説明

チタン系複合材

【課題】熱膨張係数が、炭化珪素の熱膨張係数より大きく、チタンの熱膨張係数より小さいチタン系複合材を提供する。
【解決手段】チタン、珪化チタン結晶、3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶、チタン及び珪化チタン結晶、又は、3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶を、含有し、チタンの含有量と珪素の含有量の合計に対するチタンの含有量の比率が、75〜95質量%であり、結晶状の炭素を実質的に含有しないチタン系複合材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン系複合材に関し、さらに詳しくは、熱膨張係数が、炭化珪素の熱膨張係数より大きくチタンの熱膨張係数より小さい、チタン系複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、セラミックと金属との接合は、銀ろう等の接合材を用いて行われている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、セラミックと金属とは熱膨張係数が大きく異なるため、セラミックと金属とを銀ろう等の接合材を用いて接合して、接合体を作製しても、耐熱性及び耐熱衝撃性の低い接合体になり易かった。
【0003】
また、セラミックと金属とを接合させる際に、セラミックの表面に金属ペーストを塗布して金属層を形成し、セラミックの当該金属層の部分と、金属とを、銀ろうを介して接合させる方法が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。この方法では、セラミックの表面に金属層を形成するという、余分な操作が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−291753号公報
【特許文献2】特開平8−34677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、熱膨張係数が、炭化珪素の熱膨張係数より大きくチタンの熱膨張係数より小さい、チタン系複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下のチタン系複合材を提供する。
【0007】
[1] 「チタン、珪化チタン結晶、3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶」、「チタン及び珪化チタン結晶」、又は、「3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶」を、含有し、チタンの含有量と珪素の含有量の合計に対するチタンの含有量の比率が、75〜95質量%であり、結晶状の炭素を実質的に含有しないチタン系複合材。
【0008】
[2] 1000℃における熱膨張係数が、7.5×10−6〜9.0×10−6/℃である[1]に記載のチタン系複合材。
【発明の効果】
【0009】
本発明のチタン系複合材は、「チタン、珪化チタン結晶、3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶」、「チタン及び珪化チタン結晶」、又は「3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶」を、含有し、チタンの含有量と珪素の含有量の合計に対するチタンの含有量の比率が、75〜95質量%であり、結晶状の炭素を実質的に含有しないチタン系複合材であるため、熱膨張係数が「炭化珪素の熱膨張係数より大きく、チタンの熱膨張係数より小さい」ものである。このような、チタン系複合材を介して(接合材として)、セラミックと金属とを接合すると、耐熱性及び耐熱衝撃性の高い接合体を得ることができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のチタン系複合材のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
(1)チタン系複合材:
本発明のチタン系複合材の一の実施形態は、「チタン(Ti)、珪化チタン結晶、3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶」、「チタン及び珪化チタン結晶」、又は「3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶」を、含有し、チタン(Ti)の含有量と珪素(Si)の含有量の合計に対するチタン(Ti)の含有量の比率が、75〜95質量%であり、結晶状の炭素を実質的に含有しないチタン系複合材である。本実施形態のチタン系複合材は、チタン(Ti)と炭化珪素(SiC)とを結び付ける傾斜型複合材料である。ここで、「チタン(Ti)と炭化珪素(SiC)とを結び付ける」とは、Ti及び/又はSiCの強度と同程度の接合強度を有することで、「接合界面が、機械的応力、熱的応力等によっても容易には剥離しない」ように、チタン(Ti)と炭化珪素(SiC)とを接合することを意味する。また、チタン系複合材の「複合材」とは、金属とセラミックとを含む複合材を意味し、本発明のチタン系複合材は、チタン及び珪素(金属)と、炭化チタン(セラミック)と、炭素との複合材である。また、本発明のチタン系複合材は、「サーメット(サーメットの一種)」であるということもできる。また、「結晶状の炭素」は、単体として存在する(炭化チタン結晶や、炭化珪素結晶を構成していない)炭素結晶のことである。
【0013】
このように、本実施形態のチタン系複合材は、「チタン(Ti)、珪化チタン結晶、3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶」、「チタン及び珪化チタン結晶」、又は「3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶」を、含有し、チタン(Ti)の含有量と珪素(Si)の含有量の合計に対するチタン(Ti)の含有量の比率が、75〜95質量%であり、結晶状の炭素を実質的に含有しないものであるため、1000℃における熱膨張係数を7.5×10−6〜9.0×10−6/℃とすることができる。これは、炭化珪素(SiC)の1000℃における熱膨張係数3.2×10−6/℃と、チタン(Ti)の1000℃における熱膨張係数9.9×10−6/℃)の中間の値である。そして、本実施形態のチタン系複合材の熱膨張係数がこのような範囲であることにより、本実施形態のチタン系複合材を介してセラミックと金属とを接合して接合体を作製すると、本実施形態のチタン系複合材がセラミック及び金属と接合される(セラミックと金属とが、直接的には接合されずに、セラミックと金属との間にチタン系複合材が挟まった状態になる)ため、接合される部材間の熱膨張係数の差(チタン系複合材とセラミックの熱膨張係数の差、及び、チタン系複合材と金属の熱膨張係数の差)が小さくなり、耐熱性及び耐熱衝撃性に優れた接合体となる。
【0014】
本実施形態のチタン系複合材は、「チタン及び珪化チタン結晶」を含有する場合には、Ti及び/又はSiCの強度と同程度の接合強度を有することで、「接合界面が、機械的応力、熱的応力等によっても容易には剥離しない」等の利点がある。
【0015】
本実施形態のチタン系複合材を用いて金属と接合させるセラミックとしては、炭化珪素、炭化チタン等を挙げることができる。本実施形態のチタン系複合材は、特に、炭化珪素と金属との接合に好適に用いることができる。また、本実施形態のチタン系複合材を用いてセラミックと接合させる金属としては、チタン、モリブデン、タングステン等を挙げることができる。特に、本実施形態のチタン系複合材は、チタンと炭化珪素との間に挟んで、焼結させることにより、チタンと炭化珪素とを効果的に接合することができる。
【0016】
本実施形態のチタン系複合材は、チタン(Ti)の含有量と珪素(Si)の含有量の合計に対するチタン(Ti)の含有量の比率が、75〜95質量%であり、80〜90質量%が好ましく、80〜85質量%が更に好ましい。95質量%より大きいと、本実施形態のチタン系複合材の熱膨張係数とセラミックの熱膨張係数との差が大きくなるため、本実施形態のチタン系複合材によってセラミック(例えば、炭化珪素)と金属(例えば、チタン)とを接合させた後に、セラミックと金属とが剥離する(更に具体的には、本実施形態のチタン系複合材と、セラミックとの界面部分が剥離する)という問題が生じるため好ましくない。75質量%より小さいと、本実施形態のチタン系複合材の熱膨張係数と金属の熱膨張係数との差が大きくなるため、本実施形態のチタン系複合材によってセラミック(例えば、炭化珪素)と金属(例えば、チタン)とを接合させた後に、セラミックと金属とが剥離する(更に具体的には、本実施形態のチタン系複合材と、金属との界面部分が剥離する)という問題が生じるため好ましくない。
【0017】
チタン(Ti)の含有量と珪素(Si)の含有量の合計に対するチタン(Ti)の含有量の比率は、X線回折法により測定した値である。チタン含有量は、本実施形態のチタン系複合材に含有される全てのチタン(チタン単体及びチタン化合物)の合計量である。また、珪素含有量は、本実施形態のチタン系複合材に含有される全ての珪素(珪素化合物)の合計量である。
【0018】
本実施形態のチタン系複合材が炭化チタン(Khamrabaevite型−炭化チタン結晶)を含有する場合、チタン系複合材に含有される炭化チタン(Khamrabaevite型−炭化チタン結晶)の、X線回折測定で得られる最大ピーク(36°)の強度(この場合、TiCの最大ピークとSiCの最大ピークの両方がほぼ36°であり、これらのピークが重なることから、重なった36°のピークをここでの最大ピークとする)が、チタン系複合材を構成する他の全ての結晶の最大ピーク(他の結晶に由来する複数のピークの中で、最大のピーク)の強度の0.50〜2.50倍であることが好ましく、0.75〜2.00倍が更に好ましく、1.00〜1.75倍が特に好ましい。2.50倍より大きいと、チタン系複合材中に共有結合性の強いセラミック特有の割れやすさが発生し易くなるため好ましくない。0.50倍より小さいと、熱膨張係数が高いという、金属材料の特性が、生じ易くなるため好ましくない。
【0019】
本実施形態のチタン系複合材が炭化珪素(3C型−炭化珪素結晶)を含有する場合、チタン系複合材に含有される炭化珪素(3C型−炭化珪素結晶)の、X線回折測定で得られる最大ピーク(36°)の強度(この場合、SiCの最大ピークとTiCの最大ピークの両方がほぼ36°であり、これらのピークが重なることから、重なった36°のピークをここでの最大ピークとする)が、チタン系複合材を構成する他の全ての結晶の最大ピークの強度の0.50〜2.50倍であることが好ましく、0.75〜2.00倍が更に好ましく、1.00〜1.75倍が特に好ましい。2.50倍より大きいと、チタン系複合材中に共有結合性の強いセラミック特有の割れやすさが発生し易くなるため好ましくない。0.50倍より小さいと、熱膨張係数が高いという、金属材料の特性が、生じ易くなるため好ましくない。
【0020】
本実施形態のチタン系複合材が珪化チタン(珪化チタン結晶)を含有する場合、チタン系複合材に含有される珪化チタン(珪化チタン結晶)の、X線回折測定で得られる最大ピーク(40.8°)の強度が、チタン系複合材を構成する他の全ての結晶の最大ピークの強度の0.3〜1.0倍であることが好ましく、0.4〜0.9倍が更に好ましく、0.5〜0.8倍が特に好ましい。1.0倍より大きいと、チタン系複合材から、「熱膨張率が低い」という、「共有結合性の強いセラミック」の特徴が、失われるため好ましくない。0.3倍より小さいと、チタン系複合材に、「共有結合性の強いセラミック」に特有の、割れやすさが発生し易くなるため好ましくない。
【0021】
本実施形態のチタン系複合材は、結晶状の炭素(炭素単体の結晶)を実質的に含有しないものである。ここで、「実質的に含有しない」とは、X線回折測定で、ピークが認められないことを意味する。結晶状の炭素(グラファイトなど)を含有すると、本実施形態のチタン系複合材を大気雰囲気下で加熱した時に、当該結晶状の炭素が酸化発熱(燃焼)し、それにより、チタン系複合材の構造が壊れてしまうことになるので好ましくない。
【0022】
本実施形態のチタン系複合材は、珪素(単体の結晶)を実質的に含有しないものであることが好ましい。珪素が、「他の物質(Ti或いはC)と結合しない形態(珪素単体の結晶)」で存在すると、本実施形態のチタン系複合材を加熱した時に、珪素の結晶柱が、チタン系複合材の内部から外部に向かって噴出する(他の元素が核になり、珪素の結晶柱がチタン系複合材の外側に析出する)などのおそれがあり、好ましくない。
【0023】
本実施形態のチタン系複合材には、微量の元素(Al,Fe,Mg,Na,P,S,Niなど)が含有されていてもよい。
【0024】
本実施形態のチタン系複合材は、1000℃における熱膨張係数が、7.5×10−6〜9.0×10−6/℃であることが好ましく、8.0×10−6〜9.0×10−6/℃であることが更に好ましく、8.3×10−6〜8.9×10−6/℃であることが特に好ましい。1000℃における熱膨張係数が7.5×10−6より小さい場合は、金属の熱膨張係数との差が大きくなるため、本実施形態のチタン系複合材を介してセラミックと金属とを接合して接合体を作製したときに、耐熱性及び耐熱衝撃性に劣る接合体となることがある。1000℃における熱膨張係数が9.0×10−6より大きい場合は、セラミックの熱膨張係数との差が大きくなるため、本実施形態のチタン系複合材を介してセラミックと金属とを接合して接合体を作製したときに、耐熱性及び耐熱衝撃性に劣る接合体となることがある。
【0025】
(2)チタン系複合材の製造方法:
本実施形態のチタン系複合材の製造方法は、以下の通りである。
【0026】
チタンと炭化珪素質セラミックとを、それぞれが接触した状態で加熱することにより、本実施形態のチタン系複合材を得ることが好ましい。
【0027】
原料として使用する上記チタンの純度は、95質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることが更に好ましい。チタンの純度は、高いほど好ましいが、実用的には上限99質量%程度である。
【0028】
また、原料として使用する上記炭化珪素質セラミックは、炭化珪素粒子が金属珪素によって結合されてなる珪素−炭化珪素複合材であることが好ましい。また、炭化珪素質セラミックは、炭化珪素であってもよい。
【0029】
炭化珪素質セラミックには、不純物としてSiOが含有されていることがある。そのため、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、0.001〜0.01気圧、1200〜1600℃で、0.5〜10時間熱処理し、SiOを除去することが好ましい。SiOを除去することにより、原料であるチタンが炭化珪素と反応し易くなる利点がある。
【0030】
チタン及び炭化珪素質セラミックのそれぞれの形状としては、特に限定されないが、例えば、炭化珪素質セラミックがブロック状であり、チタンが長径1〜20mm程度の砂利状又はフレーク状である例を挙げることができる。砂利状(フレーク状)のチタンの長径とは、2点間の距離が最も長くなるようにチタンの表面上の2点を選択したときの、当該2点間の距離を意味する。この場合、複数(多数)の砂利状又はフレーク状のチタン内に、ブロック状の炭化珪素を埋設した状態で、加熱することが好ましい。この場合、ブロック状の炭化珪素の更に具体的な形状としては、円柱状、円筒状、底面が多角形の柱状又は筒状、底面が楕円形の柱状又は筒状、底面が不定形の柱状又は筒状、球状、回転楕円体状、板状、シート状等を挙げることができる。ここで回転楕円体とは、楕円を、その長軸または短軸の回りに1回転したときにできる立体のことである。
【0031】
また、チタン及び炭化珪素質セラミックの形状としては、例えば、炭化珪素質セラミックがブロック状であり、チタンが粉体(粉末状)である例を挙げることができる。この場合、粉末状のチタン内に、ブロック状の炭化珪素質セラミックを埋設した状態で、加熱することが好ましい。また、粉末状のチタンを分散媒に分散させて、スラリー(ペースト)とし、当該スラリー(ペースト)を炭化珪素質セラミックの表面に塗布し、その後、粉末状のチタンを含有するスラリー(ペースト)が塗布された炭化珪素質セラミックを加熱することが好ましい。これにより、ブロック状の炭化珪素質セラミックの表面にチタン系複合材の層を形成することができる。粉末状のチタンを分散させる分散媒としては、特に限定されないが、中京油脂株式会社製のセロゾール(酸化防止剤ディスパージョン)が好ましい。また、粉末状のチタンを分散媒に分散させたスラリー(ペースト)のスラリー濃度は、30〜80質量%が好ましく、50〜70質量%が更に好ましい。また、粉末状のチタンの平均粒子径は、5〜200μmが好ましく、10〜50μmが更に好ましい。平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度測定法で測定した値である。
【0032】
また、チタン及び炭化珪素質セラミックが、ともに砂利状又はフレーク状であってもよく、また、ともに粉体であってもよい。また、チタン及び炭化珪素質セラミックの一方が粉体であり、残りの一方が砂利状又はフレーク状であってもよい。このように、チタンが砂利状(若しくはフレーク状)又は粉体であり、炭化珪素質セラミックが砂利状(若しくはフレーク状)又は粉体である場合、チタン及び炭化珪素質セラミックを、混合器を用いて混合した後に、加熱することが好ましい。この場合、混合器としては、ボールミル等を用いることができる。
【0033】
チタンと炭化珪素とを、それぞれが接触した状態で加熱する際には、アルゴンガス雰囲気下、0.001〜0.01気圧、1450〜1900℃で、0.5〜5時間加熱することが好ましい。加熱温度が1450℃より低いと、本実施形態のチタン系複合材が生成され難くなることがある。また、加熱時間が0.5時間より短いと、本実施形態のチタン系複合材が生成され難くなることがある。
【0034】
また、チタンと炭化珪素とを接触させた状態で加熱する際には、不活性ガス雰囲気とすることが好ましく、アルゴン雰囲気が更に好ましい。
【0035】
チタンと炭化珪素質セラミックとを加熱する際には、チタン及び炭化珪素質セラミックを容器に入れて、容器ごと加熱装置で加熱することが好ましい態様である。容器の材質としては、炭素等を挙げることができる。また、粉末状のチタンを含有するスラリー(ペースト)が塗布された炭化珪素質セラミックを加熱する場合には、そのまま(容器にいれずに)、加熱装置に入れて加熱してもよい。
【0036】
(3)チタン系複合材を用いた、金属とセラミックとの接合方法:
ステンレス鋼(SUS304)と炭化珪素とを接合する場合には、何れかの材料の接合面が鏡面の場合には、その面をサンドブラストにて表面処理し、凹凸面とする。そして、その面に、粉末状のチタンを含有するスラリー(ペースト)を塗布する。その後、ステンレス鋼(SUS304)の接合面と炭化珪素の接合面とを、上記スラリー(ペースト)を介した状態で当接させ、接合面(接合部分)に不活性ガスを吹き付けながら、ステンレス鋼と炭化珪素の双方を電極にして、直流電圧(電流)を印加して、アーク溶接することで、所望の接合を行うことが出来る。また、上記ステンレス鋼と炭化珪素とを接合する方法と同様の方法で、チタンと炭化珪素とを接合することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
有底筒状の容器に、フレーク状の純チタン(純度99.5質量%)を入れ、純チタン内に円柱状の炭化珪素質セラミックを埋設した。炭化珪素質セラミックを純チタン内に埋設する際には、炭化珪素質セラミックの一方の端面が鉛直方向上側に露出するようにした。そして、チタン及び炭化珪素質セラミックが入れられた容器を加熱装置に入れ、チタン及び炭化珪素質セラミックを(容器と共に)加熱して、チタン系複合材を得た。加熱装置としては、水冷ジャケットを備えたステンレス容器内にカーボン断熱材が配設され、雰囲気ガスの導入配管と、雰囲気ガス圧力を制御する配管とが取り付けられた、非酸化物材料焼成用の焼成炉を用いた。この、焼成炉は、カーボン断熱材で囲まれた加熱空間を有し、カーボン断熱材内に配設されたカーボンヒーターで上記加熱空間を加熱するように構成した。また、加熱空間には温度制御用の熱電対を挿入した。
【0039】
炭化珪素質セラミックは、底面の直径40mm、中心軸方向長さ80mmの円柱状であった。また、炭化珪素質セラミックは、「炉内にアルゴンガスを導入しつつ圧力0.01〜0.001気圧を保ちながら、常温から1200℃を6時間で昇温し、1200〜1600℃を8時間で昇温し、1600℃で2時間保持して熱処理したもの」とした。アルゴンガスは、円柱状の炭化珪素質セラミックの片側の端面に、略垂直に当たるように流動させた。
【0040】
また、チタンは、長径5〜25mm程度のフレーク状であった。容器は、開口径(直径)100mm、深さ100mmの円筒形であった。容器の材質は、炭素であった。
【0041】
チタン及び炭化珪素質セラミックを加熱する際には、加熱温度を1900℃とし、加熱時間を2時間とした。
【0042】
得られたチタン系複合材(実施例1)について、以下の方法で、「熱膨張係数」を測定し、「組成分析」を行った。
【0043】
熱膨張係数は、1000℃において8.69×10−6/℃であった。組成分析の結果、得られたチタン系複合材中の金属成分の組成は、珪素16.1質量%、チタン83.4質量%であった。また、微量金属成分は、アルミニウム0.05質量%、鉄0.10質量%、マグネシウム0.10質量%、ナトリウム0.08質量%、リン0.01質量%未満、硫黄0.01質量%未満、ニッケル0.01質量%であった。また、X線回折測定で、炭素単体のピークが認められないことより、実施例1のチタン系複合材は、結晶状の炭素を実質的に含有しないものであった。得られたチタン系複合材のX線回折測定の結果を図1に示す。図1より、実施例1のチタン系複合材は、「チタン(Ti)、珪化チタン結晶、3C型−炭化珪素結晶(Moissanite−3C型−炭化珪素結晶)及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶」を含有するものであることがわかる。図1は、実施例1のチタン系複合材のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【0044】
組成分析(X線回折測定)の結果より、チタン(Ti)のピーク強度(40.1°)は、チタン系複合材を構成する他の全ての結晶の最大ピークの強度の0.42(=98/152)倍であった。また、珪化チタン結晶のピーク強度(40.8°)は、チタン系複合材を構成する他の全ての結晶の最大ピークの強度の0.6(=118/152)倍であった。また、3C型−炭化珪素結晶のピーク強度は、チタン系複合材を構成する他の全ての結晶の最大ピークの強度の1.6(152/120)倍であった。また、「Khamrabaevite型−炭化チタン結晶」のピーク強度は、チタン系複合材を構成する他の全ての結晶の最大ピークの強度の1.6(152/120)倍であった。尚、図1における各ピークのピーク強度は、各ピークの縦軸の値である「√Counts」((Counts)1/2を意味する)を、自乗した値である。
【0045】
(組成分析)
組成分析は、リガク社製の「エネルギー分散型蛍光X線分析装置」を用いて行った。
【0046】
(熱膨張係数)
熱膨張係数は、熱機械分析装置(Thermal Mechanical Analysis)を用いて測定する。具体的には、10℃/分で昇温したときの、測定試料と標準試料との熱膨張量の差から、測定試料の熱膨張を同定する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のチタン系複合材は、金属とセラミックとの接合に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン、珪化チタン結晶、3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶、チタン及び珪化チタン結晶、又は、3C型−炭化珪素結晶及びKhamrabaevite型−炭化チタン結晶を、含有し、チタンの含有量と珪素の含有量の合計に対するチタンの含有量の比率が、75〜95質量%であり、結晶状の炭素を実質的に含有しないチタン系複合材。
【請求項2】
1000℃における熱膨張係数が、7.5×10−6〜9.0×10−6/℃である請求項1に記載のチタン系複合材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−158826(P2012−158826A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21391(P2011−21391)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)