説明

チタントレイ方式電気防食構造体

【課題】梁下面のように波浪の激しい箇所においても高圧の海水がチタントレイ内に侵入することなく、チタントレイの損傷を防止すると共に、施工時に陽極と鉄筋が固定用のチタンねじを介して短絡することのない電気防食構造を構成する構造体を提供する。
【解決手段】長方形のチタン板210の長辺側を側面に傾斜を持たせて内側に折り込みフレーム部Fを形成し、樹脂製スペーサ230を分散配置して陽極材250を支持し、前記フレーム部Fまでモルタルを充填したことを特徴とするチタントレイ方式電気防食構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリートの内部にある鉄筋を電気防食するための電気防食構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート中の鉄筋は、コンクリートの中性化および塩分濃度の増加に伴って腐食し、その鉄筋コンクリート構造物の機能を低下させることがある。例えば、臨海および海洋環境において海水、波浪および気温の変化などに起因して、鉄筋コンクリート中の塩分濃度が上昇したり、あるいはコンクリートが中性化したりする場合がある。このような環境下におかれた鉄筋コンクリートの構造物を防食する方法として電気防食がある。これは、コンクリートを介して陽極から鉄筋コンクリートの中に直流電流を通電し、その鉄筋表面を腐食に対して不活性にすることにより達成されるものである。
【0003】
大気中のコンクリート構造物の電気防食は、社会資本維持保全の必要性から適用が続いている。電気化学的補修工法研究会(CP研)の集計によれば、我が国の施工実績は1990年から2006年までに約13万m(280件)、その内、本出願人の施行実績は約2.3万m(20件)である。
【0004】
電気防食の方式としては、「チタンリボンメッシュ方式」、「チタンメッシュ方式」などの工法がある。
【0005】
このような背景のもと、本出願人は2000年10月から自社工法として「チタントレイ方式」を開発してきた。
【0006】
チタントレイ方式100は、図1に示すように、チタン板110(厚さ0.5mm)の4辺に樹脂製フレーム120(幅20×高さ12mm)を両面テープで貼り付けてトレイ(お盆)状の容器を形成し、これを空のままコンクリート面CPに樹脂製プラグ130およびチタンねじ140で固定する。次にチタントレイ内に特殊モルタルを充填した後、チタントレイ間をチタンコネクタで接続して電気防食用陽極を構成するものである。図中において符号150で示した部材は、陽極材である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3841037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、前述したような「チタントレイ方式」の電気防食では、梁下面のように波浪の激しい箇所では高圧の海水がチタントレイ内に侵入して、一部のチタントレイが損傷した。また、陽極材とチタン板が電気的に接続するので施工時に陽極と鉄筋が固定用のチタンねじを介して短絡するという問題が明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、前述のような観点から、梁下面のように波浪の激しい箇所においても高圧の海水がチタントレイ内に侵入することなく、チタントレイの損傷を防止すると共に、施工時に陽極と鉄筋が固定用のチタンねじを介して短絡することのない電気防食構造を構成すべく鋭意研究を行った結果、次のような知見を得た。
【0010】
(1)「従来チタントレイ」損傷のメカニズム
チタントレイは高圧海水が侵入することによって損傷した。そのメカニズムを以下に説明する。なお、損傷の大半はタイプA(幅240×長さ990mm:大型)で生じた。
(a)樹脂フレームとコンクリート表面との隙間の形成
従来のチタントレイではチタンねじの間隔がタイプAで最大326mmであり、チタンねじ間の樹脂フレームが変形することによって樹脂フレーム中央部とコンクリート表面との間に1〜2mmを隙間が生じた。
(b)高圧海水の侵入
激しい波浪によって生じた高圧海水が前記隙間からチタントレイ内に侵入した。高圧海水はさらにチタン板と硬化したモルタルとの間に侵入し、チタン板を膨らませた。このことは、ウォータージェットによる試験で確認できた。
(c)チタン板の剥離
膨らんだチタン板はチタンねじを樹脂プラグごと引き抜いた結果、チタン板が剥離した。
【0011】
(2)従来チタントレイの問題点を改善するための対策
(a)樹脂フレームを使用しない
樹脂フレームは、固定時ならびに海水侵入時に変形するため使用しないことにした。その代わりに、チタン板の長辺側を折り曲げてフレーム部を形成した。また、海水の圧力を受けにくくするためにフレーム部を45度に面取りした。
(b)モルタルをフレームに充填する
陽極材を支持するための樹脂製スペーサを小型化して分散し、充填モルタルをチタン板のフレーム部まで充填できるようにした。このことにより、(1)フレーム部の剛性を高くする、(2)樹脂プラグの引き抜きを防止する、および(3)モルタルのバックフィル効果範囲を広げるなどの効果が期待できる。
(c)チタントレイの小型化
従来の実施では、小型のチタントレイ(タイプBやC)は損傷が少なかった。これらは、タイプAと比較して、(1)チタンねじの間隔が狭いこと、(2)チタントレイ面積当たりのチタンねじの本数が多いことから損傷を受けにくかったものと考えられ、新型チタントレイにおいては、(1)チタンねじの間隔を190mmまで狭め、さらに(2)チタントレイの幅を240mmであったものを170mmまで狭めて小型化した。
(d)陽極材とチタン板とを絶縁
樹脂製スペーサで陽極を固定することによって陽極と鉄筋がチタンねじを介して短絡することを防いだ。
【0012】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 長方形のチタン板の長辺側を側面に傾斜を持たせて内側に折り込みフレーム部を形成し、樹脂製スペーサを分散配置し陽極材を支持し、前記フレーム部までモルタルを充填したことを特徴とするチタントレイ方式電気防食構造体。
(2) 前記チタン板の短辺側の長さが、170mm以下であるとともに、樹脂製スペーサを固定するチタンねじの間隔が、190mm以下であることを特徴とする(1)に記載のチタントレイ方式電気防食構造体。」
に特徴を有するものである。
【0013】
本発明について、以下に説明する。
【0014】
本発明のチタントレイ方式電気防食構造体において、固定時ならびに海水侵入時に変形しやすい樹脂フレームは使用しないこととした。その代わりに、チタン板の長辺側を折り曲げてフレーム部を形成した。また、海水の圧力を受けにくくするためフレーム部を45度に面取りした。
陽極材を支持するための樹脂製スペーサを小型化して分散し、充填モルタルをチタン板のフレーム部まで充填できるようにした。
チタンねじの間隔を190mmまで狭め、さらに、チタントレイの幅を170mmまで狭めて小型化した。
【発明の効果】
【0015】
本発明のチタントレイ方式電気防食構造体は、陽極材を支持するための樹脂製スペーサを小型化して分散し、充填モルタルをチタン板のフレーム部まで充填できるようにしたことにより、(1)フレーム部の剛性を高くする、(2)樹脂プラグの引き抜きを防止する、および(3)モルタルのバックフィル効果範囲を広げるなどの効果が期待できる。
また、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体は、チタン板を折り曲げてフレーム部を構成することにより耐久性が向上する。
さらに、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体は、従来のチタントレイと同等以上に施工性が良いことが確認できた。
さらに、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体は、陽極と鉄筋が短絡しない構造であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の「チタントレイ方式」の概要図を示す。
【図2】本発明のチタントレイ方式電気防食構造体の平面図を示す。
【図3】本発明のチタントレイ方式電気防食構造体の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0018】
本発明のチタントレイ方式電気防食構造体の内側を描写した平面図を図2に斜視図を図3に示す。
図2および図3から明らかなように、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体200においては、従前使われていた樹脂フレームを使用していない。これにより固定時ならびに海水侵入時に変形することを回避している。その代わりに、チタン板210の長辺側を折り曲げてフレーム部Fを形成している。また、海水の圧力を受けにくくするためにフレーム部Fを45度に面取りしている。
次に陽極材250を支持するための樹脂製スペーサ230を小型化して分散し、充填モルタルをチタン板210のフレーム部Fまで充填できるようにしている。
また、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体200においては、チタンねじ240の間隔を190mmまで狭め、さらにチタントレイの幅を170mmまで狭めて小型化している。
【0019】
試験結果
(1)モルタル充填性
本発明のチタントレイ方式電気防食構造体を合板に取り付け、特殊モルタルを充填した。モルタル硬化後に合板から取り外し、モルタルの充填状況を目視観察した。その結果、モルタルはチタン板のフレーム部まで充分に充填されていることが確認できた。また、これをコンクリート面にチタンねじで固定してフレーム部の剛性を試験した。剛性の試験方法は、チタンねじ間のフレーム部中央にトルクドライバー(カノン置針式傘型トルクドライバー10DPSK II型、マイナスビット幅0.7cm)で約14kgf(10kgf・cm÷0.7cm=14kgf)の応力を掛け、フレーム部の変形量を求めた。その結果、従来のチタントレイでは樹脂フレーム(チタンねじ間234mm)が約5mm変形したが、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体ではフレーム部(チタンねじ間190mm)の変形量は1mm未満であり、剛性は非常に高かった。
(2)試験施工
某所の第1スパン(約7.4m)および第2スパン(約3.7m)に本発明のチタントレイ方式電気防食構造体を試験施工した。その結果、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体の施工性は従来のチタントレイと同様に良かった。なお、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体は小型化しているのでモルタル充填時の「はらみ」が少なく、従来のチタントレイのように「はらみ防止用押さえ金具」の取り付け・取り外し作業が省ける利点が認められた。また、陽極材と鉄筋とは絶縁されていることが確認され、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体は絶縁性に優れていた。このことから、施工管理においても省力化ができることが分かった。
(3)耐久性
前記のように試験施工した本発明のチタントレイ方式電気防食構造体は2ヶ月後においても異常は見られなかった。
(4)コスト
本発明のチタントレイ方式電気防食構造体の材料費は従来チタントレイと同等になると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
前述のように、本発明のチタントレイ方式電気防食構造体は、従来のチタントレイ式電気防食構造体が抱えていた樹脂フレームとコンクリート表面との隙間の解消、高圧海水の侵入の防止、チタン板の剥離の回避を実現するものであって、その産業上の利用可能性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長方形のチタン板の長辺側を側面に傾斜を持たせて内側に折り込みフレーム部を形成し、樹脂製スペーサを分散配置し陽極材を支持し、前記フレーム部までモルタルを充填したことを特徴とするチタントレイ方式電気防食構造体。
【請求項2】
前記チタン板の短辺側の長さが、170mm以下であるとともに、樹脂製スペーサを固定するチタンねじの間隔が、190mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のチタントレイ方式電気防食構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82472(P2012−82472A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229255(P2010−229255)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000232759)日本防蝕工業株式会社 (21)
【Fターム(参考)】