説明

チタニアドープ石英ガラス及びその製造方法

【課題】無欠陥かつ高い平坦性を有する低膨張のチタニアをドープ石英ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを混合し、200〜400℃で加熱した後、可燃性ガス及び支燃性ガスにより酸化又は火炎加水分解させることを特徴とするチタニアドープ石英ガラスの製造方法。表面に体積30,000nm3以上の凹状欠陥がないEUVリソグラフィ用部材、特にEUVリソグラフィフォトマスク用基板として好適なチタニアドープ石英ガラスを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUVリソグラフィ用チタニアドープ石英ガラス及びチタニアドープ石英ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子製造時のリソグラフィプロセスでの露光光源の短波長化が進み、極端紫外光(EUV:Extreme Ultraviolet)を使用したリソグラフィへの移行が有望視されている。
【0003】
EUVリソグラフィでは反射型光学系が採用されることになる。EUV光の使用波長が13.5nmと短波長となるため、高い透過性を有する材料がないためであり、EUV光の反射は低熱膨張材料からなる基板表面にスパッタされたSi/Mo多層膜によってなされる。
【0004】
EUVリソグラフィの実用化に向けて、最大の課題の一つとして無欠陥フォトマスク作製が挙げられている。従来の屈折光学系を採用したKrFリソグラフィ(波長248.3nm)、ArFリソグラフィ(波長193.4nm)では許容し得たフォトマスク基板表面等の凹凸といったいわゆる欠陥がEUVリソグラフィでは、使用波長の短波長性、反射光学系を採用しているが故に無視できないものとなっている。
【0005】
EUVリソグラフィ用フォトマスクの欠陥は、1)低熱膨張材料からなる基板表面上の欠陥、2)反射多層膜中の欠陥、3)パターン上の欠陥の3種に大別される。スパッタ条件の開発、洗浄技術の向上等によりEUVリソグラフィ用フォトマスクの欠陥数は減少しつつあるものの、低熱膨張材料の研磨表面上の欠陥は依然多く、EUVリソグラフィの実用化に向けては、低熱膨張材料の研磨表面の欠陥削減が急務とされている。
【0006】
EUVリソグラフィの反射光学系に使用される低熱膨張材料としては、チタニアをドープした石英ガラスが公知である。チタニアを一定量添加することで石英ガラスを低熱膨張化することができる。
【0007】
しかし、チタニアをドープしているが故に無欠陥かつ高い平坦性を必要とするEUVリソグラフィ用フォトマスク基板を製造するには技術的な難しさがある。
【0008】
チタニアドープ石英ガラスではチタニア濃度が不均一な場合など、高いフラットネスを有する基板を得ることが困難となる。例えば、原料ガスの供給が不安定でケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスが一定流量で供給されない場合や、同時に供給される酸素及び水素ガス流量の変動によりチタニアドープ石英ガラスインゴット成長面の温度が変動する場合にはチタニア濃度が不均一となり、一般に脈理と言われる部位が発生する。脈理の部位では、基板研磨に際して使用する研磨液との反応性、研削速度が異なるために基板表面に凹凸が生じてしまう。
【0009】
一方、チタニアドープ石英ガラス基板では、ノンドープの石英ガラス基板に比べて、研磨洗浄後の基板に欠陥が多くなる傾向にある。基板表面の欠陥としては、研磨洗浄時に残留した異物、石英ガラス内の硬度の高い内包物が表面化することによる凸状の欠陥と研磨時に粒径が異なる研磨材が表面に接触して発生しやすい、また、石英ガラス内の研磨速度が部分的に速い内包物が表面化することで生じる凹状の欠陥に分けることができる。
【0010】
EUVリソグラフィ用部材の材料として使用されるチタニアドープ石英ガラスでは、凹状欠陥が多くなる傾向があり、無欠陥フォトマスク作製の妨げとなっている。
【0011】
特許文献1(特開2010−135732号公報)及び特許文献2(国際公開第2010/131662号パンフレット)には、基板表面品質領域において表面に60nm以上の凹状のピットが存在しないことが好ましいことについて記載されている。しかし、60nm以上の凹状のピットを生じないための具体的な方法については記載されていない。
【0012】
また、特許文献1及び2には、マスクの品質を考えると、表面品質領域において表面に40nm以上の凹状のピットが存在しないことがより好ましいとの記載がある。しかし、40nm以上の凹状のピットが存在しないマスク基板についての記載は実施例等に見られない。また、40nmの欠陥を測定する手段についての記載もない。
【0013】
例えば特許文献3(国際公開第2009/145288号パンフレット)には、凹状欠陥の原因となり得ると思われる内包物がないことが好ましいことが記載されている。しかし、内包物の有無について実施例等には記載が見られない。内包物の有無を測定する方法についての記載も見られない。
【0014】
また、チタニアドープ石英ガラスの場合、石英ガラス中の内包物の確認方法として一般的な集光検査で内包物が見つからない場合でも、研磨表面に凹状欠陥が発生していた。
【0015】
更に、無欠陥な研磨表面を達成するために、これまでは、研磨、洗浄条件の最適化による凸状欠陥及び凹状欠陥の削減が行われてきた。また、研磨表面の欠陥原因となるチタニアドープ石英ガラス中の内包物を削減するために、いわゆる間接法による製造方法においては、チタニアをドープした多孔質シリカ母材(TiO2−SiO2緻密体)の均質性を高めるための熱処理、ガラス化及びTiO2−SiO2ガラス体の成型時の各温度条件を正確にコントロールすることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−135732号公報
【特許文献2】国際公開第2010/131662号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2009/145288号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、EUVリソグラフィ用部材としてEUV光の反射面における有効領域において表面に体積30,000nm3以上、アスペクト比10以下の凹状欠陥のないチタニアドープ石英ガラス、及びEUV光の反射面における有効領域において表面に体積30,000nm3以上、アスペクト比10以下の凹状欠陥のないチタニアドープ石英ガラスの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを混合し、200〜400℃で加熱した後、可燃性ガス及び支燃性ガスにより酸化又は火炎加水分解させることにより、EUVリソグラフィ用部材としてEUV光の反射面における有効領域において、表面に体積30,000nm3以上、アスペクト比10以下の凹状欠陥のないチタニアドープ石英ガラスが得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0019】
従って、本発明は、下記チタニアドープ石英ガラス及びその製造方法を提供する。
(1)ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを混合し、200〜400℃で加熱した後、可燃性ガス及び支燃性ガスにより酸化又は火炎加水分解させることを特徴とするチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
(2)ケイ素源原料ガスとチタン源原料ガスとの原料混合ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスを噴出させるバーナの上記原料混合ガスの噴出用中心管とガラス製配管又はガラスライニング製配管の下流側端部とを接続し、このガラス製配管又はガラスライニング製配管において上記原料混合ガスを200〜400℃に加熱保持するようにした(1)記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
(3)上記ガラス製配管又はガラスライニング製配管の上流側端部に金属製配管を接続すると共に、この金属製配管と接続するガラス製配管又はガラスライニング製配管の上流側端部を100〜130℃に保持するようにした(2)記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
(4)ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスの原料混合ガスを、中心多重管部及びマルチノズル部から構成されたバーナの上記中心多重管の中心管から噴出させると共に、この中心管を取り囲む2管目から支燃性ガスを200〜400℃に加熱した状態で噴出させることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
(5)EUV光の反射面における有効領域において、表面に体積30,000nm3以上、アスペクト比10以下の凹状欠陥がないことを特徴とするチタニアドープ石英ガラス。
(6)内包物がないことを特徴とする(5)記載のチタニアドープ石英ガラス。
(7)(5)又は(6)記載のチタニアドープ石英ガラスから形成されることを特徴とするEUVリソグラフィ用部材。
(8)EUVリソグラフィフォトマスク用基板であることを特徴とする(7)記載のEUVリソグラフィ用部材。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、表面に体積30,000nm3以上の凹状欠陥がないEUVリソグラフィ用部材、特にEUVリソグラフィフォトマスク用基板として好適なチタニアドープ石英ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】原料混合ガス高温加熱機構の一例を示す概略図である。
【図2】本発明による実施例で用いたチタニアドープ石英ガラス製造用バーナのガス噴射口の横断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、EUV光の反射面における有効領域において、表面に体積30,000nm3以上の凹状欠陥のないものである。より好ましくは体積20,000nm3以上の凹状欠陥がないものであり、更に好ましくは15,000nm3以上の凹状欠陥がないものである。
【0023】
EUV光の反射面における有効領域において、表面に凹状欠陥がないチタニアドープ石英ガラスを使用することにより、ラインカット、ショートサーキットのない、CDユニフォーミティーが良好なEUVリソグラフィが可能なフォトマスクを得ることができる。
【0024】
本発明においてEUV光の反射面における有効領域とは、EUVリソグラフィ用部材において、EUV光を反射させる領域を意味し、フォトマスクの場合はシリコンウェハに転写させる回路が描かれている領域であり、152.4mm×152.4mm角のフォトマスク基板の場合、一般的にフォトマスク基板の中心142mm×142mm角内をいう。
【0025】
本発明において、アスペクト比が10以下の凹状欠陥を考慮する。アスペクト比が10より大きい凹状欠陥は一般にチタニアドープ石英ガラスの素材に由来したものではなく、チタニアドープ石英ガラスの研磨−洗浄工程において発生した欠陥のためである。ここで、アスペクト比は、凹状欠陥の部材表面での長辺と短辺の比率とする。
【0026】
本発明のチタニアドープ石英ガラスには内包物がないことが好ましい。内包物の存在は研磨表面の凹状欠陥の原因となるからである。
【0027】
EUV光の反射面における有効領域において表面に体積30,000nm3以上の凹状欠陥のないチタニアドープ石英ガラスを得るために、また内包物のないチタニアドープ石英ガラスを得るために、チタニアドープ石英ガラスインゴットの製造において、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを混合し、200〜400℃で加熱した後、当該混合ガスを合成石英製バーナに供給して可燃性ガス及び支燃性ガスにより酸化又は火炎加水分解させることが有効である。原料混合ガスをあらかじめ高温にすることと表面の凹状欠陥の減少の因果関係は必ずしも明らかになっていないが、混合ガスを高温に暴露することによりガスの混合性が向上すること及び反応性が向上するために原料混合ガスが合成石英製バーナから噴射された直後に反応し、組成及び粒径が均質なシリカ−チタニア微粒子が生成することが効果的に寄与しているものと思われる。
【0028】
原料混合ガスを200〜400℃に高温保持するに際しては、ガス配管の材質と原料ガスとの反応性を考慮する必要がある。そこで、原料混合ガスを高温に保持する部分の配管にはガラス製配管又はガラスライニング製配管を使用することが好ましい。更に不純物の混入等を考慮し、ガラス製配管又はガラスライニング製配管には石英ガラスを使用することがより好ましい。但し、原料混合ガスを200〜400℃に高温保持するためのガラス製配管又はガラスライニング製配管において、通常の例えばステンレス配管等の金属配管との接続部近傍(ガラス製配管又はガラスライニング製配管の上流側端部)では通常の配管加熱温度(100〜130℃)に低下させておくことが好ましい。ガラス製配管又はガラスライニング製配管からの伝熱によりこれと接続する金属配管が高温になる場合には原料混合ガスによりステンレス配管が腐食され、不純物の混入、ひいてはチタニアドープ石英ガラス中の内包物の発生、凹状欠陥の発生を引き起こす原因となるためである。
【0029】
また、原料混合ガスを200〜400℃の高温で保持するに際しては、合成石英製バーナの直前で行うことが好ましい。原料混合ガスの反応場である合成石英製バーナ噴射口先との距離を短くすることで反応場まで原料混合ガスの温度を保持しやすいからである。そのため、合成石英製バーナと原料混合ガスを200〜400℃に高温保持するガラス製配管又はガラスライニング製配管は合成石英製バーナの原料混合ガス噴出用の中心管と直結していることが好ましい。
【0030】
原料混合ガスを200〜400℃に高温保持するガラス製配管又はガラスライニング製配管は、原料混合ガス配管にフィルタを設置する場合、フィルタの直後に位置することが好ましい。
【0031】
図1は、このような原料混合ガス高温加熱機構1の一例を示すものであって、この高温加熱機構1の一端部(上流側端部)は金属配管部3と接続されている。金属配管部3には、その下流側端部に存してフィルタ4が介装されている。また、高温加熱機構1の他端部(下流側端部)はバーナの原料混合ガス噴出用中心管11に接続されている。ここで、この高温加熱機構1はガラス製配管又はガラスライニング製配管から形成されており、この場合、該配管は2点鎖線で囲まれた高温加熱部2aと金属配管3と接続される点線で囲まれた上流側端部2bとを有し、高温加熱部2aが200〜400℃に加熱される部分[加熱部(1)]、上流側端部2bが通常の配管加熱温度(100〜130℃)とする部分[加熱部(2)]であることが好ましいが、この加熱部(2)も200〜400℃であってもよい。
【0032】
上記原料混合ガスは、ケイ素源原料ガスとチタン源原料ガスとを混合したものであり、更に必要により酸素ガス等の支燃性ガスを混合することができる。
【0033】
ケイ素源原料ガスは公知の有機ケイ素化合物等を使用することができ、具体的には、四塩化ケイ素、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等の塩素系シラン化合物、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン等が使用できる。
【0034】
チタン源原料ガスも公知の化合物を使用することができ、具体的には、四塩化チタン、四臭化チタン等のチタンハロゲン化物、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン等のチタンアルコキシド等を使用できる。
【0035】
この場合、ケイ素源原料ガスとチタン源原料ガスとの混合割合は、チタニアドープ石英ガラス中のチタニア含有量に応じて選定される。なお、チタニアドープ石英ガラス中のチタニア含有量は4〜12質量%、特に5〜10質量%が好ましい。また、支燃性ガスを混合する場合、その混合量は、モル比でケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスの和の8倍以上が好ましく、10倍以上であることが好ましい。
【0036】
本発明において、チタニアドープ石英ガラス製造に際して使用する合成石英製バーナは、中心多重管部及びマルチノズル部から構成されたバーナを使用することができる。中心多重管部は原料ガスを噴射するノズルを中心とし、同心円状に複数のノズルを配した構造を有している。同複数のノズルには支燃性ガス、可燃性ガスのいずれかを供給する。一方、マルチノズル部は原料ガスを噴射する中心ノズルに対して同心円状に配した小口径の支燃性ガスを噴射するノズルを有し、同小口径ノズルの間から可燃性ガスを噴射する構造からなる。本発明において、原料ガスを噴射する中心ノズルの隣に位置するノズル(2管目)に流通させるガスを原料混合ガスと同等の温度に加熱することがより好ましい。構造上、合成石英製バーナの各ノズルを加熱することは困難であるため、2管目に流通させるガスの温度が原料混合ガスより低温である場合、加熱された原料混合ガスの温度を低下させるおそれがあるからである。
【0037】
具体的には、図2に示すバーナ構造を有することが好ましい。即ち、図2において、バーナ10は、中心部に中心多重管部A、その外側にマルチノズル部Bを有する。中心多重管部Aは、その中心に原料混合ガス噴出用中心管(ノズル)11が設けられ、その外側に第1の支燃性ガス供給管12、その外側に第1の可燃性ガス供給管13、その外側に第2の支燃性ガス供給管14、その外側に第2の可燃性ガス供給管15をそれぞれ包囲してなるものである。一方、マルチノズル部Bは、上記第2の可燃性ガス供給管15の外側にこれを包囲して第1の外殻管16が配設され、更にこの第1の外殻管16の外側にこれを包囲して第2の外殻管17が配設され、第2の可燃性ガス供給管15と第1の外殻管16との間に多数の第3の支燃性ガス供給管18が上記原料混合ガス噴出用中心管11と同心円状にかつ五列に亘って配設され、これら第3の支燃性ガス供給管18の間から可燃性ガスが供給されるようになっていると共に、第1の外殻管16と第2の外殻管17との間にも多数の第4の支燃性ガス供給管19が同様に同心円状に一列配設され、これら第4の支燃性ガス供給管19の間から可燃性ガスが供給されるようになっているものである。
【0038】
本発明におけるチタニアドープ石英ガラスの製造に際して、本発明の目的の点から、バーナの中心多重管部は3重管以上であることが好ましく、より好ましくは5重管以上である。また、マルチノズル部Bに配する支燃性ガス供給管は中心多重管に対して五列に亘って配することが好ましく、六列に亘って配することが更に好ましい。
【0039】
なお、可燃性ガスとしては水素を含有するものが用いられ、更に必要に応じて一酸化炭素、メタン、プロパン等のガスを併用したものが用いられる。一方、支燃性ガスとしては酸素ガスを含むものが用いられる。
【0040】
本発明において、原料混合ガスの線速は55m/sec以上、特に60〜100m/secであることが好ましい。原料混合ガスを高温に維持しているために原料混合ガスの反応性が高く、原料混合ガスの線速が遅い場合には、生成したシリカ−チタニア微粒子がバーナ先端に付着、飛散することによりチタニアドープ石英ガラス中の内包物及び凹状欠陥の原因となり得るからである。
【0041】
本発明におけるチタニアドープ石英ガラスの製造に際して、バーナのマルチノズル部及び中心多重管部のそれぞれに供給される支燃性ガスとしての酸素ガスと、可燃性ガスとしての水素ガスが、マルチノズル部、中心多重管部の少なくとも一方で反応量論比より酸素過多であることが好ましく、更に好ましくは、マルチノズル部、中心多重管部の双方で反応量論比より酸素過多(1.7≦H2/O2比<2)であることが好ましい。バーナのマルチノズル部、中心多重管部の双方で反応量論比より水素過多(H2/O2比≧2)である場合、チタニアドープ石英ガラスに着色が起こると同時に酸化チタンの微結晶が生じ易くなる場合があるからである。
【0042】
本発明において、可燃性ガスとしてバーナから噴射される水素ガス等の線速は、好ましくは100m/sec以下であり、更に好ましくは90m/sec以下である。可燃性ガスとしてバーナから噴射される水素ガスの線速が100m/secより高い場合に製造されたチタニアドープ石英ガラスは、EUVリソグラフィ用部材として使用した場合に熱ヒステリシスを生じる場合があるからである。水素ガス等の可燃性ガスの線速の下限値は特に制限されないが、通常0.5m/sec以上、特に1m/sec以上である。
【0043】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、石英ガラス製造炉内に設けたバーナに、水素ガスを含む可燃性ガス及び酸素ガスを含む支燃性ガスを供給して燃焼させることによりバーナ先端に形成される酸水素炎中に、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを供給して、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを酸化又は火炎加水分解することにより酸化ケイ素、酸化チタン及びそれらの複合体微粒子を、バーナ先端前方に水平に配設したターゲット上に付着させて成長させることによりインゴットを作製し、得られたインゴットを熱間成型して所定の形状に成型後、成型後のインゴットをアニール−徐冷処理することによって製造する、いわゆる横型直接法を採用する。
【0044】
竪型直接法を採用する場合、その炉体構造上、チタニアドープ石英ガラスインゴット成長面上部に配される断熱材等の小片の落下、インゴット成長面への付着を避けることが難しく、チタニアドープ石英ガラス中の内包物、ひいては表面の凹状欠陥の原因となる。
【0045】
また、間接法を採用する場合、チタニアをドープした多孔質シリカ母材製造時に異物が混入することを回避することは比較的容易であるが、チタニアをドープした多孔質シリカ母材のガラス化後に気泡が残留する場合が多い。当該の気泡はチタニアドープ石英ガラスの熱間成型等の熱処理時に一見消滅させることができる。しかし、当該気泡内の気体がチタニアドープ石英ガラス中に溶解した結果であり、チタニアドープ石英ガラス内に構造的に疎な領域を生じることとなる。チタニアドープ石英ガラス中の疎な領域は研磨に際して、研削速度が上がるため、凹状欠陥を生じやすくなる。
【0046】
なお、チタニアドープ石英ガラス、チタニアをドープした多孔質シリカ母材作製時の異物混入を抑制するため、製造炉内に流通させる空気はあらかじめフィルタを通す必要がある。炉内壁へのチタニアをドープしたシリカ微粒子が付着しないように石英ガラス製バーナから噴射されるケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスの噴射方向の延長上に排気口を設置することが好ましい。
【0047】
チタニアドープ石英ガラス製造時のターゲットの回転数は5rpm以上、好ましくは15rpm以上、更に好ましくは30rpm以上である。これはチタニアドープ石英ガラス中の脈理、歪み等の構造的、組成的に不均一な領域といったチタニアドープ石英ガラスをEUVリソグラフィ用部材として使用するに際して不適当な物性は回転するターゲットのチタニアドープ石英ガラスが成長する部分の温度の不均一性に大きく依存して発生するからである。そこで、ターゲットの回転数を上げ、チタニアドープ石英ガラスが成長する部分の温度を均一化することでチタニアドープ石英ガラスの構造的、組成的に不均一な領域の発生を抑えることができる。
【0048】
製造したチタニアドープ石英ガラスインゴットは700℃以上1,150℃以下で50時間以上の熱処理を施し、チタニアドープ石英ガラス中の水素分子を除くことが好ましい。日本分光製NRS−2100、励起光源として4Wアルゴンイオンレーザを用いたラマン分光法による測定において、水素分子に起因する4,135cm-1付近におけるピークが検出限界以下である。水素分子を多く含有するチタニアドープ石英ガラスの場合、所望の形状へチタニアドープ石英ガラスを熱成型するに際して、チタニアドープ石英ガラス中に気泡等を発生しやすいからである。
【0049】
ミラー、ステージ、フォトマスク基板等のそれぞれのEUVリソグラフィ用部材に合った所定の形状にすべく、1,500〜1,800℃、1〜10時間熱間成型を行う。熱間成型したチタニアドープ石英ガラスはアニール処理する。アニール処理条件は公知の条件を用いることができ、温度700〜1,300℃、大気中で1〜200時間保持すればよい。また、徐冷条件はチタニアドープ石英ガラスの場合、500℃程度まで徐冷することが一般的であるが、本発明においては300℃まで、より好ましくは200℃まで徐冷する。徐冷速度は1〜20℃/hr、より好ましくは1〜10℃/hrである。
【0050】
アニール−徐冷処理を施したチタニアドープ石英ガラスを、適宜研削加工やスライス加工により所定のサイズに加工した後、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、炭化ケイ素、ダイアモンド、酸化セリウム、コロイダルシリカ等の研磨材を使用して両面研磨機により研磨することによりEUVリソグラフィ用部材に形成する。本発明においては、両面研磨時の凹状欠陥の発生を抑制するため、国際公開第2009/150938号パンフレット記載の方法を採用することが好ましい。
【0051】
本発明において、研磨表面の凹状欠陥の観察は微細な欠陥を測定する必要があるため、EUVリソグラフィの露光波長(λ=13.5nm)の光源を使用する。通常の可視光、紫外線を使用した欠陥検査装置では、本発明で扱う微細な欠陥を検知することが困難であるためである。チタニアドープ石英ガラスはEUVリソグラフィの露光波長に対して、反射率が低いため、表面にスパッタリング法により反射多層膜を成膜する。反射多層膜は厚さ4.5nmのSi層と厚さ2.3nmのMo層を交互に5周期積層する。凹状欠陥は表面に成膜した反射多層膜からの反射光によって観察されるが、表面に凹状欠陥が存在する場合、欠陥形状と同様に反射多層膜が変形するため、反射多層膜からの反射光からは凹状欠陥とほぼ同一の信号が得られるものである。
【0052】
凹状欠陥の測定は、Energetiq社製EUV光源からのEUV光を反射多層膜を成膜したチタニアドープ石英ガラス部材に照射し、反射光を倍率20倍のシュバルツシルト型光学系で集光し、CCDカメラにより検知する。なお、凹状欠陥測定は暗視野観察で行い、EUVリソグラフィ用部材のEUV光反射面における有効領域の全域をスキャンする。次に欠陥による信号が得られた部材位置の反射多層膜上をAFMにより観察し、その形態及び形状を観察し、得られた欠陥の体積を本発明における表面の凹状欠陥体積とした。また、AFM観察により得られた欠陥形状からアスペクト比を導き出した。
【0053】
内包物の測定は、浜松フォトニクス社製スポット光源に可視光光源を接続し、EUV光反射面における有効領域全面をスキャンする。可視光照射部位に光学顕微鏡にて拡大観察することにより、気泡、結晶化部位、局所的な屈折率変動部位(TiO2濃度、OH基濃度といった組成変動部位、ガラス構造上の局所的な変動部位等に対応)等の内包物の有無を確認する。また、光源を紫外光光源(250nm増強タイプ)に変更し、同様に有効領域全面をスキャンすると同時に光学顕微鏡にて観察することにより、不純物の混入等によるチタニアドープ石英ガラスの蛍光色変化の有無を確認する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
図2に記載の石英ガラス製バーナをターゲット材に対して、距離280mm及び角度128°に設置し、表1に記載のガスをそれぞれのノズルに供給して、酸水素炎による四塩化ケイ素、四塩化チタンの酸化又は火炎加水分解反応により生成したSiO2、TiO2を石英製バーナの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着と同時に溶融させることでチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造した。この時、バーナの直前かつ原料ガス用フィルタの直後に図1に示す石英ガラス製原料混合ガス高温加熱部を設置し、[加熱部(1)]及び[加熱部(2)]の温度をそれぞれ375℃及び125℃に保持した。また、バーナ中心多重管部2管目の酸素ガス温度を375℃に保持した。なお、金属配管としてはステンレス配管を用い、ステンレス配管の温度は125℃に保持した。
【0056】
作製したチタニアドープ石英ガラスインゴットを1,100℃で100時間の熱処理を施し、チタニアドープ石英ガラス中の水素を除いた。チタニアドープ石英ガラスインゴット両端よりサンプルを採取し、ラマン分光法による測定で水素分子に起因するピークは観察されなかった。チタニアドープ石英ガラスインゴットを1,700℃で6時間加熱することにより160mm×160mm角柱状熱間成型した。その後、厚さ7mmにスライスして得たチタニアドープ石英ガラス基板を高純度多孔質炭化ケイ素断熱材を使用した炉内において、大気中で850℃、150時間保持して、200℃まで2℃/hrの速度で徐冷した。チタニアドープ石英ガラス基板の端面研磨を施し、152.4mm×152.4mm角状にし、国際公開第2009/150938号パンフレット記載の実施例1に従って、チタニアドープ石英ガラス基板の研磨、洗浄及び乾燥を実施した後、内包物検査を可視光及び紫外光光源を用いて行った。
【0057】
チタニアドープ石英ガラス基板を再度洗浄及び乾燥させた後、反射多層膜を成膜し、反射多層膜を成膜した面の凹状欠陥を測定した。
【0058】
[実施例2]
石英ガラス製原料混合ガス高温加熱部の加熱部(1)における温度を300℃とした。その他の条件は実施例1と同一とした。
【0059】
[実施例3]
石英ガラス製原料混合ガス高温加熱部の加熱部(1)における温度を220℃とした。バーナ中心多重管部2管目の酸素ガス温度を室温(20℃)に保持した。その他の条件は実施例1と同一とした。
【0060】
[実施例4]
石英ガラス製原料混合ガス高温加熱部の加熱部(2)における温度を375℃とした。その他の条件は実施例1と同一とした。
【0061】
[比較例1]
石英ガラス製原料混合ガス高温加熱部を取り外し、ステンレス配管と石英ガラス製バーナを直接接続した。この時、ステンレス配管の温度は125℃に保持した。また、バーナ中心多重管部2管目の酸素ガス温度は室温にした。その他の条件は実施例1と同一とした。
【0062】
[比較例2]
図2に記載の石英ガラス製バーナを使用し、表1に記載のガスをそれぞれのノズルに供給してチタニアドープ石英ガラスインゴットを作製した。その他の条件は実施例1と同一とした。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【符号の説明】
【0065】
1 高温加熱機構
2a 高温加熱部
2b 上流側端部
3 金属配管部
4 フィルタ
10 バーナ
A 中心多重管部
B マルチノズル部
11 原料混合ガス噴出用中心管(ノズル)
12 第1の支燃性ガス供給管
13 第1の可燃性ガス供給管
14 第2の支燃性ガス供給管
15 第2の可燃性ガス供給管
16 第1の外殻管
17 第2の外殻管
18 第3の支燃性ガス供給管
19 第4の支燃性ガス供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを混合し、200〜400℃で加熱した後、可燃性ガス及び支燃性ガスにより酸化又は火炎加水分解させることを特徴とするチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項2】
ケイ素源原料ガスとチタン源原料ガスとの原料混合ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスを噴出させるバーナの上記原料混合ガスの噴出用中心管とガラス製配管又はガラスライニング製配管の下流側端部とを接続し、このガラス製配管又はガラスライニング製配管において上記原料混合ガスを200〜400℃に加熱保持するようにした請求項1記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項3】
上記ガラス製配管又はガラスライニング製配管の上流側端部に金属製配管を接続すると共に、この金属製配管と接続するガラス製配管又はガラスライニング製配管の上流側端部を100〜130℃に保持するようにした請求項2記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項4】
ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスの原料混合ガスを、中心多重管部及びマルチノズル部から構成されたバーナの上記中心多重管の中心管から噴出させると共に、この中心管を取り囲む2管目から支燃性ガスを200〜400℃に加熱した状態で噴出させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項5】
EUV光の反射面における有効領域において、表面に体積30,000nm3以上、アスペクト比10以下の凹状欠陥がないことを特徴とするチタニアドープ石英ガラス。
【請求項6】
内包物がないことを特徴とする請求項5記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項7】
請求項5又は6記載のチタニアドープ石英ガラスから形成されることを特徴とするEUVリソグラフィ用部材。
【請求項8】
EUVリソグラフィフォトマスク用基板であることを特徴とする請求項7記載のEUVリソグラフィ用部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−40080(P2013−40080A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178758(P2011−178758)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】