説明

チタノシリケートの製造方法

【課題】工業的に有利な酸化化合物の製造方法および新規なTi-MWW前駆体を提供すること。
【解決手段】以下の第1工程〜第3工程を含むことを特徴とするTi-MWW前駆体の製造方法。
第1工程
MWW構造を有するゼオライトを形成可能な構造規定剤、元素周期律表の13族元素を含有する化合物、ケイ素含有化合物、チタン含有化合物および水を含有する混合物を加熱して固体を得る工程
第2工程
第1工程で得た固体を、MWW構造を有するゼオライトを形成可能な構造規定剤と接触させる工程
第3工程
第2工程で得た固体を酸処理し、Ti-MWW前駆体を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタノシリケートの製造方法および当該チタノシリケートを触媒とする酸化反応に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ホウ素化合物、オルトチタン酸テトラブチル、ヒュームドシリカとピペリジンから直接水熱合成した層状化合物(as-synthesizedサンプルとも称される)を還流条件下、2Mの硝酸水溶液と接触させ、ピペリジンを除いたTi-MWW前駆体を得て、当該Ti−MWW前駆体を触媒としてプロピレンを過酸化水素と反応させプロピレンオキサイドを製造する方法が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2005-262164
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、工業的使用に好適な活性を有するチタノシリケートの製造方法およびそれを用いた酸化化合物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、以下の第1工程および第2工程を含むことを特徴とするTi-MWW前駆体の製造方法(以下、本発明のチタノシリケート製造方法と称する。)、
第1工程
MWW構造を有するゼオライトを形成可能な構造規定剤、元素周期律表の13族元素を含有する化合物、チタン含有化合物、ケイ素含有化合物、および水を含有する混合物を加熱して固体を得る工程。
第2工程
第1工程で得た固体を、チタン源および無機酸と接触させてTi-MWW前駆体を得る工程、
さらには、当該Ti-MWW前駆体触媒の存在下、酸化剤を有機化合物と反応させることを特徴とする酸化化合物の製造方法(以下、本発明の酸化方法と称する。)に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法で得られるTi-MWW前駆体(以下、本発明のTi-MWW前駆体と称する。)は、酸化反応において良好な触媒活性を示すだけでなく優れた選択性をも有する。さらに、β−ゼオライトと異なり、Ti-MWW前駆体のような前駆物質を経由して生成するMWW型ゼオライトの場合、ゼオライトにした後、チタン源の存在下に無機酸を含む溶液で処理しても骨格外Ti種が少ないチタノシリケートは得られないが、本発明の方法によれば所望のチタノシリケートが得られる。加えて、本発明のTi-MWW前駆体は熱処理することによりTi-MWW構造を有するチタノシリケート(以下、本発明のTi-MWWと称する。)へ変換することも可能であり、本発明のTi-MWWも酸化反応において良好な触媒活性、選択性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
まず、本発明のチタノシリケート製造方法の第1工程について説明する。第1工程は、MWW構造を有するゼオライトを形成可能な構造規定剤(以下、本明細書中では単に構造規定剤と呼ぶこともある。)、元素周期律表の13族元素を含有する化合物、チタン含有化合物、ケイ素含有化合物および水を含有する混合物を加熱し固体を得る工程である。
【0008】
第1工程で用いることが可能な、元素周期律表の13族元素を含有する化合物としては、例えば、ホウ素含有化合物、アルミニウム含有化合物、ガリウム含有化合物が例示され、好ましくはホウ素含有化合物である。ホウ素含有化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素およびトリアルキルホウ素類が例示され、特にホウ酸が好ましい。
【0009】
第1工程の混合物における、元素周期律表の13族元素を含有する化合物の量は、ケイ素含有化合物に含まれるケイ素1モルに対して、0.01〜10モルの範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜5モルの範囲である。
【0010】
第1工程で用いることが可能な、ケイ素含有化合物としては、例えば、ケイ酸、ケイ酸塩、酸化ケイ素、ハロゲン化ケイ素、ヒュームドシリカ類、テトラアルキルオルトケイ酸エステル類およびコロイダルシリカが例示され、好ましくはヒュームドシリカ類である。
【0011】
第1工程の混合物における、ケイ素含有化合物と水との割合は、ケイ素1モルに対して水が5〜200モルの範囲であることが好ましく、より好ましくは、10〜50モルの範囲である。
【0012】
第1工程で用いることが可能な、チタン含有化合物としては、例えば、チタンアルコキシド、チタン酸塩、酸化チタン、ハロゲン化チタン、チタンの無機酸塩、チタンの有機酸塩が例示され、チタンアルコキシドが好ましい。
【0013】
第1工程の混合物における、チタン含有化合物の量は、ケイ素含有化合物中のケイ素1モルに対して通常、0.005〜0.05モルの範囲であり、より好ましくは、0.01〜0.05モルの範囲である。
【0014】
第1工程で用いることが可能な構造規定剤としては、例えば、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウム塩(例えば、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヒドロキシド、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムイオダイド等)、オクチルトリメチルアンモニウム塩(例えば、オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド等)(例えば、Chemistry Letters 916-917 (2007)参照)等が例示される。これらの内、好ましい構造規定剤は、ピペリジンおよびヘキサメチレンイミンからなる群から選ばれる少なくとも一種である。これらの化合物は単独で用いても良いし、2種類以上を任意の割合で混合して用いても構わない。ピペリジンおよびヘキサメチレンイミンの混合物を用いてもよい。
【0015】
第1工程の混合物における、構造規定剤は、ケイ素含有化合物中のケイ素1モルに対して、0.1〜5モルの範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜3モルの範囲である。
【0016】
第1工程における加熱操作は、混合物をオートクレーブ等の密閉容器に入れ、加熱しつつ加圧する水熱合成条件下で行うことが好ましい(例えば、Chemistry Letters 774-775 (2000)参照)。好ましい温度としては110℃〜200℃の範囲であり、より好ましくは120℃〜180℃の範囲である。加熱後、混合物は、通常、ろ過により固体成分と液体成分に分離される。この際、余剰の原料が有る場合は、これらもろ過により分離される。さらに好ましくは、水等を用いて、固体成分を洗浄、加熱乾燥することで本発明の第一工程の生成物である固体が得られる。ここで、固体成分をろ液のpHが10.0〜11.0となるまで洗浄することが特に好ましく、さらに洗浄後、必要により、0℃〜100℃程度の温度で重量減少が無くなるまで乾燥してもよい。
【0017】
次に、本発明のチタノシリケート製造方法の第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で得た固体を、チタン源および無機酸と接触させ、Ti-MWW前駆体を得る工程である。
【0018】
第2工程における無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、フルオロスルホン酸およびこれらの混合物が例示され、4価チタンよりも高い酸化還元電位を有する硝酸、過塩素酸、フルオロスルホン酸およびこれらの混合物が好ましい無機酸として例示される。酸を溶液中で使用する場合には、その溶媒としては、例えば、水、アルコール、エーテル、エステル、ケトンもしくはそれらの混合物が例示され、特に水が好ましい。使用される無機酸の濃度は特に制限はなく、通常、0.01M〜20M(M:モル/リットル)の範囲で実施される。好ましい無機酸の濃度は1M〜5Mである。
【0019】
第2工程におけるチタン源としては、チタン化合物が挙げられる。チタン化合物としては、例えば、チタンアルコキシド、酢酸チタン、硝酸チタン、硫酸チタン、リン酸チタン、過塩素酸チタン、4塩化チタン等のチタンハロゲン化物、二酸化チタンが例示され、チタンアルコキシドが特に好ましい。用いるチタン源の量は、第1工程で得られる固体の1重量部に対し通常、0.001〜10重量部であり、望ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0020】
第1工程で得られる固体とチタン源および無機酸との接触は、通常、第1工程で得られる固体をチタン源および無機酸の混合物と接触させることにより行われ、その温度としては20℃から150℃が好ましく、さらに50℃から104℃が特に好ましい温度範囲である。接触させる際の圧力については、特に制限は無いが、通常、ゲージ圧力で0〜10MPa程度である。これらの条件で第1工程で得られる固体をチタン源および無機酸と接触させることにより、Ti-MWW前駆体を得ることができる。かくして得られたTi-MWW前駆体は、さらに、例えば、層間を脱水縮合させることによりゼオライト構造を形成させ、Ti-MWW構造を有するチタノシリケートにすることができる(Chemistry Letters 774-775 (2000))。脱水縮合は、熱処理によって行われ、例えば、約530℃に加熱して行われる。
【0021】
Ti-MWW前駆体とは、これを焼成することによりMWW (IZA(国際ゼオライト学会)の構造コード)構造を有するチタノシリケートであるTi-MWWとなるものの総称であり、チタノシリケートとは、テクトケイ酸塩中のSiの一部がTiに同形置換されたものの総称である(触媒の事典(朝倉書店) 2000年11月1日発行)の「チタノシリケート」の項の記載を参照)。TiのSiとの同形置換は、例えば、紫外可視吸収スペクトルで210 nm〜230 nmにピークを持つことにより容易に確認できる。
【0022】
かくして製造される本発明のTi-MWW前駆体は、酸化反応等において触媒として使用することができる。本発明のTi-MWW前駆体は、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤を用いてシリル化して用いてもよい。また、本発明の製造方法で得られるTi-MWW前駆体を公知の方法と似たやり方で焼成するなどの熱処理をしてTi-MWWを製造し、これを酸化反応の触媒として用いても良い。
【0023】
本発明のTi-MWW前駆体を触媒として用いた酸化反応において使用できる酸化剤としては、分子状酸素または過酸化物が挙げられる。過酸化物としては、例えば過酸化水素あるいは有機過酸化物が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルヒドロペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、メチルシクロヘキシルヒドロペルオキシド、テトラリンヒドロペルオキシド、イソブチルベンゼンヒドロペルオキシド、エチルナフタレンヒドロペルオキシドおよび過酢酸が挙げられるが、これらに限定されるわけではなく、またこれらの過酸化物の2種以上を混合し使用することもできる。
【0024】
過酸化物としては過酸化水素を使用することが最も好ましく、通常、0.0001重量%〜100重量%の濃度範囲の過酸化水素水溶液が酸化反応に用いられる。過酸化水素は、公知の方法で製造されたものを用いてもよいし、酸化反応の行われる反応器内で貴金属の存在下に酸素と水素から製造されたものを用いてもよい。
【0025】
本発明のTi-MWW前駆体を触媒として用いた酸化反応に供される有機化合物としては、ベンゼン等の芳香族化合物、フェノール化合物、オレフィン化合物、シクロアルカノン化合物等のケトン化合物が例示され、酸化反応としては、典型的には、これらの有機化合物から芳香族化合物もしくはフェノール化合物の芳香環がヒドロキシル化されたフェノ−ルもしくは多価フェノール化合物を製造するヒドロキシル化反応、オレフィン化合物をエポキシ化して対応するエポキシ化合物を製造するエポキシ化反応、ケトン化合物から、アンモオキシム化反応によりケトン化合物に対応するオキシム化合物を製造するアンモオキシム化反応等の酸化反応が例示される。
【0026】
オレフィン化合物としては、具体的には、炭素数2〜10のアルケン、炭素数4〜10のシクロアルケンが例示され、ケトン化合物としては、炭素数3〜13のケトン化合物が例示され、炭素数4〜10のシクロアルカノンが好ましい。
【0027】
フェノール化合物としては、無置換もしくは置換フェノールが例示される。ここで置換フェノールとは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐アルキル基あるいはシクロヘキシル基などのシクロアルキル基で置換されたアルキルフェノールを意味し、具体的には、例えば、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2-エチルフェノール、3-イソプロピルフェノール、2-ブチルフェノール、2-シクロヘキシルフェノールが例示されるが、特にフェノールが好ましい。
【0028】
炭素数2〜10のアルケンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、2-ブテン、イソブテン、2-ペンテン、3-ペンテン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、2-オクテン、3-オクテン、2-ノネン、3-ノネン、2-デセン及び3-デセン等が例示される。
【0029】
炭素数4〜10のシクロアルケンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロへキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン等が例示される。
【0030】
炭素数4〜10のシクロアルカノンとしては、例えば、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが例示される。炭素数3〜13のケトン化合物としては、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトンのようなジアルキルケトン、メシチルオキシドのようなアルキルアルケニルケトン、アセトフェノンのようなアルキルアリールケトン、ベンゾフェノンのようなジアリールケトンが例示される。
【0031】
本発明のTi-MWW前駆体は、例えば、有機化合物として、炭素数2〜10のアルケンを、酸化剤として過酸化水素と反応させて酸化する(エポキシ化)反応に好適に用いられる。さらに最も好ましくは有機化合物がプロピレンであり、酸化剤が過酸化水素であるプロピレンオキサイドを製造する酸化反応に用いられる。
また、本発明のTi-MWW前駆体は、有機化合物として、ケトン化合物を用いこれをアンモニアおよび過酸化水素と反応させアンモオキシム化してオキシム化合物を製造する酸化反応に使用でき、なかでもシクロヘキサノンを酸化してシクロヘキサノンオキシムを製造する酸化反応の触媒として適している。
【0032】
本発明のTi-MWW前駆体は、適切な濃度の過酸化水素溶液で処理することにより活性化して使用することもできる。通常、使用される過酸化水素溶液の濃度は0.0001重量%〜50重量%の範囲である。過酸化水素溶液は、水溶液もしくはその他の溶媒の溶液として使用することができる。溶媒としては、酸化反応の溶媒等の中から好適な溶媒を選択することができる。過酸化水素処理の温度は、通常、0℃〜100℃の範囲で行われる。好ましい温度は、0℃から60℃である。
【0033】
過酸化水素としては、酸化反応の行われる反応器内で酸素と水素から製造される過酸化水素を使用することもでき、酸素と水素から過酸化水素を製造する反応に使用する貴金属触媒としては、例えば、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、金等の貴金属、またはそれらの合金もしくは混合物があげられる。好ましい貴金属としては、パラジウム、白金、金があげられる。さらにより好ましい貴金属はパラジウムである。パラジウムとしては、例えば、パラジウムコロイドを用いてもよい(例えば、特開2002-294301号公報、実施例1等参照)。
【0034】
パラジウムには、白金、金、ロジウム、イリジウム、オスミウム等の金属を添加混合して用いることができる。好ましい添加金属としては、白金があげられる。
また、これらの貴金属は、酸化物や水酸化物等の化合物の状態であっても良い。貴金属化合物の状態で反応器に充填し、反応条件下、反応原料中の水素により部分的あるいは全てを還元することもできる。
貴金属は、通常、担体に担持して使用される。貴金属は、本発明のTi-MWW前駆体に担持して使用することもできるし、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ニオビア等の酸化物、ニオブ酸、ジルコニウム酸、タングステン酸、チタン酸等の水化物または炭素およびそれらの混合物に担持して使用することもできる。本発明のTi-MWW前駆体以外に貴金属を担持させた場合、貴金属を担持した担体を本発明のTi-MWW前駆体と混合し、当該混合物を触媒として使用することができる。本発明のTi-MWW前駆体以外の担体の中では、炭素が好ましい担体として挙げられる。炭素担体としては、例えば、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が知られている。
貴金属担持触媒の調製方法としては、例えば、Pdテトラアンミンクロリド等のアンミン錯体等、を担体上に含浸法等によって担持した後、還元する方法が知られている。還元方法としては、水素等の還元剤を用いて還元しても良いし、不活性ガス下、熱分解時に発生するアンモニアガスで還元しても良い。還元温度は、貴金属アンミン錯体によって異なるがPdテトラアンミンクロリドを用いた場合は、通常、100℃から500℃であり、200℃から350℃が好ましい。
かくして、得られる貴金属担持物は、貴金属を、通常、0.01〜20重量%の範囲、好ましくは0.1〜5重量%含むものである。
本発明のTi-MWW前駆体に対する貴金属の重量比(貴金属の重量/本発明のTi-MWW前駆体の重量)は、好ましくは、0.01〜100重量%、より好ましくは0.1〜20重量%である。
【0035】
以下、オレフィン化合物の酸化(エポキシ化)反応によりエポキシ化合物を製造する方法を例にあげ詳細に説明する。この製造方法においては、反応は、通常、水、有機溶媒あるいはその両者の混合物からなる液相中で行われる。有機溶媒としては、例えば、アルコール、ケトン、ニトリル、エーテル、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル、グリコール、またはそれらの混合物が挙げられ、触媒活性、選択性の観点から、好ましい有機溶媒として、アルコール、ニトリルが例示される。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびt-ブタノールなどの低級脂肪族アルコールが好ましく、t-ブタノールが最も好ましい。ニトリルとしては、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ブチロニトリル等のC2〜C4のアルキルニトリルおよびベンゾニトリルが好ましく、アセトニトリルが最も好ましい。
【0036】
エポキシ化合物の製造方法においては、緩衝塩を反応溶媒に加える方法も、触媒活性の減少を防止したり、触媒活性をさらに増大させたり、原料ガスの利用効率を向上させることができるため有効である。緩衝塩を反応溶媒に加える方法としては、緩衝塩を液相中に溶解させた後、反応に使用する方法が一般的であるが、予め貴金属錯体の一部に含ませておくことも有効である。例えば、Pdテトラアンミンクロリド等のアンミン錯体等を担体上に含浸法等によって担持した後、還元し、アンモニウムイオンを残存させ、エポキシ化反応中に緩衝塩を発生させる方法である。緩衝塩の添加量は通常、単位溶媒重量(水および有機溶媒の合計重量)あたり、通常、0.001 mmol /kg〜100 mmol/kgである。
緩衝塩としては、1)硫酸イオン、硫酸水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸2水素イオン、ピロリン酸水素イオン、ピロリン酸イオン、ハロゲンイオン、硝酸イオン、水酸化物イオンもしくはC1-C10カルボン酸イオンから選ばれるアニオンと、2)アンモニウム、アルキルアンモニウム、アルキルアリールアンモニウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩から選ばれるカチオンとからなる緩衝塩が例示される。
C1-C10カルボン酸イオンとしては、例えば、酢酸イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、吉草酸イオン、カプロン酸イオン、カプリル酸イオン、カプリン酸イオン、安息香酸イオンが例示される。
アルキルアンモニウムの例としては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ-n-プロピルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウムが挙げられ、アルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオンの例は、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、ルビジウムカチオン、セシウムカチオン、マグネシウムカチオン、カルシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、バリウムカチオンが例示される。
好ましい緩衝塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、ピロリン酸水素アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩または酢酸アンモニウム等のC1-C10のカルボン酸のアンモニウム塩が例示され、好ましいアンモニウム塩としては、リン酸2水素アンモニウムが挙げられる。
【0037】
エポキシ化合物の製造方法において、反応器内で酸素と水素から過酸化水素を合成して使用する場合は、キノイド化合物を、本発明のTi-MWW前駆体、貴金属触媒担持物とともに反応溶媒に加える方法も、酸化化合物の選択性をさらに増大させることができるため有効である。
キノイド化合物としては、下記式(1)のρ−キノイド化合物およびフェナントラキノン化合物が例示される。
式(1)



(式中、R、R、RおよびRは、水素原子を表すかあるいは、互いに相隣り合うRとR、あるいはRとRは、それぞれ独立に、その末端で結合し、それぞれが結合しているキノンの炭素原子とともに、アルキル基もしくはヒドロキシル基で置換されていてもよいベンゼン環もしくはアルキル基もしくはヒドロキシル基で置換されていてもよいナフタレン環を表し、XおよびYは同一または互いに相異なり、酸素原子もしくはNH基を表す。)
式(1)の化合物としては、
1)式(1)にいおいて、R、R、RおよびRが、水素原子であり、XおよびYが共に酸素原子であるキノン化合物(1A)、
2)式(1)において、R、R、RおよびRが、水素原子であり、Xが酸素原子であり、YがNH基であるキノンイミン化合物(1B)、
3)式(1)において、R、R、RおよびRが、水素原子であり、XおよびYがNH基であるキノンジイミン化合物(1C)が例示される。
式(1)のキノイド化合物には、下記のアントラキノン化合物(2)が含まれる。
式(2)



(式中、XおよびYは式(1)において定義されたとおりであり、R、R、RおよびRは、同一または互いに相異なり、水素原子、ヒドロキシル基もしくはアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル等のC1-Cアルキル基)を表す。)の化合物。
式(1)および式(2)において、XおよびYは好ましくは、酸素原子を表す。式(1)のXおよびYが酸素原子であるキノイド化合物は、特別にキノン化合物あるいはρ−キノン化合物と呼ばれており、また、式(2)のXおよびYが酸素原子であるキノイド化合物は、更に特別にアントラキノン化合物と呼ばれている。
キノイド化合物のジヒドロ体としては、前記式(1)および(2)の化合物のジヒドロ体である下記の式(3)および(4)の化合物が例示される。
式(3)


(式中、R、R、R、R、XおよびYは、前記式(1)に関して定義されたとおり。)
式(4)

(式中、X、Y、R、R、RおよびRは前記式(2)に関して定義されたとおり。)
式(3)および式(4)において、XおよびYは好ましくは、酸素原子を表す。式(3)のXおよびYが酸素原子であるキノイド化合物のジヒドロ体は、特別にジヒドロキノン化合物あるいはジヒドロρ−キノン化合物と呼ばれており、また、式(4)のXおよびYが酸素原子であるキノイド化合物のジヒドロ体は、更に特別にジヒドロアントラキノン化合物と呼ばれている。
フェナントラキノン化合物としては、ρ−キノイド化合物である1,4-フェナントラキノン、ο−キノイド化合物である1,2-、3,4-および9,10-フェナントラキノンが例示される。
【0038】
具体的なキノン化合物としては、例えば、ベンゾキノンやナフトキノン、アントラキノン、例えば2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−ブチルアントラキノン、2−t−アミルアントラキノン、2−イソプロピルアントラキノン、2−s−ブチルアントラキノンまたは2−s−アミルアントラキノン等の2−アルキルアントラキノン化合物ならびに、2−ヒドロキシアントラキノン、例えば1,3−ジエチルアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、1,4−ジメチルアントラキノン、2,7−ジメチルアントラキノン等のポリアルキルアントラキノン化合物、2,6−ジヒドロキシアントラキノン等のポリヒドロキシアントラキノン、ナフトキノンおよびその混合物があげられる。
好ましいキノイド化合物としては、アントラキノンや、2−アルキルアントラキノン化合物(式(2)において、XおよびYが酸素原子であり、R5が2位に置換したアルキル基であり、R6が水素を表し、R7およびR8が水素原子を表す。)があげられる。好ましいキノイド化合物のジヒドロ体としては、これらの好ましいキノイド化合物に対応するジヒドロ体が挙げられる。
キノイド化合物もしくはキノイド化合物のジヒドロ体(以下、キノイド化合物誘導体と略記する。)を反応溶媒に添加する方法としては、キノイド化合物誘導体を液相中に溶解させた後、反応に使用する方法が挙げられる。例えばヒドロキノンや、9,10-アントラセンジオールのようにキノイド化合物が水素化された化合物を液相中に添加し、反応器内で酸素により酸化してキノイド化合物を発生させて使用しても良い。
さらに、例示したキノイド化合物を含め、本発明で用いるキノイド化合物は、反応条件によっては、一部が水素化されたキノイド化合物のジヒドロ体となり得るが、これらの化合物を使用してもよい。
用いるキノイド化合物の量は、単位溶媒重量(水、有機溶媒もしくは両者の混合物の単位重量)あたり、通常、0.001 mmol/kg〜500 mmol/kgの範囲で実施することができる。好ましいキノイド化合物の量は、0.01 mmol/kg〜50 mmol/kgである。
さらに本発明の方法においては、アンモニウム、アルキルアンモニウムまたはアルキルアリールアンモニウムからなる塩とキノイド化合物を同時に反応系中に加えることも可能である。
【0039】
エポキシ化合物を製造方法の反応方法としては、流通式固定床反応、流通式スラリー完全混合反応等があげられる。
【0040】
予め製造した過酸化物を用いてオレフィン化合物を酸化してエポキシ化する反応の場合、反応ガス雰囲気に特に制限はないが、酸化反応の行われる反応器内で貴金属の存在下に酸素と水素から過酸化物を製造させる場合は、反応器に供給する酸素と水素の分圧比は、通常、1:50〜50:1の範囲で実施される。好ましい酸素と水素の分圧比は、1:2〜10:1である。酸素と水素の分圧比(酸素/水素)が高すぎるとエポキシ化合物の生成速度が低下する場合がある。また、酸素と水素の分圧比(酸素/水素)が低すぎると、アルカン化合物副生の増大によりエポキシ化合物の選択率が低下する場合があるため前記のような酸素と水素の分圧比の範囲が採用される。本反応で用いられる酸素および水素ガスは希釈用のガスで希釈して反応を行うことができる。希釈用のガスとしては、窒素,アルゴン,二酸化炭素、メタン,エタン,プロパンがあげられる。希釈用ガスの濃度に特に制限は無いが、必要により、酸素あるいは水素を希釈して反応は行われる。
酸素原料としては、酸素ガス、あるいは空気等があげられる。酸素ガスは安価な圧力スウィング法で製造した酸素ガスも使用できるし、必要に応じて深冷分離等で製造した高純度酸素ガスを用いることもできる。
酸化化合物製造反応における反応温度は、通常0℃〜200℃、好ましくは40℃〜150℃である。
反応温度が低すぎると反応速度が遅くなり、反応温度が高くなりすぎると副反応による副生成物が増加する。
反応圧力は、特に制限は無いが、通常、ゲージ圧力で0.1 MPa〜20 MPa、好ましくは、1MPa〜10MPaである。反応の生成物の回収は、通常の蒸留分離により行うことができる。
【0041】
次いでケトン化合物を、アンモニアおよび過酸化水素と反応させアンモオキシム化してケトンオキシムを製造する反応について説明する。
【0042】
過酸化物としては、前記のとおりの過酸化水素を含む過酸化物が使用されるが、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドのような有機過酸化物が好ましいものとして例示される。これらの中でも、過酸化水素が反応性の点で好ましい。
【0043】
過酸化物の使用量は、ケトン1モルに対して、通常、0.5〜3モル、好ましくは0.5〜1.5モルとするのがよい。なお、前記過酸化物には、前記のエポキシ化反応において使用してもよい緩衝塩や、例えば、リン酸ナトリウムのようなリン酸塩、ピロリン酸ナトリウムやトリポリリン酸ナトリウムのようなポリリン酸塩、ピロリン酸、アスコルビン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトロトリ酢酸、アミノトリ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等が添加されていてもよい。
【0044】
アンモニアは、ガス状のものを用いてもよいし、液状のものを用いてもよく、また、水や有機溶媒の溶液として用いてもよい。
【0045】
アンモニアの使用量は、反応混合物の液相におけるアンモニア濃度が、例えば、1重量%以上となるように調整するのがよい。このように、反応混合物の液相中のアンモニア濃度1重量%以上とすることにより、原料のケトンの転化率と目的物のオキシムの選択率およびオキシムの収率を高めることができる。反応混合物の液相におけるアンモニア濃度は、好ましくは1.5重量%以上となるようにするのがよく、一方、その上限は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下となるようにするのがよい。なお、アンモニア使用量は、ケトン1モルに対して、通常、1モル以上、好ましくは1.5モル以上程度である。
【0046】
アンモオキシム化反応は、溶媒中で行うこともできる。溶媒としては、前記のような有機溶媒を使用してもよいが、好ましくは、例えば、ベンゼン、トルエンのような芳香族、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、t−アミルアルコールのようなアルコール、水等が挙げられる。これらの中でも、アルコールや水が好ましく、特に、アルコールと水の混合溶媒が反応性の点でより好ましい。
【0047】
アンモオキシム化反応は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。特に、反応系内に、ケトン、過酸化物及びアンモニアを供給しながら、反応系内から反応混合物を抜き出すことにより連続式で行うことが、生産性および操作性の点からは、望ましい。
【0048】
回分式反応は、例えば、反応器にケトン、アンモニア、触媒及び溶媒を入れ、攪拌下、この中に過酸化物を供給して行ってもよいし、反応器にケトン、触媒及び溶媒を入れ、攪拌下、この中に過酸化物及びアンモニアを供給して行ってもよいし、反応器に触媒及び溶媒を入れ、攪拌下、この中にケトン、過酸化物及びアンモニアを供給して行ってもよい。
【0049】
連続式反応は、例えば、反応器内に触媒が懸濁した反応混合物を存在させるようにして、この中にケトン、過酸化物、アンモニア及び溶媒を供給しながら、反応器からフィルター等を介して反応混合物の液相を抜き出すことにより、好適に行うことができる。 なお、回分式、連続式のいずれの場合も、反応器には、過酸化物の分解を防ぐ観点から、グラスライニングされたものやステンレススチール製のものが好ましく用いられる。
【0050】
アンモオキシム化反応の反応温度は、通常50〜120℃、好ましくは70〜100℃とするのがよい。また、反応圧力は常圧でもよいが、反応混合物の液相にアンモニアを溶解させ易くするためには、通常、絶対圧で0.2〜1MPa、好ましくは0.2〜0.5MPaの加圧下に反応を行うのが好ましい。加圧下で行なう場合、窒素やヘリウム等の不活性ガスを用いて、圧力を調整してもよい。
【0051】
アンモオキシム化反応で得られた反応混合物からオキシムを回収する際の後処理操作については、特に制限はなく、通常の方法に従って適宜行えばよい。例えば、反応混合物から触媒を濾過やデカンテーション等により分離した後、液相を蒸留に付すことにより、オキシムを分離、回収することができる。この反応は、ケトン化合物としてシクロヘキサノンをアンモオキシム化してシクロヘキサンオキシムを製造するのに好適である。
【0052】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例における分析装置
元素分析方法
Ti(チタン)は、アルカリ融解-硝酸溶解-ICP発光分析法により、触媒中の重量を求めた。即ち、白金坩堝に試料約20mgを量り取り、試料上に炭酸ナトリウムを被せた後、ガスバーナーで融解操作を行った。融解後、純水及び硝酸で白金坩堝中の内容物を加熱溶解し、その後、純水で定容した後、この測定溶液をICP発光分析装置(ICPS-8000 島津製作所製)にて各元素の定量を行った。
【0053】
粉末X線回折法(XRD)
サンプルを以下の装置、条件で粉末X線回折パターンを測定した。
装置:理学電機社製RINT2500V
線源:Cu Kα線
条件:出力 40kV-20mA
範囲:2θ=0.75〜20°
走査速度:
【0054】
紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)
サンプルをメノウ乳鉢でよく粉砕後、ペレット化(7mmφ)し以下の装置、条件で紫外可視吸収スペクトルを測定した。
装置:拡散反射装置(HARRICK製 Praying Mantis)
付属品:紫外可視分光光度計(日本分光製(V-7100))
圧力:大気圧
測定値:反射率
データ取込時間:0.1秒
バンド幅:2nm
測定波長:200〜900nm
スリット高さ:半開
データ取込間隔:1nm
ベースライン補正(リファレンス):BaSO4ペレット(7mmφ)
【0055】
実施例1
触媒Iの調製
室温、Air雰囲気下、オートクレーブにピペリジン257g、純水686g、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)6.4g、ホウ酸162g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)117gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら8時間かけて昇温した後、160℃で120時間保持することで、水熱合成を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液のpHが10.2になるまで水洗した。次にろ塊を50℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、125gの固体を得た。
上記の通り得られた固体 15gに2Mの硝酸750mL、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)1.9gを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、150℃で重量減少が見られなくなるまで真空乾燥して12gの白色粉末を得た。この白色粉末のX線回折パターン、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、Ti-MWW前駆体(触媒I)であることが確認された。また、ICP発光分析によるチタン含量は1.51重量%であった。
【0056】
実施例2
触媒IIの調製
上記のように実施例1で得られた触媒I 10gを530℃で6時間焼成し、9gのTi-MWW(触媒II)を得た。得られた粉末がMWW構造を持つことは、X線回折パターンを測定することにより確認した。紫外可視吸収スペクトル測定結果からチタノシリケートであることが分かった。
【0057】
実施例3
触媒IIIの調製
室温、Air雰囲気下、オートクレーブにピペリジン899g、純水2402g、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)112g、ホウ酸565g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)410gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら8時間かけて昇温した後、160℃で96時間保持することで、水熱合成を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液のpHが10.7になるまで水洗した。次にろ塊を50℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、547gの固体を得た。
上記の通り得られた固体 15gに2Mの硝酸750mL、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)1.9gを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、150℃で重量減少が見られなくなるまで真空乾燥して12gの白色粉末を得た。この白色粉末のX線回折パターン、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、Ti-MWW前駆体(触媒III)であることが確認された。また、ICP発光分析によるチタン含量は3.95重量%であった。
【0058】
実施例4
触媒IVの調製
室温、Air雰囲気下、オートクレーブにピペリジン257g、純水686g、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)13.2g、ホウ酸162g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)117gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら8時間かけて昇温した後、160℃で120時間保持することで、水熱合成を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液のpHが10.4になるまで水洗した。次にろ塊を50℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、145gの固体を得た。
上記の通り得られた固体 75gに2Mの硝酸3750mL、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)9.5gを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、150℃で重量減少が見られなくなるまで真空乾燥して49gの白色粉末を得た。この白色粉末のX線回折パターン、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、Ti-MWW前駆体(触媒IV)であることが確認された。
【0059】
実施例5
触媒Vの調製
室温、Air雰囲気下、オートクレーブにピペリジン257g、純水686g、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)3.3g、ホウ酸162g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)117gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら8時間かけて昇温した後、160℃で120時間保持することで、水熱合成を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液のpHが10.4になるまで水洗した。次にろ塊を50℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、137gの固体を得た。
上記の通り得られた固体 75gに2Mの硝酸3750mL、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)9.5gを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、150℃で重量減少が見られなくなるまで真空乾燥して61gの白色粉末を得た。この白色粉末のX線回折パターン、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、Ti-MWW前駆体(触媒V)であることが確認された。また、ICP発光分析によるチタン含量は1.35重量%であった。
【0060】
比較例1
触媒iの調製
室温、Air雰囲気下、オートクレーブにピペリジン899g、純水2402g、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)22g、ホウ酸565g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)410gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら8時間かけて昇温した後、160℃で120時間保持することで、水熱合成を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液のpHが10.4になるまで水洗した。次にろ塊を50℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、564gの固体を得た。
上記の通り得られた固体 75gに2Mの硝酸3750mLを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、150℃で重量減少が見られなくなるまで真空乾燥して57gの白色粉末を得た。この白色粉末のX線回折パターン、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、Ti-MWW前駆体であることが確認された。
上記のように得られたTi-MWW前駆体 20gを530℃で6時間焼成し、18gのTi-MWWを得た。得られた粉末がMWW構造を持つことは、X線回折パターンを測定することにより確認した。紫外可視吸収スペクトル測定結果からチタノシリケートであることが分かった。
上記の通り得られたTi-MWW 15gに2Mの硝酸750mL、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)1.9gを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、150℃で重量減少が見られなくなるまで真空乾燥して16gの白色粉末を得た。この白色粉末のX線回折パターン、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、Ti-MWW (触媒i)であることが確認された。また、ICP発光分析によるチタン含量は1.17重量%であった。
【0061】
Pd/活性炭(AC)触媒の調製
Pd/活性炭(AC)触媒は、以下の方法により調製した。予め2Lの水にて洗浄した活性炭(和光純薬製)3 gと水300mLとを 1Lナスフラスコ中に加え空気下、室温にて撹拌した。この懸濁液に、Pdコロイド(日揮触媒化成製) 0.30 mmolを含む水溶液100 mLを空気下、室温にてゆっくり滴下した。滴下終了後、さらに懸濁液を空気下、室温にて8時間撹拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、80℃にて6時間真空乾燥、さらに窒素雰囲気下300℃で6時間焼成し、Pd/AC触媒を得た(Pd/AC触媒)。
【0062】
チタノシリケート触媒の過酸化水素処理
チタノシリケート触媒は、実施例6以外に用いる場合はすべて以下の方法に従い過酸化水素前処理を実施した。チタノシリケート 0.266g当たり、0.1重量%の過酸化水素を含む水/アセトニトリル=1/4(重量比)の溶液100gで、室温下、1時間処理し、ろ過後、500mLの水で洗浄した。
【0063】
実施例6
反応は容量0.3Lのオートクレーブを反応器として用い、この中に触媒I(1.20g)を入れ、窒素500mL/分、プロピレン2114mmol/hr、およびH2O2 7重量%、水/アセトニトリル=20/80(重量比)の溶液を559mL/hrの速度で供給し、反応器からフィルターを介して反応混合物を抜き出すことにより、温度60℃、圧力3MPa (ゲージ圧)、滞留時間10分の条件で連続式反応を行った。反応開始から5.5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、過酸化水素の転化率は 98.2%であり、プロピレンオキサイドの生成速度は661mmol/hrであった。
【0064】
実施例7
反応は容量0.5 Lのオートクレーブを反応器として用い、この中に予め過酸化水素処理した触媒I(0.266 g)およびPd/AC触媒0.03gを入れ、プロピレン/酸素/水素/窒素の体積比が4/4/10/82となる原料ガスを16 L/hr、アントラキノン0.7ミリモル/kgおよびプロピレンオキサイド1重量%を含有する水/アセトニトリル=20/80(重量比)の溶液を108mL/時間の速度で供給し、反応器からフィルターを介して反応混合物を抜き出すことにより、温度60℃、圧力0.8MPa (ゲージ圧)、滞留時間90分の条件で連続式反応を行った。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量の合計は7.48mmol/hrであり、プロピレングリコールの選択率(プロピレングリコールの生成量/プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量×100)は11%であった。
【0065】
実施例8
触媒Iの代わりに、触媒IIを用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。反応開始から6時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量の合計は7.31mmol/hrであり、プロピレングリコールの選択率(プロピレングリコールの生成量/プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量×100)は9%であった。
【0066】
実施例9
触媒Iの代わりに、触媒IIIを用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。反応開始から6時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量の合計は6.49mmol/hrであり、プロピレングリコールの選択率(プロピレングリコールの生成量/プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量×100)は8%であった。
【0067】
実施例10
触媒Iの代わりに、触媒IVを用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。反応開始から6時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量の合計は6.16mmol/hrであり、プロピレングリコールの選択率(プロピレングリコールの生成量/プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量×100)は16%であった。
【0068】
実施例11
触媒Iの代わりに、触媒Vを用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。反応開始から6時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量の合計は4.64mmol/hrであり、プロピレングリコールの選択率(プロピレングリコールの生成量/プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量×100)は12%であった。
【0069】
比較例2
触媒Iの代わりに、触媒iを用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。反応開始から6時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量の合計は0.28mmol/hrであり、プロピレングリコールの選択率(プロピレングリコールの生成量/プロピレンオキサイドとプロピレングリコールの生成量×100)は18%であった。
【0070】
他方、実施例1、実施例4、比較例1で得られた触媒I、IV、iのUV吸収スペクトルを測定した。反射率をK-M変換して吸光度(abs.)とし、200nmにおける吸光度(abs.)が1となるよう補正した結果を図1に示す。
【0071】
図1は、実施例1、実施例4、比較例1で得られた触媒I、IV、iのUV吸収スペクトルの測定結果を表すグラフである。図1から実施例1、4で得られたチタノシリケートは、比較例1で得られたチタノシリケートに比べ、4配位Ti種を表す210 nm〜230 nm付近における吸収は多く、骨格外Ti種を表す320 nm〜330 nmにおける吸収が少ないことが明らかである。
【0072】
図1


【産業上の利用可能性】
【0073】
本願発明の製造方法で得られるTi-MWW前駆体は、酸化反応において良好な触媒活性を示すだけでなく優れた選択性を示し、有用な触媒として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の第1工程および第2工程を含むことを特徴とするTi-MWW前駆体の製造方法。
第1工程
MWW構造を有するゼオライトを形成可能な構造規定剤、元素周期律表の13族元素を含有する化合物、チタン含有化合物、ケイ素含有化合物、および水を含有する混合物を加熱して固体を得る工程。
第2工程
第1工程で得た固体を、チタン源および無機酸と接触させてTi-MWW前駆体を得る工程。
【請求項2】
請求項1に記載のTi−MWW前駆体の製造工程および生成した当該Ti-MWW前駆体を熱処理する工程を含むTi-MWW構造を有するチタノシリケートの製造方法。
【請求項3】
第1工程において、MWW構造を有するゼオライトを形成可能な構造規定剤がピペリジン、およびヘキサメチレンイミンからなる群から選ばれる少なくとも一種以上である請求項1に記載のTi-MWW前駆体の製造方法。
【請求項4】
第1工程において、元素周期律表の13族元素を含有する化合物がホウ素化合物である請求項1に記載のTi-MWW前駆体の製造方法。
【請求項5】
請求項1、3または4の何れかに記載のTi−MWW前駆体の製造工程、次いで当該工程で生成したTi-MWW前駆体もしくはそれをさらにシリル化したTi−MWW前駆体の存在下に、酸化剤を有機化合物と反応させる工程を含む酸化化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載のTi−MWWの製造工程および当該製造工程で生成したTi−MWW構造を揺するチタノシリケートの存在下に酸化剤を有機化合物と反応させる工程を含む酸化化合物の製造方法。
【請求項7】
酸化剤が酸素または過酸化物である請求項5または6に記載の酸化化合物の製造方法。
【請求項8】
過酸化物が、過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、メチルシクロヘキシルヒドロペルオキシド、テトラリンヒドロペルオキシド、イソブチルベンゼンヒドロペルオキシド、エチルナフタレンヒドロペルオキシドおよび過酢酸からなる群から選ばれた少なくとも一種以上の化合物である請求項7に記載の酸化化合物の製造方法。
【請求項9】
有機化合物の酸化反応がアンモオキシム化反応またはオレフィンのエポキシ化反応またはベンゼン若しくはフェノール化合物のヒドロキシル化反応である請求項5〜8のいずれかに記載の酸化化合物の製造方法。
【請求項10】
有機化合物の酸化反応が過酸化水素を酸化剤とするオレフィンのエポキシ化反応である請求項9に記載の酸化化合物の製造方法。
【請求項11】
過酸化水素が、オレフィンのエポキシ化反応を行う反応器内で合成した過酸化水素である請求項10に記載の酸化化合物の製造方法。
【請求項12】
有機化合物の酸化反応を、アルコール、ケトン、ニトリル、エーテル、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル、グリコールまたはそれらの混合物から選ばれる有機溶媒の存在下に行う請求項5〜11に記載の酸化化合物の製造方法。
【請求項13】
有機溶媒が、アセトニトリルまたはt-ブタノールである請求項12に記載の酸化化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−138032(P2010−138032A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315457(P2008−315457)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】