説明

チタン含有乳化剤

【課題】塗工性、造膜性及び基材密着性に優れ、かつ長期間安定なチタン含有水性樹脂組成物を得ることを目的とする。更に、高い光触媒機能が得られるにもかかわらず、均一な被膜を形成することができる水性樹脂組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物は、乳化重合用乳化剤として機能する。その(A)混合物の存在下、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合することによって、水性樹脂組成物を製造することができる。そのような製造方法によって得られる水性樹脂組成物は、水性塗料に使用することができる。得られる塗料は、塗工性、造膜性、基材密着性に優れ、長期間安定である。また、基材に塗工すると均一で基材密着性に優れる被膜を形成することができ、高い光触媒効果を発現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン含有乳化剤を用いて得られる水性樹脂組成物に関し、特に塗工性、造膜性及び光触媒効果に優れるチタン含有水性樹脂組成物に関する。この組成物は、光触媒効果を有する水系の塗料、インキ、接着剤及び表面コート剤等に利用できる。
【背景技術】
【0002】
チタンアルコキシドは、架橋剤として、分子中に水酸基及びカルボキシル基等を有する化合物と反応するため、接着改良剤、塗料の架橋剤及び塗料の耐熱向上剤等に利用されている。また、ゾル−ゲル法等により酸化チタン微粒子を合成し、白色顔料、光触媒機能を有する顔料として利用されている。特に、光触媒機能を利用した用途では、ホルムアルデヒド等のVOCに対する分解機能を有した塗料や付着した汚染物を分解できる耐汚染性塗料及び光触媒機能による表面親水化作用を利用した防曇性塗料などに応用されている。光触媒効果に優れる酸化チタンを利用し、基材に光触媒性被膜を形成する技術が提案されている。しかし、チタンアルコキシドは非常に高い加水分解性を有するので、作業中や保存中に、空気中の水分によって不溶物を生じやすい。また、チタンアルコキシドを使用する際には有機溶媒を大量に使用する必要があり、環境負荷が極めて高い。このため、環境負荷が低く耐加水分解性を有する水系チタン化合物として、水系のチタン組成物が検討されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヒドロキシカルボン酸とチタンテトラアルコキシドを水の共存下で反応させた水溶性チタンヒドロキシカルボン酸塩キレート化合物が提案されている。しかし、この水溶性チタンヒドロキシカルボン酸塩キレート化合物では、塗工性、造膜性及び基材密着性等に問題があり、そのままコーティング剤として使用することは困難である。
【0004】
例えば、特許文献2には、光触媒機能を有する酸化チタン粒子状物を水性エマルジョン塗料に混合した塗料組成物が提案されている。中でも塗装作業の環境衛生、火災防止、省資源等の観点からも優れ、光触媒機能を有する酸化チタン微粒子を水性エマルジョン塗料に混合することで、種々の基材への塗布が可能であり、塗布後は安定に酸化チタンを固定化することが可能である。
しかし、上記記載の光触媒機能を有する酸化チタン微粒子を水性エマルジョン塗料に混合する方法には、水性エマルジョン塗料中での酸化チタン微粒子の分散性、安定性が悪いため、酸化チタンが凝集し均一な塗膜を得られにくいという問題がある。また、得られた塗料組成物中で酸化チタンの分離、沈降等が生じるため、光触媒効果が部分的にしか得られない、同じように塗布しても効果に差を生じ得る、従って、長期間安定的に使用できない等の問題がある。
【0005】
【特許文献1】特公昭50−5177号公報
【特許文献2】特開2002−146293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような従来技術の問題、課題を解決するためになされたものである。即ち、塗工性、造膜性及び基材密着性に優れ、かつ長期間安定なチタン含有水性樹脂組成物を得ることを目的とする。更に、高い光触媒機能が得られるにもかかわらず、均一な被膜を形成することができる水性樹脂組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決する為、種々検討した結果、驚くべきことに、チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物を用いると、エチレン性二重結合を有する重合性単量体を水性媒体中で重合することができること、即ち、チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物が、乳化重合用乳化剤として機能し得ることを見出した。従って、チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下、エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合する水性樹脂組成物の製造方法を見出した。更に、この製造方法で製造した水性樹脂組成物は、優れた塗工性、造膜性、分散性及び長期間安定性を有し、この水性樹脂組成物を基材に塗工することによって、優れた均一性と基材密着性を示す被膜を形成することも見出した。また、この得られた水性樹脂組成物は、高い光触媒効果を有することも見出して、本発明を完成した。
【0008】
従って、本発明の一の要旨において、(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物を含む乳化重合用乳化剤を提供する。
更に、本発明の他の要旨において、(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合する水性樹脂組成物(又は水性エマルジョン組成物)の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明の好ましい要旨において、(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合することで得られる水性樹脂組成物を提供する。
【0010】
更にまた、本発明の一の態様において、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体は、アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る上記水性樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
更に、本発明の他の態様において、チタンアルコキシドが、チタンテトライソプロポキシドである上記水性樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
また、本発明の好ましい態様において、上記水性樹脂組成物を含んで成る水性塗料、インキ、接着剤及び表面コート剤を提供する。
【0011】
尚、本明細書において「水性樹脂」とは、ポリマー粒子が水性媒体中に存在する状態、好ましくは分散する状態を意味し、従って、「水性樹脂組成物」とは、ポリマー粒子と水性媒体の両方を含む組成物を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る水性樹脂組成物は、(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下、アルコキシシリル基を有しエチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合することで得られるので、塗工性、造膜性、基材密着性に優れ、長期間安定であり、また、形成される被膜は、均一性と基材密着性に優れ、高い光触媒効果と高い耐水性を発現することができる。
【0013】
本発明に係る水性塗料等は、上述の本発明に係る水性樹脂組成物を含んで成るので、塗工性、造膜性、基材密着性に優れ、長期間安定であり、また、本発明に係る塗料は、基材に塗工すると均一で基材密着性に優れる被膜を形成することができ、高い光触媒効果と高い耐水性を発現することができる。
更に、酸化チタンが均一に分散した膜を形成させることも可能であり、より高い光触媒効果を発現し得る。
【0014】
更にまた、本発明に係る水性樹脂組成物及び水性塗料等は、チタンアルコキシドがチタンテトライソプロポキシドである場合、光触媒効果がさらに向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明について具体的に説明する。
本発明では、乳化重合用乳化剤として、「(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物(以下、「(A)混合物」ともいう)」をそのままで、又は必要に応じて濃度を調節したり、適宜他の添加剤等を加えて用いる。従って、(A)混合物を含む乳化重合用乳化剤は、(A)混合物そのものであってよく、また、適宜濃度調節のため等に水や他の添加剤を含んでよい。
【0016】
本明細書において、「乳化重合」とは、油溶性の単量体を、乳化剤を用いて水中で乳濁状態とし、水溶性の重合開始剤を用いて行うラジカル重合をいう。
【0017】
この乳化重合用乳化剤として使用する混合物は、チタンアルコキシドと、有機酸と水を混合することによって得ることができるが、チタンアルコキシドと有機酸と水を混合する順序は、特に限定されるものではない。更に、混合する際の温度及び圧力等も特に限定されるものではないが、通常、室温(約25℃)大気圧下で混合後、更に70℃で加熱攪拌して行われる。一般的に、攪拌することが好ましく、攪拌時間は、通常、約5〜24時間であるが、必要に応じて攪拌時間は調節することができる。チタンアルコキシドと有機酸と水の混合比は、目的とする混合物が乳化重合用乳化剤として利用できる限り、特に限定されるものではないが、チタンと有機酸とのモル比は、0.1:1〜5:1であることが好ましく、0.5:1〜1.5:1であることがより好ましく、1:1であることが特に好ましい。混合物に含まれる水分量は、混合物が乳化重合用乳化剤として使用できる限り特に限定されるものではなく、適宜調節されるものであるが、混合物全体を基準として、0.1〜60重量%であることが好ましく、3〜40重量%であることがより好ましく、5〜30重量%であることが特に好ましい。
【0018】
本明細書において、「チタンアルコキシド」とは、より具体的には、下記式(1)で示されるチタンテトラアルコキシドをいう。
式(1):Ti(OR)
[式(1)で、Rはアルキル基であって、4つのアルキル基は、同じであっても異なっていてもよい。]
式(1)で示される化合物としては、例えば、チタンテトラメトキシド〔Ti(OMe)〕、チタンテトラエトキシド〔Ti(OEt)〕、チタンテトライソプロポキシド〔Ti(OiPr)〕、チタンテトラブトキシド〔Ti(OBu)〕及びこれらの誘導体を例示できる。これらのなかでも、チタンアルコキシドとして、一般に入手の容易さ及び取り扱いの容易さと、光触媒効果の良好さから、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0019】
本明細書において、また、「有機酸」とは、有機化合物のうち酸性を有するものをいい、カルボン酸を例示できる。有機酸として、乳酸、シュウ酸、クエン酸、及び酒石酸等が好ましく、一般的に入手、取り扱いが容易な乳酸が特に好ましい。有機酸は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
(A)混合物を作るための「水」とは、特に限定されるものではなく、主に、純水、蒸留水及びイオン交換水等のいわゆる水をいうが、水溶性の有機溶剤、例えば、アセトン及び低級アルコール等を適宜含んでもよい。
【0021】
本発明においては、上述の(A)混合物の存在下、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体(以下、「(B)重合性単量体」ともいう)を重合することで水性樹脂組成物を得る。
本明細書において「エチレン性二重結合」とは、一分子中に少なくとも一つの重合反応(ラジカル重合)し得る炭素原子間の二重結合を有する化合物を言う。そのようなエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基(CH=CH−)、(メタ)アリル基(CH=CH−CH−及びCH=C(CH)−CH−)、(メタ)アクリロイルオキシ基(CH=CH−COO−及びCH=C(CH)−COO−)、及び−COO−CH=CH−COO−等を例示できる。
【0022】
尚、本明細書では、アクリル酸及びメタクリル酸を総称して「(メタ)アクリル酸」といい、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルを総称して「(メタ)アクリル酸エステル」又は「(メタ)アクリレート」という。アリル基及びアクリロイルオキシ基についても同様である。
【0023】
本明細書において「(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体」とは、エチレン性二重結合を有する単量体であって、ラジカル重合(好ましくは乳化重合)できる単量体をいい、目的とする水性樹脂組成物の特性に応じて適宜使用することができる。
【0024】
このような「エチレン性二重結合を有する重合性単量体」としては、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類((メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル類を含む);
(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマール酸、マレイン酸、マレイン酸の半エステル等のカルボキシル基とエチレン性二重結合を有する化合物及びカルボン酸塩基とエチレン性二重結合を有する化合物;
アクリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、2−アクリロイルアミノ−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリロイルアミノ−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸等のスルホン酸基とエチレン性二重結合を有する化合物及びスルホン酸塩基とエチレン性二重結合を有する化合物;
(メタ)アクリル酸オキシエチルアミドフォスフェート等のリン酸基及びエチレン性二重結合を有する化合物、並びにリン酸塩基及びエチレン性二重結合を有する化合物;
スチレン及びビニルトルエン等のスチレン及びスチレンの誘導体類;
エチレン等のアルケン類、並びにブタジエン、イソプレン等のジエン類;
酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物類;
塩化ビニル及び塩化ビニレン等の塩素化されたビニル化合物類;
アクリロニトリル等のシアノ基を有するエチレン性炭素原子間二重結合を有する化合物類;
アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体
を例示できる。
上述の「エチレン性二重結合を有する単量体」は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0025】
(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体は、アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体を含んで成ることが好ましい。
本明細書において「アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体」とは、主にエマルジョンの重合体内部又はエマルジョンの重合体同士の間に架橋構造を形成し、本発明のエマルジョン組成物から得られる皮膜の耐水性、基材密着性等の向上に寄与し得る化合物をいう。
【0026】
本明細書において、「アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合することで得られる」樹脂は単独重合体であっても、共重合体であっても差し支えない。
即ち、得られる樹脂は、「アルコキシシリル基を含有しエチレン性二重結合有する単量体」の単独重合体、もしくは、この単量体とこの単量体以外の上述の「エチレン性二重結合を有する重合性単量体」との共重合体のいずれであってもよい。
【0027】
「アルコキシシリル基」とは、加水分解することによって、ケイ素に結合するヒドロキシシリル基(Si−OH)を与えるケイ素含有の官能基、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジエトキシシリル基、モノメトキシシリル基、モノエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、ジイソプロポキシシリル基及びモノイソプロポキシシリル基等のアルコキシシリル基を例示できる。
「エチレン性二重結合」は、上述した通りである。
【0028】
本発明では、アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン及びトリス(β−メトキシエトキシ)ビニルシラン等を例示することができる。これらのアルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体は、エマルジョンの性質に応じて適宜選択する事ができ、単独で、又は組み合わせて使用する事ができる。
【0029】
アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体として、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリス(β−メトキシエトキシ)ビニルシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシラン及びビニルトリイソプロポキシシランが好ましく、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0030】
本発明では、アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体と、上述のその他のエチレン性二重結合を有する単量体を組み合わせて使用する場合、アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体は、(B)重合性単量体(又は反応混合物)中に0.1〜20重量%含まれることが好ましく、0.5〜15重量%含まれることがより好ましく、0.5〜10重量%含まれることが特に好ましい。
【0031】
(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体は、一般的に(メタ)アクリル酸アルキルエステル、場合によりスチレン及びスチレンの誘導体、場合によりカルボキシル基とエチレン性二重結合を有する化合物、場合によりアルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体を含んで成ることが好ましい。
【0032】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも一種であることが好ましく、メチルメタクリレートとブチルアクリレートの組み合わせであることが特に好ましい。
スチレン及びスチレンの誘導体は、スチレンとビニルトルエンから選択される少なくとも一種であることが好ましいが、スチレンであることがより好ましい。
カルボキシル基とエチレン性二重結合を有する化合物は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマール酸から選択される少なくとも一種であることが好ましく、アクリル酸であることが特に好ましい。
アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体は、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリス(β−メトキシエトキシ)ビニルシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシラン及びビニルトリイソプロポキシシランから選択される少なくとも一種であることが好ましく、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランであることが特に好ましい。
【0033】
重合は、通常の方法を使用して、水性媒体中で適宜触媒等を用いて行うことができる。ここで「水性媒体」とは、特に限定されるものではなく、主に、純水、蒸留水及びイオン交換水等のいわゆる水をいうが、水溶性の有機溶剤、例えば、アセトン及び低級アルコール等を適宜含んでもよい。
【0034】
反応温度、反応時間、水性溶媒の種類、単量体混合物の種類及び濃度、攪拌速度、並びに重合開始剤の種類及び濃度等の重合反応の条件は、目的とする水性樹脂組成物の特性によって、適宜選択され得るものである。
【0035】
本明細書においては、(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下で、重合性単量体を重合する。即ち、水性媒体中で重合性単量体を重合するために、(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物を、乳化重合用乳化剤として使用する。従って、本発明に係る重合性単量体の重合は、いわゆる乳化重合であると考える。
【0036】
重合性単量体を重合するため用いる(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物は、重合性単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部用いることが好ましく、1〜15重量部用いることがより好ましく、3〜13重量部用いることがさらに好ましい。(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物が0.1重量部未満の場合、機械的安定性が悪く成り得、20重量部を超える場合、長期安定性が低下し得る。尚、(A)混合物の重量部は、水を含まない部分の重量部を基準とする。
(A)混合物中の水の量は、機械的安定性や長期安定性等を考慮して、適宜調整することができるが、混合物全体を基準として、0.1〜60重量%であることが好ましく、3〜40重量%であることがより好ましく、5〜30重量%であることが特に好ましい。
【0037】
本発明においては、(B)重合性単量体の水性媒体中での重合性と、得られる水性樹脂組成物(エマルジョン)の長期安定性を向上させる目的で、一般的な「乳化剤」を用いることができる。そのような「乳化剤」として、当事者に公知の界面活性剤を使用できる。
【0038】
乳化剤は、単量体を乳化する能力を有し、重合の過程ではミセルを形成して単量体に重合の場を提供する。更に、重合中又は重合後は得られるポリマー粒子の表面に固定化して粒子の分散安定性を図る。
乳化剤として、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等を例示できる。
【0039】
アニオン系界面活性剤として、例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等のアルカリ金属アルキルサルフェート、ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート、アンモニウムドデシルサルフェート等のアンモニウムアルキルサルフェート、ナトリウムスルホシノエート、スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート、ナトリウムラウレート、トリエタールアミンオレエート、トリエタールアミンアビエテート等の脂肪酸塩、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネ−ト、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキル亜リールスルホネート、高アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等を例示できる。
本発明では、アニオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート塩(ナトリウム塩)(花王株式会社製のラテムルWX(商品名))が好適である。
【0040】
ノニオン系界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体、エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等を例示できる。
【0041】
カチオン系界面活性剤として、例えば、モノアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、エチレンオキサイド付加型アルキルアンモニウム塩を例示できる。
両性界面活性剤として、例えば、アミドプロピルベタイン、アミノ酢酸ベタイン等を例示できる。
高分子界面活性剤として、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリ(メタ)アクリレート等を例示できる。
更に、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、水性ポリウレタン樹脂、水溶性アクリル樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、並びにポリビニルアルコール等を例示できる。
【0042】
更に、乳化剤として、反応性界面活性剤を使用することができる。
反応性界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルの硫酸エステル塩(旭電化工業社製のアデカリアソープSEシリーズ(商品名))、α−スルホ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)のアンモニウム塩(旭電化工業社製のアデカリアソープSRシリーズ(商品名))、ポリオキシエチレン(又はアルキレン)アルキル(又はアルケニル)エーテル硫酸アンモニウム塩(花王社製のPDシリーズ(商品名))、スルホコハク酸型反応性活性剤(花王社製のラテムル180シリーズ(商品名))、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩(三洋化成工業社製のエレミノールJS−2(商品名))、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製のアクアロンHSシリーズ(商品名))、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製のアクアロンKHシリーズ(商品名))、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテル(旭電化工業社製のアデカリアソープNEシリーズ(商品名))、ポリオキシエチレンノニルプロペニルエーテル(第一工業製薬社製のアクアロンRNシリーズ(商品名))、α−ヒドロ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)(旭電化工業社製のアデカリアソープERシリーズ(商品名))等を例示できる。
【0043】
反応性乳化剤は、単独で又は2種以上併せて用いることができる。これらの中でも、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩(三洋化成工業社製のエレミノールJS−2(商品名))、アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製のアクアロンKHシリーズ(商品名))が好ましい。
【0044】
上述したように、本発明においては、(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下、重合性単量体を重合するが、「乳化剤」として、当事者に公知の上記の一般的な界面活性剤を、併用して重合することができる。
重合性単量体を乳化重合するために用いる上記一般的な界面活性剤は、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体100重量部に対して、0.1〜6重量部用いることが好ましく、1〜3量部用いることがより好ましい。
【0045】
本発明では、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合するために、重合開始剤を用いることができる。「重合開始剤」とは、少量の添加によって単量体の重合反応を起こさせる事ができる化合物をいい、水性媒体中で使用できるものが好ましい。そのような重合開始剤として、例えば、過酸化水素、水溶性無機過酸化物、並びに水溶性還元剤と水溶性無機過酸化物の組み合わせや水溶性還元剤と有機過酸化物の組み合わせを例示できる。
【0046】
「水溶性無機過酸化物」として、例えば、通常ラジカル酸化還元重合触媒として用いられる水に可溶性の還元剤を使用できる。そのような還元剤として、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、乳酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、ピロリン酸第一鉄、スルフィン酸、L-アスコルビン酸とそのナトリウム塩及びカリウム塩及びカルシウム塩、エチレンジアミン四酢酸とそのナトリウム塩及びカリウム塩、エチレンジアミン四酢酸もしくはその塩と鉄、銅、もしくはクロム等の重金属と錯化合物、並びに還元糖を例示できる。
【0047】
「水溶性有機過酸化物」として、例えば、クメンヒドロペルオキシド、p−サイメンヒドロペルオキシド、t−ブチルイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、デカリンヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、2−メルカプトエタノール、トリクロロブロモメタン等を例示する事ができる。
【0048】
本発明の水性樹脂組成物から得られる被膜のガラス転移温度(Tg)は、−50〜100℃であることが好ましく、被膜の耐水性、基材密着性がより高い水性樹脂組成物を得るためには、被膜のガラス転移温度が−30〜50℃であることが好ましい。
本発明では、被膜の「ガラス転移温度」とは、示差操作熱量計(具体的には、エスアイアイナノテクノロジー(株)製のSIIナノテクノロジーDSC6220)を用いて、5〜10mgの試料のDSC曲線を、5℃/分の昇温速度で測定し、得られたDSC曲線の変曲点の温度をいう。
【0049】
更に、本発明に係るチタン含有水性樹脂組成物は、本発明の特性を損なわない範囲において、他の添加剤を適量配合して良い。
他の添加剤としては、例えば、
硬化を早くする目的で添加される金属アルコキシド等の硬化触媒;
粘度を調整する目的で添加される水、アルコール類、ケトン類、グリコール類等の希釈溶剤;
ガラス、石英、水酸化アルミニウム、アルミナ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン等の無機充填剤;
アクリル樹脂粉、エポキシ樹脂粉、ポリエステル樹脂粉等の有機充填剤;
カーボンブラック、ベンガラ、フタロシアニンブルー、クロ−ムイエロー、二酸化チタン等の顔料または染料に代表される着色剤;
その他の中和剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、増膜助剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤、金属粉、滑剤、離型剤、界面活性剤、カップリング剤等を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
本発明に係る水性樹脂組成物は、塗工性及び造膜性に優れ、均一な被膜を形成することができる。形成される被膜は、基材密着性に優れ、更に優れた光触媒機能を発揮することができる。本発明に係る水性樹脂組成物は、光触媒効果を有する水系の塗料、インキ、接着剤及び表面コート剤等に好適に使用することができる。
【0051】
本発明の主な態様を以下に記載する。
1.
(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物を含む乳化重合用乳化剤。
2.
(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合する水性樹脂組成物の製造方法。
3.
(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合することで得られる水性樹脂組成物。
4.
(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体は、アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る上記3に記載の水性樹脂組成物。
5.
チタンアルコキシドが、チタンテトライソプロポキシドである上記3又は4に記載の水性樹脂組成物。
6.
上記3〜5のいずれかに記載の水性樹脂組成物を含んで成る水性塗料、インキ、接着剤又は表面コート剤。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的にかつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。また、実施例及び比較例において重量部及び重量%は特に記載しない限り、媒体(溶媒)を含まない部分を基準とする。
【0053】
表1に記載した割合で各成分を用いて、実施例1〜5、及び比較例1〜3の混合物を製造した。但し、使用した(A)チタンテトラアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体、(C)他の一般的な乳化剤、(D)アナターゼ型酸化チタンの微粒子からなる光触媒材料を、以下に示す。
(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物は下記の通りである。
(A−1)チタンテトライソプロポキシド、乳酸及び水を混合することによって得られる混合物
(A−2)チタンテトラノルマルブトキシド、乳酸及び水を混合することによって得られる混合物
【0054】
(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体は下記の通りである。
(B−1)メチルメタクリレート
(B−2)スチレン
(B−3)ブチルアクリレート
(B−4)アクリル酸
(B−5)γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社、SZ6030(商品名))
(C)他の乳化剤は下記の通りである
(C−1)ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート塩(ナトリウム塩)(花王株式会社、ラテムルWX(商品名))
(D)アナタ−ゼ型酸化チタンの微粒子からなる光触媒材料
(D−1)タイノックA−6(多木化学株式会社、タイノックA−6(商品名))
【0055】
(A)混合物の製造例1〜2
(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の製造
(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物は、既知の任意の方法、例えば、国際公開第2005/094978号に掲載の方法等にしたがって製造する事ができる。
(A−1)チタンテトライソプロポキシド、乳酸及び水を混合することによって得られる混合物は、乳酸(Alfa Aesar製)90重量部に478重量部の水を加えて乳酸を水に溶解後、この乳酸水溶液に室温でチタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)115重量部を攪拌しながら加えて溶解した。更に、70℃で加熱攪拌して(A−1)混合物を得た。
(A−2)チタンテトラノルマルブトキシド、乳酸及び水を混合することによって得られる混合物は、チタンテトライソプロポキシドの代わりにチタンテトラノルマルブトキシドを用いた以外は、上述した(A−1)混合物と同様の方法を用いて得た。
これらの(A−1)混合物と(A−2)を、後述する水性樹脂組成物を製造する際に、添加したところ、乳化重合することができたので、これらが乳化重合用乳化剤として、作用し得ることがわかった。
【0056】
実施例1の水性樹脂組成物の製造
攪拌翼、温度計及び還流冷却器を備えた4つ口フラスコに41.8重量部の蒸留水及び0.5重量部の(C−1)界面活性剤(花王株式会社、ラテムルWX(商品名))を加えた。窒素ガスを吹き込みながら攪拌し、液温を70℃に保った。一方、56.8重量部の蒸留水、5重量部の上述の(A−1)混合物、2.5重量部の(C−1)界面活性剤(花王株式会社、ラテムルWX(商品名))、60重量部の(B−1)メタクリル酸メチル、39重量部の(A−3)アクリル酸ブチル、1重量部の(A−5)γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランからなる混合物、並びに0.6重量部の過硫酸アンモニウム及び30重量部の水から成る水溶液を用意した。上述の混合物の約10体積%と上述の水溶液の約5体積%の各々を上述の四つ口フラスコに加えて攪拌し、乳化重合を開始させた後、混合物の残部と水溶液の残部を同時に約2時間かけて四つ口フラスコに滴下して加えた。滴下終了後、更に液温を70℃に保ちつつ約1時間半攪拌を続けた後、得られた反応混合物を室温に冷却した。アンモニア水を加えてpHを8に調整して水性樹脂組成物を得た。この水性樹脂組成物は、乳濁しているので乳濁液であり、従って、エマルジョン組成物である。表1に、得られた水性樹脂組成物の試験結果を示す。
【0057】
実施例2〜5及び比較例1の水性樹脂組成物の製造
各成分を表1のように変えた他は、実施例1と同様の方法を用いて水性樹脂組成物を製造した。得られた水性樹脂組成物の試験結果を表1に示す。
比較例2
各成分を表1のように変え、更に、(A−1)混合物の代わりに(D−1)アナターゼ型酸化チタンの微粒子からなる光触媒材料(多木化学株式会社、タイノックA−6(商品名))を用いた以外は、実施例1と同様の方法を用いて水性樹脂組成物を製造した。得られた水性樹脂組成物の試験結果を表1に示す。
比較例3
表1に示される(B)成分及び(C)成分を用いて、実施例1と同様の方法で水性樹脂組成物を製造した。得られた水性樹脂組成物0.5重量部に(D−1)アナターゼ型酸化チタンの微粒子からなる光触媒材料(多木化学株式会社、タイノックA−6(商品名))を0.05重量部加えて、比較例3の水性樹脂組成物を得た。試験結果を表1に示す。
【0058】
得られた、水性樹脂組成物の評価は以下の様に行った。
1.重合性
合成後の水性樹脂組成物の状態を、(B)重合性単量体及びそれに由来する重合体について注目して、目視で観察した。
◎:(B)重合性単量体及びそれに由来する重合体の凝集、沈殿、分離等なく良好である。
○:全体の30%未満で(B)重合性単量体及びそれに由来する重合体の凝集、沈殿、分離などが見られる
×:全体の30%以上で(B)重合性単量体及びそれに由来する重合体の凝集、沈殿、分離などが見られる。
【0059】
2.分散性
合成後の水性樹脂組成物の状態を、(A)混合物について注目して、目視で観察した。
◎:(A)混合物(主に、水溶性チタン)の凝集、沈殿、分離等なく良好である。
○:全体の30%未満で(A)混合物の凝集、沈殿、分離などが見られる。
×:全体の30%以上で(A)混合物の凝集、沈殿、分離などが見られる。
【0060】
3.光触媒機能:色素退色
ガラス板上に5〜10μmの厚さになるよう水性樹脂組成物を塗工し、105℃で5分間乾燥させて被膜を形成した。その後、0.1wt%のメチレンブルーのエタノール溶液の0.05gを、被膜上に重ねて塗工し、室温で2時間放置した。この被膜及び色素を塗工したガラス板を15WのUVランプで任意の時間照射した。UV照射の前後で、665nmのUV光の吸光度(Abs)を分光光度計で測定した。UV照射前の吸光度を基準とするUV照射後の吸光度(UV照射後の吸光度/UV照射前の吸光度)をメチレンブルー色素の未分解率とした。未分解率が低いほど、ガラス板上に形成された被膜によるメチレンブルー色素の分解が速い、即ち、被膜の色素分解に関する光触媒機能が高いことを意味する。
◎:未分解率が40%未満であり、大きな色素の退色が観察されており、被膜は優れた光触媒機能を有する。
○:未分解率が40%〜60%であり、色素の退色が観察され、被膜は光触媒機能を有する。
×:未分解率が60%より大きく、色素の退色は不十分であり、被膜の光触媒機能は小さい。
【0061】
4.光触媒機能:接触角
ガラス板上に5〜10μmの厚さになるように、水性樹脂組成物を塗工して、105℃で5分間乾燥し、被膜を形成した。その後、このガラス板を15WのUVランプにて任意の時間照射した。その後、この塗装板と水との間の接触角を接触角計にて測定した。接触角が小さいほど、光触媒機能が高いことを意味する。
◎:接触角が10度未満であり、被膜は優れた光触媒機能を有する。
○:接触角が10度〜50度であり、被膜は光触媒機能を有する。
×:接触角が50度より大きく、被膜の光触媒機能は不十分である。
【0062】
【表1】

【0063】
比較例として例示していないが、実施例1〜5に関して、(A)混合物も(C)その他の乳化剤も使用しない場合、(B)重合性単量体を水性媒体中に乳化状態にすることができなかった。従って、(B)重合性単量体を乳化重合することができなかった。
これに対し、表1の実施例4から、(A)混合物を用いると、(B)重合性単量体を乳濁状態にすることができ、更に重合することもでき、その結果水性樹脂組成物を得ることができた。即ち、(A)混合物は、乳化重合用乳化剤として作用し得ることが理解できた。
【0064】
実施例1〜5の水性樹脂組成物は、重合性及び分散性に優れ、得られる被膜の均一性と光触媒機能に優れており、総合的な性能が改善されている事が確認された。比較例1〜3はその性能が不十分であり、総合的な性質に劣ることが認められた。
【0065】
本発明の水性樹脂組成物は、重合性、分散性に優れ、均一な被膜を形成することができる。更に、光触媒効果を有しており、防汚性を有する水性樹脂組成物として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物を含む乳化重合用乳化剤。
【請求項2】
(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合する水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
(A)チタンアルコキシド、有機酸及び水を混合することによって得られる混合物の存在下、(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体を重合することで得られる水性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)エチレン性二重結合を有する重合性単量体は、アルコキシシリル基を含有し、エチレン性二重結合を有する単量体を含んで成る請求項3に記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
チタンアルコキシドが、チタンテトライソプロポキシドである請求項3又は4に記載の水性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−275330(P2010−275330A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7805(P2008−7805)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(391047558)ヘンケルジャパン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】