説明

チタン含有材料中の微量元素分析方法

【課題】低コストかつ簡便な方法で、チタン単体またはチタン化合物を含む材料中の、微量な不純物元素を高感度で定量する技術を提供する。
【解決手段】チタン単体またはチタンを含有する材料から粒子状もしくは粉末状の分析用原料を作製する工程と、分析用原料を濃度30重量%以上の酸で溶解して酸溶液を作製する工程と、酸溶液を純水で希釈して酸の濃度が1重量%以上10重量%以下の酸希釈液を作製する工程と、酸希釈液に沈殿抑制物を添加する工程と、酸希釈液に沈殿抑制物を添加した後さらに純水で希釈して分析用試料を作製する工程と、分析用試料中の不純物元素を定量分析する工程からなり、分析用試料は、0.1重量%以上5.0重量%以下の酸と、0.05重量%以上3.0重量%以下の沈殿抑制物を共に含むことを特徴とするチタン含有材料中の微量元素分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン単体、もしくはチタンを含有する材料に含まれる微量元素の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質中の微量な元素を定量分析する手法として、誘導結合プラズマ質量分析装置、原子吸光分析装置、誘導結合プラズマ発光分光分析装置等を用いて定量する方法が用いられており、その測定方法として、測定試料を各種の酸などを用いて溶解して試料溶液を作製してこの試料溶液をこれらの分析装置に導入して、目的の元素の測定を行う。
【0003】
このとき、試料溶液中で任意の元素が沈殿すると、測定精度全体に影響を及ぼしてしまうので、沈殿を起こさないような処理が必要であるが、ある種の元素、特にチタンは、各種の酸を用いて溶解する際に、pH1以下の強酸状態に保たなければ、チタンが容易に沈殿してしまうという問題があった。
【0004】
この問題に対して、例えば特許文献1には、半導体基板上の薄膜中の不純物元素を高精度、高感度で定量し得る分析方法として、チタン等を少なくとも1種含む主成分と該主成分以外の不純物元素とからなる薄膜を分解溶液に溶解して薄膜溶解溶液を得て、これに0.05重量%以上のふっ化水素酸を含有するように調整した後、強塩基性陰イオン交換能を有する樹脂で処理し、該樹脂を除去して溶液を回収し、さらにこの溶液中の不純物元素を定量することで、半導体基板上の薄膜中の不純物元素を高精度、高感度で定量分析することが可能となることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、DRAMのキャパシタ絶縁膜等に用いられる高誘電体材料中に含まれる極微量のアルカリ金属の分析方法として、BaTiO3 、SrTiO3 、(Ba,Sr)TiO3 の一群から選ばれる少なくとも一種類の化合物に、塩酸及び過酸化水素を添加し加熱溶解した後、平行磁場型交流ゼーマンフレームレス原子吸光装置を用い、標準添加検量線法により定量分析することで、高感度に元素を分析することができるということが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−28884号公報
【特許文献2】特開平8−166344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、測定原料は半導体基板上の薄膜で、主成分をチタン、ゲルマニウムジルコニウム、モリブデン、銀、カドミウム、錫、アンチモン、タンタル、タングステン、ハフニウムおよびビスマスのうち少なくとも1つ、またはこれらの酸化物の形で含有してよいとしている。また、薄膜中の不純物元素は、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、ガリウム、ストロンチウム、バリウム、タリウム、鉛などとしている。そして、薄膜の溶解に用いる分解溶液としては、酸性溶液、アルカリ性溶液、またはこれらの混合溶液、ふっ化水素酸、硝酸、塩酸硫酸、王水、過酸化水素水、アンモニア水、またはこれらの混合溶液、ふっ化水素酸−硝酸溶液、ふっ化水素酸−王水、ふっ化水素酸−硫酸溶液、アンモニア水−過酸化水素水を使用することが好ましく、その濃度は3〜50重量%であることが好ましいとしている。
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術では、薄膜溶解溶液を0.05重量%以上のふっ化水素酸を含有するように調整した後、強塩基性陰イオン交換能を有する樹脂で処理し、樹脂を除去して、溶液を回収する工程が必要であるとしている。すなわち、イオン交換能を有する樹脂が主成分の金属を吸着することで、微量の不純物の定量を可能としている。従って、イオン交換樹脂自体に他の不純物や汚れがないよう管理する手間が新たに生じることや、試料の調製工程で高価なイオン交換樹脂を用いる必要があり、分析がコスト高になることが懸念される。
【0009】
また、特許文献2には、測定原料はBaTiO3 、SrTiO3 、(Ba,Sr)TiO3 の一群から選ばれる少なくとも一種類の化合物である高誘電体材料であること、分析対象とする不純物元素はNa,Kのアルカリ金属であること、処理方法として塩酸を加えて加熱後これを放冷し、試料を完全に溶解させ長時間溶液化を保つために加水分解抑制剤として過酸化水素を添加して、試料中のチタン成分をペルオキソ錯イオンとしておく必要があることが記載されている。さらに詳しくは、調製方法として、試料にSrTiO3約0.5gを用い、20重量%塩酸30ml添加し加熱温度120〜140℃で加熱し、途中で温水約20mlを加え引き続き約40分間加熱した後、放冷して30重量%過酸化水素0.25mlを加えて更に約10分間加熱後、放冷して超純水を加えて全容100mlとしたものを供試液とする、としている。
【0010】
しかしながら、高誘電体材料以外のチタン化合物、特にチタニアを特許文献2に係る方法で分析しようとすると、測定できる元素がNa,Kに限られてくる。また、Na,K等のアルカリ金属以外の元素を定量する場合でも、特許文献2に係る方法では酸濃度が6%程度と分析機器にとっては、まだ負荷の大きい濃度のために、定量分析の精度に影響を及ぼすことが懸念される。
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、低コストかつ簡便な方法で、チタン単体またはチタン化合物を含む材料中の、微量な不純物元素を高感度で定量する技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様にかかる分析方法は、チタン単体またはチタンを含有する材料から粒子状もしくは粉末状の分析用原料を作製する工程と、分析用原料を濃度30重量%以上の酸で溶解して酸溶液を作製する工程と、酸溶液を純水で希釈して酸の濃度が1重量%以上10重量%以下の酸希釈液を作製する工程と、酸希釈液に沈殿抑制物を添加する工程と、酸希釈液に沈殿抑制物を添加した後さらに純水で希釈して分析用試料を作製する工程と、分析用試料中の不純物元素を定量分析する工程からなり、分析用試料は、0.1重量%以上5.0重量%以下の酸と、0.05重量%以上3.0重量%以下の沈殿抑制物を共に含むことを特徴とする。このような構成をとることで、簡易にかつ高精度にチタン単体、もしくはチタンを含有する材料中の不純物元素を定量することが可能となる。
【0013】
また、本発明の別の一態様にかかる分析方法は、使用する酸および沈殿添加物の種類に応じて、酸溶液を作製する工程の開始から終了までの間、もしくは前記酸希釈液を作製する工程の開始から終了までの間の任意の段階で、沈殿抑制物を添加する工程を1または複数回実施することが好ましい。このような構成をとることで、簡易にかつ高精度にチタン単体もしくはチタンを含有する材料中の不純物元素を、酸の使用量をさらに低減して分析することができる。
【0014】
本発明の一態様においては、酸は、ふっ化水素酸、硝酸、塩酸、硫酸のいずれか一つか
らなり、沈殿抑制物は、H、C(OH)、C10のいずれか1つからなることが好ましい。このような構成をとることで、簡易にかつ高精度にチタン単体もしくはチタンを含有する材料中の不純物元素を定量することが可能となる。
【0015】
そして、本発明の一態様においては、定量分析する工程は、誘導結合プラズマ質量分析装置、誘導結合プラズマ発光分光分析装置、原子吸光分析装置のうち、少なくとも1種の分析装置を用いて不純物元素を定量することが好ましい。このような構成をとることで、チタン単体、もしくはチタンを含有する材料中の不純物元素を、高精度に定量分析することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、チタン単体またはチタン化合物を含む材料を定量分析するにあたり、作製する分析用試料溶液中でチタンが沈殿するという問題を簡易な方法で解決し、かつ酸の使用量の低減を可能にする分析方法を提供するために、好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実験例に係る分析方法を示す工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態により詳細に説明する。
【0019】
本発明の実施の形態にかかる分析方法は、チタン単体またはチタンを含有する材料から粒子状もしくは粉末状の分析用原料を作製する工程と、分析用原料を濃度30重量%以上の酸で溶解して酸溶液を作製する工程と、酸溶液を純水で希釈して酸の濃度が1重量%以上10重量%以下の酸希釈液を作製する工程と、酸希釈液に沈殿抑制物を添加する工程と、酸希釈液に沈殿抑制物を添加した後さらに純水で希釈して分析用試料を作製する工程と、分析用試料中の不純物元素を定量分析する工程からなり、分析用試料は、0.1重量%以上5.0重量%以下の酸と、0.05重量%以上3.0重量%以下の沈殿抑制物を共に含むことを特徴とする。
【0020】
ここで、チタン化合物とは、少なくとも2成分以上からなる化合物を指し、例えば、酸化チタン、窒化チタン、塩化チタン等の材料が挙げられる。その他、チタンがおおむね0.5重量%以上含まれるものが該当する。また、ごく微量の不純物とは、不純物単体でおおむね0.1重量%以下含まれるものを指し、元素としては、例えばNa、K、Al、Ca、Fe、Cr、Mn等が挙げられる。
【0021】
粒子状もしくは粉末状の分析用原料とは、分析対象であるチタン単体またはチタン化合物を、この後の工程で酸に溶解する際に溶けやすい形状にした場合の一形態をさす。一般には、塊状か大きめの粒状のものに対して、粉砕その他の機械的な方法にて、溶解に適当な程度に小さな粒子状もしくは粉末状とするが、特にその手法について限定するものではなく、なんらかの手段によって溶解に適切な状態になっていればよい。
【0022】
次に、この分析用原料を濃度30重量%以上の酸で溶解するが、この段階では、対象となる材料をすべて溶解することが必要である。そのため、通常は強い酸で溶解するが、濃度30重量%未満では十分に溶解できないおそれがあり、好ましくない。
【0023】
分析用原料の溶解、溶液中の安定化という目的で、酸は不可欠である。しかしながら 酸の濃度が1重量%未満では、チタンが沈殿を起こすおそれが高いので好ましくない。一方、酸の濃度が10重量%を越えると、誘導結合プラズマ質量分析装置、原子吸光分析装置、誘導結合プラズマ発光分光分析装置等に導入する際、装置への負荷が懸念されてくるので、これも好ましくない。
【0024】
分析用試料の溶液中に沈殿物が生成されると、溶液中の微量の不純物も沈殿物に取り込まれる、あるいは主成分の分布が不均一になる、等の理由で、正確な不純物測定ができなくなる。そして、分析用原料中にチタンが多量に存在すると、酸濃度が1重量%以上でなければチタンが加水分解を起こし、水酸化チタンの沈殿物を生成してしまう。よって、沈殿物の生成を回避しようとすると、酸濃度を上げなくてはいけない。
【0025】
本実施の形態にかかる分析方法は、特にチタン単体やチタン化合物において問題となる沈殿物の生成を抑制して分析精度を向上するとともに、酸の濃度を下げることで、分析装置の負荷を低減することを可能とする目的で、分析用原料を酸で溶解して希釈したのちに沈殿抑制物を添加することを特徴としている。
【0026】
また、本実施の形態にかかる分析用試料は、酸が0.1重量%以上5.0重量%以下でかつ沈殿抑制物が0.05重量%以上3.0重量%以下であることが好ましく、酸が0.5重量%以上1.0重量%以下でかつ沈殿抑制物が0.1重量%以上1.0重量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
酸の濃度が0.1重量%を下回ると、金属不純物自体が容器への吸着、加水分解を起こす恐れがあり好ましくないが、5.0重量%を超えると、沈殿抑制物を添加した効果を相殺して、分析装置の感度、測定安定性に影響を及ぼすので、これも好ましくない。また 沈殿抑制物が、0.05重量%を下回ると、チタンの沈殿抑制効果が十分得られず好ましくないが、3.0重量%を超えると、沈殿抑制物自身による分析装置へ与える影響が無視できなくなってくるので、これも好ましくない。
【0028】
また、本実施の別の一形態にかかる分析方法は、使用する酸および沈殿添加物の種類に応じて、酸溶液を作製する工程の開始から終了までの間、もしくは前記酸希釈液を作製する工程の開始から終了までの間の任意の段階で、沈殿抑制物を添加する工程を1または複数回実施することが好ましい。
【0029】
酸の使用量は可能な限り少ないほうが好ましい。ここで、沈殿抑制物は、酸の濃度を上げずにチタンの沈殿物の生成を抑制することで、結果として酸の濃度、ひいては酸の総量を減らすことを可能としている。
【0030】
ところで、沈殿抑制物は、一旦沈殿したチタン水酸化物に対しては再溶解の効果がないので、酸で溶解中に沈殿が発生しない酸の濃度が高い段階で添加する必要がある。一方、一旦チタンの溶存錯体が生成すれば酸濃度を低く抑えてもよいので、酸溶液を希釈する工程の早い段階で沈殿抑制物を投入することも可能である。
【0031】
酸溶液を希釈するどの段階で沈殿抑制物を添加するかは、使用する酸と沈殿添加物の種類によって替えることが好ましい。例えば、酸に硫酸、沈殿抑制物にHを用いた場合は、Hは硫酸に対しての反応性がほとんどないので、例えば通常試薬として用いられる98重量%の硫酸に添加しても、分解や反応を起こさない。しかし、例えば酸に硝酸、沈殿抑制物にHを用いた場合は、濃い硝酸とHが反応してしまい、分析に悪影響を及ぼしてしまう。
【0032】
すなわち、本発明の一態様においては、酸と沈殿抑制物との組み合わせによる分析用試料作製上の悪影響を考慮した上で、酸濃度が高い段階で沈殿抑制物を添加する。これにより、添加後は酸の濃度を十分薄くできる、すなわちチタンの沈殿物が生成しない酸濃度に保持するための酸の追加をしなくてよいので、酸の使用量を削減することが可能となる。
【0033】
また、沈殿抑制物の添加は一回または複数回でもよい。酸と沈殿抑制物の種類によっては、溶解のしやすさ、発泡の有無、溶液の発熱、その他添加作業のしやすさなどを考慮して、数回に分けて添加したほうが好ましい場合もある。
【0034】
酸と沈殿抑制剤の種類と組み合わせによる沈殿抑制効果の差異は、実際には少なからず存在するが、材料の組成や分析対象の不純物、求める定量精度との兼ね合いで、最適な酸と沈殿抑制剤の種類と組み合わせがあるので、必ずしも沈殿抑制効果を優先させる必要はなく、目的に応じて任意に選択してもよい。
【0035】
本実施の形態においては、酸は、ふっ化水素酸、硝酸、塩酸、硫酸のいずれか一つか
らなり、前記沈殿抑制物は、H、C(OH)、C10のいずれか1つ
からなることが好ましく、酸はふっ化水素酸、硫酸のいずれか、沈殿抑制物はHからなることがさらに好ましい。
【0036】
使用する酸については、分析対象の材料や不純物元素に応じて適時選択できるが、チタン単体やチタン化合物については、これらの酸が扱いやすく、分析装置への負荷も小さいので好ましい。また、沈殿抑制物についても、分析対象の元素を含まずチタンとの溶存錯体を形成する物質であれば適用可能であるが、こちらも扱いやすさと分析装置への負荷が少ないH、C(OH),C10が好ましい。
【0037】
本実施の形態においては、定量分析は、誘導結合プラズマ質量分析装置、誘導結合プラズマ発光分光分析装置、原子吸光分析装置のうち、少なくとも1種の分析装置を用いて不純物元素を定量することが好ましい。
【0038】
これらの分析装置は、非常に高感度に不純物を定量測定することが可能であるが、投入する分析用試料に含まれる酸や塩基は、可能な限り少ないほうが分析装置への負荷が低減される。分析用試料の作製において本実施の形態である酸や沈殿抑制物最適な添加を実施することで、チタン化合物の高精度な定量を達成することが可能となる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
【0040】
[実験例1]
図1は、本実験例に係る分析方法を示す工程フロー図である。ここで分析に用いる材料として、チタン含有量が6〜7重量%の合成シリカガラスの塊を用いた。
【0041】
この塊を粉砕して粉末状とした分析用原料1gを取り分け、50%フッ化水素酸10ml及び98%硫酸5mlを加えて溶解して酸溶液を作製した。なお、シリカガラス中に含まれるシリコンを分離するため硫酸白煙処理を実施した後に、純水を加えて全量を100mlとした。
【0042】
このようにして作製した酸溶液に対して、酸濃度が5%に保持されるよう、硫酸と純水を適量追加しながら、20倍の容量にした酸希釈液を作製した。この段階で酸濃度を5%
以下にするとチタン水酸化物が沈殿し始めてくるので、酸濃度は適切に管理する必要がある。
【0043】
このようにして作製した酸希釈溶液を20ml取り分け、そして、硫酸濃度およびHが表1に示す値になるように、これに30%Hを添加して十分攪拌してからさらに純水で希釈してそれぞれ分析用試料を作製した。
【0044】
このように作製した分析用試料を、Agilent社製のモデル7500cxであるICP質量分析装置に投入して定量分析を行った。表1に分析用試料の種類に対応した各種元素の分析結果を示す。
【表1】

【0045】
評価指標としては、チタンの沈殿有無、3種類の不純物元素の定量下限濃度、分析装置への影響、を用いた。このうち、不純物元素の定量下限濃度は濃度の組み合わせにより3水準を定め、それぞれ優、良、可とした。ただし、沈殿が生じた場合は不可とした。また、分析装置への影響は、装置の汚染や測定精度への影響を考慮して、それぞれ大、中、小とした。
【0046】
総合評価については、沈殿あり、分析装置への影響大は、一つでもあれば他の項目如何に関わらず×、不純物元素の定量下限濃度が“優”であれば○、それ以外の組み合わせは△とした。
【0047】
表1から明らかなように、Na,K,Feなどの元素の定量下限が、従来は2〜5ppmレベルであったものが、本実施例においては、1ppmを下回るものもあり、定量感度が向上していることがわかった。これは、沈殿物の生成が抑制されたこと、分析用試料の酸濃度も従来5%程度必要だったものが0.5%程度まで下げられたことで酸による分析機器の感度低下が抑制されたことによるといえる。
【0048】
[実験例2]
使用する原料は実験例1に準ずる。50%フッ化水素酸10ml及び98%硫酸5mlを加えて溶解して酸溶液を作製した段階で30%Hを10ml添加するケース1と、硫酸白煙処理を実施した後に純水を加えて全量を100mlとした段階で30%Hを10ml添加するケース2と酸溶液を10倍の容量にした酸希釈液を作製した段階で30%Hを1ml添加したケース3の、3つの方法で酸希釈液を作製する。そして、どの場合でもHを添加したのちは、酸を追加して酸濃度を保持する工程は省略して、分析用試料中のチタン量はすべて同じになるよう実験例1と同様に希釈を続け、最終的に作製される分析用試料は、すべて酸濃度0.5%、H濃度0.1%になるよう、分析用試料を作製する。
【0049】
実験例1と同様に定量分析を実施すると、どの場合でも沈殿の発生は見られず分析定量下限も“優”レベルである。また、トータルの硫酸使用量は98%硫酸換算で、ケース1とケース2で5ml、ケース3で55ml、実験例1で100mlなので、硫酸の使用量が削減できることがわかる。しかしながら、ケース1は、98%硫酸にHを添加するので、液の飛び散りが問題であることから実用上不安が残る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン単体またはチタンを含有する材料から粒子状もしくは粉末状の分析用原料を作製する工程と、前記分析用原料を濃度30重量%以上の酸で溶解して酸溶液を作製する工程と、前記酸溶液を純水で希釈して酸の濃度が1重量%以上10重量%以下の酸希釈液を作製する工程と、前記酸希釈液に沈殿抑制物を添加する工程と、前記酸希釈液に沈殿抑制物を添加した後さらに純水で希釈して分析用試料を作製する工程と、前記分析用試料中の不純物元素を定量分析する工程からなり、前記分析用試料は、0.1重量%以上5.0重量%以下の前記酸と、0.05重量%以上3.0重量%以下の前記沈殿抑制物を共に含むことを特徴とするチタン含有材料中の微量元素分析方法。
【請求項2】
使用する前記酸および前記沈殿添加物の種類に応じて、前記酸溶液を作製する工程の開始から終了までの間、もしくは前記酸希釈液を作製する工程の開始から終了までの間の任意の段階で、前記沈殿抑制物を添加する工程を1または複数回実施することを特徴とする請求項1に記載のチタン含有材料中の微量元素分析方法。
【請求項3】
前記酸は、ふっ化水素酸、硝酸、塩酸、硫酸のいずれか1つからなり、前記沈殿抑制物
は、H、C(OH)、C10のいずれか1つからなることを特徴とする請求項1または2に記載のチタン含有材料中の微量元素分析方法。
【請求項4】
前記定量分析する工程は、誘導結合プラズマ質量分析装置、誘導結合プラズマ発光分光分析装置、原子吸光分析装置のうち、少なくとも1種の分析装置を用いて不純物元素を定量することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のチタン含有材料中の微量元素分析方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−17547(P2011−17547A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160644(P2009−160644)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】