説明

チタンアコ−オキソ塩化物、及びその調製方法

【課題】本発明は、チタンアコ-オキソ塩化物及びその調製方法に関する。
【解決手段】本化合物は、結晶の形態であり、重量で次の組成を有し:Ti 26.91%;Cl 21.36%;及びH 4.41%、及び式[Ti12(HO)24]Cl・HCl・7HOに該当する。本調製方法は、チタンアコ-オキソ塩化物を得るために、含水量が50〜60%に維持される雰囲気の中で、或いはアルカリ金属炭酸塩ACOにより、TiOClを加水分解することにある。本化合物は、光電池の半導体素子として、又は空気若しくは水の精製処理の際の光触媒として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンアコ-オキソ塩化物(titanium aquo-oxo chloride)、その調製方法及び種々の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
支持体上で二酸化チタンを使用する不均一系の光触媒作用は、とりわけ、水及び空気の除染での用途を見出した高度先進酸化技術である。この光触媒作用は、UV光線の作用により、及び酸素と水の存在で二酸化チタンの表面での分子の転化に依るものであり、これによって、CO、HO及びNOのような単純な成分に完全に分解することが可能である。光触媒の効率は、この触媒の物理化学的特性、同素形、比表面積及び表面酸性度によって決まる。支持体上に堆積された光触媒の使用により、水の除染の場合は、光触媒の回復のための濾過段階が省かれる、或いは空気の除染の場合は、汚染された流出物と光触媒との接触が最適化される。触媒に対して使用される支持体は様々である。列挙可能である例には、粉体状、繊維状又はバルク状の各酸化物(例えば、SiO又はAl)、繊維質セルロース(紙)、合成高分子、及びガラスが挙げられる。TiO層はゾル−ゲル法により支持体上に堆積されてもよく、この方法では、懸濁物の状態で二酸化チタン粉末が直接使用されるか、又は熱処理後に二酸化チタンに転化される四塩化チタン若しくはチタンアルコキシドのような前駆体が使用される。二酸化チタンの供給源によって決まるが、この堆積は、ディプコーティング、スプレーコーティング又は化学蒸着の技術を使って行なうことが可能である。粉体状酸化チタンは、ポリマー形状のケイ素アルコキシド及び/又はチタンアルコキシドを使用することにより、支持体に付着される。
【0003】
ゾル−ゲル法によって堆積されたTiO膜は、層の耐摩耗性及び/又は耐食性に関して重大な欠点を有する。亀裂を生じさせることなく、厚い皮膜(>1μm)の形でTiO膜を得ることは難しい。この膜は、一般に極めて脆く、耐摩耗性が劣る。更に、一般に、支持体へのTiOの付着性とTiOの光触媒的比活性との間に逆作用が存在する。TiOを得、かつ優れた特性を得るには、比較的高い温度が必要である(T=350〜450℃)が、この温度の範囲内で、基板として使用されるガラスの中に含有されるNaイオンがTiO層の中に拡散しているのが観察される。この拡散は光触媒活性には有害である、と言うのはNaイオンは電子−正孔対の再結合を促進するからであり、従ってバリヤー層の挿入が必要であり、それによって余分のコストがかかる。
【0004】
ライヒマン(Reichmann)等[アクタ・クリスタログラフィカ(Acta Cryst.)、セクションC、1987年、第43巻、p.1681−1683]が、空気中でTiClと水分との自発反応により生成する生成物の中の単結晶についてのXRD(X線回折法)分析によって推定される式の化合物は、[Ti12(HO)24]Cl・HCl・7HOであることを確認した。このオキシ塩化物は、粉末の集塊の中央部に存在する小さい無色の不規則な結晶の形態をとる。小さい不規則な結晶は、凝集体の中心部から単離されて種々の分析にかけられた。これらの結晶の化学量論は、[Ti12(HO)24]Cl・HCl・7HOに該当し、構造は立方晶チタン八量体から構成されている。この化合物に関するデータは、www.icdd.comのサイト上でICCD(回折データの国際センター(International Center for Diffraction Data))により公表されているPDF(粉末回折ファイル(Powder Diffraction File))01−078−1628の中で公表されている。単斜晶格子定数は次の通りである:a=20.30580(20)Å、b=11.71720(18)Å、c=25.39840(15)Å、β=117.201(6)°及びC2/c 対称群。しかしながら、多数の水分子が存在すること、即ちその分子の占有係数は整数ではないことは、結晶子の劣品質と関連がある組成分布及び/又は無秩序を表している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面と界面特性との相互作用は材料の性能に影響を及ぼすことがあるので、本発明の目的は、酸化チタンが基板上で膜の形態であるデバイスの製造に対して、とりわけ光触媒作用に対して、又は半導体素子の製造に対して好適な酸化チタン前駆体の新規の調製方法を提供することである。
【0006】
従って、本発明の主題は、チタンアコ-オキソ塩化物の調製方法、得られるチタンアコ-オキソ塩化物、及びその用途である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるチタンアコ-オキソ塩化物の調製方法は、チタンアコ-オキソ塩化物(以後の本明細書では“Ti12”と呼ぶ)を得るために、含水量を50〜60%に維持した雰囲気の中で、或いはアルカリ金属炭酸塩ACOによって、TiOClを加水分解することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
化合物TiOClは極めて吸湿性なので、この化合物は濃塩酸水溶液の中に溶解され、即ちTiOCl・yHCl水溶液の形態で使用される。この溶液のHCl濃度は、約2Mが有利である。この溶液中のTiOCl濃度は4M〜5.5Mが好ましい。濃厚なHCl溶液中の4.3M又は5MのTiOCl溶液は市販されている。化合物TiOCl・yHClは、以後の本明細書では“TiOCl”と呼ぶ。
【0009】
50〜60%の含水量を有する雰囲気の中で“TiOCl”化合物を保持することによりこの化合物を加水分解するために、相対湿度が約50〜60%であるような各々の量で室温において、“TiOCl”溶液をHSO/HO混合物の上方に置いて、“TiOCl”溶液を約5週間、前記混合物と接触させたままにすることが特に有利である。次の反応スキームによって転化が起こる:
8“TiOCl”+35HO→“Ti12”+7HCl
反応媒体の中に存在している硫酸によって、生成するHClが取り除かれる。
【0010】
炭酸塩により加水分解を行なうとき、Ti/Aの比が4±0.5、好ましくは4±0.1であるような各々の量で室温において、“TiOCl”溶液をアルカリ金属炭酸塩ACOと接触させ、48〜72時間、前記炭酸塩と接触させる。転化は次の反応スキームに従って起こる:
8“TiOCl”+35HO+ACO
“Ti12”+5HCl+CO(g)+2ACl
【0011】
“Ti12”化合物は、本発明の方法によって結晶の形態で得られる。この化合物は重量で次の組成を有する:Ti 26.91%;Cl 21.36%;及びH 4.41%、そしてこの組成は、チタンアコ-オキソ塩化物(以後の本明細書では“Ti12”と呼ぶ)の式[Ti12(HO)24]Cl・HCl・7HOに該当する。
【0012】
前記化合物は単斜晶構造を有する。単斜晶格子定数は次の通りであり:
a=20.3152(11)Å、b=11.718(7)Å、c=24.2606(16)Å、β=111.136(7)°及び対称群はCcである。
【0013】
“Ti12”化合物は、例えば水、メタノール、エタノール等のような極性溶媒に可溶である。[Ti12(HO)248+カチオンを安定化するpHを2より小さい値に保つことにより、この化合物は、これらの溶液の中で“Ti12”の形態で保存可能である。
【0014】
極性溶媒の中の単分散“Ti12”粒子は、溶液のイオン強度を10−2〜10−3のCl値に調整することによって24時間で得ることが可能である。1つの具体例は、チタン濃度[Ti]が例えば0.1Mであるような“Ti12”の量と、塩化物の濃度[Cl]が10−2M〜10−3Mであるようなアルカリ金属塩化物の量を極性溶媒に加えることにある。塩化物イオンをこれらの溶液に加えると、Clイオンが[Ti12(HO)248+ポリカチオンを取り囲むと言う事実により、極性溶媒の中で“Ti12”結晶の解離、及びクラスターの分散が促進される。
【0015】
こうして得られる溶液を使用することにより、結晶から形成される薄い層を基板上に堆積することが可能である。この堆積は、全てのタイプの基板、例えばガラス基板、に対してディプコーティング、スプレーコーティング又は化学蒸着法を使って行なうことが可能であり、基板が金属系のときは電気めっきによって可能である。こうして得られる層は、正に荷電したポリカチオン[Ti12(HO)248+と塩基支持体、例えばガラス、との間の酸−塩基の化学相互作用により塩基性支持体への優れた密着性を発現する。
【0016】
“Ti12”溶液は、TiOの通常形態の室温での自然(in situ)調製にも使用可能であるが、格子の次元の数及び粒度が制御される新規の変種にも使用可能である。“Ti12”化合物を含有する溶液に対する正確なpH制御及び溶媒の選択によって、その他の重縮合(1D、2D、3D)酸化チタンの形態が調製可能である。前述のように、極性溶媒の中の“Ti12”溶液をpH<2に保つと、[Ti12(HO)248−ポリカチオンが安定化されるので、チタンアコ-オキソ塩化物の形態で“Ti12”が保持される。pHが2〜3の“Ti12”溶液の中でチタンアコ-オキソ塩化物は加水分解を開始し、ポリマーを形成する。溶液のpHが4〜6のとき、即ち、溶液がゼロ電荷の点に向かうにつれてチタンアコ-オキソ塩化物は加水分解され、3D固体を形成する。最も高く荷電された粒子は最も安定であり、ゼロ電荷の点が近付くにつれて重縮合速度は増加する。この速度を落とすために、より小さい誘電率の溶媒が使用される(εH2O=78.5;εエタノール=24.3)。アルコール溶液のpHは、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を加えることにより下げることが可能である。
【0017】
提案した方法によって得られる“Ti12”生成物は、特に光電池の半導体素子として有用である。本発明のもう1つの主題は、半導体素子が本発明にかかるチタンアコ-オキソ塩化物から成る光電池である。
【0018】
本発明にかかる生成物は、空気又は水の精製処理の際の光触媒としても有用である。従って、本発明の主題は、支持体上の触媒が本発明にかかるチタンアコ-オキソ塩化物である、光触媒による空気精製プロセス、及び支持体上の触媒が本発明にかかるチタンアコ-オキソ塩化物である、光触媒による水性流出物の精製プロセスである。この用途に対しては、粒径が約2nm(0D)である単分散溶液を使用することが特に好ましく、それによって比表面積が大幅に増加する。
【実施例】
【0019】
本発明を、下記の実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、それらの実施例に限定されない。
【0020】
“Ti12”層を堆積するのに使用した支持体は、純水中2%に稀釈したRBS溶液を使用して事前に洗浄したガラス板である。サン・ゴバン(Saint-Gobain)より販売されているRBS溶液は、アニオン性界面活性剤、リン酸塩、水和物及び塩素化剤を含有するアルカリ性溶液である。
【0021】
[実施例1]
“Ti12”の調製
SO/HO混合物500mlを含有するデシケーターの中に、5.5MのTiOCl・yHCl水溶液数ミリリットルを入れ、相対湿度を制御して、室温で放置した。数日後、透明な結晶が生成し、その粒度は1ミリメートル〜1センチメートルと様々であった。得られた結晶は、僅かな劣化もさせないように密閉容器の中に保管した。
【0022】
化学分析
化学分析により、重量で次の組成を得た:Ti 26.91%;Cl 21.36%;及びH 4.41%。この組成はチタンアコ-オキソ塩化物の式[Ti12(HO)24]Cl・HCl・7HOに該当する。
【0023】
XRD(X線回折法)による分析
得られた化合物を乾燥したのち、得られた粉末をXRD分析にかけた。得られたXRD分析は、前述のライヒマン(Reichmann)等による式[Ti12(HO)24]Cl・HCl・7HOの化合物に対して決定されたC−中心型単斜晶格子を使って行なった。回折線の位置及びそれらの積分強度は、ジェイ・エム・バーベット(J.M.Barbet)、ピー・デニアード(P.Deniard)及びアール・ブレック(R.Brec)により開発されたプロリックス(PROLIX)プログラムを使って決定した(“プロリックス”、アイネル・X線曲線検出装置による粉末回折データの処理(“PROLIX”、Treatment of Inel X-ray Curve Detector Powder Diffraction Data):鎖長、プログラム及び実験結果(Chains,Program and Experimental Results))。結晶パラメータは、エム・エベン(M.Evain)によって発表されたユー−フィット(U-FIT)プログラムを使って精密化した(“ユー−フィット(U-FIT)”、格子定数プログラム(A Cell Parameter Program)、アイ・エム・エヌ−ナント市(IMN-Nantes(1992年))]。
【0024】
c及びβを除いて、精密化された格子定数[a=20.305(7)Å、b=11.716(6)Å、c=25.390(4)Å及びβ=115.001(8)°]は、単結晶回折によって得られた格子定数[a=20.3152(11)Å、b=11.718(7)Å、c=24.2606(16)Å及びβ=111.136(7)°]とよく一致している。指摘される差は、粉末を基準にした精密化と、単結晶を基準にした精密化との間の実質的に異なる格子の選択によるものである。
【0025】
精密化の特性ファクタは、2θ測定値と2θ計算値との平均差、D:
D=(1/nhkl)Σ|d(2θ)|=0.0108、及び次の方程式によって与えられる確信度、R:
R=1/(nhkl−nvar)Σ(2θ測定値−2θ計算値=0.0139°(式中、nhklは分析された反射数であり、nvarは精密化された変数の数である)である。
【0026】
XRD分析が、“Ti12”を得ることは定量的であり、スプリアスライン(spurious line)は確認されていないことを示している。回折線の指標付け及び相対強度を次表に示している:
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
図1は、本実施例の化合物の回折線図を示していて、本化合物の線図は前記PDFファイル01−078−1628(ライヒマン(Reichmann)等によって発表された前記化合物に該当する)からのデータから得られる理論線図に重ね合わされている。理論線図の中では、ラインは、正方形が上に載せられた単一の垂直なラインで示されている。ラインの強度が実質的に異なることを示していることは明らかである。
【0031】
熱分析
室温で乾燥した試験片の熱的挙動を、示差走査熱量測定法(DSC)と結合した熱重量分析法(TGA)によって検討した。
【0032】
TGA及びDSCの両分析は、アルゴン気流中で5K/分又は2K/分の速度で加熱した約20mgの試験片についてセタラム・ティ・ジー(SETARAM TG)-DSC 111測定器を使って行なった。熱処理過程での放出ガスは、レイボルド(LEYBOLD) H300CIS測定器を使って確認した。
【0033】
図2は、2K/分(曲線2A)及び5K/分(曲線2B)の加熱速度でアルゴン中で記録された“Ti12”相の熱重量曲線(実線)及び示差走査熱量測定法曲線(点線)を示している。減量M(%単位)は、x軸にプロットされた温度T(℃単位)の関数としてy軸にプロットされている。
【0034】
400℃で得られた粉体状最終生成物は、粉末X線線図から確認されたTiOのアナタース変種に該当する。約150℃で観察される熱加水分解反応(図2B)は、TGA/DSCの両曲線上で110℃と148℃にある2ヶ所の強い吸熱ピークによって明らかであり、これらのピークには急速な減量が伴っている。実験による減量(55%)は予想減量(56%)に匹敵する。
【0035】
示差熱重量分析(DTGA)は、熱力学的制御項目から力学的制御項目を切り離すように行なった。実験は、温度傾斜を設定したのち、減量が増すにつれて温度上昇速度が低下するように、或る閾値を超えると温度傾斜を減量と連動することにある。次いで、4個の擬似平坦域(pseudo-plateau)が識別可能なので、熱重量変化プロファイルがかなり改良され(図2A)、反応中間体の存在を示唆している。各々の平坦域の間の減量は、各々、28%、14%、7%及び6%である。
【0036】
[実施例2]
“Ti12”の調製
Ti/Caのモル比が4に等しくなるような比率で、炭酸ナトリウムを5.5MのTiOCl・yHCl水溶液に加えたのち、室温で置かれたペトリ皿の中にこの混合物を注入した。48時間後に透明な結晶の形成が観察された。実施例1のように結晶を回収したのち、密閉容器の中に保管した。
【0037】
[実施例3]
“Ti12”溶液の調製
チタン濃度(Ti)が0.1Mである“Ti12”水溶液は、実施例1の操作方法に従って調製した“Ti12”1.8172gを超純水100mlに入れることにより調製した。チタン濃度が0.01Mである溶液を得るために、得られた前記溶液の一部を10倍に稀釈した。
【0038】
溶液中の“Ti12”粒度に及ぼすイオン強度の影響を検討するために、種々の量の粉体状KClを加えた。これらの量は、10−1M、10−2M、10−3M及び10−4Mの、[Cl]で表されるKCl濃度を有する溶液の形成に該当した。粒子の流体力学的径は、ベックマン−コールター(Beckman-Coulter)・N4プラス測定器を使って、光子相関分光法により測定した。粒径が数個の等級に配分されている多分散溶液は、[Ti]=0.1Mで且つ[Cl]=10−1M又は10−4Mで得られた。単分散溶液は[Ti]=0.1Mで且つ[Cl]=10−2M又は10−3Mで得られた。単分散溶液の場合の流体力学的径を図3に示している。流体力学的径D(nm単位)をX軸にプロットしている。重量パーセンテージPをY−軸にプロットしていて、該当する値は“S1”と“S2”の各行に示している。S1の行は10−2MのKCl濃度に該当し、S2の行は10−3MのKCl濃度に該当する。流体力学的径が2.2nm程度に集中していることは明らかである。この値は、結晶学的データから測定された値とほぼ同じであり、図4に示すように、塩素原子と水分子によって囲まれた“Ti12”クラスターに該当する。
【0039】
[実施例4]
ディプコーティングによるガラス上への“Ti12”膜の堆積
チタン濃度が0.35Mの“Ti12”のアルコール溶液は、ビーカーの中で無水エタノール60mlの中に“Ti12”3.8161gを添加することにより調製した。前記溶液を含有するビーカーを、高さが調整可能な支持体の上に置いた。クランプを使って固定した“顕微鏡スライド”タイプのガラス板を、ビーカーの上部で垂直に保持した。ディプコーティングにより堆積を行なったが、このコーティングは、前記ガラス板を前記溶液の中に浸漬したのち一定速度でそのガラス板を引き上げることにあった。ディプコーティングが終わると、ガラス板を空気中で約5分間乾燥した。この操作を5回繰り返した。次いで、熱処理を行なう炉の中に前記ガラス板を入れたが、熱処理は、2時間にわたって温度を300℃に上げること、この温度を4時間保持し、次いで4時間にわたって20℃に冷却するものである。
【0040】
ガラス板に堆積した膜は均質で透明な層の形態であり、その層の厚さは走査電子顕微鏡(SEM)の測定により100nmであった。図5は前記膜の断面のSEM画像を示している。図6に示しているように、前記膜のXRD線図は、非晶質“Ti12”の格子間距離に該当する約12.7°及び23.7°にある2個のブロードな形体、並びに未確認の結晶相に起因すると考えられる16.1°及び31.8°の2個の狭いピークを有する。各ピークの高さからみて、“Ti12”相が優勢であると見ることが可能である。方程式2dsinθ=nλ(式中、λ=1.5418(銅の対陰極))を使って、16.1°及び31.8°の2θ角から計算したこの未確認相の格子間距離は、各々、5.47Å、及び2.28Åであった。
【0041】
[実施例5]
ディプコーティングによるガラス上への“Ti12”膜の堆積
チタン濃度が0.1Mの“Ti12”のアルコール溶液は、無水エタノール100mlの中に“Ti12”1.8172gを添加することにより調製した。実施例4に記載の“ディプコーティング”と呼ばれる方法を使って膜を製造した。各々の堆積が終わると、75℃での炉処理によりガラス板を乾燥した。こうして各ガラス板上に5種の膜を製造した。膜の構造に及ぼす熱処理の影響を検討するために、ガラス板を次の温度プログラムにかけた:
【0042】
【表4】

【0043】
ガラス板上に堆積した膜の厚さは、SEMによる測定で200−250nmであった。試験片3に該当する膜の断面のSEM画像を示す図7では、この図の中央部の実質的に垂直な明るい区域は“Ti12”ゲルを表し、この図の右側の暗い区域はガラス基板を表す。XRD線図を図8に示している。これらの曲線は、下方から順番に熱処理物1、2、3、4及び5に対応している。この線図は、“Ti12”の格子間距離に該当する約12.7°及び約23.7°の位置にある形体、並びに約31.8°(試験片2及び3の場合)及び約16.1℃の位置にあるラインを示していて、このラインは実施例4でも得られた未確認の相に特徴的な5.47Å及び2.82Åの格子間距離に該当する。
【0044】
[実施例6]
スピンコーティングによるガラス上への“Ti12”膜の堆積
水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)のアルコール溶液は、R=Ti/TMAOHのモル比が1.5≦R≦3になるように、エタノール5mlの中に溶解した“Ti12”結晶を含有するビーカー中にビュレットを使って一滴ずつ加えた。二酸化チタンTiOの沈殿物が現われる前にTMAOHの添加を停止したが、透明な溶液は徐々に粘稠になった。したがって、溶液の中の混合物の一部を、スピンコーティングによってガラス板上に速やかに堆積させた。スピンコーティングにより、即ち制御された回転速度、加速度及び時間と共にガラス板の上で少量の溶液を回転することにより、膜を広げた。
【0045】
ガラスの上でのスピンコーティングによる堆積過程で粒径に及ぼすRの影響を観察するために、種々の溶液を使用した。使用した化合物の量を下表に示している。
【0046】
【表5】

【0047】
図9の左手部分に示しているSEM顕微鏡写真は、R=1.5の場合に得られた粒径を示している。nm単位の面積AがX軸にプロットされている粒子面積分布のヒストグラムを、図9の右手部分に示している。これは粒子分散の極めて優れた均一性を示していて、これによって約300nmの平均粒子表面積、即ち約17nmの直径で8%被覆率が得られる。Ti/TMAOH比が増すにつれて、即ちアルコール溶液のpHが低下するにつれて粒度は減少する。アルコール媒体の中の種々のTi/TMAOH比のスピンコーティングでガラスの上に膜を堆積することにより、支持体に強く付着して100nm〜3nmの範囲の直径を有する単分散粒子を得ることができた。
【0048】
[実施例7]
金属支持体上への“Ti12”の電気めっき
チタン濃度が0.04Mの“Ti12”のアルコール溶液は、無水メタノール100mlの中に“Ti12”0.7269gを添加することにより調製した。次いで、真空蒸着により金の薄膜で被覆された直径25mmのワットマン(Whatman)ガラスフリット膜(20nmの細孔径を持つ)から成る電極に、1時間、カロメル参照電極に対して−0.5Vのバイアスをかけた。通電した電流の量は1300クーロンに相当した。EDX(エネルギー分散X線分光法)−SEM分析により、4に近いTi/Cl比、即ちチタン80%であることが判った。図10に示しているSEM画像は、直径約10nm〜20nmの細孔を意味する直径10nmの粒子の凝集物から成る比較的均一な膜を示している。Ti/Cl比が4なので、チタンの75%はTiOの形態であり、残部は“Ti12”の形態である。
【0049】
[実施例8]
チタン濃度が0.01Mの“Ti12”のアルコール溶液は、無水メタノール100mlの中に“Ti12”0.1817gを添加することにより調製した。次いで、真空蒸着により金の薄膜で被覆された直径25mmのワットマンガラスフリット膜(20nmの細孔径を持つ)により形成された電極に、6時間、カロメル参照電極に対して−0.2Vのバイアスをかけた。通電した電流の量は1750クーロンに相当した。EDX−SEM分析により、Ti/Cl比は82/18に近いことが判った。このTi/Cl比を仮定すると、チタンの78%はTiOの形態であり、残部は“Ti12”の形態であった。
【0050】
図11に示しているSEM画像は、膜の多孔質構造を示している。
【0051】
[実施例9]
実施例4によって堆積した膜の光触媒活性を、気相メタノール劣化試験によって測定した。16.3℃で500ppmの濃度に相当する6mlのメタノール飽和空気量を、ガスシリンジを使ってリアクターに注入した。平衡に達するように、全体を2〜3時間暗所に保管したのち、UV光線(λ=360nm)に曝露した。6時間にわたってメタノール濃度が515ppmから440ppmへ減少することが観察され、12.5ppm/時の初期劣化速度に相当した。
【0052】
膜の光触媒活性の結果を図12に示している。垂直な棒が貫通している点は、メタノール濃度の時間関数とする変化(左手軸にプロットされた任意単位のMの値)を表し、一方、棒の付かない点は、CO濃度の時間関数とする変化(右手軸にプロットされた任意単位のCの値)を表す。図中に書き込まれた種々の区域は、試験したパラメータに該当する。“Obs.”で表された区域は平衡に該当し、2個の“UV”区域はUV照射に該当し、“UV+HO”区域はHOの噴射を伴ったUV照射に該当し、そして“Obs.+HO”はHO噴射を伴った平衡に該当する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本実施例の化合物の回折線図を示す。
【図2】図2は、2K/分(曲線2A)及び5K/分(曲線2B)の加熱速度でアルゴン中で記録された“Ti12”相の熱重量曲線(実線)及び示差走査熱量測定法曲線(点線)を示す。
【図3】図3は、単分散溶液の場合の流体力学的径を示す。
【図4】図4は、塩素原子と水分子によって囲まれた“Ti12”クラスターに該当する。
【図5】図5は、膜の断面のSEM画像を示している。
【図6】図6は、図5に示した膜のXRD線図である。
【図7】図7は、膜の断面のSEM画像を示している。
【図8】図8は、図7に示した膜のXRD線図である。
【図9】図9の左手部分に示しているSEM顕微鏡写真は、R=1.5の場合に得られた粒径を表し、図9の右手部分の図は、nm単位の面積AがX軸にプロットされている粒子面積分布のヒストグラムを表す。
【図10】図10は、SEM画像を表す。
【図11】図11は、SEM画像を表す。
【図12】膜の光触媒活性の結果を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水量を50〜60%に維持した雰囲気の中で、或いはアルカリ金属炭酸塩ACOによって、TiOClを加水分解することを特徴とするチタンアコ-オキソ塩化物の調製方法。
【請求項2】
前記TiOClが、TiOCl・yHCl水溶液の形態であることを特徴とする特許請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液のHCl濃度が約2Mであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記TiOCl・yHCl濃度が4M〜5.5Mであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
室温で、相対湿度が約50〜60%であるような各々の量で、前記TiOCl・yHCl溶液をHSO/HO混合物の上方に置き、約5週間、前記混合物と接触させることことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
室温で、Ti/A比が4±0.5であるような各々の量で、前記TiOCl・yHCl溶液をアルカリ金属炭酸塩ACOに接触させて、48〜72時間、前記炭酸塩と接触させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
Ti/A=4±0.1であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
式[Ti12(HO)24]Cl・HCl・7HOに該当し、重量でTi 26.91%;Cl 21.36%;及びH 4.41%の組成を有する結晶の形態のチタンアコ-オキソ塩化物であって、前記塩化物が、次の単斜晶格子定数:a=20.3152(11)Å、b=11.718(7)Å、c=24.2606(16)Å、β=111.136(7)°、及びCc対称群を持つ単斜晶構造を有することを特徴とする塩化物。
【請求項9】
極性溶媒の中で単分散粒子から形成されることを特徴とする、請求項8に記載の結晶形態のチタンアコ-オキソ塩化物。
【請求項10】
前記粒子の流体力学的径が2.2nm程度に集中することを特徴とする、請求項9に記載のチタンアコ-オキソ塩化物。
【請求項11】
基板上で薄膜の形態であることを特徴とする、請求項8に記載のチタンアコ-オキソ塩化物。
【請求項12】
前記基板がガラスから形成されることを特徴とする、請求項11に記載のチタンアコ-オキソ塩化物。
【請求項13】
請求項11または12に記載のチタンアコ-オキソ塩化物により形成されることを特徴とする半導体素子。
【請求項14】
触媒が、請求項11または第12に記載のチタンアコ-オキソ塩化物であることを特徴とする、光触媒作用による空気の精製方法。
【請求項15】
触媒が、請求項11または12に記載のチタンアコ-オキソ塩化物であることを特徴とする、光触媒作用による水性廃液の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−528596(P2006−528596A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530327(P2006−530327)
【出願日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001038
【国際公開番号】WO2004/101436
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(503434139)ソントル ナショナル ド ラ ルシェルシュ ションティフィーク (20)
【Fターム(参考)】