説明

チタン含有珪素酸化物成形体の製造方法及びオキシラン化合物の製造方法

【課題】高収率でオレフィンとハイドロパーオキサイドからオキシラン化合物を製造することができるチタン含有珪素酸化物成形体の製造方法及びオキシラン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】以下の第一工程、第二工程および第三工程を有するチタン含有珪素酸化物成形体の製造方法。
第一工程:膨潤剤および溶媒を含む溶液に、チタン含有ゼオライト層状前駆体(1)を接触させることによって、膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体(2)を得る工程
第二工程:前駆体(2)を加圧して、成形体(3)を得る工程
第三工程:成形体(3)に含まれる膨潤剤を除去する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率でオレフィンとハイドロパーオキサイドからオキシラン化合物を製造することができるチタン含有珪素酸化物成形体の製造方法及びオキシラン化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト構造を有するチタン含有珪素酸化物触媒は過酸化水素を用いたオレフィンのエポキシ化に活性を示すことが知られている。ゼオライト構造の基本単位は、四面体構造を持つTO(T=Si、Al、P、Ti、Bなど)であり、1つのTO単位が4つの頂点酸素をそれぞれ隣の4つのTO単位と共有することにより、次々とTO単位が3次元的に連結して結晶性の多孔質構造を形成する。そしてそのTO単位の連結の形態の違いにより様々な構造のゼオライトが存在し、Structure Commission of the International Zeolite Association (IZA-SC)により、その形体に従ったアルファベット3文字の構造コードにより分類されている。
例えば、該触媒として、チタン含有MWW型ゼオライト触媒が知られている。チタン含有MWW型ゼオライトとは、アルキル化触媒としてよく知られているMCM−22ゼオライトと同様の構造を有し、構造コードがMWWで表されるチタン含有珪素酸化物触媒である。
しかしながら、チタン含有MWW型ゼオライト触媒は、過酸化水素を用いたオレフィンのエポキシ化の活性は不十分である。またチタン含有MWW型ゼオライト触媒は細孔径が小さいので、大きいサイズのオレフィンや有機ハイドロパーオキサイドを用いた場合、エポキシ化活性は非常に低い。より大きな分子を反応させることができるMWW型ゼオライト触媒を得るためのアプローチとして、例えば、MWW型ゼオライト層状前駆体の層間を界面活性剤等で膨潤させた後、膨潤したMWW型ゼオライト層状前駆体に超音波処理および焼成をしてMWW型ゼオライト層状前駆体を脱積層化(Delamination)する触媒の製造方法が知られている。該触媒は、MWW型ゼオライトの類縁物であるITQ2として広く知られている。特許文献1には、脱積層化により得られたITQ2の粉体をプレスしてタブレットを得、該タブレットを破砕、分級して、所定のサイズ以上の成形体を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−509479公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、チタン含有ゼオライトあるいはその類縁物を触媒として用いてオレフィンとハイドロパーオキサイドからオキシラン化合物を製造する場合、収率および操作性、ハンドリング性の観点で、該触媒の更なる改良が求められていた。
かかる現状において本発明が解決しようとする課題は、高収率でオレフィンとハイドロパーオキサイドからオキシラン化合物を製造することができるチタン含有珪素酸化物成形体の製造方法及びオキシラン化合物の製造方法を提供する点に存するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、下記第一工程、下記第二工程および下記第三工程を有するチタン含有珪素酸化物成形体の製造方法に係るものである。
第一工程:膨潤剤および溶媒を含む溶液に、チタン含有ゼオライト層状前駆体(1)を接触させることによって、膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体(2)を得る工程
第二工程:前駆体(2)を加圧して、成形体(3)を得る工程
第三工程:成形体(3)に含まれる膨潤剤を除去する工程
【0006】
また、本発明は、上記の製造方法で得られたチタン含有珪素酸化物成形体の存在下に、オレフィンとハイドロパーオキサイドとを反応させるオキシラン化合物の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高収率でオレフィンとハイドロパーオキサイドからオキシラン化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のチタン含有珪素酸化物成形体の製造方法は、下記第一工程、下記第二工程および下記第三工程を有する。
第一工程:膨潤剤および溶媒を含む溶液に、チタン含有ゼオライト層状前駆体(1)を接触させることによって、膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体(2)を得る工程
第二工程:前駆体(2)を加圧して、成形体(3)を得る工程
第三工程:成形体(3)に含まれる膨潤剤を除去する工程
【0009】
上記第一工程で原料として用いられるチタン含有ゼオライト層状前駆体とは、チタン原子が導入されたゼオライト層状前駆体である。ゼオライト層状前駆体とは、シート状の珪素酸化物が何層にも積層した構造を有する構造体であって、それを焼成することで3次元の結晶多孔質構造が形成されて、ゼオライトを形成し得る構造体である。ゼオライト層状前駆体を焼成することにより得られるゼオライトの構造としては、Structure Commission of the International Zeolite Association (IZA-SC)により規定されているMWW型、FER型、RRO型、CDO型などが挙げられる。なかでも、MWW型ゼオライト層状前駆体が好ましい。チタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体の製造方法としては、例えば、特開2002−102709号公報に記載の方法が挙げられる。
【0010】
ゼオライト層状前駆体へのチタン原子の導入には、ゼオライト層状前駆体の構造を水熱合成等で形成させる際にチタン源を共存させてチタン原子を導入する直接導入法、チタン原子を含まないゼオライト層状前駆体を合成した後、イオン交換、同形置換、アトムプランティング等の方法によりチタン原子を導入するポスト導入法のいずれを用いてもよいが、チタン原子の導入は直接導入法で行うことが好ましい。
【0011】
ゼオライト層状前駆体の構造はX線回折法(XRD)により観察することができる。ゼオライト層状前駆体へのチタン原子の導入は紫外可視分光法(UV−Vis)等により確認することが出来る。
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態の一例であるチタン原子が直接導入されたMWW型ゼオライト層状前駆体を原料として用いるケースについて詳細に記載するが、本発明はこの記載に何ら限定されるものではない。
【0013】
チタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体は、ケイ素化合物、チタン化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤を混合後、得られた混合物を水熱合成反応に付すことで得ることができる。
【0014】
前記ケイ素化合物としては、例えば、アルコキシシラン、アモルファスシリカ等が挙げられ、アルコキシシランとしては、例えば、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラプロピルオルトシリケート等が挙げられ、アモルファスシリカとしては、例えば、ヒュームドシリカ等が挙げられる。
【0015】
前記チタン化合物としては、例えば、アルコキシチタン、ペルオキシチタン酸塩、ハロゲン化チタン、酢酸チタン、硝酸チタン、硫酸チタン、リン酸チタン等が挙げられ、アルコキシチタンとしては、例えば、テトラ−n−プロピルオルソチタネート、テトラ−イソプロピルオルソチタネート、テトラ−n−ブチルオルソチタネート等が挙げられ、ペルオキシチタン酸塩としては、例えば、ペルオキシチタン酸テトラ−n−ブチルアンモニウム等が挙げられ、ハロゲン化チタンとしては、例えば、四塩化チタン、四臭化チタン、四沃化チタン等が挙げられる。
【0016】
前記ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、無水ホウ酸等が挙げられる。
【0017】
構造規定剤とは、ゼオライトあるいはその前駆体の構造形成の助剤として利用される有機化合物である。MWW型ゼオライト層状前駆体を得るために好適な構造規定剤としては、例えば、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、トリメチルアダマンタアンモニウムヒドロキシドが挙げられる。これらの構造規定剤は、単独で用いてもよく、所望の割合2種類以上の構造規定剤を混合して用いてもよい。なかでもピペリジンを単独で用いることが好ましい。
【0018】
前記各原料(ケイ素化合物、チタン化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤)の使用割合は、ケイ素化合物中のケイ素原子の数を基準にして、チタン化合物はチタン原子として0.01〜0.2モル倍であり、ホウ素化合物はホウ素原子として0.1〜3モル倍であり、水は3〜50モル倍であり、構造規定剤は0.1〜3モル倍であることが好ましい。
【0019】
前記各原料は、好ましくは、0〜60℃、さらに好ましくは10〜50℃の温度で混合するのがよい。
【0020】
前記各原料の混合方法は、例えば、全ての原料を一括して混合してもよいし、各原料を順次混合していってもよい。特に、液体である原料を先に混合した後に固体である原料を混合することが、原料を均一に攪拌でき、ひいては、得られたチタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体中のチタン原子の偏在を回避できるので好ましい。
【0021】
前記各原料の混合物は、チタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体を得るために水熱合成反応に付される。ここで、チタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体とは、焼成することでMWW型ゼオライトの構造に変化する構造体であって、チタン含有珪素酸化物からなる各層の中、および該層の間に構造規定剤が包含されている構造体を意味する。
【0022】
一般に、水熱合成とは、高温高圧の水の存在の下に行われる物質の合成法および結晶成長法をいい(「岩波 理化学辞典」、第4版、株式会社岩波書店、1987年、p.647参照)をいい、本発明において、具体的には、前記各原料を混合し、オートクレーブ中、自圧下に100〜200℃程度の温度で原料の混合物を加熱して、数時間〜数日間、混合物を攪拌あるいは静置することにより行われる。
【0023】
水熱合成で生成した固体はチタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体以外の化合物を含んでいてもよく、チタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体を含む固体は、通常、反応混合物を濾過し、残渣を必要に応じて水やメタノール等の有機溶媒で洗浄後、乾燥することで得ることができる。
【0024】
乾燥方法は、例えば、減圧雰囲気下、あるいは非還元性気体、たとえば窒素、アルゴン又は二酸化炭素もしくは酸素含有気体の存在下で、残渣を10〜200℃で加熱する方法が好ましく、50〜100℃が更に好ましい。
【0025】
水熱合成で生成したチタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体は、後述の第一工程に付される前に酸によって処理され、反応活性点として機能しない、不要なTiを除去するのが好ましい。不要なTiの除去に用いられる酸としては、例えば、無機酸、有機酸が挙げられ、無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸等が挙げられ、無機酸が好ましい。通常、酸は、該酸を溶媒で希釈した溶液として使用する。溶液における酸の濃度は0.5〜10規定であることが好ましく、溶媒はアルコールやケトンなどの有機溶媒および水が使用できる。
【0026】
上記操作によって得られたチタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体(1)を膨潤剤および溶媒を含む溶液と接触させることによって、膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体(2)を得ることができる。前駆体(1)を溶液と接触させる方法としては、前駆体(1)を溶液に浸漬する方法が挙げられる。
チタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体が膨潤したことは、X線回折法(XRD)におけるMWW構造の002面に由来する前駆体(2)のピークが、前駆体(1)のピークよりも低角側へシフトしていることや、元素分析や灼熱減量分析によって、前駆体(1)と前駆体(2)に含まれる有機物量の差などから確認することが出来る。
【0027】
第一工程で用いられる膨潤剤とは、チタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体の層間に侵入して層間距離を拡大する特性を有する化合物である。膨潤剤としては界面活性剤が好適に使用でき、なかでも下記の式(I)で表される第4級アンモニウムイオン含む化合物が好ましい。
[NR1234+ (I)
(式(I)中、R1は炭素数2〜36の直鎖状または分岐状の炭化水素基を表し、R2〜R4は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【0028】
式(I)において、R1は炭素数2〜36の直鎖状または分岐状の炭化水素基であり、好ましくは、炭素数10〜18の直鎖状または分岐状の炭化水素基である。R2〜R4は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基であり、R2〜R4の全てがメチル基であることが好ましい。
【0029】
式(I)で表される第4級アンモニウムイオンとしては、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ヘキサデシルピリジニウム等が挙げられ、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムがより好ましい。
【0030】
膨潤剤は、式(I)で表される第4級アンモニウムイオンを1種類のみ含んでいてもよく、2種類以上を含んでいてもよい。
【0031】
溶液に含まれる溶媒としては、膨潤剤を溶解することが出来る、例えば、水、アルコール、ケトン等が挙げられ、アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が挙げられ、ケトンとしては、例えば、アセトン等が挙げられる。溶媒は2種以上混合して用いてもよい。
【0032】
また、前駆体(1)の膨潤を促進するために、溶液はアルカリ性であることが好ましい。アルカリ源としては4級アンモニウムヒドロキシドが好ましく、例えば、アンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、一般式(I)で表される第4級アンモニウムイオンの水酸化物がより好ましい。
【0033】
前駆体(1)を溶液に接触させる温度は通常40〜120℃であり、60〜100℃がより好ましい。前駆体(1)を溶液に接触させる時間は通常5〜50時間である。また、必要に応じて、前駆体(1)を含む溶液に超音波を照射したり、前駆体(1)を含む溶液のpHを調整しても良い。
【0034】
通常、前駆体(1)を溶液に接触させた接触物を、濾過あるいは遠心分離して固体を得、必要に応じて該固体を水やメタノール等の有機溶媒で洗浄後、乾燥することで、膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体(2)を得ることができる。
【0035】
乾燥方法は、例えば、減圧雰囲気下、あるいは非還元性気体、たとえば窒素、アルゴン又は二酸化炭素もしくは酸素含有気体の存在下で、残渣を10〜200℃で加熱する方法が好ましく、50〜100℃が更に好ましい。
【0036】
本発明の第二工程は、第一工程で得られた膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体(2)を加圧して、成形体(3)を得る工程である。膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体(2)を加圧することが本発明の最重要事項であり、これにより、続く第三工程で成形体(3)から膨潤剤を除去することによって、触媒物性に優れるチタン含有珪素酸化物成形体を得ることができる。
【0037】
前駆体(2)を加圧する成形方法としては、ロールプレス成形(ブリケッティング、コンパクティング)、油圧プレス成形、打錠成形などに代表される圧縮成形、押出成形などのいずれの方法を用いてもよいが、圧縮成形がより好ましい。前駆体(2)を押出成形する場合、一般的に用いられる有機または無機バインダーを用いることができる。本発明においては、バインダーを用いない方法が好ましい。
【0038】
前駆体(2)を加圧するときの圧力は、通常、0.1〜10トン/cm2であり、好ましくは、0.2〜5トン/cm2であり、更に好しくは、0.5〜2トン/cm2である。
【0039】
圧縮成形に付される固体の水分含量は15%以下であることが好ましく、10%以下が更に好ましい。
【0040】
成形体(3)の形状は、錠剤、球、リングなどいずれの形状であってもよい。続く第三工程では、成形体(3)をそのままの形状で用いてもよいし、適当な大きさに破砕して用いてもよい。破砕した成形体(3)を用いる場合は、成形体(3)の破砕物を分級して所定の大きさ以上の破砕物を用いることが好ましい。成形体の大きさとしては0.2mm以上10mm以下が好ましく、0.5mm以上5mm以下が更に好ましい。
【0041】
本発明の第三工程は、第二工程で得られた成形体(3)に含まれる膨潤剤を除去してチタン含有珪素酸化物成形体を得る工程である。
【0042】
膨潤剤を除去する方法としては、第二工程で得られた成形体(3)を空気下400〜700℃の高温で焼成する方法や、溶媒によって膨潤剤を抽出する方法が挙げられ、溶媒によって膨潤剤を除去する方法が好ましい。
【0043】
抽出に用いる溶媒は、膨潤剤を溶解し得るものであればよく、一般に炭素数1〜12の常温で液状のオキサ及び/又はオキソ置換炭化水素を用いることができる。この種類の好適な溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類(非環式化合物及び環式化合物)、エステル類等が挙げられ、アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イソプロパノール、n−ブタノール、オクタノール等が挙げられ、ケトン類としては、例えば、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、エーテル類としては、例えば、ジイソブチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられ、エステル類としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル等が挙げられる。また、水や上記の溶媒との混合溶液も用いることができる。
これらの溶媒の成形体(3)に対する重量比は、通常、1〜1000であり、好ましくは、5〜300である。
【0044】
また、抽出効果を向上させるために、これらの溶媒に酸又は酸の塩を添加することが好ましい。用いる酸としては、例えば、無機酸、有機酸が挙げられ、無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、臭酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、ぎ酸、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。また、酸の塩の例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。酸又は酸の塩の溶媒中の濃度は10mol/l以下が好ましく、5mol/l以下が更に好ましい。
【0045】
溶媒と成形体(3)を十分に混合した後、液相をろ過又はデカンテーションなどの方法により分離する。この操作を必要回数繰り返す。また成形体(3)を管に充填して固定し、その固定された成形体(3)に洗浄溶媒を流通させる方法により膨潤剤を抽出することも可能である。膨潤剤の抽出の終了はたとえば液相の分析により知ることができる。抽出温度は0〜200℃が好ましく、20〜100℃が更に好ましい。抽出溶媒の沸点が低い場合は加圧下に抽出を行ってもよい。
【0046】
抽出処理後に得られたチタン含有珪素酸化物成形体は、乾燥してもよい。乾燥方法は、非還元性気体、たとえば窒素、アルゴン又は二酸化炭素もしくは酸素含有気体、たとえば空気の雰囲気下で、10〜700℃で加熱する方法が好ましく、50〜200℃が更に好ましい。
【0047】
上記の操作で得られたチタン含有珪素酸化物成形体は、チタン含有MWW型ゼオライト等を含んでいても構わないが、チタン含有MWW型ゼオライトの含有量が50%以下であることが好ましく、30%以下であることが更に好ましい。
【0048】
チタン含有珪素酸化物成形体は、オレフィンとハイドロパーオキサイドからオキシラン化合物を製造する方法における触媒として好適である。前記方法で得られるチタン含有珪素酸化物成形体をシリル化して得られるシリル化チタン含有珪素酸化物成形体も、オレフィンとハイドロパーオキサイドからオキシラン化合物を製造する方法における触媒として好適である。シリル化チタン含有珪素酸化物成形体は、チタン含有珪素酸化物成形体よりも疎水性が強い。そのため、シリル化チタン含有珪素酸化物成形体を触媒として用いることによって、オレフィンとハイドロパーオキサイドからオキシラン化合物を高収率で製造することができる。
【0049】
チタン含有珪素酸化物成形体をシリル化する方法としては、該成形体をシリル化剤と接触させる方法が挙げられる。シリル化剤としては、例えば、有機シラン、有機シリルアミン、有機シリルアミドとその誘導体、有機シラザン、その他のシリル化剤が挙げられる。
【0050】
有機シランとしては、例えば、クロロトリメチルシラン、ニトロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、ジメチル−n−プロピルクロロシラン、ジメチルイソプロピルクロロシラン、t−ブチルジメチルクロロシラン、トリプロピルクロロシラン、ジメチルオクチルクロロシラン、トリブチルクロロシラン、トリヘキシルクロロシラン、ジメチルエチルクロロシラン、ジメチルオクタデシルクロロシラン、n−ブチルジメチルクロロシラン、3−クロロプロピルジメチルクロロシラン、ジメトキシメチルクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、ジメチルフェニルクロロシラン、ベンジルジメチルクロロシラン、ジフェニルメチルクロロシラン、ジフェニルビニルクロロシラン、トリベンジルクロロシラン、3−シアノプロピルジメチルクロロシランが挙げられる。
【0051】
有機シリルアミンとしては、例えば、N−トリメチルシリルイミダゾール、N−t−ブチルジメチルシリルイミダゾール、N−ジメチルエチルシリルイミダゾール、N−ジメチル−n−プロピルシリルイミダゾール、N−ジメチルイソプロピルシリルイミダゾール、N−トリメチルシリルジメチルアミン、N−トリメチルシリルジエチルアミン、N−トリメチルシリルピロール、N−トリメチルシリルピロリジン、N−トリメチルシリルピペリジン、1−シアノエチル(ジエチルアミノ)ジメチルシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルシリルアミンが挙げられる。
【0052】
有機シリルアミド及びその誘導体としては、例えば、N,O−ビストリメチルシリルアセトアミド、N,O−ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、N−トリメチルシリルアセトアミド、N−メチル−N−トリメチルシリルアセトアミド、N−メチル−N−トリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、N−メチル−N−トリメチルシリルヘプタフルオロブチルアミド、N−(t−ブチルジメチルシリル)−N−トリフルオロアセトアミド、N,O−ビス(ジエチルハイドロシリル)トリフルオロアセトアミドが挙げられる。
【0053】
有機シラザンとしては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(クロロメチル)テトラメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシラザンが挙げられる。
【0054】
その他のシリル化剤としては、例えば、N−メトキシ−N,O−ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、N−メトキシ−N,O−ビストリメチルシリルカーバメート、N,O−ビストリメチルシリルスルファメートメート、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート、N,N’−ビストリメチルシリル尿素が挙げられる。
好ましいシリル化剤はヘキサメチルジシラザンである。
【0055】
チタン含有珪素酸化物成形体のシリル化は、気相および液相のどちらでも行うことが出来る。液相でシリル化を行う場合は通常、シリル化剤と本質的に反応しない溶媒中でシリル化を行い、溶媒としては炭化水素が好適に用いられる。炭化水素溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられ、脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられ、芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。シリル化温度は好ましくは0〜300℃、より好ましくは50〜150℃である。
【0056】
本発明の方法で得られるチタン含有珪素酸化物成形体およびシリル化チタン含有珪素酸化物成形体は、特にオレフィンとハイドロパーオキサイドを反応させるオキシラン化合物の製造方法における触媒として好適に使用され得る。
【0057】
オレフィンは、非環式、単環式、二環式又は多環式化合物であってよく、モノオレフィン、ジオレフィン又はポリオレフィンであってよい。オレフィン結合が2個以上ある場合には、これは共役結合又は非共役結合であってよい。炭素原子2〜60個のオレフィンが一般に好ましい。オレフィンは置換基を有していてもよく、置換基は比較的安定な基であることが好ましい。モノオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、イソブチレン、ヘキセン−1、ヘキセン−2、ヘキセン−3、オクテン−1、デセン−1、スチレン、シクロヘキセン等が挙げられ、プロピレンが好ましい。ジオレフィンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレンが挙げられる。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、または窒素原子を、水素及び/又は炭素原子と共に含有する種々の置換基等が挙げられ、置換基を有するオレフィンとしては、例えば、不飽和アルコール、ハロゲン原子で置換されたオレフィン等が挙げられ、不飽和アルコールとしては、例えば、アリルアルコール、クロチルアルコール等が挙げられ、ハロゲン原子で置換されたオレフィンとしては、例えば、塩化アリル等が挙げられる。
【0058】
本発明で好適に用いられるハイドロパーオキサイドとしては、過酸化水素や有機ハイドロパーオキサイドがあげられるが、有機ハイドロパーオキサイドがより好ましい。
有機ハイドロパーオキサイドは、一般式
R−O−O−H
(ここにRは1価のヒドロカルビル基である。)
で表される化合物であって、これはオレフィンと反応して、オキシラン化合物及び化合物R−OHを生成する。Rとして、好ましくは、炭素数3〜20のヒドロカルビル基であり、より好ましくは、炭素数3〜10のヒドロカルビル基であり、更に好ましくは、炭素数3〜10の第2級若しくは第3級アルキル基およびシクロアルキル基、または炭素数8〜10の第2級若しくは第3級アラルキル基であり、特に好ましくは、炭素数3〜10の第3級アルキル基または炭素数8〜10の第2級若しくは第3級アラルキル基である。炭素数3〜10の第3級アルキル基としては、例えば、第3ブチル基、第3ペンチル基等が挙げられ、炭素数8〜10の第3級アラルキル基としては、例えば、2−フェニルプロピル−2基等が挙げられる。更にまた、テトラリン分子の脂肪族側鎖から水素原子を除去することによって生じる種々のテトラニリル基も、Rの例として挙げられる。
【0059】
有機ハイドロパーオキサイドはクメンハイドロパーオキサイドであることが好ましく、その場合は、特開2008−266304公報に記載のプロピレンオキサイド単産プロセスの一部として、本発明のオキシラン化合物の製造方法を好適に利用できる。
【0060】
オキシラン化合物の製造は、溶媒を用いて液相中で実施できる。溶媒は、反応時の温度及び圧力のもとで液体であり、かつ、反応体及び生成物に対して実質的に不活性であることが好ましい。溶媒は使用されるハイドロパーオキサイド溶液中に存在する物質であってよい。例えば、クメンハイドロパーオキサイド溶液がクメンハイドロパーオキサイドとその原料であるクメンとからなる混合物である場合には、特に溶媒を添加することなく、この溶液を溶媒の代用とすることも可能である。
【0061】
反応温度は一般に0〜200℃であるが、25〜200℃の温度が好ましい。圧力は、反応混合物を液体の状態に保つことができる圧力であればよい。一般に圧力は、100〜10000kPaであることが好ましい。
【0062】
反応の終了後に、オキシラン化合物を含有する液状混合物が触媒から容易に分離できる。次いで液状混合物を適当な方法によって精製すればよい。精製は分別蒸留、選択抽出、濾過、洗浄等を含む。溶媒、触媒、未反応オレフィン、未反応ハイドロパーオキサイドは再循環して再び使用することもできる。
【0063】
オキシラン化合物の製造は、スラリーで行ってもよく、固定床を用いて行ってもよい。大規模な工業的操作の場合には、固定床を用いる方法が好ましい。本発明によって得られるチタン含有珪素酸化物成形体またはシリル化チタン含有珪素酸化物成形体を固定床に用いた場合は、粉体を使用した場合に比べ、反応管前後の圧力損失が小さいためオペレーションが容易で、また触媒の下流への流出も少なく、更には充填などの際のハンドリング性にも優れている。
【実施例】
【0064】
以下に実施例により本発明を説明する。
【0065】
〔実施例1〕
(1)チタン含有ゼオライト層状前駆体の調製
1リットルのセパラブルフラスコに171gのイオン交換水と60gのピペリジンを入れて攪拌し、ここに室温で5gのテトラ−n−ブチルオルソチタネートを滴下した。これらを0.5時間撹拌した後、42gのホウ酸を加え更に0.5時間攪拌した。続いて30gのヒュームドシリカ(キャボット社製Cab−O−Sil M−7D)を加えた後、1時間攪拌した。その後171gのイオン交換水を加えて攪拌し、均一となった混合物を4分割して、それぞれを200mlポリテトラフルオロエチレン内筒オートクレーブ4本に仕込み、攪拌下、170℃で7日間水熱合成を行った。生じた固体を濾取して集め、少量のイオン交換水で水洗した。得られた固体211gを2リットルのフラスコに入れ、1125mlのメタノールを加えた。攪拌しながらリフラックス温度で1.5時間加熱し、放冷後、濾過により溶液を除去した。回収した固体について、1125mlのメタノールを用いて同様の操作をもう一度繰り返した。最後に、濾取した固体を少量のメタノールで洗浄後、70℃、10mmHgで7時間乾燥させたところチタン含有ゼオライト層状前駆体を含む固体27gが得られた。
【0066】
(2)膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体を得る工程(第一工程)
上記(1)の方法で得られたチタン含有ゼオライト層状前駆体を含む固体(700℃灼熱減量19.7%)4g、イオン交換水54g、29%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水・メタノール溶液30g、及びヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド11gを200mlポリテトラフルオロエチレン内筒オートクレーブに仕込み、攪拌下、80℃で16時間加熱した。生じた固体を遠心分離し1リットルのイオン交換水で水洗した後、70℃、10mmHgで7時間乾燥させたところ、4.4gの膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体(白色固体、700℃灼熱減量60.0%)4.4gが得られた。
【0067】
(3)成形体の作製(第二工程)
第一工程で得られた白色固体4.4gを、内径が3cmである錠剤成型器を用いて0.5トン/cm2の圧力で圧縮成型した。得られた錠剤を破砕し、篩を用いて1.0〜1.7mmの成形体を得た。1.0mm未満の固体はリサイクルして、再度圧縮成型し、得られた錠剤を破砕し、篩を用いて1.0〜1.7mmの成形体を得た。また、得られた成形体を粉砕して、(株)リガク製MiniFlexIIを用いて粉末X線回折(XRD)分析を行ったところ、MWW構造の002面に由来するピークが、チタン含有ゼオライト層状前駆体を測定して観測されるピークに比較して、低角側へシフトしたことが確認された。
【0068】
(4)膨潤剤の除去(第三工程)
第二工程で得られた成形体4gをフラスコに入れ、200mlのメタノールと濃塩酸(含量36重量%)40gとの混合溶液を加えた。攪拌しながらリフラックス温度で1時間加熱した。放冷後、デカンテーションにより溶液を除去した。次に200mlのメタノールを加え1時間リフラックスさせた。放冷後、濾過により固体を得た。該固体を少量のメタノールで洗浄した後、70℃、10mmHgで3時間乾燥させたところ、チタン含有珪素酸化物成形体1.7gが得られた。
【0069】
(5)シリル化(第四工程)
第三工程で得られたチタン含有珪素酸化物成形体1g、ヘキサメチルジシラザン1g、及びトルエン20gを混合し、リフラックス下1.5時間加熱した。放冷後、固体を濾取し、120℃、10mmHgで1.5時間乾燥することにより、シリル化チタン含有珪素酸化物成形体1gを得た。
【0070】
(6)プロピレンキサイド(PO)合成
上記の方法で得られたシリル化チタン含有珪素酸化物成形体0.25g、60gの25%クメンハイドロパーオキサイド(CHPO)/クメン溶液および33gのプロピレンをオートクレーブに仕込み、自生圧力下、100℃で1.5時間(昇温時間込み)反応を行った。オートクレーブを冷却し、プロピレンをパージした後、オートクレーブを開放し、反応後液のサンプリングおよび分析を行った。反応成績を表1に示す。
【0071】
(7)触媒分析
(株)リガク製MiniFlexIIを用いて、上記の方法で得られたシリル化チタン含有珪素酸化物成形体の粉末X線回折(XRD)分析を行った。触媒分析結果を表1に示す。
【0072】
〔実施例2〕
第三工程の膨潤剤の除去を溶媒抽出ではなく、100ml/分の空気気流下540℃で5時間成形体を焼成することにより行ったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。触媒分析結果および反応成績を表1に示す。
【0073】
〔比較例1〕
実施例1の第二工程と第三工程の順序を入れ替えて、膨潤剤除去(溶媒抽出)後に成型を行うこと以外は実施例1と同様の操作を行った。触媒分析結果および反応成績を表1に示す。
【0074】
〔比較例2〕
実施例2の第二工程と第三工程の順序を入れ替えて、膨潤剤除去(焼成)後に成型を行うこと以外は実施例2と同様の操作を行った。触媒分析結果および反応成績を表1に示す。
【0075】
【表1】


*1:CHPO転化率(%)=(反応CHPOモル/仕込みCHPOモル)x100

*2:PO/C3’選択率(%)=(生成オキシラン化合物モル/反応プロピレンモル)x100

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の第一工程、第二工程および第三工程を有するチタン含有珪素酸化物成形体の製造方法。
第一工程:膨潤剤および溶媒を含む溶液に、チタン含有ゼオライト層状前駆体(1)を接触させることによって、膨潤されたチタン含有ゼオライト層状前駆体(2)を得る工程
第二工程:前駆体(2)を加圧して、成形体(3)を得る工程
第三工程:成形体(3)に含まれる膨潤剤を除去する工程
【請求項2】
前駆体(1)がチタン含有MWW型ゼオライト層状前駆体である請求項1記載の方法。
【請求項3】
膨潤剤が式(I)で表される第4級アンモニウムイオンを含む請求項1または2に記載の方法。
[NR1234+ (I)
(式(I)中、R1は炭素数2〜36の直鎖状または分岐状の炭化水素基を表し、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【請求項4】
膨潤剤および溶媒を含む溶液がアルカリ性である請求項1〜3いずれかに記載の方法。
【請求項5】
シリル化チタン含有珪素酸化物成形体の製造方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の方法で得られたチタン含有珪素酸化物成形体をシリル化する工程を含む方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法で得られたチタン含有珪素酸化物成形体または請求項5に記載の方法で得られたシリル化チタン含有珪素酸化物成形体の存在下に、オレフィンとハイドロパーオキサイドとを反応させるオキシラン化合物の製造方法。
【請求項7】
オレフィンがプロピレンである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ハイドロパーオキサイドが有機ハイドロパーオキサイドである請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
有機ハイドロパーオキサイドがクメンハイドロパーオキサイドである請求項8に記載の方法。

【公開番号】特開2012−131696(P2012−131696A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258539(P2011−258539)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】