説明

チタン系表面処理剤

【課題】 被着材の表面に対して前もって適用しておき、シーリング材、接着剤、塗料、コーティング材等の、その被着材への接着性を高めることができる表面処理剤を提供することである。
【解決手段】 チタン化合物オリゴマーに対し、分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシラン化合物を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物と溶剤とを含有することを特徴とする接着用表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理剤に関し、更に詳細には、チタン化合物オリゴマーに対し特定のシラン化合物を反応させた構造又は混合させた組成を有するものを含有する表面処理剤に関するものであり、各種被着材に対する接着性を向上させる表面処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面処理剤の分野において、各種金属や樹脂をコーティングした各種金属、フィルム等と有機樹脂やシリコーン樹脂との接着については様々な分野で検討がされており、高接着性を有するものが求められている。特にシーリング材は、建築物等において、各種の部材間の接合部や隙間を充填し、水密性や気密性を高めるために広く用いられており、高い接着性がもとめられている。
【0003】
代表的なシーリング材としては、シリコーン系、ポリウレタン系、ポリサルファイド系、変成シリコーン系等があり、また、1液型や2液型のものがある。この中で特に、シリコーン系や変成シリコーン系シーリング材は、耐久性、耐候性が優れていることより広く使用されているが、2液型のシーリング材は各種被着材に対する接着性が低いものが多かった。
【0004】
そこで、被着材に対してシーリング材等を付与する前に、接着性を改良するために、プライマー等で処理をすることが知られている。プライマーに関しては、チタン化合物モノマーとシランカップリング剤を組み合わせることで接着性を高めたり、チタン化合物のモノマー体とシランカップリング剤、シリコーンレジン等を含有させることによって接着性を高めることが行われている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、このようなものでは製膜する際にクラックが発生しやすく、接着強度が低下したり、柔らかい被着材への変形追従性が乏しく、十分な接着性が得られないことがあった。また、従来の技術では、フッ素樹脂塗装、アクリル電着アルミニウム等の樹脂でコーティングされた金属部材やステンレス等コーティング液をはじきやすく、表面のぬれ性に乏しい被着材に対しては、十分な接着性が得られない場合が多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−209702号公報
【特許文献2】特開平6−128553号公報
【特許文献3】特開平7−228800号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】杉山岩吉、「含有金属有機化合物とその利用」、M.R.機能性物質シリーズNo.5(日本シーエムアイ株式会社)p.112〜p.116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、各種被着材とシリコーン樹脂等の有機樹脂との接着性を著しく高めることができる表面処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、チタン化合物オリゴマーに対し、特定のシラン化合物を溶媒中で混合又は反応した複合化合物が、表面張力、チタン化合物オリゴマーの安定性等を加味して選択した適切な溶媒に溶解又は分散されることにより接着性が著しく向上することを見出して本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、少なくとも、チタン化合物オリゴマー(以下a1と記す)に対し、分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシラン化合物(以下a2と記す)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物(以下(A)と記す)、及び溶剤(以下(B)と記す)、を含有することを特徴とする接着用表面処理剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面処理剤によれば、各種被着材と有機樹脂との接着性を高めることができる。特に、金属、樹脂をコーティングした金属、ガラス、PET、OPP等のプラスチックフィルム等の被着材に対し、シリコーン樹脂等の有機樹脂等の接着性を高めることができる。また、本発明の表面処理剤は、各種被着材へのぬれ性、製膜性、密着性、表面改質性等に優れるため、より具体的には、アクリル電着塗装アルミニウムに代表される非常に接着しにくい塗装金属板や、非常に接着しにくいステンレス等の被着材に対して、高い接着性を発現させることができる。更に、本発明の表面処理剤を用いれば、種々のシーリング材、接着剤、塗料、コーティング材等を、非常に接着しにくい被着材に対して、強固に接着させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明における実施例ついて説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0013】
本発明の実施例における表面処理剤は、少なくとも、下記の成分(A)及び成分(B)を含有する。
チタン化合物オリゴマー(以下、a1と記す)に対し、分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシラン化合物(以下、a2と記す)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物(以下、成分(A)とする)。
および溶剤(以下、成分(B)とする)。
【0014】
成分(A)の原料であるチタン化合物オリゴマー(a1)は特に限定はないが、下記式1で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式1で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物、が縮合した構造を有するものが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
ここで、式1中の、R1〜R4は、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。
【0017】
縮合前の出発物質である式1で表されるチタンアルコキシドとしては、式1中のR1〜R4が、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基であるが、それぞれ独立に炭素数1〜8個のアルキル基であるものがより好ましく、それぞれ独立に炭素数1〜5個のアルキル基であるものが特に好ましい。
【0018】
また、式1で表されるチタンアルコキシドとしては、以下の具体例に限定はされないが、例えば、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラノルマルプロポキシチタネート、テトライソプロポキシチタネート、テトラノルマルブトキシチタネート、テトライソブトキシチタネート、ジイソプロポキシジノルマルブトキシチタネート、ジターシャリーブトキシジイソプロポキシチタネート、テトラターシャリーブトキシチタネート、テトライソオクチルチタネート、テトラステアリルアルコキシチタネート等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0019】
縮合前の出発物質としては、上記した式1で表されるチタンアルコキシドのほかに、式1で表されるチタンアルコキシドに、キレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物も好ましいものとして挙げられる。キレート化剤としては特に限定はないが、β−ジケトン、β−ケトエステル、多価アルコール、アルカノールアミン及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが、成分(A)複合化合物の加水分解等に対する安定性を向上させる点で好ましい。
【0020】
β−ジケトン化合物の例としては、2,4−ペンタンジオン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、ジベンゾイルメタン、テノイルトリフルオロアセトン、1,3−シクロヘキサンジオン、1−フェニル1,3−ブタンジオン等が挙げられ、β−ケトエステルの例としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル、メチルピバロイルアセテート、メチルイソブチロイルアセテート、カプロイル酢酸メチル、ラウロイル酢酸メチル等が挙げられ、多価アルコールの例としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,3−ペンタンジオール、グリセリン、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキシレングリコール等が挙げられ、アルカノールアミンの例としては、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ノルマルブチルエタノールアミン、N−ノルマルブチルジエタノールアミン、N−ターシャリーブチルエタノールアミンN−ターシャリーブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等が挙げられ、オキシカルボン酸の例としては、グリコール酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上併用できる。
【0021】
上記式1で表されるチタンアルコキシド又は該チタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物が縮合することによってチタン化合物オリゴマー(a1)が得られる。ここで縮合させる方法としては特に限定はないが、チタンアルコキシド又はチタンキレート化合物を、アルコール溶液中で水を反応させることにより行うことが好ましい。
【0022】
縮合してオリゴマー化するために用いる水の量については、チタンアルコキシド及び/又はチタンキレート化合物1モルに対し、すなわちチタン原子1モルに対して、水のモル数が0.5〜2モルであることが好ましく、0.7〜1.7モルであることがより好ましく、1.0〜1.5モルであることが特に好ましい。
【0023】
加水分解による縮合時には、アルコール等の溶剤を用い、場合により還流等の熱処理を経由し、チタン化合物オリゴマー(a1)を得ることが好ましい。このとき用いられるアルコールとしては特に限定はないが、上記式1中のアルキル基R1〜R4に水酸基が結合した構造のアルコールが、チタン化合物オリゴマーの反応性を変化させない点で好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、2−エチルヘキサノール等が挙げられる。
【0024】
かかるアルコールの使用量は特に限定はないが、縮合してオリゴマー化するために用いる水の量を0.5〜20質量%の濃度になるようにアルコールを用いて希釈することが好ましく、より好ましくは0.7〜15質量%、特に好ましくは1.0〜10質量%の濃度になるように希釈することである。
【0025】
加水分解により縮合してオリゴマー化して得られたチタン化合物オリゴマー(a1)の分子量、重合度等は特に限定はないが、平均で2〜20量体が好ましく、4〜15量体がより好ましい。
【0026】
成分(a)の原料であるチタン化合物オリゴマー(a1)は、上記したチタン化合物オリゴマーに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものであることも好ましい。すなわち、上記式1で表されるチタンアルコキシド、又は、それにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物が縮合した構造を有するものに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものも好ましい。すなわち、縮合前及び/又は縮合後に、キレート化剤を反応させた構造のものは、成分(A)複合化合物の加水分解等に対する安定性を高める点で好ましい。
【0027】
縮合後に用いるキレート化剤としては特に限定はないが、前記したキレート化剤が好適に使用できる。特に好ましくは、β−ジケトン、β−ケトエステル又はアルカノールアミンである。
【0028】
本発明の表面処理剤に含有される成分(A)は、上記したチタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)を反応させた構造又は混合させた組成を有するものである。
【0029】
分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)としては、特に限定はないが、トリアルコキシビニルシラン等が挙げられる。また、ケイ素原子にアルキル基が直接結合した構造を有するものも、製膜性や接着性を高める点で好ましい。このときのアルキル基としてはメチル基が好ましい。また、上記化合物の部分加水分解縮合物も好適に使用できる。
【0030】
分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)の種類としては、一般式:R1Si(OR2)3であって、R1は、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等のアルケニル基である。R2の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基である。具体的には、本発明で使用するビニル基を有するシラン化合物として、下記式2および式3のものが例示される。
【0031】
【化2】

【0032】
【化3】

【0033】
成分(A)は、上記したチタン化合物オリゴマー(a1)に、分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)を反応させることによって得られる構造を有することが好ましい。ここで、反応方法には特に限定はないが、(a1)、(a2)及び溶剤を混合した後、使用した溶剤の沸点にて還流し、反応を進行させることが好ましい。なお、配合の順序に規定は無い。
【0034】
チタン化合物オリゴマー(a1)と分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)との使用割合は特に限定はないが、(a1)と(a2)の質量比を(a1)/(a2)=0.1/10〜10/0.1の範囲にすることが好ましく、(a1)/(a2)=0.5/10〜10/0.5(質量比)の範囲がより好ましく、1/10〜10/1(質量比)の範囲が特に好ましい。(a1)/(a2)の比率において、(a2)の使用量に対して(a1)の使用量が少なすぎると、製膜性、接着性等を低下させる場合があり、一方、(a1)の使用量が多すぎると、製膜性、接着性等を低下させ、加水分解性等の安定性が不足する場合がある。
【0035】
成分(A)については、上記製造方法で得ることができる構造を有するものであれば、特定の製造方法で製造されたものには限定されない。成分(A)の構造としては、チタン化合物オリゴマー(a1)の末端であるアルコキシル基とシリコン化合物(a2)に存在するアルコキシル基が空気中の水分や未反応の水を介して反応し、Ti−O−Siのように結合した構造が挙げられ、かかる構造を有するものが好ましい。
【0036】
成分(A)は、チタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)を混合させた組成を有するものであってもよい。「混合させた組成」には、全量反応が進まず未反応のまま残ったものが混合している場合も含まれる。
【0037】
「成分(A)複合化合物」には、以下の5形態があり、何れでもよい。
(イ) (a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの
(ロ) (a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの及び(a1)の混合物
(ハ) (a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの及び(a2)の混合物
(ニ) (a1)及び(a2)の混合物
(ホ) (a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの、及び(a1)及び(a2)の混合物
このうち、(ホ)の、(a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの、及び(a1)及び(a2)の混合物がより好ましい。
【0038】
本発明の表面処理剤は、成分(B)溶剤を必須成分として含有する。成分(B)溶剤としては特に限定はないが、揮発性が高く、各種被着材に対して濡れ性の高い成分(B)溶剤が好ましい。好ましい成分(B)溶剤としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。具体的には、炭化水素系溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等が挙げられ、エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等が挙げられ、アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール等が挙げられる。成分(B)溶剤は、被着材へのぬれ性を考慮して、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0039】
本発明の表面処理剤中の、成分(A)の含有割合は特に限定はないが、表面処理剤100質量部中に成分(A)1〜40質量部が含有されていることが好ましく、1.5〜30質量部の含有がより好ましく、2〜20質量部の含有が特に好ましく、2.5〜10質量部の含有が更に好ましい。
【0040】
本発明の表面処理剤は、シーリング材用、接着剤用、塗料用、コーティング材用等に好適に使用できる。すなわち、シーリング材、接着剤、塗料、コーティング材等を被着体に与える前に、本発明の表面処理剤で被着体を処理することが好ましい。本発明の表面処理剤は、特に好ましくは、被着体への濡れ性等の点で、シーリング材又は接着剤を適用する被着体の表面を処理するために用いられる。
【0041】
次に、本発明の実施例の表面処理剤における接着性能評価結果について述べる。
まず、チタン化合物オリゴマー(a1)の製造方法について述べる。
(第1のa1の製造方法)
チタン化合物オリゴマーA(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマー)の合成。
【0042】
テトライソプロピルチタニウム28.4g(0.10モル)をイソプロパノール50.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)とイソプロパノール50.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌し、テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーを得た。これをチタン化合物オリゴマー溶液Aとする。
(第2のa1の製造方法)
チタン化合物オリゴマーB(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマー)の合成。
【0043】
テトライソプロピルチタニウム28.4g(0.10モル)に対する水の量を水2.2g(0.12モル)とした以外は、第1のa1の製造方法と同様の方法で、テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーを得た。これをチタン化合物オリゴマー溶液Bとする。
(第3のa1の製造方法)
チタン化合物オリゴマーC(テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマー)の合成。
【0044】
テトラノルマルブトキシチタニウム34.0g(0.10モル)をノルマルブタール30.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)とノルマルブタノール60.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌した後、更に1時間還流し、テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマーを得た。これをチタン化合物オリゴマー溶液Cとする。
(第4のa1の製造方法)
チタン化合物オリゴマーD(テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマー)の合成。
【0045】
テトラノルマルブトキシチタニウム34.0g(0.10モル)に対する水の量を水2.2g(0.12モル)とした以外は、第3のa1の製造方法3と同様の方法で、テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマーを得た。これをチタン化合物オリゴマー溶液Dとする。
(第5のa1の製造方法)
チタン化合物オリゴマーE(ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタンオリゴマー)の合成。
【0046】
ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタン36.4g(0.1モル)をイソプロパノール50.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)とイソプロパノール100.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌し、更に1時間還流し、ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタンオリゴマーを得た。これをチタン化合物オリゴマー溶液Eとする。
(第6のa1の製造方法)
チタン化合物オリゴマーF(チタンジイソプロポキシビストリエタノーリアミネートオリゴマーの合成。
【0047】
チタンジイソプロポキシビストリエタノーリアミネート46.2g(0.1モル)をイソプロパノール50.0gに溶解させた後、水2.2g(0.12モル)とイソプロパノール50.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌し、更に1時間還流し、チタンジイソプロポキシビストリエタノーリアミネートオリゴマーを得た。これをチタン化合物オリゴマー溶液Fとする。
【0048】
次に、表1に示すように、上述の製造方法で得られたチタン化合物オリゴマー溶液A〜チタン化合物オリゴマー溶液Fに、アルコキシ基を有するシラン化合物(a2)、及び溶剤を所定量加えて6種類の表面処理剤、表面処理剤1〜表面処理剤6を得た。
【0049】
表面処理剤の製造方法を例示すれば、
第1のa1の製造法で製造したチタン化合物オリゴマー溶液A(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマー溶液)10質量部、及びビニルトリメトキシシラン2.5質量部を混合後、1時間還流した後に、n−ヘキサン67.5質量部、及び2−プロパノール20質量部を加えることにより表面処理剤1を得た。
【0050】
表面処理剤1と同様の方法で、表1に示すように分量を加えて、表面処理剤2〜表面処理剤6を得た。また、比較用の試料例として表1に示したようにトリメトキシビニルシランにのみからなる比較用表面処理剤を用意した。
なお、表1の中の数値は質量%を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
続いて、本発明の実施例の表面処理剤における接着性能評価方法ならびに結果について述べる。
【0053】
第1の評価例としてシリコーン系シーリング材による接着性評価を行い、結果を表2に示した。
【0054】
表面処理剤1〜表面処理剤6、及び比較用表面処理剤を用いて、アクリル電着アルミニウム、鏡面磨きを施したステンレス板でJIS−G4305で規定されるSUS304の板(表2中では、「鏡面SUS304」と記載)、及びシリコーン系シーリング材をあらかじめ硬化したシーリング材(表中では硬化シーリング材と記載)の各被着体表面に、塗工量が20g/m2になるように、はけを用いて塗工後、60分間室温下(25℃)で乾燥した。
【0055】
室温乾燥後、シーリング材として、シリコーン系シーリング材であるSE792(東レ・ダウコーニング社製)を、膜厚5mmとなるように塗工し、25℃、50%RHの環境下にて3日間硬化して試験片を得た。
【0056】
これら試験片から、硬化したシーリング材を手で水平方向に引っ張り、剥離した際のシーリング材の凝集破壊の様子を観察し、凝集破壊、界面剥離の状態から接着性を評価した。
【0057】
【表2】

【0058】
表2から明らかなように、比較用表面処理剤で処理した鏡面磨きを施したステンレス板でJIS−G4305で規定されるSUS304の板(表2中では、「鏡面SUS304」と記載)、及びシリコーン系シーリング材をあらかじめ硬化したシーリング材(表中では硬化シーリング材と記載)を被着体とした場合には、100%界面剥離となっており、弱い接着性能を示しているのに対し、本発明による実施例である表面処理剤1〜表面処理剤6においては、アクリル電着アルミニウム、鏡面磨きを施したステンレス板でJIS−G4305で規定されるSUS304の板(表2中では、「鏡面SUS304」と記載)、及びシリコーン系シーリング材をあらかじめ硬化したシーリング材(表中では硬化シーリング材と記載)いずれの被着体においても100%凝集破壊を示し、強固な接着性能を示した。
【0059】
第2の評価例として2成分系変成シリコーン系シーリング材による接着性評価を行い、結果を表3に示した。
【0060】
シーリング材を、「SE792(東レ・ダウコーニング社製)」から、2成分系変成シリコーン系シーリング材である「ボンドMSシール(コニシ社製)」に代え、被着体として「JIS−R5210に規定されるモルタル板」を加えた以外は、第1の評価例と同様にして、接着性を評価した。
【0061】
【表3】

【0062】
比較用表面処理剤を用いて表面処理をした場合には、いずれの被着体においても界面で剥離が起こっており接着性弱かった。一方、表面処理剤1〜表面処理剤6を用いて表面を処理した場合には、評価した何れの被着体に対しても、シーリング材が良好な接着性を示した。
【0063】
また、さらにシーリング材の種類により表面処理剤との密着性を改善できる可能性のあるアミノプロピルトリメトキシシランを前記表面処理剤1〜表面処理剤6に対して0.2質量部だけ添加した表面処理剤7〜表面処理剤12、およびグリシジルプロピルトリメトキシシランを前記表面処理剤1〜表面処理剤6に対して0.2質量部だけ添加した表面処理剤13〜表面処理剤18について上記と同様の方法で評価した。
【0064】
その結果、表面処理剤7〜表面処理剤12、および表面処理剤13〜表面処理剤18は、表2と表3に示した表面処理剤1〜表面処理剤6の結果と全く同様に100%凝集破壊が発生し、強固な接着性能を示した。なお、添加される化合物は、アミノプロピルトリメトキシシラン、グリシジルプロピルトリメトキシシランに限定されず、他のアミノ基を有するシラン化合物、またはグリシジル基を有するシラン化合物についても適用できる。
【0065】
以上説明したように、本発明による表面処理剤は、金属、樹脂をコーティングした金属、ガラス、プラスチックフィルム等の被着材に対し、ぬれ性、製膜性、密着性、表面改質性等を著しく向上させることが可能であり、シーリング材、接着剤、塗料、コーティング材等が使用される産業分野に広く利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物オリゴマーと、
前記チタン化合物オリゴマーに対して、分子中に1個以上のビニル基と1個以上のアルコキシ基を有するシラン化合物を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物と、
溶剤とを含有した接着性向上用チタン系表面処理剤。
【請求項2】
前記チタン化合物オリゴマーが、下記式1で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式1で表される前記チタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物、が縮合した構造を有する請求項1記載の接着性向上用チタン系表面処理剤。
【化1】

(式1中、R1〜R4は、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。)
【請求項3】
前記チタン化合物オリゴマーが、下記式1で表される前記チタンアルコキシド、又は、下記式1で表される前記チタンアルコキシドに前記キレート化剤が配位した構造を有する前記チタンキレート化合物が縮合した構造を有するものに、更に前記キレート化剤を配位させてなる構造を有する請求項1記載の接着性向上用チタン系表面処理剤。
【化1】

(式1中、R1〜R4は、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。)
【請求項4】
前記シラン化合物が、ケイ素原子にアルキル基が直接結合した構造を有するものである請求項1記載の接着性向上用チタン系表面処理剤。
【請求項5】
前記縮合が、前記チタンアルコキシド又は前記チタンキレート化合物を、アルコール溶液中で水を反応させることにより行われたものである請求項2又3に記載の接着性向上用チタン系表面処理剤。
【請求項6】
前記縮合が、前記チタンアルコキシド及び、又は前記チタンキレート化合物1モルに対し、前記水0.5〜2モルを反応させることにより行われたものである請求項5に記載の接着性向上用チタン系表面処理剤。
【請求項7】
前記キレート化剤が、β−ジケトン、β−ケトエステル、多価アルコール、アルカノールアミン及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2又は3に記載の接着性向上用チタン系表面処理剤。
【請求項8】
前記式1中のR1、R2、R3、R4が、それぞれ独立した炭素数1〜8個のアルキル基である請求項2又3に記載の接着性向上用チタン系表面処理剤。
【請求項9】
さらにアミノ基を有するシラン化合物またはグリシジル基を有するシラン化合物を含有する請求項1から8のいずれか一項に記載の接着性向上用チタン系表面処理剤。

【公開番号】特開2010−261015(P2010−261015A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65140(P2010−65140)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】