膜を持たないリポソームが示すそれよりも長いからである。そのような重合体は血中蛋白質に対するバリヤーとして働くことで前記蛋白質と当該リポソームの結合を防止しかつ当該リポソームがマクロファージおよび他の細網内皮系細胞によって認識されて吸収および除去されるのを妨害するからである。
【0052】
本発明に従うリポソームはコンジュゲートを脂質(1つの態様における脂質は小胞形成性脂質である)および場合により他の二重層構成要素と一緒に含有する。「小胞形成性小胞」は、水中で二重層小胞を自然発生的に形成する脂質である。そのような小胞形成性脂質は、好適には、炭化水素鎖、典型的にはアシル鎖を2本有しかつ極性のある頭部基を有する。合成の小胞形成性脂質および天然に存在する小胞形成脂質が本技術分野でいろいろ知られており、それらの2本の炭化水素鎖は長さが典型的に炭素原子約12から約24個分でありそしてそれらの不飽和度はいろいろである。その例には、燐脂質、例えばホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびスフィンゴミエリン(SM)が含まれる。本発明で用いるに好適な脂質は水添大豆ホスファチジルコリン(HSPC)である。別の好適な系列の脂質はジアシルグリセロールである。そのような脂質は商業的に入手可能であるか或は公開された方法に従って調製可能である。
【0053】
そのような小胞形成性脂質の選択では、それがある度合の流動性または剛性を達成し、当該リポソームが血清中で示す安定性を制御しかつ当該リポソームの中に取り込ませておいた薬剤が放出される速度を制御するように選択してもよい。相対的に堅い脂質、例えば相転移温度が比較的高い、例えば約80℃に及ぶ脂質を組み込むことで、脂質二重層がより硬質であるか或は二重層が液晶性であるリポソームを生じさせることができる。硬質の脂質、即ち飽和脂質は脂質二重層の膜をより堅くするに役立つ。また、脂質二重層構造物の膜の堅さに貢献する他の脂質成分、例えばコレステロールなども知られている。
【0054】
脂質流動性は、相対的に流動する脂質、典型的には液体から液晶相への転移温度が比較的低い、例えば室温(約20−25℃)以下である脂質相を有する脂質を組み込むことで達成される。
【0055】
そのようなリポソームにまた脂質二重層の中に取り込まれ得る他の成分、例えばステロールなどを含有させることも可能である。そのような他の成分は典型的に二重層膜の疎水性内部領域と接触する疎水性部分と膜の外部の極性表面に向かって配向する極性のある頭部基部分を有する。
【0056】
本発明のリポソームに含める別の脂質成分は、親水性重合体による誘導体化を受けさせた小胞形成性脂質である。このような脂質成分では、脂質に誘導体化を受けさせると、結果として、親水性重合体鎖の表面被膜が脂質二重層の内側および外側両方の表面に形成されるようになる。脂質組成物に含有させるそのような誘導体化を受けさせた脂質のパーセントを典型的には約1−20モルパーセントの範囲にする。
【0057】
小胞形成性脂質による誘導体化に適した親水性重合体には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコールおよびポリアスパルタミドが含まれる。そのような重合体はホモ重合体またはブロックもしくはランダム共重合体として使用可能である。
【0058】
好適な親水性重合体鎖はポリエチレングリコール(PEG)、好適には分子量が約500から約10,000ダルトンの範囲、好適には約1,000から約5,000ダルトンの範囲のPEG鎖である。メトキシもしくはエトキシでキャップされた(capped)PEG類似物もまた好適な親水性重合体である。そのような重合体はいろいろな重合体の大きさ、例えば約12から約220,000ダルトンの大きさで商業的に入手可能である。
【0059】
本発明のリポソームに含有させる脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの量は典型的に約1から約30モルパーセント、好適には約5から約30モルパーセント、より好適には約5から約20モルパーセントである。本発明の裏付けで実施した研究では、実施例4A−4Bに記述するように、小胞形成性脂質である水添大豆ホスファチジルコリン(HSPC)とメトキシ−ポリエチレングリコールによる誘導体化を受けさせたジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(mPEG−DSPE)と図6Aに示したコンジュゲート、即ちパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(化合物XVIII)で構成させたリポソームを調製した。そのようなリポソーム製剤の1つにコレステロールを含め(実施例4A)、脂質HSCP/コレステロール/mPEG−DSPE/パラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(化合物XVIII)を60/30/5/5のモル比で存在させた。コレステロールを含有しない2番目の製剤を調製して特徴付けた(実施例4B)。このような製剤では脂質HSCP/mPEG−DSPE/パラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(化合物XVII)を90/5/5のモル比で存在させた。
IV. コンジュゲート含有リポソームのインビトロ特徴付け
A. インビトロ薬剤放出
実施例4A−4Bに記述するようにしてリポソームを調製して、それらを還元剤と接触させた後にマイトマイシンCが放出される速度をインビトロで測定することで、それらの特徴付けを行った。インビトロ研究では、試験媒体にシステインを典型的には約150μMの濃度で添加することで還元条件を誘発した。インビボの内因性還元条件は脂質−DTB−薬剤コンジュゲートがチオール開裂分解を起こして当該薬剤が放出されるに充分であり得ることは理解されるであろう。更に、適切な還元剤、例えばシステインまたはグルタチオンなどを投与することでインビボの還元条件を人工的に誘発することも可能であると考えている。
【0060】
リポソーム製剤、例えばHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/コンジュゲート化合物XVIII(本明細書では以降「コレステロール含有製剤」)およびHSPC/mPEG−DSPE/コンジュゲート化合物XVIII(本明細書では以降「コレステロール無しリポソーム製剤」)を150μMのシステインの存在下37℃で24時間インキュベートした。選択した時間点でサンプルを取り出して高性能液クロ(HPLC)で分析することで、コンジュゲートの量および遊離マイトマイシンCの量を量化した。そのHPLC条件を実施例5に記述する。
【0061】
図7A−7Bに、2種類のリポソーム製剤が示したHPLCクロマトグラムを示す。図7Aにコレステロール無しリポソーム製剤が示した結果を示す。ゼロ時点の時には遊離マイトマイシンCは検出されず、測定可能な薬剤は全部リポソームに拘束されている脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの形態である。インキュベーション時間が長くなるにつれてリポソームから放出されて遊離形態で検出されるマイトマイシンCの量が多くなるに伴ってコンジュゲートに拘束された状態で存在しているマイトマイシンCの量が相当して少なくなった。
【0062】
図7Bに、コレステロール含有リポソーム製剤が示した結果を示す。ゼロ時点の時に採取した1番目のサンプルには遊離マイトマイシンCは全く検出されなかった。システインを150μM存在させてインキュベーションを1時間行うと遊離薬剤が少量ではあるが検出され、このことは、リポソームに拘束されている脂質−DTB−マイトマイシンコンジュゲートが分解を起こしたことを示している。図7Aとの比較において、コレステロール含有リポソームがもたらしたコンジュゲート分解速度の方が遅く、従って薬剤放出速度が遅い。
【0063】
図8は、前記2種類のリポソーム製剤から放出されたマイトマイシンCのパーセントを示す図である(図7A−7Bに示したクロマトグラムから測定)。コレステロール無しリポソーム(黒菱形)が示した放出速度の方がコレステロール含有リポソームのそれ(黒丸)よりも高かった。コレステロール無し製剤の場合にはリポソーム拘束コンジュゲートからマイトマイシンCの50%以上が2時間で放出された。両方の製剤とも24時間のインキュベーション期間が終了した時点で薬剤の80%以上が放出された。
【0064】
別の研究では、システインを1.5mM存在させて前記2種類のリポソーム製剤をインキュベートした。分析を実施例5に記述した如く実施して、結果を図9A−9Bに示す。図9Aに、コレステロール無しリポソームの中に取り込ませた脂質−DTB−薬剤コンジュゲート(HSPC/PEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC)から放出されたマイトマイシンCのパーセントを示す。比較の目的で、また、150μM用いたインキュベーション中に放出された放出パーセント(黒菱形)も示す。分かるであろうように、還元剤をより高い濃度(1.5mM、白菱形)で用いてインキュベートするとコンジュゲート分解速度および薬剤放出速度が速くなる。
【0065】
図9Bに、コレステロール含有リポソーム製剤が示した結果を示す。リポソームを1.5mMのシステイン存在下でインキュベートした時にそれが示した分解速度(白丸)の方が同じリポソームを150μMのシステインを存在させてインキュベートした時の分解速度(黒丸)よりも有意に速い。
B. インビトロ細胞毒性
脂質−DTB−マイトマイシンCコンジュゲート(化合物XVIII)を含有させたリポソームがインビトロで示す細胞毒性の評価をM−109細胞、即ちマウス肺癌株を用いて実施した。実施例6に記述するように、M109細胞を遊離マイトマイシンCの存在下またはジステアロイル−DTB−マイトマイシンCコンジュゲート含有リポソームの存在下でインキュベートした。実施例6Aに示すモル比を用いて実施例4A−4Bに記述するようにして調製したリポソームに試験を受けさせた。そのようなコンジュゲートのチオール開裂分解およびマイトマイシンCの放出を起こさせる目的で試験細胞のいくつかにシステインを150μM、500μMおよび1000μMの濃度で添加した。
【0066】
実施例6に記述するように、対照増殖速度の50%抑制(IC50)をもたらす薬剤濃度としてIC50値を採用した。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
細胞毒性研究で測定したM109マウス癌細胞増殖速度パーセントを図10に示す。この増殖速度パーセントをM109細胞がマイトマイシンCもシステインも存在しない時に増殖する速度を基にしたパーセントとして表し、これをマイトマイシンC濃度(nM)の関数として示す。細胞増殖速度を実施例6に記述するようにして測定した。分かるであろうように、細胞増殖速度パーセントはコレステロール含有リポソーム(白丸)およびコレステロール無しリポソーム製剤(黒四角)の両方ともシステイン濃度を高くするにつれて低下する。また、システインは遊離マイトマイシンCの活性には全く影響を与えずかつマイトマイシンCは前記コンジュゲートから放出されて細胞増殖を有効に抑制することも分かるであろう。
【0069】
M109マウス癌細胞を遊離形態のマイトマイシンCで処置した時またはリポソーム拘束脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの形態のマイトマイシンCで処置した時のインビトロ増殖速度を図11A−11Bに示す。図11Aに、コレステロールを含有させていないリポソーム製剤が示した結果を示す。この図では、M109細胞が示した増殖速度をM109細胞が薬剤もシステインも存在しない時に示した増殖を基にしたパーセントとして表し、これをマイトマイシンC濃度(nM)の関数として示す。前記細胞を遊離形態のマイトマイシンCで処置した時(白三角)および遊離形態のマイトマイシンCに加えて1000μMのシステインで処置した時(黒三角)に増殖速度が低下することが示されたが、これは前記薬剤が遊離形態の時に毒性があることによる。細胞をHSPC/PEG−DSPE/DSPE−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム製剤で処置した時(白丸)および前記リポソーム製剤に加えてシステインを150μMの濃度で添加(白菱形)、500μMの濃度で添加(黒丸)および1000μMの濃度で添加(白四角)した時に示された細胞毒性はシステイン用量依存様式であった。
【0070】
図11Bは、コレステロール含有リポソーム製剤に関する同様な図である。細胞をコレステロール含有リポソーム組成物に加えてシステインを150μMの濃度(白菱形)、500μMの濃度(黒丸)および1000μMの濃度(白四角)で用いて処置した時に観察したパターンも同じであった。即ち、システイン濃度を高くするにつれて細胞増殖速度が遅くなった。このことは、システインで誘発されるマイトマイシンC放出とシステイン濃度が直接相互関係を有することを示している。そのようなリポソーム製剤とは対照的に、遊離形態のマイトマイシンCで処置した細胞がインビトロで示した増殖速度(白三角)は、遊離形態のマイトマイシンCに加えて1000μMのシステインを用いて処置した細胞が示した増殖速度(黒三角)と同じであった。
【0071】
図12に、遊離マイトマイシンCおよびリポソーム製剤が示した細胞毒性上昇パーセントをシステイン濃度(μM)の関数として示す。IC50降下パーセント、例えばシステインを存在させない時のIC50を基準にしたシステインを存在させた時のIC50に100を掛けた値[(IC50no cysteine/IC50cysteine)x100]で細胞毒性上昇率を決定した。分かるであろうように、コレステロール含有リポソーム(白三角)およびコレステロール無しリポソーム製剤(黒丸)の両方ともシステイン濃度を高くするにつれて細胞毒性上昇パーセントが有意に高くなる。遊離マイトマイシンCが示す細胞毒性(黒四角)はシステインの存在による影響を受けない。
【0072】
そのような細胞毒性データは、コレステロール無しリポソーム製剤の方がシステインによる影響を大きく受けることを示している。コレステロール無しリポソーム製剤が特定のシステイン濃度の時に示したIC50が遊離薬剤単独が示したそれより低い度合は2倍のみである。コレステロール含有リポソーム製剤が示す細胞毒性の方がコレステロール無しリポソーム製剤が示すそれよりも低い。このようなデータは、また、システインは腫瘍細胞の細胞毒性に影響を与えずかつ遊離マイトマイシンCが示す細胞毒性にも影響を与えないことも示している。また、システインはリポソーム拘束マイトマイシンCが示す細胞毒性を用量依存様式で高めることも前記データから明らかである。このように、リポソーム製剤に関して観察した細胞毒性効果は大部分がマイトマイシンCが脂質−DTB−薬剤コンジュゲートからシステインの媒介で放出されることで説明される。
C. インビボ薬物速度
ラットを用いてコレステロール含有リポソームおよびコレステロール無しリポソーム製剤がインビボで示す薬物速度を測定した。実施例7に記述するようにして、動物にマイトマイシンCを遊離形態でか或は本発明に従う脂質−DTB−マイトマイシンCコンジュゲート形態でリポソームの中に取り込ませた形態で約0.1mg/mLの量で1回ボーラス静脈注入することで前記動物を処置した。注入後に血液サンプルを採取してマイトマイシンCの量を分析した。その結果を図13A−13Bに示す。
【0073】
図13Aに、ラット血液中のマイトマイシンC濃度(μg/mL)を静脈内注入後の時間(時)の関数として示す。分かるであろうように、遊離形態で静脈内投与した遊離マイトマイシンC(白四角)は血液から迅速に排出される。リポソーム拘束脂質−DTB−薬物コンジュゲート形態のマイトマイシンCは実質的により長い時間に渡って循環状態のままである。コレステロール含有リポソームに拘束されているマイトマイシンC(黒菱形)およびコレステロール無しリポソームに拘束されているマイトマイシンC(黒丸)は20−25時間に渡って血液中に10μg/mLを超える量で検出された。
【0074】
図13Bに、試験製剤を静脈内注入した後に血液の中に存在したままである注入用量に対するパーセントを時間(時)の関数として示す。約5分間を超える時間点まで血液の中に存在したままである遊離マイトマイシンCの量(白四角)は実質的にゼロである。しかしながら、前記リポソーム製剤の場合には、それを注入してから20時間経ってもマイトマイシンCの量の約15−18パーセントは循環状態のままである。このことは、マイトマイシンC−DTB−脂質コンジュゲートは循環中にリポソームの中に安定な状態で存在したままであることと血漿中で起こるチオール開裂は最小限であることを示している。従って、本システムは長期循環型リポソーム[Stealth(商標)リポソーム](これは長期の血液循環寿命を有しかつ腫瘍の中に蓄積される度合が高い)に適合し得ると思われる。
【0075】
マイトマイシンCを薬剤−DTB−脂質プロドラッグコンジュゲートの形態でリポソームの中に取り込ませた時にこの薬剤が示す毒性が低下することを図14に示す。このようなリポソームをHSPCとmPEG−DSPEとパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンCを90/5/5のモル比で用いて構成させた(この上に記述したコレステロール無し製剤)。リポソームをメスのBalb/cマウスに10mg/kgの用量で1回の用量が10mgの薬剤/kgになるように3回注入した。対照動物には遊離マイトマイシンCを10mg/kgの用量で投与した。図14に示すように、試験物質を投与してから3、7および11日後に動物の体重を測定した。動物を遊離形態のマイトマイシンCで処置すると体重が大きく失われ、試験日11日を超えて生存することは無かった。動物にマイトマイシンCをリポソームの中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲートの形態で投与した時の体重損失は最小限であり、試験日19日目の時にあらゆる動物が生存していた。
【0076】
他の研究において、実施例4に記述した如く調製したリポソームを下記の2種類のマウス癌モデルで試験した:腫瘍の大きさを終点として用いたM109足蹠接種モデルおよび生存率を終点として用いたC26腹腔内腫瘍モデル。試験マウスに腫瘍細胞を接種(実施例8)した後、それらを遊離マイトマイシンCまたはリポソームの中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲート形態のマイトマイシンCで処置した。
【0077】
図15Aに示す研究では、腫瘍(M109腫瘍細胞)接種後7日目のマウスに試験化合物を静脈内に2mg/kgの用量で注入することで処置した。2番目の静脈内投与を腫瘍接種後13日目に与えた。足蹠の大きさを規則的間隔で測定した。図15Aに、未処置対照マウスの場合の結果(白四角)および遊離マイトマイシンCで処置した動物の場合の結果(白三角)またはリポソーム製剤(HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC;黒丸)で処理した動物の場合の結果を示す。未処置対照動物の腫瘍の大きさは試験期間全体に渡って絶えず大きくなった。マイトマイシンCで処置した動物が示した腫瘍増殖の方が遅いことに加えて、リポソームの中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲート形態のマイトマイシンCで処置した動物の足蹠の大きさの方が小さいことで明らかなように、リポソーム製剤を用いた時に得られた効力の方が遊離形態のマイトマイシンCを用いた時のそれよりも高かった。
【0078】
図15Bに、マイトマイシンCの用量を2mg/kgおよび4mg/kgにする以外は同様な研究で得た結果を示す。足蹠の大きさの中央値(mm)をM109腫瘍細胞をマウスの足に接種した後の日数の関数として測定した。未処置のマウス[対照マウス;(白四角)]が示した足蹠厚み中央値は絶えず大きくなった。遊離マイトマイシンC(白三角)を2mg/kg(破線)または4mg/kg(実線)の量で用いて処置したマウスが7、14および21日目に示した腫瘍増殖プロファイルもHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒丸)を2mg/kg(破線)または4mg/kg(実線)の量で用いて処置したマウスが7、14および21日目に示した腫瘍増殖プロファイルも用量が相当する用量の時には同様であった。しかしながら、遊離形態のマイトマイシンCで処置した動物が示した生存率の方が低く、遊離マイトマイシンCを4mg/kgの用量で投与した動物が示した中毒死亡率は80%であった。このように、マイトマイシンCをリポソームの中に取り込ませたプロドラッグコンジュゲートの形態で投与した時にもたらされる効力は遊離薬剤の場合のそれと同様ではあるが、毒性が低い。別の研究において、システインをリポソーム製剤に外来物として一緒に投与した時の効果を評価した。マウスにM109腫瘍細胞を接種しそして未処置のままにするか或は接種してから5日後に遊離薬剤形態またはリポソームプロドラッグコンジュゲート形態のマイトマイシンCを6mg/kgの量で用いて処置した。リポソームプロドラッグを6mg/kgの量で用いた処置を12日目および19日目に繰り返した。遊離MMCを用いた処置ではマウスが6mg/kgの注入に2回以上耐えることができなかったことから、繰り返し処置は行なわなかった。本リポソーム−プロドラッグで処置した試験マウスの一群にはまたシステインもマウス1匹当たり5mgの量で与えた。その結果を図16A−16Bに示す。図16Aに足蹠大きさの中央値(mm)をM109腫瘍細胞をマウスの足に接種した後の日数の関数として示す。未処置の対照マウス(白四角)では足蹠の厚みが絶えず厚くなった。HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを6mg/kgの量で用いて処置したマウスが5、12および19日目に示した腫瘍増殖速度(黒丸、黒菱形)の方が、遊離マイトマイシンCで処置したマウスが示した腫瘍増殖速度(白三角)よりも遅かった。システインを6−8、14−16および21−23日目に皮下投与した。本リポソーム製剤で処置しておいたマウスにシステインを投与すると(黒菱形)効力がより高くなり、そのような試験動物が示した足蹠厚み増加の速度が最も遅かったが、その差は統計学的には有意ではなかった。
【0079】
図16Bに、図16Aに挙げたようにして処置したマウスに関して、足蹠腫瘍の大きさが4mm未満の生存マウスのパーセントを腫瘍接種後の日数の関数として示す。この図は、下降段階として下記の2種類のイベントを記録した図である:死亡(中毒死)および4mmを超える腫瘍寸法。未処置マウス(白四角)は全部が約23日の試験日後に腫瘍の大きさが4mmを超えていた。本リポソーム製剤で処置したマウス(黒丸、黒菱形)では遊離形態の薬剤で処置した動物が示した中毒死(白三角)の時間よりも長い時間に渡って中毒死を示すことなく腫瘍の大きさも4mm未満であった。
【0080】
別の研究では、マウスに106個のC26腫瘍細胞を腹腔内接種した。接種して5日後のマウスを遊離形態の薬剤またはリポソームの中に取り込ませた薬剤−DTB−脂質コンジュゲートとして6mg/kgの量で静脈内注入することで処置した。その結果を図17に示し、この図では、生存パーセントをC26腫瘍細胞をマウスに接種した後の時間の関数としてプロットする。未処置マウス(四角)は試験日数が23日を超えて生存することはなかった。遊離マイトマイシンCを6mg/kg用いて処置したマウスが試験日40日の時に生存した率は10%のみであった(三角)。それとは対照的に、マイトマイシンCをリポソーム中のプロドラッグ形態で6mg/kgの量で用いて処置したマウス(丸)では試験日が40日の時に30%以上が生存しており、そして本リポソーム製剤を6mg/kg(2回)用いて処置したマウスでは40%以上が生存していた(菱形)。本リポソーム製剤で処置したマウスは遊離形態の薬剤で処置した時に比べて実質的に高い用量、例えば約2倍多い用量、ある場合には3倍多い用量のマイトマイシンCに耐え得ることは注目に値する。
【0081】
別の研究では、M109細胞の亜株(subline)であるM109R細胞を多剤耐性細胞として選択して用いた。マウスに薬剤耐性M109R癌細胞を接種した後、5日目および12日目に試験物質を静脈内注射することで処置した。その結果を図18−19に示す。
【0082】
図18に、足蹠の大きさ中央値(mm)をM109R腫瘍細胞接種後の時間の関数として示す。未処置マウス(白四角)では腫瘍の大きさが絶えず大きくなった。ほぼ130日目まで、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを8mg/kg用いて処置したマウス(黒丸、実線)が示した足蹠の大きさの方が遊離マイトマイシンCを同様な用量で用いて処置したマウスのそれ(白三角)よりも小さかった。HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを8mg/kgの用量で用いて2回処置したマウスの足蹠の大きさの増加(黒丸、破線)は168日の試験期間全体に渡ってほとんどない度合から測定不能な度合であった。
【0083】
図19A−19Bに、マイトマイシンCの用量を10mg/kgにしそして試験群の1つにシステインを投与する以外は同様な試験マウスの結果を示す。図19Aに、未処置マウス(白四角)、ポリエチレングリコール鎖の被膜を有するリポソームの中に取り込ませておいたドキソルビシンを10mg/kgの用量で用いて2回処置したマウス[Stealth(商標)、白三角]、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを10mg/kgの用量で2回用いて処置したマウス(黒丸)[システイン無し(黒丸、実線)またはシステインをマウス1匹当たり5mg投与(黒丸、破線)]が示した試験マウス体重中央値(グラム)を腫瘍接種後の日数の関数として示す。リポソーム−ドキソルビシンで処置したマウスは体重の損失を示し、このことは、その用量は実際それらが耐え得る最大許容用量であることを示している。それとは対照的に、リポソームMMCプロドラッグを用いた時にはシステインを用いた時にも用いない時にも重量損失を全く観察しなかった。
【0084】
図19Bに、試験動物の足蹠厚みの中央値を示す。HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームの形態のマイトマイシンCで処置(5日目と12日目に10mg/kgの用量で2回)したマウス(黒丸)では、システインを使用(黒丸、破線)してもシステインを使用しなく(黒丸、実線)ても足蹠の大きさの増加にはほとんどか或は全く影響がなかった。実際、マウス個体を基にして、測定可能な腫瘍を有する15匹のマウスの中の11匹は完全な腫瘍緩解を示した。未処置のまま(白四角)もリポソームに取り込ませたドキソルビシンを用いた処置(白三角)も足蹠厚みの増加をもたらした。この研究のデータをまた図19Cにも足蹠厚みが5mm未満の生存マウスのパーセントとして腫瘍接種後の日数の関数として示す。
【0085】
図18−19に示したデータは、マイトマイシンCをリポソームの中に取り込ませた薬剤−脂質コンジュゲートの形態で投与すると多剤耐性細胞はそれを吸収して細胞の中に細胞毒性をもたらすに充分な量で蓄積し得ることを示している。M109R細胞は、このような薬剤耐性癌モデルで予測されるように、リポソームに取り込ませておいたドキソルビシンには反応を示さなかった(図19B)。
【0086】
前記から本発明のいろいろな面および特徴が明らかであろう。本明細書に示した研究は、マイトマイシンCを脂質−DTB−マイトマイシンCプロドラッグとして調合しておくとそれをインビボで投与することができることを示している。この見いだしたことは、遊離形態のマイトマイシンCは極めて毒性が高く、従ってインビボ使用にはしばしば適さないことを考慮すると重要である。その上、マイトマイシンCを脂質とのプロドラッグコンジュゲートの形態で動物に投与するならば、この薬剤を遊離形態で投与する時の量の2倍または3倍の用量で投与することができる。本明細書に示した研究は、また、マイトマイシンCを脂質−DTB−薬剤コンジュゲートの形態で投与すると多剤耐性細胞がそれを吸収し得ることも示している。ジスルフィド還元酵素であるチオレドキシンの濃度はいろいろな原発腫瘍の方が健康な組織よりも高いことが研究文献に示されていた[Powis他、Free Radical Biology & Med.、29:312(2000);Engman,L.他、Bioorganic and Medicinal Chemistry 11:5091、(2000)]。そのようにチオレドキシンの濃度は腫瘍細胞の方が高いことから、ここに記述するマイトマイシンCコンジュゲートを用いるとユニークな相乗作用が得られる、と言うのは、天然の還元酵素源は標的組織の中に集中するからである。
【実施例】
【0087】
以下の実施例は本明細書に記述する発明を更に説明するものであり、決して本発明の範囲を限定することを意図するものでない。
材料
あらゆる材料を商業的に適切な製造供給元、例えばAldrich Corporationなどから入手した。
[実施例1]
【0088】
パラ−ジアシルジグリセロールジチオベンズアルコール(化合物IV)およびオルソ−ジアシルジグリセロールジチオベンズアルコールの合成
A. パラ−ジアシルジグリセロールジチオベンズアルコール
この反応を図1に示す。化合物IIおよびIIIの調製ではSnyder,W.R.、Journal of Lipid Research、28:949(1987)の手順に従った。
【0089】
100mlの丸底フラスコに入れた5mlの水に3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(化合物I、1g、9.26ミリモル)を入れて、これを氷浴の中に置いた。このフラスコを急速撹拌しながら温度を30−40℃の範囲に維持しつつ過酸化水素(正確に0.5モル当量、525μl、4.63ミリモル)を滴下した。発熱過程が終了した時点で反応物を室温で一晩撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いてアセトニトリルを20mlづつ連続添加することで水を共沸させた。そのようなアセトニトリル添加過程を3から4回または水全部が除去されて透明な油がもたらされるまで繰り返した。金属製スパチュラでフラスコを引っ掻きそして−20℃に一晩冷却すると油状生成物が固化した[化合物II、rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)]。その白亜固体をP2O5の上に置いて真空下で乾燥させた。
収量:630mg、63%。1HNMR(CD3OD、360MHz)δ 2.77、2.95(2xd、CH2OH、2H)、3.59(M、SCH2、2H)、3.87(m、CH、1H)ppm。
【0090】
オーブンで乾燥しておいた100mLの丸底フラスコに前記rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)生成物(化合物II)(980mg、4.6ミリモル)を入れて乾燥塩化メチレン(40mL)に溶解させることを通して、前記化合物にアシル化を受けさせた。それにステアリン酸(4.92g、17.1ミリモル)および触媒として4−トルエンスルホン酸4−ジメチルアミノピリジニウム(1.38g、4.6ミリモル)を加えて室温(25℃)で20分間撹拌した。次に、ジイソプロピルカルボジイミド(3.1mL、20ミリモル)をピペットで入れた後、室温で一晩反応させた。GF上のTLC silic(ヘキサン中10%の酢酸エチル)はジオール基の反応が完了したことを示していた[rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジオール)Rf=0.60;rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)Rf=0.35]。この反応混合物に若干塩基性のイオン交換樹脂であるAmberlyst(商標)A−21(〜3g)および強酸性のイオン交換樹脂であるAmberlyst(商標)15(〜3g)を加えた。振とうを30分間行った後、前記樹脂を濾過し、そしてその濾液を乾固させた。その残留物にイソプロパノール(各々100mL)を用いた再結晶化を3回受けさせた。固体状生成物であるrac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)(化合物III)を集めてP2O5上で乾燥させた。収率:70%、4.1g。融点54−55℃。1HNMR(CDCl3、360MHz)δ 0.86(t、CH3、6H)、1.22(s、脂質、56H)、1.48(m、CH2CH2(CO)O、4H)、2.26(2xt、CH2(CO)O、4H)、2.87(d、CH2S、2H)、4.03および4.22(2xd、脂質のCH2CH、2H)、4.97(m、脂質のCHCH2)ppm。
【0091】
次の段階で、rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)(化合物III)(2.97g、2.33ミリモル)の溶体をトルエン(30mL)に溶解させた後、氷浴の中に置いた。塩化スルフリル(1.9mL、23.2ミリモル)をピペットでフラスコの中に入れた後、その混合物を冷氷浴温度で30分間撹拌した。次に、前記フラスコを室温に置いて更に30分間撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて余分な塩化スルフリルを除去した。この反応フラスコに新しい分量(20mL)のトルエンを加えた後、氷浴の上に置いた。これに、4−メルカプトベンズアルコール(780mg、5.6ミリモル)をトルエンに入れることで生じさせた溶液をゆっくりした速度で加えた。5時間の反応時間後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒全部を蒸発させて乾固させた。前記反応フラスコに温かい酢酸エチル(10mL)を加えることで固体を溶解させた後、不溶物を濾過で除去した。その酢酸エチル溶液にエーテルを50mL加えることで沈澱を起こさせた後、固体状生成物(パラ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザルアルコール、化合物IV)を濾過で集めた。この過程を2回繰り返した。収率:75%。
【0092】
前記生成物(パラ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザル−アルコール、化合物IV)を精製する目的で、シリカゲルカラム(20x2.5cm)をクロロホルム中で調製した。サンプルを最低限量のクロロホルムに溶解させた後、クロマトグラフィーにかけて、異なる2種類の可動相を加えた。最初に100%CHCl3(100ml)で溶離させた。この画分には純度が低いジチオベンジルアルコールが入っていた。1HNMRで立証した。次に、可動相をクロロホルム中15%のメタノールに変えて、フラッシュクロマトグラフィーで高純度生成物を集めた。500mlのCH3OH:CHCl3(15:85)で溶離させることで高純度のDGTBA(TLCで一斑点)を集めた。溶媒を蒸発させた後、t−BuOHを用いて固体を凍結乾燥させそしてP2O5の上に置いて真空下で乾燥させた。この最終的な精製で収率が40%(1.4g)にまで低下した。1HNMR(CDCl3、360MHz)δ 0.86(t、CH3、6H)、1.22(s、脂質、56H)、1.48(m、CH2CH2(CO)O、4H)、2.26(2xt、CH2(CO)O、4H)、2.87(d、CH2S、2H)、4.03および4.22(2xd、脂質のCH2CH、2H)、4.69(s、CH2、bz、2H)、4.97(m、脂質のCHCH2)、7.36および7.56(d、CH2、芳香族、4H)ppm。
【0093】
5mgのサンプルに元素分析を実験室(Midwest Micro Lab)で受けさせた。
分析 理論値 測定値
炭素 70.93% 70.67%
水素 10.50% 10.41%
硫黄 8.25% 8.31%
B. オルソジグリセロールジチオベンズアルコール
rac−3,3’−ジチオビス(1,2−プロパンジステアロイル)(化合物III)(200mg、0.156ミリモル)の溶体をトルエン(30mL)に溶解させた後、氷浴の中に置いた。塩化スルフリル(39μl、0.47ミリモル)をピペットでフラスコの中に入れた後、その混合物を冷氷浴温度で30分間撹拌した。次に、前記フラスコを室温に置いて更に30分間撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて余分な塩化スルフリルを除去した。この反応フラスコに新しい分量(20mL)のトルエンを加えた後、氷浴の上に置いた。これに、2−メルカプトベンズアルコール(48mg、35ミリモル)をトルエンに入れることで生じさせた溶液をゆっくりした速度で加えた。5時間の反応時間後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒全部を蒸発させて乾固させた。前記反応フラスコに温かい酢酸エチル(10mL)を加えることで固体を溶解させた後、不溶物を濾過で除去した。その酢酸エチル溶液にエーテルを50mL加えることで沈澱を起こさせた後、固体状生成物(オルソ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザルアルコール)を濾過で集めた。この過程を2回繰り返した。その固体をP2O5の上に置いて真空下で乾燥させた。収率:75%、190mg。1HNMR:(CDCl3、360MHz)δ 0.86(t、CH3、6H)、1.25(s、脂質、56H)、1.58(m、CH2CH2(CO)O、4H)、2.28(2xt、CH2(CO)O、4H)、2.91(d、CH2S、2H)、4.14および4.35(2xd、脂質のCH2CH、2H)、4.86(s、CH2、bz、2H)、5.26(m、脂質のCHCH2)、7.31(m、芳香族、2H)、7.48および7.75(d、芳香族、2H)ppm。
[実施例2]
【0094】
パラ−ジアシルジグリセロールジチオベンザル−マイトマイシンC(化合物XVIII)の合成
この反応を図3Aに示す。
【0095】
50mLの丸底フラスコにホスゲン(3.1ミリモル)およびトルエン(5mL)を仕込んで、その溶液を0℃に冷却した。パラ−ジアシル−ジグリセロール−ジチオベンザル−アルコール(化合物IV、実施例1に記述した如く調製、0.31ミリモル)がトルエン(2.5mL)に入っている溶液を調製した。次に、このアルコール溶液を前記ホスゲン溶液に滴下した。この混合物を室温に一晩温めた。18時間後、この溶液に濃縮を真空下で受けさせることで余分なホスゲンを除去した。この粗アシルクロライドをトルエン(5mL)に再溶解させた。
【0096】
マイトマイシンC(0.31ミリモル)とジメチルアミノピリジン(0.031ミリモル)とDMF(1mL)の溶液を調製した。このマイトマイシンC溶液を前記塩化アシル溶液に滴下した。1時間後、トルエンを蒸発させて除去した後、その粗生成物をシリカ使用クロマトグラフィーにかけた(ヘキサン:酢酸エチル 1:1)。次に、その精製した生成物をt−BuOH(50mL)で取り上げた後、凍結乾燥させた。この生成物は紫色の固体であった(183mg、53%)。Rf=0.38(50%ヘキサン:酢酸エチル);1HNMR(360MHz、CDCl3)δ 0.88(t、J=6.8Hz、6H)、1.26(s、58H)、1.58−1.68(m、4H)、1.76(s、3H)、2.29(t、J=7.6Hz、4H)、2.93−2.96(m、2H)、3.19(s、3H)、3.29(dd、J=4.7および2.9Hz、1H)、3.41(dd、J=5.0およ2.2Hz、1H)、3.48(dd、J=13.7および2.5Hz、1H)、3.67(dd、J=11.5および4.7Hz、1H)、(ddd、J=12.2および5.8および2.5Hz、1H)、4.27−4.36(m、2H)、4.43(d、J=13.3Hz、1H)、4.61(s、2H)、4.90(ddd、J=10.4および5.0および2.2Hz、1H)、5.00−5.12(m、3H)、5.26−5.30(m、1H)、7.32(d、J=8.6Hz、2H)、7.50(d、J=7.9Hz、2H);MALDI MS C62H99N4O11S2Naの計算値:1164、測定m/z 1164(M+Na)。
[実施例4]
【0097】
リポソーム調製
A. コレステロール含有リポソーム
1. リポソーム調製
1mLの乾燥エタノールに60−65℃でHSPCを59mg、コレステロールを14.4mg、mPEG−DSPEを17.4mgおよびパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンCを7.4mg(60/30/5/5のモル比)加えた後、溶解するまで、ほぼ10分間混合した。
【0098】
蒸留水中10mMのヒスチジンと150mMのNaClで構成させた水和用媒体を70℃に温めた。
【0099】
この温めた(63−67℃の)水和用媒体を混合しながらこれに前記温めた脂質溶液を迅速添加することで大きさが不均一なリポソームが入っている懸濁液を生じさせた。この懸濁液を63−67℃で1時間混合した。
2. 押出し
前記リポソームをテフロンが内張りされているステンレス鋼製容器の中に入っているポリカーボネート製フィルターカートリッジに通して制御した様式で押出すことで大きさを所望の平均粒径に合わせた。この押出し工程全体、即ち6−8時間に渡って、そのリポソーム懸濁液を63−65℃に保持した。
3. 透析濾過(Diafiltration)
前記リポソーム懸濁液からエタノールを透析濾過で除去した。ヒスチジン(10mM)と塩化ナトリウム(150mM)を無菌水に溶解させることでヒスチジン/塩化ナトリウム溶液を調製した。この溶液のpHを約7に調整した。この溶液を0.22μmのDuraporeフィルターに通して濾過した。このリポソーム懸濁液を前記ヒスチジン/塩化ナトリウム溶液で約1:1(体積/体積)の比率に希釈した後、ポリスルホン製中空繊維限外濾過装置に通す透析濾過を行った。前記ヒスチジン/塩化ナトリウム溶液に対する体積交換を8回実施することでエタノールを除去した。この過程の流体温度を約20−30℃に保持した。全透析濾過時間は約4.5時間であった。
4. 無菌濾過
前記リポソーム懸濁液を33−38℃に加熱した後、0.2μmのGelman Suporポリエーテルスルホン製フィルターに通して濾過した。全濾過時間は約10分間であった。
【0100】
各処理段階(水和、押出し、透析および濾過)後に脂質濃度およびコンジュゲート/薬剤濃度をHPLCで測定した。動的光散乱を用いてリポソームの粒径を測定しかつHPLCを用いて外部懸濁用媒体の中に入っている結合していない「遊離」マイトマイシンCの量を測定した。
【0101】
【表2】
【0102】
B. コレステロール無しリポソーム製剤
HSPCとmPEG−DSPEとパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンCが90/5/5のモル比の脂質組成を用いてリポソームをこの上に記述したようにして調製した。具体的には、1mLのエタノールにHSPCを88.5mg、mPEG−DSPE(PEGのMWが2000ダルトン)を17.9mgおよび前記コンジュゲートを7.3mg溶解させた。各処理段階後にリポソームの大きさ、脂質および薬剤の濃度、そして外部の懸濁用媒体に入っている遊離マイトマイシンCの濃度を測定した。
【0103】
【表3】
[実施例5]
【0104】
インビトロ特徴付けのHPLC条件
実施例4A−4Bに記述したようにして調製したリポソームを0.6Mのオクタイルグルコピラノシドで希釈した。前記リポソームを150mMのシステインの存在下37℃でインキュベートした。サンプルを時間ゼロ、30分、1時間、2時間、4時間および24時間の時に取り出した。3.5x5cmのWater Symmetry C8カラムを用いたHPLCで20μLの体積を分析した。流量を1mL/分にしそして可動相の勾配を下記の如くにした:
出発 10%MEOH 90% 10mM NaPO4、pH=7
5分 25%MEOH 75% 10mM NaPO4、pH=7
10分 25%MEOH 75% 10mM NaPO4、pH=7
15分 100%MEOH −
25分 100%MEOH −
30分 10% 90% 10mM NaPO4、pH=7
35分 10%MEOH 90% 10mM NaPO4、pH=7
[実施例6]
【0105】
細胞毒性試験
A. リポソーム調製
実施例4A−4Bに記述した如く調製したリポソームはHSPC/mPEG−DSPE/ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(90/5/5)またはHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(90/45/5/5)で構成されていた。これらのリポソーム製剤を0.45μmのセルロース膜に通して無菌濾過したが、押出しで大きさを小さくすることは行わなかった。リポソーム形成後、リポソームをイソプロパノールに10−20倍の希釈度で溶解させて360nmの所の吸光度を用いてマイトマイシンCの濃度を測定しかつ無機燐酸塩検定を用いて燐脂質濃度を測定した。
【0106】
コレステロール含有リポソームの平均直径は275±90nmであった。コレステロール無しリポソームの平均直径は150±50nmであった。燐脂質濃度は両方のリポソーム製剤とも10μM/mLでありそしてマイトマイシンCの濃度は両方の製剤とも120μg/mLであった。
B. 化学療法剤感受性検定および増殖速度測定
遊離マイトマイシンCまたはリポソームの中に取り込ませたジステアロイル−DTB−マイトマイシンCコンジュゲートの形態のマイトマイシンCが示す細胞毒性効果を以前に記述されたメチレンブルー染色方法[Horowitz,A.T.他、Biochim.Biophys.Acta、1109:203−209(1992)]に若干の修飾を受けさせた方法を用いて比色分析で検定した。この検定が完了した時点で細胞を固定しそしてメチレンブルー染色検定を用いて評価した。
【0107】
この検定では、200μL分量(RPMI−1640培地+10%ウシ胎仔血清)の中で指数関数的に増殖している培養物から1500個のM109マウス癌細胞を96穴平底ミクロタイタープレートの上に置いて平板培養した。20時間の培養(この間に細胞が付着しかつ増殖を再開する)後、各穴に試験製剤(遊離マイトマイシンCまたはリポソーム製剤)を20μL加えた。薬剤の濃度を10倍高くする毎に4点薬剤濃度試験を行った。各試験を3個の穴および2個の並列プレートで重複して実施した。細胞に処置を72時間に渡って連続的に受けさせた。
【0108】
72時間の処置時間後、各穴に2.5%グルタルアルデヒドを50μl添加して10分間置くことで培養物を固着させた。前記プレートを脱イオン水で3回、0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.5)で1回洗浄した後、100μlのメチレンブルー[0.1Mのホウ酸塩緩衝液(pH8.5)中1%]を用いて室温(20−25℃)で60分間染色した。前記プレートを脱イオン水浴の中で濯ぐことを5回行うことで細胞と結合しなかった染料を除去した後、乾燥させた。0.1NのHClを200μL用いて染料を37℃で60分間抽出した後、ミクロプレート分光光度計を用いて光学密度を測定した。
【0109】
血球計算板を用いて細胞数を数えることで測定した細胞数と分光光度計による吸光度は良好な相互関係を示した。試験終了時の細胞数と吸光度の間の線形関係が確保されるような初期細胞平板培養密度を選択した。各試験毎に初期平均吸光度を測定する目的で薬剤を添加する前に6個の穴に固着を受けさせた。この値を用い、下記の式:DT=ln 2/ln[(ODt/ODc)/h][式中、DT=倍増時間(時)、ODt=試験終了時の試験穴の光学密度、ODc=試験開始時の対照穴の光学密度、h=培養時間(時)]を用いて、対照および薬剤処置細胞が示す増殖速度(GR)および倍増時間(DT)を計算した。
【0110】
増殖速度をGR=(ln 2/DT)として計算した。薬剤処置細胞が示した増殖速度を未処置の対照細胞が示した増殖速度で割ることで増殖抑制パーセント、即ち対照増殖速度に対するパーセントを得た。細胞抑制曲線の2つの最も近い値を補間することで対照増殖速度の50%抑制(IC50)をもたらす薬剤濃度を計算した。
【0111】
マイトマイシンCには検定を10−8−10−5Mの範囲で受けさせた。コンジュゲートを拘束しているリポソーム製剤には検定を10−8−3x10−5Mの範囲で受けさせた。相互作用試験ではマイトマイシンCまたはリポソーム製剤と一緒にシステイン(SIGMA、セントルイス、MO)を最終濃度が150、500または1000μMになるように加えた。
【0112】
その結果を表1および図10、11A−11Bおよび12に示す。
[実施例7]
【0113】
インビボ薬物速度試験
A. リポソーム製剤
コレステロール含有リポソームおよびコレステロール無しリポソームを実施例5Aおよび5Bに記述した如く調製した。
【0114】
119μLのエタノールに遊離形態のマイトマイシンCを11.9mg溶解させることでマイトマイシンCの溶液を調製した。溶解後、ヒスチジンが10mMで食塩水が150mMの溶液を約11.8μL加えた。使用に先立って前記マイトマイシンC溶液を前記ヒスチジン/食塩水溶液で100μg/mLになるように希釈した後、濾過した。
B. 動物
8匹のラットを無作為に下記の如き処置群に分けた:
【0115】
【表4】
【0116】
試験製剤をボーラス投薬として1回静脈内注入することで投与した。注入後下記の時間の時に各動物から血液サンプルを採取した:30秒、15分、30分、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間、48時間、72時間および96時間。血液サンプル中のマイトマイシンC量を以下に示すHPLC手順で測定した。5.1mLの7.5%EDTAにヨードアセトアミドを199.3mg入れることでヨードアセトアミンが200mMの溶液を生じさせた。1μLの各血液サンプルに前記200mMのヨードアセトアミド溶液を15μL入れた。
C. 血漿中のマイトマイシンCを測定するHPLC方法
1. 溶液調製
1Lの容量フラスコに脱イオン水を充填してこれに燐酸アンモニウムを1.321g入れることを通して、燐酸アンモニウム含有量が10mMの緩衝剤水溶液(pH=7)を調製した。前記混合物を撹拌しながらo−燐酸を用いてpHを7.0に調整した。この緩衝液を使用前に0.45μmのナイロン製フィルターに通して濾過した。
【0117】
Waters Alliance双対ポンプを用いて可動相であるメタノールと前記緩衝剤水溶液を勾配プログラムに従って混合した。
2. 標準溶液および品質制御サンプルの調製
2種類の個々別々の重量のマイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲートを標準サンプルおよび品質制御サンプルとして調製した。マイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲートを1mgづつ計り取って個別に1mLの希釈剤(クロロホルムが20%でメタノールが80%の混合物)に溶解させた。両方の化合物の原液の濃度を1mg/mLにした。標準サンプルおよび品質制御サンプルに関して5μg/mLから100μg/mLの濃度を得る目的で数種の希釈液を希釈状態で作成した。
【0118】
0.1mL分量のラット血漿に適当量(10μL−50μL)のマイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲート標準溶液を添加した。マイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲートそれぞれの濃度範囲を0.05−5.0μg/mLおよび0.1−5μg/mLにした。メタノールを用いて最終体積を1mLに調整した。品質制御サンプルを調製する時にも同様な手順に従った。ラット血漿中の品質制御サンプルの濃度をマイトマイシンCの場合には0.1、0.5および5μg/mLにしそしてマイトマイシンCコンジュゲートの場合には0.1、1および5μg/mLにした。これらのサンプルを室温において3,000rpmで10分間回転させて沈降させた。300μLの上澄み液を注入用インサート(insert)が300μL入っているHPLC用瓶に移した。
3. サンプル調製
900μLのメタノールを用いて100μLの血漿サンプルを変性させた後、3,000rpmの遠心分離に10分間かけた。300μL分量の上澄み液を注入用インサートが300μL入っているHPLC用瓶に移した。
4. クロマトグラフィー条件
4.6mmx5cmのSupelco(商標)C−8(5μ)カラムを用いた。可動相Aを10mMの燐酸アンモニウム(pH7)にした。可動相Bをメタノールにした。流量を1mM/分にしそして360nmの紫外線で検出した。注入体積を40μLにしそして典型的な実行時間は15分間であった。勾配プログラムは下記の通りであった:
【0119】
【表5】
【0120】
低濃度から高濃度で調製した線形標準(6種類の濃度)を注入した。次に、分析の目的で品質制御サンプルおよび血漿サンプルを注入した。
【0121】
PE−Nelson Turbochrom(バージョン4.1)システムを用いてピーク面積および保持時間を測定した。線形回帰プログラムを用いてマイトマイシンCおよびマイトマイシンCコンジュゲートの濃度を計算した。6種類の濃度の標準的反応を検査することでこの方法の線形度を評価した。1/x2の重み係数を用いてデータを線形回帰式y=B*x+Aに適合させた。標準サンプルに加えて品質制御サンプルの逆計算濃度からこの方法の精度および正確さを計算した。
【0122】
その結果を図13A−13Bに示す。
[実施例8]
【0123】
インビボ試験
スパソゲン(Spathogen)の無い特殊な施設の中に10週令のメスBALB/cマウスを維持した。M109細胞またはM109R細胞をインビトロ懸濁液の状態で増殖させた。50μL(106個の細胞)をマウスの右後足蹠に注入した。試験終了時まで足蹠の厚みをカリパスで測定し、試験が終了した時点でマウスを屠殺し、最終的な腫瘍数を記録し、そして対照および腫瘍を接種した足蹠を足関節の高さの所で切断して重量を測定した。正常な足蹠および腫瘍を有する足蹠の間の重量の差として腫瘍重量を推定した。1グループ当たりの最終的な腫瘍罹病率の差が統計学的に有意であるか否かを分割表およびフィッシャーの直接確率検定で分析した。その結果を図15A−15Bおよび図16A−16B、図18、図19A−19Cに示す。
【0124】
本発明を個々の態様に関して記述してきたが、本発明から逸脱しない限りいろいろな変更および修飾を成してもよいことは本分野の技術者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1に、パラ−ジアシルジグリセロール−ジチオベンジルアルコールを調製して更にアミン含有、ヒドロキシ含有またはカルボキシ含有薬剤と反応させる合成反応スキームを示す。
【図2A】図2Aに、アミノ含有薬剤を反応性ジアシルジグリセロール−ジチオベンジルカーボネートと結合させる一般的反応スキームを示す。
【図2B】図2Bに、図2Aに示したコンジュゲートがチオール開裂を起こした後の生成物を示す。
【図3A】図3Aに、ジアシルジグリセロール−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲートを生じさせる合成反応スキームを示す。
【図3B】図3Bに、図3Aに示したコンジュゲートがチオール開裂を起こした後の生成物を示す。
【図4】図4に、コレステロール−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲートを生じさせる合成反応スキームを示す。
【図5】図5に、コレステロール−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲートを生じさせる別の合成反応スキームを示す。
【図6A−6C】図6A−6Cに、3種類の脂質−ジチオベンジル−マイトマイシンCコンジュゲートであるパラ−ジステアロイル−DTB−マイトマイシンC(図6A)、パラ−ジパルミトイル−DTB−マイトマイシンC(図6B)およびオルソ−ジパルミトイル−DTB−マイトマイシンC(図6C)の構造を示す。
【図7A−7B】図7A−7Bは、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC(図7A)およびHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC(図7B)で構成させたリポソームが示したHPLCクロマトグラムであり、各図に、一連のクロマトグラムを当該リポソームをシステインの存在下でインキュベートした時間の関数として示す。
【図8】図8は、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC(黒菱形)およびHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンC(黒丸)で構成させたリポソームから放出されるマイトマイシンCのパーセントをシステイン存在下のインキュベーション時間の関数として示す図である。
【図9A−9B】図9A−9Bは、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(図9A)およびHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(図9B)から放出されるマイトマイシンCのパーセントをシステインを150μMの濃度(黒記号)および1.5mMの濃度(白記号)で存在させてインキュベートした時間の関数として示す図である。
【図10】図10は、遊離マイトマイシンC(白三角)、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒四角)およびHSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(白丸)を存在させた時のM109細胞の増殖速度(薬剤もシステインも存在させていない時のM109細胞の増殖を基準にしたパーセントとして表す)をマイトマイシンCの量(nM)の関数として示す図である。
【図11A】図11Aは、M109細胞の増殖速度(薬剤もシステインも存在させていない時のM109細胞の増殖を基準にしたパーセントとして表す)をマイトマイシンC濃度(nM)の関数として示す図である。遊離形態のマイトマイシンCで処置した細胞(白三角)および遊離形態のマイトマイシンCに加えて1000μMのシステインで処置した細胞(黒三角)を示す。また、HSPC/PEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム製剤で処置した細胞(白丸)および前記リポソーム製剤に加えてシステインを150μM(白菱形)、500μM(黒丸)および1000μM(白四角)の濃度で添加することで処置した細胞も示す。
【図11B】図11Bは、M109細胞の増殖速度(薬剤もシステインも存在させていない時のM109細胞の増殖を基準にしたパーセントとして表す)をマイトマイシンC濃度(nM)の関数として示す図である。遊離形態のマイトマイシンCで処置した細胞(白三角)および遊離形態のマイトマイシンCに加えて1000μMのシステインで処置した細胞(黒三角)を示す。また、HSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム製剤で処置した細胞(白丸)および前記リポソーム製剤に加えてシステインを150μM(白菱形)、500μM(黒丸)および1000μM(白四角)の濃度で添加することで処置した細胞も示す。
【図12】図12は、遊離マイトマイシンC(黒四角)、HSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームと結合しているマイトマイシンC(黒丸)およびHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームと結合しているマイトマイシンC(白三角)がシステインがいろいろな濃度の時にM109細胞に対してインビトロで示す細胞毒性上昇パーセント[(IC50no cysteine/IC50cysteine)x100で決定した時の]を示す図である。
【図13A】図13Aは、遊離マイトマイシンC(白四角)、HSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒菱形)およびHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒丸)を静脈内注入した後のラット血液中のマイトマイシンC濃度を注入後の時間(時)の関数として示す図である。
【図13B】図13Bは、遊離マイトマイシンC(白四角)、HSPC/コレステロール/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒菱形)およびHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソーム(黒丸)を静脈内注入した後のラット血液中に残存する注入用量パーセントを注入後の時間(時)の関数として示す図である。
【図14】図14は、遊離マイトマイシンC(白四角)またはHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームの形態のマイトマイシンC(黒丸)を注入した後の平均体重(グラム)を注入後の時間(日数)の関数として示す図である。
【図15A】図15Aは、マウスを未処置のまま[対照マウス;(白四角)]または遊離マイトマイシンCによる処置を受けさせた場合(白三角)またはHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームによる処置を受けさせた場合(黒丸)の足蹠の大きさの中央値(mm)をマウスの足にM109腫瘍細胞を接種した後の日数の関数として示す図である。
【図15B】図15Bは、マウスを未処置のまま[対照マウス;(白四角)]または遊離マイトマイシンCによる処置(白三角)を2mg/kg(破線)または4mg/kg(実線)の量で受けさせるか或はHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームによる処置(黒丸)を2mg/kg(破線)または4mg/kg(実線)の量で受けさせた場合の足蹠の大きさの中央値(mm)をマウスの足にM109腫瘍細胞を接種した後の日数の関数として示す図である。
【図16A】図16Aは、マウスを未処置のまま[対照マウス;(白四角)]または遊離マイトマイシンCを6mg/kg用いた処置を受けさせた場合(白三角)またはHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを6mg/kg用いた処置を5日目、12日目および19日目の3回受けさせた場合(黒丸、黒菱形)[黒菱形で表す動物にはシステインを6−8日目、14−16日目および21−23日目に注入することで与えた]の足蹠の大きさの中央値(mm)をマウスの足にM109腫瘍細胞を接種した後の日数の関数として示す図である。
【図16B】図16Bは、図16Aに挙げた如き処置を受けさせたマウスに関して足蹠腫瘍の大きさが4mm未満の生存マウスのパーセントを腫瘍接種後の日数の関数として示す図である。
【図17】図17は、マウスを未処置のまま(四角)、遊離マイトマイシンCを6mg/kg用いた処置を受けさせた場合(三角)またはHSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを6mg/kg用いた処置を1回受けさせた場合(丸)または6mg/kg用いた処置を2回とシステインを用いた処置を受けさせた場合(菱形)の生存パーセントをC26腫瘍細胞をマウスに接種した後の時間の関数として示す図である。
【図18】図18は、マウスを未処置のまま(白四角)、遊離マイトマイシンCを8mg/kg用いた処置を受けさせた場合(白三角)、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを8mg/kg用いた処置を1回(黒丸、実線)または2回(黒丸、破線)受けさせた場合の足蹠の大きさの中央値(mm)をM109−R腫瘍細胞をマウスに接種した後の時間の関数として示す図である。
【図19A】図19Aは、マウスを未処置のまま(白四角)、ポリエチレングリコール鎖の被膜を有するリポソームに取り込ませたドキソルビシンを10mg/kg用いて2回処置した場合[Stealth(商標)、白三角]、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを10mg/kg用いた2回の処置(黒丸)をシステイン無し(黒丸、実線)または5mg/kgのシステインと一緒に用いて受けさせた場合(黒丸、破線)の体重中央値(グラム)を腫瘍接種後の日数の関数として示す図である。
【図19B】図19Bは、マウスを未処置のまま(白四角)、ポリエチレングリコール鎖の被膜を有するリポソームに取り込ませたドキソルビシンを10mg/kg用いて2回処置した場合[Stealth(商標)、白三角]、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを10mg/kg用いた2回の処置(黒丸)をシステイン無し(実線)または5mg/kgのシステインと一緒に用いて受けさせた場合(破線)の足蹠厚みの中央値(mm)を腫瘍接種後の日数の関数として示す図である。
【図19C】図19Cは、マウスを未処置のまま(白四角)、ポリエチレングリコール鎖の被膜を有するリポソームに取り込ませたドキソルビシンを10mg/kg用いて2回処置した場合[Stealth(商標)、白三角]、HSPC/mPEG−DSPE/脂質−DTB−マイトマイシンCで構成させたリポソームを10mg/kg用いた2回の処置(黒丸)をシステイン無し(実線)または5mg/kgのシステインと一緒に用いて受けさせた場合(破線)の足蹠腫瘍が5mm未満の生存マウスのパーセントをM109R細胞腫瘍接種後の日数の関数として示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイトマイシンCを多剤耐性細胞に投与するに適した薬剤を製造するための組成物であって、小胞形成性脂質と約1から約30モルパーセントの範囲の一般形態:
【化1】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCであり、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートで形成されているリポソームを含んで成る組成物。
【請求項2】
マイトマイシンCのインビボ細胞毒性を低下させるに適した薬剤を製造するための組成物であって、小胞形成性脂質と約1から約30モルパーセントの範囲の一般形態:
【化2】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCであり、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートで形成されているリポソームを含んで成る組成物。
【請求項3】
マイトマイシンCがウレタン結合で共有結合している請求項1または請求項2記載の組成物。
【請求項4】
Lがコレステロール、ジアシルグリセロールおよび燐脂質から成る群から選択される請求項1または請求項2記載の組成物。
【請求項5】
前記コンジュゲートが構造:
【化3】
[ここで、R4は、マイトマイシンCの残基を表す]
で表されるコンジュゲートを形成するように前記ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCを含んで成る請求項1または請求項2記載の組成物。
【請求項6】
R4の第二級アミン部分が前記ジチオベンジルとマイトマイシンCの間のウレタン結合を形成している請求項5記載の組成物。
【請求項1】
マイトマイシンCを多剤耐性細胞に投与するに適した薬剤を製造するための組成物であって、小胞形成性脂質と約1から約30モルパーセントの範囲の一般形態:
【化1】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCであり、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートで形成されているリポソームを含んで成る組成物。
【請求項2】
マイトマイシンCのインビボ細胞毒性を低下させるに適した薬剤を製造するための組成物であって、小胞形成性脂質と約1から約30モルパーセントの範囲の一般形態:
【化2】
[ここで、Lは、リポソーム脂質二重層の中に取り込ませるに適した疎水性部分であり、R1は、ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCであり、そしてCH2R1基の位置はオルソ位およびパラ位から選択される]
で表されるコンジュゲートで形成されているリポソームを含んで成る組成物。
【請求項3】
マイトマイシンCがウレタン結合で共有結合している請求項1または請求項2記載の組成物。
【請求項4】
Lがコレステロール、ジアシルグリセロールおよび燐脂質から成る群から選択される請求項1または請求項2記載の組成物。
【請求項5】
前記コンジュゲートが構造:
【化3】
[ここで、R4は、マイトマイシンCの残基を表す]
で表されるコンジュゲートを形成するように前記ジチオベンジル部分と共有結合しているマイトマイシンCを含んで成る請求項1または請求項2記載の組成物。
【請求項6】
R4の第二級アミン部分が前記ジチオベンジルとマイトマイシンCの間のウレタン結合を形成している請求項5記載の組成物。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【公表番号】特表2007−502323(P2007−502323A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532557(P2006−532557)
【出願日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/013820
【国際公開番号】WO2004/110497
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/013820
【国際公開番号】WO2004/110497
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】
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