説明

チタン焼結多孔体およびその製造方法

【課題】空隙率が高く比較的厚みが薄く、かつ良好な弾性特性を有するチタン焼結多孔体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】チタン繊維を焼結した多孔体であって、チタン繊維の断面が多角形であり、多角形の最長の辺である長稜が200μm以下、長稜に対する短稜の比が0.5以下、全長が1〜5mm、アスペクト比が20〜200であり、かつ、多孔体の空隙率が70%〜90%、厚みが1mm〜5mmであることを特徴とするチタン焼結多孔体。また、上記チタン繊維を圧縮し、得られた圧縮成形体を焼結することを特徴とするチタン焼結多孔体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン焼結多孔体およびその製造方法に係るもので、特に、2次電池の電極や燃料電池の拡散膜や色素増感型太陽電池の電極に好適なチタン焼結多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン焼結体の多孔体としては、チタン粉末を原料としたろ過用フィルターが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、チタン粉を原料とした焼結多孔体は、チタン粒子が密に充填されてしまうため、空隙率が、35〜55%程度のものしか製造することができない。最近では、チタン焼結多孔体は2次電池用の電極や燃料電池の拡散層や色素増感型太陽電池の電極としての利用も検討されているため、これらの新たな用途に適した高い空隙率やその他の諸特性を備えたチタン焼結多孔体の製造方法が望まれている。
【0004】
このような点については、金属繊維を用いた焼結多孔体の製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。この製造方法では、金属繊維をシート状に成形後に通電焼結することにより、空隙率を40〜95%程度の幅広い範囲に制御することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の焼結多孔体は、ある程度以上の厚さを有する、即ち3次元方向に多孔質構造が形成された多孔体を対象とするものであり、その結果、比較的厚みの薄い多孔体については必ずしも前記の内容では特性を満足することができず、検討の余地が残されている。
【0006】
また、チタン繊維を使った空隙率80〜92%、厚さ1〜15mmの多孔体が開示されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3に記載のチタン焼結多孔体では、見かけの弾性係数(Apparent modulus of elasticity)が、80〜100MPaであると弾性係数も規定されている。弾性係数が重要となる多孔体の用途は、圧縮後に荷重を除いたときに元の厚みに戻ることが要求される用途と推測されるが、特許文献3では、その用途として、骨折治療時に骨の欠損部に充填する材料としてチタン多孔体が好適であるとしている。
【0007】
特許文献3では、材料特性である弾性係数を規定しており、このような材料特性は原料であるチタン繊維の断面形状、太さと長さを選択することで実現されると考えられる。すなわち、この特許では「長さと直径の比は最小で125」と細長く、かつ、断面が丸く表面が平滑なチタン繊維を原料としている。
【0008】
しかしながら、実際の使用の段階で必要とされる弾性特性は、材料特性としての弾性係数ではなく、使用状態でのばね定数である。使用状態でのばね定数は、材料特性としての弾性係数だけではなく、材料の厚さに大きく影響される因子で、特許文献3は比較的薄いチタン多孔体の使用状態のばね定数に関する情報を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−317207号公報
【特許文献2】特開2004−018951号公報
【特許文献3】EP0178650B1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明においては、チタン焼結多孔体の空隙率が高く、かつ、厚みが比較的薄く、しかも良好な弾性特性を有するチタン焼結多孔体およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0011】
本発明では、チタン焼結多孔体について検討していたところ、チタン粉に代えて、本明細書で詳述する断面形状や太さおよび長さといった種々の特性を有するチタン繊維を用いることにより、所定の厚みで、しかも空隙率の高い焼結体を製造することができるのみならず、弾性特性(以降、「クッション特性」と呼ぶ場合がある)を制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる実情に鑑みて前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきたところ、チタン焼結多孔体の厚みが薄く、しかも空隙率が高く、更に弾性特性に優れたチタン焼結多孔体を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
さらには、前記焼結多孔体は材質がチタンであるために、硫酸、硝酸等の腐食性液体、腐食性蒸気に対して当然のように強い耐食性を示すのみならず、空隙率に応じて腐食性液体中の金属イオン、硫酸イオン等の透過性を示すことが明らかとなった。また、気体の通風量を空隙率によって調整することができるという効果を有するのは勿論のこと、空隙率の調整でイオンの透過率を制御できるという効果も見出した。
【0014】
本発明は、前記知見に基づくものであり、本発明に係るチタン焼結多孔体は、チタン繊維の断面が多角形であり、長稜(チタン繊維断面形状の多角形のうちの最長の辺を指す)が200μm以下、長稜に対する短稜(チタン繊維断面形状の多角形のうちの最短の辺を指す)の比が0.5以下、全長が1〜5mm、アスペクト比(長さ÷真円換算の直径を指す)が20〜200であり、かつ、多孔体の空隙率が70〜90%、厚みが1〜5mmであることを特徴としている。
【0015】
本発明においては、見かけのばね定数が1×10〜1×10N/mmであることを好ましい態様としている。
【0016】
本発明においては、前記チタン繊維の製造に用いられるチタン材としては、純チタンに限らず、他の金属成分を添加したチタン合金やホウ素、炭素あるいは窒化物等を添加したチタン組成物を使用することができる。
【0017】
前記チタン材あるいは前記組成物からなるチタン繊維は、ビビリ振動法により製造されたことを好ましい態様としている。
【0018】
なお、本願発明に用いるチタン繊維は、純チタンのみならず前記した組成物を原料としたものも含むものとする。
【0019】
本発明においては、二次電池用電極、燃料電池用拡散膜または色素増感型太陽電池用電極として用いられることを好ましい態様としている。
【0020】
また、本発明のチタン焼結多孔体の製造方法は、断面が多角形であり、前記多角形の最長の辺である長稜が200μm以下、長稜に対する短稜の比が0.5以下、全長が1〜5mm、アスペクト比が20〜200であるチタン繊維を圧縮し、得られた圧縮成形体を焼結することを特徴としている。
【0021】
本発明においては、得られたチタン焼結多孔体を更に圧縮成形し、焼結することを好ましい態様としている。
【0022】
本発明においては、厚みを1〜5mmとすることを好ましい態様としている。
【0023】
本発明においては、表面から荷重を加えつつ前記焼結を行なうことを好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明に従って製造されたチタン焼結多孔体は、二次電池の電極、燃料電池用拡散膜または色素増感型太陽電池の電極として好適に利用できるという効果を奏するものである。また、本発明に係るチタン焼結多孔体は、気体の通風量を空隙率によって調整できるという効果を有するのは勿論のこと、電解液中に浸漬させたときに電解液中のイオンの通過量を多孔体の空隙率によって制御できるという効果を奏するものである。さらに、本発明に従って製造されたチタン焼結多孔体は、荷重が加わると厚さが減じるが、除荷すると元の厚さに戻るという所謂クッション性が優れているという効果も奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】走査電子顕微鏡(SEM)による本発明のチタン焼結多孔体の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るチタン焼結多孔体は、チタン繊維を用いた多孔体であって、前記チタン繊維の断面が不定形であり長稜が200μm以下、長稜に対する短稜の比が0.5以下、全長が1〜5mm、アスペクト比が20〜200であり、かつ、多孔体の空隙率が70%〜90%であり、更に多孔体の厚みが1mm以上であって5mm以下であることを特徴とするものである。
【0027】
本発明に用いるチタン繊維は、所謂ビビリ振動法に製造されたチタン繊維を用いることが好ましい。
【0028】
また、前記チタン繊維のアスペクト比(繊維長さと、断面を真円換算した際の直径との比)は、20〜200とすることが好ましく、さらに30〜80がより好ましい。前記したチタン繊維のアスペクト比が20未満の場合には、繊維が密に充填されてしまい、空隙率の高い多孔体を得ることが困難であり好ましくない。また、見かけのばね定数が大きくなり、変形量が少なくなる。そのために多孔体を複数枚重ねて使用するような用途の場合、装置への装着が困難となることも生じる。一方、前記したチタン繊維のアスペクト比を200超とすると、空隙率の高い多孔体を得ることは容易となるが、長い繊維は屈曲してしまい、見かけのばね定数が1×10N/mm以下となってしまう。このため、多孔体の変形量が大きくなり使用される装置によっては、装置内での多孔体の形状維持が困難となる場合があり好ましくない。よって、本発明に用いるチタン繊維のアスペクト比は、上記範囲とすることで、空隙率と見かけのばね定数の最適化を図ることが出来てより好適である。
【0029】
また、本発明に用いるチタン繊維の長稜は、200μm以下、長稜に対する短稜の比が0.5以下とすることが好ましい。前記した範囲に設定することにより、チタン多孔体の空隙率と弾性特性を制御でき、空隙率70%〜90%、見かけのばね定数を1×10〜1×10N/mmと所定の範囲にすることができるという効果を奏するものである。チタン繊維の長稜を200μm超、あるいは長稜に対する短稜の比が0.5を超えるとチタン多孔体の空隙率が90%以上となり、また、見かけのばね定数を1×10N/mm以上にすることが困難となる。
【0030】
本発明に用いるチタン繊維の長さは、1〜5mmとすることが好ましい。その結果、成形されたチタン焼結多孔体のクッション性という重要な効果を引き出すことができるという効果を奏するものである。
【0031】
本発明に係るチタン焼結多孔体の空隙率は、70%〜90%の範囲とすることが好ましい。前記多孔体の空隙率が70%未満では、二次電池として要求される特性のうちイオン通過度が低くなり過ぎ、また、見かけのばね定数が1×10N/mm以下となり、好ましくない。一方、多孔体の空隙率が90%超では、チタン多孔体そのものの強度が低くなる。
【0032】
本発明に係るチタン焼結多孔体の厚みは、1〜5mmの範囲とすることが好ましい。チタン焼結多孔体の厚みが、1mm未満の場合には、見かけのばね定数を1×10N/mm以下に制御することが困難となる。一方、チタン焼結多孔体の厚みが、5mm超の場合には、見かけのばね定数を1×10N/mm以上に制御することが困難となる。
【0033】
本発明に係るチタン焼結多孔体の見かけのばね定数は、1×10〜1×10N/mmであることが好ましい。なお、ここでいうところのチタン焼結多孔体の見かけのばね定数とは、所定の厚みと空隙率を有する多孔体にプレスで荷重をかけた後、除荷した際に元の厚みに戻るような状況下にて、厚みの減少量と荷重の関係より計算した。
【0034】
前記した特性を有するチタン多孔体は、二次電池用電極、燃料電池用拡散膜または色素増感型太陽電池の電極として好適に用いることができるという効果を奏するものである。
【0035】
次に本発明に係るチタン焼結多孔体の好ましい製造方法につき以下に説明する。チタン焼結多孔体の製造方法は、下記の通り工程1〜工程4に分類される。
【0036】
工程1:チタン繊維の篩別
本発明に用いるチタン繊維は、ビビリ振動法と呼ばれる方法で製造されたものである。ビビリ振動法とは、チタンインゴットを旋盤にかけて、そこに、バイトを用いて切粉を製造する要領で製造されるものである。但し、前記バイトは、所定の周期で振動するように構成されており、その振動条件を調整することで製造されるチタン繊維の表面形状を調整することができる。また、チタン繊維の太さ(長稜、短稜)はチタンインゴットへのバイトの食い込み量を変更することにより調整することができ、チタン繊維の長さはバイトの形状を調整することによって調整できるという効果を奏するものである。
【0037】
ビビリ振動法で製造された市販のチタン繊維を購入して使用することもできるが、その場合は長稜と短稜の長さを指定して入手することが好ましい。
【0038】
工程2:圧縮成形工程
前記したように調整されたチタン繊維を、金型に所定量を投入後、プレスで圧縮成形することにより、チタン繊維で構成された圧縮成形体を製造する。この段階で製造されるチタン圧縮成形体の厚みは、2mm〜10mmの範囲に調整しておくことが好ましい。前記した範囲に調整しておくことにより、次の工程で行なう焼結工程で製造された多孔体の厚みを精度よく再現することができるという効果を奏するものである。
【0039】
工程3:焼結工程
本発明においては、前記圧縮成形体を不活性雰囲気下または高真空状態で、所定の温度に1〜10時間保持することで焼結処理することが望ましい。さらには、前記圧縮成形体の上から、荷重を付与しつつ、焼結体を製造することも好ましい。前記荷重は、例えば、焼結体の上にチタンと反応しないモリブデン等の金属片を圧縮成形体に均等に荷重がかかるように置いて焼結する等の手段で実現することができる。
【0040】
本発明の、圧縮成形体に荷重を付与しつつ焼結する場合においては、前記応力は5N/cmの範囲以下とすることが好ましい。前記範囲の応力を印加しておくことにより、焼結後の焼結体の長さをあまり変えずに主に厚みだけを所定の範囲に調整できるのみならず、適切な範囲のバネ定数を維持することができるという効果を奏するものである。
【0041】
前記応力が5N/cm超では、空隙率が70%未満となり、ガス拡散性悪化、ガスの通風量低下、電解液中でのイオン通過度低下を引き起こし、電極としての性能が低下して好ましくない。
【0042】
本発明においては、前記焼結体を形成する際には、チタン繊維で構成された圧縮成形体を、タンタルやモリブデンのようなチタン材と反応しづらい金属材料、もしくはアルミナ、ジルコニアのようなセラミックで構成された平板を敷板として用いることが好ましい。 前記したような方法で焼結体を構成することにより、焼結体と敷板との固着をさせることなく円滑な焼結作業を進めることができるという効果を奏するものである。
【0043】
前記したような条件で準備された圧縮成形体は、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、水素ガス雰囲気下、または1×10−4〜5×10−6mbarの真空下において、900℃〜1200℃の範囲で焼結させることが好ましい。前記した条件下で焼結させることにより、厚みが、1〜5mmの焼結体を効率よく製造することができるという効果を奏するものである。
【0044】
工程4:再圧縮成形・焼結工程
本発明においては、前記の工程で製造された焼結体は、更に、圧縮成形・焼結工程にかけることができる。再圧縮成形・焼結工程により、製造プロセスが長くなりコスト面・納期面での不利はあるが、再圧縮成形・焼結工程により、多孔体の厚さ、空隙率をより高精度に制御できること、クッション特性が更に好適になる、という利点を有す。再圧縮成形・焼結工程は、工程2、工程3と同様の方法で行われる。
【0045】
以上、本発明で製造されたチタン焼結多孔体は、厚さが1〜5mm、空隙率が70〜90%であり、かつ見かけのばね定数が1×10〜1×10N/mmという特性を有するものである。従来のチタン焼結多孔体の中にも厚さおよび空隙率に限れば本発明と重複するものも知られているが、本発明の多孔体は、使用する繊維の物性に起因して、ばね定数が1×10〜1×10N/mmという弾性特性を兼ね備えたことを特徴としており、2次電池の電極や燃料電池の拡散層や色素増感型太陽電池の電極として好適である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において番号にAが付されているものは焼結と同時に圧縮を行わなかった例であり、Bが付されているものは焼結と同時に圧縮を行った例である。
1.チタン焼結多孔体の製造
[実施例1A]
ビビリ振動法で製造した長稜80μm(短稜30μm、真円換算での直径は50μm)、長さ2.5mm(アスペクト比50)のチタン繊維8.1gを60mm×60mmの金型に均一に充填し、プレスで圧縮成形したところ、厚さ10mmの圧縮成形体を得た。この圧縮成形体の空隙率を計算すると95%であった。この圧縮成形体を1000℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが4.2mmとなっており、空隙率は76%であった。この焼結体をSEMによって観察したところ、図1に示す画像が得られた。
【0047】
[実施例1B]
実施例1Aにおいて、全く同じ10mm厚みの圧縮成形体を、焼結時に10kgの重りを圧縮成形体全体にかかるように配置して焼結した以外は同じ条件で、焼結体を製造したところ、厚みが2.2mmであり空隙率は75%の焼結体を製造できた。
【0048】
[実施例2A]
ビビリ振動法の振動条件、バイト形状を変えて製造した長稜120μm(短稜50μm、真円換算での直径は80μm)、長さ2mm(アスペクト比25)のチタン繊維8.1gを60mm×60mmの金型に均一に充填し、プレスで圧縮成形したところ、厚さ11mmの圧縮成形体を得た。この圧縮成形体の空隙率を計算すると95.5%であった。この圧縮成形体を1000℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが4.0mmとなっており、空隙率は74%であった。
【0049】
[実施例2B]
実施例2Aにおいて製造された11mm厚みの成形体を、焼結時に10kgのおもりを成形体全体にかかるようにセットして焼結したところ、厚みが1.8mmであり、空隙率が70%の焼結体を製造できた。
【0050】
[実施例3A]
ビビリ振動法の振動条件、バイト形状を変えて製造した長稜50μm(短稜20μm、真円換算での直径30μm)、長さ3mm(アスペクト比100)のチタン繊維8.1gを60mm×60mmの金型に均一に充填し、プレスで圧縮成形したところ、厚さ9mmの圧縮成形体を得た。この圧縮成形体の空隙率を計算すると94.5%であった。この圧縮成形体を1000℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが5.0mmとなっており、空隙率は82%であった。
【0051】
[実施例3B]
実施例3Aにおいて得た9mm厚みの圧縮成形体を、焼結時に10kgのおもりを成形体全体にかかるようにセットして焼結したところ、厚みが3.5mmであり、空隙率は85%の焼結体を得た。
【0052】
[実施例4B]
ビビリ振動法の振動条件、バイト形状を変えて製造した長稜50μm(短稜20μm、真円換算での直径25μm)、長さ5mm(アスペクト比200)のチタン繊維8.1gを60mm×60mmの金型に均一に充填し、プレスで圧縮成形し、得られた圧縮成形体を焼結時に10kgのおもりを成形体全体にかかるようにセットして、1000℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが5.0mmとなっており、空隙率は90%であった。
【0053】
[実施例5A]
ビビリ振動法の振動条件、バイト形状を変えて製造した長稜180μm(短稜50μm、真円換算での直径100μm)、長さ5mm(アスペクト比50)のチタン繊維8.1gを60mm×60mmの金型に均一に充填し、プレスで圧縮成形し、得られた圧縮成形体を1000℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが4.5mmとなっており、空隙率は80%であった。
【0054】
[実施例5B]
実施例5Aにおいて、全く同じ圧縮成形体を焼結時に10kgの重りを圧縮成形体全体にかかるように配置して焼結した以外は同じ条件で焼結体を製造したところ、厚さが2.3mmとなっており、空隙率は77%であった。
【0055】
[比較例1A](原料:球状チタン粉)
粒径150μm以下のTi粉8.1gを60mm×60mmの金型に均一に充填し、プレス成型したところ、厚さ0.1mm以下となってしまい、空隙率50%以上の圧縮成形体を得ることはできなかった。
【0056】
[比較例2A](原料:本願の数値範囲の規定から外れたビビリ繊維のチタン繊維)
ビビリ振動法で作られた長稜210μm、(短稜80μm、真円換算の直径100μm)、長さ1.5mm(アスペクト比15)のチタン繊維8.1gを60mm×60mmの金型に均一に充填し、プレスで圧縮成形したところ、厚さ5mmの圧縮成形体を得た。この圧縮成形体の空隙率を計算すると90%であった。この圧縮成形体を1000℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが3.8mmとなっており、空隙率は72%であった。
【0057】
[比較例3A](原料:本願の数値範囲の規定から外れたビビリ繊維以外のチタン繊維)
チタンワイヤーを切断して作られた断面形状がほぼ真円である直径50μm、長さ30mm(アスペクト比600)のチタン繊維を原料として、実施例1と同じ方法で圧縮成形し、圧縮成形体を1000℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが5.9mmとなっており、空隙率は87%であった。
【0058】
[比較例4A]
ビビリ振動法の振動条件、バイト形状を変えて製造した長稜80μm(短稜30μm、真円換算での直径50μm)、長さ12.5mm(アスペクト比250)のチタン繊維8.1gを60mm×60mmの金型に均一に充填し、プレスで圧縮成形し、得られた圧縮成形体を1000℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが5.7mmとなっており、空隙率は87%であった。
【0059】
[比較例4B]
比較例4Aにおいて、全く同じ圧縮成形体を、焼結時に10kgの重りを圧縮成形体全体にかかるように配置して焼結した以外は同じ条件で、焼結体を製造したところ、厚さが5.1mmとなっており、空隙率は92%であった。
【0060】
[比較例5A]
ビビリ振動法の振動条件、バイト形状を変えて製造した長稜210μm(短稜150μm、真円換算での直径160μm)、長さ5mm(アスペクト比31)のチタン繊維8.1gを60mm×60mmの金型に均一に充填し、プレスで圧縮成形し、得られた圧縮成形体を焼結時に10kgのおもりを成形体全体にかかるようにセットして、1000℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが5.6mmとなっており、空隙率は85%であった。
【0061】
[比較例5B]
実施例5Aにおいて、全く同じ圧縮成形体を、焼結時に10kgの重りを圧縮成形体全体にかかるように配置して焼結した以外は同じ条件で、焼結体を製造したところ、厚さが5.0mmとなっており、空隙率は91%であった。
【0062】
【表1】

【0063】
2.ばね性の確認
実施例1Aで製造した空隙率76%、厚さ4.2mmのチタン焼結多孔体に1トン(10N)の荷重をかけたところ厚みが3.9mmとなったが、除荷すると元の厚みに戻った。2トンの荷重をかけると厚みが3.6mmとなったが、除荷すると元の厚みに戻った。2.5トン以上の荷重をかけると除荷しても基の厚みには戻らなくなった。除荷すると元の厚みに戻る範囲内でF=kx(F:荷重(N)、k:ばね定数(N/mm)、x:変位(mm))の関係式を用いてkを求めたところ、k=3.5×10N/mmの値が得られた。
【0064】
同様に実施例1Bで製造した空隙率75%、厚さ2.2mmのチタン多孔体の見かけのばね定数kを求めたところ、k=3.4×10N/mmと空隙率、厚さが異なってもほとんど同じ値が得られた。
【0065】
同様にして、各実施例および各比較例のみかけのばね定数kを測定し、結果を表2に示した。
【0066】
【表2】

【0067】
3.再圧縮成形・焼結
実施例1Aで得られた、空隙率76%、厚さ4.2mmのチタン多孔体を、再圧縮成形したところ、厚さが4.0mmとなった。この再圧縮したチタン多孔体を1050℃、真空度2×10−5mbarの条件で2時間焼結したところ、厚さが3.8mmとなり、空隙率は70%であった。この再圧縮成形・焼結して得られたチタン多孔体の見かけのばね定数kは4×10N/mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るチタン焼結多孔体は、二次電池の電極、燃料電池用拡散膜または色素増感型太陽電池の電極等に有効に使用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン繊維を焼結した多孔体であって、
前記チタン繊維の断面が多角形であり、前記多角形の最長の辺である長稜が200μm以下、最短の辺である短稜の長稜に対する比が0.5以下、全長が1〜5mm、アスペクト比が20〜200であり、かつ、
前記多孔体の空隙率が70%〜90%、厚みが1mm〜5mmであることを特徴とするチタン焼結多孔体。
【請求項2】
見かけのばね定数が1×10〜1×10N/mmであることを特徴とする請求項1に記載のチタン焼結多孔体。
【請求項3】
前記チタン繊維が、ビビリ振動法により製造されたことを特徴とする請求項1または2に記載のチタン焼結多孔体。
【請求項4】
二次電池用電極、燃料電池用拡散膜または色素増感型太陽電池用電極として用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のチタン焼結多孔体。
【請求項5】
断面が多角形であり、前記多角形の最長の辺である長稜が200μm以下、最短の辺である短稜の長稜に対する比が0.5以下、全長が1〜5mm、アスペクト比が20〜200であるチタン繊維を圧縮し、得られた圧縮成形体を焼結することを特徴とするチタン焼結多孔体の製造方法。
【請求項6】
得られたチタン焼結多孔体を更に圧縮成形し、焼結することを特徴とする請求項5に記載のチタン焼結多孔体の製造方法。
【請求項7】
厚みを1〜5mmとすることを特徴とする請求項5または6に記載のチタン焼結多孔体の製造方法。
【請求項8】
表面から荷重を加えつつ前記焼結を行なうことを特徴とする請求項6に記載のチタン焼結多孔体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−172179(P2012−172179A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33968(P2011−33968)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】