説明

チオ尿素リンカーを含むコンジュゲートの安定化

【課題】チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分、例えば検体及び標識を含むコンジュゲートを安定化させるための組成物および方法を提供すること。
【解決手段】a)チオ尿素リンカーによって共有結合された2つの部分を含む精製されたコンジュゲート、および
b)遊離形態のチオ尿素またはその誘導体
を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、チオ尿素リンカー及び遊離形態のチオ尿素又はその誘導体によって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートを含む組成物を開示する。また本発明は、チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートを安定化させるための方法であって、コンジュゲートを提供する工程、遊離形態のチオ尿素又はその誘導体をそれに添加する工程、及びそれによりコンジュゲートを安定化させる工程を含む方法に関し、ならびにチオ尿素リンカー及び遊離形態のチオ尿素又はその誘導体によって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートを含有する組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化学者は多種多様のホモ及びヘテロ二官能性リンカーを、かかるリンカーを介して目的の二つの部分を互いに共有結合するために、利用することができる。チオ尿素は短くかつ便利に使われるホモ二官能性リンカーである。
【0003】
リンカーがいつもホモ二官能性リンカーとして一度試され得る場合、チオ尿素は、チオ尿素リンカーを介して互いに共有結合されたこれらの二つの部分のコンジュゲートを得るために、二つの部分を一緒に結合するそれらの適用可能性を評価される。
【0004】
いくつかの例においては、チオ尿素の使用はさらなる所望かつ有利な効果をもたらす。チオ尿素リンカーのそのような有利な性質は、例えば特許文献1に記載されていた。例えばチオ尿素リンカーは、目的の二つの部分間に適切な距離をもたらすリンカーをも代表し得る。特定の他の例においては、互いに結合される部分に存在する反応性基はチオ尿素の使用を保証する。あるいは、場合に応じて、目的の部分の一つ及びそれに既に結合したチオ尿素を含む第一の中間生成物が合成され、それによって、該カップリングがなお可能なチオ尿素の遊離アミノ基を介する目的の第二の部分へのカップリングが可能となる。
【0005】
多くの場合、チオ尿素リンカーは最も便利な選り抜きのホモ二官能性リンカーを単に代表する。
【0006】
かかるリンカーを含むコンジュゲートを慎重に貯蔵する場合、チオ尿素リンカーは通常むしろ安定している。しかしながら、貯蔵条件を完璧にコントロールできない場合、例えば冷蔵されない輸送チェーンにおける輸送の間の場合、チオ尿素リンカーを含むコンジュゲートは劣化し得る。
【特許文献1】米国特許第6,586,460号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱ストレスの負の効果も明白になり得、機械搭載時(onboard)ストレス条件下で代償的な対策を必要とする。例えば、チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分、例えば検体及び標識を含むコンジュゲートを、免疫学的検定法におけるいわゆるトレーサー物質として用いる場合、輸送の間及び分析器の機械搭載時(onboard)の両者で可能な限り、かかる試薬は安定であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
〔1〕a)チオ尿素リンカーによって共有結合された2つの部分を含む精製されたコンジュゲート、および
b)遊離形態のチオ尿素またはその誘導体
を含む組成物、
〔2〕該コンジュゲートに、結合パートナーに結合可能な第1の部分を少なくとも含む、〔1〕記載の組成物、
〔3〕該第1の部分が抗体に結合可能な、〔2〕記載の組成物、
〔4〕該コンジュゲートに、標識基である第2の部分を少なくとも含む、〔1〕〜〔3〕いずれか記載の組成物、
〔5〕遊離形態のチオ尿素が、コンジュゲートに含まれるチオ尿素リンカーに比べて、少なくとも等モル濃度存在する、〔1〕〜〔4〕いずれか記載の組成物、
〔6〕チオ尿素リンカーによって共有結合された2つの部分を含むコンジュゲートを安定化させるための方法であって、
a)コンジュゲートを提供する工程
b)それに遊離形態のチオ尿素またはその誘導体を添加する工程、および
b)それによってコンジュゲートを安定化させる工程
を含む方法、
〔7〕該コンジュゲートが、結合パートナーに結合可能な第1の部分を少なくとも含む、〔6〕記載の方法、
〔8〕該コンジュゲートに、標識基である第2の部分を少なくとも含む、〔6〕または〔7〕記載の方法、
〔9〕遊離形態のチオ尿素が添加され、その結果、コンジュゲートに含まれるチオ尿素リンカーに比べて少なくとも等モル濃度である最終濃度になる、〔6〕〜〔8〕いずれか記載の方法、
〔10〕チオ尿素リンカーによって共有結合された2つの部分を含むコンジュゲートに対する安定化剤としての、チオ尿素またはその誘導体の使用
に関する。
【発明の効果】
【0009】
チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートの劣化を防止することができ、それによってコンジュゲートが保護されるか又は安定化する場合、明らかにこのことは極めて都合がよい。そのような安定化によって、コンジュゲートの劣化が軽減する。例えば、このことは、かかるコンジュゲートの出荷の間又は長期間の保存条件下での改善された安定性を導き得る。
【0010】
チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートに添加する場合、遊離形態のチオ尿素又はその適切な誘導体がかかるコンジュゲートの劣化の軽減に非常に有効であることが現在では分かっており、確立され得る。
【0011】
本発明に記載された組成物及び方法は、両方の輸送条件下でチオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートの安定性及び分析器の機械搭載時(onboard)の両者を改善するのに適するようである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、チオ尿素リンカー及び遊離形態のチオ尿素又はその誘導体によって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートを含有する組成物を開示する。
【0013】
チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートを安定化させるための方法が記載され、該方法は、コンジュゲートを提供する工程、遊離形態のチオ尿素又はその誘導体をそれに添加する工程、及びそれによってコンジュゲートを安定化させる工程を含む。
【0014】
また、開示されることは、幅広い適用可能性、及びチオ尿素又はその適切な誘導体の、チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートに対する安定化剤としての使用である。
【0015】
(発明の詳細な説明)
第一の態様においては、本発明は、チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分を含む精製されたコンジュゲート、及び遊離形態のチオ尿素又はその誘導体を含有する組成物に関する。
【0016】
上記のように、本発明の発明者らは、遊離形態のチオ尿素が、チオ尿素結合を含むコンジュゲートを安定化し得ることを見出し、このことは、安定化を必要とするコンジュゲートを液体形態で貯蔵する場合に特に当てはまる。当業者が理解するように、かかる安定化効果は遊離チオ尿素の使用を必ずしも必要とせず、なぜならば、安定化に関する類似の化学的性質を示すチオ尿素の誘導体も使用し得るからである。当業者は適切なチオ尿素誘導体を容易に選択し得る。適切だが非制限的なチオ尿素誘導体の例は、ジチオビ尿素、N−アセチルチオ尿素、2−イミダゾリジンチオン、N,N’−ジメチルチオ尿素、1−メチル−2−チオ尿素及び1,1,3,3,−テトラメチル−2−チオ尿素である。好ましくは、チオ尿素誘導体はチオ尿素のアルキル化形態であり、ここでチオ尿素の1、2、3又は4個全ての水素原子が低級アルキル、即ち6個未満の炭素原子のアルキルによって置換される。好ましくは、かかるアルキルはメチル及び/又はエチルの両方/いずれかである。チオ尿素の一方又は両方の窒素における他の好ましい置換基は、アセチル、C1〜C6アルケニル及びチオ尿素を包含する。さらに好ましいチオ尿素誘導体においては、2又は3個のC原子を有する二つの窒素原子間のアルキルブリッジ又はアルキレンブリッジが存在する。当業者が理解するように、チオ尿素リンカーを含むコンジュゲートを安定化させるために、遊離チオ尿素及びチオ尿素誘導体の両者の混合物を使用すること、又は種々のチオ尿素誘導体の混合物を使用することも可能である。
【0017】
用語「精製された」は、反応中間体及び反応副産物のレベルと比較しての所望のコンジュゲートのレベルに関する。精製されたコンジュゲートは、目的のコンジュゲートの、少なくとも75%、若しくは80%、若しくは85%、若しくは90%、若しくは95%、96%、97%、98%からなる、又は少なくとも99%からなるかかるコンジュゲートの調製物である。精製の好ましいレベルは、それぞれ少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%である。
【0018】
チオ尿素ブリッジによって共有結合された部分は、有機化学又は生化学における任意の目的の部分であり得る。好ましくは、少なくとも一つの部分は100ダルトン以上の、又は好ましくは150若しくは200ダルトン以上の分子量を有する。また、好ましい部分は両方、100ダルトン以上の、又は好ましくは150もしくは200ダルトン以上の分子量を有する。好ましくは、チオ尿素リンカーによって結合される二つの部分の少なくとも一つは20000ダルトン未満の、また好ましくは10000ダルトン未満の、又は5000ダルトン未満の分子量を有する。
【0019】
好ましくは、本発明によるところの組成物中に含まれるコンジュゲートは、式Iである。
【0020】
式I:R1,R2−N−CS−N−R3,R4
式中、R1は結合パートナーと結合する能力を持つ第一の部分を表し、
式中、R2及びR3は独立して、H、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルケニル若しくはアセチルを表すか、又はR2及びR3が二つの窒素原子間にC2若しくはC3のアルキルブリッジ若しくはアルキレンブリッジを形成し、R4は標識を表す。
【0021】
好ましくは、本発明の組成物は、結合パートナーと結合する能力を持つ少なくとも第一の部分を含む。
【0022】
好ましくは、結合パートナーは特異的結合対のメンバーである。生物学、生化学又は免疫化学において周知かつ適切な結合対は、ハプテンか、又は抗体に結合する能力を持つ抗原、アビジン若しくはストレプトアビジンに結合する能力を持つビオチン若しくはアミノビオチン、イミノビオチン若しくはデスチオビオチン等のビオチン類似体、レクチンに結合する能力を持つ糖、相補的核酸に結合する能力を持つ核酸若しくは核酸類似体、リガンドに結合する能力を持つレセプター、例えばステロイドホルモンに結合する能力を持つステロイドホルモンレセプターである。これらの結合対はバイオアフィン結合対とも呼ばれ得る。好ましい結合対メンバーは、ハプテン又は抗原、及びそれぞれこのハプテン又はこの抗原に結合する抗体である。また、好ましいものは、例えばファージディスプレイによって得られ得るペプチド性結合パートナーである(例えばAllen et al., TIBS 20 (1995) 511-516を参照)。
【0023】
好ましい態様においては、少なくとも第一の部分がそれに結合する能力を持つ結合パートナーは抗体であり、第一の部分は検体又は検体誘導体を表す。
【0024】
結合パートナーは、その対応する標的分子、即ち結合対の第二のパートナーに対して少なくとも107L/molの親和性を有する。好ましくは、結合パートナーはその標的分子に対して108L/molの、さらに好ましくは、109L/molの親和性を有する。
【0025】
また好ましくは、結合パートナーは、目的の標的分子に特異的に結合する。当業者が理解するように、用語「特異的」は、サンプル中に存在する標的分子以外の生体分子が、特異的結合剤に有意に結合しないことを追加的に示すために頻繁に用いられる。好ましくは、標的分子以外の生体分子に結合するレベルは、結果的に標的分子に対する親和性のほんの10%以下、より好ましくはほんの5%以下の結合親和性となる。最も好ましい特異的結合パートナーは、親和性及び特異性の両者についての上記の最低限の基準を満たす。
【0026】
好ましくは、本発明によるところの方法によって又は組成物中で安定化されるコンジュゲートの一部を形成する少なくとも一つの第一の部分は、低分子量検体又はその免疫学的に等価な誘導体である。
【0027】
好ましくは、かかる低分子量検体は、2000ダルトン以下の分子量を有する。用語「免疫学的に等価な誘導体」は、少なくとも第一の部分が、目的の低分子量検体と必ず完全に同一であってはいけないことを示すために用いられる。むしろ、上記で検討されたコンジュゲートを形成するための該検体の密接に関連する構造又は誘導体を用いることは、しばしば十分である。検体誘導体は、目的の該検体の検出に用いられる結合パートナーと同じ様式で結合する限り、標的検体についての等価物又は置換体として十分である。好ましくは、第一の部分は抗体に結合する能力を持つ。
【0028】
好ましい低分子検体は、治療薬及び乱用薬物である。治療薬は、好ましくはアミカシン、ゲンタマイシン及びトブラマイシンのようなアミノグリコシド、カルバマゼピン、リドカイン、プロカインアミド、フェノバルビツール酸及びセコバルビツール酸のようなバルビツール酸、フェニトイン、プリミドン、キニジン、チロキシン、T3、テオフィリン、バルプロ酸、バンコマイシン、並びにこれらの全ての生理的代謝産物又は誘導体からなる群より選択される。
【0029】
乱用薬物は、好ましくはアンフェタミン、コカイン及びベンゾイルエクグノニン(benzoylecgnonine)のようなコカイン代謝産物、メタンフェタミン、アヘン剤及びアヘン誘導体、テトラヒドロカンナビノールのようなカンナビノイド、並びにフェンシクリジンからなる群より選択される。
【0030】
さらに好ましい標的検体は、葉酸、特に血漿及び赤血球の両者に含まれるようないわゆる全葉酸である。
【0031】
好ましい標的検体は免疫抑制薬である。免疫抑制薬は、好ましくはシクロスポリン(CsA)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、ラパマイシン(シロリムスとしても知られているRAPA)、タクロリムス(FK−506)、アザチオプリン(AZA)、及びメチルプレドニゾロン(MP)からなる群より選択される。
【0032】
さらに好ましい態様においては、本発明の組成物に含まれるコンジュゲートは、標識を含む。標識は、それぞれ直接的又は間接的に検出可能な基質である。
【0033】
本発明によるところの標識は、直接的に検出可能な標識か又は間接的に検出可能な標識であり得る。これらの標識の型の両者は当業者に周知であり、当業者は彼のニーズに従って適切な標識を選択する。
【0034】
周知かつ好ましい直接的に検出可能な標識は、発光性基、例えばアクリジニウムエステル若しくはジオキセタンのような化学発光性基、又は蛍光色素、例えばフルオレセイン、クマリン、ローダミン、オキサジン、レソルフィン、シアニン及びそれらの誘導体である。他の好ましい直接的に検出可能な標識基の例は、ルテニウム錯体又はユーロピウム錯体のような発光性金属錯体、ELISA法に用いられる酵素又は例えばCEDIA(クローン化酵素ドナー免疫検定法、例えばEP−A 0 061 888)で用いられるような酵素の一部等の酵素、及びラジオアイソトープである。
【0035】
間接的に検出可能な標識は、前の段落に記載のような直接的に検出可能な標識を保持する特異的結合パートナーに結合する能力を持つ群である。
【0036】
好ましい間接的に検出可能な標識は、抗体に結合する能力を持つハプテン、アビジン若しくはストレプトアビジンに結合する能力を持つビオチン、又は相補的核酸に結合する能力を持つ核酸のような高親和性結合対の、低分子量の結合パートナーである。ハプテンは、2kDa未満の、好ましくは1.5kDa未満の、最も好ましくは1kDa未満の分子量を有する小分子である。ハプテンそのものは免疫原性ではない。しかしながら、適切なキャリア分子にコンジュゲートした時、かかるコンジュゲートを用いてハプテンを免疫原性にし得、それによって適切な免疫応答を生成し得る。種々の種類のハプテンに対するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は当該分野で周知である。周知のかつ好ましいハプテンは、例えばビオチン、ジニトロフェニルホスフェート、ステロイドホルモン、多くの低分子量薬物、ジゴキシン及びジゴキシゲニンである。
【0037】
チオ尿素リンカーを含むコンジュゲートの合理的な安定化を達成するために、当業者は所望の効果を達成するために最も適合した、遊離チオ尿素に対するコンジュゲートの分子比を決定する。好ましい態様においては、本発明によるところの組成物は、コンジュゲートに含まれるチオ尿素リンカーと比較して少なくとも等モル濃度の遊離形態のチオ尿素又はその誘導体を含有する。また、本発明によるところの好ましい組成物は、コンジュゲートに含まれるチオ尿素リンカーと比較して少なくとも10倍モル濃度過剰の遊離形態のチオ尿素又はその誘導体を含有する。
【0038】
好ましくは、本発明の組成物は、安定化/保護に必要な、チオ尿素含有コンジュゲートの濃度と比較して約1000倍モル濃度過剰のチオ尿素又はその誘導体を含む。
【0039】
高濃度のチオ尿素又はその誘導体は、安定化されるコンジュゲートに負の影響を有さないと思われる。当業者が、彼の意図する目的のために最も高い濃度のチオ尿素又はその誘導体を選択することには何らの問題もない。好ましくは、本発明の組成物は、安定化/保護に必要なチオ尿素含有コンジュゲートの濃度と比較して約105倍モル濃度以下過剰のチオ尿素又はその誘導体を含む。また、好ましいモル過剰は、安定化/保護に必要なチオ尿素含有コンジュゲートの濃度と比較して104倍以下、又は5000倍以下である。
【0040】
好ましい態様においては、本発明は、チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートを安定化させるための方法に関し、この方法は:コンジュゲートを提供する工程、遊離形態のチオ尿素又はその誘導体をそれに添加する工程、及びそれによってコンジュゲートを安定化させる工程、を含む。
【0041】
通常、チオ尿素リンカーによって共有結合された二つの部分を含むコンジュゲートは化学合成され、クロマトグラフィーのような適切な手段によって所望のコンジュゲートが精製される。コンジュゲートは通常、適切な貯蔵条件下で貯蔵され得、好ましくはコンジュゲートを含む液体組成物の調剤が必要となるまで凍結され得る。コンジュゲートを受け入れる液体、好ましくはバッファは、既に遊離チオ尿素若しくはその誘導体を含有し得るか、又はこれらの安定化剤はコンジュゲートと一緒に、若しくはコンジュゲートの添加後に液体に添加され得る。
【0042】
当業者が理解するように、二つの部分を共有結合するチオ尿素リンカーを含むコンジュゲートの安定化のための方法を、さらに上記の本明細書に記載されたように、任意の好ましいコンジュゲート及び部分をそれぞれ用いて実施してもよい。
【0043】
好ましくは、本方法は、二つの部分を共有結合するチオ尿素リンカーを含み、かつ結合パートナーと結合する能力を持つ少なくとも第一の部分を有するコンジュゲートを用いて実施される。
【0044】
また好ましくは、本方法は、二つの部分を共有結合するチオ尿素リンカーを含み、かつ標識基である少なくとも第二の部分を有するコンジュゲートを安定化することに適用され得る。
【0045】
また好ましくは、本方法は、二つの部分を共有結合するチオ尿素リンカーを含み、かつ結合パートナーと結合する能力を持つ少なくとも第一の部分、及び標識基である少なくとも第二の部分を有するコンジュゲートを安定化することに適用され得る。
【0046】
好ましくは、二つの部分に共有結合するチオ尿素リンカーを含むコンジュゲートを安定化させる方法は、遊離形態のチオ尿素又は遊離形態のチオ尿素誘導体を、コンジュゲートに含まれるチオ尿素リンカーと比較して少なくとも等モル濃度、多くても105倍モル濃度過剰の最終濃度まで添加する工程によって実施される。
【0047】
さらに好ましい態様は、チオ尿素リンカーによって共有結合する二つの部分を含むコンジュゲートに対する安定化剤としてのチオ尿素又はその誘導体の使用に関する。
【0048】
以下の実施例及び図面は本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神から逸脱することなく、示された手順において改変をなし得ることが理解される。
【実施例】
【0049】
実施例1
チオ尿素含有コンジュゲートの安定性に対する種々の抗酸化剤の効果
結合パートナーに結合可能な部分としてのカルバマゼピン、標識としてのフルオレセイン、およびチオ尿素リンカーを含む図1に示されるコンジュゲートを、遭遇し得る安定性問題およびかかるコンジュゲートを安定化させる方法の両方を示すために、モデルコンジュゲートとして使用する。
【0050】
異なる抗酸化剤を含むバッファ中でのカルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲートの安定性を調査した。種々の抗酸化剤を、トレーサー試薬中で使用されるコンジュゲートを安定化する効果について評価した。アスコルビン酸(AA)、チオ尿素(THU)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、および1,4−ジチオトレイトール(DTE)を、20mmol/Lの最終濃度でカルバマゼピンアッセイのトレーサー試薬に添加した。320μlの、20mM抗酸化剤を有するまたは有さないpH7.5の50mM Trisバッファを、40μgコンジュゲートを溶解した40μl DMFと混合した。
【0051】
得られた試薬混合物の各々のアリコートを、4℃で保存し、その一方で、他のアリコートを、45℃での保存によって熱ストレスに供した。これらのアリコートを、互いにおよび抗酸化剤を含まないトレーサー調製物と比較した。トレーサー安定性を、1、2、3、および4週後に、それぞれ分析した。
【0052】
試料を、毎週、60℃で逆相カラム(Zorbax C3)および酸性水/アセトニトリル勾配を使用して、HPLCによって分析した。コンジュゲートの安定性を、HPLC分析で得られたピークから計算した。
【0053】
図2から明らかなように、カルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲート、すなわち、チオ尿素リンカーを含む2つの部分の間のコンジュゲートに対する安定化効果は、抗酸化剤効果のみによるようではなく、なぜなら、チオ尿素のみが、45℃で安定化を提供するからであり、一方、アスコルビン酸またはジチオトレイトールは、コンジュゲート安定性に対して負の影響さえ有した。
【0054】
実施例2
免疫学的試薬とチオ尿素の適合性
カルバマゼピンは、例えば、Roche Diagnostics(注文番号20737828)から市販されているカルバマゼピンアッセイキットを用いて測定され得る。このアッセイにおいて、カルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲートは、トレーサー試薬として使用される。
【0055】
簡単には、Rocheから市販されるカルバマゼピンアッセイは、以下のように作用する。標準または較正曲線は、種々の量のカルバマゼピンを、図1のコンジュゲートおよびカルバマゼピンに対する抗体と反応させることによって確立される。類似の様式によって、分析されるべき試料のアリコートを、カルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲートを含む試薬およびカルバマゼピンに対する抗体を含む試薬と混合する。試料(または標準)中のカルバマゼピンおよびコンジュゲートは、抗体に対する結合について競合する。抗体−カルバマゼピン−フルオレセイン複合体は、特異的に検出される。試料にカルバマゼピンがより多く存在すると、その試料からより少ないシグナルが発生する。試料シグナルは、較正曲線を読み取られ、それによって、試料中のカルバマゼピンの濃度として解釈される。市販のアッセイの手順の完全な詳細は、Roche Diagnosticsカタログ番号20737828のパッケージ挿入物から得ることができ、本明細書中に複写する必要はない。測定の詳細に関して疑問がある場合、本明細書によって、特別な参照が、パッケージ挿入物に対してなされる。
【0056】
カルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲート、すなわちカルバマゼピン部分およびフルオレセイン部分がチオ尿素によって連結されたコンジュゲートを含むトレーサーを使用した。市販のカルバマゼピンアッセイの免疫学的試薬に対するチオ尿素の効果の評価のために、測定を、製造業者の指示書に従って実施した。チオ尿素(20mM)をそれぞれ有するおよび有さないこの実験に対するトレーサー試薬を、調製した。
【0057】
表1に見られ得るように、市販の製品で使用されるようなトレーサーに対する類似として設定された、チオ尿素(THU)のトレーサー試薬混合物への添加は、カルバマゼピンの測定に干渉しない、なぜなら、類似のシグナルが、チオ尿素の有無でトレーサーに対して特定されたからである。
【表1】

【0058】
実施例3
チオ尿素結合コンジュゲートの熱ストレス安定性に対するチオ尿素の効果
冷蔵温度での長期保存条件および輸送温度ストレス条件は、しばしば、短期熱ストレスモデルによって評価される。この実験に対するトレーサー試薬を、それぞれチオ尿素(20mM)ありおよびなしで調製し、測定を、製造業者の指示書に従って実施した。安定化剤としての遊離チオ尿素(20mM)の存在下または非存在下でのカルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲートを含む溶液の安定性を、45℃で3週間保存後評価し、第0日に分析された安定化剤を含まないトレーサー溶液と比較した。
【0059】
表2に見られ得るように、市販の製品で使用されるようなトレーサーに対する類似として設定された、チオ尿素のトレーサー試薬混合物への添加は、たとえ熱ストレス条件下、すなわち45℃で3週間保存されたとしても、かかる試薬混合物を安定化する。
【表2】

【0060】
上記されるように、較正溶液、すなわち、吸収値および対応する濃度が読み取られ、計算され得る較正曲線を確立するために使用される溶液はまた、図1のコンジュゲートを含む。
【0061】
実施例4
チオ尿素結合コンジュゲートの安定性に対するチオ尿素濃度の効果
チオ尿素の異なる3つの濃度、すなわち10mM、20mM、および30mMそれぞれの、カルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲートの4つの異なる調製物に対する安定化効果について評価した。測定を、上記のとおりに実施した。トレーサーコンジュゲートの安定性を、第0日のシグナルと比較した場合の、45℃で2週間の保存の後の市販のカルバマゼピンアッセイに含まれる最も高いキャリブレータ(calibrator)のシグナルの読み取りによって評価した。
【0062】
表3から明らかなように、試験された3つのチオ尿素の濃度は、カルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲートを安定化しているようである。安定化剤なしでのシグナル損失の程度は、いくらかの変動性を示したが、遊離のチオ尿素の安定化効果は、かかるカルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲートの基本的な安定化特性(すなわち、チオ尿素を添加しない)に依存しない不安定性を除去するようである。
【表3】

【0063】
実施例5
カルバマゼピン回収に対するチオ尿素媒介トレーサー安定化の効果
どちらかというと不安定なカルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲートのロットを使用して、安定化剤としてチオ尿素を含むおよび含まないトレーサー溶液を設定し、かかる試薬の機械搭載時(on-board)安定性を、16週間にわたって調査した。トレーサー安定性を、それぞれ3.33、9.66、および15.07μg/mlのカルバマゼピンを含む3つの異なる試料の定量的測定によって間接的に評価した。
【0064】
図3aおよび3bの比較から、容易に言えるように、遊離形態のチオ尿素の添加は、アナライザーの機械搭載(on-board)トレーサーコンジュゲートもまた安定化する。チオ尿素リンカーを含むコンジュゲートに添加される場合、遊離チオ尿素は、短期熱ストレス条件または自動アナライザーの機械搭載時(on-board)のような種々の要件下でのコンジュゲート安定性を改善するようである。
【0065】
実施例6
種々のチオ尿素誘導体の評価
種々のチオ尿素誘導体を、20ミリモーラーの最終濃度でカルバマゼピントレーサー試薬に添加した。キャリブレータシグナルを、それぞれ第0日ならびに4℃で15日後および35℃で15日後に測定した。表4および5の全ての値は、それぞれ第0日の対応する値の%で与えられる。参照であると標識されたカラムにおいて、チオ尿素は、安定化剤として使用され、その一方で、CARB1においてジチオビ尿素が、CARB2においてN−アセチルチオ尿素が、CARB3において2−イミダゾリンチオンが、CARB4においてN,N’−ジメチル−チオ尿素が、CARB5において1−メチル−2−チオ尿素が、およびCARB6において1,1,3,3−テトラメチル−2−チオ尿素が、それぞれ安定化剤として使用された。
【表4】


回収は、使用されたチオ尿素誘導体全てについて良好であった。
【表5】


表5に示された全てのチオ尿素誘導体は、チオ尿素それ自体と同等の安定化効果を有しているようである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、カルバマゼピン−フルオレセインコンジュゲートの構造を示す。示されたコンジュゲートは、結合パートナーに結合し得る部分(抗体によって結合され得るカルバマゼピン)および標識(フルオレセイン)を含み、これらは、チオ尿素によって互いに連結される。
【図2】図2は、カルバマゼピントレーサーのストレス安定性を示す。添加物を有さないトレーサー調製物(添加物なし)、またはアスコルビン酸(AA)、チオ尿素(THU)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)(亜硫酸塩)、もしくは1,4−ジチオトレイトール(DTE)を含むトレーサー調製物それぞれに対する45℃でのトレーサー安定性を示す。示される時間の点は、それぞれ0、1、2、3、および4週である。
【図3A】図3は、コントロール試料の読み出し時のトレーサーコンジュゲートの機械搭載時(on-board)安定性/不安定性の効果を示す。3つの異なるレベルのカルバマゼピンを含むコントロール試料を、16週までの間アナライザー上に残されたトレーサー調製物と共に測定した。3つのコントロールについて計算された濃度は、機械搭載時(on-board)保存時間に依存して与えられる。高い値は、トレーサーの劣化と解釈される。それぞれ、安定化剤としての、チオ尿素なし(図3A)およびチオ尿素あり(図3B)のトレーサーコンジュゲート(図1参照)の2つの調製物に対するデータを示す。
【図3B】図3は、コントロール試料の読み出し時のトレーサーコンジュゲートの機械搭載時(on-board)安定性/不安定性の効果を示す。3つの異なるレベルのカルバマゼピンを含むコントロール試料を、16週までの間アナライザー上に残されたトレーサー調製物と共に測定した。3つのコントロールについて計算された濃度は、機械搭載時(on-board)保存時間に依存して与えられる。高い値は、トレーサーの劣化と解釈される。それぞれ、安定化剤としての、チオ尿素なし(図3A)およびチオ尿素あり(図3B)のトレーサーコンジュゲート(図1参照)の2つの調製物に対するデータを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)チオ尿素リンカーによって共有結合された2つの部分を含む精製されたコンジュゲート、および
b)遊離形態のチオ尿素またはその誘導体
を含む組成物。
【請求項2】
該コンジュゲートに、結合パートナーに結合可能な第1の部分を少なくとも含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
該第1の部分が抗体に結合可能な、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
該コンジュゲートに、標識基である第2の部分を少なくとも含む、請求項1〜3いずれか記載の組成物。
【請求項5】
遊離形態のチオ尿素が、コンジュゲートに含まれるチオ尿素リンカーに比べて、少なくとも等モル濃度存在する、請求項1〜4いずれか記載の組成物。
【請求項6】
チオ尿素リンカーによって共有結合された2つの部分を含むコンジュゲートを安定化させるための方法であって、
a)コンジュゲートを提供する工程
b)それに遊離形態のチオ尿素またはその誘導体を添加する工程、および
b)それによってコンジュゲートを安定化させる工程
を含む方法。
【請求項7】
該コンジュゲートが、結合パートナーに結合可能な第1の部分を少なくとも含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
該コンジュゲートに、標識基である第2の部分を少なくとも含む、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
遊離形態のチオ尿素が添加され、その結果、コンジュゲートに含まれるチオ尿素リンカーに比べて少なくとも等モル濃度である最終濃度になる、請求項6〜8いずれか記載の方法。
【請求項10】
チオ尿素リンカーによって共有結合された2つの部分を含むコンジュゲートに対する安定化剤としての、チオ尿素またはその誘導体の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2009−132716(P2009−132716A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−302955(P2008−302955)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】